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特許7519857酸素透過性が向上した触媒複合体を含む燃料電池用電解質膜及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】酸素透過性が向上した触媒複合体を含む燃料電池用電解質膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1051 20160101AFI20240712BHJP
   H01M 8/1039 20160101ALI20240712BHJP
   H01M 8/1041 20160101ALI20240712BHJP
   H01M 8/1048 20160101ALI20240712BHJP
   H01M 8/1081 20160101ALI20240712BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20240712BHJP
   B01J 23/42 20060101ALN20240712BHJP
   B01J 23/44 20060101ALN20240712BHJP
   B01J 23/46 20060101ALN20240712BHJP
   B01J 23/50 20060101ALN20240712BHJP
【FI】
H01M8/1051
H01M8/1039
H01M8/1041
H01M8/1048
H01M8/1081
H01M8/10 101
B01J23/42 M
B01J23/44 M
B01J23/46 M
B01J23/46 301M
B01J23/50 M
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020163938
(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公開番号】P2021111614
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2023-04-24
(31)【優先権主張番号】10-2020-0002832
(32)【優先日】2020-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(73)【特許権者】
【識別番号】500518050
【氏名又は名称】起亞株式会社
【氏名又は名称原語表記】KIA CORPORATION
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】キム、ビョンス
(72)【発明者】
【氏名】ホン、ボキ
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-508369(JP,A)
【文献】特開2017-050143(JP,A)
【文献】特表2020-533756(JP,A)
【文献】特開2010-027519(JP,A)
【文献】特開2006-079904(JP,A)
【文献】特開2020-119827(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0202971(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/10
B01J 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素イオン伝導性があるイオノマーを含むイオン伝達層と、
前記イオン伝達層内に分散されている触媒複合体と、
を含み、
前記触媒複合体は、過酸化水素分解活性がある触媒金属を含む触媒粒子と、前記触媒粒子の表面の少なくとも一部に形成され、酸素透過性の材料を含む被覆層とを含み、
前記材料の酸素透過度が前記イオノマーの酸素透過度よりも高い、燃料電池用電解質膜。
【請求項2】
前記イオノマーは、過フッ素スルホン酸系イオノマー(perfluorinated sulfonic acid ionomer)を含む、請求項1に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項3】
前記触媒粒子は、支持体無しで触媒金属からなるものである、請求項1に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項4】
前記触媒粒子は、触媒金属が支持体上に担持されたものである、請求項1に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項5】
前記触媒金属は、白金(Pt)、金(Au)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)及びそれらの組合せからなる群から選ばれ、
前記触媒金属は、炭素;シリカ;ゼオライト;4B族、5B族、6B族、7B族及び8B族からなる群から選ばれる遷移金属又はその酸化物又は炭化物;及びそれらの組合せからなる群から選ばれるものを含む支持体上に担持された、請求項1に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項6】
前記被覆層は、前記触媒粒子の表面のうち、前記触媒金属の表面の少なくとも一部に形成された、請求項1に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項7】
前記材料はイオン伝導性を有する、請求項1に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項8】
前記材料は前記イオノマーと相溶性を有する、請求項1に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項9】
前記材料は、30℃~150℃範囲の温度及び20%~100%範囲の相対湿度におけるある地点で測定された酸素透過度が3.0×10-9cc・cm/(cm・sec・cmHg)以上である過フッ素スルホン酸系高分子を含む、請求項1に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項10】
前記電解質膜は前記触媒複合体を0.01mg/cm~0.90mg/cmの含量で含む、請求項1に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項11】
前記電解質膜は強化層を含み、
前記強化層の少なくとも一面に前記イオン伝達層が設けられた、請求項1に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項12】
過酸化水素活性がある触媒金属を含む触媒粒子及び酸素透過性の材料を結合して、前記触媒粒子の表面の少なくとも一部に前記材料を含む被覆層が形成された触媒複合体を製造する段階と、
前記触媒複合体をイオノマーと混合して分散液を製造する段階と、
前記分散液を塗布してイオン伝達層を形成する段階と、
を含み、
前記材料は、イオン伝導性を有し、
前記イオノマーと相溶性があり、
酸素透過度が前記イオノマーの酸素透過度よりも高い、燃料電池用電解質膜の製造方法。
【請求項13】
前記触媒複合体は、前記触媒粒子及び前記材料を混合して得た混合物を80℃~200℃で乾燥させて製造する、請求項12に記載の燃料電池用電解質膜の製造方法。
【請求項14】
前記触媒粒子は、支持体無しで触媒金属からなるもの、又は触媒金属が支持体上に担持されたものである、請求項12に記載の燃料電池用電解質膜の製造方法。
【請求項15】
前記触媒金属は、白金(Pt)、金(Au)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)及びそれらの組合せからなる群から選ばれ、
前記支持体は、炭素;シリカ;ゼオライト;4B族、5B族、6B族、7B族及び8B族からなる群から選ばれる遷移金属又はその酸化物又は炭化物;及びそれらの組合せからなる群から選ばれる、請求項14に記載の燃料電池用電解質膜の製造方法。
【請求項16】
前記材料は、30℃~150℃範囲の温度及び20%~100%範囲の相対湿度におけるある地点で測定された酸素透過度が3.0×10-9cc・cm/(cm・sec・cmHg)以上である過フッ素スルホン酸系高分子を含む、請求項12に記載の燃料電池用電解質膜の製造方法。
【請求項17】
前記イオノマーは、過フッ素スルホン酸系イオノマー(perfluorinated sulfonic acid ionomer)を含む、請求項12に記載の燃料電池用電解質膜の製造方法。
【請求項18】
前記分散液を強化層の少なくとも一面上に塗布してイオン伝達層を形成する、請求項12に記載の燃料電池用電解質膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素透過性の材料で触媒粒子を被覆した触媒複合体を含む燃料電池用電解質膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車用燃料電池としては高分子電解質膜燃料電池(PEMFC:Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cell)が適用されている。前記高分子電解質膜燃料電池が自動車の様々な運転条件で最小で数十kW以上の高い出力性能を正常に発現するためには、広い電流密度(Current Density)範囲で安定した作動が可能である必要がある。
【0003】
前記燃料電池の電気生成のための反応は、過フッ素スルホン酸系イオノマー基盤電解質膜(Perfluorinated Sulfonic Acid(PFSA)Ionomer-Based Membrane)とアノード(Anode)/カソード(Cathode)の電極とから構成された膜-電極接合体(MEA:Membrane-Electrode Assembly)で発生する。酸化極であるアノードに供給された水素が水素イオン(Proton)と電子(Electron)とに分離された後、水素イオンは膜を通じて還元極であるカソード側に移動し、電子は外部回路を通じてカソードに移動する。前記カソードで酸素分子、水素イオン及び電子が共に反応して電気を生成すると同時に、反応副産物として水(HO)と熱が生成される。
【0004】
燃料電池の反応気体である水素及び酸素は電解質膜を通じて交差移動(Crossover)をする場合があるが、この過程で過酸化水素(Hydrogen Peroxide:HOOH)が生成されることがある。この過酸化水素がヒドロキシ(Hydroxyl)ラジカル(・OH)及びヒドロペロキシ(Hydroperoxyl)ラジカル(・OOH)などの酸素含有ラジカル(Oxygen-Containing Radicals)に分解されると、これらのラジカルが電解質膜を攻撃して膜の化学的劣化(Chemical Degradation)を誘発し、結果として燃料電池の耐久性を減少させる悪影響を及ぼす。
【0005】
このような電解質膜の化学的劣化を緩和(Mitigation)するための手段として、種々の酸化防止剤(Antioxidants)を電解質膜に添加する方法がある。前記酸化防止剤には、ラジカル捕集剤(Radical Scavenger or Quencher)機能を有する一次酸化防止剤(Primary Antioxidant)と過酸化水素分解剤(Hydrogen Peroxide Decomposer)機能を有する二次酸化防止剤(Secondary Antioxidant)がある。
【0006】
高分子電解質膜燃料電池用の電解質膜に用いられる一次酸化防止剤の代表には、セリウム酸化物(Cerium Oxide or Ceria)及び硝酸セリウム六水和物(Cerium(III) Nitrate Hexahydrate)などのセリウム系又はテレフタル酸系(Terephthalic Acid)酸化防止剤などがある。
【0007】
前記セリウム酸化物は、大きく、純粋なセリウム酸化物(CeO)とび改質のセリウム酸化物(Modified CeO)とに分類できる。改質のセリウム酸化物には、セリウム-ジルコニウム酸化物(CeZrOx)、セリウム-マンガン酸化物(CeMnO)、セリウム酸化物担持二酸化ケイ素(Cerium Oxide Doped Silica)、セリウム酸化物担持イットリウム酸化物(Cerium Oxide Doped Yttrium)及びセリウム酸化物担持ジルコニウム酸化物(Cerium Oxide Doped Zirconium Oxide)などがある。
【0008】
一方、電解質膜に用いられる二次酸化防止剤の代表には、マンガン酸化物(Manganese Oxide)などのマンガン系又は白金(Platinum:Pt)などの貴金属系触媒などがある。最近では燃料電池用電解質膜に白金触媒を添加することに関する様々な研究が行われている。
【0009】
現在まで研究された結果によれば、電解質膜内に導入された白金の量、分布度(Degree of Distribution)及び微細構造などによって電解質膜の耐久性が高くなることもあれば低くなることもある。まず、肯定的な影響は、電解質膜内に導入された白金が交差移動(Crossover)する水素及び酸素気体を、電極に到達する前に水に変換させて電解質膜内の水量を増加させてプロトン伝導性(Proton Conductivity)を増加させ、窮極的に膜-電極接合体の性能を向上させるということである。また、交差移動する水素及び酸素気体を遮断することによってラジカル生成自体を遮断するか、或いは電解質膜内に生成された過酸化水素を分解し、電解質膜の化学的耐久性を増加させるという肯定的な影響を及ぼすことができる。一方、否定的な影響としては、電解質膜内に導入された白金によって過酸化水素をラジカルに変換させるか、或いは交差移動する酸素気体をラジカルに直接変換させ、結果的に電解質膜の耐久性を減少させることがある。したがって、電解質膜内の白金を適用して電解質膜の化学的耐久性を増加させるためには電解質膜内における白金の作動メカニズムを理解し、それに合う解決方案を提示することが重要である。
【0010】
電解質膜内の交差移動する水素及び酸素気体を効果的に除去するためには、交差移動する水素及び酸素気体両方が過酸化水素分解触媒で出会う必要があるが、電解質膜自体は基本的に気体閉塞性(Gas Occlusive)であるため、交差移動する気体の流れは把握も調節もし難い。しかしながら、前述したように、上記の交差移動する気体は電解質膜内の過酸化水素分解触媒で出会って分解されるか、或いは電極に移って過酸化水素を発生させることがあり、したがって、交差移動する気体が電解質膜内過酸化水素分解触媒で最大限に分解されて電極にまで到達しないようにしなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】韓国公開特許公報第10-2008-0047574号
【文献】米国登録特許公報第9,847,533号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、電解質膜を交差移動する水素及び酸素気体が前記電解質膜に含まれた触媒金属に容易に到達して分解され得るようにすることによって、前記電解質膜の化学的耐久性を顕著に向上させることを目的とする。
【0013】
本発明の目的は、以上で言及した目的に限定されない。本発明の目的は、以下の説明からより明確になるはずであり、特許請求の範囲に記載された手段及びその組合せによって実現されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一実施例に係る燃料電池用電解質膜は、水素イオン伝導性があるイオノマーを含むイオン伝達層;及び前記イオン伝達層内に分散されている触媒複合体;を含み、前記触媒複合体は、過酸化水素分解活性がある触媒金属を含む触媒粒子;及び前記触媒粒子の表面の少なくとも一部に形成され、酸素透過性の材料を含む被覆層;を含むことができる。
【0015】
前記イオノマーは、過フッ素スルホン酸系イオノマー(perfluorinated sulfonic acid ionomer)を含むことができる。
【0016】
前記触媒粒子は、支持体無しで触媒金属からなるもの、又は触媒金属が支持体上に担持されたものを含むことができる。
【0017】
前記触媒金属は、白金(Pt)、金(Au)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)及びそれらの組合せからなる群から選ばれるものを含むことができる。
【0018】
前記支持体は、炭素;シリカ;ゼオライト;4B族、5B族、6B族、7B族及び8B族からなる群から選ばれる遷移金属又はその酸化物又は炭化物;及びそれらの組合せからなる群から選ばれるものを含むことができる。
【0019】
前記被覆層は、前記触媒粒子の表面のうち、前記触媒金属の表面の少なくとも一部に形成されたものであり得る。
【0020】
前記材料は、イオン伝導性のものであり得る。
【0021】
前記材料は、前記イオノマーと相溶性を有するものてあり得る。
【0022】
前記材料の酸素透過度が前記イオノマーの酸素透過度よりも高くてよい。
【0023】
前記材料は、30℃~150℃範囲の温度及び20%~100%範囲の相対湿度内におけるある地点で測定された酸素透過度が3.0×10-9cc・cm/(cm・sec・cmHg)以上である過フッ素スルホン酸系高分子を含むことができる。
【0024】
前記電解質膜は前記触媒複合体を0.01mg/cm~0.90mg/cmの含量で含むことができる。
【0025】
前記電解質膜は強化層を含み、前記強化層の少なくとも一面に前記イオン伝達層が設けられ得る。
【0026】
本発明の一実施例に係る燃料電池用電解質膜の製造方法は、過酸化水素活性がある触媒金属を含む触媒粒子及び酸素透過性の材料を結合して、前記触媒粒子の表面の少なくとも一部に前記材料を含む被覆層が形成された触媒複合体を製造する段階;前記触媒複合体をイオノマーと混合して分散液を製造する段階;及び前記分散液を塗布してイオン伝達層を形成する段階;を含むことができる。
【0027】
前記触媒複合体は、前記触媒粒子及び前記材料を混合して得た混合物を80℃~200℃で乾燥させて製造することができる。
【0028】
前記製造方法は、前記分散液を強化層の少なくとも一面上に塗布してイオン伝達層を形成することを含むことができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る電解質膜は、その内部を交差移動する水素及び酸素気体が前記電解質膜に含まれた触媒金属に容易に到達して分解されるので、前記電解質膜の化学的耐久性が著しく向上する。
【0030】
本発明は、電解質膜に別途の添加剤などを投入していないので、前記電解質膜の諸般性能の減少無しで前記電解質膜の化学的耐久性を大きく向上させることができる。
【0031】
本発明の効果は以上で言及した効果に限定されない。本発明の効果は、以下の説明から推論可能な全ての効果を含むと理解すべきであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明に係る膜-電極接合体を簡略に示す断面図である。
図2】本発明に係る電解質膜の一実施形態を示す図である。
図3A】本発明に係る触媒複合体の一例を示す図である。
図3B】本発明に係る触媒複合体の他の例を示す図である。
図4】被覆層が存在しない場合の電解質膜内で交差移動する酸素気体の流れを示す図である。
図5】本発明のように被覆層を形成した場合の電解質膜内で交差移動する酸素気体の流れを示す図である。
図6】本発明に係る電解質膜の変形された形態を示す図である。
図7】本発明に係る電解質膜の変形された形態を示す図である。
図8】本発明に係る電解質膜の変形された形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以上の本発明の目的、他の目的、特徴及び利点は、添付の図面に関連した以下の好ましい実施例から容易に理解できよう。しかし、本発明は、ここに説明する実施例に限定されず、別の形態として具体化されてもよい。むしろ、ここで紹介する実施例は開示の内容を徹底且つ完全にするために、そして通常の技術者に本発明の思想を十分に伝達するために提供されるものである。
【0034】
各図を説明する上で類似の参照符号を類似の構成要素に共通使用する。添付の図面において構造物の寸法は本発明の明確性のために実のものよりも拡大して示している。第1、第2などの用語は単に様々な構成要素を説明するためのものであり、当該構成要素はそれらの用語に限定されない。それらの用語は単に一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的で使用される。例えば、本発明の権利範囲を逸脱することなく第1構成要素は第2構成要素と命名されてもよく、同様に第2構成要素も第1構成要素と命名されてもよい。単数の表現は、文脈上明示されない限り、複数の表現をも含む。
【0035】
本明細書において、“含む”又は“有する”などの用語は、明細書上に記載された特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品又はそれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであり、1つ又はそれ以上の別の特徴や数字、段階、動作、構成要素、部分品又はそれらを組み合わせたものの存在又は付加の可能性を前もって排除するものではないと理解すべきである。また、層、膜、領域、板などの部分が他の部分の“上に”あるとする場合、これは、他の部分の“真上に”ある場合だけでなく、それらの間に更に他の部分がある場合も含む。逆に、層、膜、領域、板などの部分が他の部分の“下に”あるとする場合、これは、他の部分の“真下に”ある場合だけでなく、それらの間に更に他の部分がある場合も含む。
【0036】
特に明示しない限り、本明細書で使う成分、反応条件、ポリマー組成物及び配合物の量を表す数字、値及び/又は表現はいずれも、これらを本質的に別の物から得る上で発生する測定の様々な不確実性が反映された近似値であるので、“約”という用語によって修飾されるものと理解すべきである。また、本明細書に数値範囲が記載される場合、この範囲は連続的であり、特に指摘しない限り、その範囲における最小値から最大値までの全ての値が含まれる。さらに、このような範囲が整数を示す場合、特に指摘しない限り、最小値から最大値までを含む全ての整数が含まれる。
【0037】
図1は、本発明に係る膜-電極接合体(MEA)10を簡略に示す断面図である。これを参照すると、前記膜-電極接合体10は、カソード100、アノード200及びこれらの間に介在された電解質膜300を含む。
【0038】
前記カソード100は空気中の酸素気体と反応する構成であり、前記アノード200は水素気体と反応する構成である。具体的に、前記アノード200は水素酸化反応(HOR:Hydrogen Oxidation Reaction)によって水素を水素イオン(Proton)と電子(Electron)とに分解する。前記水素イオンは、アノード200と当接している電解質膜300を通じてカソード100に移動する。前記電子は外部導線(図示せず)を通じてカソード100に移動する。
【0039】
前記カソード100及びアノード200は、炭素上に担持された白金(Carbon-Supported Pt)などの触媒を含むことができる。また、その内部における水素イオンの伝導のためにイオノマー(又はバインダー)を含むことができる。
【0040】
図2は、本発明に係る電解質膜300の一実施形態を示す図である。これを参照すると、前記電解質膜300は、イオン伝達層400及び該イオン伝達層400に分散されている触媒複合体500を含む。
【0041】
前記イオン伝達層400は、水素イオン伝導性があるイオノマーを含むことができる。前記イオノマーは、水素イオン(Proton)を伝達可能な物質であれもいずれも可能である。例えば、過フッ素スルホン酸系イオノマー(PFSA:Perfluorinated Sulfonic Acid Ionomer)を含むことができる。
【0042】
図3Aは、前記触媒複合体500の一例を示す図である。これを参照すると、前記触媒複合体500は、触媒粒子510及び該触媒粒子510の表面の少なくとも一部に形成された被覆層520を含む。図3Aは前記被覆層520が前記触媒粒子510を完全にコーティングしている状態を示しているが、これは本発明の理解を助けるためのものであり、本発明に係る前記触媒複合体500を図3Aのような形態に限定して解釈してはならないだろう。例えば、前記被覆層520は、前記触媒粒子510の表面面積の1%以上、又は5%以上、又は10%以上、又は20%以上、又は30%以上、又は40%以上、又は50%以上、又は60%以上、又は70%以上、又は80%以上、又は90%以上、又は100%の面積を覆うように形成され得る。
【0043】
図3Bは、前記触媒複合体500の他の例を示す図である。これを参照すると、前記触媒粒子510は支持体無しに触媒金属511だけからなっており、該触媒粒子510の表面の少なくとも一部に被覆層520が形成され得る。以下では、説明の便宜上、前記触媒金属511が前記支持体512上に担持された形態の触媒粒子510を挙げて記述するが、本発明の権利範囲は、前記支持体512がない形態の触媒粒子510にも及ぶと解釈すべきであろう。
【0044】
前記触媒金属511は過酸化水素分解活性があるものであり、例えば、白金(Pt)、金(Au)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)及びそれらの組合せからなる群から選ばれるものを含むことができる。
【0045】
前記支持体512は特に限定されず、炭素;シリカ;ゼオライト;4B族、5B族、6B族、7B族及び8B族からなる群から選ばれる遷移金属、又はその酸化物又は炭化物;及びそれらの組合せからなる群から選ばれるものを含むことができる。
【0046】
前記支持体512は比表面積が大きいものを使用することが好ましい。前述したように、カソード100及び/又はアノード200にも触媒が添加され得るが、本発明に係る前記支持体521は、上記のように電極に用いられる触媒の支持体に比べて比表面積が遥かに広いことを特徴とする。具体的に、電極に用いられる支持体は、1Vを超える高電位に電極が露出される場合に早速発生する炭素腐食(Carbon Corrosion)に耐え得るように黒鉛化度が高い(Highly Graphitized)必要がある。ただし、黒鉛化度と比表面積は両立し得ない因子であるため、黒鉛化度が高いとともに比表面積も広い支持体を得ることは事実上容易でない。本発明の発明者らは、電解質膜内では0~1V程度の電位差にのみ耐えればいいので、黒鉛化度に関係なく比表面積の高い支持体を使用してもよいことに気付いた。そこで、本発明に係る前記支持体512は、比表面積が100m/g~3,000m/g、具体的には500m/g~3,000m/g、より具体的には800m/g~3,000m/gであることを特徴とする。したがって、前記支持体512には高い含量で触媒金属を担持することができる。
【0047】
また、前記支持体512は、平均粒径が10nm~200nm、具体的には50nm~200nmであることを特徴とする。平均粒径は、市販のレーザー回折散乱式粒度分布測定機、例えばマイクロトラック粒度分布測定装置を用いて測定することができる。また電子顕微鏡写真から任意に200個の粒子を抽出して算出してもよい。
【0048】
本発明に係る触媒複合体500は、前記触媒粒子510の表面の少なくとも一部に、酸素透過性の材料を含む被覆層520が形成されたことを特徴とする。
【0049】
図4は、被覆層520が存在しない場合の電解質膜300内で交差移動する酸素気体の流れを示す図であり、図5は、本発明のように被覆層520を形成した場合の電解質膜300内で交差移動する酸素気体の流れを示す図である。
【0050】
図4に示すように、被覆層520が存在しない場合、電解質膜500を交差移動する酸素気体が前記触媒金属511に到達できずに電極に移動することになる。これに対し、図5に示すように被覆層520が存在する場合には、触媒金属511の周辺部の気体透過性が周辺のイオン伝達層400に比べて高いため、酸素気体の流れを導き、前記酸素気体が触媒金属511に容易に到達できる。
【0051】
上記のように前記被覆層520は酸素透過性の材料を含むことができる。また、前記被覆層520は、前記触媒粒子510の表面の少なくとも一部、特に前記触媒金属511の表面の少なくとも一部に形成され得る。
【0052】
前記材料は特に限定されないが、その酸素透過度が前記イオン伝達層400に含まれたイオノマーの酸素透過度よりも高い物質であればいい。例えば、前記材料の酸素透過度は、30℃~150℃範囲の温度及び20%~100%範囲の相対湿度におけるある地点で測定された酸素透過度が3.0×10-9cc・cm/(cm・sec・cmHg)以上、又は5.0×10-9cc・cm/(cm・sec・cmHg)以上の物質であり得る。前記材料の酸素透過度が少なくとも3.0×10-9cc・cm/(cm・sec・cmHg)以上であるこそ、前述したように交差移動する酸素気体が触媒金属511に容易に到達して分解され得る。
【0053】
前記酸素透過度はJIS K7126-2、ISO 15105-2によって測定でき、具体的には下記の式1から計算できる。
[式1]
P=(X×k×T/(A×D×p))
【0054】
上記の式1において、Pは酸素透過度(Oxygen permeability)[cc・cm/(cm・sec・cmHg)]、Xは透過量(Permeation amount)[cc]、kは補正係数(Correction factor)、Tは膜厚(Thickness of membrane)[cm]、Aは透過面積(Permeation area)[cm]、Dは計量管通過時間(Tube passing time)[sec]、pは酸素分圧(Oxygen partial pressure)[cmHg]である。
【0055】
前記材料はイオン伝導性を有し、前記イオン伝達層400を構成するイオノマーと相溶性があるものであり得る。ここで、“相溶性がある”ということは、両物質の化学的性質が同一又は類似しているので、これらを混合すると分子状態まで均一に混合され、相分離が起きないこと、又は界面を形成しないことを意味する。
【0056】
そこで、前記材料としては、前述した酸素透過度を満たし、前記イオノマーと化学的性質が同一又は類似するものを使用することが好ましい。具体的に、前記材料としては過フッ素スルホン酸系高分子を含むことができる。
【0057】
前記電解質膜300は、前記触媒複合体500を0.01mg/cm~0.90mg/cm、又は0.05mg/cm~0.40mg/cmの含量で含むことができる。触媒複合体500の含量が少なすぎると、電解質膜の化学的耐久性の増大効果がわずかであり得る。一方、その含量が多すぎると、費用上昇が増加し、電解質膜内の電気絶縁性を確保し難いことがある。
【0058】
図6図8はそれぞれ、本発明に係る電解質膜300の変形された形態を示す図である。
【0059】
前記電解質膜300は、強化層600;及び該強化層の少なくとも一面に形成された前記イオン伝達層400を含むことができる。
【0060】
前記強化層600は、前記電解質膜300の機械的剛性を増大させるための構成である。前記強化層300は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、拡張型ポリテトラフルオロエチレン(e-PTFE)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリベンジミダゾール(PBI)、ポリイミド(PI)、ポリビニリデンフルオリド(PVdF)、ポリビニルクロリド(PVC)及びそれらの組合せからなる群から選ばれるものからなり、数多くの気孔を有する多孔性の膜であり得る。
【0061】
前記強化層600は多孔性を有し、前述したようなイオノマーが含浸されているものであり得る。
【0062】
前記電解質膜300は、図6に示すように、イオノマーが含浸された強化層600の一面に、前記触媒複合体500を含むイオン伝達層400が形成され、他面に、イオノマーだけからなるイオノマー層700が形成されたものであり得る。
【0063】
前記電解質膜300は、図7に示すように、イオノマーが含浸された強化層600の両面に、前記触媒複合体500を含むイオン伝達層400,400’が形成されたものであってもよい。
【0064】
前記電解質膜300は、図8に示すように、イオノマーが含浸された強化層600の一面に、イオノマー層700、及び前記触媒複合体500を含むイオン伝達層400が形成され、他面に、他のイオノマー層700’が形成されたものであってもよい。
【0065】
図6図8は、本発明に係る電解質膜300の様々な実施形態を例示的に示すもので、前記電解質膜300の権利範囲を限定するものではない。すなわち、強化層600の少なくとも一面に、前記触媒複合体500を含むイオン伝達層400が形成されたものであれば、図6図8以外の形態も本発明の電解質膜300に属し得る。
【0066】
本発明に係る電解質膜300の製造方法は、前記触媒粒子510及び酸素透過性の材料を結合して前記触媒複合体500を製造する段階、前記触媒複合体500をイオノマーと混合して分散液を製造する段階、及び前記分散液を塗布してイオン伝達層400を形成する段階を含む。
【0067】
前記触媒粒子510、酸素透過性の材料、触媒複合体500などの各構成に関する内容は前述した通りであり、以下ではその説明を省略する。
【0068】
前記触媒複合体500は、前記触媒粒子及び前記材料を混合して得た混合物を、80℃~200℃で乾燥させて製造することができる。この時、前記触媒粒子と前記材料を溶媒に投入及び撹拌して前記混合物を準備することができる。前記混合物の乾燥温度が80℃未満であると、前記溶媒が十分に蒸発せず、前記触媒複合体500を粉末化し難く、200℃を超えると、前記材料が熱分解することがある。
【0069】
前記分散液の塗布方法は特に限定されない。例えば、スクリーンプリンティング法、スプレーコーティング法、ドクターブレードを用いたコーティング法、グラビアコーティング法、ディップコーティング法、シルクスクリーン法、ペインティング法、又はスロットダイを用いたコーティング法などで塗布することができる。
【0070】
前述したように、前記電解質膜300は強化層600を含むことができる。
【0071】
図6に示すような電解質膜300は、イオノマー溶液を基材上に塗布する段階、前記イオノマー溶液上に多孔性の強化層600を提供して前記強化層600にイオノマーを含浸させ、イオノマー層700を形成する段階、前記イオノマー層700に対向する強化層600の一面に前記分散液を塗布してイオン伝達層400を形成する段階、及び乾燥及び熱処理を行う段階を含むことができる。ただし、この製造方法に限定されず、各段階の順序、塗布などの具体的な手段を適宜修正して実施することもできる。また、塗布の他、含浸、転写などの他の方法で電解質膜300を製造することもできる。これは、後述する残りの製造方法にも同様である。
【0072】
前記イオン伝達層400を形成した後、乾燥段階は、100℃以下の温度で30分以上行うことができる。乾燥温度が100℃を超えると前記イオノマーが熱分解することがある。一方、乾燥時間が30分未満であると十分に乾燥しないことがある。
【0073】
前記熱処理する段階は、110℃以上の温度で20分以下で行うことができる。熱処理の時間が長すぎると、イオノマーが熱分解することがある。
【0074】
図7に示すような電解質膜300は、前記分散液上に多孔性の強化層600を提供して前記強化層600にイオノマーを含浸させ、いずれか一つのイオン伝達層400’を形成する段階、前記イオン伝達層400’に対向する強化層600の一面に前記分散液を塗布して他のイオン伝達層400を形成する段階、及び乾燥と熱処理を行う段階を含むことができる。
【0075】
図8に示すような電解質膜300は、前記イオノマー溶液上に多孔性の強化層600を提供して前記強化層600にイオノマーを含浸させ、いずれか一つのイオノマー層700’を形成する段階、前記イオノマー層700’に対向する強化層600の一面にイオノマーを塗布して他のイオノマー層700を形成する段階、前記イオノマー層700上に前記分散液を塗布してイオン伝達層400を形成する段階、及び乾燥と熱処理を行う段階を含むことができる。
【0076】
イオノマー溶液に前述のような第1金属及び第2金属を含む触媒粒子を添加及び分散させる段階、その結果物を前記イオノマーの含浸された強化層上に塗布する段階、及び乾燥と熱処理を行う段階を含むことができる。ただし、この製造方法に限定されず、各段階の順序、塗布などの具体的な手段を適宜修正して実施することもできる。また、塗布の他、含浸、転写などの他の方法で電解質膜300を製造することもできる。これは、後述する残りの製造方法にも同様である。
【0077】
以上、本発明に係る電解質膜300及びその製造方法について説明した。本発明の本質は、電解質膜300に、過酸化水素分解活性のある触媒金属511を含む触媒粒子500を投入するが、その表面に酸素透過性のある材料からなる被覆層520を形成して、前記電解質膜300を交差移動する酸素気体が前記触媒金属511に容易に到達できるようにしたことである。このような目的及び効果を有すると、前述した様々な形態から設計変更された他の形態のものは本発明から容易に導出され得るだけでなく、本発明の権利範囲にも属することは明らかである。
【符号の説明】
【0078】
10 膜-電極接合体
100 カソード
200 アノード
300 電解質膜
400 イオン伝達層
500 触媒複合体
510 触媒粒子
511 触媒金属
512 支持体
520 被覆層
600 強化層
700 イオノマー層
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8