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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】鉄道模型車両貫通幌
(51)【国際特許分類】
   A63H 19/18 20060101AFI20240712BHJP
   A63H 17/26 20060101ALI20240712BHJP
【FI】
A63H19/18
A63H17/26 F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020126031
(22)【出願日】2020-07-25
(65)【公開番号】P2022022469
(43)【公開日】2022-02-04
【審査請求日】2023-06-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年7月18日 株式会社ネコ・パブリッシングが岡本雄太氏が発明した鉄道模型車両貫通幌をRM MODELS300号(2020年9月号)44頁にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】503331551
【氏名又は名称】株式会社東豊精工
(74)【代理人】
【識別番号】100127166
【弁理士】
【氏名又は名称】本間 政憲
(74)【代理人】
【識別番号】100187399
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 敏文
(72)【発明者】
【氏名】岡本 雄太
【審査官】西村 民男
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3136705(JP,U)
【文献】登録実用新案第3103060(JP,U)
【文献】実開昭59-008393(JP,U)
【文献】実開昭49-122995(JP,U)
【文献】ばねの化成処理,ばねの総合メーカー フセハツ工業株式会社 [online],2019年04月26日,世界のウェブアーカイブ|国立国会図書館インターネット資料収集保存事業 https://web.archive.org/web/20190426015026/https://www.fusehatsu.co.jp/technology/technology-03-hyomen/kaseisyori.html, [2024年03月22日検索]
【文献】ばねの知識,大同ばね株式会社 [online],2019年02月11日,世界のウェブアーカイブ|国立国会図書館インターネット資料収集保存事業 https://web.archive.org/web/20190211203622/http://daido-spring.jp/knowledge.html, [2024年03月22日検索]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63H 1/00-37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼線を四角形状に卷回され形成されたバネの性質を有した鉄道模型車両貫通幌であって、
前記鋼線の巻回部の端部が、
鉄道模型車両の連結部分に取り付けられるが、巻回部がシート状の素材によって被われておらず、又は巻回部の鋼線同士が該鋼線とは異なる素材によって接続されておらず、
前記鋼線の線径が、
0.1mm以上0.3mm以下であり、
前記バネの有効巻数が、
8巻以上30.5巻以下であること、
を特徴とする鉄道模型車両貫通幌。
【請求項2】
前記鋼線の巻回部の一方の端部が、
座巻を備え、
前記鋼線の巻回部の他方の端部が、
座巻無端であり、
前記座巻が、
一方の鉄道模型車両の貫通扉に、又は該貫通扉に装着された隣接する他方の鉄道模型車両に連結されない貫通幌部品に、嵌着又は接着されて取り付けられ、
前記座巻無端が、
前記他方の鉄道模型車両の貫通扉に、又は該貫通扉に装着された前記一方の鉄道模型車両に連結されない貫通幌部品に、当接又は接触しているのみであること、
を特徴とする請求項1に記載する鉄道模型車両貫通幌。
【請求項3】
前記鋼線が、
発色又はメッキ処理が施された鋼線であること、
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載する鉄道模型車両貫通幌。
【請求項4】
前記発色が施された鋼線が、
酸化発色処理が施されたステンレス鋼線であること、
を特徴とする請求項3に記載する鉄道模型車両貫通幌。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実際の鉄道車両の貫通幌の外観と比較して違和感なく視認可能な鉄道模型車両貫通幌を提供する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道模型車両の連結部は、前後の車両を人が往来するための貫通幌が設けられていなかった。貫通幌が設けられていない理由は、鉄道模型のレールのカーブは、実際の鉄道レールのカーブと比較して、半径が非常に小さく設計されていることにある。鉄度模型は屋内でレールを設置して、車両を走らせるため、必然的にカーブの半径を小さくする必要がある。具体的には、実際の鉄道においては、半径が400mのカーブは比較的急なカーブであるが、これをNゲージと呼ばれる縮尺の鉄道模型のレールの寸法に置き換えると、カーブの半径は、約2.7mとなる。当該半径では、一般家庭の部屋に鉄道模型のジオラマを組み立てた場合には、周回することすら困難となる。Nゲージは、レール幅を9mmに縮尺された鉄道模型を指し、実寸の約150分の1のサイズで再現されている。
【0003】
そこで、Nゲージの鉄道模型では、標準的なカーブの半径を280mm程度に設定している。当該半径を実際の鉄道に換算すると、カーブの半径は、42mとなり非常に急なカーブとなる。カーブ半径を小さくすると、前後の車両の間隔を広く設定するなどの脱線防止対策を行わなければ、カーブ中心側の車両妻面の角が接触し脱線するなどの不具合が生じる。
【0004】
実際の鉄道車両間隔は、在来線又は新幹線の場合も同じ程度で、約500mmが一般的となっている。これをNゲージの寸法に縮尺すると、約3.3mmとなるが、前述の理由からNゲージの鉄道模型車両の標準的な車両間隔は約5.0mmと広めに設定されている。
【0005】
しかしながら、約5.0mmの車両間隔であっても、前後の車両を連結する貫通幌を取り付けると、カーブを走行する際に、カーブ中心側の幌が折り畳まれ窮屈になり、前後の車両が離れる方向に応力が働くとともに車輪に対してはカーブ外側のレール方向に応力が加わり、脱線する確率が高まる。特にS字カーブでは、前後車両の向かい合った妻面が車両幅方向の逆方向にズレが生じるとともに、連結部が捻じられるような揺動が生じる。当該揺動に対して貫通幌が追従できず、さらに脱線の確率を高める要因となる。
【0006】
したがって、実際の車両間隔の縮尺に近い車両間隔を維持すること及びカーブにおける走行性を高めることを両立するために、鉄道模型車両の貫通幌は取り付けられず、前後の車両の間に隙間が空いている場合が主流となっており、実際の鉄道車両の外観とは大きく異なっており違和感があった。また、このような外観のリアリティの欠如を少しでも解消するために、前後の車両の各々の貫通扉に、短い貫通幌を模した部品を取り付ける場合があるが、この場合であっても前後車両の貫通幌部品は連結されておらず、実際の貫通幌とは外観が異なってしまっている。これらの問題を解決するために、以下の発明や考案が開示されている。
【0007】
特許文献1では、従来のHOゲージの鉄道模型車両の貫通幌が、金属や弾性を有さない樹脂で製作され、鉄道模型車両に取り付けたときには伸縮しないので、貫通幌として連結することができず隙間が生じてしまい、リアリティが欠如する問題を解決するために、角の管形状のスプリングの側面に薄いゴムシートを被せて接着し、スプリングの両端部の開口部分に幌枠を付けたHOゲージ鉄道模型車両の貫通幌が開示されている。
【0008】
特許文献2では、鉄道模型車両のメーカ市販品は連結部分に隙間があり実際の鉄道車両に備えている貫通幌が再現されていないため、貫通扉の連結部分に隙間の空かない構造の貫通幌を再現することを目的として、紙又は樹脂で山折りと谷折りの繰り返す蛇腹構造の板をつくり鉄道模型車両妻面の貫通扉部分に簡単な接着作業で貼り付けて連結部分に隙間が空くことなく、前後左右に回動自在な貫通幌を再現できるようにした考案が開示されている。
【0009】
特許文献3では、実際の鉄道車両に限りなく近似した外観を示し、かつ橋絡材に組み合わされた幌構成体の連結面間における長手方向の均衡を保つことで曲線区間でも車両の走行に支障を与えないよう工夫された鉄道模型車両の貫通幌を提供することを目的として、隣り合う車両妻面同士を連絡する橋絡材に、伸縮部及び膜板からなる幌構成体を組み合わせた鉄道模型車両の貫通幌が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】実開昭49-122995号公報
【文献】実用新案登録第3136705号公報
【文献】実用新案登録第3103060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述の特許文献で開示されたいずれの貫通幌も幌シートが設けられ、外観においては実際の鉄道車両に近いといえる。しかしながら、特許文献1では、鉄道模型車両が走行中にカーブに差し掛かった際に、スプリングの側面に被せられた幌シートを模したゴムシートのカーブ内側部分が圧縮されて生じる復元力によって、カーブ外側に向けてスプリングが押し出され、前後鉄道模型車両妻面の中心線から貫通幌のカーブ内側幌部分が外れる場合がある。鉄道模型車両妻面の中心から貫通幌のカーブ内側幌部分が外れると、実物の鉄道車両の走行を再現することができず、リアリティに欠ける。また、ゴムシートによってスプリングがカーブ外側に向けて押し出されることで、車輪にもカーブ外側に向けて応力が掛かるため、脱線の可能性が高まる。
【0012】
特許文献2では、紙又は樹脂で山折りと谷折りの繰り返す蛇腹構造の板を形成しているため、らせん方向に捻じれる傾向にある。当該貫通幌は、接着剤で貼り付けるため、取り外しが容易ではない。また、走行時においては、特許文献1と同様にカーブ内側の蛇腹部分が圧縮され、カーブ外側の蛇腹方向に応力が加わり、貫通幌がカーブ外側に押し出される。そのため、貫通幌のカーブ内側の蛇腹部分が、前後鉄道模型車両妻面の中心線から外れる場合があり、リアリティに欠ける。
【0013】
特許文献3では、橋絡材が貫通幌内を前後の鉄道模型車両妻面中心に設けられたスリットに挿通して連絡されており、特許文献1及び特許文献2のように貫通幌が現実にはあり得ない位置に移動することはない。しかし、S字カーブを通過するときには、前後の鉄道模型車両の向かい合った妻面が車両幅の逆方向にズレが生じる。Nゲージの鉄道模型車両の走行速度は、実車換算すると、最高出力においては、400km/h程度にも上る。半分程度の出力であっても、200km/h程度の速度になり、その際には、橋絡材が車両幅方向の揺動に追従できず脱線する場合がある。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、走行時においても実際の鉄道車両に近い外観を呈し、かつ、鉄道模型の高速走行や急カーブによる車両の揺動にも追従でき安定したカーブ走行性を得ることを可能とした鉄道模型車両貫通幌を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明の鉄道模型車両貫通幌は、鋼線を四角形状に卷回され形成されたバネの性質を有した鉄道模型車両貫通幌であって、前記鋼線の巻回部の端部が、鉄道模型車両の連結部分に取り付けられるが、巻回部がシート状の素材によって被われておらず、又は巻回部の鋼線同士が該鋼線とは異なる素材によって接続されておらず、前記鋼線の線径が、0.1mm以上0.3mm以下であり、前記バネの有効巻数が、8巻以上30.5巻以下であること、を特徴とする。
【0016】
上記課題を解決するため、本発明の鉄道模型車両貫通幌は、前記鋼線の巻回部の一方の端部が、座巻を備え、前記鋼線の巻回部の他方の端部が、座巻無端であり、前記座巻が、一方の鉄道模型車両の貫通扉に、又は該貫通扉に装着された隣接する他方の鉄道模型車両に連結されない貫通幌部品に、嵌着又は接着されて取り付けられ、前記座巻無端が、前記他方の鉄道模型車両の貫通扉に、又は該貫通扉に装着された前記一方の鉄道模型車両に連結されない貫通幌部品に、当接又は接触しているのみであること、を特徴とする。
【0017】
また、本発明の鉄道模型車両貫通幌は、前記鋼線が、発色又はメッキ処理が施された鋼線であること、を特徴とする。
【0018】
また、本発明の鉄道模型車両貫通幌は、前記発色が施された鋼線が、酸化発色処理が施されたステンレス鋼線であること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の鉄道模型車両貫通幌によれば、前後の鉄道模型車両が連結された際において実際の鉄道車両に外観が近く、一方端のみが鉄道模型車両の貫通扉又は貫通扉に装着された貫通幌部品に取り付けられている場合には、連結部の取り外しも容易である効果が生じる。また、鉄道模型車両が急カーブを走行する際には、カーブ内側のバネの隣り合う鋼線の一巻部分(以下、一巻回部126という。図1参照。)が重なり合い、カーブ外側のバネの巻回部がカーブ外側に向けて極端に押し出されることはない。カーブ外側のバネの隣り合う各巻の間隔(以下、卷回間隔128という。図1参照。)は広がるが、カーブ内側のバネの隣り合う一巻回部が重なって、貫通幌部分から鉄道模型車両向う側が透過して見えることがなく、リアリティの欠如を防止する。
【0022】
本発明の鉄道模型車両貫通幌によれば、バネ材の線径を所定の線径にすることにより、カーブを走行する際に、カーブ内側のバネの隣り合う一巻回部が重なり易く、バネに掛かるカーブ外側への応力を小さくすることができる効果を奏する。
【0023】
本発明の鉄道模型車両貫通幌によれば、バネの有効巻数を所定の巻数にすることによって、鉄道模型車両の各種の連結間隔において前後の鉄道模型車両が直線に並んでいる状態であっても、バネの巻回間隔が約0.02mmと狭い状態に調整することができ、貫通幌部分から鉄道模型車両の向う側が透過して見えることがなく実際の鉄道車両の外観と比べて遜色なく視認することができる。
【0024】
また、所定の線径及び所定の有効巻数の両要件を満たすことにより、外観のリアリティと安定したカーブの走行性の両方を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に係る鉄道模型車両貫通幌10を示した斜視図である。
図2a】本発明に係る鉄道模型車両貫通幌10を鉄道模型車両20間に取り付けた場合の側面図である。
図2b】本発明に係る鉄道模型車両貫通幌10を鉄道模型車両20間に取り付けた場合の側面からの写真である。
図3】鉄道模型車両20に貫通幌部品22を装着した斜視図である。
図4】本発明に係る鉄道模型車両貫通幌10を一方の鉄道模型車両20の妻面24に装着した貫通幌部品22に取り付けた状態を示した斜視図である。
図5】一方の巻回端部にのみ座巻122を設けた本発明に係る鉄道模型車両貫通幌11を示した斜視図である。
図6a】本発明に係る鉄道模型車両貫通幌11を取り付けた鉄道模型車両20が連結されている状態を示した側面図である。
図6b】本発明に係る鉄道模型車両貫通幌11を一方の鉄道模型車両20に取り付け、連結部を離脱させた状態を示した側面図である。
図7】本発明に係る鉄道模型車両貫通幌11を取り付けた鉄道模型車両20がカーブを走行中の平面図である。
図8】本発明に係る鉄道模型車両貫通幌11を取り付けた鉄道模型車両20がS字カーブを走行中の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係る鉄道模型車両貫通幌10(11)を実施するための形態について、図を参照しつつ説明する。
【0027】
図1は、本発明に係る鉄道模型車両貫通幌10を示した斜視図である。鉄道模型車両貫通幌10は、鋼線を四角形状に卷回させてバネ状に加工されたものである。四角形状に卷回された鋼線がバネの伸縮性を備えると、鉄道模型車両の走行時における振動やカーブを走行時に車両の動きに追従することが可能となり、実際の鉄道車両が走行している場合の貫通幌と同じ動きとして視認することができる。
【0028】
四角形状は、鉄道模型車両20の妻面24に取り付ける貫通幌部品22の枠に嵌め込みが可能な寸法に形成される。鋼線を卷回した巻回部120の両端部に、座巻122と呼ばれるバネ巻回端部を安定させる目的で隣り合う巻を密着させた部分を備えた形状が基本的な形状である。
【0029】
鋼線の材質は、バネ用ステンレス鋼線、ピアノ線、オイルテンパー線、バネ鋼鋼材又は硬鋼線が使用される。ステンレス鋼線は、通常では光沢があり貫通幌としては外見上の違和感が生じる。そこで、光沢が適度に抑えられ実際の貫通幌の外観の色調に近い酸化発色処理が施されたステンレス鋼線を使用することが好適である。また、ピアノ線や硬鋼線は発錆を防止する為にメッキ処理が必要となるが、その際に、光沢を抑えるメッキ処理を施すことにより、実際の貫通幌に近い色調に調整することが可能である。
【0030】
図2aは、本発明に係る鉄道模型車両貫通幌10を鉄道模型車両20間に取り付けた場合の側面図である。実際の鉄道車両の貫通幌の外観に似せるためには、鋼線を可能な限り数多く卷回させた形状にする必要がある。その一方で、車両の鉄道模型車両20の車両間隔は、標準的なNゲージタイプの鉄道模型で約5.0mmであり、当該間隔に例えば十回程度卷回させたバネ形状の鉄道模型車両貫通幌10を挿入する場合には、0.5mm以下の線径でなければならないが、車両の走行時の動きに追従させるためには、巻回部120において巻回間隔128が必要となる。以上を考慮すると、鉄道模型車両貫通幌10に使用される鋼線の線径は、0.3mm以下であることが好ましい。
【0031】
しかしながら、鋼線の線径が細くなりすぎると、四角形状のバネに加工することが難しくなることは経験上周知となっている。また、鋼線の線径が細いと鉄道模型車両20が走行中に車両の向う側が透過して見通せることになり、実際の鉄道車両の外観と異なってしまう。以上を考慮すると、鉄道模型車両貫通幌10に使用される鋼線の線径は、0.1mm以上であることが好ましい。
【0032】
図2bは、0.2mmの線径の鋼線を例えば20回程度卷回したバネ状の鉄道模型車両貫通幌10をNゲージの鉄道模型車両20に取り付けた様子を示した側面からの写真である。この場合の巻回部120の卷回間隔128は約0.02mmである。0.02mm程度の間隔の隙間は、数十cm程度離れると、人間の目には視認することができず、四角形状に卷回したバネに加工された鉄道模型車両貫通幌10にはシート状の幌を被せていないにも関わらず、車両の向う側が透過して見えることはない。また、鋼線の材料は、酸化発色処理を施されたステンレス鋼線を使用しているため、光沢が抑えられて、実際の鉄道車両の外観と遜色のない状態で視認することができる。
【0033】
以上の構成は、後述する巻回部120の片側のみに座巻122を備える鉄道模型車両貫通幌11にも適用が可能である。
【0034】
以下、鉄道模型車両貫通幌10を鉄道模型車両20に取り付ける方法について説明する。図3は、鉄道模型車両妻面24の貫通扉部分に貫通幌部品22を取り付けた状態を示している。貫通幌部品22は、鉄道模型の製造販売を行うほとんどのメーカで用意され販売されている。通常、販売される貫通幌部品22は、樹脂で成形された枠体であり、鉄道模型車両20間を連結させる形状とはなっておらず、前後の相対する鉄道模型車両妻面24に分かれて装着される。
【0035】
鉄道模型車両貫通幌10は、貫通幌部品22に端部を嵌め込むことにより取り付ける。図4は、本発明に係る鉄道模型車両貫通幌10を一方の鉄道模型車両20の妻面24に装着した貫通幌部品22に取り付けた状態を示した斜視図である。鉄道模型車両貫通幌10の巻回端部の少なくとも一方には、座巻122が形成されている。当該座巻122を妻面24に装着された貫通幌部品22に嵌め込むことにより固定され、鉄道模型車両20が走行中においても脱落することはない。他方にも、座巻122が形成されている場合には、相対する鉄道模型車両妻面24に装着された貫通幌部品22に当該座巻122を嵌着させることによって、取り付けが完了する。
【0036】
本発明に係る鉄道模型車両貫通幌によれば、片方の巻回端部に座巻122を備えている必要がない。図5は、一方の巻回端部にのみ座巻122を設けた本発明に係る鉄道模型車両貫通幌11を示した斜視図である。巻回部120において、図5に向かって左側の巻回端部には座巻122を備えているが、右側の巻回端部は、座巻122がなく隣接する一巻回部126の間に隙間が生じている(以下、座巻無端部124という。)。座巻無端部124は、強度が低く、巻回端部が変形するなど形状が安定しないのであるが、鉄道模型車両妻面24に装着された貫通幌部品22には座巻無端部124を挿入するだけで取り付けることができ、簡便である。貫通幌部品22に取り付けた後は、貫通幌部品22が座巻無端部124を支持するため、変形することはない。また、一方の座巻122が、前段落で述べたように貫通幌部品22に嵌着し固定されれば、鉄道模型車両には車両同士を連結する連結部品26を備えており、連結部品26を中心に妻面24が揺動するものの連結部の距離は一定に保持されるため、座巻無端部124が貫通幌部品22から脱落することはない。
【0037】
一方の巻回端部に座巻122を備えないことによって新たな効果が生まれる。図6aは、本発明に係る鉄道模型車両貫通幌11を取り付けた鉄道模型車両20が連結されている状態を示した側面図である。図6aに向かって左の巻回端部には座巻122を備え、妻面24に装着された貫通幌部品22に嵌着されて取り付けられている。一方、図6aに向かって右の巻回端部は座巻無端部124である。座巻無端部124は、妻面24に装着された貫通幌部品22枠体の周囲に接触しているだけで固定はされていない。したがって、図6bの側面図に示すように、前後の鉄道模型車両20の連結部品26を切り離す際には、座巻無端部124側は、容易に貫通幌部品22から離脱させることができる。座巻122を備えた巻回端部は貫通幌部に固定されているため脱落することなく保持され、鉄道模型車両貫通幌11を取り付けた状態のまま保管することもできる。
【0038】
鉄道模型は、前述したように実際の鉄道サイズに置き換えると、非常に走行速度が速い、またカーブの半径が非常に小さいなど厳しい走行条件に設定されているため、鉄道模型車両は、走行中に大きく揺動し、前後の車両の連結部分は、小さい角度に屈曲したり、大きなねじれが生じたりする。前後の鉄道模型車両を連結する貫通幌を実現するためには、上記の屈曲やねじれの動きに追従する必要がある。前掲した特許文献の鉄道模型や実際に販売されている鉄道模型では、このような屈曲やねじれに対応するために、実際の鉄道車両とは異なる構造を備えている場合がほとんどで、外観が実際と異なる、又は、屈曲やねじれに追従しきれず脱線するなど問題が生じ、今なお、前後が連結されない貫通幌部品22が主流となっている。したがって、連結を可能とした鉄道模型車両貫通幌には、激しく揺動する鉄道模型車両の動きに追従することが重要となる。
【0039】
図7は、本発明に係る鉄道模型車両貫通幌11を取り付けた鉄道模型車両20がカーブを走行中の平面図である。連結部を中心として、カーブ中心側の前後の鉄道模型車両妻面24の距離は、直線を走行しているときと比較して相当狭くなる。しかし、鉄道模型車両貫通幌11によれば、各一巻回部126が重なり合うことができるため、カーブ外側に向かって車輪に生じる応力及び前後の鉄道模型車両20に向かって生じる応力は小さくなる。また、バネ状の鉄道模型車両貫通幌11は巻回部120の全長に対して巻数を多く設定しているので、柔軟に変形することが可能である。したがって、鉄道模型車両20の揺動を妨げることがなく、脱線を防止することができる。
【0040】
前後の鉄道模型車両妻面24の距離が、カーブ外側では直線を走行しているときと比較して相当広くなり、鉄道模型車両貫通幌11の各一巻回部126は離隔し、隙間ができるが、カーブ中心側の巻回部120において、隣接する一巻回部126が重なり合うことにより、車両の向う側が透過して見えることはなく、外観を損ねることがない。
【0041】
図8は、本発明に係る鉄道模型車両貫通幌11を取り付けた鉄道模型車両20がS字カーブを走行中の平面図である。S字カーブでは、前後の鉄道模型車両20の前後方向の中心軸が、連結部分において交点を結ぶことがない状態のズレが生じ、鉄道模型車両貫通幌11は前後の妻面24に近いところでは、車両幅方向に対して逆方向のズレとなり、鉄道模型車両貫通幌11はS字状に変形する。鉄道模型車両20がレールの切替ポイントを通過する場合も同様の状態が発生する。この場合、鉄道模型車両貫通幌11の巻回部120において、重なり合ったり、離隔したりする箇所が複数発生するが、鋼線の線径が、0.1mm以上0.3mm以下と細く、かつ、巻回部120の全長に対して卷回間隔128を狭く設定し、可能な限り巻数が多くなるように設計されているために、鉄道模型車両20やレールに対して応力を発生させることがない程度に柔軟に変形する。したがって、安定して走行することが可能となる。
【0042】
また、図8に示すように、鉄道模型車両貫通幌11の一方の側面で隙間が生じた場合には、他方の側面においては、隣接する各一巻回部126が重なり合うため、車両の向う側が透過して見えることはなく、外観を損ねることがない。
【0043】
進行方向に対して傾斜している箇所を備えたレールを走行する際には、上述した鉄道模型車両貫通幌11の車両幅方向の形状の変化が垂直方向に変わって変化し、同様に鉄道模型車両20の動きに追従することができる。また、車両幅方向に傾斜している箇所を備えたレールを走行する際には、鉄道模型車両貫通幌11にはねじれが生じるが、バネの性質によって、柔軟にねじれに対応して形状を変化させることが可能である。
【0044】
鉄道模型車両貫通幌11が、非常に高い柔軟性を備えているため、前の鉄道模型車両20から鉄道模型車両貫通幌11に受ける力を後ろの鉄道模型車両20に伝達することがない効果を有する。また、鉄道模型車両20自体が応力を持たないことは、レールに対して脱線に繋がる力を加えることがなく、安定した走行を行うことができる。
【0045】
鉄道模型車両貫通幌11は、有効巻数を8巻以上30.5巻以下に形成される。鉄道模型は、現在主流となっているNゲージの他に、HOゲージ又はZゲージのサイズがある。実際の鉄道車両の一般的な前後の車両間隔が、500mmであるので、HOゲージでは、車両間隔は1/80の6.25mm、Zゲージでは、車両間隔は1/250の2.27mmとなる。主流であるNゲージでは、前述したように計算上は、3.33mmであるが、脱線する可能性を減少させ安定走行させるために、約5.0mmに設計されている。鉄道模型車両貫通幌11は、Nゲージで試作を重ねた結果、前述したように、鋼線の線径0.2mmにおいて、卷回間隔128が、0.02mm程度であるとき、実際の鉄道車両が走行する際の貫通幌に近い外観を得ることができる。このことから、鉄道模型車両貫通幌11の有効巻数を算出すると、約22.5巻が適していることがわかる。同様に、他のゲージについて算出すると、HOゲージでは、約28.7巻、Zゲージでは、約10.4巻が適当な巻き数であることがわかった。なお、同じゲージであっても、鉄道模型車両20の車両間隔は、鉄道会社各社の鉄道車両の特徴によって、若干の差を有することと、ゲージサイズによって、鋼線線径を変更することを考慮して、有効巻数を8巻以上30.5巻以下とすることが好ましい。
【0046】
巻回端部の両側に座巻122を備える鉄道模型車両貫通幌10が提供される場合には、各社の鉄道模型車両20の車両間隔に応じて、切断して使用することができる。切断した場合には、一方の巻回端部には座巻122を有さないが、前述した巻回端部の片側にのみ座巻122を備える鉄道模型車両貫通幌11のように、走行中に脱落することがないうえに、鉄道模型車両20の連結を解除して収納する場合にも、容易に一方の貫通幌部品22から取り外すことができ、取扱性が向上する。
【0047】
また、巻回端部の片側にのみ座巻122を備えた鉄道模型車両貫通幌11についての走行安定性を述べてきたが、巻回端部の両側に座巻122を備えた鉄道模型車両貫通幌10についても同じ走行安定性を得ることができることは明白である。
【0048】
これまで鉄道模型車両が貫通幌部品を備えていることを前提に述べてきたが、貫通幌部品を有していない場合には、鉄道模型車両貫通扉部分に接着することによって、同様の効果を得ることができる。接着は、接着剤、両面テープなどを使用できるが、特に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る鉄道模型車両貫通幌は、様々なゲージの鉄道模型への適用が可能である。
【符号の説明】
【0050】
10 鉄道模型車両貫通幌
11 鉄道模型車両貫通幌(片座巻タイプ)
120 巻回部
122 座巻
124 座巻無端部
126 一巻回部
128 卷回間隔
20 鉄道模型車両
22 貫通幌部品
24 妻面
26 連結部品
図1
図2a
図2b
図3
図4
図5
図6a
図6b
図7
図8