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  • 特許-衛星航法受信機 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】衛星航法受信機
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/13 20100101AFI20240712BHJP
【FI】
G01S19/13
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2024077283
(22)【出願日】2024-05-10
【審査請求日】2024-05-10
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】723010371
【氏名又は名称】イエローテイル・ナビゲーション株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂井 丈泰
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】特表2023-517471(JP,A)
【文献】特開2018-119818(JP,A)
【文献】特開2001-103537(JP,A)
【文献】特開2007-139515(JP,A)
【文献】特開2022-071237(JP,A)
【文献】特開2015-136118(JP,A)
【文献】特開2002-196064(JP,A)
【文献】特開2017-044481(JP,A)
【文献】特開2010-266402(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00 - 5/14
G01S 19/00 - 19/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定し,得られた距離の測定値を用いて自己の位置を計算する衛星航法受信機において,
前記自己の位置を計算する際の,測位方式,計算条件及び計算パラメータについて複数の組合せを保持し,
その各々を,単一の測距処理回路による一組の前記距離の測定値に適用して自己の位置を計算して,
得られた全ての計算結果を出力することを特徴とする,衛星航法受信機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,衛星航法の分野における衛星航法受信機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人工衛星により位置を測定する衛星航法システムはGNSS(Global Navigation Satellite System)と総称され,その代表例は米国によるGPS(Global Positioning System)である。GNSSは一般に,航法衛星と呼ばれる人工衛星が送信する測位信号を衛星航法受信機により受信し,航法衛星と受信機の間の距離を測定することで,受信機の位置を計算により求める。求められた位置の真の位置に対する誤差を測位誤差といい,測位誤差の統計的な様子を測位精度という。位置を測定することを測位といい,そのための計算処理を測位計算という。
【0003】
衛星航法受信機の位置を計算するためには測位信号を送信している航法衛星の位置を知る必要があるが,このために必要な航法衛星の軌道情報は航法衛星自身が測位信号に重畳して送信する。軌道情報は予測により作成されていることから,これにより計算される航法衛星の位置は数メートル程度までの誤差を含んでおり,これは航法衛星の位置誤差として受信機の位置の計算の際に測位誤差の要因になる。
【0004】
航法衛星が測位信号を送信するタイミングはあらかじめ決まっており,航法衛星は自身が備える時計の時刻にもとづいて測位信号を送信する。この時計としては高精度な原子時計が使用されるが,ごくわずかな時刻のずれは避けられないため,衛星航法受信機は航法衛星の時計が指す時刻の情報を必要する。この時計の情報は,航法衛星自身が測位信号に重畳して送信する。時計の情報は予測により作成されていることから,これにより計算される測位信号の送信タイミングは距離に換算して数メートル程度までに相当する誤差を含んでおり,これは航法衛星の時計誤差として受信機の位置の計算の際に測位誤差の要因になる。
【0005】
測位信号が地上に到達するまでの間には,上空の大気による伝搬遅延や地上付近における反射波の混入など,さまざまな要因により距離の測定誤差を生じる。これらも全て,衛星航法受信機の位置の計算の際に測位誤差の要因になる。
【0006】
測位誤差を低減するため,地上に固定された基準局に受信機を設置して,これにより測定した距離から,さまざまな誤差要因により生じる距離の測定誤差に対する補正情報を生成し,これをユーザに対して提供することで,ユーザ局において測定した距離を補正情報により補正し,ユーザ局における測位誤差を抑制することが行われている。この方式はディファレンシャルGPS(DGPS:Differential GPS)と呼ばれる。DGPSと区別する場合は,補正情報を適用せずにユーザ局の位置を計算する方式を単独測位という。
【0007】
単独測位とDGPSのいずれにおいても,測位誤差をさらに低減するためにさまざまな手法が開発されており,衛星航法受信機が自己の位置を計算する際には,多くの計算条件や計算パラメータが付随する。一般に,衛星航法受信機にはこうした計算条件や計算パラメータを設定できるようになっており,受信機は設定された計算条件及び計算パラメータを適用した計算により得られた位置を出力する。受信機に設定できる計算条件や計算パラメータの種類や範囲,また具体的な設定の方法は,受信機の機種によって決まっている。
【0008】
DGPSを行う衛星航法受信機では,DGPSを正常に実行できればDGPSにより求められた位置,DGPSを実行できなければ単独測位による位置を出力するものがある。この出力の際には,単独測位とDGPSのどちらの方式による結果であるかの識別情報が付されるのが普通である。
【0009】
衛星航法受信機の出力には,計算により得られた位置に加えて,測位精度に関する情報や保護レベルが付随するのが普通である。測位精度に関する情報は,上空の航法衛星の配置や,航法衛星の仰角等によりおおよそ予測される測距精度にもとづいて計算される。保護レベルは衛星航法受信機による位置出力の完全性を確保するために用いられる指標であり,一般には測位誤差の99.99999%信頼区間に対応する。
【0010】
ところで,衛星航法受信機は,測位方式,計算条件又は計算パラメータの違いにより,位置出力に差異を生じ,測位誤差や測位精度が異なる。これらはあらかじめ設定したうえで受信機を動作させるものであるから,異なる測位方式,計算条件又は計算パラメータによる計算結果を同時に取得したい場合には,設定を変えた複数の受信機を並行して動作させることがある。この場合は,受信機の動作条件を同一にするために,同一のアンテナによる受信信号を当該複数の受信機に分配するのが一般的である。あるいは,1台の受信機を使用して,設定を変えながら繰り返し動作させることもあり,この場合は,例えば衛星航法システムが送信した測位信号をそのまま記録できるRFレコーダを使用して,これを複数回再生して衛星航法受信機に入力する。
【0011】
しかしながら,複数の受信機を使用する手法は,受信機の個体差による影響を避けられず,また利用用途によっては受信機の合計重量が増加する点が問題になることがある。1台の受信機を繰り返し動作させる手法では,リアルタイムには結果が得られないから移動体の航法には利用できず,またRFレコーダの重量が問題になることがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】TrimbleAccessヘルプポータル,衛星情報,2024年5月参照(https://help.trimblegeospatial.com/TrimbleAccess/latest/ja/GNSS-satellites.htm)
【文献】株式会社ジェノバ,精度を高める測位方式について,2024年5月参照(https://www.jenoba.jp/technical/gnss04/)
【文献】長瀬清ほか,GNSS受信機の実利用環境での性能評価方法の一考察,土木情報学シンポジウム講演集,vol.40,2015年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
衛星航法受信機では,測位計算の方式,計算条件及び計算パラメータにより,一般に異なる位置が結果として得られる。これらはあらかじめ設定したうえで受信機を動作させるものであるから,異なる測位方式,計算条件又は計算パラメータによる計算結果を同時に取得したい場合は,複数の受信機を並行して動作させるか,あるいは1台の受信機を繰り返し動作させる必要があった。本発明の課題は,異なる測位方式,計算条件又は計算パラメータによる複数の計算結果を1台の受信機により同時に提供することである
【課題を解決するための手段】
【0014】
非特許文献1においては,衛星航法受信機において使用する航法衛星を選択するための設定方法が説明されている。この説明の如く,使用する航法衛星の選択は,受信機の機種によっては設定できる項目である。
【0015】
非特許文献2においては,衛星航法受信機における測位計算の方式は複数があることが説明されている。受信機によってはこれらのうちのいくつかの方式に対応しているものがあり,測位方式を選択できるようになっている。
【0016】
しかしながら,非特許文献1及び非特許文献2に記載の技術内容は,測位計算の方式,計算条件又は計算パラメータにはさまざまな組合せがあることを示しているものに過ぎず,本発明が解決しようとする課題を解決するものではない。
【0017】
非特許文献3においては,衛星航法システムが送信した測位信号をそのまま記録できるRFレコーダを使用して,これを複数回再生して衛星航法受信機に入力することにより,「同一の条件で受信機の性能を比較することができる」旨が述べられている。[0010]に記載の通り,同一条件下にて異なる設定の受信機の性能を比較評価するには,このような方法によるほか,同一のアンテナによる受信信号を複数の受信機に分配して並行して動作させる方法が一般的である。
【0018】
この事情は,ある衛星航法受信機について,異なる測位方式,計算条件又は計算パラメータの計算結果を得たい場合にも同様である。すなわち,異なる測位方式,計算条件又は計算パラメータによる複数の計算結果を1台の受信機により同時に提供できる衛星航法受信機は存在しなかった。
【0019】
非特許文献3に記載の技術内容は,測位計算の方式,計算条件又は計算パラメータによる複数の計算結果を得るために1台の衛星航法受信機を繰り返し動作させる手法を述べているものに過ぎず,本発明が解決しようとする課題を解決するものではない。
【0020】
本発明は,衛星航法受信機における,測位計算の方式,計算条件及び計算パラメータについて,複数の組合せを受信機に保持し,その各々を適用して位置の計算を行い,得られた複数の計算結果を利用することで,前記の課題を解決する。
【0021】
請求項1に係る発明は,複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定し,得られた距離の測定値を用いて自己の位置を計算する衛星航法受信機において,自己の位置を計算する際の,測位方式,計算条件及び計算パラメータについて複数の組合せを保持し,その各々を,単一の測距処理回路による一組の前記距離の測定値に適用して自己の位置を計算して,得られた全ての計算結果を出力することを特徴とする,衛星航法受信機である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の衛星航法受信機は,測位計算の方式,計算条件又は計算パラメータについて複数の組合せを保持し,その各々を,単一の測距処理回路による一組の前記距離の測定値に適用した計算結果の全てあるいはいずれか一つを出力するので,異なる測位方式,計算条件又は計算パラメータによる複数の計算結果を1台の受信機により同時に提供できる
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】この発明の実施例を示すもので,この発明に係る衛星航法受信機の動作を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下,本発明の具体的実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例
【0025】
第一に,この発明に係る実施例を,図1にもとづいて説明する。図1は,この実施例の衛星航法受信機の動作を説明するための模式図である。
【0026】
図1において,航法衛星1(1a,1b・・・)は,それぞれ測位信号を送信する。
【0027】
衛星航法受信機2は航法衛星1(1a,1b・・・)が送信した測位信号をアンテナ3により受信し,測距処理回路4により各航法衛星との間の距離を測定する。衛星航法受信機2は,測距処理回路4をただ一つだけ有する。
【0028】
衛星航法受信機2が備える測位計算処理部6(6a,6b,6c)は,各々に対応して用意されている,測位方式,計算条件及び計算パラメータの組合せを保持する測位計算設定5(5a,5b,5c)にもとづき,測距処理回路4が測定した距離情報を用いて測位計算を実行する。なお,ここでは測位計算設定が3種類の場合を例示しているが,測位計算設定は3種類に限られるわけではなく,2以上の任意の種類数としてよい。
【0029】
測位計算処理部6(6a,6b,6c)は,各々,位置出力7(7a,7b,7c)を出力する。測位計算設定5aに対応する計算結果は位置出力7aに,測位計算設定5bに対応する計算結果は位置出力7bに,測位計算設定5cに対応する計算結果は位置出力7cに,それぞれ出力される。衛星航法受信機の利用者は,いずれかの出力を選んで利用してもよいし,全ての出力を利用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の衛星航法受信機を利用することにより,異なる測位方式,計算条件又は計算パラメータによる複数の計算結果を1台の受信機により同時に取得できる。従前は,これらのような計算結果を得るには,複数の受信機を並行して動作させるか,あるいは1台の受信機を繰り返し動作させる必要があったところ,本発明によれば1台の受信機で一時に結果を得られる。
【符号の説明】
【0031】
1(1a,1b・・・) 航法衛星
2 アンテナ
3 衛星航法受信機
4 測距処理回路
5(5a,5b,5c) 測位計算設定
6(6a,6b,6c) 測位計算処理部
7(7a,7b,7c) 位置出力
【要約】
【課題】 異なる測位方式,計算条件又は計算パラメータによる計算結果を1台の衛星航法受信機により同時に取得する。
【解決手段】 米国によるGPSや日本の準天頂衛星システムを含む衛星航法システムにより自己の位置を測定する衛星航法受信機について,測位計算のための測位方式,計算条件及び計算パラメータについて複数の組合せを保持することとして,その各々を,単一の測距処理回路による一組の距離の測定値に適用して測位計算を実行し,得られた全ての計算結果を出力することで,異なる測位方式,計算条件又は計算パラメータによる計算結果を1台の衛星航法受信機により同時に取得できるようにする。
【選択図】 図1
図1