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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】溶接装置、プログラム、及び溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/127 20060101AFI20240711BHJP
   G05B 19/404 20060101ALI20240711BHJP
   B23K 31/00 20060101ALN20240711BHJP
【FI】
B23K9/127 509E
B23K9/127 508B
G05B19/404 K
B23K31/00 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022075281
(22)【出願日】2022-04-28
(65)【公開番号】P2023164003
(43)【公開日】2023-11-10
【審査請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】591027237
【氏名又は名称】コスモエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】又賀 和昭
(72)【発明者】
【氏名】神作 恵
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-022532(JP,A)
【文献】特開2011-045898(JP,A)
【文献】特開平08-090232(JP,A)
【文献】特開2021-90977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00-9/32
B23K 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御部と、記憶部とを備える溶接装置において、
前記記憶部は、管内の凹部に対する溶接条件を規定した標準プログラムであって、凹部の中心点の座標を原点として、溶接トーチの各移動点の絶対座標を相対座標に変換した標準プログラムを、凹部の形状に応じて複数記憶しており、
前記制御部は、
管内をセンシングするセンサから得られるセンサデータに基づき、管内の凹部の座標、サイズ及び形状を特定し、
特定した前記凹部の形状に応じた一の前記標準プログラムを選択し、
選択した前記標準プログラムに規定された各移動点の相対座標に、前記凹部のサイズに応じた拡大率又は縮小率を乗じ、更に前記凹部の座標を加算することにより実行プログラムを生成し、
生成した前記実行プログラムにより前記凹部への溶接を実行する
溶接装置。
【請求項2】
前記制御部は、
予め記憶されている標準プログラムを規定するパラメータの変更を受け付け、
受け付けた変更後のパラメータを有する新たな標準プログラムを記憶する
請求項1に記載の溶接装置。
【請求項3】
前記制御部は、
生成した実行プログラムを記憶部に記憶し、
前記凹部に対する溶接が完了した後に、前記記憶部に記憶した前記実行プログラムを消去する
請求項1に記載の溶接装置。
【請求項4】
管内をセンシングするセンサから得られるセンサデータに基づき、管内の凹部の座標、サイズ及び形状を特定し、
管内の凹部に対する溶接条件を規定した標準プログラムであって、凹部の中心点の座標を原点として、溶接トーチの各移動点の絶対座標を相対座標に変換した標準プログラムを、凹部の形状に応じて複数記憶する記憶部から、特定した前記凹部の形状に応じた一の前記標準プログラムを選択し、
選択した前記標準プログラムに規定された各移動点の相対座標に、前記凹部のサイズに応じた拡大率又は縮小率を乗じ、更に前記凹部の座標を加算することにより実行プログラムを生成する
処理をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項5】
管内をセンシングするセンサから得られるセンサデータに基づき、管内の凹部の座標、サイズ及び形状を特定し、
管内の凹部に対する溶接条件を規定した標準プログラムであって、凹部の中心点の座標を原点として、溶接トーチの各移動点の絶対座標を相対座標に変換した標準プログラムを、凹部の形状に応じて複数記憶する記憶部から、特定した前記凹部の形状に応じた一の前記標準プログラムを選択し、
選択した前記標準プログラムに規定された各移動点の相対座標に、前記凹部のサイズに応じた拡大率又は縮小率を乗じ、更に前記凹部の座標を加算することにより実行プログラムを生成し、
生成した前記実行プログラムにより前記凹部への溶接を実行する
溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接装置、プログラム、及び溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接を支援するための技術がいくつか提案されている。たとえば、製造工場において、作業者が容易に動作教示できる溶接ロボットシステムが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-150930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
石油または天然ガス等を送るための配管内(以下「管内」という)では、金属の酸化等により、様々な形状の腐食があらゆる位置に起こり、配管機能が損なわれる。配管を修復する際には作業者が管内に立ち入り、配管の表面を金属で覆う肉盛溶接(以下「溶接補修」という)を実行する。
【0005】
管内のような過酷な溶接環境下では、効率的かつ作業者の負担が少ない溶接補修が求められる。しかし、特許文献1に開示された技術は、製造工場のような固定化されている溶接環境に適しており、管内への導入は困難である。そのため、管内における溶接補修の効率が作業者の習熟度に依存するほか、作業者の負担が軽減されないという問題が生じていた。
【0006】
一つの側面では、管内に散在する腐食箇所の溶接補修を好適に実施することができる溶接装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一つの側面に係る溶接装置は、制御部と、記憶部とを備える溶接装置において、前記記憶部は、管内の凹部に対する溶接条件を規定した標準プログラムであって、凹部の中心点の座標を原点として、溶接トーチの各移動点の絶対座標を相対座標に変換した標準プログラムを、凹部の形状に応じて複数記憶しており、前記制御部は、管内をセンシングするセンサから得られるセンサデータに基づき、管内の凹部の座標、サイズ及び形状を特定し、特定した前記凹部の形状に応じた一の前記標準プログラムを選択し、選択した前記標準プログラムに規定された各移動点の相対座標に、前記凹部のサイズに応じた拡大率又は縮小率を乗じ、更に前記凹部の座標を加算することにより実行プログラムを生成し、生成した前記実行プログラムにより前記凹部への溶接を実行する。
【発明の効果】
【0008】
一つの側面では、管内に散在する腐食箇所の溶接補修を好適に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】溶接装置の外観を示す模式図である。
図2】溶接装置の構成例を示すブロック図である。
図3】制御装置の構成例を示すブロック図である。
図4】タスクプログラムの一例を示す説明図である。
図5】タスクプログラムを標準プログラムに変換する様子を示す説明図である。
図6】凹部のサイズ及び形状に応じた標準プログラムを示す説明図である。
図7】実行プログラムの一例を示す説明図である。
図8】溶接装置が実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。
図9】実施の形態2の概要を示す説明図である。
図10】実施の形態2に係る溶接装置が実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。
図11】凹部の自動計測を行う様子を示す説明図である。
図12】実施の形態3に係る凹部の溶接補修の様子を示す説明図である。
図13】実施の形態3に係る溶接装置が実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施の形態1)
本実施の形態では、配管の腐食により管内に散在する凹部(腐食箇所)の溶接補修を行う溶接装置について説明する。図1は、溶接装置11の外観を示す模式図である。図2は、溶接装置11の構成例を示すブロック図である。
【0011】
図1図2に示すように、溶接装置11は、溶接トーチ12とロボットアーム13とを有する溶接機14と、配管15内をセンシングするセンサ16と、溶接機14を配管に対して接地するための接地機構20と、溶接トーチ12とロボットアーム13と設置機構とを制御する制御装置17と、溶接機14、センサ16、接地機構20、及び制御装置17に電力を供給する発電機18と、配管15内を照らすための光源21と、溶接機14の溶接トーチ12に供給するためのシールドガスを貯留したガスボンベ22と、制御装置17にコマンドを入力するためのコントローラ23と、これらを載置した1以上の台車24と、を備える。
【0012】
補修対象となる配管15は、炭素鋼製であることが多い。台車24は、一台で構成されていてもよいし、2以上で構成される場合には互いに連結部を介して連結されていてもよい。
【0013】
溶接機14は、たとえば、一部がロボット化されたコンピュータ制御によって半自動的に動作する半自動溶接機(GMAW;CO2、MAG(Metal Active Gas))で構成される。溶接機14は、ガスシールドアーク溶接機であり、Gas Metal Arc Weldingと呼ばれる溶接法を用いる。このGas Metal Arc Weldingと呼ばれる溶接法には、CO2溶接またはMAG溶接が含まれる。
【0014】
溶接機14は、制御装置17に記憶されたプログラムに従い、配管15内で自動的に溶接を行うことができる。溶接機14は、溶接棒を兼ねる接線ワイヤとその外側のガスノズルとを含む溶接トーチ12と、溶接トーチ12を支持するロボットアーム13と、を有する。接線ワイヤは、ガスシールドアーク溶接時の電極を構成する。
【0015】
溶接機14は、発電機18から電力供給を受けて各部に電力を供給する図示しない電源回路を有する。溶接機14は、配管15に対して電気的に接続するアース線19を有する。溶接機14は、配管15の底部に対して溶接補修を行うことができる。
【0016】
接地機構20は、溶接機14に接続されたアース線19の途中に介在されている。接地機構20は、たとえば、アース線19が周囲に巻き回されたドラムと、ドラムを回転駆動するモータと、を有する。モータは、たとえば、サーボモータで構成される。
【0017】
接地機構20は、たとえば、制御装置17からの制御でモータを正転または逆転させ、ドラムを正方向または逆方向に回転させることで、アース線19の先端を配管15の内面に当接させたり、アース線19の先端を配管15の内面から離間させたりすることができる。
【0018】
なお、接地機構20の構成は、上記に限定されるものではなく、たとえば、スピンドルのような進退機構でアース線19の先端を配管15に押し当てるものであっても良い。
【0019】
ロボットアーム13は、たとえば、直交3軸移動ロボット(X軸Y軸Z軸移動テーブル)で構成されているが、それ以外の多関節型のアーム形ロボットで構成されていてもよい。
【0020】
センサ16は視覚センサであり、撮像素子(CCD(Charge Coupled Device)センサまたはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサ及びレンズを有する一般的なカメラまたはビデオカメラで構成されており、配管15内の様子を画像情報として取得できる。あるいは、センサ16は、レーザ光を用いて凹部までの距離と、凹部及びその周囲の凹凸の高さの変位と、を測定可能なレーザ変位計(laser displacement sensor)であってもよい。
【0021】
レーザ変位計で構成されるセンサ16は、凹部を含む配管15の内面の凹凸を3次元的に取得することで得られる情報を画像情報として取得できる。センサ16で取得した画像情報は、制御装置17に送られて制御装置17の記憶装置に蓄積される。
【0022】
センサ16は、暗視カメラ等の別途に光源21を必要としないカメラ等で構成されていてもよい。センサ16は、配管15の凹部と溶接トーチ12との間の距離を測定可能なレーザ測定器またはその他の距離センサを有していてもよい。
【0023】
制御装置17は、一般的なPC(パーソナルコンピュータ)で構成されているが、それ以外のワンチップマイコン、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、その他のコンピュータ等で構成されていてもよい。
【0024】
制御装置17は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)・RAM(Random Access Memory)・HDD((Hard Disk Drive)・SSD(Solid State Drive)等の記憶装置と、それらを接続する内部バスと、CPUに電気的に接続されてロボットアーム13のモータを駆動したり、溶接トーチを制御したりする各種のドライバIC(Integrated Circuit)と、を有する。
【0025】
記憶装置は、溶接機14のロボットアーム13及び溶接トーチ12を制御するための各種の制御プログラム(制御用ソフトウェア)を記憶している。また、記憶装置は、センサ16で取得した画像情報を画像解析する画像解析プログラム(画像解析用ソフトウェア)を記憶している。記憶装置は、センサ16から送られた画像情報を随時記憶することができる。
【0026】
コントローラ23は、作業者がコマンドを入力するための複数の操作ボタン25と、作業者によって操作ボタン25を介して入力されたコマンドを表示したり制御装置17からのエラーメッセージを表示したりするための表示部26と、を有する。
【0027】
発電機18は、一般的なディーゼルエンジン発電機で構成されている。台車24は、金属材料によって構成された一般的な台車24(トロッコ)で構成されている。台車24は、モータ及びギアボックスを有し、制御装置17の制御下で、発電機18(溶接機14の電源回路)から電力供給を受けたモータによって自走するものであるが、管理者の人力によって前進・後退できるものであってもよい。
【0028】
光源21は、発電機18から電力供給を受けて配管15内を照らすことができる。光源21は、たとえば、LED照明で構成されているが、ハロゲンランプ等の他の光源ランプで構成されていてもよい。センサ16が暗視カメラで構成される場合には、光源21を省略してもよい。
【0029】
ガスボンベ22は、シールドガス(COガスまたはアルゴン等の不活性ガス)を内側に貯留しており、溶接機14からの操作を受けて、シールドガスの量を調整して溶接トーチ12のガスノズルにシールドガスを供給できる。
【0030】
図3は、制御装置17の構成例を示すブロック図である。
【0031】
制御装置17は、制御部170、メモリ171、記憶部172を備える。制御部170は、一又は複数のCPU等の演算装置であり、溶接装置11に係る種々の情報処理を実行する。メモリ171はRAM等の一時記憶領域であり、実行プログラムBを一時的に記憶する。記憶部172はROM等の記憶装置であり、制御部170に処理を実行させるプログラムP(プログラム製品)、複数の標準プログラムAを記憶している。標準プログラムA、実行プログラムBについては後述する。
【0032】
なお、制御装置17は可搬型記憶媒体17aを読み取る読取部を備え、可搬型記憶媒体17aからプログラムPを読み込んでもよい。また、制御装置17は、他のコンピュータからプログラムPをダウンロードしてもよい。
【0033】
図4は、タスクプログラムの一例を示す説明図である。以下では本実施の形態の概要を説明する。
【0034】
なお、以下の説明では、溶接装置11の進行方向をX方向、進行方向と直行する方向をY方向、深さ方向をZ方向として説明する(図4参照)。また、配管表面の任意の点を原点とする。
【0035】
図4左側では、半円球状の凹部に対し、溶接トーチ12が移動しながら溶接補修を行う様子を図示している。図4に示すように、凹部の溶接補修を行う場合、溶接トーチは凹部の中心点(補修起点という)P1からスタートして複数の移動点(補修完了点という)P2~P4を移動しながら、溶接補修を行う。最終的に、溶接トーチは凹部外の退避位置P5へと移動し、凹部の溶接補修を完了する。
【0036】
上記のように溶接を行う場合、溶接装置11は、図4右側に概念的に例示するプログラム(以下、「タスクプログラム」と呼ぶ)を実行することにより溶接補修を行う。当該タスクプログラムは、管内の凹部に対する溶接条件を規定する。具体的には、凹部のサイズ(大きさ及び深さ)、形状、溶接トーチ12の位置情報及び姿勢角、溶接速度、溶接電流、ならびに溶接電圧等の各種パラメータを規定する。
【0037】
図4右側の例では、1行目の「Prog」はプログラムの番号を表す。2行目の「P」は、補修起点である中心点P1の座標(x1,y1,z1)、起点での溶接トーチの姿勢角(α1,β1,γ1)、及び溶接速度80(cm/分)を表す。3行目の「AS」は溶接電流24(A)及び溶接電圧120(V)を表す。4~6行目の「L」は各移動点(補修完了点)P2~P4の座標、姿勢角及び溶接速度を表す。7行目の「AE」は溶接完了を表す。そして、8行目の「P」は退避位置P5の座標、姿勢角及び速度を表し、9行目の「End」は処理の終了を表す。
【0038】
溶接装置11は、このようなタスクプログラムを実行することで溶接補修を行っていた。しかしながら、配管の腐食は位置も形状も様々で、凹部ごとに各パラメータの修正が必要であった。しかし、作業者が狭い管内で繰り返し修正を行うことは、実質的に困難であった。
【0039】
そこで本実施の形態では、凹部の形状等に応じて複数の「標準プログラム」を用意しておき、その標準プログラムから「実行プログラム」を都度生成することで、この課題を解決する。
【0040】
図5は、タスクプログラムを標準プログラムに変換する様子を示す説明図である。図5では、タスクプログラムで規定する溶接トーチ12の各移動点P1~P5の座標を、凹部の中心点P1の座標に応じて補正する様子を図示している。図5に示すように、本実施の形態では、各移動点P1~P5の座標値から中心点P1の座標値(x1,y1,z1)を差し引くことにより、凹部の中心点を原点として、各移動点の絶対座標を相対座標に変換(標準化)する。本実施の形態では、タスクプログラムで規定する溶接トーチ12の移動点の座標を相対座標に変換したプログラムを、「標準プログラム」と呼ぶ。
【0041】
標準プログラムに記憶されるパラメータは、制御装置17を通じて変更可能である。制御装置17はパラメータの変更を受け付けた後、受け付けた変更後のパラメータを有する新たな標準プログラムを記憶する。
【0042】
図6は、凹部のサイズ及び形状に応じた標準プログラムを示す説明図である。図6左側には、平面視で見た場合の種々の凹部を概念的に図示している。図6に示すように、凹部には丸型、四角形型、菱形など、種々の形状のものがある。また、そのXY平面での大きさも各々異なり、Z方向の深さも各々異なる。
【0043】
そこで本実施の形態では、サイズ(大きさ及び深さ)や形状に応じて凹部を複数パターンに分類し、各パターンの標準プログラムを用意する。具体的には、サイズや形状が異なる凹部の溶接実験を行うことで、各パターンの標準プログラムを用意する。
【0044】
図7は、実行プログラムの一例を示す説明図である。図7では、標準プログラムから、実際に実行するタスクプログラム(以下、「実行プログラム」と呼ぶ)を生成する様子を図示している。
【0045】
例えば作業者は、コントローラ23を操作し、溶接トーチ12を凹部の中心点Pa(xa,ya,za)に合わせる。なお、作業者は手動で溶接トーチ12を動かしてもよい。次に作業者は、凹部のサイズ、形状等を目視で確認する。そして作業者は、コントローラ23で選択対象の標準プログラムの番号を入力することで、利用する標準プログラムを選択する。すると溶接装置11は自動溶接モードとなり、自動的に溶接補修を行う。
【0046】
溶接装置11は、選択された標準プログラムと、溶接トーチ12が現在位置している凹部の中心点Paの座標とに基づき、実行プログラムを生成する。具体的には、溶接装置11は、標準プログラムで規定される各移動点の相対座標に、溶接対象とする凹部の中心点Paの座標(xa,ya,za)を加算することで、実行プログラムを生成する。生成された実行プログラムは、メモリ171に一時的に記憶される。
【0047】
図7右側に、実行プログラムの一例を図示している。図7に示すように、凹部の中心点Paの座標(xa,ya,za)を加算することで、中心点Paを起点とするタスクプログラムが新たに生成されたことがわかる。
【0048】
溶接装置11は当該実行プログラムを実行し、凹部の溶接補修を行う。これにより、一箇所の溶接が完了する。一箇所の凹部の溶接が完了した場合、溶接装置11は、生成した実行プログラムをメモリ171から消去する。
【0049】
以下同様にして、作業者は溶接補修を行う。すなわち、作業者は違う凹部の中心点に溶接トーチ12を移動させ、凹部のサイズ、形状等を確認して標準プログラムを選択する。標準プログラムが選択された場合、溶接装置11は、標準プログラムで規定される各移動点の相対座標に溶接対象の凹部の中心点の座標を加算し、実行プログラムを生成して実行する。生成された実行プログラムは、溶接が完了すると逐次消去される。
【0050】
以上より、タスクプログラムのパラメータを修正することなく溶接補修を行うことができ、作業の効率化及び作業者の負担軽減を図ることができる。
【0051】
図8は、溶接装置11が実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。図8に基づき、溶接装置11の処理内容について説明する。
【0052】
制御装置17の制御部170は、溶接トーチ12を凹部の中心点に移動させる操作入力を受け付ける(ステップS11)。制御部170は、溶接トーチ12が移動した位置を、溶接対象の凹部の中心点の座標として取得する。
【0053】
制御部170は、予め用意されている複数の標準プログラムからいずれかを選択する選択入力を受け付ける(ステップS12)。標準プログラムは、管内の凹部に対する溶接条件を規定するプログラムであり、凹部の中心点の座標を原点として、溶接トーチ12の各移動点の座標を相対化したプログラムである。標準プログラムは、凹部のサイズ(大きさ、深さ)及び形状に応じて用意されている。
【0054】
制御部170は、選択された一の標準プログラムと、溶接対象の凹部の中心点の座標とに基づき、実行プログラムを生成する(ステップS13)。具体的には、制御部170は、標準プログラムで規定する各移動点の座標に凹部の中心点の座標を加算することで実行プログラムを生成する。制御部170は、生成した実行プログラムをメモリ171に記憶する(ステップS14)。制御部170は、生成した実行プログラムに基づき、凹部の溶接補修を実行する(ステップS15)。
【0055】
制御部170は、ステップS13で生成した実行プログラムをメモリ171から消去する(ステップS16)。制御部170は一連の処理を終了する。
【0056】
以上より、本実施の形態1によれば、管内に散在する腐食箇所の溶接補修を好適に実施することができる。
【0057】
(実施の形態2)
本実施の形態では、凹部のサイズに応じて溶接トーチ12の移動量を拡大又は縮小する形態について説明する。なお、実施の形態1と重複する内容については同一の符号を付して説明を省略する。
【0058】
図9は、実施の形態2の概要を示す説明図である。図9では図7と同様に、実行プログラムが生成される様子を図示している。図9に基づき、本実施の形態の概要を説明する。
【0059】
本実施の形態において溶接装置11は、標準プログラムの選択を受け付けた後、溶接トーチ12の移動量の拡大率又は縮小率(以下、拡大率及び縮小率をまとめて「倍率」と呼ぶ)を指定する指定入力を作業者から受け付ける。標準プログラムで規定する溶接条件とは凹部の形状などが同じであっても、サイズが異なる場合がある。本実施の形態ではこれに対応するため、倍率の指定を受け付ける。具体的には、溶接装置11は、図中のX方向、Y方向、及びZ方向に分けて、各方向の倍率S、S、Sの入力を受け付ける。
【0060】
溶接装置11は、凹部の座標と、選択された標準プログラムと、指定された倍率とに基づき、実行プログラムを生成する。具体的には図9に示すように、溶接装置11は、標準タスクで規定されている各移動点の相対座標に、指定された倍率S、S、Sを乗算する。そのうえで溶接装置11は、溶接対象とする凹部の中心点の座標を加算する。これにより、標準プログラムとは凹部のサイズが異なる場合であっても、好適に対応することができる。
【0061】
図10は、実施の形態2に係る溶接装置11が実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。標準プログラムを選択した後(ステップS12)、制御装置17の制御部170は以下の処理を実行する。
【0062】
制御部170は、溶接トーチ12の移動量の拡大率又は縮小率を指定する指定入力を受け付ける(ステップS201)。具体的には、制御部170は、X方向、Y方向、及びZ方向ごとに、拡大率又は縮小率の入力を受け付ける。制御部170は、指定された拡大率又は縮小率と、溶接対象とする凹部の中心点の座標と、ステップS12で選択された標準プログラムとに基づき、実行プログラムを生成する(ステップS202)。具体的には上述の如く、制御部170は、標準プログラムで規定する各移動点の相対座標に、ステップS201で指定された倍率を乗算し、更に凹部の中心点の座標を加算する。制御部170は処理をステップS14に移行する。
【0063】
以上より、本実施の形態2によれば、標準プログラムで規定するサイズとは凹部のサイズが異なる場合であっても、これに好適に対応することができる。
【0064】
(実施の形態3)
本実施の形態では、凹部の溶接補修を全自動化する形態について説明する。実施の形態1及び2と重複する内容については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0065】
図11は、凹部の自動計測を行う様子を示す説明図である。図11では、センサ16が凹部をセンシングし、凹部の中心点の座標、サイズ(大きさ、深さ)及び形状を計測する様子を図示している。
【0066】
センサ16は、上述の如く視覚センサであり、物体の位置、大きさ等を計測可能なセンサである。本実施の形態において溶接装置11は、センサ16によるセンサデータから凹部を自動的に認識し、認識した凹部の中心点の座標、サイズ(大きさ、深さ)及び形状を特定する。そして溶接装置11は、特定した座標等に基づき、凹部の溶接補修を自動的に行う。
【0067】
図12は、実施の形態3に係る凹部の溶接補修の様子を示す説明図である。例えば溶接装置11は、作業者の操作に依らず、溶接トーチ12を凹部の中心点へと自動的に移動させる。そして溶接装置11は、作業者の選択に依らず、上記で特定した凹部の形状から標準プログラムを選択する。また、溶接装置11は、特定した凹部のサイズから、倍率を自動的に指定する。
【0068】
溶接装置11は、これらのパラメータに基づいて実行プログラムを生成する。すなわち、溶接装置11は、上記で特定した凹部の中心点の座標と、選択した標準プログラムと、指定した倍率とに基づき、実行プログラムを生成する。溶接装置11は、生成した実行プログラムを実行することで、凹部の溶接補修を行う。溶接装置11は以降も同様に処理を繰り返し、他の凹部についても自動的に溶接補修を行う。
【0069】
図13は、実施の形態3に係る溶接装置11が実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0070】
制御装置17の制御部170は、センサ16から管内をセンシングしたセンサデータを取得する(ステップS301)。センサデータは、例えば視覚センサに係るデータであり、凹部の位置、大きさ等が特定可能なデータである。制御部170は、センサデータに基づいて凹部を認識する(ステップS302)。そして制御部170は、認識した凹部の中心点の座標、サイズ(大きさ、深さ)及び形状を特定する(ステップS303)。
【0071】
制御部170は、ステップS303で特定した凹部の中心点の座標に溶接トーチ12を移動させる(ステップS304)。また、制御部170は、ステップS303で特定した凹部の形状に基づき、標準プログラムを選択する(ステップS305)。また、制御部170は、ステップS303で特定した凹部のサイズに基づき、溶接トーチ12の移動量の倍率を指定する(ステップS306)。
【0072】
制御部170は、ステップS303で特定した凹部の中心点の座標、ステップS305で選択した標準プログラム、及びステップS306で指定した倍率に基づき、実行プログラムを生成する(ステップS307)。制御部170は、処理をステップS14に移行する。
【0073】
溶接装置11は上記の処理を繰り返し、凹部の溶接補修を行う。例えば溶接装置11は、センサ16でセンシング(撮影)可能な一視野分ずつ移動を繰り返し、移動する都度、その場所のセンサデータを取得して実行プログラムを生成し、凹部の溶接補修を行う。
【0074】
以上より、本実施の形態3によれば、一連の処理を自動化し、より好適に溶接補修を行うことができる。
【0075】
今回開示された実施の形態はすべての点において例示であり、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は上記のように開示された意味ではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて定められ、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内において、すべての変更が含まれる。
【0076】
各実施の形態に記載した事項は相互に組み合わせることができる。また、特許請求の範囲に記載した独立請求項及び従属請求項は、引用形式に関わらず全てのあらゆる組み合わせにおいて、相互に組み合わせることができる。さらに、特許請求の範囲には他の2以上のクレームを引用するクレームを記載する形式(マルチクレーム形式)を用いているが、これに限るものではない。マルチクレームを少なくとも一つ引用するマルチクレーム(マルチマルチクレーム)を記載する形式を用いて記載してもよい。
【符号の説明】
【0077】
11 溶接装置
12 溶接トーチ
13 ロボットアーム
14 溶接機
15 配管
16 センサ
17 制御装置
17a 可搬型記憶媒体
170 制御部
P プログラム(プログラム製品)
A 標準プログラム
B 実行プログラム
20 接地機構
21 光源
22 ガスボンベ
23 コントローラ
24 台車
25 操作ボタン
26 表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13