IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ルノー エス.ア.エス.の特許一覧 ▶ 日産自動車株式会社の特許一覧

特許7519352ステアリングおよび差動ブレーキングシステムの制御を含む障害物回避のための方法およびシステム
<>
  • 特許-ステアリングおよび差動ブレーキングシステムの制御を含む障害物回避のための方法およびシステム 図1
  • 特許-ステアリングおよび差動ブレーキングシステムの制御を含む障害物回避のための方法およびシステム 図2
  • 特許-ステアリングおよび差動ブレーキングシステムの制御を含む障害物回避のための方法およびシステム 図3
  • 特許-ステアリングおよび差動ブレーキングシステムの制御を含む障害物回避のための方法およびシステム 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】ステアリングおよび差動ブレーキングシステムの制御を含む障害物回避のための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/095 20120101AFI20240711BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20240711BHJP
   B60W 10/20 20060101ALI20240711BHJP
   B60W 10/18 20120101ALI20240711BHJP
   B60W 30/09 20120101ALI20240711BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20240711BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20240711BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20240711BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20240711BHJP
【FI】
B60W30/095
B62D6/00 ZYW
B60W10/00 132
B60W10/18
B60W10/20
B60W30/09
B60T7/12 C
G08G1/16 C
B62D101:00
B62D113:00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021525277
(86)(22)【出願日】2019-10-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 EP2019079121
(87)【国際公開番号】W WO2020099098
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-09-26
(31)【優先権主張番号】1860461
(32)【優先日】2018-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ドー, アン ラム
【審査官】稲本 遥
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-122456(JP,A)
【文献】特開2017-117191(JP,A)
【文献】特開2017-065675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
B62D 6/00
B62D 101/00
B62D 113/00
B60T 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車両(2)の付近の障害物(1)が検出され、前記障害物を避けるための障害物回避経路がプランニングされ、
前記障害物回避経路を扱うように構成されたステアリング(DAE)および差動ブレーキングシステムが命令され、
前記ステアリング(DAE)および差動ブレーキングシステムが命令されると、ステアリングトルク(TAES)が大きさおよび勾配において制限される制御性制約が規定され、前記自動車両のドリフト角およびヨーレート(r)が制限される安定性制約を規定する、障害物回避方法(30)。
【請求項2】
前記制御性制約が重視されるかどうかを決定するためにチェックが実行され、前記制御性制約が重視される場合には、車輪の前記ステアリングだけが命令される、請求項1に記載の方法(30)。
【請求項3】
前記制御性制約が重視されない場合には、前記差動ブレーキングシステムが命令される、請求項2に記載の方法(30)。
【請求項4】
下記の仮説、すなわち、
前記ステアリングトルクが大きさおよび勾配において制御性限界を超えない、
前記障害物回避経路が予め決められる、
前記差動ブレーキングシステムの振る舞いがヨーモーメントによってモデル化される、
道路の曲率がゼロである、
が仮定される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
車輪ステアリング設定値(δref)を自動車両(2)の車輪ステアリングコンピュータ(20)へ発行し、且つ、ヨーモーメント設定値(MDB_Ref)を前記自動車両のブレーキングコンピュータ(22)へ発行するように構成された、ステアリング(DAE)および差動ブレーキングシステムを制御するためのモジュール(14)であって、
ステアリングトルク(TAES)が大きさおよび勾配において制限される制御性制約を規定し、且つ前記自動車両のドリフト角およびヨーレート(r)が制限される安定性制約を規定するように構成されているモジュール(14)。
【請求項6】
参照回避経路を追従するように構成され、前記安定性制約に応じる、ステアリングシステムのための閉ループコントローラ(24)を備える、請求項5に記載のモジュール(14)。
【請求項7】
経路追従誤差への経路のずれの効果を補償するように構成されたフィードフォワードコントローラ(26)をさらに備える、請求項5または6に記載のモジュール(14)。
【請求項8】
とりわけトルク飽和の場合のステアリングループの性能および車両の安定性を向上させるように構成された前記差動ブレーキングシステムのための閉ループコントローラ(26)を備える、請求項5から7のいずれか一項に記載のモジュール(14)。
【請求項9】
自動車両(2)の付近の障害物(1)を検出し、前記障害物を避けるための障害物回避経路をプランニングする障害物検出モジュール(12)と、請求項5から8のいずれか一項に記載のステアリング(DAE)および差動ブレーキングシステムを制御するための制御モジュール(14)とを備える、障害物回避システム(10)。
【請求項10】
自動車両の、その走行車線に対する位置を決めるためのシステムであって、確認距離における車線区分線に対する横方向オフセット(yL)および前記自動車両の相対的な進行方向角度(ΨL)を決定することができるシステムと、前記自動車両の経路内の障害物を検出し、前記自動車両に対する前記障害物の前後方向距離および重なりを決定するように構成された障害物検出システムと、ジャイロメータと、自動パワーステアリング(DAE)と、請求項5から8のいずれか一項に記載のステアリング(DAE)および差動ブレーキングシステムを制御する制御モジュール(14)と、ステアリングを実行するために前記制御モジュール(14)からのステアリング角度設定値を前記自動パワーステアリング(DAE)のためのトルク限度へと変換するように構成されたコンピュータ(20)と、差動ブレーキングを実行するために前記制御モジュール(14)からのヨーモーメント設定値を車輪におけるトルクへと変換するように構成されたコンピュータ(22)と、ハンドルの回転の角度および速度を測定するセンサとを備える、自動車両(2)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車両の分野に関し、とりわけ、衝突を防止するための運転者援助システムに関する。
【0002】
例えば、別の車両、歩行者または自転車運転者との衝突によって生じ、緊急事態が続く事故は、道路交通事故のかなりの割合を示す。
【0003】
従来のブレーキングシステムを使用することによって、自動車両と前記車両の走行車線内の障害物との間の衝突を避けるために、運転援助システム、例えば、AEBという略称により知られている自動緊急ブレーキングシステムを使用することが、知られている慣例である。しかしながら、特に自動車両が高速で走行しているときに、このような緊急ブレーキングシステムによっては効果的に処理できない多くの状況がある。具体的には、自動車両が高速で走っており、前記車両の後ろに別の車両がいるときに衝突を避けることまたはブレーキをかけることは不可能である。このような状況では、横方向への回避経路を有効にするために車両の車輪を操舵することが好ましい。
【0004】
AESと省略される、自動逃避ステアリングとして知られる運転援助システムが、知られており、障害物との衝突を避けるために限られた期間の間ステアリング/差動ブレーキングシステムを作動させることによって衝突を避けることを可能にさせる。障害物は、自動車両と同じ走行車線内にあっても隣接する車線内にあってもよい。
【0005】
安全で信頼性のあるAESシステムを設計する際の目的の1つは、事前に設定された回避経路を機能させることができる高性能の最適かつ強固なコントローラを考案することである。極端なケースでは、このことは、最高で160km/hとなり得る前後方向速度での自動車線変更を含む。
【0006】
自動車両の安定性および制御性限界は、作動するAESコントローラの能力に大きな影響を有する。具体的に、電動パワーステアリングのAESコントローラによって要求されるトルクは、運転者がハンドルの手動制御に常に戻すことを可能にするために、大きさおよび勾配を制限することを必要とする。加えて、車両運動性、とりわけ、ドリフト角、ヨーレートなどは、運転者を危険にさらすことがある、タイヤと地面との間のグリップの喪失を避けるために制限される必要がある。
【0007】
自動車両の制御性および安定性に関するこれらの限界を乗り越えるために、ステアリングシステムを差動ブレーキングシステムと組み合わせることが、知られている慣例である。具体的に、ステアリングシステムは、中間的な速度で特に有効である、ところが差動ブレーキングシステムは、高速における車両取り扱い運動性を改善する。加えて、2つの駆動装置の組み合わせは、優れた車両安定性を確実にし、例えば、急な曲がり角での回避操作中のスリップを減少させることを可能にする。
【背景技術】
【0008】
例えば、WO2007 73 772-A1という文書を参照でき、この文書は、車両オーバーステアのリスクを避けるために、ステアリングシステムおよび差動ブレーキングシステムの両者を制御するように構成されたシステムを記載している。しかしながら、この文書は、車両の何らかの動的なモデルを提案していない。
【0009】
FR 2 695 613-A1という文書もまた参照でき、この文書は、車両の1つまたは複数の車輪にブレーキングトルクを与えることによって、道路車両タイプの自動車両のヨーイング運動の始まりを自動的に補正するための方法を記載している。この文書は、障害物回避方法を提案していない。
【0010】
EP 1 790 542-A1およびKR 10 085 11 20という文書もまた知られており、これらの文書は、車輪の差動ブレーキングのためのシステムにのみ基づく車線逸脱回避方法に関する。しかしながら、これらの文書は、障害物回避経路に追従する問題どころか車両の制御性のおよび安定性の問題も扱っていない。
【0011】
これゆえ、車両トルクに関係する制御性限界および自動車両の安定性を考慮した回避経路を機能させるために、自動障害物回避の状況において、2つの、ステアリングおよび差動ブレーキング、システムの同時の制御を最適化する必要性がある。
【発明の概要】
【0012】
これゆえ、本発明の目的は、信頼性があり単純な障害物回避システムおよび方法を提案することである。
【0013】
本発明の1つの主題は、障害物回避方法であり、
- 自動車両の付近の障害物が検出され、前記障害物を避けるための障害物回避経路がプランニングされ、
- 上記回避経路を扱うように構成されたステアリングおよび/または差動ブレーキングシステムが命令される。
【0014】
有利には、前記ステアリングおよび/または差動ブレーキングシステムが命令されると、ステアリングトルクが大きさおよび勾配において制限される制御性制約が規定され、車両のスリップおよびヨーレートが制限される安定性制約を規定する。
【0015】
例えば、上記制御性制約が重視されるかどうかを決定するためにチェックが実行され、前記制約が重視される場合には、上記車輪の上記ステアリングだけが命令される。
【0016】
具体的に、そのケースでは、一旦要求されたステアリングトルクが制御性障壁によって制限されると、車輪を操舵することが回避操作を実行するために十分である。この事例では、差動ブレーキングからの寄与はゼロである。
【0017】
他方で、前記制約が重視されない場合には、上記差動ブレーキングシステムが命令される。
【0018】
例えば、横方向回避オフセットと前後方向回避距離との間の比率が大き過ぎるときである。
【0019】
差動ブレーキングは、このケースではステアリングで支援され、回避経路を正しく追従するために実施される必要がある。差動ブレーキングの寄与なしには、実現される経路は、正しくないはずであり、自動車両を危険にさらすだろう。
【0020】
パラメータαDBは、ステアリングおよび差動ブレーキングシステムを管理するために制御されるべき唯一のパラメータである。
【0021】
例えば、下記の仮説、すなわち、
- 上記ステアリングトルクが大きさおよび勾配において制御性限界を超えない、
- 上記回避経路が予め決められる、
- 上記差動ブレーキングの振る舞いがヨーモーメントによってモデル化される、
- 経路の曲率がゼロである、
を仮定することが可能である。
【0022】
本発明の第2の態様は、車輪ステアリング設定値を自動車両の車輪ステアリングコンピュータへ、およびヨーモーメント設定値を前記自動車両のブレーキングコンピュータへ発行するように構成された、ステアリングおよび/または差動ブレーキングシステムを制御するためのモジュールに関する。
【0023】
有利には、上記モジュールは、参照回避経路を追従するように構成され、車両安定性制約に応じる上記ステアリングシステムのための閉ループコントローラを備える。
【0024】
例えば、上記モジュールは、経路追従誤差についての経路のずれの効果を補償するように構成されたフィードフォワードコントローラをさらに備える。
【0025】
上記モジュールは、とりわけトルク飽和の場合のステアリングループの性能および車両の安定性を向上させるように構成された上記差動ブレーキングシステムのための閉ループコントローラもまた備える。
【0026】
本発明の第3の態様は、障害物回避システムに関し、自動車両の付近の障害物を検出し、前記障害物を避けるための障害物回避経路をプランニングする障害物検出モジュールと、本明細書において上に記載したようなステアリングおよび/または差動ブレーキングシステムを制御するための制御モジュールとを備える。
【0027】
本発明のもう1つの態様は、自動車両に関し、自動車両の、その走行車線に対する位置を決めるためのシステムであって、前記車両の確認距離における車線区分線に対する横方向オフセットおよびの相対的な進行方向角度を決定することができるシステム、例えば前方搭載型カメラなどと、上記車両の経路内の障害物を検出し、上記車両に対する上記障害物の前後方向距離および重なりを決定するように構成された障害物検出システム、例えば前方搭載型レーダと、ジャイロメータと、自動パワーステアリングと、本明細書において上に記載されたようなステアリングおよび/または差動ブレーキングシステム制御する制御モジュールと、ステアリングを機能させるために前記制御モジュールからのステアリング角度設定値を上記パワーステアリングのためのトルク限度へと変換するように構成されたコンピュータと、差動ブレーキングを機能させるために前記制御モジュールからのヨーモーメント設定値を車輪におけるトルクへと変換するように構成されたコンピュータと、ハンドルの回転の角度および速度を測定するセンサとを備える。
【0028】
本発明のさらなる目的、特徴および長所は、単に非限定的な例として与えられた下記の説明を読むことからおよび添付した図面を参照して明確になるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明による、ステアリング(DAE)および/または差動ブレーキングシステムを制御し、回避経路を管理するように構成された制御モジュールを備える障害物回避システムによる障害物回避操作の模式図である。
図2図1の障害物回避システムの模式図である。
図3図1のシステムにより実装される障害物回避方法の流れ図である。
図4】回避経路を管理するように構成されたステアリング(DAE)および/または差動ブレーキングシステムに命令するステップの詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、障害物回避システム10による障害物回避操作を非常に模式的に描いている。
【0031】
障害物回避システム10は、自動車両2の付近の障害物1を検出し、前記障害物を避けるための障害物回避経路をプランニングする障害物検出モジュール12と、回避経路を管理するように構成されたステアリング(DAE)および/または差動ブレーキングシステムを制御する制御モジュール14と、自動車両が前記障害物1から所定の距離であると直ちにステアリング(DAE)および/または差動ブレーキングシステムの動作を停止するためのモジュール16とを備える。
【0032】
自動車両2は、走行車線に対する自動車両の位置を決めるため、確認距離における車線区分線に対する横方向オフセットyLおよび前記車両の相対的な進行方向の角度ΨLを決定することができるシステム、例えば、前方搭載型カメラなど、を備える。自動車両2は、車両の経路内の障害物を検出するため、前記車両に対する障害物の前後方向距離および重なりを決定するように構成された障害物検出システム、例えば、前方搭載型レーダ、もまた設けられる。
【0033】
図2に図示されたように、自動車両2はまた、ジャイロメータ(図示せず)と、ステアリング(DAE)および/または差動ブレーキングシステム制御モジュール14によって生成されるトルク設定値を機能させることができる自動パワーステアリングDAEと、ステアリングを機能させるために、ステアリング角度設定値をパワーステアリングDAEのためのトルク限度へと変換するように構成されたコンピュータ20と、ステアリング(DAE)および/または差動ブレーキングシステム制御モジュール14によって生成されたトルク設定値を機能させることができるブレーキユニットBREAK UNITと、差動ブレーキングを機能させるためにヨーモーメント設定値を車輪におけるトルクへと変換するように構成されたコンピュータ22と、ハンドルの回転の角度および速度を測定するためのセンサとを備える。
【0034】
ステアリング(DAE)および/または差動ブレーキングシステム制御モジュール14は、車輪ステアリング設定値δrefを車輪ステアリングコンピュータ20へ、およびヨーモーメント設定値MDB_Refをコンピュータ22へ発行するように構成される。
【0035】
ステアリング(DAE)および/または差動ブレーキングシステム制御モジュール14は、ステアリングシステム用であり、参照回避経路を追従するように構成され、車両安定性制約に応じる閉ループコントローラ24を備える。
【0036】
ステアリング(DAE)および/または差動ブレーキングシステム制御モジュール14は、経路追従誤差について経路のずれの効果を補償するように構成されたフィードフォワードコントローラ26をさらに備える。
【0037】
最後に、ステアリング(DAE)および/または差動ブレーキングシステム制御モジュール14は、差動ブレーキングシステム用であり、とりわけトルク飽和の場合のステアリングループの性能および車両の安定性を向上させるように構成された閉ループコントローラ28を備える。
【0038】
図3に図示したように、障害物回避方法30は、自動車両2の付近の障害物1を検出し、前記障害物を避けるための障害物回避経路をプランニングするステップ32と、回避経路を管理するように構成されたステアリング(DAE)および/または差動ブレーキングシステムに命令するステップ34と、自動車両が前記障害物1から所定の距離であると直ちにステアリング(DAE)および/または差動ブレーキングシステムの動作を停止するステップ36とを含む。
【0039】
図4は、回避経路を管理するように構成されたステアリング(DAE)および/または差動ブレーキングシステムに命令するステップ34を詳細に図示する。
【0040】
ステアリングシステムおよび差動ブレーキングシステムによって制御される自動車両の運動性をモデル化するために、下記の仮定がステップ40で行われる。
【0041】
ステアリングトルクが大きさおよび勾配において制御性限界を超えないときには、パワーステアリングの振る舞いは、下記の式によりモデル化される。
ここでは、
[数式1]
ここでは、
δは前輪と車両の前後方向軸との間の角度であり、radで表され、
δrefは前輪に関する設定値角度であり、radで表され、
ξおよびωは前輪の実際の角度の特性を表している2つの定数である。
【0042】
行われたもう1つの仮定は、回避経路が予め決められること、差動ブレーキングの振る舞いがヨーイングモーメントによりモデル化されることである。具体的に、このヨーイングモーメントは、車両に搭載され、ヨーモーメント設定値を各々の車輪に加えられるブレーキングトルクへと変換するコンピュータによって制御されるブレーキングユニットよって生み出される。
【0043】
行われた最後の仮定は、曲率がゼロであると想定されることである。曲率がゼロでない場合には、例えばフィードフォワード型のコントローラ
は、経路を追従することでの曲率の効果を削除するために容易に計算することができる。
【0044】
差動ブレーキングによるヨーイングモーメントが推定できない場合には、下記の式が考えられる。
[数式2]
ここでは、
βはドリフト角であり、radで表され、
rはヨーレートであり、rad/sで表され、
は車両の軸と車両の前進経路に対する接線との間の横方向オフセットであり、mで表され、
Ψは車両の軸と参照経路に対する接線との間の相対的な進行方向角度であり、rad/sで表され、
δは前輪と車両の前後方向軸との間の角度であり、radで表され、
は前輪のコーナリング剛性であり、N/radで表され、
は前輪のコーナリング剛性であり、N/radで表され、
Vは前後方向軸に沿った車両の速度であり、m/sで表され、
DB_refはヨーモーメント設定値であり、N.mで表され、
αDBはヨー角度であり、radで表される。
【0045】
差動ブレーキングを介したヨーモーメントを推定できる場合には、下記の式が考えられる。
[数式3]
ここでは、
はヨーモーメントであり、N.mで表される。
【0046】
差動ブレーキングシステムの運動性を、下記の式にしたがって書くことができる。
[数式4]
ここでは、
DB_refはヨーモーメント設定値であり、N.mで表され、
はヨーモーメントであり、N.mで表される。
【0047】
このように、ヨーモーメント(回転)およびその運動性が、差動ブレーキングシステムの制御へと導入される。加えて、パラメータαDB∈[0,1]の導入は、ステアリングおよび差動ブレーキングの作動が同時に扱われることを可能にする。αDB=0であるときには、差動ブレーキングは必要とされず、操舵だけが、回避経路を追従するために十分である。αDB=1であるときには、差動ブレーキングの全能力は、動的な回避操作を実現する際の操舵を支援する際に有益なものであろう。しかしながら、差動ブレーキングの100%の使用は、常には必要でなく、αが0と1との間を含む値を採用することがこれらの事例である。
【0048】
ステアリング(DAE)および/または差動ブレーキングシステムに命令するステップ34は、トルクTAESが大きさおよび勾配において制限される期間の制御性制約を規定するステップ42と、車両のスリップおよびヨーレートrが制限される期間の安定性制約を規定するステップ44とをさらに含む。
【0049】
数式3の式を、下記のように書き直すことができる。
[数式5]
ここでは、
[数式6]
【0050】
数式4の式を、可変線形パラメータの系列の形式に書くことができ、下記の通りである。
[数式7]
ここでは、
[数式8]
【0051】
ステアリング(DAE)および/または差動ブレーキングシステムに命令するステップ34は、制御性制約が重視されるか、重視されないか、または現在では重視されないかどうかを検証するステップ45と、制御性制約が重視される事例のステアリングシステムに命令するステップ46とをさらに含む。一旦、要求されるステアリングトルクが制御性障壁により制限されると、車輪のステアリングだけが、回避操作を有効にするために十分である。差動ブレーキングの寄与は、この事例ではゼロである。
【0052】
このケースでは、下記のモデルが、制御則をまとめるために考えられる。
[数式9]
ここでは、
αDB=0.
【0053】
数式9の式を、下記の式にしたがって書くことができる。
[数式10]
ここでは、
[数式11]
[数式12]
[数式13]
[数式14]
[数式15]
[数式16]
【0054】
利得
を下記の式を使用して計算することができる。
[数式17]
【0055】
数式10の式に
を代入することは、閉ループ系をもたらす。
[数式18]
【0056】
フィードフォワード
が、定常状態において誤差eyLをゼロに減少させる(定常状態において経路を正しく追従すること)ために計算される。
[数式19]
【0057】
数式19の式を解くことは下記を与える。
[数式20]
【0058】
ステアリング(DAE)および/または差動ブレーキングシステムに命令するステップ34は、制御性制約が重視されないまたは現在では重視されない事例において差動ブレーキングシステムに命令するステップ48をさらに含む。例えば、横方向回避オフセットと前後方向回避距離との比率が大き過ぎるときである。
【0059】
差動ブレーキングは、このケースでは、ステアリングを支援することおよび回避経路を正しく追従することに貢献する必要がある。差動ブレーキングの貢献なしでは、追従された経路は、正しくないはずであり、自動車両を危険にさらすことがある。
【0060】
パラメータαDBは、ステアリングおよび差動ブレーキングシステムを管理するために制御されるべき唯一のパラメータである。
【0061】
パラメータαDBは、下記の式を使用して計算される。
[数式21]
は次のように計算される。
[数式22]
ここでは、d≧0、d≧0は、(開発フェーズ中に選択されるべき)重み付けパラメータである。例えば、d≧dである場合に、勾配飽和は、差動ブレーキング要求における大きさ飽和よりも大きな荷重を持ち、逆もまた同様である。
【0062】
最後に、関数
は、シグモイド型の活性化関数であるように選択される。
[数式23]
>0およびΔ≧0は、所望の車両振る舞いを実現するために車上開発中に選択されるべき2つのパラメータである。(a=4、Δ=2)を用いると、差動ブレーキングは、(a=4、Δ=1)を用いるよりも(制御性制約によるステアリングの飽和で)反応が遅い。
【0063】
[数式24]
フィードフォワード利得
が定常状態での経路追従誤差への
の影響を除去することができるという事実とともに仮説を立てると、[数式7]を次のように書くことができる。
[数式7a]
【0064】
最後の目的は、下記の静止状態回帰制御則を見出すことである。
[数式25]
DB_ref=K
【0065】
これを行うために、下記の一般的な系を考える。
[数式26]
ここでは、
は状態ベクトルであり、
は制御入力であり、
およびBは適切な次元の行列であり、
θは
θポリトープで終わる、知られており結び付けられた外因性パラメータのベクトルである。
[数式27]
Xθ={θi_min≦θ≦θi_max、i=1:Nθ
【0066】
形式の静止状態回帰に基づいてコントローラを考える。
[数式28]
=K
【0067】
いくつかの状態が、結び付けられる必要がある。その条件は、下記の式により表される。
[数式29]
ここでは、
は結び付けられた状態の数であり、h0jは正の知られた定数であり、H0jは関係する状態を選択するベクトルである。
【0068】
この基準は、緊急(動的)操作中の車両の安定性を確実にするために使用される。安定性制約は、下記の不等式を適用することによって保証される。
[数式30]
|[0 1 0 0 0 0 0]x|≦rmax
[数式31]
|[1 0 0 0 0 0 0]x|≦βmax
【0069】
閉ループ系の極は、半径γ、仮想軸に対する最小距離μ、開口部の角度φによって規定されるゾーン内で結び付けられる必要がある。この基準は、妥当であり、駆動装置によって実現可能な制御設定値を得るために使用される。
【0070】
結び付けられた状態に関する基準に応じるために、下記の条件を満足する必要がある。
[数式32]
【0071】
閉ループの極に関する基準に応じるために、下記のLMI条件を満足する必要がある。
[数式33]
[数式34]
[数式35]
ここでは
【0072】
上記の式では、AはXθポリトープのk番目の端部において計算されたA(θ)行列である。
【0073】
一旦、式31から式35が解かれると、これは、ステアリングおよび差動ブレーキングシステムに関する制御則に適用されるべき静止状態回帰ベクトルKの値を与える。
【0074】
本発明のおかげで、コントローラに関する利得Kの自動計算は、ステアリングおよびブレーキングシステム制御方法に関する設計時間を削減することを可能にする。2ステップのステアリングおよびブレーキングシステム制御方法は、トレーサビリティを可能にし、これゆえ開発を容易にする。具体的に、ステアリングに命令するステップは、公称のケースでは必要性を満足する。差動ブレーキングに命令するステップは、次いで特別なケース(トルクの飽和、等)について実行される。
【0075】
加えて、制御性および安定性制約を同時に重視しながらのステアリングおよび差動ブレーキングシステムの管理は、簡単であり、たった1つのパラメータαDBの使用をともなう。
【0076】
本出願の全体を通して、曲率は、道路の曲率に明らかに対応し、本発明を、曲率がどうであろうとも、および曲率がゼロでないときに適用することが可能であり、例えば、フィードフォワード型のコントローラ
は、経路を追従することにおいて曲率の効果を除去することを可能にする。
図1
図2
図3
図4