(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】細胞の製造のためのマイクロ流体方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/42 20060101AFI20240712BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240712BHJP
C12N 15/87 20060101ALI20240712BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20240712BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240712BHJP
C12N 5/0783 20100101ALN20240712BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240712BHJP
C12N 1/00 20060101ALN20240712BHJP
【FI】
C12M1/42
C12M1/00 A
C12N15/87 Z
C12N5/10
C12N15/09 110
C12N5/0783
C12N15/12
C12N1/00 U
(21)【出願番号】P 2021500591
(86)(22)【出願日】2019-07-11
(86)【国際出願番号】 US2019041483
(87)【国際公開番号】W WO2020014538
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-07-08
(32)【優先日】2018-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519149537
【氏名又は名称】ジーピービー・サイエンティフィック・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】GPB Scientific, Inc.
(73)【特許権者】
【識別番号】500184305
【氏名又は名称】ザ・トラスティーズ・オブ・プリンストン・ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】THE TRUSTEES OF PRINCETON UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】619 Alexander Road, Suite 102, Princeton,NJ 08540-6000 U.S.A.
(73)【特許権者】
【識別番号】515293665
【氏名又は名称】ユニバーシティ・オブ・メリーランド・ボルティモア
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF MARYLAND, BALTIMORE
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】アンソニー・ウォード
(72)【発明者】
【氏名】ロベルト・カンポス-ゴンサレス
(72)【発明者】
【氏名】アリソン・スケリー
(72)【発明者】
【氏名】クシュルー・ガンディ
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・グリシャム
(72)【発明者】
【氏名】カート・シビン
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ・シー・ストゥーム
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/080997(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/040995(WO,A1)
【文献】特表2017-537615(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0104128(US,A1)
【文献】MEMS, 2014 IEEE 27th International Conference, San Francisco, CA, USA,2014年,234-237
【文献】Microsystems & Nanoengineering ,2015年,vol.1, 15007,1-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
C12N 15/00-15/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)第一のマイクロ流体デバイスに標的細胞を含む流体組成物を適用し、ここで標的細胞は1以上の形質転換剤を含むエレクトロポレーションバッファー中にあるか、または1以上の形質転換剤を含むエレクトロポレーションバッファーに移動される、そしてデバイスを介して標的細胞を流す工程;
b)それらがデバイスを介して、またはデバイスの出口に接続されている導管中を流れるときに標的細胞をエレクトロポレーションする工程、ここで電場がデバイスまたは導管に沿って1以上の領域で生成され、かつ電場はフロー方向に垂直である;
c)エレクトロポレーションバッファーおよび形質転換剤からそれらを除去するためにエレクトロポレーションされた細胞を分離する工程、
を含
み、
d)標的細胞が、標的細胞とは異なるサイズの混入物質粒子および/または細胞も含む粗流体組成物中にあり;
e)標的細胞が、第一のマイクロ流体デバイスで決定論的横置換(DLD)を実行することにより、粗流体組成物における混入物質粒子および/または細胞から分離される、
ここで前記デバイスは:
i)試料入口から少なくとも2つの流体出口まで延びる少なくとも1つのチャネルであって、ここでチャネルは第一の壁および第一の壁と反対側の第二の壁により囲まれている、チャネル;
ii)チャネルにおいていくつもの行をなして配列されている障害物のアレイであって、障害物のそれぞれの次の行が前の行に対して横方向へシフトしており、ここで、粗流体組成物が、デバイスの入口に適用され、チャネルを流体的に通過するときに標的細胞が1以上の産物出口に流れ、そこで標的細胞が濃縮された産物がデバイスを出ていき、かつ標的細胞と異なるサイズの混入物質細胞または粒子が産物出口とは別の1以上の廃棄物出口に流れるような様式で前記障害物が配置されている、アレイ;
を含み、かつ
f)工程e)のDLD分離において、粗流体組成物は、第一の入口で第一のマイクロ流体デバイスに入り、1以上の形質転換剤を含むエレクトロポレーションバッファーは、第一の入口とは異なる第二の入口で第一のマイクロ流体デバイスに入り、そして標的細胞が前記デバイスを流れるときに、異なるサイズの粒子および/またはその他の細胞からそれらを分離するのと同時に1以上の形質転換剤を含むエレクトロポレーションバッファーにそれらが移動される、
標的細胞の集団を操作する方法。
【請求項2】
標的細胞が、デバイスの出口に接続されている導管中でエレクトロポレーションされる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
エレクトロポレーションされた細胞が、第二のマイクロ流体デバイスでエレクトロポレーションバッファーおよび形質転換剤から分離される、請求項1または請求項2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
第二のマイクロ流体デバイスが導管により第一のマイクロ流体デバイスに接続されており、かつ前記方法が第一のマイクロ流体デバイスに標的細胞を適用することから、第二のマイクロ流体デバイスでエレクトロポレーションバッファーおよび形質転換剤からそれらを除去するためのエレクトロポレーションされた細胞の分離することまでの単一の連続プロセスとして実行される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
工程a)において、標的細胞が粗流体組成物中にあり、ここで粗流体組成物が、血液、血液以外の生体液、アフェレーシス試料もしくは血液由来のその他の産物、成長培地または細胞培養培地からなる群から選択される、請求項1、2または4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
標的細胞が幹細胞または白血球であり、かつ第一のマイクロ流体デバイスに適用される前に前記細胞が血液、血液以外の生体液、アフェレーシス試料もしくは血液由来のその他の産物、成長培地または細胞培養培地から精製される、請求項1、2または4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
細胞が、標的細胞に特異的に結合する物質を保有する磁性マイクロビーズを使用して単離される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
標的細胞に特異的に結合する物質が抗体である、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
混入物質粒子または細胞が廃棄物出口でデバイスから出て行き、標的細胞が産物出口でデバイスから出て行き、導管へ流れ、導管を通り、その間の時間でそれらがエレクトロポレーションされる、請求項
1に記載の方法。
【請求項10】
粗流体組成物が、標的細胞として幹細胞または白血球を含み、混入物質細胞として血小板および/または赤血球を含む、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
標的細胞がT細胞であり、第一のマイクロ流体デバイスでの分離の前、間、および/または後に、かつエレクトロポレーション前に、白血球が、アクチベーターに結合する、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
アクチベーターが、結合していないか、担体に結合しているか、または磁性マイクロビーズに結合している抗体である、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
標的細胞が抗CD3および/またはCD28抗体でコートされた磁性ビーズを用いて活性化される、請求項
11に記載の方法。
【請求項14】
形質転換剤が核酸および/またはCas9-ガイドRNA複合体を含む、請求項1-
13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
第一のマイクロ流体デバイスに標的細胞を適用する前に、またはエレクトロポレーション前にFicoll遠心分離工程を含まない、請求項1-
14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
CAR T細胞を産生するために使用される、請求項1-
15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2018年7月12日に出願された米国仮特許出願第62/697,384号の利益を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、細胞がエレクトロポレーションにより遺伝的に形質転換されるマイクロ流体の方法を主に対象とする。
【背景技術】
【0003】
細胞療法、特にCAR-T細胞療法は、B細胞急性リンパ性白血病(B-ALL)およびB細胞リンパ腫などのB細胞疾患を処置することにおいて並外れた効力を示している。結果として、自己治療の需要が劇的に増加しており、開発の努力は、神経膠芽腫などの固形腫瘍により特徴づけられる癌に焦点を合わせるように広げられている(Vonderheide, et al., Immunol. Rev. 257:7-13 (2014); Fousek, et al., Clin. Cancer Res. 21:3384-3392 (2015); Wang, et al., Mol. Ther. Oncolytics 3:16015 (2016); Sadelain, et al., Nature 545:423-431 (2017))。焦点を向けられた、幹細胞などの自己細胞の集団におけるCRISPR/Cas-9を用いての標的化遺伝子編集は、さらに需要を喚起し得る(Johnson, et al., Cancer Cell Res. 27:38-58 (2017))。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
治療的に活性な細胞を効果的かつ効率的な方法で生産する能力は、これらの細胞を費用対効果の高い治療として利用可能にするための中心的なものである。これに関して、Zhangらは最近、エレクトロポレーションによるヒトT細胞の形質転換のための最適条件の検討を行った(Zhang, et al; BMC Biotechnology 18:4 (2018)参照)。彼らは、T細胞の活性化が形質転換を促進し、約3日間刺激した細胞が最も高いエレクトロポレーション効率を有するようであることを発見した。当該論文はまた、異なる細胞濃度で活性化されたT細胞のトランスフェクションを研究し、「一般的に、より高い細胞数を用いたエレクトロポレーションの方が、よりポジティブにトランスフェクションされた細胞が得られる」と結論づけている。エレクトロポレーション中に使用するプラスミドの量を増やすと、形質転換された細胞の割合が増加したが、細胞の生存率を低下させる傾向もあった。
【0005】
決定論的横置換などのマイクロ流体的手法は、治療的に活性な細胞を調製するのに適しており、これは部分的には、細胞の精製および濃縮が同時に起こることを可能にするからである。本発明は、既存のマイクロ流体的方法をエレクトロポレーションによる細胞の遺伝的形質転換と統合し、自動化に適した方法で行う方法に関する。以下の説明において、好ましい標的細胞は、別段の指示がない限りヒトである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
本発明は、細胞がマイクロ流体的に処理されているときにエレクトロポレーションを行うための方法に向けられている。開発されたシステムは、1つまたは2つのマイクロ流体デバイスを使用して単一の連続的な手順で細胞を精製および形質転換すること、および細胞が当該システムを移動する間にエレクトロポレーションを行うこと、を可能にする。いくつかの実施形態では、細胞の濃度は、エレクトロポレーションの前に所定のレベルまで高められる。これは、形質転換された細胞の数、および細胞の1つのバッチから次のバッチまでの結果の一貫性、の両方に関して、結果を改善するはずである。
【0007】
標的細胞を遺伝子工学的に操作するための方法
その第一の態様では、本発明は、マイクロ流体デバイスおよび細胞をエレクトロポレーションするための要素を含むシステムを使用して、標的細胞の集団を遺伝子工学的に操作するための方法に向けられている。当該方法は、標的細胞を含有する流体組成物を第一のマイクロ流体デバイスに適用し、入口から出口に当該組成物を流すことから始まる。当該細胞は、当該手順の開始時に、1以上の形質転換剤を含むエレクトロポレーションバッファー中にあってもよいし、処理中にそのような組成物中に移されてもよい。形質転換剤は、核酸だけでなく、Cas9ガイドRNA複合体などの遺伝子工学を促進する他の因子、および/またはエレクトロポレーションが起こる条件に影響を与える物質、例えばpHまたは塩濃度に影響を与える物質を含んでいてもよい。標的細胞は、デバイスを流れるときに、またはより好ましくは、デバイスの出口に接続された導管を流れるときに、エレクトロポレーションによって遺伝的に形質転換される。これは、デバイスまたは導管に沿った1以上の領域において、細胞のフロー方向に対して垂直に配向された電場を発生させることによって達成される。エレクトロポレーションされた細胞は、次に、細胞に移動しなかったエレクトロポレーションバッファーおよび形質転換剤から除去するために分離される。この分離は、導管によって第一のものに接続された第二のマイクロ流体デバイスで行われる。好ましくは、第一のマイクロ流体デバイスへの標的細胞の適用から始まり、エレクトロポレーションバッファーおよび形質転換剤から細胞を除去する処理が完了するときまで継続する全体の方法が、単一の連続プロセスとして実施される。
【0008】
標的細胞は、好ましくは幹細胞または白血球であり、血液、血液以外の生体液、アフェレーシス試料もしくは血液由来のその他の産物、成長培地または細胞培養培地からなる群から選択される粗流体組成物の一部として得られてもよい。一実施形態では、第一のマイクロ流体デバイスに適用される前に、標的細胞は、決定論的横置換(DLD)、担体またはマイクロビーズを使用して、不要な「混入物質」細胞または粒子から分離される。好ましい実施形態では、標的細胞は、作用物質、好ましくは標的細胞に特異的に結合する抗体を保有する担体または磁性マイクロビーズを用いて単離される。この文脈で使用されるように、「特異的」という言葉は、各非標的細胞結合に対して、少なくとも100(好ましくは少なくとも1000)の標的細胞が、担体またはマイクロビーズと結合することを意味する。一旦分離されると、標的細胞は、第一のマイクロ流体デバイスを通過するときにさらに精製されてもよく、また、形質転換剤を含有するエレクトロポレーションバッファーに移されてもよい。
【0009】
代替的な実施形態では、標的細胞は、標的細胞とは異なるサイズの混入物質粒子および/または細胞をも含む粗流体組成物で得られ、この組成物は第一のマイクロ流体デバイスに直接適用される、すなわち前精製なしで適用される。好ましい標的細胞は幹細胞または白血球であり、および混入物質は典型的には、赤血球および/または血小板を含むであろう。標的細胞は、決定論的横置換(DLD)を実行することにより混入物質粒子および/または細胞から分離される。
【0010】
DLDが実施されるデバイスの主なの特徴は、試料入口から少なくとも2つの流体出口まで延びる少なくとも1つのチャネルを有し、ここでチャネルは第一の壁および第一の壁と反対側の第二の壁により囲まれていることである。チャネル内には、列に配置された障害物の配列があり、後続の各列は、前の列に対して横方向にシフトされており、障害物は、粗流体組成物がチャネルを流体的に通過するときに、標的細胞が、標的細胞に富む産物がデバイスを出る1つ以上の産物出口に流れ、標的細胞とは異なるサイズの混入物質細胞または粒子が、産物出口とは別の1つ以上の廃棄物出口に流れるような方法で配置されていることを特徴とする。チャネル内には、いくつもの行をなして配列されている障害物のアレイがあり、それぞれの次の行が前の行に対して横方向へシフトしており、ここで、粗流体組成物がチャネルを流体的に通過するときに、標的細胞が1以上の産物出口に流れ、そこで標的細胞が濃縮された産物がデバイスを出ていき、かつ標的細胞と異なるサイズの混入物質細胞または粒子が産物出口とは別の1以上の廃棄物出口に流れるような様式で当該障害物が配置されている。
【0011】
好ましいDLD精製では、粗流体組成物は、第一の入口で第一のマイクロ流体デバイスに入り、1以上の形質転換剤を含むエレクトロポレーションバッファーは、第一の入口とは異なる第二の入口で第一のマイクロ流体デバイスに入る。標的細胞がデバイスを流れるときに、それらが異なるサイズの混入物質粒子および/または細胞を分離するのと同時に1以上の形質転換剤を含むエレクトロポレーションバッファーにそれらは移動される。分離の終わりには、混入物質粒子または細胞は廃棄物出口でデバイスから出て行き、標的細胞は産物出口でデバイスから出て行く。廃棄細胞および粒子は、再利用されてもよく、または廃棄されてもよく、標的細胞は導管を通過し、その間にエレクトロポレーションされる(一般に
図4を参照)。
【0012】
エレクトロポレーション後、標的細胞は第一のデバイスと同様に試料入口から少なくとも2つの流体出口まで延びる少なくとも1つのチャネルを有する第二のマイクロ流体デバイスに流れる。チャネルは、第一の壁および第一の壁とは反対側の第二の壁により囲まれている。障害物のアレイはチャネル内でいくつもの行をなして配列されており、障害物のそれぞれの次の行が前の行に対して横方向へシフトしており、ここで障害物は標的細胞が1以上の産物出口に流れ、そこで標的細胞が濃縮された産物がデバイスを出ていく、かつエレクトロポレーションバッファーおよび標的細胞と異なるサイズの形質転換剤は別の廃棄物出口に流れるような様式で配置されている。DLDは標的細胞はエレクトロポレーションバッファーから異なる水性バッファー、成長培地または培養培地に移動する第二のデバイスで実行される。
【0013】
特に好ましい標的細胞はT細胞であり、第一のマイクロ流体デバイスでのDLD分離の前、間、または後に、およびエレクトロポレーション前に、これらの細胞は、アクチベーターに結合する。活性化は好ましくはエレクトロポレーションの前に1-5日間継続されるべきである。アクチベーターは、好ましくは、結合していないか、担体に結合しているか、または磁性マイクロビーズに結合している抗体である。もっとも好ましくは、標的細胞はT細胞であり、抗CD3/CD28抗体でコートされた磁性ビーズを用いて活性化される。アクチベーターはエレクトロポレーション中に存在でき、またはエレクトロポレーション前に除去できる。除去される場合、エレクトロポレーションは、好ましくは、その後1-5日以内に行われるべきである。形質転換の間、核酸は存在するであろうし、かつCas9-ガイドRNA複合体も存在してもよい。
【0014】
好ましくは上記の工程が第一のマイクロ流体デバイスへの標的細胞の適用の前、またはエレクトロポレーション前にFicoll遠心分離工程なしで実行される。また、標的細胞を第一のマイクロ流体デバイスに適用する前、または処理のステップ間に凍結させないことが好ましい。
【0015】
制御された細胞濃度での標的細胞の遺伝子工学
本発明はまた、エレクトロポレーションを受ける細胞の濃度を制御されている標的細胞を遺伝子工学的に操作する方法を含む。当該方法は、所定のサイズの標的細胞と、所定のサイズ未満の細胞または粒子を含む試料を得る工程を含む。当該試料は、第一のマイクロ流体デバイスの第一の入口に適用され、また洗浄液は、第一のマイクロ流体デバイスの第二の別の入口に適用される。いくつかの実施形態では、洗浄液は、エレクトロポレーションに適したバッファーであってもよく、すなわち「エレクトロポレーションバッファー」であってもよく、核酸および/またはCas9ガイドRNA配列などのトランスフェクション剤を含有してもよい。あるいは、洗浄液は、水性バッファー、成長培地または細胞培養培地であってもよい。一般に、洗浄液は、マイクロ流体デバイスに最初に導入されたときに、標的細胞を欠き、所定のサイズ未満の細胞または粒子を欠くであろう。
【0016】
マイクロ流体デバイスは好ましくは、決定論的横置換により細胞および粒子を分離するために設計されており、当該技術分野でよく知られているタイプのものである。それは、試料入口領域から1つ以上の流体出口まで延びる少なくとも1つのチャネルを含み、ここでチャネルは第一の壁および第一の壁と反対側の第二の壁により囲まれている。チャネル内にいくつもの行をなして配列されている障害物のアレイがあり、障害物のそれぞれの次の行が前の行に対して横方向へシフトしている。粗流体組成物がデバイスの入口に適用され、チャネルを流体的に通過するときに、標的細胞が第一の出口に流れ、所定のサイズ未満の混入物質細胞または粒子は、それらが収集されてもよいし、または廃棄物として廃棄されてもよい第二の出口に流れるような様式で障害物が配置されている。
【0017】
DLDは、細胞の試料および洗浄液をデバイスを介して流すことにより行われ、デバイスの第一の出口からの流出物における細胞の濃度は例えば、フローサイトメトリーにより測定される。細胞の濃度が所定の濃度よりも低い場合には、デバイスに適用されている洗浄液の全部または少なくとも一部を置換するように、流出物を再循環させる。再循環プロセスの結果、第一の出口における細胞の濃度が所定の濃度に達すると、第一の出口からの流出(標的細胞を含む)は導管に向けられ、ここで、まだ存在していない場合には、細胞は、細胞に移入される形質転換剤を含むエレクトロポレーションに必要な任意の成分と組み合わせられる。導管への細胞の再指向が起こる時点で、デバイスへの試料の適用が継続されてもよく、再循環は停止されてもよく、洗浄液は以前と同様に再びデバイスに流れてもよい。あるいは、細胞が導管に流れ始めた後、後の時点で再導入される洗浄液で再循環が1サイクル以上継続してもよい。エレクトロポレーションは、流体フローの方向に垂直な電場を適用することにより、細胞が導管内を流れるときに実行される。
【0018】
エレクトロポレーションが行われる導管のセクションを通過した後、細胞は、第一のデバイスと同様に、DLDによって細胞を分離するように設計されており、同様の構造を有する第二のマイクロ流体デバイスを進み続ける。そこでは、標的細胞は、細胞にトランスロケーションされていない流出物中の形質転換剤から分離され、標的細胞は、バッファー、成長培地または細胞培養培地に移される。
【0019】
細胞が形質転換のために導管に向けられる細胞の所定濃度は、標的細胞および使用される組成物、ならびに当該手順を実行する当事者の目的に応じて変化するであろう。例えば、所定の濃度は、次のようなものであってもよい:0.5x104細胞/ml;1.0x105細胞/ml;1.0x106細胞/ml;1.0x107細胞/ml;1.0x108細胞/ml;または2.0x108細胞/ml。あるいは、当該手順を実施する当事者は、細胞の初期濃度に基づいて所定の濃度を規定してもよい。例えば、試料中の濃度と比較して、流出物中の細胞または粒子が少なくとも3、5、または10倍濃縮されている場合、流出物は導管に流されてもよい。所定の濃度が満たされるか、またはそれを超えると、出口からの流れは、エレクトロポレーションが行われる導管に向けられる。
【0020】
エレクトロポレーション時に使用する核酸の量は、実験的に決定してもよいが、一般的には約0.1-3.5μg/mlである。
【0021】
いくつかの実施形態では、洗浄液は水または水性バッファーであるが、洗浄液中の細胞、粒子または他の成分と化学的に反応する試薬、または標的細胞または標的粒子と特異的に相互作用する抗体、担体またはアクチベーターも含んでもよい。いくつかの実施形態では、洗浄バッファーは、エレクトロポレーションへの適合性のために選択されてもよく、細胞に移動される核酸(例えば、タンパク質をコードする核酸)、並びに細胞を遺伝子工学的に操作するのに有用な他の物質(例えば、Cas9ガイドRNA複合体)を含有してもよい。
【0022】
第一のマイクロ流体デバイスの第一の出口からの流出の再循環を変更する手順は、自動化されていてもよく、フローの再指向は、第一の出口の一部であるか、または第一の出口が接続されているバルブによって達成されてもよい。また、洗浄液またはリサイクルされた材料がデバイスに適用されるかどうかを制御する第二のバルブが存在することが好ましい。これらのバルブおよびシステム内の他のものは、細胞数測定または他の処理パラメータに応答して、標準的な電子回路によって作動させてもよい。さらに、標的細胞または標的粒子は、第一のマイクロ流体デバイスに再適用される前、間、または後に、担体、抗体、蛍光タグ、アクチベーターまたは化合物と反応させてもよいし、結合させてもよい。
【0023】
好ましい実施形態では、所定のサイズの標的細胞は白血球(もっとも好ましくはT細胞)であり、所定のサイズ未満の細胞は血小板および/または赤血球である。白血球は、例えば、血液試料、血液以外の生体液、アフェレーシス試料もしくは血液由来のその他の産物、成長培地または細胞培養培地中にあるものであってもよい。細胞を形質転換するために使用される核酸は、細胞を癌などの疾患の治療に有用なものとするキメラ抗原受容体をコードしていてもよい。
【0024】
CAR T細胞の作製方法
より具体的には、本発明は、CAR T細胞としての使用のための細胞を製造する方法を含む。この方法における第一の工程は、所定のサイズのT細胞および所定のサイズ未満の細胞もしくは粒子を含む試料を得る工程を含む。好ましくは、T細胞は、癌、自己免疫疾患または感染症を有する患者に由来し、かつ遺伝子工学的な操作、および増殖(expansion)の後に、同じ患者を処置するために使用されるであろう。試料および洗浄液の両方が、別の入口で第一のマイクロ流体デバイスに適用される。いくつかの実施形態では、洗浄液は、エレクトロポレーションに適したバッファーであってもよく、すなわち「エレクトロポレーションバッファー」であってもよく、核酸および/またはCas9ガイドRNA配列などのトランスフェクション剤を含有する。あるいは、洗浄液は、水性バッファー、成長培地または細胞培養培地であってもよい。洗浄液は、マイクロ流体デバイスに最初に導入されたときに、標的細胞を欠いていてもよく、所定のサイズ未満の細胞または粒子を欠いていてもよい。
【0025】
マイクロ流体デバイスは、DLDのために設計されており、上述のデバイスと構造的に類似しているだろう。試料が第一のマイクロ流体デバイスに適用された後、DLDが実行され、T細胞が第一の出口に偏向され、所定のサイズ未満の細胞または粒子はそれらが収集されてもよいし、または廃棄物として廃棄されてもよい第二の出口に流れる。デバイスの第一の出口での流出物における細胞の濃度は、例えば、フローサイトメトリーにより測定される。出口での濃度が所定の値未満である限り、デバイスに適用されている洗浄液の全部または少なくとも一部を交換するように、流出物は再循環される(一般的には
図3および4を参照)。再循環プロセスの結果、第一の出口における細胞の濃度が所定の濃度に達すると、第一の出口からの流出(T細胞を含む)は導管に向けられ、そこで、まだ存在していない場合には、細胞は、細胞に移動される形質転換剤を含むエレクトロポレーションに必要な任意の成分と組み合わせられる。導管への細胞の再指向が起こる時点で、デバイスへの試料の適用が継続してもよく、再循環は停止してもよく、洗浄液は以前と同様に再びデバイスに流れてもよい。あるいは、細胞が導管に流れ始めた後、後の時点で再導入される洗浄液で再循環が1サイクル以上継続してもよい。エレクトロポレーションは、流体フローの方向に垂直な電場を適用することにより、細胞が導管内を流れるように実行される。
【0026】
一つの好ましい実施形態では、T細胞は、血液、血液以外の生体液、アフェレーシス試料もしくは血液由来のその他の産物、成長培地または細胞培養培地の粗流体組成物中にあり、第一のマイクロ流体デバイスに適用される前に、T細胞は、粗流体組成物中に存在する赤血球、血小板および/またはその他の細胞または粒子からそれらを分離するように精製される。精製は、DLDによって、またはT細胞に特異的に結合するマイクロビーズ、特に、抗体などの物質を保有する担体または磁性マイクロビーズを使用することによって実施できる。
【0027】
分離前、分離の間、および/または分離の後、T細胞は、アクチベーターに結合することにより活性化される。好ましくは、T細胞は、上記のように第一のマイクロ流体デバイスに適用される前に、1-5日間活性化されているであろうし、活性化は抗CD3/CD28抗体でコートされた磁性ビーズの結合によるものであろう。アクチベーターは、DLD手順中およびエレクトロポレーション中に存在してもよい。あるいは、アクチベーターは、エレクトロポレーション前に除去することができる。アクチベーターが除去される場合、エレクトロポレーションは、一般に、その後約1-5日以内に行われるべきである。
【0028】
エレクトロポレーション後、導管内のT細胞は、好ましくは、いくつもの行をなして配列されている障害物のアレイであって、前の行に対して横方向へシフトしている障害物のそれぞれの次の行を有するアレイを含む第二のマイクロ流体デバイスへと流れる。障害物は、T細胞を第一の出口に、所定のサイズ未満の粒子をそれらが収集されてもよいし、または廃棄物として廃棄されてもよい第二の出口に、差次的に偏向させるように、配置されている。T細胞を第一の出口に向かって流し、バッファー、成長培地または培養培地に移動させる第二のデバイスで、DLDは実行される。エレクトロポレーションバッファーおよびトランスフェクション剤は、それらが回収または廃棄される第二の出口に向かって流れる。
【0029】
細胞が形質転換のための導管に向けられる細胞の所定の濃度は例えば、0.5x104細胞/ml;1.0x105細胞/ml;1.0x106細胞/ml;1.0x107細胞/ml;1.0x108細胞/ml;または2.0x108細胞/mlであってもよい。これらの所定の濃度の1つが満たされるか、またはそれを超えると、出口からの流れは、エレクトロポレーションが行われる導管に向けられるであろう。あるいは、手順を実施する当事者は、細胞の初期濃度に基づいて所定の濃度を規定してもよい。例えば、試料中の濃度に対して、流出物中の細胞または粒子が少なくとも3、5、または10倍濃縮されている場合、流出物は導管に流される。
【0030】
再循環回路からエレクトロフォレーシスのための導管への第一の出口での流出方向の変更を容易にするために、出口の一部としてバルブが存在してもよいし、出口がそのようなバルブに接続されていてもよい。また、洗浄液またはリサイクルされた材料がデバイスに適用されるかどうかを制御する第二のバルブが存在することが好ましい。上述したように、これらのバルブ、およびシステム内の他のバルブの位置は、細胞数または他の処理パラメータに応答して電子的に制御されてもよい。
【0031】
上記のCAR T細胞を製造するための工程は、好ましくは、エレクトロフォレーシスの前に遠心分離を含まない。遺伝子操作した細胞上に発現されたキメラ受容体は、a)抗原結合ドメインを含む細胞外領域;b)膜貫通領域;c)細胞内領域を含んでもよく、所望により、誘発された場合にCAR T細胞の数または活性を減少させる分子スイッチを細胞に提供する1以上の組み換え配列を含んでもよい。
【0032】
一旦産生されると、CAR T細胞は、インビトロで細胞を増殖させることにより、数を増やしてもよい。増殖を促進するために、アクチベーターまたは他の因子をこの工程で添加してもよく、IL-2およびIL-15は、使用されてもよい物質のうちの1つである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】
図1A~1G:
図1A~1Cは、DLDデバイスの1タイプの異なる動作モードを示す。これは、i)分離(
図1A)、ii)バッファー交換(
図1B)、およびiii)濃縮(
図1C)を含む。各モードにおいて、臨界直径より大きい本質的に全部の粒子が、流入の地点からアレイの方向に偏向され、結果として、デバイスの幾何学的配置の機能としてのサイズ選択、バッファー交換、または濃縮を生じる。全ての場合において、臨界直径より小さい粒子は、層流条件下でデバイスを真っ直ぐに通過し、その後、デバイスを出口で出て行く。DLDデバイスは、デバイスを作製および使用する方法と共に文献に記載されており、例えば、出典明示により本明細書に組み込まれるUS2016/0139012;US2017/0333900;US2016/0047735;US2017/0209864;US2017/0248508;およびUS2019/0071639を参照されたい。
図1Dは、分離モードに用いられる14レーンのDLDデザインを示す。描かれたアレイおよびマイクロチャネルの全長は、75mmであり、幅は40mmであり、それぞれの個々のレーンは、幅1.8mmである。
図1E~1Fは、プラスチック菱形ポストアレイ、および出口についての統合収集ポートの拡大図である。
図1Gは、デバイスを用いて処理中の白血球アフェレーシス産物の写真を示す。
【
図2】
図2は、この個々のチップがどのようにして、任意の特定の適用による要求通り、スループットを達成するように層に積み重ね可能であるように設計されているかを示す概略図である。
【
図3】
図3の左端の図は、DLD中の細胞の動きを示す。バッファーおよび試料は、別の入口ポートでデバイスに適用される。試料が出口に向かって進むにつれて、アレイの臨界サイズよりも大きなサイズを持つ細胞は、試料ストリーム(チャンネルの外側、ハッチングされた部分)からバッファストリーム(チャンネルの中央、点描の部分)に移動し、最終的に産物出口に出ていく。パネル1-3は、産物のリサイクルが行われるDLD手順の様々なステップを示す。パネル1では、試料(白色試料レザバ)とバッファー(点描バッファーレザバ)は、別の入口を介してマイクロ流体デバイスに適用される。アレイの臨界サイズよりも大きい細胞を含有する産物は、産物出口から収集され(底部の産物レザバで点描)、廃棄物は廃棄物出口から収集される(底部の廃棄物レザバでクリア)。産物レザバからバッファー入口へのバルブは閉じているのに対し、バッファーレザバからバッファー入口へのバルブは開いていることに留意されたい。パネル2では、産物レザバからバッファー入口へのバルブが開いており、バッファーレザバからバッファー入口へのバルブが閉じている。その結果、産物はマイクロ流体デバイスにリサイクルされる。パネル3では、処理はほぼ完了に近づいている。廃棄物の総量は増加し、産物の総量は減少している。
【
図4】
図4は、統合されたエレクトロポレーション要素と共にDLD分離のために設計されたマイクロ流体デバイスを使用する細胞調製システムの基本的な構成要素を示す。この特定の例では、細胞を含有する試料は、第一のマイクロ流体デバイス(A)の一方の側に位置するポートFで導入され、1つ以上の形質転換剤を含むエレクトロポレーションバッファーは、レザバ(R)から、供給チューブ(S)を介して、デバイスの他方の側のポートGでデバイスに導入される。DLDは、デバイスを介して試料およびバッファーを出口HおよびIに流すことにより実行される。このプロセスでは、デバイスの臨界サイズよりも大きい細胞および粒子は出口Iに向かって流され、臨界サイズよりも小さいサイズを持つ粒子は流されず、出口Hに向かって流れ、そこでデバイスから出る。精製された標的細胞は、出口Iで流出してデバイスから出て、その後すぐに、好ましくはフローサイトメトリーにより細胞数が測定される。細胞数が細胞の濃度が所定の濃度にあるか、または所定の濃度よりも高いことを示す場合、バルブtは細胞を導管Bに導く。当該濃度が所定の値よりも低い場合、バルブtは細胞をリサイクル回路(Q)に流れさせ、そこでそれらは供給ライン(S)の方に流れる。そこでは、バルブUの作動により、リサイクルされた材料がレザバRからのバッファーに置き換わる。所定の濃度の細胞が出口Iに達すると、バルブtとUは、出口Iからの流出物が導管Bに入り、レザバRからのバッファーがポートGで再びデバイスに入るように、再配置できる。出口Iの導管への細胞の流出中、試料はすべてデバイスに流れるまで適用され続けてもよく、その時点で試料は、入口Gに適用されるものと同じでもよいし、同じでなくてもよい洗浄液と置き換えられてもよい。
【0034】
細胞が導管に入ると、細胞に移動する形質転換剤を含む、エレクトロポレーションに必要なまだ存在していない任意の成分と組み合わせられる。次いで、細胞は、エレクトロポレーションセクションCを介して流れ、ここで、細胞は、流体フローの方向に垂直な方向に配向した電場に曝される。
【0035】
エレクトロポレーション後、細胞は、導管Dがトランスフェクションループを形成するバルブKに流れる。バルブKおよびバルブLがループを閉じるように配置されている場合、細胞は、第二のマイクロ流体デバイス(E)上に直接流れるであろう。あるいは、トランスフェクションを完了するための追加の時間を提供するために、細胞がトランスフェクションループを介して流れるようにバルブを配置してもよい。デバイスE上になると、細胞は、バッファー、成長培地または細胞培養培地が入口ポートNを介してデバイスに供給されている間、出口OおよびPに向かって流れる。その結果、細胞は新しい培地に移動され、出口Pでデバイスを出る。エレクトロポレーション剤は、出口Oへ流れ、再利用されるか、または廃棄される。
【0036】
示されたシステムは、エレクトロポレーションのための細胞の所望の濃度をシステムを使用する人が容易に選択できるように自動化されることが期待される。この濃度に基づいて、細胞数または他のパラメータに応答してバルブを作動させるために、標準的な回路および電子機器が使用されてもよい。
【0037】
示されたシステムの代替設計および代替方法は、当技術分野の当業者には容易に明らかになるはずである。例えば、エレクトロポレーションバッファーおよびトランスフェクション剤は、細胞が第一のマイクロ流体デバイスを出た後、エレクトロポレーションの前まで導入されなくてもよい。T細胞を含有する試料は、比較的そのままのもの(crude)(例えば、血液、血液以外の生体液、アフェレーシス試料もしくは血液由来のその他の産物、成長培地または細胞培養培地)であってもよく、またはT細胞は、以前に精製ステップを受けていてもよい(例えば、T細胞に特異的に結合し、精製後に細胞を容易に放出させることができる抗体を有する市販の磁性ビーズを使用する)。T細胞の活性化は、エレクトロポレーションによる形質転換の成功を大幅に高めることが報告されている(例えば、Zhang, et al. or Aksoy, et al., doi: http://dx.doi.org/10.1101/466243, Nov. 8, 2018を参照)。したがって、T細胞は、エレクトロポレーションの前に少なくとも1日、好ましくは2-5日活性化され、活性化されたT細胞は、第一のマイクロ流体デバイスに適用され、処理全体を通して使用されることが好ましい。例えば、T細胞は、T細胞に特異的であり、かつ結合したときに当該細胞を活性化する抗体でコートされた磁性ビーズ(例えば、抗CD3/CD28マイクロビーズ)を用いて血液から分離されてもよい。次いで、細胞は、本明細書に記載のシステムを用いてエレクトロポレーションされる前に、1-5日間、刺激剤でインキュベートされてもよい。
【0038】
細胞の導管への再指向が起こる時点で、再循環は停止してもよいし、洗浄液は以前と同様に再びデバイスに流れてもよい。しかしながら、代替的に、細胞が導管に流れ始めた後、後の時点で再導入される洗浄液で再循環が1サイクル以上継続してもよい。
【0039】
最後に、再循環は、改善されたエレクトロポレーション効率および改善された一貫性につながるはずであるが、当該システムを使用して形質転換された細胞の製造には絶対的に不可欠というわけではない。したがって、出願人のシステムは、
図4のQとして示された再循環ループなしで、およびバルブtなしで運転できる。
【発明を実施するための形態】
【0040】
定義
アフェレーシス:本明細書で用いられる場合、この用語は、患者またはドナー由来の血液がそれの成分、例えば、血漿、白血球、および赤血球へ分離される手順を指す。より具体的な用語は、「血小板アフェレーシス」(血小板の分離を指す)および「白血球アフェレーシス」(白血球の分離を指す)である。この関連において、用語「分離」は、全血と比較して、特定の成分が濃縮されている産物の取得を指し、絶対的純粋が達成されていることを意味しない。
【0041】
CAR T細胞:用語「CAR」は、「キメラ抗原受容体」の頭字語である。したがって、「CAR T細胞」は、キメラ受容体を発現するように遺伝子操作されているT細胞である。
【0042】
CAR T細胞治療:この用語は、疾患がCAR T細胞で処置される任意の手順を指す。処置され得る疾患には、血液学的および固形腫瘍癌、自己免疫疾患、ならびに感染性疾患が挙げられる。
【0043】
担体:本明細書で用いられる場合、用語「担体」は、存在する化合物または細胞の一部または全部と直接的に、または間接的に(すなわち、1以上の中間の細胞、粒子、または化合物を通して)結合することを目的として調製物に加えられる、生物学的かまたは合成的かのいずれかの材料で作られた作用物質、例えば、ビーズまたは粒子を指す。担体は、DEAE-デキストラン、ガラス、ポリスチレンプラスチック、アクリルアミド、コラーゲン、およびアルギン酸塩を含む、様々な異なる材料から作製され得、典型的には、1~1000μmのサイズを有する。それらは、コーティングされている場合もされていない場合もあり、細胞の表面上の抗原または他の分子を認識する親和性物質(例えば、抗体、アクチベーター、ハプテン、アプタマー、粒子、または他の化合物)を含むように改変されている表面を有し得る。担体はまた、磁化され得、これは、精製の手段を提供し得る。
【0044】
「DLD分離を促進するように」結合する担体:この用語は、状況に依存して、細胞、タンパク質、または粒子がDLD中に挙動する仕方に影響する、担体、および担体を結合する方法を指す。具体的には、「DLD分離を促進するように結合すること」とは、a)その結合することが、特定の標的細胞型、タンパク質、または粒子に対する特異性を示さなければならず、かつb)結合していない細胞、タンパク質、または粒子と比べて、複合体のサイズの増加を提供する複合体を生じなければならないことを意味する。標的細胞との結合の場合、少なくとも2μm(あるいは、パーセンテージとして表現された場合、少なくとも20%、50%、100%、200%、500%、または1000%)の増加がなければならない。治療または他の用途が、標的細胞、タンパク質、または他の粒子が、それらの意図された用途を満たすために複合体から放出されることを必要とする場合、用語「DLD分離を促進するように」はまた、その複合体が、そのような放出を、例えば、化学的もしくは酵素的切断、化学的溶解、消化により、他の結合剤との競合により、または物理的剪断(例えばピペットを用いて、ずり応力を生じること)により可能にし、かつその解放された標的細胞、タンパク質、または他の粒子が、活性を維持しなければならない;例えば、複合体からの放出後の治療用細胞は、それらを治療的に有用にさせる生物学的活性をなお維持しなければならないことを必要とする。
【0045】
標的細胞:本明細書で用いられる場合、「標的細胞」は、本明細書に記載された様々な手順が必要とする細胞、または精製し、収集し、操作するなどのために設計される細胞である。その特定の細胞が何であるかは、その用語が用いられる文脈に依存する。例えば、手順の目的が特定の種類の幹細胞を単離することである場合には、その細胞は、その手順の標的細胞である。他の指示がない限り、本明細書で参照される細胞はすべて好ましくはヒト細胞である。
【0046】
単離する、精製する:他の指示がない限り、これらの用語は、本明細書で用いられる場合、同意語であり、望まれない材料に対しての所望の産物の濃縮を指す。その用語は必ずしも、その産物が完全に単離され、または完全に純粋であることを意味するわけではない。例えば、出発試料が、試料中細胞の2%を構成する標的細胞を有し、そして、手順が実施され、結果として、その標的細胞が、存在する細胞の60%である組成を生じたならば、その手順は、標的細胞を単離または精製することに成功しただろう。
【0047】
バンプ(bump)アレイ:用語「バンプアレイ」および「障害物アレイ」は、本明細書では同意語として用いられ、細胞または粒子を有する流体を通過させることができるフローチャネルに配置されている障害物の規則正しいアレイを記載する。
【0048】
決定論的横置換:本明細書で用いられる場合、用語「決定論的横置換」または「DLD」は、粒子が、アレイのパラメータの一部に関係したそれらのサイズに基づいて、決定論的に、アレイを通る経路において偏向されるプロセスを指す。このプロセスは、細胞を分離するため用いることができる。しかしながら、DLDがまた、細胞を濃縮するために、およびバッファー交換のために用いられ得ることを認識することは重要である。
【0049】
臨界サイズ:障害物アレイを通過する粒子の「臨界サイズ」は、流体の層流に従うことができる粒子のサイズ限界を記載する。臨界サイズより大きい粒子は、流体のフロー経路から「バンピング」され得、一方、臨界サイズ(または既定サイズ)より小さいサイズを有する粒子は、必ずしもそのように外されるとは限らない。
【0050】
流体フロー:DLDとの関連において本明細書で用いられる場合、用語「流体フロー」および「バルク流体フロー」は、障害物アレイに渡る全般的な方向における巨視的な動きを指す。これらの用語は、流体が全般的な方向で移動し続けるために流体が障害物の周りを動く、流体の流れの一時的変位を考慮しない。
【0051】
傾斜角ε:バンプアレイデバイスにおいて、傾斜角は、バルク流体フローの方向と、アレイにおける連続的(バルク流体フローの方向における)障害物の行の整列により定義される方向との間の角度である。
【0052】
アレイ方向:バンプアレイデバイスにおいて、「アレイ方向」は、アレイにおける連続的障害物の行の整列により定義される方向である。粒子は、間隙を通過し、かつ下流の障害物に遭遇した時、粒子の全体的な軌道が、バンプアレイのアレイ方向に従う(すなわち、バルク流体フローに対して傾斜角εで動く)場合には、バンプアレイにおいて「バンピング」されている。粒子は、それの全体的な軌道が、それらの状況下で、バルク流体フローの方向に従う場合には、バンピングされていない。
【0053】
発明の詳細な説明
本発明は、主に、特に治療的に活性な細胞の製造において、マイクロ流体分離および濃縮手順に組み込むことができるエレクトロポレーション方法に関する。下記の本文は、本明細書に開示された方法に関するガイダンス、ならびにそれらの方法を行うことに関与するデバイスの作製および使用に役立ち得る情報を提供する。
【0054】
I.エレクトロポレーションを含む方法
A.イントロダクション:
エレクトロポレーションバッファーの後処理の時間は、成功したエレクトロポレーションの方法で取得してもよい重要な変数である(例えば、生存率に影響を与えることによる)。DLDおよび他のマイクロ流体的手順は、細胞を迅速に処理し、バッファーを変更するために使用できる。この手順はまた、電流およびトランスフェクション剤への比較的均一な曝露を可能にする。血液を処理する際には、タンパク質の除去と環境のpHの調整に加えて、DLDデバルキングは、エレクトロポレーションに問題のある不要なRBCまたはその他の細胞の後処理を除去するというさらなる利点がある。これは、全血を直接エレクトロポレーションに処理するというアイデアを実行可能な概念にする。
【0055】
B.説明
本明細書に記載された方法は、細胞がマイクロ流体システムを介して流れているときに、細胞をエレクトロポレーションすることにより、細胞に物質(核酸、Cas9ガイドRNA複合体、ペプチド、タンパク質、または薬物を含む)を導入することを含む。
図4に示す例示的なシステムでは、細胞は、好ましくはDLDによって、サイズに基づく分離を行う第一のマイクロ流体デバイスに導入される。細胞は、核酸、タンパク質、または細胞に導入される他の何れかの物質を含むエレクトロポレーションバッファーに中にあるか、またはプロセス中に当該バッファーに移動され、電場に曝される。好ましい細胞は、白血球、特にT細胞、または幹細胞である。最も一般的には、これらの細胞は、血液、アフェレーシス試料、バッファー、成長培地または培養培地中にあるであろう。
【0056】
図4に示す例では、標的細胞は、第一のDLDデバイスに導入され、形質転換剤を含有するエレクトロポレーションバッファーに流れる。それらは、デバイスを流れるときに、より小さい細胞および粒子が行く出口とは別のデバイスの出口に向けられ、出口を通過した後、所望により、出力をリサイクル回路に向けることにより、濃度を増加させてもよい。出口を通過した直後、または濃縮した後のいずれかにおいて、標的細胞は、導管に沿って長手方向に延びる電場に曝される部位に流れる。この配置により、電場の強さと、細胞が曝露している間の持続時間の両方を制御することができる。
【0057】
それらがエレクトロポレーションされる導管の部分を通過した後、当該例における細胞は、サイズに基づいた分離(再び好ましくはDLDにより)のために第二のマイクロ流体デバイスに直接流れてもよいし、トランスフェクションのための追加の時間を提供するためにループを介してバルブによってチャネリングされ得る。第二のデバイスにロードされると、標的細胞は、エレクトロポレーションバッファーからpHが適切な洗浄バッファー、成長培地または細胞培養培地に移動される。細胞は、必要に応じて、デバイスから出てきた直後に培養してもよい。このシステムは、自動化されていてもよく、細胞、例えば、治療的に使用されるべきCAR T細胞または幹細胞、を処理するために使用されるより大きなシステムの一部であってもよい。
【0058】
関連文献には以下のものを含む:Zhao, et al.,「A Flow-Through Cell Electroporation Device for Rapidly and Efficiently Transfecting Massive Amounts of Cells in vitro and ex vivo,」 Nature/Scientific Reports, Scientific Reports 6:18469, DOI: 10.1038/srep18469 (2016); Yang, et al., 「Electroporation on microchips: the harmful effects of pH changes and scaling down」 Scientific Reports 5:17817 | DOI: 10.1038/srep17817 (2015);およびBao, et al., 「Microfluidic electroporation of tumor and blood cells: observation of nucleus expansion and implications on selective analysis and purging of circulating tumor cells,」 Integr Biol (Camb) 2:(2-3) (2010)。
【0059】
図4は、単に本発明の基本的な構成要素および概念を示しているに過ぎないことを認識することは重要である。設計および方法の両方において多くの変形形態が可能である。例えば、再循環ループにおける細胞濃度が所望の値に達し、バルブが切り替えられて細胞をエレクトロポレーションデバイスに指向し、レザバRから入口Gにバッファーを再導入するとき、エレクトロポレーションデバイスは、最初は出口Iからの高濃度の細胞を確認し、その後、再循環量がバッファーで置換されると、はるかに低い濃度を確認するであろう。このため、システムを操作する当事者は、ループにおける閾値濃度(エレクトロポレーションのための所望の濃度以下であるが、再びデバイス対試料を通過すると設定された濃度に達するであろうもの)に達するまで再循環し、その後、エレクトロポレータへの流出を指向しながら再循環することを望んでもよい。
【0060】
また、再循環量は、図のように固定されている場合もあれば、可変である場合もあり-本質的には、入口と出口が反対側にあるレザバであることに留意されるべきである。細胞の濃縮は、すべての細胞を固定容量に集めるか、または細胞をある容量に集め、その後のDLD経路でその容量をゆっくりと減少させることによって達成することができる。後者のアプローチは、実行されるDLD手順の性質上、やや望ましい場合があり得る。
【0061】
II.マイクロ流体プレートの設計
細胞、特に、アフェレーシスまたは白血球アフェレーシスにより調製された組成物における細胞は、流体が、デバイスの1つの端における1以上の入口から反対側の端の出口へ流れるチャネルを含有するマイクロ流体デバイスを用いてDLDを実施することにより単離されてもよい。サイズに基づいたマイクロ流体分離の基本原理、および細胞を分離するための障害物アレイの設計は、他の所(例えば全体として参照により本明細書に組み入れられているUS2014/0342375;US2016/0139012;7,318,902、およびUS 7,150,812参照。)で提供されており、また、下記のセクションで要約されている。
【0062】
DLDの間、細胞を含有する流体試料は、デバイスへ入口で導入され、デバイスを通って出口へ流れる流体と共に運ばれる。試料中の細胞がデバイスを横切る時、それらは、いくつもの行をなして位置づけられており、かつ、細胞が通過しなければならない間隙または細孔を形成するポストまたは他の障害物に遭遇する。障害物のそれぞれの連続する行は、フローチャネルにおいて流体フローの方向とは異なるアレイ方向を形成するように前の行に対してずらされる。障害物間の間隙の幅、障害物の形、および間隙を形成する障害物の配向と共に、これらの2つの方向により定義される「傾斜角」は、アレイについての「臨界サイズ」を決定することにおける主要な因子である。臨界サイズより大きいサイズを有する細胞は、バルク流体フローの方向よりむしろ、アレイ方向に動き、臨界サイズより小さいサイズを有する粒子は、バルク流体フローの方向に動く。血液または血液由来組成物に用いられるデバイスにおいて、結果として、白血球がアレイ方向にそらされることを生じ、一方、赤血球および血小板がバルク流体フローの方向を保ち続ける、アレイ特徴が選択され得る。白血球の選択された型を類似したサイズを有する他のものから分離するために、次に、DLD分離を促進するような方法で、例えば未完成の白血球より大きい複合体を形成することにより、その細胞と特異的に結合する担体が用いられ得る。複合体より小さいが、未完成の細胞より大きい臨界サイズを有するデバイスで分離を行うことが可能であり得る。
【0063】
デバイスに用いられる障害物は、円柱の形状をとり得、または三角形、四角形、長方形、菱形、台形、六角形、もしくは涙滴形であってもよい。加えて、隣接障害物は、間隙を定義する障害物の部分が、バルク流体フローの方向に延びる間隙の軸に関して対称または非対称のいずれかであるような幾何学的配置を有し得る。
【0064】
III.マイクロ流体デバイスの作製および操作
サイズに基づいて細胞を分離する能力があるマイクロ流体デバイスを作製および使用するための一般的な手順は、当技術分野において周知されている。そのようなデバイスには、US 5,837,115;US 7,150,812;US 6,685,841;US 7,318,902;7,472,794;およびUS 7,735,652(それらの全ては、全体として参照により本明細書に組み入れられている)に記載されたものを含む。本発明のためのデバイスの作製および使用に役立ち得るガイダンスを提供する他の参考文献には以下を含む:US 5,427,663;US 7,276,170;US 6,913,697;US 7,988,840;US 8,021,614;US 8,282,799;US8,304,230;US 8,579,117;US2006/0134599;US2007/0160503;US20050282293;US2006/0121624;US2005/0266433;US2007/0026381;US2007/0026414;US2007/0026417;US2007/0026415;US2007/0026413;US2007/0099207;US2007/0196820;US2007/0059680;US2007/0059718;US2007/005916;US2007/0059774;US2007/0059781;US2007/0059719;US2006/0223178;US2008/0124721;US2008/0090239;US2008/0113358;およびWO2012094642(それらの全ては全体として参照により本明細書に組み入れられている)。デバイスの作製および使用を記載する様々な参考文献のうちで、US7,150,812は、特に良いガイダンスを提供し、7,735,652は、血液中に見出される細胞を含む試料に実施される分離のためのマイクロ流体デバイス(この点において、US 2007/0160503も参照されたい)に関して、特に興味深い。
【0065】
デバイスは、マイクロスケールおよびナノスケールの流体ハンドリングデバイスが典型的に製作される材料のいずれかを用いて作製することができ、その材料には、シリコン、ガラス、プラスチック、およびハイブリッド材料が挙げられる。マイクロ流体製作に適した様々な熱可塑性材料が、利用可能であり、強化し、かつさらに特定の適用に合わせて調整することができる、機械的および化学的性質の幅広い選択を提供する。
【0066】
デバイスを作製するための技術には、レプリカ成形、PDMSを用いたソフトリソグラフィ、熱硬化性ポリエステル、エンボス加工、射出成形、レーザー切断、およびそれらの組合せが挙げられる。さらなる詳細は、「Disposable microfluidic devices: fabrication, function and application」、Fiorini, et al. (BioTechniques 38:429-446 (March 2005))(それは、全体として参照により本明細書に組み入れられている)に見出すことができる。書籍「Lab on a Chip Technology」Keith E.編 Herold and Avraham Rasooly, Caister Academic Press Norfolk UK (2009)は、製作の方法についてのもう一つのリソースであり、全体として参照により組み入れられている。
【0067】
熱可塑性プラスチックのオープンリール式処理などのハイスループットエンボス加工方法は、工業用マイクロ流体チップ製造についての魅力的な方法である。単一チップ熱エンボス加工の使用は、プロトタイプ製造段階中に高品質マイクロ流体デバイスを実現するための費用効果の高い技術であり得る。熱可塑性プラスチックであるポリメチルメタクリレート(PMMA)および/またはポリカーボネート(PC)を使用するマイクロスケールのフィーチャーの複製のための方法は、「Microfluidic device fabrication により thermoplastic hot-embossing」、Yang, et al. (Methods Mol. Biol. 949: 115-23 (2013))(それは、全体として参照により組み入れられている)に記載されている。
【0068】
フローチャネルは、組み立てられた時、それの内に配置された障害物を有する、閉キャビティ(好ましくは、流体を加え、または抜き取るための開口部を有するもの)を形成する2つ以上の部品を用いて構築することができる。障害物は、組み立てられてフローチャネルを形成する1つ以上の部品において製作することができ、またはそれらは、フローチャネルの境界を定義する2つ以上の部品の間に挟まれている挿入物の形をとって製作することができる。
【0069】
障害物は、フローチャネルに渡って、場合によっては、フローチャネルの1つの面からフローチャネルの反対側の面へ、延びる固形物であり得る。障害物が、その障害物の一端でフローチャネルの面の1つと一体になっている(またはそれの延長部である)場合、その障害物の他方の端は、フローチャネルの反対側の面に対して、塞がれ、または押しつけられ得る。小さい(好ましくは、意図された用途についての目的の任意の粒子を収容するには小さすぎる)空間が、その空間が、障害物の構造的安定性またはデバイスの関連したフロー性質に悪影響を及ぼさないという条件で、障害物の一端とフローチャネルの面との間で許容される。
【0070】
隣接した列における障害物は、ε(イプシロン)と名付けられた傾斜角により特徴づけられる角度だけ、互いから斜めであり得る。傾斜角が選択され得、1/ε(ラジアンで表示された場合)が整数であるように、列はお互いから相隔たることができ、障害物の列は周期的に繰り返す。単一の列における障害物もまた、同じ、または異なる傾斜角だけ、お互いから斜めであり得る。
【0071】
表面は、それらの性質、およびデバイスを製作するために使用されるポリマー材料を改変するためにコーティングすることができ、多くの方法で改変することができる。ある場合では、天然のポリマー中にあるか、または湿式化学またはプラズマ処理を用いて付加されるかのいずれかであるアミンまたはカルボン酸などの官能基が、タンパク質または他の分子を架橋するために用いられる。DNAを、表面アミン基を用いて、COCおよびPMMA基質へ付着させることができる。Pluronic(登録商標)などの界面活性剤は、Pluronic(登録商標)をPDMS製剤へ加えることにより、表面を親水性およびタンパク質忌避性にするために用いることができる。場合によっては、PMMAの層が、デバイス、例えば、マイクロ流体チップでスピンコーティングされ、およびPMMAが、それの接触角度を変化させるために、ヒドロキシプロピルセルロースで「ドープ」される。
【0072】
例えば溶解した細胞により放出された、または生物学的試料に見出される、細胞または化合物のチャネル壁への非特異的吸着を低下させるために、1以上の壁は、非接着性または反発性であるように化学的に改変されてもよい。壁は、ヒドロゲルを形成するために用いられるものなどの市販の汚れ防止試薬の薄膜コーティング(例えば、単層)でコーティングされ得る。チャネル壁を改変するために用いられ得る化学種の追加の例には、オリゴエチレングリコール、フッ素化ポリマー、オルガノシラン、チオール、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、ウシ血清アルブミン、ポリビニルアルコール、ムチン、ポリ-HEMA、メタクリル化PEG、およびアガロースが挙げられる。荷電ポリマーもまた、逆荷電種を反発させるために使用され得る。反発させるために用いられる化学種の型、およびチャネル壁への付着の方法は、反発させる種の性質、ならびに壁および付着させる種の性質に依存し得る。そのような表面改変技術は、当技術分野において周知されている。壁は、デバイスが組み立てられる前または後に機能性付与され得る。
【0073】
IV.CAR T細胞
CAR T細胞を作製および使用するための方法は、当技術分野において周知されている。手順は、例えば、US 9,629,877;US 9,328,156;US 8,906,682;US2017/0224789;US2017/0166866;US2017/0137515;US2016/0361360;US2016/0081314;US2015/0299317;およびUS2015/0024482(それぞれ、全体として参照により本明細書に組み入れられている)に記載されている。
【0074】
V.DLDを用いる分離プロセス
DLDデバイスは、細胞、細胞断片、細胞付加体、または核酸を精製するために用いることができる。これらのデバイスはまた、目的の細胞集団を複数の他の細胞から分離するために用いることができる。デバイスを用いる血液成分の分離および精製は、例えば、米国特許出願公開第2016/0139012号に見出すことができ、それの教示は、全体として参照により本明細書に組み入れられている。
【0075】
VI.技術的背景
いかなる特定の理論にも捕らわれずに、マイクロ流体のいくつかの技術的側面の一般的な議論は、この分野において行われる分離に影響する因子を理解することにおいて助けとなり得る。様々な微細加工ふるいマトリックスが、粒子を分離するために開示されている(Chou, et. al., Proc. Natl. Acad. Sci. 96:13762 (1999); Han, et al., Science 288:1026 (2000); Huang, et al., Nat. Biotechnol. 20:1048 (2002); Turner et al., Phys. Rev. Lett. 88(12):128103 (2002); Huang, et al., Phys. Rev. Lett. 89:178301 (2002); 米国特許第5,427,663号;米国特許第7,150,812号;米国特許第6,881,317号)。バンプアレイ(別名「障害物アレイ」)デバイスが記載されており、それらの基本的な動作は、例えば、米国特許第7,150,812号(全体として参照により本明細書に組み入れられている)に説明されている。バンプアレイは、本質的に、障害物のアレイ(一般的に、周期的に順序づけられたアレイ)を通過する粒子を分離する(segregate)ことにより、動作し、分離は、バルク流体フローの方向から、または印加電場の方向から斜めである「アレイ方向」に従う粒子間で起こる(U.S. 7,150,812)。
【0076】
A.バンプアレイ
いくつかのアレイにおいて、隣接障害物の幾何学的配置は、間隙を定義する障害物の部分が、バルク流体フローの方向に延びる間隙の軸に関して対称であるような配置である。そのような間隙を通る流体フローの速度または容量プロフィールは、間隙に渡って、およそ放物線であり、流体速度および流量は、間隙を定義する各障害物の表面においてゼロであり(すべり流なしの状態を仮定した場合)、間隙の中心点で最大値に達する。プロフィールが放物線である場合、間隙を定義する障害物の1つに隣接する所定の幅の流体層が、間隙を定義するその他の障害物に隣接した同じ幅の流体層と等しい割合の流体流量を含有し、間隙の通過中に「バンピング」される粒子の臨界サイズが、粒子がどの障害物の近くを移動するかに関わらず、等しいことを意味する。
【0077】
場合によっては、障害物アレイの粒子サイズによる分離性能は、障害物間の間隙へ流体フローを偏向させる隣接障害物の部分が、バルク流体フローの方向に延びる間隙の軸に関して対称ではないように、障害物を形作り、かつ配置することにより向上することができる。そのような、間隙へのフロー対称性の欠如は、間隙内の非対称流体フロープロフィールをもたらし得る。間隙の一方の側への流体フローの濃縮(すなわち、間隙を通る非対称流体フロープロフィールの結果)は、バルク流体フローの方向よりむしろ、アレイ方向に移動するように誘導される粒子の臨界サイズを低下させ得る。これは、フロープロフィールの非対称性が、間隙を通る選択された割合の流体流量を含有する1つの障害物に隣接したフロー層の幅と、同じ割合の流体流量を含有し、かつ間隙を定義する他の障害物に隣接するフロー層の幅との差を引き起こすからである。障害物に隣接した流体層の異なる幅が、2つの異なる臨界粒子サイズを示す間隙を定義する。間隙を横切る粒子は、それが運ばれる流体層の臨界サイズをそれが超える場合には、バンピングされ得る(すなわち、バルク流体フロー方向よりむしろ、アレイ方向に移動し得る)。したがって、非対称フロープロフィールを有する間隙を横切る粒子が、その粒子が、1つの障害物に隣接した流体層で移動する場合には、バンピングされるが、それが間隙を定義する他の障害物に隣接した流体層で移動する場合には、バンピングされないことが可能である。
【0078】
別の態様において、間隙を定義する障害物のエッジの丸みを減少させることは、障害物アレイの粒子サイズによる分離性能を向上させ得る。例として、とがった頂点がある三角形の横断面を有する障害物のアレイは、丸みのある頂点を有する同一のサイズおよび同一の間隔の三角形障害物のアレイが示すより低い臨界粒子サイズを示し得る。
【0079】
したがって、障害物アレイにおいて間隙を定義する障害物のエッジをとがらせることにより、バルク流体フローの影響下でアレイ方向に偏向した粒子の臨界サイズは、障害物のサイズを必ずしも低下させなくても、減少させることができる。逆に、よりとがったエッジを有する障害物は、よりとがりが少ないエッジを有する同一サイズの障害物より、より離れた間隔を置くことができるが、それでもなお、よりとがりが少ないエッジを有する障害物と等価の粒子分離性質を生じ得る。
【0080】
B.分画範囲
マイクロ流体デバイスにおいてサイズにより分離される物体には、細胞、生体分子、無機ビーズ、および他の物体が挙げられる。分画される典型的なサイズは、100ナノメートルから50マイクロメートルまでの範囲である。しかしながら、より大きい、およびより小さい粒子もまた、分画され得る場合もあり得る。
【0081】
C.容量
デザインに依存して、デバイス、またはデバイスの組合せは、試料の約10μlから少なくとも500μlの間、試料の約500μlから約40mLの間、試料の約500μlから約20mLの間、試料の約20mLから約200mLの間、試料の約40mLから約200mLの間、または少なくとも試料の200mLを処理するために用いられ得る。
【0082】
D.チャネル
デバイスは、1以上の入口および1以上の出口を有する1以上のチャネルを含み得る。入口は、試料または粗(すなわち、非精製)流体組成物用に、バッファー用に、または試薬を導入するために、用いられ得る。出口は、産物を収集するために用いられ得、または廃棄物用の出口として用いられ得る。チャネルは、幅が約0.5~100mm、長さが約2~200mmであり得るが、異なる幅および長さもまた可能である。深さは、1~1000μmであり得、1個から100個までの範囲、またはそれ以上のチャネルが存在し得る。容量は、数μlから何mlまでもの非常に幅広い範囲に渡って変動し得、デバイスは、障害物の異なる立体配置での複数のゾーン(ステージまたはセクション)を有し得る。
【0083】
E.積み重ね可能なチップ
デバイスは、複数の積み重ね可能なチップを含み得る。デバイスは、約1~50個のチップを含み得る。場合によっては、デバイスは、直列に、または並列に、または両方で置かれた複数のチップを有し得る。
【0084】
本明細書に引用された全ての参考文献は、参照により完全に組み入れられている。今、本発明を完全に記載したが、本発明が、本発明またはその任意の実施形態の精神または範囲に影響することなく、条件、パラメータなどの幅広くかつ等価の範囲内で実施され得ることは当業者により理解されているだろう。