(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】腸管細胞の炎症抑制剤
(51)【国際特許分類】
A23K 20/158 20160101AFI20240712BHJP
A23K 50/30 20160101ALI20240712BHJP
A23K 50/10 20160101ALI20240712BHJP
A23K 50/75 20160101ALI20240712BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240712BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20240712BHJP
A61K 36/22 20060101ALI20240712BHJP
A61K 31/192 20060101ALI20240712BHJP
A61K 31/05 20060101ALI20240712BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240712BHJP
【FI】
A23K20/158
A23K50/30
A23K50/10
A23K50/75
A61P29/00
A61P1/00
A61K36/22
A61K31/192
A61K31/05
A61P43/00 105
(21)【出願番号】P 2019218881
(22)【出願日】2019-12-03
【審査請求日】2022-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000127879
【氏名又は名称】株式会社エス・ディー・エス バイオテック
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冷牟田 修一
(72)【発明者】
【氏名】疋田 千枝
(72)【発明者】
【氏名】北澤 春樹
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-121331(JP,A)
【文献】国際公開第2015/056729(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/138654(WO,A1)
【文献】特開平08-231410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 20/158
A23K 50/30
A23K 50/10
A23K 50/75
A61P 29/00
A61P 1/00
A61K 36/22
A61K 31/192
A61K 31/05
A61P 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールを非ヒト動物に投与することを特徴とする、非ヒト動物の腸管細胞における炎症
(クロストリディウム パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)の感染によって起こる壊疽性腸炎を除く)を抑制する方法。
【請求項2】
カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールを飼料に混和して非ヒト動物に投与することを特徴とする、非ヒト動物の腸管細胞の炎症
(クロストリディウム パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)の感染によって起こる壊疽性腸炎を除く)を抑制する方法。
【請求項3】
カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールを5ppm~1000ppm(重量)となるよう飼料に混和して非ヒト動物に投与することを特徴とする、非ヒト動物の腸管細胞の炎症
(クロストリディウム
パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)の感染によって起こる壊疽性腸炎を除く
)を抑制する方法。
【請求項4】
前記非ヒト動物が哺乳類であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の腸管細胞の炎症を抑制する方法。
【請求項5】
前記非ヒト動物が家禽、豚、または反芻動物であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の腸管細胞の炎症を抑制する方法。
【請求項6】
前記非ヒト動物が反芻動物であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の腸管細胞の炎症を抑制する方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の非ヒト動物の腸管細胞の炎症を抑制する方法であって、カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールの投与により、腸管細胞における炎症性サイトカインの産生を抑制することで、非ヒト動物の腸管細胞の炎症
(クロストリディウム パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)の感染によって起こる壊疽性腸炎を除く)を抑制することを特
徴とする、前記方法。
【請求項8】
前記炎症性サイトカインがTNFα、IL-6、およびMCP-1のいずれか1つ以上である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールを有効成分として含有する、非ヒト動物の腸管炎症
(クロストリディウム パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)の感染によって起こる壊疽性腸炎を除く)の抑制剤。
【請求項10】
カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールを5ppm~1000ppm(重量)含有することを特徴とする、請求項9に記載の腸管炎症抑制剤。
【請求項11】
有効成分がアナカルド酸、カルドール、および/またはカルダノールであることを特徴とする、請求項9または10に記載の腸管炎症抑制剤。
【請求項12】
カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールを有効成分として含有する、非ヒト動物の腸管細胞における炎症性サイトカインの産生抑制剤。
【請求項13】
カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールを5ppm~1000ppm(重量)含有することを特徴とする、請求項12に記載の炎症性サイトカインの産生抑制剤。
【請求項14】
有効成分がアナカルド酸、カルドール、および/またはカルダノールであることを特徴とする、請求項12または13に記載の炎症性サイトカインの産生抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反芻動物やブタや家禽などの非ヒト動物の腸管細胞の炎症をするための剤及び飼料、並びにこれらを用いる非ヒト動物の腸管細胞の炎症を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
反芻動物やブタや家禽などの家畜の生産性を向上させるには、家畜の健康状態の維持および疾病対策が重要な要素となる。
家畜の腸内では悪玉菌の分解産物であるLPS(リポ多糖)等により腸管炎症が惹起され、結果として下痢や大腸炎を含む種々の消化管の疾病や、栄養不足による抵抗力、免疫力の低下とそれに伴う疾患への罹患が畜産の現場では大きな問題となっている。
これに対し、整腸効果を目的として、バチルス菌やビフィズス菌などの微生物生菌剤が畜産用途でも用いられている。しかしながら、炎症性サイトカインの分泌抑制効果や腸管のTJ(タイトジャンクション)修復効果の確認された天然物製剤はなかった。
【0003】
カシューナッツ殻油の家畜に対する効果として、ルーメン発酵改善効果(特許文献1)、鼓脹症防除効果(特許文献2)、コクシジウム症防除効果(特許文献3)、アシドーシス防除効果(特許文献4)などが知られている。しかし、これまでに、カシューナッツ殻油による家畜の腸管炎症抑制に関しては全く知見がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2008/149992
【文献】WO2008/149994
【文献】WO2009/139468
【文献】WO2010/053085
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、非ヒト動物の腸管炎症を抑制するための材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、カシューナッツ殻油(以下、CNSL、CNSEと略すこともある)に腸管細胞の炎症を抑制する作用があることを見出した。本発明者らは、このような知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールを非ヒト動物に投与することを特徴とする、非ヒト動物の腸管細胞における炎症を抑制する方法。
[2]カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールを飼料に混和して非ヒト動物に投与することを特徴とする、非ヒト動物の腸管細胞の炎症を抑制する方法。
[3]カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールを5ppm~1000ppm(重量)となるよう飼料に混和して非ヒト動物に投与することを特徴とする、非ヒト動物の腸管細胞の炎症を抑制する方法。[4]前記非ヒト動物が哺乳類であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれかの腸管細胞の炎症を抑制する方法。
[5]前記非ヒト動物が家禽、豚、または反芻動物であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれかの腸管細胞の炎症を抑制する方法。
[6]前記非ヒト動物が反芻動物であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれかの腸管細胞の炎症を抑制する方法。
[7][1]~[6]のいずれかの非ヒト動物の腸管細胞の炎症を抑制する方法であって、カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールの投与により、腸管細胞における炎症性サイトカインの産生を抑制することで、非ヒト動物の腸管細胞の炎症を抑制することを特徴とする、前記方法。
[8]前記炎症性サイトカインがTNFα、IL-6、およびMCP-1のいずれか1つ以上である、[7]の方法。
[9]カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールを有効成分として含有する、非ヒト動物の腸管炎症抑制剤。
[10]カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールを5ppm~1000ppm(重量)含有することを特徴とする、[9]の腸管炎症抑制剤。
[11]有効成分がアナカルド酸、カルドール、および/またはカルダノールであることを特徴とする、[9]または[10]の腸管炎症抑制剤。
[12]カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールを有効成分として含有する、非ヒト動物の腸管細胞における炎症性サイトカインの産生抑制剤。
[13]カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールを5ppm~1000ppm(重量)含有することを特徴とする、[12]の炎症性サイトカインの産生抑制剤。
[14]有効成分がアナカルド酸、カルドール、および/またはカルダノールであることを特徴とする、[12]または[13]の炎症性サイトカインの産生抑制剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノール、および/またはカルドールを含む剤または飼料を反芻動物やブタや家禽などの非ヒト動物に投与することにより、腸管細胞から分泌される炎症性サイトカインの分泌を抑制することができ、それにより、腸管細胞における炎症の発症や症状悪化を抑制することができる。これにより、家畜などの非ヒト動物の健康状態を維持でき、育成効率を向上させることができる。当該物質は天然物由来で耐性菌の出現も起こりにくいので、副作用を抑制できると考えられる。また低用量で作用し、安全性も高いという利点も有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】ブタ腸管上皮細胞において各種物質を添加したときの炎症性サイトカイン遺伝子の発現解析結果(RT-PCR)を示すグラフ。LPS刺激による炎症性サイトカイン遺伝子の発現増加に対する効果を調べた。縦軸はLPS刺激のみを1とした時の相対的な発現量を示す。
【
図2】ブタ腸管上皮細胞において各種物質を添加したときのMCP-1の分泌量を定量した結果を示す図。LPS刺激によるMCP-1の分泌増加に対する効果を調べた。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の腸管細胞の炎症抑制剤は、カシューナッツ殻油(CNSL)、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールを有効成分として含有することを特徴とする。
【0011】
腸管細胞の炎症抑制には、腸管細胞または腸管組織での炎症症状を抑制することや、腸
管細胞における炎症性サイトカインの産生を抑制することが挙げられる。炎症性サイトカインの産生の抑制には、炎症性サイトカインの分泌抑制だけでなく、炎症性サイトカイン遺伝子の発現抑制も含む。ここで、炎症性サイトカインとしては、MCP-1(Monocyte chemoattractant protein-1)、IL-6(Interleukine-6)およびTNF-α(Tumor necrosis factor-α)などが挙げられる。
腸管細胞としては、腸管上皮細胞が好ましい。
【0012】
本発明の腸管細胞の炎症抑制剤は、腸管細胞における炎症性サイトカインの産生抑制剤としても使用することができる。炎症性サイトカインの産生抑制剤は、対照(CNSL等非添加時)における産生量と比較して、90%以下、好ましくは80%以下、より好ましくは50%以下にこれら炎症性サイトカインの産生量を低下させることが好ましい。
炎症性サイトカインの産生抑制としては、炎症性刺激負荷時に誘発される炎症性サイトカインの産生を抑制することが好ましい。ここで、炎症性刺激としては、LPS(リポ多糖
)などの細菌由来の刺激が挙げられる。これにより、細菌感染などによる炎症を効率よく抑制できる。
本発明の腸管細胞の炎症抑制剤や腸管細胞の炎症性サイトカイン産生抑制剤は、腸管細胞の炎症に起因する疾患の予防や治療に好適に使用できる。このような疾患としては細菌感染症、炎症性腸疾患などが挙げられる。
【0013】
カシューナッツ殻油は、カシューナッツ ツリー(Anacardium occidentale L.)の実の殻に含まれる油状の液体である。カシューナッツ殻油は、その成分として、アナカルド酸、カルダノール、カルドールを含むものである。アナカルド酸は加熱処理することによりカルダノールに変換するが、加熱処理によりカルダノールとカルドールのみになったカシューナッツ殻油(加熱カシューナッツ殻油)を使用することもできる。
【0014】
カシューナッツの殻を圧搾することにより抽出したカシューナッツ殻油(非加熱)は、J.Agric.Food Chem. 2001, 49, 2548-2551に記載されるように、アナカルド酸を55~80質量%、カルダノールを5~20質量%、カルドールを5~30質量%含むものである。
非加熱カシューナッツ殻油を加熱処理(例えば、70℃以上、好ましくは130℃以上)した加熱カシューナッツ殻油は、非加熱カシューナッツ殻油の主成分のアナカルド酸が脱炭酸しカルダノールに変換され、アナカルド酸を0~10質量%、カルダノールを55~80質量%、カルドールを5~30質量%含むものとなる。
【0015】
カシューナッツ殻油は、カシューナッツの殻を圧搾することにより抽出した植物油として得ることができる。また、カシューナッツ殻を乾留または溶剤抽出して得ることもできる。また、例えば、カシューナッツ殻油は、特開平8-231410号公報に記載されている方法によって得ることもできる。カシューナッツ殻油は、市販品を用いることもできる。
【0016】
本発明の腸管細胞炎症抑制剤は、カシューナッツ殻油の代わりに、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールそのものを含んでいてもよい。
【0017】
アナカルド酸としては、天然物アナカルド酸、合成アナカルド酸、それらの誘導体が挙げられる。また、市販のアナカルド酸を用いてもよい。アナカルド酸は、特開平8-231410号公報に記載されるように、カシューナッツの殻を有機溶剤で抽出処理して得られたカシューナッツ油を、例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いてn-ヘキサン、酢酸エチルおよび酢酸の混合溶媒の比率を変えて溶出することによって得ることができる(特開平3-240721号公報、特開平3-240716号公報など)。
【0018】
カルダノールとしては、天然物カルダノール、合成カルダノール、それらの誘導体が挙げられる。また、本発明において使用されるカルダノールは、カシューナッツ殻油の主成分のアナカルド酸を脱炭酸することにより、得ることができる。
【0019】
カルドールとしては、天然物カルドール、合成カルドール、それらの誘導体が挙げられる。また、本発明において使用されるカルドールは、カシューナッツ殻油から精製することにより、得ることができる。
【0020】
本発明の腸管細胞炎症抑制剤または炎症性サイトカイン産生抑制剤におけるカシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールの含有量は、剤の全量基準で、0.5~50,000重量ppmが好ましく、1~10,000重量ppmがより好ましく、5~1000重量ppmがさらに好ましい。
【0021】
本発明の腸管細胞炎症抑制剤としては、カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールの原液を直接経口投与することもできる。
【0022】
一方、本発明の腸管細胞炎症抑制剤は、カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールの他に、例えば乳糖、白糖、D-マンニトール、αデンプン、デンプン、コーンスターチ、結晶セルロース、ベントナイト、シリカゲル、軽質無水ケイ酸等の飼料または医薬品に使用することができる賦形剤などの成分を含んでもよい。
【0023】
また、本発明の腸管細胞炎症抑制剤は、カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールの他に、反芻動物の成長促進に有効な成分、栄養補助成分、保存安定性を高める成分、被覆剤成分等の任意成分をさらに含むものであってもよい。このような任意成分としては、ふすま、アルファルファ、チモシー等の飼料の原料や飼料添加物、食品原料や食品添加物、医薬品原材料、動物用サプリメント(以下、サプリメントという。)に用いられる他のサプリメント成分等が挙げられる。例えば、エンテロコッカス属細菌、バチルス属細菌、ビフィズス菌等の生菌剤;アミラーゼ、リパーゼ等の酵素;L-アスコルビン酸、塩化コリン、イノシトール、葉酸等のビタミン;塩化カリウム、クエン酸鉄、酸化マグネシウム、リン酸塩類等のミネラル、DL-アラニン、DL-メチオニン、L-リジン等のアミノ酸;フマル酸、酪酸、乳酸、酢酸等の有機酸及びそれらの塩;エトキシキン、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、フェルラ酸、ビタミンC、ビタミンE等の抗酸化剤;プロピオン酸カルシウム等の防カビ剤;カルボキシルメチルセルロース(CMC)、カゼインナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム等の粘結剤;レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の乳化剤;アスタキサンチン、カンタキサンチン等の色素;各種エステル、エーテル、ケトン類等の着香料、が挙げられる。サプリメントの種類や、カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドール以外の成分は、特に制限されない。
【0024】
本発明の腸管細胞炎症抑制剤は、酸化マグネシウム、ステアリン酸塩、タルク、ゼオライト、珪藻土及びシリカなどの吸油剤を含んでいてもよく、吸油剤は粒子状であることが好ましい。吸油剤としては、100g当たり50~300gの油を吸着する吸油剤であることが好ましい。また、粒径が300μmを超えると粒子が粗くなり分離してくるため、粒径が2~300μmであるものが好ましい。
本発明の腸管細胞炎症抑制剤の一態様において、吸油剤と、カシューナッツ殻油(CNSL)、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールの好ましい質量比は、100:20~100:180である。また、吸油剤とカシ
ューナッツ殻粉砕物の場合の好ましい質量比は、15:100~60:100である。
【0025】
本発明の腸管細胞炎症抑制剤の剤形は特に制限されず、例えば、液剤、粉剤、固体、錠剤、カプセル剤、乳剤、ペレット剤、錠剤、被覆剤など任意の形態が挙げられるが、液剤、粉剤、カプセル剤、ペレット剤、錠剤が好ましい。
液剤としては、カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールをそのまま用いてもよいし、カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールをエタノールなどの溶媒に溶かしてもよいし、あるいは上記賦形剤または任意成分を添加して用いることもできる。また、以下の粉剤、カプセル剤、ペレット剤、タブレット剤を液中に懸濁・浮遊させてもよい。
粉剤としては、カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールに上記賦形剤を添加し、粉末化することもできる。
カプセル剤としては、カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールをそのままカプセルに詰めてもよいし、あるいは上記賦形剤または任意成分を添加してもよい。
ペレット剤としては、カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールに上記賦形剤を添加し、造粒し、ペレット化することもできる。
錠剤としては、カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールに上記賦形剤を添加し、造粒し、錠剤化することもできる。
なお、シリカなどの吸油剤を含有する場合には、粉剤や錠剤やペレット剤として製剤化することが好ましい。
【0026】
上述のように、本発明の腸管細胞炎症抑制剤は、カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールおよび必要に応じて賦形剤または任意成分を混合し、製剤化することにより製造することができる。なお、剤の形態によっては、前記したカシューナッツ殻の粉砕・破砕物、或いは何らの処理もしないでカシューナッツ殻をそのまま他の任意成分と混合させて本発明の腸管細胞炎症抑制剤とすることができる。さらに、他の任意成分と混合させず、粉砕・破砕物そのものまたはカシューナッツ殻そのものを腸管細胞炎症抑制剤とすることができる。
【0027】
本発明の飼料はカシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールを含有することを特徴とする。
本発明の飼料におけるカシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールの含有量は、飼料の乾物質量当たり、全量基準で0.5~50,000重量ppmが好ましく、1~10,000重量ppmがより好ましく、5~100重量ppmがさらに好ましい。
【0028】
本発明の飼料は、カシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールまたはそれを含む本発明の腸管細胞炎症抑制剤を飼料成分に添加し、混合して製造することができる。
この際、粉末状、固形状の剤を用いる場合は、混合を容易にするために液体担体を用いて、剤を液状またはゲル状の形態にしてもよい。この場合は、水、植物油、液体動物油、鉱物油、合成油、水溶性高分子化合物等の流動性液体を液体担体として用いることができる。また、飼料中におけるカシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールの均一性を保つために、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、αデンプン、カゼインナトリウム、アラビアゴム、グアーガム、タマリンド種子多糖類などの水溶性多糖類を
配合することも好ましい。
【0029】
本発明の飼料において本発明の剤と配合される飼料成分の種類や配合割合などは特に制限されず、それぞれの動物に対して従来から給与されている飼料であればよく、例えば、トウモロコシ粒、トウモロコシ粉、マイロ、ふすま、大豆粕、カラスムギ、小麦粉ショート、小麦粗粉、アルファルファ、チモシー、クローバー、脱脂米糠、北洋ミール、沿岸ミール、酵母、糖蜜、肉片、ボーンミール、炭酸カルシウム、第2リン酸カルシウム、イエログリース、ビタミン類、ミネラル類などを用いて調製することができる。
【0030】
本発明の腸管細胞炎症抑制剤または飼料を摂取させる非ヒト動物の種類は特に制限されないが、非ヒト哺乳動物や家禽が好ましく、反芻動物、ブタ、家禽などが挙げられる。反芻動物としては、ウシ、水牛、山羊、羊、やくなどが挙げられる。ここで、牛種としては雌のホルスタイン種、ジャージー種、黒毛和種、日本短角種、アバディーン・アンガス種が挙げられるがこれらには限定されない。家禽としては、鶏、ウズラ、シチメンチョウ、アヒル、ガチョウ、ダチョウ、エミュー、キジ、ホロホロチョウなどが挙げられる。
【0031】
摂取させる腸管細胞炎症抑制剤または飼料の量は、動物の種類、体重、年齢、性別、健康状態、飼料の成分などにより適宜調節することができ、このとき飼料に含まれるカシューナッツ殻油、加熱処理カシューナッツ殻油、アナカルド酸、カルダノールおよび/またはカルドールが例えば0.01~500g/頭/日、好ましくは0.1~200g/頭/日、より好ましくは0.1~50g/頭/日、さらに好ましくは0.5~5g/頭/日である。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明の態様は以下の実施例には限定されない。
【0033】
腸管内でのエンドトキシン刺激による炎症反応に対する効果を評価するために、CNSL、ヒマシ油、または加熱CNSLをブタ腸管上皮細胞に添加して培養し、サイトカイン遺伝子とサイトカインタンパク質の定量を行った。
【0034】
試験方法
細胞培養とLPS刺激、抗炎症物質の評価
1.PIE細胞の播種
12穴プレート(COSTAR社製)にPIE(Porcine Intestinal Epithelial:豚腸管上皮)細
胞を3.0×104 cells / wellで播種し、CO2インキュベーター内で培養する。(day0)
【0035】
2.添加サンプル
・NC(陰性コントロール) 培地(DMEM ダルベッコ改変MEM培地)
・PC1(陽性コントロール1) アセチルサリチル酸 (アスピリン)
ASPIRIN(BAYER薬品社製)を乳鉢で粉砕したのち、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)
10mg/mlのPBS溶液を作製し、0.45μm(ADVANTEC TOYO社製)のフィルターで滅菌する
。
滅菌PBSで下記の溶液を作製する。
400μg/ml,200μg/ml→1/20容量で培地に添加する。(終濃度 20ppm,10ppm)
・PC2(陽性コントロール2)ヒマシ油(CASTOR OIL)
・CNSE(カシュ―ナッツ殻油)
・CNSL(加熱カシューナッツ殻油)
10mg/ml(ヒマシ油)、50mg/ml(CNSE, 加熱CNSL)のエタノール溶液(ストック溶液)を作製し、逐次PBSで希釈していき、5mg/ml, 2.5mg/ml, 1.25mg/ml, 0.6mg/ml, 0.3mg/ml
の溶液を作製後、フィルター(0.45μm)滅菌する。
【0036】
3.培地交換
上記サンプルを1mlのDMEMに50μl添加し、交換用培地を作製する。
12穴プレートの培地を吸引し、交換用培地で置き換える(day3 朝9時)
LPS刺激
終濃度1μg/mlとなるよう、LPS(リポ多糖)溶液を培地に添加する(day4夜9時)。
ハーベストI
培養上清を回収したのち、滅菌PBSでWELLを洗浄し、TRIZOLで付着細胞を可溶化し、回収
する(day5 朝9時)
ハーベストII
培養上清を回収したのち、滅菌PBSでWELLを洗浄し、TRIZOLで付着細胞を可溶化し、回収
する(day7 朝9時)
【0037】
RT-PCR(ハーベストIを使用)
TRIZOL(INVITROGEN社製)溶解サンプルをフェノール-クロロホルム抽出、エタノール沈殿にて粗精製したのち、RNase-free水10μlに溶解し、ナノドロップ(サーモフィッシ
ャー社製)にてO.D.(吸光度)を測定する。
Real Time PCRは TAKARABIOのPrime Script RT reagent Kit with g DNA Eraserのマニュアルに従った。
【0038】
ELISA(ハーベストIIを使用)
MCP-1
Ray Bio porcine C-C motif chemokine 2 (CCL2)/Monocyte chemoattractant Protein 1 (MCP1) ELISA Kitのプロトコルに従い、測定した。培養上清は2倍希釈で測定に供した。STD(標品)は2800pg/ml~28.67pg/ml。
【0039】
結果
RT-PCRの結果を
図1に示す。その結果、CNSLは、LPSに誘発されるMCP-1、IL-6およびTNF-αの遺伝子発現上昇を抑制した。一方、
図2に示すように、CNSLおよび加熱CNSLはいずれもLPSに誘発されるMCP-1の分泌上昇を抑制した。
【0040】
考察
上記のように、PIE細胞(豚腸管上皮細胞)へのエンドトキシン(LPS:リポ多糖)刺激
に対して、CNSLと加熱CNSLは炎症メディエーターの働きを抑制することが示唆された。