(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】中空糸型血液透析器内の内部濾過速度の決定
(51)【国際特許分類】
A61M 1/16 20060101AFI20240711BHJP
A61M 1/18 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
A61M1/16 117
A61M1/18
(21)【出願番号】P 2022522311
(86)(22)【出願日】2020-10-13
(86)【国際出願番号】 EP2020078807
(87)【国際公開番号】W WO2021074168
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2023-10-12
(32)【優先日】2019-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501473877
【氏名又は名称】ガンブロ・ルンディア・エービー
【氏名又は名称原語表記】GAMBRO LUNDIA AB
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ドナート,ダニロ
(72)【発明者】
【氏名】シュトルアー,マルクス
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0305869(US,A1)
【文献】特開2018-043003(JP,A)
【文献】国際公開第2018/119113(WO,A1)
【文献】Cecile Legallais、et al.,A theoretical model to predict the in vitro performance of hemodiafilters,Journal of Membrane Science,2000年,Vol. 168,pp. 3-15
【文献】Danilo Donato, et al.,Optimization of dialyzer design to maximize solute removal with a two-dimensional transport model,Journal of Membrane Science,2017年,Vol. 541,pp. 519-528
【文献】Manfred Raff、et al.,Advanced modeling of highflux hemodialysis,Journal of Membrane Science,2003年,Vol. 216,pp. 1-11
【文献】Jung Chan Lee, et al.,Mathematical analysis for internal filtration of convection-enhanced high-flux hemodialyzer,Computer Methods and Programs in Biomedicine,2012年,Vol. 108,pp. 68-79
【文献】Ryoichi Sakiyama, et al.,Effect of blood flow rate on internal filtration in a high-flux dialyzer with polysulfone membrane,J Artif Organs,2012年,Vol. 15, No. 3,pp. 266-271
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00-1/38;60/00-60/90
B01D 53/22;61/00-71/82,510;C02F1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液透析器の寸法、血液透析器内に存在する中空糸膜の寸法および物理的パラメータ、ならびに血液透析器を通る血液および透析液の流量を用いて、中空糸型血液透析器(10)内の内部濾過速度IFRを決定するためのコンピュータにより実行される方法であって、
i)コンピュータを用いて、血液透析器(10)の、および血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の物理的特性に関するデータを取得することであって、データが、血液透析器(10)のハウジングの直径d
H、血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の数N、血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の有効長L、血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の総表面積A
tot、血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の内径d
B、血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の壁厚δ
M、血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の空隙率ε
M、および血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の限外濾過係数K
UFを含む、こと、
ii)コンピュータを用いて、血液透析器(10)の動作中に血液透析器(10)を通る血液流量Q
Bおよび透析液流量Q
Dを取得すること、
iii)コンピュータを用いて、ステップiおよびiiで取得したデータに基づいて、血液透析器(10)の内部濾過速度IFRを決定することであって、内部濾過速度IFRは、下記、
【数1】
によって決定される、ことを含み、式中、
N 血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の数、
d
B 血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の内径、
K
【数2】
K
UF 血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の限外濾過係数、
A
tot 血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の総膜面積(A
tot=Nπd
BL)、
ε
M 血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の膜空隙率、
P
B,out 血液透析器出口の血圧、
P
D,out 血液透析器出口の透析液圧、
Π
o 平均膠質浸透圧、
x
i 逆転点(J
v(x
i)=0)の位置、
μ
B 血液粘度、
Q
B 血液流量、
L 血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の有効長、
ν
1 J
v(0)、
ν
2 J
v(L)、
μ
D 透析液粘度、
Q
D 透析液流量、
【数3】
【数4】
【数5】
R
k=R
o+δ
ε、
d
B 血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の内径、
δ
M 血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の壁厚、
δ
ε 血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)周りの拡散層の厚さ
である、方法。
【請求項2】
iv)コンピュータを用いて、血液透析器(10)の動作の持続時間TDに関するデータを取得すること、
v)コンピュータを用いて、内部濾過速度IFRおよびステップivで取得したデータに基づいて、血液透析器(10)の動作中に血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の壁(22)を通して交換される流体の総量V
totを決定することであって、総量V
totは、下記
【数6】
によって決定される、ことをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
血液透析器(10)の、および血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の物理的特性に関するデータが、コンピュータのプロセッサと動作が関連付けられたデータベースから取得される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
血液透析器(10)の、および血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の物理的特性に関するデータ、ならびに/または血液透析器(10)の動作中に血液透析器(10)を通る血液流量および透析液流量に関するデータが、コンピュータのプロセッサと動作が関連付けられた入力デバイスから取得される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
入力デバイスが、非接触型リーダを備える、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
入力デバイスが、少なくとも1つのユーザインタフェースを備える、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
入力デバイスが、体外血液治療装置を備える、請求項4から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
システムであって、
a)複数の中空糸型血液透析器(10)の、およびその中に存在する中空糸膜(21)の物理的特性に関するデータを含むデータベースであって、データが、血液透析器(10)のハウジングの直径d
H、血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の数N、血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の有効長L、血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の総表面積A
tot、血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の内径d
B、血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の壁厚δ
M、血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の空隙率ε
M、および血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の限外濾過係数K
UFを含む、データベース、ならびに/または
b)中空糸型血液透析器(10)の、および血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の物理的特性に関するデータを提供し、および/または血液透析器(10)の動作中に血液透析器(10)を通る血液流量および透析液流量を提供するように構成された入力デバイスであって、データが、血液透析器(10)のハウジングの直径d
H、血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の数N、血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の有効長L、血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の総表面積A
tot、血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の内径d
B、血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の壁厚δ
M、血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の空隙率ε
M、および血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の限外濾過係数K
UFを含む、入力デバイス、
c)出力デバイスと動作が関連付けられたコンピュータプロセッサから受信したデータの出力のために構成された出力デバイス、
d)データベースおよび/もしくは入力デバイスとの通信のために、および出力デバイスとの通信のためにプログラムされたコンピュータプロセッサ
を備え、プロセッサは、
a.血液透析器(10)のハウジングの直径d
H、血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の数N、血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の有効長L、血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の総表面積A
tot、血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の内径d
B、血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の壁厚δ
M、血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の空隙率ε
M、および血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の限外濾過係数K
UF、ならびに/または血液透析器(10)の動作中に血液透析器(10)を通る血液流量および透析液流量を含むデータを、データベースおよび/または入力デバイスから取得し、
b.取得したデータに基づいて、中空糸型血液透析器(10)内の内部濾過速度IFRを決定し、内部濾過速度IFRは、下記、
【数7】
によって決定され、式中、
N 血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の数、
d
B 血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の内径、
K
【数8】
K
UF 血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の限外濾過係数、
A
tot 血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の総膜面積(A
tot=Nπd
BL)、
ε
M 血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の膜空隙率、
P
B,out 血液透析器出口の血圧、
P
D,out 血液透析器出口の透析液圧、
Π
o 平均膠質浸透圧、
x
i 逆転点(J
v(x
i)=0)の位置、
μ
B 血液粘度、
Q
B 血液流量、
L 血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の有効長、
ν
1 J
v(0)、
ν
2 J
v(L)、
μ
D 透析液粘度、
Q
D 透析液流量、
【数9】
【数10】
【数11】
R
k=R
o+δ
ε、
d
B 血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の内径、
δ
M 血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の壁厚、
δ
ε 血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)周りの拡散層の厚さ
であり、
c.任意選択により、血液透析器(10)の動作中に血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の壁を通して交換される流体の総量V
totを決定し、総量V
totは、下記、
【数12】
によって決定され、
d.決定された内部濾過速度IFRと、任意選択により、交換される流体の総量V
totとを出力デバイスに送信する
ようにプログラムされる、システム。
【請求項9】
入力デバイス、出力デバイス、およびプロセッサが、モバイル通信デバイスに含まれる、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
入力デバイスが、モバイル通信デバイスのグラフィカルユースインタフェース(GUI)である、請求項8または9に記載のシステム。
【請求項11】
出力デバイスが、ディスプレイデバイスである、請求項8から10のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項12】
コンピュータプログラムであって、
a.血液透析器(10)のハウジングの直径d
H、血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の数N、血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の有効長L、血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の総表面積A
tot、血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の内径d
B、血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の壁厚δ
M、血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の空隙率ε
M、および血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の限外濾過係数K
UF、ならびに/または血液透析器(10)の動作中に血液透析器(10)を通る血液流量および透析液流量を含むデータを、プロセッサと動作が関連付けられたデータベースならびに/または入力デバイスから取得し、
b.取得したデータに基づいて、中空糸型血液透析器(10)内の内部濾過速度IFRを決定し、内部濾過速度IFRは、下記、
【数13】
によって決定され、式中、
N 血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の数、
d
B 血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の内径、
K
【数14】
K
UF 血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の限外濾過係数、
A
tot 血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の総膜面積(A
tot=Nπd
BL)、
ε
M 血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の膜空隙率、
P
B,out 血液透析器出口の血圧、
P
D,out 血液透析器出口の透析液圧、
Π
o 平均膠質浸透圧、
x
i 逆転点(J
v(x
i)=0)の位置、
μ
B 血液粘度、
Q
B 血液流量、
L 血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の有効長、
ν
1 J
v(0)、
ν
2 J
v(L)、
μ
D 透析液粘度、
Q
D 透析液流量、
【数15】
【数16】
【数17】
R
k=R
o+δ
ε、
d
B 血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の内径、
δ
M 血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の壁厚、
δ
ε 血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)周りの拡散層の厚さ
であり、
c.任意選択により、血液透析器(10)の動作中に血液透析器(10)内に存在する中空糸膜(21)の壁を通して交換される流体の総量V
totを決定し、総量V
totは、下記、
【数18】
によって決定され、
d.決定された内部濾過速度IFRと、任意選択により、交換される流体の総量V
totとを、プロセッサと動作が関連付けられた出力デバイスに送信する
方法を行うようにコンピュータプロセッサに命令する、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、中空糸型血液透析器内の内部濾過速度IFRを決定するための方法およびデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
末期腎疾患患者から中分子を除去することの難しさは、血液透析の大きな課題の1つである。高濃度の中分子量(MW)溶質、例えば、β2-ミクログロブリン、ミオグロビン、補体因子D、およびポリクローナル遊離L鎖(κ-FLCおよびλ-FLC)は、慢性腎疾患患者の重要な臨床転帰と相関する。従来の血液透析では、低MW溶質(例えば、尿素およびクレアチニン)は拡散によって効果的に除去されるが、中MW溶質の除去は、一般に純粋な拡散に対流輸送を重ねることによって達成される。対流輸送を増大させるためのより透水性の高い高流束透析器および血液透析濾過法の使用は、中W溶質のクリアランスを高めることが示されているが、依然として満足のいかない臨床結果をもたらしている。
【0003】
欧州特許第3102312号および欧州特許第3102314号では、ミディアムカットオフ(MCO)と定義される新しい部類の膜、およびそのような膜を備えた血液透析器が開示されている。MCO膜の特殊な特徴は、高いMW保持オンセットおよびアルブミンの分子量に近いMWカットオフ値を含み、無視できる程度のアルブミン損失で約45kDaまでの溶質を除去できることである。MCO膜を装備した血液透析器の使用により、対流輸送と拡散輸送とが効率的に組み合わされて、幅広い分子量に対する透析器除去能力を増大する拡張血液透析(HDx)という新しい治療法を行うことが可能になった。これは、MCO膜が高流束膜に比べて透過性が高いことと、それらの幾何学的構造により、内部濾過(すなわち、血液透析器の近位部における血液区画から透析液区画に向かう血漿水の多孔質膜を通る移動)および逆濾過(すなわち、血液透析器の遠位部における透析液区画から血液区画に向かう血漿水の移動)を促進することによって、血液透析器膜を通る対流輸送を増大させることとの相互作用による。内部濾過(IF)を適切な量の逆濾過(BF)で補うことにより、さらに、複雑なセットアップおよび流体再灌流(reinfusion)の使用を避けることができ、したがって血液濾過のいくつかの実践上の問題を克服する。
【0004】
MCO膜を備えた血液透析器に適用されるIFおよびBFの速度を実験的に定量化する方法は、近年、A.Lorenzin et al.、「Quantification of internal filtration in hollow fiber hemodialyzers with Medium cut-off membrane」、Blood Purif.46(2018)196-204に記載されている。しかし、一般的にIFの実験的な定量化は複雑な設定を必要とし、費用対効果が高くない。そのため、血液透析器内の内部濾過速度IFRを決定するための簡単で効果的な方法が未だに不足している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】欧州特許第3102312号明細書
【文献】欧州特許第3102314号明細書
【非特許文献】
【0006】
【文献】A.Lorenzin et al.、「Quantification of internal filtration in hollow fiber hemodialyzers with Medium cut-off membrane」、Blood Purif.46(2018)196-204
【文献】D.Schneditz et al.:「Internal filtration,filtration fraction,and blood flow resistance in high- and low-flux dialyzers」、Clin.Hemorheol.Microcirc.58(2014)455-469
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、中空糸型血液透析器内の内部濾過速度IFRを決定するための方法およびデバイスを提供する。本方法は、血液透析器の寸法、血液透析器内に存在する中空糸膜の寸法および物理的パラメータ、ならびに血液透析器を通る血液および透析液の流量のみを必要とし、これらはすべて容易に入手できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】中空糸型血液透析器および血液透析器内の流体の流れの概略斜視図および断面詳細図である。
【
図2】血液透析器の1つのモデルについての、実験的に決定された内部濾過速度、および本開示の方法により決定された内部濾過速度の比較のグラフである。
【
図3】血液透析器の別のモデルについての、実験的に決定された内部濾過速度、および本開示の方法により決定された内部濾過速度の比較のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示は、中空糸型血液透析器内の内部濾過速度IFRを決定するためのコンピュータにより実行される方法を提供する。本方法は、
i)コンピュータを用いて、血液透析器の、および血液透析器内に存在する中空糸の物理的特性に関するデータを取得すること、
ii)コンピュータを用いて、血液透析器の動作中に血液透析器を通る血液流量QBおよび透析液流量QDを取得すること、
iii)コンピュータを用いて、ステップiおよびiiで取得したデータに基づいて、血液透析器の内部濾過速度IFRを決定すること
を含む。
【0010】
一実施形態では、本方法は、
iv)コンピュータを用いて、血液透析器の動作の持続時間TDに関するデータを取得すること、
v)コンピュータを用いて、内部濾過速度IFRおよびステップivで取得したデータに基づいて、血液透析器の動作中に血液透析器内に存在する中空糸膜の壁を通して交換される流体の総量Vtotを決定すること
をさらに含む。
【0011】
特定の実施形態では、血液透析器の、および血液透析器内に存在する中空糸の物理的特性に関するデータは、コンピュータのプロセッサと動作が関連付けられたデータベースから取得される。
【0012】
本方法の一実施形態では、データベースは、複数の異なる血液透析器の、および血液透析器内に存在する中空糸の物理的特性に関するデータを含む。複数の異なる血液透析器の各血液透析器について、かかるデータは、血液透析器のハウジングの直径dH、血液透析器内に存在する中空糸の数N、血液透析器内に存在する中空糸の有効長L、血液透析器内に存在する中空糸の総表面積Atot、血液透析器内に存在する中空糸の内径dB、血液透析器内に存在する中空糸の壁厚δM、血液透析器内に存在する中空糸の空隙率εM、および血液透析器内に存在する中空糸の限外濾過係数KUFを含んでいてもよい。
【0013】
加えて、データベースは、血液粘度μBおよび透析液粘度μDに関するデータを含んでいてもよい。
【0014】
さらなる実施形態では、血液透析器の、および血液透析器内に存在する中空糸の物理的特性に関するデータ、ならびに/または血液透析器の動作中に血液透析器を通る血液流量QBおよび透析液流量QDに関するデータは、コンピュータのプロセッサと動作が関連付けられた入力デバイスから取得される。
【0015】
血液透析器は、動作中、すなわち血液から毒素を除去するために外部血液回路で使用されるとき、血液流量QBで血液を、透析液流量QDで透析液を灌流させる。血液透析器内に存在する中空糸膜の壁を通して交換される流体の内部濾過速度IFRおよび総量Vtotは、血液透析器を通る血液流量QBおよび透析液流量QDと共に変化する。
【0016】
一実施形態では、入力デバイスは、非接触型リーダを含む。特定の実施形態において、非接触型リーダは、血液透析器上に存在するバーコードまたはQRコードのデータを取得する光学式リーダである。別の特定の実施形態では、非接触型リーダは、血液透析器上または中に存在するRFIDまたはNFCタグからデータを取得するセンサである。
【0017】
さらなる実施形態では、入力デバイスは、少なくとも1つのユーザインタフェースを備える。特定の実施形態では、ユーザインタフェースは、キーボードまたはタッチスクリーンを含む。本システムのさらなる実施形態では、入力デバイスは、グラフィカルユースインタフェース(GUI)を含む。特定の実施形態では、入力デバイスは、スマートフォンのタッチスクリーンを含む。入力デバイスは、血液透析器の、および血液透析器内に存在する中空糸の物理的特性に関するデータ、ならびに/または血液透析器の動作中に血液透析器を通る血液流量QBおよび透析液流量QDに関するデータを手動で入力するために使用される。
【0018】
別の実施形態では、入力デバイスは、体外血液治療装置を含む。体外血液治療装置は、動作中、すなわち患者の治療中に、血液透析器を構成する体外血液回路のパラメータを制御する。本開示の方法のために入力デバイスとして使用されるとき、体外血液治療装置は、血液透析器の、および血液透析器内に存在する中空糸の物理的特性に関するデータ、ならびに/または血液透析器の動作中に血液透析器を通る血液流量QBおよび透析液流量QDに関するデータを提供する。本方法の一実施形態では、プロセッサは、血液透析器の動作中に血液透析器を通る血液流量QBおよび透析液流量QDのリアルタイムデータと、任意選択により、体外血液治療装置から動作の持続時間TDに関する、すなわち、実際治療中のデータとを取得する。別の実施形態では、血液透析器の動作中に血液透析器を通る血液流量QBおよび透析液流量QDと、任意選択により、動作の持続時間TDとは、入力デバイスを通じて手動で入力され、治療をシミュレーションする。
【0019】
本方法の一実施形態では、血液透析器の、および血液透析器内に存在する中空糸の物理的特性に関するデータは、血液透析器のハウジングの直径dH、血液透析器内に存在する中空糸の数N、血液透析器内に存在する中空糸の有効長L、血液透析器内に存在する中空糸の総表面積Atot、血液透析器内に存在する中空糸の内径dB、血液透析器内に存在する中空糸の壁厚δM、血液透析器内に存在する中空糸の空隙率εM、および血液透析器内に存在する中空糸の限外濾過係数KUFを含む。
【0020】
本方法の一実施形態では、内部濾過速度IFRは、下記によって決定される。
【数1】
式中、
N 血液透析器内に存在する中空糸の数、
d
B 血液透析器内に存在する中空糸の内径、
J
v(z) 膜壁を通る限外濾過流束、
x
i 逆転点(J
v(x
i)=0)の位置
である。
【0021】
この式は以下のように書き直すことができる。
【数2】
式中、
K
【数3】
K
UF 血液透析器内に存在する中空糸の限外濾過係数、
A
tot 血液透析器内に存在する中空糸の総膜面積(A
tot=Nπd
BL)、
ε
M 血液透析器内に存在する中空糸の膜の空隙率、
P
B(z) 血圧、
P
D(z) 透析液圧、
Π
o 平均膠質浸透圧
である。
【0022】
本方法の別の実施形態では、内部濾過速度IFRは、下記によって決定される。
【数4】
式中、
N 血液透析器内に存在する中空糸の数、
d
B 血液透析器内に存在する中空糸の内径、
K
【数5】
K
UF 血液透析器内に存在する中空糸の限外濾過係数、
A
tot 血液透析器内に存在する中空糸の総膜面積(A
tot=Nπd
BL)、
ε
M 血液透析器内に存在する中空糸の膜の空隙率、
P
B,out 血液透析器出口の血圧、
P
D,out 血液透析器出口の透析液圧、
Π
o 平均膠質浸透圧、
x
i 逆転点(J
v(x
i)=0)の位置、
μ
B 血液粘度、
Q
B 血液流量、
L 血液透析器内に存在する中空糸の有効長、
ν
1 J
v(0)、
ν
2 J
v(L)、
μ
D 透析液粘度、
Q
D 透析液流量、
【数6】
【数7】
【数8】
R
k=R
o+δ
ε、
d
B 血液透析器内に存在する中空糸の内径、
δ
M 血液透析器内に存在する中空糸の壁厚、
δ
ε 血液透析器内に存在する隣接する中空糸間の距離の半分
である。
【0023】
本方法のさらなる実施形態では、IFRに関する上記式中のパラメータの一部は、下記式によって算出される。
【数9】
式中、
N 血液透析器内に存在する中空糸の数、
L 血液透析器内に存在する中空糸の有効長、
d
B 血液透析器内に存在する中空糸の内径、
A
tot 血液透析器内に存在する中空糸の総膜面積(A
tot=Nπd
BL)、
UF 正味の限外濾過流量、
K
UF UF係数、
Q
B 血液流量、
Q
D 透析液流量、
P
B,out 透析器出口の血圧、
P
D,out 透析器出口の透析液圧、
Π
o 平均膠質浸透圧、
μ
B 血液粘度、
μ
D 透析液粘度
ε
M 膜空隙率、
δ
M 膜厚
である。
【0024】
本方法の一実施形態では、血液透析器の動作の持続時間TDにわたる血液透析器内に存在する中空糸膜の壁を通して交換される流体の総量V
totは、下記により決定される。
【数10】
【0025】
本開示は、
a)複数の中空糸型血液透析器の、およびその中に存在する中空糸の物理的特性に関するデータを含むデータベース、ならびに/または
b)中空糸型血液透析器の、および血液透析器中に存在する中空糸の物理的特性に関するデータを提供し、および/もしくは血液透析器の動作中に血液透析器を通る血液流量および透析液流量を提供するように構成される入力デバイス、
c)出力デバイスと動作が関連付けられたコンピュータプロセッサから受信したデータの出力のために構成された出力デバイス、
d)データベースおよび/もしくは入力デバイスとの通信のために、および出力デバイスとの通信のためにプログラムされたコンピュータプロセッサ
を備え、プロセッサは、
a.データベースおよび/または入力デバイスからデータを取得し、
b.取得したデータに基づいて、中空糸型血液透析器内の内部流量IFRを決定し、
c.任意選択により、血液透析器の動作中に血液透析器内に存在する中空糸膜の壁を通して交換される流体の総量Vtotを決定し、
d.決定された内部流量IFRと、任意選択により、交換される流体の総量Vtotとを出力デバイスに送信する
ようにプログラムされる、システムをさらに提供する。
【0026】
システムの一実施形態では、入力デバイス、出力デバイス、およびプロセッサは、携帯型デバイスに含まれる。一実施形態では、携帯型デバイスは、携帯型コンピュータ、例えば、ラップトップ、タブレットコンピュータ、またはPDAである。さらなる実施形態では、携帯型デバイスは、移動通信デバイス、例えば、スマートフォンである。
【0027】
システムの一実施形態では、出力デバイスはディスプレイデバイスである。適切なディスプレイデバイスの例としては、モニタ、コンピュータディスプレイ、およびタッチスクリーンが挙げられる。特定の実施形態では、ディスプレイデバイスは、スマートフォンのタッチスクリーンである。
【0028】
システムの一実施形態では、データベースは、コンピュータプロセッサと動作が関連付けられたコンピュータメモリに存在する。さらなる実施形態では、コンピュータメモリは、入力デバイス、出力デバイス、およびプロセッサを備えた携帯型デバイスに含まれる。別の実施形態では、データベースは、インターネットを介してアクセス可能なリモートコンピュータメモリ、ネットワークドライブ、またはクラウドメモリに存在する。
【0029】
本開示は、
a.プロセッサと動作が関連付けられたデータベースおよび/または入力デバイスからデータを取得し、
b.取得したデータに基づいて、中空糸型血液透析器内の内部濾過速度IFRを決定し、
c.任意選択により、血液透析器の動作中に血液透析器内に存在する中空糸膜の壁を通して交換される流体の総量Vtotを決定し、
d.決定された内部流量IFRと、任意選択により、交換される流体の総量Vtotとを、プロセッサと動作が関連付けられた出力デバイスに送信する
方法を行うようにコンピュータプロセッサに命令するコンピュータプログラムをも提供する。
【0030】
一実施形態では、コンピュータプログラムは、スマートフォンにインストールして実行することができるソフトウェアアプリケーション(「アプリ」)の形態をとる。
【0031】
本開示は、コンピュータプログラムを含む非一時的なコンピュータ可読媒体をも提供する。
【0032】
上述した特徴および以下に説明する特徴は、本発明の範囲を逸脱することなく、指定された組み合わせだけでなく、他の組み合わせまたは単独で使用できることが理解されるであろう。
【0033】
ここで、本開示の方法が、以下の例において、添付図面を参照しながらさらに説明される。
【0034】
図1は、中空糸型血液透析器10および血液透析器10内の流体の流れの概略斜視図および断面詳細図を示す。血液透析器10は、中空糸膜21の束20を備える。
図1の左上の角には、それぞれが膜壁22を有するいくつかの中空糸膜21を有する束20の断面詳細図が示されている。血液透析器10を通る血液の流れおよび透析液の流れは、矢印で示されている。血液は、血液流量Q
B,inで血液透析器10のヘッダに位置する血液入口を通って血液透析器10に入り、束20の中空糸膜21の内腔を通って流れ、血液透析器10の別のヘッダに位置する血液出口から血液流量Q
B,outで血液透析器10を出る。透析液は、透析液流量Q
D,inで血液透析器10の一端付近に配置された透析液入口を通って血液透析器10に入り、束20の中空糸膜21の外側の空間を流れ、血液透析器10の反対端付近に配置された透析液出口から透析液流量Q
D,outで血液透析器10を出る。
図1の右上には、中空糸膜21のうちの1つの長手方向断面の詳細が示されている。中空糸膜21の有効長はL、中空糸膜21の内半径はd
B/2、膜壁22の厚さはδ
M、1つの中空糸膜21の長手軸と隣接する中空糸膜21の長手軸との間の距離は2
*R
k(ここで、R
k=R
o+δ
ε(式中、R
k=R
o+δ
ε)、またはR
k=d
B/2+δ
M+δ
εである)、R
oは中空糸膜21の外径の半分、δ
εは隣接する2つの中空糸膜21間の距離の半分である。血液は、中空糸膜21の内腔に流れ、透析液は、中空糸膜21の外側に流れ、限外濾過流束J
vが膜壁22を透過する。
【0035】
例1
血液透析器(Polyflux(R)210H、Gambro Dialysatoren GmbH、72379 Hechingen、ドイツ)内の内部濾過速度が、本開示の方法の一実施形態によって決定され、実験的に決定した内部流量と比較された(D.Schneditz et al.:「Internal filtration,filtration fraction,and blood flow resistance in high- and low-flux dialyzers」、Clin.Hemorheol.Microcirc.58(2014)455-469より)。
【0036】
血液透析器の以下の物理特性質がこの決定に使用された。
【0037】
・中空糸内径dB=215μm
・膜の壁厚δM=50μm
・膜の空隙率εM=0.7
・糸数N=11,640
・有効長L=270mm
・限外濾過係数KUF=85ml/(h*mmHg)
・隣接する糸間の距離の半分δε=68.2μm
・血液透析器のハウジング内径dH=48.7mm
μB=5.2mPasの血液粘度値およびμD=0.96mPasの透析液粘度値を使用した。
【0038】
内部濾過速度IFRは、500ml/分の透析液流量QD、200ml/分、300ml/分、400ml/分、および500ml/分の血液流量QBに対してそれぞれ決定した。
【0039】
以下の定数パラメータの値は上記のように得られた。
【0040】
・K=0.119μm2s/kg
・R1=1.19
・R2=1.01
・E1=-285MPas
・E2=-182MPas
・F2=-159MPas
・G2=0.223m
【0041】
下表は、QD=500ml/分および異なる血液流量QBでのIFRを示す。
【0042】
【0043】
図2は、本開示の方法によって決定された内部流量と、D.Schneditz et al.:「Internal filtration,filtration fraction,and blood flow resistance in high- and low-flux dialyzers」、Clin.Hemorheol.Microcirc.58(2014)455-469からとった実験的に決定された内部流量との比較を示す。
【0044】
例2
血液透析器(Thera-nova(R)400、Gambro Dialysatoren GmbH、72379 Hechingen、ドイツ)内の内部濾過速度が、本開示の方法の一実施形態によって決定され、実験的に決定した内部流量(A.Lorenzin et al.:「Quantification of Internal Filtration in Hollow Fiber Hemodialyzers with Medium Cut-off Membrane」、Blood Purif.46(2018)196-204より)と比較された。
【0045】
以下の血液透析器の物理的性質がこの決定に使用された。
・中空糸内径dB=180μm
・膜の壁厚δM=35μm
・膜の空隙率εM=0.5
・糸数N=13,000
・有効長L=236mm
・限外濾過係数KUF=48ml/(h*mmHg)
・隣接する糸間の距離の半分δε=41.9μm
・血液透析器のハウジング内径dH=38mm
μB=5.0mPasの血液粘度値およびμD=0.96mPasの透析液粘度値を使用した。
【0046】
内部濾過速度IFRは、500ml/分の透析液流量QD、300ml/分および400ml/分の血液流量QBに対してそれぞれ決定した。
【0047】
以下の定数パラメータの値は上記のように得られた。
・K=0.116μm2s/kg
・R1=1.24
・R2=1.04
・E1=-335MPas
・E2=-237MPas
・F2=-206MPas
・G2=0.182m
【0048】
下表は、QD=500ml/分および異なる血液流量QBでのIFRを示す。
【0049】
【0050】
図3は、本開示の方法によって決定された内部流量と、A.Lorenzin et al.:「Quantification of Internal Filtration in Hollow Fiber Hemodialyzers with Medium Cutoff Membrane」、Blood Purif.46(2018)196-204からとった実験的に決定された内部流量との比較を示す。
【0051】
参照符号のリスト
10 血液透析器
20 中空糸膜の束
21 中空糸膜
22 膜壁
L 中空糸膜の長さ
δM 膜壁の厚さ
dB 中空糸膜の内径
Rk 中空糸膜により占められる空間の半径