(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】油圧作動油組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20240712BHJP
C10M 101/02 20060101ALN20240712BHJP
C10M 105/02 20060101ALN20240712BHJP
C10M 105/32 20060101ALN20240712BHJP
C10M 107/02 20060101ALN20240712BHJP
C10M 137/10 20060101ALN20240712BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20240712BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20240712BHJP
C10N 30/10 20060101ALN20240712BHJP
C10N 40/08 20060101ALN20240712BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M101/02
C10M105/02
C10M105/32
C10M107/02
C10M137/10 A
C10M137/10 Z
C10N10:02
C10N30:06
C10N30:10
C10N40:08
(21)【出願番号】P 2020183136
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2023-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 龍太
(72)【発明者】
【氏名】八木下 和宏
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-264197(JP,A)
【文献】米国特許第04582920(US,A)
【文献】米国特許第05739089(US,A)
【文献】米国特許第02552570(US,A)
【文献】米国特許第03360463(US,A)
【文献】特開2003-201494(JP,A)
【文献】特開昭56-053189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油
として、1種以上のAPI基油分類グループI基油、1種以上のAPI基油分類グループII基油、もしくは1種以上のAPI基油分類グループIII基油、もしくは1種以上のAPI基油分類グループIV基油、もしくは1種以上のエステル系基油、またはそれらの混合物と、
(A)下記一般式(1)で表される1種以上のジアルキルジチオリン酸銅(I)
を、組成物全量基準でリン分として25~1000質量ppmと
、
(B)下記一般式(2)で表される1種以上のビス(ジアルキルホスホロチオノ)スルフィド化合物を、組成物全量基準でリン分として25~1000質量ppmと
を含
み、
前記(B)成分が、
(B2)前記一般式(2)においてnが2であるビス(ジアルキルホスホロチオノ)ジスルフィド化合物と、
(B3)前記一般式(2)においてnが3であるビス(ジアルキルホスホロチオノ)トリスルフィド化合物と
を含む、油圧作動油組成物。
【化1】
(一般式(1)中、R
1及びR
2は同一でも相互に異なっていてもよく、それぞれ独立に炭素数
6~
10の
直鎖または分岐鎖アルキル基を表す。)
【化2】
(一般式(2)中、R
3
及びR
4
は同一でも相互に異なっていてもよく、それぞれ独立に炭素数6~10の直鎖または分岐鎖アルキル基を表し、nは1~4の整数を表す。)
【請求項2】
前記一般式(1)において、R
1
及びR
2
がそれぞれ独立に炭素数6~10の分岐鎖アルキル基であり、
前記一般式(2)において、R
3
及びR
4
それぞれ独立に炭素数6~10の分岐鎖アルキル基である、請求項1に記載の油圧作動油組成物。
【請求項3】
前記(B)成分中の(B2)成分のリン分としての含有量が、(B)成分の全リン分を基準として、50質量%以上である、請求項1又は2に記載の油圧作動油組成物。
【請求項4】
前記(B)成分中の(B2)成分および(B3)成分の合計の含有量が、(B)成分の全リン分を基準として、リン分として70質量%以上である、請求項1~3のいずれかに記載の油圧作動油組成物。
【請求項5】
前記(B)成分のリン分としての含有量B(単位:質量ppm)の、前記(A)成分のリン分としての含有量A(単位:質量ppm)に対する比B/Aが、0.2~0.6である、請求項1~4のいずれかに記載の油圧作動油組成物。
【請求項6】
前記潤滑油基油が、1種以上のAPI基油分類グループI基油、1種以上のAPI基油分類グループII基油、もしくは1種
以上のAPI基油分類グループIII基油、またはそれらの混合物である、請求項1~
5のいずれかに記載の油圧作動油組成物。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれかに記載の油圧作動油組成物を、油圧ポンプでポンピングして油圧装置に供給する工程を含み、
前記油圧ポンプの吐出圧力が5MPa以上である、油圧装置の潤滑方法。
【請求項8】
i)(a)下記一般式(3)で表される1種以上のジアルキルジチオリン酸と、(b)水溶性の銅(II)有機酸塩および銅(II)の無機塩から選ばれる1種以上の銅(II)化合物とを反応させることにより、下記一般式(1)で表されるジアルキルジチオリン酸銅(I)を含む反応生成物を得る工程と、
ii)潤滑油基油
として、1種以上のAPI基油分類グループI基油、1種以上のAPI基油分類グループII基油、もしくは1種以上のAPI基油分類グループIII基油、もしくは1種以上のAPI基油分類グループIV基油、もしくは1種以上のエステル系基油、またはそれらの混合物と、1種以上の添加剤とを混合することにより、油圧作動油組成物を得る工程であって、前記1種以上の添加剤が前記ジアルキルジチオリン酸銅(I)
、前記油圧作動油組成物の全量基準でリン分として25~1000質量ppmを含む工程と、
を含
み、
前記工程i)において、前記反応生成物が、下記一般式(4)で表される1種以上のビス(ジアルキルホスホロチオノ)スルフィド化合物をさらに含み、該1種以上のビス(ジアルキルホスホロチオノ)スルフィド化合物は、
(B2)下記一般式(4)においてnが2であるビス(ジアルキルホスホロチオノ)ジスルフィド化合物と、
(B3)下記一般式(4)においてnが3であるビス(ジアルキルホスホロチオノ)トリスルフィド化合物と
を含み、
前記工程ii)において、前記1種以上の添加剤が、前記1種以上のビス(ジアルキルホスホロチオノ)スルフィド化合物を、前記油圧作動油組成物の全量基準でリン分として25~1000質量ppm含む、油圧作動油組成物の製造方法。
【化3】
(一般式(3)中、R
1及びR
2は同一でも相互に異なっていてもよく、それぞれ独立に炭素数
6~
10の
直鎖または分岐鎖アルキル基を表す。)
【化4】
(一般式(1)中、R
1及びR
2は前記一般式(3)において定義された通りである。)
【化5】
(一般式(4)中、R
3
及びR
4
はそれぞれ前記一般式(3)中のR
1
及びR
2
に対応する基であり、nは1~4の整数を表す。)
【請求項9】
前記一般式(3)において、R
1
及びR
2
がそれぞれ独立に炭素数6~10の分岐鎖アルキル基である、請求項8に記載の油圧作動油組成物の製造方法。
【請求項10】
前記(B)成分中の(B2)成分のリン分としての含有量が、(B)成分の全リン分を基準として、50質量%以上である、請求項8又は9に記載の油圧作動油組成物の製造方法。
【請求項11】
前記(B)成分中の(B2)成分および(B3)成分の合計の含有量が、(B)成分の全リン分を基準として、リン分として70質量%以上である、請求項8~10のいずれかに記載の油圧作動油組成物の製造方法。
【請求項12】
前記工程i)が、前記(a)成分を含有する有機溶媒溶液と、前記(b)成分を含有する水溶液とを混合することを含む、
請求項
8~11のいずれかに記載の油圧作動油組成物の製造方法。
【請求項13】
前記(b)成分が、炭素数1~7の脂肪酸の銅(II)塩である、
請求項
8~12のいずれかに記載の油圧作動油組成物の製造方法。
【請求項14】
前記潤滑油基油が、1種以上のAPI基油分類グループI基油、1種以上のAPI基油分類グループII基油、もしくは1種API基油分類グループIII基油、またはそれらの混合物である、請求項
8~13のいずれかに記載の油圧作動油組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油圧作動油組成物およびその製造方法に関し、より詳しくは、向上した酸化安定性を有する油圧作動油組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧装置は、機械的な力を油(作動油)の圧力を利用して伝達する装置であり、建設機械、射出成型機、プレス機等の各種産業機械において広く利用されている。油圧装置は、例えば、油圧ポンプ、制御弁、及び油圧シリンダ等の構成要素を備えており、これらの構成要素は摺動部を含んでいる。油圧装置において用いられる作動油(以下において「油圧作動油」ということがある。)は、圧力伝達媒体としての役割だけでなく、油圧装置の構成要素を潤滑および冷却する潤滑油としての役割も担っている。
【0003】
油圧装置の運転条件の高速化および高圧化、ならびに油圧装置自体の小型化が進むにつれ、油圧装置の機械要素はより高圧、高速、高荷重、高温の過酷な条件に曝されるようになっている。これに伴い、油圧装置に使用される油圧作動油には、このような過酷な条件下でも油圧装置の機械要素に対して十分な保護を長期間にわたって提供できる潤滑性能が求められている。
【0004】
油圧装置を長期間にわたって安定的に使用する観点からは、油圧作動油の潤滑油としての性能のうち、酸化に対する安定性、及び、機械要素の摩耗を防ぐ耐摩耗性が重要である。ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)は、安価でありながら耐摩耗性および酸化防止性を有しているため、低コスト化の需要に応える油圧作動油製品に添加剤として配合されてきた。例えば特許文献1には、所定量のZnDTPを含む油圧作動油組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-219889号公報
【文献】特開2008-255160号公報
【文献】特開昭63-304095号公報
【文献】特開平2-028294号公報
【文献】特開平3-109392号公報
【文献】特表平5-508186号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】南条道夫,「銅(II)イオンとエロフロートおよびザンセートの反応」,日本鉱業会誌 1971, 87(1006), 1041-1046
【文献】W. Rudzinski and Q. Fernando, "Solubility Products of Bis(O,O'-diethyldithiophosphato)copper(II) and O,O'-dimethyldithiophosphatocopper(I)", Analytical Chemistry, 1978, 50(3), 472-475
【文献】A. C. Hill, "Natur of the yellow copper complex produced in certain analytical methods for the determination of malation", Journal of the Science of Food and Agriculture, 1969, 20, 4-7
【文献】K. Yagishita et al., "Metal ion exchange reaction between copper carboxylates and sulfur containing metal complexes", Proceedings of International Tribology Conference Yokohama 1995, 1995, 292
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
その一方で、ZnDTPは酸化や熱により分解し、最終的に油に不溶なスラッジを生成する。スラッジはフィルター閉塞や油圧不良などのトラブルの原因となるため、ZnDTPを含有する油圧作動油の寿命は比較的短い傾向にある。しかしながら近年、廃油量を削減して環境負荷を低減する観点から、油圧作動油についても長寿命化が求められている。油圧作動油の寿命は、酸化安定性を高めるに従って延びる傾向にある。ZnDTPは酸化防止性を有するので、油圧作動油の酸化安定性を高める観点からは、ZnDTPの含有量を増やすことも考えられる。しかしながら、ZnDTPの含有量が増えるとスラッジの生成量も増加するおそれがあるため、ZnDTPの含有量を増やすことによって油圧作動油の長寿命化を図ることは困難である。
【0008】
本発明は、ZnDTPを含有する従来の油圧作動油よりも向上した酸化安定性を有し、従来の油圧作動油と同等の耐摩耗性を有する油圧作動油を提供することを課題とする。また、油圧作動油の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記[1]~[14]の実施形態を包含する。
[1] 潤滑油基油と、
(A)下記一般式(1)で表される1種以上のジアルキルジチオリン酸銅(I)と
を含む、油圧作動油組成物。
【0010】
【化1】
(一般式(1)中、R
1及びR
2は同一でも相互に異なっていてもよく、それぞれ独立に炭素数3~12のアルキル基を表す。)
【0011】
本明細書において、金属元素名の後ろの「(I)」「(II)」等の丸括弧つきローマ数字は、当該金属元素の酸化数を意味する。例えば「銅(I)」は酸化数+Iの銅(すなわちCu+)を表し、「銅(II)」は酸化数+IIの銅(すなわちCu2+)を表す。
【0012】
[2] 前記(A)成分の含有量が、組成物全量基準でリン分として25~1000質量ppmである、[1]に記載の油圧作動油組成物。
【0013】
[3] (B)下記一般式(2)で表される1種以上のビス(ジアルキルホスホロチオノ)スルフィド化合物をさらに含有する、[1]又は[2]に記載の油圧作動油組成物。
【0014】
【化2】
(一般式(2)中、R
3及びR
4は同一でも相互に異なっていてもよく、それぞれ独立に炭素数3~12のアルキル基を表し、nは1~4の整数を表す。)
【0015】
[4] 前記(B)成分の含有量が、組成物全量基準でリン分として25~1000質量ppmである、[3]に記載の潤滑油組成物。
【0016】
[5] 前記(B)成分が、前記一般式(2)においてnが2であるビス(ジアルキルホスホロチオノ)ジスルフィド化合物を含有する、[3]又は[4]に記載の油圧作動油組成物。
【0017】
[6] 前記(B)成分が、前記一般式(2)においてnが3であるビス(ジアルキルホスホロチオノ)トリスルフィド化合物を含有する、[3]~[5]のいずれかに記載の油圧作動油組成物。
【0018】
[7] 前記潤滑油基油が、1種以上のAPI基油分類グループI基油、1種以上のAPI基油分類グループII基油、もしくは1種API基油分類グループIII基油、またはそれらの混合物である、[1]~[6]のいずれかに記載の油圧作動油組成物。
【0019】
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の油圧作動油組成物を、油圧ポンプでポンピングして油圧装置に供給する工程を含み、
前記油圧ポンプの吐出圧力が5MPa以上である、油圧装置の潤滑方法。
【0020】
[9] i)(a)下記一般式(3)で表される1種以上のジアルキルジチオリン酸と、(b)水溶性の銅(II)有機酸塩および銅(II)の無機塩から選ばれる1種以上の銅(II)化合物とを反応させることにより、下記一般式(1)で表されるジアルキルジチオリン酸銅(I)を含む反応生成物を得る工程と、
ii)潤滑油基油と、1種以上の添加剤とを混合することにより、油圧作動油組成物を得る工程であって、前記1種以上の添加剤が前記ジアルキルジチオリン酸銅(I)を含む工程と、を含む、油圧作動油組成物の製造方法。
【0021】
【化3】
(一般式(3)中、R
1及びR
2は同一でも相互に異なっていてもよく、それぞれ独立に炭素数3~12のアルキル基を表す。)
【0022】
【化4】
(一般式(1)中、R
1及びR
2は前記一般式(3)において定義された通りである。)
【0023】
[10] 前記工程i)において、前記反応生成物が、下記一般式(4)で表される1種以上のビス(ジアルキルホスホロチオノ)スルフィド化合物をさらに含み、
前記工程ii)において、前記1種以上の添加剤が、前記1種以上のビス(ジアルキルホスホロチオノ)スルフィド化合物をさらに含む、[9]に記載の油圧作動油組成物の製造方法。
【0024】
【化5】
(一般式(4)中、R
3及びR
4はそれぞれ前記一般式(3)中のR
1及びR
2に対応する基であり、nは1~4の整数を表す。)
【0025】
[11] 前記1種以上のビス(ジアルキルホスホロチオノ)スルフィド化合物が、前記一般式(4)においてnが2であるビス(ジアルキルホスホロチオノ)ジスルフィド化合物を少なくとも含む、[10]に記載の油圧作動油組成物の製造方法。
【0026】
[12] 前記工程i)が、前記(a)成分を含有する有機溶媒溶液と、前記(b)成分を含有する水溶液とを混合することを含む、[9]~[11]のいずれかに記載の油圧作動油組成物の製造方法。
【0027】
[13] 前記(b)成分が、炭素数1~7の脂肪酸の銅(II)塩である、[9]~[12]のいずれかに記載の油圧作動油組成物の製造方法。
【0028】
[14] 前記潤滑油基油が、1種以上のAPI基油分類グループI基油、1種以上のAPI基油分類グループII基油、もしくは1種API基油分類グループIII基油、またはそれらの混合物である、[9]~[13]のいずれかに記載の油圧作動油組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明の第1の態様に係る油圧作動油組成物によれば、ZnDTPを含有する従来の油圧作動油よりも向上した酸化安定性を有し、従来の油圧作動油と同等の耐摩耗性を有する油圧作動油を提供することができる。
【0030】
本発明の第2の態様に係る油圧作動油の製造方法は、本発明の第1の態様に係る油圧作動油組成物の製造に好ましく用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】製造例1で得られた生成物の
31P NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明について詳述する。なお本明細書においては、特に断らない限り、数値AおよびBについて「A~B」という表記は「A以上B以下」と等価であるものとする。かかる表記において数値Bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Aにも適用されるものとする。本明細書において、「または」および「もしくは」の語は、特に断りのない限り論理和を意味するものとする。本明細書において、要素E1およびE2について「E1および/またはE2」という表記は「E1、もしくはE2、またはそれらの組み合わせ」と等価であり、N個の要素E1、…、Ei、…、EN(Nは3以上の整数である。)について「E1、…、および/またはEN」という表記は「E1、…、もしくはEi、…、もしくはEN、またはそれらの組み合わせ」(iは1<i<Nを満たす全ての整数を値にとる変数である。)と等価である。
【0033】
なお本明細書において、別途指定のない限り、油中のカルシウム、マグネシウム、亜鉛、リン、硫黄、ホウ素、バリウム、およびモリブデンの各元素の含有量は、JIS K0116に準拠して誘導結合プラズマ発光分光分析法(強度比法(内標準法))により測定されるものとする。また油中の窒素元素の含有量は、JIS K2609に準拠して化学発光法により測定されるものとする。また本明細書において「重量平均分子量」とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される標準ポリスチレン換算での重量平均分子量を意味する。
【0034】
<潤滑油基油>
油圧作動油組成物は、主要量の潤滑油基油と、基油以外の1種以上の添加剤とを含んでなる。潤滑油基油としては、1種以上の鉱油系基油、もしくは1種以上の合成系基油、またはそれらの混合基油を用いることができる。一の実施形態において、潤滑油基油としては、API基油分類のグループI基油(以下において「APIグループI基油」ということがある。)、グループII基油(以下において「APIグループII基油」ということがある。)、グループIII基油(以下において「APIグループIII基油」ということがある。)、グループIV基油(以下において「APIグループIV基油」ということがある。)、若しくはグループV基油(以下において「APIグループV基油」ということがある。)、又はそれらの混合基油を用いることができる。APIグループI基油は、硫黄分が0.03質量%超かつ/又は飽和分が90質量%未満であって、且つ粘度指数が80以上120未満の鉱油系基油である。APIグループII基油は、硫黄分が0.03質量%以下、飽和分が90質量%以上、且つ粘度指数が80以上120未満の鉱油系基油である。APIグループIII基油は、硫黄分が0.03質量%以下、飽和分が90質量%以上、且つ粘度指数が120以上の鉱油系基油である。APIグループIV基油はポリα-オレフィン基油である。APIグループV基油は上記グループI~IV以外の基油であって、その好ましい例としてはエステル系基油を挙げることができる。なお本明細書において、粘度指数とは、JIS K 2283-2000に準拠して測定された粘度指数を意味する。また本明細書において「潤滑油基油中の硫黄分の含有量」は、JIS K 2541-2003に準拠して測定されるものとする。また本明細書において「潤滑油基油中の飽和分の含有量」は、ASTM D 2007-93に準拠して測定された値を意味する。
【0035】
鉱油系基油としては、原油を常圧蒸留および減圧蒸留して得られた潤滑油留分に対して、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理などの1種もしくは2種以上の精製手段を適宜組み合わせて適用して得られる、パラフィン系またはナフテン系などの鉱油系基油を挙げることができる。APIグループII基油及びグループIII基油は通常、水素化分解プロセスを経て製造される。また、ワックス異性化基油や、GTL WAX(ガストゥリキッド ワックス)を異性化する手法で製造される基油等も使用可能である。
【0036】
APIグループIV基油としては、例えばエチレン-プロピレン共重合体、ポリブテン、1-オクテンオリゴマー、1-デセンオリゴマー、およびこれらの水素化物等を挙げることができる。
【0037】
APIグループV基油としては、例えばモノエステル(例えばブチルステアレート、オクチルラウレート、2-エチルヘキシルオレート等);ジエステル(例えばジトリデシルグルタレート、ビス(2-エチルヘキシル)アジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ビス(2-エチルヘキシル)セバケート等);ポリエステル(例えばトリメリット酸エステル等);ポリオールエステル(例えばトリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)等を挙げることができる。
【0038】
潤滑油基油(全基油)は、1種の基油からなってもよく、2種以上の基油を含む混合基油であってもよい。2種以上の基油を含む混合基油においては、それらの基油のAPI分類は同一であってもよく、相互に異なっていてもよい。一の実施形態において、1種以上のAPIグループI基油、1種以上のAPIグループII基油、若しくは1種以上のAPIグループIII基油、又はそれらの混合基油を好ましく用いることができる。
【0039】
潤滑油基油(全基油)の100℃における動粘度は、耐摩耗性および耐疲労性をより高める観点から好ましくは2.0mm2/s以上、より好ましくは4.0mm2/s以上であり、またポンピングの抵抗を低減して省エネルギー性を高める観点から好ましくは17.0mm2/s以下、より好ましくは12.5mm2/s以下であり、一の実施形態において2.0~17.0mm2/s、又は4.0~12.5mm2/sであり得る。なお本明細書において、「100℃における動粘度」とは、JIS K 2283-2000に規定される100℃での動粘度を意味する。
【0040】
潤滑油基油(全基油)の40℃における動粘度は、耐摩耗性および耐疲労性をより高める観点から好ましくは10mm2/s以上、より好ましくは20mm2/s以上であり、またポンピングの抵抗を低減して省エネルギー性を高める観点から好ましくは150mm2/s以下、より好ましくは100mm2/s以下であり、一の実施形態において10~150mm2/s、又は20~100mm2/sであり得る。なお本明細書において「40℃における動粘度」とは、JIS K 2283-2000に規定される40℃での動粘度を意味する。
【0041】
潤滑油基油(全基油)の粘度指数は、低温流動性及び省エネルギー性の観点から好ましくは80以上、より好ましくは90以上であり、一の実施形態において100以上であってもよく、110以上であってもよく、120以上であってもよい。全基油の粘度指数の上限は特に制限されるものではないが、通常150以下であり、例えば145以下であり得る。
【0042】
潤滑油基油(全基油)中の硫黄分の含有量は、酸化安定性をより高める観点から、基油全量基準で好ましくは1.0質量%以下であり、一の実施形態において0.03質量%(300質量ppm)以下であり得る。潤滑油基油としてAPIグループII基油、APIグループIII基油、APIグループIV基油、もしくはAPIグループV基油、又はそれらの混合基油を用いる場合には、全基油中の硫黄分の含有量は例えば100質量ppm以下、又は50質量ppm以下、又は10質量ppm以下、又は1質量ppm以下であり得る。
【0043】
潤滑油基油(全基油)の流動点は、油圧作動油組成物全体の低温流動性の観点から、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-12.5℃以下、更に好ましくは-15℃以下、特に好ましくは-17.5℃以下、最も好ましくは-20.0℃以下である。なお、本明細書において流動点とは、JIS K 2269-1987に準拠して測定された流動点を意味する。
【0044】
潤滑油基油(全基油)は、油圧作動油組成物の主要部を占める。油圧作動油組成物中の潤滑油基油(全基油)の含有量は、組成物全量基準で例えば70質量%以上、又は80質量%以上、又は90質量%以上であってよい。
【0045】
<(A)ジアルキルジチオリン酸銅(I)>
本発明の油圧作動油組成物は、下記一般式(1)で表される1種以上のジアルキルジチオリン酸銅(I)(以下において「(A)成分」ということがある。)を含有する。
【0046】
【化6】
一般式(1)中、R
1及びR
2は同一でも相互に異なっていてもよく、それぞれ独立に炭素数3~12のアルキル基を表す。R
1及びR
2の炭素数は、溶解性の観点から3以上、好ましくは4以上、より好ましくは6以上であり、また低温流動性の観点から12以下、好ましくは10以下、より好ましくは8以下であり、一の実施形態において4~10、又は6~8であり得る。R
1及びR
2は直鎖アルキル基であってもよく、分岐鎖アルキル基であってもよい。またR
1及びR
2は第1級アルキル基、第2級アルキル基、及び第3級アルキル基のいずれであってもよく、好ましくは第1級または第2級アルキル基である。なお(A)成分におけるジアルキルジチオリン酸イオンの銅(I)イオンに対する配位様式は特に限定されるものではなく、例えば単座配位であってもよく、また例えば二座キレート配位であってもよく、また例えば架橋配位であってもよい。なお一般式(1)には1個の銅(I)イオン及び1個のジアルキルジチオリン酸イオンが表れているが、(A)成分は架橋配位により会合体を形成していてもよく、そのような会合体も(A)成分の含有量に寄与するものとする。
【0047】
後述するように、(A)成分は、ジアルキルジチオリン酸と、銅(II)化合物との反応により、後述の(B)成分とともに製造することができる。なお、ジアルキルジチオリン酸と銅(I)化合物との反応により(A)成分を製造することも可能である。
【0048】
油圧作動油組成物中の(A)成分の含有量は、油圧作動油組成物の酸化安定性および耐摩耗性を高める観点から、組成物全量基準でリン分として好ましくは25質量ppm以上、より好ましくは50質量ppm以上、さらに好ましくは100質量ppm以上であり、また夾雑物低減の観点から好ましくは1000質量ppm以下、より好ましくは800質量ppm以下、さらに好ましくは400質量ppm以下であり、一の実施形態において25~1000質量ppm、又は50~800質量ppm、又は100~400質量ppmであり得る。
【0049】
<(B)ビス(ジアルキルホスホロチオノ)スルフィド化合物>
一の好ましい実施形態において、本発明の油圧作動油組成物は、下記一般式(2)で表される1種以上のビス(ジアルキルホスホロチオノ)スルフィド化合物(以下において「(B)成分」ということがある。)をさらに含有し得る。
【0050】
【化7】
一般式(2)中、R
3及びR
4は同一でも相互に異なっていてもよく、それぞれ独立に炭素数3~12のアルキル基を表し、nは1~4の整数を表す。R
3及びR
4の炭素数は、溶解性の観点から3以上、好ましくは4以上、より好ましくは6以上であり、また低温流動性の観点から12以下、好ましくは10以下、より好ましくは8以下であり、一の実施形態において4~10、又は6~8であり得る。R
3及びR
4は直鎖アルキル基であってもよく、分岐鎖アルキル基であってもよい。またR
3及びR
4は第1級アルキル基、第2級アルキル基、及び第3級アルキル基のいずれであってもよく、好ましくは第1級または第2級アルキル基である。一の好ましい実施形態において、R
3及びR
4は、上記(A)成分のR
1及びR
2と同一のアルキル基であり得る。
【0051】
一の実施形態において、(B)成分は、上記一般式(2)においてn=2であるビス(ジアルキルホスホロチオノ)ジスルフィド化合物(以下において「(B2)成分」ということがある。)を含有する。
一の実施形態において、(B)成分は、上記一般式(2)においてn=3であるビス(ジアルキルホスホロチオノ)トリスルフィド化合物(以下において「(B3)成分」ということがある。)を含有する。
一の実施形態において、(B)成分は、上記一般式(2)においてn=1であるビス(ジアルキルホスホロチオノ)モノスルフィド化合物(以下において「(B1)成分」ということがある。)を含有する。
一の実施形態において、(B)成分は、上記一般式(2)においてn=4であるビス(ジアルキルホスホロチオノ)テトラスルフィド化合物(以下において「(B4)成分」ということがある。)を含有する。
【0052】
一の実施形態において、(B)成分は、主成分として(B2)成分を含有し得る。一の実施形態において、(B)成分は、(B2)成分に加えて、(B3)成分をさらに含有してもよく、(B3)成分及び(B1)成分をさらに含有してもよく、(B3)成分、(B1)成分、及び(B4)成分をさらに含有してもよい。
【0053】
一の実施形態において、(B)成分中の(B2)成分のリン分としての含有量は、(B)成分の全リン分を基準として、好ましくは50質量%以上、又は70質量%以上であり得る。
【0054】
一の実施形態において、(B)成分は、(B2)成分及び(B3)成分を主成分として含有し得る。(B)成分中の(B2)成分及び(B3)成分の合計の含有量は、(B)成分の全リン分を基準として、リン分として好ましくは70質量%以上、又は90質量%以上であり得る。
【0055】
油圧作動油組成物が(B)成分を含有する場合、その含有量((B)成分が複数の成分を含む場合には合計の含有量。)は、油圧作動油組成物の酸化安定性および耐摩耗性をより高める観点から、組成物全量基準でリン分として好ましくは25質量ppm以上、より好ましくは100質量ppm以上、さらに好ましくは150質量ppm以上であり、また夾雑物低減の観点から好ましくは1000質量ppm以下、より好ましくは800質量ppm以下、さらに好ましくは600質量ppm以下であり、一の実施形態において25~1000質量ppm、又は100~800質量ppm、又は150~600質量ppmであり得る。
【0056】
油圧作動油組成物における(B)成分のリン分としての含有量(単位:質量ppm)の(A)成分のリン分としての含有量(単位:質量ppm)に対する比(B/A)は、0以上であり、油圧作動油組成物の夾雑物低減の観点から好ましくは0.1以上、より好ましくは0.15以上、さらに好ましくは0.2以上であり、また酸化安定性および耐摩耗性をより高める観点から好ましくは1以下、より好ましくは0.8以下、さらに好ましくは0.6以下であり、一の実施形態において0~1、又は0.1~1、又は0.1~0.8、又は0.15~0.8、又は0.2~0.6であり得る。
【0057】
<製造方法>
一の実施形態において、上記(A)成分および(B)成分は、下記一般式(3)で表される1種以上のジアルキルジチオリン酸と、1種以上の銅(II)化合物との反応により、製造することができる。この製造方法においては、原料のジアルキルジチオリン酸が有する2つのアルキル基が、上記(A)成分におけるR1及びR2、並びに上記(B)成分におけるR3及びR4になる。
【0058】
【化8】
(一般式(3)中、R
1及びR
2は上記一般式(1)において定義された通りである。)
【0059】
ジアルキルジチオリン酸は、例えば、R1~R4に対応するアルキル基を有するアルコール(R-OH、R=R1~R4)と五硫化二リン(P2S5)との反応により合成することができる。
【0060】
(銅(II)化合物)
ジアルキルジチオリン酸と反応させる銅(II)化合物としては、水溶性の銅(II)有機酸塩および銅(II)の無機塩から選ばれる1種以上の銅(II)化合物を好ましく用いることができる。銅(II)塩は水和水を含んでいてもよい。
【0061】
水溶性の銅(II)有機酸塩を構成する有機酸(すなわち、当該銅(II)有機酸塩を構成するアニオンの共役酸。)の好ましい例としては、炭素数1~7の脂肪酸、炭素数1~7のスルホン酸を挙げることができ、これらの中でも炭素数1~7の脂肪酸を特に好ましく用いることができる。上記有機酸の25℃の水中におけるpKa(酸解離定数。複数の酸性プロトンを有する酸については第1段解離のpKa。本明細書において以下同じ。)が好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、炭素数1~7の一価の脂肪酸はこの要件を満たしている。
炭素数1~7の脂肪酸の好ましい例としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸等の一価脂肪酸を挙げることができる。後述する反応の後処理において反応後の脂肪酸を有機相から水相に移行させることをより容易にする観点から、脂肪酸の炭素数はより好ましくは1~4、さらに好ましくは1~3である。一の実施形態において、脂肪酸の炭素数は2以上であり得る。
【0062】
銅(II)の無機塩の好ましい例としては、酸化銅(II)、水酸化銅(II)等を挙げることができ、これらの中でも酸化銅(II)を好ましく用いることができる。銅(II)無機塩を構成する無機酸(すなわち、当該銅(II)無機塩を構成するアニオンの共役酸。)の25℃の水中におけるpKaは好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、酸化銅(II)はこの要件を満たしている。
【0063】
(有機溶媒)
ジアルキルジチオリン酸と銅(II)化合物との反応は、ジアルキルジチオリン酸の有機溶媒溶液と、銅(II)化合物とを混合することにより行うことができる。有機溶媒としては、ジアルキルジチオリン酸を溶解可能な有機溶媒を特に制限なく用いることができる。有機溶媒としては1種の有機溶媒を単独で用いてもよく、2種以上の有機溶媒の混合物を用いてもよい。有機溶媒の好ましい例としては、脂肪族炭化水素(ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等)、芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレン等)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、エステル(酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、イソプロピルラウレート、イソプロピルパルミテート、イソプロピルミリステート等)、エーテル(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジメチルセロソルブ、ジオキサン等)、ハロゲン化炭化水素(四塩化炭素、クロロホルム、フロロセン(1,1,1-トリフルオロエタン)、パークロロエチレン、エチレンジクロライド、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロフッ化メタン類(塩素原子の置換数およびフッ素原子の置換数はそれぞれ1以上であって合計が4以下である限り任意である。)、クロロフッ化エタン類(塩素原子の置換数およびフッ素原子の置換数はそれぞれ1以上であって合計が6以下である限り任意であり、塩素原子およびフッ素原子の置換位置も任意である。)等)、鉱油等を挙げることができる。これらの中でも、炭素数6~10の脂肪族炭化水素溶媒、炭素数6~9の芳香族炭化水素溶媒、及び/又は鉱油を好ましく用いることができる。
【0064】
(反応条件)
反応に用いるジアルキルジチオリン酸および銅(II)化合物の量は、ジアルキルジチオリン酸と銅(II)イオンとのモル比が約2:1になる量とすることができる。銅(II)化合物を小過剰量用いてもよい。一の実施形態において、反応に用いるジアルキルジチオリン酸と銅(II)イオンとのモル比は、例えばジアルキルジチオリン酸:銅(II)イオン=1.5~1.9:1とすることができる。ジアルキルジチオリン酸と銅(II)化合物との反応における反応温度は例えば50~80℃、反応時間は例えば1時間~4時間とすることができる。反応雰囲気に制限はなく、例えば大気中で行うことができる。
【0065】
ジアルキルジチオリン酸と銅(II)化合物との反応は、ジアルキルジチオリン酸の有機溶媒溶液に銅(II)化合物を単に添加混合することにより行ってもよい。ただし、銅(II)化合物として水溶性の銅(II)塩を用いる場合には、当該銅(II)化合物の水溶液と、ジアルキルジチオリン酸の有機溶媒溶液とを撹拌混合して、二相系で反応を行うことが好ましい。理論によって限定されることを意図するものではないが、この二相系の反応は、水相から有機相に銅(II)イオンが持ち込まれるプロセスと、(例えば銅(II)塩の対アニオンによって)有機相中のジアルキルジチオリン酸が脱プロトンされてジアルキルジチオリン酸イオンを生じるプロセスと、ジアルキルジチオリン酸イオンが銅(II)イオンに配位するプロセスと、銅(II)イオン2個によってジアルキルジチオリン酸イオン2分子が酸化されて銅(I)イオン2個と(B2)成分1分子が生成するプロセスと、銅(I)イオンにジアルキルジチオリン酸イオンが配位して(A)成分が生成するプロセスと、を少なくとも含むと考えられる。この反応において、原料銅(II)塩の対アニオンは直接または間接的にジアルキルジチオリン酸のプロトンを受け取って水溶性の共役酸となる。反応終了後、有機相と水相とを分離し、有機相を水(又は例えば食塩水等の水溶液)で洗浄することにより、有機相から不要な水溶性成分(例えば原料銅(II)塩の対アニオンの共役酸(例えば酢酸)、又は未反応の銅(II)化合物)を除去して、(A)成分および(B)成分を含む有機溶媒溶液を得ることができる。
有機溶媒として鉱油を用いた場合には、得られた有機溶媒溶液をそのまま潤滑油基油に添加してもよい。また有機溶媒として上記説明した揮発性の有機溶媒(例えば炭素数6~10の脂肪族炭化水素溶媒、炭素数6~9の芳香族炭化水素溶媒等。)を用いた場合には、得られた有機溶媒溶液を一旦濃縮ないし濃縮乾固してから添加剤として用いることが好ましい。
【0066】
銅(II)化合物として水にも有機溶媒にも難溶性の塩(例えば酸化銅(II)等。)を用いる場合には、銅(II)と水溶性の塩を形成する有機酸もしくは無機酸であって25℃の水中におけるpKaが1以上、好ましくは2以上であるもの、水溶性の銅(II)有機酸塩、および水溶性の銅(II)無機塩から選ばれる1種以上の追加的な化合物と、水とを当該銅(II)化合物と組み合わせて用いることが好ましい。
銅(II)と水溶性の塩を形成する有機酸であって25℃の水中におけるpKaが1以上であるものの例としては、上記説明した炭素数1~7の一価脂肪酸、炭素数1~7のスルホン酸等を挙げることができる。
銅(II)と水溶性の塩を形成する無機酸であって25℃の水中におけるpKaが1以上であるものの例としては、硫酸等を挙げることができる。
水溶性の銅(II)有機酸塩としては、水溶性の銅(II)有機酸塩として上記説明したものを用いることができる。
水溶性の銅(II)無機塩の例としては、硝酸銅(II)、硫酸銅(II)、塩化銅(II)、臭化銅(II)、ヨウ化銅(II)等を挙げることができる。
上記追加的な化合物は、難溶性の銅(II)塩から銅(II)イオンを有機相に輸送する触媒として作用する。上記追加的な化合物の量は、用いる難溶性の銅(II)塩の量よりも少量で十分である。また、難溶性の銅(II)塩から有機相への銅(II)イオンの輸送を補助する輸送媒体を用いることも可能である。そのような輸送媒体の例としては、アンモニア水、希硫酸等の、銅(II)イオンに配位して水溶性の錯体を形成する化合物または銅(II)イオンと水溶性の塩を形成する酸を含む水溶液を挙げることができる。銅(II)イオンと水溶性の塩を形成する酸の好ましい例としては、追加的な化合物として上記説明した有機酸および無機酸を挙げることができる。また水の量(上記輸送媒体を用いる場合には、該輸送媒体に含まれる水の量を含む。)は上記追加的な化合物を溶解できる量であれば十分である。例えば、ジアルキルジチオリン酸の有機溶媒溶液に上記難溶性の銅(II)塩と上記追加的な化合物の水溶液とを混合して撹拌すること;又は、ジアルキルジチオリン酸の有機溶媒溶液に上記難溶性の銅(II)塩と上記輸送媒体とを混合して撹拌すること;又は、ジアルキルジチオリン酸の有機溶媒溶液に上記難溶性の銅(II)塩と上記追加的な化合物の水溶液と上記輸送媒体を混合して撹拌すること;又は、ジアルキルジチオリン酸の有機溶媒溶液に上記難溶性の銅(II)塩と上記追加的な化合物の上記輸送媒体溶液とを混合して撹拌することにより、反応を行うことができる。
反応終了後、有機相を水(又は例えば食塩水等の水溶液)で洗浄することにより、有機相から不要な水溶性成分(例えば上記追加的な化合物、又は上記追加的な化合物に含まれるアニオンの共役酸)を除去して、(A)成分および(B)成分を含む有機溶媒溶液を得ることができる。
有機溶媒として鉱油を用いた場合には、得られた有機溶媒溶液をそのまま潤滑油基油に添加してもよい。また有機溶媒として上記説明した揮発性の有機溶媒(例えば炭素数6~10の脂肪族炭化水素溶媒、炭素数6~9の芳香族炭化水素溶媒等。)を用いた場合には、得られた有機溶媒溶液を一旦濃縮ないし濃縮乾固してから添加剤として用いることが好ましい。
【0067】
理論によって限定されることを意図するものではないが、ジアルキルジチオリン酸と銅(II)化合物との反応においては、銅(II)イオン2個がジアルジアルキルジチオリン酸イオン2分子を酸化することによって銅(I)イオン2個と上記(B2)成分1分子が生成し、生成した銅(I)イオンにジアルキルジチオリン酸イオンが配位することにより上記(A)成分が生成すると考えられる。銅(II)化合物として酢酸銅(II)を用いた発明者らの実験結果に基づくと、この反応において(B2)成分はジアルキルジチオリン酸イオンが銅(II)イオンにより酸化されて生成したラジカル中間体2分子の反応により生成するのではなく、近傍に位置するジアルキルジチオリン酸イオン2分子の銅(II)イオン2個による酸化還元反応が協奏的に進行することにより生成していると考えられる。このことは、有機溶媒として無極性溶媒であるヘキサンを用いて大気中で反応を行っても、ラジカル中間体と酸素O2との反応に由来すると考えられる生成物が観察されないことにより支持される。そうであるならば、銅(II)イオンがジアルキルジチオリン酸を酸化して(B2)成分を生成する反応は、2つの銅(II)イオンにそれぞれジアルキルジチオリン酸イオンが配位してなる一組のCu-S結合が、新たなS-S結合を形成できる位置関係に来たタイミングで起きるはずであり、したがって反応は、配位子交換によるジアルキルジチオリン酸銅(II)の生成を経た後、拡散律速で進行する可能性が高い。しかしながら、発明者らの観察によれば、ジアルキルジチオリン酸と酢酸銅(II)との反応による(A)成分および(B)成分の生成は、本当にジアルキルジチオリン酸銅(II)の生成を経ているのか疑わしいほど迅速に進行する。このことは、酢酸銅(II)が実際には、かご型の二核クラスター錯体(ランタン(Lantern)型二核錯体、又はパドルホイール(Paddle Wheel)型二核錯体と呼ばれることがある。)を形成していることに由来すると考えられる。この二核錯体においては、酢酸イオン4分子のそれぞれが2つのCu(II)イオンにsyn-syn型架橋配位している(四重架橋)。酢酸銅(II)一水和物の水和水分子は二核錯体の両端で各Cu(II)イオンに軸配位している。当該かご型二核クラスター錯体においてCu-Cu核間距離が2.625Åであり、硫黄原子の共有結合半径が102pm、イオン半径が170pmであることを踏まえると、酢酸銅(II)のパドルホイール型二核錯体においてジアルキルジチオリン酸2分子が酢酸イオン2分子と配位子交換するとともに脱プロトンされて生じる二核錯体中間体、すなわち、syn-syn型架橋配位の酢酸イオン2分子によって二重架橋された2つのCu(II)イオンにそれぞれジアルキルジチオリン酸イオンが配位している二核錯体中間体において、2つのジアルキルジチオリン酸イオンは、新たなS-S結合の生成(すなわち(B2)成分の生成)にとって概ね好適な位置関係にあると考えられる。すなわち、銅(II)化合物として酢酸銅(II)を用いた反応においては、配位子交換の過程を経るだけで2つのジアルキルジチオリン酸イオンが反応に好適な位置関係に空間的に固定されることが、反応の迅速な進行に寄与していると考えられる。酢酸イオン以外の脂肪酸イオンも酢酸銅(II)と類似のパドルホイール型二核錯体を銅(II)イオンと形成するので、少なくとも銅(II)化合物として一価脂肪酸の銅(II)塩を用いた場合においては、上記同様の議論が当てはまると考えられる。
【0068】
(A)成分(すなわちジアルキルジチオリン酸銅(I))および(B2)成分と、ジアルキルジチオリン酸銅(II)との間には、酸化還元平衡が成り立っていてもよいと考えられる。しかしながら、本発明者らの観察によれば、当該酸化還元平衡は、成り立っていないか、又は仮に成り立っていたとしても極めて遅いと考えられる。このことは、通常の精製操作により(A)成分と(B)成分とを分離できるという実験事実(後述の製造例3参照。)により支持される。
一の実施形態において、ジアルキルジチオリン酸と銅(II)化合物との反応により得られた、(A)成分と(B)成分とを含む混合物は、混合物のまま潤滑油基油に添加混合してもよい。他の一の実施形態において、当該混合物に対して精製操作を行うことにより(A)成分と(B)成分とを分離してもよい。この精製操作は、例えばカラムクロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー、超臨界クロマトグラフィー等の公知の精製手段により行うことができる。いずれにしても、少なくとも(A)成分を含む反応生成物が得られる。一の実施形態において、分離された(A)成分を、別途製造された(A)成分及び(B)成分を含む混合物と組み合わせて、組成物に配合してもよい。そのような形態の油圧作動油組成物によれば、(A)成分の含有量の(B)成分の含有量に対する比を、元の混合物における比よりも高めることが可能になる。
【0069】
潤滑油基油と、上記(A)成分を含む1種以上の添加剤とを混合することにより、油圧作動油組成物を製造することができる。潤滑油基油については上記説明した通りである。当該1種以上の添加剤はさらに(B)成分、すなわち、下記一般式(4)で表される1種以上のビス(ジアルキルホスホロチオノ)スルフィド化合物を含んでいてもよく、(B)成分を含んでいなくてもよい。ただし、上記反応後の生成物から(A)成分を分離する精製操作にかかるコストが不要になる点で、当該1種以上の添加剤は(A)成分に加えて(B)成分を含むことが好ましい。
【0070】
【化9】
(一般式(4)中、R
3及びR
4はそれぞれ上記一般式(3)中のR
1及びR
2に対応する基であり、nは1~4の整数を表す。)
【0071】
一の実施形態において、ジアルキルジチオリン酸と銅(II)化合物との上記反応により(A)成分とともに得られた(B)成分は、(B2)成分(一般式(4)においてn=2であるビス(ジアルキルホスホロチオノ)ジスルフィド化合物)を主成分として含み、(B3)成分(一般式(4)においてn=3であるビス(ジアルキルホスホロチオノ)トリスルフィド化合物)、(B1)成分(一般式(4)においてn=1であるビス(ジアルキルホスホロチオノ)モノスルフィド化合物)、及び/又は(B4)成分(一般式(4)においてn=4であるビス(ジアルキルホスホロチオノ)テトラスルフィド化合物)をさらに含んでいても良い。油圧作動油組成物中の(A)成分および(B)成分の含有量、及び、(B)成分中の(B1)~(B4)成分の含有量については、上記説明した通りである。
【0072】
なお本発明に関する上記説明では、(A)成分および(B)成分を、ジアルキルジチオリン酸と銅(II)化合物との反応により製造する方法を述べたが、銅(II)化合物に代えて銅(I)化合物を用いて(A)成分を製造することも可能である。
【0073】
<(C)粘度指数向上剤>
一の実施形態において、本発明の油圧作動油組成物は、添加剤として、粘度指数向上作用を有する1種以上のポリマー(以下において「粘度指数向上剤」又は「(C)成分」ということがある。)をさらに含有し得る。(C)成分の例としては、非分散型もしくは分散型ポリ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリレート-オレフィン共重合体、非分散型もしくは分散型エチレン-α-オレフィン共重合体又はその水素化物、ポリイソブチレン又はその水素化物、スチレン-ジエン水素化共重合体、スチレン-無水マレイン酸エステル共重合体、及びポリアルキルスチレン等を挙げることができる。なお本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレートおよび/またはメタクリレート」を意味する。(C)成分としては1種のポリマーを単独で用いてもよく、2種以上のポリマーを組み合わせて用いてもよい。
【0074】
一の実施形態において、(C)成分としては、分散型のポリ(メタ)アクリレート、もしくは非分散型のポリ(メタ)アクリレート、又はそれらの組み合わせを好ましく用いることができる。一の実施形態において、分散型のポリ(メタ)アクリレートを好ましく用いることができる。なお本明細書において、分散型ポリ(メタ)アクリレート化合物は窒素原子を含む官能基を有するのに対し、非分散型ポリ(メタ)アクリレート化合物は窒素原子を含む官能基を有しない。
【0075】
一の実施形態において、ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤としては、ポリマー中の全単量体単位に占める下記一般式(5)で表される構造単位の割合が10~90mol%であるポリ(メタ)アクリレート(以下において「ポリ(メタ)アクリレート(C1)」又は単に「(C1)成分」ということがある。)を好ましく用いることができる。
【0076】
【化10】
(一般式(5)中、R
5は水素又はメチル基を表し、R
6は炭素数1~36の直鎖又は分岐鎖の炭化水素基、好ましくはアルキル基を表す。)
【0077】
(C)成分の重量平均分子量は、粘度指数向上効果を高めて低温粘度特性を向上させる観点から好ましくは10,000以上、より好ましくは20,000以上、さらに好ましくは30,000以上であり、また基油への溶解性、貯蔵安定性、及びせん断安定性を高める観点から好ましくは200,000以下、より好ましくは150,000以下、さらに好ましくは100,000以下であり、一の実施形態において10,000~200,000、又は20,000~150,000、又は30,000~100,000であり得る。
【0078】
油圧作動油組成物中の(C)成分の含有量は、後述する組成物の好ましい粘度特性が実現される量とすることができる。(C)成分の含有量は全基油の粘度特性および(C)成分の重量平均分子量によって異なり得るが、一の実施形態において好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上であり、また好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下であり、一の実施形態において0.05~20質量%、又は0.1~10質量%、又は0.2~5質量%であり得る。
【0079】
<その他の添加剤>
一の実施形態において、油圧作動油組成物は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、金属不活性化剤、腐食防止剤、(A)成分および(B)成分ならびにジアルキルジチオリン酸亜鉛以外の摩耗防止剤または極圧剤、摩擦調整剤、(A)成分および(B)成分ならびにジアルキルジチオリン酸亜鉛以外の酸化防止剤、(C)成分以外の流動点降下剤、防錆剤、消泡剤、抗乳化剤、および着色剤から選ばれる1種以上の添加剤をさらに含み得る。
【0080】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)としては、例えば下記一般式(6)で表される化合物を用いることができる。
【0081】
【0082】
一般式(6)中、R7~R10は、それぞれ独立に炭素数1~24の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を表し、異なる基の組み合わせであってもよい。また、R7~R10の炭素数は好ましくは3~12、より好ましくは3~8である。また、R7~R10は、第1級アルキル基、第2級アルキル基、及び第3級アルキル基のいずれであってもよいが、第1級アルキル基もしくは第2級アルキル基またはそれらの組み合わせであることが好ましく、さらに第1級アルキル基と第2級アルキル基とのモル比(第1級アルキル基:第2級アルキル基)が、0:100~30:70であることが好ましい。この比は分子内のアルキル鎖の組み合わせ比であっても良く、第1級アルキル基のみを有するZnDTPと第2級アルキル基のみを有するZnDTPとの混合比であっても良い。第2級アルキル基が主であることにより、省エネルギー性をさらに高めることが可能になる。なお一般式(6)には2個のジアルキルジチオリン酸イオンが1個の亜鉛(II)イオンにそれぞれ単座配位している構造が表れているが、ZnDTPにおけるジアルキルジチオリン酸イオンの配位様式はこれに限定されるものではなく、例えば2座キレート配位であってもよく、また例えば架橋配位であってもよい。また一般式(6)には1個の亜鉛(II)イオン及び2個のジアルキルジチオリン酸イオンが表れているが、ZnDTPは架橋配位により会合体を形成していてもよく、そのような会合体もZnDTPの含有量に寄与するものとする。
【0083】
上記ジアルキルジチオリン酸亜鉛の製造方法は、特に限定されるものではない。例えば、R7~R10に対応するアルキル基を有するアルコールを五硫化二リンと反応させてジチオリン酸を合成し、これを酸化亜鉛で中和することにより、上記ジアルキルジチオリン酸亜鉛を合成することができる。
【0084】
油圧作動油組成物はZnDTPを含有してもよく、含有しなくてもよい。油圧作動油組成物がZnDTPを含有する場合、その含有量は、耐摩耗性をさらに高める観点から、組成物全量基準でリン分として好ましくは50質量ppm以上、より好ましくは100質量ppm以上、さらに好ましくは200質量ppm以上であり得る。また油圧作動油組成物中のZnDTPの含有量は、油圧作動油組成物の酸化安定性をさらに高める観点から、組成物全量基準でリン分として好ましくは0~400質量ppm、より好ましくは0~300質量ppm、さらに好ましくは0~250質量ppmであり、一の実施形態において50~400質量ppm、又は100~300質量ppm、又は200~250質量ppmであり得る。
【0085】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、1,3,4-チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4-チアジアゾリル-2,5-ビスジアルキルジチオカーバメート、2-(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、並びにβ-(o-カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等の公知の金属不活性化剤を用いることができる。油圧作動油組成物が金属不活性化剤を含有する場合、その含有量は、組成物全量基準で、例えば0.005~1質量%であり得る。
【0086】
腐食防止剤としては、例えばベンゾトリアゾール系化合物、トリルトリアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、及びイミダゾール系化合物等の公知の腐食防止剤を用いることができる。油圧作動油組成物が腐食防止剤を含有する場合、その含有量は、組成物全量基準で、例えば0.005~5質量%であり得る。
【0087】
(A)成分および(B)成分ならびにジアルキルジチオリン酸亜鉛以外の摩耗防止剤または極圧剤の例としては、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類((A)成分および(B)成分ならびにZnDTPを除く。)、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩((A)成分およびZnDTPを除く。)、これらの誘導体((A)成分および(B)成分ならびにZnDTPを除く。)、チアジアゾール化合物、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ジヒドロカルビル(ポリ)サルファイド、アルキルチオカルバモイル化合物、チオカーバメート化合物、チオテルペン化合物、ジアルキルチオジプロピオネート化合物、硫化鉱油、亜鉛ジチオカーバメート、等の公知のリン系、硫黄系、又はリン-硫黄系の摩耗防止剤または極圧剤を挙げることができる。油圧作動油組成物は(A)成分および(B)成分ならびにZnDTP以外の摩耗防止剤または極圧剤を含有してもよく、含有しなくてもよい。油圧作動油組成物が(A)成分および(B)成分ならびにZnDTP以外の摩耗防止剤または極圧剤を含有する場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、例えば0.01質量%以上であり得る。一の実施形態において、油圧作動油組成物中の(A)成分および(B)成分ならびにZnDTP以外の摩耗防止剤または極圧剤の合計の含有量は、耐摩耗性及び焼き付き防止性をさらに高める観点から、組成物全量基準で好ましくは0~3質量%、より好ましくは0~1質量%、さらに好ましくは0~0.5質量%であり得る。
【0088】
一の実施形態において、油圧作動油組成物は、下記一般式(7)で表されるチオリン酸トリエステル化合物をさらに含み得る。
【0089】
【化12】
(一般式(7)中、R
1及びR
2は一般式(1)における上記定義の通りであり、R
11はR
1又はR
2と同一の基である。)
【0090】
一般式(7)のチオリン酸トリアルキルエステル化合物は、(A)成分及び/又は(B)成分に副成分として含まれ得る。一の実施形態において、油圧作動油組成物中の一般式(7)で表されるチオリン酸トリエステル化合物のリン分としての含有量は、(A)成分よりも少量であり得る。一の実施形態において、油圧作動油組成物中の一般式(7)で表されるチオリン酸トリエステル化合物のリン分としての含有量は、(A)成分および(B)成分よりも少量であり得る。
【0091】
一の実施形態において、油圧作動油組成物は、下記一般式(8)で表されるジチオリン酸トリエステル化合物をさらに含み得る。
【0092】
【化13】
(一般式(8)中、R
1及びR
2、ならびにR
11は、一般式(7)における上記定義の通りである。)
【0093】
一般式(8)のジチオリン酸トリアルキルエステル化合物は、(A)成分及び/又は(B)成分に副成分として含まれ得る。一の実施形態において、油圧作動油組成物中の一般式(8)で表されるジチオリン酸トリエステル化合物のリン分としての含有量は、(A)成分よりも少量であり得る。一の実施形態において、油圧作動油組成物中の一般式(8)で表されるジチオリン酸トリエステル化合物のリン分としての含有量は、(A)成分および(B)成分よりも少量であり得る。
【0094】
摩擦調整剤の例としては、油溶性有機モリブデン化合物および油性剤系摩擦調整剤を挙げることができる。油溶性有機モリブデン化合物の例としては、硫黄を含有する有機モリブデン化合物、及び、構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物を挙げることができる。硫黄を含有する有機モリブデン化合物の例としては、ジチオカルバミン酸モリブデン化合物;ジチオリン酸モリブデン化合物;モリブデン化合物(例えば、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等の酸化モリブデン、オルトモリブデン酸、パラモリブデン酸、(ポリ)硫化モリブデン酸等のモリブデン酸、これらモリブデン酸の金属塩、アンモニウム塩等のモリブデン酸塩、二硫化モリブデン、三硫化モリブデン、五硫化モリブデン、ポリ硫化モリブデン等の硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、硫化モリブデン酸の金属塩またはアミン塩、塩化モリブデン等のハロゲン化モリブデン等。)と、硫黄含有有機化合物(例えば、アルキル(チオ)キサンテート、チアジアゾール、メルカプトチアジアゾール、チオカーボネート、テトラハイドロカルビルチウラムジスルフィド、ビス(ジ(チオ)ハイドロカルビルジチオホスホネート)ジスルフィド、有機(ポリ)サルファイド、硫化エステル等。)又はその他の有機化合物との錯体等;および、上記硫化モリブデン、硫化モリブデン酸等の硫黄含有モリブデン化合物とアルケニルコハク酸イミドとの錯体等の、硫黄を含有する有機モリブデン化合物を挙げることができる。なお有機モリブデン化合物は、単核モリブデン化合物であってもよく、二核モリブデン化合物や三核モリブデン化合物等の多核モリブデン化合物であってもよい。構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物の例としては、モリブデン-アミン錯体、モリブデン-コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩などを挙げることができる。
【0095】
油性剤系摩擦調整剤の例としては、炭素数6以上の炭化水素基と、酸素原子、窒素原子、硫黄原子から選ばれる1種以上のヘテロ元素を含む官能基とを分子中に有する、炭素数6~50の化合物を挙げることができる。さらに具体的な例としては、炭素数8~36の脂肪族ヒドロカルビル又は脂肪族ヒドロカルビルカルボニル基を分子中に少なくとも1個有する、脂肪族アミン、脂肪酸アミド、脂肪酸ヒドラジド、脂肪族イミド化合物、脂肪族ウレア化合物、脂肪酸エステル、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、等の化合物を挙げることができる。
【0096】
油圧作動油組成物は摩擦調整剤を含有してもよく、含有しなくてもよい。油圧作動油組成物が摩擦調整剤を含有する場合、その含有量は、組成物全量基準で例えば0.05質量%以上であり得る。一の実施形態において、油圧作動油組成物中の摩擦調整剤の含有量は、摩擦低減効果をさらに高める観点から、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上であり得る。含有量の上限は特に制限されるものではないが、例えば0.5質量%以下であり得る。
【0097】
(A)成分および(B)成分ならびにZnDTP以外の酸化防止剤の例としては、芳香族アミン系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、等の公知の無灰酸化防止剤を挙げることができる。
【0098】
芳香族アミン系酸化防止剤の例としては、アルキル化α-ナフチルアミン等の第1級芳香族アミン化合物;及び、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化フェニル-α-ナフチルアミン、フェニル-β-ナフチルアミン等の第2級芳香族アミン化合物;を挙げることができる。芳香族アミン系酸化防止剤としては、アルキル化ジフェニルアミン、若しくはアルキル化フェニル-α-ナフチルアミン、又はそれらの組み合わせを好ましく用いることができる。
【0099】
ヒンダードアミン系酸化防止剤の例としては、2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格を有する化合物(2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン誘導体)を挙げることができる。2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン誘導体としては、4-位に置換基を有する2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン誘導体が好ましい。また、2個の2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格が、それぞれの4-位の置換基を介して結合していてもよい。また2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格のN-位は無置換であってもよく、該N-位に炭素数1~4のアルキル基が置換していてもよい。2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格は好ましくは2,2,6,6-テトラメチルピペリジン骨格である。
【0100】
2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格の4-位の置換基としては、アシロキシ基(R12COO-)、アルコキシ基(R12O-)、アルキルアミノ基(R12NH-)、アシルアミノ基(R12CONH-)、等を挙げることができる。R12は好ましくは炭素数1~30、より好ましくは炭素数1~24、さらに好ましくは炭素数1~20の炭化水素基である。炭化水素基の例としてはアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基等を挙げることができる。
【0101】
2個の2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格が、それぞれの4-位の置換基を介して結合する場合の置換基としては、ヒドロカルビレンビス(カルボニルオキシ)基(-OOC-R13-COO-)、ヒドロカルビレンジアミノ基(-HN-R13-NH-)、ヒドロカルビレンビス(カルボニルアミノ)基(-HNCO-R13-CONH-)、等を挙げることができる。R13は好ましくは炭素数1~30のヒドロカルビレン基であり、より好ましくはアルキレン基である。
【0102】
2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格の4-位の置換基としては、アシロキシ基が好ましい。2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格の4-位にアシロキシ基を有する化合物の一例としては、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノールとカルボン酸とのエステルを挙げることができる。該カルボン酸の例としては、炭素数8~20の直鎖又は分岐鎖脂肪族カルボン酸を挙げることができる。
【0103】
フェノール系酸化防止剤の例としては、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール);4,4’-ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール);4,4’-ビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール);2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール);2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール);4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール);4,4’-イソプロピリデンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール);2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-ノニルフェノール);2,2’-イソブチリデンビス(4,6-ジメチルフェノール);2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール);2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール;2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール;2,4-ジメチル-6-tert-ブチルフェノール;2,6-ジ-tert-ブチル-4-(N,N’-ジメチルアミノメチル)フェノール;4,4’-チオビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール);4,4’-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール);2,2’-チオビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール);ビス(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルベンジル)スルフィド;ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)スルフィド;3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸エステル類;3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェノール脂肪酸エステル類、等のヒンダードフェノール化合物およびビスフェノール化合物を挙げることができる。3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸エステル類の例としては、オクチル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート;デシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート;ドデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート;テトラデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート;ヘキサデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート;オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート;ペンタエリスリトール-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート];2,2’-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、等を挙げることができる。
【0104】
油圧作動油組成物は(A)成分および(B)成分ならびにジアルキルジチオリン酸亜鉛以外の酸化防止剤を含有してもよく、含有しなくてもよい。油圧作動油組成物が(A)成分および(B)成分ならびにZnDTP以外の酸化防止剤を含有する場合、その含有量は、組成物全量基準で、例えば0.01質量%以上であり得る。一の実施形態において、油圧作動油組成物中の(A)成分および(B)成分ならびにZnDTP以外の酸化防止剤の含有量は、低コスト化の観点から好ましくは0~2.0質量%、より好ましくは0~1.0質量%、さらに好ましくは0~0.7質量%であり得る。
【0105】
(C)成分以外の流動点降下剤としては、全基油の性状に応じて、例えばポリメタクリレート系ポリマー等の公知の流動点降下剤を用いることができる。油圧作動油組成物が流動点降下剤を含有する場合、その含有量は、組成物全量基準で、例えば0.005~2質量%であり得る。
【0106】
防錆剤としては、例えば石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、および多価アルコールエステル等の公知の防錆剤を用いることができる。油圧作動油組成物が防錆剤を含有する場合、その含有量は、組成物全量基準で、例えば0.005~5質量%であり得る。
【0107】
消泡剤としては、例えば、シリコーン、フルオロシリコーン、およびフルオロアルキルエーテル等の公知の消泡剤を用いることができる。油圧作動油組成物が消泡剤を含有する場合、その含有量は、組成物全量基準で、例えば0.0005~0.02質量%であり得る。
【0108】
抗乳化剤としては、例えばポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等の公知の抗乳化剤を用いることができる。油圧作動油組成物が抗乳化剤を含有する場合、その含有量は、組成物全量基準で、通常0.001~5質量%である。
【0109】
着色剤としては、例えばアゾ化合物等の公知の着色剤を用いることができる。
【0110】
<油圧作動油組成物>
油圧作動油組成物の40℃における動粘度は、耐摩耗性をより高める観点から好ましくは10mm2/s以上、より好ましくは20mm2/s以上、さらに好ましくは30mm2/s以上であり、また省エネルギー性を高める観点から好ましくは150mm2/s以下、より好ましくは100mm2/s以下、さらに好ましくは50mm2/s以下であり、一の実施形態において10~150mm2/s、又は20~100mm2/s、又は30~50mm2/sであり得る。
【0111】
油圧作動油組成物の100℃における動粘度は、耐摩耗性をより高める観点から好ましくは2.0mm2/s以上、より好ましくは4.0mm2/s以上、さらに好ましくは5.0mm2/s以上であり、また省エネルギー性を高める観点から好ましくは17.0mm2/s以下、より好ましくは12.5mm2/s以下、さらに好ましくは8.0mm2/s以下であり、一の実施形態において2.0~17.0mm2/s、又は4.0~12.5mm2/s、又は5.0~8.0mm2/sであり得る。
【0112】
油圧作動油組成物の粘度指数は、省エネルギー性を高める観点から好ましくは80以上、より好ましくは100以上である。潤滑油組成物の粘度指数の上限は特に制限されるものではないが、通常300以下である。
【0113】
油圧作動油の使用環境における酸化のメカニズムは、エンジン油や変速機油の使用環境における酸化のメカニズムとは異なっている。エンジン油の温度は最も高温になるピストン及びシリンダ部でも170~180℃程度であり、エンジン油の酸化劣化は、燃焼に伴ってペルオキシドラジカルが生成することによる。一般に、油圧作動油は、ベーンポンプやピストンポンプ等の油圧ポンプによって加圧されて油圧装置(例えば油圧シリンダ等。)に供給される。内燃機関や変速機にオイルを供給するギヤポンプの吐出圧力は最大でも1.5MPa程度であるが、油圧装置において用いられる油圧ポンプの吐出圧力は、ベーンポンプの場合で例えば5MPa以上、最大で20MPa程度に及び、より高圧の用途に用いられるピストンポンプの場合では例えば10MPa以上、最大で35MPa程度にも及ぶ。このような高圧に加圧される油圧作動油は、バルクの温度が比較的低温であっても酸化劣化が進行しやすい。
本発明の油圧作動油組成物は、上記のような高圧、例えば5MPa以上、又は15MPa以上、又は35MPa以上のような高い吐出圧力でポンピングされる条件下においても、ZnDTPを含有する従来の油圧作動油よりも向上した酸化安定性を示すので、上記のような高圧の条件下においても油圧作動油の長寿命化を図ることが可能になる。油圧ポンプの吐出圧力の上限値は特に制限されるものではないが、例えば50MPa以下、又は40MPa以下であり得る。
【実施例】
【0114】
以下、実施例および比較例に基づき、本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0115】
<製造例1>
以下の手順により、(A)一般式(1)においてR
1=R
2=2-エチルヘキシル基であるビス(2-エチルヘキシル)ジチオリン酸銅(I)と、(B)一般式(2)においてR
3=R
4=2-エチルヘキシル基である1種以上のビス(ビス(2-エチルヘキシル)ホスホロチオノ)スルフィド化合物とを含む混合物を製造した。
五硫化リン(P
2S
5)38.2g(0.1mol)と2-エチルヘキシルアルコール(C
8H
17OH)52g(0.4mol)とをフラスコに採取し、70℃で15時間撹拌することにより、70.8g(0.2mol)のビス(2-エチルヘキシル)ジチオリン酸を得た。続いてビス(2-エチルヘキシル)ジチオリン酸35.4g(0.1mol)をビ-カーに採取しヘキサン150mLで溶解させた。このビーカーに酢酸銅(II)一水和物9.05g(0.05mol)を水150mLに溶解させてなる酢酸銅(II)水溶液をさらに加え、70℃で1時間撹拌した。分液漏斗でヘキサン層と水層とを分離し、ヘキサン層を水150mLで2度洗浄した。ヘキサンをエバポレータで留去することにより目的物を得た。目的物を
31P NMR(溶媒:CDCl
3、240MHz)で分析したところ、主成分はビス(2-エチルヘキシル)ジチオリン酸銅(I)((A)成分、一般式(1)においてR
1=R
2=2-エチルヘキシル基)、ビス(ビス(2-エチルヘキシル)ホスホロチオノ)ジスルフィド((B)成分、一般式(2)においてR
3=R
4=2-エチルヘキシル基、n=2)、及びビス(ビス(2-エチルヘキシル)ホスホロチオノ)トリスルフィド((B)成分、一般式(2)においてR
3=R
4=2-エチルヘキシル基、n=3)の混合物であることがわかった。さらに副成分としてビス(ビス(2-エチルヘキシル)ホスホロチオノ)モノスルフィド((B)成分、一般式(2)においてR
3=R
4=2-エチルヘキシル基、n=1)、及びビス(ビス(2-エチルヘキシル)ホスホロチオノ)テトラスルフィド((B)成分、一般式(2)においてR
3=R
4=2-エチルヘキシル基、n=4)の含有も確認された。得られた生成物の
31P NMRスペクトルを
図1に示す。
【0116】
<製造例2>
以下の手順により、(A)一般式(1)においてR1=R2=n-オクチル基であるジオクチルジチオリン酸銅(I)と、(B)一般式(2)においてR3=R4=n-オクチル基である1種以上のビス(ジオクチルホスホロチオノ)スルフィド化合物とを含む混合物を製造した。
五硫化リン(P2S5)38.2g(0.1mol)とn-オクチルアルコール(C8H17OH)52g(0.4mol)とをフラスコに採取し、70℃で15時間攪拌することにより、70.8g(0.2mol)のジオクチルジチオリン酸を得た。続いてジオクチルジチオリン酸35.4g(0.1mol)をビ-カーに採取しヘキサン150mLで溶解させた。このビーカーに酢酸銅(II)一水和物9.05g(0.05mol)を水150mLに溶解させてなる酢酸銅(II)水溶液をさらに加え、70℃で1時間撹拌した。分液漏斗でヘキサン層と水層とを分離し、ヘキサン層を水150mLで2度洗浄した。ヘキサンをエバポレータで留去することにより目的物を得た。目的物を31P NMRで分析したところ、主成分はジオクチルジチオリン酸銅(I)((A)成分、一般式(1)においてR1=R2=n-オクチル基)、ビス(ジオクチルホスホロチオノ)ジスルフィド((B)成分、一般式(2)においてR3=R4=n-オクチル基、n=2)、及びビス(ジオクチルホスホロチオノ)トリスルフィド((B)成分、一般式(2)においてR3=R4=n-オクチル基、n=3)の混合物であることがわかった。さらに副成分としてビス(ジオクチルホスホロチオノ)モノスルフィド((B)成分、一般式(2)においてR3=R4=n-オクチル基、n=1)、及びビス(ジオクチルホスホロチオノ)テトラスルフィド((B)成分、一般式(2)においてR3=R4=n-オクチル基、n=4)の含有も確認された。
【0117】
<製造例3>
製造例1で得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン、トルエン)で精製することにより、(B)成分(一般式(2)においてn=1~4)の混合物と(A)成分とを分離した。
【0118】
<実施例1~3、参考例4、実施例5~6および比較例1~3>
表1及び2に示されるように、本発明の潤滑油組成物(実施例1~3、参考例4、実施例5~6)、および比較用の潤滑油組成物(比較例1~3)をそれぞれ調製した。表中、各成分の含有量はいずれも潤滑油組成物の全量を基準(100質量%)としている。また「mass ppm/P」とは、組成物全量基準でのリン分としての含有量(単位:質量ppm)を意味する。成分の詳細は次の通りである。
【0119】
(潤滑油基油)
O-1:API基油分類グループIII基油、動粘度(40℃):46.07mm2/s、動粘度(100℃):7.54mm2/s、粘度指数:129、硫黄分:10質量ppm未満
O-2:API基油分類グループI基油、動粘度(40℃):46.87mm2/s、動粘度(100℃):6.90mm2/s、粘度指数:102、硫黄分:0.17質量%
O-3:API基油分類グループII基油、動粘度(40℃):45.99mm2/s、動粘度(100℃):6.93mm2/s、粘度指数:107、硫黄分:10質量ppm未満
【0120】
((A)ジアルキルジチオリン酸銅(I)及び/又は(B)ビス(ジアルキルホスホロチオノ)スルフィド化合物)
AB-1:製造例1で得られたビス(2-エチルヘキシル)ジチオリン酸銅(I)((A)成分、一般式(1)においてR1=R2=2-エチルヘキシル基)とビス(ビス(2-エチルヘキシル)ホスホロチオノ)ジスルフィド化合物((B)成分、一般式(2)においてR3=R4=2-エチルヘキシル基、n=1~4の混合物)との混合物
A-1:製造例3で分離されたビス(2-エチルヘキシル)ジチオリン酸銅(I)((A)成分、一般式(1)においてR1=R2=2-エチルヘキシル基)
B-1:製造例3で分離されたビス(ビス(2-エチルヘキシル)ホスホロチオノ)ジスルフィド化合物((B)成分、一般式(2)においてR3=R4=2-エチルヘキシル基、n=1~4の混合物)
【0121】
ZnDTP:ジアルキルジチオリン酸亜鉛、Zn:9.0質量%、S:15.0質量%、P:7.4質量%
分散型PMA:分散型ポリメタクリレート粘度指数向上剤、重量平均分子量:94,700
流動点降下剤:ポリメタクリレート流動点降下剤、重量平均分子量:55,000
金属不活性化剤:トリルトリアゾール系金属不活性化剤、IRGAMET(登録商標)39(BASF)
【0122】
【0123】
【0124】
(シェル四球試験)
油圧作動油組成物のそれぞれについて、JPI-5S-32-90に準拠したシェル四球試験により、油圧作動油組成物の耐摩耗性を評価した。回転数1500rpm、荷重294N又は392N、油温80℃又は室温で30分運転した後の摩耗痕径を測定した。結果を表1及び2に示している。本試験において摩耗痕径が小さいほど、耐摩耗性が良好であることを意味する。
【0125】
(A2Fポンプ試験)
油圧作動油組成物のそれぞれについて、JCMAS P045:2004に準拠した高圧ピストンポンプ試験により、油圧作動油組成物の酸化安定性を評価した。ポンプとして斜軸型ピストンポンプA2F10(Bosch Rexroth社製)を用いて、ポンプ回転数1500rpm、リリーフセット圧力35MPa、オイルタンク油温80℃の条件で運転を行い、運転開始から600時間後および1000時間後における酸化増加を測定した。結果を表1及び2に示している。本試験において酸価増加が小さいほど、酸化安定性が良好であることを意味する。
【0126】
(評価結果)
表1に記載の実施例1~3、参考例4及び比較例1~2はそれぞれ、組成物中の全リン分が200質量ppmである例であり、表2に記載の実施例5~6及び比較例3はそれぞれ、組成物中の全リン分が400質量ppmである例である。公平な比較は、組成物中の全リン分が等しい例の間で行われる。
実施例1~3、参考例4、実施例5~6の油圧作動油組成物は、耐摩耗性および酸化安定性の両方において良好な結果を示した。
(A)成分に変えてジアルキルジチオリン酸亜鉛を含有する比較例1、3の油圧作動油組成物は、酸化安定性においてそれぞれ同量のリン分を含有する実施例1、5よりも劣った結果を示した。
(B)成分を含有するが(A)成分を含有しない比較例2の油圧作動油組成物は、同一の基油を使用し、かつ同量のリン分を含有する実施例1及び参考例4と比較して、酸化安定性において劣った結果を示した。