(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】真空成形用樹脂一体化繊維シート、これを用いた成形体と成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29B 11/16 20060101AFI20240711BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20240711BHJP
B29C 70/44 20060101ALI20240711BHJP
B29C 51/12 20060101ALI20240711BHJP
B29C 51/10 20060101ALI20240711BHJP
B32B 5/00 20060101ALI20240711BHJP
B29K 101/12 20060101ALN20240711BHJP
【FI】
B29B11/16
B29C70/16
B29C70/44
B29C51/12
B29C51/10
B32B5/00 A
B29K101:12
(21)【出願番号】P 2021556052
(86)(22)【出願日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 JP2020041330
(87)【国際公開番号】W WO2021095626
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2019205717
(32)【優先日】2019-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】田中 忠玄
(72)【発明者】
【氏名】中村 崇
(72)【発明者】
【氏名】平石 陽一
(72)【発明者】
【氏名】中明 裕太
(72)【発明者】
【氏名】駒井 優貴
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-130698(JP,A)
【文献】特開2001-341189(JP,A)
【文献】特開平10-166436(JP,A)
【文献】特開2014-125532(JP,A)
【文献】特開2018-012313(JP,A)
【文献】特開2014-004797(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16
B29C 70/16
B29C 70/44
B29C 51/12
B29C 51/10
B32B 5/00
B29K 101/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空成形により繊維強化樹脂成形体を得るための真空成形用樹脂一体化繊維シートであって、
前記樹脂一体化繊維シートは、
A 連続繊維群が開繊され一方向に並列状に配列された一方向連続繊維と、
B 前記一方向連続繊維と交錯する方向の架橋繊維と、
C 前記一方向連続繊維の少なくとも表面に存在し、かつ前記一方向連続繊維と前記架橋繊維とを一体化している熱可塑性樹脂
を含み、
前記樹脂一体化繊維シートは、前記一方向連続繊維及び前記架橋繊維の表面にマトリックスとなる熱可塑性粉体樹脂を付着させ熱融着させたセミプレグであることを特徴とする真空成形用樹脂一体化繊維シート。
【請求項2】
前記一方向連続繊維と架橋繊維の合計を100質量%としたとき、前記一方向連続繊維は75~99質量%であり、前記架橋繊維は1~25質量%である請求項
1に記載の真空成形用樹脂一体化繊維シート。
【請求項3】
前記樹脂一体化繊維シートの繊維体積(Vf)は、20~65体積%、熱可塑性樹脂35~80体積%である請求項1
又は2に記載の真空成形用樹脂一体化繊維シート。
【請求項4】
前記一方向連続繊維は、炭素繊維、ガラス繊維及び弾性率が380cN/dtex以上の高弾性率繊維から選ばれる少なくとも一つである請求項1~
3のいずれかに記載の真空成形用樹脂一体化繊維シート。
【請求項5】
前記樹脂一体化繊維シートの厚みは0.01~5.0mmである請求項1~
4のいずれかに記載の真空成形用樹脂一体化繊維シート。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂は、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、アクリル系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリイミド系樹脂、及びポリエーテルエーテルケトン系樹脂から選ばれる少なくとも一つである請求項1~
5のいずれかに記載の真空成形用樹脂一体化繊維シート。
【請求項7】
前記樹脂一体化繊維シートの単位面積当たりの質量は、10~3000g/m
2である請求項1~
6のいずれかに記載の真空成形用樹脂一体化繊維シート。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれかに記載の樹脂一体化繊維シートを2枚以上積層し、真空成形した繊維強化樹脂成形体。
【請求項9】
請求項1~
7のいずれかに記載の樹脂一体化繊維シートを2枚以上積層し、真空成形し繊維強化樹脂成形体を製造する方法であって、
真空ラインを有する下金型から前記樹脂一体化繊維シートを真空成形し、上金型から圧空プレスすることを特徴とする繊維強化樹脂成形体の製造方法。
【請求項10】
前記真空成形は、真空圧空成形である請求項
9に記載の繊維強化樹脂成形体の製造方法。
【請求項11】
前記真空成形は、真空ラインを有する下金型と、加圧可能な上金型を含む真空成形装置を用いて、
a 下金型の上に2枚以上積層した樹脂一体化繊維シートを載せ、バッギングフィルムを被せる工程と、
b 下金型の真空ラインから減圧し、減圧と同時に昇温する工程と、
c 前記樹脂一体化繊維シートを、熱可塑性樹脂の軟化点以上の温度に加熱した状態でバッギングフィルムの上部から圧空により樹脂一体化繊維シートを加圧し真空圧空成形する工程と、
d 圧力条件は維持したまま冷却し、冷却後に成形体を脱型する工程、を含む
請求項
9又は10に記載の繊維強化樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セミプレグを用いた真空成形用樹脂一体化繊維シート、これを用いた成形体と成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維材料である炭素繊維は、各種のマトリックス樹脂と複合化され、得られる繊維強化プラスチックは種々の分野・用途に広く利用されるようになってきた。そして、高度の機械的特性や耐熱性等を要求される航空・宇宙分野や、一般産業分野では、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする、一方向性の連続繊維が用いられている。従来から、炭素繊維基材に樹脂を完全含浸したプリプレグが用いられており、複合材料としたときの耐衝撃性が優れ、成形時間が短く、かつ成形コスト低減の可能性が示唆されている。しかし、完全含浸しているプリプレグを用いる場合、プリプレグのシートを積層したものを一定時間予備加熱する必要があり、そのままの状態では硬度が高く、成形の時間が要する。そのため、完全含浸していない未含浸のセミプレグが注目されている。セミプレグは、マトリックス樹脂が繊維基材上に付着・融着している状態または半含浸状態の未含浸の基材シートで、柔らかく賦形性が優れている。また、ダイレクトに成形を行うことができるため、成形効率も優れている。
しかし、強化繊維樹脂を成形する時に熱可塑性樹脂を繊維基材に含浸させることが必要となるが、短繊維の場合は不織布に加工する必要があり、効率が極めて悪くなる。また、連続繊維の場合は配向がずれて乱れたり、ボイドやシワなどの欠陥が生じることがある。そのため、ダイレクトな成形に使用できるより適した基材が求められている。
【0003】
特許文献1では、不織布を作製した上で最外層にフィルムを積層している基材が開示されている。このような基材を用いると運搬等には優れているが、強化繊維を不織布に加工する工程が必要となり、連続繊維に用いることは困難である。さらにフィルムを貼り合せるために基材の製造条件が決まってしまい、任意に基材の質量を設定することができない問題がある。また、フィルムが最外層にあると、基材が硬くなり賦形性にも問題が生ずる。特許文献2では、プリプレグやセミプレグを用いてプリプレグの成形品を製造するための装置が開示されているが、成形方法については問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-50981号公報
【文献】特開2017-109408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上説明のとおり、従来技術は賦形性に問題があり、ボイドの発生を防ぐことが困難である問題があった。
本発明は、前記従来の問題を解決するため、賦形性に優れ、ボイドを起こさない真空成形用樹脂一体化繊維シート、これを用いた成形体と成形体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の真空成形用樹脂一体化繊維シートは、真空成形により繊維強化樹脂成形体を得るための真空成形用樹脂一体化繊維シートであって、前記樹脂一体化繊維シートは、
A 連続繊維群が開繊され一方向に並列状に配列された一方向連続繊維と、
B 前記一方向連続繊維と交錯する方向の架橋繊維と、
C 前記一方向連続繊維の少なくとも表面に存在し、かつ前記一方向連続繊維と前記架橋繊維とを一体化している熱可塑性樹脂を含み、
前記樹脂一体化繊維シートは、前記一方向連続繊維及び前記架橋繊維の表面にマトリックスとなる熱可塑性粉体樹脂を付着させ熱融着させたセミプレグであることを特徴とする。
【0007】
本発明の繊維強化樹脂成形体は、前記樹脂一体化繊維シートを2枚以上積層し、真空成形した成形体である。
【0008】
本発明の繊維強化樹脂成形体の製造方法は、前記樹脂一体化繊維シートを真空成形し繊維強化樹脂成形体を製造する方法であって、真空ラインを有する下金型から前記樹脂一体化繊維シートを真空成形し、上金型から圧空プレスすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂一体化繊維シートは、(A)連続繊維群が開繊され一方向に並列状に配列された一方向連続繊維と、(B)前記一方向連続繊維と交錯する方向の架橋繊維と、(C)前記一方向連続繊維の少なくとも表面に存在し、かつ前記一方向連続繊維と前記架橋繊維とを一体化している前記熱可塑性樹脂を含むことにより、真空成形により、熱可塑性樹脂が樹脂一体化繊維シート内及び樹脂一体化繊維シート間に一様に浸透かつ拡散し、賦形性(成形性)に優れ、ボイドを起こさない成形体が得られる。また、本発明の繊維強化樹脂成形体の製造方法は、成形サイクルが速く、短時間で高品質の成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態の樹脂一体化炭素繊維シートの模式的斜視図である。
【
図2】
図2は同、樹脂一体化炭素繊維シートの幅方向の模式的断面図である。
【
図3】
図3は同、樹脂一体化炭素繊維シートの製造方法を示す模式的工程図である。
【
図4】
図4は同、真空圧空成形装置の模式的断面図である。
【
図7】
図7は本発明の一実施例におけるサンプルの切り出し方向を示す模式的説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の真空成形用樹脂一体化繊維シートの繊維の主成分は、開繊され一方向に並列状に配列された一方向連続繊維である。繊維の副成分は、一方向連続繊維と交錯する方向に配列された架橋繊維である。ここで主成分とは、繊維を100質量%としたとき、75~99質量%が好ましく、副成分とは1~25質量%が好ましい。熱可塑性樹脂は、粉体で一方向連続繊維及び架橋繊維の上から付着させ、一方向連続繊維の少なくとも表面で熱融着させ、かつ一方向連続繊維と架橋繊維とを一体化している。このシートは、一方向連続繊維と架橋繊維が、熱融着した熱可塑性樹脂により一体化しているため、取り扱い性が良好で、積層する際、及び真空成形する際の操作性が良い。
【0012】
前記樹脂一体化繊維シートは、一方向連続繊維及び架橋繊維の表面にマトリックスとなる熱可塑性粉体樹脂を付着させ熱融着させたセミプレグであることが好ましい。このセミプレグは、真空成形により、表面の熱可塑性樹脂が樹脂一体化繊維シート内及び樹脂一体化繊維シート間に一様に浸透かつ拡散する。これにより、賦形性(成形性)に優れ、ボイドを起こさない成形体が得られる。
【0013】
前記一方向連続繊維と架橋繊維の合計を100質量%としたとき、一方向連続繊維は75~99質量%が好ましく、より好ましくは80~97質量%、さらに好ましくは85~95質量%である。また、架橋繊維は1~25質量%が好ましく、より好ましくは3~20質量%、さらに好ましくは5~15質量%である。前記の範囲であれば、一方向連続繊維の一体性が高く、幅方向の引張強度の高い樹脂一体化繊維シートとなる。
【0014】
前記樹脂一体化繊維シートの繊維体積(Vf)は、20~65体積%、熱可塑性樹脂35~80体積%が好ましく、より好ましくは繊維25~60体積%、樹脂40~75体積%である。これにより、樹脂一体化繊維シートの樹脂成分を、そのまま成形体のマトリックス樹脂成分にすることができる。すなわち、成形体を製造する際に、新たな樹脂の追加は不要である。樹脂一体化繊維シートの単位面積当たりの質量は10~3000g/m2が好ましく、より好ましくは20~2000g/m2であり、さらに好ましくは30~1000g/m2である。
【0015】
前記一方向連続繊維は、炭素繊維、ガラス繊維及び弾性率が380cN/dtex以上の高弾性率繊維から選ばれる少なくとも一つが好ましい。前記高弾性率繊維としては、例えばアラミド繊維、とくにパラ系アラミド繊維(弾性率:380~980cN/dtex)、ポリアリレート繊維(弾性率:600~741cN/dtex)、ヘテロ環ポリマー(PBO,弾性率:1060~2200cN/dtex)繊維、高分子量ポリエチレン繊維(弾性率:883~1413cN/dtex)、ポリビニルアルコール繊維(PVA,強度:14~18cN/dtex)などがある(繊維の百科事典,522頁,2002年3月25日,丸善)。これらの繊維は樹脂強化繊維として有用である。とくに炭素繊維は有用である。
【0016】
前記樹脂一体化繊維シートの1枚の厚みは0.01~5.0mmが好ましい。この範囲の厚さの繊維シートは真空成形しやすい。真空成形の際には、この樹脂一体化繊維シートを2枚以上積層する。好ましい積層数は2~70枚、さらに好ましくは5~50枚である。
【0017】
前記熱可塑性樹脂は、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、アクリル系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリイミド系樹脂、及びポリエーテルエーテルケトン系樹脂などが使用可能であるが、これらに限定されない。
【0018】
本発明の樹脂一体化繊維シートの樹脂の付着状態は、開繊された繊維シートの表面付近に樹脂が溶融固化して付着しており、樹脂は繊維シート内部には含浸していないか又は一部含浸しているのが好ましい。前記状態であると、樹脂一体化繊維シートを複数枚積層し、真空成形するのに好ましい。
【0019】
開繊された繊維シート(以下、「開繊シート」ともいう)の幅は、炭素繊維の場合、構成繊維本数1000本当たり0.1~5.0mmが好ましい。具体的には、開繊シートの幅は、50Kまたは60Kなどのラージトウの場合は構成繊維本数1000本当たり0.1~1.5mm程度であり、12Kまたは15Kなどのレギュラートウの場合は構成繊維本数1000本当たり0.5~5.0mm程度である。ここでKは1000本のことである。1本当たりのトウの構成繊維本数が増加するほど、繊維の捩れが大きくなり開繊しにくくなるので、開繊シートの幅も狭くなる。これにより、炭素繊維メーカーの販売する未開繊トウを拡開し、使用し易い開繊シートとし、様々な成形物に供給できる。供給糸の炭素繊維束(トウ)は5,000~50,000本/束が好ましく、この炭素繊維束(トウ)を10~280本供給するのが好ましい。このように炭素繊維束(トウ)を複数本供給して開繊し、1枚のシートにすると、炭素繊維束(トウ)と炭素繊維束(トウ)の間が開裂しやすいが、様々な方向性を有する架橋繊維が樹脂によりシートに接着固定されていると、トウ間の開裂も防止できる。
【0020】
架橋繊維の平均長さは、1mm以上が好ましく、さらに好ましくは5mm以上である。架橋繊維の平均長さが前記の範囲であれば、幅方向の強度が高く、取り扱い性に優れた炭素繊維シートとなる。
【0021】
本発明の樹脂一体化繊維シートの製造方法は、次の工程を含む。繊維シートとして炭素繊維シートを挙げて説明する。
(1)炭素繊維フィラメント群を複数のロールを通過、開繊バーを通過、及びエアー開繊から選ばれる少なくとも一つの手段により開繊させ、一方向に並列状に配列させるに際し、開繊時もしくは開繊後に架橋繊維を炭素繊維フィラメント群から発生させるか、又は開繊時もしくは開繊後に架橋繊維を炭素繊維シートに落下させ、前記架橋繊維は炭素繊維シートの面積10mm2あたり平均1本以上とする。ロール又は開繊バーを通過させて炭素繊維フィラメント群を開繊する場合、炭素繊維フィラメント群に張力をかけることで、開繊時に炭素繊維フィラメント群から架橋繊維を発生させることができる。炭素繊維フィラメント群の張力は、例えば、15,000本あたり2.5~30Nの範囲とすることができる。エアー開繊を採用する場合は、この後にロール又は開繊バーにより架橋繊維を発生させるのが好ましい。架橋繊維を炭素繊維フィラメント群から発生させた場合は、架橋繊維は、炭素繊維シートを構成する炭素繊維と交錯した状態となる。ここで交錯とは、絡み合いを含む。例えば、架橋繊維の一部または全部は炭素繊維シート内に存在し、一方向に配列されている炭素繊維と立体的に交錯している。
(2)開繊された炭素繊維シートに粉体樹脂を付与する。
(3)加圧フリー(加圧なし)状態で粉体樹脂を加熱溶融し、冷却し、炭素繊維シートの少なくとも表面の一部に部分的に樹脂を存在させる。この際に、架橋繊維を表面の樹脂により炭素繊維シートに接着固定させる。
【0022】
本発明の繊維強化樹脂成形体は、前記の樹脂一体化繊維シートを2枚以上積層し、真空成形したものである。樹脂一体化繊維シートを2枚以上積層する際には、一方向連続繊維の方向を変えて積層してもよい。例えば、0°/45°/90°/135°/180°/・・・,0°/90°/180°/・・・等のように変えることができる。これにより、成形体に要求される力学特性を有する成形体が得られる。成形体としては、自動車のボンネット、ドア、バンパー、テーブルの天板などの大型シート状物が好適である。
【0023】
本発明の繊維強化樹脂成形体の製造方法は、樹脂一体化繊維シートを真空成形し繊維強化樹脂成形体を製造する際に、真空ラインを有する下金型から前記樹脂一体化繊維シートを真空成形し、上金型から圧空プレスする。前記真空成形は、真空圧空成形であることが好ましい。具体的には下記の方法が好ましい。すなわち、真空ラインを有する下金型と、下面にバッギングフィルムを有する上金型を含む真空成形装置を用いて、
a 下金型の上に2枚以上積層した樹脂一体化繊維シートを載せ、バッギングフィルムを被せる工程と、
b 下金型の真空ラインから減圧し、減圧と同時に昇温する工程と、
c 前記樹脂一体化繊維シートを、熱可塑性樹脂の軟化点以上の温度に加熱した状態でバッギングフィルムの上部から圧空により樹脂一体化繊維シートを加圧し真空圧空成形する工程と、
d 圧力条件は維持したまま冷却し、冷却後に成形体を脱型する工程、
により成形する。
以上の成形方法により、10分/1サイクルが可能であり、好ましくは7分/1サイクルが可能である。前記バッギングフィルムは、バギングフィルム又は真空バッグフィルムともいう。
【0024】
以下図面を用いて説明する。以下の図面において、同一符号は同一物を示す。
図1は本発明の一実施形態の樹脂一体化炭素繊維シート1の模式的斜視図、
図2は同、樹脂一体化炭素繊維シート1の幅方向の模式的断面図である。開繊された一方向炭素繊維2の表面には架橋繊維3が様々な方向に配置している。また一方向炭素繊維2の表面付近に樹脂4が溶融固化して付着しており、樹脂4は一方向炭素繊維2の内部には含浸していないか又は一部含浸している程度である。樹脂4は架橋繊維3を一方向炭素繊維2の表面に接着固定している。
図2に示すように、一方向炭素繊維2の表面には架橋繊維3a,3bが存在する。架橋繊維3aは全部が一方向炭素繊維2の表面にある。架橋繊維3bは一部が一方向炭素繊維2の表面にあり、一部は内部に入って炭素繊維と交錯した状態である。樹脂4は架橋繊維3を一方向炭素繊維2の表面に接着固定している。また、樹脂4が付着している部分と、樹脂が付着していない部分5がある。樹脂が付着していない部分5は、樹脂一体化炭素繊維シート1を複数枚積層状態で加熱し、真空して繊維強化樹脂成形品に成形する際に、繊維シート内部の空気がこの部分から抜ける通路となり、加圧により表面の樹脂が繊維シート内全体に含浸しやすくなる。これにより樹脂4は繊維強化樹脂成形体のマトリックス樹脂となる。
【0025】
図3は本発明の一実施形態の樹脂一体化炭素繊維シートの製造方法を示す模式的工程図である。多数個の供給ボビン7から炭素繊維フィラメント群(トウ)8を引き出し、開繊ロール21a-21jの間を通過させることで、開繊させる(ロール開繊工程23)。ロール開繊に代えて、エアー開繊としてもよい。開繊ロールは固定又は回転してもよく、幅方向に振動してもよい。
開繊工程の後、開繊されたトウをニップロール9a,9b間でニップし、この間に設置した複数のブリッジロール12a-12bの間を通過させ、トウの張力を例えば15,000本あたり(1個の供給ボビンから供給される炭素繊維フィラメント群に相当)2.5~30Nの範囲でかけることで、架橋繊維を発生させる(架橋繊維発生工程24)。ブリッジロールは回転してもよく、幅方向に振動してもよい。ブリッジロールは、例えば表面が梨地、凹凸又は鏡面の複数ロールで炭素繊維フィラメント群を屈曲、固定、回転、振動又はこれらの組み合わせにより架橋繊維を発生させる。13a-13gはガイドロールである。
その後、粉体供給ホッパー14からドライパウダー樹脂15を開繊シートの表面に振りかけ、圧力フリー状態で加熱装置16内に供給し加熱し、ドライパウダー樹脂15を溶融し、ガイドロール13e-13g間で冷却する。その後、開繊シートの裏面にも粉体供給ホッパー17からドライパウダー樹脂18を振りかけ、圧力フリー状態で加熱装置19内に供給し加熱し、ドライパウダー樹脂18を溶融し、冷却し、巻き上げロール20に巻き上げられる(粉体樹脂付与工程25)。ドライパウダー樹脂15、18は、例えばフェノキシ樹脂(融点180℃)とし、加熱装置16,19内の各温度は例えば樹脂の融点+20~60℃、滞留時間は例えば各4秒とする。これにより、炭素繊維開繊シートは幅方向の強度が高くなり、構成炭素繊維がバラバラになることはなく、シートとして扱えるようになる。
【0026】
粉体樹脂の付与は、粉体塗布法、静電塗装法、吹付法又は流動浸漬法などが採用できる。炭素繊維シート表面に粉体樹脂を落下させる粉体塗布法が好ましい。例えばドライパウダー状の粉体樹脂を開繊された炭素繊維シートに振りかける。
【0027】
図4は本発明の一実施形態における真空圧空成形装置の模式的断面図である。この真空圧空成形装置30は、下金型33と上金型39があり、下金型33は基台31、型台32の上に固定されており、真空ライン34が成形面35まで通じている。上金型39には圧空管40があり、空気溝37、面板38の空気孔41から下に向かって圧空を供給できる。下金型33は、電磁誘導加熱、抵抗線加熱、赤外線加熱などのヒーター42と、水冷管43により、加熱及び冷却を所定の温度に制御できる。
【0028】
図5A-Dは同、成形方法を示す模式的工程図であり、
図5Aは準備工程、
図5Bは加熱昇温工程、
図5Cは加熱真空圧空成形工程、
図5Dは冷却、脱型工程を示す。まず
図5Aに示すように、下金型33の上に2枚以上積層した樹脂一体化繊維シート44を載せ、バッギングフィルム45を被せ、下金型33の真空ライン34から減圧する。次に
図5Bに示すように、樹脂一体化繊維シート44を、熱可塑性樹脂の軟化点以上の温度に加熱昇温する。次に
図5Cに示すように、バッギングフィルム45の上部から圧空により樹脂一体化繊維シート44を加圧し真空圧空成形する。最後に
図5Dに示すように、成形体46を冷却し取り出す。バッギングフィルムとしては、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂フィルム、あるいはポリイミド樹脂フィルム、シリコーン樹脂フィルム等の耐熱性フィルムを使用できる。
【0029】
図6は同、工程操作を示すグラフである。工程1では、下金型の上に2枚以上積層した樹脂一体化繊維シート44を載せ、バッギングフィルム45を被せる。工程2では、下金型33の真空ライン34から減圧し、減圧と同時に昇温する。工程3では、温度が例えば225℃まで達した後に、120秒間維持し、同時にバッギングフィルム45の上部から圧空により樹脂一体化繊維シート44を加圧し真空圧空成形する。工程4では、圧力条件は維持したまま冷却し、冷却後に成形体46を脱型する。下金型33の真空ライン34からの減圧度は、0~0.1MPaが好ましく、上金型39の圧空管40からの空気圧は0.1~2.0MPaが好ましい。
【0030】
本発明の利点をまとめると次のようになる。
(1)プリプレグと異なり、セミプレグであるためダイレクト成形が可能である。
(2)プリプレグと異なり、セミプレグであるため高サイクル成形ができ、賦形性、成形性が優れている。
(3)熱可塑性樹脂がパウダー状で熱融着しているため繊維間への含浸性が良い。すなわち、フィルムと異なり、成形時に空気抜けが優れていて、ボイドが発生しにくい。
(4)繊維一体化樹脂シートの繊維が、例えば炭素繊維のように連続繊維である(短繊維ではない)。このため、薄くて強度の高い成形体が得られる。
(5)真空成形は、下部から吸引により減圧を行うが、上部から空気により加圧することが好ましい(真空圧空成形)。
(6)真空成形はバッギングフィルムにより均一に圧力がかかる成形方法であるため、大きい成形体が可能である。
(7)真空成形はバッギングフィルムによる成形のため、平板状だけでなく、深絞り状の3次元な形状でも成形可能である。
(8)樹脂に対する熱履歴を減らすことができる。
・プリプレグ:シート作成時長時間+スタンパブルシート作成時+予備加熱時+成形時
・セミプレグ:シート作成時短時間+成形時のみ加熱
以上のとおり、セミプレグは成形時間を高速にできる。
(9)成形プリプレグ(中間積層体)を成形することも完成品の成形体を成形することも可能である。
(10)プリプレグでは軟化後、成形金型へ移動させるときに冷えるため、成形品表面の平滑性(金型の転写性)が悪い。本発明はダイレクト成形であるため成形品表面の平滑性が良い。
(11)プリプレグでは軟化後、成形金型へ移動させるときに冷えるため、成形品にある程度の厚みが必要(薄い成形品はできない)。本発明はダイレクト成形であるため、基材の成形金型への移し替えが不要である。
【実施例】
【0031】
以下実施例を用いて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
(1)炭素繊維未開繊トウ
炭素繊維未開繊トウは三菱ケミカル社製、品番:PYROFILE TR 50S15L、形状:レギュラートウ フィラメント15K(15,000本)、単繊維直径7μmを使用した。この炭素繊維未開繊トウの炭素繊維にはエポキシ系化合物がサイジング剤として付着されている。
(2)未開繊トウの開繊手段
図3の開繊手段を使用して開繊した。開繊工程において、炭素繊維フィラメント群(トウ)の張力は15,000本あたり15Nとした。このようにして炭素繊維フィラメント構成本数15K、幅500mm、厚み0.08mmの開繊シートとした。架橋繊維は3.3質量%であった。
(3)セミプレグ
ドライパウダー樹脂としてポリプロピレン、融点:150~165℃(プライムポリマー社製)を使用した。ドライパウダー樹脂の平均粒子径は80μmであった。この樹脂は、炭素繊維1m
2に対して平均片面27.8g、両面で55.6g付与した。加熱装置16,19内の温度は各170℃、滞留時間は各4秒とした。得られた樹脂一体化繊維シートの質量は75g/m
2、繊維体積(Vf)は、45体積%、熱可塑性樹脂55体積%であった。
(4)積層条件
・樹脂一体化繊維シートの積層枚数:10枚
・樹脂一体化繊維シートの繊維方向:二方向(直行方向に積層)
0°/90°/0°/90°/0°/0°/90°/0°/90°/0°とした。
(5)真空圧空成形
図4~
図6に示す装置及び条件で真空圧空成形を実施した。
・工程1:下金型の上に2枚以上積層した樹脂一体化繊維シートを載せ、バッギングフィルムを被せた。バッギングフィルムは厚さ2mmのフッ素樹脂フィルムを用いた。
・工程2:下金型の真空ラインから0.1MPaで減圧し、減圧と同時に昇温を開始した。
・工程3:温度が225℃まで達した後に、120秒間維持し、同時にバッギングフィルムの上部から圧空により樹脂一体化繊維シートを0.8MPaで加圧し、真空圧空成形した。
・工程4:圧力条件は維持したまま60℃まで冷却し、冷却後に減圧ラインと加圧ラインを切り、成形体を脱型した。
工程1~工程4の1サイクルは400秒であった。
【0033】
(実施例2)
表1に示す成形条件を変えた以外は実施例1と同様にして成形体を得た。
成形条件を表1に示す。
【0034】
【0035】
各実施例で得られた成形品から、
図7に示すように測定サンプルを切り出した。すなわち、成形品50のタテ方向(矢印51、表面の繊維方向0°)に沿って長いサンプル52と、表面の繊維方向90°のサンプル53とをそれぞれ6個ずつ切り出した。そして、23℃、相対湿度50%で48時間以上静置した。その後、各サンプルの長さ、幅、厚さを測定し、平均値を表2に示す。
【0036】
【0037】
<3点曲げ試験>
作製したサンプルの3点曲げ試験をJIS K7074に準拠して行った。測定条件は下記のとおりである。各サンプルの測定値の平均値を表3に示す。
・治具:圧子=R5,支点=R2(Rは角の半径,単位mm)
・下部支持間隔:60mm
・試験速度5mm/min
<表面粗さ試験>
作製したサンプルの表面粗さ試験をJIS B0601に準拠して行った。測定条件は下記のとおりである。各サンプルの測定値の平均値を表4に示す。
・測定器:Surftest201 (ミツトヨ)
・触針材質:ダイヤモンド
・触針先端半径:5μm
・測定力:4mN
・駆動方式:1回の往復移動(自動後退)
・駆動速度:測定時 0.5mm/sec、後退時 1mm/sec
・カットオフ長さ:0.8mm
・基準長さ:0.8mm
・評価長さ:4mm
・サンプリング間隔:0.8μm
【0038】
【0039】
【0040】
表3から明らかなとおり、実施例1及び2の成形品の3点曲げ試験の結果は、実用に十分な性能を有していることがわかった。また、表4から明らかなとおり、実施例1~2の成形品の表面粗さは滑らかな表面であり、完成品の成形体として利用できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の繊維強化樹脂成形体は、建築部材、ノートパソコンの筐体、ICトレイ、靴やスティックなどのスポーツ用品、風車、自動車、鉄道、船舶、航空、宇宙などの一般産業用途等において広く応用できる。
【符号の説明】
【0042】
1 樹脂一体化炭素繊維シート
2 一方向炭素繊維
3,3a,3b 架橋繊維
4 樹脂
5 樹脂が付着していない部分
6 開繊装置
7 供給ボビン
8 炭素繊維フィラメント群(炭素繊維未開繊トウ)
9a,9b ニップロール
12a-12b ブリッジロール
13a-13g ガイドロール
14,17 粉体供給ホッパー
15,18 ドライパウダー樹脂
16,19 加熱装置
20 巻き上げロール
21a-21j 開繊ロール
23 ロール開繊工程
24 架橋繊維発生工程
25 粉体樹脂付与工程
30 真空圧空成形装置
31 基台
32 型台
33 下金型
34 真空ライン
35 成形面
36 上金型本体
37 空気溝
38 面板
39 上金型
40 圧空管
41 空気孔
42 ヒーター
43 水冷管
44 樹脂一体化繊維シート
45 バッギングフィルム
46 成形体
50 成形品
51 成形品のタテ方向
52 表面の繊維方向0°のサンプル
53 表面の繊維方向90°のサンプル