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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】酸化珪素膜用研磨液組成物
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240712BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20240712BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20240712BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20240712BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
H01L21/304 622X
B24B37/00 H
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020168624
(22)【出願日】2020-10-05
(65)【公開番号】P2022060878
(43)【公開日】2022-04-15
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】井上 将来
(72)【発明者】
【氏名】山口 哲史
【審査官】渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-69428(JP,A)
【文献】特開2018-187759(JP,A)
【文献】特開2013-42132(JP,A)
【文献】国際公開第2004/100242(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C09K 3/14
C09G 1/02
B24B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化セリウム粒子(成分A)と、下記式(I)で表される化合物(成分B)と、水系媒体と、を含有する、酸化珪素膜用研磨液組成物。
【化1】
前記式(I)中、R1及びR2は同一又は異なって、水素原子又はヒドロキシル基を示し、R3はグアニジノ又はアルキルグアニジノ基を示し、Xは炭素数1以上12以下のアルキレン基を示し、nは0又は1を示す。
【請求項2】
成分Bの含有量に対する成分Aの含有量の比(質量比A/B)は、2以上60以下である、請求項1に記載の研磨液組成物。
【請求項3】
成分Bの含有量は、0.001質量%以上0.1質量%以下である、請求項1又は2に記載の研磨液組成物。
【請求項4】
成分Aの含有量は、0.01質量%以上6質量%以下である、請求項1から3のいずれかに記載の研磨液組成物。
【請求項5】
前記研磨液組成物の25℃におけるpHは3以上8以下である、請求項1から4のいずれかに記載の研磨液組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の研磨液組成物を用いて被研磨膜を研磨する工程を含む、半導体基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1から5のいずれかに記載の研磨液組成物を用いて被研磨膜を研磨する工程を含み、前記被研磨膜は、半導体基板の製造過程で形成される酸化珪素膜である、研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、酸化珪素膜用研磨液組成物、これを用いた半導体基板の製造方法及び研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体素子の多層化、高精細化が飛躍的に進み、さらに微細なパターン形成技術が使用されるようになってきている。それに伴い、半導体素子の表面構造がさらに複雑になると共に、表面段差もさらに大きくなってきている。半導体素子を製造する際、基板上に形成された段差(表面凹凸)を平坦化する技術としてケミカルメカニカルポリッシング(CMP)技術が利用される。
【0003】
例えば、特許文献1では、液体担体、研磨粒子、金属陽イオン、及び、双性イオン化合物を含む化学機械処理組成物が提案されている。
特許文献2では、研磨用組成物を用いて2種以上の材料を含む研磨対象物を研磨する研磨方法であって、研磨対象物の表面ゼータ電位を均一化することを含む研磨方法が提案されている。さらに、同文献には、前記均一化は、研磨対象物を2種以上の材料に吸着する吸着基と、ゼータ電位を付与する官能基と、を有する電位均一化剤に浸漬させておくことにより行うことが記載されている。
特許文献3には、水と、酸化セリウム粒子と、分子内に、アミノ基、並びに、スルホン酸基及び/若しくはホスホン酸基を有する化合物と、を含有し、[化合物に含まれる酸基のモル数]/[酸化セリウム粒子の総表面積]が1.6×10-5モル/m2以上5×10-2モル/m2以下である、酸化珪素膜用研磨液組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-534836号公報
【文献】国際公開第2017/057156号
【文献】国際公開第2016/047725号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の半導体分野においては高集積化が進んでおり、配線の複雑化や微細化が求められている。そのため、CMP研磨では、高積層化による段差解消のために酸化珪素膜(被研磨膜)に対してさらなる研磨速度の向上が求められている。また、研磨液組成物であるスラリーは砥粒と薬剤が共存した状態で安定的に存在することが品質安定化には必要不可欠であり、研磨液組成物の保存安定性の向上が求められている。
【0006】
特許文献1では、負電荷を有するリン含有基、及び、正電荷を有する陽イオン基を有する双性イオン化合物を用いることにより研磨速度の向上効果は優れるものの、保存安定性の点でいまだ十分満足のいくものではなかった。
特許文献2では、電荷を付与する官能基としてアミノ基を挙げ、ゼータ電位を付与する効果(被研磨面の平坦化及び研磨速度の向上効果)を明示しているが、その効果は十分満足のいくものではなかった。さらに、保存安定性について改善の余地があった。
特許文献3では、アミノ基、並びに、スルホン酸基及び/若しくはホスホン酸基を有する化合物を用いることにより研磨速度の向上効果は優れるものの、保存安定性の点でいまだ十分満足のいくものではなかった。
【0007】
そこで、本開示は、酸化珪素膜に対する研磨速度の向上と保存安定性の向上とを両立可能な酸化珪素膜用研磨液組成物、これを用いた半導体基板の製造方法及び研磨方法等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、一態様において、酸化セリウム粒子(成分A)と、下記式(I)で表される化合物(成分B)と、水系媒体と、を含有する、酸化珪素膜用研磨液組成物に関する。
【化1】
前記式(I)中、R1及びR2は同一又は異なって、水素原子又はヒドロキシル基を示し、R3はグアニジノ又はアルキルグアニジノ基を示し、Xは炭素数1以上12以下のアルキレン基を示し、nは0又は1を示す。
【0009】
本開示は、一態様において、本開示の酸化珪素膜用研磨液組成物を用いて被研磨膜を研磨する工程を含む、半導体基板の製造方法に関する。
【0010】
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨膜を研磨する工程を含み、前記被研磨膜は、半導体基板の製造過程で形成される酸化珪素膜である、研磨方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、一態様において、酸化珪素膜の研磨速度の向上と保存安定性の向上とを両立可能な酸化珪素膜用研磨液組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らが鋭意検討した結果、特定の化合物を用いることで、酸化珪素膜の研磨速度及び保存安定性を向上できるという知見に基づく。
【0013】
すなわち、本開示は、一態様において、酸化セリウム粒子(成分A)と、上記式(I)で表される化合物(成分B)と、水系媒体と、を含有する、酸化珪素膜用研磨液組成物(以下、「本開示の研磨液組成物」ともいう)に関する。
【0014】
本開示の研磨液組成物によれば、一又は複数の実施形態において、酸化珪素膜の研磨速度の向上と保存安定性の向上とを両立できる。
【0015】
本開示の効果発現メカニズムの詳細について明らかではないが、以下のように推察される。
研磨砥粒として用いられる酸化セリウム粒子は、(100)面が研磨に関与し、(111)面は研磨に関与しないことが知られている。研磨速度を向上させるためには、酸化セリウム粒子の(100)面が被研磨対象物(酸化珪素膜)に接触する頻度を向上させることが必要となる。
本開示では、成分Bのリン酸基又はホスホン酸基が酸化セリウム粒子(成分A)の(111)面に吸着することで、(111)面の被研磨対象物への吸着性が低下し、(100)面の被研磨対象物への接触頻度が向上し、酸化珪素膜に対する研磨速度が向上すると考えられる。
また、一般的にグアニジノ基又はアルキルグアニジノ基はアミノ基に比べて塩基性が強いことが知られており、本開示における成分Bのグアニジノ基又はアルキルグアニジノ基は、研磨液組成物中で成分Aに正の電荷を付与する効果が高いと考えられる。そのため、成分Bのリン酸基又はホスホン酸基が成分Aに吸着した際に低下する成分Aの電荷を、成分Bのグアニジノ基又はアルキルグアニジノ基によって補うことができるので、研磨に使用する前の研磨液組成物中の成分Aの凝集を抑制でき、研磨液組成物の保存安定性が向上すると考えられる。
但し、本開示はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0016】
[酸化セリウム粒子(成分A)]
本開示の研磨液組成物は、研磨砥粒として酸化セリウム(以下、「セリア」ともいう)粒子(以下、単に「成分A」ともいう)を含有する。成分Aとしては、正帯電セリア又は負帯電セリアを用いることができる。成分Aの帯電性は、特に限定されないが、研磨速度向上の観点から、正帯電セリアが好ましい。成分Aの帯電性は、例えば、電気音響法(ESA法:Electorokinetic Sonic Amplitude)により求められる砥粒粒子表面における電位(表面電位)を測定することにより確認できる。表面電位は、例えば、「ゼータプローブ」(協和界面化学社製)を用いて測定でき、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。成分Aは、1種類でもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【0017】
成分Aの製造方法、形状、及び表面状態については特に限定されなくてもよい。成分Aとしては、例えば、コロイダルセリア、不定形セリア、セリアコートシリカ等が挙げられる。コロイダルセリアは、例えば、特表2010-505735号公報の実施例1~4に記載の方法で、ビルドアッププロセスにより得ることができる。不定形セリアとしては、例えば、粉砕セリアが挙げられる。粉砕セリアの一実施形態としては、例えば、炭酸セリウムや硝酸セリウムなどのセリウム化合物を焼成、粉砕して得られる焼成粉砕セリアが挙げられる。粉砕セリアのその他の実施形態としては、例えば、無機酸や有機酸の存在下でセリア粒子を湿式粉砕することにより得られる単結晶粉砕セリアが挙げられる。湿式粉砕時に使用される無機酸としては、例えば硝酸が挙げられ、有機酸としては、例えば、カルボキシル基を有する有機酸が挙げられ、具体的には、ポリアクリル酸アンモニウム等のポリカルボン酸塩、ピコリン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、アミノ安息香酸及びp-ヒドロキシ安息香酸から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。例えば、湿式粉砕時にピコリン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、アミノ安息香酸及びp-ヒドロキシ安息香酸から選ばれる少なくとも1種を使用した場合、正帯電セリアを得ることができ、湿式粉砕時にポリアクリル酸アンモニウム等のポリカルボン酸塩を使用した場合、負帯電セリアを得ることができる。湿式粉砕方法としては、例えば、遊星ビーズミル等による湿式粉砕が挙げられる。セリアコートシリカとしては、例えば、特開2015-63451号公報の実施例1~14もしくは特開2013-119131号公報の実施例1~4に記載の方法で、シリカ粒子表面の少なくとも一部が粒状セリアで被覆された構造を有する複合粒子が挙げられ、該複合粒子は、例えば、シリカ粒子にセリアを沈着させることで得ることができる。
【0018】
成分Aの形状としては、例えば、略球状、多面体状、ラズベリー状が挙げられる。
【0019】
成分Aの平均一次粒子径は、研磨速度向上の観点から、5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましく、20nm以上が更に好ましく、そして、研磨傷発生の抑制の観点から、300nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、150nm以下が更に好ましく、100nm以下が更に好ましく、50nm以下が更に好ましい。本開示において成分Aの平均一次粒子径は、BET(窒素吸着)法によって算出されるBET比表面積S(m2/g)を用いて算出される。BET比表面積は、実施例に記載の方法により測定できる。
【0020】
本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量は、研磨速度向上の観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましく、0.125質量%以上が更により好ましく、0.15質量%以上が更により好ましく、そして、研磨傷発生抑制の観点から、6質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましく、0.5質量%以下が更により好ましく、0.3質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量は、0.01質量%以上6質量%以下が好ましく、0.05質量%以上3質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上1質量%以下が更に好ましく、0.125質量%以上0.5質量%以下が更に好ましく、0.15質量%以上0.3質量%以下が更により好ましい。成分Aが2種以上の組合せである場合、成分Aの含有量はそれらの合計の含有量をいう。
【0021】
[式(I)で表される化合物(成分B)]
本開示の研磨液組成物は、下記式(I)で表される化合物(以下、単に「成分B」ともいう)を含む。成分Bは、1種であってもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【0022】
【化2】
【0023】
式(I)中、R1及びR2は同一又は異なって、水素原子又はヒドロキシル基を示し、R3はグアニジノ又はアルキルグアニジノ基を示し、Xは炭素数1以上12以下のアルキレン基を示し、nは0又は1を示す。
【0024】
式(I)において、R1及びR2は、研磨速度向上の観点から、それぞれ、ヒドロキシル基が好ましい。
3は、研磨速度向上の観点から、アルキルグアニジノ基が好ましく、炭素数2以上12以下のアルキル基を有するアルキルグアニジノ基がより好ましく、炭素数2以上4以下のアルキル基を有するアルキルグアニジノ基が更に好ましく、メチルグアニジノ基が更に好ましく、1-メチルグアニジノ基が更に好ましい。
Xは、研磨速度向上の観点から、炭素数1以上10以下のアルキレン基が好ましく、炭素数1以上8以下のアルキレン基がより好ましく、炭素数1以上6以下のアルキレン基が更に好ましく、炭素数1以上4以下のアルキレン基が好ましく、炭素数2又は3のアルキレン基が更に好ましく、炭素数2のアルキレン基(エチレン基)が好ましい。
nは、研磨速度向上の観点から、1が好ましい。
【0025】
成分Bとしては、例えば、クレアチノールホスファート等が挙げられる。
【0026】
本開示の研磨液組成物中の成分Bの含有量は、研磨速度向上の観点から、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、更に好ましくは0.0075質量%以上であり、更に好ましくは0.01質量%以上であり、そして、保存安定性の観点から、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.075質量%以下、更に好ましくは0.05質量%以下、更に好ましくは0.03質量%以下である。より具体的には、本開示の研磨液組成物中の成分Bの含有量は、好ましくは0.001質量%以上0.1質量%以下、より好ましくは0.005質量%以上0.075質量%以下、更に好ましくは0.0075質量%以上0.05質量%以下、更に好ましくは0.01質量%以上0.03質量%以下である。本開示の研磨液組成物中の成分Bの含有量は、研磨速度向上及び保存安定性の観点から、好ましくは0.01mM、より好ましくは0.05mM以上、更に好ましくは0.1mM以上であり、そして、好ましくは5mM以下、より好ましくは1mM以下、更に好ましくは0.5mM以下である。成分Bが2種以上の組合せである場合、成分Bの含有量はそれらの合計の含有量をいう。
【0027】
本開示の研磨液組成物における、成分Bの含有量に対する成分Aの含有量の比(質量比A/B)は、保存安定性の観点から、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは6以上、更に好ましくは10以上であり、そして、研磨速度向上の観点から、好ましくは60以下、より好ましくは30以下、更に好ましくは20以下、更に好ましくは15以下である。より具体的には、本開示の研磨液組成物における、質量比A/Bは、好ましくは2以上60以下、より好ましくは3以上30以下、更に好ましくは6以上30以下、更に好ましくは6以上20以下、更に好ましくは10以上15以下である。
【0028】
[水系媒体]
本開示の研磨液組成物に含まれる水系媒体としては、蒸留水、イオン交換水、純水及び超純水等の水、又は、水と溶媒との混合溶媒等が挙げられる。上記溶媒としては、水と混合可能な溶媒(例えば、エタノール等のアルコール)が挙げられる。水系媒体が、水と溶媒との混合溶媒の場合、混合媒体全体に対する水の割合は、本開示の効果が妨げられない範囲であれば特に限定されなくてもよく、経済性の観点から、例えば、95質量%以上が好ましく、98質量%以上がより好ましく、そして、100質量%未満が好ましい。被研磨基板の表面清浄性の観点から、水系媒体としては、水が好ましく、イオン交換水及び超純水がより好ましく、超純水が更に好ましい。
本開示の研磨液組成物中の水系媒体の含有量は、成分A、成分B及び必要に応じて配合される後述する任意成分を除いた残余とすることができる。
【0029】
[任意成分]
本開示の研磨液組成物は、pH調整剤、界面活性剤、増粘剤、分散剤、防錆剤、防腐剤、塩基性物質、研磨速度向上剤、窒化珪素膜研磨抑制剤、ポリシリコン膜研磨抑制剤等の任意成分をさらに含有することができる。本開示の研磨液組成物が任意成分をさらに含有する場合、本開示の研磨液組成物中の任意成分の含有量は、研磨速度向上の観点から、0.001質量%以上が好ましく、0.0025質量%以上がより好ましく、0.01質量%以上が更に好ましく、そして、1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の研磨液組成物中の任意成分の含有量は、0.001質量%以上1質量%以下が好ましく、0.0025質量%以上0.5質量%以下がより好ましく、0.01質量%以上0.1質量%以下が更に好ましい。
【0030】
本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、金属陽イオンを含まなくてもよい。
【0031】
[研磨液組成物]
本開示の研磨液組成物は、成分A、成分B、水系媒体、及び必要に応じて任意成分を配合する工程を含む製造方法によって製造できる。例えば、本開示の研磨液組成物は、成分A及び水系媒体を含む分散液(スラリー)、成分Bと水系媒体とを含む溶液と、必要に応じて任意成分を配合してなるものとすることができる。本開示において「配合する」とは、成分A、成分B、及び水系媒体、並びに必要に応じて任意成分を同時に又は順に混合することを含む。混合する順序は特に限定されない。前記配合は、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波分散機及び湿式ボールミル等の混合器を用いて行うことができる。本開示の研磨液組成物の製造方法における各成分の配合量は、上述した本開示の研磨液組成物における各成分の含有量と同じとすることができる。
【0032】
本開示の研磨液組成物の実施形態は、全ての成分が予め混合された状態で市場に供給される、いわゆる1液型であってもよいし、使用時に混合される、いわゆる2液型であってもよい。
【0033】
本開示の研磨液組成物のpHは、研磨速度向上の観点から、好ましくは3以上、より好ましくは4以上であり、更に好ましくは4.5以上であり、そして、保存安定性向上の観点から、好ましくは8以下、より好ましくは7.5以下、更に好ましくは7以下である。本開示において、研磨液組成物のpHは、25℃における値であって、pHメータを用いて測定した値である。本開示の研磨液組成物のpHは、具体的には、実施例に記載の方法で測定できる。
【0034】
本開示において「研磨液組成物中の各成分の含有量」とは、研磨液組成物の研磨への使用を開始する時点での前記各成分の含有量をいう。本開示の研磨液組成物は、その安定性が損なわれない範囲で濃縮された状態で保存及び供給されてもよい。この場合、製造・輸送コストを低くできる点で好ましい。そしてこの濃縮液は、必要に応じて前述の水系媒体で適宜希釈して研磨工程で使用することができる。希釈割合としては5~100倍が好ましい。
【0035】
[被研磨膜]
本開示の研磨液組成物を用いて研磨される被研磨膜としては、例えば、半導体基板の製造過程で形成される酸化珪素膜が挙げられる。したがって、本開示の研磨液組成物は、酸化珪素膜の研磨を必要とする工程に使用できる。一又は複数の実施形態において、本開示の研磨液組成物は、半導体基板の素子分離構造を形成する工程で行われる酸化珪素膜の研磨、層間絶縁膜を形成する工程で行われる酸化珪素膜の研磨、埋め込み金属配線を形成する工程で行われる酸化珪素膜の研磨、又は、埋め込みキャパシタを形成する工程で行われる酸化珪素膜の研磨に好適に使用できる。その他の一又は複数の実施形態において、本開示の研磨液組成物は、3次元NAND型フラッシュメモリ等の3次元半導体装置の製造に好適に使用できる。
【0036】
[研磨液キット]
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を調製するためのキット(以下、「本開示の研磨液キット」ともいう)に関する。
本開示の研磨液キットとしては、例えば、成分A及び水系媒体を含む砥粒分散液(第1液)と、成分Bを含む添加剤水溶液(第2液)と、を相互に混合されない状態で含み、これらが使用時に混合され、必要に応じて水系媒体を用いて希釈される、研磨液キット(2液型研磨液組成物)が挙げられる。前記砥粒分散液(第1液)に含まれる水系媒体は、研磨液組成物の調製に使用する水系媒体の全量でもよいし、一部でもよい。前記添加剤水溶液(第2液)には、研磨液組成物の調製に使用する水系媒体の一部が含まれていてもよい。前記砥粒分散液(第1液)及び前記添加剤水溶液(第2液)にはそれぞれ必要に応じて、上述した任意成分が含まれていてもよい。前記砥粒分散液(第1液)と前記添加剤水溶液(第2液)との混合は、研磨対象の表面への供給前に行われてもよいし、これらは別々に供給されて被研磨基板の表面上で混合されてもよい。
本開示の研磨液キットによれば、酸化珪素膜に対する研磨速度の向上と保存安定性の向上とを両立可能な研磨液組成物が得られうる。
【0037】
[半導体基板の製造方法]
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨膜を研磨する工程(以下、「本開示の研磨液組成物を用いた研磨工程」ともいう)を含む、半導体基板の製造方法(以下、「本開示の半導体基板の製造方法」ともいう)に関する。本開示の半導体基板の製造方法は、例えば、本開示の研磨液組成物を用いて、酸化珪素膜の窒化珪素膜と接する面の反対面、例えば、酸化珪素膜の凹凸段差面を研磨する工程を含む、半導体装置の製造方法に関する。本開示の半導体装置の製造方法によれば、酸化珪素膜の高速研磨が可能であるので、半導体装置を効率よく製造できるという効果が奏されうる。
【0038】
酸化珪素膜の凹凸段差面は、例えば、酸化珪素膜を化学気相成長法等の方法で形成した際に酸化珪素膜の下層の凹凸段差に対応して自然に形成されものであってもよいし、リソグラフィー法等を用いて凹凸パターンを形成することにより得られたものであってもよい。
【0039】
本開示の半導体基板の製造方法の具体例としては、まず、シリコン基板を酸化炉内で酸素に晒すことよりその表面に二酸化シリコン層を成長させ、次いで、当該二酸化シリコン層上に窒化珪素(Si34)膜又はポリシリコン膜等の研磨ストッパ膜を、例えばCVD法(化学気相成長法)にて形成する。次に、シリコン基板と前記シリコン基板の一方の主面側に配置された研磨ストッパ膜とを含む基板、例えば、シリコン基板の二酸化シリコン層上に研磨ストッパ膜が形成された基板に、フォトリソグラフィー技術を用いてトレンチを形成する。次いで、例えば、シランガスと酸素ガスを用いたCVD法により、トレンチ埋め込み用の被研磨膜である酸化珪素(SiO2)膜を形成し、研磨ストッパ膜が被研磨膜(酸化珪素膜)で覆われた被研磨基板を得る。酸化珪素膜の形成により、前記トレンチは酸化珪素膜の酸化珪素で満たされ、研磨ストッパ膜の前記シリコン基板側の面の反対面は酸化珪素膜によって被覆される。このようにして形成された酸化珪素膜のシリコン基板側の面の反対面は、下層の凸凹に対応して形成された段差を有する。次いで、CMP法により、酸化珪素膜を、少なくとも研磨ストッパ膜のシリコン基板側の面の反対面が露出するまで研磨し、より好ましくは、酸化珪素膜の表面と研磨ストッパ膜の表面とが面一になるまで酸化珪素膜を研磨する。本開示の研磨液組成物は、このCMP法による研磨を行う工程に用いることができる。酸化珪素膜の下層の凹凸に対応して形成された凸部の幅は、例えば、0.5μm以上5000μm以下であり、凹部の幅は、例えば、0.5μm以上5000μm以下である。
【0040】
CMP法による研磨では、被研磨基板の表面と研磨パッドとを接触させた状態で、本開示の研磨液組成物をこれらの接触部位に供給しつつ被研磨基板及び研磨パッドを相対的に移動させることにより、被研磨基板の表面の凹凸部分を平坦化させる。
なお、本開示の半導体基板の製造方法において、シリコン基板の二酸化シリコン層と研磨ストッパ膜との間に他の絶縁膜が形成されていてもよいし、被研磨膜(例えば、酸化珪素膜)と研磨ストッパ膜(例えば、窒化珪素膜)との間に他の絶縁膜が形成されていてもよい。
【0041】
本開示の研磨液組成物を用いた研磨工程において、研磨パッドの回転数は、例えば、30~200rpm/分、被研磨基板の回転数は、例えば、30~200rpm/分、研磨パッドを備えた研磨装置に設定される研磨荷重は、例えば、20~500g重/cm2、研磨液組成物の供給速度は、例えば、10~500mL/分に設定できる。
【0042】
本開示の研磨液組成物を用いた研磨工程において、用いられる研磨パッドの材質等については、従来公知のものが使用できる。研磨パッドの材質としては、例えば、硬質発泡ポリウレタン等の有機高分子発泡体や無発泡体等が挙げられるが、なかでも、硬質発泡ポリウレタンが好ましい。
【0043】
[研磨方法]
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨膜を研磨する工程を含み、被研磨膜は、半導体基板の製造過程で形成される酸化珪素膜である、研磨方法(以下、本開示の研磨方法ともいう)に関する。本開示の研磨方法を使用することにより、酸化珪素膜の研磨速度向上が可能であるため、品質が向上した半導体基板の生産性を向上できるという効果が奏されうる。具体的な研磨の方法及び条件は、上述した本開示の半導体基板の製造方法と同じようにすることができる。
【実施例
【0044】
以下に、実施例により本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0045】
1.研磨液組成物の調製
[実施例1~5及び比較例1~4の研磨液組成物の調製]
表2に示す酸化セリウム粒子(成分A)、表1~2に示す化合物B1~B4(成分B又は非成分B)及び水を混合して実施例1~5及び比較例1~4の研磨液組成物を得た。研磨液組成物中の各成分の含有量(質量%、有効分)はそれぞれ、表2に示すとおりであり、水の含有量は、成分Aと成分B又は非成分Bとを除いた残余である。pH調整はアンモニアもしくは硝酸を用いて実施した。
【0046】
表2に示す酸化セリウム粒子(成分A)には下記のものを用いた。
正帯電セリア(焼成粉砕セリア、平均一次粒子径:28.6nm、BET比表面積:29.1m2/g、表面電位=102mV)
【0047】
表1~2に示す化合物B1~B4には下記のものを用いた。
B1:Creatinol Phosphate(クレアチノールホスファート)[東京化成工業社製](成分B)
B2:O-Phosphorylethanolamine(O-ホスホリルエタノールアミン)[東京化成工業社製](非成分B)
B3:アグマチン硫酸塩[東京化成工業社製](非成分B)
B4:Creatine Hydrate(クレアチン水和物)[東京化成工業社製](非成分B)
【0048】
【表1】
【0049】
2.各種パラメータの測定方法
[研磨液組成物のpH]
研磨液組成物の25℃におけるpH値は、pHメータ(東亜電波工業株式会社、HM-30G)を用いて測定した値であり、電極の研磨液組成物への浸漬後1分後の数値である。結果を表2に示した。
【0050】
[酸化セリウム粒子の平均一次粒子径]
酸化セリウム粒子の平均一次粒子径(nm)は、BET(窒素吸着)法によって算出される比表面積S(m2/g)を用いて下記式で算出される粒径(真球換算)を意味し、下記式により算出される。
下記式中、比表面積Sは、酸化セリウム粒子のスラリー10gを110℃で減圧乾燥して水分を除去したものをメノウ乳鉢で解砕し、得られた粉末を流動式比表面積自動測定装置フローソーブ2300(島津製作所製)を用いて測定することにより求めた。
平均一次粒子径(nm)=820/S
【0051】
[酸化セリウムの表面電位]
酸化セリウム粒子の表面電位(mV)は、表面電位測定装置(協和界面化学社製「ゼータプローブ」)にて測定した。超純水を用い、酸化セリウム濃度0.15%に調整し、表面電位測定装置に投入し、粒子密度7.13g/ml、粒子誘電率7の条件にて表面電位を測定した。測定回数は3回行い、それらの平均値を測定結果とした。
【0052】
3.研磨液組成物(実施例1~5及び比較例1~4)の評価
[評価用サンプル]
評価用サンプルとして市販のCMP特性評価用ウエハ(Advantec社製の「P-TEOS CMP464 PTウエハ」、直径200mm)を用意し、これを40mm×40mmに切断した。この評価用サンプルは、シリコン基板上に膜厚2000nmの酸化珪素膜が凸部として配置されており、凹部も同様に膜厚2000nmの酸化珪素膜が配置され、凸部と凹部の段差が800nmになるよう、エッチングにより線状凹凸パターンが形成されている。酸化珪素膜はP-TEOSにより形成されており、凸部及び凹部の線幅がそれぞれ100μmのものを測定対象として使用した。
【0053】
[研磨条件]
研磨装置:TriboLab CMP(Bruker社製)
定盤回転数:100rpm
ヘッド回転数:107rpm
研磨荷重:99.3N
研磨液供給量:50mL/分
研磨時間:1/3分間
【0054】
[研磨速度]
実施例1~5及び比較例1~4の各研磨液組成物を用いて、上記研磨条件で評価用サンプルを研磨した。研磨後、超純水を用いて洗浄し、乾燥して、評価用サンプルを後述の光干渉式膜厚測定装置による測定対象とした。
研磨前及び研磨後において、光干渉式膜厚測定装置(SCREENセミコンダクターソリューションズ社製「VM-1230」)を用いて、凸部の酸化珪素膜の膜厚を測定した。凸部の酸化珪素膜の研磨速度を下記式により算出した。結果を表2に示した。
凸部の研磨速度(nm/分)
=[研磨前の凸部の酸化珪素膜厚さ(nm)-研磨後の凸部の酸化珪素膜厚さ(nm)]/研磨時間(分)
【0055】
[保存安定性]
調製した各研磨液組成物中の酸化セリウム粒子(成分A)のゼータ電位を、電気音響法高濃度ゼータ電位計(Agilent Technologies社製)を用いて測定し、100mLの容器に入れて室温条件で静置した。1週間経過後、再度ゼータ電位を測定し、保存前後のゼータ電位の変化率を下記式により求めた。そして、下記評価基準に従って、保存安定性を評価した。結果を表2に示した。研磨液組成物中の酸化セリウム粒子(成分A)のゼータ電位の変化率が小さいほど、成分Aの凝集抑制が維持され、保存安定性に優れていると判断できる。
保存前後のゼータ電位の変化率
=(保存前のゼータ電位-保存後のゼータ電位)/(保存前のゼータ電位)×100
<評価基準>
A:保存前後のゼータ電位の変化率が30%未満
B:保存前後のゼータ電位の変化率が30%以上40%未満
C:保存前後のゼータ電位の変化率が40%以上
【0056】
【表2】
【0057】
表2に示されるように、実施例1~5の研磨液組成物は、比較例1~4の研磨液組成物に比べて、研磨速度の向上と保存安定性の向上とを両立できていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本開示に係る研磨液組成物は、高密度化又は高集積化用の半導体装置の製造方法において有用である。