(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】生分解性再生セルロース繊維とその製造方法及びこれを用いた繊維構造物
(51)【国際特許分類】
D01F 2/10 20060101AFI20240712BHJP
D01F 1/10 20060101ALI20240712BHJP
【FI】
D01F2/10
D01F1/10
(21)【出願番号】P 2020115154
(22)【出願日】2020-07-02
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591264267
【氏名又は名称】ダイワボウレーヨン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】林 誠
(72)【発明者】
【氏名】萩谷 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】大島 邦裕
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-170220(JP,A)
【文献】特開2004-149953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースを含む生分解性再生セルロース繊維であって、
セルロースと非架橋蛋白質を含み、
前記セルロースと非架橋蛋白質は均一分散されており、
前記生分解性再生セルロース繊維は、さらにポリエチレングリコールを含むことを特徴とする生分解性再生セルロース繊維。
【請求項2】
前記セルロースと非架橋蛋白質の配合割合は、セルロース100質量部に対して、非架橋蛋白質が5~50質量部である請求項1に記載の生分解性再生セルロース繊維。
【請求項3】
前記ポリエチレングリコールの配合割合は、セルロース100質量部に対して、ポリエチレングリコールが1~10質量部である請求項1に記載の生分解性再生セルロース繊維。
【請求項4】
前記生分解性再生セルロース繊維はビスコースレーヨン繊維である請求項1~3のいずれか1項に記載の生分解性レーヨン繊維。
【請求項5】
前記蛋白質は水溶性蛋白質である請求項1~4のいずれか1項に記載の生分解性再生セルロース繊維。
【請求項6】
前記蛋白質は、pH8~12の範囲で可溶性を示すアルカリ可溶性タンパク質である請求項1~5のいずれか1項に記載の生分解性再生セルロース繊維。
【請求項7】
前記蛋白質は数平均分子量9000以上50000未満のゼラチンである請求項1~6のいずれか1項に記載の生分解性再生セルロース繊維。
【請求項8】
前記ポリエチレングリコールの数平均分子量は200~7500である請求項1~7のいずれか1項に記載の生分解性再生セルロース繊維。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の生分解性再生セルロース繊維の製造方法であって、
セルロースを含む原液と、非架橋蛋白質溶液を含む成分を混合して紡糸液とする際、少なくとも前記セルロースを含む原液と非架橋蛋白質溶液とは紡糸ノズル直前で混合した後、紡糸することを特徴とする生分解性再生セルロース繊維の製造方法。
【請求項10】
前記非架橋蛋白質溶液は、pH4~9の範囲である請求項9に記載の生分解性再生セルロース繊維の製造方法。
【請求項11】
前記非架橋蛋白質溶液は、pHが11以上の強アルカリ溶液を添加することなく、溶媒で溶解させる請求項9又は10に記載の生分解性再生セルロース繊維の製造方法。
【請求項12】
前記紡糸ノズル直前で混合する方法が、インライン混合手段による混合である請求項9~11のいずれか1項に記載の生分解性再生セルロース繊維の製造方法。
【請求項13】
前記紡糸液には、非架橋蛋白質とポリエチレングリコールを含む成分の溶液が混合された混合液を含む請求項9~12のいずれか1項に記載の生分解性再生セルロース繊維の製造方法。
【請求項14】
前記混合液は、pH4~9の範囲である請求項
13に記載の生分解性再生セルロース繊維の製造方法。
【請求項15】
前記混合液は、pHが11以上の強アルカリ溶液を添加することなく、溶媒で溶解させる請求項
13又は14に記載の生分解性再生セルロース繊維の製造方法。
【請求項16】
請求項1~8のいずれか1項に記載の生分解性再生セルロース繊維を含む繊維構造物。
【請求項17】
前記繊維構造物が、衣類、成形体、補強繊維、医療用繊維品、生理用品、又はおむつである請求項16に記載の繊維構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性の高い再生セルロース繊維とその製造方法及びこれを用いた繊維構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
パルプなどセルロースを再生して得られる再生セルロース繊維は、ソフトな風合いでドレープ性が高く、吸湿性もあることから吸湿発熱を利用したインナーウエア、通常のインナーウエア、一般衣料、婦人衣料、寝具生地、インテリア生地、車両用生地、芯地、医療衛生材等に適用されている。材料形態は、綿(わた)、糸、織物、編み物、不織布、組紐等様々な形で使われている。従来技術として特許文献1には、セルロースと50,000以上の分子量を有するタンパク質またはこのようなタンパク質を含む天然物質との溶液を調製し、この溶液から繊維を紡糸してアミノ化再生セルロース繊維を製造することが提案されている。特許文献2には、2種類以上のビスコース紡糸液を紡糸ノズル直前でスタティックミキサーにより混合して紡糸し、ファンシーヤーンとすることが提案されている。特許文献3には、ビスコースレーヨン繊維の中心部にデンプンを配置して生分解性を付与することが提案されている。本出願人らは特許文献4及び5において、レーヨン紡糸液に架橋蛋白質を混合し染色性を改良すること(特許文献4)及びフィラメントを製造することを提案している(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-170220号公報
【文献】特開平9-256222号公報
【文献】特開平11-124721号公報
【文献】特開2004-149953号公報
【文献】特開2007-039836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記特許文献1、2、4~5はレーヨン繊維の生分解性を高くしようとする課題がなく、特許文献3はビスコースレーヨン繊維の中心部にデンプンを配置することから強度が低下してしまう問題があった。
本発明は、強度物性の低下が少なく、生分解性を高くした生分解性再生セルロース繊維とその製造方法及びこれを用いた繊維構造物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、セルロースを含む生分解性再生セルロース繊維であって、セルロースと非架橋蛋白質を含み、前記セルロースと非架橋蛋白質は均一分散されており、前記生分解性再生セルロース繊維は、さらにポリエチレングリコールを含む生分解性再生セルロース繊維である。
【0006】
本発明の生分解性再生セルロース繊維の製造方法は、セルロースを含む原液と、非架橋蛋白質溶液を含む成分を混合して紡糸液とする際、少なくとも前記セルロースを含む原液と非架橋蛋白質溶液とは紡糸ノズル直前で混合した後、紡糸することを特徴とする。
【0007】
本発明の繊維構造物は、前記の生分解性再生セルロース繊維を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の生分解性再生セルロース繊維は、セルロースと非架橋蛋白質が均質分散していることにより、強度物性の低下が少なく、生分解性を高くすることができる。生分解性を高くすると、廃棄は容易となり、地球環境に悪い影響を与えず、また医療用途等においては生体内における分解期間を制御した繊維構造物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は実施例1で得られたレーヨン繊維を鑑別染色した後の繊維側面の光学顕微鏡写真(倍率2000倍)である。
【
図2】
図2は本発明の実施例と比較例の生分解性データ(生物化学的酸素消費量:BOD)のグラフである。
【
図3】
図3は本発明の実施例と比較例の生分解性データ(分解度)のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、セルロースを再生して得られる生分解性再生セルロース繊維である。再生セルロースは、天然の木材パルプを原料とするビスコースレーヨン、キュプラ、ポリノジック、溶剤紡糸セルロースなどを含む。このうち、ビスコースレーヨンは、他の再生セルロースよりも生分解性に優れるとともに、非架橋蛋白質の混合に適した紡糸原液(ビスコース液)を用いるという観点から好ましい。セルロースと非架橋蛋白質は、均一に混合されている。非架橋蛋白質は、セルロース成分中に微小ミセルとなって分散し、セルロース膜で覆われているため、洗濯などによって再生セルロース繊維から脱落することはない。なお、セルロースと非架橋蛋白質が均一分散されている状態は、鑑別染色により非架橋蛋白質を染色し、色ムラの有無、セルロースと蛋白質の界面状態等を観察して判断できる。
【0011】
生分解性再生セルロース繊維が、セルロースと非架橋蛋白質の2成分系の場合は、セルロースを100質量部としたとき、非架橋蛋白質は5~50質量部の割合で加えることが好ましく、より好ましくは8~35質量部であり、さらに好ましくは10~30質量部である。これにより、繊維強度を大きく低下させずに生分解性を高くすることができる。前記非架橋蛋白質は、再生セルロース繊維の配向性を高め、強度低下を防止できる。
【0012】
生分解性再生セルロース繊維は、さらにポリエチレングリコールを含ませてもよい。ポリエチレングリコールを加えると、柔軟性、風合いを良好にできる。ポリエチレングリコールは、再生セルロースを100質量部としたとき、1~10質量部の割合で加えることが好ましく、より好ましくは2~8質量部であり、さらに好ましくは4~7質量部である。
【0013】
セルロースと混合する前の非架橋蛋白質は、水溶性蛋白質であるのが好ましい。水溶性であると、紡糸液に分散しやすく、セルロース成分中に微小ミセルとなって分散しやすい。レーヨン繊維に形成された後、加熱されることにより、水溶性蛋白質は熱硬化して微小ミセルに取り込まれているので、脱離することはない。
【0014】
前記非架橋蛋白質は、pH8~12の範囲で可溶性を示すアルカリ可溶性タンパク質であるのが好ましい。これにより、紡糸液に分散しやすく、セルロース成分中に微小ミセルとなって分散しやすい。本発明で使用することができる非架橋蛋白質は、例えば、牛乳蛋白質(casein)、トウモロコシ蛋白質(zein)、落花生蛋白質(arachin)、大豆蛋白質(glycinin)等の球状蛋白質、コラーゲン(collagen)、絹繊維蛋白質(fibroin)、獣毛繊維(keratin)等の繊維状蛋白質、ゼラチン(gelatin)等の水溶性蛋白質が挙げられ、数平均分子量は9000以上50000未満であることが好ましい。より好ましい数平均分子量は18000~35000である。さらに、非架橋蛋白質はゼラチンであることが好ましく、その数平均分子量は18000~35000であることが好ましい。ゼラチンは生分解性を高くすることができるうえ、前記分子量であればセルロース成分中に微小ミセルとなって取り込まれ、脱離しにくい状態で保持される。ゼラチンの分子量は、高速液体クロマトグラフィーによるGPC(Gel Permeation Chromatography:ゲル浸透クロマトグラフィー)により測定できる。一例として、カラムは、AsahiPak GS-620 を2本連結し、溶離液は0.1Mリン酸緩衝液(pH6.8)、流速1.0mL/min、サンプルは0.2%水溶液を0.1mL添加し、温度は50℃、紫外検出器を使用して230nmで検出することにより、数平均分子量が35,000、重量平均分子量が9,100、ピークトップ分子量は22,000として検出できる。本発明で使用できるゼラチンの原料としては特に限定はされないが、魚鱗、魚皮、牛骨、牛皮、豚骨、豚皮等が挙げられる。
【0015】
ポリエチレングリコールの数平均分子量は200~7500が好ましく、より好ましくは600~4000であり、さらに好ましくは1000~2000である。これにより、再生セルロース繊維から脱離しにくくなる。
【0016】
本発明の生分解性再生セルロース繊維の製造方法は、セルロースを含む原液と、非架橋蛋白質溶液を含む成分を混合して紡糸液とする際、少なくともセルロースを含む原液と非架橋蛋白質溶液とは紡糸ノズル直前で混合した後、紡糸する。これにより、非架橋蛋白質溶液の変質を防いでセルロースを含む原液と均一に分散混合できる。前記紡糸ノズル直前で混合する方法は、インライン混合手段による混合が好ましい。インライン混合手段としては、具体的にスタティックミキサーによる混合がある。
【0017】
非架橋蛋白質溶液は、pH4~9の範囲であることが好ましい。より好ましくは、pH5~8である。pHが上記範囲内にあると、非架橋蛋白質の変質を防いで紡糸液と均一に分散混合することができる。非架橋蛋白質溶液のpHを上記範囲内に調整するには、例えば、非架橋蛋白質をpHが11以上の強アルカリ溶液を添加することなく、水などの溶媒で溶解させて得ることができる。
【0018】
また、本発明の生分解性再生セルロース繊維にポリエチレングリコールを含ませる場合には、あらかじめ非架橋蛋白質溶液とポリエチレングリコールを混合した成分と、セルロースを含む原液とを紡糸ノズル直前で混合した後、紡糸する。
【0019】
非架橋蛋白質およびポリエチレングリコールを含む成分を混合した混合液は、pH4~9の範囲であることが好ましい。より好ましくは、pH5~8である。pHが上記範囲内にあると、非架橋蛋白質の変質を防いで紡糸液と均一に分散混合することができる。非架橋蛋白質溶液およびポリエチレングリコールを含む成分を混合した混合液のpHを上記範囲内に調整するには、例えば、非架橋蛋白質およびポリエチレングリコールをpHが11以上の強アルカリ溶液を添加することなく、水などの溶媒で溶解させて得ることができる。
【0020】
本発明の生分解性再生セルロース繊維は、非架橋蛋白質、ポリエチレングリコール等の混合液を、セルロースを含む紡糸液に添加する以外は、公知の再生セルロース繊維の製造方法にて製造することができる。紡糸液としては、ビスコースレーヨン繊維ではセルロースを含むビスコースを用いることができ、キュプラの場合は、セルロースを銅アンモニウム溶液に溶解させたものを用いることができる。溶剤紡糸セルロース(リヨセル:商品名)の場合は、セルロースを溶剤で溶解させた溶液を用いることができる。
【0021】
再生セルロース繊維がレーヨン繊維の場合、ビスコース原液に前記混合液を紡糸ノズル直前で混合して、ノズルより紡糸浴中に押し出して紡糸し、凝固再生することで製造することができる。
【0022】
ビスコース原液としては、例えば、セルロースを7~10質量%、水酸化ナトリウムを5~8質量%、二硫化炭素を2~3.5質量%含むビスコース原液を調製して用いるとよい。
【0023】
前記(紡糸)ノズルとしては、例えば、ホール数が1000~20000である円形ノズルを用いることができ、生産性や均一な繊維が得られやすい観点から、ホール数が3000~12000であることが好ましい。また、ノズルは、直径0.05~0.12mmの通常の円形ノズルを用いてもよいが、必要に応じて異型断面のノズルを用いてもよい。
【0024】
前記紡糸浴としては、例えば、硫酸を95~125g/L、硫酸亜鉛を10~17g/L含むミューラー浴を用いることが好ましい。より好ましい硫酸濃度は、100~120g/Lである。前記硫酸濃度が95g/L以上であると、再生が遅くなることなく生産性が良好になり、硫酸濃度が125g/L以下であると、再生が速くなることなく紡糸性が良好になる。前記硫酸亜鉛濃度が10g/L以上であると、ビスコースの表面での再生が速くなることがない。硫酸亜鉛濃度が17g/L以下であると、ビスコースの凝固及び再生が適度に進行することができる。
【0025】
紡糸速度は30~80m/分の範囲が好ましい。また、延伸率は39~55%が好ましい。ここで延伸率とは、延伸前のスライバー速度を100としたとき、延伸後のスライバー速度をどこまで速くしたかを示すものである。倍率で示すと、延伸前が1、延伸後は1.39~1.55倍となる。
【0026】
上記のようにして得られたレーヨン繊維を所定の長さにカットし、精練処理を行う。精練工程は、通常の方法で、熱水処理、水硫化処理、漂白、酸洗いの順で行うとよい。その後、必要に応じて圧縮ローラーや真空吸引等の方法で余分な水分を除去する。
【0027】
本発明の繊維構造物は、衣類、成形体、補強繊維、医療用繊維品、生理用品、おむつなどがある。具体的には、吸湿発熱を利用したインナーウエア、通常のインナーウエア、一般衣料、婦人衣料、寝具生地、インテリア生地、車両用生地、芯地、医療衛生材等に適用できる。医療用繊維品としては、マスク、ガーゼ、吸液布、手術糸などがある。材料形態は、綿(わた)、糸、織物、編み物、不織布、組紐等様々な形がある。
【0028】
本発明の生分解性再生セルロース繊維は、通常のコットン、レーヨン、ポリエステルに比べて生分解性が高い。また、本発明の生分解性再生セルロース繊維は、再生セルロース繊維本来の吸湿性および肌触りに加えて、ホルマリン等有害物質の吸着性、消臭性能、紫外線遮蔽性等の機能性に優れ、更にセルロース用染料だけでなく、羊毛用染料である酸性染料、含金属染料、クロム染料によっても極めてよく染色される。本発明の生分解性再生セルロース繊維の上記特性は紡糸原液の段階で導入されるため、大量生産にも適している。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
非架橋蛋白質としてゼラチン:ニッピ社製、商品名G-KP(数平均分子量約20000、凝固点22℃)を使用した。
ポリエチレングリコール:日油社製、商品名PEG#1540(数平均分子量約1500)を60℃で加熱溶融した後、50℃温水中に溶解して40%水溶液を作製した。
上述のゼラチン及びポリエチレングリコール水溶液をそれぞれの有効成分濃度が13質量%及び9質量%となるように30℃の温水に投入して撹拌し、ゼラチン/ポリエチレングリコール水溶液を作製した。得られたゼラチン/ポリエチレングリコール水溶液(混合液)のpHは、5.8であった。
次に常法で調製したビスコース紡糸液(セルロース含有量8.5質量%、水酸化ナトリウム5.7質量%、二硫化炭素2.7質量%)に、ゼラチンとポリエチレングリコールの有効成分が、それぞれセルロースに対して10質量%、6.9質量%の添加量となるようにゼラチン/ポリエチレングリコール水溶液を、インラインミキサー(T.K.パイプラインホモミキサー:特殊機化工業社製)を用いて紡出直前に混合した。
得られた紡糸液を、2浴緊張紡糸法により、紡糸速度50m/min、延伸率50%の条件でミューラー浴(硫酸100g/L、硫酸亜鉛15g/L、硫酸ナトリウム350g/L、紡糸温度50℃)にて紡糸し、スライバーのカットを行い、常法にて精練・乾燥を実施して、繊度1.4dtex、繊維長38mmのレーヨンステープル繊維(短繊維)を製造した。
【0031】
得られた生分解性レーヨン繊維を鑑別染色した後の繊維側面の光学顕微鏡写真を
図1に示す。得られた生分解性レーヨン繊維の生分解性データは、下記の表4~5、
図2~3にまとめて示す。また、生分解性レーヨン繊維および普通レーヨン繊維(比較例1)の単繊維物性を表1に示す。
【0032】
【0033】
[分散性]
実施例1で得られた生分解性レーヨン繊維について、鑑別染色により、非架橋蛋白質を染色した。鑑別染色の条件は、以下のとおりである。
(1)鑑別染料として日本化薬社製、商品名「カヤステインQ」を使用した。
(2)ガラスビーカー内に鑑別染料1%水溶液(染色液)200mLと原綿2gを投入し、電熱器により90℃で5分間加温した。染色液から原綿を取り出して500mLの水で3回洗浄を行い余分な水分を絞ったのちに50℃で1時間乾燥を行った。
(3)鑑別染色した繊維の側面をマイクロスコープ(KEYENCE社;VHX-500F、レンズ;VH-Z500)を使用してレンズ倍率2000倍で透過光による光学観察を行った。実施例1の生分解性レーヨン繊維は、色ムラ等、不均一な状態が認められなかったこと、セルロースと蛋白質の界面が明瞭でないことから、均一に分散していると推定される。
【0034】
(比較例1)
市販されている繊度1.4dtex、繊維長38mmの普通レーヨン繊維(ビスコースレーヨン繊維)を使用した。
【0035】
(比較例2)
市販されている繊度1.4dtex、繊維長38mmのポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維)を使用した。
【0036】
(比較例3)
市販されている繊度3.7マイクロネア、繊維長35mmの中国産コットン繊維を使用した。
【0037】
<生分解性の測定方法>
(1)測定試料の化学式への置き換え
・実施例1の生分解性レーヨン繊維、比較例1の普通レーヨン繊維、比較例3のコットン繊維の分子骨格はセルロースであることから、(C6H10O5)n(nは繰り返し単位)とみなすことができる。
・比較例2:ポリエステル繊維は、(C10H8O4)n(nは繰り返し単位)とみなすことができる。
(2)測定装置と測定条件
JIS K6950に準拠し、下記の条件で測定した。測定は地方独立行政法人大阪産業技術研究所に依頼した。
装置:閉鎖系酸素消費量測定装置(クーロメータOM3100A:大倉電気社製)
植種源:大阪市の下水処理場の返送汚泥
標準試験培養液:300mL
植種濃度:30mg/L
試験温度:25±1℃
試験期間:28日間
試験区は表2に示すとおりである。
【0038】
【0039】
(3)測定結果
(i)理論的酸素要求量(ThOD)
元素組成がCcHhOoで表される物質の理論的酸素要求量(ThOD)は、次の式により算出した。
ThOD=16(2c+0.5h-o)/Mw
但し、Mw:分子量
各被験物質のThODは表3に示すとおりである。
【0040】
【0041】
(ii)生物化学的酸素消費量(BOD)
生物化学的酸素消費量(BOD)は次の式によって算出した。
ΔBOD=B
s-B
b
但し、B
s:分解区のBOD(mg/L)、B
b:基礎呼吸区のBOD(mg/L)。
試験開始後7日ごとのΔBODを表4に示し、経時変化のグラフを
図2に示す。
【0042】
【0043】
(iii)分解度
分解度(D)は次の式によって算出した。
D=100×ΔBOD/(ThOD×M
s/0.3)
但し、M
s:被験物質の添加量(mg)
試験開始後7日ごとの分解度を表5に示し、経時変化のグラフを
図3に示す。
【0044】
【0045】
以上の通り、実施例1の生分解性レーヨン繊維は生分解性が高いことが確認できた。また、官能検査により、柔軟で風合いが良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の生分解性再生セルロース繊維を用いた繊維構造物は、衣類、成形体、補強繊維、医療用繊維品、生理用品、おむつなどに好適である。具体的には、吸湿発熱を利用したインナーウエア、通常のインナーウエア、一般衣料、婦人衣料、寝具生地、インテリア生地、車両用生地、芯地、医療衛生材等に好適である。