IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ つばめBHB株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人東京工業大学の特許一覧

<>
  • 特許-成形焼結体および成形焼結体の製造方法 図1
  • 特許-成形焼結体および成形焼結体の製造方法 図2
  • 特許-成形焼結体および成形焼結体の製造方法 図3
  • 特許-成形焼結体および成形焼結体の製造方法 図4
  • 特許-成形焼結体および成形焼結体の製造方法 図5
  • 特許-成形焼結体および成形焼結体の製造方法 図6
  • 特許-成形焼結体および成形焼結体の製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】成形焼結体および成形焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/25 20060101AFI20240712BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20240712BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20240712BHJP
   B01J 35/60 20240101ALI20240712BHJP
【FI】
B01J27/25 M
B01J37/04 102
B01J37/08
B01J35/60 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021502301
(86)(22)【出願日】2020-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2020007620
(87)【国際公開番号】W WO2020175519
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2019032346
(32)【優先日】2019-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517420810
【氏名又は名称】つばめBHB株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100154391
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康義
(72)【発明者】
【氏名】井上 泰徳
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 宗宣
(72)【発明者】
【氏名】岸田 和久
(72)【発明者】
【氏名】細野 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】北野 政明
(72)【発明者】
【氏名】横山 壽治
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/030394(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/133133(WO,A1)
【文献】WANG, R. et al.,Synthesis, Reduction, and Electrical Properties of Macroporous Monolithic Mayenite Electrides with High Porosity,ACS Omega,米国,American Chemical Society,2023年12月21日,Vol. 2, No. 11,pp. 8148-8155,DOI: 10.1021/acsomega, 7b01121
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C04B 2/00-41/91
C01C 1/04
Scopus
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項12】
前記焼成物に遷移金属を担持して成形焼結体を作製する工程は、常圧または減圧下で、前記焼成物に遷移金属を担持する請求項10または11に記載の成形焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイエナイト型化合物、無機バインダー焼結物および遷移金属を含む成形焼結体およびその成形焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業生産において広く用いられる硫安や尿素などの窒素肥料は、アンモニアを主原料として製造される。そのためアンモニアは非常に重要な化学原料として、その製造方法が検討されている。最も広く使用されているアンモニア製造技術として、ハーバー・ボッシュ法が挙げられる。ハーバー・ボッシュ法は、窒素と水素を原料として、鉄を主成分とした触媒と高温高圧下で接触させることでアンモニアを製造する方法である。ハーバー・ボッシュ法以外の合成方法として、種々の担体にルテニウムを担持した担持金属触媒を用いた合成方法が検討されている。
【0003】
一方、CaO、Al、SiOを構成成分とするアルミノケイ酸カルシウムの中に、鉱物名をマイエナイトと呼ぶ物質があり、その物質と同型の結晶構造を有する化合物を「マイエナイト型化合物」という。マイエナイト型化合物は、12CaO・7Al(以下、「C12A7」と略記することがある)なる代表組成を有し、C12A7結晶は、2分子からなる単位胞にある66個の酸素イオンの内の2個が、結晶骨格で形成されるケージ内の空間に「フリー酸素イオン」として包接されているという、特異な結晶構造([Ca24Al28644+(O2-)を持つことが報告されている(非特許文献1)。
【0004】
また、マイエナイト型化合物中のフリー酸素イオンを種々の陰イオンで置換することができ、特に強い還元雰囲気下、高温でマイエナイト型化合物を保持することで、すべてのフリー酸素イオンを電子で置換することができる。そして、この電子で置換されたマイエナイト型化合物が、良好な電子伝導特性を有する導電性マイエナイト型化合物であることが報告されている(非特許文献2)。このように、フリー酸素イオンを電子で置換したマイエナイト型化合物を「Cl2A7エレクトライド」と呼ぶことがある。
【0005】
そして、C12A7エレクトライドを用いた触媒が、アンモニア合成用触媒として使用できることが報告されている(特許文献1)。当該アンモニア合成用触媒は、具体的には、マイエナイト型化合物を還元雰囲気下、加熱することで、Cl2A7エレクトライドを作製し、このC12A7エレクトライドを担体として、ルテニウムを担持して製造することができる。また、マイエナイト型化合物を還元処理することでC12A7エレクトライドと同程度のアンモニア合成用触媒として機能することも報告されている。(特許文献2)この触媒は、従来のアンモニア合成用触媒に比べて、低温および低圧下で高いアンモニア合成活性を有し、高性能のアンモニア合成用触媒となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開WO2012/077658号
【文献】国際公開WO2018/030394号
【非特許文献】
【0007】
【文献】H.B.Bartl,T.Scheller and N.Jarhrb,Mineral Monatch.1970,547
【文献】S.Matuishi,Y.Toda,M.Miyakawa,K.Hayashi,T.Kamiya,M.Hirano,I.Tanaka and H.Hosono,Science 301,626-629(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
触媒は、その触媒を使用する反応器の形式に合わせて、必要な機械的強度を備えている必要がある。例えば、触媒が反応器への触媒充填時の圧力や衝撃に耐えるようにする必要がある。アンモニアの製造を工業的に行う場合には、固定床を用いて窒素と水素を流通させながら触媒と接触させる気相反応を行うことが広く採用されているが、用いる固体触媒は十分な機械的強度を満たし、且つ本来の触媒性能を十分に発現させる必要がある。このため、非特許文献2、特許文献1および特許文献2に記載されている触媒について、成形方法を確立するとともに、機械的強度を確保する必要がある。
【0009】
そこで、本発明は、マイエナイト型化合物およびマイエナイト型化合物に担持した遷移金属を含む、触媒活性が高く、かつ圧壊強度が高い成形焼結体、およびその成形焼結体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、マイエナイト型化合物、無機バインダー焼結物および遷移金属を含む成形焼結体において、無機バインダー焼結物の含有量を特定の範囲とし、窒素吸着法による細孔径分布測定により得られた成形焼結体の細孔径分布において、成形焼結体が所定の細孔径の範囲に細孔ピークを有するようにすることで、触媒活性が高く、かつ圧壊強度が高い成形焼結体を得られることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち本発明は、以下の[1]~[12]である。
【0011】
[1]マイエナイト型化合物、無機バインダー焼結物および遷移金属を含む成形焼結体であって、無機バインダー焼結物の含有量が成形焼結体100質量部に対して3~30質量部であり、窒素吸着法による細孔径分布測定により得られた成形焼結体の細孔径分布において、成形焼結体は、細孔径が2.5~20nmの範囲および20~350nmの範囲にそれぞれ細孔ピークを少なくとも1つ有する成形焼結体。
[2]CuKα線を使用した粉末X線回折において、マイエナイト型化合物に帰属される2θ=18.13±0.50deg、27.82±0.50deg、および34.40±0.50degに回折ピークを有する上記[1]に記載の成形焼結体。
[3]圧壊強度が0.1kgf以上である上記[1]または[2]に記載の成形焼結体。[4]落下強度試験による粉化率が10質量%以下である上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の成形焼結体。
[5]全細孔容積に対する20~350nmの細孔の容積の割合が20~80体積%である上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の成形焼結体。
[6]無機バインダー焼結物は、非晶質の多孔質アルミナ、非晶質の多孔質シリカおよび多孔質ジルコニアからなる群から選択される少なくとも1種の多孔質物である上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の成形焼結体。
[7]遷移金属の含有量が、成形焼結体100質量部に対して2~20質量部である上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の成形焼結体。
[8]アンモニア合成用触媒である上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の成形焼結体。
[9]還元触媒、酸化触媒、改質触媒および分解触媒からなる群から選択される少なくとも1種の触媒である上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の成形焼結体。
[10]マイエナイト型化合物の前駆体および無機バインダー焼結物の原料を混合して混合物を作製する工程、混合物を成形して混合物の成形体を作製する工程、成形体を焼成して焼成物を作製する工程、および焼成物に遷移金属を担持して成形焼結体を作製する工程を含み、混合物を作製する工程は、無機バインダー焼結物の含有量が、成形焼結体100質量部に対して3~30質量部になるように、無機バインダー焼結物の原料を配合する、上記[1]~[9]のいずれか1つに記載の成形焼結体の製造方法。
[11]無機バインダー焼結物の原料は、アルミナ水和物、水酸化アルミニウム、アルミナゾル、シリカゾルおよびジルコニアゾルからなる群から選択される少なくとも1種の化合物である上記[10]に記載の成形焼結体の製造方法。
[12]焼成物に遷移金属を担持して成形焼結体を作製する工程は、常圧または減圧下で、焼成物に遷移金属を担持する上記[10]または[11]に記載の成形焼結体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、マイエナイト型化合物およびマイエナイト型化合物に担持した遷移金属を含む、触媒活性が高く、かつ圧壊強度が高い成形焼結体、およびその成形焼結体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施例1~4および比較例1~3の成形焼結体における無機バインダー焼結物の含有量とアンモニアの生成速度および圧壊強度との関係を示すグラフである。
図2図2は、実施例1~4および比較例1~3の成形焼結体におけるX線回折パターンを示す図である。
図3図3は、実施例1~4および比較例2,3の成形焼結体における細孔分布を示す図である。
図4図4は、実施例2の成形焼結体断面における蛍光X線分光法による線分析を示すものであり、測定距離に対するRuの検出強度を示した図である。
図5図5は、実施例3の成形焼結体断面における蛍光X線分光法による線分析を示すものであり、測定距離に対するRuの検出強度を示した図である。
図6図6は、比較例2の成形焼結体断面における蛍光X線分光法による線分析を示すものであり、測定距離に対するRuの検出強度を示した図である。
図7図7は、比較例3の成形焼結体断面における蛍光X線分光法による線分析を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の成形焼結体は、マイエナイト型化合物、無機バインダー焼結物および遷移金属を含む。
【0015】
[マイエナイト型化合物]
マイエナイト型化合物とは、マイエナイトと同型の結晶構造を有する化合物をいう。マイエナイト型化合物は、好ましくはCaO、Al、SiOを構成成分とするアルミノケイ酸カルシウムであり、より好ましくは12CaO・7Alである。また、マイエナイト型化合物は、複合物の触媒活性をより高くするという観点で、カルシウム元素又はアルミニウム元素を含むことが好ましく、カルシウム元素およびアルミニウム元素を含むことがより好ましい。
【0016】
マイエナイト型化合物の結晶は、籠状の構造(ケージ)がその壁面を共有し、三次元的に繋がることで構成される。通常、マイエナイト型化合物のケージの内部にはO2-などのアニオンが含まれているが、還元処理によってそれらを伝導電子に置換することができる。
【0017】
本発明でマイエナイト型化合物として用いられる12CaO・7Alを単に「C12A7」と略記することがある。
【0018】
[無機バインダー焼結物]
無機バインダー焼結物とは、無機バインダー焼結物の原料を焼結させることによって得られるものである。無機バインダー焼結物には、例えば、多孔質アルミナ、多孔質シリカ、多孔質ジルコニア、多孔質マグネシア、多孔質チタニアなどが挙げられる。成形焼結体の活性を高くできるとともに圧壊強度を高くできるという観点から、これらの中で、非晶質の多孔質アルミナ、非晶質の多孔質シリカおよび多孔質ジルコニアが好ましく、非晶質の多孔質アルミナおよび非晶質の多孔質シリカがより好ましく、非晶質の多孔質アルミナがさらに好ましい。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。なお、非晶質の多孔質アルミナとは、結晶が未発達な多孔質アルミナであり、例えば活性アルミナが挙げられる。また、非晶質のシリカには、例えばシリカゲルが挙げられる。
【0019】
無機バインダー焼結物の含有量は、成形焼結体100質量部に対して3~30質量部である。無機バインダー焼結物の含有量が、成形焼結体100質量部に対して3質量部未満であると、成形焼結体の圧壊強度が、固定床方式の反応器に用いるのに対して不十分になる場合がある。成形焼結体の圧壊強度が不足すると、成形焼結体を反応器に投入する際に成形焼結体が変形・粉化してしまい、反応ガスの流路を塞いでしまう可能性があるため、十分な触媒反応活性を得ることができない。また、無機バインダー焼結物の触媒活性に対する担体効果が低いため、無機バインダー焼結物の含有量が、成形焼結体100質量部に対して40質量部を越えると、触媒活性が不十分になる場合がある。触媒活性を高くできるとともに圧壊強度を高くできるという観点から、無機バインダー焼結物の含有量は、成形焼結体100質量部に対して、好ましくは5~30質量部であり、より好ましくは10~30質量部である。なお、無機バインダー焼結物の含有量は、成形焼結体を定量分析し、Caの含有量からマイエナイト型化合物の含有量を算出し、遷移金属元素の含有量から遷移金属の含有量を算出し、残りの含有量を無機バインダー焼結物の含有量とすることにより、測定することができる。Caなどの成形体焼結体を構成する元素は成形体焼結体を酸性の溶液に溶解させてICP分析(プラズマ発光分析)を行うことにより定量できる。また、成形焼結体をXRF(蛍光X線分光分析)により分析することで遷移金属元素の含有量も定量することが可能である。
【0020】
[遷移金属]
遷移金属は、触媒の活性種となる物質であり、マイエナイト型化合物および無機バインダー焼結物を含む焼成物に担持されている。また、遷移金属は、触媒活性を有していれば特に限定されない。遷移金属は、例えば活性金属であり、活性金属には、例えば、ルテニウム、コバルト、マンガン、モリブデン、タングステン、オスミウム、ニッケル、ロジウム、イリジウムおよび鉄などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。マイエナイト型化合物の担体効果により触媒活性をより高めることができるという観点から、遷移金属は、好ましくはルテニウムである。
【0021】
また、成形焼結体は、使用中に活性化していればよいので、使用前は活性化していなくてもよい。このような観点から、遷移金属は、活性化処理によって触媒活性を有することが可能である形態であってもよい。例えば、遷移金属は、上記活性金属の前駆体であってもよい。なお、活性金属の前駆体とは、加熱処理、還元処理などの活性化処理により活性金属になり得る化合物である。例えば、活性金属がルテニウムである場合、遷移金属として使用し得る活性金属の前駆体には、例えばルテニウム塩およびルテニウム錯体などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。ルテニウム塩およびルテニウム錯体のうち、遷移金属として用いる活性金属の前駆体にはルテニウム塩が好ましい。
【0022】
遷移金属として用いるルテニウム塩には、例えば、塩化ルテニウム(RuCl)、塩化ルテニウム水和物(RuCl・nHO)、酢酸ルテニウム(Ru(CHCO)、硝酸ルテニウム、ヨウ化ルテニウム水和物(RuI・nHO)、ニトロシル硝酸ルテニウム(Ru(NO)(NO)、ニトロシル塩化ルテニウム水和物(Ru(NO)Cl・nHO)、三硝酸ルテニウム(Ru(NO)、塩化ヘキサアンミンルテニウム(Ru(NHCl)などが挙げられる。これらの中で、活性化処理によってマイエナイト型化合物の構造を壊さずに高い触媒活性を得られるという観点から、酢酸ルテニウム、硝酸ルテニウム、ニトロシル硝酸ルテニウムおよび塩化ルテニウムが好ましい。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0023】
遷移金属として用いるルテニウム錯体には、トリルテニウムドデカカルボニル(Ru(CO)12)、ジクロロテトラキス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)(RuC12(PPh)、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)(RuC12(PPh)、トリス(アセチルアセトナト)ルテニウム(III)(Ru(acac))、ルテノセン(Ru(C)、ジクロロ(ベンゼン)ルテニウム(II)ダイマー([RuC12(C)])、ジクロロ(メシチレン)ルテニウム(II)ダイマー([RuC12(mesitylene)])、ジクロロ(p-シメン)ルテニウム(II)ダイマー([RuC12(p-C ymene)])、カルボニルクロロヒドリドトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)([RuHCl(CO)(PPh])、トリス(ジピバロイルメタナト)ルテニウム(III)([Ru(dpm)])、などが挙げられる。これらの中で、活性化処理によって高い触媒活性が得られるという観点から、トリルテニウムドデカカルボニル(Ru(CO)12)、トリス(アセチルアセトナト)ルテニウム(III)(Ru(acac))、ルテノセン(Ru(C)、などが好ましい。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0024】
遷移金属は、上述の活性金属の促進剤を含んでもよい。促進剤としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属および希土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む化合物が挙げられる。上記化合物には、例えば、酸化物および水酸化物の少なくとも1種の化合物が挙げられる。促進剤のアルカリ金属は、特に限定はされないが、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウムなどが挙げられる。促進剤のアルカリ土類金属は、特に限定されないが、例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムなどが挙げられる。促進剤の希土類金属は、特に限定はされないが、例えば、ランタン、セリウム、プラセオジウム、ネオジウム、サマリウム、ガドリニウム、ジスプロシウムなどが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。好ましい促進剤はカリウム化合物、セシウム化合物およびバリウム化合物である。
【0025】
なお、マイエナイト型化合物および無機バインダー焼結物を含む焼成物が遷移金属の触媒活性を促進する元素の化合物を含み、かつ遷移金属が活性金属の促進剤を含んでもよいし、マイエナイト型化合物および無機バインダー焼結物を含む焼成物が遷移金属の触媒活性を促進する元素の化合物を含むが、遷移金属が活性金属の促進剤を含まなくてもよい。また、遷移金属が活性金属の促進剤を含むが、マイエナイト型化合物および無機バインダー焼結物を含む焼成物は遷移金属の触媒活性を促進する元素の化合物を含まなくてもよい。
【0026】
遷移金属の含有量は、特に限定はされないが、成形焼結体100質量部に対して好ましくは2~20質量部であり、より好ましくは2~15質量部であり、さらに好ましくは2~10質量部である。遷移金属の含有量が上記範囲内であることで、十分な活性点を有する成形焼結体を得ることができ、高活性の成形焼結体を得ることができ、さらに、コスト面で好ましい成形焼結体を得ることができる。
【0027】
<その他の成分>
本発明の成形焼結体は、本発明の効果を阻害しない範囲で、マイエナイト型化合物、無機バインダー焼結物および遷移金属以外の化合物を含むことができる。例えば、本発明の成形焼結体は、遷移金属の触媒活性を促進する元素を含む化合物をさらに含んでもよい。遷移金属の触媒活性を促進する元素には、例えば、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素および希土類金属元素などが挙げられる。アルカリ金属元素は、特に限定はされないが、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属元素は、特に限定されないが、例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムなどが挙げられる。希土類金属元素は、特に限定はされないが、例えば、ランタン、セリウム、プラセオジウム、ネオジウム、サマリウム、ガドリニウム、ジスプロシウムなどが挙げられる。上記元素の化合物には、上記元素の酸化物、水酸化物などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。遷移金属がルテニウムを含む場合、ルテニウムの触媒活性をより大きく高められるという観点から、成形焼結体はカリウム化合物、セシウム化合物およびバリウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含むことが好ましい。
【0028】
遷移金属の触媒活性を促進する元素の含有量は、特に限定はされないが、遷移金属中の触媒の活性種となる元素に対して、モル比(触媒活性を促進する元素/触媒の活性種となる元素)で、好ましくは30~0.01であり、より好ましくは20~0.1であり、さらに好ましくは5~0.5である。遷移金属の触媒活性を促進する元素の含有量が上記範囲内であると、遷移金属の触媒活性を十分に促進できるとともに、コスト面で好ましい成形焼結体を得ることができる。
【0029】
[成形焼結体の特性]
<細孔径>
本発明の成形焼結体は、窒素吸着法による細孔径分布測定により得られた成形焼結体の細孔径分布において、細孔径が2.5~20nmの範囲および20~350nmの範囲にそれぞれ細孔ピークを少なくとも1つ有する。この細孔ピークは成形体焼結体の粒子間隙に起因するものであるので、細孔径が2.5~20nmの範囲および20~350nmの範囲に成形焼結体が細孔ピークを有さないと、成形焼結体の圧壊強度が不十分となる場合がある。また、遷移金属の成形焼結体の深さ方向の分布をより均一にするために、全細孔容積に対する20~350nmの細孔の容積の割合は、好ましくは20~80体積%であり、より好ましくは30~75体積%であり、さらに好ましくは30~70体積%である。なお、成形焼結体の細孔分布は窒素ガスのガス吸着法により求めることができ、具体的には、後述の実施例に記載の方法により求めることができる。
【0030】
<粉末X線回折のピーク>
本発明の成形焼結体は、CuKα線を使用した粉末X線回折において、マイエナイト型化合物に帰属される2θ=18.13±0.50deg、27.82±0.50deg、および34.40±0.50degに回折ピークを有することが好ましく、マイエナイト型化合物に帰属される2θ=18.13±0.50deg、23.45±0.50deg、27.82±0.50deg、29.77±0.50deg、34.40±0.50deg、35.08±0.50deg、36.69±0.50deg、38.26±0.50degおよび41.20±0.50degに回折ピークを有することがより好ましい。成形焼結体が上記回折ピークを有すると、触媒活性が十分高くなる。なお、1番目および2番目に強度の高いピークが2θ=18.13±0.50degのピークおよび2θ=34.40±0.50degのピークであることが好ましい。1番目および2番目に強度の高いピークが上記ピークであると、籠状の構造(ケージ)が形成され、触媒反応時に電子が成形焼結体の表面に存在する確率が高くなると考えられる。これによりアンモニア生成速度の向上が見込まれる。
【0031】
<圧壊強度>
成形焼結体が、固定床方式の反応器に用いるのに十分な強度を有するという観点から、本発明の成形焼結体の圧壊強度は、好ましくは0.1kgf以上であり、より好ましくは0.5kgf以上であり、さらに好ましくは1.0kgf以上である。なお、成形焼結体の圧壊強度は、例えば、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。また、成形焼結体の圧壊強度が固定床方式の反応器に用いるのに対して十分であるか否かは、想定する反応器容積に応じて最下部の成形焼結体が受ける負荷に基づいて判断する。
【0032】
<粉化率>
成形焼結体が、固定床方式の反応器に用いるのに十分な耐摩耗性を有するという観点から、本発明の成形焼結体の落下強度試験による粉化率は、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以下である。なお、成形焼結体の粉化率は、例えば、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0033】
<形状>
本発明の成形焼結体の形状は、固定床方式の反応器に用いることができれば、特に限定されないが、例えば、円柱状、異形円柱状、タブレット状、リング状、球状、粒状、顆粒状、塊状、フレーク状、マカロニ状、四葉状、サイコロ状、ハニカム状などが挙げられる。高い生産性が期待でき、成形費用を安価にできるという観点から、成形焼結体の形状は粒状もしくは円柱状であることが好ましい。
【0034】
<粒子サイズ>
本発明の成形焼結体の平均粒子サイズは、特に限定されないが、固定床方式の反応器に用いるという観点から、0.8~20mm程度が好ましい。例えば、成形焼結体の形状が球状の場合、成形焼結体の粒子サイズは成形焼結体の直径となる。また、成形焼結体の形状が円柱状の場合、成形焼結体のサイズは、直径(D)と長さ(L)との比(L/D)は反応器内径に応じて適切なサイズを選択する。なお、成形焼結体の粒子サイズは、例えばノギスを用いて測定することができる。
【0035】
<比表面積>
本発明の成形焼結体の比表面積は、特に限定はされないが、BET法に基づく比表面積で、好ましくは5~500m/gであり、より好ましくは20~100m/gであり、さらに好ましくは20~70m/gである。
【0036】
<嵩密度>
本発明の成形焼結体の嵩密度は、特に限定はされないが、好ましくは0.1~5.0g/mLであり、より好ましくは0.5~3.0g/mLである。なお、成形焼結体の嵩密度は、例えば、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0037】
<成形焼結体の用途>
本発明の成形焼結体は、アンモニア合成用触媒として用いることができる。しかし、本発明の成形焼結体の用途は、アンモニア合成に限定されない。例えば、本発明の成形焼結体は、還元触媒、酸化触媒、改質触媒、分解触媒等に使用することができる。具体的には、本発明の成形焼結体は、脂肪族カルボニル化合物の水素化、芳香族環の水素化、カルボン酸の水素化、不飽和アルデヒドの水素化による不飽和アルコール合成、メタンの水蒸気改質、アルケン類などの水素化、COもしくはCOと水素との反応によるメタン化、フィッシャー-トロプッシュ合成反応、置換芳香族の核水素化、アルコール類のカルボニル化合物への酸化、リグニンのガス化などに使用できる。
【0038】
[成形焼結体の製造方法]
本発明の成形焼結体の製造方法は、マイエナイト型化合物の前駆体および無機バインダーを混合して混合物を作製する工程A、混合物を成形して混合物の成形体を作製する工程B、成形体を焼成して焼成物を作製する工程C、および焼成物に遷移金属を担持して成形焼結体を作製する工程Dを含む。
【0039】
(工程A)
工程Aでは、マイエナイト型化合物の前駆体および無機バインダーを混合して混合物を作製する。
【0040】
<マイエナイト型化合物の前駆体>
工程Aで使用するマイエナイト型化合物の前駆体は、焼成によりマイエナイト型化合物に変わるものであれば、特に限定されない。成形が容易な粉末が得られるという観点から、マイエナイト型化合物の前駆体は、好ましくはCaAl(OH)12である。CaAl(OH)12は、例えば、水熱合成法により作製することができる。
【0041】
水熱合成法は、具体的には、まず水やアルコールなどの溶媒と、無機酸化物の原料を耐圧容器に入れて、溶媒の沸点以上の温度で数時間~数日加熱することで無機酸化物の前駆体を得る。引き続き、得られた前駆体をさらに加熱し、無機酸化物を得る方法である。
【0042】
水熱合成法で用いられるカルシウム源は、特に限定はされないが、通常、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、カルシウム塩が用いられ、好ましくは水酸化カルシウムが用いられる。また、アルミニウム源は、特に限定はされないが、通常、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、アルミニウム塩が用いられ、好ましくは水酸化アルミニウムが用いられる。カルシウム源およびアルミニウム源の混合比率は特に限定されず、所望の組成に合わせて適宜調製可能であるが、通常は、目的とするC12A7の化学量論組成で混合する。
【0043】
アルミニウム源およびカルシウム源を耐圧容器中に投入した後、これらを水の沸点以上の温度で加熱することで、CaAl(OH)12を合成することができる。水熱合成における耐熱容器中での加熱温度は特に限定はされず、十分な収量のCaAl(OH)12が得られる加熱温度を適宜選択することができるが、通常100℃以上、好ましくは130℃以上、通常、200℃以下である。加熱時間は特に限定はされず、十分な収量のCaAl(OH)12が得られる加熱時間を適宜選択することができるが、通常、2時間以上、好ましくは5時間以上、通常、100時間以下である。
【0044】
<無機バインダー>
マイエナイト型化合物の前駆体のみを成形し、焼結して得られた焼結体は、保形成に乏しく、固定床形式の反応器に用いる成形焼結体としては強度が不十分となる場合がある。このため、工程Aでは、マイエナイト型化合物の前駆体に無機バインダー焼結物の原料を混合する。無機バインダー焼結物の原料はは、無機バインダー焼結物がマイエナイト型化合物の強度を高められるものであれば、特に限定されない。マイエナイト型化合物が有する細孔をある程度維持し、かつ成形焼結体の圧壊強度を高めるという観点から、無機バインダー焼結物の原料は、ジプサイト、ベーマイト、擬ベーマイト、ダイアスポアなどのアルミナ水和物、ギブサイト、バイヤーライト、ノルトストランダイトなどの水酸化アルミニウム、アルミナゾル、シリカゾル、オキシ水酸化ジルコニウムおよびジルコニアゾルからなる群から選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【0045】
無機バインダー焼結物の原料の配合量は、無機バインダー焼結物の含有量が、成形焼結体100質量部に対して、好ましくは3~30質量部、より好ましくは5~30質量部、さらに好ましくは10~30質量部となる配合量であれば、特に限定されない。
【0046】
<その他の成分>
本発明の効果を阻害しない範囲で、工程Aでは、マイエナイト型化合物の前駆体および無機バインダー焼結物の原料に加えて、他の化合物を混合してもよい。例えば、以下の化合物を混合することができる。
【0047】
(遷移金属の触媒活性を促進する元素の化合物)
工程Aでは、後述の遷移金属の触媒活性を促進する元素の化合物をさらに含んでもよい。遷移金属の触媒活性を促進する元素には、例えば、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素および希土類金属元素などが挙げられる。アルカリ金属元素は、特に限定はされないが、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属元素は、特に限定されないが、例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムなどが挙げられる。希土類金属元素は、特に限定はされないが、例えば、ランタン、セリウム、プラセオジウム、ネオジウム、サマリウム、ガドリニウム、ジスプロシウムなどが挙げられる。これらの元素の化合物には、例えば、水酸化物;炭酸塩、酸化物、硝酸塩などの無機酸塩;酢酸塩、ギ酸塩などのカルボン酸塩;エトキシドなどのアルコキシド;その他の有機化合物;金属アセチルアセトナート錯体などの金属錯体などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。遷移金属がルテニウムを含む場合、ルテニウムの触媒活性をより大きく高められるという観点から、遷移金属の触媒活性を促進する元素の化合物はカリウム化合物、セシウム化合物およびバリウム化合物が好ましく、炭酸カリウム、硝酸カリウム、酸化カリウム、硝酸セシウム、炭酸セシウム、酸化セシウム、酸化バリウム、炭酸バリウム、硝酸バリウムなどがより好ましい。
【0048】
(水)
マイエナイト型化合物の前駆体および無機バインダー焼結物の原料の混合物に、成形に適した物性を付与するために、工程Aでは、水をさらに混合してもよい。工程Aで使用できる水には、たとえば、イオン交換水、純水、蒸留水、水道水などが挙げられる。
【0049】
(有機系添加剤)
成形体の可塑性、保形性、均質性などを向上させるために、工程Aでは、有機系添加剤をさらに混合してもよい。有機系添加剤には、例えば、結合剤、可塑剤、湿潤剤、潤滑・離型剤などが挙げられる。結合剤には、例えば微結晶セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプン、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロースなどが挙げられる。可塑剤には、例えば、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールなどが挙げられる。湿潤剤には、例えば、非イオン界面活性剤、アルコール類などが挙げられる。潤滑・離型剤には、例えば、低分子ポリアルケン、パラフィンワックス、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪酸および脂肪酸エステル、アミド、エマルジョンなどが挙げられる。これらの添加剤の配合割合は、通常、マイエナイト型化合物の前駆体および無機バインダー焼結物の配合量の合計100質量部に対して0.1~20質量部、好ましくは0.5~10質量部、さらに好ましくは0.5~8質量部である。なお、無機バインダー焼結物の原料を添加しなくても、有機系添加剤を添加することで圧壊強度が0.1kgf以上である成形焼結体が得られる場合、上記混合物は無機バインダー焼結物の原料を含まなくてもよい。この場合、有機系添加剤が必須成分となる。
【0050】
<混合>
マイエナイト型化合物の前駆体および無機バインダー焼結物の原料を混合して得られた混合物に対して、成形に適した物性を付与するために、混練によりマイエナイト型化合物の前駆体および無機バインダー焼結物の原料を混合することが好ましい。マイエナイト型化合物の前駆体および無機バインダー焼結物の原料の混練には、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機などの混練機を用いることができる。特に混練機の様式に制限はなく、円筒、V型、二重円錐型などの容器を回転させる容器回転型、固定された回転軸により粉体を混練することを可能とする固定容器型、水平軸回転方式、垂直軸回転方式、振動回転方式などの混練機が使用できる。加えて、ジェットポンプを使用した流動化型ミキサー、重力の流れを利用した重力流動型混合装置なども使用することが可能である。また、予め、ヘンシェルミキサー、ボールミルなどの混合機を用いてマイエナイト型化合物の前駆体および無機バインダーを混合した後、混合物を混練機に供給して混練してもよい。
【0051】
(工程B)
工程Bでは、混合物を成形して混合物の成形体を作製する。
混合物の成形方法は、固定床形式の反応器に好適な形状に成形焼結体を成形できる成形方法であれば特に限定されない。混合物の成形方法には、例えば、圧縮成形法、押し出し成形法、鋳込み成形法、テープ成形法、射出成形法、打錠成形法、噴霧造粒法、流動層造粒法、転動造粒法などが挙げられる。これらの中で、細孔容積が高い成形体が得られ、高い生産性が期待でき、かつ成形費用を安価にできるという観点から、押し出し成形法が好ましい。混合物の押し出し成形には、例えば、スクリュー型成形機、ロール型成形機、ピストン型成形機などが使用される。なお、成形体の長さをそろえるために、ダイ付近に備え付けられたカッターで、成形機より押し出された成形物を切断してもよい。また、マルメライザーを用いて、切断された成形物を球形に近い形に整粒してもよい。
【0052】
(工程C)
工程Cでは、成形体を焼成して焼成物を作製する。
成形体は、通常は大気中で焼成する。また、焼成温度は特に限定はされないが、通常400℃以上、好ましくは450℃以上、通常1000℃以下である。成形体を焼成すると、マイエナイト型化合物の前駆体からマイエナイト型化合物が生成し、無機バインダー焼結物の原料から無機バインダー焼結物が生成する。
【0053】
(工程D)
工程Dでは、焼成物に遷移金属を担持して成形焼結体を作製する。
<遷移金属>
遷移金属は、触媒の活性種となる物質またはその前駆体であれば、特に限定されない。遷移金属は、例えば活性金属の化合物であり、活性金属の化合物には、例えば、ルテニウム、コバルト、マンガン、モリブデン、タングステン、オスミウム、ニッケル、ロジウム、イリジウムおよび鉄などの活性金属の化合物が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。マイエナイト型化合物との組み合わせで触媒活性をより高めることができるという観点から、遷移金属はルテニウム化合物であることが好ましい。
【0054】
遷移金属として用いるルテニウム化合物は、還元処理によって金属ルテニウムに変換できるものであれば特に限定されない。遷移金属として用いるルテニウム化合物には、例えばルテニウム塩およびルテニウム錯体などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。ルテニウム塩およびルテニウム錯体のうち、遷移金属として用いるルテニウム化合物にはルテニウム塩が好ましい。
【0055】
遷移金属として用いるルテニウム塩には、例えば、上記成形焼結体に含まれる遷移金属のルテニウム塩として列挙されたものが挙げられる。これらの中で、活性化処理によってマイエナイト型化合物の構造を壊さずに高い触媒活性を得られるという観点から、酢酸ルテニウム、硝酸ルテニウム、ニトロシル硝酸ルテニウムおよび塩化ルテニウムが好ましい。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0056】
遷移金属として用いるルテニウム錯体には、例えば、上記成形焼結体に含まれる遷移金属のルテニウム錯体として列挙されたものが挙げられる。これらの中で、活性化処理によって高い触媒活性が得られるという観点から、トリルテニウムドデカカルボニル(Ru(CO)12)、トリス(アセチルアセトナト)ルテニウム(III)(Ru(acac))、ルテノセン(Ru(C)、などが好ましい。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0057】
以上の化合物は容易に熱分解する。このため、これらの化合物を上記焼成物に担持させた後、活性化処理、すなわち熱処理を伴う還元処理を行うことにより、成形焼結体上にルテニウムを金属の状態で析出させることができる。これにより、高い触媒活性を成形焼結体に付与できる。また、上記ルテニウム化合物は、加熱下、水素ガスにより容易に還元されるので、アンモニア合成のときに、成形焼結体上にルテニウムを金属の状態で析出させることができる。
【0058】
工程Dでは、遷移金属は上記活性金属の触媒活性を促進する元素の化合物をさらに含んでもよい。活性金属の触媒活性を促進する元素には、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属および希土類金属などが挙げられる。アルカリ金属は、特に限定はされないが、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属は、特に限定されないが、例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムなどが挙げられる。希土類金属は、特に限定はされないが、例えば、ランタン、セリウム、プラセオジウム、ネオジウム、サマリウム、ガドリニウム、ジスプロシウムなどが挙げられる。これらの元素の化合物には、例えば、水酸化物;炭酸塩、酸化物、硝酸塩などの無機酸塩;酢酸塩、ギ酸塩などのカルボン酸塩;エトキシドなどのアルコキシド;その他の有機化合物;金属アセチルアセトナート錯体などの金属錯体などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。遷移金属がルテニウムを含む場合、ルテニウムの触媒活性をより大きく高められるという観点から、活性金属の触媒活性を促進する元素の化合物はカリウム化合物、セシウム化合物、バリウム化合物が好ましく炭酸カリウム、硝酸カリウム、酸化カリウム、炭酸セシウム、酸化セシウム、酸化バリウム、炭酸バリウムまたは硝酸バリウムなどがより好ましい。
【0059】
<担持>
上記焼成物に遷移金属を担持させる方法は、特に限定はされない。焼成物に遷移金属を担持させる方法には、例えば、含浸法、熱分解法、液相法、スパッタリング法、蒸着法などが挙げられる。これらの中で、遷移金属を焼成物に均一に分散させることができるという観点から含浸法または蒸着法が好ましく、粒径が均一な活性金属粒子を形成しやすい点で含浸法がより好ましい。また、含浸法には、平衡吸着法および蒸発乾固法があるが、これらの中で、担持量を多くできるという観点から、蒸発乾固法が好ましい。
【0060】
具体的に含浸法は、蒸発乾固法では、成形焼結体を、遷移金属を含む溶液に浸漬させ、引き続き遷移金属を含む溶液の溶媒を蒸発および乾固させ、遷移金属が担持した成形焼結体を作製する。一方、平衡吸着法では、遷移金属を含む溶液に成形焼結体を浸漬させ、遷移金属を含む溶液から成形焼結体を取り出し、洗浄し、乾燥して、遷移金属が担持した成形焼結体を作製する。なお、含浸法で使用する溶媒は、例えば、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、酢酸エチル、クロロホルム、ジエチルエーテル、トルエン、ヘキサンなどが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
また具体的に蒸着法は、マイエナイト型化合物を、活性金属化合物と物理混合し、真空雰囲気下で加熱し、活性金属化合物の熱分解に伴い活性金属がマイエナイト型化合物上に蒸着されることで、活性金属担持マイエナイト型化合物を得る。
【0061】
大気圧下で焼成物に遷移金属を担持してもよいが、減圧下で焼成物に遷移金属を担持することが好ましい。減圧下で焼成物に遷移金属を担持することで、焼成物に遷移金属を、より均一に分散させることができる。例えば、コニカルブレンダー、エバポレーターなどの減圧装置を用いることで、減圧下で焼成物に遷移金属を担持することができる。焼成物に遷移金属を、より均一に分散させるという観点から、減圧下で焼成物に遷移金属を担持するときの圧力は、好ましくは500~20hPaであり、より好ましくは300~100hPaである。
【0062】
工程Dにおいて、焼成物に遷移金属を担持する含浸処理を複数回繰り返してもよい。これにより、焼成物に遷移金属を、より均一に分散させることができる。ここで、含浸処理とは、焼成物を、遷移金属を含む溶液に浸漬させ、引き続き遷移金属を含む溶液の溶媒を蒸発および乾固させるまでの処理をいう。工程Dにおいて実施する含浸処理の回数は、好ましくは2~20回であり、より好ましくは3~10回である。なお、焼成物に遷移金属を、より均一に分散させることができるという観点から、工程Dにおいて繰り返す含浸処理も減圧下で実施することが好ましい。
【0063】
(その他の工程)
本発明の成形焼結体の製造方法は、工程Dで作製した成形焼結体を還元処理する工程をさらに含んでもよい。
【0064】
還元処理の条件は、本発明の目的を阻害しない限りにおいて特に限定されないが、例えば、還元性ガスを含む雰囲気下で行なう方法や、遷移金属を含む溶液に、NaBH、NHNH又は、ホルマリンなどの還元剤を加えて、成形体の焼成のときに焼成物の表面に活性金属を析出させる方法が挙げられる。還元処理は還元性ガスを含む雰囲気下で行なうことが好ましい。還元性ガスとしては水素、アンモニア、メタノール(蒸気)、エタノール(蒸気)、メタン、エタンなどが挙げられる。また還元処理の際に、アンモニア合成反応を阻害しない、還元性ガス以外の成分が反応系を共存していてもよい。具体的には、還元処理の際に、水素などの還元性ガスの他に反応を阻害しないアルゴンや窒素といったガスを共存させてもよく、窒素を共存させてもよい。
【0065】
還元処理の温度は、特に限定はされないが、通常200℃以上であり、好ましくは300℃以上、通常1000℃以下であり、好ましくは800℃以下で行なう。目標の還元温度までの昇温速度は、特に限定はされないが、0.05℃/分以上であり、好ましくは0.5℃/分以上、通常100℃/分以下であり、好ましくは50℃/分以下で行う。還元処理を上記温度範囲内と昇温速度で行なうことで、活性金属粒子を好ましい平均粒子径の範囲に成長させることができる。還元処理の圧力は、特に限定はされないが、通常、0.1MPa以上、10MPa以下である。還元処理の時間は、特に限定されないが、通常1時間以上であり、還元処理の温度は、好ましくは300℃以上、より好ましくは350℃以上、好ましくは800℃以下である。
【0066】
なお、成形焼結体を製造後、成形焼結体を使用する前に、成形焼結体を還元処理してもよい。また、アンモニア合成の条件においても、成形焼結体を還元処理することができる。還元後の成形焼結体は大気に暴露しても上記の還元温度範囲内と昇温速度の範囲内において再び還元処理を行うことで再使用が可能となる。
【0067】
[アンモニアの製造方法]
本発明の成形焼結体を用いてアンモニアを製造することができる。アンモニアを製造する方法は、本発明の成形焼結体に窒素と水素を含むガスを接触させてアンモニアを製造する工程を含む。これにより、アンモニアを効率的に製造することができる。
【0068】
本発明の成形焼結体に窒素と水素を含むガスを接触させる際、最初に水素のみを本発明の成形焼結体に接触させて成形焼結体を還元処理してから、本発明の成形焼結体に窒素と水素を含むガスを接触させてもよい。また、当初より本発明の成形焼結体に水素と窒素を含む混合ガスを接触させてもよい。さらにこのとき反応器から回収した未反応ガスを反応器にリサイクルして使用することもできる。
【0069】
本発明の成形焼結体を用いたアンモニアの製造方法は、特に限定はされないが、窒素と水素を含むガスを、上記成形焼結体に接触させる際、通常、成形焼結体を加熱することによりアンモニア合成を行う。
本発明の成形焼結体を用いたアンモニアの製造方法によれば、低温および低圧の条件下でアンモニアを製造することができる。その反応温度は、好ましくは200~600℃であり、より好ましくは250~550℃であり、さらに好ましくは300~550℃である。アンモニア合成は発熱反応であることから、低温領域のほうが化学平衡論的にアンモニア生成に有利であるが、十分なアンモニア生成速度を得るためには上記の温度範囲が好ましい。
【0070】
製造コストの観点から低温および低圧の条件下でアンモニアを製造する場合、本発明のアンモニアの製造方法においてアンモニア合成反応を行う際の反応圧力は、絶対圧で、好ましくは0.01~30MPaであり、より好ましくは0.3~20MPaであり、さらに好ましくは0.5~10MPaである。
【0071】
この場合、成形焼結体に接触させる窒素に対する水素のモル比(H/N)は、好ましくは0.25~15であり、より好ましくは0.5~12であり、さらに好ましくは1.0~10である。
【0072】
より良好なアンモニア収率を得るという観点から、窒素と水素の混合ガス中の総水分含有量は、通常100ppm以下、好ましくは50ppm以下である。
【0073】
反応容器の形式は特に限定されず、アンモニア合成反応に通常用いることができる反応容器を用いることができる。具体的な反応形式としては、例えばバッチ式反応形式、閉鎖循環系反応形式、流通系反応形式などを用いることができる。このうち実用的な観点からは流通系反応形式が好ましい。また成形焼結体を充填した一種類の反応器、又は複数の反応器を連結させる方法や、同一反応器内に複数の反応層を有する反応器の何れの方法も使用することができる。
【0074】
水素と窒素混合ガスからのアンモニア合成反応は体積収縮型の発熱反応であることから、アンモニア収率を上げるために工業的には反応熱を除去するために通常用いられる反応装置を用いてもよい。例えば具体的には成形焼結体が充填された反応器を直列に複数個連結し、各反応器の出口にインタークーラーを設置して除熱する方法などを用いてもよい。
【0075】
また、本発明の成形焼結体を用いたアンモニアの製造方法は、前述の通り、低温および低圧の条件下でアンモニアを製造できる点に特徴を有するが、反応速度をさらに向上させるために、中温および中圧の条件下で、アンモニアを製造してもよい。この場合、反応温度は、例えば好ましくは250~700℃であり、より好ましくは250~550℃であり、更に好ましくは300~550℃である。また、この場合、反応圧力は、絶対圧で、好ましくは0.1~30MPaであり、より好ましくは0.3~20MPaであり、さらに好ましくは0.5~10MPaである。
【実施例
【0076】
以下に、実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明する。なお、実施例は本発明を限定するものではない。
【0077】
実施例および比較例の成形焼結体を用いたに対して以下の分析および評価を行った。
(細孔径分布)
細孔径分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、型番:BELSORP-miniII)を用いて、試料のN吸着等温線を測定し、N吸着等温線より得られる脱離曲線からBJH(Barret,Joynar,Halenda)法により解析して、試料の全細孔容積および細孔径分布を求めた。
【0078】
(比表面積)
比表面積測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、型番:BELSORP-miniII)を用いて、BET法により試料の比表面積を求めた。
【0079】
(嵩密度)
成形焼結体の嵩密度は、ビーズ置換法にて求めた。具体的には、予め重量を測定した石英砂(0.3~0.5mm)を体積測量器に入れ、その後、成形焼結体を測量器に投入し、測量器重量と体積の増加分から嵩密度を見積もった。
【0080】
(遷移金属の成形焼結体表面からの深さ方向の分布)
円柱状の成形焼結体の長さ方向のほぼ中心を切断して、遷移金属の成形焼結体の深さ方向の分布を、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、型番:JIM-4610F)を使用して成形焼結体断面を観察しながら蛍光X線分光法による線分析を行い、遷移金属の検出強度の分布を以下の基準で評価した。なお、成形焼結体中の遷移金属が分布している領域は、変色しているので、遷移金属の分布の領域は目視することもできた。
A:遷移金属の蛍光X線強度が成形焼結体表面から中心部にかけての分析線に沿って一定以上の強度が検出されることで遷移金属が成形焼結体中に均一に分布していると判断。
B:遷移金属の蛍光X線強度が焼結成形体表面層に分布し、焼結成形体表面から中心部にかけての分析線に沿って遷移金属の蛍光X線強度が減衰もしくは局在して検出される、または検出されないことで不均一に分布していると判断。
【0081】
(粉末X線回折)
乳鉢を使用して成形焼結体を粉砕して粉末の試料を作製し、X線回折装置(株式会社リガク製、型番:MiniFlex)を使用し、CuKα線を使用して試料のX線回折パターンを測定した。走査速度は2°/分であった。
【0082】
(圧壊強度)
木屋式硬度計(株式会社藤原製作所製、型番:043019-B)を使用して、成形焼結体の圧壊強度を測定した。具体的には、直径約2mmおよび長さ4mmの円柱状の試料を試料台にのせ、加圧アタッチメントが試料の側面に接するように、木屋式硬度計のハンドルを回して加圧アタッチメントを徐々におろした。加圧アタッチメントが試料の側面に接した後も加圧アタッチメントを徐々におろし、試料が圧砕するまで加圧アタッチメントを徐々におろした。そして、試料が圧砕するまでに加圧アタッチメントに作用した最大加圧重を圧壊強度とした。
【0083】
(粉化率)
成形焼結体を反応器に充填する際の衝撃を想定して2mの高さの位置から硬質面にむけて自由落下させて落下強度試験を行った。そして落下強度試験の際の衝突の衝撃で一部が欠けたサンプルの質量を測定して落下前の成形焼結体の重量との重量比を粉化率とした。
【0084】
(アンモニアの生成速度の分析)
以下の実施例および比較例のアンモニア生成速度は、生成したアンモニアガスをガスクロマトグラフおよびイオンクロマトグラフ分析により、絶対検量線法を用いて求めた。アンモニア合成条件および分析条件は以下の通りである。
[アンモニアの合成条件]
合成温度:400℃
合成圧力:0.9MPa
原料ガス中のH/N比:3
原料ガスの流量:60mL/分
触媒量:0.18g
[イオンクロマトグラフ分析条件]
装置:株式会社島津製作所製 HPLC Prominence
カラム:株式会社島津製作所製 Shim-pack IC-C4
長さ:150mm、 内径4.6mm
溶離液:シュウ酸(2.5mM)、18-クラウン-6-エーテル(2.0mM)混合水溶液
カラム温度:40℃
流速:1.0mL/分
【0085】
(ルテニウム担持量)
焼成物に担持しているルテニウムの担持量は、エネルギー分散型蛍光X線分光分析装置(株式会社リガク製、NEX DE)を用いて絶対検量線法により測定した。ルテニウム化合物を担持している成形焼結体を粉末状にし、この粉末を0.05g秤量して10φの測定径のサンプルホルダーに入れた。測定は3回行い、3回の測定値平均をルテニウム担持量として採用した。
【0086】
[焼成物の作製]
(焼成物1の作製)
<CaAl(OH)12の作製>
水酸化カルシウム(Ca(OH):株式会社高純度化学研究所製、純度99.9%、7.18g)と水酸化アルミニウム(Al(OH):株式会社高純度化学研究所製、純度99.9%、8.82g)を、CaとAlのモル比が、Ca:Al=12:14となるように秤量、混合し、混合粉体を得た。上記混合粉体に、上記混合粉体が10質量%となるように蒸留水を加え、合計質量160gの混合溶液とした後、この混合溶液を遊星型ボールミルにて、常温下、4時間攪拌・混合した。得られた混合溶液を耐圧密閉容器に入れ、攪拌しながら150℃にて、6時間加熱(水熱処理)した。
上記水熱処理により得られた沈殿物を濾別し、乾燥後粉砕して、マイエナイト型化合物の前駆体であるCaAl(OH)12およびAlOOHの混合物を約16g作製した。
【0087】
<成形体の作製>
焼成物に5質量%のルテニウムが担持すると想定し、Ba/Ru(モル比)が2となるようにBa(NO(関東化学株式会社製、型番:201315-3A)を秤量した。また、無機バインダー焼結物の含有量が成形焼結体100質量部に対して6.3質量部になるようにベーマイト微粒子(平均粒子径200nm)(無機バインダー焼結物の原料)を秤量した。そして、作製したCaAl(OH)12と、秤量したBa(NOおよびベーマイト微粒子と、水とを混合してスラリーを作製した。なお、水の配合量は、スラリー中の水の含有量が25~28質量%となるような配合量にした。作製したスラリーを、ラボプラストミル(小型二軸セグメント押出機、東洋精機株式会社製、型番:2D15W)に投入した。そして、混合物を10rpmの回転速度で30分混練した後、押し出し成形を行い、直径2mmおよび長さ4mmの円柱状の成形体を作製した。
【0088】
<焼成物の作製>
卓上電気炉(日陶科学株式会社製、型番:NHK-170)を用いて、得られた成形体を焼成した。卓上電気炉に成形体を配置した後、卓上電気炉の温度を5℃/分の昇温速度で600℃まで昇温し、600℃の焼成温度で成形体を5時間焼成して、焼成物1を作製した。
【0089】
(焼成物2の作製)
無機バインダー焼結物の含有量が成形焼結体100質量部に対して12.4質量部になるようにベーマイト微粒子を秤量した以外は、焼成物1と同様な方法で焼成物2を作製した。
【0090】
(焼成物3の作製)
無機バインダー焼結物の含有量が成形焼結体100質量部に対して19.7質量部になるようにベーマイト微粒子を秤量した以外は、焼成物1と同様な方法で焼成物3を作製した。
【0091】
(焼成物4の作製)
無機バインダー焼結物の含有量が成形焼結体100質量部に対して25.9質量部になるようにベーマイト微粒子を秤量した以外は、焼成物1と同様な方法で焼成物4を作製した。
【0092】
(焼成物5の作製)
無機バインダーを使用しなかった以外は、焼成物1と同様な方法で焼成物5を作製した。
【0093】
(焼成物6の作製)
無機バインダー焼結物の含有量が成形焼結体100質量部に対して37.7質量部になるようにベーマイト微粒子を秤量した以外は、焼成物1と同様な方法で焼成物6を作製した。
【0094】
(焼成物7の作製)
無機バインダー焼結物の含有量が成形焼結体100質量部に対して49.2質量部になるようにベーマイト微粒子を秤量した以外は、焼成物1と同様な方法で焼成物7を作製した。
【0095】
[成形焼結体の作製]
(実施例1)
<含浸処理1>
1.56gのRu(NO)(NO(AlfaAesar社製、型番:012175)および50mLのエタノール(関東化学株式会社製、型番:14033-00)をロータリーエバポレーター(東京理化器械株式会社製、型番:N-1300V-W)の回転フラスコに投入してRu(NO)(NOをエタノールに溶解させ、含浸液を作製した。次いで、9.5gの焼成物1を回転フラスコ内の含浸液に浸漬させ、回転フラスコを回転させた。10分かけて回転フラスコ内の圧力が20~30hPaになるまで回転フラスコ内を減圧した。そして、回転フラスコを回転させ、回転フラスコ内圧を150hPaに変更し、減圧しながら回転フラスコの内容物を40℃で加熱し、焼成物1にRu(NO)(NOを含浸させた。エタノールの蒸発がほぼ終わり、回転フラスコ内の圧力が25hPaになるまで加熱を続け、回転フラスコ内の圧力が25hPaになった時点で含浸の処理(含浸処理1)を終了した。
【0096】
<含浸処理2>
次にロータリーエバポレーターの回転フラスコに10mLのエタノールを投入した。焼成物1に含浸しないで残留しているRu(NO)(NOはこのエタノールに溶解し、回転フラスコ内に含浸液が再び作製された。回転フラスコを回転させながら10分かけて回転フラスコ内の圧力が20~30hPaになるまで回転フラスコ内を減圧した。そして、回転フラスコを回転させ、回転フラスコ内を減圧しながら回転フラスコの内容物を40℃で加熱し、焼成物1にRu(NO)(NOをさらに含浸させた。エタノールの蒸発がほぼ終わり、回転フラスコ内の圧力が25hPaになるまで加熱を続け、回転フラスコ内の圧力が25hPaになった時点で含浸の処理(含浸処理2)を終了した。この含浸処理2をさらに2回繰り返した。
【0097】
<乾燥処理>
上述の含浸処理1を1回および上述の含浸処理2を3回実施した焼成物1を、真空および室温の条件下で1時間乾燥して、実施例1の成形焼結体を作製した。
【0098】
(実施例2)
焼成物1の代わりに焼成物2を使用した以外は、実施例1の成形焼結体と同様な方法で実施例2の成形焼結体を作製した。
【0099】
(実施例3)
焼成物1の代わりに焼成物3を使用した以外は、実施例1の成形焼結体と同様な方法で実施例3の成形焼結体を作製した。
【0100】
(実施例4)
焼成物1の代わりに焼成物4を使用した以外は、実施例1の成形焼結体と同様な方法で実施例4の成形焼結体を作製した。
【0101】
(比較例1)
焼成物1の代わりに焼成物5を使用した以外は、実施例1の成形焼結体と同様な方法で比較例1の成形焼結体を作製した。
【0102】
(比較例2)
焼成物1の代わりに焼成物6を使用した以外は、実施例1の成形焼結体と同様な方法で比較例2の成形焼結体を作製した。
【0103】
(比較例3)
焼成物1の代わりに焼成物7を使用した以外は、実施例1の成形焼結体と同様な方法で比較例3の成形焼結体を作製した。
【0104】
実施例1~4および比較例1~3の成形焼結体における無機バインダー焼結物の含有量、ルテニウムの担持量、遷移金属の分布、圧壊強度、粉化率、比表面積、嵩密度およびアンモニアの生成速度の結果を表1に示す。
また、実施例1~4および比較例1~3の成形焼結体におけるアンモニアの生成速度および圧壊強度の関係を図1に示す。
さらに、実施例1~4および比較例1~3の成形焼結体におけるX線回折パターンの結果を図2に示す。
また、実施例2,3および比較例2,3の成形焼結体断面における蛍光X線分光法による線分析の結果および測定距離に対するRuの検出強度の結果をそれぞれ図4~7に示す。
さらに、実施例1~4および比較例1~3の成形焼結体における細孔分布の結果を表2および図3に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
[評価結果]
以上の実施例および比較例の結果から、成形焼結体中の無機バインダー焼結物の含有量を成形焼結体100質量部に対して3~30質量部とし、窒素吸着法による細孔径分布測定により得られた前記成形焼結体の細孔径分布において、成形焼結体が、細孔径が2.5~20nmの範囲および20~350nmの範囲にそれぞれ細孔ピークを少なくとも1つ有するようにすることによって、触媒活性が高く、かつ圧壊強度が高い成形焼結体が得られることがわかった。
【0108】
なお、図1より、成形焼結体中の無機バインダー焼結物の含有量を成形焼結体100質量部に対して3質量部以上とすることにより、固定床方式の反応器に用いるのに対して十分な圧壊強度を有する成形焼結体が得られることがわかった。また、成形焼結体中の無機バインダー焼結物の含有量が成形焼結体100質量部に対して30質量部を超えると、圧壊強度は高くなるものの、触媒活性が著しく低下することがわかった。
【0109】
図2より、実施例1~4および比較例1の成形焼結体は、マイエナイト型化合物に帰属される2θ=18.13±0.50deg、27.82±0.50deg、および34.40±0.50degに回折ピークを有していることがわかった。一方、比較例2の成形焼結体は、2θ=18.13±0.50degに解析ピークを有しているものの、2θ=27.82±0.50deg、および34.40±0.50degには回折ピークを有していないことがわかった。また、比較例3の成形焼結体は、2θ=18.13±0.50deg、27.82±0.50deg、および34.40±0.50degには、回折ピークを有していないことがわかった。これらの結果と、実施例1~4および比較例1の成形焼結体の触媒活性が高いこととから、マイエナイト型化合物に帰属される2θ=18.13±0.50deg、27.82±0.50deg、および34.40±0.50degに回折ピークを有していると触媒活性が高いことがわかった。
【0110】
図3より、実施例1~4および比較例2,3の成形焼結体は2.5~20nmの範囲および20~350nmの範囲にそれぞれ細孔ピークを有することがわかった。これらの結果と、実施例1~4および比較例2,3の成形焼結体が固定床方式の反応器に用いるのに対して十分な圧壊強度を有していることから、成形焼結体は、2.5~20nmの範囲および20~350nmの範囲にそれぞれ細孔ピークを少なくとも1つ有していると、固定床方式の反応器に用いるのに対して十分な圧壊強度を有することがわかった。
【0111】
図4より、実施例2の成形焼結体では、ルテニウムが成形焼結体の中心まで分布していることがわかった。また、図5より、実施例3の成形焼結体は、ルテニウムが成形焼結体の深さ方向に深く分布していることがわかった。図示しないが、実施例1および実施例4の成形焼結体についてもルテニウムが成形焼結体の深さ方向に深く分布していることがわかった。一方、図6より、比較例2の成形焼結体では、ルテニウムは成形焼結体の表面付近に分布しており、深くまでは分布していないがわかった。また、図7より、比較例3の成形焼結体では、ルテニウムは検出されず、成形焼結体の内部に分布していないことがわかった。これらの結果と、図1の結果とから、成形焼結体中の無機バインダー焼結物の含有量が触媒100質量部に対して30質量部を超えると、ルテニウムが成形焼結体に深く分布できなくなり、このため、触媒活性が著しく低下したものと推察される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7