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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】慢性骨髄性白血病幹細胞阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/706 20060101AFI20240712BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20240712BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20240712BHJP
   A61K 31/5025 20060101ALI20240712BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240712BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240712BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240712BHJP
【FI】
A61K31/706
A61K31/506
A61K31/496
A61K31/5025
A61P35/02
A61K45/00
A61P43/00 121
A61P43/00 105
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023502369
(86)(22)【出願日】2022-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2022006831
(87)【国際公開番号】W WO2022181514
(87)【国際公開日】2022-09-01
【審査請求日】2023-07-04
(31)【優先権主張番号】P 2021026848
(32)【優先日】2021-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593030071
【氏名又は名称】大原薬品工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003007
【氏名又は名称】弁理士法人謝国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】木村 晋也
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 達郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 雄大
(72)【発明者】
【氏名】嬉野 博志
(72)【発明者】
【氏名】蒲池 和晴
【審査官】池田 百合香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/256388(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00 ~ 33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):

(式中、Rは、(II):

(式中、R、RおよびRは、それぞれ置換基を有していてもよいアルキル基である。)で表されるシリル基である。)で表される化合物またはその塩を含む、慢性骨髄性白血病幹細胞阻害剤。
【請求項2】
アルキル基が、メチル基、エチル基またはプロピル基である、請求項1に記載の阻害剤。
【請求項3】
アルキル基が、エチル基である、請求項2に記載の阻害剤。
【請求項4】
前記式(I)で表される化合物が、OR21(式(I)において、Rがトリエチルシリル基である化合物)である、請求項1に記載の阻害剤。
【請求項5】
式(I):

(式中、Rは、(II):

(式中、R、RおよびRは、それぞれ置換基を有していてもよいアルキル基である。)で表されるシリル基である。)で表される化合物またはその塩を含む、慢性骨髄性白血病を治療するための医薬組成物であって、慢性骨髄性白血病の幹細胞を阻害する作用を有し、慢性骨髄性白血病の再発を予防する、医薬組成物。
【請求項6】
アルキル基が、メチル基、エチル基またはプロピル基である、請求項5に記載の医薬組
成物。
【請求項7】
アルキル基が、エチル基である、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記式(I)で表される化合物が、OR21(式(I)において、Rがトリエチルシリル基である化合物)である、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項9】
チロシンキナーゼ阻害剤と組み合わせてなることを特徴とする、請求項5~8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
チロシンキナーゼ阻害剤が、イマチニブ(Imatinib)、ゲフィチニブ(Gefitinib)、エルロチニブ(Erlotinib)、ソラフェニブ(Sorafenib)、ダサチニブ(Dasatinib)、スニチニブ(Sunitinib)、ラパチニブ(Lapatinib)、ニロチニブ(Nilotinib)、パゾポニブ (Pazoponib)、クリゾチニブ(Crizotinib)、ルキソリチニブ(Ruxolitinib)、バンデルチニブ(Vandertinib)、ベムラフェニブ(Vemurafenib)、アキシチニブ(Axitinib)、ボスチニブ(Bosutinib)、カノンザンチニブ(Canonzantinib)、ポナチニブ(Ponatinib)、レゴラフェニブ(Regorafenib)、トファシチニブ(Tofacitinib)、アファチニブ(Afatinib)、ダブラフェニブ(Dabrafenib)、イブルチニブ(Ibrutinib)、トラメチニブ(Trametinib)、セリチニブ(Ceritinib)、ニンテダニブ(Nintedanib)、レンバチニブ(Lenvatinib)、パルボチニブ(Palbocitinib)、カルボザンチニブ(Carbozantinib)、アカラブルチニブ(Aclabrutinib)、ブリガチニブ(Brigatinib)、ネラチニブ(Neratinib)、ダコミチニブ(Dacomitinib)、ギルテリチニブ(Gilteritinib)、ラロトレチニブ(Larotrectinib)、ロルラチニブ(Lorlatinib)およびオシメルチニブ(Osimertinib)からなる群より選ばれる1種以上である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
チロシンキナーゼ阻害剤が、イマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブ、ボスチニブおよびポナチニブからなる群より選ばれる1種以上である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記式(I)で表される化合物が、OR21(式(I)において、Rがトリエチルシリル基である化合物)であり、前記チロシンキナーゼ阻害剤が、イマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブ、ボスチニブ、ポナチニブからなる群より選ばれる1種以上である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項13】
慢性骨髄性白血病患者の治療において、前記式(I)で表される化合物またはその塩が、前記チロシンキナーゼ阻害剤の投与後に投与される、請求項9~12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
チロシンキナーゼ阻害剤による慢性骨髄性白血病の治療寛解後に、前記チロシンキナーゼ阻害剤による治療の中断後に起こる慢性骨髄性白血病の再発を予防するための、請求項9~13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性骨髄性白血病(CML)の幹細胞阻害剤、 CML再発の予防作用を有する慢性骨髄性白血病治療用の医薬組成物、慢性骨髄性白血病の再発を予防する方法およびラテキシン発現量を測定する工程を含む慢性骨髄性白血病患者の薬剤による治療の有効性を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性骨髄性白血病 (CML)は、成人における骨髄増殖性腫瘍である。CMLの発症原因遺伝子として、チロシンキナーゼと呼ばれる酵素を活性化させることによりCML細胞を増やすBCR-ABL1が知られている。CML患者の予後は、イマチニブを初めとするチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の登場によりその治療成績は向上した。しかし、TKIによる治療では疾患が完治しないため、生涯にわたり服薬を続ける必要があり、その間、患者は高額な医療費および長期投与による副作用に耐える必要があるとされている。近年では、TKIにより長期に渡り治療効果が認められている患者は服薬を中止するという臨床試験が実施されている(非特許文献1、2)。しかし、イマチニブを服用して2年以上CML原因遺伝子が陰性の患者では、服薬を中止しても約4割は再発しない一方で、再発するケースも見受けられた(非特許文献1)。これについて、TKIはCML幹細胞に対する治療効果が期待できないことが報告されている(非特許文献3)。一方、Latexin(LXN)と呼ばれる因子は、正常な造血幹細胞において幹細胞の維持を負に制御する因子であることが報告されている(非特許文献4)。また、LXNは白血病細胞ではその発現が抑制されており、DNAメチル化によって制御されていることが報告されている(非特許文献5)。
【0003】
TKIは、BCR-ABL1の恒常的なチロシンキナーゼ活性を直接標的とする分子標的医薬である。TKI の投薬により、CML患者の治療効果が劇的に改善されている。しかしながら、TKI治療後のCML患者において、TKIが効果を示さなくなったCML(治療抵抗性の再発CML)が臨床上の重大な問題となっている。
【0004】
CML幹細胞は、CML細胞の供給源となる細胞である。CML幹細胞の発生起源として、正常造血幹細胞が知られている。CML幹細胞は、増殖活性が低い休眠状態で生存を維持しており、TKIに耐性を持つ。治療後、残存したCML幹細胞が再度活性化することがある。そのため、CML幹細胞は、がん治療における本質的なターゲットとして認識されつつある。しかしながら、CML幹細胞の起源、機能および特性ならびに治療抵抗性の分子機構などについては未だ詳細には解明されておらず、また、臨床応用可能なCML幹細胞阻害剤およびCML幹細胞阻害方法は報告されていない。このようにCMLを根治するためには、CML幹細胞を根絶する治療薬および治療方法の開発が待望される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Mahon F-X, Discontinuation of imatinib in patients with chronic myeloid leukaemia who have maintained complete molecular remission for at least 2 years: the prospective, multicentre Stop Imatinib (STIM) trial. Lancet Oncol. 2010;11(11):1029-1035.
【文献】Okada M, et al. Final 3-year Results of the dasatinib discontinuation trial in patients with chronic myeloid leukemia who received dasatinib as a second-line treatment. Clin Lymphoma Myeloma Leuk. 2018;18(5):353-360.
【文献】Corbin AS, et al. Human chronic myeloid leukemia stem cells are insensitive to imatinib despite inhibition of BCR-ABL activity. J Clin Invest. 2011;121(1):396-409.
【文献】Ying Liang Y, et al. The quantitative trait gene latexin influences the size of the hematopoietic stem cell population in mice. Nat Genet. 2007;39(2):178-188.
【文献】Liu Y, et al. Latexin is down-regulated in hematopoietic malignancies and restoration of expression inhibits lymphoma growth. PLoS One. 2012;7(9):e44979.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、CML幹細胞を標的とした慢性骨髄性白血病の治療剤、治療方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、CML治療寛解後に治療を中断した後に起こる再発を予防するために、CML幹細胞を標的とした治療法を見出すべく鋭意研究を行ってきた結果、DNAメチルトランスフェラーゼの阻害剤であるデシタビンの最初の経口投与可能な単一化合物プロドラッグであるOR21が、単剤療法としてCML幹細胞を阻害し、併用療法としてTKIの抗腫瘍効果を高めるのみならず、造血幹細胞の負の調節因子であるLXNの発現を上昇させ、CML幹細胞を阻害することを見出し、これらの知見を下にさらに詳細な検討を重ね、本発明を完成するに到った。
【0008】
本発明は、以下記載の発明を提供することにより上記課題を解決したものである。
〔1〕
式(I):

(式中、Rは、(II):
(式中、R、RおよびRは、それぞれ置換基を有していてもよいアルキル基である。)で表されるシリル基である。)で表される化合物またはその塩を含む、慢性骨髄性白血病幹細胞阻害剤。
〔2〕
アルキル基が、メチル基、エチル基またはプロピル基である、〔1〕に記載の阻害剤。
〔3〕
アルキル基が、エチル基である、〔2〕に記載の阻害剤。
〔4〕前記式(I)で表される化合物が、OR21(式(I)において、Rがトリエチルシリル基である化合物)である、〔1〕に記載の阻害剤。
【0009】
〔5〕
式(I):
(式中、Rは、(II):
(式中、R、RおよびRは、それぞれ置換基を有していてもよいアルキル基である。)で表されるシリル基である。)で表される化合物またはその塩を含む、慢性骨髄性白血病を治療するための医薬組成物であって、慢性骨髄性白血病の幹細胞を阻害する作用を有し、慢性骨髄性白血病の再発を予防する、医薬組成物。
〔6〕
アルキル基が、メチル基、エチル基またはプロピル基である、〔5〕に記載の医薬組成物。
〔7〕
アルキル基が、エチル基である、〔6〕に記載の医薬組成物。
〔8〕前記式(I)で表される化合物が、OR21(式(I)において、Rがトリエチルシリル基である化合物)である、〔5〕に記載の医薬組成物。
〔9〕
チロシンキナーゼ阻害剤と組み合わせてなることを特徴とする、〔5〕~〔8〕のいずれかに記載の医薬組成物。
〔10〕
チロシンキナーゼ阻害剤が、イマチニブ(Imatinib)、ゲフィチニブ(Gefitinib)、エルロチニブ(Erlotinib)、ソラフェニブ(Sorafenib)、ダサチニブ(Dasatinib)、スニチニブ(Sunitinib)、ラパチニブ(Lapatinib)、ニロチニブ(Nilotinib)、パゾポニブ (Pazoponib)、クリゾチニブ(Crizotinib)、ルキソリチニブ(Ruxolitinib)、バンデルチニブ(Vandertinib)、ベムラフェニブ(Vemurafenib)、アキシチニブ(Axitinib)、ボスチニブ(Bosutinib)、カノンザンチニブ(Canonzantinib)、ポナチニブ(Ponatinib)、レゴラフェニブ(Regorafenib)、トファシチニブ(Tofacitinib)、アファチニブ(Afatinib)、ダブラフェニブ(Dabrafenib)、イブルチニブ(Ibrutinib)、トラメチニブ(Trametinib)、セリチニブ(Ceritinib)、ニンテダニブ(Nintedanib)、レンバチニブ(Lenvatinib)、パルボチニブ(Palbocitinib)、カルボザンチニブ(Carbozantinib)、アカラブルチニブ(Aclabrutinib)、ブリガチニブ(Brigatinib)、ネラチニブ(Neratinib)、ダコミチニブ(Dacomitinib)、ギルテリチニブ(Gilteritinib)、ラロトレチニブ(Larotrectinib)、ロルラチニブ(Lorlatinib)およびオシメルチニブ(Osimertinib)からなる群より選ばれる1種以上である、〔9〕に記載の医薬組成物。
〔11〕
チロシンキナーゼ阻害剤が、イマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブ、ボスチニブおよびポナチニブからなる群より選ばれる1種以上である、〔9〕に記載の医薬組成物。
〔12〕
前記式(I)で表される化合物が、OR21(式(I)において、Rがトリエチルシリル基である化合物)であり、前記チロシンキナーゼ阻害剤が、イマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブ、ボスチニブ、ポナチニブからなる群より選ばれる1種以上である、〔9〕に記載の医薬組成物。
〔13〕
慢性骨髄性白血病患者の治療において、前記式(I)で表される化合物またはその塩が、前記チロシンキナーゼ阻害剤の投与後に投与される、〔9〕~〔12〕のいずれかに記載の医薬組成物。
〔14〕
前記投与が、経口投与、非経口投与またはこれらの組合せを含む、〔9〕~〔13〕のいずれかに記載の医薬組成物。
〔15〕
前記式(I)で表される化合物またはその塩を経口投与し、前記チロシンキナーゼ阻害剤を経口投与または非経口投与する、〔9〕~〔14〕のいずれかに記載の医薬組成物。
〔16〕
チロシンキナーゼ阻害剤による慢性骨髄性白血病の治療寛解後に、当該薬剤による治療の中断後に起こる慢性骨髄性白血病の再発を予防するための、〔5〕~〔15〕のいずれかに記載の医薬組成物。
【0010】
〔17〕
式(I):
(式中、Rは、(II):
(式中、R、RおよびRは、それぞれ置換基を有していてもよいアルキル基である。)で表されるシリル基である。)で表される化合物またはその塩の薬学的有効量を、慢性骨髄性白血病の治療を必要とする患者に投与する工程を含む慢性骨髄性白血病の治療方法であって、慢性骨髄性白血病の幹細胞を阻害する作用に基づき、慢性骨髄性白血病の再発を予防する方法。
〔18〕
アルキル基が、メチル基、エチル基またはプロピル基である、〔17〕に記載の治療方法。
〔19〕
アルキル基が、エチル基である、〔18〕に記載の治療方法。
〔20〕前記式(I)で表される化合物が、OR21(式(I)において、Rがトリエチルシリル基である化合物)である、〔17〕に記載の治療方法。
〔21〕
チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)と組み合わせてなることを特徴とする、〔17〕~〔20〕のいずれかに記載の治療方法。
〔22〕
チロシンキナーゼ阻害剤が、イマチニブ(Imatinib)、ゲフィチニブ(Gefitinib)、エルロチニブ(Erlotinib)、ソラフェニブ(Sorafenib)、ダサチニブ(Dasatinib)、スニチニブ(Sunitinib)、ラパチニブ(Lapatinib)、ニロチニブ(Nilotinib)、パゾポニブ (Pazoponib)、クリゾチニブ(Crizotinib)、ルキソリチニブ(Ruxolitinib)、バンデルチニブ(Vandertinib)、ベムラフェニブ(Vemurafenib)、アキシチニブ(Axitinib)、ボスチニブ(Bosutinib)、カノンザンチニブ(Canonzantinib)、ポナチニブ(Ponatinib)、レゴラフェニブ(Regorafenib)、トファシチニブ(Tofacitinib)、アファチニブ(Afatinib)、ダブラフェニブ(Dabrafenib)、イブルチニブ(Ibrutinib)、トラメチニブ(Trametinib)、セリチニブ(Ceritinib)、ニンテダニブ(Nintedanib)、レンバチニブ(Lenvatinib)、パルボチニブ(Palbocitinib)、カルボザンチニブ(Carbozantinib)、アカラブルチニブ(Aclabrutinib)、ブリガチニブ(Brigatinib)、ネラチニブ(Neratinib)、ダコミチニブ(Dacomitinib)、ギルテリチニブ(Gilteritinib)、ラロトレチニブ(Larotrectinib)、ロルラチニブ(Lorlatinib)およびオシメルチニブ(Osimertinib)からなる群より選ばれる1種以上である、〔21〕に記載の治療方法。
〔23〕
チロシンキナーゼ阻害剤が、イマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブ、ボスチニブおよびポナチニブからなる群より選ばれる1種以上である、〔21〕に記載の治療方法。
〔24〕
前記式(I)で表される化合物が、OR21(式(I)において、Rがトリエチルシリル基である化合物)であり、前記チロシンキナーゼ阻害剤が、イマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブ、ボスチニブ、ポナチニブからなる群より選ばれる1種以上である、〔21〕に記載の治療方法。
〔25〕
慢性骨髄性白血病患者の治療において、前記式(I)で表される化合物またはその塩が、前記チロシンキナーゼ阻害剤の投与後に投与される、〔21〕~〔24〕のいずれかに記載の治療方法。
〔26〕
前記投与が、経口投与、非経口投与またはこれらの組合せを含む、〔21〕~〔25〕のいずれかに記載の治療方法。
〔27〕
前記式(I)で表される化合物またはその塩を経口投与し、前記チロシンキナーゼ阻害剤を経口投与または非経口投与する、〔21〕~〔26〕のいずれかに記載の治療方法。
〔28〕
チロシンキナーゼ阻害剤による慢性骨髄性白血病の治療寛解後に当該薬剤による治療を中断した際に起こる再発を予防するための〔17〕~〔27〕のいずれかに記載の治療方法。
【0011】
〔29〕
慢性骨髄性白血病患者の薬剤による治療の有効性を評価する方法であって、
薬剤による治療中または治療後の患者から得られた試料中のラテキシン発現量および治療前の患者から得られた試料中のラテキシン発現量を測定する工程、それらの発現量を比較する工程、および薬剤による治療の有効性を評価する工程を含み、
(1)薬剤による治療中または治療後のラテキシン発現量が治療前と比較して増加した場合、当該患者における当該薬剤による治療が有効であり、疾患を再発させることなく薬剤による治療を中断または終了できると評価する方法、
(2)薬剤による治療中または治療後のラテキシン発現量が治療前と比較して増加しない場合、当該薬剤による治療を中断または終了後に、疾患が再発すると評価する、または、
(3)(2)の評価をした場合、当該薬剤と慢性骨髄性白血病幹細胞の阻害作用を有する薬剤とを併用して治療を継続、または慢性骨髄性白血病幹細胞の阻害作用を有する薬剤により治療を継続することが疾患の再発予防に有効であると評価する、
方法。
〔30〕
患者から得られた前記試料が、骨髄または末梢血である、〔29〕に記載の方法。
〔31〕
前記の、治療前と比較した、治療中または治療後のラテキシン発現量の増加が1.5倍以上、好ましくは2.0倍以上である、〔29〕~〔30〕のいずれかに記載の方法。
〔32〕
前記ラテキシン発現量が、ラテキシンmRNA発現量である、〔29〕~〔31〕のいずれかに記載の方法。
〔33〕
前記mRNA発現量が、RT-PCR、遺伝子発現プロファイリングおよびマイクロアレイ分析からなる群より選ばれる方法を使用して測定される、〔29〕~〔32〕のいずれかに記載の方法。
〔34〕
前記ラテキシン発現量が、ラテキシンタンパク質発現量である、〔29〕~〔33〕のいずれかに記載の方法。
〔35〕
前記タンパク質発現量が、免疫組織化学、免疫蛍光、質量分析、フローサイトメトリーおよびウエスタンブロットからなる群より選ばれる方法を使用して測定される、〔29〕~〔34〕のいずれかに記載の方法。
〔36〕
慢性骨髄性白血病の治療に使用される薬剤が、チロシンキナーゼ阻害剤またはOR21(式Iにおいて、Rがトリエチルシリル基である化合物)である、〔29〕~〔35〕のいずれかに記載の方法。
〔37〕
慢性骨髄性白血病幹細胞の阻害作用を有する薬剤がOR21(式Iにおいて、Rがトリエチルシリル基である化合物)である、〔29〕~〔36〕のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、式(I)で表される化合物またはその塩を含む慢性骨髄性白血病幹細胞阻害剤、 CML再発を予防する慢性骨髄性白血病治療用の医薬組成物および慢性骨髄性白血病の再発を予防する方法を提供することができる。
【0013】
本発明によれば、OR21が単剤療法として抗腫瘍効果を発揮し、併用療法としてTKIの抗腫瘍効果を高め、CML幹細胞を障害することが判明した。TKIとOR21の併用療法はCMLにおける有望な治療方法(無治療寛解維持(Treatment-free remission:TFR))として期待される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】CMLマウスモデルにおけるCML幹細胞または前駆細胞に対するDNAメチル基転移酵素阻害剤およびチロシンキナーゼ阻害剤の効果を示す。
図2】2次移植のCMLマウスモデルにおけるCML幹細胞または前駆細胞に対するDNAメチル基転移酵素阻害剤の効果を示す。
図3】慢性骨髄性白血病(CML)患者および健常人のLXN遺伝子発現量を示す。
図4】遺伝子発現をマイクロアレイにより網羅的に解析したK562細胞およびKBM5細胞におけるLXN遺伝子発現およびタンパク質発現に対するDNAメチル基転移酵素阻害剤およびチロシンキナーゼ阻害剤の効果を示す。
図5】K562細胞およびKBM5細胞におけるLXN遺伝子発現およびタンパク質発現に対するDNAメチル基転移酵素阻害剤およびチロシンキナーゼ阻害剤の効果を示す。
図6】K562細胞およびKBM5細胞におけるLXN遺伝子発現およびタンパク質発現に対するDNAメチル基転移酵素阻害剤およびチロシンキナーゼ阻害剤の効果を示す。
図7】慢性骨髄性白血病(CML)患者および健常人のLXN遺伝子発現量を示す。
図8】CML幹細胞に対するDNAメチル基転移酵素阻害剤およびチロシンキナーゼ阻害剤の効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
特に言及しない限り、本明細書および特許請求の範囲で用いた用語は以下に述べる意味を有する。
【0016】
一般に、本明細書に使用される命名法ならびに本明細書に記載の有機化学、薬化学、および薬理学における実験手法は、周知のものであり、かつ当該技術分野において一般に使用されるものである。別に定義しない限りは、本明細書において使用される技術用語および科学用語はすべて、概して本開示が属する技術分野の当業者に通常理解される意味と同じ意味を有する。
【0017】
用語「CML幹細胞」とは、血液腫瘍内に存在し、自己複製能、多分化能および血液臓腫瘍形成能を有する細胞をいう。
【0018】
用語「CML幹細胞阻害剤」とは、CML幹細胞抑制剤またはCML幹細胞除去剤とも呼ばれ、CML幹細胞を標的として、CML幹細胞の増殖抑制効果または細胞傷害効果を示す薬剤をいう。またCML幹細胞阻害剤は、CML幹細胞の機能、例えば自己複製能、多分化能および血液腫瘍形成能のいずれか1つまたは2つ以上の機能を阻害する薬剤であり得る。
【0019】
用語「対象」とは、霊長類(例えばヒト)、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラットおよびマウスを含むが、これらに限定されるものではない動物をいう。用語「対象」および「患者」は、本明細書において、例えば、ヒトなどの哺乳動物の対象に関して、一実施態様においてはヒトに関して、互換的に使用される。
【0020】
用語「治療する」、「治療している」および「治療」とは、障害、疾患もしくは状態または障害、疾患もしくは状態に関連した1つ以上の症状を軽減または抑止すること;または障害、疾患もしくは状態の原因自体を軽減もしくは根絶することを含むことを意味する。
【0021】
用語「予防する」、「予防している」および「予防」とは、障害、疾患、もしくは状態および/またはその随伴症状の開始を遅延および/または排除する方法;障害、疾患もしくは状態を獲得することを妨害する方法;または障害、疾患もしくは状態を獲得するリスクを減らす方法を含むことを意味する。
【0022】
用語「治療有効量」とは、化合物が投与された場合に、治療される障害、疾患、または状態の1つ以上の症状の発症を予防するか、またはある程度軽減するのに十分である化合物の量を含むことを意味する。また、用語「治療有効量」とは、研究者、獣医師、医師または臨床医により探求される、生物学的分子(例えば、タンパク質、酵素、RNAまたはDNA)、細胞、組織、体系、動物もしくはヒトの生物学的または医学的反応を誘起するのに十分である化合物の量をいう。
【0023】
用語「再発した」とは、治療後に、がんが寛解した対象または哺乳動物が、がん細胞の回復を許した状態をいう。
【0024】
「慢性骨髄性白血病幹細胞阻害剤」
本発明は、式(I)
(式中、Rは、(II):
(式中、R、RおよびRは、それぞれ置換基を有していてもよいアルキル基である。)で表されるシリル基である。)で表される化合物またはその塩を含む、慢性骨髄性白血病幹細胞阻害剤を提供する。
【0025】
「アルキル基」とは、特に限定しない限り、飽和脂肪族炭化水素基、例えば、炭素数が1~8個の直鎖、分岐鎖状または環状のアルキル基をいい、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のC~Cアルキル基、ヘプチル基、2-メチルヘキシル基、5-メチルヘキシル基、2,2-ジメチルペンチル基、4,4-ジメチルペンチル基、2-エチルペンチル基、1,1,3-トリメチルブチル基、1,2,2-トリメチルブチル基、1,3,3-トリメチルブチル基、2,2,3-トリメチルブチル基、2,3,3-トリメチルブチル基、1-プロピルブチル基、1,1,2,2-テトラメチルプロピル基、オクチル基、2-メチルヘプチル基、3-メチルヘプチル基、6-メチルヘプチル基、2-エチルヘキシル基、5,5-ジメチルヘキシル基、2,4,4-トリメチルペンチル基、1-エチル-1-メチルペンチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基およびシクロオクチル基等の基を挙げることができるが、C~Cアルキル基が好ましい。C~Cアルキル基の好ましい例は、メチル基、エチル基およびプロピル基である。C~Cアルキル基のより好ましい例は、エチル基である。環状のアルキル基の好ましい例は、シクロペンチル基およびシクロヘキシル基である。
【0026】
「置換基を有していてもよいアルキル基」とは、置換基を有していても、無置換であってもよいことをいう。置換されている場合、置換基は前記アルキル基の置換可能な位置に1ないし5個、好ましくは1~3個を有していてもよく、置換基数が2個以上の場合は各置換基が同一または異なっていてもよい。置換基としては、ハロゲン原子、シアノ基およびニトロ基等が挙げられるが、好ましい置換基の例は、ハロゲンである。
【0027】
「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子等をいう。好ましい例は、フッ素原子および塩素原子である。
【0028】
式(I)で表される化合物の中、特にRがトリエチルシリル基である化合物(以下、OR21という)が好ましい。OR21は公知であり、かつ下記構造を有する。
【0029】
式(I)で表される化合物およびOR21は、当業者に公知の任意の方法により調製するか、単離するか、または入手することができる。例として、日本特許第6162349号に説明された方法に従い調製することができ、この特許の開示はその全体が引用により本明細書中に組み込まれる。
【0030】
本発明の式(I)で表される化合物の塩は、薬理学的に許容される塩であれば如何なる塩であってもよい。その塩としては、例えば、無機酸塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、臭化水素酸塩およびリン酸塩等)、有機酸塩(例えば、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、プロピオン酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、乳酸塩、蓚酸塩、メタンスルホン酸塩およびp-トルエンスルホン酸塩等)等の酸付加塩等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
(I)で表される化合物またはその塩は、結晶であってもよく、結晶形が単一であっても、複数の結晶形の混合物であってもよい。結晶は、自体公知の結晶化法を適用して、結晶化することによって製造することができる。
【0032】
また、式(I)で表される化合物またはその塩は、溶媒和物(例えば、水和物等)であってもよく、溶媒和物および無溶媒和物(例えば、非水和物等)のいずれも式(I)で表される化合物またはその塩に包含される。
【0033】
本発明において、OR21は、CMLマウスモデルにおいてCML前駆細胞を阻害する作用を示し、またIM投与により増加するCML幹細胞を阻害する作用を示すため、CMLに対する新規治療薬としての有用性および有効性が極めて高いことが示される。
【0034】
「医薬組成物」
本発明は、式(I)で表される化合物またはその塩を含む、慢性骨髄性白血病を治療するための医薬組成物であって、慢性骨髄性白血病の幹細胞を阻害する作用を有し、慢性骨髄性白血病の再発を予防する、医薬組成物を提供する。
【0035】
また、本発明は、式(I)で表される化合物またはその塩をTKIと組み合わせてなることを含む、慢性骨髄性白血病を治療するための医薬組成物であって、慢性骨髄性白血病の幹細胞を阻害する作用を有し、慢性骨髄性白血病の再発を予防する、医薬組成物を提供する。
【0036】
本発明で用いられるTKIとしてとは、例えば、イマチニブ(Imatinib)、ゲフィチニブ(Gefitinib)、エルロチニブ(Erlotinib)、ソラフェニブ(Sorafenib)、ダサチニブ(Dasatinib)、スニチニブ(Sunitinib)、ラパチニブ(Lapatinib)、ニロチニブ(Nilotinib)、パゾポニブ (Pazoponib)、クリゾチニブ(Crizotinib)、ルキソリチニブ(Ruxolitinib)、バンデルチニブ(Vandertinib)、ベムラフェニブ(Vemurafenib)、アキシチニブ(Axitinib)、ボスチニブ(Bosutinib)、カノンザンチニブ(Canonzantinib)、ポナチニブ(Ponatinib)、レゴラフェニブ(Regorafenib)、トファシチニブ(Tofacitinib)、アファチニブ(Afatinib)、ダブラフェニブ(Dabrafenib)、イブルチニブ(Ibrutinib)、トラメチニブ(Trametinib)、セリチニブ(Ceritinib)、ニンテダニブ(Nintedanib)、レンバチニブ(Lenvatinib)、パルボチニブ(Palbocitinib)、カルボザンチニブ(Carbozantinib)、アカラブルチニブ(Aclabrutinib)、ブリガチニブ(Brigatinib)、ネラチニブ(Neratinib)、ダコミチニブ(Dacomitinib)、ギルテリチニブ(Gilteritinib)、ラロトレチニブ(Larotrectinib)、ロルラチニブ(Lorlatinib) およびオシメルチニブ(Osimertinib)等が挙げられる。好ましくは、チロシンキナーゼ阻害剤が、イマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブ、ボスチニブおよびポナチニブからなる群より選ばれる1種以上である。
【0037】
本発明の医薬組成物を医薬製剤として患者に投与する場合、式(I)で表される化合物)を単独で製剤化してもよいし、TKIおよび薬学的に許容される担体等と混合して製剤化してもよい。医薬製剤中の式(I)で表される化合物の含有割合は通常0.1~100%(w/w)である。また、医薬製剤に、併用剤を配合する場合、式(I)で表される化合物の含有割合は通常0.1~99.9%(w/w)である。
【0038】
本発明で使用される適切な医薬組成物には、活性成分が有効な量で、即ち、治療される症状に対して、治療的および/または予防的目的を達成するために有効な量で存在する組成物が含まれる。
【0039】
本発明で使用される医薬組成物は、経口投与用剤形として提供される。本明細書において提供される医薬組成物は、経口投与のために、固形、半固形または液状投与剤形で提供され得る。本明細書で用いられる場合、経口投与には、口内投与および舌下投与も含まれる。適切な経口投与剤形には、錠剤、カプセル剤、丸剤、トローチ、薬用キャンディー、芳香製剤、カシェ剤、ペレット剤、薬物添加チューインガム、顆粒剤、原末、発泡製剤または非発泡粉末もしくは顆粒剤、溶液、エマルジョン、懸濁液、溶液、ウェハ、スプリンクル(sprinkles)、エリキシル剤およびシロップ剤が含まれるが、これらに限定されない。活性成分に加え、医薬組成物は、1種または複数種の薬学的に許容される添加物をさらに含む。添加物としては、担体、賦形剤、結合剤、充填材、希釈剤、崩壊剤、湿潤剤、滑沢剤、流動促進剤、着色剤、色素遊走阻止剤、甘味剤および香味料等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
医薬組成物または剤形内の式(I)で表される化合物の量は、例えば、約1mg~約2,000mg、約10mg~約2,000mg、約20mg~約2,000mg、約50mg~約1,000mg、約100mg~約500mg、約150mg~約500mgまたは約150mg~約250mgの範囲であってもよい。
【0041】
本発明の化合物をCML幹細胞の治療剤として用いる場合、その有効投与量は、CMLの性質、CMLの進行程度、治療方針、転移の程度、腫瘍体積、体重、年齢、性別および患者の(遺伝的)人種的背景等に依存して適宜選択できるが、薬学的有効量は一般に、臨床上観察される症状、CMLの進行度合い等の要因に基づいて決定される。一日あたりの投与量は、例えば、ヒトに投与する場合は、約0.01mg/kg~約10mg/kg(体重60kgの成人では、約0.5mg~約500mg)、好ましくは約0.05mg/kg~約5mg/kg、より好ましくは約0.1mg/kg~約2mg/kgである。投与は、1回で投与しても複数回に分けて投与してもよい。
【0042】
医薬組成物は、製剤技術分野において慣用の方法、例えば、日本薬局方に記載の方法等により製造することができる。
【0043】
「治療方法」
本発明は、式(I)で表される化合物またはその塩の薬学的有効量を、慢性骨髄性白血病の治療を必要とする患者に投与する工程を含む慢性骨髄性白血病の治療方法であって、慢性骨髄性白血病の幹細胞を阻害する作用に基づき、慢性骨髄性白血病の再発を予防する方法を提供する。
【0044】
また、本発明は、式(I)で表される化合物またはその塩の薬学的有効量を、TKIと組み合わせて、慢性骨髄性白血病の治療を必要とする患者に投与する工程を含む慢性骨髄性白血病の治療方法であって、慢性骨髄性白血病の幹細胞を阻害する作用に基づき、慢性骨髄性白血病の再発を予防する方法を提供する。
【0045】
本発明の式(I)で表される化合物とチロシンキナーゼ阻害剤とを組み合わせる場合、式(I)で表される化合物およびチロシンキナーゼ阻害剤の投与時期は限定されず、両者を、投与対象に対し、同時に投与してもよいし、時間差をおいて投与してもよい。式(I)で表される化合物とチロシンキナーゼ阻害剤とは別々に製剤化されていてもよいし、両者が混合された合剤であってもよい。併用剤の投与量は、臨床上用いられている投与量に準ずればよく、投与対象、投与ルート、疾患および組み合わせ等により適宜選択することができる。併用剤の投与量は、例えば、当該併用剤を単剤として使用する時の投与量の3分の1から3倍量とすればよい。
【0046】
本発明の式(I)で表される化合物およびチロシンキナーゼ阻害剤の投与形態は、特に限定されず、投与時に、式(I)で表される化合物およびチロシンキナーゼ阻害剤が組み合わされていればよい。このような投与形態としては、例えば、(1)式(I)で表される化合物とチロシンキナーゼ阻害剤とを同時に製剤化して得られる単一の製剤の投与、(2)式(I)で表される化合物とチロシンキナーゼ阻害剤とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での同時投与、(3)式(I)で表される化合物とチロシンキナーゼ阻害剤とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での時間差をおいての投与、(4)式(I)で表される化合物とチロシンキナーゼ阻害剤とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での同時投与、(5)式(I)で表される化合物とチロシンキナーゼ阻害剤とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での時間差をおいての投与(例えば、まずチロシンキナーゼ阻害剤、次に式(I)で表される化合物の順序での投与またはその逆の順序での投与)等が挙げられる。
【0047】
本発明の式(I)で表される化合物とチロシンキナーゼ阻害剤とを組み合わせることにより、以下のような優れた効果を得ることができる。
(1)式(I)で表される化合物またはチロシンキナーゼ阻害剤を単独で投与する場合に比べて、その投与量を減量することができる、
(2)患者の症状(軽症、重症等)に応じて、併用剤の種類を選択することができる、
(3)式(I)で表される化合物と作用機序が異なるチロシンキナーゼ阻害剤を選択することにより、治療期間を長く設定することができる、
(4)式(I)で表される化合物と作用機序が異なるチロシンキナーゼ阻害剤を選択することにより、治療効果の持続を図ることができる、
(5)式(I)で表される化合物とチロシンキナーゼ阻害剤とを併用することにより、治療効果における相乗効果が得られる。
(6)式(I)で表される化合物とチロシンキナーゼ阻害剤とを併用することにより、CMLの治療寛解による投薬中断後の再発を予防する効果が得られる。
【0048】
一実施態様において、本発明は、慢性骨髄性白血病の再発を予防するための、前記慢性骨髄性白血病幹細胞阻害剤を提供する。
【0049】
一実施態様において、本発明は、慢性骨髄性白血病の再発を予防する剤を製造するための、前記慢性骨髄性白血病幹細胞阻害剤を提供する。
【0050】
「慢性骨髄性白血病患者の薬剤による治療の有効性を評価する方法」
本発明は、慢性骨髄性白血病患者の薬剤による治療の有効性を評価する方法であって、
薬剤による治療中または治療後の患者から得られた試料中のラテキシン発現量および治療前の患者から得られた試料中のラテキシン発現量を測定する工程、それら発現量を比較する工程、および薬剤による治療の有効性を評価する工程を含み、
(1)薬剤による治療中または治療後のラテキシン発現量が治療前と比較して増加した場合、当該患者における当該薬剤による治療が有効であり、疾患を再発させることなく薬剤による治療を中断または終了できると評価する、
(2)薬剤による治療中または治療後のラテキシン発現量が治療前と比較して増加しない場合、当該薬剤による治療を中断または終了した際に疾患が再発すると評価する、または、
(3)(2)の予測をした場合、当該薬剤と慢性骨髄性白血病幹細胞の阻害作用を有する薬剤を併用して治療を継続、または慢性骨髄性白血病幹細胞の阻害作用を有する薬剤により治療を継続することが疾患の再発予防に有効であると評価する、
方法を提供する。
【0051】
本発明における慢性骨髄性白血病患者に使用する薬剤は、CML細胞に対し増殖抑制効果、細胞傷害効果、または薬剤に対する細胞の感受性を増強する効果を示す化合物であればいずれを用いることもできる。CMLの治療に有効な薬剤として、例えば化学療法剤、生物学的応答修飾剤、化学的感作剤などに含まれる薬剤を例示できる。
【0052】
化学療法剤とは、がん細胞を死滅させる、またはそれらの増殖を遅らせるために用いる薬剤を意味する。したがって、細胞傷害性薬および細胞増殖抑制剤の両方が化学療法薬であるとみなされる。
【0053】
生物学的応答修飾薬とは、疾病と闘う免疫系の能力を刺激する、または回復させる薬剤を意味する。すべてではないがいくつかの生物学的応答修飾薬は、がん細胞の増殖を遅らせることができ、したがって化学療法剤であるともみなされる。
【0054】
化学感作剤とは、化学療法剤の効果に対する腫瘍細胞の感受性をより高くさせる薬剤を意味する。
【0055】
本発明における慢性骨髄性白血病患者の薬剤としては、例えば、DNAメチル基転移酵素阻害剤、ヒストンメチル化酵素阻害剤、ТΚΙ、p53遺伝子阻害剤および酵素阻害剤等が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0056】
〔DNAメチル基転移酵素阻害剤〕
DNAメチル基転移酵素は、DNA鎖中のアデニンのN6位、シトシンのN4位またはシトシンの5位をメチル化する酵素群である。特に、発現遺伝子のプロモーター領域によく認められるCpG アイランドと称される配列部分において、シトシンの5位をメチル化する酵素群は、細胞の正常な発生と分化を調節する際に極めて重要な役割を果たしている。DNAメチル基転移酵素は、遺伝子発現にエピジェネティックな影響を与えるため、この酵素の阻害剤は、抗がん剤として利用される。
【0057】
本発明において使用されるDNAメチル基転移酵素阻害剤としては、式(I)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩、デシタビン、アザシチジン、RG-108、チオグアニン、ゼブラリン、SGI-110、SGI-1027、ロメグアトリブおよびプロカイナミド塩酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
デシタビン(decitabine)の化学名は、4-amino-1-(2-deoxy-β-D-erythro-pentofuranosyl)-1,3,5-triazin-2(1H)-oneであり、CAS番号は2353-33-5である。デシタビンとその代謝酵素阻害剤との配合剤としては、例えばASTX727が挙げられる。ASTX727は、デシタビンとシチジンデアミナーゼ阻害剤であるE7727(一般名:cedazuridine)との配合剤である。E7727の化学名は、(4R)-1-(2-Deoxy-2,2-difluoro-beta-D-erythro-pentofuranosyl)-4-hydroxytetrahydropyrimidin-2(1H)-oneであり、CAS番号は1141397-80-9である。アザシチジン(azacitidine)の化学名は、4-amino-1-β-D-ribofuranosyl-s-triazin-2(1H)-oneであり、CAS番号は320-67-2である。RG-108の化学名は、2(S)-(1,3-dioxo-2,3-dihydro-1H-isoindol-2-yl)-3-(1H-indol-3-yl)propionic acidであり、CAS番号は48208-26-0である。チオグアニン(tioguanine)の化学名は、2-amino-1,9-dihydro-6H-purine-6-thioneであり、CAS番号は154-42-7である。ゼブラリン(zebularine)の化学名は、1-(β-D-ribofuranosyl)pyrimidin-2(1H)-oneであり、CAS番号は3690-10-6である。SGI-110(一般名グアデシタビン、guadecitabine)の化学名は、2'-deoxy-5'-O-[(2'-deoxy-5-azacytidin-3'-O-yl)(hydroxy)phosphoryl]guanosineであり、CAS番号は929904-85-8(ナトリウム塩)である。SGI-1027の化学名は、N-[4-(2-amino-6-methylpyrimidin-4-ylamino)phenyl]-4-(quinolin-4-ylamino)benzamideであり、CAS番号は1020149-73-8である。ロメグアトリブ(lomeguatrib)の化学名は、6-[(4-bromo-2-thienyl)methoxy]-7H-purin-2-amineであり、CAS番号は192441-08-0である。これらの化合物は、これらの薬学的に許容される塩の形態であってもよく、薬学的に許容される塩としては、上記した塩が例示され、塩は、上記の無水物または溶媒和物であってもよい。
【0059】
〔ヒストンメチル化酵素阻害剤〕
ヒストンメチル化酵素は、ヒストン3(H3)タンパク質のリシン(lysine)残基のアミノ基に、補酵素のS-アデノシルメチオニンからメチル基を転移させる酵素である。このリシン残基のメチル化修飾は、遺伝子発現においてエピジェネティックな影響を与えるため、遺伝子の発現調節に極めて重要である。このため、ヒストンメチル化酵素の阻害剤は、抗がん剤として利用される。
【0060】
本発明において使用されるヒストンメチル化酵素阻害剤としては、EPZ-6438、DS-3201b、GSK-126、ChaetocinおよびBIX-01294等が挙げられ、好ましくは、EPZ-6438およびDS-3201bであるが、これらに限定されない。
【0061】
EPZ-6438(一般名タゼメトスタット、tazemetostat)は、ヒストンメチル化酵素EZH2に対する阻害剤である。EPZ-6438の化学名は、N-[(4,6-dimethyl-2-oxo-1,2-dihydropyridin-3-yl)methyl]-5-[ethyl(tetrahydro-2H-pyran-4-yl)amino]-4-methyl-4'-(morpholin-4-ylmethyl)biphenyl-3-carboxamideであり、CAS番号は1467052-75-0(臭化水素酸塩)である。DS-3201b(一般名バレメトスタット、valemetostat)は、ヒストンメチル化酵素EZH1およびEZH2に対する二重阻害剤である。DS-3201bの化学名は、4-methylbenzene-1-sulfonic acid (2R)-7-chloro-2-[(trans)-4-(dimethylamino)cyclohexyl]-N-[(4,6-dimethyl-2-oxo-1,2-dihydropyridin-3-yl)methyl]-2,4-dimethyl-2H-1,3-benzodioxole-5-carboxamideであり、CAS番号は1809336-39-7(トシル酸塩)である。GSK-126は、ヒストンメチル化酵素EZH2に対する阻害剤である。GSK-126の化学名は、1-[2(S)-Butyl]-N-(4,6-dimethyl-2-oxo-1,2-dihydropyridin-3-ylmethyl)-3-methyl-6-[6-(1-piperazinyl)pyridin-3-yl]-1H-indole-4-carboxamideであり、CAS番号は1346574-57-9である。Chaetocinの化学名は、(3S,3'S,5aR,5'aR,10bR,10'bR,11aS,11'aS)-1,1',2,2',3,3',4,4',5a,5'a,6,6',10b,10b',11,11',11a,11a'-Octadecahydro-3,3'-bis(hydroxymethyl)-2,2'-dimethyl-[bi-3,11a-epidithio-11aH-pyrazino[1',2':1,5]pyrrolo[2,3-b]indole]-1,1',4,4'-tetraoneであり、CAS番号は28097-03-2である。BIX-01294の化学名は、N-(1-benzylpiperidin-4-yl)-6,7-dimethoxy-2-(4-methylperhydro-1,4-diazepin-1-yl)quinazolin-4-amineであり、CAS番号は935693-62-2である。
【0062】
TKIとしてとは、例えば、イマチニブ(Imatinib)、ゲフィチニブ(Gefitinib)、エルロチニブ(Erlotinib)、ソラフェニブ(Sorafenib)、ダサチニブ(Dasatinib)、スニチニブ(Sunitinib)、ラパチニブ(Lapatinib)、ニロチニブ(Nilotinib)、パゾポニブ (Pazoponib)、クリゾチニブ(Crizotinib)、ルキソリチニブ(Ruxolitinib)、バンデルチニブ(Vandertinib)、ベムラフェニブ(Vemurafenib)、アキシチニブ(Axitinib)、ボスチニブ(Bosutinib)、カノンザンチニブ(Canonzantinib)、ポナチニブ(Ponatinib)、レゴラフェニブ(Regorafenib)、トファシチニブ(Tofacitinib)、アファチニブ(Afatinib)、ダブラフェニブ(Dabrafenib)、イブルチニブ(Ibrutinib)、トラメチニブ(Trametinib)、セリチニブ(Ceritinib)、ニンテダニブ(Nintedanib)、レンバチニブ(Lenvatinib)、パルボチニブ(Palbocitinib)、カルボザンチニブ(Carbozantinib)、アカラブルチニブ(Aclabrutinib)、ブリガチニブ(Brigatinib)、ネラチニブ(Neratinib)、ダコミチニブ(Dacomitinib)、ギルテリチニブ(Gilteritinib)、ラロトレチニブ(Larotrectinib)、ロルラチニブ(Lorlatinib) およびオシメルチニブ(Osimertinib)等が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0063】
p53遺伝子阻害剤または酵素阻害剤としては、例えばPifithrin、Nutlin、DS3201、HBI-8000、トリコスタチンA(TSA)、スラミン(Suramin)、EPZ005687およびAdox等が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0064】
本発明の方法において、「慢性骨髄性白血病患者」とは、慢性骨髄性白血病に罹患したと診断された患者を指す。
【0065】
本発明の方法は、慢性骨髄性白血病患者から得られた試料中のラテキシン発現量を測定する工程を含む。「試料」とは慢性骨髄性白血病患者の細胞を含む組織を指し、試料の採取源としては、例えば、血液(全血)、臍帯血、リンパ液、組織液(組織間液、細胞間液および間質液)、体腔液(腹水、胸水、心嚢液、脳脊髄液、関節液および眼房水)、鼻汁等の、体内のすべての組織が挙げられるが、患者に対する侵襲性が低いことから好ましくは骨髄または末梢血であり、より好ましくは末梢血単核球である。末梢血単核球は、採取された全血より、例えばFicoll密度勾配遠心法により得ることができる。また、細胞分離用磁気ビーズを用いて、特異的な細胞表面マーカータンパク質が発現している細胞または発現していない細胞を、ポジティブまたはネガティブセレクションにより分離・回収してもよい。慢性骨髄性白血病血液がん患者の細胞は、慢性骨髄性白血病患者の細胞から樹立された細胞株であってもよい。
【0066】
「ラテキシン発現量」とは、試料中のラテキシン遺伝子(mRNA)発現量またはラテキシンタンパク質発現量である。試料中のmRNA発現量を測定するためには、通常、組織から全RNAを抽出する。全RNAの抽出法は、当業者には周知である。ラテキシンのmRNA発現量を検出する方法としては、この遺伝子のmRNAもしくは1本鎖の相補的DNA(cDNA)の一部または全部を特異的に検出できる方法であればどのような方法であってもよい。例えば、試料中に存在する細胞の全RNAを抽出し、ラテキシンのmRNAに相補的な塩基配列からなるプローブを用いたノーザンブロッティング法で検出する方法、前記抽出された全RNAから逆転写酵素を用いてcDNAを合成した後、競合的PCR(polymerase chain reaction)法およびリアルタイムPCR法等の定量PCR法で検出する方法、ならびに、前記全RNAから逆転写酵素を用いてcDNAを合成した後、ビオチンまたはジゴキシゲニンなどでcDNAを標識し、蛍光物質で標識されたビオチンに対する親和性の高いアビジンやジゴキシゲニンを認識する抗体などで間接的にcDNAを標識した後、ハイブリダイゼーションに使用可能なガラス、シリコン、プラスチックなどの支持体上に固定化された、前記ラテキシン mRNAおよび任意の基準遺伝子のmRNAから合成されたcDNAに相補的な塩基配列からなるプローブを用いたマイクロアレイで検出する方法等を挙げることができる。遺伝子発現プロファイリングにより、ラテキシン mRNA発現をプロファイルングし、慢性骨髄性白血病患者の兆候または症状との関連をより詳しく調べることもできる。
【0067】
試料中のラテキシンタンパク質発現量を測定するためには、免疫組織化学、免疫蛍光、質量分析、フローサイトメトリーおよびウエスタンブロット等の、当業者に理解される方法を用いることができる。ラテキシンタンパク質の検出に必要な抗ラテキシン抗体は、市販品を使用することができる。質量分析は、試料の溶解液を、MALDI-MS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法)などの、高分子量化合物の分解を生じにくいイオン化法を用いることが好ましい。
【0068】
本発明の評価方法において、薬剤による治療中または治療後のラテキシン発現量が治療前と比較して増加した場合、当該患者における当該薬剤による治療が有効であり、疾患を再発させることなく薬剤による治療を中断または終了できると評価することができる。
【0069】
本発明の評価方法において、薬剤による治療中または治療後のラテキシン発現量が治療前と比較して増加しない場合、当該薬剤による治療を中断または終了した際に疾患が再発すると評価することができる。かかる評価をした場合、当該薬剤と慢性骨髄性白血病幹細胞の阻害作用を有する薬剤とを併用して治療を継続、または慢性骨髄性白血病幹細胞の阻害作用を有する薬剤により治療を継続することが疾患の再発予防に有効である。
【0070】
本発明の評価方法において、治療前と比較した、治療中または治療後のラテキシン発現量の増加は、1.5倍以上であり、好ましくは2.0倍以上である。
【0071】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0072】
〔CMLマウスモデルにおけるCML幹細胞または前駆細胞に対するDNAメチル基転移酵素阻害剤およびチロシンキナーゼ阻害剤の効果〕
レシピエントマウスに対してGFP陽性MIG-BCR-ABL1を導入した骨髄細胞を移植し、これをCMLモデルとした。これをvehicle投与群(1% DMSO, 腹腔内投与, n=6)、OR21投与群(1.35 mg/kg, 腹腔内投与, n=6)、イマチニブ(IM)投与群(150 mg/kg, 経口投与, n=6)ならびにOR21およびイマチニブ(OR21+IM)投与群(n=5)に分けた。各群に対して12日間薬物を投与した後に、末梢血、骨髄および脾臓中のGFP陽性細胞を測定した。その結果を図1に示す。図1において、群間比較をMann-Whitney U-testsによる有意差検定により行った(p<0.05、**p<0.01)。図1によると、vehicle投与群に比べて、IM投与群ではGFP陽性細胞率の減少が認められないのに対し、OR21 投与群またはOR21+IM投与群では有意な減少が認められた。また、OR21投与群またはOR21+IM投与群では、骨髄中のlineage陰性細胞 (Lin-)が減少し、IM投与群で増加するLin-Sca-1+c-Kit+ (LSK)細胞が減少した。これにより、OR21がCML前駆細胞またはIM投与で増加するCML幹細胞を阻害する作用が示された。
【0073】
さらに、OR21のCML幹細胞に対する効果を調べるために、2次移植を行ったマウスを用いてlimiting dilution assayを行った。2次移植とは、前述のvehicle群およびCMLマウスに薬物投与した4群(OR21群、IM群、OR21群およびOR21+IM群)のドナーマウスそれぞれから、 GFP陽性細胞を2×106、1×106または 5×105細胞/マウスで、レシピエントマウスへ移植することを意味する(細胞数が不十分だったため、OR21+IM投与群では2×106細胞移植群を省いている)。そして、2次移植16週後の末梢血(PB)中のGFP陽性細胞の生着を測定し、limiting dilution assayより解析した。その結果を図2に示す。図2の下段の表は、各群において、各細胞数(2×106、1×106または 5×105細胞)を2次移植した際に生着したマウスの数を「生着した匹数/移植した全匹数)で示している。下段の表の最下行は生着するのに必要な細胞数を示しており、数が多い程生着しにくいことを意味する。なお、GFP陽性細胞の生着とは、レシピエントマウスの末梢血中のGFP陽性率が0.5%以上であることと定義した。図2の上段左図は、表の結果を表すものであり、横軸が移植細胞数、縦軸は非移植率、線形あるいはプロットの形は各群(vehicle群:実線、丸、IM群:点線中、三角、OR21群:点線大、四角、OR21+IM群:点線小、菱形)を示しており、プロットあるいは線の傾きが上にある程生着しにくいことを意味する。図2の上段右表は、群間比較をpairwise testによる有意差検定により実施した場合のp値を示している。OR21投与群からの2次移植またはOR21+IM投与群からの2次移植におけるマウスでは、vehicle投与群からの2次移植またはIM投与群からの2次移植のマウスと比べて、有意にGFP陽性細胞の生着が減少した。この結果より、OR21の投与は、CML前駆細胞または幹細胞を効果的に阻害することが示唆された。
【実施例2】
【0074】
〔慢性骨髄性白血病(CML)患者および健常人のLXN遺伝子発現量〕
慢性期CML患者(CML-CP:42例)、移行期CML患者(CML-AP:15例)、急性転化期CML患者(CML-BP:36例)および健常人(NBM:6例)の骨髄CD34+細胞からそれぞれ全RNAを抽出し、Merck Human 25k v2.2.1 microarrayを用いて、これらの細胞における遺伝子発現量の網羅的な解析を行った結果が報告されている(Radich JP, Dai H, Mao M, Oehler V et al. Gene expression changes associated with progression and response in chronic myeloid leukemia. Proc Natl Acad Sci U S A 2006 Feb 21;103(8):2794-9)。本発明者らは、Radichらにより報告された結果を解析し、上記の細胞におけるLXN mRNA発現量を算出した。その結果を図3に示す。グラフにおいて、中央線は中央値(Median)を示す。上下のバーは標準偏差を示す。縦軸は、遺伝子発現量を常用対数値に変換して示している。図3より、いずれの病態のCML患者においても、LXN mRNA発現量は健常人の発現量に対し、低値を示すことが明らかになった。特に慢性期CML患者では健常人に比べて有意に低値であり、CML診断時からLXNの発現が健常人に比べて低値であることが示唆される。
【実施例3】
【0075】
〔K562細胞およびKBM5細胞におけるLXN遺伝子発現およびタンパク質発現に対するDNAメチル基転移酵素阻害剤およびチロシンキナーゼ阻害剤の効果〕
K562細胞(CML由来細胞株)はJCRB細胞バンクより購入し、KBM5細胞(CML由来細胞株)はM.Beran博士(テキサス大学MDアンダーソンがんセンター)より提供された、これらの細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS)および1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含むRPMI1640培養液により、37℃、5%CO環境下で培養した。
【0076】
K562細胞またはKBM5細胞を播種後0、24および48時間に、DNAメチル基転移酵素阻害剤であるOR21(100 nM)を添加し、次に、チロシンキナーゼ阻害剤であるイマチニブ(1000 nM)を添加して、さらに1日間培養した。並行して、OR21(100 nM)のみを添加し、イマチニブは添加しない細胞またはOR21を添加せずにイマチニブ(1000 nM)のみを添加した細胞も培養した。培養後mRNAを回収し、遺伝子発現をマイクロアレイにより網羅的に解析した。その結果を図4に示す。マイクロアレイ解析の結果、OR21およびイマチニブ(IM)の併用(OR21+IM)によりコントロールに比べ2.5倍以上発現が上昇した遺伝子は、1,785遺伝子あった。その中から、OR21およびIMの併用により、IM単剤に比べ2.5倍以上発現が上昇し、さらにK562細胞およびKBM5細胞の両細胞で共通した遺伝子は244遺伝子あった。この244遺伝子をクラスタリング解析したところ、がん抑制遺伝子(PTPN6, YPEL3, BTG2, LXN, SELENBP1およびALOX12)を含む71遺伝子が、OR21およびIMの併用処置時に特に高発現していた遺伝子であった。K562細胞では、LXNの遺伝子発現量が、コントロールと比べてOR21単剤で4.5倍、IM単剤で1.3倍、ならびにOR21およびIMの併用で158.3倍であった。KBM5細胞では、LXNの遺伝子発現量が、コントロールと比べてOR21単剤で3.4倍、IM単剤で1.9倍、ならびにOR21およびIMに併用で7.9倍であった。
【0077】
OR21(100 nM)を細胞播種後0、24および48時間に添加した後、チロシンキナーゼ阻害剤であるイマチニブ(IM、1000 nM)またはダサチニブ(DAC、2.5nM)を添加して、さらに1日、2日および3日間培養した。培養終了後、細胞を回収し、溶解して、LXNタンパク質発現量をウェスタンブロッティングにより測定した。並行して、OR21(100 nM)添加後にイマチニブを添加しない細胞、およびOR21を添加せずにイマチニブ(1000 nM)のみ、またはダサチニブ(2.5nM)のみを添加した細胞も培養し、同様にLXNタンパク質発現をウェスタンブロッティングにより測定した。その結果を図5に示す。図5に示すLXN発現量は、各条件下におけるLXN発現をβactinで補正し、コントロールにおける発現量を1.0とした場合の各々の発現量を表す。チロシンキナーゼ阻害剤であるイマチニブ(1000 nM)またはダサチニブ(2.5 nM)を添加した細胞では、LXNタンパク質発現量にほとんど影響が認められなかった。しかしながら、DNAメチル基転移酵素阻害剤であるOR21(100 nM)を添加すると、LXNタンパク質発現の経時的な増加が認められた。さらに、OR21添加後にイマチニブ(1000 nM)またはダサチニブ(2.5 nM)を添加すると、OR21のみを添加した場合に比べて明らかなLXNタンパク質発現の増強が認められた。
【0078】
OR21単剤処置によるLXN発現増加またはOR21およびチロシンキナーゼ阻害剤の併用処置によるLXN発現増加の増強がDNA脱メチル化によるものであるかどうかを検討するために、他のDNA脱メチル化阻害剤であるアザシチジン(AZA)もしくはデシタビン(DAC)の単剤またはこれらのDNA脱メチル化阻害剤とチロシンキナーゼ阻害剤との合剤処置時のLXNタンパク質発現を調べた。並行して、これらの化合物と類似構造を持つが、DNA脱メチル化作用は示さない化合物であるシタラビン(AraC)の単剤またはシタラビンとチロシンキナーゼ阻害剤との合剤処置時のLXNタンパク質発現を調べた。K562細胞培養液に、アザシチジン(100 nM)、デシタビン(100 nM)またはシタラビン(100 nM)を、細胞播種後0、24および48時間に添加して2日間培養し、その後イマチニブ(1000 nM)を添加して、さらに2日間培養した。並行して、アザシチジン(100 nM)、デシタビン(100 nM)またはシタラビン(100 nM)添加後に、イマチニブ無添加の細胞、またはアザシチジン、デシタビンおよびシタラビンを無添加とし、イマチニブ(1000 nM)のみを添加した細胞を培養した。培養後、細胞を回収し、溶解して、LXNタンパク質発現量をウェスタンブロッティングにより測定した。その結果を図6に示す。図6に示すLXN発現量は、各条件下におけるLXN発現をβactinで補正し、コントロールにおける発現量を1.0とした場合の各々の発現量を表す。DNA脱メチル化剤であるアザシチジンまたはデシタビンは、それぞれの処置条件でDNAメチル基転移酵素であるDNMT1の発現が低下したが、デシタビン処置ではLXNタンパク質発現が増加した。また、アザシチジンまたはデシタビンをイマチニブと併用することにより、それぞれの単剤処置時に比べて明らかなLXNタンパク質発現の増加が認められた。一方、シタラビンはDNMT1の発現阻害作用を示さず、またシタラビン単剤処置およびイマチニブとの併用処置において、LXNの発現増加は認められなかった。このことから、DNA脱メチル化作用が、チロシンキナーゼ阻害剤との併用によるLXN発現増強に重要であることが示唆された。
【実施例4】
【0079】
〔慢性骨髄性白血病(CML)患者および健常人のLXN遺伝子発現量〕
健常人(Normal:5例)の骨髄から単離した単核細胞からCD34+lin-細胞を濃縮し、それを造血前駆細胞(CD34+CD38+lin-細胞;HPC)と造血幹細胞(CD34+CD38-lin-細胞;HSC)にそれぞれ分離し、CML患者(CML:5例)についても同様の方法により造血前駆細胞(CD34+CD38+lin-細胞;LPC)と造血幹細胞(CD34+CD38-lin-細胞;LSC)をそれぞれ分離し、これらの細胞(HPC、HSC、LPC、LSC)からそれぞれ全RNAを抽出し、Affymetrix Human Gene 1.0 ST Array [transcript (gene) version]を用いて、これらの細胞における遺伝子発現量の網羅的な解析を行った結果が報告されている(Vazquez SA, Gonzalez AC, Miranda AH et al. Global gene expression profiles of hematopoietic stem and progenitor cells from patients with chronic myeloid leukemia: the effect of in vitro culture with or without imatinib. Cancer Med. 2017 Dec; 6(12): 2942-56)。本発明者らは、Vazquezらにより報告された結果を解析し、上記の細胞におけるLXN mRNA発現量を算出した。その結果を図7に示す。グラフにおいて、中央線は中央値(Median)を示す。上下のバーは10パーセンタイルから90パーセンタイルを示す。縦軸は、遺伝子発現量を示している。Studeunt’s t-tsetにより算出したp値を示している。図7より、健常人では造血前駆細胞と造血幹細胞ではLXNの発現に差は認められないが、CML患者では造血幹細胞は造血前駆細胞に比べて有意にLXNが低値であり、CML患者の造血幹細胞ではLXNの発現が低いことが示唆される。
【実施例5】
【0080】
〔CML幹細胞に対するDNAメチル基転移酵素阻害剤およびチロシンキナーゼ阻害剤の効果〕
併用によるCMLの幹細胞への効果を評価するために、CML患者から採取した細胞に各薬剤を添加した際のコロニー形成能を評価した。CML患者(慢性期CML:CML-CP、2症例あるいは急性転化期CML:CML‐BC、1症例)の骨髄細胞からCD34+細胞を分離した。また、CML-BCの1症例(症例3)については骨髄細胞からCD34+CD38-細胞を分離した。分離した細胞はIMDM培地(+20% FBS)に入れ、その細胞懸濁液の細胞数を計測した。細胞数が3,000細胞となるように細胞懸濁液とMethoCult で調整し、培養用のdishに移した後、37度5%CO2下で14日間培養した。加えるMethoCulttは、終濃度がOR21 100nMあるいはイマチニブ 1,000nMになるように薬剤をそれぞれ添加したもの(OR 100あるいはIM 1000)、両方を添加したもの(OR+IM)、いずれも添加していないもの(Cont)を使用した。14日間培養後のコロニー数を図8に示す。図8のバーは標準偏差を示す。Studeunt’s t-tsetにより統計解析を行い、*はp<0.05、**はp<0.01、n.sは有意差なしを示す。図8に示すようにOR21とイマチニブ併用処置ではコロニー数が減少しており、OR21とイマチニブの併用によりCML幹細胞のコロニー形成能が低下することが示唆された。
図1
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