(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】異常判断装置、異常判断プログラム、及びコンピュータ読取可能な記録媒体
(51)【国際特許分類】
G08B 21/02 20060101AFI20240712BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20240712BHJP
【FI】
G08B21/02
A61B5/00 102A
(21)【出願番号】P 2020078876
(22)【出願日】2020-04-28
【審査請求日】2023-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】513221271
【氏名又は名称】矢作 尚久
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】矢作 尚久
【審査官】田畑 利幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-012366(JP,A)
【文献】特開平09-238911(JP,A)
【文献】特表2013-530776(JP,A)
【文献】特開2019-138785(JP,A)
【文献】特表2015-510780(JP,A)
【文献】特表2022-539525(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08B 19/00-31/00
A61B 5/00- 5/01
A61B 5/02- 5/03
A61B 5/06- 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者に対して取り付けられた加速度センサからの信号に基づいて対象者の異常を判断する異常判断装置であって、
脳梗塞及び心筋梗塞の少なくとも一方の緊急疾患
時に対象者が行ってしまう動作に関する加速度の変化の傾向を疾患傾向として記憶した第1記憶手段と、
前記加速度センサにより得られた加速度の変化が、前記第1記憶手段により記憶された疾患傾向に合致するか否かを判断する傾向判断手段と、
前記傾向判断手段により疾患傾向に合致すると判断された場合に、対象者に緊急疾患の異常が発生したと判断する疾患判断手段と、
を備えることを特徴とする異常判断装置。
【請求項2】
対象者に対して取り付けられた加速度センサからの信号に基づいて対象者の異常を判断する異常判断装置であって、
脳梗塞の緊急疾患に関する加速度の変化の傾向を疾患傾向として記憶した第1記憶手段と、
前記加速度センサにより得られた加速度の変化が、前記第1記憶手段により記憶された疾患傾向に合致するか否かを判断する傾向判断手段と、
前記傾向判断手段により疾患傾向に合致すると判断された場合に、対象者に緊急疾患の異常が発生したと判断する疾患判断手段と、を備え、
前記第1記憶手段は
、初期における、対象者の左又は右方向に上昇及び下降を繰り返す加速度の推移と、終期における、初期的な加速度の最大値よりも大きい加速度とが表された加速度の変化とを、当該疾患傾向として記憶する
ことを特徴とする異常判断装置。
【請求項3】
対象者に対して取り付けられた加速度センサからの信号に基づいて対象者の異常を判断する異常判断装置であって、
心筋梗塞の緊急疾患に関する加速度の変化の傾向を疾患傾向として記憶した第1記憶手段と、
前記加速度センサにより得られた加速度の変化が、前記第1記憶手段により記憶された疾患傾向に合致するか否かを判断する傾向判断手段と、
前記傾向判断手段により疾患傾向に合致すると判断された場合に、対象者に緊急疾患の異常が発生したと判断する疾患判断手段と、を備え、
前記第1記憶手段は
、初期及び終期における、対象者の下方向に上昇を示す加速度と、初期及び終期の間となる中期における、初期及び終期の加速度のそれぞれ最大値よりも小さい加速度が表された加速度の変化とを、当該疾患傾向として記憶する
ことを特徴とする異常判断装置。
【請求項4】
対象者に対して取り付けられた加速度センサからの信号に基づいて対象者の異常を判断する異常判断装置であって、
脳梗塞及び心筋梗塞の少なくとも一方の緊急疾患に関する加速度の変化の傾向を疾患傾向として記憶した第1記憶手段と、
前記加速度センサにより得られた加速度の変化が、前記第1記憶手段により記憶された疾患傾向に合致するか否かを判断する傾向判断手段と、
前記傾向判断手段により疾患傾向に合致すると判断された場合に、対象者に緊急疾患の異常が発生したと判断する疾患判断手段と、を備え、
前記疾患判断手段は、前記傾向判断手段により疾患傾向に合致すると判断され、且つ、前記加速度センサにより得られた加速度が歩行の停止方向を示すものである場合、対象者に緊急疾患の異常が発生したと判断する
ことを特徴とする異常判断装置。
【請求項5】
対象者に対して取り付けられた加速度センサからの信号に基づいて対象者の異常を判断する異常判断装置であって、
脳梗塞及び心筋梗塞の少なくとも一方の緊急疾患に関する加速度の変化の傾向を疾患傾向として記憶した第1記憶手段と、
前記加速度センサにより得られた加速度の変化が、前記第1記憶手段により記憶された疾患傾向に合致するか否かを判断する傾向判断手段と、
前記傾向判断手段により疾患傾向に合致すると判断された場合に、対象者に緊急疾患の異常が発生したと判断する疾患判断手段と、を備え、
前記傾向判断手段は、前記加速度センサにより所定値以上の加速度の変化が検出されたことを契機として、当該加速度の変化と、この変化以前の所定時間内及びこの変化以降の規定時間内の少なくとも一方に得られる加速度の検出値とを対象にして、疾患傾向に合致するか否かを判断する
ことを特徴とする異常判断装置。
【請求項6】
対象者に対して取り付けられた加速度センサからの信号に基づいて対象者の異常を判断する異常判断装置であって、
脳梗塞及び心筋梗塞の少なくとも一方の緊急疾患に関する加速度の変化の傾向を疾患傾向として記憶した第1記憶手段と、
前記加速度センサにより得られた加速度の変化が、前記第1記憶手段により記憶された疾患傾向に合致するか否かを判断する傾向判断手段と、
前記傾向判断手段により疾患傾向に合致すると判断された場合に、対象者に緊急疾患の異常が発生したと判断する疾患判断手段と、
前記加速度センサからの信号に基づいて、対象者個人に緊急疾患の異常が発生しなかった正常期間における加速度の変化を記憶する第2記憶手段
と、を備え、
前記傾向判断手段は、前記加速度センサにより前記第2記憶手段により記憶された前記正常期間における加速度の変化に類似しない加速度の変化が得られた場合、当該加速度の変化と、この変化以前の所定時間内及びこの変化以降の規定時間内の少なくとも一方に得られる加速度の検出値とを対象にして、疾患傾向に合致するか否かを判断する
ことを特徴とする異常判断装置。
【請求項7】
コンピュータを、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の異常判断装置として機能させるための異常判断プログラム。
【請求項8】
請求項7に記載の異常判断プログラムが記録されたコンピュータ読取可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常判断装置、異常判断プログラム、及びコンピュータ読取可能な記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象者に対してバイタルセンサと加速度センサとを取り付け、これらの信号に基づいて対象者の異常を判断する装置が提案されている(例えば特許文献1,2参照)。この装置は、加速度センサからの信号に基づいて対象者の動作が検出されなくなった場合に、バイタルセンサからの出力に基づいて対象者の異常を判断することとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-209176号公報
【文献】特開2017-211719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1,2に記載の装置は、加速度センサからの信号を契機に、バイタルセンサからの信号に基づいて対象者の異常を判断するものであって、特に脳梗塞や心筋梗塞という緊急を要するものを加速度センサからの信号に基づいて判断することができない。
【0005】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、脳梗塞や心筋梗塞を加速度センサからの信号に基づいて判断することができる異常判断装置、異常判断プログラム、及びコンピュータ読取可能な記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る異常判断装置は、対象者に対して取り付けられた加速度センサからの信号に基づいて対象者の異常を判断する異常判断装置であって、脳梗塞及び心筋梗塞の少なくとも一方の緊急疾患に関する加速度の変化の傾向を疾患傾向として記憶した第1記憶手段と、前記加速度センサにより得られた加速度の変化が、前記第1記憶手段により記憶された疾患傾向に合致するか否かを判断する傾向判断手段と、前記傾向判断手段により疾患傾向に合致すると判断された場合に、対象者に緊急疾患の異常が発生したと判断する疾患判断手段とを備える。
【0007】
また、本発明に係る異常判断プログラムは、コンピュータを、上記の異常判断装置として機能させるための異常判断プログラムであり、本発明に係るコンピュータ読取可能な記録媒体は、上記の異常判断プログラムが記録されたコンピュータ読取可能な記録媒体である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、脳梗塞及び心筋梗塞の少なくとも一方の緊急疾患に関する加速度の変化の傾向を疾患傾向として記憶し、加速度センサにより得られた加速度の変化が記憶された疾患傾向に合致するか否かを判断し、合致すると判断された場合に対象者に緊急疾患の異常が発生したと判断する。ここで、本件発明者は、脳梗塞や心筋梗塞において対象者はいきなり倒れるのではなく、脳梗塞や心筋梗塞に応じた拮抗動作が入った後に、倒れることを見出した。このため、脳梗塞や心筋梗塞には特有の加速度の変化の傾向があり、これを記憶しておき、記憶内容との比較によって、脳梗塞や心筋梗塞を判断することができる。従って、脳梗塞や心筋梗塞を加速度センサからの信号に基づいて判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る異常判断装置を含む異常判断システムを示す構成図である。
【
図2】
図1に示した異常判断装置のハード構成を示す構成図である。
【
図3】本実施形態に係る異常判断装置のCPUを示すソフト構成図である。
【
図4】脳梗塞に係る加速度の時間変化を示す図である。
【
図5】心筋梗塞に係る加速度の時間変化を示す図である。
【
図6】本実施形態に係る異常判断装置の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用されていることはいうまでもない。
【0011】
また、以下の説明においては、本発明の実施形態に係る異常判断装置を説明するに先立って、異常判断装置が適用される異常判断システムを説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る異常判断装置を含む異常判断システムを示す構成図である。
図1に示す異常判断システム1は、対象者に対して取り付けられた異常判断装置100と、異常判断装置100に対してネットワークNを介して接続される通報装置200とを備えている。
【0013】
異常判断装置100は、対象者に対して取り付けられた加速度センサ(
図2の符号110参照)からの信号に基づいて対象者の異常を判断するものである。特に、本実施形態において異常判断装置100は、対象者に脳梗塞や心筋梗塞の異常が発生したことを判断するものである。異常判断装置100は、脳梗塞や心筋梗塞の異常の発生を判断した場合、その旨の情報と位置情報等とが通報装置200に送信する。
【0014】
通報装置200は、対象者の家族R等の緊急連絡先の情報を記憶しており、異常判断装置100から脳梗塞や心筋梗塞の異常が発生した旨の情報を受信した場合、対象者の緊急連絡先に対して連絡するものである。さらに、通報装置200は、消防Fの連絡先の情報を記憶しており、異常判断装置100から脳梗塞や心筋梗塞の異常が発生した旨の情報と、対象者の位置情報とを受信した場合には、位置情報に基づいて消防Fに対して救急車を手配するものである。なお、通報装置200は、救急車を手配する場合に限らず、近くの医師や救急救命士に位置情報を伝達してもよいし、ドクターヘリやタクシー等を手配してもよい。
【0015】
図2は、
図1に示した異常判断装置100のハード構成を示す構成図である。
図2に示すように、異常判断装置100は、加速度センサ110と、CPU(Central Processing Unit)120と、通信部130とを備えている。
【0016】
加速度センサ110は、上下前後左右の3軸方向に対して加速度を検出可能なものであり、それぞれの方向の加速度に応じた信号をCPU120に出力するものである。通信部130は、ネットワークNを介して通報装置200と通信するものである。
【0017】
CPU120は、異常判断装置100の全体を制御するものであり、ROM(Read Only Memory)120aとRAM(Random Access Memory)120bとを備えている。ROM120aは、異常判断装置100を機能させるためのプログラム(異常判断プログラム)が記憶された読み出し専用のメモリである。RAM120bは、各種のデータを格納すると共にCPU120の処理作業に必要なエリアを有する読み出し書き込み自在のメモリである。
【0018】
なお、本実施形態に係る異常判断装置100は、加速度センサ110が上下前後左右の3軸方向の加速度を正確に検出するために身体の固定部位(例えば胸や腰回り等)に取り付けられることが好ましいが、特にこれに限らず頭部や腕等の身体の可動部位に取り付けられてもよい。この場合、異常判断装置100は、頭部や腕等の動き分(例えば首振り動作分や歩行時の腕振り分)をキャンセルするようにして3軸方向の加速度を正確に検出することが好ましい。
【0019】
さらに、異常判断装置100は、取付位置のズレ等を考慮して(例えば側頭部に取り付けることを推奨していたとしてもやや後ろ側にズレて取り付けられたことを考慮して)、対象者への取付後に上下前後左右への動作を対象者に促して、上下前後左右方向を把握することが好ましい。
【0020】
加えて、異常判断装置100は、加速度センサ110のみを有するユニットと、その他の構成を有するユニットとのように、分割された構成であってもよい。ユニット間は有線接続されていてもよいし無線接続されていてもよい。これにより、例えば加速度センサ110を対象者に取り付け、他の構成についてはスマートフォンの演算機能や通信機能を利用すること等ができるためである。
【0021】
図3は、本実施形態に係る異常判断装置100のCPU120を示すソフト構成図である。
図3に示すように、CPU120は、ROM120aに記憶される異常判断プログラムを実行することにより、第1記憶部(第1記憶手段)121と、第2記憶部(第2記憶手段)122と、傾向判断部(傾向判断手段)123と、疾患判断部(疾患判断手段)124とが機能する。
【0022】
第1記憶部121は、脳梗塞及び心筋梗塞の双方の緊急疾患に関する加速度の変化の傾向を疾患傾向として記憶している。ここで、本件発明者は、脳梗塞や心筋梗塞において対象者がいきなり倒れるのではなく、脳梗塞や心筋梗塞に応じた拮抗動作が入った後に倒れることを見出した。このため、脳梗塞や心筋梗塞には特有の加速度の変化の傾向があり、第1記憶部121はこのような傾向を疾患傾向として記憶している。
【0023】
図4は、脳梗塞に係る加速度の時間変化を示す図である。本件発明者は、鋭意検討した結果、脳梗塞の異常が発生した場合、対象者が左右いずれか一方の運動機能の低下を経てから倒れることを見出した。特に、倒れる前の運動機能の低下時には、倒れる方向に体が傾くものの抵抗しようとする動作も入ることから、対象者の左又は右方向に上昇及び下降を繰り返す加速度の推移があった後に、倒れたときの大きな加速度変化が得られることを見出した。
【0024】
具体的には
図4に示す初期T41において、倒れる方向に体が傾くものの抵抗しようとする動作に応じた加速度の上昇及び下降があり、その後、終期T42において、倒れたことによる大きな加速度が得られる。特に、終期T42における加速度の最大値a
42は、初期T41における加速度の最大値a
41より大きくなる傾向がある。
【0025】
図5は、心筋梗塞に係る加速度の時間変化を示す図である。本件発明者は、鋭意検討した結果、心筋梗塞の異常が発生した場合、対象者が蹲るような動作を経てから倒れることを見出した。特に、蹲るような動作の後には体がその状態で停止してしまい、その後に倒れ込むことを見出した。なお、倒れ込む際には脳梗塞と同様に比較的大きな加速度を伴って倒れる場合もあるが、より蹲るように比較的ゆっくりと倒れ込む場合もあることを見出した。
【0026】
このため、
図5に示す初期T51において、蹲るような動作により下方向の加速度が発生すると共に、終期T53において、倒れる動作により下方向の加速度が発生する。さらに、中期T52においては、初期T51の蹲る動作の後に停止動作が入るため、初期T51及び終期T53の加速度の最大値a
51,a
53よりも小さい加速度が発生する。なお、心筋梗塞においては、初期T51及び終期T53の加速度の最大値a
51,a
53の大小関係は問わない。
図5において終期T53の破線は脳梗塞と同様に比較的大きな加速度を伴って倒れた場合の加速度であり、終期T53の実線はより蹲るように比較的ゆっくりと倒れ込んだ場合の加速度である。
【0027】
再度
図3を参照する。第1記憶部121は、
図4及び
図5を参照して示したような加速度の変化を疾患傾向として記憶している。第1記憶部121は、
図4及び
図5に示したような代表的な加速度変化のデータを複数種記憶していてもよいが、例えば心筋梗塞の初期T51の加速度の最大値a
51が○○以上××以下であり、中期T52の加速度が△△以上▽▽以下であり、終期T53の加速度の最大値a
53が□□以上◆◆以下といったデータを記憶していてもよい。
【0028】
第2記憶部122は、加速度センサ110からの信号に基づいて、対象者個人に緊急疾患の異常が発生しなかった正常期間における加速度の変化を記憶するものである。この第2記憶部122は、例えば異常判断装置100が対象者に取り付けられた1月や3月等の期間が経過するまでの加速度の変化を記憶していく。
【0029】
傾向判断部123は、加速度センサ110により得られた加速度の変化が、第1記憶部121により記憶された疾患傾向に合致するか否かを判断するものである。第1記憶部121が代表的な加速度変化のデータを疾患傾向として記憶している場合、傾向判断部123は、例えば初期T41,T51における類似度、中期T52における類似度、及び終期T42,T53における類似度の全てが所定値以上である場合に、疾患傾向に合致すると判断する。類似度は、例えば各タイミングにおいて、代表的な加速度から何%ズレているか等に基づいて算出されてもよいし、公知又は周知の他の手法により算出されてもよい。
【0030】
疾患判断部124は、傾向判断部123により疾患傾向に合致すると判断された場合に、対象者に緊急疾患の異常が発生したと判断するものである。このため、疾患判断部124は、傾向判断部123により脳梗塞の疾患傾向に合致すると判断された場合、対象者に脳梗塞の異常が発生したと判断し、心筋梗塞の疾患傾向に合致すると判断された場合、対象者に心筋梗塞の異常が発生したと判断する。
【0031】
また、CPU120は、疾患判断部124により対象者に緊急疾患の異常が発生したと判断した場合、通信部130を利用して通報装置200にその旨を送信する。このとき、CPU120は、不図示の位置検出手段により検出された対象者の位置と、対象者を示す対象者情報(IDや氏名等)とについても送信する。
【0032】
ここで、疾患判断部124は、傾向判断部123により疾患傾向に合致すると判断された場合に加えて、加速度センサ110により加速度が歩行の停止方向を示すものである場合に、対象者に緊急疾患の異常が発生したと判断することが好ましい。対象者は、歩行している場合に緊急疾患が生じると止まったり歩行を緩めたりする傾向にある。そして、対象者には、このような停止等と共に拮抗動作が表れる。よって、疾患判断部124は、加速度センサ110により歩行の停止方向を示す加速度が得られ、それ以降の加速度の変化が傾向判断部123により疾患傾向に合致すると判断された場合に、対象者に緊急疾患の異常が発生したと判断することが好ましいといえる。
【0033】
また、本実施形態に係る傾向判断部123は、常時、加速度センサ110からの加速度の変化が疾患傾向に合致するかを判断してもよいが、特定のタイミングのみで加速度の変化が疾患傾向に合致するかを判断することが好ましい。
【0034】
例えば傾向判断部123は、加速度センサ110により所定値以上の加速度の変化が検出されたことを契機として、当該加速度の変化と、この変化以前の所定時間内及びこの変化以降の規定時間内の少なくとも一方に得られる加速度の検出値を対象にして、疾患傾向に合致するか否かを判断することが好ましい。
【0035】
ここで、
図4及び
図5を参照して説明したように、脳梗塞及び心筋梗塞の異常の発生時には、拮抗動作が表れることから、比較的大きい加速度の変化(最大値a
41,a
51)が検出される。また、脳梗塞及び心筋梗塞の双方において対象者が倒れることにより規定値以上の加速度の変化(最大値a
42,a
53)が検出される。よって、このような加速度の変化と、この前後の期間内に得られる加速度の検出値を対象にして判断することで、傾向判断部123は常時疾患傾向に合致するかの判断を行う必要がなく、適切な期間のみを対象に疾患傾向を判断することができる。
【0036】
また、上記に限らず、傾向判断部123は、加速度センサ110により第2記憶部122により記憶された正常期間における加速度の変化に類似しない加速度の変化が得られた場合、当該加速度の変化と、この変化以前の所定時間内及びこの変化以降の規定時間内の少なくとも一方に得られる加速度の検出値とを対象にして、疾患傾向に合致するか否かを判断することが好ましい。
【0037】
このように、正常期間における加速度の変化に類似しない加速度の変化が得られたときに疾患傾向に合致するか否かを判断することで、正常期間における加速度の変化に類似しない加速度の変化と、この前後の期間内に得られる加速度の検出値を対象にして判断することで、正常でない可能性が高い場合に疾患傾向を判断することができる。
【0038】
なお、「類似しない」とは類似度が所定値以下となる場合である。例えば、傾向判断部123は、或る所定区間(例えば3秒程度)の加速度が得られる毎に、得られた加速度を、第2記憶部122に記憶される加速度の開始時点から所定区間だけ取り出して比較し、類似度を算出する。類似度が所定値を超えていれば処理は終了し、類似度が所定値以下であれば、例えば開始時点から特定時間(所定区間以下の時間であって例えば1秒)だけ進めた時点から所定区間だけ取り出して比較し、類似度を算出する。類似度が所定値を超えていれば処理は終了し、類似度が所定値以下であれば更に特定時間だけ進めて、類似すると判断されるか、記憶される加速度の全期間が比較されるまで繰り返される。全期間比較された結果、類似度が所定値を超えなかった場合、傾向判断部123は、第2記憶部122により記憶された正常期間における加速度の変化に類似しない加速度の変化が得られたと判断する。なお、この処理については第2記憶部122に記憶される正常期間の加速度の変化と比較が行われる結果、処理負荷が高まる可能性があるため、比較的粗い処理を行うことが好ましい。すなわち、正常期間の加速度の変化との比較に係る処理時間は、疾患傾向と合致するかを判断するための処理時間よりも短くなるようにされることが好ましい。
【0039】
また、正常期間であるか否かについては以下のようにして判断される。すなわち、1月や3月等の正常期間において脳梗塞や心筋梗塞の異常が発生した場合、対象者は、救急車等によって運ばれて入院している。この場合には、基本的に異常判断装置100が取り外されることとなる。この場合、電源がオフされたり長期間に亘り加速度ゼロが検出され続けたりする。このような場合、異常判断装置100は、第2記憶部122に記憶された加速度の変化が正常期間のものではないと判断する。一方、電源がオフされたり長期間に亘り加速度ゼロが検出され続けたりせずに期間が満了した場合、異常判断装置100は、第2記憶部122に記憶された加速度の変化が正常期間のものであると判断する。
【0040】
次に、本実施形態に係る異常判断装置100の処理を説明する。
図6は、本実施形態に係る異常判断装置100の処理を示すフローチャートである。
【0041】
まず、異常判断装置100の傾向判断部123は、所定値以上の加速度が得られたかを判断する(S1)。所定値以上の加速度が得られた場合(S1:YES)、処理はステップS3に移行する。
【0042】
一方、所定値以上の加速度が得られなかった場合(S1:NO)、傾向判断部123は、第2記憶部122に記憶される加速度の変化と類似しない加速度の変化が得られたかを判断する(S2)。
【0043】
類似しない加速度の変化が得られなかったと判断した場合(S2:NO)、
図6に示す処理は終了する。類似しない加速度の変化が得られたと判断した場合(S2:YES)、処理はステップS3に移行する。
【0044】
ステップS3においてCPU120は、加速度センサ110からの信号に基づいて直近の定められた時間内に対象者が歩行状態であったかを判断する(S3)。歩行状態でなかったと判断した場合(S3:NO)、処理はステップS5に移行する。一方、歩行状態であったと判断した場合(S3:YES)、CPU120は、停止方向の加速度が得られたかを判断する(S4)。
【0045】
停止方向の加速度が得られていないと判断した場合(S4:NO)、
図6に示す処理は終了する。一方、停止方向の加速度が得られたと判断した場合(S4:YES)、傾向判断部123は、脳梗塞の疾患傾向と合致するかを判断する(S5)。この際、傾向判断部123は、例えばステップS1において「YES」と判断されていた場合、所定値以上の加速度の変化と、この変化以前の所定時間内及びこの変化以降の規定時間内の少なくとも一方に得られる加速度の検出値とを対象にして、脳梗塞の疾患傾向に合致するか否かを判断する。また、傾向判断部123は、例えばステップS2において「YES」と判断されていた場合、類似しないと判断された加速度の変化と、この変化以前の所定時間内及びこの変化以降の規定時間内の少なくとも一方に得られる加速度の検出値とを対象にして、脳梗塞の疾患傾向に合致するか否かを判断する。
【0046】
脳梗塞の疾患傾向と合致すると判断した場合(S5:YES)、疾患判断部124は、対象者に脳梗塞の異常が発生したと判断する(S6)。そして、処理はステップS9に移行する。
【0047】
脳梗塞の疾患傾向と合致しないと判断した場合(S5:NO)、傾向判断部123は、心筋梗塞の疾患傾向と合致するかを判断する(S7)。この処理においても、ステップS5の処理と同様に、加速度の変化と、この変化以前の所定時間内及びこの変化以降の規定時間内の少なくとも一方に得られる加速度の検出値とを対象にして、心筋梗塞の疾患傾向に合致するか否かが判断される。
【0048】
心筋梗塞の疾患傾向と合致しないと判断した場合(S7:NO)、
図6に示す処理は終了する。一方、心筋梗塞の疾患傾向と合致すると判断した場合(S7:YES)、疾患判断部124は、対象者に心筋梗塞の異常が発生したと判断する(S8)。そして、処理はステップS9に移行する。
【0049】
ここで、ステップS5及びステップS7の処理の一例について詳細に説明する。ステップS5の処理では、
図4に示す初期T41において加速度の上昇及び下降があり、その後、終期T42において、倒れたことによる大きな加速度が得られた場合に、脳梗塞の疾患傾向に合致すると判断される。この判断を行うにあたり、傾向判断部123は、まず最も大きい加速度を検出する。そして、傾向判断部123は、もっと大きな加速度が得られた時点の前後の特定の期間を終期T42と判定する。次いで、終期T42の前の期間を初期T41と判断する。次いで、傾向判断部123は、終期T42の加速度の最大値a
42と、初期T41の加速度の最大値a
41とを比較し、後者の方が高い場合に脳梗塞の疾患傾向に合致すると判断する。
【0050】
また、ステップS7の処理では、
図5に示す初期T51及び終期T53において下方向の加速度が発生し、中期T52において初期T51及び終期T53よりも小さい加速度が得られた場合に、心筋梗塞の疾患傾向に合致すると判断される。この判断を行うにあたり、傾向判断部123は、まず加速度が略ゼロに近い状態(絶対値が特定値以下の状態)が定められた時間継続している箇所を判断し、これを中期T52とする。次いで、傾向判断部123は、中期T52よりも前の期間を初期T51とし後の期間を終期T53とする。その後、傾向判断部123は、初期T51及び終期T53に或る程度以上の加速度の変化があった場合に、心筋梗塞の疾患傾向に合致すると判断する。
【0051】
ステップS9の処理においてCPU120は、通報装置200に通信を行う(S9)。この処理において、異常判断装置100は、対象者が緊急疾患である旨、対象者のID等、及び対象者の位置情報を送信する。その後、
図6に示す処理は終了する。
【0052】
このようにして、本実施形態に係る異常判断装置100、データ監視プログラム、及びコンピュータ読取可能な記録媒体によれば、脳梗塞及び心筋梗塞の少なくとも一方の緊急疾患に関する加速度の変化の傾向を疾患傾向として記憶し、加速度センサ110により得られた加速度の変化が記憶された疾患傾向に合致するか否かを判断し、合致すると判断された場合に対象者に緊急疾患の異常が発生したと判断する。ここで、本件発明者は、脳梗塞や心筋梗塞において対象者はいきなり倒れるのではなく、脳梗塞や心筋梗塞に応じた拮抗動作が入った後に、倒れることを見出した。このため、脳梗塞や心筋梗塞には特有の加速度の変化の傾向があり、これを記憶しておき、記憶内容との比較によって、脳梗塞や心筋梗塞を判断することができる。従って、脳梗塞や心筋梗塞を加速度センサ110からの信号に基づいて判断することができる。
【0053】
また、本件発明者は、脳梗塞において、対象者が左右いずれか一方の運動機能の低下を経てから倒れることを見出した。特に、倒れる前の運動機能の低下時には、倒れる方向に体が傾くものの抵抗しようとする動作も入ることから、対象者の左又は右方向に上昇及び下降を繰り返す加速度の推移があった後に、倒れたときの大きな加速度変化が得られることを見出した。そこで、このような加速度の変化を疾患傾向として記憶することで、脳梗塞を加速度センサ110からの信号に基づいて判断することができる。
【0054】
また、本件発明者は、心筋梗塞において、対象者が蹲るような動作を経てから倒れることを見出した。特に、蹲るような動作後には体がその状態で停止した後に、倒れたときの大きな加速度変化が得られることを見出した。そこで、このような加速度の変化を疾患傾向として記憶することで、脳梗塞を加速度センサ110からの信号に基づいて判断することができる。
【0055】
また、傾向判断部123により疾患傾向に合致すると判断され、且つ、得られた加速度が歩行の停止方向を示すものである場合、対象者に緊急疾患の異常が発生したと判断する。ここで、本件発明者は、脳梗塞や心筋梗塞に応じた拮抗動作時には対象者が略停止することを見出した。このため、脳梗塞時や心筋梗塞時には歩行の停止方向を示す加速度が検出される。従って、疾患傾向に合致するとの判断だけでなく、得られた加速度が歩行の停止方向を示すものであるかを確認することで、脳梗塞や心筋梗塞をより正確に判断することができる。
【0056】
また、加速度センサ110により所定値以上の加速度の変化が検出されたことを契機として、当該加速度の変化と、この変化以前の所定時間内及びこの変化以降の規定時間内の少なくとも一方に得られる加速度の検出値とを対象にして、疾患傾向に合致するか否かを判断する。ここで、脳梗塞及び心筋梗塞の双方において拮抗動作が入ることにより所定値以上の加速度の変化が検出される。また、脳梗塞及び心筋梗塞の双方において対象者が倒れることにより規定値以上の加速度の変化が検出される。よって、このような加速度の変化と、この前後の期間内に得られる加速度の検出値とを対象にして判断することで、適切な期間を対象に疾患傾向を判断することができる。
【0057】
また、正常期間における加速度の変化を記憶し、正常期間における加速度の変化に類似しない加速度の変化と、この前後の期間内に得られる加速度の検出値とを対象にして判断することで、正常でない可能性が高い場合に疾患傾向を判断することができる。
【0058】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、公知又は周知の技術を組み合わせてもよい。
【0059】
例えば、第1記憶部121、第2記憶部122、傾向判断部123及び疾患判断部124は、対象者側に備えられているが、特にこれに限らず、通報装置200側に搭載されていてもよい。
【0060】
また、ステップS3の処理においてCPU120は、加速度センサ110からの信号に基づいて直近の定められた時間内に対象者が歩行状態であったかを判断している。しかし、これに限らず、例えばステップS1において「YES」と判断された時点で、少なくとも、その加速度変化以前の所定時間の期間を抽出期間とし、ステップS3以降の処理(例えばステップS5やステップS7の処理)を抽出期間のみを対象に実行するようにしてもよい。ステップS2において「YES」と判断された場合も同様である。
【0061】
さらに、本実施形態においては、ステップS1及びステップS2のいずれか一方において「YES」と判断されることにより、処理がステップS3に移行しているが、これに限らず、ステップS1及びステップS2の双方において「YES」と判断されることにより、処理がステップS3に移行するようにしてもよい。
【0062】
さらに、上記実施形態において異常判断プログラムは、異常判断装置100のROM120aに記憶されているが、これに限らず、HDD、USB、CD-ROM、CD-R等の他の種類の記録媒体に格納されていてもよい。
【0063】
加えて、上記実施形態に異常判断装置100は1台の装置を想定しているが、これに限らず、複数台の装置によってシステム化されたものであってもよい。
【0064】
さらに、異常判断装置100は、緊急疾患の異常を判断した場合には、音声が鳴ることによって周囲の人に対象者が危険状態であることを知らせるようになっていてもよい。
【0065】
また、本実施形態において第1記憶部121は、脳梗塞及び心筋梗塞の双方の緊急疾患に関する加速度の変化の傾向を疾患傾向として記憶しているが、これに限らず、いずれか一方のみを記憶していてもよい。この場合においては、脳梗塞及び心筋梗塞の一方のみを加速度センサ110からの信号に基づいて判断することはいうまでもない。
【0066】
また、上記実施形態においては、脳梗塞及び心筋梗塞の少なくとも一方の緊急疾患を判断するものであるが、これに限らず、付加的に他の疾患も判断できるようになっていてもよい。例えば、てんかんについては、脳梗塞や心筋梗塞のように拮抗動作が入らないものの、筋肉のオンオフ動作に似た屈曲伸展が生じるため、振動に近い加速度が検出され易く加速度のみで判断が可能となっている。このため、てんかんについても判断するように構成されていてもよい。特に、予めてんかんを持っている対象者に対しては、その旨をフラグを立てておく等することで、フラグが立っていない対象者について単なる振動(例えば乗り物において一時的に発生した振動)を誤っててんかんと判断し難くすることもできる。
【符号の説明】
【0067】
1 :異常判断システム
100 :異常判断装置
110 :加速度センサ
120 :CPU
120a :ROM
121 :第1記憶部(第1記憶手段)
122 :第2記憶部(第2記憶手段)
123 :傾向判断部(傾向判断手段)
124 :疾患判断部(疾患判断手段)
130 :通信部
200 :通報装置
T41,T51 :初期
T52 :中期
T42,T53 :終期
a41,a42,a51,a53 :加速度の最大値