(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】慣性が低減されたエスケープシステムのための車
(51)【国際特許分類】
G04B 15/14 20060101AFI20240711BHJP
G04B 13/02 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
G04B15/14 B
G04B13/02 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023035214
(22)【出願日】2023-03-08
【審査請求日】2023-03-08
(32)【優先日】2022-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス-ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ローラン・ジャンヌレ
(72)【発明者】
【氏名】ステファーヌ・ルナール
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開昭48-44138(JP,A)
【文献】特開2010-91544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エスケープのための車(1)であって、
前記車(1)は、機械的トルクを受けるように意図されたスタッフと一緒に回転するようにそのスタッフに取り付けられるように意図されており、
前記車(1)には、ハブ(2)と、フェロー(3)と、前記ハブ(2)から前記フェロー(3)まで延在している少なくとも2つのアーム(4)と、複数の歯(5)によって形成される歯列があり、
前記車(1)には、
表面と裏面である2つの面に空欠部(10)があり、
前記空欠部(10)は、前記フェロー(3)からハブ(2)まで形成されている
ことを特徴とする
車(1)。
【請求項2】
厚みが0.10mm以上である
ことを特徴とする請求項1に記載の車(1)。
【請求項3】
前記
空欠部(10)は、0.02mm~0.05mmの高さを有する
ことを特徴とする請求項1に記載の車(1)。
【請求項4】
前記
空欠部(10)は、部分的に前記フェロー(3)にて形成されており、前記フェローの縁部において0.02mm以上の境界部(6)を形成する
ことを特徴とする請求項1に記載の車(1)。
【請求項5】
前記車(1)には、少なくとも2つ
のアーム(4)がある
ことを特徴とする請求項1に記載の車(1)。
【請求項6】
前記空欠部は、前記車の前記アーム(4)と前記フェロー(3)によって形成される水平面(P)に対して対称である
ことを特徴とする請求項
1に記載の車(1)。
【請求項7】
前記空欠部は、前記車の前記アーム(4)と前記フェロー(3)によって形成される水平面に対して非対称である
ことを特徴とする請求項
1に記載の車(1)。
【請求項8】
鋼、ケイ素、金属合金から選択される材料によって作られている
ことを特徴とする請求項1に記載の車(1)。
【請求項9】
前記
空欠部(10)は、ミリング、旋削、
彫り加工、レーザー加工、DRIE又はLIGAによって形成される
ことを特徴とする請求項1に記載の車(1)。
【請求項10】
前記車は、エスケープ車、中間車、又は
4番車である
ことを特徴とする請求項1に記載の車(1)。
【請求項11】
請求項1に記載の車(1)を備える
ことを特徴とするエスケープシステム。
【請求項12】
請求項
11に記載のエスケープシステムを備える
ことを特徴とする計時器用ムーブメント。
【請求項13】
請求項1に記載の車(1)を備える
ことを特徴とする計時器用ムーブメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計時器の分野に関し、特に、機械式の計時器用ムーブメントに関する。
【0002】
特に、本発明は、計時器のエスケープシステムのための車に関する。
【背景技術】
【0003】
エスケープ車は、計時器の分野においてよく知られており、パレットレバーなどを用いて、バランスの振動を維持するためにエネルギーを供給するメインばねに接続されるように意図されている。
【0004】
特に、スイス式レバーエスケープにおいて、エスケープ車には、フェロー(felloe)の周部に分布する歯があり、このフェローは、半径方向の枝部によってハブに接続される。パレットレバーには、エスケープ車の歯と連係するように意図されたパレットがある。
【0005】
バランスの交番運動ごとに、エスケープ車は、以下のサイクルに従う。すなわち、エスケープ車は、第1のパレットに対する止め位置から解放され、そして、歯車列によって加速されて駆動されて、まず、パレットレバーに追いつき、次に、パレットレバーを介して間接的にバランスに追いつく。エスケープ車は、バランスを駆動して追い出して、最終的に、パレットレバーの第2のパレットに当接することで、一連の動作を終える。
【0006】
このように、これらの繰り返しサイクルはそれぞれ、動き始めたり止まったりする車の一連のステップからなる。このように、この車セットの慣性が可能な限り低いことは、迅速な動き始めやバランスへの追いつきを確実にする上で重要な役割を果たし、効率の損失が抑えられることを確実にすることがわかる。
【0007】
このような課題は、当業者によって様々な形態で、既に知られており対処されてきた。すなわち、できるだけ慣性を減らそうとして、スケルトン化されたエスケープ車を作ったり、ケイ素のような低密度材料によって作られたエスケープ車を作ったりしてきた。
【0008】
これらの手法は満足できるものであるが、このようなエスケープ車の製造にはいくつかの困難なことがある。特に、加工に比較的長い時間を要することに加えて、スケルトン化やケイ素材料の性質に起因して、得られるコンポーネントが脆弱となってしまうことがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の主な目的は、製造が容易かつ迅速でありつつ、現在用いられている車と比べて慣性が低減された、エスケープシステムのための車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このために、本発明は、エスケープのための車に関し、前記車は、機械的トルクを受けるように意図されたスタッフと一緒に回転するようにそのスタッフに取り付けられるように意図されており、前記車には、ハブと、フェローと、前記ハブから前記フェローまで延在している少なくとも2つのアームと、複数の歯によって形成される歯列があり、前記車には、その少なくとも1つの面上に少なくとも1つの空欠部があり、前記空欠部は、前記フェローからハブまで形成されている。
【0011】
本発明の他の有利な代替的実施形態においては、以下の特徴を有する。
- 前記車は、厚みが0.10mm以上である。
- 前記少なくとも1つの空欠部は、0.02mm~0.05mmの高さを有する。
- 前記少なくとも1つの空欠部は、部分的に前記フェローにて形成されており、前記フェローの縁部において0.02mm以上の境界部を形成する。
- 前記車には、少なくとも2つ、好ましくは4つ、のアームがある。
- 前記車には、表面と裏面である2つの面に空欠部がある。
- 前記空欠部は、前記エスケープ車の厚みの中間位置にある水平面に対して対称である。
- 前記空欠部は、前記エスケープ車の厚みの中間位置にある水平面に対して非対称である。
- 前記車は、鋼、ケイ素、金属合金から選択される材料によって作られている。
- 前記少なくとも1つの空欠部は、ミリング、旋削、シンキング、レーザー加工、DRIE又はLIGAによって形成される。
- 前記車は、エスケープ車、中間車、又は第4の車である。
- 面当たり複数の空欠部があることが考えられる。
【0012】
本発明は、さらに、本発明に係る車を備えるエスケープシステムに関する。
【0013】
本発明は、さらに、このようなエスケープシステム、又は本発明に係るエスケープシステムのための車を備える計時器用ムーブメントに関する。
【0014】
添付の図面を参照しながら例として与えられる以下の詳細な説明を読むことによって、本発明の他の特徴及び利点が明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】
図3のエスケープ車のA-A軸に沿った断面の図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、エスケープシステムのための車に関する。このような車は、例えば、エスケープ車、中間車、又は第4の車である。以下の説明において、本発明をより容易に理解するための説明用の例として、エスケープ車を選択して説明する。当業者であれば、同様の方法で中間車や第4の車を作ることが難しくないことは明らかである。
【0017】
図1は、本発明に係るエスケープ車1を示しており、このエスケープ車1には、伝統的な形態で、半径方向のアーム4によってフェロー3に接続されるハブ2と、フェロー3の周部にて均等に分布しエスケープ車1の回転軸に直交する方向に延在している歯5がある。エスケープ車1には、少なくとも2つ、好ましくは4つ、のアーム4がある。当然、3つのアーム4があるエスケープ車のような他の構成も考えることができる。
【0018】
エスケープ車1は、鋼、ケイ素又は金属合金、又は計時器用のコンポーネントを作るために当業者に知られている任意の他の伝統的な材料から選択される材料によって作られる。
【0019】
本明細書において、エスケープ車1の回転軸に対して垂直でありエスケープ車の厚みの中間位置にある平面Pが定められる。また、本明細書において用いられる用語「厚み」は、エスケープ車1の回転軸に平行な方向における寸法を意味する。
【0020】
図1に示しているように、歯5にはそれぞれ、少なくとも1つのベベルがある端がある。
【0021】
本発明によると、エスケープ車1には、その面の少なくとも1つ、特に表面及び/又は裏面、に形成される少なくとも1つの空欠部10があり、この空欠部10は、フェロー3からハブ2まで形成されている。当業者のニーズに従って、ハブ2は、車1がハブ2においてよりソリッドであるようにフェロー3と同じ厚みを有することができ、これによって、スタッフに接するように配置されたときの変形を避ける。
【0022】
「空欠部」という用語は、車1のプレートに形成される、空洞部、例えば、環状の空洞部、を意味すると理解することができる。
【0023】
表面と裏面はそれぞれ、エスケープ車1の上側と下側から見える面を意味するものと理解することができる。
【0024】
エスケープ車は、少なくとも0.10mmの厚みを有し、一又は複数の空欠部10は、0.02mm~0.05mmの高さを有する。空欠部10におけるエスケープ車1の厚みは、典型的には、0.05mm~0.10mmである。
【0025】
見てわかるように、前記少なくとも1つの空欠部10は、部分的にフェロー3にて形成されており、フェロー3の縁部において少なくとも0.02mmの境界部6を形成する。このような構成によって、フェロー3は、その厚みの一部をエスケープ車の周部において保持して、その剛性を維持する。
【0026】
本発明の一実施形態において、エスケープ車1には、その各面に、すなわち、表面と裏面に、空欠部10がある。
【0027】
本発明の一実施形態において、空欠部10は、エスケープ車1が延在している水平面Pであってエスケープ車1のアーム4とフェロー3によって形成される水平面P、に対して対称であるように形成していることができる。「対称」とは、各空欠部が、エスケープ車の各面において、同じ直径及び高さを有することを意味するものと理解することができる。例えば、2つの空欠部10は、直径3.3mm、高さ0.04mmを有することができる。
【0028】
本発明の別の実施形態において、空欠部10は、水平面Pに対して非対称であることができる。この水平面P内にエスケープ車1が延在しており、この水平面Pは、エスケープ車1のアーム4とフェロー3によって形成される。「非対称」とは、各空欠部が、エスケープ車の各面において異なる高さを有するが直径は同じであることを意味すると理解することができる。例えば、2つの空欠部10は、同じ直径を有することができ、それぞれ0.02mm及び0.05mmの高さを有することができる。
【0029】
当然、エスケープ車1を作るために特別な努力をする必要なく、当業者の必要に応じて、空欠部10の他の構成を考えることができる。例えば、表面又は裏面には、複数の空欠部があることができ、例えば、アーム間の空間当たり1つの空欠部があることができる。
【0030】
エスケープ車1の前記少なくとも1つの空欠部10は、車1を製造するために選択される材料に応じて、当業者によく知られている方法、例えば、ミリング(milling)、旋削(turning)、シンキング(sinking)、レーザー加工、DRIE、LIGAを用いて作ることができる。
【0031】
本発明は、さらに、本発明に係る車1を備えるエスケープシステムに関する。このエスケープシステムの車は、エスケープ車、中間車、又は第4の車である。
【0032】
本発明は、さらに、本発明に係るエスケープシステム又は車を備える計時器用ムーブメントに関する。
【0033】
本発明の上記の異なる態様のおかげで、スケルトン化されたエスケープ車よりも、例えば、製造が容易かつ安価であり、慣性が低減された、エスケープ車を作ることができる。
【0034】
当然、本発明は、説明した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の本発明の範囲から逸脱せずに、当業者には明らかであることがある様々な代替形態や改変が可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 車
2 ハブ
3 フェロー
4 アーム
5 歯
6 境界部
10 空欠部
P 水平面