(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】ロープ検査装置およびロープ検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/08 20060101AFI20240712BHJP
【FI】
G01N3/08
(21)【出願番号】P 2021102578
(22)【出願日】2021-06-21
【審査請求日】2023-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】593126019
【氏名又は名称】高木綱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 敏光
(72)【発明者】
【氏名】森 利昭
【審査官】寺田 祥子
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-121528(JP,U)
【文献】特開平10-221049(JP,A)
【文献】特開昭58-208638(JP,A)
【文献】特開2001-192183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00ー3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロープを繰り出す繰出装置と、
前記ロープを巻き取る巻取装置と、
前記ロープを前記繰出装置から前記巻取装置に向かって搬送する搬送装置と、
搬送経路上の離れた2位置において前記ロープを把持する第1クランプおよび第2クランプと、
前記第1クランプと前記第2クランプとを引き離し、前記ロープ
のうち前記第1クランプと前記第2クランプとの間の測定部分に張力を与える張力付与装置と、
前記第1クランプと前記第2クランプとの間の距離の変化量から、
前記測定部分の伸び量を測定する伸び量測定器と、
前記伸び量測定器の測定値を分析する分析装置と、を備え
、
前記張力付与装置は、一の前記測定部分に与える張力の増減を複数回行ない、
前記分析装置は、2回目以降の張力の増減時の前記測定部分に与えた張力の大きさと伸び量とから、前記測定部分の弾性係数を求める
ことを特徴とするロープ検査装置。
【請求項2】
前記測定部分に張力を与えて伸び量を測定した後、前記ロープを所定距離搬送する単位操作を繰り返し行なう
ことを特徴とする請求項1記載のロープ検査装置。
【請求項3】
把持工程、測定工程および搬送工程を含む単位操作を繰り返し行なう制御装置を備え、
前記把持工程は、前記第1クランプおよび前記第2クランプで前記ロープを把持する工程であり、
前記測定工程は、前記張力付与装置で
前記測定部分に張力を与えるとともに、前記伸び量測定器で
前記測定部分の伸び量を測定する工程であり、
前記搬送工程は、前記第1クランプおよび前記第2クランプを開放し、前記搬送装置で前記ロープを所定距離搬送する工程である
ことを特徴とする請求項1記載のロープ検査装置。
【請求項4】
前記分析装置は、予め記憶された弾性係数と残存強度との関係に基づいて、
前記測定部分の弾性係数から残存強度を求める
ことを特徴とする請求項
1記載のロープ検査装置。
【請求項5】
前記分析装置は、予め記憶された伸び量と残存強度との関係に基づいて、
前記測定部分の伸び量から残存強度を求める
ことを特徴とする請求項
1記載のロープ検査装置。
【請求項6】
把持工程、測定工程および搬送工程を含む単位操作を繰り返し行ない、
前記把持工程は、搬送経路上の離れた2位置に配置された第1クランプおよび第2クランプでロープを把持する工程であり、
前記測定工程は、前記第1クランプと前記第2クランプとを引き離して前記ロープ
のうち前記第1クランプと前記第2クランプとの間の測定部分に張力を与えるとともに、
前記測定部分の伸び量を測定する工程であり、
前記搬送工程は、前記第1クランプおよび前記第2クランプを開放し、前記ロープを所定距離搬送する工程であ
り、
前記測定工程において、一の前記測定部分に与える張力の増減を複数回行ない、2回目以降の張力の増減時の前記測定部分に与えた張力の大きさと伸び量とから、前記測定部分の弾性係数を求める
ことを特徴とするロープ検査方法。
【請求項7】
予め定められた弾性係数と残存強度との関係に基づいて、
前記測定部分の弾性係数から残存強度を求める
ことを特徴とする請求項
6記載のロープ検査方法。
【請求項8】
予め定められた伸び量と残存強度との関係に基づいて、
前記測定部分の伸び量から残存強度を求める
ことを特徴とする請求項
6記載のロープ検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロープ検査装置およびロープ検査方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、ロープの機械的な強度を検査するための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロープを長期間使用すると繊維の疲労により強度が低下する。そこで、ロープの繊維の状態を目視で確認して、摩耗または損傷が見られる場合にロープを廃棄することが行なわれている。しかし、絶縁ロープなど、ロープ芯を外皮で被覆したロープは内部の繊維の状態を目視で確認することができない。このようなロープは端部を切断して数mのサンプルを取り出し、引張試験により残存強度の確認を行なっている。
【0003】
しかし、ロープは数百mの長さを有する場合があり、そのような長尺のロープの端部が最も強度低下しているとは限らない。端部をサンプルとした引張試験ではロープの中間部分が強度低下していてもこれを検知できない。そのため、ロープの全長にわたって強度を確認できる方法が求められている。
【0004】
特許文献1には合成繊維ロープの劣化状態判別方法が開示されている。この方法は、合成繊維ロープに劣化が生じたときに合成繊維ロープの伸び量が増加するという現象に基づいて、合成繊維ロープの劣化状態を判別するものである。具体的には、合成繊維ロープの全体の長さについて、劣化のない初期状態からの伸び量を測定し、伸び量が許容限度を超えた場合に劣化と判断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ロープの使用状態によっては、特定の一部分のみ強度が低下し、他の部分は比較的健全な場合がある。特許文献1の方法はロープ全体の長さの伸び量に基づいて劣化を判断することから、ロープの一部分のみが強度低下している場合にはロープ全体の伸び量が小さく、強度が低下した部分の存在を検知できないことがある。ロープを安全に用いるためには、ロープの全長にわたって局所的な強度をつぶさに検査することが望まれる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、ロープの全長にわたって局所的な強度の検査ができるロープ検査装置およびロープ検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明のロープ検査装置は、ロープを繰り出す繰出装置と、前記ロープを巻き取る巻取装置と、前記ロープを前記繰出装置から前記巻取装置に向かって搬送する搬送装置と、搬送経路上の離れた2位置において前記ロープを把持する第1クランプおよび第2クランプと、前記第1クランプと前記第2クランプとを引き離し、前記ロープのうち前記第1クランプと前記第2クランプとの間の測定部分に張力を与える張力付与装置と、前記第1クランプと前記第2クランプとの間の距離の変化量から、前記測定部分の伸び量を測定する伸び量測定器と、前記伸び量測定器の測定値を分析する分析装置と、を備え、前記張力付与装置は、一の前記測定部分に与える張力の増減を複数回行ない、前記分析装置は、2回目以降の張力の増減時の前記測定部分に与えた張力の大きさと伸び量とから、前記測定部分の弾性係数を求めることを特徴とする。
第2発明のロープ検査装置は、第1発明において、前記測定部分に張力を与えて伸び量を測定した後、前記ロープを所定距離搬送する単位操作を繰り返し行なうことを特徴とする。
第3発明のロープ検査装置は、第1発明において、把持工程、測定工程および搬送工程を含む単位操作を繰り返し行なう制御装置を備え、前記把持工程は、前記第1クランプおよび前記第2クランプで前記ロープを把持する工程であり、前記測定工程は、前記張力付与装置で前記測定部分に張力を与えるとともに、前記伸び量測定器で前記測定部分の伸び量を測定する工程であり、前記搬送工程は、前記第1クランプおよび前記第2クランプを開放し、前記搬送装置で前記ロープを所定距離搬送する工程であることを特徴とする。
第4発明のロープ検査装置は、第1発明において、前記分析装置は、予め記憶された弾性係数と残存強度との関係に基づいて、前記測定部分の弾性係数から残存強度を求めることを特徴とする。
第5発明のロープ検査装置は、第1発明において、前記分析装置は、予め記憶された伸び量と残存強度との関係に基づいて、前記測定部分の伸び量から残存強度を求めることを特徴とする。
第6発明のロープ検査方法は、把持工程、測定工程および搬送工程を含む単位操作を繰り返し行ない、前記把持工程は、搬送経路上の離れた2位置に配置された第1クランプおよび第2クランプでロープを把持する工程であり、前記測定工程は、前記第1クランプと前記第2クランプとを引き離して前記ロープのうち前記第1クランプと前記第2クランプとの間の測定部分に張力を与えるとともに、前記測定部分の伸び量を測定する工程であり、前記搬送工程は、前記第1クランプおよび前記第2クランプを開放し、前記ロープを所定距離搬送する工程であり、前記測定工程において、一の前記測定部分に与える張力の増減を複数回行ない、2回目以降の張力の増減時の前記測定部分に与えた張力の大きさと伸び量とから、前記測定部分の弾性係数を求めることを特徴とする。
第7発明のロープ検査方法は、第6発明において、予め定められた弾性係数と残存強度との関係に基づいて、前記測定部分の弾性係数から残存強度を求めることを特徴とする。
第8発明のロープ検査方法は、第6発明において、予め定められた伸び量と残存強度との関係に基づいて、前記測定部分の伸び量から残存強度を求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1発明によれば、ロープを搬送して測定部分を変更しつつ、測定部分ごとに張力を与えたときの伸び量を測定できる。また、ロープの撚り締りの影響を除去できるので、ロープの弾性係数を精度良く求めることができる。
第2発明によれば、ロープの全長にわたって局所的な伸び量を測定できる。
第3発明によれば、ロープの全長にわたって局所的な伸び量を自動で測定できる。
第4、第5発明のいずれにおいても、ロープの全長にわたって局所的な残存強度を求めることができる。
第6発明によれば、ロープを搬送して測定部分を変更しつつ、測定部分ごとに張力を与えたときの伸び量を測定できる。そのため、ロープの全長にわたって局所的な伸び量を測定できる。また、ロープの撚り締りの影響を除去できるので、ロープの弾性係数を精度良く求めることができる。
第7、第8発明のいずれにおいても、ロープの全長にわたって局所的な残存強度を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係るロープ検査装置の側面図である。
【
図2】図(A)は第1クランプの正面図である。図(B)は図(A)におけるb-b線矢視断面図である。
【
図4】測定フェーズの処理を示すフローチャートである。
【
図5】図(A)はロープの伸び量の測定結果を示すグラフである。図(B)は弾性係数の求め方の説明図である。
【
図6】ロープの局所的な弾性係数の分布を示すグラフである。
【
図7】ロープの局所的な残存強度の分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(ロープ検査装置)
本発明の一実施形態に係るロープ検査装置AAはロープRの機械的な強度を検査するための装置である。ロープ検査装置AAは、とくに、繊維ロープを検査するのに適している。また、検査対象のロープRは外皮を有してもよいし、有さなくてもよい。絶縁ロープなど、ロープ芯を外皮で被覆したロープは、内部の繊維の状態を目視で確認することができない。ロープ検査装置AAはこのような外皮を有するロープの検査にとくに適している。
【0012】
図1に示すように、ロープ検査装置AAは繰出装置11と巻取装置12とを有する。繰出装置11はドラムに巻回されたロープRを繰り出す。ロープRは巻取装置12のドラムに巻き取られる。繰出装置11と巻取装置12との間にはロープRが走行する搬送経路が形成される。
【0013】
ロープRの搬送経路上の巻取装置12近傍には搬送装置13が設けられている。搬送装置13はロープRを繰出装置11から巻取装置12に向かって(
図1における矢印の方向に)搬送する。搬送装置13は、たとえば、ロープRを挟む一対の無端ベルトまたは複数のローラを駆動させロープRに送りをかける装置である。搬送装置13は巻取装置12のドラムを回転させるものでもよい。
【0014】
繰出装置11と搬送装置13との間には台座14が設けられている。台座14の両端に、ロープRを把持する2つのクランプ、すなわち第1クランプ20Aおよび第2クランプ20Bが設けられている。第1クランプ20Aおよび第2クランプ20BはロープRの搬送経路上の離れた2位置に配置されている。具体的には、第1クランプ20Aは上流側の第1位置に配置されており、第2クランプ20Bは下流側の第2位置に配置されている。
【0015】
ロープRのうち第1クランプ20Aおよび第2クランプ20Bの間の部分が強度の測定部分となる。ロープ検査装置AAは測定部分の伸び量に基づき強度を判断する。伸び量を精度良く測定するためには測定部分にある程度の長さを要する。この観点からはロープRの測定部分の長さ(第1クランプ20Aおよび第2クランプ20B間の距離)は1m以上が好ましく、3m以上がより好ましい。また、局所的な強度を検査するという観点からは測定部分が短い方が好ましい。この観点からはロープRの測定部分の長さは10m以下が好ましく、7m以下がより好ましい。
【0016】
第1クランプ20AはロープRの把持および開放が可能な構成であればよい。特に限定されないが、第1クランプ20Aとして
図2(A)および
図2(B)に示す構成のものを採用できる。第1クランプ20Aは台座14に固定されたフレーム21を有する。フレーム21の上部にはシリンダ22のシリンダチューブが固定されている。シリンダ22としては油圧シリンダ、水圧シリンダ、エアシリンダなどを用いることができる。
【0017】
シリンダ22のピストンロッド先端部およびフレーム21の下部には二分割された把持具23a、23bが設けられている。把持具23a、23bは搬送経路上のロープRを上下に挟む位置に配置されている。また、各把持具23a、23bが有する面のうちロープRと対向する面にはロープRの外形に合わせた溝が形成されている。
【0018】
シリンダ22が伸長すると把持具23a、23bが閉じ、把持具23a、23bで挟んでロープRを把持できる。また、シリンダ22が収縮すると把持具23a、23bが開き、ロープRが開放される。なお、ロープRの伸び量を精度良く測定するためには、ロープRに張力を付与した際の把持具23a、23bの滑りが少ない(例えば、1mm以下)ことが好ましい。
【0019】
図3に示すように、第2クランプ20Bは第1クランプ20Aと同様の構成とすることができる。第2クランプ20Bはスライドユニット31に設けられている。スライドユニット31は、レール31aと、レール31aに沿って走行するスライダ31bとを有する。レール31aは台座14に固定されている。スライダ31bに第2クランプ20Bが固定されている。第2クランプ20Bはスライドユニット31によりロープRの搬送方向に沿ってスライド可能となっている。
【0020】
台座14にはシリンダ32のシリンダチューブが固定されている。シリンダ32としては油圧シリンダ、水圧シリンダ、エアシリンダなどを用いることができる。シリンダ32のピストンロッド先端部はロードセル33を介してスライダ31bと連結されている。シリンダ32の伸縮によりスライダ31bおよび第2クランプ20Bがスライドする。
【0021】
シリンダ32を伸長すると、第2クランプ20Bが下流側にスライドする。これにより、第1クランプ20Aと第2クランプ20Bとが引き離される。すなわち、第1クランプ20Aと第2クランプ20Bとの間の距離が長くなる。第1クランプ20Aおよび第2クランプ20Bの両方でロープRを把持したまま両者を引き離すことによりロープRに張力を与えることができる。この際、シリンダ32の押圧力によりロープRに与える張力の大きさを調整できる。また、ロードセル33によりロープRに与えた張力を測定できる。このように、スライドユニット31およびシリンダ32は、ロープRに張力を与える張力付与装置30を構成する。
【0022】
台座14には図示しない支持部材を介して伸び量測定器40が固定されている。伸び量測定器40としてレーザー変位計などを用いることができる。伸び量測定器40としてレーザー変位計を用いる場合、伸び量測定器40は第2クランプ20Bとの間の距離を測定する。これにより第2クランプ20Bがスライドした際の第1クランプ20Aと第2クランプ20Bとの間の距離の変化量を測定できる。第1クランプ20Aおよび第2クランプ20Bの両方でロープRを把持した状態において、第1クランプ20Aと第2クランプ20Bとの間の距離の変化量はロープRの伸び量を意味する。したがって、伸び量測定器40によりロープRの伸び量を測定できる。
【0023】
なお、上記では第1クランプ20Aを固定、第2クランプ20Bを可動としたが、これに限定されない。第1クランプ20Aを可動、第2クランプ20Bを固定としてもよい。第1クランプ20Aおよび第2クランプ20Bの両方を可動としてもよい。張力付与装置30は第1クランプ20Aと第2クランプ20Bとを引き離すことができればよい。伸び量測定器40は第1クランプ20Aと第2クランプ20Bとの間の距離の変化量を測定できればよい。
【0024】
図1に示すように、ロープ検査装置AAは制御装置51を有する。制御装置51は、搬送装置13、第1、第2クランプ20A、20B、張力付与装置30など、ロープ検査装置AAを構成する各種機器の動作を制御する機能を有する。また、制御装置51はロードセル33および伸び量測定器40から測定値を取得する機能を有する。制御装置51はCPU、メモリなどで構成されたコンピュータに特定のソフトウエアをインストールすることで構成される。制御装置51としてPLCなどを用いてもよい。
【0025】
ロープ検査装置AAはさらに分析装置52を有してもよい。分析装置52は伸び量測定器40の測定値を分析するのに用いられる。分析装置52は制御装置51に記憶されたロードセル33および伸び量測定器40の測定値にアクセス可能である。分析装置52はCPU、メモリなどで構成されたコンピュータに分析用のソフトウエアをインストールすることで構成される。なお、制御装置51および分析装置52は物理的に異なる装置としてもよいし、両方の機能を有する単一の装置としてもよい。
【0026】
(ロープ検査方法)
つぎに、ロープ検査装置AAを用いたロープRの検査方法を説明する。
ロープRの検査方法は、測定と分析の2つのフェーズに大別される。以下順に説明する。
【0027】
・測定フェーズ
測定フェーズではロープRの伸び量を測定する。まず、
図1に示すように、検査対象のロープRをロープ検査装置AAにセットする。具体的には、ロープRを繰出装置11のドラムにセットし、第1、第2クランプ20A、20Bおよび搬送装置13に通して、ロープRの始端を巻取装置12のドラムに固定する。その後、
図4に示す手順に沿って測定を行なう。
【0028】
制御装置51は、第1クランプ20Aおよび第2クランプ20Bを閉じ、それらでロープRを把持する(把持工程S1)。ここで、第1クランプ20AでロープRを把持した後、搬送装置13によりたるみが取れる程度の張力でロープRを引っ張った状態にしてから、第2クランプ20BでロープRを把持することが好ましい。そうすれば、第1クランプ20Aおよび第2クランプ20B間のロープRがたるみのない状態となり、ロープRの伸び量を精度良く測定できる。ロープRのうち第1クランプ20Aおよび第2クランプ20B間の部分が伸び量の測定部分となる。
【0029】
つぎに、制御装置51は、張力付与装置30でロープRに張力を与えるとともに、伸び量測定器40でロープRの伸び量を測定する(測定工程S2)。予め定められた大きさの張力をロープRに与えて伸び量を測定してもよいし、予め定められた伸び量となるまでロープRに張力を与えてそのときの張力の大きさを測定してもよい。ただし、ロープRに過度の張力を与えないためには、予め定められた大きさの張力をロープRに与えることが好ましい。この際、ロープRに与える張力の大きさはロープRにダメージを与えない程度に設定することが好ましい。制御装置51は張力の大きさと伸び量の測定値を記憶装置に記憶する。
【0030】
張力付与装置30による張力の付与は1回のみでもよいが、複数回のほうが好ましい。すなわち、ロープRに与える張力の増減を複数回行なうことが好ましい。その理由は後述する。このようにして得られた測定結果の例を
図5(A)に示す。
図5(A)のグラフは、張力を0→6→1→6→1→6→1→6→1→6→0kNと5回増減させたときの伸び量の変化を示す。
【0031】
つぎに、制御装置51は、第1クランプ20Aおよび第2クランプ20Bを開放し、搬送装置13でロープRを所定距離搬送する(搬送工程S3)。所定距離搬送した後に第1クランプ20Aおよび第2クランプ20B間に位置するロープRの一部分が次の測定部分となる。ロープRの搬送距離は、第1クランプ20Aおよび第2クランプ20B間の距離(測定部分の長さ)と同じでもよいし、これより短くてもよいし、長くてもよい。
【0032】
以上の把持工程S1、測定工程S2および搬送工程S3をこの順に行なう操作を「単位操作」という。制御装置51は、ロープRの終端に達するまで、単位操作を繰り返し行なう。端的にいえば、ロープRに張力を与えて伸び量を測定した後、ロープRを所定距離搬送する単位操作を繰り返し行なう。このように、ロープ検査装置AAはロープRを搬送して測定部分を変更しつつ、測定部分ごとに張力を与えたときの伸び量を測定できる。
【0033】
制御装置51は単位操作を行なうたびに、測定部分のロープRの全長における位置(始端からの距離)と紐付けた形で伸び量の測定値を記憶装置に記憶する。したがって、ロープRの全長にわたって局所的な伸び量が自動的に得られる。なお、単位操作で得られる伸び量は測定部分の平均的な伸び量である。したがって、ここでいう「局所的」とは測定部分がロープRの全長からみて局所的という意味である。
【0034】
・分析フェーズ
分析フェーズではロープRの伸び量を分析して強度を推定する。まず、分析装置52は、ロープRに与えた張力の大きさと伸び量とから、ロープRの弾性係数を求める。
【0035】
ロープRの弾性係数E[Pa]は以下の式(1)で得られる。式(1)においてΔTは張力の増加分[N]、ΔLは伸び量の増加分[m]、Lは測定部分の長さ[m]、SはロープRの断面積[m
2]である。断面積Sは式(2)よりロープの直径D[m]から求められる。式(1)より、横軸を伸び量、縦軸を張力としたグラフ(
図5(A)参照)の傾きが弾性係数を示すといえる。
【数1】
【数2】
【0036】
測定工程S2においてロープRに与える張力の増減を複数回行なった場合には、2回目以降の張力の増減時のロープRに与えた張力の大きさと伸び量とから、ロープRの弾性係数を求めることが好ましい。たとえば、
図5(A)に示す伸び量の測定データのうち、張力が特定範囲のデータを抽出する。
図5(B)は張力を2kNから6kNまで上昇させたときのデータを抽出したものである。5回の張力の増減のうち、2回目以降における張力の増加分をΔTとし、そのときの伸び量の平均値をΔLとする。そして式(1)からロープRの弾性係数Eを求める。
【0037】
図5(A)から分かるように、1回目の張力上昇時におけるグラフの傾きは、2回目以降の傾きよりも緩やかである。すなわち、1回目の張力上昇時の伸び量に基づいて弾性係数を求めると低い値となる。これは、1回目の張力上昇時においては撚り締りにより大きな伸びが生じるからである。2回目以降のデータを用いれば、撚り締りの影響を除去でき、ロープRの弾性係数を精度良く求めることができる。
【0038】
分析装置52はロープRの測定部分ごとに伸び量の測定値から弾性係数を求める。そうすると、
図6に例示するように、ロープRの全長にわたって局所的な弾性係数の分布が得られる。
【0039】
ロープRは弾性係数が低いほど強度が低下していると考えられる。そこで、予め、許容可能な弾性係数の下限値を定めておき、ロープRの一部分でも弾性係数が下限値を下回る場合に、劣化と判断する。弾性係数の下限値はロープRの種類、素材、構成などにより異なる。検査対象のロープRにあわせて設定される。劣化と判断したロープRは廃棄すればよい。ロープRに健全な部分が残存する場合には、その部分を切り出して再利用してもよい。
【0040】
ロープRの弾性係数から残存強度を求めてもよい。予め試験をするなどして弾性係数と残存強度との関係を明らかにし、分析装置52に記憶しておく。弾性係数と残存強度との関係は、特定の数式の形で記憶してもよいし、表形式で記憶してもよい。弾性係数と残存強度との関係はロープRの種類、素材、構成などにより異なる。したがって、分析装置52には弾性係数と残存強度との関係を複数パターン記憶しておくことが好ましい。
【0041】
分析装置52は弾性係数と残存強度との関係に基づいて、ロープRの測定部分ごとに弾性係数から残存強度を求める。そうすると、
図7に例示するように、ロープRの全長にわたって局所的な残存強度の分布が得られる。
【0042】
予め、許容可能な残存強度の下限値を定めておき、ロープRの一部分でも残存強度が下限値を下回る場合に、劣化と判断する。一般に、残存強度が70%となるとロープを破棄することが多い。したがって、たとえば、残存強度の下限値は70%とすればよい。
【0043】
なお、ロープRの伸び量から直接残存強度を求めてもよい。この場合、既知の張力(たとえば、
図5(A)に示す例では6kN)を与えたときのロープRの伸び量の測定値を用いる。また、予め試験をするなどして伸び量と残存強度との関係を明らかにし、分析装置52に記憶しておく。分析装置52は伸び量と残存強度との関係に基づいて、ロープRの測定部位ごとに伸び量から残存強度を求める。このようにしても、ロープRの全長にわたって局所的な残存強度の分布が得られる。
【0044】
分析フェーズは測定フェーズの後に行なってもよいし、測定フェーズと同時進行で行なってもよい。すなわち、ロープR全長にわたる測定が完了した後に分析フェーズを行なってもよい。測定工程S2が完了するたびに測定値の分析を行なってもよい。
【符号の説明】
【0045】
AA ロープ検査装置
11 繰出装置
12 巻取装置
13 搬送装置
20A 第1クランプ
20B 第2クランプ
30 張力付与装置
40 伸び量測定器
51 制御装置
52 分析装置