(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】加熱式燃料デリバリパイプ
(51)【国際特許分類】
F02M 53/02 20060101AFI20240712BHJP
F02M 55/02 20060101ALI20240712BHJP
F02M 53/00 20060101ALI20240712BHJP
F02M 31/125 20060101ALI20240712BHJP
【FI】
F02M53/02
F02M55/02 330B
F02M53/00 J
F02M31/125 E
(21)【出願番号】P 2020182837
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2023-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000113942
【氏名又は名称】マルヤス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100155099
【氏名又は名称】永井 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100147625
【氏名又は名称】澤田 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100190333
【氏名又は名称】木村 群司
(72)【発明者】
【氏名】長澤 健人
(72)【発明者】
【氏名】中川 貴登
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-223213(JP,A)
【文献】特表2008-542622(JP,A)
【文献】特開2016-183677(JP,A)
【文献】特開2014-111931(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第3282118(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 53/00 ~ 53/06
F02M 55/00 ~ 55/02
F02M 31/12 ~ 31/125
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ポンプから燃料が供給される燃料通路が内部に形成されたメインパイプと、
前記メインパイプから送出される燃料を加熱する加熱装置と、
前記加熱装置により加熱される燃料を噴射させる燃料噴射弁が内部に連結される筒形の噴射弁ソケット部とを備え、
前記燃料噴射弁は斜め下方に傾斜した姿勢でエンジンに取り付けられ、
前記加熱装置は、前記メインパイプの斜め上側にて前記燃料噴射弁と同様に斜め下方に傾斜する加熱室を有した加熱ケーシングと、前記加熱ケーシングの加熱室の燃料を加熱する棒状加熱体とを備え、前記加熱ケーシングの下部に前記噴射弁ソケット部の軸方向が前記棒状加熱体の軸方向と平行に配置された加熱式燃料デリバリパイプであって、
前記加熱ケーシングの加熱室と前記噴射弁ソケット部の内部空間とを隔てる隔壁を設け、前記噴射弁ソケット部の内部空間は前記隔壁に設けた燃料を通すための燃料通過口によって前記加熱室に連通接続されており、
前記噴射弁ソケット部の内部空間には前記燃料噴射弁より上側に燃料を加熱する加熱空間を形成し、前記棒状加熱体を前記加熱室から燃料が通過可能な状態で前記燃料通過口を通して前記加熱空間内に挿通したことを特徴とする加熱式燃料デリバリパイプ。
【請求項2】
請求項1に記載の加熱式燃料デリバリパイプにおいて、
前記加熱空間の容積を前記加熱室の容積の30%~60%の範囲としたことを特徴とする加熱式燃料デリバリパイプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガソリンよりも着火温度の高いアルコールを含む燃料を加熱して噴射する場合に用いる加熱式燃料デリバリパイプに関する。
【背景技術】
【0002】
エタノール燃料またはエタノール混合ガソリン燃料を使用するエンジンの場合に、ガソリンよりも着火温度の高いエタノールを低温始動時にも着火しやすくするために、燃料を予め加熱してエンジンに供給する方式が採用されている。この場合には、燃料デリバリパイプのメインパイプから燃料噴射弁に供給される間に燃料を加熱するように、メインパイプと噴射弁ソケットとの間に加熱装置を設けるようにしている。
【0003】
上述した燃料を加熱して燃料噴射弁に供給する加熱式燃料デリバリパイプの一例が特許文献1に開示されている。特許文献1の加熱式燃料デリバリパイプは、燃料ポンプから燃料が供給される燃料通路が内部に形成されたメインパイプと、メインパイプから送出される燃料を加熱する加熱装置と、加熱装置により加熱された燃料を噴射させる燃料噴射弁が内部に連結される噴射弁ソケット部とを備えている。加熱装置は内部にメインパイプから送出される燃料を加熱するための筒形加熱ケーシングと、筒形加熱ケーシング内を加熱する棒状加熱体とを備え、筒形加熱ケーシングの下部に燃料噴射弁を連結するための噴射弁ソケット部が一体的に設けられている。
【0004】
この加熱式燃料デリバリパイプにおいては、燃料噴射弁は斜めに傾いた傾斜姿勢でエンジンに取り付けられており、噴射弁ソケット部及び加熱装置の筒形加熱ケーシングの軸方向は燃料噴射弁の軸方向と平行に配置されている。燃料ポンプから供給される燃料はメインパイプから加熱装置の筒形加熱ケーシングに送られ、燃料は筒形加熱ケーシング内の燃焼室内で棒状加熱体により加熱された後で噴射弁ソケット部に連結された燃料噴射弁からエンジンの燃焼室内に噴射される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の加熱式燃料デリバリパイプにおいては、加熱装置の筒形加熱ケーシングはエンジンが温まるまでの始動時の時間として約5~6秒間、燃焼噴射弁に温めた燃料を供給できるようにした加熱室の容積としている。棒状加熱体は加熱室内にてメインパイプ側に寄せて配置されており、筒形加熱ケーシングの加熱室内の燃料は、メインパイプ側と反対側の上部の角部で温度が高くなっているが、メインパイプ側の反対側の下部の角部で温度が低くなっており、加熱室内の燃料が全体的に十分に加熱されているわけではない。このため、加熱室から燃料噴射弁に供給される燃料は始めは温度が高いが徐々に温度が低下し、温度の低い燃料を燃焼させたときに排気ガスに含まれる炭化水素類(HC)や窒素酸化物(NOx)が高くなるおそれがある。本発明は、加熱式燃料デリバリパイプにおいて、エンジン始動時に燃料噴射弁から噴射される燃料の温度が低くなりにくくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、燃料ポンプから燃料が供給される燃料通路が内部に形成されたメインパイプと、メインパイプから送出される燃料を加熱する加熱装置と、加熱装置により加熱される燃料を噴射させる燃料噴射弁が内部に連結される筒形の噴射弁ソケット部とを備え、燃料噴射弁は斜め下方に傾斜した姿勢でエンジンに取り付けられ、加熱装置は、メインパイプの斜め上側にて燃料噴射弁と同様に斜め下方に傾斜する加熱室を有した加熱ケーシングと、加熱ケーシングの加熱室の燃料を加熱する棒状加熱体とを備え、加熱ケーシングの下部に噴射弁ソケット部の軸方向が棒状加熱体の軸方向と平行に配置された加熱式燃料デリバリパイプであって、加熱ケーシングの加熱室と噴射弁ソケット部の内部空間とを隔てる隔壁を設け、噴射弁ソケット部の内部空間は隔壁に設けた燃料を通すための燃料通過口によって加熱室に連通接続されており、噴射弁ソケット部の内部空間には燃料噴射弁より上側に燃料を加熱する加熱空間を形成し、棒状加熱体を加熱室から燃料が通過可能な状態で燃料通過口を通して加熱空間内に挿通したことを特徴とする加熱式燃料デリバリパイプを提供するものである。
【0008】
上記のように構成した加熱式燃料デリバリパイプにおいては、燃料噴射弁は斜め下方に傾斜した姿勢でエンジンに取り付けられ、加熱装置は、メインパイプの斜め上側にて燃料噴射弁と同様に斜め下方に傾斜する加熱室を有した加熱ケーシングと、加熱ケーシングの加熱室の燃料を加熱する棒状加熱体とを備え、加熱ケーシングの加熱室と噴射弁ソケット部の内部空間とを隔てる隔壁を設け、噴射弁ソケット部の内部空間は加熱ケーシングの隔壁に設けた燃料を通すための燃料通過口によって加熱室に連通接続されており、噴射弁ソケット部の内部空間には燃料噴射弁より上側に燃料を加熱する加熱空間を形成し、棒状加熱体を加熱室から燃料が通過可能な状態で燃料通過口を通して加熱空間内に挿通している。
【0009】
メインパイプの燃料通路から加熱ケーシングの加熱室に流入した燃料は、加熱ケーシングの加熱室と噴射弁ソケット部の内部空間とを隔てる隔壁によって直ぐに噴射弁ソケット部の内部空間に流入しにくくなるだけでなく、隔壁に設けた燃料通過口と棒状加熱体との間の隙間からしか噴射弁ソケットの内部空間に流入しないので、燃料は加熱室で滞留しやすくなって温度が低い状態で噴射弁ソケットの内部空間に流入しにくくなる。また、加熱室の燃料は燃料通過口を通過するときに棒状加熱体の周囲に沿って噴射弁ソケット部の内部空間に流れるので、加熱室内の燃料を棒状加熱体によって加熱しながら噴射弁ソケット部の内部空間に流入させることができる。さらに、加熱室から噴射弁ソケット部の内部空間に流入した燃料は噴射弁ソケット部の加熱空間で棒状加熱体によって加熱されるので、燃料噴射弁から燃料を噴射する直前でも燃料を加熱することができ、温度の低い状態で燃料が噴射されるのを防ぐことができる。
【0010】
上記のように構成した加熱式燃料デリバリパイプにおいては、加熱空間の容積を加熱室の容積の30%~60%の範囲とするのが好ましい。このようにしたときには、噴射弁ソケット部の内部空間を過剰に大きくすることなく加熱室と加熱空間とで燃料を確実に加熱することができ、温度の低い状態で燃料が噴射されるのを確実に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明による加熱式燃料デリバリパイプの加熱装置の取付側を正面として燃料噴射弁を鉛直に起立させたときの正面図である。
【
図3】加熱式燃料デリバリパイプをエンジンに取り付けた姿勢でのA-A断面図である(グロープラグと燃料噴射弁は断面としていない)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、添付図面により、本発明による加熱式燃料デリバリパイプの一実施形態の説明をする。加熱式燃料デリバリパイプ10は、エタノール等のアルコール燃料またはエタノール等のアルコールをガソリンに混ぜたアルコール混合燃料をエンジンに供給するのに用いられるものであり、エンジンの低温始動時に着火温度の高いアルコールを着火しやすくするために、燃料を予め加熱してエンジンに供給するためのものである。
【0013】
この実施形態の加熱式燃料デリバリパイプ10は、直列4気筒のエンジンに用いられるものであり、
図1~
図3に示すように、燃料ポンプ(図示省略)から燃料が供給される燃料通路11aが内部に形成されたメインパイプ11と、メインパイプ11から送出される燃料を加熱する加熱装置20と、加熱装置20により加熱される燃料を噴射させる燃料噴射弁Iが内部に連結される噴射弁ソケット部26とを備えている。この加熱式燃料デリバリパイプ10においては、燃料噴射弁Iは斜め下方に傾斜した姿勢でエンジンに取り付けるようにしたものであり、燃料噴射弁Iを連結する噴射弁ソケット部26は軸方向が斜め下方に傾斜している。
【0014】
図1~
図4に示したように、メインパイプ11は、横方向に長く浅い略箱型をした第1ケース12と、同様に横方向に長く浅い略箱形をした第2ケース13とを備えている。
図2及び
図3に示したように、メインパイプ11は、第1及び第2ケース12,13の各開口を互いに向かい合わせて、第1ケース12の開口内に第2ケース13を挿嵌して全周を接合して、ろう付けにより液密に一体的に結合したものであって、第1及び第2ケース12,13の間に燃料が通過する燃料通路11aを形成したものである。この加熱式燃料デリバリパイプ10をエンジンに取り付けた状態では、第1ケース12が上側で第2ケース13が下側となるように配置されている。なお、この実施形態のメインパイプ11は第1及び第2ケース12,13を一体的に結合したものであるが、内部に燃料通路が形成されるよう両端を閉じた管部材または筒部材を用いたものであってもよい。
【0015】
図1及び
図2に示したように、第1ケース12の長手方向の端部には燃料ポンプ(図示省略)から燃料が供給される燃料供給管14が連結されており、燃料ポンプから供給される燃料は燃料供給管14を通ってメインパイプ11内の燃料通路11aに導かれる。
図4に示したように、メインパイプ11の第1ケース12には燃料噴射弁Iと同じ数(この実施形態では4つ)の連通孔12aが形成されており、これらの連通孔12aはメインパイプ11の長手方向に等間隔に配置した燃料噴射弁Iの間隔と同じ間隔で形成されている。これらの連通孔12aは後述する加熱装置20の加熱ケーシング21に形成した連通孔21aとともにメインパイプ11の燃料通路11aと加熱ケーシング21内の加熱室22とを連通させている。
【0016】
図1~
図3に示したように、第1ケース12には最も左側の加熱装置20の左側と、最も右側と右から2番目の加熱装置20の間に取付ブラケット15が固着されており、加熱式燃料デリバリパイプ10は取付ブラケット15によってエンジンに固定されている。
【0017】
加熱装置20はメインパイプ11から燃料噴射弁Iに送られる燃料を加熱するものであり、この実施形態では燃料噴射弁Iの数に応じた数でメインパイプ11に設けられている。また、この実施形態の加熱装置20は、エンジンの始動時の5~6秒間に加熱した燃料を燃料噴射弁Iに供給可能としたものである。加熱装置20は、メインパイプ11に固着されて内部に加熱室22を有した筒形の加熱ケーシング21と、加熱ケーシング21内を加熱するグロープラグ(棒状加熱体)24と、グロープラグ24を取り付けるためのプラグソケット25とを備えている。上述したように加熱ケーシング21にはメインパイプ11の連通孔12aと対向する位置に連通孔21aが形成されており、加熱ケーシング21の加熱室22は連通孔21aとメインパイプ11の連通孔12aによってメインパイプ11の燃料通路11aに連通している。加熱ケーシング21の連通孔21aは加熱ケーシング21の上下方向の略中央部に形成され、また、左右方向の中央部よりも右側(メインパイプ11の長手方向で一方側)にずらした位置に形成されている。
【0018】
図3に示したように、加熱ケーシング21の上部には蓋体23が設けられており、蓋体23によって加熱ケーシング21の上側が塞がれている。蓋体23にはグロープラグ24を取り付けるためのプラグソケット25が設けられている。プラグソケット25は、蓋体23の左右方向の中央部よりも左側にずらして配置されており、加熱ケーシング21の連通孔21aに対して左右方向の反対側に配置されている。プラグソケット25の軸方向は加熱ケーシング21の軸方向と平行に配置されている。グロープラグ24は加熱室22内の燃料を加熱するものであり、プラグソケット25に取り付けられる取付基部24aと、取付基部24aから加熱室22内に延びる棒状のヒータ部24bとを備えている。グロープラグ24のヒータ部24bの軸方向は加熱ケーシング21の軸方向と平行に配置され、ヒータ部24bは加熱ケーシング21の左右方向の中央部よりも左側に寄せて配置されている。
【0019】
加熱ケーシング21の下部には加熱室22と噴射弁ソケット部26の内部空間26aとを隔てる隔壁(底壁)21bが設けられており、隔壁21bは加熱室22内の燃料が直ぐに噴射弁ソケット部26に流れ落ちるのを防ぐ機能を有している。加熱ケーシング21の下部の隔壁21bには加熱室22と噴射弁ソケット部26の内部空間26aとを連通させるための連通孔21cが形成されており、隔壁21bの下面には連通孔21cによって加熱室22と噴射弁ソケット部26の内部空間26aとを連通させた状態で噴射弁ソケット26が固着されている。連通孔21cには噴射弁ソケット部26の上部にて上方に突出して設けた取付筒部26bが嵌合されており、噴射弁ソケット部26の内部空間26aは取付筒部26bの内側の燃料通過口26cによって加熱ケーシング21の加熱室22と連通している。グロープラグ24の棒状のヒータ部24bは加熱室22から燃料通過口26cを通って噴射弁ソケット部26の内部空間26aに延出している。燃料通過口26cの内径は棒状のヒータ部24bの外径よりも大きく形成されているとともに、燃料通過口26cはグロープラグ24の棒状のヒータ部24bと同心的に配置されており、加熱室22内の燃料は燃料通過口26cと棒状のヒータ部24bとの間に形成される隙間の空間を通って噴射弁ソケット部26の内部空間26aに流入する。
【0020】
噴射弁ソケット部26の内側には燃料噴射弁Iの上部の連結部分が嵌合されており、燃料噴射弁IはOリングよりなるシール部材27によって噴射弁ソケット部26に液密に連結されている。噴射弁ソケット部26は燃料噴射弁Iが挿通された部分よりも上下に長くなっており、噴射弁ソケット部26の内部空間26aの下半部に燃料噴射弁Iの挿通部分が嵌合され、噴射弁ソケット部26の内部空間26aの上半部に燃料を加熱する加熱空間26dが形成されている。グロープラグ24の棒状のヒータ部24bの下端は燃料噴射弁Iの上端に対して1.5mmの間隔が形成されるように、ヒータ部24bは噴射弁ソケット部26の加熱空間26dに配置されている。
【0021】
上記のように構成した加熱式燃料デリバリパイプ10を用いたエンジンでは、エンジンの始動時にイグニッションスイッチがオンされると、燃料のアルコール濃度が所定値以上であり周囲の温度が所定値以下である場合に、燃料噴射弁Iからエンジンの燃焼室に燃料噴射が行われる前に燃料の加熱が実行される。加熱式燃料デリバリパイプ10においては、加熱装置20はエンジンの始動時の所定の加熱時間(この実施形態では5~6秒間)で高温の燃料を燃料噴射弁Iに供給可能としている。エンジンの始動時に加熱装置20を作動開始させると、加熱ケーシング21の加熱室22内と噴射弁ソケット部26の加熱空間26dに滞留していた燃料はグロープラグ24のヒータ部24bによって加熱される。
【0022】
燃料噴射弁Iからエンジンの燃焼室内に燃料噴射が行われると、噴射弁ソケット部26の加熱空間26dの燃料が燃料噴射弁Iによってエンジンの燃焼室内に噴射され、加熱室22の燃料が燃料通過口26cを通って噴射弁ソケット部26の加熱空間26dに流入するとともに、メインパイプ11の燃料通路11aから加熱室22に燃料が流入する。エンジン始動時の加熱時間の初期(0~2秒間程度)には燃料噴射弁Iに加熱空間26dと加熱室22で加熱された温度の高い燃料が噴射される。エンジン始動時の加熱時間の中期から後期(2~6秒間程度)には加熱室22内の燃料はメインパイプ11の燃料通路11aから流入する燃料によって徐々に温度が低下し、加熱室22内で十分に加熱されていない温度の低い燃料が噴射弁ソケット部26の内部空間26aに流入しやすくなる。しかし、加熱室22内の燃料が仮に十分に加熱されていなくても、燃料は燃料通過口26cを通るときにヒータ部24bの周囲を通過することで必ず加熱されるとともに、燃料噴射弁Iから噴射される前に噴射弁ソケット部26内の加熱空間26dでも必ず加熱される。このため、エンジンの始動時の加熱時間の初期だけでなく中期から後期でも安定して高温の燃料を燃料噴射弁から噴射させることができる。
【0023】
上記のように構成した加熱式燃料デリバリパイプ10は、燃料ポンプから燃料が供給される燃料通路11aが内部に形成されたメインパイプ11と、メインパイプ11から送出される燃料を加熱する加熱装置20と、加熱装置20により加熱される燃料を噴射させる燃料噴射弁Iが内部に連結される噴射弁ソケット部26とを備えている。この加熱式燃料デリバリパイプ10においては、燃料噴射弁Iは斜め下方に傾斜した姿勢でエンジンに取り付けられ、加熱装置20は、メインパイプ11の斜め上側にて燃料噴射弁Iと同様に斜め下方に傾斜する加熱室22を有した加熱ケーシング21と、加熱ケーシング21の加熱室22の燃料を加熱するグロープラグ(棒状加熱体)24とを備え、加熱ケーシング21の下部に噴射弁ソケット部26の軸方向がグロープラグ24の棒状のヒータ部24bと平行に配置されている。
【0024】
この加熱式燃料デリバリパイプ10においては、加熱ケーシング21の加熱室22と噴射弁ソケット部26の内部空間26aとを隔てる隔壁21bが設けられ、噴射弁ソケット部26の内部空間26aは加熱ケーシング21の隔壁21bに噴射弁ソケット部26を介して設けた燃料を通すための燃料通過口26cによって加熱室22に連通接続されている。噴射弁ソケット部26の内部空間26aには燃料噴射弁Iより上側に燃料を加熱する加熱空間26dが形成され、グロープラグ24の棒状のヒータ部24bは加熱室22から燃料が通過可能な状態で燃料通過口26cを通して噴射弁ソケット部26の加熱空間26dに挿通されている。
【0025】
この加熱式燃料デリバリパイプ10においては、エンジン始動時に加熱ケーシング21の加熱室22及び噴射弁ソケット部26の加熱空間26d内の燃料はグロープラグ24によって加熱され、燃料噴射弁Iからエンジンの燃焼室内に燃料噴射が行われると、噴射弁ソケット部26の加熱空間26dの燃料が燃料噴射弁Iによってエンジンの燃焼室内に噴射され、加熱室22の燃料が燃料通過口26cを通って噴射弁ソケット部26の加熱空間26dに流入するとともに、メインパイプ11の燃料通路11aから加熱室22に燃料が流入する。エンジン始動時の加熱時間の初期には燃料噴射弁Iに加熱空間26dと加熱室22で加熱された燃料が噴射される。エンジン始動時の中期から後期には加熱室22内の燃料はメインパイプ11の燃料通路11aから流入する燃料によって徐々に温度が低下し、加熱室22内で十分に加熱されていない温度の低い燃料が噴射弁ソケット部26の内部空間26aに流入しやすくなる。しかし、加熱室22内の燃料は燃料通過口26cを通るときにヒータ部24bの周囲を通過することで必ず加熱されるとともに、燃料噴射弁Iから噴射される前に噴射弁ソケット部26内の加熱空間26dでも必ず加熱される。このため、エンジンの始動時の加熱時間の初期だけでなく中期から後期でも安定して高温の燃料を燃料噴射弁Iから噴射させることができる。このように、この加熱式燃料デリバリパイプ10においては、燃料は加熱ケーシング21の加熱室22で加熱されるだけでなく、燃料噴射弁Iに送出される過程で燃料通過口26cを通るときにヒータ部24bの周囲を通過することで加熱されるととともに、燃料噴射弁Iから噴射される直前で噴射弁ソケット部26の加熱空間26dでも加熱されるので、エンジンの始動時に燃料噴射弁Iから安定して高温の燃料を噴射させることができる。
【0026】
この加熱式燃料デリバリパイプ10においては、噴射弁ソケット部26の加熱空間26dの容積を加熱ケーシング21の加熱室22の容積の50%にしている。エンジン始動時の中期から後期には加熱室22内の燃料はメインパイプ11の燃料通路11aから流入する燃料によって徐々に温度が低下し、加熱室22内で十分に加熱されていない温度の低い燃料が噴射弁ソケット部26の内部の加熱空間26dに流入することになるが、加熱空間26dは加熱室22の容積に比べて50%としていることで、加熱室22で十分に加熱できなかった燃料を加熱空間26d内で燃料噴射弁Iから噴射させる十分な温度まで加熱することができる。これによって、高温の燃料を必要とするエンジン始動時の加熱時間の初期から後期にわたって確実に十分な温度まで加熱した燃料を燃料噴射弁Iから噴射させることができるようになる。なお、この実施形態では、噴射弁ソケット部26の加熱空間26dの容積を加熱ケーシング21の加熱室22の容積の50%としているが、これに限られるものではなく、噴射弁ソケット部26の加熱空間26dの容積を加熱ケーシング21の加熱室22の容積の30%~60%の範囲としたときに、噴射弁ソケット部26の加熱空間26dを過剰な容積とすることなく、加熱時間の特に中期から後期にかけて燃料噴射弁Iから十分に加熱された燃料を噴射させることができる。
【0027】
上記の実施形態は、直列4気筒エンジンに適用されるように、メインパイプ11に4組の加熱装置20と噴射弁ソケット部26を設けたものであるが、本発明はこれに限られるものでなく、直列3気筒エンジン、直列6気筒エンジン、V型6気筒エンジン等のエンジンの気筒の数に応じた加熱装置とソケット部の数としたものであってもよい。
【0028】
上記の実施形態においては、噴射弁ソケット部26は加熱ケーシング21に固定したものであるが、これに限られるものではなく、加熱ケーシング21の下側に噴射弁ソケット部26を一体的に形成したものであってもよい。
【0029】
上記の実施形態においては、加熱ケーシング21の加熱室22と噴射弁ソケット部26の内部空間26aとを隔てる隔壁21bとして加熱ケーシング21の底壁を用いているが、これに限られるものでなく、噴射弁ソケット部26の上壁を用いたものであってもよい。
【符号の説明】
【0030】
10…加熱式燃料デリバリパイプ、11…メインパイプ、11a…燃料通路、20…加熱装置、21…加熱ケーシング、21b…隔壁、22…加熱室、24…棒状加熱体(グロープラグ)、26…噴射弁ソケット部、26a…内部空間、26c…燃料通過口、26d…加熱空間、I…燃料噴射弁。