(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】電子線照射装置のビーム像取得方法
(51)【国際特許分類】
G21K 5/00 20060101AFI20240712BHJP
G21K 1/087 20060101ALI20240712BHJP
G21K 5/04 20060101ALI20240712BHJP
【FI】
G21K5/00 R
G21K1/087 S
G21K5/04 E
(21)【出願番号】P 2020031559
(22)【出願日】2020-02-27
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】503237806
【氏名又は名称】株式会社NHVコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】今西 友晴
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-130743(JP,A)
【文献】特開昭63-104881(JP,A)
【文献】特開2001-221897(JP,A)
【文献】特開2001-174559(JP,A)
【文献】特開昭63-142285(JP,A)
【文献】特開平10-319200(JP,A)
【文献】五十嵐明,「感熱記録材料用支持体としての紙」,日本画像学会誌,第43巻,第4号,(2004),2004年,https://www.jstage.jst.go.jp/article/isj/43/4/43_4_260/_pdf
【文献】五十嵐明,「直接感熱記録技術」,日本画像学会誌,第51巻,第2号,199-206(2012),2012年,https://www.jstage.jst.go.jp/article/isj/51/2/51_2_199/_pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 1/00-7/00
G01T 1/00-7/12
B41M 5/00-5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被照射物に対して電子線を照射する電子線照射装置における前記電子線のビーム像を取得するビーム像取得方法であって、
前記電子線の照射にて発生する熱を受けて色変化が生じる感熱インクを基材の少なくとも前記電子線が照射される部分に一体的に設けて構成されるビーム像取得用材を用い、
前記電子線の照射し得る位置に前記ビーム像取得用材を配置し、前記ビーム像取得用材において前記電子線の照射にて発生する熱による前記感熱インクの色変化に基づいて前記電子線のビーム像を取得する、電子線照射装置のビーム像取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線照射装置のビーム像取得方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子線照射装置においては、出射された電子線(電子ビーム)が被照射物に適切に照射されているか等を確認するためにビーム像の取得が行われている。走査型(スキャン型)の電子線照射装置等では、ビーム像の取得を通じて電子線の基準照射位置や照射範囲等の現状の確認が行われている。
【0003】
このように電子線照射装置から出射される電子線のビーム像の取得においては、電子線によって生じる光に反応して所定有色に色変化する感光紙が従来では一般的に用いられている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、感光紙は、一般的な性質上、数年の使用期限が設定されていたり、光や熱でも変色するため冷暗所での保管が求められたりする等、取扱いが煩雑である。そのため、本発明者は、取扱いが煩雑な感光紙に代替するものとして、取扱いの容易なビーム像取得用材の検討を行っていた。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、取扱いが容易な電子線照射装置のビーム像取得用材を用いた電子線照射装置のビーム像取得方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する電子線照射装置のビーム像取得方法は、被照射物に対して電子線を照射する電子線照射装置における前記電子線のビーム像を取得するビーム像取得方法であって、前記電子線の照射にて発生する熱を受けて色変化が生じる感熱インクを基材の少なくとも前記電子線が照射される部分に一体的に設けて構成されるビーム像取得用材を用い、前記電子線の照射し得る位置に前記ビーム像取得用材を配置し、前記ビーム像取得用材において前記電子線の照射にて発生する熱による前記感熱インクの色変化に基づいて前記電子線のビーム像を取得する。
【0012】
上記態様によれば、電子線のビーム像の取得は、電子線の照射に基づく熱にて色変化する感熱インクが基材の少なくとも一部に設けられて構成されたビーム像取得用材が用いられて行われる。ビーム像取得用材は容易な取扱いが可能なため、電子線のビーム像の取得を容易に行うことが期待できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電子線照射装置のビーム像取得方法によれば、取扱いの容易なビーム像取得用材を用いて電子線のビーム像の取得を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態における電子線照射装置の概略構成図。
【
図4】ビーム像取得用紙及びその取得態様を示す平面図。
【
図5】変更例におけるビーム像取得用紙及びその取得態様を示す平面図。
【
図6】変更例におけるビーム像取得用紙及びその取得態様を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、電子線照射装置のビーム像取得用材、及び電子線照射装置のビーム像取得方法の一実施形態について説明する。
図1に示す本実施形態の電子線照射装置10は、走査型の電子線照射装置である。電子線照射装置10は、熱電子放出を行う例えばタングステン製のフィラメント11を備えている。フィラメント11は、フィラメント用電源12からの電源供給に基づく自身の加熱により電子を放出する。フィラメント11は、加速管13の上端側に設けられている。
【0016】
加速管13は、フィラメント11が配置される上端側が閉塞された筒状をなしている。加速管13は、自身の管軸方向に並設される複数の加速電極14を有している。加速電極14は、加速電極用電源15からの電源供給に基づき、フィラメント11から放出された電子を収束させつつ下方に向けて加速させるような電界を生じさせる。つまり、加速管13では、加速電極14にて生じる電界にて、管軸方向の下方に向く電子流、すなわち電子線eが生じるようになっている。加速管13は、下端部に走査管16が接続されている。加速管13と走査管16とは互いに内部空間17が連通し、その内部空間17において電子線eが加速管13から走査管16側に進む。
【0017】
走査管16は、上端側が幅狭で、下方に向かうほど拡開する形状をなしている。走査管16は、その幅狭の上端部に走査コイル18が設けられている。走査コイル18は、自身への通電に基づき、加速管13にて生成された電子線eの向きを偏向、すなわち電子線eの走査を行う。走査管16の下端部には例えば略長方形状の開口窓部19が設けられており、開口窓部19には略長方形状の窓箔20が取り付けられている。窓箔20は、電子線eを透過させつつも、開口窓部19を密閉させるものである。つまり、加速管13と走査管16とに跨がる内部空間17は、密閉空間にて構成されている。内部空間17は、例えば走査管16に接続された真空ポンプ21の駆動にて、少なくとも電子線eを生じさせる期間は真空状態とされる。
【0018】
上記したフィラメント用電源12、加速電極用電源15、走査コイル18及び真空ポンプ21は、制御装置22にて制御される。制御装置22は、各電源12,15を通じて電子線eの出力調整を行ったり、走査コイル18を通じて電子線eの走査制御を行ったり、真空ポンプ21を通じて加速管13及び走査管16の内部空間17の真空調整を行ったりする。
【0019】
そして、開口窓部19に装着の窓箔20を介して出射される電子線eは、例えば搬送装置23により搬送方向xに搬送される被照射物24に対して照射され、被照射物24に所定処理を行う。なおこの場合、電子線照射装置10は、略長方形状の開口窓部19の長手方向が搬送装置23の搬送直交方向yに向く配置であり、搬送方向x及び搬送直交方向yを含めた電子線eの所定走査が行われて、開口窓部19に対応した略長方形状の照射エリアAの照射が行われる。電子線eの被照射物24への照射効果としては、例えば素材の性質改善や機能付加、殺菌・滅菌等が期待できる。
【0020】
次に、電子線(電子ビーム)eのビーム像取得について説明する。
図2は、電子線eが出射される開口窓部19に電子線eのビーム像取得用紙25を装着した状態を示している。また、
図3は、本実施形態で用いるビーム像取得用紙25を示している。
【0021】
ビーム像取得用紙25は、一般的に入手し易く安価なシート状の紙材を基材とし、これを基紙25aとし、その基紙25aに感熱インク25bが塗布又は含浸されてなる。基紙25aとしては、例えば複写機等で使用される紙と同等又は類似し、ある程度張りを有する紙材が用いられる。感熱インク25bは、例えば基紙25aの一主面又は両主面の全面に設けられている。
【0022】
また、感熱インク25bとしては、例えば設定温度として60℃以下では有色をなし、常温環境下では有色の状態が維持されるものであって、加熱されてその設定温度の60℃を超えると無色透明化して、加熱前後で人が識別可能な色変化が生じるインクである。一例としては、パイロットインキ社製のメタモカラー(登録商標)等がある。本実施形態の感熱インク25bとしては、そのメタモカラーを用いてもよく、またこれと同等又は類似の機能を有する他のインクを用いてもよい。
【0023】
また、ビーム像取得用紙25は、基紙25aが紙材であるため比較的吸熱性に優れ、感熱インク25bが自身で電子線eから吸熱するのに加え、基紙25a側の吸熱によっても感熱インク25bの色変化が効果的に行われるものとなっている。つまり、基紙25aは、感熱インク25bを塗布や含浸させるための単なるベース材として機能するだけでなく、好適な吸熱体としても機能している。なお、保管時に周囲の熱を受けてビーム像取得用紙25の感熱インク25bに若干の色変化が生じた際には、冷却することで色を復元させることも可能である。このような性質を有するビーム像取得用紙25は、例えば開口窓部19に対応した略長方形状に作製されている。
【0024】
このようなビーム像取得用紙25は、電子線eのビーム像を取得する際においては、開口窓部19に閉塞する態様にて組み付けられた窓箔20の下面側に重なるように配置される。例えば、開口窓部19の周縁部に窓箔20が取付枠19aにて取り付けられている場合、窓箔20と取付枠19aとの間の隙間にビーム像取得用紙25の周縁部が差し込まれてビーム像取得用紙25が脱落しないように保持される。本実施形態では、窓箔20の全面を覆う1枚のビーム像取得用紙25が用いられる。
【0025】
そして、電子線照射装置10が起動され、例えば電子線eのビーム像取得のための電子線eの所定走査による照射が行われる。これにより、窓箔20を透過した電子線eがビーム像取得用紙25をも透過し、ビーム像取得用紙25において電子線eの通過した部分が加熱、この場合例えば60℃の設定温度を超えて感熱インク25bが無色透明に色変化し、ビーム像取得用紙25の電子線eの照射部分が感熱インク25bの有色から基紙25aの色(例えば白色)となる。
【0026】
図4は、ビーム像取得後のビーム像取得用紙25である。ビーム像取得用紙25に電子線eの所定走査による照射が行われると、色変化を通じて電子線eの照射エリアAや基準照射位置S等の現状のビーム像を取得することが可能である。そして、ビーム像取得用紙25から得た電子線eのビーム像取得に基づき、制御装置22において例えば電子線eの走査態様の調整等が行われる。この調整以降は、電子線eの被照射物24への好適な照射が行われるようになる。
【0027】
本実施形態の効果について説明する。
(1)ビーム像取得用紙25は、電子線eの照射に基づく熱にて色変化する感熱インク25bが基紙25aに設けられて構成されるものであるため、光や熱でも反応し得る感光紙のように冷暗所での保管の必要がない。また、感熱インク25bを用いるビーム像取得用紙25の方が感光紙(感光インク)よりも使用期限の長期化が図れる。これらにより、取扱いを容易とすることが十分に期待できる。
【0028】
(2)ビーム像取得用紙25は、基紙25aの一主面又は両主面の全面に感熱インク25bが設けられるため、感熱インク25bを単に基紙25aの全面に設けるだけの簡易な対応にてビーム像取得用紙25を作製することができる。
【0029】
(3)ビーム像取得用紙25は、一般的に入手し易く安価な紙材を基材(基紙25a)として用いて作製されている。また、紙材を用いることで比較的吸熱性に優れるため、感熱インク25bの色変化を効果的に行わせることにも貢献できる。
【0030】
(4)ビーム像取得用紙25は容易な取扱いが可能なため、電子線eのビーム像の取得を容易に行うことが期待できる。
(5)電子線eが出射される開口窓部19の窓箔20にビーム像取得用紙25が重ねて配置されて電子線eのビーム像の取得が行われる。そのため、電子線eのビーム像の取得をより正確に行うことができる。
【0031】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・感熱インク25bを基紙25aの一主面又は両主面の全面に塗布又は含浸させたが、全面ではなく、電子線eのビーム像が検出可能であれば一部であってもよい。
【0032】
また、
図5に示す変更例のビーム像取得用紙26のように、基紙26aの一主面又は両主面に感熱インク26bを格子状に設けてもよい。基紙26a及び感熱インク26bは、基紙25a及び感熱インク25bと同等のものである。この変更例によれば、感熱インク26bの使用量を少なくしてビーム像取得用紙26を作製することができる。また、格子状に設けた感熱インク26bを目盛り代わりに使用することもできる。
【0033】
・窓箔20の全面を覆う1枚のビーム像取得用紙25を用いて電子線eのビーム像の取得を行ったが、複数枚用いてもよい。
例えば、
図6に示す変更例では、感熱インク27bを基紙27aの一主面又は両主面の全面に塗布又は含浸させたビーム像取得用紙27が複数枚(
図6では3枚)用いられ、これら複数枚のビーム像取得用紙27が並べられて窓箔20の全面を覆うように配置される。基紙27a及び感熱インク27bは、基紙25a及び感熱インク25bと同等のものである。この変更例によれば、個々のビーム像取得用紙27を小さく作製することができ、またこの面においてもビーム像取得用紙27の取扱いを容易とすることに貢献できる。
【0034】
・ビーム像取得用紙25,26,27の基材として基紙25a,26a,27aを用いたが、複写機等で使用される紙と同等又は類似しある程度張りを有する紙材に限らず、適宜変更してもよい。また、紙材以外の基材を用いてもよい。例えば、シート状の樹脂材を用いてもよい。また、シート状以外の形状、例えばブロック状の基材を用いてもよい。
【0035】
・感熱インク25b,26b,27bの色変化する反応温度を60℃以外に設定してもよい。また、感熱インク25b,26b,27bの色変化を有色から無色透明としたが、これとは逆に無色透明から有色に変化させてもよい。また、異なる有色に変化させてもよい。
【0036】
・電子線eの進行方向を下方向の設定としていたが、上方向や水平方向、斜め方向であってもよい。
・単一のフィラメント11から放出された電子から電子線eを形成し走査コイル18にて走査して照射エリアAの照射を行う走査型の電子線照射装置10に適用したが、照射エリアに対応して複数のフィラメントを用い走査コイルを省略した態様のエリア型の電子線照射装置に適用してもよい。
【0037】
上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
(イ)電子線照射装置のビーム像取得用材において、基材はシート状をなすものであり、前記基材の少なくとも一主面に感熱インクを格子状に設けて構成された、電子線照射装置のビーム像取得用材。
【0038】
上記態様によれば、ビーム像取得用材は、シート状の基材の少なくとも一主面に感熱インクが格子状に設けられるため、感熱インクの使用量を少なくしてビーム像取得用材を作製することが可能である。また、格子状に設けた感熱インクを目盛り代わりに使用することも可能である。
【0039】
(ロ)電子線照射装置のビーム像取得方法において、電子線照射装置は、電子線を生成する管部材の開口窓部を窓箔にて密閉し、前記窓箔を介して前記電子線を出射する構成をなすものであり、ビーム像取得用材は、前記窓箔に重ねて配置される、電子線照射装置のビーム像取得方法。
【0040】
上記態様によれば、電子線照射装置において電子線が出射される開口窓部の窓箔にビーム像取得用材が重ねて配置されて電子線のビーム像の取得が行われる。そのため、電子線のビーム像の取得をより正確に行うことが可能である。
【0041】
(ハ)電子線照射装置のビーム像取得方法において、ビーム像取得用材は、複数並べられて配置される、電子線照射装置のビーム像取得方法。
上記態様によれば、電子線のビーム像の取得の際、ビーム像取得用材が複数並べられて配置される。つまり、個々のビーム像取得用材を小さく作製することが可能であり、またこの面においてもビーム像取得用材の取扱いを容易とすることに貢献する。
【符号の説明】
【0042】
10…電子線照射装置
24…被照射物
25,26,27…ビーム像取得用紙(ビーム像取得用材)
25a,26a,27a…基紙(基材)
25b,26b,27b…感熱インク
e…電子線