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特許7519678レイヤード絵画の制作技法、レイヤード絵画
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】レイヤード絵画の制作技法、レイヤード絵画
(51)【国際特許分類】
   B44C 5/04 20060101AFI20240712BHJP
   B32B 33/00 20060101ALI20240712BHJP
   B44F 7/00 20060101ALI20240712BHJP
【FI】
B44C5/04 E
B32B33/00
B44F7/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020173900
(22)【出願日】2020-10-15
(65)【公開番号】P2022065371
(43)【公開日】2022-04-27
【審査請求日】2023-10-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520402133
【氏名又は名称】愛まどんなプロダクション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129539
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 康志
(72)【発明者】
【氏名】加藤 愛
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3004746(JP,U)
【文献】実開平05-088999(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B44C 5/04
B32B 33/00
B44F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明特性が異なる板を2枚以上含む複数の透明性板の表面及び裏面をレイヤーにして、いずれか選択した複数のレイヤーに絵柄を形成する工程と、
これら透明性板を奥行き方向に配列して三次元絵画を形成すると共に、少なくとも各板の透明特性と各板の間隔によるレイヤー同士の離間距離の両方により奥行き方向の被写界深度を調整し、前記三次元絵画の中のフォーカスしたい構成にピント合わせする工程と、を含み、前記複数の透明性板のうち、前記透明特性が異なる2枚以上の透明性板を奥行き方向に透明特性が低下する順に配置していることを特徴とするレイヤード絵画の制作技法。
【請求項2】
透明特性が異なる板を2枚以上含む複数の透明性板の表面及び裏面をレイヤーにして、いずれか選択した複数のレイヤーに絵柄を形成する工程と、
これら透明性板を奥行き方向に配列して三次元絵画を形成すると共に、少なくとも各板の透明特性と各板の間隔によるレイヤー同士の離間距離の両方により奥行き方向の被写界深度を調整し、前記三次元絵画の中のフォーカスしたい構成にピント合わせする工程と、を含み、1枚の透明性板の表面と裏面の両面に、一つのモチーフを細分化して形成した絵柄が含まれていることを特徴とするレイヤード絵画の制作技法。
【請求項3】
複数の透明性板の表面及び裏面をレイヤーにして、いずれか選択した複数のレイヤーに絵柄が形成され、これら透明性板を奥行き方向に配列して三次元絵画としたレイヤード絵画であって、
前記複数の透明性板は、透明特性が異なる2枚以上の板を含み、前記複数の透明性板のうち、前記透明特性が異なる2枚以上の透明性板は奥行き方向に透明特性が低下する順に配置しており、さらに少なくとも各板の透明特性と各板の間隔によるレイヤー同士の離間距離の両方によって奥行き方向の被写界深度が調整され、前記三次元絵画の中の特定の構成にピント合わせされていることを特徴とするレイヤード絵画。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の透明性板に絵柄を形成し、これら透明性板を配列することで三次元絵画としたレイヤード絵画を制作する技法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の透明なアクリル板の表面にそれぞれ違う絵柄を描き、アクリル板を重ね合わせることによって立体的な絵画にすることが知られている(例えば、特許文献1~6を参照)。より具体的には、例えば3枚の透明なアクリル板を準備し、一枚目に「樹木」、二枚目に遠方の「山」、三枚目に「空と雲」をそれぞれ描く。そしてこれら3枚のアクリル板を密着或いは間隔をあけて重ね合わせると、遠近法の作用で立体的に見える風景画となる。この様な技法は、「立体絵画」、「重ね絵」などと称されている。
【0003】
しかしながら、これまでの立体絵画等は、上述のように板間距離による単純な遠近作用を利用したものである。そのため、作品としては依然として平面的で、絵画を重ね合わせた効果のみで遠近感にメリハリがなく、カメラのレンズや人間の目を通して見ているかのようなどこかにフォーカスしてみている感覚には程遠く画面に描かれた世界を疑似体験するような没入感は得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実用新案登録第3004746号公報
【文献】実全昭63-084399号公報
【文献】特開昭63-072600号公報
【文献】実全平03-062900号公報
【文献】実用新案登録第3117895号公報
【文献】特開2008-296521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、平面絵画の遠近法や透明板に描いた絵を単純に重ねただけでは表すことのできないフォーカスしたいポイントにピントが合った、カメラのレンズや人間の目を通して見ているのと同じようにそれ以外の部分をぼかすことで、画面を通し三次元を体感するかのような絵画の制作を実現することのできる新規なレイヤード絵画の制作技法、及びレイヤード絵画を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のレイヤード絵画の制作技法は、透明特性が異なる板を2枚以上含む複数の透明性板の表面及び裏面をレイヤーにして、いずれか選択した複数のレイヤーに絵柄を形成する工程と、これら透明性板を奥行き方向に配列して三次元絵画を形成すると共に、各板の透明特性とレイヤー同士の離間距離の両方により奥行き方向の被写界深度を調整し、前記三次元絵画の中のフォーカスしたい構成にピント合わせする工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明のレイヤード絵画は、複数の透明性板の表面及び裏面をレイヤーにして、いずれか選択した複数のレイヤーに絵柄が形成され、これら透明性板を奥行き方向に配列して三次元絵画としたレイヤード絵画であって、前記複数の透明性板は、透明特性が異なる2枚以上の板を含み、各板の透明特性とレイヤー同士の離間距離の両方によって奥行き方向の被写界深度が調整され、前記三次元絵画の中の特定の構成にピント合わせされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、表面や裏面をレイヤーにして絵柄を形成した複数の透明性板を配列して三次元絵画を形成すると共に、各板の透明特性とレイヤー同士の離間距離の両方によって奥行き方向の被写界深度を調整するという新規な技法を採用したことにより、三次元絵画の中でフォーカスしたい構成(例えば、主題とするモチーフなど)にピント合わせすることが可能となる。これにより、これまでの技法では表すことのできないカメラのレンズや人間の目を通して見ているかのような三次元絵画を具現化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のレイヤード絵画の正面図である。
図2】上記レイヤード絵画の各構成要素の展開図である。
図3】上記レイヤード絵画の額の断面図である。
図4】上記レイヤード絵画の1枚目の板を表面から見た図である。
図5】上記レイヤード絵画の1枚目の板を裏面から見た図である。
図6】上記レイヤード絵画の2枚目の板を表面から見た図である。
図7】上記レイヤード絵画の2枚目の板を裏面から見た図である。
図8】上記レイヤード絵画の3枚目の板を表面から見た図である。
図9】上記レイヤード絵画の3枚目の板を裏面から見た図である。
図10】上記レイヤード絵画の4枚目の板を表面から見た図である。
図11】上記レイヤード絵画の1枚目の板の構図である。
図12】上記レイヤード絵画の2枚目の板の構図である。
図13】上記レイヤード絵画の3枚目の板の構図である。
図14】上記レイヤード絵画のピント合わせの比較例1である。
図15】上記レイヤード絵画のピント合わせの比較例2である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に従うレイヤード絵画の制作技法及びレイヤード絵画について、添付図面を参照しながら詳しく説明する。但し、以下に説明する実施形態は、好ましい一例であり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0011】
図1は、本実施形態に従う新しい技法で製作したレイヤード絵画1の完成品の一例を正面から撮影した写真である。図2は、レイヤード絵画1の構成を説明するために、各構成要素を展開した図である。特に図2に示すように、レイヤード絵画1は、複数枚の透明性板2(2A,2B,2C,2D)を備えている。複数枚の透明性板2(2A,2B,2C,2D)は、奥行き方向(前後方向)に夫々間隔をあけて配列される。透明性板2の表面及び/又は裏面は、三次元絵画を形成するためのレイヤーとする。図1及び図2には、透明性板2を4枚用いた作品を例示しているが、用いる透明性板2の枚数は限定されることはなく2枚以上であればよい。透明性板2を何枚用いるかは、製作する三次元絵画の画面構成、モチーフや構図などに応じて適宜選択することができる。
【0012】
透明性板2の枚数を増やしてレイヤーを多層化すると、その分、奥行き感を深めることができる反面、作品全体の厚みが大きくなり、例えば壁掛け等が難しくなる。そのため、2~10枚の範囲内に収めるのが現実的であり、より現実的には3~6枚である。なお、本実施形態の新しい技法は、たとえ少ない枚数でも奥行き感を表現できるという特徴がある。
【0013】
透明性板2(2A,2B,2C,2D)は、額3によって固定している。額3は、四角枠状に形成され、上辺の部分が着脱自在になっている。上辺の部分は、透明性板2(2A,2B,2C,2D)を差し入れた後に取り付ける。図3は、図2のA-A’断面図である。図3に示すように、額3には複数の溝31を奥行き方向に例えば等間隔に形成している。この溝31は、例えば額3の四辺に夫々形成する。透明性板2(2A,2B,2C,2D)は、その縁部をこの溝31に係合させることによって位置決めされるが、溝31の数を板の数よりも多く形成しておき(または事前に適切な距離を測って溝31を入れておき)、どの溝31に係合させるかを選択するによって板同士の離間距離を調整できるようにしている。
【0014】
透明性板2(2A,2B,2C,2D)は、厚み方向の透明性を有していればよく、透明板に限らず半透明板も含まれる。透明性板2(2A,2B,2C,2D)は、例えば、樹脂製の板やガラス製の板である。これらは市販されているものを用いてもよい。その中でも、アクリル板が好ましい。なお、一つの作品を構成する複数の透明性板2(2A,2B,2C,2D)は、全て同じ材質のものを用いてもよく、異なる材質の板を含んでいてもよい。また、図1及び図2の例では長方形状のものを用いているが、正方形,多角形,円形,楕円形,その他の形状であってもよい。さらに、全て同じ形状でなくともよく、互いに異なる形状のものを含んでいてもよい。
【0015】
ここで、一つの作品を構成する複数枚の透明性板2(2A,2B,2C,2D)は、互いに透明特性が異なるものを少なくとも2枚以上用いる。「互いに透明特性が異なる」とは、例えば板の表面を目視したときの透視具合が相対的に異なることを意味する。板の透明特性は、板を構成する素材自体の透明度,着色の有無,表面処理の有無,表面加工の有無,板厚などによって変わってくる。
【0016】
板の透明特性は、例えば全光線透過率(%)又はヘーズ(%)などの数値で示すこともできる。アクリル板の場合、全光線透過率(%)は「JIS K 7361-1」、ヘーズ(%)は「JIS K 7136」に従って測定することができる。なお、全光線透過率(%)と見た目の透明度は必ずしも比例しないことがあり、本技法による三次元の画面形成には見た目の透明度が重要であるので、ヘーズ(%)を用いる方が好ましい。なお、ヘーズ(%)は、0.1(%)のクリアなものから99.9(%)の透明特性が低いものまで、多種のものを候補とすることができる。
【0017】
板を構成する素材自体の透明度は、アクリルやガラスなどの材質によって異なる。さらに、例えば同じアクリル板でも、グレードなどによって透明度は異なる。次に着色の有無に関して、作品に用いる透明性板2は、無色でなくともよく有色又は蛍光色であってもよい。さらには、無色の板と有色の板の組み合わせでもよい。有色の一例は、乳半色,ホワイト,ブラック,グレー,レッド,イエロー,ブルー,グリーンなどである。蛍光色の一例は、蛍光レッド,蛍光イエロー,蛍光ブルー,蛍光グリーンなどである。勿論、その他の有色及び蛍光色を採用してもよい。
【0018】
板の表面処理は、例えばマット処理(つや消し)であり、これにより板の表面に曇りを付与することができる。マット処理は、片面マットと両面マットがある。従って、作品の前方側に位置する面を「表面」、後方側に位置する面を「裏面」とした場合、表面側をマット処理した板、裏面側をマット処理した板、両面をマット処理した板の3つのパターンを選択可能である。一例として、手前側をぼかすような表現をしたいときは表面側をマット処理した板を用い、手前側にはっきりとピントが合っているようなクリアな画面を表現したいときは裏面側をマット処理した板を用いる。
【0019】
表面加工は、例えば微細な凹凸,溝を彫刻する,文様などを形成したり、模様を描いたりする処理であり、これによりテクスチャーを付与する。表面加工の場合も、表面側を加工した板、裏面側を加工した板、両面を加工した板の3つのパターンを選択可能である。
【0020】
板厚は、例えば1mm~50mmの範囲内で選択する。好ましくは、例えば2mm~10mmの範囲内から選択する。板厚の選定は、表面と裏面を2層のレイヤーとしたときのレイヤー同士の離間距離の調整にもなる。
【0021】
2枚の板で一つの作品を構成する場合、全ての板の透明特性が異なっていることは勿論であるが、2枚以上、例えば4枚の板で作品を構成する場合、透明特性が全て異なる板の組み合わせにしてもよく、或いは4枚の板の中に同じ透明特性の板が含まれていてもよい。さらに、板同士の透明特性の差は均等である必要はない。例えば、1枚目の板と2枚目の板の透明特性の差に比べて、3枚目の板と4枚目の板の透明特性の差を大きくするなど、差を持たせてもよい。勿論、各板同士の透明度の差を均等にすることを除くものではない。板間の透明特性の差をどの位に設定するかは、後述するピント合わせに影響する。
【0022】
三次元絵画を構成するために細分化した絵柄は、透明性板2(2A,2B,2C,2D)の表面及び/又は裏面に形成する。絵柄の形成は、例えば画家が手書きで描くことができる。アクリル板の場合、アクリル絵の具、グリースペンシル、鉛筆などを用いる。絵の具等で描く以外にも、板の表面を彫ったり、傷をつけたり、他の物を貼り付けたりして絵柄を形成してもよい。また、必ずしも手書きしなくてよく印刷等で絵柄を形成してもよい。
【0023】
続いて、レイヤード絵画1の制作手順の一例について説明する。
例えば人物画,風景画,抽象画などの三次元絵画を形成する絵は、一例として、「近景」、「中景」、「遠景」に構成を大別する。さらに「近景-1」、「近景-2」のように細分化して増やしてもよい。主題であるモチーフは、「近景」、「中景」、「遠景」のいずれかに位置させる。かかる構成のレイヤード化によって用いる透明性板2の枚数を決定し、さらにどのような透明特性にするかを設定する。最終的な透明特性の決定は、実際に絵を描きながら試行錯誤で行ってもよい。
【0024】
図1の作品の例では、図4図10の各板の写真に示すように、最前面の1枚目の板2Aに近景、2枚目の板2Bに中景、3枚目の板2Cに遠景を描き、4枚目の板2Dには何も描かず背景板としている。作品のモチーフである少女(人物)は1枚目の板2Aに描いている。図4図5に示すように、モチーフである少女は、1枚目の板2Aの表面に線で描き、その裏面に塗り(配色)をしている。図11は、板2Aの表面に描いた部分と裏面に描いた部分を夫々ハッチングで示している。特許図面のためグレイスケールで示しているが、実際の塗りはカラーである。すなわち、一つの板の表面と裏面を2層のレイヤーとし、モチーフである少女を線と塗り(配色)に細分化して描いている。このように描くことで、1枚目の板2Aの表面側にすべて描いた場合に比べて、モチーフである少女の三次元化をすることができる。一つの板の表面と裏面ではなく別の板に描いた場合、線と塗りが有機的に作用せずモチーフである少女の三次元化を十分にすることができない。また、裏面から塗りをすることで、塗りの筆跡が表面側に現れないという利点もある。更には、図5に示すように、表面側からは見えない後ろ手に持った物を裏面側に描くことによって、大きく板同士の距離をとった作品、裏に回り込んで観れるような展示の仕方の場合には、裏面に描いた部分も覗き見ることができる。必ずしも直接見せることが好まれる訳ではない、現代アートでは非常に重要視されるコンセプトを作品中に潜ませる事ができるという効果も得られる。なお、必ずしも塗りと線で分ける必要はなく、塗りと塗り、線だけの表現も可能である。
【0025】
続いて図6図7に示すように、2枚目の板2Bには、中景としての草木など描いている。図8図9に示すように、3枚目の板2Cには、遠景としての母屋などを描いている。この場合も同様に、例えば線と塗りに、影と光に分けて表面と裏面に夫々描くようにすることができる。図12図13は、板2Bと板2Cの表面に描いた部分と裏面に描いた部分を夫々ハッチングで示している。
【0026】
図1の作品では、透明性板2(2A,2B,2C,2D)は、透明特性が異なる板を3枚用いている。具体的には、最前面の1枚目の板2Aはヘーズ(%)が68.9%、2枚目の板2Bと3枚目の板2Cはヘーズ(%)が81.8%、背景板とした4枚目の板2Dはヘーズ(%)が99.3%である。このように、1枚目と2枚目と3枚目の板2A,2B,2Cには4枚の板の中で透明特性が高いものを割当て、4枚目の板2Dには透明特性が低いものを割り当てている。さらに、透明特性が比較的高い1枚目から3枚目の板同士も、1枚目に比べて2枚目と3枚目の板の透明特性を下げている。これは詳しくは後述するが、1枚目に描いた作品の主題である少女にピント合わせし易くするためである。なお、用いた4枚の板に着色と表面加工はなく、板厚は同じ3mmである。変形例として、2枚目の板2Bと3枚目の板2Cの透明特性を異なるようにしてもよい。また、背景板とした4枚目の板2Dを省略し、例えば本作品を掛ける壁の表面を背景板としてもよい。
【0027】
一つの作品に用いる透明性板2の枚数が増えた場合は、透明特性の比較的高い複数の板に、フォーカスしたいモチーフをより階調を持たせて描きわける。それにより立体感を与える事ができる。フォーカスしたいモチーフを描き終えた板以降は、透明度を下げて遠景を書き込む。さらに、背景となる板は大きく透明度を下げボケの値が距離と比例して大きくなるように調整する。図1の作品はフォーカスしたい女の子にピントを合わせつつ、背景も物語の舞台の重要な意味を持っているのでボカシ過ぎず(3枚目の家の様子がうかがえる程度)なお且つ、女の子にフォーカスできる距離感に調節している。
【0028】
すなわち、各板2A~2Cに絵柄を描いたら、各板2A~2Dを前後方向(作品の奥行き方向)に配列して三次元画面を形成する。板同士の間隔は、例えば0mm~1000mmの範囲内とする。好ましくは1mm~10mmの間隔で離して配列する。具体的には、図1の完成品に表れているように、作品の主題である少女にピントが合うように各板2A~2Dの間隔を調整する。すなわち、本技法におけるこのピント合わせは、各板2A~2Dの透明特性と板同士の離間距離の両方により奥行き方向の被写界深度を調整することを意味する。少女にピントが合う各板2A~2Dの位置関係(板同士の間隔)は、板同士の透明特性の差(奥行き方向の透明深度)によっても変わるので、例えば初期設定としてすべて等間隔に板2A~2Dを配置した後、各板を前後に移動させて各板の間隔を夫々調整することでピント合わせするようにしてもよい。上述したヘーズ(%)と板厚の場合、結果として3mm間隔にすることでピント合わせされている。1枚目の板2Aの木や石垣は少女と近い距離に位置しているためここもピントが合っている。ピント合わせは、例えば額3の各板2A~2Dを係合する溝31を変えることによって行うことができる(図3参照)。
【0029】
上述の実施形態によれば、各板2A~2Dの透明特性と各板の間隔(すなわち各レイヤー同士の離間距離)の両方で、奥行き方向の被写界深度を物理的に調整したことにより、カメラでフォーカスを決めるようにモチーフをとらえた三次元絵画を具現化することができる。見方を変えると、人の目で見たときに焦点が合う最前面の板の表面からの焦点深度を、各板2A~2Dの透明特性と各板の間隔(すなわち各レイヤー同士の離間距離)の両方で調整している。これにより、これまでの技法では表せなかったカメラのレンズや人間の目を通して物を見ているかのように絵画を体感するような没入感を実現することができる。勿論、表面と裏面に絵柄を形成する場合は、板厚を調整することによっても各レイヤー同士の離間距離を調整することができる。なお、図1の作品の例では、1枚目の板2Aに作品の主題であるモチーフを描きピント合わせしたが、2枚目の板2Bに描いてピント合わせするようにしてもよい。
【0030】
比較例として、全て透明特性が高い板を用いて且つ間隔を小さく設定した場合を図14に示し、透明特性が低い板を用いて且つ間隔を大きく設定した場合を図15に示している。図14の場合、全体が平面化してメリハリがないものとなってしまっている。また、図15の様に背景をより遠くに見せるなど、自在に遠近感を演出可能なことも確認できている。図15は、10mm程の間隔でそれぞれの板同士の間隔を調整した一例である。
【0031】
また、これまでの絵画では基本的に正面からの鑑賞を前提として作成されていたが、上述の実施形態によれば、レイヤーが重ねられていることによって正面以外(横、上、下)から見たときに絵画の表情が変化する体験をすることができる。また、レイヤーを入れ替えることで例えば場面を時系列で変化させるようにすることもできる。
【0032】
以上、本発明を具体的な実施形態に則して詳細に説明したが、形式や細部についての種々の置換、変形、変更等が、特許請求の範囲の記載により規定されるような本発明の精神及び範囲から逸脱することなく行われることが可能であることは、当該技術分野における通常の知識を有する者には明らかである。
【符号の説明】
【0033】
1 レイヤード絵画
2 透明性板
2A 1枚目の透明性板
2B 2枚目の透明性板
2C 3枚目の透明性板
2D 4枚目の透明性板
3 額

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15