(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】硬化性組成物、及び当該組成物から得られる光学材料
(51)【国際特許分類】
C08L 33/14 20060101AFI20240711BHJP
C08F 220/18 20060101ALI20240711BHJP
C08F 290/12 20060101ALI20240711BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20240711BHJP
G02B 1/04 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
C08L33/14
C08F220/18
C08F290/12
C08F2/44 C
G02B1/04
(21)【出願番号】P 2023507042
(86)(22)【出願日】2022-03-10
(86)【国際出願番号】 JP2022010557
(87)【国際公開番号】W WO2022196516
(87)【国際公開日】2022-09-22
【審査請求日】2023-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2021044779
(32)【優先日】2021-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】塚田 裕以智
(72)【発明者】
【氏名】村上 司
(72)【発明者】
【氏名】松本 健太郎
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-325337(JP,A)
【文献】国際公開第98/024761(WO,A1)
【文献】特許第4976373(JP,B2)
【文献】特開2013-049823(JP,A)
【文献】特許第5320744(JP,B2)
【文献】国際公開第2017/164120(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 33/14
C08F 220/18
C08F 290/12
C08F 2/44
G02B 1/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二以上のチオアクリレート基を有する化合物(A)と、
(メタ)アクリル系重合体(B)と、
を含み、
二以上のチオアクリレート基を有する前記化合物(A)が、下記化学式で表される化合物から選択される少なくとも一種であり、
前記(メタ)アクリル系重合体(B)は、芳香族基含有(メタ)アクリレート(b1)に由来する構成単位(b1')を全構成単位に対して50質量%以上含む、硬化性組成物。
【化1】
【請求項2】
二以上のチオアクリレート基を有する前記化合物(A)と、前記化合物(b1)とのハンセン距離Raが6.0以下である、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
前記芳香族基含有(メタ)アクリレート(b1)は、下記一般式(1)で表される、請求項1または2に記載の硬化性組成物。
【化2】
(一般式(1)中、Rは水素またはメチル基を示し、X
1およびX
2はそれぞれ独立して、単結合、酸素原子、硫黄原子、エステル結合のいずれかを示し、Yは単結合、任意の水素原子がアルキル基で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキレン基、またはベンゼン環を示し、Zは酸素原子、硫黄原子を示し、nは0または1である。)
【請求項4】
前記(メタ)アクリル系重合体(B)が、さらに末端に重合性基を備える構成単位(b2')を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル系重合体(B)の重量平均分子量が、1,000~50,000である、請求項1~4のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
請求項1~
5いずれか1項に記載の硬化性組成物を硬化させた硬化物。
【請求項7】
請求項
6に記載の硬化物を含む成形体。
【請求項8】
請求項
7に記載の成形体からなる光学材料。
【請求項9】
請求項
7に記載の成形体からなるプラスチックレンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高屈折率、硬化収縮率が少なくかつ高耐熱性の硬化物を与える硬化性組成物、及び当該組成物から得られる光学材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学部品には、屈折率の多様性や温度、湿度による変動が小さいことから、ガラスが好適に使われてきたが、近年、軽量化や低コスト化等の要求により、樹脂製品が用いられるようになってきた。
【0003】
なかでも、スマートフォンに搭載されるカメラレンズモジュールは、小型化や低背化のためにウェハレベルレンズが用いられるようになってきている。ウェハレベルレンズにおいては屈折率が高く、耐熱性に優れる樹脂硬化物が求められる。また、ガラス基板上に樹脂レンズを形成する、いわゆるハイブリッド型のウェハレベルレンズにおいては、残留応力よるガラス基板-樹脂レンズ間の剥離を抑制するため、組成物が硬化する際の硬化収縮率が低い事が求められる。
より屈折率が高い樹脂硬化物を得る方法として、チオ(メタ)アクリレート等を含有する組成物を光硬化させて得られる透明性を有する材料を用いる方法が、特許文献1や特許文献2に報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第98/24761号
【文献】特開平8-325337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1~2に記載された方法で得られる組成物は、硬化収縮性が大きく実用上の問題があり、さらに当該組成物から得られる硬化物は耐熱性に問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、チオアクリレート基を有する化合物と、所定のモノマー由来の構成単位を含む(メタ)アクリル系重合体と、を含む組成物において、前記モノマーを所定の量で含むことにより、当該課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下に示すことができる。
【0007】
[1] 二以上のチオアクリレート基を有する化合物(A)と、
(メタ)アクリル系重合体(B)と、
を含み、
前記(メタ)アクリル系重合体(B)は、芳香族基含有(メタ)アクリレート(b1)に由来する構成単位(b1')を全構成単位に対して50質量%以上含む、硬化性組成物。
[2] 二以上のチオアクリレート基を有する前記化合物(A)と、前記化合物(b1)とのハンセン距離Raが6.0以下である、[1]に記載の硬化性組成物。
[3] 前記芳香族基含有(メタ)アクリレート(b1)は、下記一般式(1)で表される、[1]または[2]に記載の硬化性組成物。
【化1】
(一般式(1)中、Rは水素またはメチル基を示し、X
1およびX
2はそれぞれ独立して、単結合、酸素原子、硫黄原子、エステル結合のいずれかを示し、Yは単結合、任意の水素原子がアルキル基で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキレン基、またはベンゼン環を示し、Zは酸素原子、硫黄原子を示し、nは0または1である。)
[4] 前記(メタ)アクリル系重合体(B)が、さらに末端に重合性基を備える構成単位(b2')を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の硬化性組成物。
[5] 前記(メタ)アクリル系重合体(B)の重量平均分子量が、1,000~50,000である、[1]~[4]のいずれかに記載の硬化性組成物。
[6] 二以上のチオアクリレート基を有する前記化合物(A)が、下記化学式で表される化合物から選択される少なくとも一種である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【化2】
[7] [1]~[6]いずれか1項に記載の硬化性組成物を硬化させた硬化物。
[8] [7]に記載の硬化物を含む成形体。
[9] [8]に記載の成形体からなる光学材料。
[10] [8]に記載の成形体からなるプラスチックレンズ。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高屈折率で硬化収縮率が少なく、かつ高耐熱性の硬化物が得られる硬化性組成物を提供することができる。言い換えれば、本発明の硬化性組成物によれば。これらの特性のバランスに優れた硬化物を提供することができる。さらに、本発明によれば、この硬化性組成物を硬化させてなる硬化物、この硬化物を含む成形体、光学部品、光学用プラスチック部材などを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。本明細書において、「~」は特に断りがなければ「以上」から「以下」を表す。また、本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。特に、本明細書における「(メタ)アクリル基」とは、-C(=O)-CH=CH2で表されるアクリロイル基と、-C(=O)-C(CH3)=CH2で表されるメタクリロイル基とを包含する。
【0010】
<硬化性組成物>
本実施形態の硬化性組成物は、二以上のチオアクリレート基を有する化合物(A)と、(メタ)アクリル系重合体(B)と、を含み、
(メタ)アクリル系重合体(B)は、芳香族基含有(メタ)アクリレート(b1)に由来する構成単位(b1')を全構成単位に対して50質量%以上含む。
これにより、高屈折率で硬化収縮率が少なく、かつ高耐熱性の硬化物が得られる硬化性組成物を提供することができる。
【0011】
[二以上のチオアクリレート基を有する化合物(A)]
本実施形態において、二以上のチオアクリレート基を有する化合物(A)は、本発明の効果を奏する範囲で特に限定されず公知の化合物を用いることができるが、1,8-ビス((メタ)アクリロイルチオ)-4-(メタ)アクリロイルチオメチル-3,6-ジチアオクタン、ビス[2-((メタ)アクリロイルチオ)エチル]スルフィド、1,11-ビス((メタ)アクリロイルチオ)-5,7-ビス((メタ)アクリロイルチオメチル)-3,6,9-トリチアウンデカンから選択される少なくとも一種であることが好ましい。これらの化合物は、具体的には下記化学式で表される。
【0012】
【0013】
[(メタ)アクリル系重合体(B)]
本実施形態において、(メタ)アクリル系重合体(B)は、芳香族基含有(メタ)アクリレート(b1)に由来する構成単位(b1')を含む。
【0014】
本発明の効果の観点から、構成単位(b1')は全構成単位に対して、50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上、さらに好ましく80質量%以上含むことができる。
【0015】
また、二以上のチオアクリレート基を有する前記化合物(A)と、芳香族基含有(メタ)アクリレート(b1)とのハンセン距離Raが6.0以下であることが好ましい。
これにより、高屈折率および低硬化収縮率により優れ、高耐熱性により優れた硬化物が得られる硬化性組成物を提供することができる。
【0016】
ハンセン溶解度パラメーターは、ある物質が他のある物質にどのくらい溶けるのかを示す溶解性の指標である。ハンセン溶解度パラメーターは、溶解性を3次元のベクトルで表すことができ、具体的には分散項(δD)、分極項(δP)、水素結合項(δH)で表すことができる。
【0017】
本実施形態において、ハンセン距離Raは、分散項(δD)、分極項(δP)、水素結合項(δH)を座標とする3次元空間上の化合物(A)と化合物(b1)の距離であり、具体的には、下記式で算出することができる。
式: Ra=[4(δDA-δDb1)2+(δPA-δPb1)2+(δHA-δHb1)2]1/2
【0018】
ハンセン距離Raの値が小さいほど、化合物(A)と化合物(b1)は相溶性に優れ、ハンセン距離Raは、好ましくは6.0以下、より好ましくは5.0以下、さらに好ましくは4.0以下とすることができる。
【0019】
このように、二以上のチオアクリレート基を有する化合物(A)と、芳香族基含有(メタ)アクリレート(b1)に由来する構成単位(b1')を全構成単位に対して50質量%以上含む(メタ)アクリル系重合体(B)において、これらのハンセン距離Raが上記の範囲であることにより、硬化性組成物内における化合物(A)と重合体(B)との相溶性がさらに優れ、重合体(B)の間に化合物(A)がバランスよく存在することから、硬化収縮率がより少なく、さらに硬化によって重合体(B)同士がより強固に結合することにより高屈折率でかつ高耐熱性により優れた硬化物が得られると考えられる。
【0020】
芳香族基含有(メタ)アクリレート(b1)は、本発明の効果を奏する範囲で特に限定されず公知の化合物を用いることができるが、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましく、少なくとも1種含むことができる。
【0021】
【0022】
一般式(1)中、Rは水素またはメチル基を示す。
X1およびX2はそれぞれ独立して、単結合、酸素原子、硫黄原子、エステル結合(-C(=O)-O-)のいずれかを示す。X1は、単結合または酸素原子であることが好ましく、X2は単結合、酸素原子またはエステル結合であることが好ましい。
【0023】
Yは単結合、任意の水素原子がアルキル基で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキレン基、またはベンゼン環を示し、2つの水素原子が炭素数1~3のアルキル基で置換されていてもよい炭素数1~4のアルキレン基であることが好ましい。
Zは酸素原子、硫黄原子を示し、酸素原子であることが好ましい。
nは0または1である。
【0024】
芳香族基含有(メタ)アクリレート(b1)として、具体的には、下記化学式で表される化合物を挙げることができ、少なくとも1種を用いることができる。
【0025】
【0026】
本実施形態において、(メタ)アクリル系重合体(B)は、構成単位(b1')とともに末端に重合性基を備える構成単位(b2')を含むことが好ましい。これにより、得られる硬化物は耐熱性に優れることから、当該硬化物を加熱した場合において、ポリマー成分のブリードアウトを抑制することができる。
【0027】
末端に重合性基を備える構成単位(b2')は、本発明の効果を奏する範囲で公知の化合物から誘導された構成単位を挙げることができるが、以下の構成単位から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0028】
【0029】
構成単位(b2')は、全構成単位に対して、好ましくは0.2~8質量%以上、より好ましくは0.5~5質量%以上、さらに好ましく1~3質量%以上含むことができる。これにより、得られる硬化物は耐熱性に優れる。
【0030】
本実施形態において、(メタ)アクリル系重合体(B)は、構成単位(b1')および構成単位(b2')とともに、以下の構成単位(b3')を含むことができる。
構成単位(b3')は後述する化合物(b3)から誘導される。
【0031】
【0032】
構成単位(b3')は、全構成単位に対して、好ましくは1~30質量%以上、より好ましくは2~20質量%以上、さらに好ましく3~15質量%以上含むことができる。
【0033】
(メタ)アクリル系重合体(B)の重量平均分子量は、1,000~50,000、好ましくは2000~30000、より好ましくは3,000~25,000とすることができる。
【0034】
(メタ)アクリル系重合体(B)の重量平均分子量が上記範囲であることにより、光学材料用のレンズ、特にWafer Level Optics(WLO)用レンズ成形を行なう際の塗布性に優れる硬化性組成物を得ることができる。上記範囲を外れると、化合物(A)との相溶性が悪くなると共に、硬化性組成物の粘度が高くなるためハンドリング性が悪化する。すなわち、上記範囲であれば、化合物(A)との相溶性とハンドリング性にバランスよく優れる。
【0035】
[(メタ)アクリル系重合体(B)の合成方法]
本実施形態においては、有機溶媒中で、重合開始剤の存在下に、芳香族基含有(メタ)アクリレート(b1)および、必要に応じて、化合物(b3)との重合反応を行い、重合体を合成する。重合反応は70~140℃程度で、8~15時間程度行うことができる。
化合物(b3)は、具体的には以下に示すことができる。
【0036】
【0037】
次いで、重合禁止剤、触媒等の存在下、得られた重合体と下記化合物とを付加反応させて、当該重合体の側鎖に存在するエポキシ基および/または水酸基に下記化合物を反応させて重合性基を導入する。
付加反応は70~110℃程度で、6~15時間程度行うことができる。
【0038】
【化9】
以上により、(メタ)アクリル系重合体(B)を得ることができる。
【0039】
[その他の成分]
本実施形態の硬化性組成物は上記の成分に加えて、重合開始剤、紫外線吸収剤、樹脂改質剤、内部離型剤等をさらに含んでもよい。
【0040】
<硬化性組成物の製造方法>
本実施形態の硬化性組成物は、化合物(A)と、重合体(B)と、必要に応じてその他の成分とを、従来公知の方法で混合することにより得ることができる。
【0041】
本実施形態の硬化性組成物において、化合物(A)および重合体(B)の合計量に対する、化合物(A)の含有量の比(化合物(A)/[化合物(A)+重合体(B)])が、0.1以上、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上とすることができる。当該比が上記範囲であることにより、得られる硬化物の屈折率(nD)をより高くすることができる。
【0042】
さらに、化合物(A)および重合体(B)の合計量に対する、重合体(B)の含有量の比(重合体(B)/[化合物(A)+重合体(B)])が、0.3以上、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.5以上とすることができる。当該比が上記範囲であることにより、硬化収縮率をより小さくすることができる。
【0043】
[成形体]
本実施形態の硬化性組成物を硬化することにより硬化物を得ることができ、所定の形状に成形することにより成形体を得ることができる。
本実施形態の硬化物は高屈折率で硬化収縮率が少なく、かつ高耐熱性であることから光学材料に用いることができる。
【0044】
光学材料としては、プラスチック眼鏡レンズ、ゴーグル、視力矯正用眼鏡レンズ、撮像機器用レンズ、液晶プロジェクター用フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、コンタクトレンズなどの各種プラスチックレンズ、発光ダイオード(LED)用封止材、光導波路、光学レンズ、ウェハレベル光学部品(WLO)や光導波路の接合に用いる光学用接着剤、光学レンズなどに用いる反射防止膜、液晶表示装置部材(基板、導光板、フィルム、シートなど)に用いる透明性コーティングまたは、車のフロントガラスやバイクのヘルメットに貼り付けるシートやフィルム、透明性基板等を挙げることができる。
【0045】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の様々な構成を採用することができる。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
<相溶性パラメーター(ハンセン溶解度パラメーター)の算出>
コンピューターソフトウェア Hansen Solubity Parameter in Practice(HSPiP) バージョン5.2.05を用いてハンセン溶解度パラメーターのδD、δP、δHを算出した。得られた相溶性パラメーターの値を表1に示す。
【0048】
<合成例1(アクリルポリマーP-1の合成)>
攪拌機、還流冷却管、温度計と窒素並びにドライエア導入管を設けた1000mL容量の四つ口フラスコに重合溶剤4ヒドロメチルテトラヒドロピラン(4-MTHP)を400g加え、窒素を吹き込みながら内温を100±2℃迄昇温を行った。
褐色瓶にA-LEN-10(エトキシ化o-フェニルフェノールアクリレート:新中村化学工業(株)製)354.0g、メタクリル酸グリシジル40.0g、PB-O(t-ブチルパーオキシ2エチルヘキサノエート)8.0gを均一に撹拌混合し、5時間連続で滴下を行った。
滴下終了後、100±2℃で1時間保温し、PB-O 0.8gを添加、更に1時間後に0.8gを添加し2時間保温を行ない、グリシジル基含有樹脂(不揮発分=50.2%、透明液体)を得た。
この出来上がった四つ口フラスコ内のグリシジル基含有樹脂にドライエアを吹き込み、内温50±2℃でメチルヒドロキノン0.03gを添加し、次いで内温50±2℃でアクリル酸6.0gを加え、更にテトラブチルアンモニウムブロミド0.4gを加え、100±2℃迄昇温しアクリル酸とグリシジル基含有樹脂の付加反応を行った。付加反応の進行は樹脂酸価(mgKOH/g)を測定し、樹脂酸価が0.5未満になった点を終点とした。
得られた黄色透明液体(酸価(mgKOH/g)=0.42、不揮発分=50.7%、分子量(Mw)=9717)を減圧留去し、アクリルポリマー(P-1)を得た。
【0049】
酸価測定は、4ヒドロキシメチルテトラヒドロピラン/キシレン/ブタノール=1/1/1(重量)溶液に、樹脂1.0gを秤量し、樹脂溶解後フェノールフタレインを指示薬として0.1NKOHにて滴定をおこなった。
【0050】
<合成例2~10(アクリルポリマーP-2~10の合成)>
アクリル酸以外のモノマーおよびアクリルモノマー重合時の溶剤量を変更する以外は、合成例1と同様の方法でアクリルポリマー(P-2~P-10)を得た。使用したモノマー種類および組成比と、得られた各アクリルポリマーの分子量(Mw)を表2に示す。
【0051】
<アクリルポリマーの分子量測定>
ポリマー40mgを、テトラヒドロフラン4mlに溶解させて、サンプルを調製した。
次いで、サンプルを、下記の条件でゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)にて分析した。
(測定条件)
装置; Alliance(WATERS社製)、
カラム;Plgel 5μm Mixed-C(測定分子量範囲;100-1000000、Polymerlab社製)3本を直列に連結、
検出器;示差屈折率検出器、
遊離液;テトラヒドロフラン、
流量;1.0mL/min、
カラム温度;40℃、
検出器温度;40℃、
注入量;10μL。
【0052】
<実施例1>
(硬化性組成物の調製)
サンプル瓶中に、アクリルポリマー(B)として合成例1で得られたポリマー(P-1、50重量部)と、硬化性モノマーとして特開平4-29967号を参照して合成された1,8-ビスアクリロイルチオ-(4-アクリロイルチオメチル-3,6-ジチアオクタン)(GSTA)(50重量部)、開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(Irg184、BASF製、3.0重量部)を加え、ミックスローターを用いて外観が均一になるまで混合し、硬化性組成物を得た。得られた組成物の25℃における粘度を E型粘度計(TVE-25L、東機産業株式会社製、コーンプレート0.8°×R24)を用いて測定したところ、1500mPa・sであった。
このとき、アクリルポリマー中で最も含有量が多い原料モノマーであるA-LEN-10と、硬化性モノマーであるGSTAとのハンセン距離は3.11であった。
(硬化膜の作製)
離型処理したガラス基板上に、0.5mLの硬化性組成物を塗布し、厚みが200μmのスペーサーを介してもう一枚の離型処理したガラス基板上で挟み込み、端部をクリップで固定した。
得られた積層体の片面から無電極ランプ(Hバルブ)を用いて365nmにおける露光量が500mJ/cm2になるよう紫外線を照射した後、硬化物をガラス基板から離型させ、得られた硬化物を窒素ガス雰囲気下、80℃で30分間加熱して、厚さ200μmの硬化膜を得た。
得られた硬化膜の屈折率と耐熱性、および硬化時の収縮率を下記に示す方法で測定した。得られた結果を表3に示す。
【0053】
<屈折率の測定>
硬化樹脂の屈折率を、アッベ屈折計(DR-M2、株式会社アタゴ製)を用いて測定した。干渉フィルターとしてRE-3520(589nm、D線、株式会社アタゴ製)、中間液としてRE-1196(モノブロモナフタレン、株式会社アタゴ製)を使用し、サンプル温度は25℃になるよう設定して測定を行なった。
【0054】
<硬化収縮率の測定>
硬化性組成物の比重d1を、比重瓶を用いて測定した(JIS 8804)。また、硬化膜の比重d2をアルキメデス法(JIS 8807)により測定した。これら比重の値を用い、下記式により硬化収縮率(%)を算出した。
式:硬化収縮率(%)=(1-d1/d2)×100
【0055】
<耐ブリードアウト性の測定>
各実施例における硬化膜を270℃のホットプレート上で2分間加熱し、加熱前後での外観変化を目視で観察し、下記基準にて評価した。
(基準)
〇(良):硬化膜の外観に変化無し。
△(中):硬化膜表面に僅かにブリードアウトが認められたが、外観形状に変化無し。
×(悪):硬化膜表面にブリードアウトが認められ、外観形状にも変化が認められた。
【0056】
<実施例2~10、比較例1~5>
アクリルポリマー(B)および硬化性モノマー(A)を変更する以外は、実施例1と同様にして試験を行なった。用いたアクリルポリマー(B)と硬化性モノマー(A)、および各種評価結果を表3に示す。表中のハンセン距離は、アクリルポリマー(B)中の最も含有量が多い原料モノマー(b1)と、硬化性組成物中の硬化性モノマー(A)との間のハンセン距離である。なお、表中の相溶性については下記基準にて評価した。
(基準)
〇(良):アクリルポリマーと硬化性モノマーが均一に相溶した。
×(悪):アクリルポリマーと硬化性モノマーが2相に分離し、均一に相溶しなかった。
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
本発明に係る実施例によれば、二以上のチオアクリレート基を有する化合物(A)とともに、芳香族基含有(メタ)アクリレート(b1)に由来する構成単位(b1')を全構成単位に対して50質量%以上含む(メタ)アクリル系重合体(B)を用いた硬化性組成物によれば(表2)、高屈折率で硬化収縮率が少なく、さらにポリマー成分のブリードアウトが抑制された高耐熱性の硬化物を提供することができる。言い換えれば、本発明の硬化性組成物によれば。これらの特性のバランスに優れた硬化物を提供することができる。
【0061】
この出願は、2021年3月18日に出願された日本出願特願2021-044779号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。