(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】グリース組成物および転がり軸受
(51)【国際特許分類】
C10M 169/02 20060101AFI20240711BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20240711BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20240711BHJP
C10M 105/32 20060101ALN20240711BHJP
C10M 115/08 20060101ALN20240711BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20240711BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20240711BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20240711BHJP
【FI】
C10M169/02
F16C19/06
F16C33/66 Z
C10M105/32
C10M115/08
C10N30:00 Z
C10N40:02
C10N50:10
(21)【出願番号】P 2021548906
(86)(22)【出願日】2020-09-23
(86)【国際出願番号】 JP2020035669
(87)【国際公開番号】W WO2021060232
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2019172914
(32)【優先日】2019-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宅 一徳
(72)【発明者】
【氏名】坂本 清美
(72)【発明者】
【氏名】菖蒲 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 剛
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-029473(JP,A)
【文献】特開2013-035946(JP,A)
【文献】特開2007-078120(JP,A)
【文献】特開2004-301167(JP,A)
【文献】特開2000-351983(JP,A)
【文献】国際公開第2013/125510(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/182242(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N
F16C 17/00-17/26
F16C 33/00-33/28
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリース組成物全量に対して78~88質量%のエステル基油と、
グリース組成物全量に対して10~17質量%の増ちょう剤と
を含み、
前記増ちょう剤は、下記式(1)
R
1-NHCONH-C
6H
4-CH
2-C
6H
4-NHCONH-R
2・・・(1)
(式中、R
1とR
2とはそれぞれ独立して、(A)
シクロヘキシル基、(B)
オクチル基、及び、(C)
オクタデシル基、のいずれかであり、R
1及びR
2の総和に対して、
前記シクロヘキシル基が
10~
30mol%、
前記オクチル基が50~70mol%、
前記オクタデシル基が
10~40mol%となるように構成されている)で表されるジウレアからなる、グリース組成物。
【請求項2】
グリース組成物全量に対して1~10質量%の添加剤を更に含む、請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のグリース組成物が封入された、転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物および当該グリース組成物が封入された転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、三相モータでは、メンテナンスフリー及び省エネ規制対応のための高効率化の要求が高まっており、モータに使用される転がり軸受には低トルク性能と長寿命性能の両立が求められている。
モータ用軸受に使用されるグリース組成物として、例えば、特許文献1では、パーフルオロポリエーテル油からなる基油と、ポリテトラフルオロエチレンからなる増ちょう剤と、無機系微粒子としてのシリカとを含有するグリース組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のモータ用軸受に使用されるグリース組成物は、転がり軸受に封入した際の低トルク性能が充分でなく、低トルク化を図る点で改善の余地があった。
グリースが封入された転がり軸受の低トルク化を達成するためには、アミン成分として短鎖長の脂肪族アミンを用いたジウレアを増ちょう剤として含むグリースを用いることが有効とされている。しかしながら、このようなジウレアを含むグリースは、比較的大型の転がり軸受に使用した場合、グリースにかかるせん断や遠心力が大きいため、グリース(特に基油)が転がり軸受の外部に漏れる油分漏れが生じ、軸受寿命の低下が引き起こされることがある。
そのため、低トルク性能と耐グリース漏れ性とを両立することができるグリース組成物、及び、当該グリース組成物が封入された転がり軸受が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の要求に応えるべく鋭意検討を行い、所定の構造を有する複数種類のジウレアの混合物を増ちょう剤として含むグリース組成物であれば、低トルク性能と耐グリース漏れ性とを両立することができることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
本発明のグリース組成物は、グリース組成物全量に対して78~88質量%のエステル基油と、グリース組成物全量に対して10~17質量%の増ちょう剤とを含み、
上記増ちょう剤は、下記式(1)
R1-NHCONH-C6H4-CH2-C6H4-NHCONH-R2・・・(1)
(式中、R1とR2とはそれぞれ独立して、(A)R3-C6H10-(R3は、水素、2-メチル基、3-メチル基、又は、4-メチル基である)で表される脂環基A、(B)n-CmH2m+1(mは、6~10の整数)で表されるアルキル基B、及び、(C)n-CmH2m+1(mは、16~20の整数)で表されるアルキル基C、のいずれかであり、R1及びR2の総和に対して、脂環基Aが5~35mol%、脂環基Aとアルキル基Bの合計が55~95mol%、アルキル基Cが残余となるように構成されている)で表されるジウレアからなる。
【0007】
本発明のグリース組成物は、基油としてのエステル油と増ちょう剤とを含有し、かつ上記増ちょう剤が、上記式(1)で表されるジウレアからなる。ここで、ジウレアは、所定の化学構造を有する複数種類のジウレアで構成されている。
具体的には、上記増ちょう剤は、下記(U1)~(U6)のジウレアが所定の割合で混在するものである。
(U1)両末端がともに上記脂環基Aのジウレア
(U2)両末端の一方が上記脂環基Aで、他方が上記アルキル基Bのジウレア
(U3)両末端の一方が上記脂環基Aで、他方が上記アルキル基Cのジウレア
(U4)両末端がともに上記アルキル基Bのジウレア
(U5)両末端の一方が上記アルキル基Bで、他方が上記アルキル基Cのジウレア
(U6)両末端がともに上記アルキル基Cであるジウレア
【0008】
本発明のグリース組成物は、増ちょう剤が上述したジウレアで構成されているため、転がり軸受用グリースとして用いた際に、低トルク性能と耐グリース漏れ性とを両立することができる。
この理由については、以下のように推測している。
上記グリース組成物は、末端官能基(R1、R2)の一方又は両方が、比較的鎖長の短いアルキル基B(炭素数6~10)であるジウレアを増ちょう剤の一部として含有しており、このようなジウレアを含有することで低トルク性能が確保できている。
一方、増ちょう剤を構成するジウレアとして、末端官能基(R1、R2)の両方がアルキル基Bであるジウレア(上記U4)のみを含有すると、低トルク性能は良好となるものの、ジウレアの構造が揃っているため、増ちょう剤の繊維構造が長繊維化してしまう。増ちょう剤の繊維構造が長繊維化すると、増ちょう剤と基油との接触面積が減少し、その結果、増ちょう剤による基油の保持力が低下してしまう。そうすると、転がり軸受に封入したグリース(基油)が転がり軸受の外部に漏れやすくなってしまう。
これに対して、本発明のグリース組成物のように、増ちょう剤として、末端官能基(R1、R2)の構造が異なる複数種類のジウレアが混在した増ちょう剤を採用すると、増ちょう剤の繊維が成長せず、増ちょう剤中に短い繊維の占める割合が大きくなる。特に、本発明の構成の増ちょう剤を採用した場合には、増ちょう剤の構造を微細化することができる。そして、増ちょう剤の構造が微細になると、増ちょう剤と基油との接触面積が増加して増ちょう剤による基油の保持力が向上し、転がり軸受に封入されたグリースが転がり軸受の外部に漏れにくくなる。
このような理由により、本発明のグリース組成物によれば、低トルク性能と耐グリース漏れ性とを両立することができると推測している。
【0009】
上記グリース組成物は、グリース組成物全量に対して1~10質量%の添加剤を更に含むことが好ましい。この場合、低トルク性能と耐グリース漏れ性とを確保しつつ、更に性能の向上を図ることができる。
本発明の転がり軸受は、本発明のグリース組成物が封入された、転がり軸受である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のグリース組成物は、転がり軸受に封入した際に、低トルク性能と耐グリース漏れ性との両立を図ることができる。
本発明の転がり軸受は、封入されたグリース組成物が漏れにくいため長期間に亘って潤滑が確保され、かつ低トルク化が達成された転がり軸受である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る玉軸受を示す断面図である。
【
図2】実施例及び比較例で調製したグリースの軸受回転トルクに関する評価結果を示す図である。
【
図3】実施例及び比較例で調製したグリースの油分漏れ量を評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
本実施形態に係る転がり軸受は、本発明の実施形態に係るグリース組成物からなるグリースが封入された玉軸受である。
図1は、本発明の一実施形態に係る玉軸受を示す断面図である。
玉軸受1は、内輪2と、この内輪2の径方向外側に設けられている外輪3と、これら内輪2と外輪3との間に設けられている複数の転動体としての玉4と、これらの玉4を保持している環状の保持器5とを備えている。また、この玉軸受1の軸方向一方側及び他方側のそれぞれに、環状のシールド板6が設けられている。
さらに、内輪2と外輪3と2つのシールド板6とで囲まれる環状の領域7は、本発明の実施形態に係るグリース組成物からなるグリースGが封入されている。
【0013】
内輪2は、その外周に玉4が転動する内軌道面21が形成されている。
外輪3は、その内周に玉4が転動する外軌道面31が形成されている。
玉4は、内軌道面21と外軌道面31との間に複数介在し、これら内軌道面21及び外軌道面31を転動する。
領域7に封入されたグリースGは、玉4と内輪2の内軌道面21との接触箇所、及び、玉4と外輪3の外軌道面31との接触箇所にも介在する。なお、グリースGは、内輪2と外輪3と2つのシールド板6とで囲まれた空間から玉4と保持器5とを除いた空間の容積に対して、20~40体積%を占めるように封入されている。
シールド板6は、リチウムシリケートで被覆された亜鉛めっき鋼板製の環状の部材であり、その外周部(径方向外側の部分)が、外輪3の内周面に嵌合することで外輪3に取り付けられている。また、シールド板6の内周部(径方向内側の部分)は、内輪2の外周面とわずかな隙間を有して対向しており、この内周部によってラビリンスシールが構成されている。シールド板6は、封入されたグリースGが外部へ漏れるのを防止している。
【0014】
このように構成された玉軸受1は、グリースGとして、後述する本発明の実施形態に係るグリース組成物からなるグリースが封入されている。そのため、グリース漏れ(油分漏れ)を生じることなく、低い軸受回転トルクを長期間に亘って確保することができる。
【0015】
次に、グリースGを構成するグリース組成物について詳細に説明する。
グリースGを構成するグリース組成物は、本発明の実施形態に係るグリース組成物であり、少なくとも基油、及び、増ちょう剤を含有する。
上記グリース組成物は、特定の増ちょう剤を所定量含有することを技術的特徴の1つとしており、このような技術的特徴によって、上述した優れた効果を奏することができる。
【0016】
上記グリース組成物において、上記基油はエステル油である。
基油がエステル油であるグリースGは、エステル油が高い極性を有するため金属面に吸着しやすく油膜を形成しやすくなる、また、粘度を上げることなく基油の蒸発を抑制することができる、などの利点を有する。
【0017】
上記エステル油としては、例えば、ジブチルセバケート、ジオクチルセバケート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルタレート、メチル・アセチルシノレート等のジエステル油、トリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート等の芳香族エステル油、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンベラルゴネート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールベラルゴネート等のポリオールエステル油、炭酸エステル油、多価アルコールと二塩基酸・一塩基酸の混合脂肪酸とのオリゴエステルであるコンプレックスエステル油等が挙げられる。
これらは単独で用いても良いし、2種以上併用しても良い。
【0018】
上記基油は、40℃における基油動粘度が、20~30mm2/sが好ましい。
また、上記基油の100℃における基油動粘度は、2~7mm2/sが好ましい。
このような基油動粘度を有する基油を含むグリース組成物は、転がり軸受に封入した際に油分漏れが発生しにくく、また、低トルク化の達成にも適している。
上記基油動粘度は、JIS K 2283(2000)に準拠した値である。
【0019】
上記基油の配合量は、グリース組成物全量に対して、78~88質量%である。上記基油の配合量が78質量%未満では、相対的に増ちょう剤の配合量が多くなり、グリースGが必要以上に硬化するため、低トルク性能を確保することが難しくなる場合がある。一方、上記基油の配合量が88質量%を超えると、グリース組成物は、基油の占める割合が高くなり、転がり軸受に封入した際に油分漏れが発生しやすくなる。
【0020】
上記グリース組成物は、上記増ちょう剤としての下記式(1)で表されるジウレアを含有する。
R1-NHCONH-C6H4-CH2-C6H4-NHCONH-R2・・・(1)
(式中、R1とR2とはそれぞれ独立して、(A)R3-C6H10-(R3は、水素、2-メチル基、3-メチル基、又は、4-メチル基である)で表される脂環基A、(B)n-CmH2m+1(mは、6~10の整数)で表されるアルキル基B、及び、(C)n-CmH2m+1(mは、16~20の整数)で表されるアルキル基C、のいずれかである)。
【0021】
従って、上記式(1)において、上記脂環基Aは、シクロヘキシル基、2-メチルシクロヘキシル基、3-メチルシクロヘキシル基、及び、4-メチルシクロヘキシル基の中から選択される。
上記アルキル基Bは、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基の中から選択される。
上記アルキル基Cは、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基の中から選択される。
【0022】
上記増ちょう剤は、既に説明した通り、上記式(1)で表される複数種類のジウレアで構成されている。
このとき、複数種類のジウレアは、R1及びR2の総和に対して、上記脂環基Aが5~35mol%、上記脂環基Aと上記アルキル基Bの合計が55~95mol%、上記アルキル基Cが残余となるように構成されている。
上記増ちょう剤はこのような構成を満足することによって繊維構造が微細になり、この増ちょう剤を含有するグリース組成物は、低トルク性能と耐グリース漏れ性とを両立するのに適している。
上記増ちょう剤において、上記アルキル基Bは、R1及びR2の総和に対して50mol%以上が好ましい。この場合、上記グリース組成物の低トルク性能がより向上することになる。
【0023】
上記式(1)で表されるジウレアにおいて、2つのウレア結合に挟まれた官能基「-C6H4-CH2-C6H4-」は、2つのフェニレン基が、どちらもパラ位で結合していることが好ましい。
【0024】
上記グリース組成物に含まれるジウレアは、ジイソシアネート化合物と、複数のアミン化合物の混合物(以下、アミン混合物ともいう)との反応物である。
上記ジイソシアネート化合物としては、例えば、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4′-MDI)、2,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4′-MDI)、2,2′-ジフェニルメタンジイソシアネート(2,2′-MDI)などが挙げられる。
【0025】
上記アミン混合物は、(a)脂環式アミンと、(b)炭素数6~10の脂肪族アミンと、(c)炭素数16~20の脂肪族アミンとの混合物である。上記アミン混合物は、(a)成分の含有率が5~35mol%、(a)成分と(b)成分との合計含有率が55~95mol%、(c)成分の含有率が残余である。
上記(b)成分の含有率は、50mol%以上であることが好ましい。
【0026】
上記(a)脂環式アミンとしては、シクロヘキシルアミン、1-アミノ-2-メチルシクロヘキサン、1-アミノ-3-メチルシクロヘキサン、1-アミノ-4-メチルシクロヘキサンを選択することができる。
これらのなかでは、シクロヘキシルアミンが好ましい。
【0027】
上記(b)炭素数6~10の脂肪族アミンとしては、1-アミノヘキサン(炭素数6)、1-アミノヘプタン(炭素数7)、1-アミノオクタン(炭素数8)、1-アミノノナン(炭素数9)、1-アミノデカン(炭素数10)を選択することができる。
これらのなかでは、1-アミノオクタンが好ましい。
【0028】
上記(c)炭素数16~20の脂肪族アミンとしては、1―アミノヘキサデカン(炭素数16)、1-アミノヘプタデカン(炭素数17)、1-アミノオクタデカン(炭素数18)、1-アミノノナデカン(炭素数19)、1-アミノイコサン(炭素数20)を選択することができる。
これらのなかでは、1-アミノオクタデカンが好ましい。
【0029】
上記ジウレアを得るために、上記ジイソシアネート化合物と上記アミン混合物とは種々の条件下で反応させることができるが、増ちょう剤としての均一分散性が高いジウレア化合物が得られることから、基油中で反応させることが好ましい。
また、上記ジイソシアネート化合物と上記アミン混合物との反応は、上記アミン混合物を溶解した基油中に、上記ジイソシアネート化合物を溶解した基油を添加して行っても良いし、上記ジイソシアネート化合物を溶解した基油中に、上記アミン混合物を溶解した基油を添加して行っても良い。
【0030】
上記のアミン混合物とジイソシアネート化合物との反応における温度及び時間は特に制限されず、グリース組成物を構成するジウレアを得るために通常採用される条件と同様の条件を採用すれば良い。
反応温度は、ジイソシアネート化合物及び上記アミン混合物に含まれる各アミン化合物の溶解性、揮発性の点から、60℃~170℃が好ましい。
反応時間は、ジイソシアネート化合物と上記アミン混合物に含まれる各アミン化合物との反応を完結させるという点や、製造時間を短縮してグリースの製造を効率良く行うという点から、0.5~2.0時間が好ましい。
【0031】
上記増ちょう剤の配合量は、グリース組成物全量に対して、10~17質量%である。
上記増ちょう剤の配合量が10質量%未満では、増ちょう剤により基油を保持する能力が低く、この場合、転がり軸受の回転中に離油してしまう基油の量が多くなり、転がり軸受からの油分漏れが発生しやすくなる。一方、上記増ちょう剤の配合量が17質量%を超えると、転がり軸受の回転により生じる、内輪、外輪、玉、保持器の相対運動によるグリースGのせん断によって生じる撹拌抵抗が大きくなって転がり軸受のトルクが大きくなることがある。
【0032】
上記グリース組成物は、任意成分として、添加剤を含有しても良い。
上記添加剤としては、例えば、酸化防止剤、極圧剤、油性剤、防錆剤、耐摩耗剤、染料、色相安定剤、増粘剤、構造安定剤、金属不活性剤、粘度指数向上剤、清浄剤等が挙げられる。
上記添加剤の配合量は、グリース組成物全量に対して、1~10質量%が好ましい。
【0033】
上記グリース組成物は、上記添加剤として、少なくとも酸化防止剤を含有することが好ましい。上記グリース組成物に酸化防止剤を含有させることで、グリースGの潤滑寿命を向上させることができる。
上記酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤等の従来公知の酸化防止剤を用いることができる。
【0034】
上記グリース組成物は、従来公知の方法で製造すれば良い。
例えば、上述したように、ジイソシアネート化合物を溶解した基油とアミン化合物を溶解した基油とを混合してジイソシアネート化合物とアミン化合物とを反応させ、更に、これらの反応中や反応後の適宜のタイミングに任意の添加剤を投入して、製造すれば良い。
【0035】
この実施形態によれば、玉軸受1に封入されたグリースGを構成するグリース組成物として、所定の増ちょう剤を含むものを採用するため、上述した通り、玉軸受1は、封入されたグリースGが漏れにくく、長期間に亘って潤滑が確保され、かつ低トルク化が達成される。
【0036】
本発明は、上記の実施形態に制限されることなく、他の実施形態で実施することもできる。
本発明の実施形態に係る転がり軸受は、本発明の実施形態に係るグリース組成物からなるグリースが封入された玉軸受に限定されず、上記転がり軸受は、本発明の実施形態に係るグリース組成物からなるグリースが封入されたものであれば、転動体として玉以外のものが使用された、ころ軸受等の他の転がり軸受であっても良い。
【実施例】
【0037】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
(実施例1~6及び比較例1~9)
ここでは、複数のグリース組成物を調製し、各グリース組成物を評価した。各グリース組成物の組成は表1に示し、評価結果は表1、
図2、3に示した。
【0038】
(グリース組成物の原料)
(1)基油
基油A:エステル油
ポリオールエステル(基油動粘度(40℃)=25mm2/s、基油動粘度(100℃)=4.9mm2/s)
基油B:ポリαオレフィンとエステル油との混合油
ポリαオレフィン(基油動粘度(40℃)=30mm2/s、基油動粘度(100℃)=5.9mm2/s)
エステル油(基油動粘度(40℃)=30mm2/s、基油動粘度(100℃)=5.4mm2/s)
混合比率(重量基準):ポリαオレフィン/エステル油=80/20
【0039】
(2)増ちょう剤:ジウレア(ジイソシアネートとアミン化合物との反応物)
(2-1)ジイソシアネート
4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4′-MDI)
(2-2)アミン化合物
(a)シクロヘキシルアミン
(b)1-アミノオクタン
(c)1-アミノオクタデカン
(3)添加剤
アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤
【0040】
(グリースの調製)
実施例及び比較例のグリースとして、表1に示した組成のグリース組成物からなるグリースを下記の工程を経て調製した。
(1)4,4′-MDI、シクロヘキシルアミン、1-アミノオクタン、1-アミノオクタデカンを、4,4′-MDI50mol%に対して、シクロヘキシルアミン、1-アミノオクタン及び1-アミノオクタデカンの合計が100mol%となるように計量する。
(2)ステンレス容器Aに、グリース組成物全量に対する配合量が84質量%になる量の半量の基油と、反応後の増ちょう剤の配合量がグリース組成物全量に対して14質量%になる量の4,4′-MDIとを投入し、60℃に加熱し、溶解させる。
(3)別のステンレス容器Bに、グリース組成物全量に対する配合量が84質量%になる量の半量の基油と、反応後の増ちょう剤の配合量がグリース組成物全量に対して14質量%になる量のシクロヘキシルアミン、1-アミノオクタン及び1-アミノオクタデカンとを投入し、80℃に加熱し、溶解させる。
【0041】
(4)ステンレス容器B内のアミン混合物溶液を、ステンレス容器Aに滴下し、イソシアネート溶液に投入する。
(5)ステンレス容器B内のアミン混合物溶液が、ステンレス容器A内に全量投入されたことを確認した後、150℃まで昇温する。
(6)加熱しながら撹拌し、30分間、温度を150℃に保持する。
【0042】
(7)加熱を止め、撹拌しながら、グリース組成物全量に対する配合量が1質量%になる量のアミン系酸化防止剤とフェノール系酸化防止剤とを投入し、冷却する。
(8)その後、三本ロールミルで均質化処理を実施する。
このような工程(1)~(8)を経て、グリースを調製した。
【0043】
(グリースの評価)
実施例、比較例に係るグリースについて、(1)軸受回転トルク、及び、(2)油分漏れ量を評価した。結果を表1及び
図2、3に示した。
【0044】
【0045】
表1に示した各評価の評価方法は、下記の通りである。
(1)軸受回転トルク
実施例及び比較例で調製したグリースの軸受回転トルクを、回転トルク試験機を用いて下記表2の条件に従って測定した。
ここでは、実施例及び比較例で作成したグリース0.83gをそれぞれ、試験軸受である62022RU(両側に非接触シール付き)に封入した。このとき、グリースの封入量は、内輪と外輪とシールとで囲まれた空間から玉と保持器を除いた空間の容積に対して40体積%となる。
この試験軸受(2個)を試験機に組み込み、1800min
-1で60秒間予備回転させた後、60秒間静置し、1800min
-1で1800秒間回転させ、最後の60秒間のトルクの平均値を軸受回転トルクとした。結果を表1及び
図2に示した(但し、比較例8、9の結果は表1にのみ示した)。
図2は、実施例及び比較例で調製したグリースの軸受回転トルクに関する評価結果を示す図である。
図2のグラフでは、縦軸に軸受回転トルクを、横軸にオクチル基及びシクロヘキシル基の合計mol%をとり、シクロヘキシル基のmol%ごとにプロットした。
なお、結果として示した回転トルクは、試験軸受2個分の回転トルクである。
また、本評価では、上記試験軸受2個分の回転トルクが、14mN・m以下あれば、低トルク性能が良好であると判断できる。
【0046】
【0047】
(2)油分漏れ量
ラジアル型のグリース性能試験機を用いて、下記表3の条件に従って測定した。
ここでは、実施例及び比較例で作成したグリース8.2gをそれぞれ、試験軸受である6309ZZ(両側にシールド板付き)に封入した。このとき、グリースの封入量は、内輪と外輪とシールド板とで囲まれた空間から玉と保持器を除いた空間の容積に対して20体積%となる。
この試験軸受(2個)を試験機に組み込み、外輪温度を150℃で加熱保持して、内輪を6000min
-1で15時間回転させた。
この試験軸受の上記グリース性能試験機による試験前後の重量を測定し、試験後の重量減少率<([試験前軸受重量-試験後軸受重量](g)/[封入グリース量(8.2g)])×100(%)>を算出し、油分漏れ量を評価した。結果を表1及び
図3に示した。
図3は、実施例及び比較例で調製したグリースの油分漏れ量を評価した結果を示す図である。
図3のグラフでは、縦軸に油分漏れ量を、横軸にオクチル基及びシクロヘキシル基の合計mol%をとり、シクロヘキシル基のmol%ごとにプロットした。
本評価では、油分漏れ量が9%以下であれば、耐グリース漏れ性が良好であると判断できる。
【0048】
【0049】
表1、及び、
図2、3に示したように、本発明の実施形態に係るグリース組成物によれば、低トルク性能と耐グリース漏れ性との両立を図ることができる。
【0050】
本出願は、2019年9月24日出願の日本特許出願(特願2019-172914)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0051】
1:玉軸受、2:内輪、3:外輪、4:玉、5:保持器、6:シールド板、7:領域、G:グリース