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特許7519683アルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】アルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理液
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/18 20060101AFI20240712BHJP
【FI】
C25D11/18 301F
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020552970
(86)(22)【出願日】2019-09-13
(86)【国際出願番号】 JP2019036131
(87)【国際公開番号】W WO2020080009
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-09-22
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-22
(31)【優先権主張番号】P 2018196367
(32)【優先日】2018-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】保田 徳
(72)【発明者】
【氏名】久本 晴加
(72)【発明者】
【氏名】山口 佑也
(72)【発明者】
【氏名】原 健二
(72)【発明者】
【氏名】田中 克幸
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】井上 猛
【審判官】佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-502703(JP,A)
【文献】特開2014-223081(JP,A)
【文献】特表2013-516960(JP,A)
【文献】特開2009-079052(JP,A)
【文献】国際公開第2013/151081(WO,A1)
【文献】特開2012-196205(JP,A)
【文献】特開平06-257062(JP,A)
【文献】特開2009-179571(JP,A)
【文献】特開昭55-038998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理液であって、
前記封孔処理液は増粘多糖類を含有し、
前記増粘多糖類は、
アラビアガム、アラビノガラクタン、カラヤガム、ガティガム、及び、トラガントガムからなる群より選択される少なくとも1種である樹液に存在する多糖類;
アマシードガム、カシアガム、カロブビーンガム、ローカストビーンガム、グァーガム、サイリウムシードガム、サバクヨモギシードガム、タマリンドシードガム、タラガム、セスバニアガム、及び、ダイズ多糖類からなる群より選択される少なくとも1種である豆類の種子に存在する多糖類;
アルギン酸、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、カラギナン、フクロノリ抽出物、ファーセラン、海藻セルロース、及び、褐藻抽出物からなる群より選択される少なくとも1種である海藻中に存在する多糖類;
アロエベラ抽出物、キダチアロエ抽出物、ペクチン、オクラ抽出物、コンニャクイモ抽出物、及び、サツマイモセルロースからなる群より選択される少なくとも1種である果実類、葉、又は地下茎に存在する多糖類;
アエロモナスガム、アグロバクテリウムスクシノグリカン、ウェランガム、カードラン、キサンタンガム、ジェランガム、スクレロガム、デキストラン、プルラン、マクロホモプシスガム、及び、ラムザンガムからなる群より選択される少なくとも1種である微生物の発酵産生物;並びに、
オリゴグルコサミン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キチン、キトサン、グルコサミン、デンプングリコール酸ナトリウム、グルテン、グルテン分解物、及び、マンナンからなる群より選択される少なくとも1種の成分;
からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記封孔処理液中の前記増粘多糖類の含有量は、0.1 g/L~50 g/Lであり、
前記封孔処理液のpHは、2.0~9.0である、
ことを特徴とする封孔処理液。
【請求項2】
前記封孔処理液は、ニッケル化合物を含まない、請求項1に記載の封孔処理液。
【請求項3】
アルミニウム合金の封孔処理を行う為の陽極酸化皮膜用染料定着処理液であって、
前記アルミニウム合金の陽極酸化皮膜は、染色処理された皮膜であり、
前記染料定着処理液は増粘多糖類を含有し、
前記増粘多糖類は、
アラビアガム、アラビノガラクタン、カラヤガム、ガティガム、及び、トラガントガムからなる群より選択される少なくとも1種である樹液に存在する多糖類;
アマシードガム、カシアガム、カロブビーンガム、ローカストビーンガム、グァーガム、サイリウムシードガム、サバクヨモギシードガム、タマリンドシードガム、タラガム、セスバニアガム、及び、ダイズ多糖類からなる群より選択される少なくとも1種である豆類の種子に存在する多糖類;
アルギン酸、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、カラギナン、寒天、フクロノリ抽出物、ファーセラン、海藻セルロース、及び、褐藻抽出物からなる群より選択される少なくとも1種である海藻中に存在する多糖類;
アロエベラ抽出物、キダチアロエ抽出物、ペクチン、オクラ抽出物、コンニャクイモ抽出物、及び、サツマイモセルロースからなる群より選択される少なくとも1種である果実類、葉、又は地下茎に存在する多糖類;
アエロモナスガム、アグロバクテリウムスクシノグリカン、ウェランガム、カードラン、キサンタンガム、ジェランガム、スクレロガム、デキストラン、プルラン、マクロホモプシスガム、及び、ラムザンガムからなる群より選択される少なくとも1種である微生物の発酵産生物;並びに、
オリゴグルコサミン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キチン、キトサン、グルコサミン、デンプングリコール酸ナトリウム、グルテン、グルテン分解物、及び、マンナンからなる群より選択される少なくとも1種の成分;
からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記染料定着処理液中の前記増粘多糖類の含有量は、0.1 g/L~50 g/Lであり、
前記染料定着処理液のpHは、2.0~6.0である、 ことを特徴とする染料定着処理液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理液に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金の陽極酸化皮膜には、汚れ防止、耐食性の向上等を達成する為、封孔処理を施すのが一般的である。封孔処理方法として、沸騰水封孔、水蒸気封孔、常温封孔、酢酸ニッケル水溶液を用いて封孔処理を行う酢酸ニッケル封孔等が知られている。
【0003】
例えば、酢酸ニッケル封孔は、沸騰水封孔に比べて皮膜の耐食性が得られ易く、水蒸気封孔に比べて作業効率に優れており、常温封孔に比べて液管理がし易い等の理由により、特に用いられている。しかし、ニッケルアレルギーや微粉末性のニッケル塩の有毒性が問題になっていることから、陽極酸化皮膜を製造する際に、ニッケル塩を用いない封孔処理方法として、酢酸ニッケル封孔と同程度の耐食性、封孔度等の封孔性能を発揮することが求められている。
【0004】
特許文献1は、本出願人の技術であり、アルカリ金属塩、pH緩衝剤及び界面活性剤を含有するアルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理液である。この封孔処理液を用いると、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜に対して、ニッケル塩を含有する封孔処理液を用いた場合と同程度の封孔性能を付与することができ、且つ、優れた耐汚染性を付与することができる。
【0005】
特許文献2は、陽極酸化されたアルミニウム表面に、光照射エネルギーの照射によって、活性化する無機物又は有機物、又は遊離してイオン化する錯体を用いて、封孔処理する方法を記載している。この技術では、pb(CH3COO)2及びNiSO4を封孔処理剤として使用した場合の結果しか得られていない。
【0006】
特許文献3は、アルミニウム基板に親水膜(陽極酸化皮膜)を形成し、これを封孔処理しても良いことを記載している。この技術では、粒子を用いた封孔処理として、ケイ酸ナトリウム水溶液を使用した場合の例しか記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開番号WO2017/170370A1
【文献】特公昭61-027476(特開昭54-104463)
【文献】特開2003-034090
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、新規なアルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理液を提供することを目的とする。
【0009】
本発明は、封孔処理液に増粘多糖類を配合することで、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜に対して、良好に封孔性能を付与することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、増粘多糖類を含有するアルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理液を用いると、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の封孔処理液を用いると、ニッケル塩を含有せずとも、ニッケル塩を含有する封孔処理液を用いた場合と同程度で、封孔性能を付与することができる。本発明の封孔処理液を用いると、その封孔処理された陽極酸化皮膜は、優れた耐汚染性、染料定着性及び優れた染色外観を示すことができる。
【0012】
即ち、本発明は、下記のアルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理液、及び封孔処理方法に関する。
【0013】
項1.
アルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理液であって、
増粘多糖類を含有することを特徴とする封孔処理液。
【0014】
項2.
前記増粘多糖類は、
樹液に存在する多糖類;
豆類の種子に存在する多糖類;
海藻中に存在する多糖類;
果実類、葉、及び地下茎に存在する多糖類;
微生物の発酵産生物;並びに、
オリゴグルコサミン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、微小繊維状セルロース、キチン、キトサン、グルコサミン、デンプングリコール酸ナトリウム、グルテン、グルテン分解物、及び、マンナンからなる群より選択される成分;
からなる群より選択される少なくとも1種である、前記項1に記載の封孔処理液。
【0015】
項3.
前記増粘多糖類は、樹液に存在する多糖類であり、アラビアガム、アラビノガラクタン、カラヤガム、ガティガム、及び、トラガントガムからなる群より選択される少なくとも1種である、前記項1に記載の封孔処理液。
【0016】
項4.
前記増粘多糖類は、豆類の種子に存在する多糖類であり、アマシードガム、カシアガム、カロブビーンガム(ローカストビーンガム)、グァーガム、サイリウムシードガム、サバクヨモギシードガム、タマリンドシードガム、タラガム、セスバニアガム、及び、ダイズ多糖類からなる群より選択される少なくとも1種である、前記項1に記載の封孔処理液。
【0017】
項5.
前記増粘多糖類は、海藻中に存在する多糖類であり、アルギン酸、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、カラギナン、寒天、フクロノリ抽出物、ファーセラン、海藻セルロース、及び、褐藻抽出物からなる群より選択される少なくとも1種である、前記項1に記載の封孔処理液。
【0018】
項6.
前記増粘多糖類は、果実類、葉、地下茎に存在する多糖類であり、アロエベラ抽出物、キダチアロエ抽出物、ペクチン、オクラ抽出物、コンニャクイモ抽出物、及び、サツマイモセルロースからなる群より選択される少なくとも1種である、前記項1に記載の封孔処理液。
【0019】
項7.
前記増粘多糖類は、微生物の発酵産生物であり、アエロモナスガム、アグロバクテリウムスクシノグリカン、ウェランガム、カードラン、キサンタンガム、ジェランガム、スクレロガム、デキストラン、プルラン、マクロホモプシスガム、及び、ラムザンガムからなる群より選択される少なくとも1種である、前記項1に記載の封孔処理液。
【0020】
項8.
前記増粘多糖類は、オリゴグルコサミン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、微小繊維状セルロース、キチン、キトサン、グルコサミン、デンプングリコール酸ナトリウム、グルテン、グルテン分解物、及び、マンナンからなる群より選択される少なくとも1種である、前記項1に記載の封孔処理液。
【0021】
項9.
前記封孔処理液中の前記増粘多糖類の含有量は、0.1 g/L~50 g/Lである、前記項1~8のいずれかに記載の封孔処理液。
【0022】
項10.
pHは、2.0~9.0である、前記項1~9のいずれかに記載の封孔処理液。
【0023】
項11.
ニッケル化合物を含まない、前記項1~10のいずれかに記載の封孔処理液。
【0024】
項12.
アルミニウム合金の陽極酸化皮膜の封孔処理方法であって、
前記項1~11のいずれかに記載の封孔処理液を用い、
当該アルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理液中に、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜を有する物品を浸漬する工程を有する、
ことを特徴とする封孔処理方法。
【0025】
項13.
前記封孔処理液の液温は、80℃~98℃である、前記項12に記載の封孔処理方法。
【0026】
項14.
前記項12又は13に記載の封孔処理方法により封孔処理された物品。
【0027】
項15.
アルミニウム合金の陽極酸化皮膜用染料定着処理液であって、
前記アルミニウム合金の陽極酸化皮膜は、染色処理された皮膜であり、
増粘多糖類を含有することを特徴とする染料定着処理液。
【発明の効果】
【0028】
本発明の封孔処理液は増粘多糖類を含有しており、これを用いると、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜に対して、良好に封孔性能を付与することができる。
【0029】
本発明の封孔処理液は、ニッケル塩を含有する封孔処理液を用いた場合と同程度で、封孔性能を良好に付与することができる。
【0030】
本発明の封孔処理液は、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜に対して、優れた耐汚染性、染料定着性及び優れた染色外観を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0032】
1.封孔処理液
本発明は、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理液(以下「封孔処理液」とも記す)であって、増粘多糖類を含有する、ことを特徴とする封孔処理液である。
【0033】
本発明の封孔処理液を用いると、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜に対して、ニッケル塩を含有せずとも、ニッケル塩を含有する封孔処理液を用いた場合と同程度で、封孔性能を付与することができる。本発明の封孔処理液は、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜に対して、優れた耐汚染性、染料定着性及び優れた染色外観を付与することができる。
【0034】
(1)増粘多糖類
本発明の封孔処理液は、増粘多糖類を含有することを特徴とする。
【0035】
本発明の封孔処理液では、前記増粘多糖類は、
樹液に存在する多糖類;
豆類の種子に存在する多糖類;
海藻中に存在する多糖類;
果実類、葉、及び地下茎に存在する多糖類;
微生物の発酵産生物;並びに、
オリゴグルコサミン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、微小繊維状セルロース、キチン、キトサン、グルコサミン、デンプングリコール酸ナトリウム、グルテン、グルテン分解物、及び、マンナンからなる群より選択される成分;
からなる群より選択される少なくとも1種である、ことが好ましい。
【0036】
本発明の封孔処理液では、前記増粘多糖類は、樹液に存在する多糖類であり、アラビアガム、アラビノガラクタン、カラヤガム、ガティガム、及び、トラガントガムからなる群より選択される少なくとも1種である、ことが好ましい。
【0037】
本発明の封孔処理液では、前記増粘多糖類は、豆類の種子に存在する多糖類であり、アマシードガム、カシアガム、カロブビーンガム(ローカストビーンガム)、グァーガム、サイリウムシードガム、サバクヨモギシードガム、タマリンドシードガム、タラガム、セスバニアガム、及び、ダイズ多糖類からなる群より選択される少なくとも1種である、ことが好ましい。
【0038】
本発明の封孔処理液では、前記増粘多糖類は、海藻中に存在する多糖類であり、アルギン酸、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、カラギナン、寒天、フクロノリ抽出物、ファーセラン、海藻セルロース、及び、褐藻抽出物からなる群より選択される少なくとも1種である、ことが好ましい。
【0039】
本発明の封孔処理液では、前記増粘多糖類は、果実類、葉、地下茎に存在する多糖類であり、アロエベラ抽出物、キダチアロエ抽出物、ペクチン、オクラ抽出物、コンニャクイモ抽出物、及び、サツマイモセルロースからなる群より選択される少なくとも1種である、ことが好ましい。
【0040】
本発明の封孔処理液では、前記増粘多糖類は、微生物の発酵産生物であり、アエロモナスガム、アグロバクテリウムスクシノグリカン、ウェランガム、カードラン、キサンタンガム、ジェランガム、スクレロガム、デキストラン、プルラン、マクロホモプシスガム、及び、ラムザンガムからなる群より選択される少なくとも1種である、ことが好ましい。
【0041】
本発明の封孔処理液では、前記増粘多糖類は、オリゴグルコサミン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、微小繊維状セルロース、キチン、キトサン、グルコサミン、デンプングリコール酸ナトリウム、グルテン、グルテン分解物、及び、マンナンからなる群より選択される少なくとも1種である、ことが好ましい。
【0042】
本発明の封孔処理液では、前記増粘多糖類は、一種単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0043】
本発明の封孔処理液では、封孔処理液中の前記増粘多糖類の含有量は、0.1 g/L~50 g/Lである、ことが好ましい。本発明の封孔処理液では、前記封孔処理液中の前記増粘多糖類の含有量は、0.5 g/L~25 g/L程度である、ことがより好ましく、1 g/L~10 g/L程度である、ことが更に好ましい。
【0044】
本発明の封孔処理液は増粘多糖類を含有しており、これを用いると、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜に対して、良好に封孔性能を付与することができる。本発明の封孔処理液は、ニッケル塩を含有する封孔処理液を用いた場合と同程度で、封孔性能を良好に付与することができる。本発明の封孔処理液は、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜に対して、優れた耐汚染性、染料定着性及び優れた染色外観を付与することができる。
【0045】
(2)pH調整剤
本発明の封孔処理液は、封孔性能及び耐汚染性を向上させる為に、また液の使用実用性を向上させる為に、必要に応じてpH調整剤を含んでも良い。
【0046】
本発明の封孔処理液では、pH調整剤は特に限定されず、従来公知のpH調整剤を用いることができる。
【0047】
本発明の封孔処理液では、封孔処理液を酸性側に調整する為のpH調整剤として、例えば、酢酸、スルファミン酸、硫酸、硝酸、有機スルホン酸等、これらの希釈水溶液を用いることが好ましい。これらの中でも、封孔性能に優れる点で、酢酸又はこのこれらの希釈水溶液を用いることが好ましい。
【0048】
本発明の封孔処理液では、封孔処理液をアルカリ性側に調整する為のpH調整剤として、例えば、アンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等を用いることが好ましい。これらの中でも、封孔性能に優れる点で、水酸化ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。
【0049】
本発明の封孔処理液では、pH調整剤は、一種単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0050】
本発明の封孔処理液では、封孔処理液中のpH調整剤の濃度は、液のpHを調整できれば良く、0.1g/L~20g/L程度が好ましく、0.2g/L~10g/L程度がより好ましく、0.3g/L~5g/L程度が更に好ましい。
【0051】
本発明の封孔処理液は、pH調整剤を含むことで、封孔処理液が十分な封孔性能を示すことができ、封孔処理液により封孔処理された陽極酸化皮膜の封孔度の低下を抑制することができる。
【0052】
(3)その他の成分
本発明の封孔処理液では、封孔性能及び耐汚染性を向上させる為に、また液の使用実用性を向上させる為に、必要に応じて添加剤を含んでも良い。
【0053】
添加剤として、例えば、安息香酸、安息香酸塩等の防カビ剤;クエン酸、クエン酸塩等の錯化剤等が挙げられる。防カビ剤としては市販の防カビ剤、例えば「TACカビコロン」(奥野製薬工業株式会社製)を添加しても良い。
【0054】
本発明の封孔処理液は、封孔性能及び耐汚染性を向上させる為に、また液の使用実用性を向上させる為に、必要に応じてpH緩衝剤、金属塩等を含んでも良い。
【0055】
(4)封孔処理液のpH
本発明の封孔処理液のpHは、2.0~9.0である、ことが好ましい。封孔処理液のpHは、3.0~7.0程度であることがより好ましく、4.5~6.5程度であることが更に好ましい。
【0056】
本発明の封孔処理液は、pHが2.0~9.0であることで、封孔処理液が十分な封孔性能を示すことができ、封孔処理液により封孔処理されたアルミニウム合金の陽極酸化皮膜が耐汚染性、染料定着性及び優れた染色外観を十分に示すことができ、且つ、被処理物の表面に粉状付着物が付着する外観不良(粉吹き、カブリ)が抑制される。
【0057】
(5)含まないことが好ましい成分
本発明の封孔処理液は、ニッケル系金属塩を、含まないこと、或いは、実質的に含まないことが好ましい。ニッケル系金属塩等の金属塩として、Ni、Co等の金属塩が挙げられる。
【0058】
近年、ニッケルアレルギーや微粉末性のニッケル塩の有毒性が問題になっているので、封孔処理液には、ニッケル系金属塩を用いない封孔処理方法においても、酢酸ニッケル封孔と同程度の耐食性、封孔度等の封孔性能を有する陽極酸化皮膜を製造することが望まれている。
【0059】
本発明の封孔処理液は、フッ素化合物又はフッ素イオンを含まないこと、或いは、実質的に含まないことが好ましい。フッ素イオンのイオン源として、フッ化水素、フッ化アンモニウム、酸性フッ化アンモニウム、フッ化カリウム、酸性フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、酸性フッ化ナトリウム、フッ化コバルト、ジルコンフッ化アンモニウム、ホウフッ化物等のフッ素化合物が挙げられる。
【0060】
フッ素によるアルミニウム合金及び陽極酸化皮膜の過剰溶解によって、染料定着性や染色外観が低下するという理由が有るので、フッ素化合物又はフッ素イオンを用いない封孔処理方法によって、耐食性、封孔度等の封孔性能を有する陽極酸化皮膜を製造することが望まれている。
【0061】
本発明の封孔処理液は、重金属を含まないこと、或いは、実質的に含まないことが好ましい。重金属として、クロム、マンガン等の重金属が挙げられる。
【0062】
封孔処理液に重金属が含まれると、その封孔処理液で処理された物品の表面に重金属が付着する可能性があり、例えばクロムであれば人体への害が懸念される。また、近年、処理液の排水における環境規制が進行しており、製造面でのコストアップや作業性の低下が懸念されるため、重金属を用いない封孔処理方法によって、耐食性、封孔度等の封孔性能を有する陽極酸化皮膜を製造することが望まれている。
【0063】
2.封孔処理方法
本発明は、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜の封孔処理方法であって、
前述の増粘多糖類を含有する記載の封孔処理液を用い、
当該封孔処理液中に、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜を有する物品を浸漬する工程を有する、ことを特徴とする封孔処理方法である。
【0064】
浸漬方法として、特に限定されず、従来公知の方法により浸漬すればよい。
【0065】
本発明の封孔処理液は増粘多糖類を含有しており、これを用いて、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜の封孔処理を行うと、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜に対して、良好に封孔性能を付与することができる。本発明の封孔処理方法は、ニッケル塩を含有する封孔処理液を用いた場合と同程度で、封孔性能を良好に付与することができる。本発明の封孔処理法法は、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜に対して、優れた耐汚染性、染料定着性及び優れた染色外観を付与することができる。
【0066】
本発明の封孔処理方法では、封孔処理液のpHは2.0~9.0である、ことが好ましい。本発明の封孔処理方法では、封孔処理液の液温(浴温)は80℃~98℃である、ことが好ましい。
【0067】
(1)封孔処理液の液温
本発明の封孔処理方法では、浸漬する工程で、封孔処理液の液温(浴温)は、80℃~98℃程度であることが好ましい。封孔処理液の液温(浴温)は、92℃~98℃程度であることがより好ましく、95℃~98℃程度であることが更に好ましい。
【0068】
封孔処理方法において、封孔処理液の温度を調整することで、十分な封孔性能を示すことができる。
【0069】
(2)封孔処理液のpH
本発明の封孔処理方法では、封孔処理液のpHは2.0~9.0である、ことが好ましい。本発明の封孔処理方法では、封孔処理液のpHは、3.0~7.0程度であることがより好ましく、4.5~6.5程度であることが更に好ましい。
【0070】
封孔処理方法において、封孔処理液のpHを調整することで、封孔処理液が十分な封孔性能を示すことができ、被処理物の表面に粉状付着物が付着する外観不良(粉吹き、カブリ)が抑制される。
【0071】
(3)封孔処理の時間
封孔処理時間は、通常、処理対象とする陽極酸化皮膜の膜厚により決定することができる。封孔処理時間は、通常、3分~1時間程度の時間で調整することが好ましい。
【0072】
例えば、処理対象とする陽極酸化皮膜の膜厚を示す数(μm)に、0.1~10を乗じて得られる数を封孔処理時間(分)とすることが好ましい。更に、膜厚を示す数(μm)に、0.2~5を乗じて得られる数を封孔処理時間(分)とすることがより好ましく、膜厚を示す数(μm)に、0.5~4を乗じて得られる数を封孔処理時間(分)とすることが更に好ましい
【0073】
例えば、陽極酸化皮膜の膜厚が10μmであるならば、浸漬時間は、10に0.2~5を乗じて、2~50分程度とすることが好ましい。
【0074】
封孔処理方法において、封孔処理時間を調整することで、封孔処理液が十分な封孔性能を示すことができ、封孔処理液により封孔処理されたアルミニウム合金の陽極酸化皮膜が耐汚染性を十分に示すことができ、粉吹き、カブリ等の外観不良による、被処理物の外観の低下を抑制することができる。
【0075】
(4)封孔処理の方法
本発明の封孔処理方法では、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜を有する物品を被処理物として用い、封孔処理液中に被処理物を浸漬すれば良い。必要に応じて、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜を有する物品に電解着色、染色等を施した後、十分に水洗を行い、封孔処理液中に被処理物を浸漬しても良い。これにより、被処理物のアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の封孔性能を大きく向上させることができる。
【0076】
本発明の封孔処理方法の浸漬する工程では、封孔処理液を撹拌しながらアルミニウム合金の陽極酸化皮膜を有する物品を浸漬してもよい。撹拌方法として、循環攪拌、空気攪拌、ガス撹拌、揺動撹拌等を好適に採用することができる。撹拌方法の中でも、循環攪拌、ガス撹拌が好ましく、循環攪拌がより好ましい。そのガス撹拌としては、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスを用いたガス撹拌を好適に採用することができる。
【0077】
本発明の封孔処理方法では、撹拌方法として、循環攪拌が好ましい。設備上空気攪拌を行うことが必要な場合、不活性ガスを用いたガス撹拌を行うことが、封孔処理液の濁りを抑制することができる点で好ましい。
【0078】
本発明の封孔処理方法は、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理液中にアルミニウム合金の陽極酸化皮膜を有する物品を浸漬する工程中に、その封孔処理液中の濁りを除去する濁り除去処理を行ってもよい。また、濁り除去処理は、上記工程中以外の、例えば、物品を陽極酸化皮膜用封孔処理液中に浸漬するまでの待機中や、ラインの休止中に行ってもよい。濁り除去処理を行うことで、濁りに起因する粉吹き、カブリ等の外観不良による、陽極酸化皮膜の外観の低下を抑制することができる。
【0079】
本発明の封孔処理方法は、濁りの除去方法として、特に限定されず、従来公知の除去方法を用いることができる。除去方法として、濾過除去を好適に採用することができる。具体的には、封孔処理を行う槽から薬品補給添加溶解槽であるクッションタンク等の予備タンクに、封孔処理液の一部を流し、封孔処理液の温度を好ましくは50℃以下に冷却し、濾過器を通して濾過を行い、上記封孔処理を行う槽に戻して循環させる濾過除去である。設備にクッションタンクが無い場合、単純濾過循環により濾過除去を行ってもよい。
【0080】
3.染料定着処理液
本発明は、前述の増粘多糖類を含有する封孔処理液を、染料定着処理液として調製することも可能である。つまり、本発明の染料定着処理液は、前述の「1.封孔処理液」に記載した事項を使うことができる。
【0081】
本発明の染料定着処理液は増粘多糖類を含有しており、これを用いると、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜に対して、良好に染料定着性を付与することができ、合わせて封孔性能を付与することができる。
【0082】
染料定着処理液のpH
本発明の染料定着処理液のpHは、2.0~6.0である、ことが好ましい。染料定着処理液のpHは、2.5~5.0程度であることがより好ましく、3.0~4.5程度であることが更に好ましい
【0083】
本発明の染料定着処理液は、pHが2.0~6.0であることで、これを用いると、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜に対して、良好に染料定着性を付与することができ、合わせて封孔性能を付与することができる。本発明の染料定着処理液のpHは、前述の封孔処理液と比べて、やや酸性側に調整することが、良好に染料定着性を付与することができる点で好ましい。
【0084】
4.染料定着処理方法
本発明では、本発明のアルミニウム合金の陽極酸化皮膜に染料を用いて染色を施したもの(染色処理を施したもの)を処理対象としてもよい。染料を用いた染色方法として、従来公知の染料水溶液に陽極酸化皮膜を浸漬する方法を好ましく採用することができる。
【0085】
本発明は、本発明の染料定着処理液(封孔処理液)を用いることで、染料定着処理方法としても有用である。本発明の染料定着処理方法は、アルミニウム合金(又はこれを含む物品)に対して、(1)陽極酸化処理(陽極酸化皮膜の形成)、(2)染色処理、(3)染料定着処理、及び、(4)封孔処理、を順次行うものである。
【0086】
本発明は、アルミニウム合金の染料定着処理及び封孔処理の方法であって、
(1)アルミニウム合金に陽極酸化皮膜を形成する工程、
(2)前記陽極酸化皮膜に染色処理を行う工程、
(3)前記染色処理した陽極酸化皮膜を、染料定着処理液中に浸漬して、染料定着処理を行う工程、及び
(4)前記染料定着処理した陽極酸化皮膜を、封孔処理液中に浸漬して、封孔処理を行う工程、
を有する、ことを特徴とする染料定着処理及び封孔処理の方法である。
【0087】
本発明の染料定着処理及び封孔処理の方法により、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜やアルミニウム合金の陽極酸化皮膜を有する物品に対して、優れた染料定着性を付与することが可能である。
【0088】
本発明の染料定着処理及び封孔処理の方法では、前述の「2.封孔処理方法」に記載した事項を使うことができる。
【0089】
(1)陽極酸化処理
染料定着処理及び封孔処理する対象は、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜、又はアルミニウム合金の陽極酸化皮膜を有する物品である。アルミニウム合金の陽極酸化皮膜を有する物品を被処理物として用い、染料定着処理液中及び封孔処理液中に被処理物を浸漬すれば良い。
【0090】
(2)染色処理
染色処理は、10℃~70℃で行うことが好ましい。
【0091】
染料として、アルミニウム合金陽極酸化皮膜用染料として市販されているものを好ましく用いることができ、例えば、アニオン系染料等を好ましく用いることができる。
【0092】
染料水溶液の温度は、10℃~70℃程度であることが好ましく、20~60℃であることがより好ましい。また、上記染料水溶液中の染料の濃度及び浸漬時間は、要望される染色の色調、色の濃さに応じて適宜設定すればよい。
【0093】
アルミニウム合金の陽極酸化皮膜に染料を用いた染色を施したものを処理対象とする場合、封孔処理液により染料定着性を付与する為に、染色後、封孔処理前に、染料定着処理を施すことが好ましい。
【0094】
(3)染料定着処理
本発明は、前述の増粘多糖類を含有する封孔処理液を、染料定着処理液として調製することも可能である。つまり、本発明の染料定着処理液は、前述の「1.封孔処理液」に記載した事項を使うことができる。
【0095】
本発明の染料定着処理液は増粘多糖類を含有しており、これを用いると、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜に対して、良好に染料定着性を付与することができ、合わせて封孔性能を付与することができる。
【0096】
封孔処理液中のpH緩衝剤及び界面活性剤の種類と配合を調整することで、封孔処理液により染料定着性を付与することも可能である。
【0097】
染料定着処理を行う工程と、以下の工程(4)の封孔処理を行う工程とは、一つの処理であっても良く、つまり一回の処理として行っても良い。本発明では、本発明の封孔処理液を染料定着処理液として用い染料定着処理を行い、次いで、本発明のアルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理液を用いて封孔処理を行っても良い。この場合、それら染料定着処理と封孔処理とを、同じ処理液に調製して、一つの処理で行っても良い。
【0098】
或は、それら染料定着処理と封孔処理とを、別々の処理としても良い。本発明では、染料定着処理に用いる本発明の染料定着処理液と封孔処理に用いる本発明のアルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理液とを、異なる調製(組成)にして、別々の処理として行っても良い。
【0099】
本発明では、本発明の封孔処理液を用いて封孔処理を行う時、染料定着処理は一般に入手できる染料定着液を用いることができる。例えば、染料定着処理剤として、アルミニウム合金陽極酸化皮膜染色工程用に市販されているもの(例えば奥野製薬工業(株)製TAC固着剤-2、TACサンブロック77-5C等)を好ましく用いることができる。
【0100】
本発明では、本発明の封孔処理液を染料定着処理液として用い染料定着処理を行う時、封孔処理は一般に入手できる封孔処理液を用いることができる。
【0101】
例えば、封孔処理剤として、アルミニウム合金陽極酸化皮膜染色工程用に市販されているもの(例えば奥野製薬工業(株)製トップシールNIF、トップNFシールS-205等)を好ましく用いることができる。
【0102】
染料定着処理の液温
染色処理した陽極酸化皮膜を、染料定着処理液中に浸漬して、染料定着処理を行う工程で、染料定着処理液の液温(浴温)は、80℃~98℃程度であることが好ましい。封孔処理液の液温(浴温)は、92℃~98℃程度であることがより好ましく、95℃~98℃程度であることが更に好ましい。
【0103】
染料定着処理方法において、染料定着処理液の温度を調整することで、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜に対して、良好に染料定着性を付与することができ、合わせて封孔性能を付与することができる。
【0104】
染料定着処理液のpH
本発明の染料定着処理液は、pHが2.0~6.0であることで、これを用いると、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜に対して、良好に染料定着性を付与することができ、合わせて封孔性能を付与することができる。
【0105】
染料定着処理の時間
染料定着処理時間は、通常、処理対象とする陽極酸化皮膜の膜厚により決定することができる。染料定着処理時間は、通常、3分~60分間程度の時間で調整することが好ましい。
【0106】
アルミニウム合金の陽極酸化皮膜に対して、良好に染料定着性を付与することができ、合わせて封孔性能を付与することができる。
【0107】
(4)封孔処理
封孔処理は、前述の(3)染料定着処理の後で行われ、前述の「2.封孔処理方法」に記載した事項を使うことができる。
【0108】
5.濃縮液
本発明は、前述の増粘多糖類を含有する封孔処理液及び染料定着処理液を、濃縮液として調製することも可能である。
【0109】
本発明は、前述の増粘多糖類を含有する封孔処理液及び染料定着処理液に含まれる各成分の濃度が高い濃縮液とすることで、運搬及び保存が容易になる。本発明では、その濃縮液を、水等の希釈液で希釈することにより、前述の増粘多糖類を含有する封孔処理液及び染料定着処理液を容易に調製することができる。前記希釈液として、水を用いることが好ましい。
【0110】
本発明の濃縮液は、前述の増粘多糖類を含有する封孔処理液及び染料定着処理液と同一の成分を含有しても良く、それら成分の含有量は異なって良い。本発明の濃縮液を用いて、本発明の前述の増粘多糖類を含有する封孔処理液及び染料定着処理液を調製することできる様に、濃縮液中のそれら成分の含有量を調整すれば良い。
【0111】
本発明の濃縮液に含まれる成分は、本発明の封孔処理液及び染料定着処理液に含まれる増粘多糖類等と同一のものを用いることができる。濃縮液は、前記本発明の封孔処理液及び染料定着処理液を元に調製することも可能である。
【0112】
6.染料定着処理及び封孔処理された物品
本発明は、前述の封孔処理方法により封孔処理された物品である。
【0113】
本発明は、前述の染料定着処理方法により染料定着処理され、前述の封孔処理方法により封孔処理された物品である。
【0114】
染料定着処理及び封孔処理する対象は、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜、又はアルミニウム合金の陽極酸化皮膜を有する物品である。
【0115】
アルミニウム合金の陽極酸化皮膜として、特に限定されず、一般的なアルミニウム合金に硫酸、シュウ酸、リン酸等を用いた公知の陽極酸化法を適用して、その陽極酸化法により得られたアルミニウム合金の陽極酸化皮膜を好ましく用いることができる。
【0116】
アルミニウム合金として、特に限定的ではなく、各種のアルミニウム主体の合金を陽極酸化の対象とすることができる。アルミニウム合金として、JISに規定されているJIS-A 1千番台~7千番台で示される展伸材系合金、AC、ADCの各番程で示される鋳物材、ダイカスト材等を代表とするアルミニウム主体の各種合金群等を好ましく用いることができる。
【0117】
アルミニウム合金に施される陽極酸化法として、例えば、硫酸濃度が100 g/L~400 g/L程度の水溶液を用い、液温を-10℃~30℃程度として、0.5~4A/dm2程度の陽極電流密度で電解を行う方法を好ましく用いることができる。
【0118】
本発明の封孔処理方法では、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜に電解着色を施したものを処理対象としてもよい。
【0119】
電解着色方法として、公知の着色技術の方法を採用できる。例えば、陽極酸化処理を施した後、電解着色浴に浸漬し、二次電解を行うことにより陽極酸化皮膜に着色を施すことができる。電解着色浴として、ニッケル塩-ホウ酸浴、ニッケル塩-スズ塩-硫酸浴等を好ましく用いることができる。
【実施例
【0120】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0121】
以下の製造条件に従って、下記の実施例及び比較例に用いる陽極酸化を施したアルミニウム合金試験片を調製した。
【0122】
1.陽極酸化済試験片の調製
(1)陽極酸化済試験片Aの調製
(染色処理有り)
(1-1)脱脂処理
アルミニウムの試験片を弱アルカリ性脱脂液に3分間浸漬して脱脂した。アルミニウムの試験片はJIS A1050P板材である。弱アルカリ性脱脂液は、奥野製薬工業(株)製トップアルクリーン101(商品名)の30g/L水溶液である。その脱脂の浴温を60℃に設定した。
【0123】
(1-2)陽極酸化処理
次いで、水洗し、硫酸を主成分とする陽極酸化浴で陽極酸化を行った。陽極酸化浴は、遊離硫酸180g/L及び溶存アルミ8g/Lを含む。陽極酸化の条件は、浴温:20±1℃、陽極電流密度:1A/dm2、電解時間:30分間とした。陽極酸化皮膜を、膜厚:約10μmで作製した。得られた陽極酸化皮膜を水洗した。
【0124】
(1-3)染色処理
次いで、染色処理液に50℃で1分浸漬し、水洗して染色処理を行った。染色処理液は、奥野製薬工業(株)製TAC染料TACイエロー203の1g/L液である。
【0125】
これを「陽極酸化済試験片A」という。
【0126】
(2)陽極酸化済試験片Bの調製
(染色処理なし)
(2-1)脱脂処理
アルミニウムの試験片を弱アルカリ性脱脂液に3分間浸漬して脱脂した。アルミニウムの試験片はJIS A1050P板材である。弱アルカリ性脱脂液は、奥野製薬工業(株)製トップアルクリーン101(商品名)の30g/L水溶液である。その脱脂の浴温を60℃に設定した。
【0127】
(2-2)陽極酸化処理
次いで、水洗し、硫酸を主成分とする陽極酸化浴で陽極酸化を行った。陽極酸化浴は、遊離硫酸180g/L及び溶存アルミ8g/Lを含む。陽極酸化の条件は、浴温:20±1℃、陽極電流密度:1A/dm2、電解時間:30分間とした。陽極酸化皮膜を、膜厚:約10μmで作製した。得られた陽極酸化皮膜を水洗し、陽極酸化を施したアルミニウム合金試験片を得た。
【0128】
これを「陽極酸化済試験片B」という。
【0129】
2.染料定着処理及び封孔処理
(1)実施例1~7
封孔処理を行った実施例である。
【0130】
各実施例の封孔処理液を、表1に示す組成で増粘多糖類を配合し、作製した。
【0131】
実施例1では、アラビアガムを5 g/L含み、pHを、pH=5.5に調整した水溶液を作製した。この封孔処理液に、陽極酸化済試験片Aを、30分間の浸漬時間で浸漬して封孔処理を行った。
【0132】
封孔処理液の浴温は、95℃である。
【0133】
実施例2~7では、増粘多糖類として、グァーガム(実施例2)、アルギン酸プロピレングリコールエステル(PGA)(実施例3)、アルギン酸ナトリウム(SA)(実施例4)ペクチン(実施例5)、ジェランガム(実施例6)、及びカルボキシメチルセルロース(CMC)(実施例7)を含み、実施例1と同様に封孔処理液を調整した。
【0134】
ここで、その陽極酸化済試験片Aは染色処理を施しているので、使用した封孔処理液を染料定着処理液と考えて良く、その封孔処理を染料定着処理と考えて良い。
【0135】
(2)実施例8~16
染料定着処理及び封孔処理を行った実施例である。
【0136】
染料定着処理
各実施例の染料定着処理液を、表1に示す組成で増粘多糖類を配合し、作製した。
【0137】
実施例8、16では、アラビアガムを5 g/L含み、pHを、pH=4.0に調整した水溶液を作製した。この染料定着処理液に、陽極酸化済試験片Aを、5分間の浸漬時間で浸漬して染料定着処理を行った。
【0138】
染料定着処理液の浴温は、95℃である。
【0139】
実施例9~14では、増粘多糖類として、グァーガム(実施例9)、アルギン酸プロピレングリコールエステル(PGA)(実施例10)、アルギン酸ナトリウム(SA)(実施例11)ペクチン(実施例12)、ジェランガム(実施例13)、及びカルボキシメチルセルロース(CMC)(実施例14)を含み、実施例8と同様に染料定着処理液を調整した。
【0140】
実施例15では染料定着処理剤として奥野製薬工業(株)製TAC固着剤-2を用いた。
【0141】
封孔処理
各実施例の封孔処理液を、表1に示す組成で増粘多糖類を配合し、作製した。
【0142】
実施例8、15では、アラビアガムを5 g/L含み、pHを、pH=5.5に調整した水溶液を作製した。この封孔処理液に、陽極酸化済試験片Aを、30分間の浸漬時間で浸漬して封孔処理を行った。
【0143】
封孔処理液の浴温は、95℃である。
【0144】
実施例9~14では、増粘多糖類として、グァーガム(実施例9)、アルギン酸プロピレングリコールエステル(PGA)(実施例10)、アルギン酸ナトリウム(SA)(実施例11)ペクチン(実施例12)、ジェランガム(実施例13)、及びカルボキシメチルセルロース(CMC)(実施例14)を含み、実施例1と同様に封孔処理液を調整した。
【0145】
実施例16では封孔処理剤として奥野製薬工業(株)製トップNFシールS-205を用いた。
【0146】
陽極酸化済試験片Aは染色処理を施しており、これに染料定着処理液を用いて染料定着処理を行い、引き続き、封孔処理液を用いて封孔処理を行った。
【0147】
(3)実施例17及び18
封孔処理液では、増粘多糖類として、アラビアガムを1 g/L含有し(実施例17)、又は、10 g/L含有し(実施例18)、実施例1と同様に封孔処理液を調整した。実施例1と同様に封孔処理を行った。
【0148】
(4)実施例19及び20
染料定着処理液では、増粘多糖類として、アラビアガムを1 g/L含有し(実施例19)、又は、10 g/L含有し(実施例20)、実施例8と同様に染料定着処理液を調整した。実施例8と同様に染料定着処理及び封孔処理を行った。
【0149】
(5)実施例21及び22
封孔処理液では、そのpHを、pH=3.5に調整し(実施例21)、又は、pH=6.5に調整し(実施例22)、実施例1と同様に封孔処理液を調整した。実施例1と同様に封孔処理を行った。
【0150】
(6)実施例23
封孔処理では、封孔処理液の浴温を80℃に調整し、実施例1と同様に封孔処理を行った。
【0151】
(7)実施例24
封孔処理では、封孔処理液に、陽極酸化済試験片B(染色処理無し)を浸漬して封孔処理を行い、実施例1と同様にして、封孔処理を行った。
【0152】
(8)実施例25
染料定着処理及び封孔処理では、染料定着処理液及び封孔処理液に、陽極酸化済試験片B(染色処理無し)を浸漬して染料定着処理及び封孔処理を行い、実施例8と同様にして、染料定着処理及び封孔処理を行った。
【0153】
(9)比較例1及び2
比較例1では、陽極酸化済試験片Aを、沸騰水封孔(イオン交換水)に、95℃(浴温)で30分(浸漬時間)浸漬して、封孔処理を行った。
【0154】
比較例2では、陽極酸化済試験片Aを、酢酸ニッケル系封孔剤(奥野製薬工業(株)製トップシールH-298(商品名))を40 mL/L含み、pH=5.5の水溶液からなる封孔処理液(浴温95℃)に浸漬して、封孔処理を行った。
【0155】
(10)染料定着処理及び封孔処理
実施例及び比較例では、各陽極酸化済試験片に、染料定着処理液及び封孔処理を行った直後、水道水で1分間流水水洗を行った。次いで、陽極酸化済試験片をドライヤーで乾燥した後、一夜室温環境下で放置して、染料定着処理液及び封孔処理後の陽極酸化済試験片を調製した。
【0156】
3.評価試験
実施例で調製した封孔処理後の陽極酸化済試験片について、次の試験方法により評価を行った。
【0157】
(1)封孔度
JIS H 8683-2:1999(アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の封孔度試験方法 第2部:リン酸-クロム酸水溶液浸漬試験)に準拠して、封孔処理後の各試験片をリン酸-クロム酸水溶液に浸漬し、単位面積あたりの試験片の質量減少を測定した。
【0158】
下記評価基準に従って評価した。
◎:減少重量が10.0 mg/dm2以下である。
○:減少重量が15.0 mg/dm2以下である。
△:減少重量が20.0 mg/dm2以下である。
×:減少重量が20.0 mg/dm2以上である。
【0159】
評価では、○評価であれば実使用において問題無いと評価できる。
【0160】
(2)耐汚染性
(マジックテスト:付着汚れ除去性試験)
封孔処理後の各試験片を室温にて1日放置し、表面に油性黒マジックインクにてマークを記入し、30秒静置した。次いで、水を染み込ませたボックスティシュにより拭き取りを行った。
【0161】
下記評価基準に従って評価した。
◎:完全にマークを除去できる。
○:マークを除去できるが、若干跡が残る。
△:部分的にしかマークが除去できない。
×:マークの黒色が取れない。
【0162】
評価では、○評価であれば実使用において問題無いと評価できる。
【0163】
(3)染料定着性
染色処理後と封孔処理後の陽極酸化済試験片の色調(L*、a*、b*)を測定し、それらの値から色差(ΔE*ab)を算出した。L*、a*、b*値の測定は、分光測定計CA-3700A(コニカミノルタ株式会社製)を用いて行った。
【0164】
基準色を染色処理後の色調(L*1,a*1,b*1)、比較色を封孔処理後の色調(L*2,a*2,b*2)とすると、色差の計算式は以下の通りである。
【0165】
【化1】
【0166】
下記評価基準に従って評価した。
◎:ΔE*abが1.0以下である。
○:ΔE*abが3.0以下である。
△:ΔE*abが5.0以下である。
×:ΔE*abが5.0以上である。
【0167】
評価では、○評価であれば実使用において問題無いと評価できる。
【0168】
(4)外観評価
封孔処理を行った陽極酸化済試験片の表面の粉吹き、カブリ、又はそれらによる干渉膜虹の発生状態を目視で観察した。
【0169】
下記評価基準に従って評価した。
◎:粉吹き、カブリ、又はそれらによる干渉膜虹が全く発生しておらず、外観が良好である。
○:粉吹き、カブリ、又はそれらによる干渉膜虹が若干発生しているが、外観に問題がない程度である。
△:粉吹き、カブリ、又はそれらによる干渉膜虹が発生しており、軽度の外観不良が生じている。
×:粉吹き、カブリ、又はそれらによる干渉膜虹が強く発生しており、重度の外観不良が生じている。
【0170】
結果を表1及び2に示す。
【0171】
(5)表1の略記
PGA:アルギン酸プロピレングリコールエステル
SA:アルギン酸ナトリウム
CMC:カルボキシメチルセルロース
【0172】
【表1】
【0173】
【表2】
【0174】
表1及び2から、本発明の封孔処理液(実施例)は、増粘多糖類を配合することで、これを用いると、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜に対して、良好に封孔性能を付与することができた。本発明の封孔処理液は、ニッケル塩を含有する封孔処理液を用いた場合と同程度で、封孔性能を良好に付与することができた。本発明の封孔処理液は、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜に対して、優れた耐汚染性、染料定着性及び優れた染色外観を付与することができた。
【0175】
表1及び2から、本発明の封孔処理液(実施例)は、増粘多糖類を配合することで、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜に対して、優れた染料定着性を付与することができ、合わせて良好に封孔性能を付与することができた。本発明の封孔処理液は染料定着処理液としても有用であることがわかった。