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  • 特許-炭素繊維の被膜形成方法とその装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】炭素繊維の被膜形成方法とその装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/20 20060101AFI20240712BHJP
   D06B 13/00 20060101ALI20240712BHJP
   D02G 3/16 20060101ALI20240712BHJP
   D02J 1/18 20060101ALI20240712BHJP
   D06M 11/83 20060101ALI20240712BHJP
   D06M 101/40 20060101ALN20240712BHJP
【FI】
C23C14/20 Z
D06B13/00
D02G3/16
D02J1/18 Z
D06M11/83
D06M101:40
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022006768
(22)【出願日】2022-01-19
(65)【公開番号】P2023105756
(43)【公開日】2023-07-31
【審査請求日】2023-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】399126134
【氏名又は名称】株式会社ハーモニ産業
(74)【代理人】
【識別番号】110002804
【氏名又は名称】弁理士法人フェニックス特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野端 一已
(72)【発明者】
【氏名】新河戸 宏昭
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-164947(JP,A)
【文献】特開平09-241929(JP,A)
【文献】特開2019-019418(JP,A)
【文献】特開昭51-061404(JP,A)
【文献】特開平04-288881(JP,A)
【文献】特開昭53-124968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/20
D06B 13/00
D02G 3/16
D02J 1/18
D06M 11/83
D06M 101/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内で、正イオン化した被膜材料を負電圧を印加した炭素繊維の表面に付着させて被膜を形成する炭素繊維の被膜形成方法であって、
多数本の前記炭素繊維をシート状に引き揃えた炭素繊維シートの両端をホルダーで保持し、前記ホルダーを介して前記各炭素繊維をバイブレーターで微振動させながら前記各炭素繊維に被膜を形成し、
前記炭素繊維シートとして、予め多数本の炭素繊維を引き揃えた炭素繊維束に空気流を通過させてシート状に開繊した開繊シートを用いたことを特徴とした炭素繊維の被膜形成方法。
【請求項2】
前記炭素繊維シートを保持する前記ホルダーを回転させながら前記炭素繊維に被膜を形成することを特徴とした請求項1に記載の炭素繊維の被膜形成方法。
【請求項3】
真空容器内で、正イオン化した被膜材料を負電圧を印加した炭素繊維の表面に付着させて被膜を形成する炭素繊維の被膜形成装置であって、
多数本の前記炭素繊維をシート状に引き揃えた炭素繊維シートの両端を保持するホルダーと、
前記ホルダーを介して前記炭素繊維シートを微振動させるバイブレーターと、
前記ホルダーで保持した前記炭素繊維シートに所定の張力を付与する張力付与手段と、を備え、
前記バイブレーターで前記各炭素繊維を微振動させながら前記各炭素繊維に被膜を形成することを特徴とした炭素繊維の被膜形成装置。
【請求項4】
前記炭素繊維シートを保持する前記ホルダーを回転させる回転駆動手段を備えたことを特徴とした請求項3に記載の炭素繊維の被膜形成装置。
【請求項5】
前記ホルダーが、前記回転駆動手段による回転軸心を中心に放射状に複数、設けられていることを特徴とした請求項4に記載の炭素繊維の被膜形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維の被膜形成方法とその装置、より詳しくは、真空容器内で正イオン化した被膜材料を負電圧を印加した炭素繊維の表面に付着させて被膜を形成する炭素繊維の被膜形成方法とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭素繊維を補強材とする金属複合材料の製造方法として、炭素繊維の表面にイオンプレーティング法により金属皮膜を形成し、この金属皮膜炭素繊維を母材金属に混入し、金属溶融または焼結させることにより母材金属中に炭素繊維を分散一体化させて金属複合材料を得る方法が知られている(下記特許文献1)。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の金属複合材料の製造方法においては、炭素繊維の表面に金属皮膜を形成する際に、長繊維または短繊維の炭素繊維を回転金網容器内に収容し、炭素繊維を回転撹拌しながらイオンプレーティング処理を行っていたため、得られる金属皮膜炭素繊維は、その向きがランダムになり、例えば炭素繊維の向きを揃えた金属複合材料を得るためには、別途、これらの金属皮膜炭素繊維の向きを揃える工程を行う必要があった。また、均等な被膜形成を行うためには、回転金網容器内への炭素繊維の収容量に限界があり、金属皮膜炭素繊維を量産できない難点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭51-61404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来の炭素繊維の皮膜形成方法に上記のような難点があったことに鑑みて為されたもので、多数本の炭素繊維をシート状に引き揃えた状態で各炭素繊維の表面に均等に皮膜を形成することができ、しかも、各炭素繊維の表面に均等に皮膜を形成した炭素繊維シートを量産することができる炭素繊維の皮膜形成方法とその装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る炭素繊維の被膜形成方法は、真空容器内で、正イオン化した被膜材料を負電圧を印加した炭素繊維の表面に付着させて被膜を形成する炭素繊維の被膜形成方法であって、多数本の前記炭素繊維をシート状に引き揃えた炭素繊維シートの両端をホルダーで保持し、前記ホルダーを介して前記各炭素繊維をバイブレーターで微振動させながら前記各炭素繊維に被膜を形成し、前記炭素繊維シートとして、予め多数本の炭素繊維を引き揃えた炭素繊維束に空気流を通過させてシート状に開繊した開繊シートを用いたことを特徴としている。
【0008】
また、本発明に係る炭素繊維の被膜形成方法は、前記炭素繊維シートを保持する前記ホルダーを回転させながら前記炭素繊維に被膜を形成することを特徴としている。
【0009】
また、本発明に係る炭素繊維の被膜形成装置は、真空容器内で、正イオン化した被膜材料を負電圧を印加した炭素繊維の表面に付着させて被膜を形成する炭素繊維の被膜形成装置であって、多数本の前記炭素繊維をシート状に引き揃えた炭素繊維シートの両端を保持するホルダーと、前記ホルダーを介して前記炭素繊維シートを微振動させるバイブレーターと、前記ホルダーで保持した前記炭素繊維シートに所定の張力を付与する張力付与手段とを備え、前記バイブレーターで前記各炭素繊維を微振動させながら前記各炭素繊維に被膜を形成することを特徴としている。
【0011】
また、本発明に係る炭素繊維の被膜形成装置は、前記炭素繊維シートを保持する前記ホルダーを回転させる回転駆動手段を備えたことを特徴としている。
【0012】
また、本発明に係る炭素繊維の被膜形成装置は、前記ホルダーが、前記回転駆動手段による回転軸心を中心に放射状に複数、設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る炭素繊維の被膜形成方法とその装置によれば、多数本の炭素繊維をシート状に引き揃えた炭素繊維シートの両端をホルダーで保持し、このホルダーを介して各炭素繊維をバイブレーターで微振動させながら各炭素繊維に被膜を形成するようにしているので、被膜材料の付き回り性をより向上させて各炭素繊維の表面に均等に被膜を形成することができ、各炭素繊維の表面に均等に皮膜を形成した炭素繊維シートを量産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態の炭素繊維の被膜形成装置の概略縦断面図である。
図2】本実施形態の炭素繊維の被膜形成装置の概略横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施形態の炭素繊維の被膜形成方法及び装置は、真空容器内で、正イオン化した被膜材料を負電圧を印加した炭素繊維の表面に付着させて被膜を形成するものである。図1に示すように、本実施形態の炭素繊維の被膜形成装置10は主として、真空容器1と、真空容器1の周壁に複数設けられ、被膜材料を供給する被膜材料供給源2・2…と、真空容器1の中央に取り付けられ、多数本の炭素繊維をシート状に引き揃えた炭素繊維シートSの両端をそれぞれ保持する上下で対を成すホルダー3・3と、真空容器1内を真空排気するための排気管4と、真空容器1内へアルゴン等の不活性ガスを導入するための導入管5とから構成されている。
【0016】
本実施形態の被膜材料供給源2は、アンバランス型マグネトロンを備えており、この被膜材料供給源2にセットされた被膜材料をアーク放電により蒸発させると共に、蒸発させた被膜材料を正イオン化する。他方、炭素繊維シートSには、ホルダー3を通じて不図示の外部電源により負のバイアス電圧が印加される。このことで、正イオン化した被膜材料を炭素繊維シートSの各炭素繊維の表面に衝突させ、各炭素繊維の表面に被膜材料を付着させて被膜を形成する。
【0017】
なお、本実施形態の炭素繊維の被膜形成装置10は、アーク放電によるイオンプレーティング法によって被膜を形成するものであるが、例えばグロー放電によるイオンプレーティング法や、スパッタリング法によって被膜を形成するものであってもよい。また、被膜材料を蒸発させるために、例えば抵抗加熱方式、電子ビーム加熱方式、高周波誘導加熱方式、レーザー加熱方式等の加熱蒸発源を採用することができ、また、被膜材料を正イオン化するプラズマを発生させるために、例えば直流放電方式、マイクロ波放電方式、バイアスプロープ放電方式等を採用することができる。
【0018】
炭素繊維シートSは、予め多数本の炭素繊維を引き揃えた炭素繊維束に空気流を通過させてシート状に開繊した開繊シートを採用することができる。この開繊シートは、公知の開繊装置(特許第3907660号公報)により得ることができる。この開繊装置は、気流を導く風洞筒体の通気開口部に複数の支持部材を設け、通気開口部を走行する炭素繊維束をこれら複数の支持部材により支えながら、炭素繊維束の走行方向と直交する方向から気流を通過させて炭素繊維束を開繊するものである。この開繊装置によれば、複数の支持部材により炭素繊維束を一定の姿勢に保ちながら細かい間隔で段階を追って炭素繊維束を開繊処理することができ、各炭素繊維同士の間隔がほぼ均等な開繊シートを得ることができる。
【0019】
被膜材料としては、例えば、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt等の炭素と反応して炭化物を形成しない金属や、Al、Zn、Ti、Ni等の他の金属を採用することができる。また、炭素繊維の表面に、各金属と窒素、酸素等の反応ガスとの化合物から成る被膜を形成してもよく、炭素繊維の表面に複数層の被膜を形成してもよい。
【0020】
図1及び図2に示すように、本実施形態の真空容器1内には、かご状の枠体31が外部の回転駆動手段6により回転可能に設けられている。この枠体31の上部には、バイブレーター7を介して上側支持棒32が設けられており、枠体31の下部には、下側支持棒33が上側支持棒32と平行に設けられている。
【0021】
上下で対を成す各ホルダー3は、炭素繊維シートSの表裏両面を挟んで保持する掴み部材から成り、上側支持棒32及び下側支持棒33にそれぞれ着脱自在に取り付けられる。即ち、上側のホルダー3にはフック34が設けられており、このフック34を上側支持棒32に引っ掛ける一方、下側のホルダー3には張力付与手段8としてのコイルばねが着脱自在に設けられており、このコイルばねを下側支持棒33に引っ掛けるようにしている。このことで、張力付与手段8によって所定の張力が付与された状態で炭素繊維シートSが上下一対のホルダー3・3によって真空容器1内にセットされる。
【0022】
なお、本実施形態では、上側支持棒32及び下側支持棒33がそれぞれ、回転駆動手段6による枠体31の回転軸心Aを中心に放射状に計8本、設けられており、上下8対のホルダー3・3…により計8枚の炭素繊維シートS・S…を真空容器1内に同時にセットすることができる。
【0023】
本実施形態の炭素繊維の被膜形成装置10を用いて炭素繊維シートSに被膜を形成する際には、まず、真空容器1内にアルゴン等の不活性ガスを導入し、真空容器1内を所定の真空度に維持する。そして、回転駆動手段6を作動させてホルダー3を介して炭素繊維シートSを中心軸心A回りに連続回転させるとともに、バイブレーター7を作動させて、ホルダー3を介して炭素繊維シートSを微振動させる。そして、この状態で、被膜材料供給源2を作動させてアーク放電により正イオン化した被膜材料を負電圧を印加した炭素繊維シートSに付着させて各炭素繊維の表面に被膜を形成する。
【0024】
このように本実施形態の炭素繊維の被膜形成方法及び被膜形成装置10によれば、多数本の炭素繊維をシート状に引き揃えた炭素繊維シートSの両端をホルダー3で保持し、このホルダー3を介して各炭素繊維をバイブレーター7で微振動させながらイオンプレーティングを行って各炭素繊維に被膜を形成するようにしているので、正イオン化した被膜材料が各炭素繊維の裏側(最寄りの被膜材料供給源2の反対側)へより回り込み易くなり、被膜材料の付き回り性をより向上させることができ、各炭素繊維の表面により均等に被膜を形成することができる。
【0025】
また、本実施形態の炭素繊維の被膜形成方法及び被膜形成装置10によれば、多数本の炭素繊維をシート状に引き揃えた状態で、各炭素繊維の表面に均等に皮膜を形成することができるので、各炭素繊維の表面に均等に皮膜を形成した炭素繊維シートを量産することができる。
【0026】
また、本実施形態では、炭素繊維シートSとして、予め多数本の炭素繊維を引き揃えた炭素繊維束を空気流により開繊処理した開繊シートを用いているので、炭素繊維シートSの炭素繊維同士の間に均等な隙間を確保することができ、微振動時の炭素繊維同士の接触を低減化することができ、このことによっても、各炭素繊維の表面により均等な被膜を形成することができる。
【0027】
さらに、本実施形態では、張力付与手段8により炭素繊維シートSに所定の張力を付与しているので、各炭素繊維を微振動させながらも炭素繊維シートSをより安定に保持することができ、このことによっても、各炭素繊維の表面により均等な被膜を形成することができる。
【0028】
さらに、本実施形態では、炭素繊維シートSを保持するホルダー3を回転させる回転駆動手段6を備え、このホルダー3を回転軸心Aを中心に放射状に複数、設けているので、複数の炭素繊維シートSに対し同時に被膜形成することができ、各炭素繊維の表面に均等に皮膜を形成した炭素繊維シートSをより量産することができる。
【0029】
以上、本実施形態の炭素繊維の被膜形成方法及び被膜形成装置について説明したが、本発明は他の実施形態でも実施することができる。本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内で、当業者の知識に基づいて種々の改良、修正、変形を加えた態様で実施し得るものである。また、同一の作用又は効果が生じる範囲内でいずれかの発明特定事項を他の技術に置換した形態で実施してもよく、また、一体に構成されている発明特定事項を複数の部材から構成したり、複数の部材から構成されている発明特定事項を一体に構成した形態で実施してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係る炭素繊維の被膜形成方法及び装置によれば、各炭素繊維の表面に均等に皮膜を形成した炭素繊維シートを量産することができるので、炭素繊維を補強材とする金属複合材料の製造に好適に利用することができる他、各炭素繊維の表面にPt等の触媒金属皮膜を形成した炭素繊維シートを、例えば燃料電池の電極触媒層のより安価な構成材料として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0031】
10 炭素繊維の被膜形成装置
1 真空容器
2 被膜材料供給源
3 ホルダー
4 排気管
5 導入管
6 回転駆動手段
7 バイブレーター
8 張力付与手段
A 回転軸心
S 炭素繊維シート
図1
図2