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特許7519453溶解炉のエネルギー効率を予測する学習済み予測モデルを生成する方法、溶解炉のエネルギー効率を予測する方法、およびコンピュータプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】溶解炉のエネルギー効率を予測する学習済み予測モデルを生成する方法、溶解炉のエネルギー効率を予測する方法、およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   C22B 9/16 20060101AFI20240711BHJP
   C21B 5/00 20060101ALI20240711BHJP
   C22B 4/00 20060101ALI20240711BHJP
   C22B 21/06 20060101ALI20240711BHJP
   F27D 21/00 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
C22B9/16
C21B5/00 315
C22B4/00
C22B21/06
F27D21/00 Z
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2022550614
(86)(22)【出願日】2021-09-16
(86)【国際出願番号】 JP2021034191
(87)【国際公開番号】W WO2022059753
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2020157425
(32)【優先日】2020-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 成康
(72)【発明者】
【氏名】蓬田 翔平
(72)【発明者】
【氏名】山本 佑樹
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/170849(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0101634(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 5/00
C22B 4/00
C22B 9/16
C22B 21/06
F27D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解炉のエネルギー効率を予測する学習済み予測モデルを生成する方法であって、
原料装入から溶解完了までの1チャージ毎に、属性が異なる1または複数のプロセス状態パラメータを取得するステップであって、それぞれのプロセス状態パラメータは、前記溶解炉に設置された各種センサからの出力に基づいて取得される連続的な時系列データ群によって規定されるステップと、
m回分(mは2以上の整数)のチャージにおいて取得した前記1または複数のプロセス状態パラメータのデータセットに機械学習を適用して前処理を実行するステップであって、前記前処理は、1チャージ毎に取得した時系列データ群を含むそれぞれのプロセス状態パラメータからn次元特徴量(nは1以上の整数)を抽出することを含むステップと、
抽出したn次元特徴量に基づいて学習データセットを生成するステップであって、前記学習データセットは、少なくとも、1チャージ毎に設定されるプロセス基本情報を示す1または複数のプロセスターゲットパラメータを含み、前記1または複数のプロセスターゲットパラメータのそれぞれは、非時系列データであるステップと、
生成された前記学習データセットを用いて予測モデルを訓練し、前記学習済み予測モデルを生成するステップと、
を包含する、方法。
【請求項2】
前記学習データセットは1または複数の外乱パラメータを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1または複数の外乱パラメータは外部環境因子を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記前処理は、それぞれのプロセス状態パラメータを規定する時系列データ群を、抽出した前記n次元特徴量に基づいてパターン化することによって、制御パターンを決定することをさらに含み、
前記学習データセットは前記制御パターンをさらに含む、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記前処理は、抽出した前記n次元特徴量を入力データとしてクラスタリングを実行することにより、前記m回分のチャージのそれぞれのプロセスが、どのグループに属するか示すラベルを含む前記制御パターンを決定する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記前処理は、前記1または複数のプロセス状態パラメータのうちの少なくとも1つを規定する時系列データ群に機械学習を適用し、前記m回分のチャージのそれぞれのプロセスをパターン化することによって、プロセスパターンを決定することをさらに含み、
前記学習データセットは前記プロセスパターンをさらに含む、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記前処理は、前記1または複数のプロセス状態パラメータの中で溶解プロセスを直接的に支配する主のプロセス状態パラメータの1つを規定する時系列データ群に符号化処理およびクラスタリングを適用することで、前記m回分のチャージのそれぞれのプロセスが、どのグループに属するか示すラベルを含む前記プロセスパターンを決定する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記主のプロセス状態パラメータの1つは燃焼ガス流量である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記前処理は、
それぞれのプロセス状態パラメータから1チャージ毎に取得したn次元特徴量を全て結
合して1チャージ毎の結合特徴量を生成し、
前記結合特徴量にクラスタリングを適用することで、前記m回分のチャージのそれぞれのプロセスが、どのグループに属するか示すラベルを含む制御パターンを決定することをさらに含み、
前記学習データセットは前記制御パターンをさらに含む、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記1または複数のプロセス状態パラメータは2以上のグループにグループ分けされ、
前記前処理は、
同一グループに属する少なくとも1つのプロセス状態パラメータのそれぞれから1チャージ毎に取得したn次元特徴量を全て結合してグループ毎の結合特徴量を生成し、
前記グループ毎の結合特徴量にクラスタリングを適用することで、前記m回分のチャージのそれぞれのプロセスが、どのグループに属するか示すラベルを含む制御パターンをグループ毎に決定することをさらに含み、
前記学習データセットは前記グループ毎の制御パターンをさらに含む、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記前処理は、前記1または複数のプロセス状態パラメータの中で、溶解プロセスを直接的に支配する主のプロセス状態パラメータの1つを規定する前記時系列データ群に符号化処理およびクラスタリングを適用することで、前記m回分のチャージのそれぞれのプロセスが、どのグループに属するか示すラベルを含むプロセスパターンを決定することをさらに含み、
前記学習データセットは前記プロセスパターンをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記1または複数のプロセス状態パラメータと異なる1以上の他のプロセス状態パラメータを取得し、取得した前記1以上の他のプロセス状態パラメータから古典的な方法により特徴量を抽出するステップをさらに含み、
前記学習データセットを生成するステップは、前記抽出したn次元特徴量と、古典的な方法により抽出した前記特徴量とに基づいて前記学習データセットを生成することを含む、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記1以上の他のプロセス状態パラメータは、前記溶解炉の燃焼排ガスの成分値を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記学習済み予測モデルは、アルミニウム合金の製造に用いる溶解炉のエネルギー効率を予測する、請求項1から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記1または複数のプロセスターゲットパラメータは、材料装入量および溶解時間の少なくとも1つを含む、請求項1から14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
溶解炉のエネルギー効率を予測する方法であって、
ランタイムの入力として、制御パターン候補、プロセスパターン候補、および原料装入から溶解完了までの1チャージ毎に設定されるプロセス基本情報を示す1または複数のプロセスターゲットパラメータを含む入力データを受け取るステップであって、前記1または複数のプロセスターゲットパラメータのそれぞれは、非時系列データであるステップと、
予測モデルに前記入力データを入力して、1チャージ毎の予測エネルギー効率を出力するステップと、
を含み、
前記予測モデルは、属性が異なる1または複数のプロセス状態パラメータから抽出されるn次元特徴量に基づいて生成される学習データセットを利用して学習された学習済みモデルであり、
前記1または複数のプロセス状態パラメータのそれぞれは、前記溶解炉に設置された各種センサからの出力に基づいて1チャージ毎に取得される連続的な時系列データ群によって規定され、
前記学習データセットは、前記入力データに含まれる前記プロセスターゲットパラメータのデータ範囲を含む1または複数のプロセスターゲットパラメータを含む、方法。
【請求項17】
前記入力データは、1または複数の外乱パラメータをさらに含み、
前記学習データセットは、前記入力データに含まれる前記外乱パラメータのデータ範囲を含む1または複数の外乱パラメータをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
1チャージ毎の予測エネルギー効率を表示装置に表示するステップをさらに含む、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
前記予測モデルに前記入力データを入力して、エネルギー効率が所定の基準値を満たす、制御パターンおよびプロセスパターンを出力するステップをさらに含む、請求項16から18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記1または複数のプロセスターゲットパラメータは、材料装入量および溶解時間の少なくとも1つを含む、請求項16から19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
溶解炉のエネルギー効率を予測する予測モデルを取得するステップと、
制御パターン候補、プロセスパターン候補、および原料装入から溶解完了までの1チャージ毎に設定されるプロセス基本情報を示す1または複数のプロセスターゲットパラメータを含む入力データを受け取るステップであって、前記1または複数のプロセスターゲットパラメータのそれぞれは、非時系列データであるステップと、
前記予測モデルに前記入力データを入力して、1チャージ毎の予測エネルギー効率を出力するステップと、
をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムであって、
前記予測モデルは、属性が異なる1または複数のプロセス状態パラメータから抽出されるn次元特徴量に基づいて生成される学習データセットを利用して学習された学習済みモデルであり、
前記1または複数のプロセス状態パラメータのそれぞれは、前記溶解炉に設置された各種センサからの出力に基づいて1チャージ毎に取得される連続的な時系列データ群によって規定され、
前記学習データセットは、前記入力データに含まれる前記プロセスターゲットパラメータのデータ範囲を含む1または複数のプロセスターゲットパラメータを含む、コンピュータプログラム。
【請求項22】
前記入力データは、1または複数の外乱パラメータをさらに含み、
前記学習データセットは、前記入力データに含まれる前記外乱パラメータのデータ範囲を含む1または複数の外乱パラメータをさらに含む、請求項21に記載のコンピュータプログラム。
【請求項23】
前記1または複数のプロセスターゲットパラメータは、材料装入量および溶解時間の少なくとも1つを含む、請求項21または22に記載のコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶解炉のエネルギー効率を予測する学習済み予測モデルを生成する方法、溶解炉のエネルギー効率を予測する方法、およびコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼業および非鉄金属業における溶解プロセスの省エネルギー化が望まれている。溶解プロセスにおいて、溶解炉(高炉)を用いた溶解プロセスの条件は、種々の要因によって異なるが、これまでは、作業員の経験やトライアンドエラーに依存するところが大きかった。そのため、エネルギーや材料を無駄に消費することがあった。
【0003】
近年のICT技術の進展に伴って、データを利用して、溶解プロセスを最適化する方法が検討されている。例えば、特許文献1には、高炉設備に設置した各種センサにより計測された時系列データからプロセス変数を抽出して検索用テーブルに格納し、検索テーブルから類似度の高いプロセス変数を検索し、過去の類似の溶解プロセスの事例に基づいて、溶解プロセスの将来の状態を予測する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-4728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法によると、時系列データから抽出されるプロセス変数を用いるので、その時刻に求められるプロセス変数を高速かつ高精度で求め、過去の類似の溶解プロセスの事例に基づいて、溶解プロセスの将来の状態を予測することが可能となる。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法に用いる推論アルゴリズムは、過去の類似の溶解プロセスを検索する事例検索ベースである。そのため、得られるプロセス変数は、過去の実績の範囲内、かつ、その類似事例の近傍でしかない。したがって、類似事例の近傍にない範囲の解を得ることが困難となる。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、溶解炉のエネルギー効率を予測する学習済み予測モデルの生成方法、当該予測モデルを利用してエネルギー効率を予測する方法、および、当該予測モデルを利用して、所望のエネルギー効率を満足する溶解炉の運転条件の選定を支援することが可能となるシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の溶解炉のエネルギー効率を予測する学習済み予測モデルを生成する方法は、非限定的で例示的な実施形態において、原料装入から溶解完了までの1チャージ毎に、属性が異なる1または複数のプロセス状態パラメータを取得するステップであって、それぞれのプロセス状態パラメータは、前記溶解炉に設置された各種センサからの出力に基づいて取得される連続的な時系列データ群によって規定されるステップと、m回分(mは2以上の整数)のチャージにおいて取得した前記1または複数のプロセス状態パラメータのデータセットに機械学習を適用して前処理を実行するステップであって、前記前処理は、1チャージ毎に取得した時系列データ群を含むそれぞれのプロセス状態パラメータからn次元特徴量(nは1以上の整数)を抽出することを含むステップと、抽出したn次元特徴量に基づいて学習データセットを生成するステップであって、前記学習データセットは、少なくとも、1チャージ毎に設定されるプロセス基本情報を示す1または複数のプロセスターゲットパラメータを含むステップと、生成された前記学習データセットを用いて予測モデルを訓練し、前記学習済み予測モデルを生成するステップと、を包含する。
【0009】
本開示の溶解炉のエネルギー効率を予測する方法は、非限定的で例示的な実施形態において、ランタイムの入力として、制御パターン候補、プロセスパターン候補、および原料装入から溶解完了までの1チャージ毎に設定されるプロセス基本情報を示す1または複数のプロセスターゲットパラメータを含む入力データを受け取るステップと、予測モデルに前記入力データを入力して、1チャージ毎の予測エネルギー効率を出力するステップと、を含み、前記予測モデルは、属性が異なる1または複数のプロセス状態パラメータから抽出されるn次元特徴量に基づいて生成される学習データセットを利用して学習された学習済みモデルであり、前記1または複数のプロセス状態パラメータのそれぞれは、前記溶解炉に設置された各種センサからの出力に基づいて1チャージ毎に取得される連続的な時系列データ群によって規定され、前記学習データセットは、前記入力データに含まれる前記プロセスターゲットパラメータのデータ範囲を含む1または複数のプロセスターゲットパラメータを含む。
【0010】
本開示のコンピュータプログラムは、非限定的で例示的な実施形態において、溶解炉のエネルギー効率を予測する予測モデルを取得するステップと、制御パターン候補、プロセスパターン候補、および原料装入から溶解完了までの1チャージ毎に設定されるプロセス基本情報を示す1または複数のプロセスターゲットパラメータを含む入力データを受け取るステップと、前記予測モデルに前記入力データを入力して、1チャージ毎の予測エネルギー効率を出力するステップと、をコンピュータに実行させ、前記予測モデルは、属性が異なる1または複数のプロセス状態パラメータから抽出されるn次元特徴量に基づいて生成される学習データセットを利用して学習された学習済みモデルであり、前記1または複数のプロセス状態パラメータのそれぞれは、前記溶解炉に設置された各種センサからの出力に基づいて1チャージ毎に取得される連続的な時系列データ群によって規定され、前記学習データセットは、前記入力データに含まれる前記プロセスターゲットパラメータを含む1または複数のプロセスターゲットパラメータを含む。
【発明の効果】
【0011】
本開示の例示的な実施形態は、溶解炉のエネルギー効率を予測する学習済み予測モデルの生成方法、当該予測モデルを利用してエネルギー効率を予測する方法、および、当該予測モデルを利用して、所望のエネルギー効率を満足する溶解炉の運転条件の選定を支援することが可能となるシステムを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、溶解炉の構成を例示する模式図である
図2図2は、本開示の実施形態に係る溶解炉の運転支援システムの概略構成を例示するブロック図である。
図3図3は、本開示の実施形態に係るデータ処理装置のハードウェア構成例を示すブロック図である。
図4図4は、膨大なデータを格納したデータベースを有するクラウドサーバーの構成例を示すハードウェアブロック図である。
図5図5は、本開示の実施形態に係る、溶解炉のエネルギー効率を予測する学習済み予測モデルを生成する処理手順を例示すチャートである。
図6図6は、第1の実装例による処理手順を示すフローチャートである。
図7図7は、プロセス状態パラメータ群に符号化処理を適用し、n次元特徴ベクトルを抽出する処理を説明するための図である。
図8図8は、ニューラルネットワークの構成例を示す図である。
図9図9は、予測モデルから出力される1チャージ毎の予測エネルギー効率を含むテーブルを例示する。
図10図10は、第2の実装例による処理手順を示すフローチャートである。
図11図11は、第3の実装例による処理手順を示すフローチャートである。
図12図12は、l×m×n次元特徴ベクトルにクラスタリングを適用し、m次元制御パターンベクトルを生成する処理を説明するための図である。
図13図13は、予測モデルから出力される1チャージ毎の予測エネルギー効率を含むテーブルを例示する。
図14図14は、第4の実装例による処理手順を示すフローチャートである。
図15図15は、主のプロセス状態パラメータを規定する時系列プロセスデータ群に符号化処理およびクラスタリングを適用し、m次元プロセスパターンベクトルを生成する処理を説明するための図である。
図16図16は、予測モデルから出力される1チャージ毎の予測エネルギー効率を含むテーブルを例示する。
図17図17は、第5の実装例による処理手順を示すフローチャートである。
図18図18は、学習済みモデルに入力データを入力し、エネルギー効率の予測値を含む出力データを出力する処理を例示する図である。
図19A図19Aは、比較例における予測精度の評価結果を示すグラフである。
図19B図19Bは、第1の実装例における予測精度の評価結果を示すグラフである。
図19C図19Cは、第2の実装例における予測精度の評価結果を示すグラフである。
図19D図19Dは、第3の実装例における予測精度の評価結果を示すグラフである。
図19E図19Eは、第4の実装例における予測精度の評価結果を示すグラフである。
図20図20は、第5の実装例における予測精度の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
アルミニウム合金(以降、「アルミ合金」と表記する。)などの合金材料は、多種のプロセスを含む複数の製造プロセスを経て製造される。例えば、アルミ合金を半連続(DC)鋳造するための製造プロセスは、溶解炉で材料を溶解するプロセス、保持炉で溶湯を保持し、成分調整や温度調整を行うプロセス、連続脱ガス装置を用いて水素ガスを脱ガスするプロセス、RMF(Rigid Media Tube Filter)を利用して介在物を除去するプロセス、および、スラブを鋳造するプロセスを含み得る。溶解プロセスは、溶解炉に材料を装入した後、HOT材や冷材料を追加的に装入する処理(材料の再利用)、ドロスを除去する処理、再加熱をする処理など更なるプロセスを含み得る。この一連の工程はインライン工程である。
【0014】
本願発明者の検討によれば、インライン工程において、溶解プロセスの最適化は後工程の影響を受けるので複雑である。また、物理モデルによるシミュレーションには限界があり、シミュレーションによるプロセスの最適化は困難である。
【0015】
材料メーカは、例えば数年、10年、20年またはそれ以上の長い年月の間、製造の段階で取得された膨大な時系列プロセスデータをデータベースに蓄積し得る。時系列プロセスデータは、設計・開発の情報や、製造時の気候データ、試験データなどに関連付けされてデータベースに蓄積され得る。このようなデータ群はビックデータと称される。しかしながら、材料メーカにおいて、現状、ビックデータが有効に活用されるには至っていない。
【0016】
このような課題に鑑み、本願発明者は、既存のビッグデータを活用して構築するデータ駆動型のエネルギー効率の予測モデルを利用し、溶解プロセスの条件を最適化することが可能な新規な手法を考案するに至った。
【0017】
以下、添付の図面を参照しながら、本開示による溶解炉のエネルギー効率を予測する学習済み予測モデルを生成する方法、溶解炉のエネルギー効率を予測する方法および運転支援システムを詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明および実質的に同一の構成または処理に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。また、実質的に同一の構成または処理に同一の参照符号を付す場合がある。
【0018】
以下の実施形態は例示であり、本開示による溶解炉のエネルギー効率を予測する学習済み予測モデルを生成する方法、溶解炉のエネルギー効率を予測する方法および運転支援システムは、以下の実施形態に限定されない。例えば、以下の実施形態で示される数値、形状、材料、ステップ、そのステップの順序などは、あくまでも一例であり、技術的に矛盾が生じない限りにおいて種々の改変が可能である。また、技術的に矛盾が生じない限りにおいて、一の態様と他の態様とを組み合わせることが可能である。
【0019】
図1は、溶解炉700の構成を例示する模式図である。本実施形態における溶解炉700は、上方から材料703を装入するトップチャージ式である。高速バーナー701から噴射される炎702を材料に直接あてることによって、材料を溶解する。1または複数のセンサが溶解炉に設置され得る。図示される例おいて、溶解炉700の煙道704から排出される排ガスの流量を計測する流量センサ705A、燃焼排ガスに含まれる特定の成分を検出するガスセンサ708、高速バーナー701における燃焼空気の流量を計測する流量センサ705B、高速バーナー701における燃焼ガスの流量を計測する流量センサ705C、溶解炉700内の圧力を計測する圧力センサ706、および、溶解炉700内の炉内雰囲気の温度を計測する温度センサ707が溶解炉700に設置される。
【0020】
各種センサは所定のサンプリング間隔でデータを計測する。所定のサンプリング間隔の例は、1秒または1分である。各種センサによって計測されたデータは、例えばデータベース100に格納される。各種センサとデータベースとの間の通信は、例えばWi-Fi(登録商標)規格に準拠した無線通信によって実現される。
【0021】
ここで、本明細書に記載する用語を定義する。
【0022】
本実施形態における溶解炉のエネルギー効率の予測値は、平均燃料使用量に対する燃料使用量予測値の比率を意味する。ただし、溶解炉のエネルギー効率の予測値はこれに限定されず、他の算出式によって定義され得るあらゆるエネルギー効率の予測値に関連し得る。例えば、溶解炉のエネルギー効率の予測値は、国際規格ISO 14404に準拠したCO原単位によって定義され得る。
【0023】
溶解炉700に設置された各種センサからの出力に基づいて取得される時系列データを「プロセスデータ」と呼ぶ。プロセスデータの例は、排ガス流量(m/h)、燃焼空気流量(m/h)、燃焼ガス流量(m/h)、炉内圧力(kPa)、炉内雰囲気温度(℃)、または排ガス分析濃度(%)である。
【0024】
原料装入から溶解完了までの1チャージ毎に取得される連続的な時系列データ群を「プロセス状態パラメータ」と呼ぶ。言い換えると、プロセス状態パラメータは1チャージ毎に取得されるプロセスデータの連続的な時系列データ群によって規定される。プロセス状態パラメータの例は、プロセスデータと同様に、排ガス流量、燃焼空気流量、燃焼ガス流量、炉内圧力、炉内雰囲気温度である。
【0025】
1チャージ毎に設定される溶解プロセスの基本情報を示すデータを「プロセスターゲットパラメータ」と呼ぶ。プロセスターゲットパラメータの例は、材料装入量(ton)、溶解時間(min)である。プロセスターゲットパラメータは、非時系列データであり、固有値として与えられる。
【0026】
外部環境因子を含むパラメータを「外乱パラメータ」と呼ぶ。外乱パラメータの例は、平均気温(℃)などの気候データである。気候データは時系列データである。外乱パラメータは、気候データ以外に、例えば、作業者や作業グループに関するデータ、作業時刻等を含み得る。
【0027】
図2は、本実施形態に係る溶解炉の運転支援システム1000の概略構成を例示するブロック図である。溶解炉の運転支援システム(以降、簡単に「システム」と表記する。)1000は、複数のセンサからの出力に基づいて取得された複数の時系列プロセスデータを記憶したデータベース100およびデータ処理装置200を備える。本実施形態において、データベース100は、排ガス流量、燃焼空気流量、燃焼ガス流量、炉内圧力、炉内雰囲気温度のそれぞれについての、複数回のチャージで取得されたプロセス状態パラメータ群を格納する。データベース100は、1チャージ毎の材料装入量、溶解時間のプロセスターゲットパラメータを格納し得る。さらに、データベース100は、例えば、平均気温などの気候データをプロセスターゲットパラメータと関連付けて格納することができる。データ処理装置200は、データベース100に蓄積された膨大なデータにアクセスして、属性が異なる1または複数のプロセス状態パラメータおよび1または複数のプロセスターゲットパラメータを取得するこができる。
【0028】
データベース100は、半導体メモリ、磁気記憶装置または光学記憶装置などの記憶装置である。
【0029】
データ処理装置200は、データ処理装置の本体201および表示装置220を備える。例えば、データベース100に蓄積されたデータを活用して溶解炉のエネルギー効率を予測する予測モデルを生成するために利用されるソフトウェア(またはファームウェア)、および、ランタイムにおいて学習済みの予測モデルを利用してエネルギー効率を予測するためのソフトウェアが、データ処理装置の本体201に実装されている。そのようなソフトウェアは、例えば光ディスクなど、コンピュータが読み取り可能な記録媒体に記録され、パッケージソフトウェアとして販売され、または、インターネットを介して提供され得る。
【0030】
表示装置220は、例えば液晶ディスプレイまたは有機ELディスプレイである。表示装置220は、例えば、本体201から出力される出力データに基づいてチャージ毎のエネルギー効率の予測値を表示する。
【0031】
データ処理装置200の典型例は、パーソナルコンピュータである。または、データ処理装置200は、溶解炉の運転支援システムとして機能する専用の装置であり得る。
【0032】
図3は、データ処理装置200のハードウェア構成例を示すブロック図である。データ処理装置200は、入力装置210、表示装置220、通信I/F230、記憶装置240、プロセッサ250、ROM(Read Only Memory)260およびRAM(Random Access Memory)270を備える。これらの構成要素は、バス280を介して相互に通信可能に接続される。
【0033】
入力装置210は、ユーザからの指示をデータに変換してコンピュータに入力するための装置である。入力装置210は、例えばキーボード、マウスまたはタッチパネルである。
【0034】
通信I/F230は、データ処理装置200とデータベース100との間でデータ通信を行うためのインタフェースである。データが転送可能であればその形態、プロトコルは限定されない。例えば、通信I/F230は、USB、IEEE1394(登録商標)、またはイーサネット(登録商標)などに準拠した有線通信を行うことができる。通信I/F230は、Bluetooth(登録商標)規格および/またはWi-Fi規格に準拠した無線通信を行うことができる。いずれの規格も、2.4GHz帯または5.0GHz帯の周波数を利用した無線通信規格を含む。
【0035】
記憶装置240は、例えば磁気記憶装置、光学記憶装置、半導体記憶装置またはそれらの組み合わせである。光学記憶装置の例は、光ディスクドライブまたは光磁気ディスク(MD)ドライブなどである。磁気記憶装置の例は、ハードディスクドライブ(HDD)、フロッピーディスク(FD)ドライブまたは磁気テープレコーダである。半導体記憶装置の例は、ソリッドステートドライブ(SSD)である。
【0036】
プロセッサ250は、半導体集積回路であり、中央演算処理装置(CPU)またはマイクロプロセッサとも称される。プロセッサ250は、ROM260に格納された、予測モデルを訓練したり、学習済みモデルを活用したりするための命令群を記述したコンピュータプログラムを逐次実行し、所望の処理を実現する。プロセッサ250は、CPUを搭載したFPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)またはASSP(Application Specific Standard Product)を含む用語として広く解釈される。
【0037】
ROM260は、例えば、書き込み可能なメモリ(例えばPROM)、書き換え可能なメモリ(例えばフラッシュメモリ)、または読み出し専用のメモリである。ROM260は、プロセッサの動作を制御するプログラムを記憶している。ROM260は、単一の記録媒体である必要はなく、複数の記録媒体の集合であり得る。複数の集合体の一部は取り外し可能なメモリであってもよい。
【0038】
RAM270は、ROM260に格納された制御プログラムをブート時に一旦展開するための作業領域を提供する。RAM270は、単一の記録媒体である必要はなく、複数の記録媒体の集合であり得る。
【0039】
以下、本開示のシステム1000の代表的な構成例を幾つか説明する。
【0040】
ある構成例において、システム1000は、図1に示すデータベース100およびデータ処理装置200を備える。データベース100は、データ処理装置200とは異なる別のハードウェアである。または、膨大なデータを記憶した光ディスクなどの記憶媒体をデータ処理装置の本体201に読み込むことによって、データベース100の代わりに記憶媒体にアクセスして膨大なデータを読み出すことが可能となる。
【0041】
図4は、膨大なデータを格納したデータベース340を有するクラウドサーバー300の構成例を示すハードウェアブロック図である。
【0042】
他の構成例において、システム1000は、図4に示すように、1または複数のデータ処理装置200およびクラウドサーバー300のデータベース340を備える。クラウドサーバー300は、プロセッサ310、メモリ320、通信I/F330およびデータベース340を有する。膨大なデータは、クラウドサーバー300上のデータベース340に格納され得る。例えば、複数のデータ処理装置200は、社内に構築されたローカルエリアネットワーク(LAN)400を介して接続され得る。ローカルエリアネットワーク400は、インターネットプロバイダサービス(IPS)を介してインターネット350に接続される。個々のデータ処理装置200は、インターネット350を経由してクラウドサーバー300のデータベース340にアクセス可能である。
【0043】
システム1000は、1または複数のデータ処理装置200およびクラウドサーバー300を備え得る。その場合において、データ処理装置200が備えるプロセッサ250に代えて、あるいはプロセッサ250と協働して、クラウドサーバー300が備えるプロセッサ310は、予測モデルを訓練したり、学習済みモデルを活用したりするための命令群を記述したコンピュータプログラムを逐次実行することができる。または、例えば、同一のLAN400に接続された複数のデータ処理装置200が、そのような命令群を記述したコンピュータプログラムを協働して実行してもよい。このように複数のプロセッサに分散処理をさせることにより、個々のプロセッサに対する演算負荷を低減することが可能となる。
【0044】
<1.学習済み予測モデルの生成>
図5は、本実施形態における溶解炉のエネルギー効率を予測する学習済み予測モデルを生成する処理手順を例示すチャートである。以下、学習済み予測モデルは「学習済みモデル」と記載する。
【0045】
本実施形態による学習済みモデルは、アルミ合金の製造に用いる溶解炉のエネルギー効率を予測する。ただし、学習済みモデルは、アルミ合金以外の合金材料の製造に用いる溶解炉のエネルギー効率を予測することにも利用され得る。
【0046】
本実施形態による学習済みモデルを生成する方法は、プロセス状態パラメータを1チャージ毎に取得するステップS110、m回チャージ分(mは2以上の整数)のプロセス状態パラメータ群を取得したか否かを判定するステップS120、前処理を実行するステップS130、学習データセットを生成するステップS140、および学習済みモデルを生成するステップS150を含む。
【0047】
各処理(またはタスク)を実行する主体は、1または複数のプロセッサである。1のプロセッサが1または複数の処理を実行してもよいし、複数のプロセッサが協働して1または複数の処理を実行してもよい。各処理は、ソフトウェアのモジュール単位でコンピュータプログラムに記述される。ただし、FPGAなどを用いる場合、これらの処理の全部または一部は、ハードウェア・アクセラレータとして実装され得る。以下の説明において、それぞれのステップを実行する主体は、プロセッサ250を備えるデータ処理装置200とする。
【0048】
ステップS110において、データ処理装置200がデータベース100にアクセスし、原料装入から溶解完了までの1チャージ毎の、属性が異なる1または複数のプロセス状態パラメータを取得または獲得する。本実施形態において、データ処理装置200は、データベース100内に格納された、排ガス流量、燃焼空気流量、燃焼ガス流量、炉内圧力および炉内雰囲気温度のそれぞれのプロセスデータ群にアクセスし、プロセス状態パラメータを1チャージ毎に獲得する。つまり、プロセス状態パラメータとして、排ガス流量、燃焼空気流量、燃焼ガス流量、炉内圧力および炉内雰囲気温度の5つが1チャージ毎に取得される。
【0049】
データ処理装置200は、複数チャージの時系列プロセスデータ群がデータベース100に格納された後にデータベース100にアクセスし、複数チャージのプロセス状態パラメータ群を一括して取得し得る(オフライン処理)。または、データ処理装置200は、1チャージの時系列プロセスデータ群がデータベース100に格納されたら、その都度、データベース100にアクセスし、1チャージのプロセス状態パラメータを取得し得る(オンライン処理)。
【0050】
ステップS120において、データ処理装置200は、m回チャージ分のプロセス状態パラメータ群を取得するまで、ステップS110を繰り返して実行する。本実施形態におけるチャージ回数mは、例えば1000回程度である。データ処理装置200は、m回チャージ分のプロセス状態パラメータ群を含むデータセットを取得すると、次のステップS130に進む。データセットは、m回分のチャージにおいて取得された、排ガス流量、燃焼空気流量、燃焼ガス流量、炉内圧力および炉内雰囲気温度の5つのプロセス状態パラメータ群を含む。
【0051】
ステップ130において、データ処理装置200は、ステップS120において取得したデータセットに機械学習を適用して前処理を実行する。前処理は、属性が異なるそれぞれのプロセス状態パラメータに対し、1チャージ毎に取得した時系列データ群を含むプロセス状態パラメータからn次元特徴量(nは1以上の整数)を抽出する。本明細書において、n次元特徴量はn次元特徴ベクトルと表記される場合がある。
【0052】
本実施形態における前処理で適用される機械学習の例は、畳み込みオートエンコーダ(CAE)、変分オートエンコーダ(VAE)などのオートエンコーダ、および、k-means法、c-means法、混合ガウス分布(GMM)、デンドログラム法、スペクトラルクラスタリングまたは確率的潜在意味解析法(PLSAまたはPLSI)などのクラスタリングである。前処理については後で詳細に説明する。
【0053】
ステップS140において、データ処理装置200は、1チャージ毎のそれぞれのプロセス状態パラメータから抽出したn次元特徴量に基づいて学習データセットを生成する。学習データセットは、少なくとも、1チャージ毎に設定されるプロセス基本情報を示す1または複数のプロセスターゲットパラメータを含む。学習データセットは、さらに、気候データなどの外部環境因子が含まれる1または複数の外乱パラメータを含むことができる。本実施形態において、学習データセットは、材料装入量、溶解時間の2つのプロセスターゲットパラメータ、および、平均気温の外乱パラメータを含む。ただし、学習データセットは、その他のプロセスターゲットパラメータおよび外乱パラメータを含み得る。ただし、外乱パラメータは必須のパラメータではないが、学習データセットに含めることでエネルギー効率の予測精度を向上させることが可能となる。
【0054】
ステップS150において、データ処理装置200は、生成された学習データセットを用いて予測モデルを訓練し、学習済みモデルを生成する。本実施形態において、予測モデルは、教師あり予測モデルであり、ニューラルネットワークで構築される。ニューラルネットワークの例は多層パーセプトロン(MLP)である。MLPは順伝播型ニューラルネットワークとも称される。ただし、教師あり予測モデルはニューラルネットワークに限定されず、例えばサポートベクターマシンまたはランダムフォレストなどであってもよい。
【0055】
本実施形態における溶解炉のエネルギー効率を予測する学習済みモデルは、様々な処理手順(つまり、アルゴリズム)に従って生成することが可能である。以下、アルゴリズムの第1から第4の実装例を説明する。第1から第4の実装例において、それぞれ、固有の前処理が実行される。そのようなアルゴリズムを記述した命令群を含むコンピュータプログラムは、例えば、インターネットを介して供給され得る。以下、それぞれの実装例に固有の前処理を主として説明する。
【0056】
[第1の実装例]
図6は、第1の実装例による処理手順を示すフローチャートである。
【0057】
第1の実装例による処理フローは、プロセス状態パラメータ群を取得するステップ(S110、S120)、前処理を実行するステップS130A、学習データセットを生成するステップS140および予学習済みモデルを生成するステップS150を含む。
【0058】
データ処理装置200は、m回チャージ分のプロセス状態パラメータ群を含むデータセットを取得する。本実装例において、データセットは、排ガス流量、燃焼空気流量、燃焼ガス流量、炉内圧力および炉内雰囲気温度の5つの、m回分のチャージにおいて取得されたプロセス状態パラメータ群を含む。
【0059】
各種センサのサンプリング間隔は計測対象のデータの属性によって異なる。例えば、排ガス流量、燃焼空気流量、燃焼ガス流量、炉内圧力のプロセスデータは、流量センサ705や圧力センサ706によってサンプリング間隔1秒で計測され、炉内雰囲気温度は温度センサ707によってサンプリング間隔1分で計測される。
【0060】
ステップ130において、データ処理装置200は、それぞれのプロセス状態パラメータに対し、1チャージ毎に取得した時系列データ群を含むそれぞれのプロセス状態パラメータに符号化処理S131Aを適用し、n次元特徴量(またはn次元特徴ベクトル)を抽出する。本実施形態では、センサのサンプリング間隔に応じて抽出する特徴量の次元数が異なる。データ処理装置200は、サンプリング間隔1秒で計測された時系列プロセスデータ群で規定されるプロセスパラメータに対し、n次元特徴ベクトルを抽出する。データ処理装置200は、サンプリング間隔1分でサンプリングされた系列プロセスデータで規定されるプロセスパラメータに対し、n次元特徴ベクトルを抽出する。本実装例において、データ処理装置200は、排ガス流量、燃焼空気流量、燃焼ガス流量、炉内圧力のぞれぞれのプロセス状態パラメータから20次元特徴ベクトルを抽出し、炉内雰囲気温度のプロセス状態パラメータから5次元特徴ベクトルを抽出する。
【0061】
図7は、プロセス状態パラメータ群500に符号化処理S131Aを適用し、n次元特徴ベクトルを抽出する処理を説明するための図である。符号化処理S131Aにおいて、オートエンコーダの一種であるCAEまたはVAEのベクトル変換モデルが適用される。ここでCAEおよびVAEの概要を説明する。
【0062】
オードエンコーダは、入力側の次元圧縮(エンコード)および出力側の次元拡張(デコード)を経て、入力と出力とが一致するようにパラメータを繰り返し学習する機械学習モデルである。オードエンコーダの学習は、教師なし学習または教師あり学習であり得る。CAEは、エンコード部分およびデコード部分に全結合層の代わりに畳み込み層を利用したネットワーク構造を有する。一方、VAEは、N次元正規分布に従う確率変数(潜在変数)として表される中間層を有する。入力データを次元圧縮した潜在変数を特徴量として利用することができる。
【0063】
本実装例における符号化処理S131AはCAEである。図7に例示されるように、データ処理装置200は、プロセス状態パラメータ群500にCAEを適用することで、プロセス状態パラメータを規定する時系列プロセスデータ群から1チャージ毎のn次元特徴ベクトルを抽出できる。それぞれのプロセス状態パラメータを規定する時系列プロセスデータ群は、例えば30000次元特徴量として表現される。30000次元は、1チャージ期間におけるサンプリング数(30000回)に相当する。
【0064】
データ処理装置200は、プロセス状態パラメータ群500にCAEを適用することで、1つのプロセス状態パラメータ毎に、m×n次元特徴ベクトルを生成する。プロセス状態パラメータの種類の数をlとすると、全体として、l×m×n次元特徴ベクトル510が生成される。図7に、n次元特徴ベクトルをチャージ毎に配列したm×n次元特徴ベクトルのテーブルが、プロセス状態パラメータ毎に図示されている。
【0065】
平均値や積分値、傾きなどの、作業者や熟練者が検討し得る代表値を用いる場合、それらは彼等が検討し得る範囲でしか算出することができないために、漏れが生じる可能性がある。一方で、プロセス状態パラメータ群500に符号化処理を適用することにより、高精度で特徴量を抽出することが可能となり、予期しない特徴量を抽出することも可能となり得る。
【0066】
再び、図6を参照する。
【0067】
ステップ140において、データ処理装置200は、ステップS130で生成したl×m×n次元特徴ベクトル510、プロセスターゲットパラメータおよび外乱パラメータを含む学習データセットを生成する。本実装例における学習データセットは、排ガス流量、燃焼空気流量、燃焼ガス流量、炉内圧力のぞれぞれのプロセス状態パラメータに関する[m×20]次元特徴ベクトル、炉内雰囲気温度のプロセス状態パラメータに関する[m×5]次元特徴ベクトル、材料装入量(プロセスターゲットパラメータ)、溶解時間(プロセスターゲットパラメータ)、および、平均気温(外乱パラメータ)を含む。
【0068】
ステップS150において、データ処理装置200は、ステップS140で生成した学習データセットを用いて予測モデルを訓練し、学習済みモデルを生成する。本実装例における予測モデルはMLPである。
【0069】
図8は、ニューラルネットワークの構成例を示す図である。図示されるニューラルネットワークは、第1層である入力層から第N層(最終層)である出力層までのN層から構成されるMLPである。N層のうちの第2層から第N-1層までが中間層(「隠れ層」とも称される。)である。入力層を構成するユニット(「ノード」とも称される。)の数は、入力データである特徴量の次元数と同じn個である。すなわち、入力層はn個のユニットから構成される。出力層は1個のユニットから構成される。本実装例において、中間層の数は10個であり、ユニットの総数は500個である。
【0070】
MLPにおいて情報が入力側から出力側に一方向に伝播する。1つのユニットは複数の入力を受け取り、1つの出力を計算する。複数の入力を[x、x、x、・・・、x(iは2以上の整数)]とすると、ユニットへの総入力は、それぞれの入力xに異なる重みwを掛けて加算し、これにバイアスbを加算した式1で与えられる。ここで、[w、w、w、・・・、w]は各入力に対する重みである。ユニットの出力zは、総入力uに対する活性化関数と呼ばれる式2の関数fの出力で与えられる。活性化関数は、一般的には単調増加する非線形関数である。活性化関数の例は、ロジスティックシグモイド関数であり、式3で与えられる。式3におけるeはネイピア数である。
[式1]
u=x+x+x+・・・w+b
[式2]
z=f(u)
[式3]
f(u)=[1/(1+e‐u)]
【0071】
各層に含まれる全ユニット同士が層間で結合される。これにより左側の層のユニットの出力が右側の層のユニットの入力になり、この結合を通じて信号が右の層から左の層に一方向に伝播する。重みwおよびバイアスbのパラメータを最適化しながら各層の出力を順番に決定していくことで、出力層の最終的な出力が得られる。
【0072】
訓練データとして、エネルギー効率の実績値が用いられる。ニューラルネットワークにおける出力層の出力が実績値に近づくように、損失関数(二乗誤差)に基づいて重みwおよびバイアスbのパラメータが最適化される。本実装例では、例えば10000回の学習が行われる。
【0073】
図9は、予測モデルから出力される1チャージ毎の予測エネルギー効率を含むテーブルを例示する。予測モデルを訓練した結果、図9に例示されるように、1チャージ毎のエネルギー効率の予測値が出力データとして得られる。このエネルギー効率の予測値は、例えば表示装置220に表示され得る。作業者は、表示装置220に表示されるエネルギー効率の予測値のリストを確認することができ、このエネルギー効率の予測値に基づいて、所望の溶解炉の運転条件を選定することが可能となる。
【0074】
[第2の実装例]
図10は、第2の実装例による処理手順を示すフローチャートである。
【0075】
第2の実装例における前処理は、符号化処理S131AとしてVAEを適用する点で、第1の実装例と相違する。以下、第1の実装例との相違点を主に説明する。
【0076】
ステップ130Bにおいて、データ処理装置200は、それぞれのプロセス状態パラメータに対し、1チャージ毎に取得した時系列プロセスデータ群に符号化処理S131AとしてVAEを適用し、n次元特徴量を抽出する。
【0077】
本実装例において、データ処理装置200は、プロセス状態パラメータにVAEを適用することで、入力である時系列プロセスデータ群を次元圧縮して、低次元の潜在変数に変換することができる。例えば、30000次元特徴量として表現される時系列プロセスデータ群を10次元の潜在変数に変換することが可能である。
【0078】
本実装例によれば、時系列プロセスデータ群にVAEを適用することで、10次元特徴ベクトルをプロセス状態パラメータ毎に抽出することが可能となる。VAEとニューラルネットワークを統合して生成した予測モデルを利用することで、エネルギー効率を高精度で予測することが可能となる。さらに、VAEによるデータ生成、つまり、低次元に圧縮された潜在変数を活用することは、時系列的にプロセスの評価を行うことが可能となる点で有益である。例えば、溶解炉の運転条件をプロセスの段階毎にチューニングすることが可能となる。
【0079】
[第3の実装例]
図11は、第3の実装例による処理手順を示すフローチャートである。
【0080】
第3の実装例は、n次元特徴量に基づいて制御パターンを生成する点で、第1または第2の実装例とは相違する。以下、相違点を主に説明する。
【0081】
データ処理装置200は、それぞれのプロセス状態パラメータを規定する時系列プロセスデータ群を、抽出したn次元特徴量に基づいてパターン化することによって、制御パターンを決定する。
【0082】
本実装例における前処理は、プロセス状態パラメータを規定する時系列プロセスデータ群に符号化処理S131Aを適用してn次元特徴量を抽出するステップS130Aと、結合特徴量(または結合特徴ベクトル)にクラスタリングS131Bを適用して制御パターンを生成するステップ130Cと、を含む。ステップS130Aの処理は第1の実装例で説明したとおりである。クラスタリングの例は、GMMまたはK-means法である。本実装例におけるクラスタリングはGMMである。以下、GMMおよびk-means法のそれぞれの代表的なアルゴリズムを簡単に説明する。これらのアルゴリズムは、比較的簡易にデータ処理装置200に実装することができる。
【0083】
(混合ガウス分布)
混合ガウス分布(GMM)は、確率分布に基づく解析法であり、複数のガウス分布の線形結合として表現されるモデルである。モデルは例えば最尤法によってフィッティングされる。特に、データ群の中に複数のまとまりがある場合、混合ガウス分布を用いることにより、クラスタリングを行うことができる。GMMでは、与えられたデータ点から、複数のガウス分布のそれぞれの平均値および分散を算出する。
(i)各ガウス分布の平均値および分散を初期化する。
(ii)データ点に与える重みをクラスタ毎に算出する。
(iii)(ii)によって算出された重みに基づいて、各ガウス分布の平均値および分散を更新する。
(iv)(iii)によって更新された各ガウス分布の平均値の変化が十分に小さくなるまで(ii)および(iii)を繰り返して実行する。
【0084】
(k-means法)
k-means法は、その手法が比較的簡潔であり、また、比較的に大きなデータに適用可能であるために、データ分析において広く利用されている。
(i)複数のデータ点の中から、適当な点をクラスタの数だけ選択して、それらを各クラスタの重心(または代表点)に指定する。データは「レコード」とも称される。
(ii)各データ点と各クラスタの重心との間の距離を算出し、クラスタ数だけ存在する重心の中から、距離が最も近い重心のクラスタを、そのデータ点が属するクラスタとする。
(iii)クラスタ毎に、各クラスタに属する複数のデータ点の平均値を算出し、平均値を示すデータ点を各クラスタの新たな重心とする。
(iv)クラスタ間における全てのデータ点の移動が収束するか、あるいは、計算ステップ数の上限に達するまで、(ii)および(iii)を繰り返し実行する。
【0085】
ステップS130Cにおいて、データ処理装置200は、ステップS130Aにおいて抽出したn次元特徴量を入力データとしてクラスタリングを実行することにより、m回分のチャージのそれぞれのプロセスが、どのグループに属するか示すラベルを含む制御パターンを決定する。例えば、クラスタリングによって、入力されるn次元特徴ベクトルを10グループに分類することができる。
【0086】
ステップS132において、データ処理装置200は、それぞれのプロセス状態パラメータから1チャージ毎に取得したn次元特徴ベクトルを全て結合して1チャージ毎の結合特徴ベクトルを生成する。データ処理装置200は、例えば、排ガス流量、燃焼空気流量、燃焼ガス流量、炉内圧力のそれぞれから抽出した20次元特徴ベクトルと、炉内雰囲気温度から抽出した5次元特徴ベクトルとを結合して、85次元結合特徴ベクトルを1チャージ毎に生成する。データ処理装置200は、最終的に、m回分のチャージの85次元結合特徴ベクトルを生成する。
【0087】
データ処理装置200は、結合特徴ベクトルにクラスタリングを適用することで、m回分のチャージのそれぞれのプロセスが、どのグループに属するか示すラベルを含む制御パターンを決定する。データ処理装置200はクラスタリングを実行して、例えば、1チャージ毎の結合特徴ベクトルを10グループに分類する。データ処理装置200は、m回のチャージについてのm個の制御パターンで規定されるm次元制御パターンベクトル520を生成する。
【0088】
図12は、ステップS130で生成したl×m×n次元特徴ベクトル510にクラスタリングS131Bを適用し、m次元制御パターンベクトル520を生成する処理を説明するための図である。制御パターンは、例えば、ラベルAAからJJの10種類のパターンを含む。制御パターンは、溶解炉の制御状態をパターンとして抽出したものであり、より具体的には、主に、時系列プロセスデータの時間変化や微変動、細かい差異に着目して溶解炉の制御状態をパターン化したものである。溶解炉の制御状態とは、例えば、溶解初期の燃焼ガス流量が高い状態や、溶解後期の炉内圧力が低い状態などを意味する。ただし、制御パターンは、後述するように溶解炉の運転に関する情報も含み得る。
【0089】
図13は、予測モデルから出力される1チャージ毎の予測エネルギー効率を含むテーブルを例示する。本実装例において、学習データセットは、プロセスターゲットパラメータ、外乱パラメータに加えて、m次元制御パターンベクトルを含む。学習データセットにm次元制御パターンベクトルを含めることにより、エネルギー効率の予測精度を向上させることが可能となる。例えば、時系列プロセスデータの微小なばらつきの影響が抑えられて、ロバスト性が向上し得る。また、実操業に紐づけすることにより、所望の溶解炉の運転条件で溶解炉を制御することが容易になり得る。
【0090】
第1または第2の実装例と同様に、予測モデルを訓練した結果、図13に例示されるように、1チャージ毎のエネルギー効率の予測値が出力データとして得られる。
【0091】
[第4の実装例]
図14は、第4の実装例による処理手順を示すフローチャートである。
【0092】
第4の実装例は、主のプロセス状態パラメータに基づいてプロセスパターンを生成する点で、第1、第2または第3の実装例とは相違する。以下、相違点を主に説明する。
【0093】
本実装例における前処理は、ステップS130Aにおいて抽出したn次元特徴量に基づいて制御パターンを生成するステップS130D、および主のプロセス状態パラメータに基づいてプロセスパターンを生成するステップS130Eを含む。
【0094】
ステップS130Aの処理は第3の実施例において説明したとおりである。すなわち、データ処理装置200は、例えば、排ガス流量、燃焼空気流量、燃焼ガス流量、炉内圧力のそれぞれを規定する時系列プロセスデータ群から20次元特徴ベクトルを抽出し、炉内雰囲気温度を規定する時系列プロセスデータ群から5次元特徴ベクトルを抽出する。
【0095】
ステップS130Dの処理は、第3の実装例におけるステップS130Cの処理と異なる。相違は、サンプリング間隔が同じ1または複数のプロセス状態パラメータを2以上のグループにグループ分けする点にある。ステップS130Dにおいて、データ処理装置200は、同一グループに属する少なくとも1つのプロセス状態パラメータのそれぞれから1チャージ毎に取得したn次元特徴量を全て結合してグループ毎の結合特徴量を生成する。第4の実装例において、サンプリング間隔1秒で取得された複数のプロセス状態パラメータのうちの、排ガス流量、燃焼空気流量、燃焼ガス流量の3つがグループAに割り当てられ、炉内圧力がグループBに割り当てられる。サンプリング間隔1分で取得されたプロセス状態パラメータは1つであるために、炉内雰囲気温度はグループCに割り当てられる。
【0096】
データ処理装置200は、グループAに属する排ガス流量、燃焼空気流量、燃焼ガス流量のプロセス状態パラメータのそれぞれから抽出した20次元特徴量を全て結合してグループ毎の結合特徴量を生成する。グループAの結合特徴量の次元は60次元である。データ処理装置200は、グループBに属する炉内圧力のプロセス状態パラメータから抽出した20次元特徴量を全て結合してグループ毎の結合特徴量を生成する。この場合、特徴量を結合する対象が1つなので、グループBの結合特徴量の次元は、炉内圧力の特徴量の次元と同じ20次元である。データ処理装置200は、グループCに属する炉内雰囲気温度のプロセス状態パラメータから抽出した5次元特徴量を全て結合してグループ毎の結合特徴量を生成する。特徴量を結合する対象が1つなので、グループCの結合特徴量の次元は、炉内雰囲気温度の特徴量の次元と同じ5次元である。
【0097】
データ処理装置200は、グループ毎の結合特徴量にクラスタリングS131Bを適用することで、m回分のチャージのそれぞれのプロセスが、どのグループに属するか示すラベルを含む制御パターンをグループ毎に決定する。本実装例におけるクラスタリングはGMMである。例えば、GMMによって、入力されるn次元特徴量を10グループに分類することができる。
【0098】
データ処理装置200は、グループAの60次元結合特徴量にGMMを適用することで1チャージ毎の制御パターンAを含むm次元制御パターンベクトルを生成する。データ処理装置200は、グループBの20次元結合特徴量にGMMを適用することで1チャージ毎の制御パターンBを含むm次元制御パターンベクトルを生成する。データ処理装置200は、グループCの5次元結合特徴量にクラスタリングを適用することで1チャージ毎の制御パターンCを含むm次元制御パターンベクトルを生成する。例えば、制御パターンA、BおよびCのそれぞれは、例えばラベルAAからJJの10種類のパターンを含む。制御パターンAは、バーナー制御に関する制御パターンであり、制御パターンBは、炉圧パターンに関する制御パターンであり、パターンCは、温度に関する制御パターンである。
【0099】
ステップS130Eにおいて、データ処理装置200は、1または複数のプロセス状態パラメータのうちの少なくとも1つを規定する時系列プロセスデータ群に機械学習を適用し、m回分のチャージのそれぞれのプロセスをパターン化することによって、プロセスパターンを決定する。より詳しく説明すると、データ処理装置200は、主のプロセス状態パラメータの1つを規定する時系列プロセスデータ群に符号化処理およびクラスタリングを適用することで、m回分のチャージのそれぞれのプロセスが、どのグループに属するか示すラベルを含むプロセスパターンを決定する。
【0100】
主のプロセス状態パラメータは、1または複数のプロセス状態パラメータの中で溶解プロセスを直接的に支配するパラメータを指す。例えば、溶解炉のエネルギー効率は炉蓋の開け閉めやバーナーのON/OFFなどによって大きく支配される。そのため、本実施形態において、これを反映するパラメータを主のプロセス状態パラメータとする。主のプロセス状態パラメータの例は燃焼ガス流量である。
【0101】
図15は、主のプロセス状態パラメータを規定する時系列プロセスデータ群に符号化処理およびクラスタリングを適用し、m次元プロセスパターンベクトル530を生成する処理を説明するための図である。
【0102】
ステップS130Eにおいて、データ処理装置200は、1または複数のプロセス状態パラメータの中で、主のプロセス状態パラメータの1つを規定する時系列プロセスデータ群に符号化処理およびクラスタリングを適用することで、m回分のチャージのそれぞれのプロセスが、どのグループに属するか示すラベルを含むプロセスパターンを決定する。本実装例における符号化処理はVAEであり、クラスタリングはk-means法である。
【0103】
プロセスパターンは、例えばラベルAAAからDDDの4種類のパターンを含む。プロセスパターンは溶解プロセスにおいて必要な作業に関する。プロセスパターンは、作業の有無や作業順序、作業タイミングの組合せに着目して主のプロセス状態パラメータを規定する時系列プロセスデータ群をパターン化して、特徴を抽出したものである。上述した制御パターンは、プロセスパターンと同様に作業に関する情報を含み得るが、作業に関する情報以外の例えば溶解炉の制御状態などの情報を含む点でプロセスパターンとは異なる。
【0104】
データ処理装置200は、燃焼ガス流量を規定する時系列プロセスデータ群にVAEを適用して、燃焼ガス流量のプロセス状態パラメータから例えば2次元特徴量を1チャージ毎に抽出する。データ処理装置200は、抽出した2次元特徴量にk-means法を適用することで、m回分のチャージのそれぞれのプロセスが、どのグループに属するか示すラベルを含むプロセスパターンを決定する。データ処理装置200は、1チャージ毎のプロセスパターンを含むm次元プロセスパターンベクトル530を生成する。
【0105】
図16は、予測モデルから出力される1チャージ毎の予測エネルギー効率を含むテーブルを例示する。本実装例における学習データセットは、プロセスターゲットパラメータ、外乱パラメータ、m次元制御パターンベクトルに加えて、m次元プロセスパターンベクトルを含む。プロセスパターンの生成処理においてクラスタリングを適用することにより、その結果は、例えば作業者が分類する場合とは異なる結果になることがあり、プロセスパターンを客観的に抽出することが可能となる。これにより、エネルギー効率の予測精度が向上し得る。
【0106】
学習済みモデルに対し、ハイパーパラメータを調整することにより、予測モデルの精度を最適化することが好ましい。この調整は、例えばグリッドサーチを用いて行うことができる。
【0107】
本開示の実施形態による、学習済み予測モデルを生成する方法は、1または複数のプロセス状態パラメータと異なる1以上の他のプロセス状態パラメータを取得し、取得した1以上の他のプロセス状態パラメータから古典的な方法により特徴量を抽出するステップをさらに含み得る。他のプロセス状態パラメータは、上述した排ガス流量、燃焼空気流量、燃焼ガス流量などのプロセス状態パラメータと異なる。他のプロセス状態パラメータは、例えば溶解炉の燃焼排ガスの成分値、または燃焼排ガス温度である。抽出したn次元特徴量と、古典的な方法により抽出した特徴量とに基づいて学習データセットが生成され得る。
【0108】
[第5の実装例]
図17は、第5の実装例による処理手順を示すフローチャートである。
【0109】
第5の実装例は、機械学習を適用して抽出したn次元特徴量と、古典的な方法により抽出した特徴量とに基づいて学習データセットを生成する点で、第1の実装例とは相違する。以下、相違点を主に説明する。
【0110】
第5の実装例における他のプロセス状態パラメータは、溶解炉の燃焼排ガスの成分値である。第5の実装例による処理フローは、溶解炉の燃焼排ガスの成分値を連続的に分析し、排ガス成分値の分析データを取得するステップ(S171)と、取得した分析データから、バーナー燃焼時の排ガス成分値の特徴量を古典的な方法により抽出するステップ(S172)とをさらに含む。古典的な方法の例は、理論または経験則に基づくものである。
【0111】
ステップS171において、データ処理装置200は、例えばガスセンサ708を備える燃焼排ガス分析装置から出力される出力値に基づいて、例えばO、CO、CO、NO、NOなどの各種の燃焼排ガスの成分値の連続的なデータ群を取得する。例えば、連続的なデータ群が1チャージごとに取得され得る。データ処理装置200は、連続的なデータ群を分析し、それぞれの排ガス成分値の分析データを取得する。ガス成分値の例は、ガス成分の濃度である。
【0112】
ステップS172において、データ処理装置200は、排ガス成分ごとに取得した分析データから、バーナー燃焼時の排ガス成分値の特徴量を排ガス成分ごとに抽出する。排ガス成分値の特徴量は、例えば1次元特徴ベクトルで表される。排ガス成分値の特徴量として、例えばバーナー燃焼時に得られるデータを分析することで取得される分析値の中央値等を用いることができる。
【0113】
ステップS140において、データ処理装置200は、機械学習を適用して抽出したn次元特徴量と、古典的な方法により抽出した排ガス成分値の特徴量とに基づいて学習データセットを生成する。本実装例におけるデータ処理装置200は、ステップS130で生成したl×m×n次元特徴ベクトル510、プロセスターゲットパラメータ、外乱パラメータ、およびステップS172で抽出した排ガス成分値の特徴量を含む学習データセットを生成する。
【0114】
排ガス成分値は特殊なプロセスデータであるために、機械学習よりも古典的な方法により特徴量を抽出することが好ましい。そのため、本実装例は、燃焼排ガス成分値を、上述したプロセス状態パラメータと区別して扱っている。ただし、排ガス成分値をプロセス状態パラメータの1つとして扱い、第1の実装例で説明したように機械学習を燃焼排ガス成分値に適用して特徴量を抽出してもよい。
【0115】
ステップS150において、データ処理装置200は、ステップS140で生成した学習データセットを用いて予測モデルを訓練し、学習済みモデルを生成する。
【0116】
<2.ランタイム>
制御パターン候補、プロセスパターン候補などを含む入力データを、上述した学習済みモデルに入力することにより、溶解炉のエネルギー効率予測を行うことや、エネルギー効率が所定の基準値を満たす制御パターンおよびプロセスパターンを出力することが可能となる。所定の基準値はエネルギー効率の目標値として設定され得る。
【0117】
図18は、学習済みモデルに入力データを入力し、エネルギー効率の予測値を含む出力データを出力する処理を例示する図である。
【0118】
本実施形態に係る溶解炉のエネルギー効率を予測する方法は、ランタイムの入力として、制御パターン候補、プロセスパターン候補、原料装入から溶解完了までの1チャージ毎に設定されるプロセス基本情報を示す1または複数のプロセスターゲットパラメータ、および、1または複数の外乱パラメータを含む入力データを受け取るステップと、学習済みモデルに入力データを入力して、1チャージ毎の予測エネルギー効率を出力するステップと、を含む。ただし、予測モデルを学習するときに利用される学習データセットに外乱パラメータが含まれていない場合、ランタイム時の入力データに外乱パラメータは含まれない。本実施形態では、入力データは外乱パラメータを含むものとして説明する。
【0119】
学習済みモデルは、例えば、上述した第1から第4の実装例に従って生成することができる。予測モデルの訓練に用いる学習データセットは、入力データに含まれるプロセスターゲットパラメータのデータ範囲を含む1または複数のプロセスターゲットパラメータ、および、入力データに含まれる外乱パラメータのデータ範囲を含む1または複数の外乱パラメータを含む。言い換えると、入力データの中の1または複数のプロセスターゲットパラメータは、学習データセットに含まれる1または複数のプロセスターゲットパラメータのデータ範囲から選択される。同様に、入力データの中の1または複数の外乱パラメータは、学習データセットに含まれる1または複数の外乱パラメータのデータ範囲から選択される。
【0120】
ここで、制御パターン候補およびプロセスパターン候補を説明する。
【0121】
制御パターン候補は、予測モデルを生成するときに前処理で生成された全ての制御パターンを含む。前処理で4種類(パターンAA、BB、CC、DD)の制御パターンが生成される場合、4つのパターンの全てが制御パターン候補となり得る。入力データに含まれる、プロセスターゲットパラメータやプロセスパターン、外乱パラメータに応じて、エネルギー効率が最も高くなる制御パターンは異なり得る。したがって、本実施形態では、プロセスターゲットパラメータやプロセスパターン、外乱パラメータの変化に応じて制御パターンを最適化するために、制御パターン候補の中から所望の制御パターンを選択する方式を採用している。所望の制御パターンは、エネルギー効率が所定の基準値、つまり、目標値を満たす制御パターンを意味する。
【0122】
プロセスパターン候補は、予測モデルを生成するときに前処理で生成されたプロセスパターンの中から、溶解プロセスにおいて選択可能なパターン候補として作業者が選択したプロセスパターンである。プロセスパターン候補は、所望の制御パターンを選択するときの制約条件的な意味合いで用いられる。作業者は、例えば作業予定に従って1また複数のプロセスパターン候補を選択できる。例えば、前処理で生成されたプロセスパターンが、AAAパターン(材料の装入回数:1回、炉内掃除:無)、BBBパターン(材料の装入回数:1回、炉内掃除:有)、CCCパターン(材料の装入回数:2回、炉内掃除:無)、DDDパターン(材料の装入回数:2回、炉内掃除:有)の4パターンを含むときに、溶解プロセスにおいて材料装入の回数は自由であり、炉床掃除は必要ない場合を考える。その場合、作業者は、例えば、データ処理装置200の入力装置210を介して、選択可能なパターン候補としてAAAパターン、CCCパターンの2つを選択することができる。
【0123】
図18において、入力データとして、AAからDDパターンの4つを含む制御パターン候補、作業者によって選択されたAAA、CCCパターンの2つを含むプロセスパターン候補を入力した場合において学習済みモデルが出力する出力データのテーブルが例示されている。
【0124】
出力データは、制御パターン候補およびプロセスパターン候補の全組み合わせと、エネルギー効率の予測値との対応を関連付けする。このエネルギー効率の予測値は1チャージ毎の予測値である。図示される例において、8通りの組み合わせと、エネルギー予測値との対応関係が示されている。データ処理装置200は、8通りの組み合わせの中から、エネルギー効率が目標値を満たす制御パターン候補およびプロセスパターン候補の組み合わせを、所望の制御パターンおよびプロセスパターンとして選択する。データ処理装置200は、選択した制御パターンおよびプロセスパターンを表示装置220に出力して表示してもよいし、例えばログファイルに出力してもよい。図示される例において、制御パターン候補BBおよびプロセスパターン候補CCCが、目標値を満たす所望の制御パターンおよびプロセスパターンとして選択された結果が表示されている。
【0125】
(実施例)
本願発明者は、比較例と比較することによって、第1から第4の実装例におけるエネルギー効率の予測精度の吟味を行った。比較例において、プロセス状態パラメータを規定する時系列プロセスデータから平均値を算出し、それを代表値として入力データに使用した。また、比較例では、エネルギー効率を重回帰によって予測し、予測精度を算出した。
【0126】
図19Aから図19Eは、それぞれ、比較例、第1から第4の実装例における予測精度の評価結果を示すグラフである。グラフの横軸はエネルギー効率予測値(a.u.)を示し、縦軸はエネルギー効率実績値(a.u.)を示す。グラフの中に予測値=実績値となる直線が示されている。エネルギー効率予測値は、平均燃料使用量Pに対する燃料使用量予測値Q1の比率(Q1/P)を指し、エネルギー効率実績値は、平均燃料使用量Pに対する燃料使用量実績値Q2の比率(Q2/P)を指す。
【0127】
比較例における決定係数Rは0.44である。第1から第4の実装例における決定係数Rは、それぞれ、0.57、0.65、0.50、0.54である。第1から第4の実装例における決定係数Rはいずれも比較例の決定係数Rを上回った。第1から第4の実装例の中では、とりわけ、第2の実装例がエネルギー効率を精度よく予測する最適なモデルの1つであると考えられる。
【0128】
第5の実装例におけるエネルギー効率の予測精度の吟味も行った。この予測精度の吟味において、排ガス成分値の特徴量を追加して計算を行った。比較例は、上述したとおりである。
【0129】
図20は、第5の実装例における予測精度の評価結果を示すグラフである。グラフの横軸はエネルギー効率予測値(a.u.)を示し、縦軸はエネルギー効率実績値(a.u.)を示す。グラフの中に予測値=実績値となる直線が示されている。比較例による予測精度の評価結果を示すグラフは、図19Aに示すとおりである。
【0130】
比較例における決定係数Rは0.44であり、一方で、第5の実装例における決定係数Rは0.51である。第5の実装例における決定係数Rも比較例の決定係数Rを上回った。排ガス成分値の特徴量を追加することで、排ガスの成分値による解析が可能となる。
【0131】
本実施形態によれば、CAEやVAEなどの符号化処理、GMMやk-meansなどのクラスタリングと、ニューラルネットワークなどの教師あり予測モデルとを統合して生成した予測モデルを利用することで、エネルギー効率を高精度で予測することが可能となる。また、所望の操炉スケジュールおよび材料投入量の下、学習済みモデルを利用して、エネルギー効率を最大化するための制御パターンおよびプロセスパターンの推薦が可能となる溶解炉の運転支援システムが提供される。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本開示の技術は、合金材料の製造に用いる溶解炉のエネルギー効率を予測する予測モデルの生成に加え、学習済みモデルを利用して溶解炉の運転条件の選定を行う支援システムにおいて広く用いられ得る。
【符号の説明】
【0133】
100、340 :記憶装置(データベース)
200 :データ処理装置
201 :データ処理装置の本体
210 :入力装置
220 :表示装置
230、330 :通信I/F
240 :記憶装置
250、310 :プロセッサ
260 :ROM
270 :RAM
280 :バス
300 :クラウドサーバー
320 :メモリ
350 :インターネット
400 :ローカルエリアネットワーク
700 :溶解炉
701 :高速バーナー
702 :炎
703 :材料
704 :煙道
705A、705B、705C :流量センサ
706 :圧力センサ
707 :温度センサ
708 :ガスセンサ
1000 :運転支援システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図17
図18
図19A
図19B
図19C
図19D
図19E
図20