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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】FGF21産生促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/23 20060101AFI20240712BHJP
   A61K 36/634 20060101ALI20240712BHJP
   A61K 36/238 20060101ALI20240712BHJP
   A61K 36/9068 20060101ALI20240712BHJP
   A61K 36/484 20060101ALI20240712BHJP
   A61K 36/284 20060101ALI20240712BHJP
   A61K 36/232 20060101ALI20240712BHJP
   A61K 36/65 20060101ALI20240712BHJP
   A61K 36/8968 20060101ALI20240712BHJP
   A61K 36/79 20060101ALI20240712BHJP
   A61K 36/185 20060101ALI20240712BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240712BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240712BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240712BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240712BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20240712BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240712BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20240712BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20240712BHJP
   A61K 36/539 20060101ALN20240712BHJP
   A61P 3/10 20060101ALN20240712BHJP
   A61P 3/04 20060101ALN20240712BHJP
   A61P 3/06 20060101ALN20240712BHJP
【FI】
A61K36/23
A61K36/634
A61K36/238
A61K36/9068
A61K36/484
A61K36/284
A61K36/232
A61K36/65
A61K36/8968
A61K36/79
A61K36/185
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A61P9/00
A61P31/04
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P1/16
A61P3/00
A61P9/12
A61K36/539
A61P3/10
A61P3/04
A61P3/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019236208
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021104950
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500175325
【氏名又は名称】学校法人愛知学院
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】井上 誠
(72)【発明者】
【氏名】平居 貴生
(72)【発明者】
【氏名】中島 健一
(72)【発明者】
【氏名】田中 貴大
(72)【発明者】
【氏名】赤木 淳二
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-063260(JP,A)
【文献】特開2000-063227(JP,A)
【文献】特開2015-024982(JP,A)
【文献】国際公開第2004/035074(WO,A1)
【文献】特開2018-161144(JP,A)
【文献】特開2012-097077(JP,A)
【文献】Biomed. Pharmacother.,2019年01月,vol.109,p.503-510, Supplemental Information
【文献】漢方製剤 ツムラ防風通聖散エキス顆粒(医療用)添付文書,株式会社ツムラ,2018年
【文献】Chin. Med.,2016年,vol.11,30, p.1-10
【文献】日本東洋医学会誌,1981年,vol.31, no.2,p.115-119
【文献】生薬ハンドブック,ツムラ,1994年,p.18-23
【文献】日本薬理学会年会要旨集,2018年,PO3-6-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/23
A61K 36/634
A61K 36/238
A61K 36/539
A61K 36/9068
A61K 36/484
A61K 36/284
A61K 36/232
A61K 36/65
A61K 36/8968
A61K 36/79
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンギョウ、ボウフウ、ハマボウフウ、ショウキョウ、カンゾウ、ジュツ、トウキ、及びシャクヤクからなる群より選択される生薬のエキスを含有する、FGF21産生促進剤(但し、脂質分解促進に用いられるもの、及び糖尿病の治療又は予防に用いられるものを除く)
【請求項2】
防風通聖散エキスを含有する、請求項1に記載のFGF21産生促進剤。
【請求項3】
更に、バクモンドウ及び/又はゴミシのエキスを含有する、請求項1又は2に記載のFGF21産生促進剤。
【請求項4】
加味四物湯エキスを含有する、請求項3に記載のFGF21産生促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FGF21産生促進剤に関する。より具体的には、本発明は、FGF21産生促進機能を有する生薬エキスに関する。
【背景技術】
【0002】
FGF(線維芽細胞増殖因子: fibroblast growth factor)は、線維芽細胞をはじめとする様々な細胞に対して増殖活性や分化誘導など多彩な作用を示す多機能性細胞間シグナル因子である(非特許文献1)。FGFの一つであるFGF21は、分泌サイトカインとして生体に対して様々な作用を及ぼす因子であることから、医療への応用を目指した研究が進められている。
【0003】
近年、FGF21産生を促進する成分がいくつか報告されている。具体的には、生薬オウレンの主要成分であるベルベリン(非特許文献2、3)、特定の藻体(特許文献1)、ロフェノール化合物及び/又はシクロラノスタン化合物(特許文献2)に、FGF21産生を促進する作用が見出されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】生化学 第88巻第1号,pp86-93(2016)
【文献】「Berberine stimulates FGF21 expression via activation of AMP-activated protein kinase in brown and beige adipocytes」、愛知学院大学薬学会誌、第11巻、2018年12月、p.18-19
【文献】「代謝調節因子FGF21 を制御する天然物の探索」、愛知学院大学薬学会誌、第11巻、2018年12月、p.22-23
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-135311号公報
【文献】特開2019-151572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまで報告されているFGF21産生を促進する成分はわずかであり、たとえばベルベリンについては特有の副作用(例えば便秘)の可能性があること、特定の藻体については規格化されていないため生薬ほどの供給安定性が無いこと、ロフェノール化合物及び/又はシクロラノスタン化合物については合成物であることにより適用対象者によっては自然の生薬ほどは受け入れられない場合があること等に鑑みると、供給安定性や適応対象者拡大等の点で、FGF21産生を促進する成分について更なる選択肢が望まれる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、FGF21産生を促進する新たな生薬成分を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討を行ったところ、レンギョウ、ボウフウ、オウゴン、ショウキョウ、カンゾウ、ジュツ、トウキ、及びシャクヤクのエキスに、FGF21産生を促進する作用があることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. レンギョウ、ボウフウ、ハマボウフウ、オウゴン、ショウキョウ、カンゾウ、ジュツ、トウキ、及びシャクヤクからなる群より選択される生薬のエキスを含有する、FGF21産生促進剤。
項2. 防風通聖散エキスを含有する、項1に記載のFGF21産生促進剤。
項3. 更に、バクモンドウ及び/又はゴミシのエキスを含有する、項1又は2に記載のFGF21産生促進剤。
項4. 加味四物湯エキスを含有する、項3に記載のFGF21産生促進剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、FGF21産生を促進する新たな生薬成分が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のFGF21産生促進剤は、レンギョウ、ボウフウ、ハマボウフウ、オウゴン、ショウキョウ、カンゾウ、ジュツ、トウキ、及びシャクヤクからなる群より選択される生薬のエキスを含有することを特徴とする。以下、本発明のFGF21産生促進剤について詳述する。
【0012】
本発明のFGF21産生促進剤は、上記生薬のうち1種のエキスを含有するものであってもよいし、上記生薬のうち2種以上のエキスを含有するものであってもよい。本発明のFGF21産生促進剤が上記生薬のうち2種以上のエキスを含有する場合、FGF21産生促進剤の具体的な態様としては、それぞれの生薬の単独抽出物(単味生薬エキス)の混合物であってもよいし、複数生薬の混合物(生薬調合物)の抽出物であってもよい。
【0013】
レンギョウ(連翹)は、モクセイ科(Oleaceae)のレンギョウForsythia suspensa Vahlの果実で、生薬(日本薬局方)として、消炎排膿薬、皮膚疾患用薬とみなされる処方に配合して用いられる。
【0014】
ボウフウ(防風)は、セリ科(Umbelliferae)のボウフウ Saposhnikovia divaricata Schischkinの根及び根茎で、生薬(日本薬局方)として、皮膚疾患用薬、消炎排膿薬、鎮痛薬とみなされる処方に配合して用いられる。
【0015】
ハマボウフウ(浜防風)は、セリ科(Umbelliferae)のハマボウフウ Glehnia littoralis Fr. Schmidt ex Miquelの根及び根茎で、生薬(日本薬局方)として、感冒薬の処方に配合して用いられる。
【0016】
オウゴンは、シソ科(Labiatae)のコガネバナ Scutellaria baicalensis Georgiの周皮を除いた根で、生薬(日本薬局方)として、健胃消化薬、止瀉整腸薬、瀉下薬、解熱鎮痛消炎薬、消炎排膿薬、尿路疾患用薬、止血薬、高血圧症用薬、精神神経用薬とみなされる処方に配合して用いられる。
【0017】
ショウキョウ(生姜)は、ショウガ科(Zingiberaceae)のショウガ Zingiber officinale Roscoeの根茎、ときに周皮を除いたもので、生薬(日本薬局方)として、健胃薬の処方に配合して用いられる。
【0018】
カンゾウ(甘草)は、マメ科(Leguminosae)のGlycyrrhiza uralensis Fischer又はGlycyrrhiza glabra Linne の根及びストロン、ときに周皮を除いたもので、生薬(日本薬局方)として、風邪薬、解熱鎮痛消炎薬、鎮痛鎮痙薬、鎮咳去痰薬、健胃消化薬、止瀉整腸薬とみなされる処方に配合して用いられる。
【0019】
ジュツ(朮)は、ビャクジュツ(白朮)及びソウジュツ(蒼朮)の総称である。ビャクジュツは、キク科(Compositae)のオケラ Atractylodes japonica Koidzumi ex Kitamuraの根茎(和ビャクジュツ)又はオオバナオケラ Atractylodes macrocephala Koidzumi (Atractylodes ovata De Candolle)の根茎(唐ビャクジュツ)で、生薬(日本薬局方)として、健胃消化薬、止瀉整腸薬、利尿薬、鎮暈薬、保健強壮薬、鎮痛薬とみなされる処方に配合して用いられる。ソウジュツは、キク科(Compositae)のホソバオケラ Atractylodes lancea De Candolle又は Atractylodes chinensis Koidzumiの根茎で、生薬(日本薬局方)として、健胃消化薬、止瀉整腸薬、利尿薬、鎮暈薬、保健強壮薬、鎮痛薬とみなされる処方に配合して用いられる。
【0020】
トウキ(当帰)は、セリ科(Umbelliferae)のトウキ Angelica acutiloba Kitagawa又はホッカイトウキAngelica acutiloba Kitagawa var. sugiyamae Hikinoの根を、通例、湯通ししたもので、生薬(日本薬局方)として、婦人薬、冷え症用薬、保健強壮薬、精神神経用薬、尿路疾患用薬とみなされる処方に配合して用いられる。
【0021】
シャクヤク(芍薬)は、ボタン科(Paeoniaceae)のシャクヤクPaeonia lactiflora Pallasの根で、生薬(日本薬局方)として、鎮痛鎮痙薬、婦人薬、冷え症用薬、かぜ薬、皮膚疾患用薬、消炎排膿薬とみなされる処方に配合して用いられる。
【0022】
上記生薬のエキスは、上記植物の用部を、抽出溶媒を用いて抽出処理することにより得ることができる。上記植物の用部の抽出処理に使用される抽出溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール;1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール;これらの混合液等の極性溶媒が挙げられ、好ましくは水、メタノール、エタノール又はこれらの混合溶媒である。
【0023】
上記生薬のエキスはいずれもFGF21産生を促進する作用を有するが、本発明のFGF21産生促進剤は、より一層高いFGF21産生促進効果を得る観点から、上記の生薬のエキスの中でも、好ましくは、レンギョウ、ボウフウ、ハマボウフウ、オウゴン、ショウキョウ、カンゾウ、ジュツ、トウキからなる群より選択される生薬、より好ましくは、レンギョウ、ボウフウ、ハマボウフウ、オウゴン、ショウキョウ、カンゾウ、ジュツからなる群より選択される生薬、更に好ましくは、レンギョウ、ボウフウ、ハマボウフウ、オウゴン、ショウキョウからなる群より選択される生薬、一層好ましくは、レンギョウ、ボウフウ、ハマボウフウ、オウゴンからなる群より選択される生薬、より一層好ましくは、レンギョウ、ボウフウ、及び/又はハマボウフウ、最も好ましくはレンギョウのエキスを少なくとも含有する。
【0024】
本発明のFGF21産生促進剤は、上記の生薬に加えて、更に、バクモンドウ及び/又はゴミシのエキスを含有していてもよい。これらの生薬のエキスも、いずれもFGF21産生を促進する作用を有する。
【0025】
バクモンドウ(麦門冬)は、ユリ科(Liliaceae)のジャノヒゲ Ophiopogon japonicus Ker-Gawlerの根の膨大部で、生薬(日本薬局方)として、滋陰薬の処方に配合して用いられる。
【0026】
ゴミシ(五味子)は、マツブサ科(Schisandraceae)のチョウセンゴミシ Schisandra chinensis Baillonの果実で、生薬(日本薬局方)として、鎮咳去痰薬とみなされる処方に配合して用いられる。
【0027】
上記生薬のエキスも、上記植物の用部を、抽出溶媒を用いて抽出処理することにより得ることができる。上記植物の用部の抽出処理に使用される抽出溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール;1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール;これらの混合液等の極性溶媒が挙げられ、好ましくは水、メタノール、エタノール又はこれらの混合溶媒である。
【0028】
本発明のFGF産生促進剤の具体的な一例としては、防風通聖散エキスが挙げられる。防風通聖散を構成する生薬は、「一般用漢方処方の手引き」(厚生省薬務局監修、日薬連漢方専門委員会編集、薬業時報社発行)によれば、トウキ、シャクヤク、センキュウ、サンシシ、レンギョウ、ハッカ、ショウキョウ、ケイガイ、ボウフウ、マオウ、ダイオウ、ボウショウ、ビャクジュツ、キキョウ、オウゴン、カンゾウ、セッコウ、及びカッセキである。書簡によっては、前記生薬の内、ビャクジュツを含まないもの(例えば「経験漢方処方分量集」、大塚敬節・矢数道明監集、医道の日本社発行)や、オウゴンを含まないもの(例えば「続漢方あれこれ」大阪読売新聞社編、浪速社発行)がある。また、防風通聖散の処方によっては、ボウフウの代わりにハマボウフウを含むものや、ビャクジュツの代わりにソウジュツを含むものもある。本発明で用いることができる防風通聖散エキスは、これらのいずれの防風通聖散から得られるものであってもよいが、より一層高いFGF21産生促進効果を得る観点から、防風通聖散がビャクジュツ及びオウゴンを含む処方であることが好ましい。
【0029】
防風通聖散を構成する各生薬の分量は、「一般用漢方処方の手引き」(厚生省薬務局監修、日薬連漢方専門委員会編集、薬業時報社発行)、「第十七改正日本薬局方」等によれば、トウキ1.2重量部、シャクヤク1.2重量部、センキュウ1.2重量部、サンシシ1.2重量部、レンギョウ1.2重量部、ハッカ1.2重量部、ショウキョウ0.3~1.2重量部、ケイガイ1.2重量部、ボウフウ1.2重量部又はハマボウフウ1.2重量部、マオウ1.2重量部、ダイオウ1.5重量部、ボウショウ(硫酸ナトリウム無水物換算量)0.6~1.5重量部、ビャクジュツ2重量部、キキョウ2重量部、オウゴン2重量部、カンゾウ2重量部、セッコウ2~3重量部、及びカッセキ3~5重量部である。また、書簡によっては、前記分量中、1.2重量部を全て1.5重量部としているものもある(例えば「明解漢方処方」、西岡一夫、高橋真太郎共著、浪速社発行)。さらに、上記書簡に示されている各生薬の分量のうち、ショウキョウの分量を0.6~1.5重量部としてもよい。
【0030】
本発明で用いることができる防風通聖散エキスは、上記の生薬を混合した生薬調合物を公知の手法で抽出することによって得ることができる。例えば、生薬調合物に対して、約10~20倍量の水を加え、80~100℃程度で1~3時間程度撹拌して抽出する方法が挙げられる。
【0031】
本発明のFGF産生促進剤の具体的な他の例としては、加味四物湯エキスが挙げられる。加味四物湯を構成する生薬は、トウキ、センキュウ、シャクヤク、ジオウ、ソウジュツ、バクモンドウ、ニンジン、ゴシツ、オウバク、ゴミシ、オウレン、チモ、及びトチュウである。また、加味四物湯エキスの処方によっては、ソウジュツの代わりにビャクジュツを含むものもある。本発明で用いることができる加味四物湯エキスは、これらのいずれの加味四物湯から得られるものであってもよい。
【0032】
加味四物湯を構成する各生薬の分量は、「一般用漢方製剤承認基準」等によれば、トウキ2.5-3重量部、センキュウ2-3重量部、シャクヤク2-3重量部、ジオウ3-8重量部、ソウジュツ3重量部(又はビャクジュツ2.5重量部)、バクモンドウ2.5-5重量部、ニンジン1.5-2.5重量部、ゴシツ1-2.5重量部、オウバク1.5重量部、ゴミシ1-1.5重量部、オウレン1.5重量部、チモ1-1.5重量部、及びトチュウ1.5-2重量部である。
【0033】
本発明で用いることができる加味四物湯エキスは、上記の生薬を混合した生薬調合物を公知の手法で抽出することによって得ることができる。例えば、生薬混合物に対して、約5~25倍量、好ましくは約10~20倍量の抽出溶媒を加え、70~100℃程度で1~2時間程度加熱抽出する方法が挙げられる。
【0034】
上記の生薬又は生薬調合物から抽出されたエキスの形態及び形状は特に制限されず、溶媒を含む液状又は粘稠形態(エキス形態又は軟エキス形態)、及び乾燥形態(エキス末形態)のいずれであってもよい。これらの形態のエキスは、上記の抽出方法により得られた抽出液を、必要に応じて濃縮処理や乾燥処理に供することによって得ることができる。乾燥処理の具体的な方法としては、スプレードライ、減圧濃縮乾燥、凍結乾燥等が挙げられる。また、乾燥処理(特に、スプレードライによる乾燥処理)に供する際には、必要に応じて、抽出液にデキストリン等の賦形剤を添加してもよい。
【0035】
その他の成分
本発明のFGF21産生促進剤は、有効成分である上記の生薬エキスのみからなるものであってもよいし、製剤形態に応じた添加剤や基剤を含んでいてもよい。このような添加剤及び基剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、等張化剤、可塑剤、分散剤、乳化剤、溶解補助剤、湿潤化剤、安定化剤、懸濁化剤、粘着剤、コーティング剤、光沢化剤、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、低級アルコール類、多価アルコール、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、防腐剤、矯味剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの添加剤及び基剤の含有量については、使用する添加剤及び基剤の種類、FGF21産生促進剤の製剤形態等に応じて適宜設定される。
【0036】
また、本発明のFGF21産生促進剤は、有効成分である上記の生薬エキスの他に、必要に応じて、他の栄養成分や薬理成分を含有していてもよい。このような栄養成分や薬理成分としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、制酸剤、健胃剤、消化剤、整腸剤、鎮痙剤、粘膜修復剤、抗炎症剤、収れん剤、鎮吐剤、鎮咳剤、去痰剤、消炎酵素剤、鎮静催眠剤、抗ヒスタミン剤、カフェイン類、強心利尿剤、抗菌剤、血管収縮剤、血管拡張剤、局所麻酔剤、生薬エキス、ビタミン類、メントール類等が挙げられる。これらの栄養成分や薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの成分の含有量については、使用する成分の種類、FGF21産生促進剤の製剤形態等に応じて適宜設定される。
【0037】
製剤形態
本発明のFGF21産生促進剤の製剤形態については、経口投与が可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤(ドライシロップを含む)、錠剤、丸剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)等の固形状製剤;ゼリー剤等の半固形状製剤;液剤、懸濁剤、シロップ剤等の液状製剤が挙げられる。本発明のFGF21産生促進剤をこれらの製剤形態に調製するには、有効成分である上記の生薬エキス、及び必要に応じて添加される添加剤、基剤、及び薬理成分を用いて、通常の製剤化手法に従って製剤化すればよい。
【0038】
用途
本発明のFGF21産生促進剤は、FGF21の産生を促進させる目的で使用される。FGF21産生促進剤は、生体に投与することにより、生体内のFGF21の発現量を増加させる。FGF21に基づく作用として、糖尿病、脂質異常症、肥満、心血管疾患、心臓障害(肥大心等)、敗血症、関節リウマチ、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)およびメタボリック症候群(インスリン抵抗性、脂質異常症、内臓型肥満および高血圧)等に対する予防・治療効果が知られている。そのため、本発明のFGF21産生促進剤は、FGF21の発現量を増加させることに伴い、FGF21に基づく上記の作用を得る目的で使用することができる。
【0039】
用量・用法
本発明のFGF21産生促進剤は経口投与によって使用される。本発明のFGF21産生促進剤の用量については、有効成分の種類、投与対象者の年齢、性別、体質等に応じて適宜設定されるが、例えば、ヒト1人に対して1日当たり、FGF21産生促進剤の有効成分であるエキスの総量で、例えば1~10g程度、好ましくは1.5~8g程度、より好ましくは1.5~6g程度となる量、又は、FGF産生促進剤の有効成分であるエキスの原生薬換算量の総量で、例えば5~50g程度、好ましくは7.5~40g程度、より好ましくは7.5~30gとなる量で、1日1~3回、好ましくは2又は3回の頻度で服用すればよい。服用タイミングについては、特に制限されず、食前、食後、又は食間のいずれであってもよいが、食前(食事の30分前)又は食間(食後2時間後)が好ましい。
【0040】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
試験例1
(1)生薬エキスの調製
表1及び2に示す各生薬に10倍量のメタノールを加え、一晩冷浸抽出する工程を3回繰り返し、得られた抽出液を濃縮乾固し、乾燥エキスを得た。得られた乾燥エキスを、100mg/mLとなるように、0.1重量%ジメチルスルホキシド水溶液中に溶解し、エキス溶液を得た。
【0042】
(2)細胞試験
C2C12細胞を、増殖培地[DMEM(高グルコース)、ペニシリン-ストレプトマイシン(Wako)、及び10%vウシ胎児血清(FBS;Wako)]を入れた培養ディッシュ(48ウェルプレート、corning)に、底面積1cm2あたり25,000個となるように播種した。24時間後、分化培地[DMEM(高グルコース)、ペニシリン-ストレプトマイシン、1%HS(ウマ血清;Thermo Fisher Scientific)]に交換し(0日目)、その後、分化培地で4日間培養した。
【0043】
培養4日目のC2C12細胞に対して(1)で調製したエキス溶液を添加し、20時間インキュベートした。また、コントロールとして、エキス溶液の代わりに0.1重量%ジメチルスルホキシド水溶液を添加したことを除いて同様の操作を行った。培地を回収し、ELISA法によりFGF21を測定した。FGF21の測定にはMouse/Rat FGF-21 Quantikine ELISA Kit(R&D system)を使用した。コントロールにおけるFGF21量を100%とした場合の各エキス添加によるFGF21の相対量(%)を導出した。結果を表1及び2に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
表1及び2から明らかなとおり、様々な生薬のエキスのうち、レンギョウ、ボウフウ、ハマボウフウ、オウゴン、ショウキョウ、カンゾウ、ジュツ(ビャクジュツ及びソウジュツ)、トウキ、並びにシャクヤクそれぞれのエキスと、バクモンドウ及びゴミシそれぞれのエキスにおいてFGF21相対量が100%を超えていることから、FGF21の産生促進効果が認められた。特に、レンギョウ(実施例1)、ボウフウ(実施例2)、ハマボウフウ(実施例3)のエキスによるFGF21の産生促進効果は、FGF21の産生効果が報告されたベルベリンを含むオウレン(参考例1)及びオウバク(参考例2)のエキスを上回る優れた効果として得られた。中でも、レンギョウ(実施例1)のエキスによるFGF21の産生促進効果が格段に優れていることを確認した。
【0047】
試験例2
(1)防風通聖散エキスの調製
原料生薬として、トウキ1.2(重量部、以下同じ)、シャクヤク1.2、センキュウ1.2、サンシシ1.2、レンギョウ1.2、ハッカ1.2、ショウキョウ1.2、ケイガイ1.2、ボウフウ1.2、マオウ1.2、ダイオウ1.5、硫酸ナトリウム無水物1.5、ビャクジュツ2.0、キキョウ2.0、オウゴン2.0、カンゾウ2.0、セッコウ2.0及びカッセキ3.0の割合で用い、これらを刻んだ後、水12倍重量を用いて約100℃で30分間抽出し、遠心分離して抽出液を得た。抽出液を減圧下で濃縮し、スプレードライヤーを用いて乾燥した。なお、スプレードライヤーによる乾燥は、抽出液を回転数10000rpmのアトマイザーに落下させ、150℃の空気の熱風を供給することによって行った。
【0048】
(2)動物実験
実験動物として、14日間予備飼育した雄性6週齢のddyマウス(日本エスエルシー株式会社)を用いた。マウスは、予備飼育期間及び実験期間を通して、室温24±1℃の飼育室(照明時間8時~20時)で飼育した。マウスに対して、防風通聖散エキスを4g/kgの用量で、又は、レンギョウエキス(試験例1で調製したもの)を1.3g/kgの用量で、経口投与した。投与後4時間経過時に、ヘパリンナトリウム添加の注射筒を用いて採血を行った。コントロールとして、同様に予備飼育したddyマウスに防風通聖散エキス又はレンギョウエキスを投与しなかったことを除いて同様の操作を行った。採血した血液を遠心分離(3000rpm、15分)して血漿を分離し、血漿中のFGF21を、ELISA法により測定した。FGF21の測定にはMouse/Rat FGF-21 Quantikine ELISA Kit(R&D system)を使用した。コントロールにおけるFGF21量を100%とした場合の各エキス投与によるFGF21の相対量(%)を導出した。結果を表3に示す。
【0049】
【表3】
【0050】
表3から明らかなとおり、レンギョウエキス(実施例14)がマウスにおいてFGF21産生を促進し、レンギョウ、ボウフウ、オウゴン、ショウキョウ、カンゾウ、ジュツ、トウキ及びシャクヤクを含む生薬調合物のエキスである防風通聖散エキスも同様にマウスにおいてFGF21産生を促進したことを確認した。
【0051】
試験例3
(1)加味四物湯エキスの調製
原料生薬として、トウキ1.5(重量部、以下同じ)、センキュウ1.5、シャクヤク1.5、ジオウ1.5、ソウジュツ1.5、バクモンドウ2.5、ニンジン1.2、ゴシツ1.25、オウバク0.75、ゴミシ0.75、オウレン0.75、チモ0.75、およびトチュウ0.75の割合で用い、これらを刻んだ後、水10倍重量を用いて約100℃で60分間抽出し、遠心分離して抽出液を得た。抽出液を減圧下で濃縮し、スプレードライヤーを用いて乾燥した。なお、スプレードライヤーによる乾燥は、抽出液を回転数10000rpmのアトマイザーに落下させ、150℃の空気の熱風を供給することによって行った。
【0052】
(2)動物実験
投与エキスを加味四物湯エキスに変更し、採血のタイミングを投与後2時間経過時に変更したことを除いて、試験例3と同様の操作を行い、コントロールにおけるFGF21量を100%とした場合の加味四物湯エキス投与によるFGF21の相対量(%)を導出した。結果を表4に示す。
【0053】
【表4】
【0054】
表4から明らかなとおり、ソウジュツ、バクモンドウ、ゴミシ、トウキ、シャクヤクを含む生薬調合物のエキスである加味四物湯エキスがマウスにおいてFGF21産生を促進したことを確認した。