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  • 特許-腸内環境改善剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】腸内環境改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/718 20060101AFI20240712BHJP
   A61K 36/04 20060101ALI20240712BHJP
   A61P 1/14 20060101ALI20240712BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20240712BHJP
【FI】
A61K31/718
A61K36/04
A61P1/14
A23L33/125
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022197958
(22)【出願日】2022-12-12
(65)【公開番号】P2024083882
(43)【公開日】2024-06-24
【審査請求日】2024-04-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515356410
【氏名又は名称】株式会社ガルデリア
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】アダムス 英里
(72)【発明者】
【氏名】前田 和輝
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-25973(JP,A)
【文献】特開2006-136240(JP,A)
【文献】特開2020-74695(JP,A)
【文献】特開2022-80035(JP,A)
【文献】Int J Biol Macromol,2016年,89:12-18
【文献】応用糖質科学,2018年,8(2):138-144
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/718
A61K 36/04
A61P 1/14
A23L 33/125
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガルディエリア・スルフラリア(Galdieria sulphuraria)由来のグライコジェンを有効成分として含有する、腸内環境改善剤。
【請求項2】
ガルディエリア・スルフラリア(Galdieria sulphuraria)由来のグライコジェンを有効成分として含有する、腸内細菌叢のα多様性増加剤。
【請求項3】
ガルディエリア・スルフラリア(Galdieria sulphuraria)由来のグライコジェンを有効成分として含有する、腸内細菌叢におけるビフィズス菌の割合の増加剤。
【請求項4】
ガルディエリア・スルフラリア(Galdieria sulphuraria)由来のグライコジェンを有効成分として含有する、腸内細菌叢における酪酸菌の割合の増加剤。
【請求項5】
前記酪酸菌が、コプロコッカス属に属する細菌及びブラウティア属に属する細菌からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項4に記載の増加剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸内環境改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
グライコジェン(グリコーゲン)は、α-D-グルコースがα-(1→4)結合又はα-(1→6)結合で重合した分枝構造を有する高分子である。グライコジェンは、原核生物や動物における貯蔵多糖として知られている。グライコジェンは、その由来する生物の種類に応じて、分子量や分枝構造の割合が大きく異なる。紅藻の一種であるガルディエリア・スルフラリア(Galdieria sulphuraria)由来のグライコジェンは、分枝構造の割合が高いことが知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Carbohydrate Polymers,2017年,169巻,75-82頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、G.sulphuraria由来のグライコジェンを摂取したヒトにおいて、腸内細菌叢のα多様性指数が増加すること、善玉菌として知られるビフィズス菌及び酪酸菌の腸内細菌叢に占める割合が増加することを見出した。本発明は、この新規な知見に基づくものであり、新規な腸内環境改善剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面は、ガルディエリア・スルフラリア(Galdieria sulphuraria)由来のグライコジェンを有効成分として含有する、腸内環境改善剤に関する。
【0006】
上述のとおり、G.sulphuraria由来のグライコジェンは、それを摂取したヒトにおいて、腸内細菌叢のα多様性指数を増加させ、善玉菌として知られるビフィズス菌及び酪酸菌の腸内細菌叢に占める割合を増加させるという新たに見出された属性を有する。したがって、G.sulphuraria由来のグライコジェンは、腸内環境を改善する用途に好適に使用することができる。
【0007】
本発明に係る腸内環境改善剤は、腸内細菌叢のα多様性増加剤、腸内細菌叢におけるビフィズス菌の割合の増加剤、又は腸内細菌叢における酪酸菌の割合の増加剤と捉えることもできる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、新規な腸内環境改善剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】G.sulphuraria由来グライコジェンを摂取したヒト(n=5)において、摂取前後に腸内細菌叢を解析した結果を示すグラフである。(A)腸内細菌叢のα多様性指数を解析した結果を示すグラフである。(B)腸内細菌叢に占めるビフィズス菌の割合を解析した結果を示すグラフである。(C)腸内細菌叢に占める酪酸菌(コプロコッカス属に属する細菌)の割合を解析した結果を示すグラフである。(D)腸内細菌叢に占める酪酸菌(ブラウティア属に属する細菌)の割合を解析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態についてより詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本実施形態に係る腸内環境改善剤は、ガルディエリア・スルフラリア(Galdieria sulphuraria)由来のグライコジェンを有効成分として含有する。
【0012】
G.sulphurariaは、イデユコゴメ目(Cyanidiales)に属する紅藻である。G.sulphuraria由来のグライコジェンは、分枝構造の割合が高いことが知られている(非特許文献1)。本発明は、後述の実施例に記載したように、G.sulphuraria由来のグライコジェンは、腸内細菌叢のα多様性指数を増加させ、善玉菌として知られるビフィズス菌及び酪酸菌の腸内細菌叢に占める割合を増加させることを見出し、G.sulphuraria由来のグライコジェンを腸内環境の改善用途に使用することに特徴を有する。
【0013】
G.sulphuraria由来のグライコジェンとしては、G.sulphurariaから抽出又は精製されたものを使用することができる。G.sulphurariaからのグライコジェンの抽出又は精製方法に特に制限はなく、例えば、非特許文献(International Journal of Biological Macromolecules,2016年,Vol.89,pp.12-18)に記載の方法により取得することができる。また、例えば、後述の実施例に記載したとおり、G.sulphurariaの乾燥粉末から水でグライコジェンを抽出した後、抽出物中のタンパク質等の夾雑物の除去(例えば、加熱処理による除去、TCA沈殿による除去)、エタノール沈殿によるグライコジェンの精製を経て取得することもできる。グライコジェンを抽出又は精製するためのG.sulphurariaは、常法により培養したものを使用できる。
【0014】
本実施形態に係る腸内環境改善剤は、有効成分であるG.sulphuraria由来グライコジェンのみからなるものであってもよく、また当該有効成分に加えて医薬品、医薬部外品又は食品として許容されるその他成分を含むものであってもよい。本実施形態に係る腸内環境改善剤における有効成分であるG.sulphuraria由来グライコジェンの含有量は、特に制限されるものではなく、例えば、腸内環境改善剤全量を基準として、0.01質量%以上100質量%以下の範囲であってよい。
【0015】
その他成分としては、これに限られるものではないが、例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、乳化剤、界面活性剤、基剤、溶解補助剤、懸濁化剤等が挙げられる。
【0016】
賦形剤としては、例えば、ラクトース、スクロース、デンプン、デキストリン等が挙げられる。結合剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク等が挙げられる。崩壊剤としては、例えば、結晶セルロース、寒天、ゼラチン、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、デキストリン等が挙げられる。乳化剤又は界面活性剤としては、例えば、Tween60、Tween80、Span80、モノステアリン酸グリセリン等が挙げられる。基剤としては、例えば、セトステアリルアルコール、ラノリン、ポリエチレングリコール、米糠油、魚油(DHA、EPA等)、オリーブ油等が挙げられる。溶解補助剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、Tween80等が挙げられる。懸濁化剤としては、例えば、Tween60、Tween80、Span80、モノステアリン酸グリセリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0017】
本実施形態に係る腸内環境改善剤は、固体(例えば、凍結乾燥させて得られる粉末)、液体(例えば、水溶性又は脂溶性の溶液又は懸濁液)、ペースト等のいずれの形状であってもよい。
【0018】
本実施形態に係る腸内環境改善剤の剤形は、例えば、散剤、丸剤、顆粒剤、錠剤、シロップ剤、トローチ剤、カプセル剤、注射剤等のいずれであってもよい。剤形が注射剤である場合には、例えば、静脈内注射、皮下注射、筋肉内注射、腹腔内注射のいずれであってもよい。
【0019】
本実施形態に係る腸内環境改善剤は、医薬品成分、食品成分、食品添加物、飼料成分、飼料添加物等として使用することができる。食品(サプリメントを含む。)としては、例えば、特定保健用食品、特別用途食品、栄養補助食品、機能性食品であってよい。
【0020】
本実施形態に係る腸内環境改善剤は、有効成分として含有するG.sulphuraria由来グライコジェンが少なくとも腸内細菌叢のα多様性指数を増加させること、善玉菌として知られるビフィズス菌及び酪酸菌の腸内細菌叢に占める割合を増加させることから、腸内環境を改善する用途に好適に使用できる。
【0021】
本実施形態に係る腸内環境改善剤はまた、有効成分として含有するG.sulphuraria由来グライコジェンが少なくとも腸内細菌叢のα多様性指数を増加させることから、腸内細菌叢のα多様性を増加させる用途に使用することもできる。すなわち、本実施形態に係る腸内環境改善剤は、腸内細菌叢のα多様性増加剤と捉えることもできる。
【0022】
本実施形態に係る腸内環境改善剤は、腸内細菌叢のα多様性を向上させることを介して、ストレスによるうつ病の予防又は改善効果、炎症性腸疾患の改善効果、癌に対する耐性向上効果、アルツハイマー病の予防又は改善効果を発揮することが期待できる。
【0023】
本実施形態に係る腸内環境改善剤はまた、有効成分として含有するG.sulphuraria由来グライコジェンが少なくともビフィズス菌の腸内細菌叢に占める割合を増加させることから、腸内細菌叢におけるビフィズス菌の割合を増加させる用途に好適に使用できる。すなわち、本実施形態に係る腸内環境改善剤は、腸内細菌叢におけるビフィズス菌の割合の増加剤と捉えることもできる。
【0024】
本実施形態に係る腸内環境改善剤は、腸内細菌叢に占めるビフィズス菌の割合を増加させることを介して、炎症の抑制効果、過敏性腸症候群の改善効果、花粉症症状の緩和効果、インフルエンザ等のウイルス感染症に対する予防効果又は症状軽減効果を発揮することが期待できる。
【0025】
本実施形態に係る腸内環境改善剤はまた、有効成分として含有するG.sulphuraria由来グライコジェンが少なくとも酪酸菌の腸内細菌叢に占める割合を増加させることから、腸内細菌叢における酪酸菌の割合を増加させる用途に好適に使用できる。すなわち、本実施形態に係る腸内環境改善剤は、腸内細菌叢における酪酸菌の割合の増加剤と捉えることもできる。
【0026】
本実施形態に係る腸内環境改善剤は、腸内細菌叢に占める酪酸菌の割合を増加させることを介して、運動が身体に及ぼす好影響の一部を享受できる効果、過剰な免疫応答を抑止して疾病を防止する効果、肝臓脂肪量及び炎症の減少効果、筋肉量の増加効果を発揮することが期待できる。
【0027】
本実施形態に係る腸内環境改善剤の対象への投与の際の用法・用量は、対象の種類、状態及び年齢等に応じて、適宜設定することができる。対象としては、ヒトであってもよく、非ヒト哺乳動物であってもよい。対象としては、好ましくはヒトである。投与方法は、経口投与であってもよく、非経口投与であってもよい。投与方法は、好ましくは経口投与である。具体的な投与量の一例として、例えば、有効成分量が1日あたり0.1g以上100g以下の範囲となる投与量が挙げられる。投与量は、好ましくは、有効成分量が1日あたり1g以上80g以下、有効成分量が1日あたり2g以上60g以下、有効成分量が1日あたり3g以上40g以下、有効成分量が1日あたり4g以上30g以下、有効成分量が1日あたり5g以上20g以下、有効成分量が1日あたり6g以上15g以下、有効成分量が1日あたり7g以上13g以下、有効成分量が1日あたり8g以上12g以下の範囲である。本実施形態に係る腸内環境改善剤は、1日あたりの有効成分量が上述の範囲内となるように、1日1回投与されてもよく、1日2回、1日3回又は1日4回以上等の複数回に分けて投与されてもよい。
【0028】
本発明はまた、腸内環境の改善に使用するための、ガルディエリア・スルフラリア(Galdieria sulphuraria)由来のグライコジェンと捉えることもできる。本発明は更に、ガルディエリア・スルフラリア(Galdieria sulphuraria)由来のグライコジェンを有効成分として含有する腸内環境改善剤の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、腸内環境の改善方法と捉えることもできる。本発明は更にまた、腸内環境改善剤の製造における、ガルディエリア・スルフラリア(Galdieria sulphuraria)由来のグライコジェンの使用と捉えることもできる。
【実施例
【0029】
以下、実施例に基づき本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
〔実施例1:G.sulphuraria由来グライコジェンの調製〕
38.5g/Lの砂糖を与えて定常期まで増殖させたG.sulphuraria 074wの細胞を、連続遠心分離により回収した。回収した細胞をpH5付近になるまで水で洗浄し、37℃で一晩乾燥させた後、製粉機を用いて粉末化し、G.sulphurariaの乾燥粉末を得た。
【0031】
G.sulphurariaの乾燥粉末200gに超純水(MilliQ水)600mLを加えてよく攪拌した後、水浴中で60分間沸騰させた。沸騰後の溶液を冷却した後、遠心分離(4,000×g、室温、10分間)した。上清を新しい遠心管に移した後、ペレットに超純水(MilliQ水)400mLを加えてよく攪拌した後、遠心分離(4,000×g、室温、10分間)して、更にグライコジェンの回収を行った。得られた上清は、最初に得られた上清と一緒にした。
【0032】
次いで、残留タンパク質等を沈殿させるために、1/10容量の予冷した50%(wt/v)トリクロロ酢酸(TCA)を上清に加えた。氷上で20分間静置した後、遠心分離(4,000×g、4℃、20分間)した。上清を新しい遠心管に移し、1.5容量のエタノールを加えて氷上で30分間静置した後、遠心分離(4,000×g、4℃、15分間)してグライコジェンを沈殿させた。
【0033】
次いで、上清を廃棄し、約70℃に温めた300mLの超純水(MilliQ水)にペレットを再懸濁した。これに1.5容量のエタノールを加えて氷上で60分間静置した後、遠心分離(4,000×g、4℃、30分間)してグライコジェンを沈殿させた。上清を廃棄し、ペレットを掻き出してトレイに入れ、75℃で乾燥させた。
【0034】
乾燥させたペレットを新しい遠心管に移した後、約70℃に温めた300mLの超純水(MilliQ水)にペレットを再懸濁した。これに1.5容量のエタノールを加えて氷上で60分間静置した後、遠心分離(4,000×g、4℃、30分間)してグライコジェンを沈殿させた。上清を廃棄し、ペレットを掻き出してトレイに入れ、75℃で乾燥させた。得られた乾燥ペレットを、G.sulphuraria由来グライコジェンとした。
【0035】
〔実施例2:G.sulphuraria由来グライコジェンによる腸内環境改善効果〕
健康なヒト被験者5人(年齢20代~50代の男女)に対し、一日一回夕食前に10g/日の用量でG.sulphuraria由来グライコジェンを経口摂取した。各被験者から、摂取前の便(図1中、「摂取前」)、及び28日間摂取後の便(図1中、「摂取後」)を採取し、腸内細菌叢の解析を実施した。
【0036】
腸内細菌叢の解析は、メタ16S解析によって実施した。まず、検体(便)から腸内細菌由来ゲノムDNAを抽出及び精製した。次いで、DNA検体を次世代シーケンサー(イルミナ社製,MiSeq)で解析し、メタ16S塩基配列データを得た。得られた塩基配列データを、次世代シーケンサのデータプラッフォトームであるQiime2を使用してデータベースと照合することで、菌の種類を同定し、菌種別の配列数データを得て、腸内細菌の種類の多さを示すα多様性指数、ビフィズス菌(ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属に属する細菌)の割合、短鎖脂肪酸の一種である酪酸を産生する酪酸菌(コプロコッカス(Coprococcus)属に属する細菌及びブラウティア(Blautia)属に属する細菌)の割合を確認した。結果を図1に示す。なお、図1中のデータは、被験者5人の平均値である。
【0037】
図1(A)は、腸内細菌叢のα多様性指数を解析した結果を示すグラフである。図1(A)に示すとおり、G.sulphuraria由来グライコジェンを摂取することにより、摂取前よりも摂取後(28日間摂取後)のα多様性指数が増加しており、腸内細菌叢のα多様性が向上していた。これまでに、ストレスモデルマウスにおいて、ストレスで生じる腸内自然免疫の機能低下が引き金となり、腸内細菌叢の異常・腸内代謝物の恒常性の崩壊が生じることが報告されている(Scientific Reports,2021年,Volume11,Article number9915)。炎症性腸疾患(IBD)患者では腸内細菌叢の多様性低下が認められることが報告されている(生物工学会誌,2021年,第99巻第11号,pp.584-586)。大腸癌患者において、大腸癌組織の腸内細菌の多様性は、癌組織より離れた正常組織の多様性よりも小さかったことが報告されている(PLoS One. 2012; 7: e39743)。また、アルツハイマー病の患者では腸内細菌叢の多様性が低く、プロバイオティクスによる多様性の回復で症状が緩和されたことが報告されている(J.Appl.Microbiol.,2019年,127(4),pp.954-967)。本発明に係る腸内環境改善剤は、腸内細菌叢のα多様性を向上させることを介して、ストレスによるうつ病の予防又は改善効果、炎症性腸疾患の改善効果、癌に対する耐性向上効果、アルツハイマー病の予防又は改善効果を発揮することが期待できる。
【0038】
図1(B)は、腸内細菌叢に占めるビフィズス菌の割合を解析した結果を示すグラフである。図1(B)に示すとおり、G.sulphuraria由来グライコジェンを摂取することにより、摂取前よりも摂取後(28日間摂取後)のビフィズス菌の割合が増加していた。これまでに、炎症性疾患のモデルマウスにおいて、ビフィズス菌により産生される酢酸が多量に存在すると、炎症を抑えることが報告されている(Eur.J.Immunol.,2007年,37(8),pp.2309-2316)。過敏性腸症候群(IBS)のヒトにビフィズス菌(Bifidobacterium infantis)を投与したところ、腹痛、膨満感、腸管機能障害、排便不全などのスコアの改善が見られたことが報告されている(American Journal of Gastroenterology,2006年,101(7),pp.1581-1590)。花粉症の被験者44人を対象に、花粉症の時期に13週間ビフィズス菌を摂取させたところ、鼻水や鼻づまりなどの花粉症症状が解消されたことが報告されている(Clin.Exp.Allergy,2006年,36(11),pp.1425-1435)。また、高齢者を対象として、ビフィズス菌を継続して摂取するグループの方がインフルエンザの罹患率が有意に低かったことが報告されている(Bioscience Biotechnology and Biochemistry,2010年,74巻5号,pp.939-945)。本発明に係る腸内環境改善剤は、腸内細菌叢に占めるビフィズス菌の割合を増加させることを介して、炎症の抑制効果、過敏性腸症候群の改善効果、花粉症症状の緩和効果、インフルエンザ等のウイルス感染症に対する予防効果又は症状軽減効果を発揮することが期待できる。
【0039】
図1(C)は、腸内細菌叢に占める酪酸菌(コプロコッカス属に属する細菌)の割合を解析した結果を示すグラフである。図1(D)は、腸内細菌叢に占める酪酸菌(ブラウティア属に属する細菌)の割合を解析した結果を示すグラフである。図1(C)及び(D)に示すとおり、G.sulphuraria由来グライコジェンを摂取することにより、摂取前よりも摂取後(28日間摂取後)の酪酸菌の割合が増加していた。これまでに、ヒトに対して運動プログラムを提供したところ、短鎖脂肪酸(特に酪酸)の便中濃度が上昇し、その後一定期間の座りがちな生活に戻ると、その短鎖脂肪酸のレベルは再び低下したことが報告されている(Med.Sci.Sports Exerc.,2018年,50(4),pp.747-757)。腸内細菌が産生する酪酸は、腸管に吸収されると未成熟な状態のT細胞を変化させて免疫反応を調整する制御性T細胞へと誘導し、それにより過剰な免疫応答を抑止して疾病の防止に貢献していることが報告されている(Nature,2013年,Vol.504,pp.446-450)。また、酪酸菌(Faecalibacterium prausnitzii)を高脂肪食のマウスに接種させたところ、肝臓の脂肪含有量が減少し、炎症が減少したこと、さらに筋肉量も増加したことが報告されている(ISME J.,2017年,11(7),pp.1667-1679)。本発明に係る腸内環境改善剤は、腸内細菌叢に占める酪酸菌の割合を増加させることを介して、運動が身体に及ぼす好影響の一部を享受できる効果、過剰な免疫応答を抑止して疾病を防止する効果、肝臓脂肪量及び炎症の減少効果、筋肉量の増加効果を発揮することが期待できる。
図1