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特許7519348スチレン系樹脂組成物、成形品及び導光板
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  • 特許-スチレン系樹脂組成物、成形品及び導光板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】スチレン系樹脂組成物、成形品及び導光板
(51)【国際特許分類】
   C08L 25/04 20060101AFI20240711BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20240711BHJP
   C08K 5/49 20060101ALI20240711BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
C08L25/04
C08K5/13
C08K5/49
C08L33/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021515848
(86)(22)【出願日】2020-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2020008979
(87)【国際公開番号】W WO2020217718
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2019081859
(32)【優先日】2019-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】西野 広平
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/138997(WO,A1)
【文献】特開2008-189902(JP,A)
【文献】特開2014-001295(JP,A)
【文献】国際公開第2016/129675(WO,A1)
【文献】特開2018-145309(JP,A)
【文献】特許第6000978(JP,B2)
【文献】特開2015-067650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
200℃の酸素雰囲気下で測定した酸化誘導時間をt1、
80℃且つ90%湿度の空気雰囲気下で500時間湿熱処理した後に200℃の酸素雰囲気下で測定した酸化誘導時間をt2としたときに、
t1-t2が20分以下である、
スチレン系樹脂組成物であって、
前記スチレン系樹脂組成物は、スチレン系樹脂(A)、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)、フェノール系水酸基を有するリン系酸化防止剤(C1)、及び、フェノール系水酸基を有しないリン系酸化防止剤(C2)を含み、
前記スチレン系樹脂(A)は、スチレン系単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位を有し、
前記スチレン系樹脂(A)は、スチレン系単量体単位の含有量が20~80質量%及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位の含有量が80~20質量%であり、
前記フェノール系水酸基を有するリン系酸化防止剤(C1)は、フェノール系水酸基を有する三価のリン化合物であり、
前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)は、フェノール性水酸基を持つ酸化防止剤であって、フェノール系水酸基を有する三価のリン化合物を含まず、
前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)の含有量は、スチレン系樹脂(A)に対して、0.001~0.3質量部であり、
前記フェノール系水酸基を有するリン系酸化防止剤(C1)の含有量は、スチレン系樹脂(A)に対して、0.001~0.3質量部であり
前記フェノール系水酸基を有しないリン系酸化防止剤(C2)の含有量は、スチレン系樹脂(A)に対して、0.001~0.3質量部である、スチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記t1は、50分以上である、請求項1に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)が、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、エチレンビス(オキシエチレン)ビス〔3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート〕、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]から選ばれる少なくとも一種の化合物である請求項1又は請求項2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記リン系酸化防止剤(C2)が、2,2'-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)2-エチルヘキシルホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)フォスファイトから選ばれる少なくとも一種の化合物である請求項1~請求項のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項5】
前記リン系酸化防止剤(C1)が、6-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-tert-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピンである請求項1~請求項のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項6】
初期の光路長115mmでのYI値が2.5以下である、
請求項1~請求項のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~請求項のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂組成物を用いた成形品。
【請求項8】
請求項に記載の成形品を用いた導光板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系樹脂組成物及びその成形品、導光板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置のバックライトには、光源を表示装置の正面に配置する直下型と側面に配置するエッジライト型がある。エッジライト型バックライトには、側面に配置された光源の光を表示装置の正面に導く導光板と呼ばれる部品が使用されている。
導光板の材料は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)に代表されるアクリル系樹脂が使用されている。しかしながら、PMMAは吸水性が高いため、吸水により導光板の反りや寸法変化が生じる場合がある。また、成形時に熱分解しやすいため、高温で成形すると成形体に外観不良が生じやすいという問題がある。
これらの問題を改善するため、スチレン-(メタ)アクリル酸メチル共重合体を導光板の材料として用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-075648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、耐湿熱性に優れたスチレン系樹脂組成物及びその成形品並びに導光板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち、本発明は以下の通りである。
(1)200℃の酸素雰囲気下で測定した酸化誘導時間をt1、80℃且つ90%湿度の空気雰囲気下で500時間湿熱処理した後に200℃の酸素雰囲気下で測定した酸化誘導時間をt2としたときに、t1-t2が20分以下である、スチレン系樹脂組成物。
(2)前記t1は、50分以上である、(1)に記載のスチレン系樹脂組成物。
(3)ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)と、フェノール系水酸基を有しないリン系酸化防止剤(C2)と、を含有する(1)又は(2)に記載のスチレン系樹脂組成物。
(4)スチレン系単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位を有するスチレン系樹脂(A)を含有する(1)~(3)のいずれか一つに記載のスチレン系樹脂組成物。
(5)フェノール系水酸基を有するリン系酸化防止剤(C1)を含有する(1)~(4)のいずれか一つに記載のスチレン系樹脂組成物。
(6)前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)が、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、エチレンビス(オキシエチレン)ビス〔3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート〕、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]から選ばれる少なくとも一種の化合物である(3)に記載のスチレン系樹脂組成物。
(7)前記リン系酸化防止剤(C2)が、2,2'-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)2-エチルヘキシルホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)フォスファイトから選ばれる少なくとも一種の化合物である(3)に記載のスチレン系樹脂組成物。
(8)前記リン系酸化防止剤(C1)が、6-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-tert-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピンである(5)に記載のスチレン系樹脂組成物。
(9)初期の光路長115mmでのYI値が2.5以下である、(1)~(8)のいずれか一つに記載のスチレン系樹脂組成物。
(10)(1)~(9)のいずれか一つに記載のスチレン系樹脂組成物を用いた成形品。
(11)(10)に記載の成形品を用いた導光板。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、耐湿熱性に優れたスチレン系樹脂組成物及びその成形品並びに導光板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】ケミルミネッセンス法(化学発光法)による酸化誘導時間の測定方法の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本願明細書において、「A~B」なる記載は、A以上でありB以下であることを意味する。
【0009】
本発明のスチレン系樹脂組成物は、200℃の酸素雰囲気下で測定した酸化誘導時間をt1、80℃且つ90%湿度の空気雰囲気下で500時間湿熱処理した後に200℃の酸素雰囲気下で測定した酸化誘導時間をt2としたときに、t1-t2が20分以下であり、好ましくは15分以下であり、より好ましくは10分以下である。t1-t2がこのような範囲であれば、高温高湿環境下に保管された場合の色相の悪化を抑制することができる。また、酸化防止剤の添加量の増加は酸化誘導時間の維持に寄与するが、一方で色相への悪影響を生じる場合があるため、バランスを考慮した場合、t1-t2は、好ましくは1分以上であり、より好ましくは2分以上であり、さらに好ましくは4分以上である。t1-t2は、具体的には例えば、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20分であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0010】
t1は、好ましくは50分以上であり、より好ましくは70分以上であり、さらに好ましくは90分以上である。t1がこのような範囲であれば、高温環境下における黄変を抑制することができる。また、酸化防止剤の添加量の増加は酸化誘導時間を長くすることに寄与するが、一方で色相への悪影響を生じる場合があるため、バランスを考慮した場合、t1は、好ましくは500分以下であり、より好ましくは200分以下である。
【0011】
酸化誘導時間は、ケミルミネッセンス法(化学発光法)により測定した値である。以下の条件でスチレン系樹脂組成物の発光量の経時変化を測定し、得られた測定時間と発光量の関係より、図1に示すように発光量が変化する前の直線と発光量が増大した後の直線との交点の時間を算出した。スチレン系樹脂組成物は、酸素存在下で加熱すると徐々に酸化される。試料中に酸化防止剤が存在する場合、酸化によって徐々に酸化防止剤は消費されるが、酸化防止剤の存在する間は一定の発光量を示す。酸化防止剤が無くなると樹脂自身が酸化され、一気に発光の増加が見られる。すなわち、酸化誘導時間は酸化防止剤が消費され、樹脂組成物の酸化が急激に進行する時間を表す。
ケミルミネッセンス測定器:CLA-FS4(東北電子産業社製)
測定温度:200℃
酸素流量:100mL/分
【0012】
本発明のスチレン系樹脂組成物は、好ましくは、スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体の共重合体であるスチレン系樹脂(A)を含有する。
【0013】
スチレン系単量体とは、芳香族ビニル系モノマーであり、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレンなどの単独又は2種以上の混合物がある。これらの単量体の中でも、色相がよいという観点から、スチレンを用いることが好ましい。
【0014】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体とは、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートのメタクリル酸エステル、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、2-メチルへキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、デシルアクリレートの単独又は2種以上の混合物がある。色相や耐熱性に優れるという観点から、メチル(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。
【0015】
スチレン系樹脂(A)は、好ましくは、スチレン系単量体単位の含有量が20~80質量%及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位の含有量が80~20質量%であり、好ましくはスチレン系単量体単位の含有量が30~60質量%、(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位の含有量が70~40質量%である。単量体単位の含有量がこのような範囲であると、吸水率及び変形率(吸水性)が低く、吸湿により反り及び寸法変化が大きくなることを抑制でき、色相の悪化や表面硬度低下による傷付きを抑制できる。
【0016】
スチレン系樹脂(A)には、(メタ)アクリル酸エステル系単量体以外の単量体を5質量%以下の範囲で共重合させてもよい。共重合させる単量体としては、スチレン系単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体に共重合可能なビニル単量体があり、アクリロニトリル、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレインなどがある。
【0017】
スチレン系樹脂のスチレン系単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位の含有量は熱分解ガスクロマトグラフィーで以下の条件で測定することができる。
熱分解炉:PYR-2A(株式会社島津製作所製)
熱分解炉温度設定:525℃
ガスクロマトグラフ:GC-14A(株式会社島津製作所製)
カラム:ガラス製3mm径×3m
充填剤:FFAP Chromsorb WAW
カラム温度:120℃
キャリアーガス:窒素
【0018】
スチレン系樹脂の製造方法としては、公知の塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などにより製造することができる。反応装置の操作法としては、連続式、バッチ式(回分式)、半回分式のいずれも適用できる。透明性などの品質面や生産性の面から、塊状重合或いは溶液重合が好ましく、連続式であることが好ましい。塊状重合或いは溶液重合の溶媒としては、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン及びキシレンなどのアルキルベンゼン類やアセトンやメチルエチルケトンなどのケトン類、ヘキサンやシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素などがある。
【0019】
スチレン系樹脂の重合方法は、公知の方法が採用できる。簡潔なプロセスで生産性に優れることから、ラジカル重合法が好ましい。
【0020】
スチレン系樹脂の塊状重合或いは溶液重合では、重合開始剤、連鎖移動剤を用いることができ、重合温度は110~170℃の範囲であることが好ましい。連続式で塊状重合或いは溶液重合を行う場合、生産性の観点から、スチレン系単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体の転化率は、重合工程の出口において、60%以上になるよう重合を行うことが好ましい。
【0021】
重合開始剤は、過酸化ベンゾイル、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、1,1-ジ(t-ブチルバーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス(4,4-ジ-tert-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジクミルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシアセテート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ポリエーテルテトラキス(tert-ブチルパーオキシカーボネート)、エチル-3,3-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ブチレート、tert-ブチルパーオキシイソブチレートなどの有機過酸化物がある。
【0022】
重合開始剤の添加量は、単量体の合計100質量%に対して、0.001~0.2質量%であることが好ましく、0.001~0.05質量%がより好ましい。重合開始剤の添加量が多すぎると色相が悪化することがある。
【0023】
連鎖移動剤は、脂肪族メルカプタン、芳香族メルカプタン、ペンタフェニルエタン、α-メチルスチレンダイマー及びテルピノーレンなどがある。
【0024】
連鎖移動剤の添加量は、好ましくは単量体の合計100質量%に対して、0.001~0.5質量%が好ましく、0.005~0.2質量%がより好ましい。連鎖移動剤の添加量が0.001~0.5質量%であると、熱安定性が良好なものとなる。
【0025】
スチレン系樹脂の重合終了後の溶液から、未反応の単量体や溶液重合に用いた溶媒などの揮発成分を取り除く脱揮方法は、公知の手法が採用でき、例えば、予熱器付きの真空脱揮槽やベント付き脱揮押出機を用いることができる。脱揮工程におけるスチレン系樹脂の温度は200℃~300℃であることが好ましく、220℃~260℃であることがより好ましい。脱揮工程でのスチレン系樹脂の温度が高すぎると、色相が悪化する場合がある。脱揮された溶融状態のスチレン系樹脂は、造粒工程に移送され、多孔ダイよりストランド状に押出し、コールドカット方式や空中ホットカット方式、水中ホットカット方式にてペレット状に加工することができる。
【0026】
脱揮工程で除去された未反応の単量体及び溶液重合に用いた溶媒は回収し、精製して重合禁止剤などの不純物を除去した後に、回収原料としてフレッシュな原料と混合して使用することが好ましい。回収原料は、重合禁止剤を含有しないフレッシュな原料と混合して使用することで、重合工程に供給する原料中の重合禁止剤の含有量を低減することが可能となる。重合工程に供給する原料中の重合禁止剤の含有量は、12ppm未満であることが好ましく、より好ましくは9ppm未満であり、さらに好ましくは6ppm未満であり、最も好ましくは4ppm未満である。重合工程に供給する原料中の重合禁止剤の含有量が12ppm未満であると、透過率と透明性が良好なものとなる。なお、重合禁止剤を全て取り除くことは難しく、0.01ppm以上含む場合が多い。ここでフレッシュな原料とは、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の製造工程に新たに供給される原料で、回収原料と区別するため、そのように称する。
【0027】
脱揮工程で除去された未反応の単量体及び溶液重合に用いた溶媒の回収及び精製方法は、公知の方法が採用でき、例えば、脱揮工程で除去された未反応の単量体及び溶媒のガスをコンデンサーで凝縮して液化し、フラッシュ蒸留塔で精製して高沸点成分を分離除去する方法がある。また、脱揮工程で除去された未反応の単量体及び溶媒のガスから、先に高沸点成分のみをコンデンサーやスプレー塔などを用いて凝縮させて分離し、残りのガスをコンデンサーにて全量凝縮する方法がある。重合禁止剤の4-tert-ブチルカテコールの沸点は285℃、6-tert-ブチル-2,4-キシレノールの沸点は249℃であり、高沸点成分として単量体及び溶媒から分離除去することができる(スチレンの沸点145℃、メチル(メタ)アクリレートの沸点101℃、エチルベンゼンの沸点136℃)。
【0028】
スチレン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、5万~45万が好ましく、7万~30万がより好ましく、7万~20万がさらに好ましい。重量平均分子量(Mw)が5万未満になると、導光板の強度が低下する場合がある。重量平均分子量(Mw)が20万を超えると、流動性が低下し、成形加工性が悪化することがある。重量平均分子量(Mw)は、重合工程の反応温度、滞留時間、重合開始剤の種類及び添加量、連鎖移動剤の種類及び添加量、重合時に使用する溶媒の種類及び量などによって制御することができる。
【0029】
重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定することができる。
GPC機種:昭和電工株式会社製Shodex GPC-101
カラム:ポリマーラボラトリーズ社製 PLgel 10μm MIXED-B
移動相:テトラヒドロフラン
試料濃度:0.2質量%
温度:オーブン40℃、注入口35℃、検出器35℃
検出器:示差屈折計
本発明の分子量は単分散ポリスチレンの溶出曲線より各溶出時間における分子量を算出し、ポリスチレン換算の分子量として算出したものである。
【0030】
スチレン系樹脂の残存単量体及び重合溶媒の合計量は、0.5質量%以下が好ましく、0.2質量%がより好ましい。残存単量体及び重合溶媒の合計量が0.5質量%を超えると、耐熱性が不十分となることがある。
【0031】
残存単量体及び重合溶媒は、スチレン系樹脂に残存する単量体と重合溶媒の量であり、スチレン、メチル(メタ)アクリレート、エチルベンゼンなどがある。残存単量体及び重合溶媒の量は脱揮工程の構成や脱揮工程の条件で調整することができる。
【0032】
残存単量体及び重合溶媒の量は、スチレン系樹脂0.2gを精秤し、内部標準物質としてp-ジエチルベンゼンを含むテトラヒドロフラン10mLに溶解し、キャピラリーガスクロマトグラフを用いて以下の条件で測定した。
キャピラリーガスクロマトグラフ:GC-4000(ジーエルサイエンス株式会社製)
カラム:ジーエルサイエンス株式会社製 InertCap WAX、内径 0.25mm、長さ 30m、膜厚 50μm
インジェクション温度:180℃
カラム温度:60℃~170℃
ディテクター温度:210℃
スプリット比:5/1
【0033】
スチレン系樹脂のスチレン系単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体の2量体又は3量体(以下オリゴマー)の合計量は、2質量%以下であることが好ましい。より好ましくは1質量%以下である。オリゴマーの合計量が1質量%を超えると、導光板としての耐熱性が不十分となることがある。
【0034】
オリゴマーの測定は、スチレン系樹脂200mgを2mLの1,2-ジクロロメタンに溶解し、メタノールを2mL添加して重合体を析出させ、静置させた後、上澄み液についてガスクロマトグラフを用いて以下の条件で測定した。
ガスクロマトグラフ:HP-5890(ヒューレットパッカード社製)
カラム:DB-1(ht) 0.25mm×30m 膜厚0.1μm
インジェクション温度:250℃
カラム温度:100-300℃
検出器温度:300℃
スプリット比:50/1
内部標準物質:n-エイコサン
キャリアーガス:窒素
【0035】
本発明のスチレン系樹脂組成物は、好ましくは、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)を含有する。スチレン系樹脂組成物に含まれるヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)は、基本骨格にフェノール性水酸基を持つ酸化防止剤である。ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、エチレンビス(オキシエチレン)ビス〔3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート〕、3,9-ビス[2-〔3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、4,6-ビス〔(ドデシルチオ)メチル〕-o-クレゾール、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、4,4'-チオビス(6-tert-ブチル-3-メチルフェノール)、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、ビス-[3,3-ビス-(4'-ヒドロキシ-3'-tert―ブチルフェニル)-ブタン酸]-グリコールエステル、2-tert-ブチル-6-(3-tert-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2-〔1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル〕-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニルアクリレートなどがある。ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、単独でもよいが2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)の含有量は、スチレン系樹脂(A)100質量部に対して0.001~0.3質量部であることが好ましく、0.03~0.09質量部がより好ましい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)の含有量をこの範囲に調整することで、色相に優れたスチレン系樹脂組成物が得られる。
【0037】
本発明のスチレン系樹脂組成物は、好ましくは、フェノール系水酸基を有するリン系酸化防止剤(C1)を含有する。スチレン系樹脂組成物に含まれるリン系酸化防止剤(C1)は、基本骨格にフェノール系水酸基を有する三価のリン化合物である。リン系酸化防止剤(C1)は、他のリン系酸化防止剤に比べて加水分解しやすいという特性があり、得られるスチレン系樹脂組成物の色相改善効果が高いものである。リン系酸化防止剤(C1)は、6-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-tert-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピンなどがある。
【0038】
リン系酸化防止剤(C1)の含有量は、スチレン系樹脂(A)100質量部に対して0.001~0.3質量部であることが好ましく、より好ましくは0.03~0.09質量部であり、さらに好ましくは0.05~0.08質量部である。リン系酸化防止剤(C1)の含有量をこの範囲に調整することで、色相に優れたスチレン系樹脂組成物が得られる。
【0039】
本発明のスチレン系樹脂組成物は、好ましくは、フェノール系水酸基を有するリン系酸化防止剤(C1)以外のリン系酸化防止剤(C2)を含有する。スチレン系樹脂組成物に含まれるリン系酸化防止剤(C2)は、基本骨格にフェノール系水酸基を有さない三価のリン化合物である。リン系酸化防止剤(C2)は、リン系酸化防止剤(C1)に比べて加水分解をしにくいが、スチレン系樹脂組成物の色相改善効果が長期にわたって持続するものである。すなわち、耐湿熱性に特に寄与しうる。リン系酸化防止剤(C2)は、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ〔5.5〕ウンデカン、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2'-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)2-エチルヘキシルホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)フォスファイト、ビス〔2,4-ビス(1,1-ジメチルエチル)-6-メチルフェニル〕エチルエステル亜リン酸、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト)、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、4,4'-ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチル-5-メチルフェニル)-4,4'-ビフェニレンジホスホナイトなどがあり、色相改善の効果が持続するという観点から、好ましくは、2,2'-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)2-エチルヘキシルホスファイトやトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)フォスファイトを用いると良い。リン系酸化防止剤(C2)は、単独でもよいが2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0040】
リン系酸化防止剤(C2)の含有量は、スチレン系樹脂(A)100質量部に対して0.001~0.3質量部であることが好ましく、より好ましくは0.03~0.09質量部であり、さらに好ましくは0.05~0.08質量部である。リン系酸化防止剤(C2)の含有量をこの範囲に調整することで、初期及び長期に色相が長期にわたって優れたスチレン系樹脂組成物が得られる。
【0041】
リン系酸化防止剤(C1)とリン系酸化防止剤(C2)の配合割合は、質量比で3:1~1:3の範囲が好ましく、より好ましくは2:1~1:2である。この範囲に調整することで、得られるスチレン系樹脂組成物の色相とその耐久性のバランスが良くなる。
【0042】
スチレン系樹脂組成物を製造する方法は、公知の方法が採用できる。スチレン系樹脂の重合工程、脱揮工程、造粒工程などの製造工程で、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)とリン系酸化防止剤(C1)及びリン系酸化防止剤(C2)を添加する方法があり、脱揮工程で未反応の単量体及び溶媒が除去された後に添加することが好ましい。真空脱揮槽を用いる場合、脱揮槽から抜き出したスチレン系樹脂に溶融状態のヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)、リン系酸化防止剤(C1)及びリン系酸化防止剤(C2)を添加し、スタティックミキサーで混合する方法や、ベント付き脱揮押出機を用いる場合には、ベントゾーン以降にヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)、リン系酸化防止剤(C1)及びリン系酸化防止剤(C2)を添加、混合することができる。押出機を用いて、造粒後のスチレン系樹脂(A)にヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)、リン系酸化防止剤(C)及びリン系酸化防止剤(C2)を溶融混練することもできる。
【0043】
スチレン系樹脂組成物は、透明性を損なわない範囲でミネラルオイルを添加してもよい。また、ステアリン酸、エチレンビスステアリルアミドなどの内部潤滑剤や、イオウ系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系安定剤、帯電防止剤、エチレンビスステアリルアミドなどの外部潤滑剤を添加しても良い。
【0044】
紫外線吸収剤は、紫外線による劣化や着色を抑制する機能を有するものであって、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾエート系、サリシレート系、シアノアクリレート系、マロン酸エステル系、ホルムアミジン系などの紫外線吸収剤がある。これらは、単独又は2種以上組み合わせて用いることができ、ヒンダードアミンなどの光安定剤を併用してもよい。
【0045】
スチレン系樹脂のビカット軟化点は95℃以上であることが好ましく、98℃以上であることがより好ましい。ビカット軟化点が95℃未満では耐熱性が不足し、使用環境によっては成形品が変形する可能性がある。(ビカット軟化温度は、JIS K 7206に準拠し、昇温速度50℃/hr、試験荷重50Nで試験を行った。)
【0046】
スチレン系樹脂組成物は、押出成形、射出成形、圧縮成形、ブロー成形などの公知の方法で板状の成形品を作製し、導光板などに加工して使用することができる。
【0047】
本発明のスチレン系樹脂組成物は熱安定性に優れることから、押出成形時のシート端材や射出成形時のスプールやランナーなどの製品化されない部分を回収及び粉砕して、バージン原料に混合して使用することができる。
【0048】
導光板は、板状成形品の一方の面に形成された反射パターンにより、板状成形品の端面から入射した光を板状成形品の面側に導き、発光させる機能を持つ部材である。反射パターンはスクリーン印刷法やレーザー加工法、インクジェット法などの方法により形成することができる。また、反射パターンが形成された面の反対面(発光面)にプリズムパターンなどを設けることが出来る。板状成形品の反射パターンやプリズムパターンは、板状成形品の成形時に形成することができ、射出成形では金型形状、押出成形ではロール転写などにより、形成することができる。
【0049】
スチレン系樹脂組成物の初期の光路長115mmで測定したYI値は、好ましくは2.5以下であり、より好ましくは2.0以下である。ここで、「初期の」とは、80℃、90%湿度の空気雰囲気下で500時間湿熱処理する前という意味である。測定は、光路長115mmでの波長350nm~800nmの分光透過率を測定し、C光源における視野2°でのYI値をJIS K7373に倣い算出した値である。光路長115mmで測定したYI値は2.5より高いと、光路長と共に色が変化するため、バックライトとして使用した場合、液晶表示装置の面において色むらを生じる可能性がある。また、光路長115mmで測定した波長350nm~800nmの分光透過率の平均値が87%以上であることが好ましく、より好ましくは88%以上であり、さらに好ましくは89%以上である。

【実施例
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0051】
<スチレン系樹脂A-1の製造例>
スチレン系樹脂は、ラジカル重合法にて、連続式の溶液重合で製造した。第1反応器として完全混合槽型撹拌槽を使用し、第2反応器として静的混合器付プラグフロー型反応器を使用し、直列に接続して重合工程を構成した。第1反応器の容量は30L、第2反応器の容量は12Lとした。スチレン系単量体として、工業的に使用されるスチレン(以下、フレッシュStyと称する)を準備したところ、4-tert-ブチルカテコール(以下、TBCと称する)の濃度は10.2ppmであった。(メタ)アクリル酸エステル系単量体として、工業的に使用されるメチル(メタ)アクリレート(以下、フレッシュMMAと称する)を準備したところ、6-tert-ブチル-2,4-キシレノール(以下、TBXと称する)の濃度は4.9ppmであった。重合溶媒として、工業的に使用されるエチルベンゼン(以下、フレッシュEBと称する)を準備した。また、後述する真空脱揮槽より分離した単量体及び重合溶媒などのガスはコンデンサーで凝縮し、フラッシュ蒸留塔で精製したものを回収原料として使用した。回収原料中のTBX及びTBCは検出下限以下の濃度であった。フレッシュSty、フレッシュMMA及び回収原料を用い、Sty:49質量%、MMA:41質量%、EB:10質量%の組成で原料溶液を作製し、重合工程に8.0kg/hの流量で連続的に供給した。原料溶液に占める回収原料の使用割合は33質量%であった。また、原料溶液に対して、重合開始剤としてt-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートを150ppm、連鎖移動剤としてn-ドデシルメルカプタンを500ppmの濃度となるよう、原料溶液の供給ラインに連続的に添加した。第1反応器の温度は135℃となるよう調整し、第2反応器では流れの方向に沿って温度勾配をつけ、中間部分で130℃、出口部分で145℃となるよう調整した。重合工程出口でのポリマー濃度は65%で、スチレンとメチル(メタ)アクリレートの転化率は72%であった。反応器から連続的に取り出されたポリマー溶液は、予熱器付き真空脱揮槽に供給され、未反応のスチレン及びメチル(メタ)アクリレート、エチルベンゼンなどを分離した。脱揮槽内のポリマー温度が240℃となるように予熱器の温度を調整し、脱揮槽内の圧力は1kPaとした。ギヤーポンプにより真空脱揮槽からポリマーを抜出し、ストランド状に押出して冷却水にて冷却後、切断してペレット状のスチレン系樹脂A-1を得た。A-1の組成は、Sty:50質量%、MMA:50質量%であった。また、A-1の重量平均分子量は14.5万で、残存単量体及び重合溶媒の合計量は0.07質量%、残存オリゴマーの合計量は0.35質量%であった。
【0052】
<スチレン系樹脂A-2の製造例>
原料組成をSty:77質量%、MMA:13質量%、EB:10質量%に変更し、n-ドデシルメルカプタンの添加を停止し、第1反応器の温度を140℃とし、第2反応器の中間部分の温度を140℃、出口部分の温度を160℃とした以外は、A-1と同様に実施した。原料溶液に占める回収原料の使用割合は33質量%であった。A-2の組成は、Sty:82質量%、MMA:18質量%であった。また、A-2の重量平均分子量は24万で、残存単量体及び重合溶媒の合計量は0.06質量%、残存オリゴマーの合計量は0.33質量%であった。
【0053】
<スチレン系樹脂A-3の製造例>
原料組成をSty:8質量%、MMA:79質量%、EB:13質量%に変更し、フィード流量を5.7kg/hとし、tert-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートの濃度を100ppm、n-ドデシルメルカプタンの濃度を3000ppmとし、第1反応器の温度を122℃とし、第2反応器の中間部分の温度を140℃、出口部分の温度を150℃とした以外は、A-1と同様に実施した。原料溶液に占める回収原料の使用割合は34質量%であった。A-3の組成は、Sty:10質量%、MMA:90質量%であった。また、A-3の重量平均分子量は8万で、残存単量体及び重合溶媒の合計量は0.06質量%、残存オリゴマーの合計量は0.34質量%であった。
【0054】
<実施例1~10・比較例1・参考例1~2>
製造例で得られたスチレン系樹脂A-1~A-3に、以下に示すヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)、リン系酸化防止剤(C1)及びリン系酸化防止剤(C2-1)、(C2-2)を表1に示す含有量にて混合し、LEADER社製シート押出機を用いて酸化防止剤を溶融混練しつつ、450mm×500mm×2mmのシート成形品を得た。シート押出機は、50mmφ単軸押出機とTダイ、鏡面ロール3本より構成され、単軸押出機のシリンダー温度225℃、スクリュー回転数120rpmでシート押出を行った。Tダイの幅は450mm、開度は3mmとした。
(B)オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート (BASFジャパン株式会社製 Irganox 1076)
(C1)6-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-tert-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン (住友化学株式会社製 Sumilizer GP)
(C2-1)2,2'-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)2-エチルヘキシルホスファイト (株式会社ADEKA製 アデカスタブ HP-10)
(C2-2)トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)フォスファイト (BASFジャパン株式会社製 Irgafos 168)
【0055】
(酸化誘導時間)
得られたシート成形品より30mm×30mm×2mm厚みの試験片を切り出し、東北電子産業社製のケミルミネッセンスアナライザーCLA-FS4を用いて、200℃、酸素流量100mL/分の条件にて発光量を測定し、測定時間と発光量の関係より、図1に示す方法で酸化誘導時間を求めた。押出直後のシート成形品の酸化誘導時間(t1)と、80℃、90%湿度の空気雰囲気下で500時間湿熱処理したシート成形品の酸化誘導時間(t2)の測定結果を表1に示す。なお、参考例1と参考例2は測定開始後、直ぐに発光量が増加し続け、酸化誘導時間を測定できなかった。
【0056】
(光路長115mmでの光学特性)
得られたシート成形品より115mm×85mm×2mm厚みの試験片を切り出し、端面を研磨し、端面に鏡面を有する板状成形品を作成した。研磨後の板状成形品について、日本分光株式会社製の紫外線可視分光光度計V-670を用いて、大きさ20×1.6mm、広がり角度0°の入射光において、光路長115mmでの波長350nm~800nmの分光透過率を測定し、C光源における視野2°でのYI値をJIS K7373に倣い算出した。表1に示す透過率とは波長380nm~780nmの平均透過率を示す。押出直後のシート成形品(初期)と80℃、90%湿度の空気雰囲気下で500時間湿熱処理したシート成形品、80℃の環境下で1000時間保管したシート成形品について測定した結果を表1に示す。
【0057】
(吸水性)
得られたシート成形品を切削し、200mm×300mmサイズの成形品を得た。この成形品を温度60℃、湿度90%の条件で500時間保管し、保管前後での質量及び長辺の寸法変化を測定し、吸水性の指標として、下記式により吸水率及び変形率を計算した。
(吸水率)=((保管後の質量)-(保管前の質量))÷(保管前の質量)×100(%)
(変形率)=((保管後の長辺長さ)-(保管前の長辺長さ))÷(保管前の長辺長さ)×100(%)
表1に評価結果を示した。吸水率が1.0以下の場合を良好であると判断し、変形率が0.30以下の場合を良好であると判断した。
【0058】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のスチレン系樹脂組成物及びその成形品は、耐湿熱性に優れることから、色相や透明性が劣化しにくく、テレビ、デスクトップ型パーソナルコンピューター、ノート型パーソナルコンピューター、携帯電話機、カーナビゲーション、室内照明などの導光板用途などに好適に用いることができる。
図1