IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社桃谷順天館の特許一覧

<>
  • 特許-天然由来化粧料 図1
  • 特許-天然由来化粧料 図2
  • 特許-天然由来化粧料 図3
  • 特許-天然由来化粧料 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】天然由来化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/39 20060101AFI20240712BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20240712BHJP
   A61Q 1/14 20060101ALI20240712BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20240712BHJP
【FI】
A61K8/39
A61K8/34
A61Q1/14
A61K8/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021189954
(22)【出願日】2021-11-24
(65)【公開番号】P2023076920
(43)【公開日】2023-06-05
【審査請求日】2021-11-24
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000151966
【氏名又は名称】株式会社桃谷順天館
(74)【代理人】
【識別番号】100127166
【弁理士】
【氏名又は名称】本間 政憲
(74)【代理人】
【識別番号】100187399
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 敏文
(72)【発明者】
【氏名】関根 大輝
(72)【発明者】
【氏名】野口 安則
【審査官】阪▲崎▼ 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-085354(JP,A)
【文献】特開2006-045197(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0097323(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0022567(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00~8/99
A61Q 1/00~90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、
環状体含有量が25重量%を超え、その平均重合度が3以上10以下のポリグリセリンを原料とし、少なくとも1種の炭素数10以上18以下の飽和又は不飽和の脂肪酸残基を有し、
1種又は2種以上が併用されてHLB値の加重平均値が10を超えるポリグリセリン脂肪酸エステルと、
炭素数3以上7以下の2価アルコール、グリセリン若しくは平均重合度が2以上10以下のポリグリセリン、若しくは糖アルコールである多価アルコール単独系、又は炭素数3以上7以下の2価アルコールと、少なくともグリセリン若しくは平均重合度が2以上10以下のポリグリセリン、若しくは糖アルコールのうち種とを、混合した多価アルコール混合系と、
油性成分と、
水と、
を配合成分として、
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルが、
24.2%以上31.0%以下含まれ、
前記糖アルコールが、
エリスリトール、キシリトール、ソルビット、トレハロース、スクロース、マルチトール、又はマンニトールのうちから選択され、
バイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造が形成されたこと、
前記配合成分が、
天然由来の原料であること、
を特徴とする天然由来化粧料。
【請求項2】
さらに温度安定成分として少なくとも種の炭素数が8以上22以下の飽和又は不飽和脂肪酸を含有すること、
を特徴とする請求項1に記載する天然由来化粧料。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する天然由来化粧料と、
水を含む天然由来の水溶性成分と、
を配合し、
O/Wマイクロエマルジョン構造を備えたこと、
を特徴とする天然由来保湿化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然由来の原料のみを用いることによって安全性及び環境面に配慮し、かつ石油由来の化粧料と同等の効果を有する化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の汚れやメイク汚れを取り去る化粧料としてクレンジング化粧料が挙げられる。また、保湿に関する化粧料として、ローション、美容液、ジェル等の保湿化粧料が挙げられる。従来、クレンジング化粧料は皮膚の汚れやメイク汚れを容易に洗い流すことが重要視されてきた。クレンジング化粧料は、オイル、リキッド、バーム、ジェル、クリーム、ミルクのように様々な種類に分類される。オイルタイプは、主成分が油性成分であり、メイク汚れや皮脂等の皮膚の汚れを油性成分で皮膚から浮かせた後、水によって洗い流すものである。メイク落とし効果が高い反面、水で洗い流した後も油性感が残存しやすく、洗浄後におけるさっぱり感が不十分な傾向がある。また、肌や手が少量の水に濡れた状態で使用した場合、オイルが瞬時に水中油(O/W)型にエマルジョン化し、メイク汚れや皮脂等との馴染みを低下させ、クレンジング力を低下させる問題点がある。リキッドタイプは、界面活性剤を主成分としたものであり、肌や手が少量の水に濡れた状態での使用には問題は無いが、メイク汚れを界面活性剤で皮膚から乳化・分散させた後、水で洗い流すため、洗浄後はさっぱり感を有している反面、メイク落とし効果が不十分な傾向がある。また、クリームタイプの多くは、O/W型エマルジョン形成物であり、使用時におけるマッサージにより、水分を蒸散させ、油中水(W/O)型エマルジョン構造に転相することにより、皮膚上のメイク汚れや皮脂等と馴染ませるため、短時間でのクレンジングは困難である。転相後に水を加えることにより、O/W型エマルジョン構造へ再転相させ、水によって洗い流すものである。ただ、クレンジング力は、オイルタイプより劣り、洗浄後はリキッドタイプのようなさっぱり感も不十分なものである。上記のクレンジング化粧料は、メイク汚れや皮膚の汚れの程度によって使い分ける必要があり、各々のクレンジング化粧料の用途に適合していない場合には、洗い上がりの違和感につながるといった問題があった。
【0003】
近年では、肌や手が少量の水に濡れた状態で使用した場合であっても、高いクレンジング力を維持し、洗浄後のべたつき感も少なくさっぱりとした使用感が得られるクレンジング化粧料が求められ、バイコンティニュアス(両連続)マイクロエマルジョン構造を有するクレンジング化粧料が多く見られるようになった。バイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造は、水相と油相の両者が連続的かつランダムな層を不規則に入り組んだ構造に形成して両連続となっているものをいう。当該構造をクレンジング化粧料として使用した場合、メイク汚れや皮脂汚れとの馴染みが良好となる。その後、洗い流す際に水が加わることで、O/W型マイクロエマルジョン構造を有する水溶液が形成する。当該O/Wマイクロエマルジョン構造を有する水溶液中では、メイク汚れや皮脂汚れを取り込んだ油性成分が、O/Wマイクロエマルジョン構造の粒子内に熱力学的に安定な状態で取り込まれているため、肌への再付着を起こさず、容易に洗い流すことができ、べたつき感のない、洗い上がりのさっぱり感が得られる。
【0004】
一方、保湿化粧料は、皮膚の保湿を目的としており、主成分が水溶性の保湿成分と水から成るローション、美容液、ジェル等は、皮膚の水分を補うことや、水分の蒸散を防ぎ、潤いを保つことが特徴である。しかしながら、水溶性成分からなる一液相の保湿化粧料は、油性成分を配合するために界面活性剤による可溶化が必要となるが、可溶化可能な油性成分量についてはごく少量であるという問題があった。
【0005】
そこで、近年では、O/Wマイクロエマルジョン形成物を用いることで、上記の保湿化粧料においても油性成分を分離することなく配合量を増量することが可能となった。これにより、従来、水溶性の保湿成分と水とを主成分とする保湿化粧料における保湿性は、油性成分が加わることにより、さらに保湿性を向上させることが可能となった。
【0006】
また、限りある資源であり、将来枯渇が懸念される石油より製造された原料を使用した化粧料は、循環型社会には不適であり、環境に配慮されたものとは言い難い。一方、天然由来原料は持続可能な循環型社会に適したものとされ、地球環境の持続可能な保全に繋がるものと考えられている。また、最近の消費者の安全・安心志向の高まりにより、石油由来原料(鉱物油やポリオキシエチレン系界面活性剤)フリーの化粧料が好まれ、天然由来原料で製造された化粧料を求める消費者が増加傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-196909号公報
【文献】特開2008-106012号公報
【文献】特開2010-280644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
バイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造を有する化粧料を製造する際、油性成分から成る油相と、水性成分から成る水相において、両方の相が共に連続した相を形成させるために必要な界面活性剤としては、多くの研究実績があることやコスト面での優位性の理由から、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル等の石油由来の界面活性剤であるポリオキシエチレン系界面活性剤が使用される場合が多い。また、石油由来のポリグリセリン脂肪酸エステルが使用される場合もある。
【0009】
O/Wマイクロエマルジョン構造を有する化粧料についてもバイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造と同様に、油性成分から成る油相と、水性成分から成る水相において、油性成分を水中に微細な液滴として分散させるために必要な界面活性剤として、石油由来のポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル等のポリオキシエチレン系界面活性剤が使用される場合が多い。また、石油由来のポリグリセリン脂肪酸エステルが使用される場合もある。
【0010】
バイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物及びO/Wマイクロエマルジョン形成物を調製する際に用いるポリグリセリン脂肪酸エステルは、異性体である環状体の含有量が25重量%以下である石油由来のポリグリセリンを用いて、性状が安定したバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物及びO/Wマイクロエマルジョン形成物を得ることに関する研究がなされてきた。一方、異性体である環状体の含有量が25重量%を超える天然由来のポリグリセリンを用いて生成されたポリグリセリン脂肪酸エステルは、石油由来のポリグリセリン脂肪酸エステルに比べ、実質的な重合度が低く、親水性が低いため可溶化力が劣っている等の機能面や、ポリオキシエチレン系活性剤に比べ、コストが高い等の課題があり、化粧料分野において天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルからバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物及びO/Wマイクロエマルジョン形成物を得ることに関する研究は十分に進められていない。
【0011】
また、天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルは、異性体である環状体含有量が25重量%以下である石油由来のポリグリセリンを用いて生成されたポリグリセリン脂肪酸エステルよりも成分が多く含有され複雑な組成の混合物である。そのため、天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いてバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製する場合には、天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルに多くの成分が含有した状態で、水相と油相が3次元的に入り組んだ構造で両連続とした透明一相液に調製できる限定的な組成領域を見出す必要があり、なおかつ経時的な性状の変化、及び温度変化による性状の変化が少なく安定した状態(以下、経時・温度安定性という)に保つ必要がある。さらに、天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルは、石油由来のポリグリセリン脂肪酸エステルと比較して、可溶化力等の機能面も低い。したがって、石油由来のポリグリセリン脂肪酸エステルを天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルに単純に置き換えただけでは、石油由来のポリグリセリン脂肪酸エステルを使用して得られたバイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造を有する化粧料を得ることはできない。以下に先行技術を示す。
【0012】
特許文献1は、非イオン性界面活性剤、油性成分、水、炭素数5~10の1,2-アルカンジオール以外の多価アルコール、及び炭素数5~10の1,2-アルカンジオールを配合することによって、バイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を得るものである。特許文献1で得られたバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物は経時・温度安定性に関する言及がなく、バイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造から水相や油相が相分離する場合があることが知られている。特許文献1においては、バイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物が温度変化によって受ける影響に関する対策について言及されていないことから、温度が変化した際にバイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造を保持できず、クレンジング化粧料としての機能及び質が低下するおそれがある。また、使用されている原料が天然由来であるか否かについての記載、すなわち環境への配慮に関する言及はない。
【0013】
特許文献2は、コエンザイムQ10、ポリグリセリン中の環状体含有量が25重量%以下であり、HLB値が10~18であるポリグリセリン脂肪酸エステルを含む界面活性剤、25℃における溶解度パラメータ(SP値)が8.0~10.5である液状油、多価アルコールを配合することによって、皮膚へ塗布した場合、コエンザイムQ10の経皮吸収効果が優れることを特徴とする、バイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造を備える化粧料である。特許文献2においては、石油由来のポリグリセリンの特性であるポリグリセリン中の環状体含有量が25重量%以下と限定されていることから、石油由来のポリグリセリンを使用してポリグリセリン脂肪酸エステルを製造していることが分かる。石油由来のポリグリセリン脂肪酸エステルは、性状が安定したバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を得ることは容易であるが、石油由来のポリグリセリン脂肪酸エステルの原料には発がん性のあるグリシドールやエピクロルヒドリン等が使用されるため、皮膚への安全性が懸念される。同時に石油由来であるため、将来枯渇が懸念され、循環型社会に不適な原料であり、環境に配慮されたものとは言い難い。また、消費者や社会が求める安全・安心志向の要請に応えることも困難な原料である。尚、当該先行文献に係る発明者らの実験によって、ポリグリセリン中の環状体の含有量が35重量%、38重量%、40重量%及び47重量%であるポリグリセリン脂肪酸エステルに3価アルコールを単独で配合した場合が例示されており、性状が安定したバイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造を形成できないことが、明らかになっている。すなわち、ポリグリセリン中の環状体含有量が25重量%を超える天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いて、性状が安定したバイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造を形成することが容易ではないことは明らかである。
【0014】
上記特許文献1及び特許文献2をはじめとして、従来当該分野において、ポリグリセリン脂肪酸エステルを用いてバイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造を有する化粧料を製造することに関して、多くの成果報告がなされてきた。しかし、安全性が高く、消費者や社会が求める安全・安心志向の要請に応えることが出来る天然由来の原料のみを使用し、経時・温度安定性を有するバイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造又はO/Wマイクロエマルジョン構造を保持する化粧料に関する報告は見受けられない。
【0015】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、天然由来の原料のみを使用することによって、石油由来の原料を用いた化粧料と比較して皮膚への安全性が高く、環境にも配慮され、かつ石油由来の化粧料と同等の効果を有する化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本発明の天然由来化粧料は、少なくとも、環状体含有量が25重量%を超え、その平均重合度が3以上10以下のポリグリセリンを原料とし、少なくとも1種の炭素数10以上18以下の飽和又は不飽和の脂肪酸残基を有し、1種又は2種以上が併用されてHLB値の加重平均値が10を超えるポリグリセリン脂肪酸エステルと、炭素数3以上7以下の2価アルコール、グリセリン若しくは平均重合度が2以上10以下のポリグリセリン、若しくは糖アルコールである多価アルコール単独系、又は炭素数3以上7以下の2価アルコールと、少なくともグリセリン若しくは平均重合度が2以上10以下のポリグリセリン、若しくは糖アルコールのうち種とを、混合した多価アルコール混合系と、油性成分と、水と、を配合成分として、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルが、24.2%以上31.0%以下含まれ、前記糖アルコールが、エリスリトール、キシリトール、ソルビット、トレハロース、スクロース、マルチトール、又はマンニトールのうちから選択され、バイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造が形成されたこと、前記配合成分が、天然由来の原料であること、を特徴とする。「多価アルコール単独系」とは、多価アルコールが単独でなるアルコールを表し、「多価アルコール混合系」とは、複数種類の多価アルコールが混合してなるアルコールを表す。
【0017】
本発明の天然由来化粧料は、さらに温度安定成分として少なくとも種の炭素数が8以上22以下の飽和又は不飽和脂肪酸を含有すること、を特徴とする。

【0018】
本発明の天然由来保湿化粧料は、請求項1又は請求項2に記載する天然由来化粧料と、水を含む天然由来の水溶性成分と、を配合し、O/Wマイクロエマルジョン構造を備えたこと、を特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
石油由来のポリグリセリン脂肪酸エステルの原料には、発がん性を有するグリシドールやエピクロルヒドリンなどが使用されるため、安全性が懸念される。一方で、本発明の天然由来化粧料によれば、ポリグリセリン脂肪酸エステルをはじめ、配合成分すべてにおいて天然由来の原料のみを使用して製造されるため、消費者や社会が求める安全・安心志向や、環境に配慮した要請に応える化粧料を提供することができる。
【0020】
従来、天然由来の原料を使用して製造された化粧料は、経時・温度安定性に優れるバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物又はO/Wマイクロエマルジョン形成物が得られず、天然由来の原料を利用したクレンジング化粧料や、ローション、美容液、ジェル等の保湿化粧料を得ることが容易ではなかった。本発明の天然由来化粧料によれば、天然由来の原料のみを使用して、再現良く経時・温度安定性に優れるバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物又はO/Wマイクロエマルジョン形成物を得られ、石油由来のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いて製造した化粧料と比較しても同等のクレンジング効果又は保湿効果が得られるため、環境への配慮の要請に応える天然由来化粧料を消費者に提供することが可能となる。
【0021】
従来、天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルに2価又は3価アルコールを単独で配合してバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物又はO/Wマイクロエマルジョン形成物を形成しようとした際には、経時・温度安定性に優れた目的物を得られないとされていたが、本発明の天然由来化粧料によれば、多価アルコール単独系、又は少なくとも2価アルコールを含み、3価以上の多価アルコールを混合した多価アルコール混合系として配合することで、経時・温度安定性に優れたバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物又はO/Wマイクロエマルジョン形成物を調製可能な効果を奏することとなった。
【0022】
温度安定成分を配合することにより、環境温度の変化により本発明の天然由来化粧料の温度が変化することになった際にも、バイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造を安定して保持する効果を奏する。「温度安定成分」とは、温度変化が生じた際に、配合物の性状を変化させることなく維持させることができる成分のことをいう。これにより、浴室などの温度変化の激しい場所に保管しても品質が変わることがなく経時・温度安定性に優れた化粧料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明より得た天然由来化粧料(図に向かって右)と、特許文献3より得た石油由来化粧料(図に向かって左)との外観を比較した写真である。
図2】スクワラン配合品とスクワラン無配合品の角層水分量について塗布前を「1」としたときの経時変化を示したグラフである。
図3】スクワラン配合品とスクワラン無配合品の経皮水分蒸散量について塗布前を「1」とした時の経時変化を示したグラフである。
図4】比較例1において、特許文献1の実施例4の処方より得たクレンジング化粧料の外観を示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
天然由来の原料とは、化粧料の成分のうち、天然物や天然に由来する物質のことであり、植物の抽出物が主だった原料である。抽出物以外には、ミツバチの分泌物であるローヤルゼリーや豆乳を発酵させて得られる豆乳発酵液などが挙げられる。これらの天然物の成分はアミノ酸、タンパク質、有機酸、糖類、ビタミン類などで、化粧料に配合した場合、保湿作用や肌荒れを防ぐ効果が期待できる。
【0025】
本願発明者らは、石油由来の化粧料が、皮膚への安全性が懸念されるとともに、環境に配慮したものとは言い難く、消費者や社会が求める安全・安心志向の要請に応えることが難しいものであることから、天然由来の原料に着目し、すべての成分を天然由来とするクレンジング化粧料及び保湿化粧料の開発に取り組んだ。
【0026】
特許文献2において、当該先行文献に係る発明者らの実験によって、ポリグリセリン中の環状体の含有量が35重量%、38重量%、40重量%及び47重量%であるポリグリセリン脂肪酸エステルに3価アルコールを単独で配合した場合が比較例として例示されており、性状が安定したバイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造を形成できないことが、明らかになっている。すなわち、ポリグリセリン中の環状体含有量が25重量%を超える天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いて、性状が安定したバイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造を形成することには課題を有することが示されている。当該先行技術文献において表4に取り上げられたポリグリセリン中の環状体の含有量が35重量%、38重量%、40重量%及び47重量%であるポリグリセリン脂肪酸エステル及び3価アルコールを用いたバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物の処方及び乳化安定性に関する評価を表1に示した。特許文献2では、「乳化安定性」と表現しているが、経時的な性状の変化、及び温度変化による性状の変化を示す表現であり、本明細書における「経時・温度安定性」と同義である。特許文献2では、乳化安定性に対して「×」の評価がなされていることからも、本願発明者らが克服すべき前記課題は、同業者において容易に解決できるものではないと解される。表中の配合比率の「%」は、「重量%」である。
【表1】

【0027】
天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルは、複雑な組成の混合物であるため、これを用いバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製する場合には、天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルに含有される多くの成分を、水相と油相とが三次元的に入り組んだ構造で両連続とした透明一相液に調製でき、かつ経時・温度安定性を備える配合の限定的な組成領域を見出す必要がある。
【0028】
そこで、本発明者らは、天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルの親油性と親水性のバランスや、複数の多価アルコールの混合系にも着目し、天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いて、経時・温度安定性を有するバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を得られる配合及び比率を探索することとした。
【0029】
[試験を行うための前提]
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリン中の異性体である環状体含有量が25重量%を超える天然由来のポリグリセリンと、脂肪酸とをエステル化することにより得られ、バイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造を形成するための界面活性剤としての役割を果たす。ポリグリセリン脂肪酸エステル以外の組成として、多価アルコール単独系、又は少なくとも2価アルコールを含み3価以上の多価アルコールを混合した多価アルコール混合系は、皮膚を保湿する役割を果たすことを仮定して配合し、油性成分は、バイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物においては、メイクを含む汚れを落とすための洗浄成分の役割を果たすことを仮定して配合することとした。
【0030】
[配合試料の選択手法]
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、後の段落で例示される天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルのうち代表的な複数種類を試料として選択した。
2価アルコールは、後の段落で例示される天然由来の2価アルコールのうち代表的な複数種類を選択した。
3価以上の多価アルコールは、後の段落で例示される天然由来の3価以上の多価アルコールのうち代表的な複数種類を選択した。
油性成分は、後の段落で例示される天然由来の油性成分のうち代表的な複数種類を選択した。
【0031】
上記の天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステル、多価アルコール及び油性成分を用いた化粧料の調製方法を以下に示す。
[調製方法1]
1.ポリグリセリン脂肪酸エステルと油性成分から成るA相と、多価アルコールと水から成るB相の各々を70℃にて加熱溶解する。
2.次に、B相をA相に添加し、撹拌溶解後35℃まで撹拌冷却することで、目的のバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を得る。
他の調製方法として、以下の調製方法が挙げられる。
[調製方法2]
1.水を除くポリグリセリン脂肪酸エステル、多価アルコール及び油性成分を70℃で加熱溶解する。
2.次に、70℃に加温した水を添加し、撹拌溶解後35℃まで撹拌冷却する方法によって、バイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を得ることができる。
上記の二方法は、調製方法の一例であり、これに限定されるものではない。
【0032】
[確認方法]
ポリグリセリン脂肪酸エステル、多価アルコール及び油性成分の配合を変えて、上記記載の調製方法によって得られた検体をガラス瓶に封入して外観並びに水性及び油性色素に対する溶解性の二項目について目視観察した。外観が透明一相液であり、水性及び油性色素の両者を溶解できる検体をバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物であると判定した。得られたバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を5℃、25℃、50℃のインキュベータに静置して、所定の期日が経過するごとに状態変化を目視観察し、透明一相液の外観を保持したものについて経時・温度安定性「○」とした。なお、所定の期日とは、10日目までは1日ごと、11日目から1カ月までは5日ごと、1カ月を超えた後は1カ月ごととした。
前述の仮定、配合試料の選択手法、化粧料の調製方法及びバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物の確認方法に基づいて、以下の試験を行った。
【0033】
以下では、天然由来のバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製するにあたって、ポリグリセリン脂肪酸エステル、多価アルコール及び油性成分の各々の成分が、どのような影響をもたらすかについて検証を行い、天然由来で経時・温度安定性を有するバイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造を備えた化粧料を得ることができる最適な配合及び比率について示す。
【0034】
(多価アルコール単独系、多価アルコール混合系でバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製する試験)
前述したように、従来、天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルに多価アルコールを単独で配合してバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製しようとした際には、経時・温度安定性を有する目的物を得られないことが知られている。なぜならば、天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルは複雑な組成の混合物であるため、バイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を得ても、経時・温度安定性を備えることには困難性を有するためである。したがって、天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステル及び2価以上の多価アルコールを用いたバイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造を備えた化粧料の調製に関しては追究されてこなかった。
【0035】
そこで、本明細書においては、市販されている天然由来の2価アルコール単独系、3価アルコール単独系、その他多価アルコール単独系、糖アルコール単独系、2価及び3価アルコールの混合系、2価と4価以上の多価アルコールとの混合系を用いてバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物が調製される組み合わせに関する試験(試験1~試験7)を改めて行い、経時・温度安定性を有するバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製可能な配合及び比率の探索を行った。糖アルコールは、糖のアルデヒド基が還元されて得られる多価アルコールの呼称である。
【0036】
[試験1]
天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルに2価アルコールを単独で配合してバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物の調製を行う試験を行った。
(配合試料)
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、イソステアリン酸ポリグリセリル-10(HLB値:13.7)及びラウリン酸ポリグリセリル-10(HLB値:14.7)を用いて、経時・温度安定性を有するバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製可能な組み合わせを検討した。なお、HLBは、界面活性剤の親水性-親油性比を示しており、乳化剤として界面活性剤を使用するときに、安定なエマルジョンを得るための指標であり、親水基をもたない場合は「0」、親油基をもたない場合を「20」とし、この間の数値で表すものである。HLB値が小さいバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物は、クレンジング化粧料として使用した際、洗い流し時において肌に油性の残留感を有し、水洗性が悪い。一方で、HLB値が適性の範囲を超えて大きくなると、外観に濁りのあるものが形成されるなど、性状が安定したバイコンティニュアス形成物を得ることはできないことが分かっており、上記を参考にして検討し選定を行った。
2価アルコールは、プロパンジオールを選定し、油性成分は、洗浄成分としてスクワランを選定して、試験を行った。
【0037】
(試験方法)
調製方法1、又は調製方法2を用いて、ポリグリセリン脂肪酸エステル、2価アルコール及び油性成分の配合及び比率を変えて調製を行い、前述の確認方法に基づいて得られた検体を目視観察した。
【0038】
(試験結果)
2価アルコールの単独系においてバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製した処方のデータを表2に示した。表中の配合比率の「%」は、「重量%」である。以下の表において、同じである。
2価アルコール単独系の配合では、界面活性剤の量や組成の調整によりバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を得られ、経時・温度安定性に関しては、7日の期間経過後も性状が維持され良好であった。
【表2】

【0039】
[試験2]
天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルに3価アルコールを単独で配合してバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物の調製を行う試験を行った。
(配合試料)
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、試験1で経時・温度安定性が良好であったバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製できたイソステアリン酸ポリグリセリル-10及びラウリン酸ポリグリセリル-10を用いて、経時・温度安定性を有するバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製可能な組み合わせを検討した。
3価アルコールは、グリセリンを選定し、油性成分は、試験1と同様に洗浄成分としてスクワランを選定し、試験を行った。
【0040】
(試験方法)
調製方法1、又は調製方法2を用いて、ポリグリセリン脂肪酸エステル、3価アルコール及び油性成分の配合及び比率を変えて調製を行い、前述の確認方法に基づいて得られた検体を目視観察した。
【0041】
(試験結果)
3価アルコールの単独系においてバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製した処方のデータを表3に示した。
3価アルコール単独系の配合では、界面活性剤の量や組成の調整によりバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を得られ、経時・温度安定性に関しては、7日の期間経過後も性状が維持され良好であった。
【表3】

【0042】
[試験3]
天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルにその他の多価アルコールを単独で配合してバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物の調製を行う試験を行った。
(配合試料)
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、試験1で経時・温度安定性が良好であったバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物が調製できたイソステアリン酸ポリグリセリル-1及びラウリン酸ポリグリセリル-10を用いて、経時・温度安定性を有するバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製可能な組み合わせを検討した。
その他の多価アルコールは、試験2で経時・温度安定性が良好であったバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物が調製できたグリセリンを参考にして、4価以上のポリグリセリンから選定した。
油性成分は、以上の試験と同様に洗浄成分としてスクワランを選定して試験を行った。
【0043】
(試験方法)
調製方法1、又は調製方法2を用いて、ポリグリセリン脂肪酸エステル、4価以上のポリグリセリン及び油性成分の配合及び比率を変えて調製を行い、前述の確認方法に基づいて得られた検体を目視観察した。
【0044】
(試験結果)
4価以上のポリグリセリンの単独系においてバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製した処方のデータのうちデカグリセリンを使用した際の試験結果例を表4に示した。その他の多価アルコール単独系としてデカグリセリンの配合では、界面活性剤の量や組成の調整によりバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を得られ、経時・温度安定性に関しては、7日の期間経過後も性状は維持され良好であった。表には示していないが、4価、6価及び8価のポリグリセリンの単独系においても、デカグリセリンと同様に経時・温度安定性において、良好な結果が得られた。
【表4】

【0045】
[試験4]
天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルに糖アルコールを単独で配合してバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物の調製を行う試験を行った。
(配合試料)
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、試験1で経時・温度安定性が良好であったバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物が調製できたイソステアリン酸ポリグリセリル-10及びラウリン酸ポリグリセリル-10を用いて、経時・温度安定性を有するバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製可能な組み合わせを検討した。
糖アルコールは、汎用的に使用されている6価のソルビトールを選定した。
油性成分は、以上の試験と同様に洗浄成分としてスクワランを選定して試験を行った。
【0046】
(試験方法)
調製方法1、又は調製方法2を用いて、ポリグリセリン脂肪酸エステル、糖アルコール及び油性成分の配合及び比率を変えて調製を行い、前述の調製方法に基づいて得られた検体を目視観察した。
【0047】
(試験結果)
糖アルコールであるソルビトールの単独系においてバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製した処方のデータを表5に示した。糖アルコール単独系の配合では、界面活性剤の量や組成の調整によりバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を得られ、経時・温度安定性に関しては、7日の期間経過後も性状は維持され良好であった。
【表5】

【0048】
[試験5]
天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルに2価アルコール及び3価アルコールを混合して配合し、バイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物の調製を行う試験を行った。
(配合試料)
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、試験1で経時・温度安定性が良好であったバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物が調製できたイソステアリン酸ポリグリセリル-10及びラウリン酸ポリグリセリル-10を用いて、経時・温度安定性を有するバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製可能な組み合わせを検討した。
2価アルコールとしては、試験1で経時・温度安定性が良好であったプロパンジオールを選択し、3価アルコールとしては、試験2で経時・温度安定性が良好であったグリセリンを選択した。プロパンジオールとグリセリンの組み合わせは、2価及び3価アルコール混合系における処方の一例である。油性成分は、洗浄成分としてイソステアリン酸メチルへプチルを選定した。
【0049】
(試験方法)
調製方法1、又は調製方法2を用いて、ポリグリセリン脂肪酸エステル、2価アルコール及び3価アルコールの混合系及び油性成分の配合及び比率を変えて調製を行い、前述の確認方法に基づいて得られた検体を目視観察した。当該試験では40℃の温度条件も加えて、40℃のインキュベータに静置して、所定の期日が経過するごとに状態変化を目視観察した。
【0050】
(試験結果)
プロパンジオール及びグリセリンの混合系を用いてバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製した処方のデータを表6に示した。プロパンジオール及びグリセリンの混合系の配合では、界面活性剤の量や組成の調整によりバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を得られ、経時・温度安定性に関しては、いずれの温度においても少なくとも10日の期間経過後、性状は維持され良好であった。
【表6】

【0051】
[比較例1]
試験5の結果と特許文献1に記載された実施例4の結果とを比較するためにバイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造形成に関する再現性試験を行った。
(試験方法)
特許文献1実施例4の処方を表7に示した。1,2-ヘキサンジオール以外の多価アルコール(表7では3価アルコールのグリセリン)及び精製水を混合した多価アルコール水溶液に、非イオン性界面活性剤を投入し、続いて油性成分(流動パラフィン)を加え良く混合し、均一な状態まで撹拌した。続いて、2価アルコール(1,2-ヘキサンジオール)を投入し撹拌溶解させ調製物を得た。
【表7】

【0052】
上記の再現性試験を実施したが、透明一相液ではなく、性状が安定したバイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造を形成するに至らなかった。また、25℃又は50℃の各温度において表7に記載の期間で分離がみられ経時・温度安定性も不良であるとの結果であった(図4参照)。
【0053】
(経時・温度安定性に関する試験)
従来、配合成分すべてが天然由来の処方では、バイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物の経時・温度安定性が良好ではないことが知られている。そこで、経時・温度安定性を向上させる成分について幅広く検証、スクリーニングを行った。その結果、脂肪酸が本発明に係る化粧料の経時・温度安定性に好影響を与えることを見出した。以下に、経時・温度安定性に関する試験について述べる。
【0054】
[試験6]
天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルに2価アルコール及び3価アルコールを混合して配合し、さらに脂肪酸のうちからラウリン酸を選定し、これを加えてバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物の調製を行う試験を行った。
(配合試料)
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、試験1で経時・温度安定性が良好であったバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物が調製できたイソステアリン酸ポリグリセリル-10及びラウリン酸ポリグリセリル-10を用いて、経時・温度安定性を有するバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製可能な組み合わせを検討した。
2価アルコールも同様に、試験1で経時・温度安定性が良好であったバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物が調製できたプロパンジオールを使用した。
3価アルコールも同様に、試験2で経時・温度安定性が良好であったバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物が調製できたグリセリンを使用した。
油性成分は、試験5と同様に洗浄成分としてイソステアリン酸メチルへプチルを選定し、温度安定成分として作用することを想定して脂肪酸であるラウリン酸を選定し、試験を行った。
【0055】
(試験方法)
調製方法1、又は調製方法2を用いて、ポリグリセリン脂肪酸エステル、2価及び3価アルコールの混合系の配合を試験5と同じにして、さらにラウリン酸を配合して得られた検体について前述した確認方法に基づいて目視観察した。当該試験では、試験5と同様に40℃の温度条件も加えて、40℃のインキュベータに静置して、所定の期日が経過するごとに状態変化を目視観察した。
【0056】
(試験結果)
2価及び3価アルコールの混合系においてバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製した処方のデータのうち、2価アルコールはプロパンジオール、3価アルコールはグリセリンを使用した試験5と同じ配合に、ラウリン酸を加えた場合の試験結果例を表8に示した。
ラウリン酸を配合すると、2価及び3価アルコールの混合系によって調製(試験5)され得られたバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物と比較して、さらに経時・温度安定性が良好なバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を得られることが判明した。
【表8】

【0057】
表9に温度安定成分としてラウリン酸を配合したバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物(温度安定成分配合品)、及び温度安定成分を配合していないバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物(温度安定成分無配合品)の経時・温度安定性を比較して示した。経時・温度安定性について、バイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造を保持することができた期間を示した。
【表9】

【0058】
25℃及び5℃の温度下においては、温度安定成分の有無に関係無く3カ月間バイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造を保持することが出来た。また、40℃及び50℃の温度下においては、温度安定成分無配合品でもバイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造を少なくとも10日間保持することができ、さらに、温度安定成分配合品では、50℃においても25日の期間、バイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造を安定して保持できる結果となった。当該試験によって、配合成分すべてが天然由来で温度安定成分を配合しない場合であっても、特許文献2で示された天然由来の原料と同様のポリグリセリン中の環状体含有量を有するポリグリセリン脂肪酸エステルを用いて調製されたバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物の経時・温度安定性を超えて、バイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造を安定して保持することができた。さらに、温度安定成分を配合することにより、環境温度(室温)の変化に伴って本発明に係る化粧料の温度が大きく変化した際にも、バイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物の性状を安定して保持できることを見出した。これにより、浴室などの温度変化の激しい場所に保管しても品質が変わることがなく経時・温度安定性に優れた化粧料を得ることができた。さらにスクリーニングを行った結果、すべてが天然由来成分の配合によるバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物の温度安定成分としては、脂肪酸のうち、炭素数8~22の飽和又は不飽和の脂肪酸が特に好ましいことも判明した。本発明に係る天然由来化粧料の経時・温度安定性が、良好であることを確認されたことにより、温度安定性に関する記載のない特許文献1とも大きく異なる特徴を有する。
【0059】
[試験7]
他にも、2価アルコールと、4価、6価、8価、12価又は6価の糖アルコールとの組み合わせでバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製することが可能である。
(配合試料)
試験7では、ポリグリセリン脂肪酸エステルは、試験1で経時・温度安定性が良好であったバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物が調製できたイソステアリン酸ポリグリセリル-10及びラウリン酸ポリグリセリル-10を用いて、経時・温度安定性を有するバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製可能な組み合わせを検討した。
多価アルコールの一例として、2価アルコールはプロパンジオール、2価アルコールに混合する4価、6価、8価又は12価アルコールは、ジグリセリン、テトラグリセリン、ヘキサグリセリン又はデカグリセリンを使用した。
加えて、2価アルコールに混合するアルコールとして、6価の糖アルコールであるソルビトールを使用した場合の試験を行った。
油性成分は、試験6と同様にラウリン酸及び洗浄成分としてスクワランを用いて、試験を行った。
【0060】
(試験方法)
調製方法1、又は調製方法2を用いて、ポリグリセリン脂肪酸エステル、2価及び4価以上の多価アルコール又は糖アルコール並びに油性成分の配合を変えて調製を行い、前述した確認方法に基づいて得られた検体を目視観察した。
【0061】
(試験結果)
2価アルコールと、4価、6価、8価若しくは12価アルコールとの混合系、又は6価の糖アルコールとの混合系を使用して試験を行った際に、バイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造の形成が確認できた処方を表10に示す。全ての多価アルコールの組み合わせにおいて、界面活性剤の量や組成の調整によりバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を得られ、経時・温度安定性において、7日の期間経過後も性状は安定していた。試験6の結果も総合して考慮すると、性状が安定したバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を得るためには、2価アルコールと3価以上の多価アルコールとの混合系では、混合する3価以上の多価アルコールの水酸基数が増える(糖アルコールを除く)と、3価以上の多価アルコールに対して2価アルコールの配合比率が増加する傾向を示すことが分かった。
【表10】

【0062】
また、2価アルコールを、例えばブチレングリコールに変更し上記の試験方法によってバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製した。その結果を示した表11では、2価アルコールとしてプロパンジオールを選択した場合と同様に、混合する3価以上の多価アルコールの水酸基数が増える(糖アルコールを除く)と、3価以上の多価アルコールに対して2価アルコールの配合比率が増加する傾向を示した。また、2価アルコールとして、プロパンジオール又はブチレングリコールを使用して行った試験結果を比較すると、傾向として、2価アルコールのアルキレン基の炭素数が増えると、界面活性剤のHLB値を小さくする調整が必要であることも分かった(表10及び表11を参照)。
【表11】

【0063】
従来、クレンジング化粧料に使用されてきた石油由来のポリグリセリン脂肪酸エステルの原料には、発がん性を有するグリシドールやエピクロルヒドリンなどが使用されるため、安全性が懸念される。一方で、本発明の天然由来化粧料は、ポリグリセリン脂肪酸エステルをはじめ、配合成分すべてにおいて天然由来の原料のみを使用して化粧料を得るため、石油由来の原料を用いた化粧料と比較して皮膚に対する安全性に配慮しており、原料供給面及び安全性面において持続的な使用が可能であるといえる。
【0064】
上記試験方法において検討を重ね配合を変更していくことで、天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルの親油性と親水性のバランスを調整し、かつ糖アルコールを含む2価以上の多価アルコールを添加していき、さらなる親油性と親水性のバランスの調整を行う2段階の調整を施し、さらに天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルと油分量について、特定の比率とする工夫により、目的とする水相と油相が透明一相液になる組成領域(バイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造を形成する領域)を見出すことができた。また、得られたバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物の性状の経時・温度安定性も十分なものであった。これにより、ポリグリセリン中の環状体の含有量が25重量%を超える天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルでは性状が安定したバイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造を形成できないとの課題について解決が図られた。
【0065】
(バイコンティニュアスマイクロエマルジョンとした際の天然由来と石油由来のクレンジング力の差)
上記より、天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いて経時・温度安定性が良好であるバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製することができたが、クレンジング化粧料として使用する際に、従来使用されてきた石油由来のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いてバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製したクレンジング化粧料とクレンジング化粧料としての性能の差について検証する必要があった。
【0066】
[試験8]
そこで、本発明では、天然由来であるポリグリセリン中の環状体含有量が25重量%を超えるポリグリセリンを原料とするポリグリセリン脂肪酸エステルを配合しバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製した天然由来のクレンジング化粧料と、石油由来のポリグリセリン脂肪酸エステルを配合しバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製した石油由来のクレンジング化粧料とを比較して、互いのクレンジング効果の差異点について官能試験を行った。
(配合試料)
試験6の結果に基づいて行ったバイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造を備えた天然由来のクレンジング化粧料の調製の処方を表12、石油由来のクレンジング化粧料の調製の処方を表13に示した。表13は、特許文献3の実施例1に記載された処方を使用した。
【表12】


【表13】

【0067】
(試験方法)
1.表12及び表13に示された試料を調製方法1、又は調製方法2を用いて、バイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造を備えたクレンジング化粧料を調製する。石油由来のクレンジング化粧料においても天然由来のクレンジング化粧料と同じ調製方法1、又は調製方法2を用いて、バイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造を備えたクレンジング化粧料を調製する。
2.BBクリーム(ファンデーションをベースに各種の機能が一つとなった化粧料)0.1gを手の甲の3cm×4cmの範囲へ塗布し、塗布後5分間静置した。
3.次に、天然由来又は石油由来のクレンジング化粧料0.5gを塗布したBBクリームの上に落とし、指にて往復30回マッサージを行い、BBクリームと馴染ませた。
4.その際、BBクリームとクレンジング化粧料の馴染みの程度について目視判定を行った(馴染み性の評価)。
5.その後、クレンジング化粧料を馴染ませたBBクリームを流水下にて往復10回マッサージして洗い流し、洗い流し後、BBクリームの手の甲への残留状態を目視判定した(クレンジング力評価)。
6.同時に残油感等の強弱を評価した(水洗性評価)。
【0068】
(評価方法)
各評価は5段階の点数評価とし、10名の被験者にて実施した。被検者には、いずれのクレンジング化粧料を使用しているか判別できないようブラインドで行った。
「馴染み性」、「クレンジング力」及び「水洗性」の各々の感覚スコアを、5点が良好、4点がやや良好、3点が普通、2点がやや不良、1点が不良とし、10名の被験者の感覚スコアを平均した。その平均値の差が1点未満の場合、性能が同程度であると判定した。
【0069】
(試験結果)
天然由来のクレンジング化粧料と石油由来のクレンジング化粧料のクレンジング性能を比較したものを表14に示した。
「馴染み性」、「クレンジング力」及び「水洗性」のすべての項目に関して、天然由来のクレンジング化粧料は、石油由来のクレンジング化粧料と比較して、感覚スコアの平均値の差が1点未満であり、同程度の性能を発揮した。したがって、従来の石油由来のポリグリセリン脂肪酸エステルを使用したクレンジング化粧料と本発明における天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルを使用したクレンジング化粧料との間に、クレンジング効果の差がないことが判明した。
【表14】

【0070】
(2価アルコール単独系、3価アルコール単独系、多価アルコール混合系でクレンジング化粧料としての性能を比較)
2価及び3価アルコール混合系以外にも、天然由来の2価若しくは3価アルコール単独系、又は少なくとも2価アルコールを含み、4価以上の多価アルコールを混合した多価アルコール混合系を使用し調製して、経時・温度安定性が良好なすべての原料が天然由来であるバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を得られることが前述の各種試験によって示された。そこで、それらのバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物のクレンジング化粧料としての性能を比較するために以下の試験を行った。
【0071】
[試験9]
プロパンジオール及びグリセリンを混合系(2価及び3価混合系)として使用したバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物(試験8で得られた天然由来のクレンジング化粧料)、プロパンジオールを単独(2価単独系)で使用したバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物、及びグリセリンを単独(3価単独系)で使用したバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物のクレンジング化粧料としての性能を比較することとした。
(配合試料)
試験1から試験6までの結果を参考にしたバイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造を備えた天然由来のクレンジング化粧料の処方を表15に示す。
【表15】

【0072】
(試験方法)
1.表15に示された試料を調製方法1、又は調製方法2を用いて、バイコンティニュアスマイクロエマルジョンを備えたクレンジング化粧料を調製する。
2.BBクリーム0.1gを手の甲の3cm×4cmの範囲へ塗布し、塗布後5分間静置した。
3.次に、2価及び3価アルコール混合系、2価アルコール単独系、又は3価アルコール単独系のクレンジング化粧料0.2gを、塗布したBBクリームの上に落とし、指にて往復30回マッサージを行い、BBクリームとクレンジング化粧料とを馴染ませた。
4.その際、BBクリームとクレンジング化粧料との馴染みの程度について目視判定した(馴染み性の評価)。
5.その後、クレンジング化粧料を馴染ませたBBクリームを流水下にて往復10回マッサージし洗い流した。
6.洗い流し後、BBクリームの手の甲への残留状態を目視判定(クレンジング力評価)し、同時に残油感等の強弱も評価(水洗性評価)した。
【0073】
(評価方法)
各評価は、試験8と同様に5段階の点数評価とし、10名の被験者にて実施した。被検者には、いずれのクレンジング化粧料を使用しているか判別できないようブラインドで行った。
「馴染み性」、「クレンジング力」及び「水洗性」の各々の感覚スコアを、5点が良好、4点がやや良好、3点が普通、2点がやや不良、1点が不良とし、10名の被験者の感覚スコアを平均した。その平均値の差が1点未満の場合、性能が同程度であると判定した。
【0074】
(試験結果)
2価アルコール及び3価アルコール混合系のバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物のクレンジング力、2価アルコール単独系及び3価アルコール単独系のクレンジング力の性能を比較した結果を表16に示した。「馴染み性」、「クレンジング力」及び「水洗性」のすべての項目に関して、いずれのクレンジング化粧料とも感覚スコアの平均値の差が1点未満であり、同程度の性能を発揮した。
【表16】

【0075】
(バイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物に単に水を含む水溶性成分を混ぜるだけではO/Wマイクロエマルジョン形成物が形成できないことに関する試験)
[試験10]
従来、石油由来のポリグリセリン脂肪酸エステルを使用してバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製した化粧料を水で希釈してO/Wマイクロエマルジョン形成物を得る技術が使用されている。しかしながら、天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルは、極めて複雑な組成の混合物であり、経時・温度安定性を良好にする最適な配合比率のコントロールが容易ではないため、天然由来原料からバイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造を形成する技術が発展して来なかった。加えて、天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルの可溶化力が石油由来の可溶化力と比べて低いこともあり、天然由来原料のみを使用したバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物の調製及び当該バイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を希釈したO/Wマイクロエマルジョン形成物の調製に関する研究は十分に進められていない。
したがって、本発明では、天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルを使用してバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製した化粧料において、水を含む水溶性成分で希釈することによってO/Wマイクロエマルジョン形成物を調製可能な配合及び比率を探索することにした。
【0076】
(配合試料)
天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いたバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物の処方を表17、当該天然由来バイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を、水を含む水溶性成分で希釈してO/Wマイクロエマルジョン形成物を得るための調製を行った化粧料(以下、天然由来の化粧料)の処方を表18に示した。
【表17】


【表18】

【0077】
(試験方法)
1.表17に示された試料を調製方法1、又は調製方法2を用いて、バイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製する。
2.水を含む水溶性成分で前記バイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を希釈し表18に示された化粧料を調製し、その外観を目視判定した。
【0078】
(判定方法)
バイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製した透明の天然由来の化粧料を、水を含む水溶性成分で希釈して、半透明となったものをO/Wマイクロエマルション構造が形成されたと判定し、白濁したものはO/Wマイクロエマルション構造が形成されなかったと判定した。
【0079】
ところで、バイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造は、油と水との界面張力が接近した界面活性剤の会合体であるため、その特性を用いることで、水を含む水溶性成分での希釈によりO/Wマイクロエマルジョン構造を形成することが可能である。しかし、その会合体を形成可能な領域の中でも、バイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造を希釈することによって、O/Wマイクロエマルジョン構造は限定的にしか形成されないことが知られている。つまり、バイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を希釈すれば、必ずしもO/Wマイクロエマルジョン形成物を調製できるわけではない。このことを実証するため、石油由来のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いたバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物の調製に関する特許文献3に記載された処方で得られたバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物に水を含む水溶性成分で希釈し、O/Wマイクロエマルジョン構造を形成するか否かについて確認した。
【0080】
(配合試料)
石油由来のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いたバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物は、表19に示した特許文献3の実施例1に記載された処方を使用した。水を含む水溶性成分で上記石油由来バイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を希釈して、O/Wマイクロエマルジョン形成物を得るための調製を行った化粧料(以下、石油由来の化粧料)の処方を表20に示した。
【表19】


【表20】

【0081】
(試験方法)
1.表19に示された試料を天然由来のクレンジング化粧料と同じ調製方法1、又は調製方法2を用いて、バイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製する。
2.水を含む水溶性成分で前記バイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を希釈し表20に示された化粧料を調製し、その外観を目視判定した。
【0082】
(判定方法)
バイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製した透明の石油由来の化粧料を、水を含む水溶性成分で希釈して、半透明となったものをO/Wマイクロエマルション構造が形成されたと判定し、白濁したものはO/Wマイクロエマルション構造が形成されなかったと判定した。
【0083】
(試験結果)
表18で処方された天然由来の化粧料と表20で処方された石油由来の化粧料との外観を比較したものを図1に示した。表18で処方した天然由来の化粧料(図に向かって右)がマイクロエマルジョン化により半透明となり、目的としたO/Wマイクロエマルジョン構造を形成することができたのに対して、表20で処方された石油由来の化粧料(図に向かって左)は白濁しており、目的としたO/Wマイクロエマルジョン構造を形成することはできなかった。
したがって、従来の石油由来のポリグリセリン脂肪酸エステルを使用した場合において、バイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を、水を含む水溶性成分で希釈することにより、必ずしもO/Wマイクロエマルジョン化するわけではないことが実証された。天然由来のバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を用いたO/Wマイクロエマルジョン化においては、水を含む水溶性成分で当該バイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を希釈することによってO/Wマイクロエマルジョン構造が形成された。その際のバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物のHLB値の範囲は11以上14以下が好ましい。
【0084】
(O/Wマイクロエマルジョン形成物とした際の天然由来と石油由来の保湿力の差)
[試験11]
本試験では、表18で処方された天然由来の化粧料と、表20で処方された石油由来の化粧料とを比較して、保湿効果に差を有するか否かについて確認した。
【0085】
天然由来保湿化粧料の処方を表21、石油由来保湿化粧料処方を表22に示した。
【表21】


【表22】

【0086】
(試験方法)
1.試験10と同様に調製方法1、又は調製方法2を用いて、バイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製し、水を含む水溶性成分で希釈して表21に示された処方の天然由来保湿化粧料及び表22に示された処方の石油由来保湿化粧料を調製する。
2.手の甲を2回石鹸で洗浄し、15分以上安静にしておく。
3.次に表21によって処方された天然由来保湿化粧料又は表22で処方された石油由来保湿化粧料0.1gを手の甲に塗布し、各々の保湿化粧料の「ノビの良さ」、手の甲への馴染みの程度(「馴染み性」)、「塗布後のしっとり感」、及び「塗布後の肌の柔らかさ」の四項目について官能評価を行った。
【0087】
(評価方法)
各評価は5段階の点数評価とし、10名の被験者にて実施した。被検者には、いずれの保湿化粧料を使用しているか判別できないようブラインドで行った。
「ノビの良さ」、「馴染み性」、「塗布後のしっとり感」、及び「塗布後の肌の柔らかさ」の各々の感覚スコアを、5点が良好、4点がやや良好、3点が普通、2点がやや不良、1点が不良とし、10名の被験者の感覚スコアを平均した。その平均値の差が1点未満の場合、性能が同程度であると判定した。
【0088】
(試験結果)
従来の石油由来保湿化粧料と本発明に係る天然由来保湿化粧料の保湿効果を比較した結果を表23に示した。
「ノビの良さ」、「馴染み性」、「塗布後のしっとり感」、及び「塗布後の肌の柔らかさ」のすべての項目について、天然由来保湿化粧料は、石油由来保湿化粧料と比較して感覚スコアの平均値の差が1点未満となり、性能が同程度であるとの評価が得られた。したがって、従来の石油由来のポリグリセリン脂肪酸エステルを使用した保湿化粧料と、本発明に係る天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルを使用した保湿化粧料との保湿効果には差が生じないことが判明した。
【表23】

【0089】
(油性成分の有無による保湿効果の優位性)
[試験12]
水溶性成分からなる一液相の保湿化粧料においては、油性成分を配合するために界面活性剤による可溶化を必要とする。しかし、可溶化する油性成分量についてはごく少量である。近年では、O/Wマイクロエマルジョン形成物を用いることで、一液相の保湿化粧料においても分離することなく油性成分を可溶化させて配合量を増量することが可能となった。油性成分を増量することで、水溶性の保湿成分及び水を主成分とする保湿化粧料における保湿性がさらに向上する。しかしながら、従来、天然由来の原料からなる保湿を目的とした化粧料では、バイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物の調製、また、当該形成物を水で希釈してO/Wマイクロエマルジョン形成物を調製することが容易ではなかったことから、そもそもバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を用いてO/Wマイクロエマルジョン化された形成物を保湿化粧料として利用すること自体が困難である問題があった。したがって、本試験では、経時・温度安定性を保持しつつ、保湿性向上のための油性成分を配合することが可能な天然由来成分のみの化粧料の配合及び比率を探索した。
【0090】
(配合試料)
天然由来の化粧料に油性成分としてスクワランを配合した処方(スクワラン配合品)、及び天然由来の保湿化粧料に油性成分としてスクワランを配合していない処方(スクワラン無配合品)を表24に示した。
【表24】

【0091】
(試験方法)
1.試験10と同様に調製方法1、又は調製方法2を用いて、天然由来のバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物を調製し、水を含む水溶性成分で希釈して表24に示された処方の天然由来保湿化粧料を調製する。
2.洗顔クリームにて洗顔し、温度20℃及び湿度50%のインキュベータにて15分間安静にした後、角層水分量と経皮水分蒸散量を測定した。
3.その後、左右各々の半顔にスクワラン配合品又はスクワラン無配合品を各0.5g塗布し馴染ませる。
4.角層水分量を、(株)ヤヨイ製のSKICON-200EX-USBを使用して測定する。
5.経皮水分蒸散量をCK electronic製のTewmeter TM300を用いて測定する。
6.塗布直後より、3時間までの間、任意の時間間隔で測定を行った。
【0092】
(試験結果)
スクワラン配合品とスクワラン無配合品とを使用した際の角層水分量について塗布前を「1」とした時の経時変化を図2に示した。スクワラン配合品(実線)は、測定時すべてにおいて、スクワラン無配合品(破線)と比較して角層の水分量が高い傾向が見られた。また、スクワラン配合品とスクワラン無配合品とを使用した際の経皮水分蒸散量について塗布前を「1」とした時の経時変化を図3に示した。スクワラン配合品(実線)は、測定時すべてにおいてスクワラン無配合品(破線)と比較して肌からの水分の蒸散が抑えられる傾向が見られた。これにより、経皮水分蒸散量を抑制することができる油性成分であるスクワランを配合しているO/Wマイクロエマルジョン形成物は、スクワラン無配合品に比べ、保湿性が優れていることが確認できた。したがって、本発明に係る天然由来保湿化粧料では、経時温度安定性を保持しつつ、保湿性向上のための油性成分を配合することが可能な天然由来成分のみの化粧料を得られた。
【実施例1】
【0093】
皮膚に使用される天然由来の化粧料の具体例として、クレンジング化粧料、洗顔料、ローション、美容液、ジェル等の製剤が例示される。しかし、これらに限定されるものではない。
【0094】
本発明で使用する、天然由来の環状体含有量が25重量%を超えるポリグリセリンを原料とするポリグリセリン脂肪酸エステルは、以下の方法で得ることができる。
1.まず、天然由来のグリセリンを原料とし、一般的なポリグリセリンの調製方法の一つであるグリセリンを脱水縮合する方法によってポリグリセリンを得る。当該調製方法により得られるポリグリセリンは、直鎖状のポリグリセリンの異性体である環状体のポリグリセリンを含有する特性を有している (LC/MSを用い分析した環状体の含有量等の内容が「FRAGRANCE JOURNAL 2003-12、P106~P112」に記載されている。)。
2.次に、当該環状体含有量が25重量%を超えるポリグリセリンと、天然由来の脂肪酸とをエステル化することによって天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルを得ることができる。
【0095】
環状体の含有量が25重量%を超えるポリグリセリンを原料とするポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることにより、本発明が目的とする効果を発揮する化粧品を再現良く調製することが出来る。
詳細には、異性体である環状体含有量が25重量%を超える天然由来のグリセリンから得られる重合度が2以上のポリグリセリンと、炭素数8~22の飽和若しくは不飽和又は飽和及び不飽和の混合脂肪酸をエステル化することによって得られるポリグリセリン脂肪酸エステルのことである。
平均重合度(n)とは、水酸基価から算出した値であり、下記の式1及び式2より、平均重合度が算出される。
分子量=74n+18・・・式1
水酸基価=56110(n+2)/分子量・・・式2
式2中の水酸基価とは、「基準油脂物性試験法」(日本油化学協会制定)に準拠し試験を行い、その結果より算出した値である。具体的には、試料1gを無水酢酸・ピリジン溶液によりアセチル化するとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに要した水酸化カリウム(KOH)のmg数で表される。
【0096】
上記ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、直鎖や分岐の飽和及び不飽和から選ばれた1種又は2種以上のものが挙げられる。例示すると、モノカプリン酸トリグリセリル、モノラウリン酸テトラグリセリル、モノラウリン酸ヘキサグリセリル、モノラウリン酸デカグリセリル、ジラウリン酸デカグリセリル、モノミリスチン酸ヘキサグリセリル、モノミリスチン酸デカグリセリル、ジミリスチン酸デカグリセリル、モノパルミチン酸ヘキサグリセリル、モノパルミチン酸デカグリセリル、ジパルミチン酸デカグリセリル、モノステアリン酸ヘキサグリセリル、モノステアリン酸デカグリセリル、ジステアリン酸デカグリセリル、モノオレイン酸ヘキサグリセリル、モノオレイン酸デカグリセリル、ジオレイン酸デカグリセリル、モノイソステアリン酸ヘキサグリセリル、モノイソステアリン酸デカグリセリル、ジイソステアリン酸デカグリセリル、モノ(イソステアリン酸/オレイン酸)デカグリセリル、ジ(ラウリン酸/オレイン酸)デカグリセリル、モノ(カプリン酸/イソステアリン酸)ヘキサグリセリル等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用する。上記の中で、特にHLB値が10.0を超えるポリグリセリン脂肪酸エステルが好ましいが、HLB値が10.0未満のポリグリセリン脂肪酸エステルと、HLB値が10.0を超えるポリグリセリン脂肪酸エステルとを併用し、HLB値が10.0以上となる割合で使用することも可能である。
【0097】
本発明に係る化粧料に使用する2価、3価以上の多価アルコール又は糖アルコールとしては、プロパンジオール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール、へプタンジオール等の天然由来の2価の多価アルコール類、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ヘキサグリセリン、デカグリセリン等の天然由来の3価以上の多価アルコール類、エリスリトール、キシリトール、ソルビット、トレハロース、スクロース、マルチトール、マンニトール等の天然由来の糖アルコール類が挙げられる。これらの中でもプロパンジオール、ブチレングリコール、グリセリンが好ましい。
【0098】
本発明に係る化粧料に使用する温度安定成分としては、油性成分の一種である炭素数8~22の飽和又は不飽和の脂肪酸が挙げられる。例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、パルミトレイン酸、アラキジン酸、アラキドン酸、イソステアリン酸、ウンデシレン酸、エルカ酸、オレイン酸、ラノリン脂肪酸、リノール酸、リノレン酸、ヒドロキシステアリン酸、ポリヒドロキシステアリン酸、リシノレイン酸、ポリリシノレイン酸、サフラワー油脂肪酸、コメヌカ脂肪酸、トール油脂肪酸、ヤシ脂肪酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等の脂肪酸類が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用する。これらの中でもカプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸が特に好ましい。
【0099】
本発明に係る化粧料に使用する天然由来の油性成分としては、例えば、スクワラン、(C13-15)アルカン等の炭化水素油類、アンズ核油、アボカド油、アマニ油、アーモンド油、アマナズナ種子油、アルガニアスピノサ核油、オリーブ果実油、カカオ脂、カヤ種子油、キュウリ油、ククイナッツ油、ゴマ油、コムギ胚芽油、コメヌカ油、コメ胚芽油、コーン油、サフラワー油、シア脂、ダイズ油、チャ実油、チャ葉油、チャ種子油、月見草油、ツバキ種子油、トウモロコシ胚芽油、ニンジン種子油、ブドウ種子油、ハトムギ油、パーム油、パーム核油、ヒマシ油、ヒマワリ種子油、ヘーゼルナッツ油、マカデミア種子油、マンゴー種子油、メドウフォーム油、綿実油、ヤシ油、ピーナッツ油、カニナバラ果実油、サザンカ油、ナタネ油、ホホバ種子油、チョウジ油、ラベンダー油、ローズマリー油、テレビン油、ユーカリ油等の植物油脂類、オレンジラフィー油、タートル油、馬油、牛脂、タラ肝油、ミンク油、卵黄油、液状ラノリン、ラノリン等の動物油類、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セタノール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、オクチルドデカノール、オクチルアルコール、デシルアルコール、デシルテトラデカノール、アラキジルアルコール、ヘキシルデカノール、水添ナタネ油アルコール、ベヘニルアルコール、ラノリンアルコール等の高級アルコール類、キミルアルコール、セラキルアルコール、バチルアルコール等のアルキルグリセリルエーテル類、コレステロール、ジヒドロコレステロール、フィトステロール等のステロール類、ミツロウ、鯨ロウ、カルナウバロウ、キャンデリラロウ、モンタンロウ、モクロウ、ライスワックス、ラノリンワックス、イボタロウ等のロウ類、アボカド油脂肪酸エチル、イソステアリン酸エチル、イソステアリン酸メチルヘプチル、イソステアリン酸ヘキシルデシル、イソステアリン酸オクチルドデシル、イソステアリン酸イソセチル、イソステアリン酸イソステアリル、イソステアリン酸グリセリル、イソステアリン酸コレステリル、イソステアリン酸バチル、イソステアリン酸フィトステリル、トリイソステアリン、イソステアリン酸水添ヒマシ油、エルカ酸オクチルドデシル、オクタン酸ペンタエリスリット、オクタン酸セチル、オクタン酸イソセチル、オクタン酸セテアリル、オクタン酸ステアリル、オクタン酸イソステアリル、オレイン酸エチル、オレイン酸オレイル、トリオレイン酸グリセリル、オレイン酸オクチルドデシル、オレイン酸デシル、カプリン酸セチル、カプリル酸セチル、トリカプリル酸グリセリル、エルカ酸オクチルドデシル、ステアリン酸ヘキシルデシル、ステアリン酸コレステリル、ステアリン酸イソセチル、ステアリン酸ステアリル、ステアリン酸バチル、ステアロイルオキシステアリン酸オクチルドデシル、ダイマージリノール酸水添ヒマシ油、(ジグリセリン/ジリノール酸/ヒドロキシステアリン酸)コポリマー、(イソステアリン酸ポリグリセリル-2/ダイマージリノール酸)コポリマー、ヒドロキシ脂肪酸コレステリル、トリイソステアリン酸グリセリル、ジイソステアリン酸ジグリセリル、トリイソステアリン酸ジグリセリル、テトライソステアリン酸ジグリセリル、ノナイソステアリン酸デカグリセリル、デカイソステアリン酸デカグリセリル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、トリミリスチン酸グリセリル、乳酸セチル、乳酸ミリスチル、乳酸ラウリル、乳酸オクチルドデシル、パルミチン酸イソステアリル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、パルミチン酸メチルヘプチル、パルミチン酸セチル、パルミチン酸イソセチル、ヒドロキシステアリン酸コレステリル、ミリスチン酸メチルヘプチル、ミリスチン酸イソセチル、ミリスチン酸イソステアリル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸ミリスチル、ラウリン酸ヘキシル、ラウリン酸メチルヘプチル、ラウリン酸イソステアリル、ラノリン脂肪酸コレステリル、リノール酸トコフェロール、リシノール酸オクチルドデシル、リンゴ酸ジイソステアリル、γ-オリザノール等のエステル油類等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用する。これらの中でもイソステアリン酸メチルヘプチル、スクワランが特に好ましい。
【0100】
また、本発明の天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いたバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物から成るクレンジング化粧料は、温度安定成分を配合することが好ましいが、化粧料において、清涼剤や溶剤、基材などに用いられるエタノールは、天然由来のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いたバイコンティニュアスマイクロエマルジョン形成物に配合が可能かについて検討した結果、経時・温度安定性に悪影響を及ぼす場合があったために含有しない方がよいことが分かった。
【0101】
本発明の天然由来化粧料には、本発明に係る配合成分である環状体含有量が25重量%を超えるポリグリセリンを原料とするポリグリセリン脂肪酸エステル、多価アルコール単独系、又は少なくとも2価アルコールを含み3価以上の多価アルコールを混合した多価アルコール混合系、温度安定成分、油性成分、水のほかに、化粧料用製剤であれば、例えば、その他の油性成分、その他の界面活性剤、保湿剤、防腐・殺菌剤、粉体成分、紫外線吸収剤、抗酸化剤、色素、香料、その他の生理活性成分等を必要に応じて適宜配合することができる。さらに、本発明の天然由来化粧料の有効性、特長を損なわない限り、化粧品原料として一般的に用いられる天然由来成分、例えば、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム等のムコ多糖類、アラビアガム、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、カラヤガム、カンテン、キサンタンガム、グアーガム、クインスシードガム、タマリンドガム、ローカストビーンガム、トラガントガム等の水溶性高分子類、β-カロチン、アスタキサンチン、ルテイン等の色素類、セラミド等のスフィンゴリン脂質類、フラボン、フラボノール、イソフラボン、アントシアン等のフラボノイド類、フェルラ酸等のポリフェノール類、油性のビタミン類、アミノ酸類、植物エキス類、精油、pH調整剤、防腐剤等と組み合わせて化粧料に配合することもできる。
【実施例2】
【0102】
本発明の天然由来化粧料をクレンジング化粧料として選択した場合では、例えば、イソステアリン酸メチルヘプチルを加えて調製することができる。クレンジング化粧料の配合の一例を表25に示した。表25の配合は一例であり、これに限定されるものではない。
【表25】

【実施例3】
【0103】
本発明の天然由来化粧料をジェルクリームとして選択した場合では、増粘剤などを加えることによって調製できる。増粘剤を加える前のバイコンティニュアスマイクロエマルジョン構造を有する天然由来化粧料の配合の一例を表26、増粘剤を加えたジェルクリームの配合の一例を表27に示した。表26、表27の配合は一例であり、これに限定されるものではない。
【表26】


【表27】

【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明に係る天然由来化粧料によれば、全ての配合成分を天然由来の原料とすることで、石油由来の原料から作成した化粧料と比較して、皮膚への安全性が高く、環境にも配慮され、かつ石油由来の化粧料と同等の効果を有する化粧料の提供が可能である。
図1
図2
図3
図4