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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】苔の種紙
(51)【国際特許分類】
   A01G 22/30 20180101AFI20240712BHJP
   A01G 24/23 20180101ALI20240712BHJP
   A01G 24/28 20180101ALI20240712BHJP
   A01G 24/44 20180101ALI20240712BHJP
【FI】
A01G22/30
A01G24/23
A01G24/28
A01G24/44
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022025431
(22)【出願日】2022-02-22
(65)【公開番号】P2023122014
(43)【公開日】2023-09-01
【審査請求日】2023-11-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】722001871
【氏名又は名称】石橋 愛里
(72)【発明者】
【氏名】石橋愛里
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-165518(JP,A)
【文献】国際公開第2005/122748(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 22/30
A01G 24/23
A01G 24/28
A01G 24/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
苔と和紙原料と土を弱酸性にするピートモスを漉き込んで板状に形成したことを特徴とする苔の種紙。
【請求項2】
請求項1記載の苔の種紙において、和紙原料とピートモスに対する苔の重量比を50%以上82%以下とすることを特徴とする苔の種紙。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の苔の種紙において、苔はエゾスナゴケ、ハイゴケ、フロウソウの少なくとも1つを含むことを特徴とする苔の種紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蘚苔類を紙に漉き込んで繁殖させるための苔の種紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来この種の苔の種紙は特許文献1に記載されているように、織布や不織布といった繊維体の上に苔の生育部分(配偶体、胞子、無性芽といった生育する部分、以下、単に苔という)を植え付け、苔の上をさらに繊維体で覆ってニードルパンチで固定するようになっていた。
【0003】
また、特許文献2によれば、この種の苔の種紙は紙の主体をなすパルプの中に苔が保持され、パルプの一部または全部が古紙を溶解した古紙パルプから成り、前記パルプ内に古着等の布を破砕ないし粉砕した短い繊維片または短い糸状物が所定量混入されるようになっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第2002-171830号公報
【文献】特許第3523863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されている蘚苔類植生シートおよびその製造方法は、織布や不織布といった繊維体の上に苔の生育部分(配偶体、胞子、無性芽といった生育する部分、以下、単に苔という)を植え付け、苔の上をさらに繊維体で覆ってニードルパンチで固定するようになっていたので、ニードルパンチの打ち込む針が苔の再生可能な部分を破壊し、その後の苔の育成に悪影響を与えるという欠点がある。苔の種紙をロール状に巻き取る場合、ロール状の芯近傍の苔が蒸れ、カビの発生が発生したりすることにより苔が上手く育成できないという課題があった。
【0006】
また、特許文献2に記載されている苔育成シートは紙の主体をなすパルプの中に苔が保持され、パルプの一部または全部が古紙を溶解した古紙パルプから成り、前記パルプ内に古着等の布を破砕ないし粉砕した短い繊維片または短い糸状物が所定量混入されるようになっていたので、古紙を苔育成に適した状態にするには多大な労力と費用が掛かるという課題がある。例えば古紙には印刷インクなどが含まれており、これは苔の育成の妨げとなる。古紙からインクを取り除くためには、まず古紙を溶解し、苛性ソーダや脱墨剤と温水を使用する。また古紙にはゴミも一緒に含まれるためにゴミを取り除く工程も必要である。更に特許文献2に記載されている苔の種紙は古紙だけでなく、古着も使用しているが、古着の素材は天然繊維、化学繊維などその素材の性質も異なるので、これらを一緒に混合して苔の種紙を製造すれば、苔の育成にムラが生じ、均一な苔が育たないという課題がある。また同じ天然繊維に分類されても綿や麻ではその特性が異なる。例えば麻は速乾性を有し、苔の育成に適しているとは言えない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の請求項1記載の苔の種紙は、苔と和紙原料とピートモスを漉き込んで板状に形成したことを特徴とするというようになっている。
【0008】
また、本発明の請求項2記載の苔の種紙は、請求項1記載の苔の種紙において、和紙原料とピートモスに対する苔の重量比を50%以上82%以下とすることを特徴とするようになっている。
【0009】
更に本発明の請求項3記載の苔の種紙は請求項1および請求項2記載の苔の種紙において、苔はエゾスナゴケ「Racomitriumjaponism」、ハイゴケ「Hypnum plumarforme」、フロウソウ「Climmacium drndroides」の少なくとも1つを含むことを特徴とするようになっている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1記載の苔の種紙は、苔と和紙原料とピートモスを漉き込んで板状に形成したことを特徴とするというようになっているので、板状に形成したシート状の中に和紙の繊維体で絡ませることで苔を傷つけることなく固定できる。また保湿性と吸水性の両方を兼ね備えた和紙には季節ごとの環境変化に対応できる。更にピートモスには保水性や種紙を弱酸性にする効果があり苔の発芽や育成が促進され良く育つという利点がある。
【0011】
また本発明の請求項2記載の苔の種紙は、請求項1記載の苔の種紙において、和紙原料とピートモスに対する苔の重量比を50%以上82%以下とすることを特徴とするようになっているのでシート状で片手に持っても曲がったり折れたりせずに取り扱いしやすい。また漉き込んで乾燥させている苔の蒸れもなく、密封保存すれば長期保存が可能であるという利点がある。
【0012】
更に本発明の請求項3記載の苔の種紙は請求項1および請求項2記載の苔の種紙において、苔はエゾスナゴケ、ハイゴケ、フロウソウの少なくとも1つを含むことを特徴とするようになっているので
漉き込んで板状に形成された苔の種紙を平らにならした用土の上にそのまま置き、あとは十分な水のみを与えるだけで発芽し時間の経過とともに均一な苔が見られる。また和紙原料を使う事で苔に必要な水分が保水されるため苔の乾燥も防げる。苔には仮根という根のようなものがある。その仮根は地面を支える役割である。通常播種の場合、活着を促進するために播種の後にヘラなどで押さえつける必要があったが苔の種紙は和紙の繊維で苔が固定しているため、その作業をしなくてもすむ。苔の種紙は、製造工程で異物除去および洗浄された苔(※水洗いのみ)を用いているため雑草などは生えにくいという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】は本発明の第一実施形態の苔の種紙の拡大断面図である
図2】は本発明の第一実施形態の苔の種紙端部の拡大斜視図である
図3】は本発明の第一実施形態の苔の種紙の拡大平面図である。
図4】は苔の種紙の(和紙材料+ピートモス)の重量に対する苔の含有重量比による苔の育成評価と和紙の評価を示す図である。
図5】は苔の種紙にピートモスを加えた時のピートモス量と苔の種紙のPH値を示す図である。
図6】は図5に苔の育成良好ないろいろな地点の用土のPH値を追加して示した図である。
図7】は従来の播種方法で約1年栽培したエゾスナゴケの写真。
図8】は本発明第一実施例の苔の種紙で苔としてエゾスナゴケを用いたときの写真。
図9】は本発明第一実施例の苔の種紙で苔としてエゾスナゴケを用いたときの発芽の様子を示す写真。
図10】本発明第一実施例の苔の種紙で苔としてエゾスナゴケを用いたときの育成開始から2週間後の写真。
図11】本発明第一実施例の苔の種紙で苔としてエゾスナゴケを用いたときの育成開始から4カ月後の写真。
図12】本発明の第一実施例の苔の種紙を製造するために和紙を水に溶解させた写真。
図13】本発明の第一実施例の苔の種紙を製造するために水に溶解した和紙に苔およびピートモスを混合した写真。
図14】本発明の第一実施例の苔の種紙を製造するために簾を敷いた漉き枠に和紙とピートモスおよび苔を混合したものを流し込んだ写真。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を適用した実施形態を、図面に基づいて詳述する。なお、各図面において、同じ符号を付した部材等は、同一又は類似の構成のものであり、これらについての重複説明は適宜省略するものとする。
【0015】
図1図14を用いて本発明を適用した苔の種紙の第一実施形態について説明する。図1は本発明を適用した苔の種紙の第一実施形態の苔の種紙の拡大断面図、図2は本発明の第一実施形態の苔の種紙端部の拡大斜視図、図3は本発明の第一実施形態の苔の種紙の拡大平面図で、図4は苔の種紙の対(和紙材料+ピートモス)の重量に対する苔の含有重量比による苔の育成評価と和紙の評価を示す図である。
【0016】
図1、2および3に示すように本発明を適用した苔の種紙は苔1と和紙2およびピートモス3から成る。本苔の種紙は苔と和紙原料とピートモスを漉き込んで板状に形成することにより得られる。
【0017】
苔は約5億年前に最初に陸上に進出した植物の子孫と考えられており、初期陸上植物とも呼ばれている。そして日本に限らず、世界中のどこでも存在する植物である。世界に2万種、日本でも1800種の苔の種類(2021年現在)が知られており、形態も多様である。苔は太古の昔からほとんど姿をかえておらず陸上植物で最も単純な体のつくりをしている。しかし苔を栽培し育てるという技術は、他の植物から比べると格段に遅れている。苔を増殖するどころか採取した苔を育てることさえ難しく、その育成方法はいまだ確立されていない。
日本では古来、苔庭という文化があり、苔を育てる伝統的な技術が存在していたと思われる。明治以降、日本の庭園は芝生にかわり、苔を扱う仕事が少なくなり、それによって苔を育てる伝統的な技術が失われてしまったのではないかと考えられている。
【0018】
苔の生育には自然界と密接な関係を持ち、様々な影響を受ける。苔にはそれぞれの種類に独自の生態があるが環境要素が苔の生育にどのような影響を与えるのか、苔と自然環境との相関関係についても学術的な研究はほとんど進んでいないのが現状である。良質な苔を育てるためには、現在でも試行錯誤が続けられているが、本発明の苔の種紙を使用することにより、より均一に苔の育成可能なことが判明した。
【0019】
次に和紙原料の説明をする。和紙原料は、楮(こうぞ)、みつまた、雁皮(がんぴ)といった三大材料が古くから使われてきている。繊維が取り出しやすい、繊維がたくさん取れる、これらの植物でできた紙は使いやすく美しい特徴がある。
【0020】
楮はクワ科[Broussonetia kazinoki × B. papyrifera]のヒメコウゾとカジノキの交配種だといわれており、成長が早く、栽培しやすいため、古くから和紙原料に使われている。和紙原料の中で最も多く使われていることから、和紙といえば楮の紙を思い浮かべるほどポピュラーな原料で、繊維が長く強靭である。みつまたはジンチョウゲ科[Edgeworthia chrysantha]で、江戸時代頃から和紙原料に使われるようになった。 みつまたの繊維は楮に比べ光沢がある。雁皮はジンチョウゲ科[Diplomorpha sikokiana]で、奈良時代頃から和紙の原料として使われ始め、繊維は緻密で光沢があり粘り気を多く含んでいるが、栽培できないため山野に自生するものを集めなければならず、自生地域も限られることから生産量は少ない。
【0021】
本発明の苔の種紙ではこのような古くから使われている和紙原料を使用し、苔を混ぜて漉き込んでいるため、苔の生長とともに和紙原料の方は自然に溶解され、暫くは残渣状態になっており、この和紙の残渣が苔の初期育成時に必要とされる苔の固定と活着を促進させる役割があり、和紙材料の残渣は苔が固定活着するに十分の時間経過後溶解消失するので、その後苔の生長を害さない。加えて苔は根を持たない植物だが、苔の種紙に漉き込んだ苔が土台となり、その苔の配偶体から新芽が発生し生長していくにつれ、手で持ち上げてもほどけることがなく、苔の種紙の形成状のままの形になっているという利点もある。
【0022】
苔の種紙の製造は一般的な栽培によって得られた苔に付着する培土やゴミ、異物等を除去し、その後水洗い乾燥する。苔の種類によっては、ほぐす作業も必要となる。水に和紙原料(2)を入れ、ミキサーなどで溶解させ、図12にしめすような状態にする。溶解した和紙原料(2)と乾燥させた苔(1)、ピートモス(3)をミキサーで混ぜ合わせ、簾を敷いた漉き枠を水盤に入れ、乾燥させた苔(1),和紙原料(2),ピートモス(3)を混ぜ合わせたものを漉き枠に流し込み均一になるよう広げ、図4の状態にしていく。次に漉き枠を持ち上げ、水を切りながら漉き取り、漉き枠を持ち上げ外し簾も外し、天日干し又は乾燥装置で乾燥させて、苔の種紙を得る。なお、漉き枠に敷いた簾は、形状を保つための使用である。
【0023】
出願人が和名:エゾスナゴケ「学名:RacomitriumJaponism」を用い約5か月間行った観察苔の結果を以下に説明する。苔の種紙を日当たりの良い土上または芝生上に生育する。苔の種紙を使わずにエゾスナゴケを従来の播苔図7で育成しようとすると、どうしても用土と苔の間に隙間が出来てしまう。苔は仮根で地面と活着するため、隙間が発生すると活着出来ずに生長の妨げとなるのを防ぐため、ヘラなどで苔を押さえる作業があるが、苔を押さえた直後は苔と地面が密着出来ているが時間が経つと自然と苔と地面の間に隙間ができてしまう。それを解決するために泥を苔にまんべんなくかけたりすると苔は葉全体で光合成を行なうため、苔の葉に泥がかかった部分は光合成が妨げられ、泥のかかった苔の部分はいずれ枯れてなくなるため、従来の播苔では苔の育成のばらつきが見られるという欠点がある。一方、本発明の苔の種紙を用いると苔の育成がばらけてしまう難点がなくなるという結果を得たので以下に説明する。
【0024】
本発明の第一実施例の苔の種紙で苔としてエゾスナゴケを用いた時の育成観察の詳細を以下に記述する。苔を栽培する置き場所は東南方向の屋外で、直径10cmの丸鉢に赤玉土を平らに敷き、その上に乾燥した苔の種紙を鉢の形にカットし置き、水をかけそのまま放置したところ、2週間後から一つ二つと緑色の小さな苔の発芽が見られた(図10)。このとき育成開始後約1カ月頃から表面にあった和紙は完全には溶解されず表面上に白く残渣が残っている状態であった。漉き込んでいた苔が和紙の溶解とともに表面にポツポツと小さな発芽が見られる。約2カ月目頃は、漉き込んだ苔の配偶体から新芽の芽数295本が観察できた。約3カ月目頃の芽数は331本と増えている。和紙の残渣は少し残っている状態である。約4カ月頃の芽数は445本と増えていることを観察できた(図10)。大きさ高さも均一な新芽となっている。このとき和紙の残渣は、消えつつあるがまだ残っている状態である。更に育成が進行していくと大体8カ月~10カ月頃には苔の均一な繁殖がなされている。
【0025】
以上本発明第一実施例の苔の種紙の苔としてエゾスナゴケを用いた時の育成の時系列状況を詳細に説明したが、本出願人は、いろいろな苔種で検証した結果、本発明の第一実施例の苔の種紙において、使用する苔はエゾスナゴケ、ハイゴケ、フロウソウの少なくとも1つを含むことで、水のみを与えることで、前記3種類の苔を含まない苔の種紙の時よりより均一な苔の発芽、栽培ができるという効果を見出した。
【0026】
苔の発芽は、苔の配偶体が地面などに活着しなければならない。活着できないと風などで飛ばされてしまい、苔の生長にかかせない光合成が出来なくなり繁殖できなくなる。地面などに活着し光合成ができるようになれば、苔の個体の再生ができ、繁殖に至るということである。
和紙の長い繊維は苔にとって育成に適しており、絡み合う繊維を利用して活着させている。また和紙の繊維の隙間から光も通すため、苔の光合成が出来、発育にとても適している。また和紙を漉くときに使用するネリは水に濡らすと溶けるが、和紙の繊維体はが残っている状態である。和紙の繊維は自然素材で溶解されるまでには時間がかかるため、苔の発育には和紙原料が欠かせないことである。
【0027】
次に和紙材料とピートモスを加えた量と苔の量を重量比で変化させて、その和紙としての評価(漉きやすさや出来上がりの状態評価で出願人による官能評価値)と苔の育成評価(苔の育成状況の評価値)を図4に示す。図4に示すように、苔の対(和紙材料+ピートモス)に対する重量比は50%以上で82%以下の範囲で、作業性もよく、苔の育成も良好な苔の種紙が生成できることがわかった。
苔の重量比が50%以下だと隙間が多くなり苔の均一な新芽が出てこない。発芽につれバラツキな状態になってしまう。82%以上になると苔同士の重なりが厚くなってしまい、厚くなっている場所では光合成に支障が出てくる。それにより新芽に支障が出てくる。最適な苔の重量比を行なわなければ均一な苔の新芽育成が出来ないと判明した。
【0028】
和紙原料とピートモスに対する苔の重量比を50%以上82%以下として製造した苔の種紙を用いると苔の新芽から8カ月~12カ月頃苔が偏ることなく育成できることを確認した。
【0029】
和紙約20g。ピートモス10gに対して、苔一種類の重さ下限20g~上限40gで充分に成型できる。しかし例外もある。和紙30gとピートモス10gに対してウマスギゴケの苔の重さが1
40gとかなり他の苔より差があるがこのやり方で成型するには問題なかった。苔の種紙の成型した和紙の繊維は自然素材で溶解されるまでには時間がかかるため、苔の発育には欠かせない。苔の発育と和紙の溶解の関係は、自然の効果を表すもので苔の生態に適しているとされているため、図4に示した最適領は8カ月~12カ月となる。
【0030】
ピートモスの効果を確認するためPH試験薬を用いて実験を行なった。水に和紙を溶解させただけの時のPH値から、その後苔を混ぜた状態のPH値とピートモスを2.5ccずつ加えていったときのPH値を計測する実験を行なった。
<1>水に和紙を溶解しただけのときのPH値は、7.6のアルカリ性、<2><1>に苔を混ぜたPH値は、7.2の中性であった。<2>にピートモスを2.5ccずつ加えて計測したPH値を図5に示す。ピートモス自体が酸性を示すので、ピートモスを増やせばPH値が小さくより酸性になることがわかる。
【0031】
次に苔の育成が良いとされるPH値は、文献等には記載されていないがほとんどの植物が好むPH値は5.5~6.5とされている。
しかし苔は他の植物とは生態などが異なっているため、植物が好むPH値はあくまでも参考としている。苔が繁殖している場所の苔と用土を入手しPH値を測る調査を行なった。場所は、苔鉢や盆栽に生えている苔、山林周辺の壁面の苔、山道と壁面の苔で採取した苔のPH値を測った。苔鉢や盆栽の苔のPH値は、6.6~6.4の間、山林周辺のPH値は、6.8~6.6、山道と壁面のPH値は、6.8~6.6であり、以上まとめるとPHが6.4~6.8の範囲であれば苔の育成が良好であることがわかった。
【0032】
苔の育成良好なPH値を図5にあてはめ、最適なピートモス量を求めた結果を図6に示す。苔の育成に最適なPH値であるPH6.4~6.8に苔の種紙を調整するのは、図6に示すようにピートモスを12.5cc~60ccとすればよく、この条件で作成した苔の種紙で苔が良く育成できることが確認できた。
【0033】
また苔の種紙は、乾燥しているため密封処理をすれば長期保管できる。長期保管できるという事は、個々にあった状況や環境を選べるという事である。都合に合わせた栽培育成が可能となる。
【符号の説明】
【0034】
1 苔 エゾスナゴケ
2 和紙
3 ピートモス
4 苗箱の用土
5 エゾスナゴケの新芽
6 エゾスナゴケを漉き込んだ苔の配偶体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14