(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】多層ガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 17/34 20060101AFI20240712BHJP
A44C 27/00 20060101ALI20240712BHJP
B32B 17/04 20060101ALI20240712BHJP
【FI】
C03C17/34 Z
A44C27/00
B32B17/04 Z
(21)【出願番号】P 2020143183
(22)【出願日】2020-08-27
【審査請求日】2023-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2019157761
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592006017
【氏名又は名称】副島硝子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114661
【氏名又は名称】内野 美洋
(72)【発明者】
【氏名】副島 太郎
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 惇
【審査官】三村 潤一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-003977(JP,A)
【文献】特表平08-502233(JP,A)
【文献】実開平05-000722(JP,U)
【文献】特開平02-175635(JP,A)
【文献】特開2018-070438(JP,A)
【文献】特開昭61-040829(JP,A)
【文献】特公昭54-031488(JP,B2)
【文献】特開昭51-010817(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1451556(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 17/00 - 17/44
A44C 1/00 - 3/00
A44C 7/00 - 27/00
B32B 1/00 - 43/00
B44C 1/00 - 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台層となるガラスと1枚又は複数枚の中間層となるガラスと表面層となるガラスとを、膜状に形成した異なる
形状及び色の模様を挟んで積層し、その後、基台層及び中間層並びに表面層となるガラスを焼成する多層ガラスの製造方法において、
前記模様は、ダイクロガラスの金属膜又は誘電体膜に彫り加工を施すことで見る角度や方向によって色が変化する模様を膜状に形成
し、
基台層となるガラスよりも中間層となるガラスの透明度を高くするとともに、中間層となるガラスよりも表面層となるガラスの透明度を高くしたことを特徴とする多層ガラスの製造方法。
【請求項2】
基台層及び中間層となるガラスとしてダイクロガラスを用い、基台層及び中間層となるダイクロガラスの表面に膜状の模様を形成することを特徴とする請求項1に記載の多層ガラスの製造方法。
【請求項3】
表面層及び中間層となるガラスとしてダイクロガラスを用い、表面層及び中間層となるダイクロガラスの裏面に膜状の模様を形成することを特徴とする請求項1に記載の多層ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記基台層をガラスペーストで形成したことを特徴とする請求項3に記載の多層ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記表面層のガラスとして他層のガラスよりも大きいガラスを用いることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれかに記載の多層ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層ガラスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、板状のガラスの表面に金属等を真空蒸着させることでガラスの表面に薄膜を形成したダイクロガラスが広く知られている。
【0003】
ガラスの表面に薄膜を形成したダイクロガラスは、サンドブラストによって表面の薄膜を部分的に除去させることで、ガラスの表面に膜状の模様を形成することができる(たとえば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガラスの表面の薄膜を部分的に除去して模様を形成した場合には、摩耗などによって表面の模様がガラスから剥離してしまうおそれがあり、また、長期の使用や気候の影響を受けてガラスの表面の模様が変色や劣化してしまうおそれがある。
【0006】
そのため、そのままでは、ネックレスやイヤリングなどの装身具やエンブレムなどの装飾具や看板や案内板などの表示具などとして屋内外で有効に利用することが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、請求項1に係る本発明では、基台層となるガラスと1枚又は複数枚の中間層となるガラスと表面層となるガラスとを、膜状に形成した異なる形状及び色の模様を挟んで積層し、その後、基台層及び中間層並びに表面層となるガラスを焼成する多層ガラスの製造方法において、前記模様は、ダイクロガラスの金属膜又は誘電体膜に彫り加工を施すことで見る角度や方向によって色が変化する模様を膜状に形成し、基台層となるガラスよりも中間層となるガラスの透明度を高くするとともに、中間層となるガラスよりも表面層となるガラスの透明度を高くすることにした。
【0008】
また、請求項2に係る本発明では、前記請求項1に係る本発明において、基台層及び中間層となるガラスとしてダイクロガラスを用い、基台層及び中間層となるダイクロガラスの表面に膜状の模様を形成することにした。
【0009】
また、請求項3に係る本発明では、前記請求項1に係る本発明において、表面層及び中間層となるガラスとしてダイクロガラスを用い、表面層及び中間層となるダイクロガラスの裏面に膜状の模様を形成することにした。
【0010】
また、請求項4に係る本発明では、前記請求項3に係る本発明において、前記基台層をガラスペーストで形成することにした。
【0012】
また、請求項5に係る本発明では、前記請求項1~請求項4のいずれかに係る本発明において、前記表面層のガラスとして他層のガラスよりも大きいガラスを用いることにした。
【発明の効果】
【0013】
そして、本発明では、以下に記載する効果を奏する。
【0014】
すなわち、本発明では、多層ガラスの製造方法において、基台層よりも透明度が高い表面層となるガラスと基台層とを、膜状に形成した模様を挟んで積層し、その後、基台層及び表面層となるガラスを焼成することにしているために、表面層のガラスによって膜状の模様に艶が出てより美しく見せることができるとともに、基台層の表面に形成した膜状の模様が摩耗や長期の使用や気候の影響などを受けることが無く、模様の剥離や変色や劣化を防止することができ、ネックレスやイヤリングなどの装身具やエンブレムなどの装飾具や看板や案内板などの表示具などとして有効に利用することができる。
【0015】
上記多層ガラスは、基台層となるガラスの表面に膜状の模様を形成した後に、基台層となるガラスよりも透明度が高い表面層となるガラスを基台層となるガラスの表面に積層し、その後、基台層及び表面層となるガラスを焼成することによって容易に製造することができる。
【0016】
また、上記多層ガラスは、基台層となるガラスよりも透明度が高い表面層となるガラスの裏面に膜状の模様を形成した後に、基台層となるガラスを表面層となるガラスの裏面に積層し、その後、基台層及び表面層となるガラスを焼成することによって容易に製造することができる。基台層をガラスペーストを用いて形成した場合には、気泡の侵入を防止することができるとともに、全体の厚みが薄くて軽量な多層ガラスを製造することができる。
【0017】
特に、基台層となるガラスよりも透明度が高い中間層のガラスの表面又は裏面に基台層とは異なる膜状の模様を形成した後に、その1枚又は複数枚の中間層となるガラスを基台層となるガラスと表面層となるガラスの間に積層し、その後、基台層と中間層と表面層となるガラスを焼成することにした場合には、基台層と1枚又は複数枚の中間層となるガラスに形成した複数の模様によって多様で立体的な模様を表出させることができ、視覚的な意匠性を向上させることができる。
【0018】
また、表面層のガラスとして他層のガラスよりも大きいガラスを用いることにした場合には、焼成時に表面層のガラスが基台層や中間層の周縁にまで溶出して層間を被覆することができ、層間の剥離や層間への塵や水分の侵入を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図4】実施例1に係る多層ガラスの製造方法を示す側面視説明図。
【
図5】実施例2に係る多層ガラスの製造方法を示す平面説明図及び断面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係る多層ガラスの製造方法の具体的な構成について図面を参照して説明する。
【0021】
[実施例1]
図1~
図3に示すように、多層ガラス1は、基台層2と1枚又は複数枚(ここでは、1枚)の中間層3と表面層4とを積層した多層(ここでは、3層)構造となっている。なお、ここでは、基台層2と中間層3と表面層4の3層構造について説明しているが、これに限られず、基台層2と表面層4とからなる2層構造としてもよい。
【0022】
基台層2は、ガラス5の表面に金属膜又は誘電体膜などの膜状の模様6を形成している。基台層2は、たとえばダイクロガラスを用いることができ、ガラス5の表面全面に金属膜又は誘電体膜を形成したものを用い、スクリーン印刷やフォトリソグラフィーや貼着などによって金属膜又は誘電体膜の表面に所定形状(模様)のマスクを形成した後に、サンドブラストなどによって金属膜又は誘電体膜の表面に彫り加工を施すことで、ガラス5の表面に所定形状の膜状の模様6を形成することができる。
【0023】
中間層3は、ガラス7の表面に金属膜又は誘電体膜などの膜状の模様8を形成している。中間層3は、基台層2と同様に、たとえばダイクロガラスを用いることができ、ガラス7の表面全面に金属膜又は誘電体膜を形成したものを用い、スクリーン印刷やフォトリソグラフィーや貼着などによって金属膜又は誘電体膜の表面に所定形状(模様)のマスクを形成した後に、サンドブラストなどによって金属膜又は誘電体膜の表面に彫り加工を施すことで、ガラス7の表面に所定形状の膜状の模様8を形成することができる。
【0024】
表面層4は、ガラス9のみからなる。
【0025】
ここで、表面層4となるガラス9は、基台層2となるガラス5よりも透明度を高くし、中間層3となるガラス7の透明度と同一又は中間層3となるガラス7の透明度よりも高くしている。たとえば、基台層2のガラス5を黒色透明とし、中間層3のガラス7を黄色透明又は無色透明とし、表面層4のガラス9を無色透明としている。
【0026】
また、基台層2のガラス5と中間層3のガラス7と表面層4のガラス9は、全て同一の膨張係数のものを用いている。
【0027】
また、表面層4のガラス9は、基台層2のガラス5と同一サイズ又は基台層2のガラス5よりも全縁で一回り大きいサイズのものを用い、中間層3のガラス7と同一サイズ又は中間層3のガラス7よりも全縁で一回り大きいサイズのものを用いている。中間層3のガラス7は、基台層2のガラス5と同一サイズ又は基台層2のガラス5よりも全縁で一回り大きいサイズのものを用いている。
【0028】
さらに、基台層2のガラス5の表面に形成した膜状の模様6は、中間層3のガラス7の表面に形成した膜状の模様8とは異なる形状としている。なお、基台層2の模様6の色や中間層3の模様8の色は、同一であってもよく異なっていてもよい。この基台層2の模様6の色や中間層3の模様8の色は、金属膜又は誘電体膜などの原料や組成や厚みや加工条件などによって様々な色にすることができ、また、見る角度や方向によって変化する色にすることができる。
【0029】
上記構成の多層ガラス1を製造する場合には、まず、基台層2となるガラス5の表面に設けられた金属膜又は誘電体膜などからなる膜状の模様6を形成するとともに、中間層3となるガラス7の表面に設けられた金属膜又は誘電体膜などからなる膜状の模様8を形成する。
【0030】
その後、基台層2の上部に中間層3を積層し、中間層3の上部に表面層4を積層し、基台層2と中間層3と表面層4とを積層させたままの状態でガラス5,7,9の軟化温度以上に焼成する。
【0031】
これにより、基台層2のガラス5の上面と中間層3のガラス7の下面とが膜状の模様6を挟んで溶着するとともに、中間層3のガラス7の上面と表面層4のガラス9の下面とが膜状の模様8を挟んで溶着し、一体的な多層ガラス1を製造することができる。
【0032】
ここで、
図4(a)に示すように、表面層4のガラス9のサイズを基台層2のガラス5及び中間層3のガラス7のサイズよりも大きくした場合には、
図4(b)に示すように、焼成によって表面層4のガラス9の周縁を基台層2のガラス5及び中間層3のガラス7の周縁に溶着させることができる。これにより、基台層2のガラス5の上面と中間層3のガラス7の下面との間の周縁や中間層3のガラス7の上面と表面層4のガラス9の下面の周縁を溶出固化した表面層4のガラス9で被覆することができ、基台層2と中間層3と表面層4との密着性を向上させることができる。なお、周縁(表面層4のガラス9の溶出固化した部分)の表面を研磨した後に再びガラス5,7,9の軟化温度以上で焼成して成形してもよい。
【0033】
以上に説明したように、上記多層ガラス1の製造方法は、基台層2となるガラス5の表面に膜状の模様6を形成した後に、基台層2となるガラス5よりも透明度が高い表面層4となるガラス9を基台層2となるガラス5の表面に積層し、その後、基台層2及び表面層4となるガラス5,9を焼成する構成となっている。
【0034】
そのため、上記構成の多層ガラス1の製造方法では、表面層4のガラス9によって膜状の模様6に艶が出てより美しく見せることができる。
【0035】
また、上記構成の多層ガラス1の製造方法では、表面層4のガラス9によって基台層2のガラス5の表面に形成した膜状の模様6が摩耗や長期の使用や気候の影響などを受けることが無く、模様6の剥離や変色や劣化を防止することができる。
【0036】
そのため、上記製造方法で製造した多層ガラス1は、ネックレスやイヤリングなどの装身具やエンブレムなどの装飾具や看板や案内板などの表示具などとして有効に利用することができる。
【0037】
また、上記多層ガラス1の製造方法は、基台層2となるガラス5よりも透明度が高い中間層3のガラス7の表面に基台層2とは異なる膜状の模様8を形成した後に、その1枚又は複数枚の中間層3となるガラス7を基台層2となるガラス5と表面層4となるガラス9の間に積層し、その後、基台層2と中間層3と表面層4となるガラス5,7,9を焼成する構成となっている。
【0038】
そのため、上記構成の多層ガラス1の製造方法では、基台層2と1枚又は複数枚の中間層3となるガラス5,7に形成した複数の模様6,8によって多様で立体的な模様6,8を表出させることができ、視覚的な意匠性を向上させることができる。
【0039】
さらに、上記多層ガラス1の製造方法は、表面層4のガラス9として他層2,3のガラス5,7よりも大きいガラス9を用いる構成となっている。
【0040】
そのため、上記構成の多層ガラス1の製造方法では、焼成時に表面層4のガラス9が基台層2や中間層3の周縁にまで溶出して層間を被覆することができ、層間の剥離や層間への塵や水分の侵入を防止することができる。
【0041】
[実施例2]
上記実施例1では、基台層2となるガラス5や中間層3となるガラス7の表面に金属膜又は誘電体膜などで膜状の模様6,8を形成した後に、積層して焼成しているが、これに限られず、表面層4となるガラス9や中間層3となるガラス7の裏面に膜状の模様を形成してもよい。また、上記実施例1では、基台層2となるガラス5や中間層3となるガラス7や表面層4となるガラス9として板ガラスを用いているが、これに限られず、基台層2となるガラス5や中間層3となるガラス7や表面層4となるガラス9の全部又は一部としてガラスペーストを焼成したものを用いることもできる。
【0042】
たとえば、
図5に示すように、表面層4'となるガラス9'の裏面に模様を形成したマスキングフィルム10を貼着し(a)、表面層4'となるガラス9'の裏面上方から金属膜又は誘電体膜を全面(表面層4'となるガラス9'が露出している部分、及び、マスキングフィルム10で被覆されている部分)に真空蒸着させる(b)。
【0043】
その後、表面層4'となるガラス9'の裏面からマスキングフィルム10を剥離する(c)。これにより、マスキングフィルム10に蒸着された粒子がマスキングフィルム10とともに剥離され、表面層4'となるガラス9'の裏面に膜状の模様6'を形成することができる。
【0044】
その後、表面層4’となるガラス9'の裏面全面(表面層4'となるガラス9'が露出している部分、及び、模様6'が形成されている部分)にペースト11を塗布し(d)、その状態で焼成する。焼成によって黒又は黒に近い色のペースト11が固化して基台層2'となるガラス5'となる。なお、ペースト11は、たとえば、ガラスペーストを用いることができ、無機材料であっても有機材料であってもよい。
【0045】
これを表裏反転させることによって、基台層2'のガラス5'の上面と表面層4'のガラス9'の下面とが膜状の模様6'を挟んで溶着し、一体的な多層ガラス1'を製造することができる(e)。
【0046】
このように、マスキングフィルム10を用いることで、サンドブラストによるよりも微細な形状や鋭い形状の模様などを精確に形成することができる。
【0047】
また、ペースト11を用いることで、気泡の侵入を防止することができるとともに、全体の厚みが薄くて軽量な多層ガラス1'を製造することができる。
【符号の説明】
【0048】
1,1' 多層ガラス 2,2' 基台層
3 中間層 4,4' 表面層
5,5' ガラス 6,6' 模様
7 ガラス 8 模様
9,9' ガラス 10 マスキングフィルム
11 ペースト