(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】押釦スイッチ用部材
(51)【国際特許分類】
H01H 13/52 20060101AFI20240711BHJP
H01H 13/14 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
H01H13/52 F
H01H13/14 A
(21)【出願番号】P 2023546769
(86)(22)【出願日】2022-05-02
(86)【国際出願番号】 JP2022019521
(87)【国際公開番号】W WO2023037653
(87)【国際公開日】2023-03-16
【審査請求日】2023-11-28
(31)【優先権主張番号】P 2021147279
(32)【優先日】2021-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正幸
(72)【発明者】
【氏名】平谷 光利
【審査官】井上 信
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-92264(JP,A)
【文献】実開平6-86235(JP,U)
【文献】特開2020-135951(JP,A)
【文献】特開平11-288637(JP,A)
【文献】特開2006-156159(JP,A)
【文献】特開平9-154189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 13/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キートップと、
前記キートップの一端から一定に拡径するドーム部と、
前記ドーム部における前記キートップと反対側に位置する開口部に固定されるベース部と、を備え、前記キートップを前記ベース部側に押し込むと前記ドーム部を座屈変形させ、前記キートップの押し込みを解除すると前記ドーム部が元の形状に戻る押釦スイッチ用部材であって、
前記キートップの押し込み開始から前記ドーム部の座屈変形を経由して前記キートップの下方部位をその延長線上の固定部に当接するまでの荷重-変位曲線において、前記キートップの押し込みを開始する初期ポイントから荷重が極大値に達するピークポイントまでの第1角度に比べて、前記ピークポイントから荷重が極小値に達するメークポイントまでの第2角度の方が小さ
く、
前記押釦スイッチ用部材の縦断面において、前記キートップの幅に対する高さの比は2.50以上5.50以下であることを特徴とする押釦スイッチ用部材。
【発明の詳細な説明】
【クロスリファレンス】
【0001】
本出願は、2021年9月10日に日本国において出願された特願2021-147279に基づき優先権を主張し、当該出願に記載された内容は、本明細書に援用する。また、本願において引用した特許、特許出願及び文献に記載された内容は、本明細書に援用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、押釦スイッチ用部材に関する。
【背景技術】
【0003】
従来から、車載機器、通信機器、オーディオ機器、家庭用電気機器等の多種多様な機器のスイッチとして、押圧部、ドーム部およびベース部を備える押釦スイッチ用部材を用いたものが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
図5は、従来から公知の押釦スイッチ用部材の縦断面図を示す。
【0005】
図5に示す押釦スイッチ用部材100は、キートップ111と、キートップ111の下端から一定に拡径するドーム部112と、ドーム部112におけるキートップ111と反対側に位置する開口部に固定されるベース部113と、キートップ111の直下にあってドーム部112内の空間に突出する突出部114と、を備える。押釦スイッチ用部材100は、キートップ111をベース部113側、すなわち
図5ではキートップ111から垂直下方に押し込むとドーム部112を座屈変形させ、キートップ111の押し込みを解除するとドーム部112が元の形状に戻る動作を可能とする部材である。
【0006】
従来から公知の押釦スイッチ用部材100のキートップ111から押し込みを開始してドーム部112が座屈変形後、荷重が低下していき、荷重が極小値をとるまでの荷重-変位曲線(F-S曲線)150をとる。すると、押し込み開始の初期ポイントから荷重が極大値となるピークポイントまでの角度Aと、ピークポイントから荷重が極小値となるメークポイントまでの角度Bとを比べた際に、A≦Bとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の従来から公知の押釦スイッチ用部材100では、ドーム部112の座屈変形後に、突出部114が基板などに接触するまでの荷重が比較的大きく、押した感覚が良好ではない。特に、高級車への車載用途が進んで来た現在において、操作感の向上および明確な押下げ感触が要求されてきている。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、押釦を押し込み荷重が最大になった後には急激に抵抗が低下して明確な押下げを可能とする押釦スイッチ用部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記目的を達成するための一実施形態に係る押釦スイッチ用部材は、
キートップと、
前記キートップの一端から一定に拡径するドーム部と、
前記ドーム部における前記キートップと反対側に位置する開口部に固定されるベース部と、を備え、前記キートップを前記ベース部側に押し込むと前記ドーム部を座屈変形させ、前記キートップの押し込みを解除すると前記ドーム部が元の形状に戻る押釦スイッチ用部材であって、
前記キートップの押し込み開始から前記ドーム部の座屈変形を経由して前記キートップの下方部位をその延長線上の固定部に当接するまでの荷重-変位曲線において、前記キートップの押し込みを開始する初期ポイントから荷重が極大値に達するピークポイントまでの第1角度に比べて、前記ピークポイントから荷重が極小値に達するメークポイントまでの第2角度の方が小さい。
(2)別の実施形態に係る押釦スイッチ用部材は、好ましくは、前記押釦スイッチ用部材の縦断面における前記キートップの幅に対する高さの比を0.5以上7.00以下としても良い。
(3)別の実施形態に係る押釦スイッチ用部材は、好ましくは、前記キートップの幅に対する高さの比を0.75以上6.75以下としても良い。
(4)別の実施形態に係る押釦スイッチ用部材は、好ましくは、前記キートップの幅に対する高さの比を2.50以上5.50以下としても良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、押釦を押し込み荷重が最大になった後には急激に抵抗が低下して明確な押下げを可能とする押釦スイッチ用部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る押釦スイッチ用部材の縦断面図を示す。
【
図2】
図2は、
図1の押釦スイッチ用部材の荷重―変位曲線の2つの例を示す。
【
図3】
図3は、表1における28個のサンプルのF-S曲線を示す。
【
図4】
図4は、
図1の押釦スイッチ用部材の各種変形例の縦断面を示す。
【
図5】
図5は、従来から公知の押釦スイッチ用部材の縦断面図を示す。
【符号の説明】
【0013】
1,1a,1b,1c・・・押釦スイッチ用部材、11・・・キートップ、12・・・ドーム部、13・・・ベース部、A・・・第1角度、B・・・第2角度。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている諸要素およびその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る押釦スイッチ用部材の縦断面図を示す。
図2は、
図1の押釦スイッチ用部材の荷重―変位曲線の2つの例を示す。本願では、キートップの天面からキートップを押し込む方向に切断したときの切断面を「縦断面」と称する。
【0016】
この実施形態に係る押釦スイッチ用部材1は、キートップ11と、キートップ11の一端(
図1では下端)から一定に拡径するドーム部12と、ドーム部12におけるキートップ11と反対側に位置する開口部に固定されるベース部13と、を備える。押釦スイッチ用部材1は、好ましくは、キートップ11の直下にあってドーム部12内の空間に突出する突出部14を、さらに備える。突出部14は、その先端に、導電部材を備えていてもいなくとも良い。押釦スイッチ用部材1は、ベース部13を回路基板などの固定部に固定して使用可能である。回路基板は、キートップ11の下方部位の延長線上の固定部の一例である。回路基板以外の固定部を採用することも可能である。
【0017】
押釦スイッチ用部材1は、キートップ11をベース部13側に押し込むとドーム部12を座屈変形させ、キートップ11の押し込みを解除するとドーム部12が元の形状に戻る弾性部材である。押釦スイッチ用部材1は、ゴム状弾性体の一体成形品であるが、キートップ11と、ドーム部12と、ベース部13とを別体とする複合品でも良い。
【0018】
押釦スイッチ用部材1を構成するゴム状弾性体としては、好適には、シリコーンゴム、ウレタンゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、天然ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ニトリルゴム(NBR)若しくはスチレンブタジエンゴム(SBR)等の熱硬化性エラストマー、ウレタン系、エステル系、スチレン系、オレフィン系、ブタジエン系、フッ素系等の熱可塑性エラストマー、又は、上記したものの複合物等を例示できる。これらの例示のゴム状弾性体の内、特に、シリコーンゴムが好ましい。また、ゴム状弾性体は、シリカ等のフィラーを含有していても良い。
【0019】
押釦スイッチ用部材1は、キートップ11の押し込み開始からドーム部12の座屈変形を経由してキートップ11の下方部位、すなわち、突出部14の先端部をその延長線上の固定部に当接するまでの荷重-変位曲線において、キートップ11の押し込みを開始する初期ポイントから荷重が極大値に達するピークポイントまでの第1角度Aに比べて、ピークポイントから荷重が極小値に達するメークポイントまでの第2角度Bの方が小さくなる押釦スイッチ用部材である。
【0020】
押釦スイッチ用部材1は、好ましくは、押釦スイッチ用部材1の縦断面におけるキートップの幅(Y)に対する高さ(X)の比(X/Y)を0.50以上7.00以下とする。X/Y=0.50に近いと、荷重-変位曲線(F-S曲線ともいう。)は、F-S曲線20のようになる。X/Yを0.50以上にすることにより、第1角度A>第2角度Bとなる。この結果、操作者に、操作者の指にかかる荷重の急激な変化を与えられる。この結果、操作者に、操作者の指にかかる荷重の急激な変化を与えることができる。第1角度A>第2角度となる理由は、以下の理由からである。Xが大きくなるほど押下時にキートップが撓みドームに力が加わりにくくなる分、ピークポイントが伸びる。このため、第1角度Aが大きくなる。また、ピークポイントが伸びた分、ピーク以降の変位量が短くなる。この結果、第2角度Bが小さくなる。X/Yがさらに大きくなると、F-S曲線30にように、第1角度Aに比べて第2角度Bがより小さくなる。この結果、ドーム部12の座屈後に操作者の指にかかる抵抗がさらに小さくなり、操作者に良好な押し感覚が与えられる。X/Y=7.00以上になると第2角度Bはほぼ一定となる。一方、X/Yが大きくなるほどキートップ11を下方に押すことが困難になる。このことから、X/Yの上限は7.00である。
【0021】
本願では、幅(Y)は、キートップ11が円柱または円筒である場合には直径を、楕円柱である場合には長径を、角柱である場合には最長対角線を、それぞれ意味する。高さ(X)は、一般的には、キートップ11の天面からドーム部12の内側縁部までの長さを意味する。
【0022】
押釦スイッチ用部材1は、好ましくは、X/Yを0.75以上6.75以下とする。X/Yを0.75以上とすると、ドーム部12が座屈変形後に、操作者に荷重の低下をより明確に与えやすくなる。X/Yを6.75以下とすると、キートップ11を下方に向けて押しやすくなる。また、押釦スイッチ用部材1は、より好ましくは、X/Yを2.50以上5.50以下とする。X/Yを2.50以上とすると、ドーム部12が座屈変形後に、操作者に荷重の低下をさらにより明確に与えやすくなる。X/Yを5.50以下とすると、キートップ11を下方に向けてさらに押しやすくなる。
【0023】
次に、X/Y比の異なる28個の押釦スイッチ用部材1を用意してF-S曲線を調べた。
【0024】
表1は、キートップの高さ(X)と幅(Y)の比の異なる28個のサンプルのF-S曲線における第1角度A、第2角度Bおよび合否判定を示す。
図3は、表1における28個のサンプルのF-S曲線を示す。表1中、NGは不合格を、Bは合格第3位を、Aは合格第2位を、AAは合格第1位を、それぞれ示す。NGは、押した感覚が悪いことを意味する。B、AおよびAAは、全て押した感覚が良く、AAが最も押した感覚が良いことを示す。
図4では、X/Y=0.25から7.00に推移するにしたがって、F-S曲線の極大値と極小値がグラフの右側に移動している。グラフ中の一部サンプル(1,2,3,20,21,22,23,24,18)については、点線の引き出し線にてF-S曲線を示している。F-S曲線は、キートップ11の天面を1mm/secの速度で押し込み、押し込み開始から荷重が最大となり、ドーム部12が座屈変形して荷重が最小となり、突出部14の接地から荷重が増大していく間の荷重と縦方向の変位を示す。キートップ11への押し込みには、アイコーエンジニアリング株式会社製の1605KLを用いた。
【0025】
表1に示す押釦スイッチ用部材1は、信越化学工業株式会社製の硬化性シリコーンゴム組成物(品番:KE-9611U)500g(100質量部とする)および同社製の架橋剤(品番:C-8B)50g(1質量部とする)を混錬したものをシーティングし、シート成形後、小分けして、各X/Y比に対応した金型のキャビティにその小分けしたものを入れて硬化した部材である。硬化条件は、180℃×4minとした。キートップ11、ドーム部12、ベース部13および突出部14は、全て、シリコーンゴム製の一体成形物である。各押釦スイッチ用部材1のキートップ11の幅Yは、4mmで統一した。当該キートップ11の高さXは、1~28mmの範囲で1mmずつ変化させた。キートップ11の形状は、円柱である。ドーム部12は、平均厚さ0.46mm、傾斜角60度、高さ1.2mmの外形を円錐台形状とするストレートドームである。ベース部13は、ドーム部12の最拡径の端面に接続されており、厚さ1.5mmで幅4.5mmの円環形状を有する。
【0026】
【0027】
表1から明らかなように、サンプルNo.1(X/Y=0.25)は、F-S曲線の第1角度Aよりも第2角度Bの方が大きく、押し感覚の低い押釦スイッチ用部材1であった。一方、サンプルNo.2(X/Y=0.50)からNo.28(X/Y=7.00)は、F-S曲線の第1角度Aが第2角度B以下であり、押し感覚の良好な押釦スイッチ用部材1であった。特に、サンプルNo.3(X/Y=0.75)からNo.27(X/Y=6.75)は、サンプルNo.2(X/Y=0.50)およびNo.28(X/Y=7.00)よりも押し感覚が優れていた。さらに、サンプルNo.10(X/Y=2.50)からNo.22(X/Y=5.50)は、サンプルNo.3(X/Y=0.75)からNo.9(X/Y=2.25)およびサンプルNo.23(X/Y=5.75)からNo.27(X/Y=6.75)よりも押し感覚が優れていた。
【0028】
図4は、
図1の押釦スイッチ用部材の各種変形例の縦断面を示す。
【0029】
押釦スイッチ用部材1aは、
図1の押釦スイッチ用部材1のキートップ11に、その天面に開口する凹部40を有する部材である。また、押釦スイッチ用部材1bは、
図1の押釦スイッチ用部材1のキートップ11の途中に段差50を設けて、ドーム部22の上方部分に幅の異なる2つの柱状部分を重ねた部材である。さらに、押釦スイッチ用部材1cは、押釦スイッチ用部材1bのキートップ11に、その天面に開口する凹部40を有する部材である。これらの押釦スイッチ用部材1a,1b,1cのように、キートップ11を空洞にし、および/またはキートップ11を多段構造にしても良い。
【0030】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されることなく、種々変形して実施可能である。
【0031】
例えば、突出部14は設けなくとも良い。また、突出部14の先端に導電部材を設けなくとも良い。ドーム部12は、突出部14若しくはキートップ11の下端面が回路基板等の固定部に接するまでのストローク中において急激に座屈する部位であれば良い。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係る押釦スイッチ用部材は、例えば、自動車、車載用電子機器、携帯通信機器、パーソナルコンピューター、カメラ、家庭用オーディオ機器、家庭用電化製品等の押圧式のキーを備える各種機器に用いるための押釦スイッチを構成するために利用可能である。