IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社小松製作所の特許一覧

特許7519895工作機械システム及び突き出し長さ推定方法
<>
  • 特許-工作機械システム及び突き出し長さ推定方法 図1
  • 特許-工作機械システム及び突き出し長さ推定方法 図2
  • 特許-工作機械システム及び突き出し長さ推定方法 図3
  • 特許-工作機械システム及び突き出し長さ推定方法 図4
  • 特許-工作機械システム及び突き出し長さ推定方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】工作機械システム及び突き出し長さ推定方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/18 20060101AFI20240712BHJP
   B23Q 17/22 20060101ALI20240712BHJP
【FI】
G05B19/18 W
B23Q17/22 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020208277
(22)【出願日】2020-12-16
(65)【公開番号】P2022095127
(43)【公開日】2022-06-28
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 尚登
(72)【発明者】
【氏名】笠原 和人
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-183706(JP,A)
【文献】特開平10-156662(JP,A)
【文献】特開2011-25325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18 - 19/46
B23Q 17/22
G01B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穴加工用工具が取り付けられる工作機械と、
前記穴加工用工具によって被加工物を切削加工したときの前記穴加工用工具の位置座標を取得する取得部と、
前記取得部によって取得された前記位置座標から、前記穴加工用工具によって前記被加工物に穴を加工したときの前記穴の延在方向における穴延在方向位置座標を抽出する抽出部と、
前記抽出部によって抽出された前記穴延在方向位置座標の最大値及び最小値の差分に基づいて、前記穴加工用工具の突き出し長さを推定する推定部と、
を備える工作機械システム。
【請求項2】
複数のL/D基準値と前記穴加工用工具の直径とを記憶する記憶部をさらに備え、
前記推定部は、前記複数のL/D基準値の中から、前記差分を前記直径で除した値に最も近いL/D基準値を選択し、選択した前記L/D基準値に前記直径を乗じることによって前記突き出し長さを算出する、
請求項1に記載の工作機械システム。
【請求項3】
工作機械に取り付けられた穴加工用工具によって被加工物を切削加工したときの前記穴加工用工具の位置座標を取得する取得工程と、
取得された前記位置座標から、前記穴加工用工具によって前記被加工物に穴を加工したときの前記穴の延在方向における穴延在方向位置座標を抽出する抽出工程と、
抽出された前記穴延在方向位置座標の最大値及び最小値の差分に基づいて、前記穴加工用工具の突き出し長さを推定する推定工程と、
を備える突き出し長さ推定方法。
【請求項4】
複数のL/D基準値と前記穴加工用工具の直径とを記憶する工程をさらに備え、
前記推定工程は、
前記複数のL/D基準値の中から、前記差分を前記直径で除した値に最も近いL/D基準値を選択する工程と、
選択された前記L/D基準値に前記直径を乗じることによって前記突き出し長さを算出する工程と、
を含む請求項3に記載の突き出し長さ推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工作機械システム及び突き出し長さ推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、NC(Numerical Control)プログラムに従って、被加工物を工具によって所望の形状に加工するコンピュータ数値制御工作機械(以下、「工作機械」という。)が知られている。工具は、工作機械の主軸に固定された工具ホルダーの先端面に取り付けられる。
【0003】
特許文献1には、工作機械と、工作機械に記憶された工具情報及び加工条件を自動的に収集する制御装置とを備えるシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-41387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、穴加工用工具を用いた穴加工における加工条件を比較検討する場合、穴加工用工具の形状を示す情報として、工具ホルダーの先端面から穴加工用工具の刃先までの長さ(以下、「突き出し長さ」という。)が必要となる。
【0006】
しかしながら、一般的な工作機械では突き出し長さが記憶されていないため、特許文献1に記載のシステムでは、工作機械から突き出し長さを収集することはできない。
【0007】
また、穴加工用工具の頒布カタログに突き出し長さが掲載されていない場合には、穴加工用工具の突き出し長さを実測して手動入力する必要があり、また、突き出し長さが掲載されていたとしても手動入力する必要があり煩雑である。
【0008】
本開示は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、穴加工用工具の突き出し長さを推定可能な工作機械システム及び突き出し長さ推定方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様に係る工作機械システムは、工作機械と、取得部と、抽出部と、推定部とを備える。工作機械には、穴加工用工具が取り付けられる。取得部は、穴加工用工具によって被加工物を切削加工したときの穴加工用工具の位置座標を取得する。抽出部は、取得部によって取得された位置座標から、穴加工用工具によって被加工物に穴を加工したときの穴の延在方向における穴延在方向位置座標を抽出する。推定部は、抽出部によって抽出された穴延在方向位置座標の最大値及び最小値の差分に基づいて、穴加工用工具の突き出し長さを推定する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、穴加工用工具の突き出し長さを推定可能な工作機械システム及び突き出し長さ推定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る工作機械システムの構成を示すブロック図
図2】実施形態に係る切削加工部を示す側面図である。
図3】実施形態に係る情報処理部の構成を示すブロック図である。
図4】実施形態に係る第1記憶部が記憶する位置座標の一例である。
図5】実施形態に係る突き出し長さ推定法を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(工作機械システム1の構成)
本実施形態に係る工作機械システム1の構成について図面を参照しながら説明する。図1は、工作機械システム1の構成を示すブロック図である。
【0013】
工作機械システム1は、3つの工作機械装置10、格納部20及び端末装置30を備える。3つの工作機械装置10には、第1乃至第3工作機械装置10a~10cが含まれる。工作機械システム1が備える工作機械装置10の数は特に制限されず、1以上であればよい。
【0014】
3つの工作機械装置10それぞれは、工作機械11及び情報処理部12を有する。本実施形態において、3つの工作機械装置10それぞれの工作機械11は異なる種類の機械であるが、同じ種類の機械であってもよい。工作機械装置10としては、マシニングセンタ、ターニングセンタ、複合旋盤及びボール盤などが挙げられる。
【0015】
工作機械11は、被加工物(いわゆる、ワーク)を切削加工することによって、被加工物を所望の形状に加工する。被加工物は、典型的には金属によって構成されているが、非金属によって構成されていてもよい。
【0016】
工作機械11は、切削加工部13、テーブル14及びCNC制御部15を有する。
【0017】
図2は、切削加工部13を示す側面図である。切削加工部13は、主軸16、ホルダー17及び穴加工用工具18によって構成される。主軸16は、回転駆動する。ホルダー17は、主軸16に固定される。穴加工用工具18は、ホルダー17に支持される。穴加工用工具18は、ホルダー17に対して着脱可能である。穴加工用工具18は、ホルダー17の先端面17Sから突き出す。穴加工用工具18としては、例えばドリル、ボーリング、タップなどが挙げられる。
【0018】
ここで、穴加工用工具18の直径Dに対する穴加工用工具18の突き出し長さLの比の基準値(以下、「L/D基準値」という。)は、一般的に、穴加工用工具18の種類ごとに数種類ずつ決められている。L/D基準値は、市販の穴加工用工具のラインナップから把握することができる。穴加工用工具18の直径Dとは、穴加工用工具18の軸心を中心とした穴加工用工具18の最大径である。穴加工用工具18の突き出し長さLとは、工具ホルダー17の先端面17Sから穴加工用工具18の刃先までの長さである。本実施形態に係る工作機械システム1は、突き出し長さLを簡便に推定するためのものである。
【0019】
テーブル14上には、被加工物が載置される。テーブル14は、被加工物を保持した状態で移動可能である。テーブル14が移動することによって、穴加工用工具18が被加工物に対して相対的に移動する。工作機械11は、切削加工部13が移動し、テーブル14が固定されるものであってもよい。
【0020】
本実施形態において、テーブル14は、x軸方向、y軸方向及びz軸方向のそれぞれに移動可能である。x軸方向は、y軸方向に対して垂直である。z軸方向は、x軸方向及びy軸方向それぞれに垂直である。図1において、x軸方向は工作機械11の左右方向であり、y軸方向は工作機械11の奥行き方向であり、z軸方向は鉛直方向である。
【0021】
CNC制御部15は、NC(Numerical Control)プログラムに従って、工作機械11を制御する。NCプログラムには、工作機械11におけるテーブル14の移動や座標系の設定などを処理するためのGコードが含まれる。Gコードには、テーブル14の目標座標値(X,Y,Z)と、目標座標値(X,Y,Z)に向かってテーブル14を移動させる際の送り速度(Fコード)と、主軸16の目標回転数とが含まれる。
【0022】
CNC制御部15は、穴加工用工具18によって被加工物を切削加工したときの穴加工用工具18の位置座標(x、y、z)を取得する。穴加工用工具18の位置座標(x、y、z)は、例えばアブソリュートエンコーダを用いて取得することができる。CNC制御部15は、穴加工用工具18の位置座標(x、y、z)を所定のサンプリングレートで取得する。サンプリングレートは、例えば1msec以上に設定することができるがこれに限られない。CNC制御部15は、穴加工用工具18の位置座標(x、y、z)を情報処理部12に出力する。
【0023】
図3は、情報処理部12の構成を示すブロック図である。情報処理部12は、取得部31、第1記憶部32、抽出部33、第2記憶部34、推定部35及び通信部36を有する。図5は、
本実施形態における突き出し長さ推定方法のフローチャートを示す。
【0024】
取得部31は、穴加工用工具18によって被加工物を切削加工したときの穴加工用工具18の三次元の位置座標(x、y、z)と各種制御情報とをCNC制御部15から取得する(S101)。取得部31は、取得した位置座標(x、y、z)を各種制御情報とともに第1記憶部32に記憶させる。図4は、第1記憶部32が記憶する位置座標(x、y、z)の一例である。図4に示すように、位置座標(x、y、z)は、所定のサンプリングレートごとに各種制御情報とともに時系列順に記憶される。穴加工用工具18の位置座標(x、y、z)は、穴加工用工具18の先端の刃先の位置座標であってよい。穴加工用工具18がドリルの場合、刃先の位置座標は工具先端の径方向中心位置の座標であってよい。穴加工用工具18がボーリング工具である場合は、位置座標は工具先端外周にある刃先の位置座標であってよい。
【0025】
抽出部33は、取得部31によって取得された位置座標(x、y、z)から、穴加工用工具18によって被加工物に穴を加工したときの穴の延在方向(本実施形態では、Z軸方向)における穴延在方向位置座標を抽出する(S102)。抽出部33は、取得部31によって取得された穴加工用工具18の三次元の位置座標(x、y、z)から、穴加工時の穴加工用工具18のZ軸方向における一次元の位置座標(z)を抽出する。
【0026】
具体的には、抽出部33は、図4の位置座標(x、y、z)を参照して、x座標が同一値で連続し、かつ、y座標が同一値で連続する範囲において、穴が延在するZ軸方向におけるz座標を抽出する。
【0027】
本明細書において、「x座標が同一値」であるとは、前後のx座標の差が1mm以内に収まっていることを意味する。「y座標が同一値」であるとは、前後のy座標の差が1mm以内に収まっていることを意味する。「連続する」とは、サンプリングレート2回分以上続くこと、又は、2msec以上続くことを意味する。本開示の範囲を逸脱しない範囲において、「同一値」及び「連続する」それぞれの意味は変更されてもよい。
【0028】
図4に示す例では、全ての位置座標(x、y、z)においてx座標が同一値で連続し、かつ、全ての位置座標(x、y、z)においてy座標が同一値で連続しているため、抽出部33は、穴延在方向位置座標として全てのz座標を抽出する。
【0029】
抽出部33は、抽出した穴延在方向位置座標を推定部35に出力する。
【0030】
第2記憶部34は、穴加工用工具18の複数のL/D基準値と穴加工用工具18の直径Dとを記憶している。複数のL/D基準値は、上述したとおり、穴加工用工具18の種類ごとに一般化されており、例えば“2.0”、“2.5”“3.0”などの数種類に決められている。複数のL/D基準値と穴加工用工具の直径Dは、カタログデータなどから自動的に入力されてもよいし、オペレータが手動で入力してもよい。
【0031】
推定部35は、抽出部33によって抽出された穴延在方向位置座標を取得する。推定部35は、穴延在方向位置座標の最大値及び最小値の差分Mに基づいて、以下のように、穴加工用工具18の突き出し長さLを推定する。
【0032】
まず、推定部35は、穴延在方向位置座標の最大値及び最小値の差分Mを求める(S103)。図4に示す例では、z座標の最大値が-1062.744mmであり、z座標の最小値が-1120.754mmであるので、その差分Mは58.01mmである。
【0033】
次に、推定部35は、穴加工用工具18の直径Dを第2記憶部34から取得して(S104)、穴延在方向位置座標の最大値及び最小値の差分Mを直径Dで除することによってM/D値を算出する(S105)。
【0034】
次に、推定部35は、穴加工用工具18の複数のL/D基準値を第2記憶部34から取得して(S106)、複数のL/D基準値の中からM/D値に最も近いL/D基準値を選択する(S107)。
【0035】
次に、推定部35は、選択したL/D基準値に直径Dを乗じることによって、穴加工用工具18の突き出し長さLを算出(推定)する(S108)。
【0036】
そして、推定部35は、推定した突き出し長さLを通信部36に出力する。
【0037】
通信部36は、ネットワークを介して格納部20と無線又は有線で接続される。通信部36は、推定部35によって推定された穴加工用工具18の突き出し長さLを格納部20に送信する。
【0038】
格納部20の機能は、サーバーにより達成される。サーバーは工作機械システム管理者により管理される。サーバーはクラウドサーバーであってよい。クラウドサーバーは専門の事業者により所有及び管理され、工作機械システム1の利用者によりサーバーとして利用される。
【0039】
格納部20は、ネットワークを介して各工作機械装置10の情報処理部12(通信部36)と無線又は有線で接続される。格納部20は、通信部36から送信される穴加工用工具18の突き出し長さLを取得する。格納部20は、穴加工用工具18に関する情報と突き出し長さLとを関連付けて格納する。
【0040】
格納部20は、穴加工用工具18の突き出し長さLを適宜更新することが好ましい。例えば、格納部20は、既に格納されている突き出し長さLよりも長い突き出し長さLを新たに通信部36から取得した場合、格納されていた突き出し長さLを廃棄し、新たに取得した突き出し長さLを格納する。
【0041】
格納部20は、ネットワークを介して端末装置30と無線又は有線で接続される。格納部20は、端末装置30からの要求に応じて、穴加工用工具18の突き出し長さLを端末装置30に送信する。端末装置30のオペレータは、穴加工用工具18の突き出し長さLを参照して、穴加工用工具18の種類ごとに穴加工の加工条件を比較検討することができる。ただし、穴加工用工具18の突き出し長さLが長くなるにつれて穴加工用工具18に適用可能な回転速度が小さくなるため、突き出し長さLが大きく異なる工具間での加工条件の比較は有用でない。
【0042】
(変形例)
本開示は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本開示の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0043】
(変形例1)
上記実施形態では、穴加工用工具18によって形成される穴の延在方向はZ軸方向であることとしたが、これに限られない。穴の延在方向は、X軸方向であってもよいし、Y軸方向であってもよい。
【0044】
(変形例2)
上記実施形態では特に触れていないが、各工作機械11の穴加工用工具18は互いに異なる種類であってもよいし同じ種類であってもよい。2以上の工作機械11において同じ種類の穴加工用工具18が用いられた場合、格納部20は、同じ種類の穴加工用工具18についての突き出し長さLを1つだけ格納してもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 工作機械システム
10 工作機械装置
11 工作機械
12 情報処理部
31 取得部
32 第1記憶部
33 抽出部
34 第2記憶部
35 推定部
36 通信部
13 切削加工部
14 テーブル
15 CNC制御部
16 主軸
17 ホルダー
18 穴加工用工具
L 突き出し長さ
D 直径
20 格納部
30 端末装置
図1
図2
図3
図4
図5