IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋ゴム工業株式会社の特許一覧

特許7519850ウエットマスターバッチの製造方法、及び得られたウエットマスターバッチを用いた加硫ゴムの製造方法
<>
  • 特許-ウエットマスターバッチの製造方法、及び得られたウエットマスターバッチを用いた加硫ゴムの製造方法 図1
  • 特許-ウエットマスターバッチの製造方法、及び得られたウエットマスターバッチを用いた加硫ゴムの製造方法 図2
  • 特許-ウエットマスターバッチの製造方法、及び得られたウエットマスターバッチを用いた加硫ゴムの製造方法 図3
  • 特許-ウエットマスターバッチの製造方法、及び得られたウエットマスターバッチを用いた加硫ゴムの製造方法 図4
  • 特許-ウエットマスターバッチの製造方法、及び得られたウエットマスターバッチを用いた加硫ゴムの製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】ウエットマスターバッチの製造方法、及び得られたウエットマスターバッチを用いた加硫ゴムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/22 20060101AFI20240712BHJP
   C08J 3/215 20060101ALI20240712BHJP
【FI】
C08J3/22 CEQ
C08J3/215
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020152135
(22)【出願日】2020-09-10
(65)【公開番号】P2022046206
(43)【公開日】2022-03-23
【審査請求日】2023-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩地 大輝
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-112452(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109942913(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0323610(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0046289(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28
99/00
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
C08C 1/00-19/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソプレンゴムラテックスとアンモニア水とを混合し、アンモニア濃度が10質量%以下であるアンモニア含有イソプレンゴムラテックスを調製する第1工程と、
第1工程で得られたアンモニア含有イソプレンゴムラテックスと、酸化グラフェン水分散体とを湿式混合し、アンモニア濃度が0.2~5質量%である酸化グラフェン含有イソプレンゴムラテックスを調製する第2工程とを有し、
前記酸化グラフェン水分散体における酸化グラフェンの濃度が、0.1~10質量%である、
ウエットマスターバッチの製造方法。
【請求項2】
請求項に記載の製造方法によって得られたウエットマスターバッチと、加硫剤とを混合し、加硫する工程を有する、加硫ゴムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエットマスターバッチの製造方法、及び得られたウエットマスターバッチを用いた加硫ゴムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴム組成物の補強性充填剤として、酸化グラフェンの使用が検討されている。例えば、特許文献1には、加工ゴム製品に使用するゴム組成物として、天然ゴムにナノカーボンおよびカーボンブラックを補強剤として配合したものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2016-536415号公報
【文献】特表2010-506014号公報
【文献】特表2019-506504号公報
【文献】中国特許出願公開第109942913号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
天然ゴムの代わりに合成ゴム、特にイソプレンゴムを使用することが求められているが、イソプレンゴムラテックスと酸化グラフェン分散体とを湿式混合する場合、イソプレンゴムと酸化グラフェンが凝集してしまい、イソプレンゴムに酸化グラフェンを均一に分散させることができないという問題があった。
【0005】
特許文献2では、エラストマーを含むポリマーマトリックスと、官能性グラフェンとを含むポリマー組成物が記載されており、実施例では、テトラヒドロフラン(THF)に天然ゴムを溶解させた溶液と、別のテトラヒドロフランに官能性グラフェンシート(FGS)を溶解させた溶液とを混合したことが記載されている。
【0006】
特許文献3では、エラストマーと、グラフェン系材料と、カーボンブラックとを含むエラストマーコンパウンドが記載されており、実施例では、溶液混合により、グラフェン系材料/エラストマーマスターバッチを調製したことが記載されている。
【0007】
しかしながら、特許文献2,3に記載の方法では、グラフェンとゴム成分との混合に、大量の有機溶媒が必要となるため、環境保護の観点から改善の余地がある。
【0008】
特許文献4には、セルロース水溶液に酸化グラフェンを分散させた酸化グラフェン分散液と、ゴムラテックスとを混合する高分散グラファイト酸化物アルケニルゴム複合材料の製造方法が記載されているが、異方性であるセルロースを含有するため、反列理方向の強度が弱くなるおそれがある。
【0009】
本発明は、以上の点に鑑み、大量の有機溶媒を必要とせず、酸化グラフェンの分散性に優れた、イソプレンゴムを主体とするウエットマスターバッチの製造方法、及び得られたウエットマスターバッチを用いた加硫ゴムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るウエットマスターバッチの製造方法は、イソプレンゴムラテックスとアンモニア水とを混合し、アンモニア濃度が10質量%以下であるアンモニア含有イソプレンゴムラテックスを調製する第1工程と、第1工程で得られたアンモニア含有イソプレンゴムラテックスと、酸化グラフェン水分散体とを湿式混合し、アンモニア濃度が0.2~5質量%である酸化グラフェン含有イソプレンゴムラテックスを調製する第2工程とを有するものとする。
【0011】
上記酸化グラフェン水分散体における酸化グラフェンの濃度は、0.1~10質量%であるものとすることができる。
【0012】
本発明に係る加硫ゴムの製造方法は、上記製造方法によって得られたウエットマスターバッチと、加硫剤とを混合し、加硫する工程を有するものとする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のウエットマスターバッチの製造方法によれば、大量の有機溶媒を使用することなく、酸化グラフェンの分散性に優れた、イソプレンゴムを主体とするウエットマスターバッチを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1で得られた酸化グラフェン含有イソプレンゴムラテックスにおける酸化グラフェンの分散状態を示す写真である。
図2】比較例1で得られた酸化グラフェン含有イソプレンゴムラテックスにおける酸化グラフェンの分散状態を示す写真である。
図3】比較例2で得られた酸化グラフェン含有イソプレンゴムラテックスにおける酸化グラフェンの分散状態を示す写真である。
図4】比較例3で得られたアンモニア含有イソプレンゴムラテックスにおけるゴム成分の分散状態を示す写真である。
図5】比較例3で得られた酸化グラフェン含有イソプレンゴムラテックスにおける酸化グラフェンの分散状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0016】
本実施形態に係るウエットマスターバッチの製造方法は、イソプレンゴムラテックスとアンモニア水とを混合し、アンモニア濃度が10質量%以下であるアンモニア含有イソプレンゴムラテックスを調製する第1工程と、第1工程で得られたアンモニア含有イソプレンゴムラテックスと、酸化グラフェン水分散体とを湿式混合し、アンモニア濃度が0.2~5質量%である酸化グラフェン含有イソプレンゴムラテックスを調製する第2工程とを有するものとする。
【0017】
イソプレンゴムラテックスとしては、環境保護の観点から、分散媒が水であるものを用いるのが好ましく、例えば乳化重合により製造したイソプレンゴムを用いることができる。イソプレンゴムの重量平均分子量は、特に限定されないが、500000~4000000であることが好ましい。本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で、ポリスチレン換算により求めることができる。
【0018】
イソプレンゴムラテックスには、本発明の効果を損なわない範囲において、他のゴム成分を含んでいてもよいが、イソプレンゴムラテックスのゴム成分中、イソプレンゴムの含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
【0019】
アンモニア含有イソプレンゴムラテックスにおけるアンモニア濃度は、10質量%以下であれば特に限定されないが、0.2~10質量%であることが好ましい。10質量以下である場合、イソプレンゴムラテックスとアンモニア水とを混合した際に、イソプレンゴムが凝集するのを防ぐことができる。
【0020】
イソプレンゴムラテックスの固形分(ゴム)量に対する酸化グラフェンの配合量は、特に限定されないが、ゴム成分100質量部に対して、0.1~10質量部であることが好ましく、1~3質量部であることがより好ましい。0.1質量部以上である場合、酸化グラフェンによる補強効果が得られやすく、10質量部以下である場合、酸化グラフェンはゴム中に良好に分散しやすい。
【0021】
酸化グラフェン含有イソプレンゴムラテックスにおけるアンモニア濃度が0.2質量~5質量である場合、酸化グラフェンのイソプレンゴムラテックスに対する優れた分散性が得られやすい。
【0022】
酸化グラフェン水分散体における酸化グラフェンの濃度は、特に限定されないが、0.1~10質量%であることが好ましく、0.1~5質量%であることがより好ましい。酸化グラフェンの濃度が上記範囲内である場合、酸化グラフェンのイソプレンゴムラテックスに対する優れた分散性が得られやすい。
【0023】
第2工程において、酸化グラフェン含有イソプレンゴムラテックスを調製した後、凝集・乾燥することでウエットマスターバッチを得ることができる。凝集・乾燥方法としては、酸化グラフェン含有イソプレンゴムラテックス溶液中に凝集剤を含有させて、凝集後に乾燥させる凝集乾燥方法であってもよく、有機溶媒に酸化グラフェン含有イソプレンゴムラテックスを滴下し、凝集したものを乾燥させる凝集乾燥方法であってもよく、凝集させることなく乾燥させる乾固方法であってもよい。
【0024】
凝集乾燥方法で使用する凝集剤としては、ゴムラテックス溶液の凝集用として通常使用されるギ酸、硫酸などの酸や、塩化ナトリウムなどの塩を使用することができる。
【0025】
凝集乾燥方法で使用する有機溶媒としては、アセトンやメタノールなどを使用することができる。
【0026】
上記乾燥方法においては、オーブン、真空乾燥機、エアードライヤーなどの各種乾燥装置を使用することができる。
【0027】
上記ウエットマスターバッチの製造方法により得られたウエットマスターバッチを用いて、加硫ゴムを製造することができる。
【0028】
本実施形態に係る加硫ゴムの製造方法は、得られたウエットマスターバッチと、加硫剤とを混合し、加硫する工程を有するものである。この工程の前に、加硫剤や加硫促進剤以外の添加剤を配合する工程(ノンプロ練り工程)を有するものであってもよい。
【0029】
ノンプロ練り工程で配合する添加剤としては、通常のゴム工業で使用されている補強性充填剤、プロセスオイル、亜鉛華、ステアリン酸、軟化剤、可塑剤、ワックス、老化防止剤などが挙げられ、通常の範囲内で適宜配合することができる。
【0030】
補強性充填剤としては、カーボンブラック及び/又はシリカを用いることが好ましい。すなわち、補強性充填剤は、カーボンブラック単独でも、シリカ単独でも、カーボンブラックとシリカの併用でもよい。好ましくは、カーボンブラック単独、又はカーボンブラックとシリカの併用である。補強性充填剤の配合量は、特に限定されないが、例えばゴム成分100質量部に対して10~140質量部であることが好ましく、より好ましくは20~100質量部であり、さらに好ましくは30~80質量部である。
【0031】
カーボンブラックとしては、特に限定されず、公知の種々の品種を用いることができる。カーボンブラックを配合する場合、その配合量は、ゴム成分100質量部に対して5~100質量部であることが好ましく、20~80質量部であることがより好ましい。
【0032】
シリカとしては、特に限定されず、湿式沈降法シリカや湿式ゲル法シリカなどの湿式シリカが好ましく用いられる。シリカを配合する場合、その配合量は、ゴム成分100質量部に対して5~40質量部であることが好ましく、5~30質量部であることがより好ましい。
【0033】
ノンプロ練り工程において、追加のゴム成分を配合するものであってもよい。このようなゴム成分としては、ジエン系ゴムが挙げられ、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)などが挙げられる。
【0034】
本実施形態に係る加硫剤としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄成分が挙げられる。その配合量は、特に限定されないが、ゴム成分100質量部に対して0.1~10質量部であることが好ましく、0.5~5質量部であることがより好ましい。
【0035】
加硫剤を配合する際に、加硫促進剤を配合するものであってもよい。このような加硫促進剤としては、ゴム加硫用として通常用いられる、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などが挙げられる。その配合量は特に限定されないが、ゴム成分100質量部に対して0.1~7質量部であることが好ましく、0.5~5質量部であることがより好ましい。
【0036】
本実施形態に係るゴム組成物は、通常用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し調製することができる。
【0037】
本発明に係るウエットマスターバッチは、含有する酸化グラフェンが均一に分散していることから、これを用いて製造された加硫ゴムも、やはり含有する酸化グラフェンが均一に分散している。特に、この加硫ゴムを用いて製造された空気入りタイヤ、具体的にはトレッドゴム、サイドゴム、プライもしくはベルトコーティングゴム、またはビードフィラーゴムに本発明に係る加硫ゴムを使用した空気入りタイヤは、酸化グラフェンが良好に分散したゴム部を有することとなるため、例えば転がり抵抗が低減され、かつ発熱性、耐久性およびゴム強度に優れる。
【実施例
【0038】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
実施例で使用した各成分の詳細は以下の通りである。
・天然ゴムラテックス:(株)レヂテックス製「高アンモニア含有天然ゴムラテックス「HA-NR」」
・イソプレンゴムラテックス:BST Speciality CO.,Ltd.製「IRL701」
・酸化グラフェン水分散体:東京化成工業(株)製「G0557」
・アンモニア水:ナカライテスク(株)製
・アセトン:ナカライテスク(株)製
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「N339 シーストKH」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1種」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS-20」
・硫黄:細井化学工業(株)製「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」
・加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーCZ」
・加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーNS-P」
【0040】
[実施例1]
固形分濃度(DRC)57.6質量%のイソプレンゴムラテックス600gに濃度28質量%のアンモニア水を11.6g添加し、30分撹拌した。撹拌後、得られたアンモニア含有イソプレンゴムラテックスの分散状態を目視で観察し、そこに濃度1.0質量%の酸化グラフェン水分散体を692g加えて一晩撹拌した。撹拌後、得られた酸化グラフェン含有イソプレンゴムラテックスの分散状態を目視で観察し(図1)、これをアセトンに滴下してゴム分を凝集させた。得られたゴム分を水で洗浄し50℃で減圧乾燥することにより、ウエットマスターバッチ1を得た。
【0041】
[実施例2]
DRC57.6質量%のイソプレンゴムラテックス600gに濃度28質量%のアンモニア水を54g添加し、30分撹拌した。撹拌後、得られたアンモニア含有イソプレンゴムラテックスの分散状態を目視で観察し、そこに濃度1.0質量%の酸化グラフェン水分散体を692g加えて一晩撹拌した。撹拌後、得られた酸化グラフェン含有イソプレンゴムラテックスの分散状態を目視で観察し、これをアセトンに滴下してゴム分を凝集させた。得られたゴム分を水で洗浄し50℃で減圧乾燥することにより、ウエットマスターバッチ2を得た。
【0042】
[実施例3]
DRC57.6質量%のイソプレンゴムラテックス600gに濃度28質量%のアンモニア水を143.6g添加し、30分撹拌した。撹拌後、得られたアンモニア含有イソプレンゴムラテックスの分散状態を目視で観察し、そこに濃度1.0質量%の酸化グラフェン水分散体を692g加えて一晩撹拌した。撹拌後、得られた酸化グラフェン含有イソプレンゴムラテックスの分散状態を目視で観察し、これをアセトンに滴下してゴム分を凝集させた。得られたゴム分を水で洗浄し50℃で減圧乾燥することにより、酸化グラフェン含有ゴム組成物3を得た。
【0043】
[実施例4]
DRC57.6質量%のイソプレンゴムラテックス600gに濃度28質量%のアンモニア水を267.3g添加し、30分撹拌した。撹拌後、得られたアンモニア含有イソプレンゴムラテックスの分散状態を目視で観察し、そこに濃度1.0質量%の酸化グラフェン水分散体を692g加えて一晩撹拌した。撹拌後、得られた酸化グラフェン含有イソプレンゴムラテックスの分散状態を目視で観察し、これをアセトンに滴下してゴム分を凝集させた。得られたゴム分を水で洗浄し50℃で減圧乾燥することにより、酸化グラフェン含有ゴム組成物4を得た。
【0044】
[比較例1]
DRC57.6質量%のイソプレンゴムラテックス600gに濃度1.0質量%の酸化グラフェン水分散体を692g加えて一晩撹拌した。撹拌後、得られた酸化グラフェン含有イソプレンゴムラテックスの分散状態を目視で観察した。
【0045】
[比較例2]
DRC57.6質量%のイソプレンゴムラテックス600gに濃度28質量%のアンモニア水を2.8g添加し、30分撹拌した。撹拌後、得られたアンモニア含有イソプレンゴムラテックスの分散状態を目視で観察し、そこに濃度1.0質量%の酸化グラフェン水分散体を692g加えて一晩撹拌した。撹拌後、得られた酸化グラフェン含有イソプレンゴムラテックスの分散状態を目視で観察した。
【0046】
[比較例3]
DRC57.6質量%のイソプレンゴムラテックス600gに濃度28質量%のアンモニア水を717.8g添加し、30分撹拌した。撹拌後、得られたアンモニア含有イソプレンゴムラテックスの分散状態を目視で観察し、そこに濃度1.0質量%の酸化グラフェン水分散体を692g加えて一晩撹拌した。撹拌後、得られた酸化グラフェン含有イソプレンゴムラテックスの分散状態を目視で観察した。
【0047】
実施例1~4及び比較例1~3について、イソプレンゴムラテックス、アンモニア水、及び酸化グラフェン水分散体の配合割合と、アンモニア含有イソプレンゴムラテックスにおけるアンモニア濃度、酸化グラフェン含有イソプレンゴムラテックスにおけるアンモニア濃度、アンモニア含有イソプレンゴムラテックスと酸化グラフェン含有イソプレンゴムラテックスの分散状態を、次の表1に示した。なお、表1における配合割合、及びアンモニア濃度の単位は、質量%である。また、アンモニア含有イソプレンゴムラテックスと酸化グラフェン含有イソプレンゴムラテックスの分散状態については、ゴム成分や酸化グラフェンが分散媒に均一に分散しているものを「○」、ゴム成分や酸化グラフェンが凝集したものを「×」とした。
【0048】
【表1】
【0049】
実施例1は、図1に示すように、イソプレンゴムと酸化グラフェンは凝集することなく均一に分散した。実施例2~4も実施例1と同様に、イソプレンゴムと酸化グラフェンは凝集することなく均一に分散した。
【0050】
図2,3に示すように、アンモニアを含有しない比較例1や、アンモニア濃度が所定範囲未満である比較例2では、イソプレンゴムラテックスと酸化グラフェン水分散体を混合すると、イソプレンゴムと酸化グラフェンは凝集した。
【0051】
図4に示すように、アンモニア濃度が所定範囲を超える比較例3では、イソプレンゴムラテックスにアンモニア水を添加した時点でイソプレンゴムが一部凝集し、その後、酸化グラフェン水分散体を配合しても、図5に示すように、イソプレンゴムと酸化グラフェンとが均一に分散しなかった。
【0052】
上記実施例により得られたウエットマスターバッチを用いて、次の通り加硫ゴムを作成し、加硫ゴムの引張応力を測定することにより酸化グラフェンの分散性を評価した。
【0053】
実施例5,6では、上記実施例2で得られたウエットマスターバッチ2を用い、比較例4,5では、イソプレンゴムラテックスを凝集乾燥して得たイソプレンゴムを用いて、バンバリーミキサーを使用し、下記表2に示す配合(質量部)に従い、まず、第一混合段階で、硫黄と加硫促進剤を除く成分を添加混合し(排出温度=160℃)、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で硫黄と加硫促進剤を添加混合して(排出温度=90℃)、ゴム組成物を調製し、150℃で25分間加硫し、加硫後のゴム組成物の引張応力の評価を行った。
【0054】
・引張応力:JIS K6251に準拠した引張試験(ダンベル状3号形)を行い、25℃における300%伸長時の引張応力(MPa)を測定し、実施例5の測定結果を、比較例4の測定結果を100とした指数で表し、実施例6の測定結果を、比較例5の測定結果を100とした指数で表した。値が大きいほど引張強度が高く、良好であることを示す。
【0055】
【表2】
【0056】
結果は、表2に示す通りであり、比較例4と実施例5との対比から、補強性充填剤として、酸化グラフェンを配合した場合、引張応力が向上したことがわかる。
【0057】
また、比較例5と実施例6との対比から、補強性充填剤として、カーボンブラックに加えて、酸化グラフェンを配合した場合も引張応力が向上したことがわかる。
【0058】
実施例5,6は、いずれも引張応力が向上していることから、イソプレンゴムに対して、酸化グラフェンが均一に分散したものと推測できる。
【0059】
次に、本発明の製造方法により得られたウエットマスターバッチについて、酸化グラフェンを配合することによる、ゴム成分の分子量への影響を評価した。
【0060】
上記で得られたウエットマスターバッチ2をテトラヒドロフラン(THF)に10mg/10mlの濃度で溶解させ、その溶液を13000rpmで5分間遠心分離を行い、上澄みをろ過し、試料とした。そして、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で、ポリスチレン換算の重量平均分子量Mwを測定した。
【0061】
詳細には、(株)島津製作所「LC-20AD」を使用し、試料をフィルター透過後、温度40℃、流量1.0mL/minでカラム(Shodex KL-807L)を通し、示差屈曲検出器(RI)で検出した。
【0062】
また、イソプレンゴムラテックスをアセトンに滴下しゴム成分を凝集させて、得られたゴム分を水で洗浄し50℃で減圧乾燥することにより、イソプレンゴムを得た。得られたイソプレンゴムについても、上記と同様に、ポリスチレン換算の重量平均分子量を測定した。
【0063】
【表3】
【0064】
結果は、表3に示す通りであり、イソプレンゴムに酸化グラフェンを混合した場合、原料のイソプレンゴムと比較して重量平均分子量はあまり減少しなかった。
【0065】
ゴム成分の分子量が低下するとゴムの疲労性や伸びが低下するが、本発明の製造方法により得られたゴム組成物は、分子量の減少が少なく、ゴムの疲労性や伸びの低下を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の製造方法により得られたウエットマスターバッチ及びそれを用いた加硫ゴムは、乗用車用タイヤのトレッドゴム、サイドゴム、プライもしくはベルトコーティングゴム、またはビードフィラーゴムなどに使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5