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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】シート内蔵エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/207 20060101AFI20240711BHJP
   B60N 2/42 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
B60R21/207
B60N2/42
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022021698
(22)【出願日】2022-02-16
(65)【公開番号】P2023119079
(43)【公開日】2023-08-28
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】110003155
【氏名又は名称】弁理士法人バリュープラス
(74)【代理人】
【識別番号】100098143
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 雄二
(72)【発明者】
【氏名】小林 優斗
(72)【発明者】
【氏名】桜井 努
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2021/0221316(US,A1)
【文献】特開2019-172149(JP,A)
【文献】特開昭59-075842(JP,A)
【文献】実開昭57-017543(JP,U)
【文献】特開2002-145003(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0093224(US,A1)
【文献】米国特許第11180102(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0275974(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/207
B60N 2/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用シートの座面下部に収容されるエアバッグ装置であって、
当該エアバッグ装置は、シートの座面の左右に配置され、各々独立して動作可能な左側エアバッグモジュールと、右側エアバッグモジュールとを含み、
前記左側エアバッグモジュールと前記右側エアバッグモジュールの各々は、膨張展開することで乗員を拘束するエアバッグと、前記エアバッグに対して膨張ガスを供給するガス発生器とを含み、
前記エアバッグは、乗員の大腿部の下で膨張展開する下部チャンバと、乗員の大腿部の外側部で膨張展開する側部チャンバとを含み、
車両の側面衝突が発生したときは、当該衝突の側(ニアサイド)のエアバッグモジュールを起動する一次展開を行い、続いて、当該衝突と反対側(ファーサイド)のエアバッグモジュールを起動する二次展開を行うことを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項2】
車両の正面衝突が発生したときは、前記左側エアバッグモジュールと前記右側エアバッグモジュールの両方を起動することを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
車両の左側からの側面衝突が発生したときは、前記左側エアバッグモジュールを起動し、
車両の右側からの側面衝突が発生したときは、前記右側エアバッグモジュールを起動することを特徴とする請求項1又は2に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記二次展開の際に、前記一次展開で起動したエアバッグモジュールのエアバッグのガスを外部に放出することを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
前記衝突と反対側のファーサイドのシートでは、前記二次展開を行わないことを特徴とする請求項1又は4に記載のエアバッグ装置。
【請求項6】
前記下部チャンバは、座面の前後方向の中心よりも前方に偏って膨張展開することを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項7】
前記側部チャンバは、前記下部チャンバの後端部よりも後方に延びる延長チャンバ部分を有することを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項8】
前記延長チャンバ部分は、乗員の骨盤近傍を拘束可能に構成されていることを特徴とする請求項7に記載のエアバッグ装置。
【請求項9】
前記下部チャンバと前記側部チャンバは、各々別の布製パネルによって成形されることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項10】
前記下部チャンバと前記側部チャンバは、パネルの長手方向両端部を縫製することにより筒状体を形成する布製パネルと、前記筒状体の前後の開放端部を覆う前後パネルとによって成形されることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項11】
前記ガス発生器は、前記下部チャンバの内部に収容されることを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項12】
前記下部チャンバと前記側部チャンバとの境界部には、前記下部チャンバの内部の膨張ガスが前記側部チャンバに流入するように、内部ベントが設けられていることを特徴とする請求項11に記載のエアバッグ装置。
【請求項13】
前記内部ベントは、前記下部チャンバと前記側部チャンバとの境界部分に配置された仕切りパネルに設けられていることを特徴とする請求項12に記載のエアバッグ装置。
【請求項14】
請求項1乃至13の何れか1項に記載のエアバッグ装置を備えたことを特徴とする車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに内蔵されるエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の事故発生時に乗員を保護するために、1つまたは複数のエアバッグを車両に設けることは周知である。エアバッグとしては、例えば、自動車のステアリングホイールの中心付近から膨張して運転者を保護する、いわゆる運転者用エアバッグ、自動車の窓の内側で下方向に展開して車両横方向の衝撃や横転、転覆事故時に乗員を保護するカーテンエアバッグ、車両横方向の衝撃時に乗員を保護すべく乗員とサイドパネルとの間で展開するサイドエアバッグなどの様々な形態がある。
【0003】
車両が前方衝突した場合、慣性によって乗員は前方へ移動しようとするため、乗客がシートベルトから抜けて座席から滑り落ち、足元の空間にもぐり込んでしまう、所謂「サブマリン現象」が発生する場合がある。特に、座席のリクライニングを倒した体勢だと、サブマリン現象が起こりやすくなる。サブマリン現象が発生すると、シートベルトが乗員の腹部や胸部、最悪の場合には頚部に引っ掛かり当該部位を圧迫する恐れがある。
【0004】
このため、特許文献1に示すように、シート内のエアバッグを膨張させることでシートクッションの前端部分を上昇させ、乗員の腰部の前方移動を拘束する発明が提案されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された発明等の既存の方法では、正面衝突が発生した時にサブマリン現象を抑制できるものの、側面衝突が発生したときには、効果的に乗員を拘束することが困難であった。すなわち、側面衝突によって乗員の横方向へのスライドを拘束することはできず、サイドエアバッグ等の他のエアバッグに依存する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-118820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記のような状況に鑑みてなされたものであり、側面衝突の際に乗員の横方向への移動を効果的に拘束可能なエアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記のような目的を達成するために、本発明は、車両用シートの座面下部に収容されるエアバッグ装置であって、当該エアバッグ装置は、シートの座面の左右に配置され、各々独立して動作可能な左側エアバッグモジュールと、右側エアバッグモジュールとを含む。 前記左側エアバッグモジュールと前記右側エアバッグモジュールの各々は、膨張展開することで乗員を拘束するエアバッグと、前記エアバッグに対して膨張ガスを供給するガス発生器とを含む。そして、前記エアバッグは、乗員の大腿部の下で膨張展開する下部チャンバと、乗員の大腿部の外側部で膨張展開する側部チャンバとを含む。
【0009】
ここで、「シートの座面下部」とは、乗員が着座するシートクッション部分の内部を意味するものである。
【0010】
上記のような本発明においては、各々独立して動作可能な左側エアバッグモジュールと、右側エアバッグモジュールとを備えているため、これらのエアバッグモジュールを衝突の形態に応じて選択的に起動することができ、効果的に乗員を拘束することが可能となる。
【0011】
また、エアバッグが大腿部の下で膨張展開する下部チャンバと、大腿部の祖側部で膨張展開する側部チャンバとを備えているため、下部チャンバによって乗員の前方への移動が拘束され、所謂サブマリン現象を回避することが可能となる。更に、側部チャンバによって乗員の横方向の移動を拘束することができ、側面衝突の際の乗員保護性能が向上することになる。
【0012】
車両の正面衝突が発生したときは、前記左側エアバッグモジュールと前記右側エアバッグモジュールの両方を起動することができる。
【0013】
左右両方のエアバッグモジュールを起動することによって、乗員の左右両方の大腿部の前方部分が持ち上がり、乗員の腰部が前方にスライドするのを効果的に抑制することができる。
【0014】
車両の左側からの側面衝突が発生したときは、前記左側エアバッグモジュールを起動し、 車両の右側からの側面衝突が発生したときは、前記右側エアバッグモジュールを起動することができる。
【0015】
車両の左側からの側面衝突が発生したときは、乗員は慣性によってシートに対して左方向に移動しようとするが、その左方向への移動を左側エアバッグモジュールの側部チャンバによって規制することができる。また、下部チャンバによって座面の左側のみが持ち上がるため、座面の左側が右側よりも高くなり、乗員が左側に移動する際の抵抗となり、左方向への移動を効果的に抑制することができる。なお、右側からの側面衝突の場合も同様である。
【0016】
車両の側面衝突が発生したときは、当該衝突の側(ニアサイド)のエアバッグモジュールを起動する一次展開を行い、続いて、当該衝突と反対側(ファーサイド)のエアバッグモジュールを起動する二次展開を行うことができる。
【0017】
上記のように一次展開と二次展開に時間差を設けるという動作は、一次展開と二次展開との起動時間にタイムラグがあり、ニアサイド側からファーサイド側に乗員が動くタイミングに合わせて左右各々のエアバッグをフル展開させるタイミング(時間)を制御する意味を含むものである。
【0018】
車両の左側から側面衝突が発生した直後は、上述したように、乗員は左側に移動するが、その後は、反動で右側に振り戻される(リバウンドする)ことになる。左側エアバッグモジュールの起動から若干遅れて右側エアバッグモジュールを起動すると、右側に振り戻された乗員の右方向への移動を拘束することができ、右隣席の他の乗員との接触を回避することが可能となる。なお、右側からの側面衝突の場合も同様である。
【0019】
前記二次展開の際に、前記一次展開で起動したエアバッグモジュールのエアバッグのガスを外部に放出することができる。ガスの排気は、アクティブベントを使用して行うことができる。
【0020】
例えば、車両の左側から側面衝突が発生し、二次展開で右側エアバッグモジュールを起動するタイミングで、一次展開によって膨張展開した左側エアバッグモジュールのガスを排気することにより、左側エアバッグモジュールが萎むことになる。そのため、座面の左側に比べて右側が高くなり、乗員が右側にスライドし難くなる。その結果、右側エアバッグモジュールの展開によって乗員が振り戻されて右方向に移動するの規制する機能を、更に効果的に発揮することが可能となる。なお、右側からの側面衝突の場合も同様である。
【0021】
前記衝突と反対側のファーサイドのシートでは、前記二次展開を行わない構成とすることができる。
【0022】
前記下部チャンバは、座面の前後方向の中心よりも前方に偏って膨張展開することができる。
【0023】
ここで、「前方に偏って」とは、下部チャンバの前後方向の中心が座面の中心よりも前方に位置する状態を意味し、必ずしも下部チャンバの全体が座面中心よりも前方に位置する必要はない。また、下部チャンバ自体が座面の前方に偏って配置される場合と、下部チャンバが座面の中心付近もしくは中心より若干後方に位置するが、前方に偏って展開する場合とを含む。
【0024】
下部チャンバを座面の前方寄りに配置することにより、当該チャンバが膨張展開した時に、座面の前方部分が上昇し、乗員の膝が持ち上がるような格好となる。これによって、乗員の前方移動を効果的に抑制することが可能となる。
【0025】
前記側部チャンバは、前記下部チャンバの後端部よりも後方に延びる延長チャンバ部分を有する構成とすることができる。
【0026】
側部チャンバが後方に延びて展開することにより、乗員の側方への移動を効果的に拘束することが可能となる。
【0027】
前記延長チャンバ部分は、乗員の骨盤近傍を拘束可能に構成することが好ましい。
【0028】
前記下部チャンバと前記側部チャンバは、各々別の布製パネルによって成形することができる。なお、下部チャンバと側部チャンバは、各々1枚のパネルで成形することが好ましい。
【0029】
前記下部チャンバと前記側部チャンバは、上下及び左右方向に延びる筒状体を形成する布製パネルと、前記筒状態の前後の端部を覆う側面パネルとによって成形されることができる。なお、1枚のパネルで筒状態を形成することが好ましく、側面パネルは両端部の各々を1枚のパネルで成形することが好ましい。
【0030】
前記インフレータは、前記下部チャンバの内部に収容することができる。
【0031】
前記下部チャンバと前記側部チャンバとの境界部には、前記下部チャンバの内部の膨張ガスが前記側部チャンバに流入するように、内部ベントを設けることができる。
【0032】
前記内部ベントは、前記下部チャンバと前記側部チャンバとの境界部分に配置された仕切りパネルに設けることができる。
【0033】
なお、本出願の明細書及び特許請求の範囲において、乗員が正規の姿勢で座席に着座した際に、乗員が向いている方向(車両の進行方向)を「前方」、その反対方向を「後方」と称し、座標の軸を示すときは「前後方向」と言う。また、乗員が正規の姿勢で座席に着座した際に、乗員の右手側を「右方向」、乗員の左手側を「左方向」と称し、座標の軸を示すときは「左右方向」と言う。また、座面の左右方向において、座面の中心に向かう方向を「内」とし、座面の外側縁部に向かう方向を「外」とする。更に、乗員が正規の姿勢で座席に着座した際に、乗員の頭部方向又は鉛直上方を「上方」、乗員の足方向又は鉛直下方を「下方」と称し、座標の軸を示すときは「上下方向」と言う。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1は、本発明に係るエアバッグ装置を搭載可能な車両用シートの主に外観形状を示す斜視図である。
図2図2は、図1に示す車両用シートの骨組みとして機能する内部構造体(シートフレーム)を示す斜視図である。
図3図3は、本発明に係るエアバッグ装置を搭載した車両用シートの概略側面図であり、車幅方向の外側から透視した様子を概略的に示す。
図4図4は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置の展開の様子を概略的に示す模式図である。
図5図5は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置の収容状態を概略的に示すものであり、(A)が上面模式図(俯瞰図)、(B)が正面模式図、(C)が左側面模式図である。
図6図6は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置の展開状態を概略的に示すものであり、(A)が上面模式図(俯瞰図)、(B)が正面模式図、(C)が左側面模式図である。
図7図7は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置に使用されるエアバッグの構造を示すものであり、(A)が圧縮前の状態、(B)が圧縮後の状態、(C)が展開時の状態を示す。
図8図8は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置の動作を示す正面模式図であり、(A)がエアバッグ展開前(収容時)の状態、(B)が展開時の状態を示す。
図9図9は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置の正面衝突発生時の動作を示す正面模式図であり、(A)がエアバッグ展開前(収容時)の状態、(B)が展開時の状態を示す。
図10図10は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置の側面衝突発生時の動作を示す正面模式図であり、(A)が右側面からの衝突時のエアバッグの展開状態、(B)が左側面からの衝突時のエアバッグの展開状態を示す。
図11図11は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置の右側面衝突発生時の動作を示す正面模式図であり、(A)が一次展開の様子、(B)が二次展開の様子を示す。
図12図12は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置の右側面衝突発生時の動作を示す正面模式図であり、図11の態様と異なる態様であり、(A)が一次展開の様子、(B)が二次展開の様子を示す。
図13図13は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置のエアバッグを構成するパネル構成を示す平面図(A)と、実際に膨張展開した様子を示す斜視図(B)である。
図14図14は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置のエアバッグを構成する他のパネル構成を示す平面図(A)と、実際に膨張展開した様子を示す斜視図(B)である。
図15図15は、本発明の第2実施例に係るエアバッグ装置の展開の様子を概略的に示す模式図である。
図16図16は、本発明の第2実施例に係るエアバッグ装置のエアバッグを構成するパネル構成を示す平面図(A)と、実際に膨張展開した様子を示す斜視図(B)である。
図17図17は、本発明の第2実施例に係るエアバッグ装置のエアバッグを構成する他のパネル構成を示す平面図(A)と、実際に膨張展開した様子を示す斜視図(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態に係るエアバッグ装置について、添付図面に基づいて説明する。
【0036】
図1は、本発明に係るエアバッグ装置20L,20R(図2参照)を搭載可能な車両用シートの主に外観形状を示す斜視図である。図2は、図1に示す車両用シートの骨組みとして機能する内部構造体(シートフレーム)を示す斜視図である。図3は、本発明に係るエアバッグ装置20L,20Rを搭載した車両用シートの概略側面図であり、車幅方向の外側から透視した様子を概略的に示す。
【0037】
図1及び図2に示すように、車両用シートは、部位として観たときには、乗員が着座する部分のシートクッション2と、背もたれを形成するシートバック1と、シートバック1の上端に連結されるヘッドレスト3とによって構成されている。シートバック1は、乗員の背中が接する背面1aと、サイドサポート12とを含む。
【0038】
図2に示すように、シートバック1の内部にはシートの骨格を形成するシートバックフレーム1fが設けられ、その表面及び周囲にはウレタン発泡材等からなるパッド(図示せず)が設けられ、当該パッドの表面は皮革、ファブリック等の表皮によって覆われている。シートクッション2の底側には着座フレーム2fが配置され、シートバック1と同様に、その上面及び周囲にはウレタン発泡材等からなるパッドが設けられ、当該パッドの表面は皮革、ファブリック等の表皮によって覆われている。着座フレーム2fとシートバックフレーム1fとは、リクライニング機構4を介して連結されている。
【0039】
シートバックフレーム1fは、図2に示すように、左右に離間して配置され上下方向に延在するサイドフレーム10と、このサイドフレーム10の上端部を連結する上部フレームと、下端部を連結する下部フレームとにより枠状に構成されている。ヘッドレストフレームの外側にクッション部材を設けることでヘッドレスト3が構成される。
【0040】
図2及び図3に示すように、左右2つのエアバッグモジュール20L,20Rが、シートクッション2の内部で、左右の縁部付近に配置、固定される。
【0041】
(第1実施例)
図4は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置の展開の様子を概略的に示す模式図である。図5は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置20L,20Rの収容状態を概略的に示すものであり、(A)が上面模式図(俯瞰図)、(B)が正面模式図、(C)が左側面模式図である。また、図6はエアバッグ装置20L,20Rの展開状態を概略的に示すものであり、(A)が上面模式図(俯瞰図)、(B)が正面模式図、(C)が左側面模式図である。
【0042】
本実施例に係るエアバッグ装置は、車両用シートの座面下部に収容されるものであり、シートクッション2の左右に配置され、各々独立して動作可能な左側エアバッグモジュール20Lと、右側エアバッグモジュール20Rとを備えている。左側エアバッグモジュール20Lと右側エアバッグモジュール20Rの各々は、膨張展開することで乗員を拘束するエアバッグ(20La,20Lb,20Ra,20Rb)と、これらのエアバッグ(20La,20Lb,20Ra,20Rb)に対して膨張ガスを供給するインフレータ(22L,22R)とを備えている。エアバッグ(20La,20Lb,20Ra,20Rb)は、乗員の大腿部の下で膨張展開する下部チャンバ20La,20Raと、乗員の大腿部の外側部で膨張展開する側部チャンバ20Lb,20Rbとを含む。
【0043】
図4図5(A)、図6(A)に示すように、下部チャンバ20La、20Raは、シートクッション2の前後方向の中心X1よりも前方に偏って膨張展開する。ここで、「前方に偏って」とは、下部チャンバ20La,20Raの前後方向の中心が座面中心X1よりも前方に位置する状態を意味し、必ずしも下部チャンバ20La,20Raの全体が座面中心X1よりも前方に位置する必要はない。
【0044】
下部チャンバ20La,20Raをシートクッション2の前方寄りに配置することにより、当該チャンバ20La,20Raが膨張展開した時に、シートクッション2の前方部分が上昇し、乗員の膝が持ち上がるような格好となる。これによって、乗員の前方移動を効果的に抑制することが可能となる。
【0045】
図4図6(B),(C)に示すように、側部チャンバ20Lb,20Rbが膨張した時には、当該チャンバの上端部が、上下方向における乗員の大腿部の中心位置X2よりも上方に位置するように構成される。これによって、乗員の大腿部を側面から確実に拘束することが可能となる。
【0046】
図7は、第1実施例に係るエアバッグ装置に使用されるエアバッグの構造を示すものであり、(A)が圧縮前の状態、(B)が圧縮後の状態、(C)が展開時の状態を示す。なお、便宜上、左側エアバッグモジュール20Lについて説明するが、右側エアバッグモジュール20Rも同様の構成である。
【0047】
図7(A)に示すように、インフレータ22Lが下部チャンバ20Laの内部で、外側縁部付近に配置される。インフレータ22Lは、筒状タイプを使用することができ、前後方向に概ね平行に延びるように配置することができる。
【0048】
図7(B)に示すように、エアバッグを圧縮する際には、下部チャンバ20Laと側部チャンバ20Lbを、互いの連結部に向かって蛇腹折りや、ロールする。なお、エアバッグの圧縮方法は、蛇腹折り、ロールの一方又は、両方を組み合わせて行うこともできる。
【0049】
インフレータ22Lの位置については、図7(A)に示す位置に限らず、他の位置とすることも可能である。
【0050】
図8は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置の動作を示す正面模式図であり、(A)がエアバッグ展開前(収容時)の状態、(B)が展開時の状態を示す。
【0051】
図8(A)に示すような衝突前の状態から、左からの側面衝突が発生すると、同図(B)に示すように、左側エアバッグモジュール20Lのみを起動する。これにより、下部チャンバ20Laと側部チャンバ20Lbが展開する。
【0052】
車両の左側からの側面衝突が発生したときは、乗員Pは慣性によってシートに対して左方向に移動しようとするが、その左方向への移動を左側エアバッグモジュール20Lの側部チャンバ20Lbによって規制することができる。また、下部チャンバ20Laによって座面の左側のみが持ち上がるため、座面の左側が右側よりも高くなり、乗員Pが左側に移動する際の抵抗となり、左方向への移動を効果的に抑制することができる。なお、右側からの側面衝突の場合も同様である。
【0053】
本実施例においては、側部チャンバ20Lb,20Rbが膨張展開する際には、シートクッション2の該当箇所が開裂する。クッションの開裂の仕方については、周知のサイドエアバッグの場合と同様とすることができる。一方、下部チャンバ20La、20Raについては、シートクッション2の内部で膨張展開し、外部に露出しない構成を基本とするが、側部チャンバ20Lb,20Rbと同様に、シートクッション2を開裂して外部に露出する構成とすることも可能である。
【0054】
図9は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置の正面衝突発生時の動作を示す正面模式図であり、(A)がエアバッグ展開前(収容時)の状態、(B)が展開時の状態を示す。 図10は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置の側面衝突発生時の動作を示す正面模式図であり、(A)が右側面からの衝突時のエアバッグの展開状態、(B)が左側面からの衝突時のエアバッグの展開状態を示す。
【0055】
図9(A)に示す初期状態(衝突発生前)から、車両の正面衝突が発生したときは、同図(B)に示すように、左側エアバッグモジュール20Lと右側エアバッグモジュール20Rの両方が起動する。
【0056】
左右両方のエアバッグモジュール20L,20Rを起動することによって、乗員の左右両方の大腿部の前方部分が持ち上がり、乗員の腰部が前方にスライドするのを効果的に抑制することができる。
【0057】
図10(A)に示すように、車両の右側からの側面衝突が発生したときは、右側エアバッグモジュール20Rのみを起動する。同様に、車両の左側からの側面衝突が発生したときは、図10(B)に示すように、左側エアバッグモジュール20Lのみを起動する。
(効果)
【0058】
本発明においては、エアバッグが大腿部の下で膨張展開する下部チャンバ20La,20Raと、大腿部の外側部で膨張展開する側部チャンバ20Lb,20Rbとを備えているため、下部チャンバ20La,20Raによって乗員の前方への移動が拘束され、所謂サブマリン現象を回避することが可能となる。更に、側部チャンバ20Lb,20Rbによって乗員の横方向の移動を拘束することができ、側面衝突の際の乗員保護性能が向上することになる。
【0059】
(2段階展開)
以下、エアバッグ装置を2段階で起動する方法について説明する。すなわち、衝突の側(ニアサイド)のエアバッグモジュールを最初に起動する一次展開を行い、続いて、当該衝突と反対側(ファーサイド)のエアバッグモジュールを起動する二次展開を行う方法について説明する。
【0060】
図11は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置の右側面衝突発生時の動作を示す正面模式図であり、(A)が一次展開の様子、(B)が二次展開の様子を示す。
【0061】
図11(A)に示すように、車両の右側からの側面衝突が発生したときは、右側エアバッグモジュール20Rのみを起動する(一次展開)。車両の右側から側面衝突が発生した直後は、図11(A)に示すように、乗員は右側に移動するので、その乗員PR、PLを右側エアバッグモジュール20Rによって拘束する。その後、乗員は反動で左側に振り戻される(リバウンドする)ことになる。
【0062】
そこで、図11(B)に示すように、右側エアバッグモジュール20Rの起動から若干遅れて左側エアバッグモジュール20Lを起動する(二次展開)。左側に振り戻された乗員PRの右方向への移動が拘束され、左隣席の他の乗員PLとの接触を回避することが可能となる。なお、左側からの側面衝突の場合も、左右が逆になるだけで同様となる。
【0063】
図12は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置の右側面衝突発生時の動作を示す正面模式図であり、図11の態様と異なる態様であり、(A)が一次展開の様子、(B)が二次展開の様子を示す。
【0064】
図12示す態様と図11に示す態様との違いは、図12(B)に示されている。すなわち、二次展開の際に、衝突側(右側)に位置するシートにおいて、一次展開で起動したエアバッグモジュール20Rのガスを外部に放出することである。
【0065】
右側から側面衝突が発生し、二次展開で左側エアバッグモジュール20Lを起動するタイミングで、一次展開によって膨張展開した右側エアバッグモジュール20Rのガスを排気することにより、右側エアバッグモジュール20Rが萎むことになる。そのため、右側の座席では、シートクッションの右側に比べて左側が高くなり、乗員PRが左側にスライドし難くなる。なお、左側からの側面衝突の場合も同様である。
【0066】
(パネル構成)
図13は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置のエアバッグを構成するパネル構成を示す平面図(A)と、実際に膨張展開した様子を示す斜視図(B)である。なお、便宜上、左側エアバッグモジュール20Lについてのみ説明するが、右側エアバッグモジュール20Rについても構成的には同一である。また、インフレータ22Lについては、図示を省略する。
【0067】
図13(A)に示すように、下部チャンバ20Laは、1枚の長方形の布製パネル50の周囲を縫製することによって袋状に成形される。また、側部チャンバ20Lbは、1枚の長方形の布製パネル52の周囲を縫製することによって袋状に成形される。パネル50には複数(例えば、4個)の円形の内部ベント50aが形成され、パネル52には複数(例えば、4個)の円形の内部ベント52aが形成されている。そして、これらの内部ベント50a,52aの周囲同士を縫製することによって、図13(B)に示すように断面L字状のエアバッグが成形される。
【0068】
左側エアバッグモジュール20Lが起動すると、インフレータ22Lから放出された膨張ガスが、下部チャンバ20Laから、内部ベント50a,52aを介して側部チャンバ20Lbに流入することになる。
【0069】
図14は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置のエアバッグを構成する他のパネル構成を示す平面図(A)と、実際に膨張展開した様子を示す斜視図(B)である。なお、便宜上、左側エアバッグモジュール20Lについてのみ説明するが、右側エアバッグモジュール20Rについても構成的には同一である。
【0070】
図14(A)に示すように、下部チャンバ20La及び側部チャンバ20Lbは、1枚の長方形の布製パネル60と、L字状の2枚の前後パネル62a,62bと、仕切りパネル64とによって成形される。パネル60の長手方向両端部を縫製することによって筒状に成形し、開放端部に前後パネル62a,62bを縫製によって連結することによって、図14(B)に示すように断面L字状のエアバッグが成形される。
【0071】
前後パネル62a,62bの角部(屈曲部)には、前後方向に延びる仕切りパネル64が縫製によって連結される。仕切りパネル64には、下部チャンバ20Laと側部チャンバ20Lbとを流体的に連通させる内部ベント64aが形成されている。
【0072】
左側エアバッグモジュール20Lが起動すると、インフレータ22Lから放出された膨張ガスが、下部チャンバ20Laから、仕切りパネル64の内部ベント64aを介して側部チャンバ20Lbに流入することになる。
【0073】
(第2実施例)
図15は、本発明の第2実施例に係るエアバッグ装置の展開の様子を概略的に示す模式図である。なお、便宜上シートの左側に配置される左側エアバッグモジュール120Lを例にとって説明するが、実際には、第1実施例と同様にシートクッション2の左右両側にエアバッグモジュールが装備される(図5等参照)。
【0074】
本実施例に係るエアバッグモジュール(120L)と第1実施例に係るエアバッグモジュール20Lを比較すると、下部チャンバ20La、120Laは同一の構造であるが、側部チャンバ20Lb,120Lbの形状に相違がある。本実施例に係る側部チャンバ120Lbは、下部チャンバ120Laの後端部よりも後方に延びる延長チャンバ部分170を有している。側部チャンバ120Lbが後方に延びて展開することにより、乗員の側方への移動を効果的に拘束することが可能となる。
【0075】
(パネル構成)
図16は、本発明の第2実施例に係るエアバッグ装置のエアバッグを構成するパネル構成を示す平面図(A)と、実際に膨張展開した様子を示す斜視図(B)である。なお、便宜上、左側エアバッグモジュール120Lについてのみ説明するが、右側エアバッグモジュールについても構成的には同一である。また、インフレータについては、図示を省略する。このパネル構成は、図13に示した第1実施例のパネル構成をアレンジしたものである。
【0076】
図16(A)に示すように、下部チャンバ120Laは、1枚の長方形の布製パネル150の周囲を縫製することによって袋状に成形される。また、側部チャンバ120Lbは、1枚の布製パネル152の周囲を縫製することによって袋状に成形される。パネル150には複数(例えば、4個)の円形の内部ベント150aが形成され、パネル152には複数(例えば、4個)の円形の内部ベント152aが形成されている。そして、これらの内部ベント150a,152aの周囲同士を縫製することによって、図16(B)に示すように断面L字状のエアバッグが成形される。
【0077】
パネル154には、一対の突出部154が形成されており、これら突出部154の周囲を縫製することによって、延長チャンバ部分170が成形されることになる。
【0078】
左側エアバッグモジュール120Lが起動すると、インフレータから放出された膨張ガスが、下部チャンバ120Laから、内部ベント150a,152aを介して側部チャンバ120Lbに流入することになる。
【0079】
図17は、本発明の第2実施例に係るエアバッグ装置のエアバッグを構成する他のパネル構成を示す平面図(A)と、実際に膨張展開した様子を示す斜視図(B)である。なお、便宜上、左側エアバッグモジュール120Lについてのみ説明するが、右側エアバッグモジュール120Rについても構成的には同一である。また、インフレータについては、図示を省略する。このパネル構成は、図14に示した第1実施例のパネル構成をアレンジしたものである。
【0080】
図17(A)に示すように、下部チャンバ120La及び側部チャンバ120Lbは、1枚の布製パネル260と、L字状の2枚の前後パネル262a,262bと、仕切りパネル264とによって成形される。パネル260の長手方向両端部を縫製することによって筒状に成形し、開放端部に前後パネル262a,262bを縫製によって連結することによって、図17(B)に示すように断面L字状のエアバッグが成形される。
【0081】
L字状の2枚の前後パネル262a,262bの一方262bは、他方のパネル262aよりも縦方向に長く延びた延長部分263を備えた形状となっている。また、パネル260の端部には一対の突出部254が形成されており、これら突出部254と、パネル262bの延長部分263とを縫製によって連結することで、延長チャンバ部分170が成形されることになる。
【0082】
前後パネル262a,262bの角部(屈曲部)には、前後方向に延びる仕切りパネル264が縫製によって連結される。仕切りパネル264には、下部チャンバ120Laと側部チャンバ120Lbとを流体的に連通させる内部ベント264aが形成されている。
【0083】
左側エアバッグモジュール120Lが起動すると、インフレータから放出された膨張ガスが、下部チャンバ120Laから、仕切りパネル264の内部ベント264aを介して側部チャンバ120Lbに流入することになる。
【0084】
本発明について実施例を参照して説明したが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内において適宜変更可能なものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17