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特許7519695リチウムイオン伝導性ナノファイバー、ナノファイバー集積体、複合膜、及び電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】リチウムイオン伝導性ナノファイバー、ナノファイバー集積体、複合膜、及び電池
(51)【国際特許分類】
   D01F 1/10 20060101AFI20240712BHJP
   D01F 6/12 20060101ALI20240712BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20240712BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20240712BHJP
【FI】
D01F1/10
D01F6/12 Z
D04H1/728
H01M10/0565
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021516142
(86)(22)【出願日】2020-04-21
(86)【国際出願番号】 JP2020017237
(87)【国際公開番号】W WO2020218306
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2019082602
(32)【優先日】2019-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物、2018年11月26日(26.11.2018)付け発表、名称:リチウムイオン伝導性ナノファイバーフレームワークを用いた固体高分子電解質の作製と全固体二次電池応用、http://www.knt-ec.net/2018/denchi59/youshi.html 学会発表、2018年11月29日(29.11.2018)付け発表、名称:リチウムイオン伝導性ナノファイバーフレームワークを用いた固体高分子電解質の作製と全固体二次電池応用、大阪府立国際会議場(グランキューブ大阪)大阪市北区中之島
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100150876
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】川上浩良
(72)【発明者】
【氏名】田中学
(72)【発明者】
【氏名】中澤 駿
(72)【発明者】
【氏名】落合 美月
(72)【発明者】
【氏名】松田 優
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/010474(WO,A1)
【文献】特開2018-032484(JP,A)
【文献】特表2016-532014(JP,A)
【文献】特開2016-102287(JP,A)
【文献】特開2017-004956(JP,A)
【文献】国際公開第2008/108392(WO,A1)
【文献】特開2019-189994(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102268783(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00 - 9/04
D04H 1/00 - 18/04
H01M 10/00 - 10/667
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分極を有する高分子化合物とリチウム塩とを含む混合物を微細繊維化してなり、
上記混合物における上記高分子化合物と上記リチウム塩との配合割合が、上記リチウム塩の配合量が上記高分子化合物の繰り返し単位に対し1/8~1/24当量となる量であることを特徴とするリチウムイオン伝導性ナノファイバー。
【請求項2】
上記高分子化合物の平均分子量が、100,000~500,000であることを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン伝導性ナノファイバー。
【請求項3】
上記高分子化合物が主鎖あるいは側鎖に極性基を有する高分子化合物であることを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン伝導性ナノファイバー。
【請求項4】
上記高分子化合物が強誘電性の高分子化合物であることを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン伝導性ナノファイバー。
【請求項5】
請求項1記載のリチウムイオン伝導性ナノファイバーが多数絡合されてなるナノファイバー集積体。
【請求項6】
請求項記載のナノファイバー集積体における上記リチウムイオン伝導性ナノファイバー間にマトリクス樹脂又はマトリクス樹脂と伝導性無機粒子との混合物を含浸させてなる複合膜。
【請求項7】
請求項記載の複合膜を電解質膜として有する電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池材料として有用なリチウムイオン伝導性ナノファイバー、ナノファイバー集積体、複合膜に関すると共にこれらを用いた電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
全固体型電池は安全性に優れ、サイクル寿命にも優れていることが知られている。さらに、高分子材料を用いて全固体型電池を作成できれば、軽量化や小型化が容易で、薄膜化もできるため、これまでにない全く新しい用途展開が期待できる。
そのため種々全固体型電池に対応できるような電池材料の提案がなされている。中でも柔軟性を付与しやすく、形状の自由度の高い電池を作成することが可能な、高分子電解質を電池材料として用いることも複数提案されている。
たとえば、特許文献1には、リチウムイオン伝導性ポリマーマトリックスまたはバインダーと、前記ポリマーマトリックスまたはバインダーに分散または化学結合された特定のリチウムイオン伝導性無機種と、を含み、記ポリマーマトリックスまたはバインダーが特特定の配合割合で配合されている固体電解質組成物が提案されている。そしてこのさい用いることができる前記ポリマーマトリックスまたはバインダーとしては、スルホン化ポリマー、スルホン化ポリマーと電子伝導性ポリマーとの混合物、スルホン化ポリマーと電子非伝導性ポリマーとの混合物などが挙げられている。
また、本発明者らは、特許文献2において、ナノファイバーを用いた電池材料について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2019-505961号公報
【文献】特開2016-102287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の提案にかかる高分子材料でもリチウム伝導性は向上しているものの、更なるリチウム伝導性の向上とともに長期安定性などの実用面での性能向上が望まれている。そのため、これらの性能がより向上された高分子材料の開発が要望されているのが現状である。
したがって本発明の目的は、軽量小型化が可能で、薄膜タイプであり、高いリチウムイオン伝導性を有すると共に長期安定性などにも優れた電池材料として利用可能なリチウムイオン伝導性ナノファイバー、ナノファイバー集積体、複合膜、及びこれらを利用した電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解消すべく鋭意検討した結果、特定のポリマーを用いた場合には、従来のリチウムイオン伝導性ナノファイバーのようにリチウムイオン化合物とポリマーとが複合化して高分子化合物がリチウムイオンを含有するのではなく、リチウムイオン化合物がポリマーと複合化せずにナノファイバー内に存在し、リチウムイオン伝導性が向上すると共に長期安定性が向上すること、すなわち上記目的を達成し得ることを知見し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の各発明を提供するものである。
1.分極を有する高分子化合物とリチウム塩とを含む混合物を微細繊維化してなるリチウムイオン伝導性ナノファイバー。
2.上記高分子化合物の平均分子量が、80,000~800,000であることを特徴とする1記載のリチウムイオン伝導性ナノファイバー。
3.上記混合物における上記高分子化合物と上記リチウム塩との配合割合が、上記リチウム塩の配合量が上記高分子化合物の繰り返し単位に対し1/4~1/48当量となる量であることを特徴とする1記載のリチウムイオン伝導性ナノファイバー。
4.上記高分子化合物が主鎖あるいは側鎖に極性基を有する高分子化合物であることを特徴とする1記載のリチウムイオン伝導性ナノファイバー。
5.上記高分子化合物が強誘電性の高分子化合物であることを特徴とする1記載のリチウムイオン伝導性ナノファイバー。
6.1記載のリチウムイオン伝導性ナノファイバーが多数絡合されてなるナノファイバー集積体。
7.6記載のナノファイバー集積体における上記リチウムイオン伝導性ナノファイバー間にマトリクス樹脂又はマトリクス樹脂と伝導性無機粒子との混合物を含浸させてなるか、又は非リチウムイオン伝導性ナノファイバー間にマトリクス樹脂又はマトリクス樹脂と伝導性無機粒子との混合物を含浸させてなる複合膜。
8.上記非リチウムイオン伝導性ナノファイバーが、PVDF-TrFEである7記載の複合膜。
9.8記載の複合膜を電解質膜として有する電池。
【発明の効果】
【0006】
本発明のリチウムイオン伝導性ナノファイバーは、高いリチウムイオン伝導性を有するものであり、本発明のリチウムイオン伝導性ナノファイバーを用いた、ナノファイバー集積体及び複合膜は、軽量小型化が可能で、薄膜タイプであり、高いリチウムイオン伝導性を有すると共に長期安定性などにも優れた電池材料として利用可能なものである。
また、本発明の電池は、このような性能を有するリチウムイオン伝導性ナノファイバー、ナノファイバー集積体、複合膜を用いているので、軽量小型化が可能で、薄膜タイプであり、高いリチウムイオン伝導性を有すると共に長期安定性などにも優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1(a)~(d)は、それぞれ実施例1、実施例2-1、実施例2-2、実施例2-3で得られたナノファイバー集積体のSEM写真(図面代用写真)である。
図2図2(a)~(c)は、それぞれ実施例3、実施例4、実施例5で得られたナノファイバー集積体のSEM写真(図面代用写真)である。
図3図3(a)~(c)は、それぞれ比較例1、比較例2、比較例3で得られたナノファイバー集積体のSEM写真(図面代用写真)である。
図4図4(a)は実施例7-1で得られた複合膜2-1のSEM写真(図面代用写真)であり、(b)は実施例12で得られた複合膜7のSEM写真(図面代用写真)である。
図5図5は、実施例8で得られた複合膜4のサイクリックボルタンメトリー(CV)およびリニアスイープボルタンメトリー(LSV)測定結果を示すチャートである。
図6図6は、実施例8で得られた複合膜3を用いて製造したコインセルの充放電曲線を示すチャートである。
図7図7は、実施例8で得られた複合膜3及び比較例7で得られた単独膜を用いて製造したコインセルの放電容量値の変化を示すチャートである。
図8図8は実施例8で得られた複合膜3のリチウムデンドライト試験の結果を示すチャートである。
図9図9は、比較例7で得られた単独膜1のリチウムデンドライト試験の結果を示すチャートである。
図10図10はFT-IRの結果を示すチャートであり、(a)は実施例2で得られたナノファイバーの結果、(b)は実施例1で得られたナノファイバーの結果、(c)は比較例1のナノファイバーの結果を示す。
図11図11はDSCの結果を示すチャートである。
図12図12(a)は、実施例(A-2)の充放電曲線を示すチャートであり、(b)は、放電容量値の変化を示すチャートである。
図13図13(a)は、実施例B-1のリチウムデンドライト試験結果を示すチャートであり、(b)は、比較例B-2のリチウムデンドライト試験結果を示すチャートであり、(c)は、比較例B-3のリチウムデンドライト試験結果を示すチャートである。
図14図14(a)は、比較例B-4のリチウムデンドライト試験結果を示すチャートであり、(b)は、比較例B-5のリチウムデンドライト試験結果を示すチャートである。
図15図15(a)及び(b)は、それぞれ実施例C-1の複合膜のWAXD測定の結果を示すチャートである。
図16図16(a)は、実施例C-9の繊維集積体のSEM写真(図面代用写真)であり、(b)は、実施例C-10の繊維集積体のSEM写真(図面代用写真)であり、(c)は、実施例C-12の繊維集積体のSEM写真(図面代用写真)である。
図17図17(a)は、実施例D-4の繊維集積体のSEM写真(図面代用写真)であり、(b)は、実施例D-5の繊維集積体のSEM写真(図面代用写真)であり、(c)は、参考の繊維集積体のSEM写真(図面代用写真)である。
図18図18(a)は、参考の複合膜のSEM写真(図面代用写真)であり、(b)は、実施例D-7の複合膜のSEM写真(図面代用写真)であり、(c)は、実施例D-8の複合膜のSEM写真(図面代用写真)である。
図19図19(a)は、実施例D-4~D-5で得られた繊維のIRチャートであり、(b)は、それらのDSCチャートである。
図20図20(a)は、実施例D-7の複合膜の充放電試験結果を示すチャートである。
図21図21(a)は、実施例E-4の繊維集積体のSEM写真(図面代用写真)であり、(b)は、実施例E-5の繊維集積体のSEM写真(図面代用写真)であり、(c)は、実施例E-6の繊維集積体のSEM写真(図面代用写真)であり、(d)は、比較例E-7の繊維集積体のSEM写真(図面代用写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
<リチウムイオン伝導性ナノファイバー>
本発明のリチウムイオン伝導性ナノファイバー(以下、単に「ナノファイバー」という場合もある)は、分極を有する高分子化合物とリチウム塩とを含む混合物を微細繊維化してなるリチウムイオン伝導性ナノファイバーである。
以下、詳細に説明する。
【0009】
(高分子化合物)
本発明のリチウムイオン伝導性ナノファイバーにおいて用いられる上記高分子化合物は、分極を有する高分子化合物である。
ここで、「分極を有する高分子化合物」としては、側鎖に極性基を有する高分子化合物、またはその他の高分子化合物を好ましくあげることができる。
上記の側鎖に極性基を有する高分子化合物としては、極性基としてニトリル基(CN)、水酸基(OH)、ハロゲン基(Cl等)を有する高分子化合物を挙げることができる。具体的には、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリエピクロロヒドリン、ポリ(ヒドロキシエチルアクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシプロピルアクリレート)、ポリ(ヒドロキシプロピルメタクリレート)、ポリ(シアノエチルアクリレート)、ポリ(シアノエチルメタクリレート)、ポリ(シアノプロピルアクリレート)、ポリ(シアノプロピルメタクリレート)、ポリ(p-ヒドロキシスチレン)、ポリ(p-シアノスチレン)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等を挙げることができる。
上記のその他の高分子化合物としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTrFE)、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン11、ナイロン12(いずれも商品名)等のポリアミド、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリウレア、ポリチオウレア、ポリβプロピオラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸等を挙げることができる。
また、上記の分極を有する高分子化合物としては、上述した各高分子の共重合体(ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれも可能)、例えば、ポリ(フッ化ビニリデンーコー三フッ化エチレン)(PVDF-TrFE)共重合体、ポリ(フッ化ビニリデンーコー六フッ化プロピレン)(PVDF-HFP)共重合体、ポリ(一フッ化エチレンーコー三フッ化エチレン)(PVF-TrFE)共重合体を用いることもできる。また、使用に際しては、それぞれ単独で用いることができる他、2種以上混合して用いることもできる。
上記高分子化合物の平均分子量は、質量平均分子量で、80,000~800,000であるのが好ましく、100,000~500,000であるのが更に好ましい。
【0010】
(リチウム塩)
本発明において用いられる上記リチウム塩としては、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムクロライド(LiCl)、リチウムブロマイド(LiBr)、過塩素酸リチウム(LiClO)、テトラフルオロボレート(LiBF)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、リチウムビスフルオロスルホニルイミド(LiFSI)、リチウムビスパーフルオロエチルスルホニルイミド(LiBETI)、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)リチウムフルオロアルキルボレート(LiFAB)、リチウムジフルオロオキサラートボレート(LiFOB)、リチウムビスオキサレートボラート(LiBOB)などを挙げることができ、使用に際しては単独または2種以上混合して用いることができる。
【0011】
(配合割合)
上記混合物における上記高分子化合物と上記リチウム塩との配合割合は、上記リチウム塩の配合量が上記高分子化合物の繰り返し単位に対し1/4~1/48当量となる量であるのが好ましく、1/8~1/24であるのが更に好ましい。
配合割合が、上述の範囲外であると、リチウムイオン伝導性が低下するか、またはナノファイバー化ができなくなる場合があるので、上述の範囲内とするのが好ましい。
【0012】
(他の成分)
本発明においては、上記高分子化合物及び上記リチウム塩以外に、本発明の所望の効果を損なわない範囲で通常この種のナノファイバーに用いられる種々添加剤を添加混合することもできる。
(形状等)
上記リチウムイオン伝導性ナノファイバーの繊維径(直径)は、50nm~1000nmとするのが好ましい。また、繊維長は10μm以上であるのが好ましく、アスペクト比は100以上であるのが好ましい。
また、本発明のリチウムイオン伝導性ナノファイバーは、分極の大きなβ晶が形成されているのが好ましく、ファイバー全体に対して60~100%存在するように形成されているのが好ましい。
繊維長および繊維経の測定法及びβ晶の測定法については後述の実施例において詳述する。
【0013】
(製造方法)
本発明のリチウムイオン伝導性ナノファイバーは、特開2005-194675号公報記載の名のファイバーの製造方法に準じて製造することができ、具体的には、以下のようにして製造することができる。
すなわち、まず、上記高分子化合物と上記リチウム塩とを混合した混合物を、溶媒に溶解して高分子溶液を調製する。次いで、エレクトロスピニング装置「エスプレイヤ-ES-1000」(商品名、Fuence社製)に、上記高分子溶液が充填されたシリンジをセットして、エレクトロスピニング法を行うことにより得ることができる。なお、コレクターとしては、テフロン(登録商標)基板の上にアルミ箔を設置したものを用いることができる。また、溶液の放出流速は0.00005mm/s~0.0005mm/sとすることができ、シリンジと基板との距離は、5cm~20cmとすることができ、シリンジ-基板間に印加する電圧は5kV~30kVとすることができる。この際得られるナノファイバー繊維を集積させることにより、ナノファイバーを調整すると同時に繊維集積体を調整することができる。
この際用いる溶媒としてはこの種のエレクトロスピニング法に用いられるものを特に制限なく用いることができるが、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の極性溶媒等を用いることができる。また、溶液の濃度は特に制限されずエレクトロスピニング法において採用される濃度を適宜採用できるが、本発明においては、上記混合物の濃度が5~40重量%であるのが好ましく、5~25重量%であるのが更に好ましい。上記混合物の濃度が5重量%未満であると、ナノファイバー化が困難であり、40重量%を超えると製造装置において溶液の吐出ができず、ナノファイバー化が困難となる場合があるので、上記範囲内とするのが好ましい。
また、本発明においては、上述のβ晶を形成するために繊維形成後にアニーリング処理を行うのが好ましい。アニーリング処理の温度は100~180℃とするのが好ましく、時間は10~50時間とするのが好ましい。
【0014】
<ナノファイバー集積体>
ついで、本発明のナノファイバー集積体について説明する。
本発明のナノファイバー集積体は、上述の本発明のリチウムイオン伝導性ナノファイバーが多数絡合されてなる繊維集積体である(不織布、以下この繊維集積体を「繊維集積体A」という場合がある)。
以下、説明する。
上記繊維集積体は、上記リチウムイオン伝導性ナノファイバーを絡合させてなるものである。本発明においては、上述のリチウムイオン伝導性ナノファイバーを上述の製造方法で製造すると形成される繊維が多数ランダムに吐出されることにより、各繊維が形成されると共に絡合して繊維集積体となるので、繊維の製造と共に形成することが可能である。繊維集積体の厚みは5~50μmであるのが好ましく、坪量は1~4g/mであるのが好ましい。さらに、上述のアニーリング処理を行うことでβ晶を形成するだけでなく、繊維集積体としての強度を向上させることができるので、上記のアニーリング処理を行うのが好ましい。
また、上記繊維集積体にはその内部に空隙が存在するが、該空隙は、平均孔径が好ましくは50nm~5000nm、更に好ましくは100nm~2000nmであり、空隙率((全空隙の体積/全体積)×100)が好ましくは50%~95%で、更に好ましくは60%~90%である。
ここで、平均孔径は不織布の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、20点の空隙についてその最大径を計測し、その平均を採り、その値とした。また、標準偏差を±の値で表すものである。
また、空隙率は、同様にSEMにより観察した空隙を画像解析する手法(東レリサーチセンター「The TRC News No.117(Sep.2013)”Liイオン電池における最新SEM観察事例-経験を活用したダメージレス断面加工への挑戦-”」等参照)等により測定できるが、不織布の一定体積当たりの重量、見かけの体積(表面のみかけの面積と断面SEM観察より算出した膜厚を使用して算出される体積)、及び比重を下記式に代入して空隙率を得た。
空隙率(%)=[1-{不織布の一定体積当たりの重量(g)/(表面のみかけの面積(cm)×膜厚(cm)×比重(g/cm))}]×100
膜厚は電磁式デジタル膜厚計[商品名「LE-300」、(株)ケット科学研究所社製)]を用い、30箇所以上、常法に従って測定し、その平均値をもって膜厚とした。
る。
本発明においては、電極上にナノファイバー集積体が積層されると共にこのナノファイバー集積体にマトリクス樹脂が充填された構造(電解質膜)として電池材料として用いることができる(以下、この不織布に電解質マトリクスが充填されたもののみをさして、「複合膜」という場合がある)。
(他の成分)
上記ナノファイバー集積体においては、上述の各成分のほか、本発明の所望の効果を損なわない範囲で種々成分を添加することができる。
【0015】
<複合膜>
ついで、本発明の複合膜について説明する。
本発明の複合膜は、上述の本発明のナノファイバー集積体としての繊維集積体Aにおける上記リチウムイオン伝導性ナノファイバー間にマトリクス樹脂又はマトリクス樹脂と伝導性無機粒子との混合物が含浸されてなるか、又は分極を有する高分子化合物を具備してなる非リチウムイオン伝導性ナノファイバーが多数絡合された繊維集積体(不織布、以下この繊維集積体を「繊維集積体B」という)における非リチウムイオン伝導性ファイバー間にマトリクス樹脂又はマトリクス樹脂と伝導性無機粒子との混合物が含浸されてなる。
まず、繊維集積体Aを用いた複合膜について説明する。
(マトリクス樹脂)
本発明において上記ナノファイバー集積体に含浸されるマトリクス樹脂としては、ポリエチレンオキサイド(PEO)(Aldrich社等)等の高分子化合物にリチウム塩などのイオン伝導体を混合してなる高分子マトリクス等を用いることができる。すなわち、本発明において上記マトリクス樹脂としては、上記高分子化合物のみでも良いが、上記高分子化合物にリチウムイオン塩が導入されてなるリチウムイオン伝導性高分子を好ましく用いることができる。
ここで、上記高分子化合物としてポリエチレンオキサイド(PEO)を用いる場合、その粘度平均分子量Mv(GPC法などの常法により測定)は、10000~1000000であるのが好ましく、重合度は、12~25000であるのが好ましく、市販品を用いることもできる。
上記リチウム塩としては、上述のリチウム塩を用いることができ、リチウム塩の導入量は、高分子化合物としてPEOを用いる場合、そのエーテル酸素2~48個に対してリチウムが1個配位する量とするのが好ましい。
本発明においては、マトリクス樹脂を単独で用いることもできるが、マトリクス樹脂と伝導性無機粒子との混合物を用いることもできる。この際、伝導性無機粒子としては、酸化物系固体電解質であるアルミニウム置換リン酸ゲルマニウムリチウムLAGP: Li1. 5Al0.5Ge1.5(PO43、リン酸ジルコニウムリチウムLZP:LiZr(PO)、ランタンジルコン酸リチウムLLZ:LiLaZr12、ランタンリチウムチタン酸化物LLTO:La2/3-xLi3xTiO3、オキシ窒化リン酸リチウムLIPONなど、硫化物系固体電解質であるLi10GeP12、LiS-P等を挙げることができ、またその配合量は、上記マトリクス樹脂100重量部に対して、伝導性無機粒子5~95重量部とするのが好ましい。
(配合量)
上記マトリクス樹脂の配合割合は、上記ナノファイバー集積体における空隙の体積に対して1~5倍の体積量とするのが好ましく、電解質膜等の電池材料とした場合において、電極に対する界面形成能がより向上する観点から2~4倍の体積量とするのが更に好ましい。
(形状)
本発明の複合膜は、上述の本発明のナノファイバー集積体の空隙に上記マトリクス樹脂が含浸されてなるものであるが、該空隙への含浸率はほぼ100%であり、不織布状のナノファイバー集積体の両表面にマトリクス樹脂の単独の層が形成されるようになっていてもよい。このようにマトリクス樹脂単独の層が形成される場合、その厚みは、ナノファイバー集積体の厚みの1/1~1/5とするのが好ましい。すなわち、単独の層が形成される場合には、両面に形成されるとして、マトリクス樹脂単独の層/ナノファイバー集積体中にマトリクス樹脂が含浸された層/マトリクス樹脂単独の層の3層構造となる。
(他の成分)
本発明においては上述の各成分の他に本発明の所望の効果を損なわない範囲で種々添加剤を添加することができる。
(製造方法)
本発明の複合膜は、上記マトリクス樹脂を溶媒に溶解してなるマトリクス溶液を、上記ナノファイバー集積体に含浸させ、その後乾燥させることで得ることができる。この際、用いられる溶媒としては、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、ジクロロメタン、THF、メタノール、純水等を用いることができ、溶液の濃度は、3~20重量%とするのが好ましい。
また、別の製造方法として、上記のマトリクス樹脂を構成する上記高分子化合物の原料としてのモノマーを、上記リチウム塩及びアゾビスイソブチロニトリル等の重合開始剤、並びに必要に応じて上記溶媒と混合してなる混合液を上記ナノファイバー集積体に含浸させ、ついで所定の条件(用いる重合開始剤に従じる)にて重合を行うことによりマトリクス樹脂化させることで、複合膜を得ることもできる。この際のリチウム塩の配合割合は、上述のマトリクス樹脂における所望のリチウム塩の含有量により決定される。
また、乾燥方法は、はじめに大気中で常温乾燥を行なった後、加熱真空乾燥を行うのが好ましい。常温乾燥の乾燥時間は、8~48時間とするのが好ましい。また加熱真空乾燥における乾燥温度は、50~120℃とするのが好ましく、乾燥時間は5~50時間とするのが好ましい。このように2段階の乾燥処理を行うことでより緻密化することができる。
【0016】
次に、分極を有する高分子化合物を具備してなる非リチウムイオン伝導性ナノファイバーが多数絡合されてなるナノファイバー集積体(不織布、以下この繊維集積体を「繊維集積体B」という)を用いた複合膜について説明する。
〔繊維集積体B〕
上記繊維集積体Bは、分極を有する高分子化合物を具備してなる非リチウムイオン伝導性ナノファイバーが多数絡合された繊維集合体中にリチウム含有化合物が混合されてなる繊維集積体である。
(非リチウムイオン伝導性ナノファイバー)
上記繊維集積体Bに用いうる上記非リチウムイオン伝導性ナノファイバーは、分極を有する高分子化合物を用いて形成されるものである。ここで、「分極を有する高分子化合物」としては、側鎖に極性基を有する高分子化合物、またはその他の高分子化合物を好ましくあげることができる。
上記の側鎖に極性基を有する高分子化合物としては、極性基としてニトリル基(CN)、水酸基(OH)、ハロゲン基(Cl等)を有する高分子化合物を挙げることができる。具体的には、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリエピクロロヒドリン、ポリ(ヒドロキシエチルアクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシプロピルアクリレート)、ポリ(ヒドロキシプロピルメタクリレート)、ポリ(シアノエチルアクリレート)、ポリ(シアノエチルメタクリレート)、ポリ(シアノプロピルアクリレート)、ポリ(シアノプロピルメタクリレート)、ポリ(p-ヒドロキシスチレン)、ポリ(p-シアノスチレン)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等を挙げることができる。
上記のその他の高分子化合物としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTrFE)、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12(いずれも商品名)等のポリアミド、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリウレア、ポリチオウレア、ポリβプロピオラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸等を挙げることができる。
また、上記の分極を有する高分子化合物としては、上述した各高分子の共重合体(ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれも可能)、例えば、ポリ(フッ化ビニリデンーコー三フッ化エチレン)(PVDF-TrFE)共重合体、ポリ(フッ化ビニリデンーコー六フッ化プロピレン)(PVDF-HFP)共重合体、ポリ(一フッ化エチレンーコー三フッ化エチレン)(PVF-TrFE)共重合体を用いることもできる。また、使用に際しては、それぞれ単独で用いることができる他、2種以上混合して用いることもできる。
上記高分子化合物の平均分子量は、質量平均分子量で、80,000~800,000であるのが好ましく、100,000~500,000であるのが更に好ましい。
特に本発明においては、上記の分極を有する高分子化合物として、特に、下記化学式で示されるポリビニリデンフルオライド-トリフルオロエチレン共重合体(PVDF-TrFE式中、n、mは任意の整数を示すが、好ましくはnが50~80、mが20~50である)、ポリビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HFP式中、n、mは任意の整数を示すが、好ましくはnが50~80、mが20~50である)、
ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン11、ナイロン12(いずれも商品名)等のポリアミド等を好ましく用いることができる。
【化1】
(他の成分)
本発明においては、上記の分極を有する高分子化合物及び上記リチウム塩以外に、本発明の所望の効果を損なわない範囲で通常この種のナノファイバーに用いられる種々添加剤を添加混合することもできる。
(製造方法)
また、上記高分子を用いたナノファイバーの形成は、上述の本発明のナノファイバーの製造方法と同様にして行うことができる。また、繊維集積体とする方法(不織布化方法)も上述の繊維集積体Aと同様にして行うことができる。
(形状等)
上記非リチウムイオン伝導性ナノファイバーの繊維径(直径)は、50nm~1000nmとするのが好ましい。また、繊維長は10μm以上であるのが好ましく、アスペクト比は100以上であるのが好ましい。
また、本発明のリチウムイオン伝導性ナノファイバーは、分極の大きなβ晶が形成されているのが好ましく、ファイバー全体に対して60~100%存在するように形成されているのが好ましい。
繊維長および繊維経の測定法については後述の実施例において詳述する。
(製造法)
上記繊維集積体Bは、上述の繊維集積体Aと同様にして製造することができる。
(空隙率、膜厚)
上記繊維集積体Bの厚みは5~50μmであるのが好ましく、坪量は1~4g/mであるのが好ましい。
また、上記繊維集積体Bにはその内部に空隙が存在するが、該空隙は、平均孔径が好ましくは50nm~5000nm、更に好ましくは100nm~2000nmであり、空隙率((全空隙の体積/全体積)×100)が好ましくは50%~95%で、更に好ましくは60%~90%である。そして、上記リチウム含有化合物は、この空隙内に存在することになる。
(他の成分)
上記繊維集積体Bにおいては、上述の各成分のほか、本発明の所望の効果を損なわない範囲で種々成分を添加することができる。
(マトリクス樹脂)
本発明において上記繊維集積体Bに含浸されるマトリクス樹脂としては、ポリエチレンオキサイド(PEO)(Aldrich社等)等の高分子化合物にリチウム塩などのイオン伝導体を混合してなる高分子マトリクス等を用いることができる。すなわち、本発明において上記マトリクス樹脂としては、上記高分子化合物のみでも良いが、上記高分子化合物にリチウムイオン塩が導入されてなるリチウムイオン伝導性高分子を好ましく用いることができる。
ここで、上記高分子化合物としてポリエチレンオキサイド(PEO)を用いる場合、その粘度平均分子量Mv(GPC法などの常法により測定)は、10000~1000000であるのが好ましく、重合度は、12~25000であるのが好ましく、市販品を用いることもできる。
上記リチウム塩としては、下記リチウム塩等を用いることができ、使用に際しては単独または2種以上混合して用いることができる。上記マトリクス樹脂におけるリチウム塩の導入量は、高分子化合物としてPEOを用いる場合、そのエーテル酸素2~48個に対してリチウムが1個配位する量とするのが好ましい。
(リチウム塩)
リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムクロライド(LiCl)、リチウムブロマイド(LiBr)、過塩素酸リチウム(LiClO)、テトラフルオロボレート(LiBF)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、リチウムビスフルオロスルホニルイミド(LiFSI)、リチウムビスパーフルオロエチルスルホニルイミド(LiBETI)、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)リチウムフルオロアルキルボレート(LiFAB)、リチウムジフルオロオキサラートボレート(LiFOB)、リチウムビスオキサレートボラート(LiBOB)等。
本発明においては、上記マトリクス樹脂を単独で用いることもできるが、マトリクス樹脂と伝導性無機粒子との混合物を用いることもできる。この際、伝導性無機粒子としては、酸化物系固体電解質であるアルミニウム置換リン酸ゲルマニウムリチウムLAGP: Li1.5Al0.5Ge1.5(PO43、リン酸ジルコニウムリチウムLZP:LiZr(PO)、ランタンジルコン酸リチウムLLZ:LiLaZr12、ランタンリチウムチタン酸化物LLTO:La2/3-xLi3xTiO3、オキシ窒化リン酸リチウムLIPONなど、硫化物系固体電解質であるLi10GeP12、LiS-P等を挙げることができ、またその配合量は、上記マトリクス樹脂100重量部に対して、伝導性無機粒子5~95重量部とするのが好ましい。
(配合量)
上記マトリクス樹脂の配合割合は、上記ナノファイバー集積体における空隙の体積に対して1~5倍の体積量とするのが好ましく、電解質膜等の電池材料とした場合において、電極に対する界面形成能がより向上する観点から2~4倍の体積量とするのが更に好ましい。
(形状)
本発明の複合膜は、上述の本発明のナノファイバー集積体の空隙に上記マトリクス樹脂が含浸されてなるものであるが、該空隙への含浸率はほぼ100%であり、不織布状のナノファイバー集積体の両表面にマトリクス樹脂の単独の層が形成されるようになっていてもよい。このようにマトリクス樹脂単独の層が形成される場合、その厚みは、ナノファイバー集積体の厚みの1/1~1/5とするのが好ましい。すなわち、単独の層が形成される場合には、両面に形成されるとして、マトリクス樹脂単独の層/ナノファイバー集積体中にマトリクス樹脂が含浸された層/マトリクス樹脂単独の層の3層構造となる。
(他の成分)
本発明においては上述の各成分の他に本発明の所望の効果を損なわない範囲で種々添加剤を添加することができる。
(製造方法)
本発明の複合膜は、上記マトリクス樹脂を溶媒に溶解してなるマトリクス溶液を、上記ナノファイバー集積体に含浸させ、その後乾燥させることで得ることができる。この際、用いられる溶媒としては、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、ジクロロメタン、THF、メタノール、純水等を用いることができ、溶液の濃度は、3~20重量%とするのが好ましい。
また、乾燥方法は、はじめに大気中で常温乾燥を行なった後、加熱真空乾燥を行うのが好ましい。常温乾燥の乾燥時間は、8~48時間とするのが好ましい。また加熱真空乾燥における乾燥温度は、50~120℃とするのが好ましく、乾燥時間は5~50時間とするのが好ましい。このように2段階の乾燥処理を行うことでより緻密化することができる。
【0017】
<電池>
上記の本発明の複合膜は、これを電解質膜として用い、通常のリチウムイオン電池と同様に構成して本発明の電池として用いることができる。本発明の電池は、薄型で柔軟性を持たせることが可能であり、しかも高い電池特性を有するものとすることが可能であるため、各種用途に対応した新しい形態の電池を提供することが可能である。
本発明の電池において、上記の本発明の複合膜からなる電解質膜はリチウムイオン伝導度が好ましくは1.0×10-4以上であり、且つリチウムイオン輸率が好ましくは0.4以上である。このように、リチウムイオン伝導度とリチウムイオン輸率の両方が高く、この点において従来の高分子型電解質膜に比して優れている。また、このようにリチウムイオン伝導度とリチウムイオン輸率の両方が高いことにより、安定性においても優れた性能を示すものと考えられる。
【実施例
【0018】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらになんら制限されるものではない。
【0019】
(実施例1)[PVDF/LiTFSI ナノファイバー(1/24)の作製](本発明の ナノファイバー集積体1の調製)
ポリフッ化ビニリデン(PVDF、クレハ製W#1100、分子量Mw=280000)およびリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI、関東化学製、純度=99.7%)をLiTFSIがPVDFの繰り返し単位に対し1/24当量となるように用いて、上述の特開2005-194675号公報に開示の吐出機を用いた製法に準じてPVDF/LiTFSI繊維からなるナノファイバー集積体1を得た。
得られたナノファイバー集積体1における、各ナノファイバーの繊維径(平均繊維径)は、213±48nmであり、平均繊維長は、100μm以上であった。また、ナノファイバー集積体の膜厚は、30μmであり、空隙率は、80%であった。得られたナノファイバー集積体についてSEM写真を撮影した。SEM写真を図1(a)に示す。
なお、繊維径及び繊維長は、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察し測定した。
空隙率は、上述の通りに測定し、膜厚は電磁式デジタル膜厚計[商品名「LE-300」、(株)ケット科学研究所社製)]を用い、30箇所以上、常法に従って測定し、その平均値をもって膜厚とした。
得られた繊維の結晶に関しては別途測定を行い解析した。その点については後述する。
【0020】
(実施例2-1)[PVDF/LiTFSI ナノファイバー(1/16)の作製](本発 明のナノファイバー集積体2の調製)
実施例1と同様の手法で、LiTFSIがPVDFの繰り返し単位に対し1/16当量となるように用いて、PVDF/LiTFSI繊維からなるナノファイバー集積体2-1を得た。
得られたナノファイバー集積体2における、各ナノファイバーの繊維径(平均繊維径)は、255±46nmであり、平均繊維長は、100μm以上であった。また、ナノファイバー集積体の膜厚は、31.1μmであり、空隙率は、81%であった。得られたナノファイバー集積体についてSEM写真を撮影した。SEM写真を図1(b)に示す。
【0021】
(実施例2-2)[PVDF/LiTFSI ナノファイバー(1/16)の作製](本発 明のナノファイバー集積体2-2の調製)
実施例2と類似の手法で、LiTFSIがPVDFの繰り返し単位に対し1/16当量となるように用いて、実施例2とは異なる繊維径を有するPVDF/LiTFSI繊維からなるナノファイバー集積体2-2を得た。
得られたナノファイバー集積体2-2における、各ナノファイバーの繊維径(平均繊維径)は、409±26nmであり、平均繊維長は、100μm以上であった。また、ナノファイバー集積体の膜厚は、20μmであり、空隙率は、80%であった。得られたナノファイバー集積体についてSEM写真を撮影した。SEM写真を図1(c)として示す。
【0022】
(実施例3)[PVDF/LiTFSI ナノファイバー(1/16)アニール処理の作製 ](本発明のナノファイバー集積体3の調製)
実施例2で得た、PVDF/LiTFSI繊維からなるナノファイバー集積体2に対し、140℃で24 hアニール処理をすることでナノファイバー集積体3を得た。
得られたナノファイバー集積体3における、各ナノファイバーの繊維径(平均繊維径)は、234±37nmであり、平均繊維長は、100μm以上であった。また、ナノファイバー集積体の膜厚は、30μmであり、空隙率は、80%であった。得られたナノファイバー集積体についてSEM写真を撮影した。SEM写真を図2(a)として示す。
【0023】
(実施例4)[PAN/LiTFSI ナノファイバー(1/16)の作製](本発明のナ ノファイバー集積体4の調製)
実施例1と同様に、ポリアクリロニトリル(PAN、アルドリッチ製#MKCG1046、分子量Mw=150000)およびLiTFSI(関東化学製、純度=99.7%)をLiTFSIがPANの繰り返し単位に対し1/16当量となるように用いて、PAN/LiTFSI繊維からなるナノファイバー集積体4を得た。
得られた微細ファイバーナノファイバー集積体4における、各ナノファイバーの繊維径(平均繊維径)は、273±55nmであり、平均繊維長は、100μm以上であった。また、ナノファイバー集積体の膜厚は、30μmであり、空隙率は70%であった。得られたナノファイバー集積体についてSEM写真を撮影した。SEM写真を図2(b)として示す。
【0024】
(実施例5)[PVDF-TrFE/LiTFSI ナノファイバー(1/16)の作製] (本発明のナノファイバー集積体5の調製)
実施例1と同様に、フッ化ビニリデンと三フッ化エチレンの共重合体(PVDF-TrFE、クレハ製W# 2200、分子量Mw=300000、PVDF分率=75%)およびLiTFSI(関東化学製、純度=99.7%)をLiTFSIが全繰り返し単位に対し1/16当量となるように用いて、PVDF-TrFE/LiTFSI繊維からなるナノファイバー集積体5を得た。
得られたナノファイバー集積体5における、各ナノファイバーの繊維径(平均繊維径)は、223±56nmであり、平均繊維長は、100μm以上であった。また、ナノファイバー集積体の膜厚は10μmであり、空隙率は、75%であった。得られたナノファイバー集積体についてSEM写真を撮影した。SEM写真を図2(c)として示す。
【0025】
(比較例1)
実施例1で用いたPVDFのみを用いて、リチウム塩を含有しないPVDF繊維からなるナノファイバー集積体6を同様に作製した。
得られたナノファイバー集積体6における、各ナノファイバーの繊維径(平均繊維径)は、207±50nmであり、平均繊維長は、100μm以上であった。また、ナノファイバー集積体の膜厚は、20μmであり、空隙率は、80%であった。得られたナノファイバー集積体についてSEM写真を撮影した。SEM写真を図3(a)として示す。
【0026】
(比較例2)
実施例4で用いたPANのみを用いて、リチウム塩を含有しないPAN繊維からなるナノファイバー集積体7を同様に作製した。
得られたナノファイバー集積体7における、各ナノファイバーの繊維径(平均繊維径)は、219±19nmであり、平均繊維長は、100μm以上であった。また、ナノファイバー集積体の膜厚は、25μmであり、空隙率は、78%であった。得られたナノファイバー集積体についてSEM写真を撮影した。SEM写真を図3(b)に示す。
【0027】
(比較例3)
実施例5で用いたPVDF-TrFEのみを用いて、リチウム塩を含有しないPVDF-TrFE繊維からなるナノファイバー集積体8を同様に作製した。
得られたナノファイバー集積体8における、各ナノファイバーの繊維径(平均繊維径)は、189±23nmであり、平均繊維長は、100μm以上であった。また、ナノファイバー集積体の膜厚は、20μmであり、空隙率は、80%であった。得られたナノファイバー集積体についてSEM写真を撮影した。SEM写真を図3(c)に示す。
【0028】
(実施例6) [ナノファイバー集積体1(PVDF/LiTFSI ナノファイバー(1 /24)の複合膜1の作製](PEO/LiTFSIマトリクスとの複合化)
実施例1で得られたナノファイバー集積体1(PVDF/LiTFSI ナノファイバー(1/24))に、イオン含有化合物として、高分子化合物(以下、高分子マトリクスという場合もある)を含浸させた。
高分子マトリクスは、LiTFSIを含有するポリエチレンオキシド(PEOのエーテル酸素24個に対してリチウムが1個配位してなるもの)であり、充填に際しては、アセトニトリル(溶媒)40mLにポリエチレンオキシド(PEO)(Mw=2.0×10)2.7339g、LiTFSI0.7424gを加えたリチウム塩含有PEO溶液(電解質マトリクス溶液、電解質マトリクスの含有量8重量%)を用いた。リチウム塩含有PEO溶液を、ナノファイバー集積体1 20体積%に対して、高分子マトリクス80体積%となるようにキャストし、24時間常温で自然乾燥後、48時間80℃にて真空乾燥して、ナノファイバー集積体内部の空隙にイオン含有化合物としての高分子マトリクスが充填されてなる本発明の複合膜を作製した(以下この複合膜を「複合膜1」という)。
膜厚は30μmであった。リチウムイオン化合物の含有量は、複合膜全体に対し20重量%であった。なおリチウムイオン化合物の含有量は除去されるのが溶媒のみであるため、仕込み比率と同じである。
【0029】
(実施例7-1) [ナノファイバー集積体2-1(PVDF/LiTFSI ナノファ イバー(1/16)の複合膜2の作製](PEO/LiTFSIマトリクスとの複合化)
実施例2-1で得られたナノファイバー集積体2-1(PVDF/LiTFSI ナノファイバー(1/16)に、実施例6と同様にPEO/LiTFSIを含浸させ、ナノファイバー集積体内部の空隙に高分子マトリクスが充填されてなる本発明の複合膜2-1を作製した。
膜厚は30μmであった。リチウムイオン化合物の含有量は、複合膜全体に対し21重量%であった。得られた複合膜2-1(PVDF/LiTFSI ナノファイバー(1/24)+PEO/LiTFSI)の断面SEM観察結果を図4(a)に示す。ナノファイバー集積体において観測された空隙が、マトリクス電解質との複合化により充填され、緻密な電解質膜を形成している様子が観察された。
【0030】
(実施例7―2) [ナノファイバー集積体2-2(PVDF/LiTFSI ナノファ イバー(1/16)の複合膜2-2の作製](PEO/LiTFSIマトリクスとの複合化
実施例2-2で得られたナノファイバー集積体2-2(PVDF/LiTFSI ナノファイバー(1/16)に、実施例6と同様にPEO/LiTFSIを含浸させ、ナノファイバー集積体内部の空隙に高分子マトリクスが充填されてなる本発明の複合膜2-2を作製した。
膜厚は20μmであった。リチウムイオン化合物の含有量は、複合膜全体に対し21重量%であった。
【0031】
(実施例8) [ナノファイバー集積体3(PVDF/LiTFSI ナノファイバー(1 /16)アニール処理の複合膜3の作製](PEO/LiTFSIマトリクスとの複合化
実施例3で得られたナノファイバー集積体3(PVDF/LiTFSI ナノファイバー(1/16)アニール処理に、実施例6と同様にPEO/LiTFSIを含浸させ、ナノファイバー集積体内部の空隙に高分子マトリクスが充填されてなる本発明の複合膜3を作製した。
膜厚は30μmであった。リチウムイオン化合物の含有量は、複合膜全体に対し21重量%であった。
【0032】
(実施例9) [ナノファイバー集積体4(PAN/LiTFSI ナノファイバー(1/ 16)の複合膜4の作製](PEO/LiTFSIマトリクスとの複合化)
実施例4で得られたナノファイバー集積体4(PAN/LiTFSI ナノファイバー(1/16)に、実施例6と同様にPEO/LiTFSIを含浸させ、ナノファイバー集積体内部の空隙に高分子マトリクスが充填されてなる本発明の複合膜4を作製した。
膜厚は30μmであった。リチウムイオン化合物の含有量は、複合膜全体に対し22重量%であった。
【0033】
(実施例10) [ナノファイバー集積体5(PVDF-TrFE/LiTFSI ナノ ファイバー(1/16)の複合膜5の作製](PEO/LiTFSIマトリクスとの複合化
実施例5で得られたナノファイバー集積体5(PVDF-TrFE/LiTFSI ナノファイバー(1/16)に、実施例6と同様にPEO/LiTFSIを含浸させ、ナノファイバー集積体内部の空隙に高分子マトリクスが充填されてなる本発明の複合膜5を作製した。
膜厚は30μmであった。リチウムイオン化合物の含有量は、複合膜全体に対し19重量%であった。
【0034】
(比較例4) [ナノファイバー集積体6(PVDFナノファイバー(リチウム塩無し) の複合膜8の作製](PEO/LiTFSIマトリクスとの複合化)
比較例1で得られたナノファイバー集積体6(PVDFナノファイバー(リチウム塩無し)に、実施例6と同様にPEO/LiTFSIを含浸させ、ナノファイバー集積体内部の空隙に高分子マトリクスが充填されてなる複合膜8を作製した。
膜厚は30μmであった。リチウムイオン化合物の含有量は、複合膜全体に対し17重量%であった。
【0035】
(比較例5) [ナノファイバー集積体7(PANナノファイバー(リチウム塩無し)の 複合膜9の作製](PEO/LiTFSIマトリクスとの複合化)
比較例2で得られたナノファイバー集積体7(PANナノファイバー(リチウム塩無し)に、実施例6と同様にPEO/LiTFSIを含浸させ、ナノファイバー集積体内部の空隙に高分子マトリクスが充填されてなる複合膜9を作製した。
膜厚は20μmであった。リチウムイオン化合物の含有量は、複合膜全体に対し17重量%であった。
【0036】
(複合膜の例6) [ナノファイバー集積体8(PVDF-TrFEナノファイバー(リ チウム塩無し)の複合膜10の作製](PEO/LiTFSIマトリクスとの複合化)
比較例2で得られたナノファイバー集積体7(PVDF-TrFEナノファイバー(リチウム塩無し)に、実施例6と同様にPEO/LiTFSIを含浸させ、ナノファイバー集積体内部の空隙に高分子マトリクスが充填されてなる複合膜10を作製した。
膜厚は30μmであった。リチウムイオン化合物の含有量は、複合膜全体に対し16重量%であった。
【0037】
(比較例7) [PEO/LiTFSI単独膜1の作製]
実施例6と同様に調整したPEO溶液を用いて、ナノファイバー集積体を含まない単独膜1(PEO/LiTFSI)を作製した。膜厚は200μmであった。
【0038】
(比較例8) [PAN/LiTFSI単独膜2の作製]
実施例4と同様のPANおよびLiTFSI(PAN繰り返し単位に対し1/16当量)を用いてPAN溶液を調整し、ナノファイバー集積体を含まない単独膜2(PAN/LiTFSI)を作製した。膜厚は50μmであった。
【0039】
得られたナノファイバー集積体および複合膜、単独膜をリチウムイオン二次電池、及びその高分子電解質膜として用いるために伝導度の測定を行った。
伝導度は以下の通り行った。
(伝導度評価)
・コイン型セルの作製]
得られたナノファイバー集積体あるいは複合膜、単独膜をアルゴンガスで充填したバキューム型グローブボックスmini(UNICO製)内に導入し、18φのポンチを用いて円状に抜き、48時間乾燥後、2032型コインセル部材である、ケース、ガスケット、ワッシャー、スペーサー、アルミ電極(いずれも宝泉製)を組合せてコイン電池を作製した。
・ナノファイバー集積体あるいは複合膜、単独膜の伝導度測定
インピ-ダンスアナライザ-VersaSTAT3(東洋テクニカ社製)を用いて、0.1Hz~5MHzまでの周波数応答性を測定して伝導度を測定した。なお、伝導度測定時の温度は、恒温槽を用いて、30℃および60℃に保持した。
式:電極間距離[cm]/サンプル面積[cm]×抵抗[Ω])から、リチウムイオン伝導度A[S/cm]を算出した。
【0040】
[輸率評価]
各実施例及び比較例で得られた複合膜のうち数種のものについて輸率の測定を行った。輸率の測定は以下の通り行った。
輸率測定方法:
・コイン型セルの作製
得られた複合膜を48時間真空乾燥後、アルゴンガスで充填したグローブボックス内に導入し、18φのポンチを用いて円状に抜き、2032型コインセル部材である、ケース、ガスケット、ワッシャー、スペーサー、リチウム箔2枚(いずれも宝泉製)を組合せてリチウムイオン輸率測定用コイン型セルを作製した。
・複合膜のインピーダンス測定(直流分極前)
作製したコイン型セルを恒温槽内において60℃で24時間以上コンディショニングした後、インピ-ダンスアナライザ-VersaSTAT3(東洋テクニカ社製)を用いて、60℃で0.1Hz~5MHzまでのインピーダンス測定を行った。
・複合膜の直流分極測定
インピ-ダンスアナライザ-VersaSTAT3(東洋テクニカ社製)を用いて、0.01Vで12000秒間直流分極測定を行った。
・複合膜のインピーダンス測定(直流分極後)
直流分極後、インピ-ダンスアナライザ-VersaSTAT3(東洋テクニカ社製)を用いて、60℃で0.1Hz~5MHzまでのインピーダンス測定を行った。
各測定結果を用いて下記式に代入することで輸率を求めた。
式:{分極後電流値I[A]×(印加電圧V(V)-分極前電流値I0[A]×分極前インピーダンス(Ω0))}/{分極前電流値I[A]×(印加電圧V(V)-分極後電流値I[A]×分極後インピーダンス(Ω))}から、リチウムイオン輸率tLi [-]を算出した。
実施例1~4および6~9、比較例4、5および7で得られたナノファイバー集積体および複合膜、単独膜の60℃におけるリチウムイオン輸率測定の結果を表1に示す。
さらに、60℃におけるイオン伝導度とリチウムイオン輸率の積から算出されるリチウムイオン伝導度も表1に示す。
表1に示す結果から明らかなように、本発明の複合膜は、高いリチウムイオン輸率とリチウムイオン伝導度とを実現することができるものであり、比較例4及び5の複合膜に比しても輸率と伝導度の両方をいずれも高いレベルで両立させている。
【0041】
【表1】
【0042】
[複合膜のDSC測定]
複合膜に含まれる高分子マトリクスの融点を明らかにするために、DSC-60(SHIMADZU製)を用いてDSC測定を実施した。測定は10℃/minで100℃まで昇温したのち、-70℃まで-10℃/minで冷却して行った。
測定は、実施例1~4および6~9、比較例1、4、5および7で得られたナノファイバー集積体および複合膜、単独膜を用いて行った。結果を表2に示す。
優れたイオン伝導性を有する実施例6~8の複合膜は、DSC測定において融点が観測されず、マトリクス電解質が結晶化していないことを示した。一方、ナノファイバーを含有しない比較例7では44℃付近に融点が観測され、結晶化度は61%であった。表面修飾ナノファイバーを用いることでマトリクスの結晶化が抑制され、低温でのイオン伝導に有利になることが示された。また、PVDF/LiTFSIナノファイバー複合膜でも、塩添加濃度やアニール処理の有無により、ガラス転移温度が変化した。ナノファイバー結晶性や表面性状がマトリクスの運動性に影響を与えることが示された。
DSCおよびXRDの結果より、実施例8の複合膜は、ナノファイバー表面の極性官能基の存在によりマトリクスに相互作用し、高分子電解質膜のリチウムイオン伝導に有利な優れた特性を付与できることがわかる。
【表2】
【0043】
[電気化学的安定性試験]
実施例8で得られた複合膜を高分子電解質膜としてLi|電解質|SUSからなるコインセルを作製し、VersaSTAT3(東洋テクニカ社製)を用いて、サイクリックボルタンメトリー(CV)およびリニアスイープボルタンメトリー(LSV)測定を行った。CVは+1.5Vから-1.5V(vs. Li/Li)の範囲で、LSVは+1.5Vから+5.0Vの範囲で、それぞれ0.1mV/secの走引速度で測定した。結果を図5に示す。Liの溶解析出に由来する酸化還元波が0V(vs. Li/Li)付近に観測され、Li金属に対して安定であることが示された。また、LSV測定より、4Vを超える高い電位まで酸化耐性があることが示され、リチウムイオン電池への応用が可能と判断された。
【0044】
〔電池作製・評価〕
実施例8で得られた複合膜を高分子電解質膜として用いて電池を作製した。比較として、比較例7で得られた高分子電解質膜を用いて電池を作製した。
【0045】
[充放電測定用コインセルの作製]
不活性雰囲気グローブボックス内で、正極材としてリン酸鉄リチウム(パイオトレック社製)、負極材としてリチウム金属を用い、ガスケット、スペーサー、ワッシャーを組み合わせることで充放電測定用CR2032型コイン電池を作製した。
【0046】
[開回路電圧(OCV)測定]
得られたセルは、60℃の恒温槽内で24時間コンディショニングした後、OCVを測定した。
【0047】
[充放電測定]
作製したコインセルを用いて充放電試験[TOSCAT-3000 (東洋システム製)]を実施した。測定中の温度は、恒温槽を用いて60℃に設定した。C-レート速度は0.01Cに設定した。充放電曲線を図6に、得られた放電容量の結果を表3に示す。また、Cレートを変化させて充放電を行った際の放電容量値の変化を図7に示す。
実施例11で得られたPVDF/LiTFSIナノファイバー複合膜6(1/16)は、理論容量(約170mAh/g)に近い高い初期放電容量と、100%に近い高いクーロン効率を示した。また、Cレートを変化させて繰り返し充放電を行った結果、比較例7で得られたPEO単独膜1がサイクルに伴う特性低下が大きかったのに対し、実施例8で得られた複合膜3は安定した特性を示した。
【表3】
【0048】
[リチウムデンドライト試験]
実施例8で得られた複合膜を高分子電解質膜としてLi|電解質|Liからなる対称セルを作製し、充放電試験装置[TOSCAT-3000 (東洋システム製)]を用いて、定電流サイクル試験を行った。電流密度を0.2mAh/cm2とし、各電位で1時間保持し、その後逆の電流を印加するサイクルを行った。結果を図8に示す。また、比較例7の単独膜についても同様にして試験を行った。その結果を図9に示す。
図8及び9に示すように、比較例7で得られたPEO単独膜1が10時間程度で導通し電圧が急激に低下したのに対し、実施例8で得られた複合膜3は安定したサイクルを長時間(400時間以上)繰り返しており、ナノファイバー複合電解質膜がリチウムイオン電池のける長期安定性に大きく寄与することが明らかとなった。
【0049】
[β晶形成の確認]
実施例1、2-1及び3で得られたリチウムイオン伝導性ナノファイバーについて、結晶質の確認を行った。
すなわち、常法に従いFT-IR測定を行い、得られたPVDF/LiTFSI ナノファイバー中におけるβ型結晶(β晶)の割合Fβを、下記式1に従い算出した。なお、AαおよびAβはそれぞれ764および845 cm-1における吸光度、KαおよびKβはそれぞれの波長における吸光係数(Kα=6.1×104cm2 mol-1およびKβ=7.7×104cm2 mol-1)である。
(式1)Fβ=Aβ/[(Kβ/Kα)Aα+Aβ
結晶化度XはDSC測定を行い、その結果を下記式2に算入して算出した。なお、ΔHはDSC曲線から得られた融解エンタルピー、ΔHα およびΔHβはそれぞれα型、β型PVDFの100%結晶における融解エンタルピー(ΔHα=93.07 J g-1およびΔHβ=103.4Jg-1は)である。
(式2)Xc=ΔHm/[(1-Fβ)ΔHα+FβΔHβ
β型結晶の結晶化度Xβは、結晶化度Xおよびβ型結晶の割合Fβを用いて、下記式3に従い算出した。
(式3)Xβ=Fβ×X
FT-IRの結果を図10に、DSCの結果を図11にそれぞれ示す。また、得られたPVDF微細ファイバー集積体における結晶化度X、β型結晶の割合Fβ、β型結晶の結晶化度Xβを表4に示す。
【表4】
【0050】
(実施例A-1) [ナノファイバー集積体4(PAN/LiTFSI ナノファイバー( 1/16)の複合膜の作製](P(MEO)/LiTFSIマトリクスとの複合化)
実施例4で得られたナノファイバー集積体4(PAN/LiTFSI ナノファイバー([Li]/[AN]=1/16))に、イオン含有化合物として、高分子化合物(以下、高分子マトリクスという場合もある)を含浸させた。
高分子マトリクスは、LiTFSIを含有するポリメトキシポリエチレンオキシド-メタクリレート(MEO)([Li]/[EO]=1/24)(エチレンオキシドEOのエーテル酸素24個に対してリチウムが1個配位してなるもの)を用いた。
充填に際しては、メタノール(溶媒)8mLに高分子マトリクスの前駆体モノマーとしてのメトキシポリエチレンオキシド-メタクリレート(EOユニット:n=9)4ml、LiTFSI 0.802g、アゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤)0.0448gを加えたものを用いた。リチウム塩含有溶液を、ナノファイバー集積体4 20体積%に対して、高分子マトリクス80体積%となるようにキャストし、12時間100℃でラジカル重合を行い、48時間80℃にて真空乾燥して、ナノファイバー集積体内部の空隙にイオン含有化合物としての高分子マトリクスが充填されてなる本発明の複合膜を作製した。膜厚は30μmであった。リチウムイオン化合物の含有量は、複合膜全体に対し21重量%であった。
得られた複合膜について実施例1と同様にしてリチウムイオン伝導度を30℃と60℃とについて測定した。その結果を表5に示す。
【0051】
(実施例A-2)
実施例9で得られたナノファイバー複合膜4(ナノファイバー集積体4(PAN/LiTFSI ナノファイバー([Li]/[AN]=1/16))に(PEO/LiTFSIマトリクス([Li]/[EO]=1/24))を複合化したもの)について上記充放電測定を行った。充放電曲線を図12(a)に、Cレートを変化(5サイクルごとに、Cレートは0.1,0.2,0.5,1.0,0.1Cと変更)させて充放電を行った際の放電容量値の変化を図12(b)に、それぞれ示す。
(実施例B-1)
実施例2-1で得られたナノファイバー集成体2-1(PVDF/LiTFSI([Li]/[VDF]=1/16))について、上記リチウムデンドライト試験を行った(B-1)。その結果を図13(a)に示す。
(比較例B-2)
実施例2-1で得られたナノファイバー集成体2-1(PVDF/LiTFSI([Li]/[VDF]=1/16))を電解液(エチレンカーボネート:ジエチレンカーボネート=1:1(v:v%)+0.1M LiPF)に浸漬させたものについて上記リチウムデンドライト試験を行った(B-2)。その結果を図13(b)に示す。
(比較例B-3)
比較例4で得られた複合膜8(ナノファイバー集積体6(PVDFナノファイバー(リチウム塩無し)に、実施例6と同様にPEO/LiTFSIを含浸させ、ナノファイバー集積体内部の空隙に高分子マトリクスが充填されてなるもの)について、上記リチウムデンドライト試験を行った(B-3)。その結果を図13(c)に示す。
(比較例B-4)
比較例5で得られた複合膜9(ナノファイバー集積体7(PANナノファイバー(リチウム塩無し)に、実施例6と同様にPEO/LiTFSIマトリクス([Li]/[EO]=1/24))を含浸させ、ナノファイバー集積体内部の空隙に高分子マトリクスが充填されてなるもの)について、上記リチウムデンドライト試験を行った(B-4)。その結果を図14(a)に示す。
(比較例B-5)
比較例2で得られたリチウム塩を含有しないPAN繊維からなるナノファイバー集積体7を電解液(エチレンカーボネート:ジエチレンカーボネート=1:1(v:v%)+0.1M LiPF)に浸漬させたものについて上記リチウムデンドライト試験を行った(B-5)。その結果を図14(b)に示す。
実施例(A-1)で得られた複合膜の他、後述する各実施例で得られた複合膜についてリチウムイオン伝導度(30℃、60℃)を上述の方法に従って測定した。その結果を表5に示す。
【表5】
【0052】
(実施例C-1)本発明の複合膜の実施例
実施例2-1で得られたナノファイバー集成体2-1(PVDF/LiTFSI([Li]/[VDF]=1/16))に、PEO/LiTFSIマトリクス([Li]/[EO]=1/16))を含浸させた。この際、リチウム塩含有PEO溶液を、ナノファイバー集積体20vol.%に対して、高分子マトリクス80vol.%となるようにキャストし、24時間常温で自然乾燥後、24時間80℃にて真空乾燥して、ナノファイバー集積体内部の空隙にイオン含有化合物としての高分子マトリクスが充填されてなる複合膜を作製した。得られた複合膜の膜厚は30μmであった。φ16の複合膜のイオン伝導度を表5に示す。
複合膜の温度ごとのWAXD測定(Rigaku社製、小角広角X線回折装置SWXD)を、昇温速度1℃/min、測定(等温保持)時間1時間で行った。その結果(測定により得られたピーク)を図15に示す。
(比較例C-2)比較例としての複合膜の例
実施例2-1で得られたナノファイバー集積体2-1(PVDF/LiTFSI ナノファイバー([Li]/[VDF]=1/16)) に、リチウム塩を含まないPEO/アセトニトリル溶液(濃度6wt.%)を、膜厚40μmナノファイバー集積体20vol.%に対して、高分子マトリクス80vol.%となるようにキャストし、24時間常温で自然乾燥後、24時間80℃にて真空乾燥して、ナノファイバー集積体内部の空隙に高分子マトリクスが充填されてなる複合膜を作製した。DSC測定より結晶化度は、73.2%であった。
(比較例C-3)比較例としての複合膜の例
比較例1で得られたナノファイバー集積体6(PVDF ナノファイバー) に、リチウム塩を含まないPEO/アセトニトリル溶液(濃度6wt.%)を、膜厚40μmのナノファイバー集積体20vol.%に対して、高分子マトリクス80vol.%となるようにキャストし、差圧-0.09MPaになるまで真空引きをした。-0.09MPaに達した後、徐々に大気圧に戻し、そのまま24時間常温で自然乾燥した。自然乾燥後、24時間60℃にて真空乾燥して、ナノファイバー集積体内部の空隙に高分子マトリクス(PEO/LiTFSI ([Li]/[EO]=1/4))を充填してなる複合膜を作製した。
複合膜のイオン伝導度を表5に示す。得られた複合膜のTgを常法に従って測定した。その結果を表6に示す。
(実施例C-4)本発明の複合膜の例
比較例1で得られたナノファイバー集積体6(PVDF ナノファイバー) に、PEO/LiTFSIマトリクス([Li]/[EO]=1/16))を含浸させた。この際、リチウム塩含有PEO溶液を、ナノファイバー集積体20vol.%に対して、高分子マトリクス80vol.%となるようにキャストし、24時間常温で自然乾燥後、24時間80℃にて真空乾燥して、ナノファイバー集積体内部の空隙にイオン含有化合物としての高分子マトリクスが充填されてなる複合膜を作製した。複合膜のイオン伝導度を表5に示す。
(実施例C-5)本発明の複合膜の例
比較例1で得られたナノファイバー集積体6(PVDF ナノファイバー) に、PEO/LiTFSIマトリクス([Li]/[EO]=1/32))を含浸させた。この際、リチウム塩含有PEO溶液を、ナノファイバー集積体20vol.%に対して、高分子マトリクス80vol.%となるようにキャストし、24時間常温で自然乾燥後、24時間80℃にて真空乾燥して、ナノファイバー集積体内部の空隙にイオン含有化合物としての高分子マトリクスが充填されてなる複合膜を作製した。複合膜のイオン伝導度を表5に示す。
(実施例C-6)本発明の複合膜の例
比較例1で得られたナノファイバー集積体6(PVDF ナノファイバー) に、濃度10wt.%のリチウム塩含有ポリエチレンカーボネート( [Li]/[EC]=2))(PEC,EM Power,密度1.4g/cm3)/アセトニトリル溶液をキャストした。24時間大気乾燥した後、Ar下、110℃で2時間アニーリングを行い、0.3MPa、80℃で15分ホットプレスを施した。プレス後、24時間60℃で加熱真空乾燥して膜厚30μmの複合膜を作製した。複合膜のイオン伝導度を表5に示す。
【0053】
(複合膜の例C-7)
比較例1と同様に、ナノファイバーを含まないリチウム塩含有PEO単独膜をリチウムイオン化合物の配合量を変えて3種類作製した。C-7aは[Li]/[EO]=1/4、C-7bは[Li]/[EO]=1/16、C-7cは[Li]/[EO]=1/32とした。また、C-7a、リチウムイオン化合物を含まないPEO単独膜、並びに[Li]/[EO]=1/24についてTgを測定した。その結果を表6に示す。
【0054】
(実施例C-9)繊維集積体Bの例
Nylon 6(Sigma Aldrich, pellets 18110, 1.084 g/mL at 25℃ (lit.))を濃度7wt.%となるよう1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP, 東京化成工業)に溶解させた。溶液を用いて、電圧11.5kV流速3.5-4.0μL/min.でエレクトロスピニング法により、ナノファイバー集積体を得た。得られたナノファイバー集積体における、各ナノファイバーの繊維径(平均繊維径)は、297±55nmであった。また、積層時間1時間でナノファイバー集積体の膜厚は40μmであり、空隙率は80%であった。
Nylon6ナノファイバーの結晶化度をDSC測定により求めた。吸熱エンタルピーは、64.3J/gであった。完全結晶融解エンタルピー229.76J/gより、結晶化度は、28%と見積もられた。結果を表6に示す
また、XRD測定も行った。その結果、Nylon6の最定状態であるα相は2θ=20.5°、24°にピークを示し、準安定状態のβおよびγ相は2θ=21.5°に現れた。このことからエレクトロスピニング法により得られたナノファイバーにおいて、全ての相(α、β、γ)が存在する可能性があることがわかる。
SEM画像を図16(a)に示す。
【0055】
(実施例C-10)繊維集積体Bの例
Nylon11(Sigma Aldrich, pellets181153, 密度1.026 g/mL at 25℃(lit.))を濃度5.34 wt.%となるようHFIP(Matrix Scientific, 001192, 密度1.456 g/mL at 25℃)に溶解させた。この溶液を用いて、電圧18.5,流速2.0μL/min.でエレクトロスピニング法により、ナノファイバー集積体を得た。得られたナノファイバー集積体における各ナノファイバー繊維径(平均繊維径)は、283±40nmであった。また、積層3時間で膜厚は40μmであり、空隙率は80%であった。
Nylon11ナノファイバーの結晶化度をDSC測定により求めた。完全結晶融解エンタルピーΔH=222J/gより、結晶化度は31.8%と見積もられた。結果を表6に示す。
SEM画像を図16(b)に示す。
(比較例C-11)比較例としての繊維を含有しない膜の例
リチウム塩含有ポリエチレンカーボネート(PEC, EM Power, 密度1.4 g/cm3)( [Li]/[EC]=2))を濃度10wt.%でアセトニトリルに溶解させた。溶液キャスト法により作製した膜を60℃で48時間真空乾燥して残存水分を取り除き、膜を得た。
得られた膜について常法に従ってラマンスペクトルをとり、成分比を確認したところ、Li+-TFSI-は72%、cisTFSIは28%、transTFSIは0%であった。
(実施例C-12)本発明のナノファイバー及びナノファイバー集成体の実施例
Nylon11にLiTFSIを[Li]/[amide]=1/16(Nylon11: LiTFSI=0.92:0.08 wt.%)で添加した、HFIPの溶液(濃度8wt.%)を作製した。この溶液を電圧17.5kV, 流速0.007mL/sec.でエレクトロスピニングすることで、空隙率60%のナノファイバー集積体を得た。得られたナノファイバー集積体のSEM像を図16(c)に示す。また、DSC曲線より得られた結晶化度を表6に示す。
【表6】
【0056】
(実施例C-13)繊維集積体Bの実施例
Nylon6(Sigma Aldrich, pellets、密度1.084 g/mL at 25℃)を濃度7wt.%でヘキサフロオロイソプロパノール(HFIP)に溶解させた。この溶液を電圧17.5kV、流速2μL/min.の条件でエレクトロスピニングすることで、空隙率80%、膜厚30μmのナノファイバー集積体が得られた。
得られたNylon6ナノファイバー集積体に、PEO/LiTFSIマトリクス([Li]/[EO]=1/24))を含浸させた。この際、リチウム塩含有PEO溶液を、ナノファイバー集積体20vol.%に対して、高分子マトリクス80vol.%となるようにキャストし、24時間常温で自然乾燥後、24時間80℃にて真空乾燥して、ナノファイバー集積体内部の空隙にイオン含有化合物としての高分子マトリクスが充填されてなる複合膜を作製した。
【0057】
(実施例C-14)繊維集積体Bを用いた複合膜の実施例
実施例C-10にて得られたNylon11ナノファイバー集積体に、PEO/LiTFSIマトリクス([Li]/[EO]=1/24))を含浸させた。この際、リチウム塩含有PEO溶液を、ナノファイバー集積体20vol.%に対して、高分子マトリクス80vol.%となるようにキャストし、差圧-0.09MPaまで減圧した後、徐々に大気圧に戻し、そのまま24時間自然乾燥した。自然乾燥後、80℃にて真空乾燥して、ナノファイバー集積体内部の空隙にイオン含有化合物としての高分子マトリクスが充填されてなる複合膜を作製した。
また、得られた複合膜のリチウムイオン輸率(60℃)は0.29であり、リチウムイオン伝導度(60℃)S/cmは、4.7×10-5S/cmであった。
【0058】
(比較例C-15)
リチウム塩を含まないPEO溶液を用いて、PEO単独膜を作製した。膜厚は200μmであった。
【0059】
(実施例D-4)繊維集積体Bの実施例
ポリフッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン(PVDF-TrFE)(sigma-aldrich Solvene250)を用いた以外は実施例1と同様にして、PVDF-TrFE繊維からなるナノファイバー集積体を得た。
得られたナノファイバー集積体における、各ナノファイバーの繊維径(平均繊維径)は、126±13nmであり、ナノファイバー集積体の膜厚は、30μmであり、空隙率は、90%であった。得られたナノファイバー集積体についてSEM写真を撮影した。SEM写真を図17(a)に示す。なお、図17における写真の倍率は、図17(a)が30000倍、(b)が10000倍、(c)が30000倍である。
(実施例D-5)繊維集積体Bの実施例
ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン(PVDF-HFP)を用いた以外は実施例1と同様の手法で、ナノファイバー集積体を得た。
得られたナノファイバー集積体における、各ナノファイバーの繊維径(平均繊維径)は、157±37nmであり、ナノファイバー集積体の膜厚は、40μmであり、空隙率は、80%であった。得られたナノファイバー集積体についてSEM写真を撮影した。SEM写真を図17(b)に示す。
得られたナノファイバー集積体並びにD-4及びD-5で得られたナノファイバー集積体について、結晶化度Xβ、結晶化度Xおよびβ型結晶の割合Fβをそれぞれ上述の方法により求めた。その結果を表7に示す。
(参考D-6)
また、別にPVDFナノファイバーを実施例1と同様の手法にて製造し、実施例1と同様の手法にてナノファイバー集積体を得た。得られた集積体について実施例D-5と同様の測定を行ったその結果を図17及び表7に示す。また、この集積体を用い実施例D-7と同様にして複合膜を得、得られた複合膜の断面をSEMで撮影した。そのSEM写真を図18(a)に示す。
【表7】

(実施例D-7)繊維集積体Bを用いた複合膜の実施例
実施例D-4で得られたPVDF-TrFEナノファイバー集積体に、PEO/LiTFSIマトリクス([Li]/[EO]=1/24))を含浸させた。この際、リチウム塩含有PEO溶液を、ナノファイバー集積体10vol.%に対して、高分子マトリクス90vol.%となるようにキャストし、24時間常温で自然乾燥後、24時間80℃にて真空乾燥して、ナノファイバー集積体内部の空隙にイオン含有化合物としての高分子マトリクスが充填されてなる複合膜を作製した。膜厚は30μmであった。リチウムイオン化合物の含有量は、複合膜全体に対し21重量%であった。
得られた複合膜の断面をSEMで撮影した。そのSEM写真を図18(b)に示す。
また、得られた複合膜のリチウムイオン輸率(60℃)は0.47であり、リチウムイオン伝導度(60℃)S/cmは、4.4×10-4S/cmであった。
(実施例D-8)繊維集積体Bを用いた複合膜の実施例
実施例D-5で得られたPVDF-HFPナノファイバー集積体に、PEO/LiTFSIマトリクス([Li]/[EO]=1/24))を含浸させた。この際、リチウム塩含有PEO溶液を、ナノファイバー集積体20vol.%に対して、高分子マトリクス80vol.%となるようにキャストし、24時間常温で自然乾燥後、24時間80℃にて真空乾燥して、ナノファイバー集積体内部の空隙にイオン含有化合物としての高分子マトリクスが充填されてなる複合膜を作製した。
得られた複合膜の断面をSEMで撮影した。そのSEM写真を図18(c)に示す。
図18(a)~(c)に示すように、各複合膜、特にPVDF-HFPナノファイバー集積体の複合膜において、繊維間に高分子マトリクスが充填されているのがわかる。
また、実施例D-3~D-5で得られた繊維についてIRとDSCとを確認した。その結果をそれぞれ図19に示す。また、実施例D-7で得られた複合膜の充放電試験を実施例6の複合膜と同様にして行った。その結果を図20に示す。これらの結果から、実施例D-7の複合膜も電解質膜として機能することがわかる。
【0060】
(実施例E-1)アニール処理した繊維集積体の例
実施例3と同様に、実施例2-1得たPVDF/LiTFSI ナノファイバー([Li]/[VDF]=1/16))集積体2に対し、100℃で24hアニール処理をすることでナノファイバー集積体E-1を得た。
(実施例E-2)アニール処理した繊維集積体の例
実施例3と同様に、実施例2-1得たPVDF/LiTFSI ナノファイバー([Li]/[VDF]=1/16))集積体2に対し、160℃で24hアニール処理をすることでナノファイバー集積体E-2を得た。
(実施例E-3)アニール処理した繊維集積体の例
実施例3と同様に、実施例2-1得たPVDF/LiTFSI ナノファイバー([Li]/[VDF]=1/16))集積体2に対し、140℃で48hアニール処理をすることでナノファイバー集積体E-3を得た。
(実施例E-4)アニール処理した繊維集積体の例
実施例3と同様に、実施例1で得たPVDF/LiTFSI ナノファイバー([Li]/[VDF]=1/24))集積体1に対し、140℃で24hアニール処理をすることでナノファイバー集積体E-4を得た。
アニーリング処理後のナノファイバーにおける、各ナノファイバーの繊維径(平均繊維径)は、233±52nmであった。得られたナノファイバー集積体についてSEM写真を撮影した。SEM写真を図21(a)に示す。
(実施例E-5)リチウム化合物の配合量を変えた繊維集積体の例
LiTFSIがPVDFの繰り返し単位に対し1/48当量となるように用いた以外は実施例1と同様にして、PVDF/LiTFSI ナノファイバー([Li]/[VDF]=1/48))集積体E-5を得た。
得られたナノファイバーにおける、各ナノファイバーの繊維径(平均繊維径)は、151±68nmであった。得られたナノファイバー集積体についてSEM写真を撮影した。SEM写真を図21(b)に示す。
(実施例E-6)アニール処理した繊維集積体の例
実施例3と同様に、実施例E-5で得たPVDF/LiTFSI ナノファイバー([Li]/[VDF]=1/48))集積体E-5に対し、140℃で24hアニール処理をすることでナノファイバー集積体E-6を得た。
アニーリング処理後のナノファイバーにおける、各ナノファイバーの繊維径(平均繊維径)は、161±70nmであった。得られたナノファイバー集積体についてSEM写真を撮影した。SEM写真を図21(c)に示す。
(比較例E-7)アニール処理した繊維集積体の例
比較例1と同様の手法で得たリチウム塩を含まないPVDFナノファイバーを、実施例3と同様にして140℃で24時間アニーリング処理してナノファイバー集積体E-7を得た。
アニーリング処理後のナノファイバーにおける、各ナノファイバーの繊維径(平均繊維径)は、126±35nmであった。得られたナノファイバー集積体についてSEM写真を撮影した。SEM写真を図21(d)に示す。
(比較例E-8)アニール処理した繊維集積体の例
比較例1と同様の手法で得たリチウム塩を含まないPVDFナノファイバーを、実施例3と同様にして150℃で24時間アニーリング処理してナノファイバー集積体E-8を得た。
(比較例E-9)アニール処理した繊維集積体の例
比較例1と同様の手法で得たリチウム塩を含まないPVDFナノファイバーを、実施例3と同様にして160℃で24時間アニーリング処理してナノファイバー集積体E-9を得た。
以上得られた各繊維集積体について上述の手法に従ってFβを確認した。その結果を表8に示す。
【表8】


図1
図2
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図4
図5
図6
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