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特許7519817到来方向推定装置、到来方向推定方法及び到来方向推定プログラム
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  • 特許-到来方向推定装置、到来方向推定方法及び到来方向推定プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】到来方向推定装置、到来方向推定方法及び到来方向推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 3/46 20060101AFI20240712BHJP
   G01S 7/02 20060101ALI20240712BHJP
【FI】
G01S3/46
G01S7/02 216
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020101938
(22)【出願日】2020-06-12
(65)【公開番号】P2021196233
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】花田 義博
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-162689(JP,A)
【文献】特開2020-003334(JP,A)
【文献】特開平11-231033(JP,A)
【文献】特開2009-115757(JP,A)
【文献】特開2016-061686(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110907888(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 3/00 - 3/74
G01S 7/00 - 7/64
G01S 13/00 - 17/95
G01C 3/00 - 3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
到来波を受信する複数のアンテナと、
記到来波の到来方向の範囲を設定する方向範囲設定手段と、
前記方向範囲設定手段が設定した前記到来方向の範囲内に対して、アンテナ間相関から固有値を算出する第2のアルゴリズムに基づいて前記到来方向の算出を行う到来方向推定手段と、
を備え、
前記方向範囲設定手段は、複素BPFにより、前方の-90°から+90°まで所定角度範囲ずつ前記到来波を順次限定し、
前記到来方向推定手段は、前記方向範囲設定手段により前記到来波を限定された前記所定角度範囲に対して、前記第2のアルゴリズムに基づく前記到来方向の算出を順次行う、
到来方向推定装置。
【請求項2】
前記第2のアルゴリズムはMUSIC法又はESPRIT法である、
請求項1に記載の到来方向推定装置。
【請求項3】
複数のアンテナで受信する到来波の到来方向を推定する到来方向推定方法であって、
制御手段が、
記到来波の到来方向の範囲を設定する方向範囲設定工程と、
前記方向範囲設定工程で設定された前記到来方向の範囲内に対して、アンテナ間相関から固有値を算出する第2のアルゴリズムに基づいて前記到来方向の算出を行う到来方向推定工程と、
を実行し、
前記方向範囲設定工程では、複素BPFにより、前方の-90°から+90°まで所定角度範囲ずつ前記到来波を順次限定し、
前記到来方向推定工程では、前記方向範囲設定工程により前記到来波を限定された前記所定角度範囲に対して、前記第2のアルゴリズムに基づく前記到来方向の算出を順次行う、
到来方向推定方法。
【請求項4】
複数のアンテナで受信する到来波の到来方向を推定する到来方向推定プログラムであって、
コンピュータを、
記到来波の到来方向の範囲を設定する方向範囲設定手段、
前記方向範囲設定手段が設定した前記到来方向の範囲内に対して、アンテナ間相関から固有値を算出する第2のアルゴリズムに基づいて前記到来方向の算出を行う到来方向推定手段、
として機能させ、
前記方向範囲設定手段は、複素BPFにより、前方の-90°から+90°まで所定角度範囲ずつ前記到来波を順次限定し、
前記到来方向推定手段は、前記方向範囲設定手段により前記到来波を限定された前記所定角度範囲に対して、前記第2のアルゴリズムに基づく前記到来方向の算出を順次行う、
到来方向推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、到来方向推定装置、到来方向推定方法及び到来方向推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アンテナに到来する電波の方向を推定して物体(物標)の検知等を行う技術として、DBF(Digital Beamforming)法やMUSIC(Multiple signal classification)法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
DBF法は、多数の到来波に対しても対応可能であるが、角度精度(到来方向の推定精度)があまり良くない。一方、MUSIC法は、DBF法よりも角度精度は高いものの、アンテナ数以上の物標(すなわち到来波)がある場合に計算できなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4271157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、到来波が複数の場合でも、到来波の到来方向を高精度に推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、到来方向推定装置であって、
到来波を受信する複数のアンテナと、
記到来波の到来方向の範囲を設定する方向範囲設定手段と、
前記方向範囲設定手段が設定した前記到来方向の範囲内に対して、アンテナ間相関から固有値を算出する第2のアルゴリズムに基づいて前記到来方向の算出を行う到来方向推定手段と、
を備え、
前記方向範囲設定手段は、複素BPFにより、前方の-90°から+90°まで所定角度範囲ずつ前記到来波を順次限定し、
前記到来方向推定手段は、前記方向範囲設定手段により前記到来波を限定された前記所定角度範囲に対して、前記第2のアルゴリズムに基づく前記到来方向の算出を順次行う。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、到来波が複数の場合でも、到来波の到来方向推定を高精度に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る到来方向推定装置の概略構成を示すブロック図である。
図2】本実施形態に係る到来方向推定処理の一例を説明するための図である。
図3】本実施形態に係る到来方向推定処理の一例を説明するための図である。
図4】本実施形態に係る到来方向推定処理の他の例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
[到来方向推定装置の構成]
図1は、本実施形態に係る到来方向推定装置1の概略構成を示すブロック図である。
この図に示すように、本実施形態に係る到来方向推定装置1は、ミリ波センサ(ミリ波レーダー)に適用されるものであり、送信アンテナ10、シンセサイザ11、受信アンテナ20、受信機21、AD変換器22、到来方向推定用プロセッサ30を備える。なお、到来方向推定装置1は、各部を統合的に制御する制御手段を備えていてもよい。
【0012】
送信アンテナ10は、シンセサイザ11で生成された変調波(送信波)を、前方の所定範囲(例えば方位角180°の範囲)に一様に送信する。
【0013】
受信アンテナ20、受信機21及びAD変換器22は、互いに対応して複数組(本実施形態ではN組)設けられている。なお、図1では、複数組の受信アンテナ20、受信機21及びAD変換器22を、簡略化して1組だけ図示している。
受信アンテナ20は、送信アンテナ10から送信されて前方の物体(物標)で反射された電波を受信する。この受信信号は、当該受信アンテナ20と対応する受信機21で復調され、AD変換器22でデジタル信号に変換される。なお、受信アンテナ20のアンテナ形状等は特に限定されない。また、受信信号をデジタル信号に変換する前に、当該信号の増幅、周波数変換、周波数帯域制限等を行ってもよい。
【0014】
到来方向推定用プロセッサ30は、AD変換器22から出力された受信信号に基づいて、物標までの距離や角度(すなわち到来波の方向、到来方向)を推定する。
到来方向推定用プロセッサ30は、物標までの距離や到来方向を推定するための機能部として、距離分解計算部31と、DBF角度分解計算部32と、複素BPF係数設定部33と、複素BPF部34と、MUSIC角度分解計算部35とを備える。これら各機能部の動作については後述する。
【0015】
[到来方向推定装置の動作]
続いて、到来波の到来方向を推定する到来方向推定処理を実行する際の到来方向推定装置1の動作について説明する。
【0016】
到来方向推定処理は、例えばユーザ操作に基づいて、図示しない記憶部に格納された所定のプログラムが展開されることにより実行される。
到来方向推定処理が実行されると、到来方向推定用プロセッサ30は、複数(N個)の受信アンテナ20及び受信機21で受信されて各AD変換器22でデジタル変換された受信信号から到来波の到来方向を算出する。
【0017】
具体的に、到来方向推定用プロセッサ30では、図1に示すように、まず距離分解計算部31が、複数のAD変換器22の出力信号を高速フーリエ変換(FFT)により複数(D個)の距離ステップ数に距離分解する。距離分解計算部31は、このFFTによって得られた複素数データをDBF(Digital Beamforming)角度分解計算部32に出力する。なお、ここでのFFTは実数FFT、複素FFTのいずれでもよい。また、AD変換器22の出力までと、到来方向推定用プロセッサ30の内部とでは、計算周期が異なる。距離分解計算部31では、1時間ステップN個のデータをM時間ステップ分だけ蓄積してN×Mのデータに対してFFT処理を行う。このとき、ゼロパッディングや補間処理などを行ってデータを増やしてからFFT処理を行う場合はD>Mとなり、データを増やさない場合はD=Mとなる。
【0018】
次に、DBF角度分解計算部32が、距離分解用のFFTで得られた複素数データに対し、さらに複素FFTによる角度分解を行い、距離ステップ数(D個)分の角度スペクトラム(角度データ)の組を得る。これにより、二次元の距離データが得られる。
【0019】
こうして、DBF法により、到来波の概略の到来方向が求められる。DBF法は、本発明に係る第1のアルゴリズムの一例である。より詳しくは、複数の受信アンテナ20の出力電圧を結んだ波形は、各受信アンテナ20と物標との距離が位相差となるため、到来方向が正面のとき周波数がゼロとなり、正面からの角度が大きくなるほど周波数が高くなる。さらに正面から左右のどちらに物標があるかの判断には、この波形の位相情報すなわち角度スペクトラムの複素数データの虚数部が必要である。DBF法では、この波形に対して複素FFT処理を行うことで、到来方向の角度に対応した周波数を得る。
【0020】
次に、複素BPF係数設定部33が、D組の角度スペクトラムの各々のピークサーチを行う。そして、複素BPF係数設定部33は、探索したピーク値が予め設定された所定の閾値を超えていた場合、そのピーク値に対応する周波数を求める。それから、複素BPF係数設定部33は、閾値を超えたピーク値を含む角度スペクトラムの数をDs個として、このDs個の角度スペクトラムの各々について、BPF(バンドパスフィルタ)の中心周波数が先に求めた周波数となるような当該BPFの係数を求め、この係数を複素BPF部34に設定する。
【0021】
次に、複素BPF部34は、Ds個の距離データに対して複素BPFをかける。
そして、MUSIC角度分解計算部35が、MUSIC(Multiple signal classification)法に基づく角度計算を行う。MUSIC法は、本発明に係る第2のアルゴリズムの一例である。これにより、到来方向が算出される。
MUSIC法は、アンテナ間相関から固有値を算出する手法であり、DBF法よりも到来波の検出精度が高い。本実施形態では、複素BPFをかけた距離データに対してMUSIC法を適用することにより、物標が受信アンテナ数20以上(前方180°の範囲の到来波の数がN個以上)であることによる計算の破綻を抑制しつつMUSIC法によって好適に到来方向を求めている。
【0022】
本実施形態の到来方向推定処理について、具体例を挙げてさらに説明する。
図2及び図3は、到来方向推定処理の一例を説明するための図であり、図4は、到来方向推定処理の他の例を説明するための図である。
【0023】
本例では、図2に示すように、原点((X,Y)=(0,0))に位置する到来方向推定装置1(受信アンテナ20)の前方に、複数の物標Bが到来方向推定装置1から等距離の位置に存在していた場合を考える。
このとき、広い角度範囲(例えば前方180°の方位角範囲)に対して(つまり、複数のAD変換器22からの出力信号に対して)単純にMUSIC法を適用した場合、物標Bの数量が受信アンテナ20の数以上であると、好適に計算を実行できない。つまり、MUSIC法は、角度精度(到来方向の推定精度)は良いものの、原理的にアンテナ間相関から固有値を算出する手法のために、受信アンテナ20の数以上の物標Bが存在する場合には解を得られない。
他方、DBF法は、同距離の位置に多数の物標Bが存在しても処理可能ではあるものの、MUSIC法よりも角度精度が悪い。
【0024】
そこで、本実施形態では、図3(a)に示すように、まずDBF法に基づいて、複数の受信アンテナ20の出力波形のピーク(図の例では最大の1つのピーク)周辺の所定範囲として、物標Bの存在確率が高い角度範囲αを求める。
そして、図3(b)に示すように、複素BPFにより到来波を角度範囲αに限定したうえで、MUSIC法を適用することによって、計算の破綻を抑制しつつ到来波の到来方向を精度よく求めている。
すなわち、まずDBF法を適用し、検知したい(存在確率の高い)物標Bの凡その方向範囲を予め設定し、複素BPFで到来波をその方向範囲内に限定することによって、その後に適用するMUSIC法での計算の破綻を抑制している。
なお、到来波の方向範囲を限定しても、物標Bが受信アンテナ20数以上の場合には、MUSIC法適用時に計算が破綻し得る。その場合は、MUSIC法が好適に適用できるまで、上記と同様の手順によりさらに方向範囲を絞ればよい。
【0025】
また、上記例では、1つの角度範囲αに対してMUSIC法を適用する場合を示したが、図4に示すように、位置の異なる複数の物標B(B1~B3)に対応する複数の角度範囲α(α1~α3)に対して順次MUSIC法を適用してもよい。
また、複素BPFによる方向範囲の限定を-90°から+90°まで所定角度ずつ(例えば45°ずつ)順次限定しつつ、この限定された方向範囲についてMUSIC法による到来方向の算出を順次行うことで、前方180°の範囲の到来方向推定を行ってもよい。
【0026】
[本実施形態の技術的効果]
以上のように、本実施形態によれば、DBF法に基づいて、複数の受信アンテナ20の受信信号から到来波の到来方向の範囲が算出され、算出された到来方向の範囲内に対して、MUSIC法に基づいて到来方向の算出が行われる。
これにより、受信アンテナ20数以上の物標Bからの到来波による計算の破綻を抑制しつつ、MUSIC法により到来方向を算出することができる。したがって、到来波が複数の場合でも、到来波の到来方向推定を高精度に行うことができる。
【0027】
また、従来のMUSIC法の適用においては、計算を破綻させないために送信ビームフォーミングにより電波の送信範囲を絞っていたところ、本実施形態の手法ではその必要がない。したがって、複数の送信アンテナを設けて送信波の位相を変える必要がなく、送信アンテナ10が1つ(小さいアンテナ面積)で足りる。
【0028】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態やその変形例に限られない。
例えば、上記実施形態では、本発明に係る第1のアルゴリズムの一例としてDBF法を挙げて説明した。しかし、本発明に係る第1のアルゴリズムは、フーリエ変換と等価な処理を用いて複数の受信アンテナの信号から到来波の到来方向を算出するものであればよく、例えばビームフォーマー(Beamformer)法などであってもよい。
【0029】
また、上記実施形態では、本発明に係る第2のアルゴリズムの一例としてMUSIC法を挙げて説明した。しかし、本発明に係る第2のアルゴリズムは、複数の受信アンテナのアンテナ間相関から固有値を算出して到来波の到来方向を算出するものであればよく、例えばESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)法などであってもよい。
【0030】
また、上記実施形態では、到来方向推定装置1がミリ波センサ(ミリ波レーダー)に適用されることとしたが、本発明に係る到来方向推定装置は、到来波の到来方向を推定するものに広く適用可能である。例えば、自立移動型のロボットの自己位置(進行方向)を推定する内界センサなどにも適用できる。
その他、実施の形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 到来方向推定装置
10 送信アンテナ
20 受信アンテナ
30 到来方向推定用プロセッサ
31 距離分解計算部
32 DBF角度分解計算部
33 複素BPF係数設定部
34 複素BPF部
35 MUSIC角度分解計算部
B 物標
α 角度範囲
図1
図2
図3
図4