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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】偏心揺動型減速装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20240712BHJP
   F16H 55/06 20060101ALI20240712BHJP
【FI】
F16H1/32 A
F16H55/06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019105119
(22)【出願日】2019-06-05
(65)【公開番号】P2020197275
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2021-12-14
【審判番号】
【審判請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 友彦
(72)【発明者】
【氏名】岩本 信彦
【合議体】
【審判長】小川 恭司
【審判官】中屋 裕一郎
【審判官】尾崎 和寛
(56)【参考文献】
【文献】実開平2-56944(JP,U)
【文献】実開昭63-53036(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の偏心体を有する入力軸と、
前記複数の偏心体によってそれぞれ揺動される複数の外歯歯車と、
前記複数の偏心体と前記複数の外歯歯車との間に配置される偏心体軸受と、
前記入力軸を支持する入力軸軸受と、
を備える偏心揺動型減速装置であって、
前記複数の外歯歯車は樹脂から構成され、
互いに隣接する前記入力軸軸受及び前記偏心体軸受並びに当該偏心体軸受に支持される前記外歯歯車について、
前記入力軸軸受の外半径は、前記偏心体軸受の最小偏心方向の外周点から前記入力軸の回転軸までの長さより大きく、
前記外歯歯車を荷重たわみ温度に熱した状態で、前記入力軸軸受の外半径が、前記外歯歯車の内半径から前記偏心体軸受の偏心量を引いた長さよりも小さい、
偏心揺動型減速装置。
【請求項2】
前記偏心体軸受と前記入力軸軸受との軸方向における間隔が、前記外歯歯車の軸方向における幅よりも小さい、
請求項1記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項3】
前記入力軸及び前記複数の偏心体は樹脂から構成された一体成形品である、
請求項1又は請求項2に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項4】
前記入力軸軸受を介して前記入力軸を支持する支持部材を備え、
前記入力軸、前記入力軸軸受及び前記偏心体軸受を互いに分離させずに、前記入力軸から前記複数の外歯歯車と前記支持部材とを分離可能に構成されている、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項5】
前記入力軸は、前記支持部材により前記偏心体軸受の軸方向一方側で片持ち支持されている、
請求項4に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項6】
前記入力軸軸受は、前記支持部材の外側から固定部材により前記支持部材に対して固定される、
請求項4に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項7】
複数の偏心体を有する入力軸と、前記複数の偏心体によってそれぞれ揺動される樹脂から構成される複数の外歯歯車と、前記複数の偏心体と前記複数の外歯歯車との間にそれぞれ配置される複数の偏心体軸受と、前記入力軸を支持する入力軸軸受と、を備える偏心揺動型減速装置の製造方法であって、
前記入力軸に前記入力軸軸受と前記複数の偏心体軸受とを嵌める高速部組立工程と、
前記高速部組立工程の後に前記複数の偏心体軸受に前記複数の外歯歯車をそれぞれ嵌める減速部組付工程と、
を含み、
互いに隣接する前記入力軸軸受及び前記偏心体軸受並びに当該偏心体軸受に支持される前記外歯歯車について、
前記入力軸軸受の外半径は、前記偏心体軸受の最小偏心方向の外周点から前記入力軸の回転軸までの長さより大きく、
前記外歯歯車を荷重たわみ温度に熱した状態で、前記入力軸軸受の外半径が、前記外歯歯車の内半径から前記偏心体軸受の偏心量を引いた長さよりも小さい、
偏心揺動型減速装置の製造方法。
【請求項8】
前記減速部組付工程は、
前記複数の外歯歯車の1つを前記入力軸の第1端部側から前記複数の偏心体軸受の前記第1端部側の1つに嵌める工程と、を含み、
前記複数の外歯歯車のもう1つを前記第1端部とは逆の前記入力軸の第2端部側から前記複数の偏心体軸受の前記第2端部側の1つに嵌める工程と、
前記減速部組付工程の後に、前記複数の外歯歯車の運動に同期するキャリアを含んだ低速部を、前記外歯歯車に組み合わせる低速部組付工程を、更に含む請求項7記載の偏心揺動型減速装置の製造方法。
【請求項9】
前記高速部組立工程の後で、かつ、前記複数の偏心体軸受のうち少なくとも前記入力軸軸受に隣接する偏心体軸受に前記外歯歯車を嵌めた後、支持部材を組み込んで、前記支持部材に前記入力軸軸受を支持させる入力軸軸受支持工程を更に含む請求項7又は請求項8記載の偏心揺動型減速装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心揺動型減速装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数の外歯歯車が揺動して回転運動を減速させる偏心揺動型減速装置が示されている。入力軸には偏心体が固定され、偏心体に偏心体軸受を介して複数の外歯歯車が組付けられている。複数の外歯歯車は、異なる位相で揺動し、最も偏心した側が内歯歯車と噛合する。さらに、複数の外歯歯車は、軸心からオフセットされた位置に内ピン孔を有する。複数の外歯歯車の内ピン孔は一部同士が重なり、かつ、重なった部分に具合良く内ピンが通るように、外歯歯車の回転方向の位置が合わせられている。内ピンはキャリアに支持され、内ピンを介して複数の外歯歯車の自転運動がキャリアに伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-197157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、偏心揺動型減速装置の各部品は、金属から構成され、大きな重量及び高い剛性を有していた。さらに、上述したように、複数の外歯歯車を入力軸に組み付ける際には、内ピン孔の重なり部分に内ピンが具合よく通るよう、外歯歯車の回転方向の微妙な位置合せを必要としていた。このため、外歯歯車を組み付ける際には、次に示すような、一様で自由度の少ない手順が採用されるのが通常であった。
【0005】
すなわち、従来の組付け方法では、先ず、入力軸に、第1端部側から1つの外歯歯車を挿入し、この外歯歯車と入力軸との間に偏心体軸受を嵌めこむ。偏心体軸受よりも反対側(第2端部側)に、入力軸軸受が必要な場合には、この入力軸軸受を先に嵌め込んでおく。これらの組み込みの際、例えば、入力軸は、第1端部側を上方にして鉛直に立てられ、大きな重量の外歯歯車は吊られた状態で、上方から組付けられる。続いて、入力軸の第1端部側から次の外歯歯車を挿入し、この外歯歯車と入力軸との間に偏心体軸受を嵌め込む。さらに、第1端部側に入力軸軸受が必要な場合には、最後に、入力軸の同一側(第1端部側)から入力軸軸受を嵌め込む。複数の外歯歯車を組み付ける前に、内歯歯車が複数の外歯歯車と噛合するように組み付けられる場合もある。このように、従来の偏心揺動型減速装置の組付け方法では、外歯歯車を挿入した後に、第1端部側の入力軸軸受を組み付ける必要があり、組立の自由度が低かった。
【0006】
本発明は、組立自由度が高い偏心揺動型減速装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る偏心揺動型減速装置は、
複数の偏心体を有する入力軸と、
前記複数の偏心体によってそれぞれ揺動される複数の外歯歯車と、
前記複数の偏心体と前記複数の外歯歯車との間に配置される偏心体軸受と、
前記入力軸を支持する入力軸軸受と、
を備える偏心揺動型減速装置であって、
前記複数の外歯歯車は樹脂から構成され、
互いに隣接する前記入力軸軸受及び前記偏心体軸受並びに当該偏心体軸受に支持される前記外歯歯車について、
前記入力軸軸受の外半径は、前記偏心体軸受の最小偏心方向の外周点から前記入力軸の回転軸までの長さより大きく、
前記外歯歯車を荷重たわみ温度に熱した状態で、前記入力軸軸受の外半径が、前記外歯歯車の内半径から前記偏心体軸受の偏心量を引いた長さよりも小さ構成とした。
本発明に係る偏心揺動型減速装置の製造方法は、
複数の偏心体を有する入力軸と、前記複数の偏心体によってそれぞれ揺動される樹脂から構成される複数の外歯歯車と、前記複数の偏心体と前記複数の外歯歯車との間にそれぞれ配置される複数の偏心体軸受と、前記入力軸を支持する入力軸軸受と、を備える偏心揺動型減速装置の製造方法であって、
前記入力軸に前記入力軸軸受と前記複数の偏心体軸受とを嵌める高速部組立工程と、
前記高速部組立工程の後に前記複数の偏心体軸受に前記複数の外歯歯車をそれぞれ嵌める減速部組付工程と、
を含み、
互いに隣接する前記入力軸軸受及び前記偏心体軸受並びに当該偏心体軸受に支持される前記外歯歯車について、
前記入力軸軸受の外半径は、前記偏心体軸受の最小偏心方向の外周点から前記入力軸の回転軸までの長さより大きく、
前記外歯歯車を荷重たわみ温度に熱した状態で、前記入力軸軸受の外半径が、前記外歯歯車の内半径から前記偏心体軸受の偏心量を引いた長さよりも小さ
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、偏心揺動型減速装置において高い組立自由度が得られるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態1の偏心揺動型減速装置を示す断面図である。
図2図1の偏心揺動型減速装置の内部を軸方向から見た図である。
図3図1の偏心体軸受と入力軸軸受との関係を説明する図である。
図4図1の偏心揺動型減速装置の組立工程を説明する図である。
図5図1の偏心揺動型減速装置の組立工程を説明する図である。
図6図1の偏心揺動型減速装置の組立工程を説明する図である。
図7図1の偏心揺動型減速装置の組立工程を説明する図である。
図8】本発明の実施形態2の偏心揺動型減速装置を示す断面図である。
図9図8の偏心揺動型減速装置の組み立て手順を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態の偏心揺動型減速装置を示す断面図である。図2は、図1の偏心揺動型減速装置の内部を軸方向から見た図である。図2は、図1の矢印A-A線における一部断面図である。本明細書では、偏心揺動型減速装置1の回転軸O1に沿った方向を軸方向、回転軸O1から垂直な方向を径方向、回転軸O1を中心とする回転方向を周方向と定義する。また、軸方向における入力軸12が露出する方向(図1の右方)を入力側、キャリア20が露出する方向(図2の左方)を負荷側と呼ぶ。
【0012】
実施形態1の偏心揺動型減速装置1は、第1偏心体12b及び第2偏心体12cを有する入力軸12と、第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16と、第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16と噛合する内歯歯車18と、内ピン20bを有するキャリア20とを備える。さらに、偏心揺動型減速装置1は、第1カバー22、第2カバー(本発明に係る支持部材の一例に相当)24、第3カバー26、偏心体軸受31、32、キャリア軸受34、35及び入力軸軸受37、38を備える。
【0013】
入力軸12は、回転軸O1を中心軸とする軸部12aと、回転軸O1から偏心して設けられた第1偏心体12b及び第2偏心体12cとを有する。第1偏心体12b及び第2偏心体12cは、回転軸O1に垂直な断面が円形であり、入力軸12が回転することで互いに異なる位相で偏心回転する。
【0014】
入力軸12は、軸部12a、第1偏心体12b及び第2偏心体12cを含めて、例えば、樹脂材料から構成された一体成形品である。樹脂材料から構成する場合、一体成形品とすることで、各部間の高い強度が得られる。樹脂材料としては、例えば、FRP(Fiber-Reinforced Plastic)、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)などを適用できる。しかし、これらに限られず、樹脂材料として紙ベーク材又は布ベーク材などの様々な樹脂材料が適用されてもよい。
【0015】
なお、入力軸12は、樹脂材料から構成されるほか、一部又は全部が金属から構成されてもよく、また、複数の部分が別体に形成され、互いに連結された構成としてもよい。金属材料としては、アルミ、アルミ合金、マグネシウム合金など、鉄より比重の低い金属を適用してもよいし、鉄系の金属を適用してもよい。
【0016】
第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16は、樹脂材料から構成される。樹脂材料の具体例は上述したものと同様である。第1外歯歯車14は、第1偏心体12bに偏心体軸受31を介して組み込まれ、入力軸12が回転することで揺動する。第2外歯歯車16は、第2偏心体12cに偏心体軸受32を介して組み込まれ、入力軸12が回転することで、第1外歯歯車14と異なる位相で揺動する。
【0017】
偏心体軸受31、32は、例えば玉軸受であり、内輪、転動体及び外輪を有する。偏心体軸受31、32は、内輪、外輪、又はこれら両方が省略された構成としてもよく、玉軸受以外の様々な種類の軸受が採用されてもよい。
【0018】
第1外歯歯車14には、内ピン20bがそれぞれに通される複数の内ピン孔14hが、径方向にオフセットされ、かつ、互いに周方向に離間して設けられている(図1及び図2を参照)。同様に、第2外歯歯車16には、内ピン20bがそれぞれに通される複数の内ピン孔16hが、径方向にオフセットされ、かつ、互いに周方向に離間して設けられている。第1外歯歯車14の内ピン孔14hと、第2外歯歯車16の内ピン孔16hとは、一部が重なるように配置され、重なった部分に内ピン20bが通される。内ピン20bは、第1外歯歯車14の内ピン孔14hの例えば最小偏心方向の内周面と接触し、かつ、第2外歯歯車16の内ピン孔16hの例えば最小偏心方向の内周面と接触するように、内ピン孔14h、16hに通されている。第1外歯歯車14と第2外歯歯車16とは、その間にサシワ28が配置され、間隔が設けられている。
【0019】
内歯歯車18は、第1外歯歯車14の最大偏心方向にある外歯、並びに、第2外歯歯車16の最大偏心方向にある外歯と噛合する。内歯歯車18は、樹脂材料から構成されるが、金属から構成されてもよい。樹脂材料及び金属材料の具体例は上述したものと同様である。
【0020】
キャリア20は、内ピン20bを介して第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16と接続され、第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16の自転運動と同期して回転運動する。キャリア20は、回転軸O1を中心軸とする軸部20aを更に有する。軸部20a及び複数の内ピン20bを有するキャリア20は、樹脂材料から構成された一体成形品であるが、一部又は全部が金属から構成されてもよいし、複数の部分が別体に形成され、互いに連結された構成としてもよい。樹脂材料から構成する場合、一体成形品とすることで、各部間の高い強度が得られる。樹脂材料及び金属材料の具体例は上述したものと同様である。
【0021】
第1カバー22は、内歯歯車18、第1外歯歯車14、第2外歯歯車16及び内ピン20bの軸方向の一方(負荷側)を覆い、第2カバー24はこれらの軸方向の他方(入力側)を覆う。第1カバー22、第2カバー24及び内歯歯車18は、連結部材Bを介して連結される。
【0022】
第1カバー22は、キャリア軸受34、35を介してキャリア20の軸部20aを回転自在に支持する。第3カバー26は、軸方向の一方(負荷側)において、ネジnaを介して第1カバー22に固定され、キャリア軸受34、35の軸方向の一方(負荷側)を覆う。
【0023】
キャリア軸受34、35は、例えば玉軸受であり、内輪、転動体及び外輪を有する。キャリア軸受34、35は、内輪、外輪、又はこれら両方が省略された構成としてもよく、玉軸受以外の様々な種類の軸受が採用されてもよい。
【0024】
第2カバー24は、入力軸軸受37、38を介して入力軸12の軸部12aを回転自在に支持する。入力軸軸受38は、第2カバー24のネジ孔に螺着されたプレッシャスクリューnbから軸方向に圧力が加えられて固定されている。
【0025】
入力軸軸受37、38は、例えば玉軸受であり、内輪、転動体及び外輪を有する。入力軸軸受37、38は、内輪、外輪、又はこれら両方が省略された構成としてもよく、玉軸受以外の様々な種類の軸受が採用されてもよい。
【0026】
第1カバー22、第2カバー24、第3カバー26は、樹脂材料から構成されるが、これらのうち一部又は全部が金属から構成されてもよい。樹脂材料及び金属材料の具体例は上述したものと同様である。
【0027】
ネジna、プレッシャスクリューnb、連結部材B、偏心体軸受31、32、キャリア軸受34、35及び入力軸軸受37、38は、金属から構成されるが、これらも上述した樹脂材料から構成されてもよい。
【0028】
<動作説明>
外部から動力が伝達されて入力軸12が回転すると、第1偏心体12b及び第2偏心体12cが偏心回転し、これに伴って、第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16が、例えば180度の位相差で揺動する。2つの外歯歯車(第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16)があることで、力の伝達容量を増大できる。さらに、第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16が互いに180度の位相差で揺動することで、偏心揺動型減速装置1の重心変動が小さく抑えられる。
【0029】
第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16は、内歯歯車18に内接噛合しており、内歯歯車18は第1カバー22及び第2カバー24と連結されている。このため、第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16は、入力軸12が1回転するごとに、内歯歯車18に対して歯数差分だけ相対回転(自転)する。第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16の自転成分は、内ピン20bを介してキャリア20に伝達される。その結果、入力軸12の回転運動が、1/(第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16の共通の歯数)の減速比で減速されて、キャリア20の軸部20aに出力される。
【0030】
<偏心体軸受及び入力軸軸受の関係>
図3は、図1の偏心体軸受と入力軸軸受との関係を説明する図である。図3は、入力軸12に偏心体軸受31、32及び入力軸軸受37、38が組み付けられている一方、第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16が組付け前である状態を示している。図3は、第1偏心体12bが最も紙面上方に偏心し、第2偏心体12cが最も紙面下方に偏心した回転位置を示している。
【0031】
偏心体軸受31、32は、例えば内輪同士、又は外輪同士が接触するように配置される。これにより偏心揺動型減速装置1の軸方向の短縮化が図られ、かつ、運転時において第1外歯歯車14と第2外歯歯車16との揺動により入力軸12に生じる荷重のバランスが良好に保たれる。なお、偏心体軸受31、32は、軸方向に間隔を開けて配置されてもよいが、これらの間隔は第1外歯歯車14又は第2外歯歯車16の軸方向の幅寸よりも小さくされる。
【0032】
入力軸軸受37、38は、両方とも、偏心体軸受31、32よりも軸方向の一方に配置される。すなわち、入力軸12は、偏心体12b、12cよりも片側で第2カバー24に支持される(「片持ち支持」と言う)。片持ち支持により、入力軸12を第2カバー24に挿入する際に、規定位置まで入力軸12を挿入しやすいという利点が得られる。
【0033】
偏心体軸受32に隣接する入力軸軸受37は、例えばスペーサ51を介することで、偏心体軸受32との間に間隔を開けて配置される。この間隔の軸方向長さは、第2外歯歯車16の軸方向の幅寸よりも小さい。これにより偏心揺動型減速装置1の軸方向の短縮化が図られる。
【0034】
入力軸軸受37の外半径l1は、荷重たわみ温度における第2外歯歯車16の内半径βから偏心体軸受32の偏心量αを引いた長さよりも小さい。偏心体軸受32の偏心量αとは、偏心体軸受32が嵌合される偏心体12cの偏心量αに相当する。本明細書において荷重たわみ温度とは、JIS7191(日本工業規格7191)のB法に定められた試験法で、試料の温度を上げていき、たわみの大きさが一定の値になる温度と定義される。
【0035】
まず、荷重たわみ温度における樹脂の膨張の作用を無視した場合について説明する。この場合、第2外歯歯車16の内半径βから偏心量αを減じた長さl2=β-αは、偏心体軸受32の最小偏心方向の外周点Xから回転軸O1までの長さに相当する。仮に図3とは逆で、長さl2が外半径l1より短い場合(l2<l1)、入力軸12に嵌め込まれた入力軸軸受37と偏心体軸受32とを軸方向から見ると、偏心体軸受32の最小偏心方向の外周点Xは、入力軸軸受37に隠れて見えない。したがって、この状態で、第2外歯歯車16を入力軸12に沿って矢印Y1の方へ移動させても、入力軸軸受37が干渉して、第2外歯歯車16を偏心体軸受32へ嵌め込むことができない。しかし、図3のように、長さl2を外半径l1以上とすると(l2≧l1)、入力軸軸受37の干渉を無くして、第2外歯歯車16を偏心体軸受32の箇所まで移動させ、第2外歯歯車16を偏心体軸受32に嵌め込むことができる。長さl2≧外半径l1とは、外半径l1が内半径βから偏心量αを引いた長さ(β-α)よりも小さいことを意味する。
【0036】
すなわち、図3のような寸法を採用することで、入力軸12に入力軸軸受37、38と、偏心体軸受31、32を先に組み込み、その後、これらに、第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16を組み込むことが可能となる。
【0037】
次に、荷重たわみ温度における樹脂の膨張の作用を考慮した場合について説明する。第2外歯歯車16は樹脂であるため、組込み時に耐熱温度以下に熱することで、熱膨張により偏心体軸受32が嵌まる中央貫通孔の径を、長さδの程度、大きくすることができる。このため、l2=l1である場合に、第2外歯歯車16を組み込むと、長さδだけ余裕が生じる。したがって、長さl2に長さδを加算した長さよりも、外半径l1が小さければ、入力軸軸受37の干渉を無くして、加熱された第2外歯歯車16を偏心体軸受32に嵌め込むことが可能となる。言い換えれば、入力軸軸受37の外半径l1は、荷重たわみ温度にしたときの第2外歯歯車16の内半径βから偏心体軸受32の偏心量αを引いた長さよりも小さければ、入力軸軸受37の干渉を無くして、第2外歯歯車16を偏心体軸受32に嵌め込むことが可能となる。
【0038】
仮に各部品が金属から構成され、大きな重量及び高い剛性を有する場合、各外歯歯車、入力軸及び偏心体軸受を組み付ける際には、「発明が解決するための課題」の項目に示したように、一様で自由度の少ない手順を採用する必要がある。しかし、本実施形態では、第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16が樹脂により構成され、軽量さと柔軟性とを有している。このため、従来の自由度の少ない手順に縛られることなく、これらを組み付ける順番及びこれらを組み付ける際の構成の向き及び姿勢に自由度が生じる。さらに、上述した径方向の寸法の関係(l1≦β-α)があることで、上述のような高効率な部品の組付けが実現可能となる。
【0039】
なお、上記の例では、隣接する入力軸軸受37と偏心体軸受32との間隔を、第2外歯歯車16の軸方向における幅よりも短くする構成を示した。この場合、径方向の寸法の関係(l1≦β-α)が無いと、第2外歯歯車16を後から組み込むことが不可能となる。一方、隣接する入力軸軸受37と偏心体軸受32との間隔が、第2外歯歯車16の軸方向における幅よりも長い場合には、径方向の寸法の関係(l1≦β-α)が無くても、軸受間の間隔を利用して、第2外歯歯車16を後から組み込むことが可能である。しかし、この場合でも、径方向の寸法の関係(l1≦β-α)を満たしていれば、第2外歯歯車16の回転方向の微妙な位置合せを、偏心体軸受32よりも遠くにある段階で完了させておき、そのまま、第2外歯歯車16を軸方向に平行移動させ、入力軸軸受37、38を超えて偏心体軸受32に嵌め込むといった、良好な作業性が得られるという効果が得られる。
【0040】
<組立方法>
図4から図7は、図1の偏心揺動型減速装置の組立工程を説明する図である。
【0041】
本発明の実施形態の偏心揺動型減速装置1の製造方法は、図4(B)に示すように、高速部71を組み立てる高速部組立工程を含む。高速部71とは、偏心体12b、12cを有する入力軸12に、入力軸軸受37、38及び偏心体軸受31、32を組み込んだ構成部分に相当する。
【0042】
さらに、実施形態の製造方法は、図4(A)に示すように、低速部73を組み立てる低速部組立工程を含む。低速部73とは、キャリア20、キャリア軸受34、35、第1カバー22及び第3カバー26が相互に組み付けられた構成部分に相当するが、第3カバー26は省略されてもよい。
【0043】
さらに、実施形態の製造方法は、図5及び図6に示すように、高速部組立工程の後に第2外歯歯車16、サシワ28、第1外歯歯車14、内歯歯車18、第2カバー24を、高速部71に組み込む減速部組込工程を含む。減速部75は、第1外歯歯車14、第2外歯歯車16、内歯歯車18、サシワ28及び第2カバー24を含み、減速作用を及ぼす構成部分に相当する。減速部75の構成要素としては、サシワ28及び第2カバー24が省略されてもよい。減速部組込工程により、高速部71に減速部75が組付けられた構成が得られる。
【0044】
減速部組込工程においては、第2外歯歯車16は入力軸12の入力側(図中右側)から通されて偏心体軸受32に嵌め込まれる(図5)。さらに、第1外歯歯車14は入力軸12の負荷側(図中左側)から通されて偏心体軸受31に嵌め込まれる(図6)。第2カバー24は、第2外歯歯車16が組み込まれた後、第1外歯歯車14と内歯歯車18とが組み込まれる前に、組み込まれてもよいし、その後に組み込まれてもよい。内歯歯車18は、第1外歯歯車14が組み込まれるよりも前に、あるいは第1外歯歯車14の組込みと並行して組み込まれてもよい。これにより、第1外歯歯車14と第2外歯歯車16との回転方向の位置合せを容易にできる。
【0045】
さらに、実施形態の製造方法は、図7に示すように、互いに組付けられた高速部71及び減速部75に、低速部73を組み付ける低速部組付工程を含む。低速部組付工程は、低速部73を組み立てた後に、低速部73を高速部71及び減速部75に組み付ける態様としても良いし、高速部71及び減速部75に、キャリア20を組付け、その後、キャリア軸受34、35と第1カバー22とを組み付ける態様としてもよい。
【0046】
低速部73、高速部71及び減速部75を組み合わせたら、連結部材B(図1参照)により、第1カバー22、第2カバー24及び内歯歯車18を連結することで、偏心揺動型減速装置1の組み立てが完了する。
【0047】
以上のように、本実施形態の偏心揺動型減速装置1によれば、入力軸軸受37の外半径l1が、荷重たわみ温度における第2外歯歯車16の内半径βから偏心体軸受32の偏心量αを引いた長さよりも小さい。このような構成により入力軸12に予め入力軸軸受37と偏心体軸受32を嵌め込んだ後に、この構成に第2外歯歯車16を容易に組み込むことが可能となる。これにより、入力軸12への入力軸軸受37及び偏心体軸受32の組み込みを先に行っておくことができるので、効率的な部品の組付けが可能となる。例えば、入力軸12に入力軸軸受37、38及び偏心体軸受31、32を嵌め込む際には、内輪を押し込むプレス処理が必要であるが、そのときに、大きな部品(第1外歯歯車14、第2外歯歯車16等)が付いていると、プレス処理が繁雑になる。しかし、大きな部品がないことでプレス処理が容易になる。さらに、軸受をまとめて取り付ける工程により、部品の取り間違いを抑制することができる。
【0048】
さらに、本実施形態の偏心揺動型減速装置1によれば、偏心体軸受32と入力軸軸受37との軸方向における間隔が、第2外歯歯車16の軸方向における幅よりも小さい。これにより、偏心揺動型減速装置1の軸方向の寸法の縮小化を図れる。さらに、運転時に入力軸軸受37、38が支持する荷重のバランスもより良好にできる。さらに、この構造では、上記の入力軸軸受37と偏心体軸受32との径方向の寸法の条件が無いと、第2外歯歯車16を後から組み込むことができなくなる。したがって、上記の径方向の寸法の条件が特に有効となる。
【0049】
さらに、本実施形態の偏心揺動型減速装置1によれば、入力軸12は複数の偏心体12b、12cと軸部12aとが樹脂材料から構成される一体成形品であるため、偏心揺動型減速装置1の軽量化と、入力軸12の強度の向上との両方を図ることができる。
【0050】
さらに、本実施形態の偏心揺動型減速装置1によれば、外歯歯車の数が、第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16の2つである。したがって、入力軸12に偏心体軸受31、32及び入力軸軸受37、38を組み込んだ後に、全ての外歯歯車(第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16)を組み込むことができる。これにより、より効率的な組立工程を採用できる。
【0051】
さらに、本実施形態の偏心揺動型減速装置1によれば、入力軸12から偏心体軸受31、32及び入力軸軸受37、38を分離させずに、高速部71を第2カバー24、第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16と分離することができる。したがって、例えば第1外歯歯車14又は第2外歯歯車16を交換する際の作業工程を少なくできる。
【0052】
本発明の実施形態の偏心揺動型減速装置1の製造方法によれば、入力軸12に入力軸軸受37、38と偏心体軸受31、32とを嵌めて高速部71を組み立てる高速部組立工程が含まれる。さらに、実施形態の製造方法には、高速部組立工程の後に偏心体軸受31、32に第1外歯歯車14と第2外歯歯車16とを嵌める減速部組付工程が含まれる。このような方法により、軸受のプレス処理の際に、周囲に大きな部品(第1外歯歯車14、第2外歯歯車16など)が存在しない状態で、軸受のプレス処理が可能となるという作業効率の向上を図れる。さらに、軸受をまとめて取り付けられるので部品の取り間違いを抑制できるという作業効率の向上を図れる。
【0053】
さらに、本発明の実施形態の偏心揺動型減速装置1の製造方法によれば、第1外歯歯車14は入力軸12の負荷側から組み込まれ、第2外歯歯車16は入力軸12の入力側から組み込まれる。このような方法により、隣接する一対の偏心体軸受31、32の間隔が小さい場合でも、第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16の組付けが可能となる。
【0054】
さらに、本発明の実施形態の偏心揺動型減速装置1の製造方法によれば、第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16が組み込まれた後に、キャリア20を含んだ低速部73を高速部71及び減速部75に組み込む低速部組付工程が含まれる。このような製造方法によれば、キャリア20と第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16との内ピン20bを介した接続を容易に図ることができる。
【0055】
(実施形態2)
図8は、本発明の実施形態2に係る偏心揺動型減速装置を示す断面図である。実施形態2に係る偏心揺動型減速装置1Aは、入力軸軸受37A、38Aの一方と他方とが、偏心体軸受31、32の軸方向の両側に配置された、両持ち支持の構成例である。実施形態1と同様の構成要素は、同一符号を付して詳細な説明を省略する。入力軸12は、入力軸軸受37Aを介して負荷側をキャリア20Aに支持され、入力軸軸受38Aを介して入力側を第2カバー24Aに支持されている。キャリア20Aは、第1カバー22Aにキャリア軸受34Aを介して支持されている。第1カバー22Aと内歯歯車18Aが一体化されているが、これらは別体に設けられ、互いに連結される構成としてもよい。
【0056】
第1外歯歯車14、第2外歯歯車16、キャリア20A、第1カバー22A、内歯歯車18A、第2カバー24A、入力軸12は、樹脂から構成される。
【0057】
このような構成において、隣接する入力軸軸受37A及び偏心体軸受31の軸方向の間隔及び径方向の寸法の関係は、実施形態1の入力軸軸受37及び偏心体軸受32の軸方向の間隔及び径方向の寸法の関係と同様である。同様に、隣接する入力軸軸受38A及び偏心体軸受32の軸方向の間隔及び径方向の寸法の関係は、実施形態1の入力軸軸受37及び偏心体軸受32の軸方向の間隔及び径方向の寸法の関係と同様である。
【0058】
図9は、図8の偏心揺動型減速装置の組み立て手順を説明する図である。
【0059】
実施形態2のように入力軸12が両持ち支持される構成においても、図8に示すように、入力軸12に入力軸軸受37A、38Aと偏心体軸受31、32とを組み込んで、高速部71を組み立てる高速部組立工程と、高速部組立工程の後に高速部71に第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16を組み込む工程とを含んだ製造方法を採用できる。さらに、その後、高速部71と第1外歯歯車14及び第2外歯歯車16とが組み込まれた構成に、キャリア20Aを有する低速部73を組み付ける工程を含んだ製造方法を採用できる。
【0060】
以上、本発明の各実施形態について説明した。しかし、本発明は上記の実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、外歯歯車の数を2つとした構成を示したが、外歯歯車は1つであっても良いし、3つ以上であってもよい。3つ以上の場合には、高速部に両側の2つの外歯歯車を除いた1つ以上の外歯歯車を予め組み込んでおけばよい。この場合でも、両側の2つの外歯歯車を後から組み込むことができるので、その分、組立の作業性が向上する。その他、実施の形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0061】
1、1A 偏心揺動型減速装置
12 入力軸
12b、12c 偏心体
14 第1外歯歯車
14h 内ピン孔
16 第2外歯歯車
16h 内ピン孔
18 内歯歯車
20 キャリア
20b 内ピン
22 第1カバー
24 第2カバー
26 第3カバー
31、32 偏心体軸受
34、35 キャリア軸受
37、38 入力軸軸受
71 高速部
73 低速部
75 減速部
O1 回転軸
l1 入力軸軸受の外半径
α 偏心体軸受の偏心量
β 荷重たわみ温度における第2外歯歯車の内半径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9