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特許7519698抗炎症及び免疫調節特性を有する臍帯血単核細胞に由来する小型細胞外小胞を含む組成物及びそれらを得るためのプロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】抗炎症及び免疫調節特性を有する臍帯血単核細胞に由来する小型細胞外小胞を含む組成物及びそれらを得るためのプロセス
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20240712BHJP
   A61K 35/51 20150101ALI20240712BHJP
   A61K 38/06 20060101ALI20240712BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20240712BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20240712BHJP
【FI】
C12N5/071
A61K35/51
A61K38/06
A61K9/19
C12N15/113 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021543602
(86)(22)【出願日】2019-10-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 IB2019058462
(87)【国際公開番号】W WO2020070700
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】115057
(32)【優先日】2018-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】PT
(73)【特許権者】
【識別番号】521141017
【氏名又は名称】エクサオゲンウス セラペウティクス,エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】コルレイア,ジョアナ
(72)【発明者】
【氏名】カードソ,レナト
(72)【発明者】
【氏名】ロドリグエス,シルヴィア
【審査官】藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/218964(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/054085(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/163132(WO,A2)
【文献】Nanomedicine: Nanotechnology, Biology, and Medicine,2015年,Vol.11,pp.879-883
【文献】Scientific Reports,2017年,Vol.7, Article number 15297,pp.1-13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00 - 7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
臍帯血単核細胞(UCBMNC)から得られる小型細胞外小胞(SEV)を単離するためのインビトロで行われる方法(UF-SEC)であって、前記方法は、
i)前記臍帯血単核細胞(UCBMNC)を無血清細胞培養培地により培養した馴化培地の連続遠心分離を行う第1のステップと、
ii)限外ろ過(UF)と組み合わせた精密ろ過(MF)を行う第2ステップと、
iii)サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を行う第3ステップと、を含み:
前記ステップは、以下のように実行される:
a)最初に低速(200g~400g、10~20分)で2ラウンドの連続遠心分離を行い、次に低温(4~10℃)で平均速度(1500g~2500g、20~30分)を実施する、
b)孔径800nm~450nmを有する第1のフィルタ及び孔径250nm~200nmを有する第2のフィルタを連続使用することにより(a)の清澄化された上清をろ過する、
c)100~200rpmの安定した撹拌条件下で、適切な一定圧力で、100KDaの分子サイズカットオフを使用することによる(b)で得られた溶液を限外ろ過して、100KDaより大きく200nmより小さい粒子の溶液を得る、
d)(c)のろ液の初期容量の最大10分の1に濃縮する、
e)SEVを検出するために280nmの吸光度シグナルを使用して、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)による前記(d)の溶液に含まれる可溶性タンパク質からSEVを単離する、及び
f)280nmでの前記溶液の前記吸光度が第1のピークにおいて増加するときから、そのピークの280nmでの前記吸光度がゼロまで低下するまで、4~10℃の安定温度で、前記(e)で得られた溶液からSEV画分を収集する
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
ステップ(b)の前記ろ液を水、または中性pHの緩衝液で希釈するステップ、かつ/または(c)の前記溶液を水、または中性pHの緩衝液で洗浄するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記UCBMNCがリンパ球、単球、好中球、好酸球、及び/または好塩基球を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記UCBMNCがリンパ球、単球、好中球、好酸球、及び/または好塩基球からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記UCBMNCが、10~1000ng/mlのFMS様チロシンキナーゼ-3(Flt-3)及び10~1000ng/ml幹細胞因子(STF)を補充された、または0.5%O及び5%COの虚血条件下で、37℃で18時間無血清細胞培養培地中で培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
孔径10KDaのフィルタを使用することによるSEV画分の濃縮ステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
凍結乾燥ステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
マイクロRNA(miRNA)、パルミトイル化トリペプチド、ペプチド、DNA、低分子干渉RNA(siRNA)、成長因子、アミノ酸、糖、脂溶性分子、脂肪酸及びそれらの誘導体及び/又は脂質修飾分子を添加することによってSEV組成物を濃縮することによるSEV修飾ステップをさらに含み、前記修飾は、
a)前記単離方法の最初のステップの前、請求項4に記載のUCBMNCの培養中、
b)請求項1に記載のステップf)の後の前記単離方法の製造後段階において、または
c)請求項に記載の凍結乾燥ステップ後に、
行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
生物学的活性分子、すなわち、miRNAまたは脂溶性分子の添加によって、SEV組成物が濃縮される、請求項1に記載の方法であって、
a)濃縮されるSEVの脱水または凍結乾燥粉末組成物を提供するステップと、
b)
(i)1x10~1x1011粒子/mLを有するSEV組成物と、同量の選択されたmiRNAの溶液と共に、約37℃で約2分間、3サイクルインキュベートすることであって、前記miRNAの溶液は、水または中性pHの緩衝液中で、0.2~10μMの量のmiRNAを含み、各サイクルの後ボルテックスを行うインキュベーション、
(ii)1x10~1x1011粒子/mLを有するSEV組成物と、同量の選択された脂溶性分子溶液の溶液と共にインキュベートすることであって、前記脂溶性分子は、水または中性pHの緩衝液中で10~60μMの濃度を含むパルミトイル化トリペプチドである、インキュベーションによって、選択された生物学的活性分子組成物の溶液により前記SEV組成物を直接水和するステップであって、
任意により、10~100kDaの分子カットオフで実施されるろ過ステップと、をさらに含み、その後、水または中性pHの緩衝液で3ラウンド洗浄し、高速、14000g、4℃、4~10分間の遠心分離により、中性pHの緩衝液に再懸濁する、方法。
【請求項10】
前記SEVの凍結乾燥粉末組成物を0.2~10μMのmiRNA溶液で直接水和することにより、SEV組成物を選択したmiRNAを添加することによって濃縮する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記SEVの凍結乾燥粉末組成物を、パルミトイル化トリペプチドを添加することによって、37℃で約1時間、20μM~60μMの範囲で変化する様々な濃度の溶液により直接水和することにより、濃縮する、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臍帯血単核細胞(UCBMNC)によって分泌される小型細胞外小胞(SEV)及びSEVを含む組成物を単離するためのプロセスに関するものであり、これらは、自己免疫疾患の治療法または予防及び免疫系に関連する他の疾患、また美容目的のために適用するのに有用である。
【0002】
したがって、本発明は、医薬品、医学、化粧品、細胞生物学及びそれらの器具における研究開発の技術領域にある。
【背景技術】
【0003】
自己免疫疾患(AD)は、最も一般的な疾患群の1つであり、米国のみで患者は5,000万人である。これらの疾患は慢性であり、多くの場合生命を脅かすものであり、AARDA(American Autoimmune Related Diseases Association)によれば、女児及び64歳以下のすべての年齢群の女性の死因のトップ10の1つである(「Autoimmune Disease Statistics-AARD」n.d.)。
【0004】
現在までに確認された約100の異なるADの中には、乾癬、全身性エリテマトーデス(SLE)、アトピー性皮膚炎、または湿疹などの強い皮膚症状を伴うものがある。これらの炎症性皮膚疾患は、生命を脅かすものではないが、患者の日常生活において大きい不快感を引き起こし、高い頻度で精神障害を伴う。これらの疾患は、皮膚のかゆみ及び発赤を伴う時折の発疹から、皮膚炎、しゅさ、脂漏性皮膚炎、及び乾癬などの慢性疾患まで、多くの形態で現れる。
【0005】
炎症性/自己免疫性皮膚疾患の発症時に、制御性T細胞(Treg)とエフェクターT細胞(Teff)との間に免疫の不均衡があり、自己免疫の主要なドライバーとして広く認識されている。
【0006】
炎症性皮膚疾患はまた、不適切であり、持続的炎症応答を特徴とする。急性炎症応答は、皮膚の損傷を解消する傾向があるが、持続的な炎症刺激または炎症メカニズムの調節不全は慢性炎症を引き起こし得、皮膚症状を伴う様々な慢性炎症性疾患、すなわちアトピー性皮膚炎及び乾癬に寄与し得る。
【0007】
尋常性乾癬は、T細胞及び樹状細胞による病理である。Tヘルパー細胞及び表皮CD8T細胞の様々なサブセットが、乾癬の病因における主要なプレーヤーとして報告されている。さらに、乾癬の病因は、リンパ節内のエフェクターT細胞の蓄積、及びその後の血液系を介した皮膚への移動を伴うことが一般的に認められている。
【0008】
ADの最も進んだ治療法では、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)またはインターロイキン(IL)-12/23及びIL-17Aなどの特定の生体分子を標的とし、強力な免疫抑制効果を介して、悪化した免疫応答を遮断する。多くの場合、これらの治療法はADを効率的に制御するが、すなわち、感染症などの他の日和見感染症に患者をさらすため、強力な二次的効果作用を有する。
【0009】
したがって、免疫系の主な機能を強く抑制することなく、免疫系の耐性を高め、その結果、二次的副作用を減少させる他の治療選択肢を開発する必要がある。
【0010】
好適なアプローチは、自己免疫疾患の治療選択肢として、UCBMNCなどの原始的な免疫系を備えた未成熟なヒト組織に由来するSEVを使用することである。これにより、安全性及び忍容性のプロファイルが良好になり、遺伝子発現を直接調節することにより、より複雑な応答を調整できる。
【0011】
SEVは、ほとんどの生細胞から分泌されるリポソーム様小胞であり、約30~200nmである。これらのSEVは、異なる細胞型間の通信の主要なメディエータとして、すなわち、低分子RNAの調節及び輸送を介して作用する。UCBMNC及び間葉系細胞などの損傷組織の再生に一般的に使用される細胞型は、SEVの豊富な供給源である。これらの幹細胞由来のSEVは、細胞ベースの治療法にうまく取って代わり、様々な動物の傷害モデルにおいて損傷した器官の機能を改善し、また免疫系を調節することが実証されている。
【0012】
SEVの単離は、文献で広く議論されている主題であり、すでにいくつかのアプローチが利用可能である。
【0013】
国際公開第2017163132号は、UCBMNC及びUCBMNCによって分泌される小胞を含むいくつかの組成物からSEVを単離するための方法、及び組織修復、特に創傷治癒を促進するためのそれらの使用を開示している。
【0014】
国際公開第2017163132号に記載されている組成物は、UCBMNCから分泌されたSEVを単離し、精製するために、分画遠心分離技術をベースとした精製方法によって得られる。良好な収率の単離された小胞をもたらすにもかかわらず、この方法は、ヒトの操作により大きい影響を受け、時間を要し、かつ主要なサンプルの損失をもたし得るいくつかのステップを含み、その結果、かなりの量の汚染物質(リポタンパク質及び他の可溶性タンパク質など)を保持することとなる。
【0015】
国際公開際2017163132号はまた、UCBMNC由来のSEVを含む組成物を開示しており、小型細胞外小胞は、1つ以上のマイクロRNA(miRNA)を含み、最も好ましい組成物は、少なくともmiRNAhsa-miR-150-5pを含む小型細胞外小胞を含むものである。これらの組成物は、分泌細胞(ficoll勾配によって単離された単核細胞)の亜集団、及び精製方法(超遠心分離をベースとする)からの累積的な結果である、低分子RNAにおける特定の組成を有する。これにより、それらの治療的可能性が制限され、組織修復、より具体的には皮膚創傷の治癒を促進することが知られているmiR-22-3pなどの他の低分子RNAを含む場合に増強され得る。さらに、これらの組成物は、組織修復に重要な炎症及び免疫細胞の調節に限定的な影響を有することが予想される。炎症を制御する、例えば、let-7c-5pまたはmiR-27a-3pを含む組成物は、失速した慢性創傷の長期の炎症状態を改善し、かつ創傷治癒を刺激することができる。
【0016】
したがって、皮膚病変などの組織修復の治療法、ならびに炎症及び免疫系の重要な寄与を伴う他の疾患の治療法として適用される可能性がより高いそのような組成物を産生するための組成物及び方法を開発する必要がある。
【0017】
本発明は、UCBMNCによって本質的に分泌されるSEVを単離するためのより速くより効率的な方法を提唱することによってこれらの問題を解決し、この方法は、自動臍帯血(UCB)処理ステップ及び標準化され部分的に自動化されたSEV精製プロセスを含み得、これにより、より高いSEV収率、再現性のある方法で、より高い純度で得ることができる。
【0018】
本発明の別の目的は、特定の再生促進性、抗炎症性及び免疫調節性を有する特定の種類の小型細胞外小胞を含む組成物を得ることであり、これらは、皮膚症状の有無にかかわらず、炎症性及び自己免疫疾患の状況において治療法として使用するため、または予防的及び美容的使用のための有望なツールである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】国際公開第2017163132号
【非特許文献】
【0020】
【文献】“Autoimmune Disease Statistics - AARDA.” n.d. Accessed September 5, 2019. https://www.aarda.org/news-information/statistics/.
【文献】Fits, L. van der, S. Mourits, J. S. A. Voerman, M. Kant, L. Boon, J. D. Laman, F. Cornelissen, et al. 2009. “Imiquimod-Induced Psoriasis-Like Skin Inflammation in Mice Is Mediated via the IL-23/IL-17 Axis.” The Journal of Immunology 182 (9): 5836-45. https://doi.org/10.4049/jimmunol.0802999.
【文献】Martinez, Fernando O, and Siamon Gordon. 2014. “The M1 and M2 Paradigm of Macrophage Activation: Time for Reassessment.” F1000prime Reports 6: 13. https://doi.org/10.12703/P6-13.
【文献】Martinsson, Hanna, Maria Yhr, and Charlotta Enerback. 2005. “Expression Patterns of S100A7 (Psoriasin) and S100A9 (Calgranulin-B) in Keratinocyte Differentiation.” Experimental Dermatology 14 (3): 161-68. https://doi.org/10.1111/j.0906-6705.2005.00239.x.
【文献】Navegantes, Kely Campos, Rafaelli de Souza Gomes, Priscilla Aparecida Trtari Pereira, Paula Giselle Czaikoski, Carolina Heitmann Mares Azevedo, and Marta Chagas Monteiro. 2017. “Immune Modulation of Some Autoimmune Diseases: The Critical Role of Macrophages and Neutrophils in the Innate and Adaptive Immunity.” Journal of Translational Medicine 15. https://doi.org/10.1186/S12967-017-1141-8.
【文献】Rosenblum, Michael D, Kelly A Remedios, and Abul K Abbas. 2015. “Mechanisms of Human Autoimmunity.” The Journal of Clinical Investigation 125 (6): 2228-33. https://doi.org/10.1172/JCI78088.
【文献】Shanmugam, Narkunaraja, Marpadga A. Reddy, and Rama Natarajan. 2008. “Distinct Roles of Heterogeneous Nuclear Ribonuclear Protein K and MicroRNA-16 in Cyclooxygenase-2 RNA Stability Induced by S100b, a Ligand of the Receptor for Advanced Glycation End Products.” Journal of Biological Chemistry 283 (52): 36221-33. https://doi.org/10.1074/jbc.M806322200.
【文献】Siegel, Jay P. 1988. “Effects of Interferon-γ on the Activation of Human T Lymphocytes.” Cellular Immunology 111 (2): 461-72. https://doi.org/10.1016/0008-8749(88)90109-8.
【文献】Zhu, Jinfang, Hidehiro Yamane, and William E Paul. 2010. “Differentiation of Effector CD4 T Cell Populations (*).” Annual Review of Immunology 28: 445-89. https://doi.org/10.1146/annurev-immunol-030409-101212.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、臍帯血単核細胞(UCBMNC)によって分泌される小型細胞外小胞を単離するためのプロセス及び小型細胞外小胞を含む組成物に関するものであり、これらは、炎症性、自己免疫及び/または免疫系疾患の治療法もしくは予防、及び/または美容目的に適用するのに有用である。
【0022】
したがって、本発明の第1の実施形態では、請求項1に従って、臍帯血単核細胞(UCBMNC)によって分泌される小型細胞外小胞を単離するためのプロセスが提唱される。
【0023】
このプロセスにより、高純度の小型細胞外小胞(精製サンプルの75%を超える50~200nmの小胞)及び高収率が得られる(各mLの馴化培地から少なくとも4x10の小型細胞外小胞が得られる)。さらに、適正製造基準(GMP)下で、容易に標準化し、かつアップスケールできる。この方法のもう1つの利点は、部分的に自動化できるため、結果の再現性が高く、かつより高速な方法で得られることである。
【0024】
本発明の第2の実施形態は、請求項12に記載の本発明のプロセスによって得ることができる小型細胞外小胞を含む組成物に関する。
【0025】
これらの組成物は、生物学的活性を有するこれらの分子群、特に特定のタンパク質、低分子RNA及びmiRNAなどのRNA、すなわち20の排他的miRNA、及び脂質を提示する。
【0026】
したがって、本発明の第3の実施形態は、請求項18に記載の、化粧品として、医薬品として、または予防として使用される小型細胞外小胞を含む医薬組成物に関する。
【0027】
本発明の第4の実施形態は、請求項20に記載の炎症性、自己免疫または他の免疫系疾患の治療法及び/または予防において使用するための小型細胞外小胞を含む医薬組成物に関する。
【0028】
本発明による単離されたSEVを含む医薬組成物は、抗炎症特性及び末梢血単核細胞(PBMNC)に対する免疫調節効果などの生物学的活性を有し、化粧品、医薬品、または予防剤としての適用、すなわち炎症性、自己免疫性または他の免疫系疾患の治療法または予防に有用となることが明らかになった。
【0029】
本発明の第5の実施形態は、請求項24に記載の組織修復に使用するための医薬組成物に関する。
【0030】
本発明による単離されたSEVを含む医薬組成物は、組織修復、皮膚組織修復、皮膚開放創、皮膚熱傷療法のほか、にきび、乾癬、しゅさ、皮膚炎、湿疹、伝染性膿痂疹、間擦疹、または毛包炎などの皮膚状態もしくは疾患、ならびに動脈性潰瘍、静脈性潰瘍、糖尿病性潰瘍及び圧迫性潰瘍、術後潰瘍、外傷性潰瘍、口内潰瘍、糖尿病性足潰瘍または角膜潰瘍などの創傷の予防の治療において、生物学的活性を有することが明らかになった。
【0031】
本発明の第6の実施形態は、小型細胞外小胞を含む医薬組成物を含む医療デバイスに関し、ここで、組成物は、請求項29に記載の天然または合成ポリマーマトリックスなどの担体、パッチ、または別の好適な医薬担体によって支持される。
【0032】
請求項30は、SEVを生物学的活性分子で濃縮することによってSEVを修飾する方法に関する本発明の別の実施形態に関する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】(左パネル)先行技術プロセス(UC)及び(右パネル)実装されたGMP準拠の方法(UF/SEC)の詳細な方法論を示す図である。
図2】本発明の好ましい実施形態の1つによる、従来技術のプロセス(UC)及び最適化された方法(UF/SEC)によって単離されたSEVの特徴を明らかにした図である:A.XK26/70(破線)及びSuperose10/300GE(実線)を使用したSEV精製のクロマトグラムである。B.UF/SECで収集された画分のナノ粒子追跡分析(NTA)粒子分布及びタンパク質濃度を表す。C.両方の方法におけるSEV組成物-汚染物質のHPLCによる特徴を表す。D.両方の方法におけるSEV組成物-汚染物質のHPLCによる特徴を表す。E.NTAによるUC及びUF/SECでのSEVのサイズ分布を表す;F.UC及びUF/SECによって単離されたSEVについてNTAで得られた集団の分布を表す。G.NTAによって得られたSEVのモーダルサイズを表す。
図3】UCまたはUF/SECによって単離されたSEVの収率を表す図である。A.UC及びUF/SECによって単離されたSEV中の馴化培地1mLあたりの細胞外細胞の数を表す。B.UC及びUF/SECによって単離された単核細胞100万個あたりの単離されたSEVの数を表す。C.UC及びUF/SECによって単離された総有核細胞100万個あたりの単離されたSEVの数を表す。エラーバーは、SEMを表す。実施した統計的検定は、一元配置分散分析であり、****p<0.0001であった。
図4】蛍光miRNAによるSEVの修飾を示す図である。A.miRNAを用いてSEVを修飾するための概略ワークフロー。B.1-SEVを含む(灰色)及び含まない(黒色)蛍光miRNA模倣物を含む溶液の蛍光スペクトル。B.2-1μMのmiRを含み、SEVを含まない溶液を1回遠心分離した後の、上部コンパートメント(フィルタ)の蛍光。B.3、B.4-1μMの蛍光miR及び1x1011部/mL SEVを含む溶液の3回の遠心分離ステップ後の上部コンパートメント(フィルタ)の蛍光。3回の遠心分離後、残りの蛍光は、SEVに組み込まれたmiRに対応する。
図5】蛍光パルミトイル化ペプチド(MTK)によるSEVの修飾を示す図である。A.MTKを用いてSEVを修飾するための概略ワークフロー。B.1-蛍光MTK SEVを含む溶液の吸収スペクトル。B.2-MTKで修飾されたSEVの蛍光。
図6】THP-1由来のマクロファージに対するSEVの抗炎症効果を示す図である。A.実験計画の概略図。THP-1細胞をPMA(25nM)処理によりマクロファージに分化させた後、マクロファージをSEV(1x1010部/mL)で刺激した。陽性対照としてのLPS(1μg/mL)。SEV投与の24時間後、THP-1マクロファージRNAを抽出し、細胞をフローサイトメトリーに使用した。B.M1/M2マクロファージ比はフローサイトメトリーによって評価した。M1マクロファージはCD14CD86として定義し、M2マクロファージはCD14CD163として定義した。結果は統計的に有意ではないが、SEV治療により、この割合を減少させることができた。C.炎症誘導性サイトカインmRNA発現は、qRT-PCRによって評価した。(C1)IL1β、(C2)TNFα、(C3)IFNγ、及び(C4)Cox-2の発現は、SEV治療により減少した。エラーバーは、SEMを表す。実行した統計的検定は、一元配置分散分析であり、**はp<0.01、***はp<0.001である。
図7】THP-1由来のマクロファージに対するSEVの効果は、炎症誘導性刺激を打ち消すことができる。A.実験計画の概略図。PMA(25nM)治療によりTHP-1細胞をマクロファージに分化させた後、THP-1由来マクロファージをLPS(1μg/mL)及びSEV(1x1010部/mL)により同時に刺激した。SEV投与の24時間後、THP-1マクロファージRNAを抽出し、細胞をフローサイトメトリーに使用した。B.M1/M2マクロファージ比はフローサイトメトリーによって評価した。M1マクロファージはCD14CD86として定義し、M2マクロファージはCD14CD163として定義した。SEV治療は、この割合を大幅に減らすことができた。C.炎症誘導性サイトカインmRNA発現は、qRT-PCRによって評価した。(C1)IL1β、(C2)TNFα、(C3)IFNγ、及び(C4)Cox-2の発現は、SEV治療により減少した。エラーバーは、SEMを表す。実行した統計的検定は、一元配置分散分析であり、**はp<0.01の場合、***はp<0.001の場合である。
図8】SEVにより、T細胞の増殖能が低下することを示す図である。PBMNCは、PHA及びSEVまたはビヒクルと共に6日間インキュベートした。陰性対照として、PBMNCはマイトジェンで刺激されず(NS)、陽性対照として、未処理PBMNCを使用した(NT)。CFSE強度によって測定された増殖指数:A.全体的なT細胞増殖(CD3細胞);B.ヘルパーT細胞(CD3CD4);C.細胞傷害性T細胞サブセット(CD3CD8);D.全T細胞の生存率。7-AADの内在化を使用して死細胞を染色した。結果は平均±SEMとして表す(SEVは、n=6、PBMNCドナーは、n=1)。一元配置分散分析を使用して統計分析を実行した。*は、p<0.05;***はp<0.001、****はp<0.0001である。
図9】制御性T細胞の分化に対するSEVの生物活性を示す図である。健康な血液ドナーのPBMNCをSEV(1x1010部/mL)またはビヒクルと共に6日間インキュベートした。その後、細胞を洗浄し、FACS分析のために染色した。A.各条件の代表的なフローサイトメトリードットプロット。B.6日間のインキュベーション後の制御性T細胞の割合。制御性T細胞は、CD3、CD4、CD25、及びFoxP3の同時発現によって同定された。C.結果は平均±SEMとして表す(SEVは、n=6、PBMNCドナーは、n=2)。一元配置分散分析を使用して統計分析を実行した。*は、p<0.05;***はp<0.001、****はp<0.0001である。
図10】SEVの免疫調節活性を示す図である。抗CD3及び抗CD28で活性化した後、健康な血液ドナーのPBMNCをSEV(1x1010部/mL)またはビヒクルと共に6日間インキュベートした。FACS分析のために細胞を洗浄し、染色した。陽性対照(C+)の場合、PBMNCをIL-2(100IU/ml)及びTGF-β(5ng/mL)でさらに刺激した。A.6日間のインキュベーション後の制御性T細胞の割合。Tregは、CD4CD25CD127として同定した。B.6日間のインキュベーション後のエフェクターT細胞の割合。Teffは、CD4CD25CD127として同定した。C.Treg/Teff比。結果は平均±SEMとして表す(SEVは、n=6、PBMNCドナーは、n=1)。一元配置分散分析を使用して統計分析を実行した。*は、p<0.05;***はp<0.001、****はp<0.0001である。
図11】SEVが、in vitroで刺激されたT細胞のIFN-γの産生を阻害することを示す図である。抗CD3/抗CD28で活性化した後、PBMCをSEVまたはビヒクルと共に6日間インキュベートした。陰性対照として、PBMNCは活性化されず(NS)、陽性対照として、未処理のPBMNCを使用した(NT)。グラフは、(A)CD3CD4及び(B)CD3CD8T細胞サブセット内の各条件におけるIFN-γ産生細胞の全体的な割合を示した。結果は平均±SEMとして表す(SEVは、n=6、PBMNCドナーは、n=1)。一元配置分散分析を使用して統計分析を実行した。*は、p<0.05;**はp<0.01;***は、p<0.001、****は、p<0.0001である。
図12】SEVは、マスター転写T細胞因子の発現に異なる影響を及ぼす。健康な血液ドナーのPBMNCをSEV(1x1010部/mL)またはビヒクル(PBS)と2日間及び6日間インキュベートし、リンパ球コンパートメントを形態学的特徴(FSC及びSSC)及びCD3CD4染色に基づいて選別した。次いで、トータルRNAを抽出し、β-アクチンを参照遺伝子として遺伝子発現解析を行った。正規化発現レベルは、2-ΔΔCtに基づいて計算した。A.T1マスター転写因子t-betのmRNA発現;B.T2マスター転写因子Gata3のmRNA発現;C.T17マスター転写因子RORγTのmRNA発現;D.Tregマスター転写因子FOXP3のmRNA発現。結果は平均±SEMとして表す(SEVは、n=6、PBMNCドナーは、n=2)。一元配置分散分析を使用して統計分析を実行した。*は、p<0.05;**はp<0.01;***は、p<0.001、****は、p<0.0001である。
図13】SEVSにより、炎症誘発性サイトカインの分泌が減少することを示す図である。PBMNCをLPS(1μg/mL)及びExo-101(1x1010部/mL)と24時間共培養した。この後、上清を収集し、ELISAによって分析した。A.PBMNCによるヒトTNF-α分泌;B.PBMNCによるヒトCCL20分泌。結果は平均±SEMとして表す(SEVは、n=3、PBMNCドナーは、n=1)。一元配置分散分析を使用して統計分析を実行した。*は、p<0.05;**はp<0.01;***は、p<0.001、****は、p<0.0001である。
図14】リンパ球発現プロファイルに対するmiR-150-5p及びmiR-146-5pの影響を示す図である。健康な血液ドナーのPBMNCは、ViromerBlueを使用して両方のmiRでトランスフェクトした。トランスフェクションの2日後、リンパ球コンパートメントを形態学的特徴(FSC及びSSC)に基づいて分類し、トータルRNAを抽出した。遺伝子発現解析は、参照遺伝子としてβ-アクチンを使用して実行した。正規化発現レベルは、2-ΔΔCtに基づいて計算した。A.T1マスター転写因子t-betのmRNA発現;B.T2マスター転写因子Gata3のmRNA発現;C.T17マスター転写因子RORγTのmRNA発現;D.Tregマスター転写因子FOXP3のmRNA発現。E.PBMNCトランスフェクション6日後の制御性T細胞の割合。Tregは、CD4CD25FoxP3として同定した。F.PBMNCトランスフェクション6日後のT17の割合。TH17は、IL17A発現細胞として同定した。結果は平均±SEMとして表す(SEVは、n=3、PBMNCドナーは、n=1)。一元配置分散分析を使用して統計分析を実行した。*は、p<0.05;**はp<0.01;***は、p<0.001、****は、p<0.0001である。
図15】乾癬様NHEK細胞モデルに及ぼすSEVの効果を示す図である。NHEKは、2mMのCaClで3日間最終分化させた。次に、炎症誘発性の表現型を増強するために、IMQを3時間追加した。最後に、IMQとの共インキュベーションで3時間処理を行い、RNA抽出のために細胞を収集した。500ngのRNAを逆転写反応に使用した。mRNA発現は、β-アクチン発現遺伝子によって正規化した。(A)VEGF-A、(B)TNF-α;(C)TGF-β1及び(D)IL-6について遺伝子発現を評価した。結果は平均±SEMとして表す(SEVについてはn=3)。統計分析は、スチューデントのt検定を使用して実行した。*は、p<0.05;**はp<0.01である。
図16】三次元表皮乾癬様モデルでのSEVの生物活性を示す図である。5日間の治療後(SEV(2.5x10部/mL)で1日2回)、RNAは、RNeasy Mini Kit(Qiagen)を使用して、製造業者の推奨に従って抽出した。500ngのRNAを逆転写反応に使用した。mRNA発現は、β-アクチン発現遺伝子によって正規化した(各条件でn=3)。A.炎症誘発性メディエータの遺伝子発現プロファイル:(A1)IL6;(A2)IL8;(A3)Gro-α;(A4)IFNγ;(A5)CXCL10及び(A6)TNF-α。B.抗菌ペプチドの遺伝子発現プロファイル:(B1)IL6;(B2)IL8;C.遺伝子発現プロファイル(C1)KRT5及び(C2)Cox-2。D.ELISAによって表皮乾癬様ケラチノサイトのCM中で測定したタンパク質分泌:(D1)TNF-α、(D2)CCL20及び(D3)IL17A。結果は平均±SEMとして表す(SEVについてはn=3)。統計分析は、スチューデントのt検定を使用して実行した。*は、p<0.05;**はp<0.01である。
図17】局所-SEVが、乾癬様皮膚炎症マウスモデルの乾癬特性を改善したことを示す図である。A.C57BL/6Jマウスを使用した。乾癬様特徴は、5%IMQを含むクリーム製剤であるAldaraを毎日局所塗布することによって誘導した。Aldaraの塗布から1時間後、SEV治療は、毎日局所製剤で塗布した。6日後、さらなる分析のために皮膚及びリンパ節生検片を収集した。B.局所治療6日後のマウスの背中の剃毛皮膚の代表的な写真。C.臨床スコアリングは、紅斑の重症度(0~4までの発赤)、患部(0~3)、及び落屑(0~2からのスケール)をランク付けすることによって実行した。D.表皮の厚さは、局所治療6日後のHE染色で測定した。
図18】乾癬様皮膚炎症マウスモデルの皮膚細胞に対する局所-SEVの生物活性を示す図である。A.(A.1)CD45CD11bCD64Ly6Cとして定義された炎症性マクロファージ、(A.2)好中球(CD45CD11bCD64Ly6G)(A.3)成熟T細胞(CD45CD3TCRαβ)及び(A.4)細胞傷害性T細胞CD45TCRαβCD4)のフローサイトメトリー分析である。この分析は、皮膚生検の酵素消化後に実施した。B.(B.1)RORγT、(B.2)CCL20、(B.3)iNos及び(B.4)アルギナーゼの正規化mRNA発現。皮膚消化後、RT-PCR分析のために皮膚細胞RNAを抽出した。結果は平均±SEM(n=6)として表す。一元配置分散分析を使用して統計分析を実行した。*は、p<0.05;**はp<0.01である。
図19】乾癬様皮膚炎症マウスモデルのリンパ節細胞に対する局所-SEVの生物活性を示す図である。A.(A.1)細胞傷害性T細胞の数(CD3CD4)、(A.2)メモリーT細胞の数(CD3CD4CD44CD62L)、(A.3)TH17の割合(CD4TCRαβCCR6)及び(A.4)リンパ節に存在するγδT細胞(CD3GL3)の割合のフローサイトメトリー分析。この分析は、リンパ節組織の解離後に実施した。B.(B.1)TNF-α、(B.2)IFNγ、(B.3)RORγT、及び(B.4)FOXP3の正規化mRNA発現をリンパ節で評価した。組織解離後、RT-PCR分析のためにリンパ節RNAを抽出した。結果は平均±SEM(n=6)として表す。一元配置分散分析を使用して統計分析を実行した。*は、p<0.05;**はp<0.01である。
図20】本発明の方法によって単離されたSEVは、糖尿病マウスモデルにおいて創傷治癒を加速させることを示す図である。STZ(50mg/kg)で50日間誘導した後、16匹の化学的に糖尿病を誘導されたC57BL/6マウスの皮膚に全層切除創を行った。各マウスは、各治療群:発明的方法または先行技術的方法に無作為に割り当てた。SEV治療は1日2回15日間局所的に適用した。(A)0日目、3日目、及び10日目の各状態の代表的な創傷顕微鏡写真。スケールバー:0.5cm。(B)各時点(毎日)でのすべてのマウスの創傷サイズの割合の算術平均及びSEM(n≧12)。*p≦0.05、*p≦0.01、*p≦0.0001。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、臍帯血単核細胞(UCBMNC)によって分泌される小型細胞外小胞を単離するためのプロセス、ならびに自己免疫及び/もしくは免疫系疾患の治療法、または予防及び/もしくは美容目的に適用するのに有用である、細胞を処理することによって得られる小型細胞外小胞を含む組成物に関する。
【0035】
1.単核細胞臍帯血小型細胞外小胞を単離するためのプロセス
本発明のプロセスは、臍帯血単核細胞(UCBMNC)によって分泌される小型細胞外小胞を単離するために適用することができる。このプロセスは、高純度の小型細胞外小胞をより高い収率で達成することを目的としている。
【0036】
これは、i)連続遠心分離を行う第1のステップ、ii)限外ろ過(UF)と組み合わせた精密ろ過を行う第2のステップ、及びiii)サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を行う最終ステップで構成される。
【0037】
一般に、本発明のプロセスは、以下に従って実施することができる:
【0038】
1.1UCBMNCの収集及び処理
ヒト臍帯血サンプルは、インフォームドコンセントを提供した後、健康なボランティアドナーから入手できる。次に、血球は勾配遠心分離によって単離される。例えば、自動臍帯血処理システムによって自動的に処理される。遠心分離中に、成分の層化及び分離が生じ、臍帯血成分(バフィーコート、血漿、赤血球)を別々の滅菌バッグに配向できる。
【0039】
要約すると、赤血球(RBC)は、血漿が処理バッグに残留している間に、別の滅菌凍結バッグに送達できる単核細胞(MNC)リッチ層を含む別の滅菌バッグであるバフィーコートに移される。UCBMNCは、リンパ球、単球、好中球、好酸球、及び/または好塩基球を含む。
【0040】
この自動化プロセスは、ユーザ間の技術的変動性及び処理時間及び費用の非効率性など、手動処理の制限を克服することが当技術分野において公知である。さらに重要なことに、このプロセスは、細胞の生存率及び効力を損なうことはない。
【0041】
1.2UCB細胞培養
細胞は、虚血の有無にかかわらず、約18時間の最小期間培養できる。UCBMNCは、好ましくは10~1000ng/mlのFMS様チロシンキナーゼ-3(Flt-3)及び10~1000ng/mlの幹細胞因子(SCF)が補充された無血清細胞培養培地で、虚血なく、または好ましくは虚血状態、例えば、0.5%O及び5%CO、37℃で18時間、培養される。
【0042】
虚血状態(O<2%)にさらされた細胞によって分泌される小型細胞外小胞は、虚血状態にさらされていないときに細胞によって分泌される小型細胞外小胞よりも組織修復を誘導するのにより効果的である(特に局所虚血によって損傷が永続する場合)。これは特に、血管新生を促進する生体分子が豊富に含まれているためである。したがって、本発明の好ましい実施形態では、細胞は虚血条件下で培養される。
【0043】
1.3SEVの単離
臍帯血単核細胞(UCBMNC)によって分泌される小型細胞外小胞(SEV)は、UCB自動処理から直接得られるバフィーコートであり、本発明によれば、以下の3ステップのプロセスを使用して精製(単離)される。i)2ラウンドの連続遠心分離を使用して、培地から大きい粒子及び細胞破片を除去する、ii)除去された上清は、連続的なマイクロ(MF)及び限外ろ過(UF)技術にかけて、200nmより大きく100kDa未満のサイズの小胞及び他の粒子を除去する;ならびにiii)単離されたSEVをさらに分離し、小型可溶性タンパク質を除去する高性能排除クロマトグラフィー(SEC)による最終分離ステップ。本発明のプロセスの好ましい実施形態は、SEV単離に使用される従来技術の方法(超遠心分離、UC)との比較も含めて、図1に記載されている。
【0044】
最初に、典型的には、最初に低速(200g~400g、10~20分)で、次に平均速度(1500g~2500g、20~30分)で実行される2ラウンドの連続遠心分離を使用して、低温(4~10℃)で培地から大きい粒子及び細胞破片を除去し、その結果、馴化培地が透明となる。
【0045】
その後、収集された馴化培地は、手動で、または蠕動ポンプ(<1バール)などの自動システムのいずれかを用いて、800nm~450nmの細孔フィルタを備えた第1のフィルタを使用し連続ろ過し、その後250nm~200nmの細孔フィルタを備えた第2の小型フィルタを使用して、別のろ過を行うことによってマイクロフィルタ処理される。このろ過ステップはまた、上記の両方のフィルタを組み合わせた装置によって実施することができる。
【0046】
次に、このろ過溶液は、好ましくは、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で少なくとも1:1の比率で希釈される。
【0047】
次に、得られた溶液を限外ろ過ステップにかける。これは、Vivacell(登録商標)250システムを使用して、2~4バール、好ましくは3~3.5バールの圧力、及び100~200rpmの一定の撹拌条件で行うことができる。100KDaの分子サイズカットオフを使用するタンジェンシャルフィールドフローシステムも、上記の目的に適している。
【0048】
これにより、SEVなど、100KDaより大きく200nmより小さい粒子の濃縮溶液が得られる。
【0049】
次に、濃縮溶液を、好ましくは、それぞれ少なくとも1:4の比率のPBS溶液で1回洗浄し、次いで以下の精製ステップに適合する最小容量、好ましくは初期容量の少なくとも10倍未満に再度濃縮する。
【0050】
最終単離ステップでは、高性能サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用する。
【0051】
このステップは、FPLC-Akta Avantクロマトグラフィーシステムなど、SECに好適であるか、同等の機器で実行できる。使用するSECカラムに従って、ろ過したPBS溶液を適合流量において溶出バッファーとして使用する(Superose6 10/300GEでは0.5mL/分、XK26/70では3mL/分)。
【0052】
UV吸光度は、3つの異なる波長(220nm、260nm、及び280nm)で検出したが、280nmがSEV検出の好ましい信号として使用される。
【0053】
クロマトグラムでは2つの個別のピークが観察され、SEVは、最初に溶出されたピーク(粒子のサイズが大きい)に存在する。検出された第2のピークは、注入された溶液に依然として存在するより小さい可溶性タンパク質に対応する。
【0054】
SEVは、第1のピークで280nmでの吸光度が増加したときに収集が開始され、そのピークの280nmでの吸光度がゼロまで低下したときに収集を終了する。
【0055】
したがって、SEVの画分は、Superose GE 100/300では8~10ml、Superose GE XK26/70では100~120mlの溶出容量に対応する(図2A)。SEVは、機器と組み合わせた冷蔵(4~10℃)自動フラクションコレクターを使用して収集できる。
【0056】
ナノ粒子トラッキング分析(NTA)による収集された画分の分析及びタンパク質濃度の測定は、単離されたサンプル中のSEVの存在を確認するために使用される。SEVは、タンパク質濃度が低く、ナノサイズ粒子の数が多いことに対応し、第2のピークの汚染物質可溶性タンパク質は、タンパク質濃度が高く、ナノサイズ粒子の数が少ないことに対応する(図2B)。
【0057】
本発明の最適化された方法論(UF-SEC)に従って単離されたSEVは、記載された従来技術のプロセス(UC)に従って単離されたSEVと比較した場合、同様の形態学的特徴を有する。
【0058】
SEVは、得られた組成物、すなわちSEV種におけるそれらの個々の量及び種類に対応させてFPLC技術によって評価し、可溶性タンパク質による汚染は20%未満であることが観察され、これは従来技術のUC方法論と非常に類似している(図2C及び図2D)。これらの結果は、汚染物質可溶性タンパク質の保持に関して、本発明のプロセス(UF-SEC)が従来技術(UC)のプロセスと同程度に良好であることを示している。
【0059】
ナノ粒子追跡分析(NTA技術)は、単離されたSEVのサイズ分布を分析するために使用される。曲線のプロファイルは、200nm未満のサイズに集中しており、得られた平均サイズは150nmに近い(図2E)。これらの結果は、文献で50~200nm以内であると報告されているSEVの予想サイズに適合する。これらの結果は、単離されたSEVのサイズに関して、本発明のプロセス(UF-SEC)が従来技術(UC)のプロセスと同程度に良好であることを示している。
【0060】
単離されたSEV画分における微小胞(200~400nm)の存在は、5~25%以内である(図2F)が、より大きい粒子(>400nm)は、5%未満である。SEVのモーダルサイズは、最適化された方法論(UF-SEC)または従来技術の方法(UC)を使用して約150nmである(図2G)。これらの結果は、単離されたSEVのサイズに関して、本発明のプロセス(UF-SEC)が従来技術(UC)のプロセスと同程度に良好であることを示している。
【0061】
本発明の最適化された方法論(UF-SEC)を使用する場合、使用される正規化とは関係なく、従来技術の方法(UC)と比較して、(i)使用した馴化培地1ミリリットルあたり(図3A)、(ii)単核細胞(MNC)の数あたり(図3B)、または(iii)有核細胞の総数あたり(図3C)の単離されたSEVの数の収率が高い。
【0062】
これらの結果は、SEV収率に関して、本発明のプロセス(UF-SEC)が従来技術(UC)のプロセスよりも優れていることを示している。
【0063】
1.4SEVのプール
小型細胞外小胞は、複数の血液ドナーからプールされ、最適化された技術及び基準に従って特徴が明らかにされる。プールは、細胞培養馴化培地を使用して、または小型細胞外小胞の精製後に、少なくとも5名の異なるドナーから行うことができる。この戦略を使用することで、それらの生物活性特性に影響を与えることなく、精製された小型細胞外小胞間の均一性を高めることができる。
【0064】
1.5凍結乾燥
保管可能な生成物を産生するため、及び/または後の場合に使用できる組成物を産生するために、凍結乾燥ステップを一般的なプロセスに加えてもよい。
【0065】
凍結乾燥は、昇華プロセスを介する脱水プロセスである。この制御された乾燥プロセスにより水分が除去され、生成物の分子構造は無傷のままである。所望の最終生成物が凍結乾燥製剤であり得ることを考慮して、凍結乾燥がSEV組成物または画分の安定性及び生化学的/生物物理学的特性に影響を及ぼし得るか否かにアクセスするための試験を実施した。凍結乾燥は、容量に応じて、圧力<0.4ミリバール、温度約-50℃で約12~24時間実行できる。
【0066】
凍結乾燥後の細胞外小胞組成物の形態学的特徴に関して、それぞれが5つの異なるドナーを含む5つのプールの試験を行った。凍結乾燥の影響はごくわずかであることが観察された。モーダルサイズ及び濃度は、両方とも凍結乾燥手順の影響を受けていないと考えられ、プロセス内で安定して維持され、溶媒によって十分に水和されていることを示している。表面マーカーの相対的発現も凍結乾燥の影響を大きく受けることはなく、表面特性が全手順で保存されていることを示している。
【0067】
2.小型細胞外小胞(SEV)修飾の方法
単離された小型細胞外小胞(SEV)は、生物活性効率を高めるために修飾することができる。
【0068】
これらの修飾は、分泌細胞(UCBMNC)を特定の刺激で、または本発明のプロセス(UF-SEC)で単離した後、SEV組成物において直接前処理することによって行ってもよい。
【0069】
本発明では、単離後の修飾が好ましい。この目的のために、UF-SEC方法論によって得られたSEV組成物は、炎症性疾患及び自己免疫疾患などの特定の疾患の治療及び/もしくは予防のプロセス、または化粧品用途に関与するかまたは伴う、選択されたmiRNAなどの特定の分子により濃縮される。
【0070】
得られたSEV組成物は、液体または粉末のいずれかの形態で提示され得る。
【0071】
本発明の好ましい実施形態では、SEVは、miRNA溶液によりSEV凍結乾燥粉末組成物を直接水和することにより、選択された種類のmiRNAで修飾される(図4)。
【0072】
1x10~1x1011粒子/mL、好ましくは1x1011を有する凍結乾燥SEV組成物は、水中、またはPBSなどの中性pHの緩衝液中で、0.2~10μM、好ましくは0.25~5.0μM、より好ましくは0.5~1μMの同じ容量のmiRNA溶液で直接再水和し、37℃で2分間のインキュベーションを3サイクル行い、各サイクルの後にボルテックスを行う。
【0073】
したがって、miRNA分子を用いたSEV修飾の方法は、以下のステップで構成される:
a)修飾されるSEVの粉末組成物を提供すること;
b)水中またはPBSなどの中性pHの緩衝液において0.2~10μM、好ましくは0.25~5.0μM、より好ましくは0.5~1μMのmiRNAの量を含む選択されたmiRNAの溶液によりSEV組成物を直接水和すること、
c)混合物を約37℃で約2分間3サイクルでインキュベートし、各サイクルの後にボルテックスを行うこと。
【0074】
任意により、ろ過ステップを、10~100kDa、好ましくは20~70kDa、より好ましくは40~50kDaの分子カットオフで実施する上記の方法に加えて、組み込まれていないmiRNAを分離し、水または中性pHの緩衝液、好ましくはPBSにより3ラウンドの洗浄を実施し、典型的には、中性pHの緩衝液、好ましくはPBSに再懸濁し、14000g、4℃で、4分間遠心分離する。次に、修飾SEVは、当技術分野において公知である方法によって収集できる。
【0075】
小型細胞外小胞を濃縮する別のアプローチは、SEV組成物にマトリキン(MTK)などのパルミトイル化トリペプチドを組み込むことによって試験を行った(図5)。
【0076】
MTKなどのパルミトイル化トリペプチドが脂溶性分子とすると、上記の修飾方法を用いる必要があった。
【0077】
したがって、パルミトイル化トリペプチド分子によるSEV修飾のための方法は、以下のステップを含む:
a)修飾されるSEV粉末組成物を提供すること;
b)水またはPBSなどの中性pHの緩衝液中において濃度10~60μMを選択されたパルミトイル化トリペプチドの溶液によりSEV組成物を直接水和すること;
c)混合物を37℃で1時間インキュベートすること。
【0078】
組み込まれていないパルミトイル化-トリペプチドは、10~100kDa、好ましくは20~70kDa、より好ましくは40~50kDaの分子カットオフによるろ過ステップによって除去され、組み込まれていないパルミトイル化トリペプチドを分離し、上記のように、PBSにより3ラウンド洗浄することができる(PBSに再懸濁し、4℃、4分で14000gで遠心分離する)。
【0079】
3.SEV修飾の分析
記載されているSEV修飾戦略の有効性にアクセスするために、蛍光miRNA及び蛍光MTKをSEV粉末組成物に組み込んだ。
【0080】
SEVは、蛍光miRNA溶液を用いて、上記のように直接水和によって修飾した。参照溶液(組み込まれた遊離蛍光miRNAを含む)では、最初の遠心分離後、蛍光はフィルタによって保持されなかった(上部コンパートメントの蛍光はゼロになる)が、SEV組成物中の蛍光は、初期値の約20%に維持された(図4B3及び図4B4)。
【0081】
ろ過ステップの洗浄において、蛍光SEVは、各洗浄ステップ後に遠心分離によって回収された。3回の洗浄後、蛍光は20%に維持され、これは、蛍光miRNAがSEVへ効率的に取り込まれていることを示している。miRNAによる修飾の有効性をさらに評価するために、リアルタイムPCRを使用して、修飾戦略の前及び後のmiRNAの量を評価する。
【0082】
パルミトイル化トリペプチドの取り込みを検証するために、miRNA検証方法と同様に、蛍光修飾されたパルミトイル化トリペプチド、MTKをSEV組成物に正常に組み込んだ。
【0083】
したがって、本発明の別の実施形態では、SEV組成物は、上記の方法に従ってこれらの生物学的活性分子のいずれか、ならびに脂溶性分子及び非脂溶性分子のそれぞれの適応によって濃縮される。
【0084】
4.UCBMNCによって分泌される小型細胞外小胞を含む組成物
本発明のプロセス(UF-SEC)によって単離された小型細胞外小胞(SEV)を含む組成物は、その中に含まれる関連要素、特にタンパク質、RNA及び脂質の群に従って分析され、特徴を明らかにした。
【0085】
1.1タンパク質
SEV組成物は、質量分析によって分析し、タンパク質含有量の特徴を明らかにした。これらの組成物のタンパク質濃度は、マイクロビシンコニン酸アッセイ(BCA)プロテインアッセイキットによって決定され、全ペプチド材料は、タンデム質量分析と組み合わせたナノスケール液体クロマトグラフィー(nanoLC-MS/MS)を使用して分析した。簡潔に言えば、サンプルを溶解し、(SDS-PAGEゲル)に装填した。得られたゲルレーンを洗浄し、アルキル化の前にタンパク質をジチオスレイトールDTTで還元した。洗浄後、トリプシンを使用してゲル内消化を行い、ペプチドを液体クロマトグラフィーによって分離し、MSによって同定した。
【0086】
本発明の方法に従って単離された小型細胞外小胞において、合計170のタンパク質が同定された(表1,2を参照のこと)。従来技術の方法(UC)では、タンパク質が低い割合であることがこれらの生物学的プロセスに関連しているため(表13を参照されたい)、免疫系の調節及び炎症応答に関連する生物学的プロセスの点で、新しい組成物よりも優れている(表13)。
【0087】
関連する生物学的経路及び分子機能など、これら170のタンパク質の生物学的関連性を理解するために、Funrichソフトウェアを使用してUniprot IDを導入し、Funrichデータベースを使用して分析した。表3には、同定されたタンパク質の完全なリストに関連する各群の割合をまとめる。これらの結果は、SEV組成物に含まれるタンパク質が、創傷治癒及び免疫調節に関連する生物学的プロセスにおいて強力な予測効果を有することを示している。
【0088】
タンパク質は、それらが影響を与える生物学的プロセスに従ってグループ化され、表3では、同定されたタンパク質をそれらの生物学的活性と関連付けている。例えば、Funrichソフトウェアは、Sp1をANXA7、STOM、SLC2A1、DSP、JUP、ANXA11、UBA52、及びGAPDHの影響を受ける転写因子として予測した。これらはすべて、SEV組成物に含まれている。この転写因子は、活性化されたときにFoxp3発現の強力かつ安定した誘導に関連しており、SEV組成物の免疫調節効果の可能性を強化する。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】
【0092】
【表4】
【0093】
【表5】
【0094】
【表6】
【0095】
プロテオミクス分析を改良するために、SEVサンプルを3つの画分に分割し、MS分析のダイナミックレンジを拡大して、存在量の少ないペプチドを特定した。上記のタンパク質に加えて、本発明のプロセス(UF-SEC)によって精製されたSEVは、CD9、CD63及びCD82のようなテトラスパニン、インテグリン(インテグリンα-2;インテグリンα-IIb;インテグリンα-4;インテグリンα-M;インテグリンβ-1;インテグリンβ-2及びインテグリンβ-3)及びRabタンパク質として、古典的なSEVマーカーによっても構成されている。
【0096】
2.2RNA
RNAシーケンシングを使用して、SEV組成物の低分子RNA含有量を同定した。EXIQON miRCURYTM Isolationキット(Cell&Plants)を使用してSEV RNAを単離し、Bioanalyzer2100で低分子RNAの品質及び定量を行った。
【0097】
本発明の範囲において、「低分子RNA含有量」という表現は、長さが200ヌクレオチド未満のRNA分子を含む組成物を意味し、「miRNA」、「マイクロRNA」または「miR」は、約21~25ヌクレオチドを有するRNA分子を意味する。
【0098】
Ion Total RNA-Seq Kit v2プロトコルに従って、低分子RNAを使用して小さいライブラリーを構築した。プールされたライブラリーは、IonChef(商標)システムでさらに処理され、得られた530(商標)チップは、IonS5(登録商標)システムで配列決定した。Cufflinksツールは、各サンプル中の各遺伝子の相対的な存在量の注釈及び推定に使用した。
【0099】
結果は、本発明のプロセスに従って単離されたSEVが異なる種の低分子RNAを有し、転移RNAが存在量が最も高いRNA種であり、平均して57%であることを示している。マイクロRNA(miRNA)は、2番目に優勢な種(約27%)であり、その後リボソームRNA(約6%)及び他の少ないカテゴリーである。表7は、SEV組成物中で同定された低分子RNAと、注釈付きRNA配列の合計に関するそれらの対応する寄与を示している。
【0100】
【表7】
【0101】
分析された6つのサンプルの中で、RNA種に大きな差はない。したがって、miRNAの範囲は表7に示すように定義できる。SEV組成物では、少なくとも5つの異なるサンプル中で227のRNAが検出され、そのうち44はmiRNAである。興味深いことに、同定されたmiRNAのうちの20は、新規発明の方法により単離されたSEVを除く(表7の太字のmiRNA)。
【0102】
【表8】
【0103】
1.3脂質
小型細胞外小胞が脂質二重層に囲まれていることを考えると、それらは小型細胞外小胞の重要な構造成分であるのみでなく、レシピエント細胞との小型細胞外小胞の相互作用を調節することも期待されている。本発明の組成物の脂質含有量に関するいくつかの洞察を得るために、質量分析を使用して、それらの脂質プロファイルを測定し、同定した。Sampaio JL、PNAS 2011の方法論に従って、クロロホルム及びメタノールを使用して脂質を抽出した。
【0104】
抽出前に、脂質クラス固有の内部標準をサンプルに添加した。乾燥し、質量分析取得混合物に再懸濁した後、脂質抽出物を質量分析にかけた。質量スペクトルは、正イオンモード及び負イオンモードの両方で自動ナノフローエレクトロスプレーイオン源を備えたハイブリッド四重極/Orbitrap質量分析計で取得した。
【0105】
総脂質量に関して、組成物は約12000pmolであり、サンプル間で変動が25%であり、表9に示すとおり、主要脂質クラス(約60%)としてホスファチジルコリン(PC)及びホスファチジルセリン(PS)、その後スフィンゴミエリン(SM、20%)が観察された。
【0106】
【表9】
【0107】
トリアシルグリセリド(TAG)及びジアシルグリセリド(DAG)のレベルは低く、これは、新しい本発明のプロセスにより単離されたSEV組成物が本質的にリポタンパク質で汚染されていないことを示している。
【0108】
これらの組成物にはコリン基を含むPC及びSMが大量に含まれていることを考慮して(約50%)、コリンの定量化もSEVの特性評価に含まれている。この目的のために、コリンに対する感受性の高い市販のキットを使用することができる。本発明の場合、リン脂質アッセイキット(登録商標)MAK122-1KT(Sigma-Aldrich)を使用した。
【0109】
質量分析によって評価された対応する割合を考慮すると、SEV組成物中のコリンの平均濃度は25μMであり、これはPC約15μM及びSM10μMに対応することが観察された(表9)。これらの結果は、本発明の方法で単離されたSEVが、従来技術の方法によって単離されたSEVについての文献に記載されているものに従った脂質組成物を有することを示している。
【0110】
結果として、この定量化方法論は、それらの脂質含有量と対応させて組成物の品質の尺度として機能し得ることが認められている。
【0111】
したがって、別の実施形態では、本発明は、脂質含有量に対応させて組成物の品質を測定するための、コリンに対して高感度である上記のリン脂質アッセイキット(登録商標)MAK122-1KTまたは同様のものなどの使用を指す。
【0112】
本発明の別の実施形態は、本発明のプロセスによって単離されたSEVを含む組成物、特に、生物学的活性を有するこれらの3つのグループの分子を含むSEV組成物に関する。
【0113】
好ましい実施形態では、SEV組成物は、表1に列挙した170のタンパク質、特に、ANXA2、ANK1、CD63、CD81、CD9及びCD15を含む。
【0114】
別の好ましい実施形態では、SEV組成物中のタンパク質は、本質的に、表1に列挙された170のタンパク質の群から選択される1つ以上、特に、ANXA2、ANK1、CD63、CD81、CD9及びCD15の群から選択されるタンパク質のうちの少なくとも1つからなる。
【0115】
より好ましい実施形態では、以下のタンパク質のうちの少なくとも1つが、マイクロビーズに結合したSEVをフローサイトメトリーによって測定したときに、CD81≧1%、CD9≧1%、CD63≧40%、CD15≧20%の量の陽性事象、
または、ELISAによって測定したときに、精製SEV中のCD63≧5pg/mLまたはANXA2≧0.3ng/mLの数量で、SEV組成物中に存在する。
【0116】
別の実施形態では、SEV組成物は、表4に示すマイクロRNA、好ましくはmiR-150-5p、miR-223-3p、miR-16-5p、miR-142-3p、miR-19bを含む。
【0117】
別の好ましい実施形態では、SEV組成物中に存在するマイクロRNAは、表4に示されるような少なくとも1つのマイクロRNAからなり、より好ましくは、miR-150-5p、miR-223-3p、miR-16-5p、miR-142-3p、miR-19bの群から選択される1つ以上のマイクロRNAからなる。
【0118】
別の好ましい実施形態では、SEV組成物は、直接定量で測定したとき、以下のマイクロRNAのうちの少なくとも1つをそれぞれの量で含む:miR-150-5p>1.3pg/10部、miR-223-3p>1.2pg/10部、miR-16-5p>0.5pg/10部、miR-142-3p>0.4pg/10部、miR-19b>0.2pg/10部。
【0119】
別の好ましい実施形態では、直接定量で測定したとき、SEV組成物中に存在するマイクロRNAは、以下の群から選択される少なくとも1つのマイクロRNA及びそれぞれの量からなる:miR-150-5p>1.3pg/10部、miR-223-3p>1.2pg/10部、miR-16-5p>0.5pg/10部、miR-142-3p>0.4pg/10部、miR-19b>0.2pg/10部。
【0120】
別の実施形態では、SEV組成物中の脂質は、本質的に、表9に列挙された脂質、すなわち、CE、DAG、PA、PC、PE、PG、PI、PS、SM、TAGの群から選択される1つ以上からなる。
【0121】
別の実施形態では、脂質は、表9に列挙されるとおり、総脂質濃度に対してそれぞれの割合でSEV組成物中に存在する、すなわち、CE≧0.05±0.05、DAG≧1.3±0.4、PA≧3.18±0.6、PC≧30.9±3.3、PE≧13.0±0.5、PG≧0.25±0.1、PI≧3.8±0.3、PS≧29.4±3.7、SM≧18.0±1.6、TAG≧0.074±0.13である。
【0122】
好ましい実施形態では、SEV組成物は、上記の3つの分子群のそれぞれを含むかまたはそれぞれからなり、以下において生物学的活性を有する:
-表1及び3の同定されたタンパク質及びそれぞれの量;
-表4及び5の同定されたRNA及びそれぞれの量;
-表10の脂質。
【0123】
別の好ましい実施形態では、SEV組成物は、上記の3つの分子群のそれぞれを含むかまたはそれぞれからなり、以下のうちの少なくとも1つの組み合わせにおいて、生物学的活性を有する:
-タンパク質:ANXA2、ANK1、CD63、CD81、CD9及びCD15;
-RNA:好ましくは、miR-150-5p、miR-223-3p、miR-16-5p、miR-142-3p、miR-19b、及び
-表10の脂質、すなわち、CE、DAG、PA、PC、PE、PG、PI、PS、SM、TAG。
【0124】
5.組成物の生物学的効果
5.1マクロファージに対するin vitro抗炎症の影響
単球及びマクロファージは、幅広い免疫調節、炎症、及び組織修復能力を有しており、多くの自己免疫及び疾患の発症に積極的に関与している。実際に、これらの細胞の浸潤及び誇張された活性化は、多くの自己免疫疾患、ならびに1型糖尿病、関節リウマチなどの炎症性疾患でも一般的に観察される。
【0125】
炎症に対するSEVの生物学的効果は、化合物であるホルボール12-ミリステート-13-アセテート(PMA)の作用によって単球細胞株(THP-1)から分化したマクロファージで構成されるin vitroモデルで評価した。
【0126】
分化したマクロファージを1x1010部/mLのSEVとインキュベートし、24時間後、それらの表現型を評価し、炎症誘発性プロセスに関与する3つの主要なサイトカインのmRNAレベルを評価した(図6A)。陽性対照として、マクロファージをLPSとインキュベートした。これは、強い炎症反応を誘発する。
【0127】
マクロファージは、異なる刺激に応答して、2つの異なる主要な表現型:M1(炎症誘発性)及びM2(抗炎症性)を獲得することができる。古典的に活性化されたかまたはM1マクロファージ表現型は、TNF-αなどの炎症性サイトカインを産生し、急性炎症を引き起こすが、代替的に活性化されたM2表現型は抗炎症性であり、組織及び創傷修復に重要な役割を果たすことが判明している。
【0128】
本発明において、CD86及びCD163染色は、Martinez and Gordon(2014)によって記載されたとおり、それぞれ、M1及びM2表現型を区別するために使用した。本発明のプロセスによって単離されたSEVで処理されたマクロファージ(CD14)におけるM1/M2比の減少が観察され、抗炎症性マクロファージのより高い有病率を示している(図6B)。
【0129】
ビヒクル(PBS)と比較して、SEVはマクロファージにおけるIFN-γ、IL1β、TNF-α、及びCOX-2のmRNA発現を減少させたが(図6C)、その差は統計的に有意ではなかった。
【0130】
次に、SEVが慢性炎症状態への進行を打ち消すことができるかを評価することを決定した。そのために、LPSにより刺激され、SEVと共インキュベートされたTHP-1由来のマクロファージを使用した(図7A)。
【0131】
このモデルでは、SEVは、以前のモデルよりも大きい影響を有し、M1/M2比を低下させることができた(図7B)。付随して、異なる炎症誘発性サイトカインのmRNA発現は、SEV治療により有意に減少した(図7C)。
【0132】
さらに、THP-1由来のマクロファージにおけるTNF-α分泌の有意な減少を観察し、これは、この細胞モデルの炎症が少なくなることを示している。
【0133】
これらの結果は、SEVが炎症期の解消を誘導し得ることを示している。炎症期の解消は、皮膚の炎症性疾患のみでなく、病原性が慢性炎症に集中している他の全身性疾患にも利益をもたらす。
【0134】
5.2末梢血単核細胞(PBMNC)に対するSEVのin vitro免疫調節効果
本発明の組成物の免疫調節能を評価する目的で、本発明のSEV組成物を有する健康なヒト末梢血単核細胞(PBMNC)のサンプルを分析し、T細胞の増殖及び分極を評価した。
【0135】
セクション1に記載されるように、SEVを含み、本発明の方法に従って得た組成物を、1x1010部/mLの濃度でPBMNCの3つのドナーサンプルに適用した。ウェルあたり10のPBMNCを、枯渇RPMI 1640完全培地を含む24ウェルプレートで培養し、6日間インキュベーションした後、T細胞増殖及びTregの有病率(CD25及びFoxP3陽性)をフローサイトメトリーによってT細胞亜集団内で評価した。抗体染色の前に、細胞を洗浄し、固定し、透過処理した。
【0136】
SEV組成物での処理時に、Tリンパ球集団全体(CD3細胞)の減少-58.7±3.8%対38.9±6.6%-及びCD4+Tリンパ球サブセット-42.9±2.1%対28.9±6.5%-及びCD8+T細胞-66.2±4.1%対41.54±14.0%が観察された(図8A~C)。それにもかかわらず、細胞生存率への影響は示されなかった(図8D)。
【0137】
さらに、SEV組成物は、培養サンプル中のTregの割合を有意に増加させることができた(SEV組成物を含まない培養での対照の5.24±2.53%に対して、治療した場合は9.68±1.89%)(図9)。これらの結果は、組成物がTreg細胞に対するT細胞分極を増強することができ、それが免疫寛容及びTreg/Tef比のリバランスを増大させることを示している。
【0138】
Treg/Teff比のリバランスの考えを強化するために、IL-7受容体α(CD127)は、その発現がFoxP3活性と逆相関しており、このことがエフェクター及びメモリーT細胞の大部分で報告されているため、Tregの陰性マーカーとして使用した。この実験では、SEVはCD4細胞内のTreg集団を増加させ、エフェクターT細胞の割合を減少させることができた(図10A及び図10B)。最後に、これらの差により、PBMNC混合物のTreg/Teff比が高くなる(図10C)。Tregの集団が増加することにより抗腫瘍免疫を損なうが、自己免疫疾患の状況では、Tregの存在は、自己寛容及び組織恒常性の維持の中心である。さらに、SEVはエフェクター表現型への細胞分化において阻害効果を有すると考えられる。
【0139】
IFN-γ分泌とT細胞活性化のレベルとの間には直接的な相関関係がある。T細胞の分泌IFN-γ応答に対するSEVの効果を決定するために、PBMNCをSEVの存在下及び非存在下で6日間培養し、IFN-γの細胞内レベルをCD4及びCD8T細胞サブセットで決定した。これらの結果は、6日目に、両方のT細胞サブセットにおいて、陽性対照と比較して、PBMNCをSEVと共に培養した場合に細胞内IFN-γの割合が減少したことを示している。しかし、この減少は、ゲートCD4T細胞でのみ統計的に有意であった(図11A)。これらの結果は、本発明の革新的な方法論によって単離されたSEVがリンパ球IFN-γ分泌を損なうことを示した。
【0140】
さらに、Tヘルパー細胞の分極は、SEV投与後2日目及び6日目のリンパ球サブセットにおける系統遺伝子の発現を定量化することによって評価した。PBMNC混合物から、リンパ球をそのサイズ及び複雑さに基づいて選別し、トータルRNAを抽出し、相補DNAに変換し、定量PCR(qPCR)により最終的に分析した。この目的のために、Zhu,Yamane,and Paul(2010)に記載の方法に従って、各系統についてマスター転写因子(Th2についてはGATA3、Th1についてはT-bet、Tregについては、Foxp3、及びTh17についてはRORγT)を評価した。
【0141】
PBMNCをSEV組成物と共に1x1010部/mLでインキュベートし、6日目(0日目は投与日)にいくつかの転写因子の発現を定量化した(図12)。T-bet及びGata3のmRNAレベルから観察されるとおり、SEV組成物は、SEV投与後6日目にTh1及びTh2 T細胞サブセットに実質的に影響を与えることはないと考えられる(図12A及び図12B)。しかし、これらの転写因子を下方制御する傾向が、48時間後に観察される。
【0142】
SEVがTreg表現型への分化を誘導し、FoxP3の発現が増加することが観察された(図12D)。
【0143】
驚くべきことに、RORγTの有意な阻害が観察され、これは、SEV組成物で治療したときに、Th17細胞の拡張が減少することを示唆している(図12C)。したがって、Tリンパ球を本発明のSEV組成物に曝露させると、Treg細胞の集団が増加する一方で、Th17 T細胞サブセットが制限される。これらの結果は、乾癬のマウスモデルで行われたPOCによって裏付けられている。
【0144】
最後に、サイトカインの分泌についてSEVの可能性を評価した。いかなる刺激もない場合に、任意の小分子の分泌も検出することはできなかった。しかし、リポ多糖(LPS)刺激は、分泌を非常に増加させた。このように、LPS及びSEVと同時に刺激すると、PBMNC混合物はTNF-α分泌を大幅に減少させる。TNF-αは、ヒトの免疫及びいくつかの炎症性疾患の調節に関与する炎症誘発性サイトカインである。このサイトカインは、自己免疫性炎症性疾患の病因において重要な役割を果たすため、現在の生物学的療法はその生物学的機能を遮断するように設計されている。システム内のTregを増加させるSEVの可能性に加えて、TNF-α分泌の減少は、SEVの免疫調節効果及び今後の自己免疫療法の別の指標である。
【0145】
さらに、CCL20分泌の試験も行った。CCL20の主要効果のうちの1つは、CCR6リンパ球の動員を促進することである。CCR6は、自然免疫系及び/または適応免疫系の様々な細胞、特にTヘルパー17(Th17)細胞によって発現され、多くの慢性炎症性疾患においてサイトカインIL-17Aの放出を介して複数の機能を発揮する。この場合も、このケモカインのin vitro産生の減少は、SEVの免疫調節能力に寄与する。
【0146】
本発明のSEV組成物が免疫寛容特性を示す、すなわち、調節表現型へのT細胞分化を介するというエビデンスが示された。
【0147】
これらの組成物の作用機序をさらに理解するために、2つの異なるマイクロRNA(miR)をPBMNC混合物に直接トランスフェクトした。miR-146-5pは制御性T細胞で高度に発現している。その消失は、様々な器官でのIFNγ依存性免疫介在性病変内に現れる免疫寛容の崩壊となるため、免疫抑制機能にとっては必須である。miR-150-5pは、他のmiRとの結合におけるTreg分化ドライバーとして報告されているが、その役割はCD8エフェクター細胞の誘導及び増殖によって示されている。
【0148】
miR-146a-5pに関して、これらの結果はT-bet及びFoxP3発現の有意な増加を示した(図14)。FoxP3の優れた発現は、miR-146-5pの主要な役割がT細胞をTregに分化させ得ることを示している。miR-146-5pによるTh1細胞への優先的な分化は、このmiRの濃度の増加がT-bet経路の過剰発現につながるアテローム性動脈硬化症においてすでに実証されている。
【0149】
驚いたことに、miR-150-5pトランスフェクションは、RORγT及びFoxP3の過剰発現をもたらした。これは、このmiRが、Th17分化を抑制でき、自己免疫を制御できるT制御性17 FoxP3RORγtとして近年記述された新しい制御性T細胞サブタイプへの分化を誘導することを示している。
【0150】
遺伝子発現解析と並行して、フローサイトメトリーによってTreg細胞の割合を定量化し、両方のmiRでトランスフェクトされたPBMNCで制御性T細胞サブセットの増加が観察された(図14E)。対照(トランスフェクション剤:VirB)に対して、miR-146-5pは、IL17A発現細胞を減少させることもできた(図14F)。
【0151】
要するに、SEV組成物は、以下であることが実証された:
-T細胞の増殖を減少/減衰させる;
-制御性T細胞の分化を誘導する;
-リンパ球のmRNA発現に異なる影響を及ぼす;
-PBMNCにおけるFoxP3 mRNAの発現に異なる影響を及ぼす;
-炎症誘発性サイトカインの分泌を減少させる;
-miR-150-5p及びmiR-146-5pは、リンパ球の発現プロファイルに実質的な影響を示す;
-miR-150-5p及びmiR-146-5pは、リンパ球の表現型に実質的な影響を示す。
【0152】
これらの結果は、本発明のSEV組成物が免疫細胞に有利な効果を有することを示し、したがって、本組成物は、免疫系の不均衡または過剰反応に関連する疾患を治療または予防するために適用するのに有用である。
【0153】
5.3乾癬への影響-in vitro
SEV組成物がTregの数を増加させるのみでなく、Th17 T細胞系統のマスター転写因子であるRORγTの発現を減少させることができることを実証した上記のこれまでの結果に基づいて、乾癬表皮モデルにおける組成物の影響を調査した。
【0154】
その目的のために、最初にケラチノサイトをCa2で分化させて表皮の最外層を模倣し、炎症誘発性の特性を通じて、乾癬の表現型のほとんどに類似していることが記載されている化合物である、5%イミキモド(IMQ)を適用した。
【0155】
3時間の同時インキュベーション(SEV組成物及びIMQ)後、SEV組成物の適用に応答して、TNF-cxの発現の減少及びVEGF-a及びTGF-β1の発現の増加が観察された(図15)。
【0156】
TNF-αは炎症誘発性サイトカインであり、いくつかの異なる経路(血管内皮細胞への接着分子の誘導を通じて、病変皮膚への炎症細胞の侵入を促進する;他の炎症誘発性メディエータのケラチノサイト産生を刺激し、皮膚マクロファージ及び樹状細胞を活性化する)を介して炎症を増幅する。したがって、SEV組成物によって促進されるその阻害は、樹状細胞の悪意のある活性化サイクルを遮断することによって乾癬の病態生理学を改善することができる。
【0157】
一方で、これらの組成物は、VEGFA及びTGFβ1の発現を刺激した。VEGFAは、樹状細胞の成熟を阻害し、Tregの増殖を刺激するため、免疫抑制性腫瘍微小環境の確立に重要な役割を果たす。
【0158】
また、TGF-β1は、自己応答性T細胞の直接的及び間接的な調節により、炎症を制限し、末梢性免疫寛容を制御することが示されている。TGF-βはT細胞耐性に必須であるが、近年、TGF-βシグナル伝達の喪失のみでは自己免疫を誘導するには不十分であることが提唱されている。
【0159】
同様のモデルでは、SEV組成物の刺激により、ビヒクルと比較した場合、IL-6発現の下方制御が増強した(図15D)。IL-6は、Treg及びTh17のバランスを制御できるサイトカインであるため、この結果は、自己免疫疾患の状況にとって特に重要である。CD4T細胞の分化では、Treg及びTh17は双方ともTGFβに依存するが、Th17は、さらにIL-6を必要とする。IL-6の発現を減少させることは、自己免疫疾患、すなわち乾癬の制御に寄与し得る。
【0160】
これらの結果は、SEV組成物が、
-乾癬様NHEKモデルにおいてTNF-α及びIL-6などの炎症誘発性分子の発現を減少させる;
-乾癬様NHEKモデルにおいてVEGFA及びTGFβ1の発現を増強する。
【0161】
したがって、本発明のSEV組成物が乾癬の治療または予防に適用するのに有用であることも実証された。
【0162】
5.4乾癬様表皮への効果
皮膚における潜在的な抗乾癬効果を確認するために、市販の三次元表皮モデル(PSORIASIS LIKE EPIDERMIS、Sterlab)を使用した。モデルは、毎日、SEV組成物の単回投与により5日間治療された。実験の最後に、RNA分析のために細胞を収集し、タンパク質分泌の定量化のために上清を収集した。
【0163】
これらの結果は、SEV組成物が、IL-6、IL-8、TNF-α、IFN-γなどのいくつかのサイトカインのmRNA発現を下方制御することを示しており(図16A)、in vitro IMQ治療ケラチノサイトモデルで得られたデータを裏付けるものである。
【0164】
さらに、抗菌ペプチド(S100A7及びDEFB4)の発現を分析し、両方の一貫した下方制御が見られた(図16B.1及び図16B.2)。これらのペプチドは主に乾癬の表皮で発現し、乾癬の特徴であるケラチノサイト分化の調節不全の原因である。
【0165】
さらに、これらの抗菌ペプチドは、好中球及びT細胞の走化性に寄与し、乾癬の表現型を悪化させる。これらのペプチドの発現を減少させることは、乾癬の病態生理学を改善することに大きく寄与する。
【0166】
さらに、SEV組成物は、KRT5でいかなる差も認められなかったため、ケラチノサイトの分化段階に影響を与えないと考えられる(図16C.1)。興味深いことに、Cox-2の発現は治療群において下方制御されており、炎症の抑制に寄与することが期待されている(図16C.2)。次に、この酵素は、SEV組成物において最も豊富なマイクロRNA種のうちの1つであるmiR-16-5pによって下方制御され、作用機序がmiR-16に依存し得ることが示唆されている。
【0167】
タンパク質の分泌を分析する場合、SEV組成物の適用により、乾癬の病状に関与する2つのサイトカインであるCCL20及びTNF-αが減少することが観察された(図16D)。
【0168】
これらの結果は、本発明に記載のSEVが、乾癬及び他の自己免疫疾患を持続するいくつかの分子経路に影響を与えることによって、強力な抗乾癬効果を促進することを示している。これらの結果は、SEVが表皮が関与するヒトの疾患の抗炎症剤として使用され得ることを示唆している。
【0169】
5.5乾癬への効果-in vivo
乾癬のin vivoモデルにおいてSEV組成物の有効性にアクセスするために、van der Fits et al.(2009)に記載されている方法に従って、表現型がマウスの乾癬に似ているモデルとして、IMQ誘発性皮膚炎症を選択した。
【0170】
モデルは、5% IMQを含むクリーム製剤であるAldara(登録商標)を5日間毎日局所塗布することによって誘導した。IMQは、toll様受容体TLR7及びTLR8のリガンドであり、局所治療部位及び遠隔部位の両方において乾癬を悪化させる。TLR7及びTLR8は、単球、マクロファージ、及び樹状細胞によって発現され、活性化されたときに炎症誘発性サイトカイン及びケモカインの産生を引き起こす。Aldara(登録商標)をマウスの無毛の背中に塗布することにより、塗布後5日以内に乾癬様病変が発生し、様々な細胞の流入及び表皮の過形成によって支持される。
【0171】
SEV組成物による6日間の連続局所治療の間、マウスの皮膚の臨床スコアを監視した。最終値は、3つのパラメーター:紅斑の重症度(0~4までの発赤)、患部(0~3)、及び落屑(0~2からのスケール)の合計とした。本発明のSEV組成物の局所適用は、乾癬の特徴の出現を遅らせ、時間と共にそれらの特徴を弱めた(図17C)。表現型の外部特性は、SEVで治療されたマウスにおいて観察される表皮の厚さの減少によって裏付けられる(図17D)。
【0172】
さらに、本組成物による局所治療は、皮膚浸潤性好中球(CD45CD11bLy6GCD64)及び成熟Tリンパ球(CD45CD3TCRαβ)の数を有意に減少させる(図18A.2及び図18A.3)。好中球及びT細胞の両方が、乾癬の病因の主要な因子である。
【0173】
活性化T細胞は、IL-17、IFN-γ、TNF、及びIL-22などの豊富なサイトカインを産生し、好中球はCXCL1、CXCL2、及びCXCL8/IL-8などのケモカインを分泌する。サイトカイン及びケモカインが両方とも、新たにTh1及びTh17免疫細胞を分極し、ケラチノサイトの過剰増殖を活性化することにより、乾癬の悪循環に寄与する。炎症性マクロファージの存在が減少する傾向があり(図18A.1)、これは皮膚生検におけるiNOSの発現の減少(図18B.3)によって強化される。この場合も、皮膚において浸潤炎症細胞が減少することにより、乾癬の症状が改善されるであろう。
【0174】
さらに、乾癬の病因は、リンパ節内のエフェクターT細胞の蓄積、及びその後の血液系を介した皮膚への移動を伴うことが一般的に認められている。
【0175】
これらの結果は、Th17細胞及びガンマデルタ発現細胞がSEV組成物で治療されたマウスリンパ節で有意に減少したことを示している(図19A.3及び図19A.4)。これらの細胞サブセットは、主要なIL17A産生細胞であり、それらが減少することは、乾癬の病態生理学の有意な改善に寄与する。
【0176】
Th17細胞の減少に加えて、SEVで治療された動物のリンパ節サンプルでもmRNA RORγtレベルが減少した(図19B.3)。リンパ節でのIL-17産生細胞の減少は、マウスの皮膚へのさらなる浸潤を減少させ、乾癬を軽減できる。この効果は、微小環境内のサイトカイン/ケモカインの量を減少させ、より多くのヘルパーT細胞の動員を妨げる好中球数の減少によっても増強され得る。
【0177】
さらに、乾癬は、CD8によって引き起こされる疾患であるため、本明細書に記載されているSEV組成物で治療された動物においては、皮膚(図18A.4)及びリンパ節(図19A.1)の両方においてこれらの細胞の存在量が減少することにより、悪化した免疫応答の解消への影響は明白となる。
【0178】
したがって、本発明のSEV組成物は、in-vivoモデルにおいて乾癬様皮膚炎症を改善することができる。
6.In vivoでの組織修復-創傷治癒における効果
本発明者らは、SEVを単離する本発明のプロセスが、それらの生物活性及び皮膚創傷を治療する可能性に影響を有するかを検証することを決定した。
【0179】
これらの結果は、従来技術の方法(UC-超遠心分離)で単離されたSEVは、本発明の方法UF-SECで単離されたものよりも生物活性が低いことを示している(図20B)。本発明の方法は、実験で使用されたすべての動物において創傷閉鎖を有意に加速させた。さらに、図20Bでは、治癒の最初の7日間に差が集中していることが観察される。3日目に、本発明の方法で単離されたSEVにより治療された動物は、創傷サイズの20%の減少を示し、10日目に、この差は依然として有意であった(図20B)。
【0180】
結論として、本発明は、臍帯血単核細胞(UCBMNC)からの小型細胞外小胞の単離など、臍帯血細胞(UCBC)によって分泌される小型細胞外小胞を単離するためのプロセス、及びUCB画分を処理することによって得られる小型細胞外小胞を含む組成物に関し、これは、炎症性または自己免疫性疾患の治療もしくは予防及び/または美容目的に適用するのに有用である。
【0181】
したがって、本発明はまた、治療法、化粧品、及び/または予防方法に適用するのに有用である小型細胞外小胞医薬組成物に関する。
【0182】
したがって、本発明の一実施形態では、上記のSEVを使用して、化粧品として、医薬品として、及び/または予防剤として適用される医薬組成物を製造する。
【0183】
別の実施形態では、上記のSEVは、皮膚自己免疫疾患治療法など自己免疫疾患治療法に適用される医薬組成物を生成するために使用される。
【0184】
別の実施形態では、上記のSEVは、皮膚組織修復などの組織修復のほか、切開、裂傷(laceration)、裂傷(tear)、擦過傷、剥離または外科的創傷などの皮膚開放創治療、熱傷、化学熱傷または放射線熱傷などの皮膚熱傷療法、及び/またはにきび、乾癬、しゅさ、皮膚炎、湿疹、伝染性膿痂疹、間擦疹、もしくは毛包炎などの皮膚状態もしくは疾患、動脈性潰瘍、静脈性潰瘍、糖尿病性潰瘍及び圧迫性潰瘍、術後潰瘍、外傷性潰瘍、口内潰瘍、糖尿病性足潰瘍もしくは角膜潰瘍などの創傷治療において、医薬品として適用される医薬組成物を生成するために使用される。
【0185】
別の実施形態では、上記のSEVは、液体形態、スプレー形態、クリーム形態、ゲル形態のほか、食用溶液、外部塗布可能溶液、内部塗布可能溶液または注射可能溶液としての液体形態である組成物を生成するために使用される。
【0186】
別の実施形態では、上記のSEVは、天然または合成ポリマーマトリックス、パッチ、または別の好適な医療用担体などの担体によって支持される組成物を生成するために使用される。
【実施例
【0187】
実施例1.PBMNCの収集及び処理
ヒトの血液サンプルは、Hospital Universitario de Coimbraから入手し、インフォームドコンセントを提供した後、健康なボランティアから献血を受けた。PBMNCは、Lymphoprep(登録商標)勾配遠心分離によって単離した。PBMNCは液体窒素で凍結し、保管した。In vitro実験では、細胞アリコートを37℃で解凍し、10mLのRPMI1640に添加し、300gで5分間遠心分離して、DMSOを除去した。ペレットは、10%FBSを添加したRPMI1640に再懸濁した。PBMCを96ウェル平底培養プレート(Corning-Costar、Celbio、Milan、Italy)に2~3x10細胞/ウェルの密度で播種し、10%FBSを含むRPMI1640培地で培養した。
【0188】
実施例2.遺伝子発現解析
RNAサンプルは、RNeasy Miniキット(Qiagen)によって製造業者の推奨に従って抽出した。RNA濃度は、Bioanalyzer 2100(Agilent)のトータルRNAチップで定量した。すべてのRNAサンプルは-80℃で保管した。RNAは、SuperScript IV VILO Master Mix(Invitrogen)の製造業者の指示に従って逆転写した。逆転写後、cDNAはすぐにqPCRに使用されるか、-20℃で保存した。qPCRは、NZYSpeedy qPCR Green Master Mix(2x)、CFX96Touch(登録商標)リアルタイムPCR検出システム(BioRad)の96ウェルフォーマットのROXを使用して実施した。
【0189】
以下の条件、95℃で2分間、その後95℃で5秒間、60℃で30秒間、72℃で20秒間(蛍光測定)を40サイクルqPCRのために使用した。少なくとも3つの生物学的複製を使用した。β-アクチン(ACTB)は、各サンプルを正規化するための内因性対照として使用した。得られたデータは、Bio-Rad CFX Managerソフトウェアを使用して分析した。目的の遺伝子の相対的発現を2-ΔΔCt法に従って分析した。
【0190】
実施例3.フローサイトメトリー
PBMNCを収集し、赤血球を赤血球溶解バッファーで浸透圧溶解した。細胞表面染色では、単細胞懸濁液を飽和濃度のmAbと共に30分間インキュベートした。細胞を上記で同定した細胞表面マーカーで染色し、4℃で30分間固定し、抗CD16/CD32(eBioscience)の存在下でFoxp3/転写因子染色バッファーセット(eBioscience)で、4℃で15分間透過処理し、最後に、透過化バッファー中の上記で同定された抗体と共に4℃で1時間インキュベートした。サンプルは、BD accuri C6(BD Biosciences)を使用して得た。データは、FlowJo7.0.0ソフトウェアを使用して分析した。
【0191】
実施例4.UCBMNC培養
PBMNCを収集し、赤血球を赤血球溶解バッファーで浸透圧溶解した。細胞表面染色では、単細胞懸濁液を飽和濃度のmAbと共に30分間インキュベートした(表3)。細胞を上記で同定した細胞表面マーカーで染色し、4℃で30分間固定し、Foxp3/転写因子染色バッファーセット(eBioscience)で、4℃で15分間透過処理し、最後に、透過化バッファー中の上記で同定された抗体と共に4℃で1時間インキュベートした。サンプルは、BD accuri C6(BD Biosciences)を使用して得た。データは、FlowJo7.0.0ソフトウェアを使用して分析した。
【0192】
実施例5.PBMNCのトランスフェクション
PBMNCをmiRNAでトランスフェクトするために、Viromer(登録商標)トランスフェクション試薬(Lipocalyx、Germany)を使用した。Viromer(登録商標)Blue及びViromer(登録商標)Greenは、膜融合のウイルスメカニズムを特徴とするポリマーベースのトランスフェクション試薬である。それらは、数百ナノメートルのサイズの低分子干渉RNA(siRNA)またはマイクロRNA(miRNA)とトランスフェクション複合体を形成する。Viromer(登録商標):RNA複合体は、酸性コンパートメントの形成を伴うプロセスであるエンドサイトーシスによって取り込まれる。後期エンドソームでの低pHは、Viromer(登録商標)表面を疎水性にし、膜通過を促進する化学スイッチとして作用する。この「能動的エンドソームエスケープ」技術は安全であり、かつ自然な取り込み経路を使用しているため、トランスフェクション効率が最大化される。細胞質に到達すると、Viromer複合体は分解し、RNAまたはDNAを放出する。革新的なViromer(登録商標)複合体は非荷電であり、ウシ胎児血清または他の細胞培養培地サプリメントに含まれるタンパク質との凝集を防ぐ。これは、Viromer(登録商標)が細胞に非常に穏やかであり、血清、抗生物質、及び分化因子と互換性があるという大きな利点となる。
【0193】
Viromer(登録商標)Blue及びViromer(登録商標)Greenは、siRNA及びmiRNAのin vitroトランスフェクション用に最適化されている。これらは、浮遊細胞、幹細胞、及び初代細胞など、広範囲の標準細胞及びトランスフェクションが困難な細胞に非常に効果的である。
【0194】
トランスフェクションは、製造業者の推奨に従って実行した。簡潔に説明すると、PBMNCを1x10細胞/mlの濃度で12ウェルプレートにプレプレートした(RPMI培地、血清非含有、抗生物質非含有)。次に、Viromerバッファーで10μM miR-mimicの希釈液を調製し、Viromerトランスフェクション試薬と混合した。室温で15分後、トランスフェクション複合体を細胞に添加し、さらに6日間インキュベートした(miR-mimic最終濃度は100nMであった)。
【0195】
実施例6.統計分析
棒グラフは、平均±平均の標準誤差(SEM)として示す。統計的有意性は、必要に応じて、両側の対応のないスチューデントのt検定、Tukeyの多重比較を使用した一元配置分散分析、またはBonferroni多重比較事後検定を使用した二元配置分散分析によって評価した。すべての分析は、GrapPhadソフトウェアを使用して実行した。差はp<0.05で有意であると見なした。
【0196】
実施例7.小型細胞外小胞(SEV)の単離
UCBユニットは、製造業者の推奨に従って、自動システムAXPを使用して自動的に処理した。簡潔に説明すると、臍帯血はAXPデバイスに配置された処理バッグセットに移され、遠心分離される。AXPデバイスは、ほとんどの標準的な血液バンク遠心分離バケットに適合し、最大6つのサンプルを同時に処理できる。遠心分離中に、成分の層化及び単離が生じる。RBCは別の滅菌バッグに移し、血漿が処理バッグ内に残っている間、MNCリッチ層を含むバフィーコートが別の滅菌凍結バッグに送られる(http://cescatherapeutics.com/blood-marrow-processing/axp -autoxpress/)。
【0197】
臍帯血(2.000.000細胞/mL)から得られたMNCは、虚血(0.5%O2)条件下において、0.5μg/mLのFMS様チロシンキナーゼ-3及び0.5μgmLの幹細胞因子を補充したX-VIVO15無血清細胞培養培地(Lonza Group Ltd、Basel、Switzerland)で培養した。
【0198】
18時間の分泌後、馴化培地を注意深くfalconに移し、SEVの精製を進めた。
馴化培地は、300g(10分)及び2000g(20分)の2つの連続遠心分離ステップによって除去した。これらのステップの後、上清を収集し、シリンジを使用して2つのろ過ステップにさらして、最初に0.45μMフィルタを使用し、その後0.22μmを使用した。この最初のクリアランスの後、媒体は、圧力制御装置(VivaCell 250)を使用して最後の限外ろ過ステップにさらした。
【0199】
上清をVivacell(Sartorius)デバイスの100KDaフィルタを通して3バールの圧力にさらし、SEVを含む上清を、ろ過したPBSで洗浄した後、上部コンパートメントに回収した。次に、13~15mLの濃縮溶液を、FPLC-Akta AvantクロマトグラフィーシステムでそれぞれSuperose6プレパックXK26/70(GE Healthcare)を使用したサイズ排除クロマトグラフィーにかけた。ろ過したPBS溶液を流速3mL/分(XK26/70)で溶出バッファーとして使用し、3つの波長220nm、260nm、及び280nmでUV吸光度を検出した。NTA及びMicroBCAによる分析のために、装置と組み合わせた自動フラクションコレクターを使用して、5mL(XK26/70)の画分を収集した。
【0200】
実施例8.小型細胞外小胞(SEV)の特性評価
8.1.タンパク質の特性評価
本明細書においてUFまたはINVプロセスと呼ばれる、本発明のプロセスによって単離されたSEVを、それらのタンパク質含有量の特徴を明らかにするために質量分析によって分析した。タンパク質濃度は、マイクロBCAタンパク質アッセイキット(Thermo Scientifics(登録商標))によって測定し、タンデム質量分析と組み合わせたナノスケール液体クロマトグラフィー(nanoLC-MS/MS)を使用して約0.5μgの総ペプチド材料を分析した。簡潔に言えば、サンプルを溶解し、SDS-PAGEゲルに装填した。得られたゲルレーンを洗浄し、アルキル化の前にタンパク質をDTTで還元した。洗浄後、トリプシンを使用してゲル内消化を行い、ペプチドを液体クロマトグラフィーによって分離し、MSによって同定した。これらのタンパク質は、説明セクションの表1,2及び表3に列挙している。
【0201】
UF-SECによって単離されたSEVの3つの分析プール(各プールは5UCBから得て、合計15UCB)から、31のタンパク質がプール間で共通であると同定され、これは、同定されたタンパク質含有量全体の平均61%である。このグループ内では、アルブミン及び様々なヘモグロビンサブユニットが、最も多くの数の同定されたペプチド、その後バンド3の陰イオン輸送タンパク質及びハプトグロビンを有する。
【0202】
これらのタンパク質は、ヒト臍帯血の必須成分であり、それらの機能は赤血球による酸素供給に関連している。MSは非常に強力なツールであり、1回の実行で多数のタンパク質を検出するが、その感度はサンプルのダイナミックレンジによって定義され、発現の低いタンパク質は検出されない場合がある。本発明者らは、Vesiclepediaによると、これが、検出されたタンパク質の22.5%(31のうち7)のみがSEVの特徴である理由であると考えている(http://www.microvesicles.org/)。
【0203】
8.2RNAの特性評価
RNAシーケンシング技術を使用して、SEV組成物の低分子RNA含有量を同定した。EXIQON miRCURYTM Isolationキット(Cell&Plants)を使用してRNAを単離し、Bioanalyzer2100で低分子RNAの品質及び定量を行った。Ion Total RNA-Seq Kit v2プロトコルに従って、1.5ngの低分子RNAをスモールライブラリーの構築に使用した。プールされたライブラリーは、IonChef(登録商標)システムでさらに処理され、得られた530(商標)チップは、IonS5(商標)システムで配列決定した。Cufflinksツールは、各サンプル中の各遺伝子の相対的な存在量の注釈及び推定に使用した。
【0204】
本発明のプロセス(INV)で単離されたSEVは、異なる種の低分子RNAを有し、転移RNAが最も豊富なRNA種であり、平均して57%である。マイクロRNA(miR)は2番目に優勢な種(約27%)であり、リボソームRNA(約6%)及び他の少ないカテゴリーがそれに続く。サンプル間では、RNA種に大きい差はない。この場合も、試験にはさらに多くのサンプルが必要であるが、表4及び表5に示すとおりmiRの範囲を定義できる。
【0205】
8.3.脂質の特性評価
【0206】
【表10】
【0207】
実施例9.比較試験
国際公開第2017163132号(COMP比較プロセス)に開示されているSEV単離の標準プロセスの性能と本発明のプロセス(INV発明プロセス)との比較目的のために、UCBのいくつかの等しいサンプルからの小型細胞外小胞を単離し、分析した。以下の表に結果を示す。
【0208】
本発明の方法は、実施例1から8に記載されているものに従って実施した。
虚血状態下
【0209】
虚血前は、自動UCB処理から得られた細胞の特性評価には、手動で処理されたサンプルよりも大量のRBCが含まれている。それにもかかわらず、各グループでのリンパ球/単球の比率は維持されており、2つのUCB処理方法間で統計的に異ならない。さらに重要なことに、自動UCB処理サンプルは、手動処理(約8%)と比較した場合、細胞死の割合が低い(約2%)ことからわかるように、より多くの生存細胞を有する。
【0210】
虚血プロトコル(18時間、0.5%O2及び5%CO2下で37℃)の後、各集団は代表性を維持した。すなわち、リンパ球/単球比を維持した。予想とおり、極端な条件のため、細胞死は両方のグループで増加する。
【0211】
表12は、COMPプロセス及びINVプロセスによって単離されたタンパク質の比較を示し、表13は、生物学的機能によってグループ化された両方のプロセスによって単離されたタンパク質の比較を示している。
さらに、COMP及びINVプロセスによって単離された小型細胞外小胞中の低分子RNA種の割合も評価し、表14に示される一方で、表10は、INVプロセス及びCOMPプロセスによって単離された小型細胞外小胞で同定されたマイクロRNAを列挙している。
【0212】
【表11】
【0213】
【表12】
【0214】
【表13】
【0215】
【表14】
【0216】
小型細胞外小胞の収率に関して(図3)、INV方法論では、馴化培地(CM)1mlあたりより多くの数の小型細胞外小胞が生成されることが観察された。さらに、開発されたINV方法では、細胞培養に存在する主要な分泌細胞を考慮すると、かなり高い収率の小型細胞外小胞を生成した。
【0217】
要約すると、この新しいプロセスでは、馴化培地から単離された小型細胞外小胞の数量を増やすことが可能であり、これはSEVの生産において非常に重要である。
【0218】
さらに、このGMP準拠の最適化された方法論を使用すると、従来技術のプロセス(COMP)と比較した場合に非常に類似した生物物理学的特性を有するSEVを生成することも可能である。
【0219】
実施例10.免疫細胞におけるSEVの効果
10.1PBMNC
制御性T細胞の分化
健康な血液ドナーのPBMNCは、SEV組成物(1x1010部/mL)またはビヒクルと共に6日間インキュベートした。細胞は、FACS分析のために洗浄し、染色した。結果は平均±SD(n=5)として表す。
【0220】
統計分析は、スチューデントのt検定を使用して実行した。SEV組成物の免疫調節能を評価するために、本発明のSEV組成物の存在の有無にかかわらず、健康なヒト末梢血単核細胞(PBMNC)で試験を実施し、T細胞分極を評価した。
【0221】
SEV組成物の1回の適用後、及び6日間のインキュベーション後、T細胞亜集団内のTreg(CD25及びFoxP3陽性)の有病率を評価した。SEV組成物は、培養中のTregの割合を有意に増加させることができた(治療群では9.68±1.89%、対照群では5.24±2.53%)(図9)。これらの結果は、SEV組成物がTreg細胞に対するT細胞分極を増強することができ、それが免疫寛容及びTreg/Tef比のリバランスを増大させることを示している。
【0222】
リンパ球のmRNA発現に異なる影響を与える。
【0223】
さらに、Tヘルパー細胞の分極は、リンパ球サブセットにおける系統遺伝子の発現を経時的に定量化することによって評価した。各系統を評価するためにマスター転写因子を選択した。Th2についてはGATA3;Th1についてはT-bet;TregについてはFoxp3;Th17についてはRORγT。
【0224】
分析を補完するために、CD8T細胞に対するIFN-γの発現も評価した。
【0225】
SEVとの24時間のインキュベーション後、分析された転写因子に有意差はない。48時間後、治療群と非治療群の差が強調され始め、6日目に転写プロファイルはTreg表現型への分化を示し、FoxP3及びTGF-β1の発現が増加した。
【0226】
T-bet及びGata3のmRNAレベルから観察されるとおり、SEVはTh1及びTh2T細胞サブセットに影響を与えないと考えられる。興味深いことに、RORγTの有意な阻害が観察され、これは、SEV治療時にTh17細胞の拡張が減少していることを示唆している(図12)。
【0227】
以前の報告では、この転写因子を発現する活性化T細胞の約50%が、乾癬の病態生理学における重要なサイトカインであるIL-17Aを産生することが示されていた。
【0228】
これらの結果に基づいて、Tリンパ球をSEVに曝露することにより、Th17 T細胞サブセットを制限しながら、Treg細胞の集団が増加すると仮定する。
【0229】
これらの結果は、乾癬のマウスモデルで行われたPOCによって裏付けられている。
【0230】
さらに、IFN-γが免疫応答中のCD8T細胞の拡大及び収縮の制御において重要な役割を果たすことはよく認識されている。このT細胞サブセットは、IFNγ及びTNFα、細胞毒性顆粒の放出、及び感染細胞の破壊に関与している。SEVはIFNγ発現の下方制御を誘導しており、これは、CD8T細胞の数が少なく、その結果として抗炎症効果があることを示唆している(図11)。
【0231】
PBMNCにおけるFoxP3 mRNAの発現に異なる影響を及ぼす
【0232】
健康な血液ドナーのPBMNCをSEV(1x1010部/mL)またはビヒクルと共に6日間インキュベートした。トータルRNAを抽出し、β-アクチンを参照遺伝子として遺伝子発現解析を行った。正規化発現レベルは、2-ΔΔCtに基づいて計算した。一元配置分散分析(n=3)を使用して統計分析を実行した。
【0233】
SEVで処理したときには、T細胞の分極を分析するために別の戦略を使用した。トータルRNAは、リンパ球サブセットの代わりにトータルPBMNC混合物から抽出した。これまでの差のいくつかは、おそらくmRNAの不均一性の増加が原因で希釈された。それにもかかわらず、FoxP3転写因子発現の増加が再び観察された。SEVの免疫調節効果は、微小環境におけるTregの濃縮に対して示され、これにより、免疫寛容が強化される。他の分析された因子は、Gata3の発現を除いて、SEVによる大幅な変更はなかった。排他的ではないが、Gata3の活性は、Th2分化及びサイトカイン分泌を調節する。この減少は、喘息及びアレルギー性疾患の治療において特に重要であり得る。
【0234】
48時間後のリンパ球発現プロファイルに対するmiR-150-5p及びmiR-146-5pの影響
【0235】
健康な血液ドナーのPBMNCは、ViromerBlueを使用して両方のmiRによりトランスフェクトした。トランスフェクションの2日後、リンパ球コンパートメントを形態学的特徴(FSC及びSSC)に基づいて選別し、トータルRNAを抽出した。遺伝子発現解析は、参照遺伝子としてβ-アクチンを使用して実行した。正規化発現レベルは、2-ΔΔCtに基づいて計算した。統計分析は、スチューデントのt検定を使用して実行した(=3)。
【0236】
トランスフェクションの6日後のリンパ球表現型に対するmiR-150-5p及びmiR-146-5pの影響。
【0237】
健康な血液ドナーのPBMNCは、ViromerBlueを使用して両方のmiRによりトランスフェクトした。トランスフェクションの6日後、Treg(CD4CD25FoxP3)及びTh17(CD4IL17AIFN)の割合をフローサイトメトリーで分析した。一元配置分散分析(n=3)を使用して統計分析を実行した。
【0238】
この時点で、SEVが免疫寛容特性を有する、すなわち、調節表現型に対するT細胞の分化による、いくつかのエビデンスを有していた。本発明の生物学的産物の作用機序をさらに理解するために、SEV内に存在する2つの異なるマイクロRNA(miR)をPBMNC混合物に直接トランスフェクトした。miR-146-5pは、制御性T細胞で高度に発現する。その消失は、様々な器官でのIFNγ依存性免疫介在性病変内に現れる免疫寛容の崩壊となるなど、免疫抑制機能にとっては必須である。miR-150-5pは、他のmiRとの結合におけるTreg分化ドライバーとして報告されているが、その役割はCD8エフェクター細胞の誘導及び増殖によって示されている。
【0239】
miR-146a-5pに関して、本発明の結果はFoxP3発現の有意な増加を示した(図14)。FoxP3の優れた発現は、miR-146-5pの主要な役割がT細胞をTregに分化させ得ることを示している。
【0240】
興味深いことに、miR-150-5pトランスフェクションは、RORγT及びFoxP3の過剰発現をもたらした。これは、このmiRが、Th17分化を抑制でき、自己免疫を制御できるT制御性17 FoxP3RORγtとして近年記述された新しい制御性T細胞サブタイプへの分化を誘導し得ることを示している。
【0241】
遺伝子発現解析と並行して、フローサイトメトリーデータは、両方のmiRによりトランスフェクトされたPBMNC中の制御性T細胞サブセットの増加も示した(図14)。対照(トランスフェクション剤:VirB)に対して、miR-150-5pは、IL17A発現細胞を減少させることもできた(図14)。
【0242】
これらの結果は、これらのmiRによる濃縮の可能性が、SEVの免疫調節能を増強し得、これにより生成物の改良版を生成することを示している。
【0243】
実施例11.乾癬への効果-in vitro
【0244】
11.1.イミキモド誘導乾癬モデル
SEVはTNF-αの発現を減少させ、乾癬様NHEKモデルではVEGFA及びTGFβ1の発現を増強する。
【0245】
NHEKは、2mMのCaClで3日間最終分化させた。次に、炎症誘発性の表現型を増強するために、IMQを3時間追加した。最後に、IMQとの共インキュベーションで3時間治療を行い、RNA抽出のために細胞を収集した。500ngのRNAを逆転写反応に使用した。mRNA発現は、β-アクチン発現遺伝子によって正規化した(各条件でn=3)。
【0246】
SEVがTregの数を増加させるのみでなく、Th17 T細胞系統のマスター転写因子であるRORγTの発現を減少させることができることを示した以前の結果に基づいて、乾癬表皮のモデルにおけるSEVの影響を研究することを決定した。
【0247】
そのために、最初にケラチノサイトをCa2+で分化させて表皮の最外層を模倣し、炎症誘発性の特性を通じて、乾癬の表現型のほとんどに類似していることが記載されている化合物である5%IMQを適用した。
【0248】
3時間の同時インキュベーション(SEV及びIMQ)後、SEVに応答してTNF-αの発現が減少し、VEGF-a及びTGF-β1の発現が増加することが観察された(図15)。
【0249】
TNF-αは炎症誘発性サイトカインであり、いくつかの異なる経路(血管内皮細胞への接着分子の誘導を通じて、病変皮膚への炎症細胞の侵入を促進する;他の炎症誘発性メディエータのケラチノサイト産生を刺激し、皮膚マクロファージ及び樹状細胞を活性化する)を介して炎症を増幅する。したがって、SEV組成物によって促進されるその阻害は、樹状細胞の悪意のある活性化サイクルを遮断することによって乾癬の病態生理学を改善することができる。
【0250】
一方、SEVはVEGFA及びTGFβ1の発現を刺激した。VEGFAは、樹状細胞の成熟を阻害し、Tregの増殖を刺激するため、免疫抑制性腫瘍微小環境の確立に重要な役割を果たす。
【0251】
また、TGF-β1は、自己応答性T細胞の直接的及び間接的の両方の調節により、炎症を制限し、末梢性免疫寛容を制御することが示されている。TGF-βはT細胞耐性に必須であるが、近年、TGF-βシグナル伝達の喪失のみでは自己免疫を誘導するには不十分であることが提唱されている。
【0252】
3日間のSEV治療後の乾癬様NHEKにおける炎症性サイトカイン発現
【0253】
NHEKは、2mMのCaClで6時間最終分化させた。次に、CaCl及びIMQを18時間添加して、炎症誘発性の表現型及び分化を増強した。最後に、SEVによる治療(1x1010部/mL)をIMQとの共インキュベーションで3日間投与した。RNA抽出のために細胞を収集し、ELISAのために上清も収集した。1μgのRNAを逆転写反応に使用した。mRNA発現は、β-アクチン発現遺伝子によって正規化した(各条件でn=3)。
【0254】
同様のモデルでは、SEVの刺激により、ビヒクルと比較した場合、IL6発現の下方制御が増強した(図15)。IL6は、Treg及びTh17のバランスを制御できるサイトカインであるため、この結果は、自己免疫疾患にとって特に重要である。CD4T細胞の分化では、Treg及びTh17は双方ともTGFβに依存するが、Th17は、さらにIL6を必要とする。IL6の発現を減少させることは、自己免疫疾患、すなわち乾癬の制御に寄与し得る。
【0255】
11.2.乾癬様表皮
5日間のSEV治療後の三次元表皮様乾癬モデルにおける遺伝子発現プロファイル
RNAは、RNeasy Mini Kit(Qiagen)を使用して、製造業者の推奨に従って抽出した。500ngのRNAを逆転写反応に使用した。mRNA発現は、β-アクチン発現遺伝子によって正規化した(各条件でn=3)。
【0256】
皮膚における潜在的な抗乾癬効果を確認するために、市販の三次元表皮モデル(PSORIASIS LIKE EPIDERMIS、Sterlab)を使用した。モデルは、毎日、SEVの単回投与により5日間治療された。実験の最後に、RNA分析のために細胞を収集し、タンパク質分泌の定量化のために上清を収集した。
【0257】
SEVは、IL-6、IL-8、TNF-α、IFN-γなどのいくつかのサイトカインのmRNA発現を下方制御し(図16)、これはin vitroIMQ治療ケラチノサイトモデルにより得たデータを裏付けるものである。
【0258】
さらに、抗菌ペプチド(S100A7及びDEFB4)の発現を分析し、両方の一貫した下方制御を見出した(図16)。これらのペプチドは主に乾癬の表皮で発現し、乾癬の特徴であるケラチノサイト分化の調節不全の原因である(Martinsson,Yhr,and Enerback 2005)。
【0259】
さらに、これらの抗菌ペプチドは、好中球及びT細胞の走化性に寄与し、乾癬の表現型を悪化させる。これらのペプチドの発現を減少させることは、乾癬の病態生理学を改善することに大きく寄与し得る。
【0260】
さらに、KRT5では差が見られなかったため、SEVはケラチノサイトの分化段階に影響を与えないと考えられる。興味深いことに、Cox-2の発現はSEV治療群において下方制御されており、炎症の抑制に寄与することが期待されている。次に、この酵素は、SEVにおいて最も豊富なマイクロRNA種のうちの1つであるmiR-16-5pによって下方制御され(Shanmugam,Reddy,and Natarajan 2008)、作用機序がmiR-16に依存し得ることが示唆されている。
【0261】
5日間のSEV治療後の三次元表皮様乾癬モデルにおけるタンパク質分泌。培養5日後、上清を収集し、ELISAによって分析した(各条件n=3)。タンパク質分泌を分析したときに、SEVが乾癬の病態に関与する2つのサイトカインであるCCL20及びTNF-αを減少させることを見出した(図16)。
【0262】
実施例12.乾癬への影響-in vivo
局所-SEVは、マウスの乾癬様皮膚の炎症を改善する。
【0263】
マウスの背中の剃毛皮膚の写真は、局所治療6日後に撮影した。臨床スコアリングは、紅斑の重症度(0~4までの発赤)、患部(0~3)、及び落屑(0~2からのスケール)をランク付けすることによって実行した。炎症細胞によるIMQ治療された背部皮膚の浸潤は、顆粒球(Ly6G)(B)及びTCRab+(C)マーカーを使用したフローサイトメトリーによって明らかにした。リンパ節T細胞の表現型は、CD4、CD8、及びGL3 T細胞マーカー、CD44、CD62L(メモリー関連マーカー)、及びCCR6、Th17マーカーを使用したフローサイトメトリーによって実行した。データは、n=6匹/群のマウスの平均±SEMを表す。P値はスチューデントのt検定によって計算した。
【0264】
乾癬のin vivoモデルでSEVの有効性にアクセスするために、表現型がマウスでの乾癬に似ているモデルとしてIMQ誘導皮膚炎症を選択した。このモデルは、5%IMQを含むクリーム製剤であるAldaraを毎日局所塗布することによって誘導させた。IMQは、toll様受容体TLR7及びTLR8のリガンドであり、局所治療部位及び遠隔部位の両方において乾癬を悪化させる。TLR7及びTLR8は、単球、マクロファージ、及び樹状細胞によって発現され、活性化されたときに炎症誘発性サイトカイン及びケモカインの産生を引き起こす。Aldaraをマウスの無毛の背中に塗布することにより、塗布後5日以内に乾癬様病変が発生し、様々な細胞の流入及び表皮の過形成によって支持される。
【0265】
SEVによる6日間の連続局所治療の間、マウスの皮膚の臨床スコアを監視した。最終値は、3つのパラメーター:紅斑の重症度(0~4までの発赤)、患部(0~3)、及び落屑(0~2からのスケール)の合計とした。SEVの局所塗布により、乾癬の特徴の出現が遅れ、時間の経過と共にそれらを弱めた(図17)。
【0266】
さらに、SEVによる局所治療は、皮膚浸潤性好中球(CD45CD11bLy6GCD64)及び成熟Tリンパ球(CD45CD3TCRαβ)の数を有意に減少させる(図18)。好中球及びT細胞の両方が、乾癬の病因の主要な因子である。活性化T細胞は、IL-17、IFN-γ、TNF、及びIL-22などの豊富なサイトカインを産生し、好中球はCXCL1、CXCL2、及びCXCL8/IL-8などのケモカインを分泌する。サイトカイン及びケモカインが両方とも、新たにTh1及びTh17免疫細胞を分極し、ケラチノサイトの過剰増殖を活性化することにより、乾癬の悪循環に寄与する。
【0267】
さらに、乾癬の病因は、リンパ節内のエフェクターT細胞の蓄積、及びその後の血液系を介した皮膚への移動を伴うことが一般的に認められている。
【0268】
本発明者らの実験では、SEV治療したマウスのリンパ節においてTh17細胞及びγδ発現細胞が有意に減少していることが観察された(図19)。これらの細胞サブセットは、主要なIL17A産生細胞であり、それらが減少することは、乾癬の病態生理学の有意な改善に寄与する。
【0269】
リンパ節においてIL-17産生細胞が減少することにより、マウス皮膚へのさらなる浸潤が減少し、乾癬を軽減すると考えていた。この効果は、微小環境内のサイトカイン/ケモカインの量を減少させ、より多くのヘルパーT細胞の動員を妨げる好中球数の減少によっても増強されるであろう。
【0270】
実施例13.本発明のプロセスの拡大
SEVの精製は、マイクロ及び限外ろ過(UF)用のタンジェンシャルフィールドフロー(TFF)を使用して、GMPユニットで使用される条件を模倣する条件で試験を行った。これらの結果は、ラボスケールのUF/SEC法と比較した。この考えは、TFFが今後のSEVの単離方法として使用できるか否かを、SEVの生物物理学的特性によって観察することであった。
【0271】
実施例14:SEVはin vivoでの創傷治癒を促進する
【0272】
本発明者らは、SEVを単離する本発明のプロセスが、それらの生物活性及び皮膚創傷を治療する可能性に影響を有するかを検証することを決定した。
【0273】
簡潔に言えば、2つの切除創を背部STZ誘導性糖尿病マウスモデルで実施し、SEVを含む溶液(2.5x10粒子)を1日2回局所塗布した。創傷治癒動態におけるSEVの有効性を評価するために、実験中に創傷面積を測定した。これらの結果は、従来技術の方法(UC-超遠心分離)で単離されたSEVは、本発明の方法UF-SECで単離されたものよりも生物活性が低いことを示している(図20B)。本発明の方法は、実験で使用されたすべての動物において創傷閉鎖を有意に加速させた。さらに、図20Bでは、治癒の最初の7日間に差が集中していることが観察される。3日目に、本発明の方法で単離されたSEVにより治療された動物は、創傷サイズの20%の減少を示し、10日目に、この差は依然として有意であった(図20B)。
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