(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】ダイヤ作成装置及びダイヤ作成方法
(51)【国際特許分類】
B61L 27/12 20220101AFI20240711BHJP
【FI】
B61L27/12
(21)【出願番号】P 2021139661
(22)【出願日】2021-08-30
【審査請求日】2023-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】國松 武俊
【審査官】柳幸 憲子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-203549(JP,A)
【文献】特開2010-111156(JP,A)
【文献】特開2021-79742(JP,A)
【文献】特開2009-274664(JP,A)
【文献】特開2017-65435(JP,A)
【文献】国際公開第2016/147212(WO,A1)
【文献】特開2022-61668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 1/00-99/00
B60Q 50/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)所与の列車ダイヤの各列車の各駅の着発に係る着発事象の遅延が他の着発事象に与える影響を示す着発事象毎の評価値と、2)前記着発事象のうちの同一列車の前後の着発事象同士と同一駅における前後の列車の着発事象同士とを関連付けたグラフネットワークにおいて、遅延の発生した着発事象である波及元着発事象と当該遅延の波及先の着発事象である波及先着発事象との組み合わせである遅延波及組と、を用いて、前記列車ダイヤを変更することで新たな列車ダイヤを作成するダイヤ作成装置であって、
前記評価値に基づいて、前記着発事象のうちから対象着発事象を選択する選択手段と、
前記グラフネットワークの前記関連付けを前記対象着発事象から辿り、当該対象着発事象に係る着発時刻の変更時分を他の着発事象へ伝搬させて当該他の着発事象の着発時刻を変更することで前記列車ダイヤの変更を試行する試行手段であって、当該伝搬の過程で辿る前記関連付けに係る着発事象同士の組み合わせが前記遅延波及組か否かに基づいて、当該組み合わせに係る着発事象の着発時刻の変更の程度を変える試行手段と、
a)前記試行後の各着発事象間の着発時刻差が所与の最小必要時分以上であり、且つ、b)着発時刻を変更不可と定められた所与の変更不可着発事象の着発時刻が変更されない、ことを成功条件として、前記試行の成否を判定する判定手段と、
前記判定手段が成功と判定した場合に、前記試行した前記列車ダイヤの変更を確定する確定手段と、
を備えるダイヤ作成装置。
【請求項2】
前記試行手段は、前記伝搬の過程で辿る前記関連付けに係る着発事象同士の組み合わせが前記遅延波及組でなく、且つ、当該組み合わせに係る着発事象同士の着発時刻差が前記最小必要時分を超過する場合に、超過時分を削減するように当該組み合わせに係る着発事象の着発時刻を変更する、
請求項1に記載のダイヤ作成装置。
【請求項3】
前記試行手段は、前記伝搬の過程で辿る前記関連付けに係る着発事象同士の組み合わせが前記遅延波及組の場合には、当該組み合わせに係る着発事象同士の着発時刻差を変更せずに、当該組み合わせに係る着発事象同士の着発時刻を同じ時分だけ変更する、
請求項1又は2に記載のダイヤ作成装置。
【請求項4】
前記選択手段による選択と、前記試行手段による試行と、前記判定手段による判定と、前記確定手段による確定との一連の処理を繰り返し行い、
前記選択手段は、前記一連の処理の繰り返しにおいて、過去に前記確定手段により確定された前記列車ダイヤの変更に係る前記対象着発事象を前記波及元着発事象とする前記遅延波及組の前記波及先着発事象を、新たな対象着発事象の候補から除外する、
請求項1~3の何れか一項に記載のダイヤ作成装置。
【請求項5】
前記判定手段は、前記一連の処理の繰り返しにおいて、過去に前記確定手段により確定された前記列車ダイヤの変更で着発時刻が変更された着発事象を、以降の一連の処理の繰り返しにおいて前記変更不可着発事象として扱う、
請求項4に記載のダイヤ作成装置。
【請求項6】
前記選択手段は、前記一連の処理の繰り返しにおいて、過去に前記確定手段により確定された前記列車ダイヤの変更で着発時刻が変更された着発事象を、新たな対象着発事象の候補から除外する、
請求項4又は5に記載のダイヤ作成装置。
【請求項7】
前記試行手段は、
前記変更時分を前記対象着発事象に係る駅以降の各駅に伝搬させて当該各駅の着発時刻を順次遅らせる繰り下げ試行を行う繰り下げ試行手段と、
前記変更時分を前記対象着発事象に係る駅以前の各駅に伝搬させて当該各駅の着発時刻を順次早める繰り上げ試行を行う繰り上げ試行手段と、
を有し、
前記判定手段は、前記繰り下げ試行の成否の判定と、前記繰り上げ試行の成否の判定と、を行う、
請求項1~5の何れか一項に記載のダイヤ作成装置。
【請求項8】
1)所与の列車ダイヤの各列車の各駅の着発に係る着発事象の遅延が他の着発事象に与える影響を示す着発事象毎の評価値と、2)前記着発事象のうちの同一列車の前後の着発事象同士と同一駅における前後の列車の着発事象同士とを関連付けたグラフネットワークにおいて、遅延の発生した着発事象である波及元着発事象と当該遅延の波及先の着発事象である波及先着発事象との組み合わせである遅延波及組と、を用いて、前記列車ダイヤを変更することで新たな列車ダイヤを作成するダイヤ作成方法であって、
前記評価値に基づいて、前記着発事象のうちから対象着発事象を選択する選択ステップと、
前記グラフネットワークの前記関連付けを前記対象着発事象から辿り、当該対象着発事象に係る着発時刻の変更時分を他の着発事象へ伝搬させて当該他の着発事象の着発時刻を変更することで前記列車ダイヤの変更を試行する試行ステップであって、当該伝搬の過程で辿る前記関連付けに係る着発事象同士の組み合わせが前記遅延波及組か否かに基づいて、当該組み合わせに係る着発事象の着発時刻の変更の程度を変える試行ステップと、
a)前記試行後の各着発事象間の着発時刻差が所与の最小必要時分以上であり、且つ、b)着発時刻を変更不可と定められた所与の変更不可着発事象の着発時刻が変更されない、ことを成功条件として、前記試行の成否を判定する判定ステップと、
前記判定ステップで成功と判定された場合に、前記試行した前記列車ダイヤの変更を確定する確定ステップと、
を含むダイヤ作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤ作成装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道分野においては、遅延対策の検討を目的として、運行管理システムに記録される実績ダイヤ(実績運行データ)を利用した列車遅延の分析が行われている。従来の列車遅延の分析手法の一例として、ダイヤ図の列車スジを遅延量(遅延時分)に応じて色分けして表示したクロマティックダイヤ図(着色ダイヤ図)がよく知られている。クロマティックダイヤ図は、ダイヤ担当者が見慣れているダイヤ図の形式としたことで、実際の遅延箇所や遅延量を視覚的に容易に把握することができる。また、遅延対策の検討に有用となり得る定量的な指標として、遅延箇所からの遅延の波及範囲を表す影響度を算出する手法も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
列車遅延の分析手法の開発は進められているが、分析結果を活用して遅延対策を施した列車ダイヤを作成する技術は未だ不充分である。現状では、ダイヤ作成の担当者が、列車遅延の分析結果等を参考にしながら、遅延箇所に基づいて各所に余裕時間を付加するといった列車ダイヤの修正を手作業で行っている。そのため、ダイヤ修正の効率性に問題があり、担当者によって修正内容が異なり得ることも問題である。また、修正の妥当性や最適性についても課題があるといえる。
【0005】
例えば、ある遅延箇所の修正は他の箇所の時刻修正を伴うが、列車ダイヤには、駅間走行時分や駅停車時分、運転時隔等の満たすべき諸条件があり、ダイヤ全体としてこれらの諸条件を満たすようにダイヤ修正を行う必要がある。また、遅延対策を施すべき候補となる遅延箇所は1箇所とは限らず複数箇所であることが多いが、どの遅延箇所を優先させるか、どの程度の修正を施すかといった修正内容は担当者の経験等に依存するものとなっていた。このため、遅延対策を施した列車ダイヤを自動的に作成する技術が望まれている。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、列車遅延の分析結果を用いて遅延対策を実施した列車ダイヤを作成する新たな技術を提供すること、である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の発明は、
1)所与の列車ダイヤの各列車の各駅の着発に係る着発事象の遅延が他の着発事象に与える影響を示す着発事象毎の評価値と、2)前記着発事象のうちの同一列車の前後の着発事象同士と同一駅における前後の列車の着発事象同士とを関連付けたグラフネットワークにおいて、遅延の発生した着発事象である波及元着発事象と当該遅延の波及先の着発事象である波及先着発事象との組み合わせである遅延波及組と、を用いて、前記列車ダイヤを変更することで新たな列車ダイヤを作成するダイヤ作成装置であって、
前記評価値に基づいて、前記着発事象のうちから対象着発事象を選択する選択手段(例えば、
図18の選択部204)と、
前記グラフネットワークの前記関連付けを前記対象着発事象から辿り、当該対象着発事象に係る着発時刻の変更時分を他の着発事象へ伝搬させて当該他の着発事象の着発時刻を変更することで前記列車ダイヤの変更を試行する試行手段であって、当該伝搬の過程で辿る前記関連付けに係る着発事象同士の組み合わせが前記遅延波及組か否かに基づいて、当該組み合わせに係る着発事象の着発時刻の変更の程度を変える試行手段(例えば、
図18の試行部206)と、
a)前記試行後の各着発事象間の着発時刻差が所与の最小必要時分以上であり、且つ、b)着発時刻を変更不可と定められた所与の変更不可着発事象の着発時刻が変更されない、ことを成功条件として、前記試行の成否を判定する判定手段(例えば、
図18の判定部208)と、
前記判定手段が成功と判定した場合に、前記試行した前記列車ダイヤの変更を確定する確定手段(例えば、
図18の確定部210)と、
を備えるダイヤ作成装置である。
【0008】
他の発明として、
1)所与の列車ダイヤの各列車の各駅の着発に係る着発事象の遅延が他の着発事象に与える影響を示す着発事象毎の評価値と、2)前記着発事象のうちの同一列車の前後の着発事象同士と同一駅における前後の列車の着発事象同士とを関連付けたグラフネットワークにおいて、遅延の発生した着発事象である波及元着発事象と当該遅延の波及先の着発事象である波及先着発事象との組み合わせである遅延波及組と、を用いて、前記列車ダイヤを変更することで新たな列車ダイヤを作成するダイヤ作成方法であって、
前記評価値に基づいて、前記着発事象のうちから対象着発事象を選択する選択ステップ(例えば、
図11のステップS17)と、
前記グラフネットワークの前記関連付けを前記対象着発事象から辿り、当該対象着発事象に係る着発時刻の変更時分を他の着発事象へ伝搬させて当該他の着発事象の着発時刻を変更することで前記列車ダイヤの変更を試行する試行ステップであって、当該伝搬の過程で辿る前記関連付けに係る着発事象同士の組み合わせが前記遅延波及組か否かに基づいて、当該組み合わせに係る着発事象の着発時刻の変更の程度を変える試行ステップ(例えば、
図11のステップS19,S23)と、
a)前記試行後の各着発事象間の着発時刻差が所与の最小必要時分以上であり、且つ、b)着発時刻を変更不可と定められた所与の変更不可着発事象の着発時刻が変更されない、ことを成功条件として、前記試行の成否を判定する判定ステップ(例えば、
図12,
図13のステップS107,S107a,S115~S123,S115~S123a)と、
前記判定ステップで成功と判定された場合に、前記試行した前記列車ダイヤの変更を確定する確定ステップ(例えば、
図11のステップS29)と、
を含むダイヤ作成方法を構成してもよい。
【0009】
第1の発明等によれば、列車遅延の分析結果を用いて遅延対策を実施した列車ダイヤを作成することができる。つまり、既存の列車ダイヤに対応するグラフネットワークにおいて、対象着発事象から着発事象同士の関連付けを辿って対象着発事象の着発時刻の変更時分を伝搬させて他の着発時刻を変更することで、既存の列車ダイヤを変更した新たな列車ダイヤを作成することができる。このとき、変更時分を伝搬させる着発事象同士の組み合わせが遅延波及組か否かに基づいて、つまり、着発事象同士で遅延が波及しているか否かに基づいて、着発時刻の変更の程度を変えることができる。これにより、遅延対策を効果的に実施した列車ダイヤを作成することが可能となる。
【0010】
また、対象着発事象は、当該着発事象の遅延が他の着発事象に与える影響を示す評価値に基づいて選択される。そのため、例えば、他の着発事象に与える影響が大きい着発事象を対象着発事象として選択することで、実施した遅延対策の効果が大きい列車ダイヤを作成することが可能となる。
【0011】
また、既存の列車ダイヤの変更を試行してその試行の内容が成功条件を満たす場合に既存の列車ダイヤの変更を確定する。そのため、要求される条件を満たした運行可能な列車ダイヤを作成することができる。具体的には、成功条件のa)により、列車の駅間走行時分や停車時分、運転時隔等の最小必要時分を満たす列車ダイヤを作成することができる。また、成功条件のb)により、着発時刻を変更すべきでない列車や駅の着発については既存の列車ダイヤの着発時刻を変更せずに、遅延対策を施した新たな列車ダイヤを作成することができる。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、
前記試行手段は、前記伝搬の過程で辿る前記関連付けに係る着発事象同士の組み合わせが前記遅延波及組でなく、且つ、当該組み合わせに係る着発事象同士の着発時刻差が前記最小必要時分を超過する場合に、超過時分を削減するように当該組み合わせに係る着発事象の着発時刻を変更する(例えば、
図12,
図13のステップS119~S123,S119~S123a)、
ダイヤ作成装置である。
【0013】
遅延波及組でない着発事象同士では遅延は波及していないため、当該着発事象同士の着発時刻差を短くしても新たに遅延が波及する可能性は低い。このため、第2の発明のように、着発事象同士の着発時刻差が最小必要時分に対して超過している場合には、その超過時分の範囲で変更時分を減少させるように当該着発事象の着発時刻を変更することで、既存の列車ダイヤに対する変更箇所の増加を抑制することができる。
【0014】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、
前記試行手段は、前記伝搬の過程で辿る前記関連付けに係る着発事象同士の組み合わせが前記遅延波及組の場合には、当該組み合わせに係る着発事象同士の着発時刻差を変更せずに、当該組み合わせに係る着発事象同士の着発時刻を同じ時分だけ変更する(例えば、
図12,
図13のステップS117,S117a)、
ダイヤ作成装置である。
【0015】
遅延波及組である遅延事象同士には遅延が波及しているので、当該遅延事象同士の着発時刻差を減少させた場合、遅延が更に増加してしまう可能性が高い。このため、第3の発明のように、着発事象同士の着発時刻差を変更せずに着発事象同士の着発時刻を同じ変更時分だけ変更することで、遅延対策を効果的に実施した列車ダイヤを作成することが可能となる。
【0016】
第4の発明は、第1~第3の何れかの発明において、
前記選択手段による選択と、前記試行手段による試行と、前記判定手段による判定と、前記確定手段による確定との一連の処理を繰り返し行い、
前記選択手段は、前記一連の処理の繰り返しにおいて、過去に前記確定手段により確定された前記列車ダイヤの変更に係る前記対象着発事象を前記波及元着発事象とする前記遅延波及組の前記波及先着発事象を、新たな対象着発事象の候補から除外する(例えば、
図11のステップS31)、
ダイヤ作成装置である。
【0017】
第4の発明によれば、複数の遅延箇所に対して遅延対策を実施した列車ダイヤを作成することができる。また、対象着発事象として着発時刻を変更した着発事象については、遅延の波及先の着発事象とともに、新たな対象着発事象の候補から除外する。これにより、同一箇所への重複した遅延対策の実施を回避することができる。
【0018】
第5の発明は、第4の発明において、
前記判定手段は、前記一連の処理の繰り返しにおいて、過去に前記確定手段により確定された前記列車ダイヤの変更で着発時刻が変更された着発事象を、以降の一連の処理の繰り返しにおいて前記変更不可着発事象として扱う(例えば、
図11のステップS33)、
ダイヤ作成装置である。
【0019】
第5の発明によれば、着発時刻が変更された着発事象については変更不可着発事象として扱うことで、同一箇所への重複した遅延対策の実施を回避することができる。
【0020】
第6の発明は、第4又は第5の発明において、
前記選択手段は、前記一連の処理の繰り返しにおいて、過去に前記確定手段により確定された前記列車ダイヤの変更で着発時刻が変更された着発事象を、新たな対象着発事象の候補から除外する、
ダイヤ作成装置である。
【0021】
第6の発明によれば、着発時刻が変更された着発事象については新たな対象着発事象の候補から除外することで、同一箇所への重複した遅延対策の実施を回避することができる。
【0022】
第7の発明は、第1~第5の何れかの発明において、
前記試行手段は、
前記変更時分を前記対象着発事象に係る駅以降の各駅に伝搬させて当該各駅の着発時刻を順次遅らせる繰り下げ試行を行う繰り下げ試行手段(例えば、
図11のステップS19)と、
前記変更時分を前記対象着発事象に係る駅以前の各駅に伝搬させて当該各駅の着発時刻を順次早める繰り上げ試行を行う繰り上げ試行手段(例えば、
図11のステップS23)と、
を有し、
前記判定手段は、前記繰り下げ試行の成否の判定と、前記繰り上げ試行の成否の判定と、を行う、
ダイヤ作成装置である。
【0023】
第7の発明によれば、既存の列車ダイヤを変更する試行として、変更時分を対象着発事象に係る駅以降の各駅に伝搬させて着発時刻を順次遅らせる繰り下げ試行と、対象着発事象に係る駅以前の各駅に伝搬させて着発時刻を順次早める繰り上げ試行とを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図5】評価値の1つである影響人数及び限界影響人数の算出の概要図。
【
図6】旅客の行程遅延と遅延事象との関連付けの説明図。
【
図10】遅延対策の実施後の遅延伝搬ネットワークの説明図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものではない。また、図面の記載において、同一要素には同一符号を付す。
【0026】
[概要]
本実施形態は、所与の列車ダイヤに対する列車遅延の分析結果を用いて、当該列車ダイヤに対して遅延対策を実施した新たな列車ダイヤである遅延対策ダイヤを作成するものである。所与の列車ダイヤは既存の列車ダイヤ10のことであり、例えば計画ダイヤが該当する。
【0027】
図1は、本実施形態の概要を示す図である。
図1に示すように、本実施形態の処理は大きく分けると、分析処理とダイヤ作成処理との2つに分けられる。分析処理で列車ダイヤ10の列車遅延を分析する。ダイヤ作成処理では、列車ダイヤ10と、分析処理の分析結果である評価値データ20及び遅延波及組リスト30とがダイヤ作成装置1に与えられる。ダイヤ作成処理は、これらのデータに基づき、遅延対策を実施するように列車ダイヤ10を変更して、新たな列車ダイヤである遅延対策ダイヤ40を作成する。後述するダイヤ作成装置1は、分析処理及びダイヤ作成処理の両方を実施する装置である。但し、分析処理を別の装置で行うこととして、ダイヤ作成装置1はダイヤ作成処理を実行する装置として構成してもよい。
【0028】
分析処理の分析結果である評価値データ20及び遅延波及組リスト30は、列車ダイヤ10のほか、この列車ダイヤ10に対する運行実績データ12や旅客データ14等に基づいて算出される。運行実績データ12は、例えば実績ダイヤのデータである。旅客データ14は、旅客毎に、入場駅と当該入場駅の入場時刻と出場駅と当該出場駅の出場時刻とを定めたデータである。例えば、自動改札機から取得した各旅客の通過時刻(改札内への入出場時刻)のデータに基づく、時間帯別の入場駅と出場駅との組み合わせ(OD:Origin Destination)毎に出現する旅客数を定めたODデータによって与えられる。
【0029】
評価値データ20は、列車ダイヤ10における各列車の各駅の到着に係る着事象及び出発に係る発事象(以下、包括して「着発事象」という)毎の評価値のデータである。評価値は、着発事象の遅延が他の着発事象に与える影響を定量的に評価した値である。例えば、影響度、限界影響度、影響人数、限界影響人数などである。
【0030】
影響度は、着発事象の遅延が他の着発事象の遅延に与える影響の評価値である。本実施形態では、ある着発事象の遅延が波及した他の着発事象の総数を、当該着発事象の影響度としている。
【0031】
分析処理で行う影響度の算出について詳細に説明する。
図2は、列車遅延の影響度を説明する図である。
図2では、ダイヤ図の一例を示しており、列車ダイヤ10を点線で示し、その列車ダイヤ10の上に重なるようにして、運行実績データ12に相当する実績ダイヤを実線で示している。従って、点線が見えている箇所が、遅延が生じる前の元の列車ダイヤ10の列車スジである。また、実績ダイヤ上の遅延が生じた着発事象である遅延事象を「丸印」で示している。遅延事象のうち、遅延の発生源を「黒丸印」とし、遅延の発生源から波及した遅延事象を「白丸印」として示している。
【0032】
図2の例では2箇所で遅延が発生しており、それぞれの遅延が他の着発事象に波及している。すなわち、1箇所目の遅延として、列車3MのB駅の出発が遅れる発遅延が生じている。この発遅延により、当該列車3MのB駅以降の各駅の到着及び出発に遅れが生じているとともに、後続列車5M,7Mについても、B駅以降の各駅の到着及び出発に遅れが生じている。つまり、遅延の発生源である列車3MのB駅の発遅延が、他の列車5M,7Mの着発事象に波及している。
【0033】
また、2箇所目の遅延として、列車11MのB駅の出発が遅れる発遅延が生じている。この発遅延により、当該列車11MのB駅以降の各駅の到着及び出発に遅れが生じているとともに、後続列車13Mについても、B駅以降の各駅の到着及び出発に遅れが生じている。つまり、遅延の発生源である列車11MのB駅の発遅延が、他の列車13Mの着発事象に波及している。
【0034】
ある遅延事象から遅延が波及した他の着発事象の総数を、当該遅延事象が他の着発事象に与える影響度とする。
図2の例では、1箇所目の遅延の発生源である列車5MのB駅の発遅延の影響度は「10」であり、2箇所目の遅延の発生源である列車11MのB駅の発遅延の影響度は「6」である。
【0035】
図2では遅延の発生源についての影響度を示しているが、遅延の発生源に限らず、
図3に示すように、任意の着発事象についての影響度も同様に求めることができる。
図3は、任意の着発事象の影響度を説明する図である。
図3において、例えば、着発事象の一つである列車5MのB駅の着事象の影響度は「7」である。つまり、この着事象の遅延(着遅延)により、当該列車5MのB駅以降の各駅の到着及び出発に遅れが生じているとともに、後続列車7Mについても、B駅以降の各駅の到着及び出発に遅れが生じている。なお、遅延が生じていない(遅延事象でない)着発事象の影響度は「0」とする。
【0036】
また、
図2,
図3は、ある運行日の同じ運行実績データ12に基づく遅延事象の影響度の一例を示している。同じ列車ダイヤ10に対する複数の運行日それぞれの運行実績データ12から、着発事象それぞれについて、各運行日の影響度を求め、これらの平均値や中央値といった統計値を、当該着発事象の影響度とすることもできる。
【0037】
限界影響度は、着発事象に対する遅延対策を実施したときに得られる効果の評価値である。本実施形態では、遅延が生じた着発事象である遅延事象に対して遅延時分を所定時分(例えば、「1分」)減少させるといった遅延対策を実施することで遅延が解消された着発事象の総数を、当該着発事象の限界影響度としている。
【0038】
分析処理で行う限界影響度の算出について詳細に説明する。
図4は、遅延対策による限界影響度を説明する図である。
図4では、
図2に示した遅延の発生源に対して遅延対策を実施した場合を例示している。遅延の発生源に対して遅延対策を実施したときの当該発生源の影響度を算出し、遅延対策を実施する前の影響度と実施した後の影響度との差分を、当該発生源に対する遅延対策の実施により得られる限界影響度とする。
【0039】
遅延対策とは、遅延事象の遅延時分を所定の遅延対策時分だけ減少させる、ことを意味する。つまり、ある遅延事象に対する遅延事象の実施とは、当該遅延事象の遅延時分を遅延対策時分だけ減少させるとともに、当該遅延事象から遅延が波及する他の遅延事象についても遅延時分を遅延対策時分だけ一律に減少させる、ことに相当する。遅延時分が遅延対策時分以下の遅延事象については、遅延対策を実施することで遅延時分が「0分」となる。つまり遅延が解消されたことになる。
【0040】
図4の例では、1箇所目の遅延の発生源である列車3MのB駅の発事象に対して、遅延対策時分を「3分」とした遅延対策を実施した例を示している。この遅延対策によって、1)対象の発生源である列車3MのB駅の発事象と、2)当該発生源から遅延が波及した遅延事象である、2a)当該列車3MのB駅以降の各駅の着発事象、及び、2b)後続列車5M,7MのB駅以降の各駅の着発事象と、について遅延時分が一律に「3分」だけ減少する。その結果、列車5M及び列車7MのB駅及びC駅の着発事象の遅延が解消する。従って、当該発生源の遅延対策後の影響度は列車3MのC駅の着事象及び発事象の「2」であり、遅延対策前の影響度「10」との差分「8」が、当該発生源に対する遅延対策により得られる限界影響度となる。
【0041】
また、2箇所目の遅延の発生源である列車11MのB駅の発事象に対しても、同様に、遅延対策時分を「3分」とした遅延対策を実施した例を示している。この遅延対策によって、1)遅延の発生源である列車11MのB駅の発事象と、2)当該発生源から遅延が波及した遅延事象である、2a)当該列車11MのB駅以降の各駅の着発事象、及び、2b)後続列車13MのB駅及びC駅の着発事象と、について遅延時分が「3分」だけ減少する。しかしこの結果、何れの着発事象の遅延も解消できていない。従って、当該発生源の遅延対策後の影響度は「6」であり、遅延対策前の影響度である「6」との差分「0」が、当該発生源に対する当該遅延対策により得られる限界影響度となる。
【0042】
図4では、遅延の発生源に対する遅延対策の実施により得られる限界影響度について説明したが、任意の遅延事象について、同様に、遅延対策の実施により得られる効果値を求めることができる。つまり、遅延事象に対する遅延対策の実施として、当該遅延事象から遅延が波及する遅延事象の遅延時分を減少させたときの当該遅延事象の影響度(=遅延対策の実施後の影響後)を求める。そして、遅延対策の実施前の影響度と実施後の影響度との差分を、当該遅延対策の実施により得られる限界影響度とすることができる。
【0043】
また、
図4は、ある運行日に発生した遅延に対する遅延対策により得られる限界影響度の一例を示している。着発事象それぞれについて、同じ列車ダイヤ10に対する複数の運行日毎に遅延対策時分を同じとした遅延対策により得られる各運行日の限界影響度を求め、これらの平均値や中央値といった統計値を、当該着発事象の限界影響度とすることもできる。
【0044】
影響人数は、着発事象の遅延が旅客の行程遅延に与える影響の評価値である。本実施形態では、ある着発事象の遅延が波及した他の着発事象のそれぞれが行程遅延に影響を与えた旅客人数の総数を、当該着発事象の影響人数としている。
【0045】
限界影響人数は、着発事象に対する遅延対策を実施したときに、旅客の行程遅延の解消として得られる効果の評価値である。本実施形態では、遅延が生じた着発事象である遅延事象に対して遅延時分を所定時分(例えば、「1分」)減少させるといった遅延対策を実施することで減少した影響人数の総数を、当該着発事象の限界影響人数としている。
【0046】
分析処理で行う影響人数及び限界影響人数の算出について詳細に説明する。
図5は、影響人数及び限界影響人数を算出する処理の流れを示すフローチャートである。
図5に示すように、影響人数及び限界影響人数算出処理では、先ず、旅客の行程遅延を判定する(ステップS1)。旅客は、旅客データ14(
図1参照)で定められる各旅客である。旅客の行程遅延の判定に際しては、列車ダイヤ10に基づいて、旅客の入場駅から出場駅までの計画列車乗継経路を推定する。また、運行実績データ12に基づいて、旅客の入場駅から出場駅までの実績列車乗継経路を推定する。そして、計画列車乗継経路と実績列車乗継経路とを比較して、旅客の行程遅延の有無を判定する。例えば、出場駅の着遅延が有る(計画列車乗継経路での出場駅の着発時刻に対する、実績列車乗継経路での出場駅の実績着発時刻の差分である遅延時分が0分を超える)ならば、行程遅延が有りと判定する。
【0047】
次いで、行程遅延が有りの旅客について、当該旅客の行程遅延の原因となる遅延事象の関連付けを行う(ステップS3)。
【0048】
図6は、旅客の行程遅延の原因となる遅延事象の関連付けを説明する図である。
図6では、ダイヤ図の一例を示しており、列車ダイヤ10に相当する計画ダイヤを点線で示した上に重なるようにして、運行実績データ12に相当する実績ダイヤを実線で示している。そのため、点線が見えている箇所が、遅延が生じる前の計画上の列車スジであり、遅延が生じた箇所である。また、点線・実線ともに、細い方の線が普通11Mの列車スジを、太い方の線が快速1Mの列車スジを示している。
図6において、快速1Mは、C駅及びB駅には停車するが、A駅は通過する。計画ダイヤでは、普通11MがB駅に先に到着し、後から快速1Mが到着する。その後、快速1Mが先にB駅を発車し、後から普通11Mが発車する計画であった。しかし、実績ダイヤでは、普通11Mが列車ダイヤ通りにB駅に先に到着したものの、その後の快速1MのB駅への到着が遅れたために、快速1MのB駅からの発車及び普通11MのB駅からの発車も遅れた。つまり、快速1Mの遅延が普通11Mに波及したことを示している。具体的な時間としては、快速1MのC駅の発車に「5分」の遅延が生じたことで、快速1MのB駅の到着及び発車に「5分」の遅延が波及し、普通11MのB駅の発車及びA駅の到着に「4分」の遅延が生じた。
【0049】
図6の例において、行程として入場駅であるC駅から出場駅であるA駅に向かうある旅客の列車ダイヤに対する計画列車乗継経路は、「C駅で快速1Mに乗車し、B駅で普通11Mに乗り換えてA駅に到着」であった。また、当該旅客の実績ダイヤに対する実績列車乗継経路は、計画列車乗継経路と同じ乗車列車であったが、快速1M及び普通11Mに遅延が生じたために、実績列車乗継経路での各駅の着発に遅延が生じた。つまり、実績列車乗継経路では、快速1MについてC駅の出発に「5分」の遅延が生じ、B駅の到着に「5分」の遅延が生じた。また、普通11MについてB駅の出発に「4分」の遅延が生じ、A駅の到着に「4分」の遅延が生じた。
【0050】
旅客について、計画列車乗継経路での各駅の計画の着発時刻に対する、実績列車乗継経路での当該駅の実績の着発時刻の遅延を、当該旅客の行程遅延と呼ぶ。旅客は列車に乗車して移動する。そのため、旅客の行程遅延とは、計画列車乗継経路に沿った計画の移動経路に対する、実績列車乗継経路に沿った実績の移動経路の遅延を意味する。つまり、ある駅の着発(到着又は出発)についての旅客の行程遅延PDは、(行程遅延PD)=(実績列車乗継経路での当該駅の実績の着発時刻AT)-(計画列車乗継経路での当該駅の計画の着発時刻PT)、で表される遅延時分である。
【0051】
図6では、旅客のC駅の出発及びB駅の到着の行程遅延は、乗車列車である快速1Mの遅延が原因である。また、旅客のB駅の出発及びA駅の到着の行程遅延は、乗車列車である普通11Mの遅延が原因であるが、その普通11Mの遅延は快速1MのB駅の着遅延が波及したものである。さらに、快速1MのB駅の着遅延は、快速1MのC駅の発遅延が波及したものである。
【0052】
従って、旅客の行程遅延の原因となる遅延事象は、直接的及び間接的な影響を全て含めると、快速1MのC駅の発遅延に係る遅延事象及びB駅の着遅延に係る遅延事象と、普通11MのB駅の発遅延に係る遅延事象及びA駅の着遅延に係る遅延事象と、になる。
【0053】
図5に戻り、その後、遅延事象から遅延が波及した範囲(遅延波及範囲)の1つ以上の遅延事象に関連付けられている旅客人数の合計を、当該遅延事象の影響人数として算出する(ステップS5)。続いて、遅延事象に対して所定の遅延対策を実施した後の当該遅延事象の遅延波及範囲を判定し、遅延対策後の遅延波及範囲の1つ以上の遅延事象に関連付けられている旅客人数の合計を、当該遅延事象の遅延対策実施後の影響人数として算出する(ステップS7)。そして、遅延事象の影響人数と、遅延対策実施後の影響人数との差を、当該遅延事象の限界影響人数として算出する(ステップS9)。以上の処理を行うと、影響人数及び限界影響人数の算出処理は終了となる。
【0054】
また、着発事象それぞれについて、同じ列車ダイヤ10に対する複数の運行日毎に影響人数及び限界影響人数を求め、これらの平均値や中央値といった統計値を、当該着発事象の影響人数及び限界影響人数とすることもできる。
【0055】
図1に戻り、遅延波及組リスト30は、遅延の波及元の着発事象である波及元着発事象と、当該遅延の波及先の着発事象である波及先着発事象との組み合わせである遅延波及組のリストである。この遅延波及組リスト30は、本実施形態では、上述の評価値の算出の際に生成されて用いられるデータである。
【0056】
つまり、上述の評価値の算出の際には、遅延事象の遅延が波及する範囲(遅延波及範囲)を判定する必要があるが、この遅延波及範囲を判定するために生成されるのが遅延波及組リスト30である。具体的には、先ず、列車ダイヤ10に相当する計画ダイヤと運行実績データ12に相当する実績ダイヤとを比較して遅延が生じた着発事象を遅延事象として抽出し、抽出した遅延事象をノードとして遅延に関する因果関係を有する遅延事象同士をアークで繋ぐことで遅延伝搬ネットワークを策定する。
【0057】
図7は、遅延事象の抽出の一例を示す図である。破線と実線の関係については
図2等と同じである。
図7では、上側にダイヤ図を示し、下側に抽出した遅延事象を示している。
図7の例では、列車1MのB駅の発車(発事象)が遅延の発生源であり、この遅延が、当該列車1M及び後続列車3MのB駅以降の各駅の到着及び出発に波及している。そして、列車1MのB駅の発事象1Bd、C駅の着事象1Ca及び発事象1Cd、列車3MのB駅の着事象3Ba及び発事象3Bd、C駅の着事象3Ca及び発事象3Cdが遅延事象として抽出されている。
【0058】
図8は、遅延伝搬ネットワークの一例を示す図である。
図8では、
図7に示した遅延事象に基づく遅延伝搬ネットワークを例示している。
図8に示すように、遅延伝搬ネットワークは、抽出された遅延事象をノードとして、列車遅延に関する所定の因果関係条件を満たす遅延事象の組み合わせについて、遅延の伝搬元の遅延事象のノードから伝搬先の遅延事象のノードに向かう有向アークで繋ぐことで策定する。遅延伝搬ネットワークにおいて、ある遅延事象から有向アークの方向に辿れる経路が、当該遅延事象からの遅延の伝搬経路となる。列車遅延に関する因果関係としては、例えば、着事象の遅延に関する因果関係として、当該列車の直前駅の出発の遅れが伝搬するケースや、当該駅での先行列車の出発の遅れが伝搬するケース等があり、発事象の遅延に関する因果関係として、当該列車の当該駅への到着の遅れが伝搬するケースや、当該駅の異なる番線における先行列車の出発の遅れが伝搬するケース、単線区間において当該駅の先行対向列車の出発の遅れが伝搬するケース等がある。
【0059】
そして、この遅延伝搬ネットワークにおいて、ある遅延事象から因果関係の方向に繋がる遅延事象の集合が、当該遅延事象の遅延が波及する遅延波及範囲となる。遅延波及範囲は、当該遅延事象を含むとする。例えば、
図8に示した遅延伝搬ネットワークにおいて、遅延事象1Bdの遅延波及範囲は、当該遅延事象1Bdから有向アークの方向に辿れる遅延事象3Ba,3Bd,3Ca,3Cd,1Ca,1Cdと、当該遅延事象1Bdとの集合となる。また、遅延事象3Bdの遅延波及範囲は、当該遅延事象3Bdから有向アークの方向に辿れる遅延事象3Ca,3Cdと、当該遅延事象3Bdとの集合となる。
【0060】
遅延伝搬ネットワークにおいて遅延が波及する全ての遅延事象の組み合わせである遅延事象組の集合が遅延波及組リスト30である。つまり、遅延伝搬ネットワークは、遅延が直接に伝搬する遅延事象同士を、遅延が伝搬する方向に向かうアークで繋いだネットワークである。この遅延伝搬ネットワークにおいて、他の遅延事象を介して間接的に遅延が伝搬する遅延事象の組み合わせについての新たな遅延事象組を生成し、生成した新たな遅延事象組を、当該遅延伝搬ネットワークを表す遅延伝搬リストに対して追加するリストとして作成する。遅延伝搬ネットワークを表す遅延伝搬リストと、追加するリストとを合わせたリストが遅延波及組リスト30である。従って、この遅延波及組リスト30を参照することで、ある着発事象が波及元着発事象である遅延波及組の波及先着発事象を、当該着発事象の遅延波及範囲として容易に判定することができる。
【0061】
図9は、遅延波及組リスト30の一例を示す図である。
図9では、
図8に示した遅延伝搬ネットワークに対する遅延波及組リスト30を例示しており、
図9の上側に遅延伝搬ネットワークを示し、
図9の下側に遅延波及組リスト30を示している。但し、
図9では、新たに生成する遅延事象組のうち、遅延事象1Baを伝搬元とする遅延事象組のみを点線のアークで示している。遅延伝搬ネットワークにおいて、ある遅延事象から有向アークを辿った遅延伝搬経路上の遅延事象それぞれについても当該遅延事象から遅延が波及するとして、新たな遅延事象組を生成する。すなわち、当該遅延事象と、遅延伝搬経路上の遅延事象それぞれとの組み合わせである遅延事象組であって、当該遅延事象を伝搬元とし、遅延伝搬経路上の遅延事象を伝搬先とした取り得る全ての組み合わせを遅延事象組として新たに生成し、生成した遅延事象組を遅延伝搬リストに追加するリストとして作成することで、遅延波及組リスト30を作成する。遅延波及組リスト30には、伝搬元の遅延事象から伝搬先の遅延事象に対して、直接または間接に遅延が波及する組み合わせがリスト化されていることとなる。
【0062】
また、遅延伝搬ネットワークを用いて、ある遅延事象に対する遅延対策の実施後の遅延伝搬ネットワークを策定することで、同様に、遅延対策を実施後の遅延波及範囲を求めることができる。
【0063】
図10は、遅延対策実施後の遅延伝搬ネットワークの一例を示す図である。
図10に示すように、遅延伝搬ネットワークに対して、任意の遅延事象に対する遅延対策の実施により遅延の伝搬が解消されるアークを無効化することで、遅延対策実施後の遅延伝搬ネットワークを策定することができる。
図10では、
図8に示した遅延伝搬ネットワークに対して、遅延の発生源である遅延事象1Bdに対して遅延対策時分が「5分」の遅延対策を実施した例を示している。遅延対策の実施により、遅延対策の実施対象である遅延事象1Bdから辿れる遅延伝搬経路に沿って遅延対策の効果が伝搬し、当該遅延伝搬経路上の遅延事象それぞれの遅延時分が、一律に遅延対象時分が「5分」だけ減少する。その結果、遅延事象3Caの遅延時分が「0分」になり遅延が解消される。つまり、遅延の発生源である遅延事象1Bdからの遅延の伝搬は遅延事象3Caの直前の遅延事象3Bdで止まり、その先の経路部分には遅延は伝搬しない。これは、遅延伝搬ネットワークにおいて、遅延が解消された遅延事象3Caに繋がるアークが無効化されることに相当する。
【0064】
[遅延対策ダイヤの作成(ダイヤ作成処理)]
ダイヤ作成装置1による遅延対策ダイヤ40の作成について説明する。
図11は、ダイヤ作成装置1が列車ダイヤ10に対して遅延対策を実施した新たな列車やである遅延対策ダイヤを作成するダイヤ作成処理を説明するフローチャートである。
【0065】
先ず、列車ダイヤ10に対応するグラフネットワークを作成する(ステップS11)。グラフネットワークは、列車ダイヤにおける着発事象をノードとし、関連するノード間をアークで繋ぐことで作成される。アークは、着発時刻が先のノードから後のノードに向かう有向アークである。アークの種類には、同一列車の前後の着発事象同士を関連付けるアークである駅間走行(同一列車の前駅の発ノードから次駅の着ノード)、及び、駅停車(同一列車の同一駅の着ノードから発ノード)と、同一駅における前後の列車の着発事象同士を関連付けるアークである同一番線(先行列車の発ノードから後続列車の着ノード)、同一着線路(同一線路から到着する先行列車の着ノードから後続列車の着ノード)、及び、同一発線路(同一線路へ出発する先行列車の発ノードから後続列車の発ノード)と、平面交差支障(同一駅で競合する列車の着発ノード間)と、等がある。
【0066】
本実施形態では、列車ダイヤに対応するグラフネットワークにおいて、遅延箇所である着発事象に余裕時分を付加するように着発時刻を変更し、この変更時分を他の着発事象に伝搬させて当該他の着発事象の着発時刻を変更することで、遅延箇所に対する遅延対策を行った遅延対策ダイヤを作成する。その際に、変更時分を伝搬させる着発事象の組み合わせや着発時刻差に応じて伝搬させる変更時分の程度を変えていることを特徴の1つとしている。
【0067】
次いで、このグラフネットワークに対するアーク検証・変更容量推定処理を行う(ステップS13)。このアーク検証・変更容量推定処理では、グラフネットワークにおける各アーク及び各着発事象(ノード)に余裕時分を設定する。
【0068】
グラフネットワークにおいて、ある着発事象(ノード)の着発時刻の変更時分を他の着発事象(他のノード)に伝搬させて他の着発事象の着発時刻を変更するが、ある着発事象間で変更時分を伝搬させる際に伝搬させる変更時分の一部又は全部を減少させる場合がある。この場合に着発事象間で伝搬させる変更時分の減少可能な最大時分が、当該着発事象間のアークに設定する余裕時分である。アークの余裕時分は、当該アークの両端の着発事象の着発時刻差から、当該アークの種類に応じた最小必要時分を差し引いた値である。最小必要時分とは、列車ダイヤ10の作成上の条件とされる着発事象間の時刻差である。具体的には、駅での最小停車時分や、駅間の最小運転時分、駅での運転時隔等であり、アークの種類に応じた値となる。つまり、アークの余裕時分とは、当該アークの両端の着発事象の着発時刻差が当該アークの必要最小時分を超過する超過時分に相当する。
【0069】
また、各着発事象に繰り下げ及び繰り上げの余裕時分を設定する。着発事象の余裕時分は、当該着発事象の着発時刻の変更可能な最大時分であり、当該着発に繋がるアークの余裕時分によって決まる。繰り下げの余裕時分は、繰り下げ試行(詳細は後述する)を行う際の当該着発事象の余裕時分であり、当該着発事象を始端とするアークであって終端の着発事象が時刻変更不可に設定されている各アークの余裕時分のうちの最小の余裕時分とする。繰り上げの余裕時分は、繰り上げ試行(詳細は後述する)を行う際の当該着発事象の余裕時分であり、当該着発事象を終端とするアークであって始端の着発事象が時刻変更不可に設定されている各アークの余裕時分のうちの最小の余裕時分とする。
【0070】
続いて、列車ダイヤ10における着発事象について、評価値に基づくランキングを作成する(ステップS15)。本実施形態では、評価値はその値が大きいほど与える影響の程度が大きいことを表しているので、評価値の降順に着発事象のランキングを作成する。このランキングにある着発事象が、対象着発事象の候補となる。なお、ランキングに入れる着発事象の数に上限を設けてもよいし、評価値に下限値を設けてもよい。そして、ランキング順に、1つの着発事象を対象着発事象として選択する(ステップS17)。
【0071】
続いて、対象着発事象に遅延対策を行って列車ダイヤの変更を試行する列車ダイヤ変更試行処理を行う。この列車ダイヤ変更試行処理は、列車ダイヤ10に対応するグラフネットワークにおいて、対象着発事象からアークを辿るようにして、対象着発事象に係る着発時刻の変更時分を他の着発事象へ伝搬させて他の着発事象の着発時刻を変更することで、列車ダイヤの変更を試行する処理である。
【0072】
具体的には、先ず、対象着発事象からアークの向きに沿って辿ることで、対象着発事象に係る駅以降の各駅の着発時刻を順に遅らせてゆく繰り下げ試行処理を行う(ステップS19)。この繰り下げ試行処理の詳細については後述する。繰り下げ試行が失敗したならば(ステップS21:NO)、続いて、対象着発事象からアークの向きとは逆に辿ることで、対象着発事象に係る駅以前の各駅の着発時刻を順に早めてゆく繰り上げ試行処理を行う(ステップS23)。この繰り上げ試行処理の詳細については後述する。
【0073】
繰り下げ試行が成功した(ステップS21:YES)、或いは、繰り上げ試行が成功したならば(ステップS25:YES)、当該試行による列車ダイヤの変更を確定する(ステップS29)。そして、対象着発事象と、対象着発事象を波及元着発事象とする遅延波及組の波及先着発事象とを、遅延対策を実施済みとみなしてランキングから削除することで、新たな対象着発事象の候補から除外する(ステップS31)。また、着発時刻を変更した着発事象について、以降の着発時刻の変更を不可(変更不可着発事象)とする(ステップS33)。そして、着発時刻を変更した着発事象を始端又は終端とするアークの余裕時分を再算出して更新する(ステップS35)。なお、着発時刻を変更した着発事象については、以降の着発時刻の変更が不可であるので、ランキングから削除することで、新たな対象着発事象の候補から除外するようにしてもよい。
【0074】
一方、繰り上げ試行が失敗したならば(ステップS25:NO)、対象着発事象についての列車ダイヤの変更は失敗であるので、対象着発事象を、遅延対策の実施を試行済みとしてランキングから削除することで、新たな着発事象の候補から除外する(ステップS27)。
【0075】
その後、所定の終了条件を満たすかを判定する。終了条件は、例えば、ランキングの着発事象が無くなったことや、列車ダイヤ10に対する変更箇所(着発時刻を変更した着発事象の総数)が所定数に達したこと、等である。終了条件を満たしていないならば(ステップS37:NO)、ステップS17に戻る。終了条件を満たすならば(ステップS37:YES)、現時点の列車ダイヤ10を作成した遅延対策ダイヤとして本処理を終了する。
【0076】
[繰り下げ/繰り上げ試行処理]
繰り下げ試行処理及び繰り上げ試行処理においては、列車ダイヤ10に対応するグラフネットワークにおいて、対象着発事象から、着発事象同士の関連付けであるアークを向きに沿って又は逆向きに辿り、対象着発事象の着発時刻の変更時分eを他の着発事象に伝搬させて当該他の着発事象の時刻を変更することで、列車ダイヤの変更を試行する。その際、変更時分を伝搬させる着発事象同士の組み合わせが、遅延波及組であるか否かに基づいて、変更時分の伝搬のさせ方、つまり、各着発事象の着発時刻の変更の程度を変えている。具体的には、着発事象同士の組み合わせが遅延波及組でないならば、当該着発事象間のアークの余裕時分だけ変更時分を減少させて伝搬させる。アークの余裕時分は、当該アークの種類に応じて決まる最小必要時分に対する両端の着発事象同士の着発時刻差の超過時分であるから、その超過時分を削減するように着発事象の着発時刻を変更することになる。また、着発事象同士の組み合わせが遅延波及組ならば、当該着発事象間のアークの余裕時分に関わらず、変更時分をそのまま伝搬させて各着発事象の着発時刻を同じ変更時分だけ変更する。
【0077】
図12は、繰り下げ試行処理の流れを説明するフローチャートである。先ず、リストQの初期設定として、対象着発事象に所与の変更時分e(例えば、1分)を対応付けてリストQに格納する(ステップS101)。このリストQは、対象着発事象から変更時分eを伝搬させて着発時刻を変更する着発事象を格納しておくリストであり、着発事象に着発時刻の変更時分を対応付けて格納される。なおこのとき、対象着発事象の着発時刻の変更として、例えば、駅停車時分のみを変更(増加)させたい場合であって、対象着発事象が着事象の場合には、当該着事象に係る当該列車の当該駅の発事象を対象着発事象の替わりにリストQに格納する。
【0078】
そして、リストQから、着発時刻が最も早い着発事象Nを選択する(ステップS103)。次いで、選択した着発事象Nに対応付けられている変更時分e[N]を、他の着発事象に伝搬させる変更時分Eとして設定する(ステップS105)。続いて、着発事象Nが着発時刻の変更が不可(変更不可着発事象)であるか、或いは、着発事象Nの繰り下げ余裕時分mが変更時分E未満(m<E)であるならば(ステップS107:YES)、着発事象Nの着発時刻を変更すべきであるのに変更ができないので、繰り下げ試行は失敗と判定する(ステップS109)。
【0079】
一方、着発事象Nが着発時刻の変更が不可(変更不可着発事象)ではなく、且つ、着発事象Nの繰り下げ余裕時分mが変更時分E以上(m≧E)であるならば(ステップS107:NO)、着発事象Nの着発時刻を変更時分Eだけ繰り下げる(遅らせる)ように仮変更する(ステップS111)。次いで、グラフネットワークにおいて、着発事象Nを始端とするアークのうち、当該アークの余裕時分f[a]が変更時分Eに所定時分Kを加算した時分(=E+K)未満(f[a]<E+K)であるアークaを取得する(ステップS113)。所定時分Kは所与の余裕時分(例えば、60秒)であり、任意に設定される。余裕時分f[a]が変更時分Eに所定時分Kを加算した時分(=E+K)以上であるアークは、変更時分Eの全てをアークの余裕時分f[a]で吸収させることでそのアークの終端の着発事象には変更時分を伝搬させずに着発時刻を変更しないので、取得しない。
【0080】
続いて、遅延波及組リスト30を参照して、取得したアークaの両端の着発事象の組み合わせが遅延波及組であるか否かを判断する。遅延波及組ならば(ステップS115:YES)、変更時分Eをそのまま伝搬させるので、アークaの終端の着発事象に変更時分Eを対応付けてリストQに追加する(ステップS117)。
【0081】
遅延波及組でないならば(ステップS115:NO)、変更時分Eからアークaの余裕時分f[a]を差し引いた変更時分e[a](=E-f[a])を算出する(ステップS119)。そして、算出した変更時分e[a]がゼロより大きい(e[a]>0)ならば(ステップS121:YES)、アークaの終端の着発事象に変更時分e[a]を対応付けてリストQに追加する(ステップS123)。アークaの余裕時分f[a]は、アークaの両端の着発事象同士の着発時刻差が最小必要時分を超過する超過時分である。このため、着発事象Nから伝搬させる変更時分Eから、その超過時分であるアークaの余裕時分f[a]だけ削減した変更時分e[a](=E-f[a])を、アークaの終端の着発事象に伝搬させる変更時分とするのである。
【0082】
一方、変更時分e[a]がゼロ以下(e[a]≦0)ならば(ステップS121:NO)、変更時分Eの全てがアークaの余裕時分fで吸収されるため、変更時分はアークaの終端の着発事象には伝搬されず着発事象は変更されないことになる。このように、削減される時分がアークaの余裕時分f[a]を超えないようにアークaの終端の着発事象に伝搬させる変更時分e[a]を定めていることで、成功条件の1つである、a)試行後の各着発事象間の着発時刻差が所与の最小必要時分以上、を満たすような変更が行われるようにしているのである。
【0083】
その後、リストQが空でないならば(ステップS125:NO)、ステップS103に戻る。リストQが空となったならば(ステップS125:YES)、対象着発事象からの繰り下げ試行は成功と判定する(ステップS127)。以上の処理を行うと、本処理は終了となる。
【0084】
図13は、繰り上げ試行処理の流れを説明するフローチャートである。この繰り上げ試行処理は、
図12に示した繰り下げ試行処理とほぼ同様であるため、詳細な説明を省略する。同一処理については同一のステップ番号を付し、異なるステップ番号に“a”を付して当該ステップの矩形を太線で示している。繰り上げ試行処理が繰り下げ試行処理と異なる主な点は、繰り上げ試行処理は対象着発事象からアークの向きとは逆に辿ることで対象着発事象に係る駅以前の各駅の着発時刻を順に早めてゆく処理である。リストQから着発時刻が“最も遅い”着発事象Nを選択する(ステップS103a)、着発事象Nの着発時刻を“繰り上げる(早める)”ように仮変更する(ステップS111a)、着発事象Nを“終端”とするアークaを選択する(ステップS113a)、着発事象Nの“始端の着発事象”をリストQに追加する(ステップS117a,S123a)、などである。
【0085】
図14~
図17は、遅延対策ダイヤの具体的な作成例を説明する図である。
図14は、列車ダイヤに対するグラフネットワークの一例である。
図14の例では、1駅~6駅の区間を、快速列車、普通列車及び急行列車が順に1駅から6駅に向かって走行するような列車ダイヤの例を示している。快速列車及び急行列車は、2駅~5駅を停車せずに通過するが、これらの通過駅についても仮想的な着発事象(着事象及び発事象:図中の白色の円)を定めている。また、快速列車、及び、普通列車は、各駅の着発時刻の変更が可能であるが、急行列車は、各駅の着発時刻の変更を不可(変更不可着発事象)としている。なお、
図14~
図17の作成例においては、急行列車の全駅の着発時刻を変更不可としているが、一部の駅の着発事象のみを変更不可としてもよい。例えば、ある乗換駅において他路線の接続列車(乗換列車)が設定されている場合には、当該列車の当該駅の着時刻又は発時刻だけは乗換確保のために変更不可としたい、場合などである。また、各アークに付した数字は当該アークに設定された余裕時分である。また、
図14の下側には、列車ダイヤにおける着発事象の評価値に基づくランキングと、遅延波及組リスト30とを示している。
【0086】
図15は、
図14に示した列車ダイヤに対する変更の試行の一例を示す図である。具体的には、ランキングが1位の着発事象Ld3を対象着発事象として繰り下げ試行を行った例である。着発事象Ld3は、普通列車の3駅の到着に係る着事象である。また、対象着発事象の変更時分eを「1分」としている。
【0087】
先ず、対象着発事象Ld3の着発時刻(着時刻)が「1分」繰り下げるように仮変更される。対象着発事象Ld3を始端とするアークの終端の着発事象は、普通列車の3駅の出発に係る着発事象La4と、急行列車の3駅の到着に係る着発事象Ea3との2つである。後者の着発事象Ea3に向かうアークの余裕時分は「6分」であり、これは変更時分である「1分」以上であるので、変更時分は着発事象Ea3には伝搬されず着発時刻は変更されない。前者の着発事象La4に向かうアークの余裕時分は「0分」であり、これは変更時分である「1分」未満であるので、変更時分は着発事象La4にそのまま伝搬されて、着発時刻が「1分」繰り下げるように仮変更される。
【0088】
次いで、変更時分が伝搬された着発事象La4を始端ノードとするアークの終端の着発事象は、普通列車の4駅の出発に係る着発事象Ld4の1つである。着発事象La4から着発事象Ld4に向かうアークの変更時分は「0分」であるから、変更時分がそのまま着発事象Ld4に伝搬されて、着発時刻が「1分」繰り下げるように仮変更される。以降も同様に、着発事象Ld4からアークの向きに沿って変更時分が伝搬される。つまり、普通列車の5駅の到着に係る着発事象La5の着発時刻が「1分」繰り下げるように仮変更される。
【0089】
次いで、着発事象La5から、普通列車の5駅の出発に係る着発事象Ld5に向かうアークの余裕時分は「1分」であり変更時分である「1分」以上であるが、着発事象La5,Ld5の組み合わせは、遅延波及組リスト30にある遅延波及組である。従って、着発事象La5から変更時分は減少させずにそのまま着発事象Ld5に伝搬されて、着発時刻が「1分」繰り下げるように仮変更される。更に、着発事象La5から、普通列車の6駅の到着に係る着発事象La6へ変更時分が伝搬されて、着発事象が「1分」繰り下げるように仮変更される。
【0090】
その後、着発事象La6から、急行列車の6駅の到着に係る着発事象Ea6へ向かうアークの余裕時分は「0分」であるので、変更時分をそのまま伝搬させようとするが、着発事象Ea6は時刻変更不可であるので着発時刻を変更することができない。従って、この時点で、対象着発事象Ld3からの繰り下げ試行の実施は不可能となる。そして、繰り下げ試行によりなされた各着発事象の着発時刻の仮変更は破棄される。
【0091】
図16は、
図14に示した列車ダイヤに対する変更の試行の一例を示す図である。具体的には、ランキングが1位の対象着発事象Ld3からの繰り上げ試行を行った例である。対象着発事象Ld3は発事象であるから、対象着発事象Ld3の着発事象は変更せず、当該駅の着事象である着発事象La3の着発時刻を「1分」繰り上げるように仮変更する。着発事象La3を終端とするアークの始端の着発事象は、普通列車の2駅の出発に係る着発事象Ld2と、快速列車の3駅の出発に係る着発事象Rd3と、の2つである。後者の着発事象Rd3から向かうアークの余裕時分は「4分」であり、変更時分である「1分」以上であるので、着発事象Rd3へは変更時分を伝搬させず、着発時刻は変更されない。前者の着発事象Ld2から向かうアークの余裕時分は「0分」であるから、変更時分をそのまま伝搬させて、着発事象Ld2の着発時刻を「1分」繰り上げるように仮変更される。
【0092】
着発事象Ld2を終端とし、着発事象La2を始端とするアークの余裕時分は「1分」であるから、変更時分がこの余裕時分だけ減少して「0分」となり、変更時分は伝搬されず、着発事象La2の着発時刻は変更されない。つまり、変更時分が「0分」となってこれより先の着発事象には変更時分は伝搬されないので、この時点で、対象着発事象Ld3からの繰り上げ試行は成功となる。この繰り上げ試行の結果である列車ダイヤの変更が確定される。つまり、着発事象La3,Ld2の着発時刻を「1分」繰り上げる変更が確定される。
【0093】
そして、着発時刻を変更した着発事象La3,Ld2について着発時刻の変更を不可(変更不可着発事象)と設定される。また、着発時刻を変更した着発事象を始端ノード又は終端ノードとするアークの余裕時分が更新される。つまり、着発事象La2から着発事象Ld2に向かうアークの余裕時分が「1分」から「0分」に更新され、着発事象Rd4から着発事象La3に向かうアークの余裕時分を「4分」から「3分」に更新される。また、列車の駅停車時分のみに余裕を付加して遅延対策を行う場合には、対象着発事象として着発時刻を変更した着事象La3又は発事象Ld3を波及元着発事象とする遅延波及組の波及先着発事象である着発事象La4とが削除される。
【0094】
図17は、
図14に示した列車ダイヤに対する変更の試行の一例を示す図である。具体的には、
図16に示した対象着発事象Ld3からの繰り上げ試行を確定して変更した後の列車ダイヤに対して、ランキングの3位の着発事象Rd1を新たな対象着発事象とした変更の試行を示している。
【0095】
先ず、対象着発事象Rd1から繰り下げ試行を行う。すなわち、対象着発事象Rd1の着発事象が「1分」繰り下げるように仮変更される。次いで、対象着発事象Rd1を始端とするアークを辿って、着発事象Ld1,La2の着発時刻が「1分」繰り下げるように仮変更される。しかし、続く着発事象Ld2は、図(c)に示した列車ダイヤに対する変更の確定によって時刻変更不可(変更不可着発事象)と設定されているので、この時点で、対象着発事象Rd1からの繰り下げ試行は失敗となる。
【0096】
次に、対象着発事象Rd1からの繰り上げ試行を行う。しかし、対象着発事象Rd1に係る快速列車は1駅が始発駅であり、当該1駅に係る着事象は存在しないため、この時点で、対象着発事象Rd1からの繰り上げ試行は失敗となる。従って、対象着発事象Rd1からの列車ダイヤの変更の試行は失敗となるから、対象着発事象Rd1をランキングから削除する。
【0097】
[機能構成]
図18は、ダイヤ作成装置1の機能構成の一例である。
図18によれば、ダイヤ作成装置1は、操作部102と、表示部104と、音出力部106と、通信部108と、処理部200と、記憶部300とを備えて構成され、一種のコンピュータシステムとして実現される。なお、ダイヤ作成装置1は、1台のコンピュータで実現してもよいし、複数台のコンピュータを接続して構成することとしてもよい。
【0098】
操作部102は、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、各種スイッチ等の入力装
置で実現され、なされた操作に応じた操作信号を処理部200に出力する。表示部104は、例えば液晶ディスプレイやタッチパネル等の表示装置で実現され、処理部200からの表示信号に基づく各種表示を行う。音出力部106は、例えばスピーカ等の音出力装置で実現され、処理部200からの音信号に基づく各種音出力を行う。通信部108は、例えば無線通信モジュールやルータ、モデム、有線用の通信ケーブルのジャックや制御回路等で実現される通信装置であり、所与の通信ネットワークに接続して外部装置とのデータ通信を行う。
【0099】
処理部200は、CPU(Central Processing Unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の演算装置や演算回路で実現されるプロセッサーであり、記憶部300に記憶されたプログラムやデータ、操作部102や通信部108からの入力データ等に基づいて、ダイヤ作成装置1の全体制御を行う。
【0100】
また、処理部200は、機能的な処理ブロックとして、分析部202と、選択部204と、試行部206と、判定部208と、確定部210とを有する。処理部200が有するこれらの各機能部は、処理部200がプログラムを実行することでソフトウェア的に実現することも、専用の演算回路で実現することも可能である。本実施形態では、前者のソフトウェア的に実現することとして説明する。
【0101】
分析部202は、列車ダイヤ10に対する運行実績データ12や旅客データ14を基づく列車遅延の分析処理(
図1参照)を行い、分析結果である評価値データ20及び遅延波及組リスト30を算出する(
図1~
図10参照)。なお、分析部202を別の装置として実現する場合には、当該別の装置から、分析処理の分析結果である評価値データ20及び遅延波及組リスト30を取得するようにする。
【0102】
選択部204と、試行部206と、判定部208と、確定部210とが、ダイヤ作成処理(
図1参照)を担う機能部である。先ず、選択部204は、評価値に基づいて、着発事象のうちから対象着発事象を選択する(
図11のステップS17に相当)。また、選択部204による選択と、試行部206による試行と、判定部208による判定と、確定部210による確定との一連の処理の繰り返しにおいて、過去に確定部210により確定された列車ダイヤの変更に係る対象着発事象を波及元着発事象とする遅延波及組の波及先着発事象を、新たな対象着発事象の候補から除外する(
図11のステップS31に相当)。また、一連の処理の繰り返しにおいて、過去に確定部210により確定された列車ダイヤの変更で着発時刻が変更された着発事象を、新たな対象着発事象の候補から除外してもよい。
【0103】
試行部206は、列車ダイヤ10に対応するグラフネットワークの関連付けを対象着発事象から辿り、当該対象着発事象に係る着発時刻の変更時分を他の着発事象へ伝搬させて当該他の着発事象の着発時刻を変更することで列車ダイヤの変更を試行するが、当該伝搬の過程で辿る関連付けに係る着発事象同士の組み合わせが遅延波及組か否かに基づいて、当該組み合わせに係る着発事象の着発時刻の変更の程度を変える。
【0104】
具体的には、伝搬の過程で辿る関連付けに係る着発事象同士の組み合わせが遅延波及組でなく、且つ、当該組み合わせに係る着発事象同士の着発時刻差が最小必要時分を超過する場合に、超過時分を削減するように当該組み合わせに係る着発事象の着発時刻を変更する(
図12、
図13のステップS115:YES~S123,S123aに相当)。
【0105】
また、伝搬の過程で辿る関連付けに係る着発事象同士の組み合わせが遅延波及組の場合には、当該組み合わせに係る着発事象同士の着発時刻差を変更せずに、当該組み合わせに係る着発事象同士の着発時刻を同じ時分だけ変更する(
図12、
図13のステップS115:YES~S117,S117aに相当)。
【0106】
また、変更時分を対象着発事象に係る駅以降の各駅に伝搬させて当該各駅の着発時刻を順次遅らせる繰り下げ試行と、変更時分を対象着発事象に係る駅以前の各駅に伝搬させて当該各駅の着発時刻を順次早める繰り上げ試行と、を行う(
図11のステップS19,S23に相当)。
【0107】
また、選択部204による選択と、試行部206による試行と、判定部208による判定と、確定部210による確定との一連の処理の繰り返しにおいて、同じ対象着発事象について、判定部208により繰り下げ試行が失敗と判定された場合に、繰り上げ試行を行う(
図11のステップS21:NO~S23に相当)。
【0108】
判定部208は、a)試行後の各着発事象間の着発時刻差が所与の最小必要時分以上であり、且つ、b)着発時刻を変更不可と定められた所与の変更不可着発事象の着発時刻が変更されない、ことを成功条件として、試行の成否を判定する。
【0109】
具体的には、グラフネットワークの各アークに余裕時分を定めることで、成功条件を満たすような列車ダイヤの変更(着発事象の着発時刻の変更)のみが行えるようにしている。つまり、着発事象同士で変更時分Eを伝搬させる際に、変更時分Eをそのまま伝搬させる(
図12,
図13のステップS117,S117aに相当)、又は、変更時分Eからアークaの余裕時分f[a]を差し引いた変更時分e[a](=E-f[a])を伝搬させる(
図12のステップS119~S123,S123aに相当)こととしている。アークaの余裕時分f[a]は、アークaの両端の着発事象同士の着発時刻差が最小必要時分を超過する超過時分である。このように、削減される時分がアークaの余裕時分f[a]を超えないように伝搬させる変更時分を定めていることで、成功条件のa)を満たすような試行のみが成功するようにしている。
【0110】
また、着発時刻の変更が不可とされておらず(変更不可着発事象でない)、且つ、繰り上げ/繰り下げ余裕時分が変更時分E以上である(
図12,
図13のステップS107,S107aに相当)着発事象についてのみ、変更時分を変更することとしている。着発事象の繰り上げ余裕/繰り下げ余裕時分は、繰り下げ/繰り上げ試行によって当該着発事象の着発時刻を変更可能な最大時分である。このように、当該着発事象又は変更時分の伝搬先の着発事象が変更時分E以上の変更が可能である場合にのみ、当該着発事象の着発時刻の変更(繰り下げ/繰り上げるような仮変更)を行うようにしていることで、成功条件のb)を満たすような試行のみが成功するようにしている。
【0111】
また、選択部204による選択と、試行部206による試行と、判定部208による判定と、確定部210による確定との一連の処理の繰り返しにおいて、過去に確定部210により確定された列車ダイヤの変更で着発時刻が変更された着発事象を、以降の一連の処理の繰り返しにおいて変更不可着発事象として扱う(
図11のステップS33に相当)。また、繰り下げ試行の成否の判定と、繰り上げ試行の成否の判定と、を行う。
【0112】
確定部210は、判定部208が成功と判定した場合に、試行部206が試行した列車ダイヤの変更を確定する(
図11のステップS29に相当)。
【0113】
記憶部300は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等のIC(Integrated Circuit)メモリやハードディスク等の記憶装置で実現され、処理部200がダイヤ作成装置1を統合的に制御するためのプログラムやデータ等を記憶しているとともに、処理部200の作業領域として用いられ、処理部200が実行した演算結果や、操作部102や通信部108からの入力データ等が一時的に格納される。本実施形態では、記憶部300には、ダイヤ作成プログラム302と、列車ダイヤ10と、運行実績データ12と、旅客データ14と、評価値データ20と、遅延波及組リスト30と、グラフネットワークデータ310と、作成された遅延対策ダイヤ40とが記憶される。
【0114】
ダイヤ作成プログラム302は、ダイヤ作成装置1が読み出して実行することで、列車ダイヤ10に対する列車遅延の分析結果を用いて新たな列車ダイヤである遅延対策ダイヤを作成するダイヤ作成処理(
図11参照)をダイヤ作成装置1に実現させるためのプログラムである。なお、分析処理をダイヤ作成装置1に実現させるためのプログラムは、ダイヤ作成プログラム302の一部として組み込んでもよいし、ダイヤ作成プログラム302とは別のプログラムとして記憶部300が記憶することとしてもよい。
【0115】
グラフネットワークデータ310は、列車ダイヤに対応するグラフネットワークに関するデータである。
図19に、グラフネットワークデータ310の一例を示す。同図に示すように、グラフネットワークデータ310は、グラフネットワークを構成する各ノードに関するノードデータ312と、各アークに関するアークデータ314とを含む。1つのノードデータ312は、該当するノードのノードIDに対応付けて、当該ノードに対応する着発事象に係る列車、駅及び着発の識別情報と、列車ダイヤ10で定められる着発時刻と、繰り下げ余裕時分と、繰り上げ余裕時分と、変更可否フラグとを格納している。1つのアークデータ314は、該当するアークのアークIDに対応付けて、当該アークの始端となるノードのノードIDと、終端となるノードのノードIDと、余裕時分とを格納している。
【0116】
[作用効果]
このように、本実施形態によれば、列車遅延の分析結果を用いて遅延対策を実施した列車ダイヤを作成することができる。つまり、既存の列車ダイヤ10に対応するグラフネットワークにおいて、対象着発事象から着発事象同士の関連付けを辿って対象着発事象の着発時刻の変更時分を伝搬させて他の着発時刻を変更することで、既存の列車ダイヤ10を変更した新たな列車ダイヤである遅延対策ダイヤ40を作成することができる。このとき、変更時分を伝搬させる着発事象同士の組み合わせが遅延波及組か否かに基づいて、つまり、着発事象同士で遅延が波及しているか否かに基づいて、着発時刻の変更の程度を変えることができる。
【0117】
遅延波及組でない着発事象同士では遅延は波及していないため、当該着発事象同士の着発時刻差を短くしても新たに遅延が波及することになる可能性は低い。このため、着発事象同士の着発時刻差が最小必要時分に対して超過している場合には、その超過時分の範囲で変更時分を減少させて伝搬させて着発時刻差を削減するように当該着発事象の着発時刻を変更することで、列車ダイヤに対する変更箇所の増加を抑制することができる。
【0118】
また、遅延波及組である遅延事象同士では遅延が波及しているので、当該遅延事象同士の着発時刻差を減少させた場合、遅延が更に増加してしまう可能性が高い。このため、着発事象同士の着発時刻差を変更せずに、変更時分をそのまま伝搬させて着発事象同士の着発時刻を同じ変更時分だけ変更することで、遅延対策を効果的に実施した遅延対策ダイヤ40を作成することが可能となる。
【0119】
また、対象着発事象は他の着発事象の遅延や旅客の行程遅延に与える評価値に基づいて選択されるので、例えば、他の着発事象の遅延や旅客の行程遅延に与える影響が大きい着発事象を対象着発事象として選択することで、実施した遅延対策の効果が大きい列車ダイヤを作成することが可能となる。
【0120】
また、列車ダイヤの変更を試行してその試行の内容が成功条件を満たす場合に列車ダイヤの変更を確定するので、要求される条件を満たして実施可能な遅延対策ダイヤ40を作成することができる。具体的には、成功条件のa)により、列車の駅間走行時分や停車時分、運転時隔等の最小必要時分を満たす遅延対策ダイヤ40を作成することができ、また、成功条件のb)により、着発時刻を変更すべきでない列車や駅の着発については着発時刻を変更しない遅延対策ダイヤ40を作成することができる。
【0121】
なお、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0122】
(A)繰り下げ試行と繰り上げ試行の順序
上述の実施形態では、対象着発事象について、先ずは繰り下げ試行を行い、繰り下げ試行が失敗と判定された場合に繰り上げ試行を行うこととしたが(
図11のステップS19~S23)、順序を逆にして、先ずは繰り上げ試行を行い、繰り上げ試行が失敗と判定された場合に繰り下げ試行を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0123】
1…ダイヤ作成装置
200…処理部
202…分析部
204…選択部
206…試行部
208…判定部
210…確定部
300…記憶部
302…列車ダイヤ作成プログラム
10…列車ダイヤ
12…運行実績データ
14…旅客データ
20…評価値データ
30…遅延波及組リスト
40…遅延対策ダイヤ
310…グラフネットワークデータ