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特許7519372蛍光体プレート、発光装置および蛍光体プレートの製造方法
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  • 特許-蛍光体プレート、発光装置および蛍光体プレートの製造方法 図1
  • 特許-蛍光体プレート、発光装置および蛍光体プレートの製造方法 図2
  • 特許-蛍光体プレート、発光装置および蛍光体プレートの製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】蛍光体プレート、発光装置および蛍光体プレートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/443 20060101AFI20240711BHJP
   C09K 11/64 20060101ALI20240711BHJP
   C09K 11/00 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
C04B35/443
C09K11/64
C09K11/00 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021554248
(86)(22)【出願日】2020-10-07
(86)【国際出願番号】 JP2020037946
(87)【国際公開番号】W WO2021079739
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2023-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2019192949
(32)【優先日】2019-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】山浦 太陽
(72)【発明者】
【氏名】久保田 雄起
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和弘
(72)【発明者】
【氏名】江本 秀幸
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/116916(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/098932(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/004640(WO,A1)
【文献】特開2018-072607(JP,A)
【文献】国際公開第2019/102787(WO,A1)
【文献】特開2000-281335(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/443
C09K 11/00
C09K 11/64
C09K 11/80
H01L 33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α型サイアロン蛍光体と、一般式M2xAl4-4x6-4x(MはMg、Mn、Znの少なくともいずれかであり、0.2<x<0.6である)で表されるスピネルを含む焼結体と、を含む複合体からなる蛍光体プレートであって、
前記α型サイアロン蛍光体の含有量は、前記複合体全体に対して、10Vol%以上45Vol%以下であり、
前記α型サイアロン蛍光体および前記スピネルを含む焼結体の含有量の合計値は、前記複合体全体に対して、98Vol%以上100Vol%以下である、蛍光体プレート
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光体プレートであって、
前記α型サイアロン蛍光体は、下記一般式(1)で表されるEu元素を含有するα型サイアロン蛍光体を含む、蛍光体プレート。
(M)m(1-x)/p(Eu)mx/2(Si)12-(m+n)(Al)m+n(O)(N)16-n ・・・一般式(1)
一般式(1)中、
MはLi、Mg、Ca、Y及びランタニド元素(LaとCeを除く)からなる群から選ばれる1種以上の元素を表し
pはM元素の価数を表し、
0<x<0.5、1.5≦m≦4.0、0≦n≦2.0である。
【請求項3】
請求項1または2に記載の蛍光体プレートであって、
前記複合体中のα型サイアロン蛍光体の、体積基準でのメジアン径D50は、2μm以上30μm以下である、蛍光体プレート。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載の蛍光体プレートであって、
当該蛍光体プレートの主面における表面粗さRaが、0.01μm以上2.0μm以下である、蛍光体プレート。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の蛍光体プレートであって、
JIS Z 8781-4に準拠して測定される、当該蛍光体プレートの主面の、L色座標におけるa値とb値の和が17.0以上19.5以下である、蛍光体プレート。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の蛍光体プレートであって、
照射された青色光を橙色光に変換して発光する波長変換体として用いられる、蛍光体プレート。
【請求項7】
III族窒化物半導体発光素子と、
前記III族窒化物半導体発光素子の一面上に設けられた請求項1~のいずれか一項に記載の蛍光体プレートと、
を備える、発光装置。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の蛍光体プレートの製造方法であって、
α型サイアロン蛍光体と、スピネル原料粉末と、を含む混合物を加熱する焼成工程を含み、
前記スピネル原料粉末は、(i)前記一般式で表されるスピネルを含む粉末、および/または、(ii)一般式MO(MはMg、Mn、Znの少なくともいずれか)で表される金属酸化物の粉末とAlの粉末との混合物であり、
前記スピネル原料粉末のBET比表面積は0.1m/g以上10.0m/g以下である、蛍光体プレートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体プレート、発光装置および蛍光体プレートの製造方法に関する。より具体的には、蛍光体プレート、その蛍光体プレートを備える発光装置、および、その蛍光体プレートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで蛍光体プレートにおいて様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、SiO系ガラスに無機蛍光体が分散されたプレート状の発光色変換部材が記載されている(特許文献1の図4、請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-132923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らの知見によれば、特許文献1に記載のようなSiO系ガラスに無機蛍光体が分散されたプレート状の発光色変換部材には、発光効率の点で改善の余地があった。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。
本発明の目的の1つは、発光効率が優れた蛍光体プレート、およびそれを用いた発光装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
【0007】
本発明によれば、
α型サイアロン蛍光体と、一般式M2xAl4-4x6-4x(MはMg、Mn、Znの少なくともいずれかであり、0.2<x<0.6である)で表されるスピネルを含む焼結体と、を含む複合体からなる蛍光体プレート
が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、
III族窒化物半導体発光素子と、
前記III族窒化物半導体発光素子の一面上に設けられた上記蛍光体プレートと、
を備える、発光装置
が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、
上記の蛍光体プレートの製造方法であって、
α型サイアロン蛍光体と、スピネル原料粉末と、を含む混合物を加熱する焼成工程を含み、
前記スピネル原料粉末は、(i)前記一般式で表されるスピネルを含む粉末、および/または、(ii)一般式MO(MはMg、Mn、Znの少なくともいずれか)で表される金属酸化物の粉末とAlの粉末との混合物であり、
前記スピネル原料粉末のBET比表面積は0.1m/g以上10.0m/g以下である、蛍光体プレートの製造方法
が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、発光効率が優れた蛍光体プレート、およびそれを用いた発光装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】蛍光体プレートの構成の一例を示す模式図である。
図2】(a)はフリップチップ型の発光装置の構成を模式的に示す断面図であり、(b)はワイヤボンディング型の発光素子の構成を模式的に示す断面図である。
図3】蛍光体プレートの発光効率を測定するための装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
煩雑さを避けるため、(i)同一図面内に同一の構成要素が複数ある場合には、その1つのみに符号を付し、全てには符号を付さない場合や、(ii)特に図2以降において、図1と同様の構成要素に改めては符号を付さない場合がある。
すべての図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部材の形状や寸法比などは、必ずしも現実の物品と対応しない。
【0013】
<蛍光体プレート>
本実施形態の蛍光体プレートは、α型サイアロン蛍光体と、一般式M2xAl4-4x6-4x(MはMg、Mn、Znの少なくともいずれかであり、0.2<x<0.6である)で表されるスピネルを含む焼結体と、を含む複合体からなる。
本実施形態の蛍光体プレートは、照射された青色光を橙色光に変換して発光する波長変換体として用いることができる。
【0014】
本発明者らの知見として、本実施形態の蛍光体プレートの発光効率は優れる。この理由は必ずしも明らかではないが、以下のような理由が推定される。
(i)上記一般式で表されるスピネルを含む焼結体は比較的透明である。よって、蛍光体プレート内での光の過剰散乱が抑制される。
(ii)スピネルの屈折率は約1.7であって酸窒化物蛍光体の屈折率(約2.0)に近い。よって、蛍光体からの光取り出し効率が高い。
【0015】
本実施形態の蛍光体プレートに波長455nmの青色光が照射された場合、蛍光体プレートから発せられる波長変換光のピーク波長は、例えば585nm以上605nm以下である。青色光を発光する発光素子に本実施形態の蛍光体プレートを組み合わせることで、輝度が高い橙色を発光する発光装置を得ることができる。
【0016】
以下、本実施形態の蛍光体プレートに関するより具体的な説明を続ける。
【0017】
蛍光体プレートを構成する複合体中には、α型サイアロン蛍光体とスピネルとが混在している。混在とは、母材(マトリックス相)となるスピネル中にα型サイアロン蛍光体が分散された状態を意味する。すなわち、複合体は、母材が構成する(多)結晶体の結晶粒間および/または結晶粒内にα型サイアロン蛍光体粒子が分散された構造を有してもよい。α型サイアロン蛍光体粒子は、母材(スピネルを含む焼結体)中に均一に分散されていてもよい。
【0018】
(α型サイアロン蛍光体)
α型サイアロン蛍光体は、好ましくは、下記一般式(1)で表されるEu元素を含有するα型サイアロン蛍光体を含む。
(M)m(1-x)/p(Eu)mx/2(Si)12-(m+n)(Al)m+n(O)(N)16-n ・・一般式(1)
【0019】
一般式(1)中、
MはLi、Mg、Ca、Y及びランタニド元素(LaとCeを除く)からなる群から選ばれる1種以上の元素を表し、
pはM元素の価数を表し、
0<x<0.5、1.5≦m≦4.0、0≦n≦2.0である。
nは、例えば、2.0以下でもよく、1.0以下でもよく、0.8以下でもよい。
【0020】
α型サイアロンの固溶組成は、α型窒化ケイ素の単位胞(Si1216)のm個のSi-N結合をAl-N結合に、n個のSi-N結合をAl-O結合に置換し、電気的中性を保つために、m/p個のカチオン(M、Eu)が結晶格子内に侵入固溶し、上記一般式のように表される。特にMとして、Caを使用すると、幅広い組成範囲でα型サイアロンが安定化し、その一部を発光中心となるEuで置換することにより、紫外から青色の幅広い波長域の光で励起され、黄から橙色の可視発光を示す蛍光体が得られる。
【0021】
一般に、α型サイアロンは、α型サイアロンとは異なる第二結晶相や不可避的に存在する非晶質相のため、組成分析等により固溶組成を厳密に規定することができない。α型サイアロンの結晶相としては、α型サイアロン単相が好ましく、他の結晶相としてβ型サイアロン、窒化アルミニウム又はそのポリタイポイド、CaSi、CaAlSiN等を含んでいてもよい。
【0022】
α型サイアロン蛍光体の製造方法としては、窒化ケイ素、窒化アルミニウム及び侵入固溶元素の化合物からなる混合粉末を高温の窒素雰囲気中で加熱して反応させる方法がある。加熱工程で構成成分の一部が液相を形成し、この液相に物質が移動することにより、α型サイアロン固溶体が生成する。
【0023】
α型サイアロン蛍光体のメジアン径D50の下限は、2μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。また、α型サイアロン蛍光体のD50の上限は、30μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましい。α型サイアロン蛍光体のD50を5μm以上とすることにより、複合体の透明性をより高めることができる。一方、α型サイアロン蛍光体のD50を30μm以下とすることにより、ダイサー等で蛍光体プレートを切断加工する際に、チッピングが生じることを抑制することができる。
【0024】
α型サイアロン蛍光体のD50としては、レーザー回析散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積基準粒度分布において、小粒径側からの通過分積算(積算通過分率)50%の粒子径を採用することができる。すなわち、本明細書におけるD50は、体積基準の値である。
レーザー回析散乱式粒度分布測定法は、公知の装置、例えば、ベックマンコールター社製、LS13-320などにより行うことができる。
【0025】
α型サイアロン蛍光体の含有量の下限値は、複合体全体に対して、体積換算で、例えば5Vol%以上、好ましくは10Vol%以上、より好ましくは15Vol%以上である。これにより、薄層の蛍光体プレートにおける発光強度を高めることができる。また、蛍光体プレートの光変換効率を向上できる。
α型サイアロン蛍光体の含有量の上限値は、複合体全体に対して、体積換算で、例えば50Vol%以下、好ましくは45Vol%以下、より好ましくは40Vol%以下である。α型サイアロン蛍光体の含有量が多すぎないことで、蛍光体プレートの熱伝導性の低下を抑制できる。また、十分な量のスピネルを用いることができるため、スピネルに由来する効果を十分に得ることができる。
【0026】
(スピネルを含む焼結体)
本実施形態において、スピネルは、一般式M2xAl4-4x6-4x(MはMg、Mn、Znの少なくともいずれかであり、0.2<x<0.6である)で表される。
スピネルを含む焼結体は、通常、一般式MO(MはMg、Mn、Znの少なくともいずれか)で表される金属酸化物の粉末と、Alの粉末とを混合し、焼結することで得られる。
化学量論的には、スピネルはx=0.5(すなわち、一般式MAl)で表される組成である。ただし、原料のMOの量とAlの量の比によっては、スピネルは、MOまたはAlが過剰に固溶した非化学量論組成の化合物となる。
透明性の観点で、上記一般式におけるMは、Mgであることが好ましい。
【0027】
(α型サイアロン蛍光体とスピネルを含む焼結体の含有量の合計値)
蛍光体プレート中の、α型サイアロン蛍光体およびスピネルを含む焼結体の含有量の下限値は、複合体全体に対して、例えば95Vol%以上、好ましくは98Vol%以上、より好ましくは99Vol%以上である。つまり、蛍光体プレートを構成する複合体は、α型サイアロン蛍光体およびスピネルを含む焼結体を主成分として含むことを意味する。これにより、耐熱性や耐久性を高められる上に、安定的な発光効率を実現できる。
α型サイアロン蛍光体およびスピネルを含む焼結体の含有量の上限値は特に限定されないが、例えば、複合体全体に対して、体積換算で、100Vol%以下としてもよい。
【0028】
(蛍光体プレートの表面粗さ)
蛍光体プレートの主面および/または裏面における表面粗さRaは、例えば、0.01μm以上2.0μm以下、好ましくは0.03μm以上1.5μm以下である。Raは、JIS B 0601に準拠した測定により求められる。
表面粗さを2.0μm以下とすることで、光の取り出し効率や、面内方向における光強度のバラツキを抑制できる。表面粗さを0.01μm以上とすることで、被着体との密着性を高められることが期待される。
蛍光体プレートの少なくとも主面、または主面および裏面の両面における表面は、表面処理されていてもよい。表面処理としては、例えば、ダイアモンド砥石等を用いた研削、ラッピング、ポリッシング等の研磨などが挙げられる。表面処理によりRaを調整することができる。
【0029】
(蛍光体プレートの色)
蛍光体プレートの色は、大まかには、α型サイアロン蛍光体の色に由来する黄色、橙色等である。ただし、製法や、スピネルの原料である金属酸化物の性状などによっても、蛍光体プレートの色目は変わる。そして、蛍光体プレートの色目を適切に設計することで、非発光吸収を低減することができ、発光効率を一層高めることができると考えられる。
【0030】
具体的には、JIS Z 8781-4に準拠して測定される蛍光体プレートの主面(蛍光を発する面)のL色座標は、以下のとおりである。
値:通常72.0以上95.0以下、好ましくは82.0以上90.0以下、より好ましくは84.0以上90.0以下
値:通常1.5以上6.5以下、好ましくは3.0以上6.0以下、より好ましくは3.5以上5.5以下
値:通常10.0以上16.0以下、好ましくは11.5以上15.0以下、より好ましくは12.5以上15.0以下
【0031】
本発明者らの知見として、特に、a値とb値の和が適切な値である蛍光体プレートは、良好な発光効率を示す。具体的には、a値とb値の和は、好ましくは11.0以上20.0以下、より好ましくは17.0以上19.5以下、さらに好ましくは17.5以上19.0以下である。詳細なメカニズムは定かではないが、a値とb値の和を適切な範囲に制御することにより、α型サイアロン蛍光体およびスピネルを含む蛍光体プレートの、発光領域での非発光吸収を低減できるため、発光効率の低下が抑制できると考えられる。
【0032】
蛍光体プレートの色(L色座標)は、例えば、後述の蛍光体プレートの製造方法において、原料である2価の金属酸化物の粉末および/またはAlの粉末として、適切な比表面積のものを用いることで調整することができる。
【0033】
(蛍光体プレートの厚み、形状など)
本実施形態の蛍光体プレートの厚みや形状は、特に限定されない。発光色変換部材として使用可能な限り、厚みや形状は特に限定されない。
蛍光体プレートの厚みは、例えば0.01mm以上1.00mm以下、好ましくは0.05mm以上0.50mm以下である。
【0034】
<蛍光体プレートの製造方法>
本実施形態の蛍光体プレートは、例えば、α型サイアロン蛍光体と、スピネル原料粉末と、を含む混合物を加熱する焼成工程を含む工程により、製造することができる。
ここで、「スピネル原料粉末」は、例えば、(i)前述の一般式M2xAl4-4x6-4xで表されるスピネルを含む粉末、および/または、(ii)一般式MO(MはMg、Mn、Znの少なくともいずれか)で表される金属酸化物の粉末とAlの粉末との混合物である。
【0035】
原料は、できるだけ高純度であることが好ましい。具体的には、所望する構成元素以外の元素の不純物は0.1%以下であることが好ましい。
また、蛍光体プレートの製造に際しては、焼結により緻密化が進行するため、微粉末のスピネル原料粉末を使用することが好ましい。具体的には、原料のスピネル原料粉末の平均粒子径は1μm以下であることが好ましい。
【0036】
本発明者らの知見として、比較的小さなBET比表面積を有するスピネル原料粉末を用いることで、最終的に得られる蛍光体プレートの発光効率を一層高めることができる。この理由は必ずしも明らかではないが、比表面積の比較的小さいスピネル原料粉を使用することで、比表面積の大きいスピネル原料を用いた場合と比べて焼結が穏やかになり、黒色化が抑制されるためと考えられる。
【0037】
具体的な数値として、スピネル原料粉末のBET比表面積は、例えば0.1m/g以上20.0m/g以下、好ましくは0.1m/g以上10.0m/g以下である。
ここで、スピネル原料粉末が、上記(ii)の、一般式MOで表される金属酸化物の粉末とAlの粉末との混合物である場合には、混合物全体としての比表面積、すなわち、Σ(各粉末の比表面積×スピネル原料粉末中の各粉末の質量比率)を、スピネル原料粉末の比表面積として採用する。
【0038】
焼成のための混合物を得る混合方法としては、乾式、湿式の種々の方法を適用できる。原料として用いるα型サイアロン蛍光体粒子が極力粉砕されず、また混合時に装置からの不純物が極力混入しない方法が好ましい。
【0039】
焼成の温度は、例えば1300℃以上1700℃以下である。複合体を緻密化するためには、焼成温度は高い方が好ましい。ただし、焼成温度が高いほど、α型サイアロン蛍光体の蛍光特性が低下する。よって、適切な温度での焼成が好ましい。
焼成方法は常圧焼結でも加圧焼結でもよい。α型サイアロン蛍光体の特性低下を抑制し、且つ緻密な複合体を得るために、常圧焼結よりも緻密化させやすい加圧焼結が好ましい。加圧焼結方法としては、ホットプレス焼結や放電プラズマ焼結(SPS)、熱間等方加圧焼結(HIP)などが挙げられる。ホットプレス焼結やSPS焼結の場合、圧力は10MPa以上、好ましくは30MPa以上が好ましく、100MPa以下が好ましい。
焼成雰囲気は、α型サイアロンの酸化を防ぐため、窒素やアルゴンなどの非酸化性の不活性ガス、もしくは真空雰囲気下が好ましい。
【0040】
<発光装置>
本実施形態の発光装置は、III族窒化物半導体発光素子(発光素子20)と、III族窒化物半導体発光素子の一面上に設けられた上記の蛍光体プレート10と、を備える。
III族窒化物半導体発光素子は、例えば、AlGaN、GaN、InAlGaN系材料などのIII族窒化物半導体で構成される、n層、発光層、およびp層を備える。III族窒化物半導体発光素子として、青色光を発光する青色LEDを用いることができる。
蛍光体プレート10は、発光素子20の一面上に直接配置されてもよいが、光透過性部材またはスペーサーを介して配置されてもよい。
【0041】
発光素子20の上に配置される蛍光体プレート10は、図1に示す円板形状の蛍光体プレート100(蛍光体ウェハ)を用いてもよいが、蛍光体プレート100を個片化したものを用いることもできる。
図1は、蛍光体プレートの構成の一例を示す模式図である。図1に示す蛍光体プレート100の厚みは、例えば100μm以上1mm以下である。蛍光体プレート100の厚みは、上記の製造工程(焼成など)の後、研削などにより調整されてもよい。
ちなみに、円板形状の蛍光体プレート100は、四角形状の場合と比べて、角部における欠けや割れの発生が抑制されるため、耐久性や搬送性に優れる。
【0042】
発光装置の一例を、図2(a)、(b)に示す。図2(a)はフリップチップ型の発光装置110の構成を模式的に示す断面図であり、図2(b)はワイヤボンディング型の発光装置120の構成を模式的に示す断面図である。
【0043】
図2(a)の発光装置110は、基板30と、半田40(ダイボンド材)を介して基板30と電気的に接続された発光素子20と、発光素子20の発光面上に設けられた蛍光体プレート10と、を備える。フリップチップ型の発光装置110は、フェイスアップ型およびフェイスダウン型のいずれの構造でもよい。
また、図2(b)の発光装置120は、基板30と、ボンディングワイヤ60および電極50を介して基板30と電気的に接続された発光素子20と、発光素子20の発光面上に設けられた蛍光体プレート10と、を備える。
図2中、発光素子20と蛍光体プレート10とは、公知の方法で貼り付けられており、例えば、シリコーン系接着剤や熱融着等の方法で貼り合わされてもよい。
発光装置110、発光装置120は、全体を透明封止材で封止されていてもよい。
【0044】
基板30に実装された発光素子20に対し、個片化された蛍光体プレート10を貼り付けてもよい。大面積の蛍光体プレート100に複数の発光素子20を貼り付けてから、ダイシングにより、蛍光体プレート10付き発光素子20ごとに個片化してもよい。また、複数の発光素子20が表面に形成された半導体ウェハに、大面積の蛍光体プレート100を貼り付け、その後、半導体ウェハと蛍光体プレート100を一括して個片化してもよい。
【0045】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
以下、参考形態の例を付記する。
1.
α型サイアロン蛍光体と、一般式M 2x Al 4-4x 6-4x (MはMg、Mn、Znの少なくともいずれかであり、0.2<x<0.6である)で表されるスピネルを含む焼結体と、を含む複合体からなる蛍光体プレート。
2.
1.に記載の蛍光体プレートであって、
前記α型サイアロン蛍光体の含有量は、前記複合体全体に対して、5Vol%以上50Vol%以下である、蛍光体プレート。
3.
1.または2.に記載の蛍光体プレートであって、
前記α型サイアロン蛍光体および前記スピネルを含む焼結体の含有量の合計値は、前記複合体全体に対して、95Vol%以上100Vol%以下である、蛍光体プレート。
4.
1.~3.のいずれか一つに記載の蛍光体プレートであって、
前記α型サイアロン蛍光体は、下記一般式(1)で表されるEu元素を含有するα型サイアロン蛍光体を含む、蛍光体プレート。
(M) m(1-x)/p (Eu) mx/2 (Si) 12-(m+n) (Al) m+n (O) (N) 16-n ・・・一般式(1)
一般式(1)中、
MはLi、Mg、Ca、Y及びランタニド元素(LaとCeを除く)からなる群から選ばれる1種以上の元素を表し
pはM元素の価数を表し、
0<x<0.5、1.5≦m≦4.0、0≦n≦2.0である。
5.
1.~4.のいずれか一つに記載の蛍光体プレートであって、
前記複合体中のα型サイアロン蛍光体の、体積基準でのメジアン径D 50 は、2μm以上30μm以下である、蛍光体プレート。
6.
1.~5.のいずれか一つに記載の蛍光体プレートであって、
当該蛍光体プレートの主面における表面粗さRaが、0.01μm以上2.0μm以下である、蛍光体プレート。
7.
1.~6.のいずれか一つに記載の蛍光体プレートであって、
JIS Z 8781-4に準拠して測定される、当該蛍光体プレートの主面の、L 色座標におけるa 値とb 値の和が17.0以上19.5以下である、蛍光体プレート。
8.
1.~7.のいずれか一つに記載の蛍光体プレートであって、
照射された青色光を橙色光に変換して発光する波長変換体として用いられる、蛍光体プレート。
9.
III族窒化物半導体発光素子と、
前記III族窒化物半導体発光素子の一面上に設けられた1.~8.のいずれか一つに記載の蛍光体プレートと、
を備える、発光装置。
10.
1.~8.のいずれか一つに記載の蛍光体プレートの製造方法であって、
α型サイアロン蛍光体と、スピネル原料粉末と、を含む混合物を加熱する焼成工程を含み、
前記スピネル原料粉末は、(i)前記一般式で表されるスピネルを含む粉末、および/または、(ii)一般式MO(MはMg、Mn、Znの少なくともいずれか)で表される金属酸化物の粉末とAl の粉末との混合物であり、
前記スピネル原料粉末のBET比表面積は0.1m /g以上10.0m /g以下である、蛍光体プレートの製造方法。
【実施例
【0046】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0047】
(蛍光体プレートの製造)
以下手順により蛍光体プレートを製造した。
(1)後掲の表1に記載のα型サイアロン蛍光体と、スピネル原料粉(MgOおよびAl)とを、ポリエチレン製のポットとアルミナ製のボールを用いて、エタノール溶媒中において30分間湿式混合し、得られたスラリーを吸引濾過して溶媒を除去した後、乾燥した。そして、混合後の原料を、目開き75μmのナイロン製メッシュ篩を通して凝集を解き、原料混合粉末を得た。
αサイアロン蛍光体の量は、原料混合粉末中30体積%となるように調整した(残部の70体積%は、MgOおよびAlである)。
スピネル原料粉中のMgOとAlの比率は、質量比で、MgO:Al=28:72(モル量において、Mg:Al=1:2)となるようにした。
【0048】
(2)原料混合粉末をホットプレス治具内に充填した。具体的には、約10gの原料混合粉末を、カーボン製下パンチをセットした内径30mmのカーボン製ダイスに充填した。その後、カーボン製上パンチをセットし、原料粉末を挟み込んだ。
原料混合粉末とカーボン治具の間には、固着防止のために、厚み0.127mmのカーボンシート(GraTech社製、GRAFOIL)をセットした。
【0049】
(3)原料混合粉末を充填したホットプレス治具を、カーボンヒーターを備える多目的高温炉(富士電波工業株式会社製、ハイマルチ5000)にセットした。炉内を0.1Pa以下まで真空排気し、減圧状態を保ったまま、上下パンチを55MPaのプレス圧で加圧した。加圧状態を維持したまま、毎分5℃の速さで1600℃まで昇温した。1600℃に到達後、加熱を止め、室温まで徐冷し、除圧した。その後、外径30mmの焼成物を回収し、平面研削盤と円筒研削盤を用いて、外周部を研削した。これにより、直径25mmの円板状の蛍光体プレートを得た(厚みは表に記載)。
【0050】
得られたサンプルに対してX線回折装置(株式会社リガク製UltimaIV)を用い、CuKα線を用いたXRD測定を行った。得られたX線回折パターンから主相としてα型サイアロンとスピネルが存在することを確認した。
また、SEM観察用に、得られた蛍光体プレートを研磨して、その研磨面をSEMで観察した。その結果、実施例1~10の蛍光体プレートにおいては、スピネルを含むマトリックス相の間にα型サイアロン蛍光体粒子が分散した状態が観察された。
さらに、JIS B 0601に準拠し、表面粗さ測定器(ミツトヨ製、SJ-400)を用いて、各蛍光体プレートの主面の表面粗さRaを測定した。
【0051】
加えて、得られた蛍光体プレートのL色座標を、日本分光社製紫外可視分光光度計(V-550)に積分球装置(ISV-469)を取り付けた装置で測定した。
具体的には、まず、標準白板(Labsphere社製、スペクトラロン)でベース補正を行った。その後、積分球装置と標準白板の間に挟むように蛍光体プレートをセットし、300~850nmの波長範囲で測定を行った。そして、JIS Z 8781-4:2013に準拠し、L値、a値およびb値を算出した。
【0052】
表1に記載の原料の詳細は以下のとおりである。
【0053】
(α型サイアロン蛍光体)
蛍光体1:Ca-αサイアロン蛍光体(アロンブライトYL-600B、デンカ株式会社製、メジアン径15μm)
【0054】
(MgO)
MgO-1:富士フイルム和光純薬社製の酸化マグネシウム、平均粒径0.2μm、純度99.9%、BET比表面積2.3m/g
MgO-2:岩谷化学社製の酸化マグネシウム、品番「MJ-30」、BET比表面積20.6m/g
【0055】
(Al
Al-1:TM-DAR(大明化学社製)、BET比表面積14.5m/g
Al-2:AKP-53(住友化学社)、BET比表面積11.7m/g
Al-3:AKP-20(住友化学社製)、BET比表面積4.3m/g
Al-4:AKP-3000(住友化学社製)、BET比表面積4.5m/g
Al-5:AA-03(住友化学社製)、BET比表面積5.2m/g
【0056】
(SiO:比較例用)
SiO-1:SFP-30M(デンカ社製)、BET比表面積6.2m/g
SiO-2:FB-9SDC(デンカ社製)、BET比表面積1.4m/g
【0057】
上記の各素材のBET比表面積は、比表面積/細孔分布測定装置BELSORP-mini(マイクロトラック・ベル社製)を用いて、JIS Z 8830:2013に準じて測定された値である。
【0058】
表1において「BET比表面積」は、「MgOのBET比表面積×スピネル原料粉中のMgOの質量比率(28/100)+AlのBET比表面積×スピネル原料粉中のAlの質量比率(72/100)」の値である。すなわち、表1のBET比表面積は、MgOを28質量%、Alを72質量%含むスピネル原料粉「全体として」の比表面積を表す。
【0059】
【表1】
【0060】
<発光効率の評価>
蛍光体プレートの発光効率を、チップオンボード型(COB型)のLEDパッケージ130を用いて評価した。図3は、蛍光体プレート100の発光スペクトルを測定するための装置(LEDパッケージ130)の概略図である。
まず、凹部70が形成されたアルミ基板(基板30)を用意した。凹部70の底面の径φは13.5mm、凹部70の開口部の径φは16mmであった。この基板30の凹部70の内部に、青色発光光源として青色LED(発光素子20)を実装した。
その後、基板30の凹部70の開口部を塞ぐように、青色LEDの上部に円形状の蛍光体プレート100を設置し、図3に示す装置(チップオンボード型(COB型)のLEDパッケージ130)を作製した。
【0061】
全光束測定システム(HalfMoon/φ1000mm積分球システム、大塚電子株式会社製)を用いて、作製したLEDパッケージ130の青色LEDを点灯したときの、蛍光体プレート100の表面における発光スペクトルを測定した。
得られた発光スペクトルにおいて、波長が585nm以上605nmである橙色光(Orange)の発光強度(蛍光強度)の最大値(W/nm)を求めた。表2には、蛍光強度の最大値について、実施例1を100%として規格化ときの、他の実施例・比較例の相対値(%)を示す。
【0062】
【表2】
【0063】
表2より、実施例1~10の蛍光体プレートの発光強度(蛍光強度)は、比較例1および2の蛍光体プレートの発光強度よりも大きかった。つまり、α型サイアロン蛍光体と、スピネルを含む焼結体とを含む複合体からなる蛍光体プレートは、優れた発光効率を有することが示された。
実施例1~10をより詳細に分析すると、スピネル原料粉のBET比表面積が0.1m/g以上10.0m/g以下である、かつ/または、a値とb値の和が17.0以上19.5以下である実施例5~10の蛍光体プレートが、より優れた発光効率を示した。
【0064】
この出願は、2019年10月23日に出願された日本出願特願2019-192949号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0065】
10 蛍光体プレート
20 発光素子
30 基板
40 半田
50 電極
60 ボンディングワイヤ
70 凹部
100 蛍光体プレート
100 発光装置
120 発光装置
130 LEDパッケージ
図1
図2
図3