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  • 特許-癌治療用医薬組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】癌治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4174 20060101AFI20240712BHJP
   A61K 31/5375 20060101ALI20240712BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240712BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20240712BHJP
   A61K 31/4418 20060101ALI20240712BHJP
【FI】
A61K31/4174
A61K31/5375
A61P35/00
A61K31/496
A61K31/4418
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020550447
(86)(22)【出願日】2019-10-01
(86)【国際出願番号】 JP2019038723
(87)【国際公開番号】W WO2020071355
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2018186915
(32)【優先日】2018-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 義正
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 英胤
(72)【発明者】
【氏名】杉山 優子
(72)【発明者】
【氏名】村松 俊英
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】CHEN K et al.,Itraconazole inhibits invasion and migration of pancreatic cancer cells by suppressing TGF/β/SMAD2/,ONCOLOGY REPORTS,2018年04月,Vol.39,p.1573-1582,Abstract,1580ページ右欄7-8行
【文献】田尻 孝,胆管上皮癌の分子生物学的検討,胆道,2008年,Vol.22, No.1,pp.8-14
【文献】TSUBAMOTO H et al.,Combination Chemotherapy with Itraconazole for Treating Metastatic Pancreatic Cancer in the Second-l,ANTICANCER RESEARCH,Vol.35,2015年,p.4191-4196,Abstract
【文献】GBELCOVA H et al.,Differences in antitumor effects of various statins on human pancreatic cancer,International Journal of Cancer,2008年,Vol.122,p.1214-1221,Abstract, 1215ページ右欄「Animal studies」欄, FIGURE 1, FIGURE 3
【文献】KAMIGAKI M et al.,Statins induce apoptosis and inhibit proliferation in cholangiocarcinoma cells,INTERNATIONAL JOURNAL OF ONCOLOGY,2011年,Vol.39,p.561-568,Abstract
【文献】ANTICANCER RESEARCH,2015年,35,4923-4928
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00- 33/44
A61P 1/00- 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アモロルフィン、フェンチコナゾール、イトラコナゾール、セリバスタチン、及び、これらの薬理上許容される塩からなる群から選択される1以上を含む、胆道癌治療用医薬組成物(ただし、他の化学療法剤と併用されるものを除く。)
【請求項2】
100~400mgのイトラコナゾール又はその薬理上許容される塩を含み、
ヒトへの経口投与用である、
請求項1に記載の胆道癌治療用医薬組成物。
【請求項3】
0.10~0.50mgのセリバスタチン又はその薬理上許容される塩を含み、
ヒトへの経口投与用である、
請求項1に記載の胆道癌治療用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌治療用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は日本人の死因において大きな割合を占める疾患であり、各種の抗癌剤が開発段階にある。他方、抗癌作用を有する物質のなかには、予期せぬ重篤な副作用等を有するものが多く存在する。このような事情を踏まえ、上市される新規抗癌剤の数は年々減少傾向にある。
【0003】
他方で、特定の疾患に対して有効な既存薬について、別の疾患に対する薬効を発見しようとする、「ドラッグ・リポジショニング」と呼ばれる手法がある(非特許文献1参照。)。この手法によって別の疾患に対する薬効を有することが発見された薬剤は、臨床レベルにおける安全性や体内動態が既に確認されているものである。そのため、この手法には、少ない研究開発コストで、副作用が少ない治療剤を開発し得るというメリットが期待できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Mizushima, T. (2011). Drug discovery and development focusing on existing medicines: drug re-profiling strategy. J Biochem 149, 499-505.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、ドラッグ・リポジショニングを、独自に開発した癌細胞オルガイド培養技術と組み合わせて、新規な抗癌剤(特に、胆道癌又は膵臓癌の治療剤)のスクリーニングのために用いることを着想した。オルガノイドとは、細胞を高密度に集積させることにより自己組織化させた立体的な細胞組織体であり、生体内組織に似た構造を有する。
【0006】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、新規な癌治療用医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、スクリーニングの結果、抗真菌剤として知られるアモロルフィン若しくはフェンチコナゾール、又は、脂質異常症治療剤として知られるHMG-CoA還元酵素阻害剤を含む医薬組成物によれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は、以下のようなものを提供する。
【0008】
(1) アモロルフィン、フェンチコナゾール、イトラコナゾール、及び、これらの薬理上許容される塩、並びに、HMG-CoA還元酵素阻害剤からなる群から選択される1以上を含む、癌治療用医薬組成物。
【0009】
(2) 前記HMG-CoA還元酵素阻害剤がセリバスタチン、又は、その薬理上許容される塩である、(1)に記載の癌治療用医薬組成物。
【0010】
(3) 前記癌が胆道癌又は膵臓癌である、(1)又は(2)に記載の癌治療用医薬組成物。
【0011】
(4) 100~400mgのイトラコナゾール又はその薬理上許容される塩を含み、
前記癌が胆道癌又は膵臓癌であり、
ヒトへの経口投与用である、
請求項1に記載の癌治療用医薬組成物。
【0012】
(5) 0.10~0.50mgのセリバスタチン又はその薬理上許容される塩を含み、
前記癌が胆道癌又は膵臓癌であり、
ヒトへの経口投与用である、
請求項1に記載の癌治療用医薬組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、新規な癌治療用医薬組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】アモロルフィン又はセリバスタチンの存在下における培養後の癌細胞生存率を示す図である。
図2】イトラコナゾール又はアモロルフィンの存在下における培養後の癌細胞生存率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0016】
<癌治療用医薬組成物>
本発明の癌治療用医薬組成物(以下、「本発明の組成物」ともいう。)は、アモロルフィン、フェンチコナゾール、イトラコナゾール、及び、これらの薬理上許容される塩、並びに、HMG-CoA還元酵素阻害剤からなる群から選択される1以上を含む。以下、「アモロルフィン、フェンチコナゾール、イトラコナゾール、及び、これらの薬理上許容される塩、並びに、HMG-CoA還元酵素阻害剤からなる群から選択される1以上」をあわせて「本発明における化合物」ともいう。
【0017】
本発明における化合物は、いずれも、後述のとおり癌とは全く異なる疾患に対する薬効を有することが知られる既存薬である。本発明者らによる独自のスクリーニングの結果、意外にも、これらの化合物は癌細胞(特に、癌幹細胞)増殖抑制効果を有し、癌(特に、胆道癌や膵臓癌)に対する薬効を有することが見出された。さらに、これらの化合物は、その多くが、安全性が確認された既存薬であることから、副作用の少ない抗癌剤として機能することが期待できる。
【0018】
本発明者らが用いたスクリーニングは、癌細胞オルガイド培養技術を用いた系である。この系は、より生体に近い系であるため、該系によって見出された化合物群は、有効な抗癌剤として機能し得る。
【0019】
本発明における「薬理上許容される塩」としては特に限定されず、金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等)、有機酸との付加塩(クエン酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩等)、無機酸との付加塩(塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等)等が挙げられる。
【0020】
本発明において「癌細胞増殖抑制効果」とは、本発明における化合物が存在しない点以外は同条件の処置を行った場合と比較して、癌細胞の増殖が遅延又は停止等することを意味する。このような癌細胞増殖抑制効果により、本発明の組成物によれば、癌治療効果が期待できる。本発明において「治療」とは、症状の進行の遅延、緩和、軽減、改善、及び治癒等を意味する。
【0021】
本発明の治療対象である癌としては特に限定されず、胆道癌、膵臓癌、肺癌、大腸癌、皮膚癌、肝癌、前立腺癌、乳癌、卵巣癌、脳腫瘍、胃癌等が挙げられる。これらのうち、本発明によれば、胆道癌、膵臓癌を好ましく治療し得る。
【0022】
本発明において「胆道癌」とは、胆嚢や胆管に生じる癌の総称を意味する。本発明における「胆道癌」には、任意の発生部位の胆道癌が含まれ、例えば、肝内胆管癌、肝門部胆管癌、上部胆管癌、中部胆管癌、下部胆管癌、神経内分泌癌、十二指腸乳頭部癌(ファーター乳頭部神経内分泌癌等)、胆嚢癌が挙げられる。
【0023】
本発明における「膵臓癌」には、任意の発生部位(例えば、膵頭部、膵体部、及び膵尾部)の膵臓癌が含まれる。また、本発明における「膵臓癌」には、外分泌系癌及び内分泌系癌のいずれもが含まれる。本発明における膵臓癌としては、膵腺癌等が挙げられる。
【0024】
(アモロルフィン、フェンチコナゾール、及びイトラコナゾール)
アモロルフィン、フェンチコナゾール、イトラコナゾール、及び、これらの薬理上許容される塩(塩酸塩等)は、抗真菌剤として上市されている。本発明者らによる検討の結果、その作用は明らかではないが、これらの化合物が癌細胞増殖抑制効果を有することが見出された。
【0025】
本発明の組成物におけるアモロルフィン、フェンチコナゾール、イトラコナゾール、及び、これらの薬理上許容される塩(塩酸塩等)の含量は、投与方法、投与期間、その他の諸条件(例えば、患者の症状、年齢、体重)に応じて適宜調整される。例えば、抗真菌剤として使用される場合と同等の量、又は、それよりも少ない量を投与できるようにこれらの化合物の含量を調整してもよい。また、得ようとする効果に応じて、体表面積等に基づき適宜調整してもよい。
【0026】
本発明の組成物における、アモロルフィン、フェンチコナゾール、イトラコナゾール、及び、これらの薬理上許容される塩(塩酸塩等)の配合量が多いほど、癌細胞増殖抑制効果が高くなることが期待できる。また、これらの化合物は既に安全性が確認されているため、本発明の組成物における配合量が多くとも副作用を生じる可能性が低いことも期待できる。
【0027】
(HMG-CoA還元酵素阻害剤)
本発明におけるHMG-CoA還元酵素阻害剤は、脂質異常症治療剤として上市されているものである。本発明者らによる検討の結果、その作用は明らかではないが、HMG-CoA還元酵素阻害剤が癌細胞増殖抑制効果を有することが見出された。
【0028】
HMG-CoA還元酵素阻害剤としては、具体的には、スタチン系薬剤、すなわち、セリバスタチン、ロスバスタチン、ピタバスタチン、アトルバスタチン、フルバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、ロバスタチン、メバスタチン、及びこれらの薬理上許容される塩等が挙げられる。これらのうち、特に癌細胞増殖抑制効果が高いという観点から、セリバスタチン、又は、その薬理上許容される塩が好ましい。
【0029】
本発明の組成物におけるHMG-CoA還元酵素阻害剤の含量は、投与方法、投与期間、その他の諸条件(例えば、患者の症状、年齢、体重)に応じて適宜調整される。例えば、脂質異常症治療剤として使用される場合と同等の量、又は、それよりも少ない量を投与できるようにこれらの化合物の含量を調整してもよい。また、得ようとする効果に応じて、体表面積等に基づき適宜調整してもよい。
【0030】
本発明の組成物におけるHMG-CoA還元酵素阻害剤(特に、セリバスタチン、又は、その薬理上許容される塩)の配合量が多いほど、癌細胞増殖抑制効果が高くなることが期待できる。
【0031】
<癌治療用医薬組成物の製造方法>
本発明の組成物は、本発明における化合物が配合されていればよく、任意の剤形として製造できる。本発明の組成物の製造方法は、医薬品の製造分野において採用される任意の方法を、組成物の剤形に応じて選択することができる。
【0032】
本発明の組成物には、アモロルフィン、フェンチコナゾール、イトラコナゾール、及び、これらの薬理上許容される塩、並びに、HMG-CoA還元酵素阻害剤のうちいずれか1以上が含まれていればよく、これらのうち1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0033】
本発明の組成物の剤形としては特に限定されず、経口剤(錠剤、カプセル剤、丸剤、顆粒剤、散剤、液剤、懸濁剤等)や、非経口剤(注射剤等)等が挙げられる。
【0034】
本発明の組成物は、その剤形に応じて、薬理上及び製剤上許容し得る添加物を含んでいてもよい。このような添加物としては、通常、製剤分野において担体や賦形剤等として常用され、かつ、本発明の組成物に含まれる有効成分(すなわち、本発明における化合物)と反応しない物質を使用できる。
【0035】
<癌治療用医薬組成物の使用方法>
本発明の組成物は剤形に応じて、経口的投与、又は、非経口的投与(静脈、皮下、又は筋肉内への投与や、局所的、経直腸的、経皮的又は経鼻的な投与)によって、投与対象に投与される。
【0036】
本発明の組成物の投与対象は特に限定されず、哺乳類等を好ましく挙げることができる。哺乳類としては、ヒト、及び、非ヒト動物(マウス、ラット、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ等)のいずれであってもよい。
【0037】
本発明の組成物の投与回数や投与間隔は特に限定されず、単回投与であっても複数回投与であってもよい。
【0038】
本発明の組成物は、投与目的等に応じて、他の薬剤と併用して投与してもよい。本発明の組成物とともに併用される薬剤の種類や量等は、得ようとする効果等に基づき適宜選択され、本発明の組成物とともに投与してもよく、別々に投与してもよい。
【0039】
本発明の組成物に、抗真菌剤として知られる成分、すなわち、アモロルフィン、フェンチコナゾール、イトラコナゾール、及び、これらの薬理上許容される塩が含まれる場合、これらの成分は、抗真菌剤として機能する量と同等の量、又は、より少ない量で、癌の治療効果を奏し得る。例えば、抗真菌剤としてイトラコナゾールをヒトへ経口投与する場合、その投与量は、通常、1回あたり200mg(1日2回、すなわち1日用量400mg)である。他方で、イトラコナゾールを癌治療(特に、胆道癌又は膵臓癌の治療)のためにヒトへ経口投与する場合、その投与量は、好ましくは、1回あたり100~400mg(好ましくは1日2回投与され、すなわち1日用量が好ましくは200~800mgである。)、より好ましくは、1回あたり100~150mg(好ましくは1日2回投与され、すなわち1日用量が好ましくは200~300mgである。)である。
【0040】
本発明の組成物に、脂質異常症治療剤としてしられる成分、すなわち、HMG-CoA還元酵素阻害剤が含まれる場合、この成分は、脂質異常症治療剤として機能する量と同等の量、又は、より少ない量で、癌の治療効果を奏し得る。例えば、脂質異常症治療剤としてセリバスタチンをヒトへ経口投与する場合、その投与量は、通常、1回あたり0.30mg(1日1回)である。他方で、セリバスタチンを癌治療(特に、胆道癌又は膵臓癌の治療)のためにヒトへ経口投与する場合、その投与量は、好ましくは、1回あたり0.10~0.50mg(好ましくは1日1回投与される。)、より好ましくは、1回あたり0.10~0.20mg(好ましくは1日1回投与される。)である。
【実施例
【0041】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
<癌細胞からのオルガノイドの形成>
表1に示す由来を有する胆道癌組織若しくは膵臓癌組織から単離した細胞を用いて、以下の方法でオルガノイドを調製した。なお、表及び図面中、「IHCC」とは肝内胆管癌を意味し、「PDA」とは膵腺癌を意味し、「GBC」とは胆嚢癌を意味し、「NEC」とは神経内分泌癌を意味する。
【0043】
【表1】
【0044】
各組織を小片に切り、消化緩衝液中で1時間、37℃でインキュベートした。消化緩衝液は、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(2.5% ウシ胎児血清、0.0125% ディスパーゼ タイプII(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)及び0.0125% コラゲナーゼ タイプXI(シグマアルドリッチ社製)を含む。)を用いた。
【0045】
インキュベート後、培養物を1分間静置し、培養上清を回収してチューブに入れ、これを800rpmで5分間遠心した。得られたペレットをPBSで洗浄した後に、800rpmで5分間遠心した(この操作を2度繰り返した。)。単離した各細胞を、氷上でマトリゲル(growth factor reduced, phenol red-free、Corning社製)に埋入し、オルガノイド培養用培地(500μl/ウェル)を入れた48ウェルプレートに播種し、37℃で培養を開始した。各ウェルにおいて、オルガノイドがコンフルエントな状態となった段階で、オルガノイド培養用培地を用いて継代培養を行った。いずれの組織から得られた細胞について、良好にオルガノイドが形成された。
【0046】
用いたオルガノイド培養用培地の組成を表2に示す。用いた各成分の詳細は以下のとおりである。
アドバンスト-DMEM/F12:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製
Glutamax:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製
HEPES:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製
ペニシリン/ストレプトマイシン:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製
R-スポンジン1(Rspo1):Rspo1産生株からの10%条件培地
N-2 supplement:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製
B-27 supplement:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製
N-アセチルシステイン(NAC):シグマ アルドリッチ社製
ガストリン:シグマ アルドリッチ社製
ニコチンアミド:シグマ アルドリッチ社製
上皮成長因子(EGF):サーモフィッシャーサイエンティフィック社製
Y-27632:WAKO社製
A83-01:Tocris社製
フォルスコリン:Tocris社製
【0047】
【表2】
【0048】
<オルガノイドを用いた薬剤スクリーニング>
上記で得られたオルガノイドを用いて、化合物ライブラリー(東京大学創薬機構より提供)から得られた各種薬剤による癌細胞増殖抑制効果を評価した。なお、スクリーニング対象である薬剤としては、臨床的に用いられているものを339種類使用した。
【0049】
各オルガノイドから得られた細胞を、1.2×10個/ウェルとなるように、オルガノイド培養用培地(500μl/ウェル)を入れた48ウェルプレートに播種し、37℃で4日間培養した。培養後、最終濃度が0.1μMとなるように薬剤を添加し、さらに6日間培養した。また、対照試験として、薬剤の代わりに0.1% ジメチルスルホキシド(DMSO)の存在下での培養を行った。得られた各培養物を用いて、以下のWSTアッセイを行い、細胞の生存率を測定した。
【0050】
(WSTアッセイ)
市販のキット(商品名「the Cell Counting Kit-8」、株式会社 同仁化学研究所製)を用いて、各培養物中の細胞の生存率を測定した。対照として、を用いた。測定は各試料につき3回行った。
【0051】
対照試験における生存率の平均値Cに対する、各試料の存在下での細胞の生存率の平均値Sの値(S/C)が0.5以下である場合、該試料に添加した薬剤の癌細胞増殖抑制効果が顕著であると判定した。
【0052】
(スクリーニング結果)
上記WSTアッセイの結果、表3に示す21種類の薬剤について、癌細胞増殖抑制効果が顕著であると判定された。
【0053】
【表3】
【0054】
表3に示されるとおり、意外にも、抗真菌剤であるアモロルフィン、フェンチコナゾール、及びイトラコナゾール、並びに、HMG-CoA還元酵素阻害剤であるセリバスタチンは、既に確立された抗癌剤と同等の癌細胞増殖抑制効果を示した。
【0055】
アモロルフィン、セリバスタチン、及びイトラコナゾールについて、添加濃度を変えて、上記同様にWSTアッセイを行った。その結果を図1及び2に示す。図1中、(A)はアモロルフィンを用いた結果、(B)はセリバスタチンを用いた結果を示す。図2中、(A)はイトラコナゾールを用いた結果、(B)はアモロルフィンを用いた結果を示す。
【0056】
なお、図1及び2中、「細胞の生存率」は、薬剤の添加濃度が「0μM」であるとき、又は「DMSO」を用いたとき(つまり、薬剤が含まれていない場合)の結果を「1」とした場合の相対値として示した。したがって、細胞の生存率の値が低いほど、癌細胞増殖抑制効果が高いことを意味する。
【0057】
図1及び2に示されるとおり、アモロルフィン、セリバスタチン、及び、イトラコナゾールのいずれも、濃度依存的に癌細胞増殖抑制効果を示した。この結果から、これらの薬剤が、癌(特に、胆道癌又は膵臓癌)の治療に効果的であることが示唆された。
図1
図2