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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】フレキシブル基板
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/38 20060101AFI20240712BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20240712BHJP
【FI】
H05K3/38 A
B32B15/08 J
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021144786
(22)【出願日】2021-09-06
(65)【公開番号】P2023037942
(43)【公開日】2023-03-16
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000235783
【氏名又は名称】尾池工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長野 秀司
【審査官】齊藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-311590(JP,A)
【文献】特開昭62-111739(JP,A)
【文献】特開2003-221778(JP,A)
【文献】特開2007-81275(JP,A)
【文献】特表2017-534747(JP,A)
【文献】特開平6-316759(JP,A)
【文献】特開平5-251511(JP,A)
【文献】特開昭62-98798(JP,A)
【文献】特開2021-41609(JP,A)
【文献】国際公開第2020/003946(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 15/08
H05K 1/00―3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に高圧パルス処理が施された基材と、
前記基材の高圧パルス処理が施された表面に積層された銅層(A)と、
前記銅層(A)に積層された銅層(B)と、を含み、
前記基材は、絶縁性を有する高分子樹脂フィルムであり、
前記銅層(A)の表面から、前記基材の表面内部までエッチングしながら深さ方向に分析を行ったXPS分析データにおいて、銅ピークが下がり始めた時点から銅ピークが1atm%以下になる時点までを「データ区間」と称する場合において、
前記データ区間における窒素量と酸素量とのatm%の総和は、50atm%以下であり、酸素量は7.5atm%以下であり、窒素量は38.7atm%以下である、フレキシブル基板。
【請求項2】
前記高分子樹脂フィルムは、ポリイミドフィルムである、請求項1記載のフレキシブル基板。
【請求項3】
前記基材と前記銅層(A)との剥離強度は、1.0N/mm以下である、請求項1または2記載のフレキシブル基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル基板に関する。より詳細には、本発明は、従来必要とされた中間層(シード層)を削減することができ、製造効率および品質が優れ、製造コストが低く、環境負荷が小さく、工業的に有用かつ信頼性の高いフレキシブル基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、銅張積層板(CCL)を備えるフレキシブルプリント配線板(FPC)を用いた電子機器(たとえば、LCD(液晶ディスプレイ)、スマートフォン、デジタルカメラ等)が開発されている。CCL(たとえば、絶縁フィルムと銅箔とを直接接合した2層FCCL)は、絶縁フィルム上に、ドライプロセス(スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法、CVD法等)により薄膜の下地金属層を設け、その上に電気銅めっきを行う方法(メタライジング法)等により作製され得る。メタライジング法によれば、2層FCCLは、絶縁フィルムと金属層界面との平滑性が高く、たとえば、新通信規格(いわゆる5G(第5世代)や6G(第6世代))に用いられる高周波基板において、優れた情報処理能力を発揮し得る。
【0003】
しかしながら、従来の2層FCCL(スパッタ品)は、平滑性が高いが故に絶縁体フィルムに直接、銅を積層する方法では層間密着力を確保することが困難であった。そこで、この点改善するための2層FCCLが提案されている(たとえば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-13152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の発明は、絶縁体フィルム上に乾式めっき方によりNi-Cr合金(Crの割合が12~22原子%で残部がNi)を主として含有する下地金属層と、その上に形成された銅被膜層とから構成される2層フレキシブル積層体である。しかしながら、特許文献1に記載の発明において、Ni-Cr合金による下地金属層は、実質的にはシード層と称される金属の中間層である。そのため、特許文献1に記載の発明は、製造コストが高く、エッチング不良や環境負荷といった問題を解決できていない。
【0006】
本発明は、このような従来の発明に鑑みてなされたものであり、従来必要とされた中間層(シード層)を削減することができ、製造効率および品質が優れ、製造コストが低く、環境負荷が小さく、工業的に有用かつ信頼性の高いフレキシブル基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討した結果、表面に高圧パルス処理が施され、絶縁性を有する高分子樹脂フィルムからなる基材と、基材表面に積層された銅層(銅層(A)および銅層(B))とからなるフレキシブル基板が、中間層(シード層)を削減することができ、かつ、上記した種々の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、上記課題を解決する本発明のフレキシブル基板には、以下の構成が主に含まれる。
【0008】
(1)表面に高圧パルス処理が施された基材と、前記基材の高圧パルス処理が施された表面に積層された銅層(A)と、前記銅層(A)に積層された銅層(B)と、を含み、前記基材は、絶縁性を有する高分子樹脂フィルムである、フレキシブル基板。
【0009】
このような構成によれば、フレキシブル基板は、表面に高圧パルス処理が施された基材に、銅層のみが積層される。すなわち、フレキシブル基板は、基材および銅層というシンプルな2層FCCLであり、従来、充分な層間密着力を得ることが困難であった絶縁性を有する高分子樹脂フィルム(たとえばポリイミド等)からなる基材に、銅層を直接積層し得る。また、フレキシブル基板は、平滑なスパッタ面を有するため、優れた伝送特性を示す。さらに、フレキシブル基板は、従来必要とされた中間層(シード層)を削減することができるため、製造効率および品質が優れ、製造コストが低く、環境負荷が小さい。以上を総合して、フレキシブル基板は、工業的に有用かつ信頼性の高い。
【0010】
(2)前記高分子樹脂フィルムは、ポリイミドフィルムである、(1)記載のフレキシブル基板。
【0011】
このような構成によれば、フレキシブル基板は、コストをより削減されやすく、かつ、環境負荷を軽減しやすい。
【0012】
(3)前記基材と前記銅層(A)との剥離強度は、1.0N/mm以下である、(1)または(2)記載のフレキシブル基板。
【0013】
このような構成によれば、フレキシブル基板は、従来必要とされた中間層が無くとも、優れた密着性を示す。
【0014】
(4)XPS分析データにおいて、銅ピークが下がり始めた時点から銅ピークが1atm%以下になる時点までを「データ区間」と称する場合において、前記データ区間における窒素量と酸素量とのatm%の総和は、50atm%以下である、(1)~(3)のいずれかに記載のフレキシブル基板。
【0015】
このような構成によれば、フレキシブル基板は、より好適な層間密着力が得られる。
【0016】
(5)前記基材に施された高圧パルス処理に要した時間を時間T1(秒)とする場合において、前記基材と前記銅層(A)との剥離強度P1と、高圧パルス処理をT1/10(秒)行った場合の前記基材と前記銅層(A)との剥離強度P2とは、以下の式(I)を満たす、(1)~(4)のいずれかに記載のフレキシブル基板。
0.6×P1≦P2≦1.4×P1 ・・・ 式(I)
【0017】
このような構成によれば、フレキシブル基板は、基材に対して行うプラズマ処理に要する時間を1/10に短縮した場合であっても、層間密着力が維持されやすい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来必要とされた中間層(シード層)を削減することができ、製造効率および品質が優れ、製造コストが低く、環境負荷が小さく、優れた伝送特性を有し、工業的に有用かつ信頼性の高いフレキシブル基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施例1のフレキシブル基板のXPS分析結果を示すグラフである。
図2図2は、実施例2のフレキシブル基板のXPS分析結果を示すグラフである。
図3図3は、実施例3のフレキシブル基板のXPS分析結果を示すグラフである。
図4図4は、比較例1のフレキシブル基板のXPS分析結果を示すグラフである。
図5図5は、比較例2のフレキシブル基板のXPS分析結果を示すグラフである。
図6図6は、比較例3のフレキシブル基板のXPS分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<フレキシブル基板>
本発明の一実施形態のフレキシブル基板は、表面に高圧パルス処理が施された基材と、基材の高圧パルス処理が施された表面に積層された銅層(A)と、銅層(A)に積層された銅層(B)とを含む。基材は、絶縁性を有する高分子樹脂フィルムである。以下、それぞれの構成について説明する。
【0021】
(基材)
基材は、表面に高圧パルス処理が施された基材であり、絶縁性を有する高分子樹脂フィルムである。
【0022】
基材を構成する絶縁性を有する高分子樹脂は特に限定されない。一例を挙げると、高分子樹脂フィルムは、ポリエチレンテレフタレート、二軸延伸ポリプロピレン、無延伸ポリプロピレン、ポリアミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリアクリルニトリル、ポリイミド等である。これらの中でも、高分子樹脂フィルムは、コストをより削減しやすく、かつ、環境負荷を軽減しやすい点から、ポリイミドであることが好ましい。
【0023】
基材の厚みは特に限定されない。一例を挙げると、基材の厚みは、5μm以上であることが好ましく、8μm以上であることがより好ましい。また、基材の厚みは、200μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。基材の厚みが上記範囲内であることにより、基材は、加工時のフィルム搬送が容易であり、フィルムの折れ等が生じにくく、連続加工性が優れる。また、得られるフレキシブル基板は、適度な剛性や強度を示し得る。
【0024】
本実施形態の基材は、表面に高圧パルスによるプラズマ処理(高圧パルス法)が施されている。これにより、基材は、表面がクリーニングされる、基材からガスが抜ける(脱ガス)、表面に微細な凹凸を形成される、表面が改質される等の効果が得られる。
【0025】
高圧パルス法は、スパッタリング法の低温成膜が可能な特長を維持しつつ、高密度プラズマによりイオン化率を向上し,高い密着性や付き回り性を実現する成膜法である。高圧パルス法は、直流電源装置によりコンデンサーに充電を行い、溜めた電荷を一気に電極となるターゲット材に流し、瞬間的に「大電力」をかけることで,高密度のプラズマを形成し,ターゲット材のイオン化率を向上させる。電力は、非常に短く、かつ、極度に強力なパルスで供給される。パルスは、比較的低いデューティサイクル(負荷サイクル、すなわちパルス間が比較的長い周期)で供給される。その結果、時間平均パワー(電力)は、一般的なDCスパッタリング法と同じ範囲の値となる。高圧パルス用の電源は、平均電力が従来のプラズマ処理に用いる場合とほぼ同等でありながら、従来のプラズマ処理の場合に比べて10~10,000倍の瞬時電力を出力可能である。
【0026】
パルスは、所定のパルス時間(Ton)のみ負の高電圧を発生させた方形波である。また、本実施形態では、このような方形波を、所定のパルス繰り返し時間(Ton+Toff)ごとに発生させ得る。これにより、本実施形態では、パルス繰り返し時間(Ton+Toff)に対するパルス時間(Ton)の割合(Ton/Ton+Toff)を小さくすることができ、高密度のプラズマを形成し、ターゲット材のイオン化率を向上させ得る。
【0027】
また、高圧パルス法によって最大電力密度を上げることにより、スパッタされた粒子および電離したガスは、より高いエネルギー状態で基板に付着および衝突する。また、より効率的に基板に含まれる脱ガス(主に水分)を除去することができ、密着特性の低下を防ぎやすい。さらに、より効果的に、基板表面の微細凹凸を形成したり、表面改質を行うことができる。その結果、後述する銅層(A)との化学的結合が促進され、密着性が向上し得る。
【0028】
プラズマ処理時の最大電力密度は、パルス時間(Ton)とその繰り返し回数(周波数)により調整し得る。そのため、高圧パルス法によれば、基材の種類に応じて、密着特性をどの程度向上させるか調整しやすい。
【0029】
また、高圧パルス法は、デューティー比(パルス繰り返し時間(Ton+Toff)に対するパルス時間(Ton)の割合(Ton/Ton+Toff)が低い。そのために、同じ平均電力であっても、他のプラズマ処理方法と比較して、成膜中の熱負荷を小さくすることができる。その結果、基材は、脆弱層が形成されにくく、密着力が低下しにくい。高圧パルス法は、ガラス温度が低い基材(たとえばCOP、PPS等)であっても、ポリイミド(PI)フィルムと同様に良好な密着特性を得ることが可能である。
【0030】
なお、基材の前処理は、一般に、RF(高周波)プラズマやDC(直流)プラズマを用いる方法がある。しかしながら、RF(高周波)やDC(直流)プラズマを用いる方法により前処理を行った場合、基材に対する銅層の密着性が劣る。本実施形態では、このような従来のRF(高周波)やDC(直流)プラズマを用いる方法ではなく、高圧パルス法を用いたプラズマ処理を行うことにより、基材と銅層(A)との密着を可能としている。
【0031】
また、高圧パルス法によれば、パルスのDuty比を適切に調整することにより、スパッタされた粒子が効率的にイオン化される。そのため、膜質が向上し得る。
【0032】
(銅層(A))
銅層(A)は、基材の高圧パルス処理が施された表面に積層された層である。銅層(A)は、基材(たとえばPI)に積層される銅をターゲットとして用いたスパッタリングにより製膜し得る。
【0033】
高圧パルス処理を行う際に用いる気体は、アルゴンガス、酸素ガス、または、窒素ガスのうち、少なくともいずれか一種を含むことが好ましく、酸素フリーのアルゴンガスであることが好ましい。これにより、得られるフレキシブル基板は、基材と銅層(A)とも密着性がより優れる。なお、銅層(A)中に含まれる酸素は、スパッタされる基材由来のものとなり得る。
【0034】
公知のスパッタリング法を用い、スパッタリング時の出力(電流、電圧)、および、通電の間隔(Duty比)等の条件を調整することにより、基材と銅層(A)との密着性を調整し得る。また、基材と銅層(A)とが接する界面付近の窒素量と酸素量とを、所定値内に抑制することできる。
【0035】
スパッタリング時の出力(電流、電圧)は、特に制限されない。一例を挙げると、スパッタリング時の出力は、10kW以上であることが好ましく、50kW以上であることがより好ましい。また、スパッタリング時の出力は、1000kW以下であることが好ましく、800kW以下であることがより好ましく、700kW以下であることがさらに好ましい。スパッタリング時の出力が上記範囲内であることにより、フレキシブル基板は、基材と銅層(A)は好適な層間密着力が得られる。
【0036】
また、通電の間隔(Duty比)は特に限定されない。一例を挙げると、通電の間隔は、1.1%以上であることが好ましく、1.3%以上であることがより好ましく、1.5%以上であることがさらに好ましい。また、通電の間隔は、50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましい。通電の間隔が上記範囲内であることにより、フレキシブル基板は、高圧パルス法を最適化することで、基材と銅層(A)の層間密着力が向上する。
【0037】
このように、基材に高圧パルス処理を行った上で銅層(A)を直接設けることにより、本実施形態のフレキシブル基板は、従来、銅層を直接積層できなかった基材(たとえばPI等)に対しても、銅層を直接積層し得る。
【0038】
銅層(A)の厚みは特に限定されない。一例を挙げると、銅層(A)の厚みは、後述する銅層(B)を設けるための工程(たとえば電解銅めっき等)を行うために必要な導電性が得られる膜厚であれば良い。具体的には、銅層(A)の厚みは、50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましい。また、銅層(A)の厚みは、500nm以下であることが好ましく、400nm以下であることがより好ましい。銅層(A)の厚みが上記範囲内であることにより、フレキシブル基板は、銅層(B)を形成する際の工程(たとえば電解銅めっき等)を行う際に、充分な導電性が得られやすい。また、フレキシブル基板は、製造時のハンドリング性が優れ、生産しやすい。
【0039】
基材と銅層(A)との剥離強度は、0.5N/mm以上、1.0N/mm以下であることが好ましい。剥離強度が上記範囲内であることにより、フレキシブル基板は、従来必要とされた中間層が無くとも、フレキシブル基板で必要とされる優れた密着性を示しやすい。なお、本実施形態において、剥離強度は、ピール強度試験機(オートグラフ引っ張り試験機、AGS-100G、(株)島津製作所製)を使用し、を180°剥離にて、速度50mm/分で引っ張って測定し得る。
【0040】
(銅層(B))
銅層(B)は、銅層(A)に積層された層である。
【0041】
銅層(B)を積層する方法は特に限定されない。一例を挙げると、銅層(B)は、めっき、スパッタ、または、蒸着のいずれかの方法により、積層され得る。これらの中でも、銅層(B)の積層方法は、めっきであることが好ましい。銅層(B)がこれらの方法により積層されることにより、フレキシブル基板は、銅層(A)の表面に銅層(B)を積層しやすく、好適な厚みを有する一体的な銅層が得られやすい。
【0042】
めっきの方法は特に限定されない。一例を挙げると、めっきの方法は、湿式めっきや電解めっき等である。
【0043】
銅層(B)の厚みは特に限定されない。一例を挙げると、銅層(B)の厚みは、1μm以上であることが好ましい。また、銅層(B)の厚みは、30μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。銅層(B)の厚みが上記範囲内であることにより、フレキシブル基板は、公知の化学エッチング等の手法で回路加工を行う場合にも、微細な回路加工を行いやすい。
【0044】
以上、本実施形態のフレキシブル基板は、基材と銅層(銅層(A)および銅層(B))とからなる2層フレキシブル基板である。このように、本実施形態のフレキシブル基板は、実質的に基材と銅層とからなる2層であり、従来必要とされた中間層(シード層)が削減されている。そのため、フレキシブル基板は、製造効率および品質が優れ、製造コストが低く、環境負荷が小さい。また、銅層(A)が、高圧パルス処理された基材に直接形成されているため、フレキシブル基板は、優れた伝送特性を有し、工業的に有用かつ信頼性が高い。
【0045】
また、本実施形態のフレキシブル基板は、XPS分析データにおいて、銅ピークが下がり始めた時点から銅ピークが1atm%以下になる時点までを「データ区間」と称する場合において、データ区間における窒素量と酸素量とのatm%の総和が、50atm%以下であることが好ましく、45atm%以下であることがより好ましい。データ区間における窒素量と酸素量とのatm%の総和が上記範囲内であることにより、フレキシブル基板は、より好適な層間密着力が得られる。なお、本実施形態において、XPS分析は、フレキシブル基板(基材/銅層(A))に対して、X線光電子分光分析装置(XPS)(PHI5000VersaProbe2、アルバック・ファイ(株)製)により、銅層(A)の表面から基材フィルム表面内部まで(Ar)イオンでエッチング(30秒間/1回)しながら深さ方向に分析を行うことにより実施し得る。この際、以下の条件でエッチングを30回行う。
(X線光電子分光法(XPS)深さ方向分析の測定条件)
・装置:X線光電子分光分析装置(XPS):PHI5000VersaProbeII、アルバック・ファイ(株)
・X線ビーム径(測定範囲):φ100μm
エッチング条件(ニッケル合金層側から基材深さ方向へスパッタリング条件)
・Arイオン銃加速電圧:4kV
・エッチング範囲:3mm×3mm平方内部
・エッチング時間:30秒/1回
【0046】
得られたXPS分析のグラフより、一定のデータ区間における酸素量の総和(atm%)、および、窒素量の総和(atm%)、さらにそれらの総和(atm%)を測定し得る。なお、グラフの見方等の詳細は、実施例において後述する。
【0047】
また、本実施形態のフレキシブル基板は、基材に施された高圧パルス処理に要した時間を時間T1(秒)とする場合において、基材と銅層(A)との剥離強度P1と、高圧パルス処理をT1/10(秒)行った場合の基材と銅層(A)との剥離強度P2とが、以下の式(I)を満たすことが好ましい。
0.6×P1≦P2≦1.4×P1 ・・・ 式(I)
【0048】
このような式(I)を満たすことにより、フレキシブル基板は、基材に対して行うプラズマ処理に要する時間を1/10に短縮した場合であっても、層間密着力が維持されやすい。その結果、フレキシブル基板は、製造に要する時間を短縮することができ、製造効率が高い。また、フレキシブル基板は、処理時間が短くてもよいことから、基材に対する熱ダメージを抑え得る。
【実施例
【0049】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。
【0050】
用いた原料を以下に示す。なお、以下の実施例では、高圧パルス処理および銅層の成膜には、ロールツーロールスパッタリング装置を用いた。
【0051】
<基材>
第1基材:登録商標「ユーピレックス」、タイプSGS、超耐熱・接着向上ポリイミドフィルム、厚み25μm、宇部興産(株)製
第2基材:登録商標「カプトン」、タイプEN、超耐熱・超耐寒性ポリイミドフィルム、厚み25μm、東レ・デュポン(株)製
【0052】
まず、前処理として、RF(高周波)、DC(直流)、高圧パルス、のいずれかを用い、以下の条件にてプラズマ処理を行った。その際に用いる雰囲気としてアルゴン、酸素、窒素のいずれかを用いた。
【0053】
<プラズマ処理の条件>
・RF(高周波)プラズマ
高周波(13.56MHz)プラズマ処理は、真空装置内の圧力を1×10-3Pa以下にした後、雰囲気ガスを所定量導入し、基材の表面にプラズマを照射した。
・DC(直流)プラズマ
DC(直流)プラズマ処理は、真空装置内の圧力を1×10-3Pa以下にした後、雰囲気ガスを所定量導入し、基材の表面にプラズマを照射した。
・高圧パルスプラズマ
高圧パルスプラズマは、真空装置内の圧力を1×10-3Pa以下にした後、雰囲気ガスを所定量導入し、Duty比を10.8%とし基材の表面にプラズマを照射した。
【0054】
このプラズマ処理を終えた基材に対し、第1基材および第2基材それぞれに対して新たに2種類のスパッタリング処理を施した。1つはDC電源を用いたものであり、もう1つは高圧パルス電源を用いたものである。それぞれ雰囲気ガスにはアルゴンガスを用い、第1基材および第2基材上に、それぞれ厚さ120nmの銅層(A)を成膜した。
【0055】
得られたそれぞれのサンプルに対して、電解めっきを行った。電解めっきは、めっき液として硫酸銅溶液を用い、銅層(A)の表面に厚さ20μmの銅層(B)の銅めっき被膜を成膜した。これにより、フレキシブル基板を作製した。
【0056】
<実施例1>
実施例1は、表1に記載のとおり、アルゴンガス雰囲気下で、高圧パルス処理を行った基材(第1基材および第2基材)に対し、高圧パルス成膜を行って銅層(A)を設け、次いで、めっきにより銅層(B)を設けたフレキシブル基板である。
【0057】
【表1】
【0058】
<実施例2~3、比較例1~3>
表1に記載の条件に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、それぞれのフレキシブル基板を作製した。
【0059】
得られたそれぞれのフレキシブル基板を用いて、以下の方法により、銅層(A)および銅層(B)のピール強度を測定した。結果を表1に示す。なお、表1において、「×」は測定不能であったことを示す。
【0060】
<銅層(A)および銅層(B)のピール強度>
5mm幅にそれぞれのフレキシブル基板を短冊状に切断し、ピール強度試験機(オートグラフ引っ張り試験機、AGS-100G、(株)島津製作所製)を使用して、基材とめっきを含む金属側との剥離力(ピール強度)を180°剥離にて、速度50mm/分で引っ張り測定した。
【0061】
表1に示されるように、本発明のフレキシブル基板は、高圧パルス処理を行った基材を用いたことにより、基材に直接、銅層を形成することができた。
【0062】
次に、実施例1~3のフレキシブル基板について、基材に高圧パルスによる前処理を行った際に要した時間をT1(秒)とする場合において、得られたフレキシブル基板の基材と銅層(A)との剥離強度P1(N/mm)を、上記方法にて算出した。一方、前処理の時間を1/10として(T1/10(秒))、得られたフレキシブル基板の基材と銅層(A)との剥離強度P2(N/mm)を算出した。P1に対するP2の割合(P2/P1)を算出した。結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
表2に示されるように、本発明の実施例1~3のフレキシブル基板は、前処理に要した時間を1/10に減らした場合であっても、それぞれの基材に対する密着性(ピール強度)があまり変化しなかった。これにより、本発明のフレキシブル基板は、製造に要する時間を短縮することができ、製造効率が高いことが示された。また、フレキシブル基板は、処理時間が短くてもよいことから、基材に対する熱ダメージを抑え得ることがわかった。
【0065】
さらに、得られたそれぞれのフレキシブル基板を用いて、以下の方法により、XPS分析を行った。結果を図1図6に示す。図1図6は、それぞれ、実施例1~3、比較例1~3のフレキシブル基板のXPS分析結果を示すグラフである。
【0066】
<XPS分析の条件>
XPS分析は、フレキシブル基板(基材/銅層(A))に対して、X線光電子分光分析装置(XPS)(PHI5000VersaProbe2、アルバック・ファイ(株)製)により、銅層(A)の表面から基材フィルム表面内部まで(Ar)イオンでエッチング(30秒間/1回)しながら深さ方向に分析を行った。以下の条件でエッチングを30回行った。
(X線光電子分光法(XPS)深さ方向分析の測定条件)
・装置:X線光電子分光分析装置(XPS):PHI5000VersaProbeII、アルバック・ファイ(株)製
・X線ビーム径(測定範囲):φ100μm
エッチング条件(ニッケル合金層側から基材深さ方向へスパッタリング条件)
・Arイオン銃加速電圧:4kV
・エッチング範囲:3mm×3mm平方内部
・エッチング時間:30秒/1回
【0067】
また、実施例1~3、比較例1~3のフレキシブル基板に対して、一定のデータ区間における酸素量の総和(atm%)、および、窒素量の総和(atm%)、さらにそれらの総和(atm%)を測定した。結果を表3に示す。
【0068】
<XPS分析データのグラフの見方>
フレキシブル基板の銅側表層よりXPSでのスパッタを行い、銅が無くなって基材側(炭素)が充分得られるまで分析した。横軸がXPSでスパッタした積算回数であり、縦軸がスパッタした際に検出された各原子濃度(atm%)を表す。積算回数0を銅の表層、積算回数が増えると基材側に近づくため銅が減少し、やがて基材の炭素が検出され始め、銅と炭素との原子濃度が逆転し、その後、完全に銅がなくなり、炭素が100%に近づくと、基材内部をスパッタしていることを意味している。銅と基材の炭素がクロスする前後の積算回数約5~10回の間が、基材/銅層の界面とみられる。
【0069】
【表3】
【0070】
図1図6および表3に示されるように、高圧パルス処理を施した基材を用いた本発明の実施例1~3のフレキシブル基板は、優れた層間密着力を示した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6