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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】温度ベース形状記憶高分子
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/91 20060101AFI20240712BHJP
   C08G 63/06 20060101ALI20240712BHJP
   C08F 299/04 20060101ALI20240712BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20240712BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20240712BHJP
   A61F 2/06 20130101ALI20240712BHJP
【FI】
C08G63/91
C08G63/06
C08F299/04
A61L31/06
A61L31/14
A61L31/14 400
A61F2/06
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022580168
(86)(22)【出願日】2021-06-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-26
(86)【国際出願番号】 KR2021007894
(87)【国際公開番号】W WO2021261915
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】10-2020-0076806
(32)【優先日】2020-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521141040
【氏名又は名称】ティーエムディー ラブ カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジュ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】カン,ミ-ラン
(72)【発明者】
【氏名】イ,セ ウォン
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-246851(JP,A)
【文献】特開2015-089433(JP,A)
【文献】特開平06-016799(JP,A)
【文献】特表2004-536929(JP,A)
【文献】国際公開第2020/071806(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/91
C08G 63/06
C08F 299/04
A61L 31/06
A61L 31/14
A61F 2/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表された化合物を含む形状記憶高分子:
【化1】

上記化学式1において、
xはであり、
m及びnは反復単位のモル%を表し、
m+nは100であり、mは80~96である。
【請求項2】
前記mは、92~96である、請求項1に記載の形状記憶高分子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の形状記憶高分子を含む血管外壁ラッピング用機構。
【請求項4】
前記血管外壁は、血管吻合部位の血管外壁であることを特徴とする、請求項に記載の血管外壁ラッピング用機構。
【請求項5】
前記血管吻合部位は、静脈、動脈及び人工血管から選択される異なる2つの血管間の吻合部位であることを特徴とする、請求項に記載の血管外壁ラッピング用機構。
【請求項6】
前記血管吻合部位は、静脈-動脈吻合部位であることを特徴とする、請求項に記載の血管外壁ラッピング用機構。
【請求項7】
前記血管吻合部位は、静脈-人工血管吻合部位又は人工血管-動脈吻合部位であることを特徴とする、請求項に記載の血管外壁ラッピング用機構。
【請求項8】
前記血管外壁ラッピング用機構は、中空(hollow)の円筒状チューブ又はY字状チューブの形状の原形(original shape)を有し、前記中空に血管が挿入可能に一側が長手(length)方向にカッティング(cutting)されており、
室温で保持可能な臨時形態(temporary shape)として、前記カッティングにより形成された両端が離隔された曲面又は平面形状を有し、
前記臨時形態は、血管外壁に適用時に、血管外壁を包むように曲率が増加する方向に撓むことによって原形に復元されることを特徴とする、請求項に記載の血管外壁ラッピング用機構。
【請求項9】
次の段階を含む血管外壁ラッピング用機構の製造方法:
(a)請求項1又は2による形状記憶高分子及び光開始剤(photoinitiator)混合物を中空(hollow)の円筒状チューブ又はY字状チューブの形状に光架橋させるチューブタイプデバイス製造段階;
(b)製造されたチューブタイプデバイスの一側を、円筒状チューブ又はY字状チューブに形成された中空の中心軸に並ぶ長手(length)方向にカッティングする段階;及び、
(c)一側がカッティングされたチューブタイプデバイスを、体温を超える温度条件下で血管挿入が可能な臨時形態(temporary shape)に誘導後に、室温未満の温度で冷却して固定させる段階。
【請求項10】
前記段階(a)の形状記憶高分子及び光開始剤混合物は、ポロゲンがさらに混合された混合物であることを特徴とする、請求項に記載の血管外壁ラッピング用機構の製造方法。
【請求項11】
前記ポロゲンは、ゼラチン、塩化ナトリウム、二炭酸ナトリウム、二炭酸アンモニウム、ポリエチレングリコール、及びヘキサンで構成された群から選ばれるいずれか一つ以上であることを特徴とする、請求項10に記載の血管外壁ラッピング用機構の製造方法。
【請求項12】
前記段階(a)の光架橋は、3Dプリンタによって孔隙が形成されるようになされることを特徴とする、請求項に記載の血管外壁ラッピング用機構の製造方法。
【請求項13】
前記3Dプリンタは、SLA(Stereo Lithography Apparatus)、DLP(Digital Light Processing)及びPolyJet(Photopolymer Jetting Technology)方式から選択されるいずれか一方式で駆動されることであることを特徴とする、請求項12に記載の血管外壁ラッピング用機構の製造方法。
【請求項14】
前記体温を超える温度条件は、42℃~65℃であることを特徴とする、請求項に記載の血管外壁ラッピング用機構の製造方法。
【請求項15】
前記段階(a)~(c)のいずれか一段階を行った後に、追加の多孔性付与段階をさらに含むことを特徴とする、請求項に記載の血管外壁ラッピング用機構の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大韓民国中小ベンチャー企業部の支援下で、課題番号S2796595としてなされたものであり、前記課題の研究管理専門機関は中小企業技術情報振興院、研究事業名は“創業成長-技術開発事業”、研究課題名は“鼻涙管閉塞治療のための涙道挿入用形状記憶高分子チューブ開発”、主管機関は株式会社ティ-エムディーラボ、研究期間は2019.11.25.~2021.11.24である。
【0002】
本特許出願は、2020年6月23日に大韓民国特許庁に提出された大韓民国特許出願第10-2020-0076806号に対して優先権を主張し、当該特許出願の開示事項は本明細書に参照によって組み込まれる。
【0003】
本発明は、体内で体温によって変形された形状から原形に復元可能な形状記憶高分子に関する。
【背景技術】
【0004】
従来より、血管内挿入のための様々な形状のステントが開発されて使用されている。大部分のステントは、血管狭窄及び閉鎖を防止するために、血管内に挿入される方式で使用される。しかし、血管外壁の膨脹(dilatation)によって発生し得る問題を解消するために、血管外壁に付着して血管膨脹を抑制させ得る構造体が要求されている。具体的には、例えば、必要によって動脈と静脈を連結する吻合術を施した場合に、吻合部位における動脈と静脈との血圧差によって動脈に連結された静脈部位が過剰膨脹し、手術部位の浮腫などの副作用が発生することがあり、長期的には手術部位における動脈及び静脈の導管が塞がることがある。したがって、動脈と連結された静脈部位の血圧差による過剰膨脹及び浮腫を防止し、血流の渦流を防止することにより、血栓生成及び新生内膜形成を防止できる血管外壁ラッピング用機構が要求されてきた。
【0005】
従来、大韓民国特許第10-1906472号には、形状記憶高分子に関する内容が開示されており、本発明者らは、従来技術で用いられた形状記憶高分子技術を血管外壁ラッピング用機構に好適に適用できることを突き止め、従来開示の形状記憶高分子に着目して構造的に差別化される別個の高分子化合物としてより物性に優れた高分子化合物を導出しようとした。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、血管外壁ラッピングのために好適に適用可能な生体適合性高分子構造体を開発しようと鋭意研究努力した。その結果、4個の炭素-炭素結合腕を有する中心炭素を含む4腕(4-arm)共重合体を用いる場合に、血管外壁に適用時に効率よく血管の異常膨脹及びそれによる副作用を抑制しながらも柔軟な弾力性を有することにより、血管外壁ラッピングのために好適に使用可能であることを究明し、本発明を完成するに至った。
【0007】
したがって、本発明の目的は、4腕構造の共重合体の架橋によって形成された形状記憶高分子を提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、上述した形状記憶高分子からなる血管外壁ラッピング用機構を提供することである。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、血管外壁ラッピング用機構製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、本発明は、下記化学式1で表される化合物を含む形状記憶高分子を提供する:
【0011】
【化1】

【0012】
上記化学式1において、
xは1~20の整数であり、
m及びnは反復単位のモル%を表し、
m+nは100であり、mは80~96である。
【0013】
本発明者らは、4個の炭素-炭素結合腕を有する中心炭素を含む4腕(4-arm)共重合体を用いる場合に、血管外壁に適用時に効率よく血管の異常膨脹及びそれによる副作用を抑制しながらも柔軟な弾力性を有し、血管外壁ラッピングのために好適に使用可能であることを突き止めた。
【0014】
本発明の一具現例において、本発明の化学式1中のxは2~10の整数である。他の具体例において、化学式1中のxは2~9の整数、2~8の整数、2~7の整数、2~6の整数、2~5の整数、3~10の整数、3~9の整数、3~8の整数、3~7の整数、3~6の整数、3~5の整数、4~10の整数、4~9の整数、4~8の整数、4~7の整数、4~6の整数、4~5の整数、5~10の整数、5~9の整数、5~8の整数、5~7の整数、又は5~6の整数であってよい。最も具体的に、化学式1において、xは5である化合物を用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0015】
本発明の一具体例において、本発明の化学式1中のmは85~96であってよく、より具体的には、例えば、mは85~96、88~96、90~96、又は92~96であってよい。
【0016】
本発明の一具体例において、本発明に係る形状記憶高分子は、ε-カプロラクトン単量体とグリシジルメタクリレートとの共重合体であり、4個の炭素-炭素結合腕を有する中心炭素を含む4腕(4-arm)共重合体であってよい。
【0017】
本発明の他の態様によれば、本発明は、上述した形状記憶高分子を含む血管外壁ラッピング用機構を提供する。
【0018】
本発明の血管外壁ラッピング用機構と対比される概念として、血管の閉鎖を防止するための様々な実施形態の血管内に挿入されるステントが公知されている。本発明の多孔性血管外壁ラッピング用機構は、体内血管の外部で血管の外壁をラップする方式で作動することが予定され、適用される血管の種類、直径、及び手術目的などによって機構の内径(inside diameter;I.D.)、外径(O.D.)、長さ(length)などを適切に調節して作製することができる。具体的な実施例は、図1を参照できる。
【0019】
本発明の用語“多孔性血管外壁ラッピング用機構”は、便宜のために、“血管外壁ラッピング用機構”、“多孔性血管ラッピング用機構”、“血管ラッピング用機構”、“血管ラッピング装置”などと呼ぶことができる。
【0020】
本発明の一具現例において、本発明の血管外壁ラッピング用機構が適用される血管外壁は、血管吻合部位の血管外壁であってよい。血管吻合部位では、吻合される血管間の特性差、具体的には、血流によって発生する圧力に耐えられる耐圧特性差のため、一側の血管に血管膨脹(dilatation)が発生する問題があり得る。本発明の一実施例に係る血管外壁ラッピング用機構を用いると、吻合部位外壁をラップしやすくなり、上述した一側血管膨脹の問題を効果的に解決することができる。
【0021】
本発明の一具現例において、本発明の血管吻合部位は、静脈、動脈及び人工血管から選択される異なる2つの血管間の吻合部位である。
【0022】
本発明の一具体例において、本発明の血管吻合部位は、静脈-動脈吻合部位である。
【0023】
本発明の一具体例において、本発明の血管吻合部位は、静脈-人工血管吻合部位、又は人工血管-動脈吻合部位であってよい。動脈と静脈との血管吻合は、人工血管を媒介にしてなされてよく、静脈-人工血管-動脈の順に吻合されてよく、この場合、静脈-人工血管吻合部位又は人工血管-動脈吻合部位に本発明の血管外壁ラッピング用機構が適用されてよく、特に、静脈-人工血管吻合部位に好ましく適用されてよい。
【0024】
異種血管間の吻合は、異種血管の側面と側面を連結した‘側面対側面モデル(Side to Side Model)’、所定の血管の一端面と他の血管の一側面とを連結した‘断面対側面モデル(End to Side Model)’又は‘側面対断面モデル(Side to End Model)’のいずれを含んでもよく、‘側面対側面モデル’には、円筒状の血管外壁ラッピング用機構が好ましく用いられてよく、‘断面対側面モデル’又は‘側面対断面モデル’には、Y字状の血管外壁ラッピング用機構が好ましく用いられてよい(図9参照)。
【0025】
本発明における血管吻合部位は、血管接合が必要な手術、より具体的には、異種血管接合が必要な手術、例えば、動静脈瘻手術、冠状動脈バイパス手術などによって形成されてよく、この時に形成される血管吻合部位に本発明の血管外壁ラッピング用機構が適用されてよい。
【0026】
本発明の一具現例において、本発明の血管外壁ラッピング用機構は、中空(hollow)の円筒状チューブ又はY字状チューブの形状の原形(original shape)を有し、前記中空に血管が挿入可能に一側が長手(length)方向にカッティング(cutting)されており、室温で保持可能な臨時形態(temporary shape)であり、前記カッティングにより形成された両端が離隔した曲面又は平面の形状を有し、前記臨時形態は、血管外壁に適用時に、血管外壁を包むように曲率が増加する方向に撓むことによって原形に復元される。より具体的には、前記原形が円筒状チューブ形状である場合に、前記カッティングは、円筒状チューブの長手方向(軸方向)に形成された直線形カッティングであってよく、前記原形がY字状チューブ形状である場合に、前記カッティングは、Y字状チューブの一面に形成されたY字状カッティングであってよい。
【0027】
本明細書における用語“原形(original shape)”は、本発明の多孔性血管外壁ラッピング用機構の体内環境条件で形成、保持された形状を意味する。具体的な例として、温度条件を取り上げると、体温の範囲を含む平均28℃~42℃の条件で形成される形状を意味する。より具体的には、35℃~38℃の条件で形成される形状を意味する。上述した“Y字状チューブの形状”は、血管吻合部位の外形と類似に、2つの円筒状チューブの形状がY字状に結合して連通している形状を意味する。
【0028】
本明細書における用語“臨時形態(temporary shape)”は、本発明の多孔性血管外壁ラッピング用機構の一般的な保管条件である室温又は室温以下の温度で安定的に保持され得る形状を意味し、より具体的には、血管外壁に適用するために、上述したカッティングによって形成された両端が離隔して開いている状態であってよい。より具体的には、臨時形態を説明するための本明細書における室温は、約1℃~28℃の温度範囲を意味し、本発明の多孔性血管外壁ラッピング用機構は、上述したように、室温環境のみならず、室温以下の低い温度環境、例えば、1℃未満の温度でも臨時形態が安定的に保持されるものであってよい。より具体的には、例えば、前記臨時形態は、1℃未満~零下78℃の低い温度条件下でも安定的に保持されるものであってよい。
【0029】
本発明の一実施例において、本発明の血管外壁ラッピング用機構は、血管にラップした後に体内環境条件で、復元された原形が保持される。
【0030】
本発明の他の態様によれば、本発明は、次の段階を含む血管外壁ラッピング用機構の製造方法を提供する:
(a)上述した形状記憶高分子及び光開始剤(photoinitiator)混合物を円筒状チューブ又はY字状チューブの形状に光架橋させるチューブタイプデバイス製造段階;
(b)製造されたチューブタイプデバイスの一側を、円筒状チューブ又はY字状チューブに形成された中空の中心軸に並ぶ長手(length)方向にカッティングする段階;
(c)一側がカッティングされたチューブ又はY字タイプデバイスを、体温を超える温度条件下で血管挿入が可能な臨時形態(temporary shape)に誘導後に、室温未満の温度で冷却して固定させる段階。
【0031】
本発明の一態様に係る血管外壁ラッピング用機構の製造方法を用いると、温度感応性形状記憶血管外壁ラッピング用機構を製造することができる。より具体的には、本発明の製造方法によって製造された血管ラッピング装置は、常温よりも低い温度条件(28℃未満)及び体温(約36.5~37℃)よりも高い温度条件(42℃以上)で、本発明の他の態様で説明した臨時形態(temporary shape)に転換されるが、体内類似環境条件で原形(original shape)に復元され得る。より具体的には、本発明の製造方法によって製造された血管ラッピング装置は、体温(約36.5~37℃)よりも高い温度条件(42℃以上)で、本発明の他の態様で説明した臨時形態(temporary shape)に転換されるが、体内類似環境条件で原形(original shape)に復元され得る。
【0032】
本発明の一実施例に係る製造方法に関して、以下、各段階別に詳細に説明する。
【0033】
〔段階(a):形状記憶高分子及び光開始剤(photoinitiator)混合物を中空(hollow)の円筒状チューブ又はY字状チューブの形状に光架橋させるチューブタイプデバイス製造段階〕
本明細書における用語“光開始剤(photoinitiator)”とは、高分子物質の光架橋を開始及び/又は促進させ得る物質を意味し、具体的に例を挙げると、UV又はLED架橋及び硬化をさせようとする組成物中に添加され、UV又はLED光源からエネルギーを吸収して高分子物質の架橋を開始させ得る物質を総称する。本発明の実施のために、既に公知の様々な光開始剤を制限なく用いることができる。より具体的には、例えば、商業的に利用可能な1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(TBD;1,5,7-triazabicyclo[4.4.0]dec-5-ene)、スズ(II)(2-エチルヘキサノエート)(tin(II)(2-ethylhexanoate))、トリメチルプロパントリス(3-メルカプトプロビオネート)(trimethylopropane tris(3-mercaptopropionate))、コハク酸亜鉛(Zinc succinate)、又はフェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(Igacure;phenylbis(2,4,6-trimethylbenzoyl)phosphine oxide)を用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0034】
本段階の実施のために、上述した形状記憶高分子は、一般に使用される商用化した溶媒、具体的にはジクロロメタン(dichloromethane)に40重量%~60重量%、より具体的には約50重量%を分散させて使用でき、光開始剤も、一般に使用される商用化した溶媒、具体的にはジクロロメタン(dichloromethane)に5重量%~15重量%、より具体的には約10重量%を分散させ、該分散させた溶液を15:1~5:1、具体的には12:1~8:1、より具体的には10:1の体積比で混合して用いることができる。用意した混合物溶解液とポロゲン(porogen)を1:2~2:1、より具体的には約1:1の重量比(w/w%比率)で混合して最終混合物を製造できる。
【0035】
用意した最終混合物は、円筒状チューブ又はY字状チューブの形状に固定させ、硬化させる準備をすることができる。最終混合物を円筒状チューブ又はY字状チューブの形状に固定させるために、円筒状チューブ又はY字状チューブの形状の空いた空間(empty space)が形成されたモールド(mold)の空いた空間内に、最終混合物を噴射注入する方法を用いることができる。具体的な一例として、円筒状チューブ又はY字状チューブの形状の空いた空間が形成されたモールドとして、テフロンチューブの内部にシリコンチューブを差し込んで準備したモールドを用いることができるが、これに限定されるものではない。そして、それに対してUV又はLED架橋器内で架橋を行うことができる。光開始剤の特性によって、光硬化時間を適切に調節でき、市販されるUV又はLED硬化ランプシステムを制限なく利用可能である。
【0036】
本発明の一実施例において、本発明の段階(a)の形状記憶高分子及び光開始剤混合物は、ポロゲン(poregen)がさらに混合された混合物であってよい。
【0037】
本明細書における用語“ポロゲン(porogen)”は、硬化された高分子物質構造体の孔隙の形成のために用いられる物質を意味し、高分子物質の硬化後にポロゲンを除去することによって、ポロゲンがはめ込んでいた部位(portion)に該当する孔隙が形成された高分子物質構造体を得ることができる。
【0038】
本発明の一具体例において、上述したポロゲンは、ゼラチン、塩化ナトリウム、二炭酸ナトリウム、二炭酸アンモニウム、ポリエチレングリコール、及びヘキサンで構成された群から選ばれるいずれか一つ以上であってよい。具体的に例を挙げると、本発明のポロゲンとして、ゼラチンが用いられる場合に、本発明の形状記憶高分子物質を光開始剤と共にUV又はLEDで架橋させる過程でゼラチンを共に混ぜて架橋した後、40℃の水で24時間以上処理すれば、硬化した高分子物質構造体からゼラチンを溶かして除去できる。本発明のポロゲンとして、塩化ナトリウム、二炭酸ナトリウム、二炭酸アンモニウム、ポリエチレングリコール、ヘキサンなどがそれぞれ用いられる場合に、ゼラチンと同じ方法によって当該ポロゲンを溶かして除去できる。ポロゲン除去を終えた後に、モールドから硬化した高分子物質構造体を分離し、十分に洗浄する段階を行うことができる。
【0039】
本発明の一具現例において、本発明の段階(a)の光架橋は、3Dプリンタによって孔隙を形成させることであってよい。
【0040】
本発明の一具体例において、本発明の3Dプリンタは、SLA(Stereo Lithography Apparatus)、DLP(Digital Light Processing)、及びPolyJet(Photopolymer Jetting Technology)方式から選択されるいずれか一方式で駆動されるものであってよく、これに限定されるものではない。
【0041】
本発明の段階(a)によって製造されたチューブタイプデバイスは、上述したように、(i)ポロゲン混入-除去方式を用いる方式、又は(ii)孔隙が含まれた形状に成形する方式、具体的には、孔隙が含まれた形状に3Dプリントする方式で製造されてよい。上述した(i)ポロゲン混入-除去方式を用いる場合に、ポロゲンを除去する段階は、本発明の段階(b)のカッティングする段階を行う前、後又は同時に行われてよい。
【0042】
〔段階(b):製造されたチューブ又はY字タイプデバイスの一側を、円筒状チューブ又はY字状チューブに形成された中空の中心軸に並ぶ長手(length)方向にカッティングする段階〕
上述したように、ポロゲン除去段階を行う前、後、又は3Dプリンティング後に、チューブタイプデバイスの一側を、円筒状チューブ又はY字状チューブに形成された中空の中心軸に並ぶ長手(length)方向にカッティング(cutting)する段階を行うことができる。上述した‘カッティング(cutting)’は、円筒状チューブ又はY字状チューブの形状の一側面を切開して、チューブタイプデバイスの中空内に血管が挿入され得る‘カッティングライン’を形成する過程を意味する。具体的に例を挙げると、円筒状チューブでは、形成された中空の中心軸に並ぶ長手方向に直線形カッティングラインが形成され、Y字状チューブでは、連通している2つの円筒状チューブのそれぞれの中心軸に並ぶ長手方向に2個の直線形カッティングラインが互いに交差する地点まで形成され、アルファベット‘y’と類似の形状のカッティングラインが形成されるであろう。
【0043】
〔段階(c):一側がカッティングされたチューブタイプデバイスを、体温を超える温度条件下で血管挿入が可能な臨時形態(temporary shape)に誘導後に、室温未満の温度で冷却して固定させる段階〕
本発明の一実施例において、“体温を超える温度条件”は、42℃以上、43℃以上、44℃以上、45℃以上、46℃以上、47℃以上、48℃以上、49℃以上、又は50℃以上の温度条件であってよく、具体的には42℃~65℃、より具体的には45℃~65℃、さらに具体的には50℃~60℃の温度条件であってよい。上述した温度条件環境でチューブタイプデバイスは比較的成形しやすい状態になり、物理的な力を印加して所定の臨時形態(temporary shape)に成形後に、室温(1~28℃)未満の温度で固定させることができる。より好ましくは、十分に低い温度、例えば、ドライアイス条件の温度(約-70℃)で臨時形態を冷却して固定させることができる。このように一応固定された臨時形態は、室温又は室温未満の温度で臨時形態を保持できる。
【0044】
本発明の一具現例によれば、本発明は、段階(a)~(c)のいずれか一段階を行った後、追加の多孔性付与段階をさらに含むことができる。本発明の追加の多孔性付与は、硬化した高分子物質構造体をパンチングすることによってなされてよく、具体的に例を挙げると、バイオプシーパンチ(biopsy punch)を用いて行うことができる。さらに他の実施例において、フェムト秒レーザー(femto second laser)光源技術を用いて追加の多孔性を付与したり、多孔性構造を形成できるモールドを用いて多孔を形成させたりすることができる。上述した方法によって形成された多孔構造の平均直径は、例えば、100μm~1000μm、200μm~700μm、300μm~500μmであってよい。このとき、多孔率(porosity)はステント総面積の30~80%の範囲に調節されてよい。他の実施例において、多孔率は40~75%、50~70%の範囲に調節されてよい。
【0045】
本発明の製造方法は、上述した本発明の他の態様である“血管外壁ラッピング用機構”を製造する方法のうち一つに関するものであるところ、重複する内容に関してはその内容を援用し、本明細書記載の過度な複雑性を解消するために重複記載を省略する。
【0046】
本発明の他の態様によれば、本発明は、上述した本発明の他の態様である“多孔性血管外壁ラッピング用機構の製造方法”によって製造された血管外壁ラッピング用機構を提供する。
【発明の効果】
【0047】
本発明の特徴及び利点を要約すれば次の通りである:
(a)本発明は、4腕構造の共重合体の架橋によって形成された形状記憶高分子を提供する。
【0048】
(b)本発明は、上述した形状記憶高分子からなる血管外壁ラッピング用機構を提供する。
【0049】
(c)本発明は、血管外壁ラッピング用機構の製造方法を提供する。
【0050】
(d)本発明の形状記憶高分子及びこれによって製造された血管外壁ラッピング用機構を用いる場合に、異常血管膨脹を効果的に防止することができる。
【0051】
(e)本発明の形状記憶高分子及びこれによって製造された血管外壁ラッピング用機構を用いると、効果的な新生内膜形成の抑制によって狭窄を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】4腕構造の共重合体の合成の一例を示す模式図である。単量体(monomer)であるCLとGMAを、開始剤であるペンタエリトリトール(pentaerythritol)を入れて110℃で6時間反応させると、4腕PCL-PGMAが合成される。
図2】4腕構造の共重合体の一例であり、4腕PCL-PGMA共重合体の確認のためのNMRデータを示す。δ=4.10[m,-OCH,(E)]、2.41[m,-CH,(A)]、1.74[m,-CH,(B and D)]、1.45[m,-CH,(C)]でPCLピークが確認され、δ=6.13[s,=CH,(G2)]、5.58[s,=CH,(G1)]、1.97[s,-CH3,(F)]でPGMAピークが確認されることにより、4腕PCL-PGMAが合成されたことを確認した。
図3】合成された高分子の分子量を確認するために測定したGPCグラフである。線形高分子に比べて4腕高分子が、リテンションタイム(retention time)の大きい方でピークが見られることにより、分子量がより大きく現れたことが分かる。
図4】合成された高分子の架橋前のDSC測定グラフである。線形PCL-PGMA(比較例)と4腕PCL-PGMA(実施例)のピークが、PCLと比較して2個が現れることは、PCLにPGMAがランダムに結合しながらPCLの結晶性を下げて結晶性差を示す。また、構造的な相違により、4腕PCL-PGMAは線形PCL-PGMAに比べてピークが低く現れる。
図5】実施例(4腕PCL-PGMA)の架橋前後のDSCグラフである。比較例(PCL)にPGMAがランダムに結合しながら結晶性が減少して溶融温度が降り、PGMAがPCLの結晶性を減少させることにより、結晶性の差が発生してピークが2個形成され、架橋後にメタクリレート(methacrylate)が反応してネットワーク(network)構造が形成されながら結晶性が減少するため、ピークが1個現れ、溶融温度が減少する。
図6】線形PCL-PGMA(比較例)と4腕PCL-PGMA(実施例)の架橋後のDSCグラフである。両高分子の熱的特性を比較した結果、4腕高分子の溶融温度が低く現れることを確認した。これにより、低い温度で形状復元され、体温で原形(original shape)への回復速度を上げることができる。
図7】高分子架橋後に引張強度を測定したグラフである。(A)は、体温である37℃で測定した比較例(線形PCL-PGMA)と実施例(4腕PCL-PGMA)のストレイン-応力曲線(strain-stress curve)である、(B)は、常温(25℃)、体温(37℃)で比較例と実施例のヤング率(Young’s modulus)を比較したグラフである。37℃で引張強度の測定時に、比較例よりは実施例の方がゴムに近い(rubbery)性質があり、引張(elongation)が高く現れる(図7の(A))。また、実施例が比較例に比べて、25℃、37℃でヤング率が低く現れることによってゴムに近い(rubbery)長所があり、25℃、37℃でより変形しやすく、よって、体内の屈曲した部位に挿入した時に折れる現象が緩和され、異物感を減らすことができる(図7の(B))。
図8】本発明の4腕高分子物質の形状復元能を確認した写真である。55℃以上で原形(original shape)のサンプルを引っ張ったり折ったりして変形を与えた。変形されたサンプルを液体窒素で固定して臨時形態(temporary shape)を作った後、T値以上で熱をかけて形状記憶能があるかどうか確認した。4腕PCL-PGMAが臨時形態(temporary shape)から原形(original shape)によく復元されることを確認した。
図9】円筒状(Cylinder shape)及びY字状(Y-shape)の血管外壁ラッピング用機構を示す模式図と、各形態の機構が適用された部位において動脈(artery)、静脈(vein)、人工血管(graft)の配置を示す模式図である。各図は、動脈の側面と静脈の側面を連結した側面対側面モデル(side to side model)に適用された円筒状血管外壁ラッピング型機構(左上端)、動脈の側面と静脈の断面を連結した側面対断面モデル(side to end model)に適用されたY字状血管外壁ラッピング型機構(右上端)、静脈の側面と動脈の側面をそれぞれ人工血管の断面と連結した場合において、このうち、静脈の側面と人工血管の断面が連結された断面対側面モデル(end to side model)に適用されたY字状血管外壁ラッピング型機構(左下端)、及び動脈の側面と人工血管の断面が連結された断面対側面モデル(end to side model)に適用されたY字状血管外壁ラッピング型機構(右下端)を示す。
図10】3Dプリンタを用いた血管外壁ラッピング用機構のメッシュの形態及び大きさの調節を用いた製造模式図である。同図はそれぞれ、大円形メッシュ構造(A)、小円形メッシュ構造(B)、大四角形メッシュ構造(C)、小四角形メッシュ構造(D)を示す。
図11】3Dプリンタを用いた血管外壁ラッピング用機構の製造図案である。同図はそれぞれ、Y字状小円形メッシュ図案(A-上端)、円筒形小円形メッシュ図案(A-下端)、Y字状小四角形メッシュ図案(B-上端)、円筒形小四角形メッシュ図案(B-下端)を示す。
図12】ビーグル犬の大腿動脈と大腿静脈を用いて準備した動静脈瘻モデル(side-to-side)及び前記動静脈瘻モデルに血管外壁ラッピング型機構を装着した状態を示す模式図である。
図13】血管外壁ラッピング用機構を装着した場合と装着していない場合における血管吻合部位の組織学的分析(H&E staining)結果を示す。
図14】血管外壁ラッピング用機構装着の有無による平滑筋細胞の移動様相及び新生血管生成を確認するための、Flk-1とα-SMAの免疫染色を用いた共焦点レーザー走査顕微鏡観察結果及び定量的グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の要旨によって本発明の範囲がこれらの実施例に制限されないということは、当業界における通常の知識を有する者にとって明らかであろう。
【0054】
〔実施例〕
〔実施例1:化合物合成〕
3首丸底フラスコ(3-neck round bottom flask)にマグネチックバーを入れ、ペンタエリトリトール(pentaerythritol)(開始剤、0.5mmol、Sigma Aldrich)とビトロキノン(hydroquinone)(抑制剤,HQ 2.5mmol,Sigma Aldrich)を入れた。前記フラスコ入口を塞いで10分間真空をかけた後、50cc/minの速度で窒素パージング(purging)をした。精製されたε-カプロラクトン(ε-caprolactone)(単量体,CL 225mmol,Sigma Aldrich)を前記フラスコに20Gシリンジニードルで注入した。110℃で180rpmで10分間混合した。グリシジルメタクリレート(Glycidyl methacrylate)(単量体,GMA 25mmol,Sigma Aldrich)を20Gシリンジニードルで注入した。グリシジルメタクリレート注入10分後に1mLアセトニトリル(acetonitrile)(ACN,Sigma aldrich)に溶かした1,5,7-トリアザビシクロ(4.4.0)デカ-5-エン(1,5,7-Triazabicyclo(4.4.0)dec-5-ene)(TBD,触媒 2.5mmol,Sigma Aldrich)を20Gシリンジニードルで注入した(2.5mmol TBD/1mL ACN)。その後、フラスコを6時間110℃で反応させた。最終反応物を15mLクロロホルム(Chloroform)(Daejung chemicals & metals CO.,LTD.,Korea)に溶かした後、4℃の400mLコールドエチルエーテル(cold ethyl ether)(Daejung chemicals & metals CO.,LTD.,Korea)に沈殿させた。得られた沈殿物をフィルタリングして濾過後に真空乾燥させた。
【0055】
〔比較例1:対照化合物合成〕
3首丸底フラスコ(3-neck round bottom flask)にマグネチックバーを入れ、1,6-ヘキサンジオール(1,6-hexanediol)(開始剤,HD 0.5mmol,Sigma Aldrich)とビトロキノン(hydroquinone)(抑制剤,HQ 1mmol,Sigma Aldrich)を入れた。前記フラスコ入口を塞いで10分間真空をかけた後、50cc/minの速度で窒素パージング(purging)をした。精製されたε-カプロラクトン(ε-caprolactone)(単量体,CL 90mmol,Sigma Aldrich)を前記フラスコに20Gシリンジニードルで注入した。110℃で180rpmで10分間混合した。グリシジルメタクリレート(Glycidyl methacrylate)(単量体,GMA 10mmol,Sigma Aldrich)を20Gシリンジニードルで注入した。グリシジルメタクリレート注入10分後に、1mLアセトニトリル(acetonitrile)(ACN,Sigma Aldrich)に溶かした1,5,7-トリアザビシクロ(4.4.0)デカ-5-エン(1,5,7-Triazabicyclo(4.4.0)dec-5-ene)(TBD,触媒 1mmol,Sigma Aldrich)を20Gシリンジニードルで注入した(1mmol TBD/1mL ACN)。その後、フラスコを6時間110℃で反応させた。最終反応物を15mLクロロホルム(Chloroform)(Daejung chemicals & maetals Co.,LTD.,Korea)に溶かした後、4℃の400mLコールドエチルエーテル(cold ethyl ether)(Daejung chemicals & metals CO.,LTD.,Korea)に沈殿させた。得られた沈殿物をフィルタリングして濾過後に真空乾燥させた。
【0056】
共重合体合成のための原料配合に関して下記表1に示した。
【0057】
【表1】
【0058】
HD(1,6-hexanediol)とペンタエリトリトール(pentaerythritol)は開始剤(initiator)として用いられ、TBD(1,5,7-Triazabicyclo(4.4.0)dec-5-ene)は触媒(catalyst)、HQ(hydroquinone)は抑制剤(inhibitor)、CL(ε-caprolactone)とGMA(glycidyl methacrylate)は単量体(monomer)として用いられた。
【0059】
〔実施例2:化合物架橋〕
高分子をN-メチル-2-ピロリドン(N-Methyl-2-pyrrolidone)(NMP,Sigma Aldrich)に100w/v%の割合で溶かした。前記溶液にIrgacure 2959(光開始剤,Sigma Aldrich)を0.1w/v%の割合で入れた。その後、溶液をフィルム形態に、UVランプ(Omnicure S2000,Lumen Dynamics Group Inc.,Canada)を用いて架橋(265mW/cm、200s)させた。
【0060】
〔実施例3:構造分析(NMR測定)〕
高分子とクロロホルム-D(Sigma Aldrich)を10mg/mLの濃度でH-NMR(AVANCE III HD400,Bruker Biospin,USA)を用いて構造分析した。NMR測定結果は、図2に示す通りであった。
【0061】
δ=4.10[m,-OCH,(E)]、2.41[m,-CH,(A)]、1.74[m,-CH,(B及びD)]、1.45[m,-CH,(C)]でPCLピークを確認したし、δ=6.13[s,=CH,(G2)]、5.58[s,=CH,(G1)]、1.97[s,-CH3,(F)]でPGMAピークが確認されることにより、線形(linear)PCL-PGMA(A)と4腕(4-arm)PCL-PGMA(B)の合成がなされたことを確認した。
【0062】
〔実施例4:分子量分析(GPC)〕
比較例として、大韓民国登録特許第10-1906472号におけるPCL-co-PGMAのうち実施例1-1を使用した。
【0063】
高分子とテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)(THF,J.T.Baker)を5mg/mLの濃度にし、GPC(Gel permeation chromatography)をPLgel 5μm MIXED-Dカラム(Agilent Technologies Inc.,USA)で測定した。溶離剤(eluent)としてTHFを使用し、フロー速度(flow rate)は1mL/min、カラム温度は40℃の条件で測定した。スタンダードカーブ(standard curve)はPS(polystyrene)を使用した。
【0064】
分子量分析結果は図3及び下記表2に示した。
【0065】
【表2】
【0066】
図3に示すように、比較例に比べて実施例が、リテンションタイム(retention time)が大きい側にピークが出現したことから、分子量がより大きく現れたことがわかった。合成された高分子の分子量を確認するために測定したGPCデータを、前記表2に示した。比較例に比べて実施例において、2,300Da程度高く現れたし、PDI値が小さく現れることが確認できた。比較例に比べて実施例が、PDI値が1に近い値を示すことから、高分子チェーンの大きさがより一定に現れたことがわかる。
【0067】
〔実施例5:熱的特性分析(DSC)〕
熱的特性は、DSC(differential scanning calorimeter,Discovery DSC25,TA instrument Inc.,USA)を用いて測定した。サンプルは、-80℃から150℃までに10℃/minの速度で測定した。
【0068】
合成された高分子の架橋前のDSC測定データを、下記表3に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
結晶性高分子の結晶性が減少すると、溶融点(Tm)、溶融エンタルピー(Hm)、結晶化温度(Tc)、結晶化エンタルピー(Hc)が減少する。結晶性高分子であるPCLにPGMAがランダムに結合しながらPCLの結晶形成をPGMAが妨害することによって結晶性が減少し、比較例1に比べて比較例2及び実施例の溶融点(Tm)、溶融エンタルピー(Hm)、結晶化温度(Tc)、結晶化エンタルピー(Hc)が減少した。また、比較例2と実施例を比較すると、線形構造を有する比較例2に比べて、4腕の構造を有する実施例において結晶化が少なく起き、このような構造的相違によって溶融及び結晶化温度が低く現れた。実施例は、溶融及び結晶化温度が低く現れることにより、架橋後にさらに低い温度で形状復元され得るという利点がある。
【0071】
合成された高分子の架橋前後のDSC測定結果を下記表4に示す。
【0072】
【表4】
【0073】
合成された線形PCL-PGMAと4腕PCL-PGMAの架橋後のDSC測定結果は、下記表5及び図6に示した。
【0074】
【表5】
【0075】
高分子を架橋すると、PGMAにあるアクリロイル基(acryloyl group)が架橋点の役割をしながら高分子がネットワーク構造を有し、ネットワーク構造になる時にチェーン間を連結するブランチ(branch)が結晶を妨害して結晶性が減少し、架橋後にTm値がより減少する。実施例が4腕構造を有しながら表3のように結晶性が低くなり、溶融点(Tm)、溶融エンタルピー(Hm)、結晶化温度(Tc)、結晶化エンタルピー(Hc)が減少したし、架橋した後にさらに減少することを確認した。本発明の高分子化合物が線形高分子に比べて結晶性が減少しながらTm値が6℃程度低く現れ、よりも低い温度で形状復元され、体温で原形(original shape)への回復速度を上げることができる。また、体温で本発明の高分子化合物はTm値以上であるので、ゴムに近い(rubbery)状態で体内に挿入したとき、異物感を減らし得るという長所がある。
【0076】
〔実施例6:機械的特性分析(DMA)〕
フィルム形態に架橋されたサンプル(W~5mm×L~45mm×T~0.45mm)を、DMA(dynamic mechanical analysis,Discovery DMA850,TA instruments Inc.,USA)を用いて機械的物性を測定した。サンプルは、体温である37℃で10%/minの速度で190%ストレイン(strain)まで引張テストを行った。温度によるヤング率(Young’ modulus)を測定するために、それぞれ、25℃(常温)、37℃(体温)で10%/minの速度で190%ストレインまで引張試験を行った。
【0077】
引張強度実験結果は、下記表6及び図7に示す。
【0078】
【表6】
【0079】
37℃で比較例と実施例においてヤング率値が12MPa以上の差を示すので、比較例に比べて実施例はより容易に形状を変形させ得るという長所があり、ストレイン190%に引張させたとき、比較例では、平均121.31%で破綻されたが、実施例では190%でも破綻が見られなかった。したがって、37℃で実施した引張実験の結果、実施例が比較例に比べてゴムに近い(rubbery)性質が大きく、延伸率(elongation)が高く現れた。
【0080】
〔実施例7:形状復元能の確認〕
架橋したフィルムを55℃の水に入れて変形をかけた後、液体窒素に入れて固定し(temporary shape)、その後、Tm値以上の水に入れて形状復元(shape recovery)の有無を確認した。形状復元能の確認の結果、4腕形状記憶高分子は形状復元能があることを確認した(図8参照)。
【0081】
〔実施例8:哺乳動物を用いた動静脈瘻モデル(side-to-side)狭窄防止確認〕
〔8-1.動静脈瘻モデル準備〕
8~10kgのビーグル犬の大腿静脈(femoral vein)及び大腿動脈(femoral artery)の側面を略0.5cmで切開し、切開した部分を突き合わせて縫合糸を用いて縫合(side-to-side anastomosis)することで、静脈-動脈グラフト(vein to artery graft)モデルを作製した。臨時形態(temporary shape)の血管外壁ラッピング用機構を、吻合部位を含む血管に位置させ、40℃の食塩水(saline)を処理して既存のチューブ形状に復元させることによって吻合部位血管を包むようにした(図12 参照)。
【0082】
〔8-2.血管狭窄レベル及び長期開存率確認
血管外壁ラッピング用機構装着の有無による静脈グラフト(vein graft)の組織学的分析(H&E staining)によって血管の状態と大きさを確認した。
【0083】
その結果、血管外壁ラッピング用機構を装着していないグループは、静脈が塞がったり新生内膜(neointima)形成が多く進行されたりし、開通性が低下することが観察できたし、一方、血管外壁ラッピング用機構を装着したグループでは、新生内膜形成がほとんど進行されず、開通性が良いということを確認した(図13参照)。
【0084】
これにより、本発明の血管外壁ラッピング用機構が、動脈と静脈の血流差によって生じる渦流形成を抑制することによって、血管狭窄を防止し、長期開存率を向上させることを突き止めた。
【0085】
〔8-3.平滑筋細胞移動様相確認〕
内皮細胞マーカー(Flk-1)と平滑筋細胞マーカー(alpha smooth muscle actin,α-SMA)の免疫染色によって平滑筋細胞の移動様相を確認した。
【0086】
その結果、血管外壁ラッピング用機構を装着していないグループでは、平滑筋細胞の内膜移動が促進されて新生内膜が形成されることを確認したし、一方、血管外壁ラッピング用機構を装着したグループでは、平滑筋細胞が外膜方向に移動することによって、新生内膜形成が抑制され、新生外膜(neo-adventitia)が形成されることを確認した(参照:図14)。
【0087】
これにより、本発明の血管外壁ラッピング用機構を用いると、血管中間膜の平滑筋細胞が外膜方向に育つように誘導して血管内部の狭窄を防止し、動脈に比べてより物性の弱い静脈を補強するということを突き止めた。
【0088】
〔8-4.静脈移植片外部の新生脈管壁血管形成誘導確認〕
内皮細胞マーカー(Flk-1)と平滑筋細胞マーカー(alpha smooth muscle actin,α-SMA)の免疫染色によって新生血管生成を確認した。
【0089】
その結果、血管外壁ラッピング用機構を装着したグループでは、血管外膜において新生血管が比較的多く生成されたことを確認した(図14参照)。静脈-動脈グラフト(Vein to artery graft)モデル作製過程中に、静脈を剥離しながら血管外膜損傷及び脈管壁血管(vasa vasorum)消失によって血管壁に低酸素状態が誘導されることがあり、このような状態は血管内営養分及び酸素供給のアンバランスを起こして平滑筋細胞(smooth muscle cell,SMC)の内膜(intima)移動を促進することがあるため、新生内膜症を引き起こして血管狭窄の可能性を高め、よって、円滑な営養分及び酸素供給のために血管壁に新生脈管壁血管(neo-vasa vasorum)形成を誘導することが必要である。本発明の血管外壁ラッピング用機構を用いると、血管周辺に軽い炎症反応が誘導され、これによって新生血管形成が誘導され、生成された新生血管は営養分と酸素を供給する脈管壁血管(vasa vasorum)として働き、新生内膜症の発生及び血管狭窄を防止できることを突き止めた。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、体内で体温によって変形された形状から原形に復元可能な形状記憶高分子に関する。
図1
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