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特許7519587樹脂組成物、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線板
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  • 特許-樹脂組成物、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】樹脂組成物、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線板
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/08 20060101AFI20240712BHJP
   C08L 71/12 20060101ALI20240712BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20240712BHJP
   C08K 5/3492 20060101ALI20240712BHJP
   C08F 283/10 20060101ALI20240712BHJP
   C08F 287/00 20060101ALI20240712BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20240712BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20240712BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20240712BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20240712BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240712BHJP
【FI】
C08L63/08
C08L71/12
C08L53/00
C08K5/3492
C08F283/10
C08F287/00
C08F2/44 C
C08F290/06
C08J5/24 CEQ
C08J5/24 CET
C08J5/24 CEZ
B32B15/08 U
H05K1/03 610L
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021533093
(86)(22)【出願日】2020-07-16
(86)【国際出願番号】 JP2020027599
(87)【国際公開番号】W WO2021010431
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2019132004
(32)【優先日】2019-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100174827
【弁理士】
【氏名又は名称】治下 正志
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 宏典
(72)【発明者】
【氏名】王 誼群
(72)【発明者】
【氏名】井上 博晴
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-105061(JP,A)
【文献】特開2005-105062(JP,A)
【文献】特開2017-165828(JP,A)
【文献】国際公開第2019/065940(WO,A1)
【文献】特開2010-209142(JP,A)
【文献】特開2005-146008(JP,A)
【文献】特開2004-156005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 63/08
C08L 71/12
C08L 53/00
C08K 5/3492
C08F 283/10
C08F 287/00
C08F 2/44
C08F 290/06
C08J 5/24
B32B 15/08
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中にエポキシ基を有するポリブタジエン化合物と、
下記式(1)で表される基及び下記式(2)で表される基の少なくとも一方を分子中に有するポリフェニレンエーテル化合物と、
スチレン系ブロック共重合体と、
前記ポリフェニレンエーテル化合物と反応する硬化剤とを含有し、
前記硬化剤が、分子中に2個以上のアリル基を有するアリルイソシアヌレート化合物を含む樹脂組成物。
【化1】

(式(1)中、pは、0~10を示し、Zは、アリーレン基を示し、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を示す。)
【化2】

(式(2)中、Rは、水素原子又はアルキル基を示す。)
【請求項2】
前記ポリブタジエン化合物の含有量は、前記ポリブタジエン化合物、前記ポリフェニレンエーテル化合物、及び前記硬化剤の合計100質量部に対して、5~40質量部である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリブタジエン化合物の含有量は、前記ポリブタジエン化合物、前記ポリフェニレンエーテル化合物、前記スチレン系ブロック共重合体、及び前記硬化剤の合計100質量部に対して、3~20質量部である請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリブタジエン化合物は、オキシラン酸素の濃度が1~10質量%である請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記スチレン系ブロック共重合体が、メチルスチレン(エチレン/ブチレン)メチルスチレン共重合体、メチルスチレン(エチレン-エチレン/プロピレン)メチルスチレン共重合体、スチレンイソプレン共重合体、スチレンイソプレンスチレン共重合体、スチレン(エチレン/ブチレン)スチレン共重合体、スチレン(エチレン-エチレン/プロピレン)スチレン共重合体、スチレンブタジエンスチレン共重合体、スチレン(ブタジエン/ブチレン)スチレン共重合体、スチレンイソブチレンスチレン共重合体、及びこれらの水添物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリフェニレンエーテル化合物が、前記式(2)で表される基を分子中に有するポリフェニレンエーテル化合物を含む請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物と、繊維質基材とを備えるプリプレグ。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層と、支持フィルムとを備える樹脂付きフィルム。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層と、金属箔とを備える樹脂付き金属箔。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物の硬化物又は請求項に記載のプリプレグの硬化物を含む絶縁層と、金属箔とを備える金属張積層板。
【請求項11】
請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物の硬化物又は請求項に記載のプリプレグの硬化物を含む絶縁層と、配線とを備える配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器は、情報処理量の増大に伴い、搭載される半導体デバイスの高集積化、配線の高密度化、及び多層化等の実装技術が進展している。また、各種電子機器に用いられる配線板としては、例えば、車載用途におけるミリ波レーダ基板等の、高周波対応の配線板であることが求められる。各種電子機器において用いられる配線板の絶縁層を構成するための基板材料には、信号の伝送速度を高め、信号伝送時の損失を低減させるために、誘電率及び誘電正接が低いことが求められる。
【0003】
ポリフェニレンエーテルは、誘電率や誘電正接が低い等の低誘電特性に優れており、MHz帯からGHz帯という高周波数帯(高周波領域)においても低誘電率や低誘電正接等の低誘電特性が優れていることが知られている。このため、ポリフェニレンエーテルは、例えば、高周波用成形材料として用いられることが検討されている。より具体的には、高周波数帯を利用する電子機器に備えられる配線板の絶縁層を構成するための基板材料等に好ましく用いられる。
【0004】
配線板の絶縁層を構成するための基板材料には、絶縁層の耐衝撃性等を向上させるために、水添スチレンブタジエンスチレン共重合体等のエラストマーを含有する樹脂組成物が用いられることがある。このようなエラストマーを含有する樹脂組成物としては、例えば、特許文献1に記載の樹脂組成物等が挙げられる。
【0005】
特許文献1には、ポリフェニレンエーテル骨格を有する所定のビニル化合物と、スチレン系熱可塑性エラストマー等の、重量平均分子量が10000以上の高分子量体を必須成分として含有する硬化性樹脂組成物が記載されている。特許文献1によれば、硬化性フィルムにした際にタック性がなく、低誘電率、低誘電正接で、耐熱性に優れた硬化物を与えることができる旨が開示されている。
【0006】
配線板等を製造する際に用いられる金属張積層板及び樹脂付き金属箔は、絶縁層だけではなく、前記絶縁層上に金属箔を備える。また、配線板も、絶縁層だけではなく、前記絶縁層上に、配線が備えられる。そして、前記配線としては、前記金属張積層板等に備えられる金属箔由来の配線等が挙げられる。
【0007】
配線板の薄型化に伴い、配線の微細化が要求され、配線の厚みが薄くなる。そのため、前記配線板には、前記絶縁層から前記配線の剥離等が発生しないことが一層求められる。このため、配線板には、配線と絶縁層との接着性が高いことが求められ、金属張積層板及び樹脂付き金属箔には、金属箔と絶縁層との接着性が高いことが求められる。よって、配線板の絶縁層を構成するための基板材料には、金属箔との接着性の高い硬化物が得られることが求められる。
【0008】
さらに、配線の厚みが薄くなることに伴い、配線板のインピーダンス整合を行うため、また、配線の微細化に伴う抵抗増大による損失を抑制するために、配線板に備えられる絶縁層には低誘電率がより求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2006-83364号公報
【発明の概要】
【0010】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされた発明であって、誘電特性が低く、かつ、金属箔との接着性の高い硬化物が得られる樹脂組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、前記樹脂組成物を用いて得られる、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線板を提供することを目的とする。
【0011】
本発明の一局面は、分子中にエポキシ基を有するポリブタジエン化合物と、下記式(1)で表される基及び下記式(2)で表される基の少なくとも一方を分子中に有するポリフェニレンエーテル化合物と、スチレン系ブロック共重合体と、硬化剤とを含有することを特徴とする樹脂組成物である。
【0012】
【化1】
式(1)中、pは、0~10を示し、Zは、アリーレン基を示し、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を示す。
【0013】
【化2】
式(2)中、Rは、水素原子又はアルキル基を示す。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の実施形態に係るプリプレグの一例を示す概略断面図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る金属張積層板の一例を示す概略断面図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係る配線板の一例を示す概略断面図である。
図4図4は、本発明の実施形態に係る樹脂付き金属箔の一例を示す概略断面図である。
図5図5は、本発明の実施形態に係る樹脂付きフィルムの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者等は、種々検討した結果、以下の本発明により、上記目的は達成されることを見出した。
【0016】
以下、本発明に係る実施形態について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0017】
[樹脂組成物]
本実施形態に係る樹脂組成物は、分子中にエポキシ基を有するポリブタジエン化合物と、下記式(1)で表される基及び下記式(2)で表される基の少なくとも一方を分子中に有するポリフェニレンエーテル化合物と、スチレン系ブロック共重合体と、硬化剤とを含有する。
【0018】
【化3】
式(1)中、pは、0~10を示し、Zは、アリーレン基を示し、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を示す。
【0019】
【化4】
式(2)中、Rは、水素原子又はアルキル基を示す。
【0020】
まず、前記樹脂組成物は、前記ポリフェニレンエーテル化合物を、前記硬化剤とともに硬化させることで、前記ポリブタジエン化合物及び前記スチレン系ブロック共重合体が含有されていても、ポリフェニレンエーテルの有する優れた低誘電特性を維持した硬化物が得られると考えられる。また、前記樹脂組成物は、前記スチレン系ブロック共重合体とともに、分子中にエポキシ基を有するポリブタジエン化合物も含有するので、金属箔との接着性の高い硬化物が得られる。
【0021】
以上のことから、前記樹脂組成物は、誘電特性が低く、かつ、金属箔との接着性の高い硬化物が得られる樹脂組成物である。また、前記樹脂組成物を用いて、例えば、金属張積層板を製造すると、誘電特性が低く、かつ、金属箔との接着性の高い絶縁層を備える金属張積層板が得られる。また、配線板を製造すると、誘電特性が低く、かつ、配線との接着性の高い絶縁層を備える配線板が得られる。このような配線板は、前記金属箔に対して、微細な回路加工、例えば、セミアディティブ法(SAP:Semi Additive Process)及びモディファイドセミアディティブ法(MSAP:Modified Semi Additive Process)等を施して得られた場合であっても、金属箔由来の配線等の配線が、絶縁層から剥離しにくい。一般的に、微細な回路加工を施す場合、低粗度かつ薄い金属箔を用いる。このような場合、金属箔由来の配線等の配線が、絶縁層から剥離しやすい傾向があるが、本実施形態に係る樹脂組成物を用いた場合は、このような場合であっても、金属箔由来の配線等の配線が、絶縁層から剥離しにくい。
【0022】
(ポリブタジエン化合物)
前記ポリブタジエン化合物は、分子中にエポキシ基を有するポリブタジエン化合物であれば、特に限定されない。前記ポリブタジエン化合物としては、例えば、エポキシ化ポリブタジエン、すなわち、ポリブタジエンに含まれる炭素-炭素二重結合の少なくとも一部がエポキシ化されることによって、分子中にエポキシ基が導入された化合物、及びポリブタジエンの両末端がグリシジルエーテル化された化合物等が挙げられる。なお、前記エポキシ化は、例えば、ポリブタジエン(エポキシ化していないポリブタジエン)に含まれる炭素-炭素二重結合に対して、エポキシ化剤によって酸素1原子を付加させて3員環のエポキシ基にすること等によって行われる。また、ポリブタジエンの両末端がグリシジルエーテル化された化合物は、両末端が水酸基であるポリブタジエンにエピクロルヒドリンを付加させることによって得られる。
【0023】
前記ポリブタジエン(エポキシ化していないポリブタジエン)は、炭素-炭素二重結合の立体構造が、シス-1,4、トランス-1,4、シス-1,2、及びトランス-1,2のいずれであってもよい。また、これらの比率は、特に限定されない。
【0024】
前記エポキシ化剤は、ポリブタジエンに含まれる炭素-炭素二重結合をエポキシ化させることができれば、特に限定されない。前記エポキシ化剤としては、例えば、過酢酸、過ギ酸、過安息香酸、トリフルオロ過酢酸、及び過プロピオン酸等の過カルボン酸、t-ブチルヒドロパーオキサイド及びクメンヒドロペルオキシド等の有機ヒドロペルオキシド、及び過酸化水素等が挙げられる。
【0025】
前記ポリブタジエン化合物は、オキシラン酸素の濃度が1~10質量%であることが好ましく、5~9質量%であることがより好ましい。前記オキシラン酸素の濃度が低すぎると、前記ポリブタジエン化合物を添加することにより奏する効果、前記樹脂組成物の硬化物の、金属箔に対する接着性を高めるという効果を充分に得られない傾向がある。また、前記オキシラン酸素の濃度が高すぎると、前記エポキシ基が多くなりすぎ、低誘電特性が悪化する傾向がある。前記オキシラン酸素の濃度が上記範囲内である前記ポリブタジエン化合物を用いることによって、硬化させると、誘電特性が低く、かつ、金属箔との接着性の高い硬化物となる樹脂組成物が得られる。
【0026】
なお、オキシラン酸素の濃度は、前記ポリブタジエン化合物に含まれるエポキシ基の含有率の指標となり、例えば、臭化水素-氷酢酸溶液法等によって測定することができる。
【0027】
(ポリフェニレンエーテル化合物)
前記ポリフェニレンエーテル化合物は、前記式(1)で表される基及び前記式(2)で表される基の少なくとも一方を分子中に有するポリフェニレンエーテル化合物であれば、特に限定されない。前記ポリフェニレンエーテル化合物としては、具体的には、前記式(1)で表される基及び前記式(2)で表される基の少なくとも一方を分子末端に有するポリフェニレンエーテル化合物等が挙げられる。前記ポリフェニレンエーテル化合物としては、より具体的には、前記式(1)で表される基及び前記式(2)で表される基の少なくとも一方により末端変性された変性ポリフェニレンエーテル化合物等が挙げられる。
【0028】
前記式(1)において、pは0~10を示す。また、Zは、アリーレン基を示す。また、R~Rは、それぞれ独立している。すなわち、R~Rは、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R~Rは、水素原子又はアルキル基を示す。
【0029】
なお、前記式(1)において、pが0である場合は、Zがポリフェニレンエーテルの末端に直接結合していることを示す。
【0030】
このアリーレン基は、特に限定されない。このアリーレン基としては、例えば、フェニレン基等の単環芳香族基や、芳香族が単環ではなく、ナフタレン環等の多環芳香族である多環芳香族基等が挙げられる。また、このアリーレン基には、芳香族環に結合する水素原子が、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基等の官能基で置換された誘導体も含む。また、前記アルキル基は、特に限定されず、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及びデシル基等が挙げられる。
【0031】
前記式(2)において、Rは、水素原子又はアルキル基を示す。前記アルキル基は、特に限定されず、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及びデシル基等が挙げられる。
【0032】
前記式(1)で表される基の好ましい具体例としては、例えば、下記式(3)で表されるビニルベンジル基(エテニルベンジル基)、及びビニルフェニル基等が挙げられる。また前記ビニルベンジル基としては、例えば、o-エテニルベンジル基、p-エテニルベンジル基及びm-エテニルベンジル基等が挙げられる。また、前記式(2)で表される基としては、例えば、アクリロイル基及びメタクリロイル基等が挙げられる。
【0033】
【化5】
【0034】
前記ポリフェニレンエーテル化合物は、前記式(1)で表される基及び前記式(2)で表される基の少なくとも一方を分子中に有し、これらの基としては、1種を有するものであってもよいし、2種以上有するものであってもよい。前記ポリフェニレンエーテル化合物は、例えば、o-エテニルベンジル基、p-エテニルベンジル基及びm-エテニルベンジル基のいずれかを有するものであってもよいし、これらを2種又は3種有するものであってもよい。
【0035】
前記ポリフェニレンエーテル化合物は、ポリフェニレンエーテル鎖を分子中に有しており、例えば、下記式(4)で表される繰り返し単位を分子中に有していることが好ましい。
【0036】
【化6】
式(4)において、tは、1~50を示す。また、R~Rは、それぞれ独立している。すなわち、R~Rは、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R~Rは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。この中でも、水素原子及びアルキル基が好ましい。
【0037】
~Rにおいて、挙げられた各官能基としては、具体的には、以下のようなものが挙げられる。
【0038】
アルキル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及びデシル基等が挙げられる。
【0039】
アルケニル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数2~18のアルケニル基が好ましく、炭素数2~10のアルケニル基がより好ましい。具体的には、例えば、ビニル基、アリル基、及び3-ブテニル基等が挙げられる。
【0040】
アルキニル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数2~18のアルキニル基が好ましく、炭素数2~10のアルキニル基がより好ましい。具体的には、例えば、エチニル基、及びプロパ-2-イン-1-イル基(プロパルギル基)等が挙げられる。
【0041】
アルキルカルボニル基は、アルキル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数2~18のアルキルカルボニル基が好ましく、炭素数2~10のアルキルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、及びシクロヘキシルカルボニル基等が挙げられる。
【0042】
アルケニルカルボニル基は、アルケニル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数3~18のアルケニルカルボニル基が好ましく、炭素数3~10のアルケニルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、及びクロトノイル基等が挙げられる。
【0043】
アルキニルカルボニル基は、アルキニル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数3~18のアルキニルカルボニル基が好ましく、炭素数3~10のアルキニルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、プロピオロイル基等が挙げられる。
【0044】
前記ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されない。具体的には、500~5000であることが好ましく、800~4000であることがより好ましく、1000~3000であることがさらに好ましい。なお、ここで、重量平均分子量は、一般的な分子量測定方法で測定したものであればよく、具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した値等が挙げられる。また、ポリフェニレンエーテル化合物が、前記式(4)で表される繰り返し単位を分子中に有している場合、tは、ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量がこのような範囲内になるような数値であることが好ましい。具体的には、tは、1~50であることが好ましい。
【0045】
前記ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量がこのような範囲内であると、ポリフェニレンエーテルの有する優れた低誘電特性を有し、硬化物の耐熱性により優れるだけではなく、成形性にも優れたものとなる。このことは、以下のことによると考えられる。通常のポリフェニレンエーテルでは、その重量平均分子量がこのような範囲内であると、比較的低分子量のものであるので、硬化物の耐熱性が低下する傾向がある。この点、本実施形態に係るポリフェニレンエーテル化合物は、前記式(1)で表される基及び前記式(2)で表される基の少なくとも一方を分子中に有するので、硬化物の耐熱性が充分に高いものが得られると考えられる。また、ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量がこのような範囲内であると、比較的低分子量のものであるので、成形性にも優れると考えられる。よって、このようなポリフェニレンエーテル化合物は、硬化物の耐熱性により優れるだけではなく、成形性にも優れたものが得られると考えられる。
【0046】
前記ポリフェニレンエーテル化合物における、ポリフェニレンエーテル化合物1分子当たりに有する、前記式(1)で表される基及び前記式(2)で表される基の少なくとも一方(置換基)の平均個数(末端官能基数)は、特に限定されない。前記末端官能基数は、具体的には、1~5個であることが好ましく、1~3個であることがより好ましく、1.5~3個であることがさらに好ましい。この末端官能基数が少なすぎると、硬化物の耐熱性としては充分なものが得られにくい傾向がある。また、末端官能基数が多すぎると、反応性が高くなりすぎ、例えば、樹脂組成物の保存性が低下したり、樹脂組成物の流動性が低下してしまう等の不具合が発生するおそれがある。すなわち、このようなポリフェニレンエーテル化合物を用いると、流動性不足等により、例えば、多層成形時にボイドが発生する等の成形不良が発生し、信頼性の高いプリント配線板が得られにくいという成形性の問題が生じるおそれがあった。
【0047】
なお、ポリフェニレンエーテル化合物の末端官能基数は、ポリフェニレンエーテル化合物1モル中に存在する全てのポリフェニレンエーテル化合物の1分子あたりの、前記置換基の平均値を表した数値等が挙げられる。この末端官能基数は、例えば、得られたポリフェニレンエーテル化合物に残存する水酸基数を測定して、前記置換基を有する前の(変性前の)ポリフェニレンエーテルの水酸基数からの減少分を算出することによって、測定することができる。この変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基数からの減少分が、末端官能基数である。そして、ポリフェニレンエーテル化合物に残存する水酸基数の測定方法は、ポリフェニレンエーテル化合物の溶液に、水酸基と会合する4級アンモニウム塩(テトラエチルアンモニウムヒドロキシド)を添加し、その混合溶液のUV吸光度を測定することによって、求めることができる。
【0048】
前記ポリフェニレンエーテル化合物の固有粘度は、特に限定されない。具体的には、0.03~0.12dl/gであることが好ましく、0.04~0.11dl/gであることがより好ましく、0.06~0.095dl/gであることがさらに好ましい。この固有粘度が低すぎると、分子量が低い傾向があり、低誘電率や低誘電正接等の低誘電性が得られにくい傾向がある。また、固有粘度が高すぎると、粘度が高く、充分な流動性が得られず、硬化物の成形性が低下する傾向がある。よって、ポリフェニレンエーテル化合物の固有粘度が上記範囲内であれば、優れた、硬化物の耐熱性及び成形性を実現できる。
【0049】
なお、ここでの固有粘度は、25℃の塩化メチレン中で測定した固有粘度であり、より具体的には、例えば、0.18g/45mlの塩化メチレン溶液(液温25℃)を、粘度計で測定した値等である。この粘度計としては、例えば、Schott社製のAVS500 Visco System等が挙げられる。
【0050】
前記ポリフェニレンエーテル化合物としては、例えば、下記式(5)で表されるポリフェニレンエーテル化合物、及び下記式(6)で表されるポリフェニレンエーテル化合物等が挙げられる。また、前記ポリフェニレンエーテル化合物としては、これらのポリフェニレンエーテル化合物を単独で用いてもよいし、この2種のポリフェニレンエーテル化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
【化7】
【0052】
【化8】
【0053】
式(5)及び式(6)中、R~R16並びにR17~R24は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。X及びXは、それぞれ独立して、上記式(1)で表される基又は上記式(2)で表される基を示す。A及びBは、それぞれ、下記式(7)及び下記式(8)で表される繰り返し単位を示す。また、式(6)中、Yは、炭素数20以下の直鎖状、分岐状、又は環状の炭化水素を示す。
【0054】
【化9】
【0055】
【化10】
【0056】
式(7)及び式(8)中、m及びnは、それぞれ、0~20を示す。R25~R28並びにR29~R32は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。
【0057】
前記式(5)で表されるポリフェニレンエーテル化合物、及び前記式(6)で表されるポリフェニレンエーテル化合物は、上記構成を満たす化合物であれば特に限定されない。具体的には、前記式(5)及び前記式(6)において、R~R16並びにR17~R24は、上述したように、それぞれ独立している。すなわち、R~R16並びにR17~R24は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R~R16並びにR17~R24は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。この中でも、水素原子及びアルキル基が好ましい。
【0058】
式(7)及び式(8)中、m及びnは、それぞれ、上述したように、0~20を示すことが好ましい。また、m及びnは、mとnとの合計値が、1~30となる数値を示すことが好ましい。よって、mは、0~20を示し、nは、0~20を示し、mとnとの合計は、1~30を示すことがより好ましい。また、R25~R28並びにR29~R32は、それぞれ独立している。すなわち、R25~R28並びにR29~R32は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R25~R28並びにR29~R32は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。この中でも、水素原子及びアルキル基が好ましい。
【0059】
~R32は、上記式(4)におけるR~Rと同じである。
【0060】
前記式(6)中において、Yは、上述したように、炭素数20以下の直鎖状、分岐状、又は環状の炭化水素である。Yとしては、例えば、下記式(9)で表される基等が挙げられる。
【0061】
【化11】
前記式(9)中、R33及びR34は、それぞれ独立して、水素原子またはアルキル基を示す。前記アルキル基としては、例えば、メチル基等が挙げられる。また、式(9)で表される基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、及びジメチルメチレン基等が挙げられ、この中でも、ジメチルメチレン基が好ましい。
【0062】
前記式(5)及び前記式(6)中において、X及びXは、それぞれ独立して、上記式(1)で表される基又は上記式(2)で表される基である。なお、前記式(5)で表されるポリフェニレンエーテル化合物及び前記式(6)で表されるポリフェニレンエーテル化合物において、X及びXは、同一の基であってもよいし、異なる基であってもよい。
【0063】
前記式(5)で表されるポリフェニレンエーテル化合物のより具体的な例示としては、例えば、下記式(10)で表されるポリフェニレンエーテル化合物等が挙げられる。
【0064】
【化12】
【0065】
前記式(6)で表されるポリフェニレンエーテル化合物のより具体的な例示としては、例えば、下記式(11)で表されるポリフェニレンエーテル化合物、及び下記式(12)で表されるポリフェニレンエーテル化合物等が挙げられる。
【0066】
【化13】
【0067】
【化14】
【0068】
上記式(10)~式(12)において、m及びnは、上記式(7)及び上記式(8)におけるm及びnと同じである。また、上記式(10)及び上記式(11)において、R~R、p及びZは、上記式(1)におけるR~R、p及びZと同じである。また、上記式(11)及び上記式(12)において、Yは、上記(6)におけるYと同じである。また、上記式(12)において、Rは、上記式(2)におけるRと同じである。
【0069】
本実施形態において用いられるポリフェニレンエーテル化合物の合成方法は、前記式(1)で表される基及び前記式(2)で表される基の少なくとも一方を分子中に有するポリフェニレンエーテル化合物を合成できれば、特に限定されない。ここでは、前記式(1)で表される基及び前記式(2)で表される基の少なくとも一方により末端変性された変性ポリフェニレンエーテル化合物を合成する方法について説明する。この方法としては、具体的には、ポリフェニレンエーテルに、前記式(1)で表される基及び前記式(2)で表される基の少なくとも一方とハロゲン原子とが結合された化合物を反応させる方法等が挙げられる。前記ハロゲン原子としては、具体的には、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、及びフッ素原子が挙げられ、この中でも、塩素原子が好ましい。前記式(1)で表される基及び前記式(2)で表される基の少なくとも一方とハロゲン原子とが結合された化合物としては、より具体的には、o-クロロメチルスチレン、p-クロロメチルスチレン、及びm-クロロメチルスチレン等が挙げられる。前記式(1)で表される基及び前記式(2)で表される基の少なくとも一方とハロゲン原子とが結合された化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、o-クロロメチルスチレン、p-クロロメチルスチレン、及びm-クロロメチルスチレンを単独で用いてもよいし、2種又は3種を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
原料であるポリフェニレンエーテルは、最終的に、所定の変性ポリフェニレンエーテル化合物を合成することができるものであれば、特に限定されない。具体的には、2,6-ジメチルフェノールと2官能フェノール及び3官能フェノールの少なくともいずれか一方とからなるポリフェニレンエーテルやポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキサイド)等のポリフェニレンエーテルを主成分とするもの等が挙げられる。また、2官能フェノールとは、フェノール性水酸基を分子中に2個有するフェノール化合物であり、例えば、テトラメチルビスフェノールA等が挙げられる。また、3官能フェノールとは、フェノール性水酸基を分子中に3個有するフェノール化合物である。
【0071】
変性ポリフェニレンエーテル化合物の合成方法は、上述した方法が挙げられる。具体的には、上記のようなポリフェニレンエーテルと、前記式(1)で表される基及び前記式(2)で表される基の少なくとも一方とハロゲン原子とが結合された化合物とを溶媒に溶解させ、攪拌する。そうすることによって、ポリフェニレンエーテルと、前記式(1)で表される基及び前記式(2)で表される基の少なくとも一方とハロゲン原子とが結合された化合物とが反応し、本実施形態で用いられる変性ポリフェニレンエーテル化合物が得られる。
【0072】
前記反応の際、アルカリ金属水酸化物の存在下で行うことが好ましい。そうすることによって、この反応が好適に進行すると考えられる。このことは、アルカリ金属水酸化物が、脱ハロゲン化水素剤、具体的には、脱塩酸剤として機能するためと考えられる。すなわち、アルカリ金属水酸化物が、ポリフェニレンエーテルのフェノール基と、前記式(1)で表される基及び前記式(2)で表される基の少なくとも一方とハロゲン原子とが結合された化合物とから、ハロゲン化水素を脱離させ、そうすることによって、ポリフェニレンエーテルのフェノール基の水素原子の代わりに、前記式(1)で表される基及び前記式(2)で表される基の少なくとも一方が、フェノール基の酸素原子に結合すると考えられる。
【0073】
アルカリ金属水酸化物は、脱ハロゲン化剤として働きうるものであれば、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム等が挙げられる。また、アルカリ金属水酸化物は、通常、水溶液の状態で用いられ、具体的には、水酸化ナトリウム水溶液として用いられる。
【0074】
反応時間や反応温度等の反応条件は、前記式(1)で表される基及び前記式(2)で表される基の少なくとも一方とハロゲン原子とが結合された化合物等によっても異なり、上記のような反応が好適に進行する条件であれば、特に限定されない。具体的には、反応温度は、室温~100℃であることが好ましく、30~100℃であることがより好ましい。また、反応時間は、0.5~20時間であることが好ましく、0.5~10時間であることがより好ましい。
【0075】
反応時に用いる溶媒は、ポリフェニレンエーテルと、前記式(1)で表される基及び前記式(2)で表される基の少なくとも一方とハロゲン原子とが結合された化合物とを溶解させることができ、ポリフェニレンエーテルと、前記式(1)で表される基及び前記式(2)で表される基の少なくとも一方とハロゲン原子とが結合された化合物との反応を阻害しないものであれば、特に限定されない。具体的には、トルエン等が挙げられる。
【0076】
上記の反応は、アルカリ金属水酸化物だけではなく、相間移動触媒も存在した状態で反応させることが好ましい。すなわち、上記の反応は、アルカリ金属水酸化物及び相間移動触媒の存在下で反応させることが好ましい。そうすることによって、上記反応がより好適に進行すると考えられる。このことは、以下のことによると考えられる。相間移動触媒は、アルカリ金属水酸化物を取り込む機能を有し、水のような極性溶剤の相と、有機溶剤のような非極性溶剤の相との両方の相に可溶で、これらの相間を移動することができる触媒であることによると考えられる。具体的には、アルカリ金属水酸化物として、水酸化ナトリウム水溶液を用い、溶媒として、水に相溶しない、トルエン等の有機溶剤を用いた場合、水酸化ナトリウム水溶液を、反応に供されている溶媒に滴下しても、溶媒と水酸化ナトリウム水溶液とが分離し、水酸化ナトリウムが、溶媒に移行しにくいと考えられる。そうなると、アルカリ金属水酸化物として添加した水酸化ナトリウム水溶液が、反応促進に寄与しにくくなると考えられる。これに対して、アルカリ金属水酸化物及び相間移動触媒の存在下で反応させると、アルカリ金属水酸化物が相間移動触媒に取り込まれた状態で、溶媒に移行し、水酸化ナトリウム水溶液が、反応促進に寄与しやすくなると考えられる。このため、アルカリ金属水酸化物及び相間移動触媒の存在下で反応させると、上記反応がより好適に進行すると考えられる。
【0077】
相間移動触媒は、特に限定されないが、例えば、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイド等の第4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0078】
本実施形態で用いられる樹脂組成物には、前記ポリフェニレンエーテル化合物として、上記のようにして得られた変性ポリフェニレンエーテル化合物を含むことが好ましい。
【0079】
(スチレン系ブロック共重合体)
前記スチレン系ブロック共重合体は、金属張積層板及び配線板等に備えられる絶縁層を形成するために用いられる樹脂組成物等に含まれる樹脂として用いることができるスチレン系ブロック共重合体であれば、特に限定されない。
【0080】
前記スチレン系ブロック共重合体としては、例えば、メチルスチレン(エチレン/ブチレン)メチルスチレン共重合体、メチルスチレン(エチレン-エチレン/プロピレン)メチルスチレン共重合体、スチレンイソプレン共重合体、スチレンイソプレンスチレン共重合体、スチレン(エチレン/ブチレン)スチレン共重合体、スチレン(エチレン-エチレン/プロピレン)スチレン共重合体、スチレンブタジエンスチレン共重合体、スチレン(ブタジエン/ブチレン)スチレン共重合体、及びスチレンイソブチレンスチレン共重合体等が挙げられ、これらの水添物であってもよい。前記スチレン系ブロック共重合体は、この中でも、スチレンブタジエンスチレン共重合体、スチレン(エチレン/ブチレン)スチレン共重合体、メチルスチレン(エチレン/ブチレン)メチルスチレン共重合体、及びこれらの水添物が好ましい。また、前記スチレン系ブロック共重合体は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
前記樹脂組成物には、前記スチレン系ブロック共重合体を含むことによって、硬化させると、金属箔との接着性が高い硬化物となる樹脂組成物が得られる。
【0082】
前記スチレン系ブロック共重合体は、重量平均分子量が10000~300000であることが好ましく、50000~250000であることがより好ましく、60000~200000であることがさらに好ましい。前記スチレン系ブロック共重合体の分子量が低すぎると、硬化物のガラス転移温度が低下したり、硬化物の耐熱性が低くなる傾向がある。また、前記スチレン系ブロック共重合体の分子量が高すぎると、樹脂組成物のワニスの粘度や、加熱成形時の溶融粘度が高くなりすぎるおそれがある。よって、前記スチレン系ブロック共重合体の重量平均分子量が上記範囲内であると、ガラス転移温度及び耐熱性により優れ、加熱及び吸湿によって、金属箔と絶縁層との接着性が低下することをより抑制することができる。
【0083】
(硬化剤)
前記硬化剤は、前記ポリフェニレンエーテル化合物と反応して前記ポリフェニレンエーテル化合物を含む樹脂組成物を硬化させることができる硬化剤である。また、前記硬化剤は、前記ポリフェニレンエーテル化合物を含む樹脂組成物を硬化させることができる硬化剤であれば、特に限定されない。前記硬化剤としては、例えば、スチレン、スチレン誘導体、分子中にアクリロイル基を有する化合物、分子中にメタクリロイル基を有する化合物、分子中にビニル基を有する化合物、分子中にアリル基を有する化合物、分子中にアセナフチレン構造を有する化合物、分子中にマレイミド基を有する化合物、及び分子中にイソシアヌレート基を有するイソシアヌレート化合物等が挙げられる。
【0084】
前記スチレン誘導体としては、例えば、ブロモスチレン及びジブロモスチレン等が挙げられる。
【0085】
前記分子中にアクリロイル基を有する化合物が、アクリレート化合物である。前記アクリレート化合物としては、分子中にアクリロイル基を1個有する単官能アクリレート化合物、及び分子中にアクリロイル基を2個以上有する多官能アクリレート化合物が挙げられる。前記単官能アクリレート化合物としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、及びブチルアクリレート等が挙げられる。前記多官能アクリレート化合物としては、例えば、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート等のジアクリレート化合物等が挙げられる。
【0086】
前記分子中にメタクリロイル基を有する化合物が、メタクリレート化合物である。前記メタクリレート化合物としては、分子中にメタクリロイル基を1個有する単官能メタクリレート化合物、及び分子中にメタクリロイル基を2個以上有する多官能メタクリレート化合物が挙げられる。前記単官能メタクリレート化合物としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、及びブチルメタクリレート等が挙げられる。前記多官能メタクリレート化合物としては、例えば、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート等のジメタクリレート化合物、及びトリメチロールプロパントリメタクリレート等のトリメタクリレート化合物等が挙げられる。
【0087】
前記分子中にビニル基を有する化合物が、ビニル化合物である。前記ビニル化合物としては、分子中にビニル基を1個有する単官能ビニル化合物(モノビニル化合物)、及び分子中にビニル基を2個以上有する多官能ビニル化合物が挙げられる。前記多官能ビニル化合物としては、例えば、ジビニルベンゼン、及びポリブタジエン等が挙げられる。
【0088】
前記分子中にアリル基を有する化合物が、アリル化合物である。前記アリル化合物としては、分子中にアリル基を1個有する単官能アリル化合物、及び分子中にアリル基を2個以上有する多官能アリル化合物が挙げられる。前記多官能アリル化合物としては、例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)等のトリアリルイソシアヌレート化合物、ジアリルビスフェノール化合物、及びジアリルフタレート(DAP)、等が挙げられる。
【0089】
前記分子中にアセナフチレン構造を有する化合物が、アセナフチレン化合物である。前記アセナフチレン化合物としては、例えば、アセナフチレン、アルキルアセナフチレン類、ハロゲン化アセナフチレン類、及びフェニルアセナフチレン類等が挙げられる。前記アルキルアセナフチレン類としては、例えば、1-メチルアセナフチレン、3-メチルアセナフチレン、4-メチルアセナフチレン、5-メチルアセナフチレン、1-エチルアセナフチレン、3-エチルアセナフチレン、4-エチルアセナフチレン、5-エチルアセナフチレン等が挙げられる。前記ハロゲン化アセナフチレン類としては、例えば、1-クロロアセナフチレン、3-クロロアセナフチレン、4-クロロアセナフチレン、5-クロロアセナフチレン、1-ブロモアセナフチレン、3-ブロモアセナフチレン、4-ブロモアセナフチレン、5-ブロモアセナフチレン等が挙げられる。前記フェニルアセナフチレン類としては、例えば、1-フェニルアセナフチレン、3-フェニルアセナフチレン、4-フェニルアセナフチレン、5-フェニルアセナフチレン等が挙げられる。前記アセナフチレン化合物としては、前記のような、分子中にアセナフチレン構造を1個有する単官能アセナフチレン化合物であってもよいし、分子中にアセナフチレン構造を2個以上有する多官能アセナフチレン化合物であってもよい。
【0090】
前記分子中にマレイミド基を有する化合物が、マレイミド化合物である。前記マレイミド化合物としては、分子中にマレイミド基を1個有する単官能マレイミド化合物、分子中にマレイミド基を2個以上有する多官能マレイミド化合物、及び変性マレイミド化合物等が挙げられる。前記変性マレイミド化合物としては、例えば、分子中の一部がアミン化合物で変性された変性マレイミド化合物、分子中の一部がシリコーン化合物で変性された変性マレイミド化合物、及び分子中の一部がアミン化合物及びシリコーン化合物で変性された変性マレイミド化合物等が挙げられる。
【0091】
前記分子中にイソシアヌレート基を有する化合物が、イソシアヌレート化合物である。前記イソシアヌレート化合物としては、分子中にアルケニル基をさらに有する化合物(アルケニルイソシアヌレート化合物)等が挙げられ、例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)等のトリアルケニルイソシアヌレート化合物等が挙げられる。
【0092】
前記硬化剤は、上記の中でも、例えば、分子中にアリル基を有するアリル化合物を含むことが好ましい。前記アリル化合物としては、分子中に2個以上のアリル基を有するアリルイソシアヌレート化合物が好ましく、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)がより好ましい。
【0093】
前記硬化剤は、上記硬化剤を単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0094】
前記硬化剤の重量平均分子量は、特に限定されず、例えば、100~5000であることが好ましく、100~4000であることがより好ましく、100~3000であることがさらに好ましい。前記硬化剤の重量平均分子量が低すぎると、前記硬化剤が樹脂組成物の配合成分系から揮発しやすくなるおそれがある。また、前記硬化剤の重量平均分子量が高すぎると、樹脂組成物のワニスの粘度や、加熱成形時の溶融粘度が高くなりすぎるおそれがある。よって、前記硬化剤の重量平均分子量がこのような範囲内であると、硬化物の耐熱性により優れた樹脂組成物が得られる。このことは、前記ポリフェニレンエーテル化合物との反応により、前記ポリフェニレンエーテル化合物を含有する樹脂組成物を好適に硬化させることができるためと考えられる。なお、ここで、重量平均分子量は、一般的な分子量測定方法で測定したものであればよく、具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した値等が挙げられる。
【0095】
前記硬化剤は、前記ポリフェニレンエーテル化合物との反応に寄与する官能基の、前記硬化剤1分子当たりの平均個数(官能基数)は、前記硬化剤の重量平均分子量によって異なるが、例えば、1~20個であることが好ましく、2~18個であることがより好ましい。この官能基数が少なすぎると、硬化物の耐熱性としては充分なものが得られにくい傾向がある。また、官能基数が多すぎると、反応性が高くなりすぎ、例えば、樹脂組成物の保存性が低下したり、樹脂組成物の流動性が低下してしまう等の不具合が発生するおそれがある。
【0096】
(含有量)
前記ポリブタジエン化合物の含有量は、前記ポリブタジエン化合物、前記ポリフェニレンエーテル化合物、及び前記硬化剤の合計100質量部に対して、5~40質量部であることが好ましく、5~25質量部であることが好ましい。また、前記ポリブタジエン化合物の含有量は、前記ポリブタジエン化合物、前記ポリフェニレンエーテル化合物、前記スチレン系ブロック共重合体、及び前記硬化剤の合計100質量部に対して、3~20質量部であることが好ましく、5~17.5質量部であることが好ましい。また、前記ポリフェニレンエーテル化合物の含有量は、前記ポリブタジエン化合物、前記ポリフェニレンエーテル化合物、前記スチレン系ブロック共重合体、及び前記硬化剤の合計100質量部に対して、10~70質量部であることが好ましく、20~50質量部であることが好ましい。また、前記スチレン系ブロック共重合体の含有量は、前記ポリブタジエン化合物、前記ポリフェニレンエーテル化合物、前記スチレン系ブロック共重合体、及び前記硬化剤の合計100質量部に対して、5~60質量部であることが好ましく、10~50質量部であることが好ましい。また、前記硬化剤の含有量は、前記ポリブタジエン化合物、前記ポリフェニレンエーテル化合物、前記スチレン系ブロック共重合体、及び前記硬化剤の合計100質量部に対して、3~30質量部であることが好ましく、5~20質量部であることが好ましい。前記ポリブタジエン化合物、前記ポリフェニレンエーテル化合物、前記スチレン系ブロック共重合体、及び前記硬化剤の各含有量が、上記範囲内であると、硬化させると、優れた低誘電特性を維持しつつ、金属箔との接着性のより高い硬化物となる樹脂組成物が得られる。
【0097】
(その他の成分)
本実施形態に係る樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、前記ポリブタジエン化合物、前記ポリフェニレンエーテル化合物、前記スチレン系ブロック共重合体、及び前記硬化剤以外の成分(その他の成分)を含有してもよい。本実施形態に係る樹脂組成物に含有されるその他の成分としては、例えば、シランカップリング剤、難燃剤、開始剤、硬化促進剤、消泡剤、酸化防止剤、重合禁止剤、重合遅延剤、分散剤、レベリング剤、熱安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、染料や顔料、滑剤、及び充填材等の添加剤をさらに含んでもよい。また、前記樹脂組成物には、前記ポリフェニレンエーテル化合物以外にも、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、及び熱硬化性ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂を含有してもよい。
【0098】
本実施形態に係る樹脂組成物は、上述したように、難燃剤を含有してもよい。難燃剤を含有することによって、樹脂組成物の硬化物の難燃性を高めることができる。前記難燃剤は、特に限定されない。具体的には、臭素系難燃剤等のハロゲン系難燃剤を使用する分野では、例えば、融点が300℃以上のエチレンジペンタブロモベンゼン、エチレンビステトラブロモイミド、デカブロモジフェニルオキサイド、及びテトラデカブロモジフェノキシベンゼンが好ましい。ハロゲン系難燃剤を使用することにより、高温時におけるハロゲンの脱離が抑制でき、耐熱性の低下を抑制できると考えられる。また、ハロゲンフリーが要求される分野では、リン酸エステル系難燃剤、ホスファゼン系難燃剤、ビスジフェニルホスフィンオキサイド系難燃剤、及びホスフィン酸塩系難燃剤が挙げられる。リン酸エステル系難燃剤の具体例としては、ジキシレニルホスフェートの縮合リン酸エステルが挙げられる。ホスファゼン系難燃剤の具体例としては、フェノキシホスファゼンが挙げられる。ビスジフェニルホスフィンオキサイド系難燃剤の具体例としては、キシリレンビスジフェニルホスフィンオキサイドが挙げられる。ホスフィン酸塩系難燃剤の具体例としては、例えば、ジアルキルホスフィン酸アルミニウム塩のホスフィン酸金属塩が挙げられる。前記難燃剤としては、例示した各難燃剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0099】
本実施形態に係る樹脂組成物は、上述したように、シランカップリング剤を含有してもよい。シランカップリング剤は、樹脂組成物に含有してもよいし、樹脂組成物に含有されている無機充填材に予め表面処理されたシランカップリング剤として含有していてもよい。この中でも、前記シランカップリング剤としては、無機充填材に予め表面処理されたシランカップリング剤として含有することが好ましく、このように無機充填材に予め表面処理されたシランカップリング剤として含有し、さらに、樹脂組成物にもシランカップリング剤を含有させることがより好ましい。また、プリプレグの場合、そのプリプレグには、繊維質基材に予め表面処理されたシランカップリング剤として含有していてもよい。
【0100】
前記シランカップリング剤としては、例えば、ビニル基、スチリル基、メタクリロイル基、アクリロイル基、フェニルアミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。すなわち、このシランカップリング剤は、反応性官能基として、ビニル基、スチリル基、メタクリロイル基、アクリロイル基、及びフェニルアミノ基のうち、少なくとも1つを有し、さらに、メトキシ基やエトキシ基等の加水分解性基を有する化合物等が挙げられる。
【0101】
前記シランカップリング剤としては、ビニル基を有するものとして、例えば、ビニルトリエトキシシラン、及びビニルトリメトキシシラン等が挙げられる。前記シランカップリング剤としては、スチリル基を有するものとして、例えば、p-スチリルトリメトキシシラン、及びp-スチリルトリエトキシシラン等が挙げられる。前記シランカップリング剤としては、メタクリロイル基を有するものとして、例えば、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、及び3-メタクリロキシプロピルエチルジエトキシシラン等が挙げられる。前記シランカップリング剤としては、アクリロイル基を有するものとして、例えば、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、及び3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。前記シランカップリング剤としては、フェニルアミノ基を有するものとして、例えば、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン及びN-フェニル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0102】
本実施形態に係る樹脂組成物には、上述したように、開始剤(反応開始剤)を含有してもよい。前記樹脂組成物は、反応開始剤を含有しないものであっても、硬化反応は進行し得る。しかしながら、プロセス条件によっては硬化が進行するまで高温にすることが困難な場合があるので、反応開始剤を添加してもよい。前記反応開始剤は、前記ポリフェニレンエーテル化合物と前記硬化剤との硬化反応を促進することができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシン,過酸化ベンゾイル、3,3’,5,5’-テトラメチル-1,4-ジフェノキノン、クロラニル、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノキシル、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、アゾビスイソブチロニトリル等の酸化剤が挙げられる。また、必要に応じて、カルボン酸金属塩等を併用することができる。そうすることによって、硬化反応を一層促進させるができる。これらの中でも、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼンが好ましく用いられる。α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼンは、反応開始温度が比較的に高いため、プリプレグ乾燥時等の硬化する必要がない時点での硬化反応の促進を抑制することができ、樹脂組成物の保存性の低下を抑制することができる。さらに、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼンは、揮発性が低いため、プリプレグ乾燥時や保存時に揮発せず、安定性が良好である。また、反応開始剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0103】
本実施形態に係る樹脂組成物には、上述したように、硬化促進剤を含有してもよい。前記硬化促進剤としては、前記樹脂組成物の硬化反応を促進することができるものであれば、特に限定されない。前記硬化促進剤としては、具体的には、イミダゾール類及びその誘導体、有機リン系化合物、第二級アミン類及び第三級アミン類等のアミン類、第四級アンモニウム塩、有機ボロン系化合物、及び金属石鹸等が挙げられる。前記イミダゾール類としては、例えば、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール等が挙げられる。また、前記有機リン系化合物としては、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、及びトリメチルホスフィン等が挙げられる。また、前記アミン類としては、例えば、ジメチルベンジルアミン、トリエチレンジアミン、トリエタノールアミン、及び1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7(DBU)等が挙げられる。また、前記第四級アンモニウム塩としては、テトラブチルアンモニウムブロミド等が挙げられる。また、前記有機ボロン系化合物としては、例えば、2-エチル-4-メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩、及びテトラフェニルホスホニウム・エチルトリフェニルボレート等のテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート等が挙げられる。また、前記金属石鹸は、脂肪酸金属塩を指し、直鎖状の脂肪酸金属塩であっても、環状の脂肪酸金属塩であってもよい。前記金属石鹸としては、具体的には、炭素数が6~10の、直鎖状の脂肪族金属塩及び環状の脂肪族金属塩等が挙げられる。より具体的には、例えば、ステアリン酸、ラウリン酸、リシノール酸、及びオクチル酸等の直鎖状の脂肪酸や、ナフテン酸等の環状の脂肪酸と、リチウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、銅及び亜鉛等の金属とからなる脂肪族金属塩等が挙げられる。例えば、オクチル酸亜鉛等が挙げられる。前記硬化促進剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0104】
本実施形態に係る樹脂組成物には、上述したように、無機充填材等の充填材を含有してもよい。充填材としては、樹脂組成物の硬化物の、耐熱性及び難燃性を高めるために添加するもの等が挙げられ、特に限定されない。また、充填材を含有させることによって、耐熱性及び難燃性等をさらに高めることができる。充填材としては、具体的には、球状シリカ等のシリカ、アルミナ、酸化チタン、及びマイカ等の金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、タルク、ホウ酸アルミニウム、硫酸バリウム、及び炭酸カルシウム等が挙げられる。また、充填材としては、この中でも、シリカ、マイカ、及びタルクが好ましく、球状シリカがより好ましい。また、充填材は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、充填材としては、そのまま用いてもよいし、前記シランカップリング剤で表面処理したものを用いてもよい。また、充填材を含有する場合、その含有率(フィラーコンテンツ)は、前記樹脂組成物に対して、20~270質量%であることが好ましく、30~250質量%であることがより好ましい。
【0105】
(製造方法)
前記樹脂組成物を製造する方法としては、特に限定されず、例えば、前記ポリブタジエン化合物、前記ポリフェニレンエーテル化合物、及び前記硬化剤を、所定の含有量となるように混合する方法等が挙げられる。具体的には、有機溶媒を含むワニス状の組成物を得る場合は、後述する方法等が挙げられる。
【0106】
本実施形態に係る樹脂組成物を用いることによって、以下のように、プリプレグ、金属張積層板、配線板、樹脂付き金属箔、及び樹脂付きフィルムを得ることができる。
【0107】
[プリプレグ]
図1は、本発明の実施形態に係るプリプレグ1の一例を示す概略断面図である。
【0108】
本実施形態に係るプリプレグ1は、図1に示すように、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物2と、繊維質基材3とを備える。このプリプレグ1は、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物2と、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物2の中に存在する繊維質基材3とを備える。
【0109】
なお、本実施形態において、半硬化物とは、樹脂組成物をさらに硬化しうる程度に途中まで硬化された状態のものである。すなわち、半硬化物は、樹脂組成物を半硬化した状態の(Bステージ化された)ものである。例えば、樹脂組成物は、加熱すると、最初、粘度が徐々に低下し、その後、硬化が開始し、その後、硬化が開始し、粘度が徐々に上昇する。このような場合、半硬化としては、粘度が上昇し始めてから、完全に硬化する前の間の状態等が挙げられる。
【0110】
本実施形態に係る樹脂組成物を用いて得られるプリプレグとしては、上記のような、前記樹脂組成物の半硬化物を備えるものであってもよいし、また、硬化させていない前記樹脂組成物そのものを備えるものであってもよい。すなわち、前記樹脂組成物の半硬化物(Bステージの前記樹脂組成物)と、繊維質基材とを備えるプリプレグであってもよいし、硬化前の前記樹脂組成物(Aステージの前記樹脂組成物)と、繊維質基材とを備えるプリプレグであってもよい。また、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物としては、前記樹脂組成物を乾燥又は加熱乾燥させたものであってもよい。
【0111】
プリプレグを製造する際には、プリプレグを形成するための基材である繊維質基材3に含浸するために、樹脂組成物2は、ワニス状に調製されて用いられることが多い。すなわち、樹脂組成物2は、通常、ワニス状に調製された樹脂ワニスであることが多い。このようなワニス状の樹脂組成物(樹脂ワニス)は、例えば、以下のようにして調製される。
【0112】
まず、有機溶媒に溶解できる各成分を、有機溶媒に投入して溶解させる。この際、必要に応じて、加熱してもよい。その後、必要に応じて用いられる、有機溶媒に溶解しない成分を添加して、ボールミル、ビーズミル、プラネタリーミキサー、ロールミル等を用いて、所定の分散状態になるまで分散させることにより、ワニス状の樹脂組成物が調製される。ここで用いられる有機溶媒としては、前記ポリブタジエン化合物、前記ポリフェニレンエーテル化合物、及び前記硬化剤等を溶解させ、硬化反応を阻害しないものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、トルエンやメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。
【0113】
前記プリプレグの製造方法は、前記プリプレグを製造することができれば、特に限定されない。具体的には、プリプレグを製造する際には、上述した本実施形態で用いる樹脂組成物は、上述したように、ワニス状に調製し、樹脂ワニスとして用いられることが多い。
【0114】
前記繊維質基材としては、具体的には、例えば、ガラスクロス、アラミドクロス、ポリエステルクロス、ガラス不織布、アラミド不織布、ポリエステル不織布、パルプ紙、及びリンター紙が挙げられる。なお、ガラスクロスを用いると、機械強度が優れた積層板が得られ、特に偏平処理加工したガラスクロスが好ましい。偏平処理加工として、具体的には、例えば、ガラスクロスを適宜の圧力でプレスロールにて連続的に加圧してヤーンを偏平に圧縮する方法が挙げられる。なお、一般的に使用される繊維質基材の厚さは、例えば、0.01mm以上、0.3mm以下である。
【0115】
前記プリプレグの製造方法は、前記プリプレグを製造することができれば、特に限定されない。具体的には、プリプレグを製造する際には、上述した本実施形態に係る樹脂組成物は、上述したように、ワニス状に調製し、樹脂ワニスとして用いられることが多い。
【0116】
プリプレグ1を製造する方法としては、例えば、樹脂組成物2、例えば、ワニス状に調製された樹脂組成物2を繊維質基材3に含浸させた後、乾燥する方法が挙げられる。樹脂組成物2は、繊維質基材3へ、浸漬及び塗布等によって含浸される。必要に応じて複数回繰り返して含浸することも可能である。また、この際、組成や濃度の異なる複数の樹脂組成物を用いて含浸を繰り返すことにより、最終的に希望とする組成及び含浸量に調整することも可能である。
【0117】
樹脂組成物(樹脂ワニス)2が含浸された繊維質基材3は、所望の加熱条件、例えば、80℃以上180℃以下で1分間以上10分間以下加熱される。加熱によって、硬化前(Aステージ)又は半硬化状態(Bステージ)のプリプレグ1が得られる。なお、前記加熱によって、前記樹脂ワニスから有機溶媒を揮発させ、有機溶媒を減少又は除去させることができる。
【0118】
本実施形態に係る樹脂組成物は、誘電特性が低く、かつ、金属箔との接着性の高い硬化物が得られる樹脂組成物である。このため、この樹脂組成物又はこの樹脂組成物の半硬化物を備えるプリプレグは、誘電特性が低く、かつ、金属箔との接着性の高い硬化物が得られるプリプレグである。そして、このプリプレグは、誘電特性が低く、かつ、配線との接着性の高い絶縁層を備える配線板を好適に製造することができる。
【0119】
[金属張積層板]
図2は、本発明の実施形態に係る金属張積層板11の一例を示す概略断面図である。
【0120】
金属張積層板11は、図2に示すように、図1に示したプリプレグ1の硬化物を含む絶縁層12と、絶縁層12とともに積層される金属箔13とから構成されている。すなわち、金属張積層板11は、樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層12と、絶縁層12の上に設けられた金属箔13とを有する。また、絶縁層12は、前記樹脂組成物の硬化物からなるものであってもよいし、前記プリプレグの硬化物からなるものであってもよい。また、前記金属箔13の厚みは、最終的に得られる配線板に求められる性能等に応じて異なり、特に限定されない。金属箔13の厚みは、所望の目的に応じて、適宜設定することができ、例えば、0.2~70μmであることが好ましい。また、前記金属箔13としては、例えば、銅箔及びアルミニウム箔等が挙げられ、前記金属箔が薄い場合は、ハンドリング性を向上のために剥離層及びキャリアを備えたキャリア付銅箔であってもよい。
【0121】
前記金属張積層板11を製造する方法としては、前記金属張積層板11を製造することができれば、特に限定されない。具体的には、プリプレグ1を用いて金属張積層板11を作製する方法が挙げられる。この方法としては、プリプレグ1を1枚又は複数枚重ね、さらに、その上下の両面又は片面に銅箔等の金属箔13を重ね、金属箔13およびプリプレグ1を加熱加圧成形して積層一体化することによって、両面金属箔張り又は片面金属箔張りの積層板11を作製する方法等が挙げられる。すなわち、金属張積層板11は、プリプレグ1に金属箔13を積層して、加熱加圧成形して得られる。また、加熱加圧条件は、製造する金属張積層板11の厚みやプリプレグ1の組成物の種類等により適宜設定することができる。例えば、温度を170~230℃、圧力を2~5MPa、時間を60~150分間とすることができる。また、前記金属張積層板は、プリプレグを用いずに製造してもよい。例えば、ワニス状の樹脂組成物を金属箔上に塗布し、金属箔上に樹脂組成物を含む層を形成した後に、加熱加圧する方法等が挙げられる。
【0122】
前記金属箔の厚みは、0.2~35μmであることが好ましく、1~18μmであることがより好ましい。前記金属箔がこのように薄くても、本実施形態に係る樹脂組成物を用いて前記金属張積層板を製造した場合、得られた金属張積層板における前記樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層と前記金属箔との接着性が充分に高かった。
【0123】
本実施形態に係る樹脂組成物は、誘電特性が低く、かつ、金属箔との接着性の高い硬化物が得られる樹脂組成物である。このため、この樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層を備える金属張積層板は、誘電特性が低く、かつ、金属箔との接着性の高い絶縁層を備える金属張積層板である。そして、この金属張積層板は、誘電特性が低く、かつ、金属箔由来の配線等の配線との接着性の高い絶縁層を備える配線板を好適に製造することができる。
【0124】
[配線板]
図3は、本発明の実施形態に係る配線板21の一例を示す概略断面図である。
【0125】
本実施形態に係る配線板21は、図3に示すように、図1に示したプリプレグ1を硬化して用いられる絶縁層12と、絶縁層12ともに積層され、金属箔13を部分的に除去して形成された配線14とから構成されている。すなわち、前記配線板21は、樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層12と、絶縁層12の上に設けられた配線14とを有する。また、絶縁層12は、前記樹脂組成物の硬化物からなるものであってもよいし、前記プリプレグの硬化物からなるものであってもよい。
【0126】
前記配線板21を製造する方法は、前記配線板21を製造することができれば、特に限定されない。具体的には、前記プリプレグ1を用いて配線板21を作製する方法等が挙げられる。この方法としては、例えば、上記のように作製された金属張積層板11の表面の金属箔13をエッチング加工等して配線形成をすることによって、絶縁層12の表面に回路として配線が設けられた配線板21を作製する方法等が挙げられる。すなわち、配線板21は、金属張積層板11の表面の金属箔13を部分的に除去することにより回路形成して得られる。また、回路形成する方法としては、上記の方法以外に、例えば、セミアディティブ法(SAP:Semi Additive Process)やモディファイドセミアディティブ法(MSAP:Modified Semi Additive Process)による回路形成等が挙げられる。配線板21は、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れ、吸水性が低く、及び吸水後であっても、吸水による、誘電率及び誘電正接の上昇を充分に抑制した絶縁層12を有する。
【0127】
このような配線板は、誘電特性が低く、かつ、配線との接着性の高い絶縁層を備える配線板である。
【0128】
[樹脂付き金属箔]
図4は、本実施の形態に係る樹脂付き金属箔31の一例を示す概略断面図である。
【0129】
本実施形態に係る樹脂付き金属箔31は、図4に示すように、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層32と、金属箔13とを備える。この樹脂付き金属箔31は、前記樹脂層32の表面上に金属箔13を有する。すなわち、この樹脂付き金属箔31は、前記樹脂層32と、前記樹脂層32とともに積層される金属箔13とを備える。また、前記樹脂付き金属箔31は、前記樹脂層32と前記金属箔13との間に、他の層を備えていてもよい。
【0130】
また、前記樹脂層32としては、上記のような、前記樹脂組成物の半硬化物を含むものであってもよいし、また、硬化させていない前記樹脂組成物を含むものであってもよい。すなわち、前記樹脂付き金属箔31は、前記樹脂組成物の半硬化物(Bステージの前記樹脂組成物)を含む樹脂層と、金属箔とを備えるであってもよいし、硬化前の前記樹脂組成物(Aステージの前記樹脂組成物)を含む樹脂層と、金属箔とを備える樹脂付き金属箔であってもよい。また、前記樹脂層としては、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含んでいればよく、繊維質基材を含んでいても、含んでいなくてもよい。また、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物としては、前記樹脂組成物を乾燥又は加熱乾燥させたものであってもよい。また、繊維質基材としては、プリプレグの繊維質基材と同様のものを用いることができる。
【0131】
また、金属箔としては、金属張積層板に用いられる金属箔を限定なく用いることができる。金属箔としては、例えば、銅箔及びアルミニウム箔等が挙げられる。
【0132】
前記樹脂付き金属箔31及び前記樹脂付きフィルム41は、必要に応じて、カバーフィル等を備えてもよい。カバーフィルムを備えることにより、異物の混入等を防ぐことができる。前記カバーフィルムとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリオレフィンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、及びこれらのフィルムに離型剤層を設けて形成されたフィルム等が挙げられる。
【0133】
前記樹脂付き金属箔31を製造する方法は、前記樹脂付き金属箔31を製造することができれば、特に限定されない。前記樹脂付き金属箔31の製造方法としては、上記ワニス状の樹脂組成物(樹脂ワニス)を金属箔13上に塗布し、加熱することにより製造する方法等が挙げられる。ワニス状の樹脂組成物は、例えば、バーコーターを用いることにより、金属箔13上に塗布される。塗布された樹脂組成物は、例えば、40℃以上180℃以下、0.1分以上10分以下の条件で加熱される。加熱された樹脂組成物は、未硬化の樹脂層32として、金属箔13上に形成される。なお、前記加熱によって、前記樹脂ワニスから有機溶媒を揮発させ、有機溶媒を減少又は除去させることができる。
【0134】
本実施形態に係る樹脂組成物は、誘電特性が低く、かつ、金属箔との接着性の高い硬化物が得られる樹脂組成物である。このため、この樹脂組成物又はこの樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層を備える樹脂付き金属箔は、誘電特性が低く、かつ、金属箔との接着性の高い硬化物が得られる樹脂層を備える樹脂付き金属箔である。そして、この樹脂付き金属箔は、誘電特性が低く、かつ、配線との接着性の高い絶縁層を備える配線板を好適に製造する際に用いることができる。例えば、配線板の上に積層することによって、多層の配線板を製造することができる。このような樹脂付き金属箔を用いて得られた配線板としては、誘電特性が低く、かつ、金属箔との接着性の高い絶縁層を備える配線板が得られる。
【0135】
[樹脂付きフィルム]
図5は、本実施の形態に係る樹脂付きフィルム41の一例を示す概略断面図である。
【0136】
本実施形態に係る樹脂付きフィルム41は、図5に示すように、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層42と、支持フィルム43とを備える。この樹脂付きフィルム41は、前記樹脂層42と、前記樹脂層42とともに積層される支持フィルム43とを備える。また、前記樹脂付きフィルム41は、前記樹脂層42と前記支持フィルム43との間に、他の層を備えていてもよい。
【0137】
また、前記樹脂層42としては、上記のような、前記樹脂組成物の半硬化物を含むものであってもよいし、また、硬化させていない前記樹脂組成物を含むものであってもよい。すなわち、前記樹脂付きフィルム41は、前記樹脂組成物の半硬化物(Bステージの前記樹脂組成物)を含む樹脂層と、支持フィルムとを備えるであってもよいし、硬化前の前記樹脂組成物(Aステージの前記樹脂組成物)を含む樹脂層と、支持フィルムとを備える樹脂付きフィルムであってもよい。また、前記樹脂層としては、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含んでいればよく、繊維質基材を含んでいても、含んでいなくてもよい。また、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物としては、前記樹脂組成物を乾燥又は加熱乾燥させたものであってもよい。また、繊維質基材としては、プリプレグの繊維質基材と同様のものを用いることができる。
【0138】
また、支持フィルム43としては、樹脂付きフィルムに用いられる支持フィルムを限定なく用いることができる。前記支持フィルムとしては、例えば、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリイミドフィルム、ポリパラバン酸フィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、及びポリアリレートフィルム等の電気絶縁性フィルム等が挙げられる。
【0139】
前記樹脂付きフィルム41は、必要に応じて、カバーフィルム等を備えてもよい。カバーフィルムを備えることにより、異物の混入等を防ぐことができる。前記カバーフィルムとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリオレフィンフィルム、ポリエステルフィルム、及びポリメチルペンテンフィルム等が挙げられる。
【0140】
前記支持フィルム及びカバーフィルムとしては、必要に応じて、マット処理、コロナ処理、離型処理、及び粗化処理等の表面処理が施されたものであってもよい。
【0141】
前記樹脂付きフィルム41を製造する方法は、前記樹脂付きフィルム41を製造することができれば、特に限定されない。前記樹脂付きフィルム41の製造方法は、例えば、上記ワニス状の樹脂組成物(樹脂ワニス)を支持フィルム43上に塗布し、加熱することにより製造する方法等が挙げられる。ワニス状の樹脂組成物は、例えば、バーコーターを用いることにより、支持フィルム43上に塗布される。塗布された樹脂組成物は、例えば、40℃以上180℃以下、0.1分以上10分以下の条件で加熱される。加熱された樹脂組成物は、未硬化の樹脂層42として、支持フィルム43上に形成される。なお、前記加熱によって、前記樹脂ワニスから有機溶媒を揮発させ、有機溶媒を減少又は除去させることができる。
【0142】
本実施形態に係る樹脂組成物は、誘電特性が低く、かつ、金属箔との接着性の高い硬化物が得られる樹脂組成物である。このため、この樹脂組成物又はこの樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層を備える樹脂付きフィルムは、誘電特性が低く、かつ、金属箔との接着性の高い硬化物が得られる樹脂層を備える樹脂付きフィルムである。そして、この樹脂付きフィルムは、誘電特性が低く、かつ、配線との接着性の高い絶縁層を備える配線板を好適に製造する際に用いることができる。例えば、配線板の上に積層した後に、支持フィルムを剥離すること、又は、支持フィルムを剥離した後に、配線板の上に積層することによって、多層の配線板を製造することができる。このような樹脂付きフィルムを用いて得られた配線板としては、誘電特性が低く、かつ、配線との接着性の高い絶縁層を備える配線板が得られる。
【0143】
本明細書は、上記のように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
【0144】
本発明の一局面は、分子中にエポキシ基を有するポリブタジエン化合物と、下記式(1)で表される基及び下記式(2)で表される基の少なくとも一方を分子中に有するポリフェニレンエーテル化合物と、スチレン系ブロック共重合体と、硬化剤とを含有することを特徴とする樹脂組成物である。
【0145】
【化15】
式(1)中、pは、0~10を示し、Zは、アリーレン基を示し、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を示す。
【0146】
【化16】
式(2)中、Rは、水素原子又はアルキル基を示す。
【0147】
このような構成によれば、誘電特性が低く、かつ、金属箔との接着性の高い硬化物が得られる樹脂組成物を提供することができる。
【0148】
このことは、以下のことによると考えられる。
【0149】
まず、前記樹脂組成物は、前記ポリフェニレンエーテル化合物を、前記硬化剤とともに硬化させることで、前記ポリブタジエン化合物及び前記スチレン系ブロック共重合体が含有されていても、ポリフェニレンエーテルの有する優れた低誘電特性を維持した硬化物が得られると考えられる。また、前記樹脂組成物は、前記スチレン系ブロック共重合体とともに、分子中にエポキシ基を有するポリブタジエン化合物も含有するので、金属箔との接着性の高い硬化物が得られる。これらのことから、前記樹脂組成物は、誘電特性が低く、かつ、金属箔との接着性の高い硬化物が得られると考えられる。
【0150】
また、前記樹脂組成物において、前記ポリブタジエン化合物の含有量は、前記ポリブタジエン化合物、前記ポリフェニレンエーテル化合物、及び前記硬化剤の合計100質量部に対して、5~40質量部であることが好ましい。
【0151】
このような構成によれば、硬化させると、優れた低誘電特性を維持しつつ、金属箔との接着性のより高い硬化物となる樹脂組成物が得られる。
【0152】
また、前記樹脂組成物において、前記ポリブタジエン化合物の含有量は、前記ポリブタジエン化合物、前記ポリフェニレンエーテル化合物、前記スチレン系ブロック共重合体、及び前記硬化剤の合計100質量部に対して、3~20質量部であることが好ましい。
【0153】
このような構成によれば、硬化させると、優れた低誘電特性を維持しつつ、金属箔との接着性のより高い硬化物となる樹脂組成物が得られる。
【0154】
また、前記樹脂組成物において、前記硬化剤が、アリル化合物を含むことが好ましい。
【0155】
このような構成によれば、誘電特性が低く、かつ、金属箔との接着性の高い硬化物が好適に得られる樹脂組成物が提供される。このことは、前記アリル化合物が、前記ポリフェニレンエーテル化合物を、前記ポリブタジエン化合物及び前記スチレン系ブロック共重合体とともに好適に硬化させることができることによると考えられる。
【0156】
また、前記樹脂組成物において、前記アリル化合物が、分子中に2個以上のアリル基を有するアリルイソシアヌレート化合物を含むことが好ましい。
【0157】
このような構成によれば、誘電特性が低く、かつ、金属箔との接着性の高い硬化物が好適に得られる樹脂組成物が提供される。このことは、前記アリルイソシアヌレート化合物が、前記ポリフェニレンエーテル化合物を、前記ポリブタジエン化合物及び前記スチレン系ブロック共重合体とともに好適に硬化させることができることによると考えられる。
【0158】
また、前記樹脂組成物において、前記ポリブタジエン化合物は、オキシラン酸素の濃度が1~10質量%であることが好ましい。
【0159】
このような構成によれば、硬化させると、優れた低誘電特性を維持しつつ、金属箔との接着性のより高い硬化物となる樹脂組成物が得られる。このことは、前記ポリブタジエン化合物を含有させることによる、硬化物の金属箔に対する接着性を向上させる効果をより好適に奏することができることによると考えられる。
【0160】
また、前記樹脂組成物において、前記スチレン系ブロック共重合体が、メチルスチレン(エチレン/ブチレン)メチルスチレン共重合体、メチルスチレン(エチレン-エチレン/プロピレン)メチルスチレン共重合体、スチレンイソプレン共重合体、スチレンイソプレンスチレン共重合体、スチレン(エチレン/ブチレン)スチレン共重合体、スチレン(エチレン-エチレン/プロピレン)スチレン共重合体、スチレンブタジエンスチレン共重合体、スチレン(ブタジエン/ブチレン)スチレン共重合体、スチレンイソブチレンスチレン共重合体、及びこれらの水添物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0161】
このような構成によれば、硬化させると、優れた低誘電特性を維持しつつ、金属箔との接着性のより高い硬化物となる樹脂組成物が得られる。このことは、前記スチレン系ブロック共重合体が含有されることによって、硬化物の金属箔に対する接着性が低下することを抑制できることによると考えられる。
【0162】
また、前記樹脂組成物において、前記ポリフェニレンエーテル化合物が、前記式(2)で表される基を分子中に有するポリフェニレンエーテル化合物を含むことが好ましい。
【0163】
このような構成によれば、誘電特性がより低く、かつ、金属箔との接着性のより高い硬化物が得られる樹脂組成物を提供することができる。
【0164】
また、本発明の他の一局面は、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物と、繊維質基材とを備えるプリプレグである。
【0165】
このような構成によれば、誘電特性が低く、かつ、金属箔との接着性の高い硬化物が得られるプリプレグを提供することができる。
【0166】
また、本発明の他の一局面は、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層と、支持フィルムとを備える樹脂付きフィルムである。
【0167】
このような構成によれば、誘電特性が低く、かつ、金属箔との接着性の高い硬化物が得られる樹脂層を備える樹脂付きフィルムを提供することができる。
【0168】
また、本発明の他の一局面は、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層と、金属箔とを備える樹脂付き金属箔である。
【0169】
このような構成によれば、誘電特性が低く、かつ、金属箔との接着性の高い硬化物が得られる樹脂層を備える樹脂付き金属箔を提供することができる。
【0170】
また、本発明の他の一局面は、前記樹脂組成物の硬化物又は前記プリプレグの硬化物を含む絶縁層と、金属箔とを備える金属張積層板である。
【0171】
このような構成によれば、誘電特性が低く、かつ、金属箔との接着性の高い硬化物を含む絶縁層を備える金属張積層板を提供することができる。
【0172】
また、本発明の他の一局面は、前記樹脂組成物の硬化物又は前記プリプレグの硬化物を含む絶縁層と、配線とを備える配線板である。
【0173】
このような構成によれば、誘電特性が低く、かつ、金属箔との接着性の高い硬化物を含む絶縁層を備える配線板を提供することができる。
【0174】
本発明によれば、誘電特性が低く、かつ、金属箔との接着性の高い硬化物が得られる樹脂組成物を提供することができる。また、本発明によれば、前記樹脂組成物を用いて得られる、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線板が提供される。
【0175】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0176】
[実施例1~7、及び比較例1~3]
本実施例において、樹脂組成物を調製する際に用いる各成分について説明する。
【0177】
(エポキシ基含有ポリブタジエン)
エポキシ基含有ポリブタジエン1:分子中にエポキシ基を有するポリブタジエン化合物(日本曹達株式会社製のJP-100、オキシラン濃度:7.7質量%)
エポキシ基含有ポリブタジエン2:分子中にエポキシ基を有するポリブタジエン化合物(株式会社ダイセル製のPB3600、オキシラン濃度:8.2質量%)
エポキシ基含有ポリブタジエン3:分子中にエポキシ基を有するポリブタジエン化合物(Cray Valley社製のRicon657、オキシラン濃度:6.7質量%)
(ポリフェニレンエーテル化合物:PPE)
変性PPE1:末端にメタクリロイル基を有するポリフェニレンエーテル化合物(ポリフェニレンエーテルの末端水酸基をメタクリロイル基で変性した変性ポリフェニレンエーテル、上記式(12)で表され、式(12)中のYがジメチルメチレン基(式(9)で表され、式(9)中のR33及びR34がメチル基である基)である変性ポリフェニレンエーテル化合物、SABICイノベーティブプラスチックス社製のSA9000、重量平均分子量Mw2000、末端官能基数2個)
変性PPE2:末端にビニルベンジル基(エテニルベンジル基)を有するポリフェニレンエーテル化合物(ポリフェニレンエーテルとクロロメチルスチレンとを反応させて得られた変性ポリフェニレンエーテル)である。
【0178】
具体的には、以下のように反応させて得られた変性ポリフェニレンエーテルである。
【0179】
まず、温度調節器、攪拌装置、冷却設備、及び滴下ロートを備えた1リットルの3つ口フラスコに、ポリフェニレンエーテル(SABICイノベーティブプラスチックス社製のSA90、末端水酸基数2個、重量平均分子量Mw1700)200g、p-クロロメチルスチレンとm-クロロメチルスチレンとの質量比が50:50の混合物(東京化成工業株式会社製のクロロメチルスチレン:CMS)30g、相間移動触媒として、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイド1.227g、及びトルエン400gを仕込み、攪拌した。そして、ポリフェニレンエーテル、クロロメチルスチレン、及びテトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイドが、トルエンに溶解するまで攪拌した。その際、徐々に加熱し、最終的に液温が75℃になるまで加熱した。そして、その溶液に、アルカリ金属水酸化物として、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム20g/水20g)を20分間かけて、滴下した。その後、さらに、75℃で4時間攪拌した。次に、10質量%の塩酸でフラスコの内容物を中和した後、多量のメタノールを投入した。そうすることによって、フラスコ内の液体に沈殿物を生じさせた。すなわち、フラスコ内の反応液に含まれる生成物を再沈させた。そして、この沈殿物をろ過によって取り出し、メタノールと水との質量比が80:20の混合液で3回洗浄した後、減圧下、80℃で3時間乾燥させた。
【0180】
得られた固体を、H-NMR(400MHz、CDCl、TMS)で分析した。NMRを測定した結果、5~7ppmにビニルベンジル基(エテニルベンジル基)に由来するピークが確認された。これにより、得られた固体が、分子末端に、前記置換基としてビニルベンジル基(エテニルベンジル基)を分子中に有する変性ポリフェニレンエーテルであることが確認できた。具体的には、エテニルベンジル化されたポリフェニレンエーテルであることが確認できた。この得られた変性ポリフェニレンエーテル化合物は、上記式(11)で表され、Yがジメチルメチレン基(式(9)で表され、式(9)中のR33及びR34がメチル基である基)であり、Zが、フェニレン基であり、R~Rが水素原子であり、pが1である変性ポリフェニレンエーテル化合物であった。
【0181】
また、変性ポリフェニレンエーテルの末端官能基数を、以下のようにして測定した。
【0182】
まず、変性ポリフェニレンエーテルを正確に秤量した。その際の重量を、X(mg)とする。そして、この秤量した変性ポリフェニレンエーテルを、25mLの塩化メチレンに溶解させ、その溶液に、10質量%のテトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAH)のエタノール溶液(TEAH:エタノール(体積比)=15:85)を100μL添加した後、UV分光光度計(株式会社島津製作所製のUV-1600)を用いて、318nmの吸光度(Abs)を測定した。そして、その測定結果から、下記式を用いて、変性ポリフェニレンエーテルの末端水酸基数を算出した。
【0183】
残存OH量(μmol/g)=[(25×Abs)/(ε×OPL×X)]×10
ここで、εは、吸光係数を示し、4700L/mol・cmである。また、OPLは、セル光路長であり、1cmである。
【0184】
そして、その算出された変性ポリフェニレンエーテルの残存OH量(末端水酸基数)は、ほぼゼロであることから、変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基が、ほぼ変性されていることがわかった。このことから、変性前のポリフェニレンエーテルの末端水酸基数からの減少分は、変性前のポリフェニレンエーテルの末端水酸基数であることがわかった。すなわち、変性前のポリフェニレンエーテルの末端水酸基数が、変性ポリフェニレンエーテルの末端官能基数であることがわかった。つまり、末端官能基数が、2個であった。
【0185】
また、変性ポリフェニレンエーテルの、25℃の塩化メチレン中で固有粘度(IV)を測定した。具体的には、変性ポリフェニレンエーテルの固有粘度(IV)を、変性ポリフェニレンエーテルの、0.18g/45mlの塩化メチレン溶液(液温25℃)を、粘度計(Schott社製のAVS500 Visco System)で測定した。その結果、変性ポリフェニレンエーテルの固有粘度(IV)は、0.086dl/gであった。
【0186】
また、変性ポリフェニレンエーテルの分子量分布を、GPCを用いて、測定した。そして、その得られた分子量分布から、重量平均分子量(Mw)を算出した。その結果、Mwは、1900であった。
【0187】
(スチレン系ブロック共重合体)
TR2827:スチレンブタジエンスチレン共重合体(JSR株式会社製のTR2827)
Septon8007:水添スチレン(エチレン/ブチレン)スチレン共重合体(株式会社クラレ製のSepton8007)
SeptonV9827:水添メチルスチレン(エチレン/ブチレン)メチルスチレン共重合体(株式会社クラレ製のSeptonV9827)
(硬化剤:アリル化合物)
TAIC:トリアリルイソシアヌレート(日本化成株式会社製のTAIC)
TMPT:トリメチロールプロパントリメタクリレート(新中村化学工業株式会社製のTMPT)
(その他)
ポリブタジエン:ポリブタジエン(日本曹達株式会社製のB-1000、オキシラン濃度:0質量%)
エポキシ樹脂:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC株式会社製の830S)
開始剤:α,α’-ジ(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン(日油株式会社製のパーブチルP(PBP))
硬化促進剤:2-エチル-4-メチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製の2E4MZ)
充填材:ビニルシラン処理されたシリカ(株式会社アドマテックス製のSV-C2、平均粒径:1.5μm)
【0188】
[調製方法]
まず、充填材以外の各成分を表1に記載の組成(質量部)で、固形分濃度が50質量%となるように、トルエンに添加し、混合させた。その混合物を60分間攪拌した。その後、得られた液体に充填材を添加し、ビーズミルで充填材を分散させた。そうすることによって、ワニス状の樹脂組成物(ワニス)が得られた。
【0189】
次に、以下のようにして、評価基板(樹脂付き金属箔の硬化物)を得た。
【0190】
得られたワニスを、金属箔(銅箔、三井金属鉱業株式会社製の3EC-VLP、厚み12μm)に、厚み50μmとなるように塗布し、120℃で、3分間加熱することにより、樹脂付き金属箔を得た。そして、得られた樹脂付き金属箔を、樹脂層同士が接触するように2枚重ねた。これを被圧体とし、真空下200℃、圧力4MPaの条件で2時間加熱加圧することにより、樹脂付き金属箔の樹脂層を硬化させた。これを評価基板(樹脂付き金属箔の硬化物)とした。なお、評価基板における樹脂層の厚み(金属箔以外の厚み)は、100μmであった。
【0191】
上記のように調製された評価基板(樹脂付き金属箔の硬化物)を、以下に示す方法により評価を行った。
【0192】
[誘電特性(比誘電率及び誘電正接)]
10GHzにおける評価基板(樹脂付き金属箔の硬化物)の銅箔を除去した積層板の比誘電率及び誘電正接を、空洞共振器摂動法で測定した。具体的には、ネットワークアナライザ(アジレント・テクノロジー株式会社製のN5230A)を用い、10GHzにおける評価基板の銅箔を除去した積層板の比誘電率及び誘電正接を測定した。
【0193】
[銅箔ピール強度]
評価基板(樹脂付き金属箔の硬化物)から銅箔を引き剥がし、そのときのピール強度(銅箔ピール強度)を、JIS C 6481に準拠して測定した。具体的には、評価基板から銅箔を引っ張り試験機により50mm/分の速度で引き剥がし、そのときのピール強度(N/mm)を測定した。
【0194】
[ガラス転移温度(Tg)]
セイコーインスツルメンツ株式会社製の粘弾性スペクトロメータ「DMS6100」を用いて、評価基板(樹脂付き金属箔の硬化物)の銅箔を除去した積層板のTgを測定した。このとき、引張りモジュールで周波数を10Hzとして動的粘弾性測定(DMA)を行い、昇温速度5℃/分の条件で室温から320℃まで昇温した際のtanδが極大を示す温度をTgとした。
【0195】
上記各評価における結果は、表1に示す。
【0196】
【表1】
【0197】
表1からわかるように、前記ポリフェニレンエーテル化合物及び前記硬化物を含有する樹脂組成物において、分子中にエポキシ基を有するポリブタジエン化合物とスチレン系ブロック共重合体とを含む場合(実施例1~7)は、分子中にエポキシ基を有するポリブタジエン化合物を含まない場合(比較例1~3)と比較して、誘電特性が低く、かつ、銅箔ピール強度が高かった。例えば、分子中にエポキシ基を有するポリブタジエン化合物の代わりに、ポリブタジエンを含有させた場合(比較例2)であっても、銅箔ピール強度を高めることができなかった。また、分子中にエポキシ基を有するポリブタジエン化合物の代わりに、エポキシ樹脂を含有させた場合(比較例3)、銅箔ピール強度を高めることができても、低誘電特性が充分に達成できなかった。よって、前記ポリフェニレンエーテル化合物及び前記硬化物を含有する樹脂組成物において、分子中にエポキシ基を有するポリブタジエン化合物とスチレン系ブロック共重合体とを含むことによって、低誘電特性と金属箔に対する高接着性とを両立できることがわかった。さらに、実施例1~7の場合、厚みが12μmと比較的薄い銅箔を用いた場合であっても、金属箔(銅箔)に対する高い接着性を発揮できることがわかった。
【0198】
前記分子中にエポキシ基を有するポリブタジエン化合物として、オキシラン酸素の濃度が7.7質量%であるエポキシ基含有ポリブタジエン1を用いた場合(実施例2等)、オキシラン酸素の濃度が8.2質量%であるエポキシ基含有ポリブタジエン2を用いた場合(実施例5)、及びオキシラン酸素の濃度が6.7質量%であるエポキシ基含有ポリブタジエン3を用いた場合(実施例6)のいずれであっても、比較例1~3と比較して、誘電特性が低く、かつ、銅箔ピール強度が高かった。このことからも、前記分子中にエポキシ基を有するポリブタジエン化合物の、オキシラン酸素の濃度が1~10質量%であることが好ましいことがわかる。
【0199】
また、硬化剤として、TAICを用いた場合(実施例2)は、TMPTを用いたこと以外、実施例2と同様の実施例7と比較して、ガラス転移温度が高かった。このことから、硬化剤が、分子中に2個以上のアリル基を有するアリルイソシアヌレート化合物等のアリル化合物を含むことが好ましいことがわかる。
【0200】
この出願は、2019年7月17日に出願された日本国特許出願特願2019-132004を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。
【0201】
本発明を表現するために、上述において実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0202】
本発明によれば、誘電特性が低く、かつ、金属箔との接着性の高い硬化物が得られる樹脂組成物が提供される。また、本発明によれば、前記樹脂組成物を用いて得られる、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線板が提供される。
図1
図2
図3
図4
図5