(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】レーザ制御装置及びレーザパルス切出し方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/0622 20140101AFI20240711BHJP
H01S 3/00 20060101ALN20240711BHJP
【FI】
B23K26/0622
H01S3/00 B
(21)【出願番号】P 2021110774
(22)【出願日】2021-07-02
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】石原 裕
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/118829(WO,A1)
【文献】特開2006-82120(JP,A)
【文献】特開2019-130547(JP,A)
【文献】特開2020-151736(JP,A)
【文献】特表2010-534923(JP,A)
【文献】特開2015-188932(JP,A)
【文献】特開2017-159317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/70
H01S 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルスレーザビームを出力するレーザ発振器と、
前記パルスレーザビームが入射し、切出指令が入力されてから一定の動作遅延時間が経過した時点において、前記パルスレーザビームのレーザパルスの一部の切り出しを開始する特性を有する切出光学系と
を制御するレーザ制御装置であって、
前記レーザパルスの立上がり時点より前の時点で、前記切出光学系に前記切出指令を出力し、かつ前記切出指令を出力した時点から前記動作遅延時間だけ経過した時点が、前記レーザパルスの立上がり時点より後になるように、前記切出指令を出力するレーザ制御装置。
【請求項2】
前記レーザ発振器は、発振指令の入力に同期して前記レーザパルスを出力し、
さらに、
前記レーザ発振器に前記発振指令を出力し、
前記発振指令で指令されるパルスの繰返し周波数及びパルス幅の少なくとも一方と、パルス出力遅延時間とを関係付けた関係情報を記憶し、
前記発振指令で指令されるパルスの繰返し周波数及びパルス幅の少なくとも一方と前記関係情報とから得られる前記パルス出力遅延時間、及び前記動作遅延時間に基づいて、前記パルス出力遅延時間より短く、かつ前記パルス出力遅延時間から前記動作遅延時間を減じた値より長くなるように、切出指令遅延時間を決定し、
決定された前記切出指令遅延時間に基づいて、前記発振指令の出力時点から遅延させて前記切出光学系に前記切出指令を出力する請求項1に記載のレーザ制御装置。
【請求項3】
さらに、
前記レーザ発振器から出力された前記レーザパルスを検出する光検出器からの検出信号を受信し、
前記発振指令を出力してから前記検出信号が入力されるまでの遅延時間を測定し、遅延時間の測定値に基づいて前記パルス出力遅延時間を求め、
前記発振指令で指令されるパルスの繰返し周波数及びパルス幅の少なくとも一方と、遅延時間の測定値に基づいて求められた前記パルス出力遅延時間との関係を、前記関係情報として記憶する請求項2に記載のレーザ制御装置。
【請求項4】
レーザ発振器からレーザパルスを出力させて切出光学系に入射させ、前記レーザパルスの一部を切り出すレーザパルス切出し方法であって、
前記切出光学系は、切出指令が入力されてから一定の動作遅延時間が経過した時点において、前記レーザパルスの一部の切り出しを開始する特性を有しており、
前記レーザパルスの立上がり時点より前の時点で、前記切出光学系に前記切出指令を出力し、前記切出指令を出力した時点から前記動作遅延時間だけ経過した時点が、前記レーザパルスの立上がり時点より後になるように、前記切出指令を出力するレーザパルス切出し方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ制御装置及びレーザパルス切出し方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザビームによってプリント基板等に穴明け加工を行うレーザ加工装置が知られている(特許文献1参照)。特許文献1に開示されたレーザ加工装置は、パルスレーザビームを出力するレーザ発振器、及びレーザパルスから一部を切り出す音響光学変調器を含む。レーザパルスの立上がり後に、音響光学変調器に切出指令を与えることにより、レーザパルスから一部が切り出される。切出されたレーザパルスが加工対象物に入射され、残りのレーザパルスはビームダンパに入力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
音響光学変調器等の切出光学系では、切出指令が入力されてから、実際にレーザパルスの切り出しが行われるまでに動作遅延が生じる。従って、レーザパルスの立上がりから切出指令が入力されるまでの期間、及び切出指令が入力されてから実際に切り出しが行われるまでの期間のレーザパルスのエネルギが無駄になってしまう。言い換えると、レーザパルスのエネルギの利用効率が低下してしまう。
【0005】
本発明の目的は、レーザパルスのエネルギ利用効率を高めることができるレーザ制御装置及びレーザパルス切出し方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によると、
パルスレーザビームを出力するレーザ発振器と、
前記パルスレーザビームが入射し、切出指令が入力されてから一定の動作遅延時間が経過した時点において、前記パルスレーザビームのレーザパルスの一部の切り出しを開始する特性を有する切出光学系と
を制御するレーザ制御装置であって、
前記レーザパルスの立上がり時点より前の時点で、前記切出光学系に前記切出指令を出力し、かつ前記切出指令を出力した時点から前記動作遅延時間だけ経過した時点が、前記レーザパルスの立上がり時点より後になるように、前記切出指令を出力するレーザ制御装置が提供される。
【0007】
本発明の他の観点によると、
レーザ発振器からレーザパルスを出力させて切出光学系に入射させ、前記レーザパルスの一部を切り出すレーザパルス切出し方法であって、
前記切出光学系は、切出指令が入力されてから一定の動作遅延時間が経過した時点において、前記レーザパルスの一部の切り出しを開始する特性を有しており、
前記レーザパルスの立上がり時点より前の時点で、前記切出光学系に前記切出指令を出力し、前記切出指令を出力した時点から前記動作遅延時間だけ経過した時点が、前記レーザパルスの立上がり時点より後になるように、前記切出指令を出力するレーザパルス切出し方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
上述の条件で切出指令を出力すると、レーザパルスの立ち上がりから切出し開始までの時間が、動作遅延時間より短くなる。このため、レーザパルスのエネルギ利用効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、一実施例によるレーザ制御装置を搭載したレーザ加工機の概略図である。
【
図2】
図2は、記憶部に格納されている関係情報の一例を示す図表である。
【
図3】
図3は、記憶部に格納されている関係情報の他の例を示すグラフである。
【
図4】
図4A及び
図4Bは、それぞれ本実施例及び比較例によるレーザ制御装置が動作したときの発振指令trg、レーザパルスLP0、切出指令chp、及びレーザパルスLP1のタイミングチャートである。
【
図5】
図5は、本実施例によるレーザ制御装置が実行するレーザパルスパルの切出し手順を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、パルス出力遅延時間tdを決定する手順を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、他の実施例によるレーザ制御装置を搭載したレーザ加工機の概略図である。
【
図8】
図8は、他の実施例によるレーザ制御装置を動作させたときの発振指令trg、レーザパルスLP0、経路選択指令sel、切出指令chp、及びレーザパルスLP1、LP2のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1~
図6を参照して、一実施例によるレーザ制御装置及びレーザパルス切出し方法について説明する。
【0011】
図1は、本実施例によるレーザ制御装置40を搭載したレーザ加工機の概略図である。このレーザ加工機は、例えばプリント基板の穴明け加工に用いられる。
【0012】
レーザ発振器10がレーザ制御装置40から発振指令trgを受けて、パルスレーザビームを出力する。レーザ発振器10として、例えば炭酸ガスレーザ発振器等のガスレーザ発振器が用いられる。レーザ発振器10から出力されたパルスレーザビームがビームスプリッタ11で2つの経路に分岐される。ビームスプリッタ11として、例えば部分反射ミラーが用いられる。
【0013】
ビームスプリッタ11で分岐された2つのパルスレーザビームのうち一方は、照射光学系12、アパーチャ13を経由して切出光学系14に入射し、他方は光検出器20に入射する。照射光学系12は、パルスレーザビームの広がり角及びビーム径の少なくとも一方を変化させる。照射光学系12として、例えばビームエキスパンダが用いられる。アパーチャ13は、パルスレーザビームのビーム断面を整形する。
【0014】
光検出器20は、レーザパルスが入射している期間、検出信号detを出力する。光検出器20として、例えば高速な応答が可能な光起電力素子等が用いられる。光検出器20から出力された検出信号detがレーザ制御装置40に入力される。
【0015】
切出光学系14は、レーザ制御装置40から入力される切出指令chpに基づいて、入射するレーザパルスLP0から時間軸上の一部分を切り出し、加工に使用するレーザパルスLP1を生成する。切出指令chpの入力時点からレーザパルスLP1が切り出されるまで、一定の動作遅延が発生する。切出指令chpの入力時点からレーザパルスLP1が切り出されるまでの時間を動作遅延時間tdoということとする。レーザパルスLP0のうちレーザパルスLP1以外の部分はビームダンパ15に入射する。レーザパルスLP0から切り出されたレーザパルスLP1は加工経路に沿って伝搬する。切出光学系14として、例えば音響光学変調器(AOM)が用いられる。
【0016】
切出光学系14によって切り出されたレーザパルスLP1は、折り返しミラー16、走査光学系17、及びレンズ19を経由して加工対象物60に入射する。走査光学系17は、レーザ制御装置40からの制御信号sig1に基づいて、パルスレーザビームの進行方向を二次元方向に振る。走査光学系17として、例えば一対の可動ミラー18X、18Yを含むガルバノスキャナが用いられる。レンズ19は、走査光学系17で進行方向を振られたパルスレーザビームを加工対象物60の表面に集光する。レンズ19として、例えばfθレンズが用いられる。走査光学系17を動作させることにより、加工対象物60の表面の一部の領域(スキャンエリア)内の任意の位置にパルスレーザビームを入射させることができる。
【0017】
加工対象物60は、例えばプリント基板であり、ステージ30に水平に保持されている。移動機構31が、レーザ制御装置40からの制御信号sig2に基づいて、ステージ30を水平面に平行な相互に直交する二方向に移動させる。ステージ30を移動させることにより、加工対象物60の表面内の任意の領域を、走査光学系17でスキャン可能なスキャンエリア内に配置することができる。
【0018】
レーザ制御装置40は、レーザ発振器10、切出光学系14、走査光学系17、移動機構31を制御する。これらを制御する機能は、ソフトウェアとハードウェアとの組み合わせによって実現される。レーザ制御装置40は、これらの機能を実現するためのプログラムや種々のデータを記憶する記憶部41を含む。以下、レーザ制御装置40の機能について、簡単に説明する。なお、レーザ制御装置40の詳細な機能については、後に
図4Aのタイミングチャート、
図5及び
図6のフローチャートを参照して説明する。
【0019】
入力装置50からレーザ制御装置40に、レーザ照射条件を規定する種々のパラメータが入力される。レーザ照射条件を規定するパラメータには、レーザ発振器10から出力されるパルスレーザビームのパルスの繰返し周波数f、パルス幅(以下、原初パルス幅pw0という。)、及びレーザパルスLP0から切り出されるレーザパルスLP1のパルス幅等が含まれる。入力装置50として、例えば、キーボード、タッチパネル、ポインティングデバイス、通信装置、リムーバブルメディアの読取装置等が用いられる。
【0020】
レーザ制御装置40は、光検出器20からの検出信号detを受信し、レーザパルスの立上り及び立下りを検出する。パルスの繰返し周波数f及び原初パルス幅pw0を規定する情報に基づいて、レーザ発振器10に発振指令trgを出力する。例えば、発振指令trgの立上がり及び立下りが、それぞれ発振開始及び発振停止の指令に相当し、立上りから立下りまでの時間が原初パルス幅pw0に相当する。発振指令trgを出力する周波数が、パルスの繰返し周波数fに相当する。
【0021】
さらに、発振指令trgを出力した時点からレーザパルスの立上がりを検出する時点までの遅延時間を測定する。この遅延時間を、「パルス出力遅延時間td」ということとする。レーザ制御装置40は、さらに、パルスの繰返し周波数f及び原初パルス幅pw0と、パルス出力遅延時間tdとを関係づけた関係情報を、記憶部41に格納する。
【0022】
図2は、記憶部41に格納されている関係情報の一例を示す図表である。パルスの繰返し周波数fと、原初パルス幅pw0との組み合わせごとに、パルス出力遅延時間tdが関係付けられている。例えば、パルスの繰返し周波数f=f
1、原初パルス幅pw0=pw
1のとき、パルス出力遅延時間td=td
11である。
【0023】
図3は、記憶部41に格納されている関係情報の他の例を示すグラフである。横軸はパルスの繰返し周波数fを表し、縦軸はパルス出力遅延時間tdを表す。グラフ中の曲線は、原初パルス幅pw0が一定の時のパルスの繰返し周波数fとパルス出力遅延時間tdとの関係を示している。パルス出力遅延時間tdは、原初パルス幅pw0が一定の条件の下で、パルスの繰返し周波数fの関数として定義されている。記憶部41に、この関数の定義式が記憶されている。
【0024】
図3に示した例では、原初パルス幅pw0が一定の時、パルスの繰返し周波数fが高くなるにしたがってパルス出力遅延時間tdが短くなる。また、パルスの繰返し周波数fが一定の条件のとき、原初パルス幅pwが長くなるにしたがってパルス出力遅延時間tdが短くなる。
【0025】
レーザ制御装置40(
図1)は、発振指令trgを出力した時点から、一定時間経過した後に切出指令chpを出力する。発振指令trgを出力した時点から切出指令chpを出力するまでの時間を「切出指令遅延時間tdc」ということとする。レーザ制御装置40は、パルス出力遅延時間td等に基づいて、切出指令遅延時間tdcを計算する。
【0026】
レーザ制御装置40は、さらに、走査光学系17に制御信号sig1を出力して、パルスレーザビームの入射位置の位置決めを行う。さらに、移動機構31に制御信号sig2を出力して、加工対象物60を移動させる。
【0027】
図4Aは、発振指令trg、レーザパルスLP0、切出指令chp、及びレーザパルスLP1のタイミングチャートである。時刻t0でレーザ制御装置40が発振指令trgを出力する。例えば、発振指令trgの立上がりが発振開始の指令に相当し、立下りが発振終了の指令に相当する。発振指令trgの立上りから立下りまでの経過時間が、原初パルス幅pw0に相当する。
【0028】
レーザ発振器10は、発振指令trgの立上り(時刻t0)から一定の時間経過後に、レーザパルスLP0を出力する(時刻t2)。発振指令trgの立上りからレーザパルスLP0の立上りまでの経過時間が、パルス出力遅延時間td(
図2、
図3)に相当する。発振指令trgが立下がる(時刻t6)と、レーザパルスLP0の強度が低下し始め、その後レーザパルスLP0が完全に立下がる(時刻t7)。
【0029】
レーザ制御装置40は、発振指令trgの立上がり時点(時刻t0)から切出指令遅延時間tdcだけ経過した時点(時刻t1)に、切出指令chpを出力する。切出指令chpの立上りが切出しの開始の指令に相当し、立下り(時刻t4)が切出し終了の指令に相当する。切出指令chpの立上りから立下りまでの経過時間を、切出しパルス幅pw1ということとする。
【0030】
切出光学系14(
図1)の動作遅延により、切出指令chpの立上り(時刻t1)から動作遅延時間tdoが経過した時点(時刻t3)に、レーザパルスLP0からの切り出しが開始され、レーザパルスLP1が立上がる。同様に、切出指令chpの立下り(時刻t4)から動作遅延時間tdoだけ経過した時点(時刻t5)に、レーザパルスLP0からの切り出しが終了し、レーザパルスLP1が立下がる。
【0031】
図5は、本実施例によるレーザ制御装置が実行するレーザパルスパルの切出し手順を示すフローチャートである。
【0032】
まず、レーザ制御装置40が、レーザ発振器10から出力させるパルスレーザビームのパルスの繰返し周波数f及び原初パルス幅pw0(
図4A)、及び記憶部41に記憶されている関係情報(
図2、
図3)に基づいて、パルス出力遅延時間td(
図4A)を算出する(ステップSA1)。パルスの繰返し周波数f及び原初パルス幅pw0を指定する情報は、予め入力装置50(
図1)からレーザ制御装置40に入力されている。
【0033】
レーザ制御装置40は、ステップSA1で算出されたパルス出力遅延時間td及び切出光学系14の動作遅延時間tdoに基づいて、発振指令trgの出力時点(時刻t0)から切出指令chpを出力する時点(時刻t1)までの切出指令遅延時間tdc(
図4A)を算出する(ステップSA2)。例えば、切出指令遅延時間tdcが、パルス出力遅延時間tdから動作遅延時間tdoを減じた値より長くなり(td-tdo<tdc)、かつパルス出力遅延時間tdより短くなる(tdc<td)ように、切出指令遅延時間tdcを決定する。
【0034】
その後、または並行して、レーザパルスが加工対象物60の目標位置に入射するように、走査光学系17に対して制御信号sig1を出力するとともに、移動機構31に対して制御信号sig2を出力する(ステップSA3)。
【0035】
レーザ制御装置40は、レーザ発振器10に対して発振指令trgを出力する(ステップSA4)。その後、切出指令遅延時間tdcが経過するまで待機する(ステップSA5)。切出指令遅延時間tdcが経過すると。レーザ制御装置40は、走査光学系18及び移動機構31によるレーザパルスの入射位置の位置決めが完了したか否かを判定する(ステップSA6)。
【0036】
位置決めが完了していない場合は、発振指令trgを出力した時点から原初パルス幅pw0に相当する時間が経過した後、発振指令trgを停止する(ステップSA13)。
【0037】
位置決めが完了している場合には、レーザ制御装置40は、切出光学系14に対して切出指令chpを出力する(ステップSA7)。その後、切出しパルス幅pw1(
図4A)に相当する時間が経過するまで待機する(ステップSA8)。待機後、切出指令chpを停止する(ステップSA9)。具体的には、切出指令chpを立下げる。その後、発振指令trgを停止する(ステップSA10)。より具体的には、発振指令trgの出力時点から原初パルス幅pw0が経過した時点で、発振指令trgを立下げる。
【0038】
加工対象物60のすべての被加工点の加工が終了したか否かを判定する(ステップSA11)。すべての被加工点の加工が終了した場合は、処理を終了する。未加工の被加工点残っている場合は、レーザ制御装置40は、走査光学系18及び移動機構31を制御する(ステップSA12)。なお、加工対象物60を移動させる必要がない場合は、移動機構31を駆動する必要はない。
【0039】
ステップSA12またはステップSA13の後、パルスの繰返し周波数fに応じた時間だけ待機する(ステップSA13)。この待機時間は、ステップSA4で発振指令trgを出力した時点が起算点となる。パルスの繰返し周波数fに応じた時間だけ待機した後、発振指令trgを出力し(ステップSA4)、ステップSA5以降の手順を繰り返す。これにより、
図4Aに示した発振指令trg、レーザパルスLP0、LP1、及び切出指令chpの波形が一定の周波数で繰り返される。なお、位置決めが完了していない周期では、切出指令chpが出力されない。
【0040】
次に、
図6を参照して、記憶部41(
図1)に格納されるパルス出力遅延時間td(
図2、
図3)の決定方法について説明する。
図6は、パルス出力遅延時間tdを決定する手順を示すフローチャートである。
【0041】
まず、パルスの繰返し周波数f及び原初パルス幅pw0の値を決定する(ステップSB1)。これらの値は、入力装置50から入力される。レーザ制御装置40が、ステップSB1で決定されたパルスの繰返し周波数f及び原初パルス幅pw0の条件で、レーザ発振器10に対して発振指令trgを出力する(ステップSB2)。レーザパルスLP0(
図1)が立ち上がると、光検出器20からの検出信号detがレーザ制御装置40に入力される。発振指令trgの出力から検出信号detを受信するまでの遅延時間を測定する(ステップSB3)。
【0042】
所定の複数のレーザパルスLP0が出力された時点で、発振指令trgの出力から検出信号detを受信するまでの遅延時間の測定値の平均値を算出する(ステップSB4)。この平均値が、パルス出力遅延時間tdに相当する。ステップSB1で決定されたパルスの繰返し周波数f及び原初パルス幅pw0と関係づけて、パルス出力遅延時間tdを記憶部41に格納する(ステップSB5)。
【0043】
次に、本実施例の優れた効果について、
図4Bに示した比較例と比較して説明する。
図4Bは、比較例における発振指令trg、レーザパルスLP0、切出指令chp、及びレーザパルスLP1のタイミングチャートである。比較例においては、レーザパルスLP0の立上がりを検出した時点(時刻t2)から一定の切出指令遅延時間tdc1が経過した時点(時刻t1)で、切出指令chpが出力される。切出指令chpの出力から動作遅延時間tdoが経過した時点(時刻t3)で、レーザパルスLP0からの切出しが開始され、レーザパルスLP1が立上がる。
【0044】
レーザパルスLP0のうちレーザパルスLP1が立上がるまでの時間のレーザエネルギが無駄に廃棄されてしまう。比較例では、レーザエネルギが無駄に廃棄される時間twが、切出光学系14の動作遅延時間tdoより長くなる。
【0045】
これに対して上記実施例では、切出指令chpをレーザパルスLP0の立上がり時点(時刻t2)より前に出力するため、レーザパルスLP0の立上がりからレーザパルスLP1の切出し開始までの時間twが、切出光学系14の動作遅延時間tdoより短くなる。このため、無駄に廃棄されるレーザエネルギを少なくし、レーザパルスLP0の利用効率を高めることができる。
【0046】
さらに、上記実施例では、記憶部41に、パルスの繰返し周波数f及び原初パルス幅pw0ごとに、パルス出力遅延時間tdが記憶されているため、実際の加工に使用するパルスの繰返し周波数f及び原初パルス幅pw0が変更された場合であっても、ステップSA2(
図5)において、実際の加工条件に応じた適切なパルス出力遅延時間tdを用いて、切出指令遅延時間tdcを算出することができる。
【0047】
実際の加工に使用するパルスの繰返し周波数f及び原初パルス幅pw0に対応するパルス出力遅延時間tdが記憶部41に記憶されていない場合は、
図6に示した手順に従って、パルス出力遅延時間tdを求めることができる。なお、実際の加工に使用するパルスの繰返し周波数f及び原初パルス幅pw0に対応するパルス出力遅延時間tdが記憶部41に記憶されていない場合に、すでに記憶されているパルス出力遅延時間tdを用いて補間演算を行うことにより、パルス出力遅延時間tdを求めてもよい。
【0048】
次に、上記実施例の変形例について説明する。
上記実施例では、パルスの繰返し周波数f及び原初パルス幅pw0の両方と、パルス出力遅延時間tdとを関係付けた関係情報(
図2、
図3)を記憶部41(
図1)に記憶させている。例えば、原初パルス幅pw0を変化させてもパルス出力遅延時間tdがほとんど変化しない場合は、パルスの繰返し周波数fのみにパルス出力遅延時間tdを関係づけてもよい。逆に、パルスの繰返し周波数fを変化させてもパルス出力遅延時間tdがほとんど変化しない場合は、原初パルス幅pw0のみにパルス出力遅延時間tdを関係付けてもよい。
【0049】
次に、上記実施例によるレーザ制御装置40(
図1)の手順に基づくレーザパルス切り出し方法について説明する。
【0050】
切出光学系14(
図1)は、
図4Aに示したように、切出指令chpが入力されてから動作遅延時間tdoが経過した時点において、レーザパルスLP0の一部の切り出しを開始する特性を有している。レーザパルスLP0の立上がり時点より前の時点で、切出光学系14に切出指令chpを出力する。このとき、切出指令chpを出力した時点から動作遅延時間tdoだけ経過した時点が、レーザパルスLP0の立上がり時点より後になるように、切出指令chpを出力する。
【0051】
このように、切出指令chpの出力タイミングを制御することにより、無駄に廃棄されるレーザエネルギを少なくし、レーザパルスLP0の利用効率を高めることができる。
【0052】
次に、
図7及び
図8を参照して他の実施例によるレーザ制御装置について説明する。以下、
図1~
図6を参照して説明した実施例と共通の構成については説明を省略する。
【0053】
図7は、本実施例によるレーザ制御装置を搭載したレーザ加工機の概略図である。
図1に示した実施例では、加工経路が1本である。これに対して本実施例では、加工経路が2本である。切出光学系14が、レーザパルスLP0から切出したレーザパルスLP1を一方の加工経路に振り向け、レーザパルスLP2を他方の加工経路に振り向ける。2本の加工経路のそれぞれに、折り返しミラー16、走査光学系17、レンズ19、ステージ30、及び移動機構31が配置されている。
【0054】
レーザ制御装置40から切出光学系14に、切出指令chpの他に、経路選択指令selが入力される。経路選択指令selは、2本の加工経路から選択すべき加工経路を指令する。切出光学系14は、指令された加工経路に向けてレーザパルスを切り出す。
【0055】
図8は、発振指令trg、レーザパルスLP0、経路選択指令sel、切出指令chp、及びレーザパルスLP1、LP2のタイミングチャートである。
図4Aに示した実施例と同様に、発振指令trgの立上がり(時刻t0)から、パルス出力遅延時間tdが経過した時点(時刻t2)で、レーザパルスLP0が立上がる。レーザ制御装置40は、発振指令trgの立上がりから、切出指令遅延時間tdcが経過した時点(時刻t1)で、1回目の切出指令chpを出力する。このとき、経路選択指令selは、レーザパルスLP1の経路を選択している。このため、1回目の切出指令chpの出力時点から動作遅延時間tdoが経過した時点(時刻t3)に、レーザパルスLP0からレーザパルスLP1が切り出される。
【0056】
レーザパルスLP1の立下り(時刻t5)後、レーザ制御装置40は、経路選択指令selを切り替えてレーザパルスLP2の加工経路を選択する(時刻t6)。さらに、2回目の切出指令chpを出力する(時刻t7)。2回目の切出指令chpの出力時点から動作遅延時間tdoが経過した時点(時刻t8)に、レーザパルスLP0からレーザパルスLP2が切り出される。レーザパルスLP2の立下り(時刻t10)後、発振指令trgの出力を停止する(時刻t11)。さらに、経路選択指令selを切り替えて、レーザパルスLP1の経路を選択する(時刻t12)。
【0057】
次に、
図7及び
図8に示した実施例の優れた効果について説明する。本実施例においても、レーザパルスLP1の立ち上がりより前に1回目の切出指令chpを出力するため、廃棄されるレーザエネルギを少なくし、レーザパルスLP0の利用効率を高めることができる。
【0058】
上述の各実施例は例示であり、異なる実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。複数の実施例の同様の構成による同様の作用効果については実施例ごとには逐次言及しない。さらに、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0059】
10 レーザ発振器
11 ビームスプリッタ
12 照射光学系
13 アパーチャ
14 切出光学系
15 ビームダンパ
16 折り返しミラー
17 走査光学系
18X 可動ミラー
18Y 可動ミラー
19 レンズ
20 光検出器
30 ステージ
31 移動機構
40 レーザ制御装置
41 記憶部
50 入力装置
60 加工対象物
trg 発振指令
chp 切出指令
det 検出信号
sel 経路選択指令
sig1、sig2 制御信号