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特許7519833ガスセンサ、ガスセンサ用感応部材及びガスセンシング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】ガスセンサ、ガスセンサ用感応部材及びガスセンシング方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20240712BHJP
   G01N 27/04 20060101ALI20240712BHJP
   G01N 5/02 20060101ALI20240712BHJP
【FI】
G01N27/12 C
G01N27/04 E
G01N5/02 A
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020125536
(22)【出願日】2020-07-22
(65)【公開番号】P2022021753
(43)【公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-04-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗原 舞
(72)【発明者】
【氏名】ムルティ スニル クリストフ
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-214626(JP,A)
【文献】国際公開第2018/091293(WO,A1)
【文献】特開2003-227809(JP,A)
【文献】国際公開第2020/003464(WO,A1)
【文献】特開昭62-011159(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0194019(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第110872096(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110274936(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110208323(CN,A)
【文献】特開2010-223816(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/12
G01N 27/04
G01N 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
感応部材を含むセンシング部を備え、前記感応部材の気体と接触する面における水の接触角が75°以上であり、前記感応部材は樹脂を含み、前記樹脂の割合が感応部材の50質量%~100質量%である、ガスセンサ。
【請求項2】
感応部材を含むセンシング部を備え、前記感応部材の気体と接触する面における水の接触角が75°以上であり、前記感応部材は樹脂(ただし、シランの重合体を除く)を含む、ガスセンサ。
【請求項3】
感応部材を含むセンシング部を備え、前記感応部材の気体と接触する面における水の接触角が75°以上であり、前記感応部材は樹脂を含み、前記樹脂はポリオレフィン樹脂、ポリサルファイド樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ABS樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、フェノール樹脂、ウレア樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂又はアルキド樹脂を含む、ガスセンサ。
【請求項4】
感応部材を含むセンシング部を備え、前記感応部材の気体と接触する面における水の接触角が75°以上であり、前記感応部材の弾性率が1×10Pa~1×1010Paである、ガスセンサ。
【請求項5】
前記センシング部は、前記感応部材の体積、質量、応力、電気抵抗及び電気伝導度からなる群より選択される少なくとも1種の変化を検知する、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記感応部材は、厚みが2nm~100000nmである、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のガスセンサ。
【請求項7】
前記感応部材は、算術平均粗さRaが1nm~500nmである、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のガスセンサ。
【請求項8】
パージ機構をさらに備える、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のガスセンサ。
【請求項9】
前記センシング部以外の部分の周囲に配置される保護部材をさらに備える、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のガスセンサ。
【請求項10】
気体と接触する面における水の接触角が75°以上であり、樹脂を含み、前記樹脂の割合が感応部材の50質量%~100質量%である、ガスセンサ用感応部材。
【請求項11】
気体と接触する面における水の接触角が75°以上であり、樹脂(ただし、シランの重合体を除く)を含む、ガスセンサ用感応部材。
【請求項12】
気体と接触する面における水の接触角が75°以上であり、樹脂を含み、前記樹脂はポリオレフィン樹脂、ポリサルファイド樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ABS樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、フェノール樹脂、ウレア樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂又はアルキド樹脂を含む、ガスセンサ用感応部材。
【請求項13】
気体と接触する面における水の接触角が75°以上であり、弾性率が1×10Pa~1×1010Paである、ガスセンサ用感応部材。
【請求項14】
気体と接触する面における水の接触角が75°以上である感応部材に気体を接触させる工程を含み、前記感応部材は樹脂を含み、前記樹脂の割合が感応部材の50質量%~100質量%である、ガスセンシング方法。
【請求項15】
気体と接触する面における水の接触角が75°以上である感応部材に気体を接触させる工程を含み、前記感応部材は樹脂(ただし、シランの重合体を除く)を含む、ガスセンシング方法。
【請求項16】
気体と接触する面における水の接触角が75°以上である感応部材に気体を接触させる工程を含み、前記感応部材は樹脂を含み、前記樹脂はポリオレフィン樹脂、ポリサルファイド樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ABS樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、フェノール樹脂、ウレア樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂又はアルキド樹脂を含む、ガスセンシング方法。
【請求項17】
気体と接触する面における水の接触角が75°以上である感応部材に気体を接触させる工程を含み、前記感応部材の弾性率が1×10Pa~1×1010Paである、ガスセンシング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガスセンサ、ガスセンサ用感応部材及びガスセンシング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気体に含まれる微量成分を検知する手段として、半導体式、接触燃焼式、赤外分光式、ナノメカニカル式などの様々な方式のガスセンサが知られており、これらの中でも接触燃焼式及び半導体式のガスセンサが広く普及している。
接触燃焼式のガスセンサは、燃焼可能なガスの検知に利用される(例えば、特許文献1参照)。半導体式のガスセンサは、加熱された金属酸化物半導体を感応材料とし、感応材料の抵抗変化からガス濃度を計測するガスセンサである(例えば、特許文献2及び特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-075137号公報
【文献】特開2000-275201号公報
【文献】特開2015-175835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガスセンサは、気体が水蒸気を多く含んでいると性能が充分に発揮できない場合がある。例えば、接触燃焼式のガスセンサは、検知素子に加湿水、反応生成水等が付着した状態で通電すると、感応膜表面に局所的な温度分布の不均一が発生し、素子破壊や感度低下を招くおそれがある。そこで、特許文献1に記載のガスセンサは、結露の発生を防止するためのヒータを内蔵している。半導体式のガスセンサは感度が非常に高く、被検ガスと感応材料の組み合わせによってはppbオーダーの濃度のガス検知が可能であるが、その出力は絶対湿度に依存することが知られている。そこで、特許文献2に記載のガスセンサは、金属酸化物半導体の表面をシリコーン処理するなどして、対象ガスの選択性を向上させている。特許文献3には、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)タイプの金属酸化物半導体ガスセンサへの湿度の影響を補正する方法が提案されている。
【0005】
上述したように、ガスセンサは高湿環境への適合性の点でいまだ改善の余地がある。特に、ナノメカニカルセンサ、MEMSセンサ等の微細加工技術を用いて微量物質を検知するセンサは、ガスの検知原理も、質量変化、電気抵抗変化、電導度変化、静電容量変化、応力変化等様々である。また、一つのセンサに複数種の感応材料を用いることができるため、複数種の成分が含まれる混合ガス分析であっても、ターゲットのガス選択性を上げることができる。しかしながら、このようなセンサを高湿度の環境で使用すると、水分子の非特異吸着を避けることは難しいのが現状である。
上記課題に鑑み、本開示の一実施形態は、高湿度下でも優れた感度を示すガスセンサ、ガスセンサ用感応部材及びガスセンシング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段には、下記の実施態様が含まれる。
<1>感応部材を含むセンシング部を備え、前記感応部材の気体と接触する面における水の接触角が75°以上である、ガスセンサ。
<2>前記センシング部は、前記感応部材の体積、質量、応力、電気抵抗及び電気伝導度からなる群より選択される少なくとも1種の変化を検知する、<1>に記載のガスセンサ。
<3>前記感応部材は樹脂を含む、<1>又は<2>に記載のガスセンサ。<4>前記感応部材は、厚みが2nm~100000nmである、<1>~<3>のいずれか1項に記載のガスセンサ。
<5>前記感応部材は、算術平均粗さRaが1nm~500nmである、<1>~<4>のいずれか1項に記載のガスセンサ。
<6>前記感応部材は、弾性率が1×10Pa~1×1010Paである、<1>~<5>のいずれか1項に記載のガスセンサ。
<7>パージ機構をさらに備える、<1>~<6>のいずれか1項に記載のガスセンサ。
<8>前記センシング部以外の部分の周囲に配置される保護部材をさらに備える、<1>~<7>のいずれか1項に記載のガスセンサ。
<9>気体と接触する面における水の接触角が75°以上である、ガスセンサ用感応部材。
<10>気体と接触する面における水の接触角が75°以上である感応部材に気体を接触させる工程を含む、ガスセンシング方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、高湿度下でも優れた感度を示すガスセンサ、ガスセンサ用感応膜及びガスセンシング方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ガスセンサのセンシング部の構成の例を概略的に示す断面図である。
図2】実施例で使用したカンチレバー型センサの形状を示す図である。
図3】実施例における飽和水蒸気雰囲気でのガス吸着量を示すグラフである。
図4】実施例におけるアセトン雰囲気でのガス吸着量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示を制限するものではない。
【0010】
本開示において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよく、また、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、材料中の各成分の量は、材料中の各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、材料中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
【0011】
<ガスセンサ>
本開示の一実施形態は、感応部材を含むセンシング部を備え、前記感応部材の気体と接触する面における水の接触角が75°以上である、ガスセンサである。
【0012】
上記ガスセンサは、センシング部が気体と接触する面における水の接触角が75°以上である感応部材を含む。
感応部材の期待と接触する面における水の接触角が75°以上であることにより、高湿度下でも優れた感度を示す理由は、以下のように推測される。
水の接触角が75°以上であると、感応部材の気体中の水分子に対する応答性が充分に低くなる一方で、水以外の分子の溶解、拡散、脱離等の速度が水より大きくなり、水分子に対する応答性と水以外の分子に対する応答性の差がより明確になる。その結果、高湿下でガスセンシングを実施しても良好な感度が得られる。
【0013】
本開示においてガスセンサとは、気体中の成分の情報を得ることを目的とする装置を意味し、情報の具体的な内容は特に制限されない。例えば、気体中の成分の検知、濃度測定、複数種の成分の割合の特定などであってよい。
【0014】
ガスセンサのセンシング部は、例えば、感応部材の体積、質量、応力、電気抵抗及び電気伝導度からなる群より選択される少なくとも1種の変化を検知する。感応部材の変化は、例えば、感応部材の表面への気体中の分子の吸着(adsorption)、感応部材の内部への分子の吸収(absorption)、吸着と吸収の組み合わせである収着(sorption)、感応部材の内部における分子の拡散(dispersion)、感応部材からの分子の脱離(desorption)等によって生じる。本開示では、これらの現象を「吸着等」と総称する場合がある。
感応部材の変化は、増大又は減少のいずれであってもよい。
【0015】
センシング部に含まれる感応部材は、気体中の分子の吸着等により、体積、質量、応力、電気抵抗及び電気伝導度からなる群より選択される少なくとも1種が変化する性質を有することが好ましい。
【0016】
ガスセンサの感度の観点からは、感応部材の変化の度合いは大きいほど好ましい。したがって、感応部材の変化を引き起こす原因となる気体中の分子の吸着等の量は多いほど好ましい。例えば、気体中の分子を表面にのみ吸着する感応部材よりも気体中の分子を吸収又は収着する感応部材が好ましく、気体中の分子を収着する感応部材がより好ましい。
【0017】
センシング部が感応部材の変化を検知する具体的な方式は特に制限されない。例えば、水晶振動子方式、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電方式、インピーダンス方式、イオン電導方式、静電容量方式、ピエゾ抵抗方式、抗原抗体反応方式等が挙げられる。
【0018】
センシング部は、複数種の感応部材を含んでもよい。例えば、検知対象への応答性が異なる複数種の感応部材を含んでもよい。検知対象への応答性が異なる複数種の感応部材を含むことで、検知対象に対する選択性を高めることができ、感度をより向上させることができる。
センシング部が複数種の感応部材を含む場合、その全てが気体と接触する面における水の接触角が75°以上であっても、一部が気体と接触する面における水の接触角が75°以上であってもよい。
センシング部に複数種の感応部材を配置可能なガスセンサとしては、MEMSセンサ及びナノメカニカルセンサが挙げられる。
【0019】
水蒸気の影響を低減して高湿下での感度を向上させる観点からは、感応部材の気体と接触する面における水の接触角は80°以上であることが好ましく、85°以上であることがより好ましく、90°以上であることがさらに好ましい。
感応部材の気体と接触する面における水の接触角の上限は特に制限されず、例えば、150°以下であってもよい。水の接触角が高すぎることで、水の応答性がなくなり、水をリファレンスとして他の分子の応答性を正確に検知できなくなることを抑制できる観点からは、120°以下が好ましく、100°以下がより好ましい。
本開示において感応部材の水の接触角は、実施例に記載した方法(液滴法)で測定される。
【0020】
水蒸気の影響を低減して高湿下での感度を向上させる観点からは、感応部材の気体と接触する面における臨界表面張力は40dynes/cm以下であることが好ましく、38dynes/cm以下であることがより好ましく、37dynes/cm以下であることがさらに好ましく、35dynes/cm以下であることが特に好ましい。感応部材の気体と接触する面における臨界表面張力の下限値は特に制限されず、例えば、15dynes/cm以上であってもよい。
本開示において感応部材の臨界表面張力は、Zismannプロット方法で測定される。
【0021】
ガスセンサの感度の観点からは、感応部材の厚みは2nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましく、15nm以上であることがさらに好ましく、20nm以上であることがさらに好ましい。
気体中の分子の吸着等に要する時間を許容しうる範囲とする観点からは、感応部材の厚みは100000nm以下であることが好ましく、70000nm以下であることがより好ましく、50000nm以下であることがさらに好ましく、30000nm以下であることが特に好ましい。
【0022】
本開示において感応部材の厚みは、感応部材が気体と接触する面に対して垂直な方向の寸法を意味する。感応部材の厚みが一定でない場合は、その最大値を感応部材の厚みとする。
【0023】
安定した水接触角を得る観点からは、感応部材の気体と接触する面の算術平均粗さRaは1nm~500nmであることが好ましい。
本開示において感応部材の気体と接触する面の算術平均粗さRaは、実施例に記載した方法で測定される。
【0024】
感応部材の変化に対するセンシング部の応答強度の観点からは、感応部材の弾性率は1×10Pa以上であることが好ましく、ガスセンサの基板への負荷の観点からは、感応部材の弾性率は1×1010Pa以下であることが好ましい。
【0025】
本開示において感応部材の弾性率は、実施例に記載した方法で測定される。
【0026】
感応部材の材質は特に制限されず、種々の材料から選択できる。感応部材の材質は1種のみでも2種以上の組み合わせであってもよい。
【0027】
ガスセンサの感度、成膜性等の観点からは、感応部材は樹脂を含むことが好ましい。
樹脂の種類としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等の合成樹脂、及び生体高分子等の天然由来樹脂が挙げられる。
【0028】
熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等)、ポリオレフィン系ワックス(例えば、ポリエチレンオリゴマー、ポリプロピレンオリゴマー等)、ポリサルファイド樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂、エラストマー(例えば、ポリオレフィン系エラストマー、水添スチレン系ブロック共重合体、水添スチレン系ランダム共重合体等)、スーパーエンジニアリングプラスチック(例えば、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン等)、シンジオタクティックポリスチレン等が挙げられる。熱可塑性樹脂は2種類以上のコモノマーからなる共重合化合物、グラフト重合化合物、又はリビングラジカル重合法等から合成されるブロック重合化合物であってもよい。
【0029】
熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ウレア樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、アルキド樹脂、熱硬化性ポリイミド等が挙げられる。感応部材が熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を含む場合、硬化前のモノマー及び開始剤等を混合し、その直後に混合物を収容空間に充填し、熱又は光によって混合物を硬化させることにより感応部材を形成してもよい。
【0030】
感応部材は、金属、セラミックス等の無機材料、カーボン材料、低分子化合物(パラフィン等)の添加剤を含んでもよい。
【0031】
無機材料としては、ガラス繊維、単結晶シリコン、窒化ケイ素、炭化ケイ素、及び無機フィラーが挙げられる。無機フィラーとしては、無定形フィラー(例えば、炭酸カルシウム、シリカ、カオリン、クレー、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、ハイドロタルサイト、水酸化アルミニウム、アルミナ、水酸化マグネシウム等)、板状フィラー(例えば、タルク、マイカ、モンモリロナイト、ガラスフレーク等)、針状フィラー(例えば、ワラストナイト、チタン酸カリウム、塩基性硫酸マグネシウム、セピオライト、ゾノトライト、ホウ酸アルミニウム等)、導電性フィラー(例えば、金属粉、金属フレーク、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等)、ペロブスカイト化合物(チタン酸ストロンチウム等)、ガラスビーズ、ガラス粉、アパタイト、ハイドロキシアパタイト及びゼオライトが挙げられる。無機フィラーは、表面が炭素等で被覆されていてもよく、シランカップリング処理等が施されていてもよい。
【0032】
カーボン材料としては、カーボン繊維、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラフェン、グラファイト等が挙げられる。
【0033】
感応部材は、金属有機構造体(MOF;Metal Organic Frameworks)等の合成された多孔質体を含んでもよい。金属有機構造体は、多孔性配位高分子と呼ばれてもよい。例えば、金属有機構造体は、Basolite(登録商標)C300(BASF社製)等であってよい。
【0034】
感応部材が樹脂を含む場合、樹脂の割合が感応部材の50質量%~100質量%であることが好ましく、70質量%~100質量%であることがより好ましく、80質量%~100質量%であることがさらに好ましい。
【0035】
感応部材が樹脂を含む場合、感応部材が気体と接触する面の水の接触角は、樹脂の種類、密度、ガラス転移温度(Tg)等の物性、副次成分の種類等の影響を受けるため、所望の接触角が得られるようにこれらを選択することが好ましい。
【0036】
感応部材の水の接触角を大きくする具体的な方法としては、例えば、疎水性基(例えば、アルキル基、アリール基等の炭化水素基)を樹脂の分子構造中に多く導入するように設計・合成する方法、カーボン材料や疎水性の高い無機材料(例えば、単結晶シリコン、窒化ケイ素等)を添加する方法等が挙げられる。また、感応部材の水の接触角を小さくする具体的な方法としては、例えば、親水性基(ヒドロキシ基、カルボキシ基等)を樹脂の分子構造中に多く導入するように設計・合成する方法、ガラス繊維のような親水性の高い添加剤を加える方法等が挙げられる。
【0037】
感応部材は、同じ材質からなっていても、複数の異なる材質からなっていてもよい。複数の異なる材質からなる場合としては、感応部材が気体と接触する面とそれ以外の部位とが異なる材質からなる場合が挙げられる。
【0038】
センシング部が複数種の感応部材を含む場合、それぞれの感応部材の材料は、所望の特性に応じて上述した材料から選択してもよい。
【0039】
センシング部における感応部材の形状は、気体と接触する面を少なくとも一部に有する状態であれば特に制限されない。
図1は、センシング部における感応部材の形状の例を概略的に示す断面図である。図1の(a)に示すセンシング部10では、感応部材1は、支持体2の表面に配置される膜の状態である。図1の(b)に示すセンシング部10では、感応部材1は、支持体2に形成された溝部に収容された状態である。
【0040】
センシング部が感応部材と支持体とを有する場合、支持体の材質は特に制限されない。例えば、金属、半導体、ガラス等の無機材料であっても、樹脂等の有機材料であってもよい。
【0041】
感応部材を支持体の表面に形成する方法は特に制限されず、通常の成膜方法を用いることができる。例えば、上述した感応部材の材料を、必要に応じて有機溶媒中に含ませた状態で、浸漬法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、スピンコート法、インクジェット法、ディスペンサ法、スプレーコート法、グラビア印刷法等により成膜することで形成することができる。
【0042】
必要に応じ、ガスセンサはセンシング部以外の機構を備えてもよい。
例えば、測定環境をリフレッシュするためのパージ機構を備えてもよい。パージ機構としては、送風機構、加熱機構、換気のためのポンプ機構等が挙げられる。
【0043】
必要に応じ、ガスセンサは、センシング部以外の部分の周囲に配置される保護部材を備えてもよい。保護部材を設けることで、センシング部以外の部分を水分、光、埃等から保護することができる。
保護部材は、例えば、センシング部以外の電子部品(例えば、後述する制御機構、解析機構、監視機構等が備える電子部品)が外部の水分等に曝されないために封止するように設けてもよい。
保護部材としては、例えば、公知の封止材(エポキシ系封止材等)を用いることができる。
【0044】
必要に応じ、ガスセンサは、ガスセンサの動作を制御する制御機構、センシング部で得られた情報を解析する解析機構、測定環境の状態を監視する監視機構等を備えてもよい。
【0045】
ガスセンサの用途は特に制限されないが、高湿下でも優れた感度を示す特徴を活かし、湿度の高い環境下でのガスセンシング用途により好適に使用される。例えば、ガスセンサを相対湿度が60%以上の環境で使用してもよく、相対湿度が70%以上の環境で使用してもよく、相対湿度が75%以上の環境で使用してもよい。
【0046】
ガスセンサの用途として具体的には、上下水処理の際の生成ガス(臭気成分、有害物質等)の検知、産業排水や下水道設備における管渠、浄化槽、沈殿槽、曝気槽、活性汚泥槽等における生成ガスの検知、燃料電池における燃料(水素)の酸素極側への漏洩の検知、内燃機関の排ガス中の有害成分、生成ガス等の検知、生ごみ処理機の排ガス中の臭気又は有害成分の検知、火力発電、バイオマス発電等の発電施設で発生する排ガスの検知、化学品・成形加工品製造工程における発生ガスの検知、生鮮品、青果物、加工品、飲料等の食品から発生する、鮮度や品質の変化により生成するガスの検知、生体(ヒト、家畜、動物等)の呼気ガス、皮膚ガス等の生体ガスの検知、植物や土壌から排出されるガスの検知、自動車、工場、ごみ処理場、ごみ廃棄場、埋め立て地、室内等の環境ガス分析等への利用が挙げられる。
さらには、屋内の一酸化炭素・都市ガス・プロパンガス等の検知、石油・天然ガス採掘時の有害成分の検知、燻蒸ガス中の有害成分の検知、飲食品製造及び保管時の臭気成分検知、金属部品の浸炭・浸炭窒化処理における雰囲気ガス成分の検知等への利用が挙げられる。
【0047】
<感応部材>
本開示の一実施形態は、気体と接触する面における水の接触角が75°以上である、ガスセンサ用感応部材である。
【0048】
ガスセンサ用感応部材は、気体と接触する面における水の接触角が75°以上である。このため、高湿度下でも高い感度でガスセンシングを実施することができる。
【0049】
ガスセンサ用感応部材の詳細及び好ましい態様は、上述したガスセンサのセンシング部に含まれる感応部材の詳細及び好ましい態様と同様である。
【0050】
<ガスセンシング方法>
本開示の一実施形態は、気体と接触する面における水の接触角が75°以上である感応部材に気体を接触させる工程を含む、ガスセンシング方法である。
【0051】
上記方法で使用する感応部材は、気体と接触する面における水の接触角が75°以上である。このため、感応部材に接触する気体が水蒸気を多く含む状態であっても、高い感度でガスセンシングを実施することができる。
【0052】
上記方法で使用する感応部材の詳細及び好ましい態様は、上述したガスセンサのセンシング部に含まれる感応部材の詳細及び好ましい態様と同様である。
上記方法で使用する感応部材は、上述したガスセンサのセンシング部に含まれる状態であってもよい。
【実施例
【0053】
以下、本開示を実施例により説明するが、本開示は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0054】
<感応部材の作製と物性の測定>
下記の感応部材用樹脂溶液をカバーガラスの上に滴下し、スピンコート装置を用いて実施例1、2及び比較例1、2の感応部材を作製し、物性を測定した。結果を表1に示す。
【0055】
実施例1:ポリエチレン(PE、シグマ-アルドリッチ社、重量平均分子量35,000)の4vol%キシレン溶液
実施例2:ポリフッ化ビニリデン(PVDF、シグマ-アルドリッチ社、重量平均分子量180,000)の15vol%NMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液
比較例1:ポリメチルメタクリレート(PMMA、富士フイルム和光純薬工業株式会社、重量平均分子量15,000)の20vol%NMP溶液
比較例2:ポリエチレンイミン(PEI、富士フイルム和光純薬工業株式会社、重量平均分子量70,000)の20vol%水溶液
【0056】
【表1】
【0057】
感応部材の各物性の測定条件等は、以下のとおりである。
【0058】
水の接触角は、マイクロシリンジを用いて1マイクロリットルの蒸留水を感応部材の表面に滴下し、25℃、50%RH(相対湿度)の恒温恒湿中で、接触角計(協和界面科学株式会社、DM-SA)を用いて、液滴法により測定した。
【0059】
感応部材の厚みは、白色干渉式非接触型膜厚測定装置(FILMETRICS(R))を用いて測定した。
【0060】
感応部材の算術表面粗さRaは、JIS B 0601:2013に準拠する方法で測定した。具体的には、株式会社東京精密、高倍率表面粗さ形状測定機サーフコム920Aにより測定した。
【0061】
感応部材の弾性率は、硬度計(株式会社島津製作所、ダイナミック超微小硬度計「DUH-W201S」)を用い、23℃、50%RHの条件で、ダイヤモンド三角錐圧子を用いて測定した。
【0062】
<ガス検知性能の評価>
実施例1、2及び比較例1、2で感応部材の作製に用いた樹脂溶液を用いて、ガス検知性能の評価のためのカンチレバーを次のように作製した。
支持体としてSOI(Silicon On Insulator)基板(デバイス層5μm/BOX層1μm/ハンドル層275μm、配向<100>、キャリア密度が約1016/cmのp型SOI)を用い、2回のフォトリソグラフィプロセスでカンチレバーを作製した。具体的には、第1回目のDeep RIE(Reactive Ion Etching)プロセスにてデバイス層をエッチングし、第2回目のDeep RIEプロセスにて275μmのハンドル層をエッチングした。
次いで、BHF etchingプロセスでBOX層のSiOをエッチングし、表面層から幅10μm、長さ300μmの片持ち梁部分11と、梁先の直径が250μmであるステージ部12とからなるカンチレバー100を作製した(図2参照)。図示はしないが、ステージ部12は、デバイス層と同一平面上にある。
カンチレバー100のステージ部12に、実施例及び比較例で用いた樹脂溶液を塗布して膜状の感応部材を形成した。塗布装置として、NTN株式会社製の卓上型微細塗布装置NRS-3018(Fine Pasting System)及び高繰返塗布針HR-100(塗布針直径100μm)を使用した。
【0063】
Polytec MSA-500 Micro System Analyzerを用いて、樹脂溶液塗布前後のカンチレバーの共振周波数を測定し、その変化から感応部材の質量を測定した。リファレンスとして、N雰囲気中及び飽和水蒸気雰囲気中での共振周波数を測定した。カンチレバーは、10Hz未満に相当する水の吸着があることが分かった。なお、共振周波数から質量mを求める式は、一般的に下記の(式1)及び式2で示される。式中のm*は有効質量を、kはばね定数を、fは共振周波数を表す。ばね定数は0.45N/mであった。
【0064】
【数1】
【0065】
(飽和水蒸気雰囲気でのガス吸着量)
上記と同様に、N雰囲気から飽和水蒸気雰囲気に切り替えたときの、経時共振周波数を測定し、各感応部材の吸着したガスの質量を求めた。ステージ部上の感応部材の量はサンプルによってずれがあるため、感応部材1ナノグラム当たりのガス吸着量を求めた(Shift ng/ng)。結果を図3に示す。
【0066】
(アセトン雰囲気でのガス吸着量)
上記と同様に、N雰囲気から5vol%アセトン雰囲気に切り替えたときの、経時共振周波数を測定し、各感応部材の吸着したガスの質量を求めた。ステージ部上の感応部材の量はサンプルによってずれがあるため、感応部材1ナノグラム当たりのガス吸着量を求めた(Shift ng/ng)。結果を図4に示す。
【0067】
図3及び図4の結果に示すように、水の接触角が75°以上である実施例1及び実施例2の感応部材は飽和水蒸気に対する応答性は極めて低いが、アセトンに対する応答性が見られた。また、実施例1と実施例2とは、それぞれ異なるアセトンへの応答プロファイルを示した。
水の接触角が75°より小さい比較例1及び比較例2の感応部材は、飽和水蒸気及びアセトンに対する応答性がみられた。また、比較例1と比較例2とは、それぞれ異なる飽和水蒸気及びアセトンへの応答プロファイルを示した。
これらのことから、感応部材の水の接触角が75°より大きいことにより、水蒸気とアセトンとを区別して検知できること、すなわち、高湿度下においてアセトンを区別して検知できることがわかった。
【符号の説明】
【0068】
1…感応部材、2…支持体、10…センシング部、11…梁部分、12…ステージ部、100…カンチレバー
図1
図2
図3
図4