(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】エキスパンド方法及び半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20240712BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20240712BHJP
【FI】
H01L21/78 W
H01L21/78 Q
C09J7/38
(21)【出願番号】P 2020569661
(86)(22)【出願日】2020-01-29
(86)【国際出願番号】 JP2020003072
(87)【国際公開番号】W WO2020158767
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2019015819
(32)【優先日】2019-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】布施 啓示
(72)【発明者】
【氏名】稲男 洋一
(72)【発明者】
【氏名】山田 忠知
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-029921(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003602(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/058646(WO,A1)
【文献】特開2017-076748(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
C09J 7/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ウエハ面と前記第1ウエハ面の反対側の第2ウエハ面とを有するウエハの前記第1ウエハ面に、第1粘着剤層と第1基材とを有する第1粘着シートが貼付され、前記第2ウエハ面に、第2粘着剤層と第2基材とを有する第2粘着シートが貼付され、
前記第1粘着シート側から切込みを入れて、前記第1粘着シートを切断し、さらに前記ウエハを複数のチップに個片化し、
第3粘着剤層と第3基材とを有する第3粘着シートを前記第1基材に貼付し、
前記第2粘着シートを前記ウエハの前記第2ウエハ面から剥離し、
前記第3粘着シートを伸張させて、前記複数のチップの間隔を拡
げ、
前記第3粘着シートを伸張させる際に、前記第1ウエハ面は、前記第3粘着シートの前記第3粘着剤層と接していない、
エキスパンド方法。
【請求項2】
請求項1に記載のエキスパンド方法において、
前記切込みは、前記第1粘着シート側から前記第2粘着シートに到達するまでの深さで形成する、
エキスパンド方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のエキスパンド方法において、
前記第2ウエハ面は、前記ウエハを裏面研削して形成した面である、
エキスパンド方法。
【請求項4】
請求項3に記載のエキスパンド方法において、
前記第1粘着シートは、前記ウエハを裏面研削する前に、前記第1ウエハ面に貼着されている、
エキスパンド方法。
【請求項5】
請求項3に記載のエキスパンド方法において、
前記ウエハを裏面研削する前に、前記第1ウエハ面に第4粘着シートが貼着されており、
裏面研削後に前記第4粘着シートを前記第1ウエハ面から剥離し、
前記第1ウエハ面に前記第1粘着シートを貼着する、
エキスパンド方法。
【請求項6】
請求項5に記載のエキスパンド方法において、
前記第4粘着シートは、バックグラインドシートであり、
前記第1粘着シートは、表面保護シートであり、
前記表面保護シートの厚さは、5μm以上、500μm以下である、
エキスパンド方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のエキスパンド方法において、
前記第1粘着シートは、バックグラインドシートである、
エキスパンド方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のエキスパンド方法において、
前記第3粘着シートは、エキスパンドシートである、
エキスパンド方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のエキスパンド方法において、
前記ウエハは、半導体ウエハである、
エキスパンド方法。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のエキスパンド方法において、
前記第1ウエハ面は、回路を有する、
エキスパンド方法。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載のエキスパンド方法を含む半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エキスパンド方法及び半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、軽量化、及び高機能化が進んでいる。電子機器に搭載される半導体装置にも、小型化、薄型化、及び高密度化が求められている。半導体チップは、そのサイズに近いパッケージに実装されることがある。このようなパッケージは、チップスケールパッケージ(Chip Scale Package;CSP)と称されることもある。CSPの一つとして、ウエハレベルパッケージ(Wafer Level Package;WLP)が挙げられる。WLPにおいては、ダイシングにより個片化する前に、ウエハに外部電極等を形成し、最終的にはウエハをダイシングして、個片化する。WLPとしては、ファンイン(Fan-In)型とファンアウト(Fan-Out)型が挙げられる。ファンアウト型のWLP(以下、「FO-WLP」と略記する場合がある。)においては、半導体チップを、チップサイズよりも大きな領域となるように封止部材で覆って半導体チップ封止体を形成し、再配線層や外部電極を、半導体チップの回路面だけでなく封止部材の表面領域においても形成する。
【0003】
例えば、特許文献1には、半導体ウエハから個片化された複数の半導体チップについて、その回路形成面を残し、モールド部材を用いて周りを囲んで拡張ウエハを形成し、半導体チップ外の領域に再配線パターンを延在させて形成する半導体パッケージの製造方法が記載されている。特許文献1に記載の製造方法において、個片化された複数の半導体チップをモールド部材で囲う前に、エキスパンド用のウエハマウントテープに貼り替え、ウエハマウントテープを展延して複数の半導体チップの間の距離を拡大させている。
【0004】
また、特許文献2には、第二基材層と、第一基材層と、第一粘着剤層と、をこの順に備え、第二基材層の破断伸度が400%以上である粘着シートが記載されている。特許文献2に記載の半導体装置の製造方法は、この粘着シートの第一粘着剤層に半導体ウエハを貼着する工程と、半導体ウエハをダイシングにより個片化し、複数の半導体チップを形成する工程と、粘着シートを引き延ばして、半導体チップ同士の間隔を拡げる工程と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2010/058646号
【文献】特開2017-076748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エキスパンド工程に用いられるテープは、通常、テープ上の半導体チップを固定するために粘着剤層と、粘着剤層を支持するための基材と、を有する。特許文献1に記載のようにエキスパンド用のウエハマウントテープを引き延ばすと、テープの基材だけでなく、粘着剤層も引き延ばされる。エキスパンド工程後、半導体チップを粘着剤層から剥離すると、粘着剤層と接していた半導体チップの表面に粘着剤層が残る不具合が生じる場合がある。このような不具合を、本明細書においては、糊残りと称する場合がある。
なお、特許文献2に記載の粘着シートを用いてエキスパンド工程を実施すると、半導体チップと接している粘着剤層は引き延ばされないため、糊残りが生じ難いと考えられる。しかしながら、特許文献2に記載の粘着シートは、第二基材層と、第一基材層と、第一粘着剤層と、を積層させたテープ構成であるため、より簡略なテープ構成を用いて糊残りを防止できるエキスパンド方法に対する要望がある。また、特許文献2に記載のプロセスでは、粘着シート上の半導体ウエハをダイシングし、他の粘着シートに転写することなく、そのまま粘着シートを引き延ばしてエキスパンド工程を実施する。そのため、ダイシングの際のダイシングブレードが第二基材層に到達しないように、ダイシングブレードの切込み深さを慎重に制御する必要があり、より簡略な方法によって糊残りを防止できるエキスパンド方法に対する要望もある。
なお、エキスパンド方法において粘着シートの上に支持する被着体としては、半導体チップだけでなく、例えば、ウエハ、半導体装置パッケージ、及びマイクロLED等の半導体装置が挙げられる。これら半導体装置についても、半導体チップと同様、半導体装置同士の間隔を拡張させることがある。
【0007】
本発明の目的は、従来に比べてテープ構成及びプロセスを簡略化しつつ、かつ、糊残りを抑制できるエキスパンド方法を提供すること、並びに当該エキスパンド方法を含む半導体装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、第1ウエハ面と前記第1ウエハ面の反対側の第2ウエハ面とを有するウエハの前記第1ウエハ面に、第1粘着剤層と第1基材とを有する第1粘着シートが貼付され、前記第2ウエハ面に、第2粘着剤層と第2基材とを有する第2粘着シートが貼付され、前記第1粘着シート側から切込みを入れて、前記第1粘着シートを切断し、さらに前記ウエハを複数のチップに個片化し、第3粘着剤層と第3基材とを有する第3粘着シートを前記第1基材に貼付し、前記第2粘着シートを前記ウエハの前記第2ウエハ面から剥離し、前記第3粘着シートを伸張させて、前記複数のチップの間隔を拡げる、エキスパンド方法が提供される。
【0009】
本発明の一態様に係るエキスパンド方法において、前記切込みは、前記第1粘着シート側から前記第2粘着シートに到達するまでの深さで形成することが好ましい。
【0010】
本発明の一態様に係るエキスパンド方法において、前記第2ウエハ面は、前記ウエハを裏面研削して形成した面であることが好ましい。
【0011】
本発明の一態様に係るエキスパンド方法において、前記第1粘着シートは、前記ウエハを裏面研削する前に、前記第1ウエハ面に貼着されていることが好ましい。
【0012】
本発明の一態様に係るエキスパンド方法において、前記ウエハを裏面研削する前に、前記第1ウエハ面に第4粘着シートが貼着されており、裏面研削後に前記第4粘着シートを前記第1ウエハ面から剥離し、前記第1ウエハ面に前記第1粘着シートを貼着することが好ましい。
【0013】
本発明の一態様に係るエキスパンド方法において、前記第4粘着シートは、バックグラインドシートであり、前記第1粘着シートは、表面保護シートであり、前記表面保護シートの厚さは、5μm以上、500μm以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の一態様に係るエキスパンド方法において、前記第1粘着シートは、バックグラインドシートであることが好ましい。
【0015】
本発明の一態様に係るエキスパンド方法において、前記第3粘着シートは、エキスパンドシートであることが好ましい。
【0016】
本発明の一態様に係るエキスパンド方法において、前記ウエハは、半導体ウエハであることが好ましい。
【0017】
本発明の一態様に係るエキスパンド方法において、前記第1ウエハ面は、回路を有することが好ましい。
【0018】
本発明の一態様によれば、前述の本発明の一態様に係るエキスパンド方法を含む半導体装置の製造方法が提供される。
【0019】
本発明の一態様によれば、従来に比べてテープ構成及びプロセスを簡略化しつつ、かつ、糊残りを抑制できるエキスパンド方法を提供できる。本発明の別の一態様によれば、糊残りを抑制できるエキスパンド方法を含む半導体装置の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1A】第1実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
【
図1B】第1実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
【
図2A】第1実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
【
図2B】第1実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
【
図3】第1実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
【
図4A】第1実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
【
図4B】第1実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
【
図5A】第1実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
【
図5B】第1実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
【
図6A】第2実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
【
図6B】第2実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
【
図7A】第2実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
【
図7B】第2実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
【
図8A】第2実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
【
図8B】第2実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
【
図9】第2実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
【
図10A】第3実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
【
図10B】第3実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
【
図10C】第3実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
【
図10D】第3実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
【
図11】実施例で使用した2軸延伸エキスパンド装置を説明する平面図。
【
図12】チップ整列性の測定方法を説明するための概略図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔第1実施形態〕
以下、本実施形態に係るエキスパンド方法及び当該エキスパンド方法を含む半導体装置の製造方法について説明する。
【0022】
【0023】
本実施形態に係るエキスパンド方法は、次の工程(P1)~(P5)の工程を備える。
(P1)第1ウエハ面に第1粘着シートが貼付され、第2ウエハ面に第2粘着シートが貼付されたウエハを準備する工程。第1粘着シートは、第1粘着剤層と第1基材とを有する。第2粘着シートは、第2粘着剤層と第2基材とを有する。
(P2)第1粘着シート側から切込みを入れて、第1粘着シートを切断し、さらにウエハを切断して複数のチップに個片化する工程。
(P3)第3粘着シートを第1基材に貼付する工程。第3粘着シートは、第3粘着剤層と第3基材とを有する。
(P4)第2粘着シートをウエハの第2ウエハ面から剥離する工程。
(P5)第3粘着シートを伸張させて、複数のチップの間隔を拡げる工程。
【0024】
図1Aは、工程(P1)を説明するための図である。
図1Aには、第1粘着シート10及び第2粘着シート20が貼着されたウエハWが記載されている。
半導体ウエハWは、第1ウエハ面としての回路面W1と、第2ウエハ面としての裏面W3と、を有する。回路面W1には、回路W2が形成されている。
【0025】
回路面W1には、第1粘着シート10が貼着されている。裏面W3には、第2粘着シート20が貼着されている。第1粘着シート10は、第1粘着剤層12と第1基材11とを有する。第2粘着シート20は、第2粘着剤層22と第2基材21とを有する。第1粘着シート10及び第2粘着シート20の詳細は、後述する。
【0026】
半導体ウエハWは、例えば、シリコンウエハであってもよいし、ガリウム・砒素等の化合物半導体ウエハであってもよい。半導体ウエハWの回路面W1に回路W2を形成する方法としては、汎用されている方法が挙げられ、例えば、エッチング法及びリフトオフ法等が挙げられる。
【0027】
[バックグラインド工程]
工程(P1)で準備する半導体ウエハWは、バックグラインド工程を経ることにより得られたウエハであることが好ましい。
バックグラインド工程においては、半導体ウエハWの回路面W1とは反対側の面を所定の厚さに研削する。裏面W3は、半導体ウエハWを裏面研削して形成した面であることが好ましい。半導体ウエハWを研削した後に露出する面を裏面W3とする。
【0028】
半導体ウエハWを研削する方法としては、特に限定されず、例えば、グラインダー等を用いた公知の方法が挙げられる。半導体ウエハWを研削する際には、回路W2を保護するために、バックグラインドシートと呼ばれる粘着シートを回路面W1に貼着することが好ましい。ウエハの裏面研削は、半導体ウエハWの回路面W1側、すなわちバックグラインドシート側をチャックテーブル等により固定し、回路が形成されていない裏面側をグラインダーにより研削する。本実施形態においては、第1粘着シート10がバックグラインドシートであることが好ましい。バックグラインドシートとして第1粘着シート10が用いられる場合、半導体ウエハWは、回路面W1を第1粘着シート10の第1粘着剤層12に向けて貼着される。バックグラインドシートとしての第1粘着シート10は、半導体ウエハWを裏面研削する前に、第1ウエハ面としての回路面W1に貼着されていることが好ましい。第1粘着シート10を回路面W1に貼着する工程を第1粘着シートの貼着工程と称する場合がある。
【0029】
研削前の半導体ウエハWの厚さは、特に限定されず、通常、500μm以上、1000μm以下である。
研削後の半導体ウエハWの厚さは、特に限定されず、通常、20μm以上、500μm以下である。
【0030】
[第2粘着シートの貼着工程]
工程(P1)で準備する半導体ウエハWは、バックグラインド工程を経て、さらに、裏面W3に第2粘着シート20を貼着する貼着工程を経て得られたウエハであることが好ましい。この貼着工程を第2粘着シートの貼着工程と称する場合がある。
後述するように、工程(P2)において、半導体ウエハWは、ダイシングにより複数の半導体チップCPに個片化される。半導体ウエハWをダイシングする際には、半導体ウエハWを保持するために、ダイシングシートと呼ばれる粘着シートを裏面W3に貼着することが好ましい。本実施形態においては、第2粘着シート20がダイシングシートであることが好ましい。ダイシングシートとして第2粘着シート20が用いられる場合、半導体ウエハWは、裏面W3を第2粘着シート20の第2粘着剤層22に向けて貼着される。
【0031】
[ダイシング工程]
図1Bは、工程(P2)を説明するための図である。工程(P2)をダイシング工程と称する場合がある。
図1Bには、第2粘着シート20に保持された複数の半導体チップCPが示されている。
回路面W1に第1粘着シート10が貼着され、裏面W3に第2粘着シート20が貼着された状態の半導体ウエハWは、ダイシングにより個片化され、複数の半導体チップCPが形成される。本実施形態では、第1粘着シート10側から切込みを入れて、第1粘着シート10を切断し、さらに半導体ウエハWを切断する。ダイシング工程後の複数の半導体チップCPの回路面W1は、それぞれ、切断された第1粘着シート10によって覆われた状態である。
ダイシングには、ダイシングソー等の切断手段が用いられる。
ダイシングの際の切断深さは、第1粘着シート10及び半導体ウエハWを個片化できる深さであれば特に限定されない。半導体ウエハWを確実に切断するという観点から、ダイシング工程における切込みは、第1粘着シート10側から第2粘着シート20に到達するまでの深さで形成することが好ましく、第2粘着シート20の第2粘着剤層22に到達する深さで形成することがより好ましい。ダイシングによって、第2粘着剤層22も半導体チップCPと同じサイズに切断される。さらに、ダイシングによって第2基材21にも切込みが形成される場合がある。
【0032】
[第3粘着シートの貼着工程]
図2Aは、工程(P3)を説明するための図である。工程(P3)を第3粘着シートの貼着工程と称する場合がある。
図2Aには、ダイシング工程によって得た複数の半導体チップCPに第3粘着シート30が貼付された状態が示されている。第3粘着シート30は、第3粘着剤層32と第3基材31とを有する。第3粘着シート30の詳細は、後述する。
本実施形態では、第3粘着シート30が複数の半導体チップCPの回路面W1側に貼着されると、複数の半導体チップCPと第3粘着シート30の第3粘着剤層32との間に個片化された第1粘着シート10が介在した積層構造が得られる。
【0033】
[第2粘着シートの剥離工程]
図2Bは、工程(P4)を説明するための図である。工程(P4)を第2粘着シートの剥離工程と称する場合がある。
図2Bには、第3粘着シート30を貼着後に第2粘着シート20をウエハWの裏面W3から剥離した状態が示されている。
第3粘着シート30を貼着した後、第2粘着シート20を剥離すると、複数の半導体チップCPの裏面W3が露出する。
なお、第2粘着剤層22にエネルギー線重合性化合物が配合されている場合には、第2粘着剤層22に第2基材21側からエネルギー線を照射し、エネルギー線重合性化合物を硬化させてから第2粘着シート20を剥離することが好ましい。
【0034】
[エキスパンド工程]
図3は、工程(P5)を説明するための図である。工程(P5)をエキスパンド工程と称する場合がある。
図3には、第2粘着シート20を剥離後に、第3粘着シート30を伸張させて、複数の半導体チップCPの間隔を拡げた状態が示されている。
複数の半導体チップCPの間隔を拡げる際には、エキスパンドシートと呼ばれる粘着シートにより複数の半導体チップCPを保持した状態で、エキスパンドシートを伸張することが好ましい。本実施形態においては、第3粘着シート30がエキスパンドシートであることが好ましい。
エキスパンド工程において第3粘着シート30を引き延ばす方法は、特に限定されない。第3粘着シート30を引き延ばす方法としては、例えば、環状もしくは円状のエキスパンダを押し当てて第1粘着シート10を引き延ばす方法、及び把持部材等を用いて第3粘着シート30の外周部を掴んで引き延ばす方法等が挙げられる。本実施形態では、複数の半導体チップCPの間隔D1は、半導体チップCPのサイズに依存するため、特に制限されない。特に、粘着シートの片面に貼着された複数の半導体チップCPにおける、隣り合う半導体チップCPの相互の間隔D1は、200μm以上であることが好ましい。なお、当該半導体チップCPの相互の間隔の上限は、特に制限されない。当該半導体チップCPの相互の間隔の上限は、例えば、6000μmであってもよい。
【0035】
[第1転写工程]
本実施形態においては、エキスパンド工程の後、第3粘着シート30に貼着されていた複数の半導体チップCPを、別の粘着シート(例えば、第5粘着シート)に転写する工程(以下「第1転写工程」という場合がある。)を実施してもよい。
図4Aには、第3粘着シート30に貼着されていた複数の半導体チップCPを、第5粘着シート50に転写する工程(以下「転写工程」という場合がある。)を説明する図が示されている。
第5粘着シート50は、複数の半導体チップCPを保持できれば特に限定されない。第5粘着シート50は、第5基材51と、第5粘着剤層52とを有する。
本実施形態において転写工程を実施する場合は、例えば、エキスパンド工程の後、複数の半導体チップCPの裏面W3に第5粘着シート50を貼着し、その後、第3粘着シート30を剥離することが好ましい。
【0036】
第5粘着シート50は、複数の半導体チップCPとともに、第二のリングフレームに貼着されていてもよい。この場合、第5粘着シート50の第5粘着剤層52の上に、第二のリングフレームを載置し、これを軽く押圧し、固定する。その後、第二のリングフレームの環形状の内側にて露出する第5粘着剤層52を半導体チップCPの裏面W3に押し当てて、第5粘着シート50に複数の半導体チップCPを固定する。
【0037】
図4Bには、第5粘着シート50の貼着後、第3粘着シート30を剥離する工程を説明する図が示されている。
本実施形態では、第3粘着シート30を剥離する際に、半導体チップCPの回路面W1を覆う個片化された第1粘着シート10を第3粘着シート30とともにまとめて剥離する態様を例に挙げて説明する。第1粘着シート10が半導体チップCPの回路面W1から剥がれる力よりも、第3粘着シート30が第1粘着シート10から剥がれる力の方が大きいことが好ましい。なお、回路面W1を覆う個片化された第1粘着シート10を半導体チップCPに残したまま、第3粘着シート30だけを剥離する態様でもよい。
第5粘着シート50を貼着した後、第1粘着シート10及び第3粘着シート30を剥離すると、複数の半導体チップCPの回路面W1が露出する。第1粘着シート10及び第3粘着シート30を剥離した後も、エキスパンド工程において拡張させた複数の半導体チップCP間の間隔D1が維持されていることが好ましい。
【0038】
[第2転写工程]
図5Aには、第5粘着シート50に貼着されていた複数の半導体チップCPを、第6粘着シート60に転写する工程(以下「第2転写工程」という場合がある。)を説明する図が示されている。
第5粘着シート50から第6粘着シート60に転写された複数の半導体チップCPは、半導体チップCP間の間隔D1が維持されていることが好ましい。
【0039】
第6粘着シート60は、複数の半導体チップCPを保持できれば特に限定されない。第6粘着シート60は、第6基材61と、第6粘着剤層62とを有する。
第6粘着シート60上の複数の半導体チップCPを封止したい場合には、第6粘着シート60として、封止工程用の粘着シートを用いることが好ましく、耐熱性を有する粘着シートを用いることがより好ましい。また、第6粘着シート60として耐熱性を有する粘着シートを用いる場合は、第6基材61及び第6粘着剤層62は、それぞれ、封止工程で課される温度に耐え得る耐熱性を有する材料で形成されていることが好ましい。
【0040】
第5粘着シート50から第6粘着シート60に転写された複数の半導体チップCPは、回路面W1を第6粘着剤層62に向けて貼着されている。
【0041】
[封止工程]
図5Bには、封止部材300を用いて複数の半導体チップCPを封止する工程(以下「封止工程」という場合がある。)を説明する図が示されている。
【0042】
本実施形態において、封止工程は、複数の半導体チップCPが第6粘着シート60に転写された後に実施される。
封止工程において、回路面W1が第6粘着シート60に保護された状態で、複数の半導体チップCPを封止部材300によって覆うことにより封止体3が形成される。複数の半導体チップCPの間にも封止部材300が充填されている。第6粘着シート60により回路面W1及び回路W2が覆われているので、封止部材300で回路面W1が覆われることを防止できる。
【0043】
封止工程により、所定距離ずつ離間した複数の半導体チップCPが封止部材300に埋め込まれた封止体3が得られる。封止工程においては、複数の半導体チップCPは、エキスパンド工程を実施後の間隔D1が維持された状態で、封止部材300により覆われることが好ましい。
【0044】
封止工程の後、第6粘着シート60を剥離する。第6粘着シート60を剥離すると、半導体チップCPの回路面W1及び封止体3の第6粘着シート60と接触していた面3Aが露出する。
【0045】
前述のエキスパンド工程の後、転写工程及びエキスパンド工程を任意の回数繰り返すことで、半導体チップCP間の距離を所望の距離とし、半導体チップCPを封止する際の回路面の向きを所望の向きとすることができる。
【0046】
[その他の工程]
封止体3から粘着シートを剥離した後、この封止体3に対して、半導体チップCPと電気的に接続する再配線層を形成する再配線層形成工程と、再配線層と外部端子電極とを電気的に接続する接続工程とが順に行われる。再配線層形成工程及び外部端子電極との接続工程によって、半導体チップCPの回路と外部端子電極とが電気的に接続される。
外部端子電極が接続された封止体3を半導体チップCP単位で個片化する。封止体3を個片化させる方法は、特に限定されない。封止体3を個片化することで、半導体チップCP単位の半導体パッケージが製造される。半導体チップCPの領域外にファンアウトさせた外部電極を接続させた半導体パッケージは、ファンアウト型のウエハレベルパッケージ(FO-WLP)として製造される。
【0047】
(第1粘着シート)
第1粘着シート10は、第1基材11と、第1粘着剤層12とを有する。第1粘着剤層12は、第1基材11に積層されている。
【0048】
・第1基材
本実施形態に係る第1基材11は、バックグラインド工程等の所望の工程において適切に機能できる限り、その構成材料は特に限定されない。
第1基材11は、樹脂系の材料を主材とするフィルムから構成されることが好ましい。樹脂系の材料を主材とするフィルムとしては、例えば、エチレン系共重合フィルム、ポリオレフィン系フィルム、ポリ塩化ビニル系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリウレタンフィルム、ポリイミドフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、及びフッ素樹脂フィルムが挙げられる。
【0049】
エチレン系共重合フィルムとしては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルム、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体フィルム及びエチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルムが挙げられる。
本明細書における「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸及びメタクリル酸の両方を意味し、他の類似用語についても同様である。
【0050】
ポリオレフィン系フィルムとしては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、エチレン-ノルボルネン共重合体フィルム及びノルボルネン樹脂フィルムが挙げられる。
ポリエチレンフィルムとしては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)フィルム、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルム及び高密度ポリエチレン(HDPE)フィルムが挙げられる。
【0051】
ポリ塩化ビニル系フィルムとしては、例えば、ポリ塩化ビニルフィルム及び塩化ビニル共重合体フィルムが挙げられる。
【0052】
ポリエステル系フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム及びポリブチレンテレフタレートフィルムが挙げられる。
【0053】
第1基材11としては、樹脂系の材料を主材とするフィルムの架橋フィルムも挙げられる。また、第1基材11としては、アイオノマーフィルムのような変性フィルムも挙げられる。
第1基材11は、樹脂系の材料を主材とするフィルム、架橋フィルム及び変性フィルムからなる群から選択される1種のみからなるフィルムでもよいし、2種類以上組み合わせた積層フィルムであってもよい。
【0054】
第1基材11には、上記の樹脂系材料を主材とするフィルム内に、例えば、顔料、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤及びフィラーからなる群から選択される少なくとも一種の添加剤が含まれていてもよい。
顔料としては、例えば、二酸化チタン及びカーボンブラック等が挙げられる。
フィラーとしては、例えば、メラミン樹脂のような有機系材料、ヒュームドシリカのような無機系材料及びニッケル粒子のような金属系材料が挙げられる。
樹脂系材料を主材とするフィルム内に含まれる添加剤の含有量は、特に限定されないが、第1基材11が所望の機能を発揮し、平滑性及び柔軟性を失わない範囲に留めることが好ましい。
【0055】
第1粘着剤層12を硬化させるためのエネルギー線として紫外線を照射する場合には、第1基材11は、紫外線に対して透過性を有することが好ましい。
なお、第1粘着剤層12を硬化させるためのエネルギー線として電子線を照射する場合には、第1基材11は、電子線に対して透過性を有することが好ましい。
【0056】
第1基材11は、その表面に積層される第1粘着剤層12との密着性を向上させる目的で、所望により片面または両面に、表面処理又はプライマー処理が施されていてもよい。表面処理としては、酸化法及び凹凸化法等が挙げられる。プライマー処理としては、基材表面にプライマー層を形成する方法が挙げられる。酸化法としては、例えば、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、クロム酸化処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン処理及び紫外線照射処理等が挙げられる。凹凸化法としては、例えば、サンドブラスト法及び溶射処理法等が挙げられる。
【0057】
第1基材11の厚さは、第1粘着シートが所望の工程において適切に機能できる限り、限定されない。
第1基材11の厚さは、20μm以上であることが好ましく、25μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましい。
第1基材11の厚さは、450μm以下であることが好ましく、400μm以下であることがより好ましく、350μm以下であることがさらに好ましい。
【0058】
・第1粘着剤層
第1粘着剤層12は、バックグラインド工程等の所望の工程において適切に機能できる限り、その構成材料は特に限定されない。
本実施形態では、第1粘着剤層12は、例えば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ゴム系粘着剤及びシリコーン系粘着剤からなる群から選択される少なくとも一種の粘着剤で構成されることが好ましく、アクリル系粘着剤で構成されることがより好ましい。
【0059】
第1粘着剤層12は、エネルギー線硬化性粘着剤を含有することも好ましい。エネルギー線硬化性粘着剤は、エネルギー線重合性化合物を含有する。
第1粘着剤層12がエネルギー線硬化性粘着剤を含有する場合には、第1粘着剤層12に第1基材11側からエネルギー線を照射し、エネルギー線重合性化合物を硬化させる。エネルギー線重合性化合物を硬化させると、第1粘着剤層12の凝集力が高まり、第1粘着剤層12と被着体(半導体ウエハW又は半導体チップCP)との間の粘着力を低下または消失させることができる。エネルギー線としては、例えば、紫外線(UV)及び電子線(EB)が挙げられ、紫外線が好ましい。
【0060】
エネルギー線硬化性粘着剤としては、例えば、「X型の粘着剤組成物」、「Y型の粘着剤組成物」及び「XY型の粘着剤組成物」が挙げられる。
【0061】
「X型の粘着剤組成物」は、非エネルギー線硬化性の粘着性樹脂(「粘着性樹脂I」ともいう)と、粘着性樹脂以外のエネルギー線硬化性化合物と、を含むエネルギー線硬化性粘着剤組成物である。
【0062】
「Y型の粘着剤組成物」は、エネルギー線硬化性粘着剤として、非エネルギー線硬化性の粘着性樹脂の側鎖に不飽和基を導入したエネルギー線硬化性の粘着性樹脂(以下、「粘着性樹脂II」ともいう)を主成分として含み、粘着性樹脂以外のエネルギー線硬化性化合物を含まない粘着剤組成物である。
【0063】
「XY型の粘着剤組成物」は、X型とY型の併用型、すなわち、エネルギー線硬化性の粘着性樹脂IIと、粘着性樹脂以外のエネルギー線硬化性化合物と、を含むエネルギー線硬化性粘着剤組成物である。
【0064】
これらの中では、XY型の粘着剤組成物を使用することが好ましい。XY型の粘着剤組成物を使用することで、硬化前においては十分な粘着特性を有する一方で、硬化後においては、半導体ウエハ又は半導体チップに対する剥離力を十分に低くすることが可能である。
【0065】
ただし、第1粘着剤層12における粘着剤としては、エネルギー線を照射しても硬化しない非エネルギー線硬化性の粘着剤組成物から形成してもよい。非エネルギー線硬化性の粘着剤組成物は、少なくとも非エネルギー線硬化性の粘着性樹脂Iを含有する一方、上記したエネルギー線硬化性の粘着性樹脂II及びエネルギー線硬化性化合物を含有しない粘着剤組成物である。
【0066】
なお、以下の説明において「粘着性樹脂」は、上記した粘着性樹脂I及び粘着性樹脂IIの一方又は両方を指す用語として使用する。具体的な粘着性樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ゴム系樹脂及びシリコーン系樹脂が挙げられ、アクリル系樹脂が好ましい。
【0067】
以下、粘着性樹脂として、アクリル系樹脂が使用されるアクリル系粘着剤についてより詳細に説明する。
【0068】
・アクリル系重合体(a)
アクリル系樹脂として、アクリル系重合体(a)が使用される。アクリル系重合体(a)は、少なくともアルキル(メタ)アクリレートを含むモノマーを重合して得た重合体である。アクリル系重合体(a)は、アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を含む。
アルキル(メタ)アクリレートにおけるアルキル基の炭素数は、1以上20以下であることが好ましい。
アルキル(メタ)アクリレートにおけるアルキル基は、直鎖であってもよいし、分岐鎖であってもよい。
アルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート及びドデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。アルキル(メタ)アクリレートは、1種を単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0069】
アクリル系重合体(a)は、粘着剤層の粘着力を向上させる観点から、アルキル基の炭素数が4以上であるアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を含むことが好ましい。該アルキル(メタ)アクリレートにおけるアルキル基の炭素数としては、4以上、12以下であることが好ましく、4以上、6以下であることがより好ましい。アルキル基の炭素数が4以上であるアルキル(メタ)アクリレートは、アルキルアクリレートであることが好ましい。
【0070】
アクリル系重合体(a)において、アルキル基の炭素数が4以上であるアルキル(メタ)アクリレートは、アクリル系重合体(a)を構成するモノマー全量(以下、単に「モノマー全量」ともいう)に対して、40質量%以上、98質量%以下であることが好ましく、45質量%以上、95質量%以下であることがより好ましく、50質量%以上、90質量%以下であることがさらに好ましい。
【0071】
アクリル系重合体(a)は、アルキル基の炭素数が4以上であるアルキル(メタ)アクレート由来の構成単位に加えて、粘着剤層の弾性率や粘着特性を調整するために、アルキル基の炭素数が1以上3以下であるアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を含む共重合体であることが好ましい。なお、該アルキル(メタ)アクリレートは、炭素数1又は2のアルキル(メタ)アクリレートであることが好ましく、メチル(メタ)アクリレートがより好ましく、メチルメタクリレートが最も好ましい。アクリル系重合体(a)において、アルキル基の炭素数が1以上3以下であるアルキル(メタ)アクリレートは、モノマー全量に対して、1質量%以上、30質量%以下であることが好ましく、3質量%以上、26質量%以下であることがより好ましく、6質量%以上、22質量%以下であることがさらに好ましい。
【0072】
・官能基含有モノマー
アクリル系重合体(a)は、上記したアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位に加えて、官能基含有モノマー由来の構成単位を有することが好ましい。官能基含有モノマーの官能基としては、例えば、水酸基、カルボキシ基、アミノ基及びエポキシ基が挙げられる。官能基含有モノマーは、後述の架橋剤と反応し、架橋起点となったり、不飽和基含有化合物と反応して、アクリル系重合体(a)の側鎖に不飽和基を導入させたりすることが可能である。
【0073】
官能基含有モノマーとしては、例えば、水酸基含有モノマー、カルボキシ基含有モノマー、アミノ基含有モノマー及びエポキシ基含有モノマーが挙げられる。これら官能基含有モノマーは、1種を単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。これら官能基含有モノマーの中でも、水酸基含有モノマー及びカルボキシ基含有モノマーが好ましく、水酸基含有モノマーがより好ましい。
【0074】
水酸基含有モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ビニルアルコール、アリルアルコール等の不飽和アルコール等が挙げられる。
【0075】
カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;フマル酸、イタコン酸、マレイン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸及びその無水物、2-カルボキシエチルメタクリレート等が挙げられる。
【0076】
官能基含有モノマーは、アクリル系重合体(a)を構成するモノマー全量に対して、1質量%以上、35質量%以下であることが好ましく、3質量%以上、32質量%以下であることがより好ましく、6質量%以上、30質量%以下であることがさらに好ましい。
【0077】
また、アクリル系重合体(a)は、上記以外にも、上記アクリル系モノマーと共重合可能なモノマー由来の構成単位を含んでもよい。上記アクリル系モノマーと共重合可能なモノマー由来の構成単位としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、アクリロニトリル及びアクリルアミドが挙げられる。
【0078】
上記アクリル系重合体(a)は、非エネルギー線硬化性の粘着性樹脂I(アクリル系樹脂)として使用することができる。また、エネルギー線硬化性のアクリル系樹脂としては、上記アクリル系重合体(a)の官能基に、光重合性不飽和基を有する化合物(不飽和基含有化合物ともいう)を反応させたものが挙げられる。
【0079】
不飽和基含有化合物は、アクリル系重合体(a)の官能基と結合可能な置換基及び光重合性不飽和基の双方を有する化合物である。光重合性不飽和基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基及びビニルベンジル基が挙げられ、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0080】
また、不飽和基含有化合物が有する、官能基と結合可能な置換基としては、例えば、イソシアネート基及びグリシジル基が挙げられる。したがって、不飽和基含有化合物としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルイソシアネート及びグリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0081】
また、不飽和基含有化合物は、アクリル系重合体(a)の官能基の一部に反応することが好ましく、具体的には、アクリル系重合体(a)が有する官能基の50モル%以上、98モル%以下に、不飽和基含有化合物を反応させることが好ましく、55モル%以上、93モル%以下に、不飽和基含有化合物を反応させることがより好ましい。このように、エネルギー線硬化性アクリル系樹脂において、官能基の一部が不飽和基含有化合物と反応せずに残存することで、架橋剤によって架橋されやすくなる。
【0082】
なお、アクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、30万以上、160万以下であることが好ましく、40万以上、140万以下であることがより好ましく、50万以上、120万以下であることがさらに好ましい。アクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定したポリスチレン換算の値である。
【0083】
・エネルギー線硬化性化合物
X型又はXY型の粘着剤組成物に含有されるエネルギー線硬化性化合物としては、分子内に不飽和基を有し、エネルギー線照射により重合硬化可能なモノマー又はオリゴマーが好ましい。
【0084】
このようなエネルギー線硬化性化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート及び1,6-へキサンジオール(メタ)アクリレート等の多価(メタ)アクリレートモノマー、並びにウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート及びエポキシ(メタ)アクリレート等のオリゴマーが挙げられる。
【0085】
これらの中でも、比較的分子量が高く、粘着剤層のせん断貯蔵弾性率を低下させにくい観点から、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましい。エネルギー線硬化性化合物の分子量(オリゴマーの場合は重量平均分子量)は、100以上、12000以下であることが好ましく、200以上、10000以下であることがより好ましく、400以上、8000以下であることがさらに好ましく、600以上、6000以下であることが特に好ましい。
【0086】
X型の粘着剤組成物におけるエネルギー線硬化性化合物の含有量は、粘着性樹脂100質量部に対して、40質量部以上、200質量部以下であることが好ましく、50質量部以上、150質量部以下であることがより好ましく、60質量部以上、90質量部以下であることがさらに好ましい。
【0087】
一方で、XY型の粘着剤組成物におけるエネルギー線硬化性化合物の含有量は、粘着性樹脂100質量部に対して、1質量部以上、30質量部以下であることが好ましく、2質量部以上、20質量部以下であることがより好ましく、3質量部以上、15質量部以下であることがさらに好ましい。XY型の粘着剤組成物では、粘着性樹脂が、エネルギー線硬化性であるため、エネルギー線硬化性化合物の含有量が少なくても、エネルギー線照射後、十分に剥離力を低下させることが可能である。
【0088】
・架橋剤
粘着剤組成物は、さらに架橋剤を含有することが好ましい。架橋剤は、例えば、粘着性樹脂が有する官能基モノマー由来の官能基に反応して、粘着性樹脂同士を架橋する。架橋剤としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等、及びそれらのアダクト体等のイソシアネート系架橋剤;エチレングリコールグリシジルエーテル等のエポキシ系架橋剤;ヘキサ〔1-(2-メチル)-アジリジニル〕トリフオスファトリアジン等のアジリジン系架橋剤;アルミニウムキレート等のキレート系架橋剤;等が挙げられる。これらの架橋剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0089】
これらの中でも、凝集力を高めて粘着力を向上させる観点、及び入手し易さ等の観点から、イソシアネート系架橋剤が好ましい。
【0090】
架橋剤の配合量は、架橋反応を促進させる観点から、粘着性樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上、10質量部以下であることが好ましく、0.03質量部以上、7質量部以下であることがより好ましく、0.05質量部以上、4質量部以下であることがさらに好ましい。
【0091】
・光重合開始剤
粘着剤組成物がエネルギー線硬化性である場合には、粘着剤組成物は、さらに光重合開始剤を含有することが好ましい。光重合開始剤を含有することで、紫外線等の比較的低エネルギーのエネルギー線でも、粘着剤組成物の硬化反応を十分に進行させることができる。
【0092】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン化合物、アセトフェノン化合物、アシルフォスフィノキサイド化合物、チタノセン化合物、チオキサントン化合物及びパーオキサイド化合物が挙げられる。さらには、光重合開始剤としては、例えば、アミン又はキノン等の光増感剤等が挙げられる。
より具体的な光重合開始剤としては、例えば、1-ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロルニトリル、ジベンジル、ジアセチル、8-クロールアンスラキノン及びビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキシドが挙げられる。これらの光重合開始剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0093】
光重合開始剤の配合量は、粘着性樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上、10質量部以下であることが好ましく、0.03質量部以上、5質量部以下であることがより好ましく、0.05質量部以上、5質量部以下であることがさらに好ましい。
【0094】
・その他の添加剤
粘着剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、その他の添加剤を含有してもよい。その他の添加剤としては、例えば、帯電防止剤、酸化防止剤、軟化剤(可塑剤)、充填剤、防錆剤、顔料及び染料が挙げられる。これらの添加剤を配合する場合、添加剤の配合量は、粘着性樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上、6質量部以下であることが好ましい。
【0095】
また、粘着剤組成物は、基材、緩衝層又は剥離シートへの塗布性を向上させる観点から、更に有機溶媒で希釈して、粘着剤組成物の溶液(塗工液と称する場合がある。)の形態でもよい。
【0096】
有機溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロヘキサン、n-ヘキサン、トルエン、キシレン、n-プロパノール及びイソプロパノールが挙げられる。
【0097】
なお、これらの有機溶媒は、粘着性樹脂の合成時に使用された有機溶媒をそのまま用いてもよいし、該粘着剤組成物の溶液(塗工液)を均一に塗布できるように、合成時に使用された有機溶媒以外の1種以上の有機溶媒を加えてもよい。
【0098】
第1粘着剤層12の厚さは、200μm未満であることが好ましく、5μm以上、80μm以下であることがより好ましく、10μm以上、70μm以下であることがさらに好ましい。第1粘着剤層12の厚さがこのような範囲であると、第1粘着シート10において剛性の低い部分の割合を少なくできるため、裏面研削時に生じる半導体チップの欠けをさらに防止し易くなる。
以上が第1粘着剤層12に関する説明である。
【0099】
・剥離シート
第1粘着シート10の表面には、剥離シートが貼付されていてもよい。剥離シートは、具体的には、第1粘着シート10の第1粘着剤層12の表面に貼付される。剥離シートは、第1粘着剤層12の表面に貼付されることで輸送時及び保管時に第1粘着剤層12を保護する。剥離シートは、剥離可能に第1粘着シート10に貼付されており、第1粘着シート10が使用される前(すなわち、ウエハ裏面研削前)には、第1粘着シート10から剥離されて取り除かれる。
【0100】
剥離シートは、少なくとも一方の面が剥離処理をされた剥離シートが用いられる。具体的には、例えば、剥離シート用基材と、この基材の表面上に剥離剤を塗布して形成した剥離剤層とを備える剥離シートが挙げられる。
【0101】
剥離シート用基材としては、樹脂フィルムが好ましい。剥離シート用基材としての樹脂フィルムを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂及びポリエチレンナフタレート樹脂等のポリエステル樹脂フィルム、並びにポリプロピレン樹脂及びポリエチレン樹脂等のポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
剥離剤としては、例えば、シリコーン系樹脂、オレフィン系樹脂、イソプレン系樹脂、ブタジエン系樹脂等のゴム系エラストマー、長鎖アルキル系樹脂、アルキド系樹脂及びフッ素系樹脂が挙げられる。
【0102】
剥離シートの厚さは、特に制限はないが、10μm以上、200μm以下であることが好ましく、20μm以上、150μm以下であることがより好ましい。
【0103】
・粘着シートの製造方法
第1粘着シート10及びその他の本明細書に記載の粘着シートの製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法により製造できる。
【0104】
例えば、剥離シート上に設けた粘着剤層を、基材の片面に貼り合わせ、粘着剤層の表面に剥離シートが貼付された粘着シートを製造できる。また、剥離シート上に設けた緩衝層と、基材とを貼り合わせ、剥離シートを除去することで、緩衝層と基材との積層体が得られる。そして、剥離シート上に設けた粘着剤層を、積層体の基材側に貼り合わせ、粘着剤層の表面に剥離シートが貼付された粘着シートを製造できる。なお、緩衝層を基材の両面に設けた場合には、粘着剤層は緩衝層の上に形成される。粘着剤層の表面に貼付される剥離シートは、粘着シートの使用前に適宜剥離して除去すればよい。
【0105】
粘着シートの製造方法のより具体的な一例としては、次のような方法が挙げられる。まず、粘着剤層を構成する粘着性組成物、及び所望によりさらに溶媒または分散媒を含有する塗工液を調製する。次に、塗工液を、基材の一の面上に、塗布手段により塗布して塗膜を形成する。塗布手段としては、例えば、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、スリットコーター、及びナイフコーター等が挙げられる。次に、当該塗膜を乾燥させることにより、粘着剤層を形成できる。塗工液は、塗布を行うことが可能であれば、その性状は特に限定されない。塗工液は、粘着剤層を形成するための成分を溶質として含有する場合もあれば、粘着剤層を形成するための成分を分散質として含有する場合もある。同様に、基材の片面または緩衝層の上に、粘着剤組成物を直接塗布して、粘着剤層を形成してもよい。
【0106】
また、粘着シートの製造方法のより具体的な別の一例としては、次のような方法が挙げられる。まず、前述の剥離シートの剥離面上に塗工液を塗布して塗膜を形成する。次に、塗膜を乾燥させて粘着剤層と剥離シートとからなる積層体を形成する。次に、この積層体の粘着剤層における剥離シート側の面と反対側の面に、基材を貼付して、粘着シートと剥離シートとの積層体を得てもよい。この積層体における剥離シートは、工程材料として剥離してもよいし、粘着剤層に被着体(例えば、半導体チップ、及び半導体ウエハ等)が貼付されるまで、粘着剤層を保護していてもよい。
【0107】
塗工液が架橋剤を含有する場合には、塗膜の乾燥の条件(例えば、温度、及び時間等)を変えることにより、または加熱処理を、別途、行うことにより、例えば、塗膜内の(メタ)アクリル系共重合体と架橋剤との架橋反応を進行させ、粘着剤層内に所望の存在密度で架橋構造を形成させればよい。この架橋反応を十分に進行させるために、上述の方法等によって基材に粘着剤層を積層させた後、得られた粘着シートを、例えば、23℃、相対湿度50%の環境に数日間静置するといった養生を行ってもよい。
【0108】
第1粘着シート10の厚さは、10μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましい。第1粘着シート10の厚さは、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。
【0109】
(第2粘着シート)
第2粘着シート20は、第2基材21と、第2粘着剤層22とを有する。第2粘着剤層22は、第2基材21に積層されている。
【0110】
・第2基材
本実施形態に係る第2基材21は、ダイシング工程等の所望の工程において適切に機能できる限り、その構成材料は特に限定されない。
第2基材21は、樹脂系の材料を主材とするフィルムから構成されることが好ましい。樹脂系の材料を主材とするフィルムとしては、例えば、エチレン系共重合フィルム、ポリオレフィン系フィルム、ポリ塩化ビニル系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリウレタンフィルム、ポリイミドフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、及びフッ素樹脂フィルムが挙げられる。
第2基材21として用い得る樹脂系の材料を主材とするフィルムの具体例は、第1基材11の説明で例示したフィルムと同様である。
なお、第2基材21におけるポリオレフィン系フィルムとしては、第1基材11の説明で例示したフィルムに加えて、エチレン-プロピレン共重合体フィルムも用いることができる。
【0111】
第2基材21は、第1基材11と同様、上記の樹脂系材料を主材とするフィルム内に、例えば、顔料、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤及びフィラーからなる群から選択される少なくとも一種の添加剤が含まれていてもよい。
【0112】
第2基材21は、第1基材11と同様、所望により第2基材21の片面または両面に、第2基材21の表面に積層される第2粘着剤層22との密着性を向上させるための処理が施されていてもよい。
【0113】
第2基材21の厚さは、第2粘着シート20が所望の工程において適切に機能できる限り、限定されない。第2基材21の好ましい厚さの範囲は、第1基材11で説明した厚さ範囲と同様である。なお、第1基材11と第2基材21との厚さは、互いに同じでも異なっていてもよい。
【0114】
・第2粘着剤層
第2粘着剤層22は、ダイシング工程等の所望の工程において適切に機能できる限り、その構成材料は特に限定されない。
【0115】
第2粘着剤層22は、非エネルギー線硬化性粘着剤から構成されてもよいし、エネルギー線硬化性粘着剤から構成されてもよい。
【0116】
非エネルギー線硬化性粘着剤としては、所望の粘着力および再剥離性を有するものが好ましい。
非エネルギー線硬化性粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤及びポリビニルエーテル系粘着剤が挙げられる。これら非エネルギー線硬化性粘着剤の中でも、ダイシング工程等にてワーク(半導体ウエハW)または加工物(半導体チップCP)の脱落を効果的に抑制できるアクリル系粘着剤が好ましい。
【0117】
一方、エネルギー線硬化性粘着剤は、エネルギー線照射により粘着力が低下するため、ワークまたは加工物と第2粘着シート20とを分離させたいときに、エネルギー線照射することにより、容易に分離させることができる。
【0118】
第2粘着剤層22を構成するエネルギー線硬化性粘着剤は、エネルギー線硬化性を有するポリマーを主成分として含有する粘着剤でもよい。
また、第2粘着剤層22を構成するエネルギー線硬化性粘着剤は、エネルギー線硬化性を有しないポリマーと、エネルギー線硬化性の多官能モノマー及びエネルギー線硬化性の多官能オリゴマーの少なくともいずれかとの混合物を主成分として含有する粘着剤でもよい。
【0119】
エネルギー線硬化性粘着剤が、エネルギー線硬化性を有するポリマーを主成分とする場合について、以下説明する。
【0120】
・エネルギー線硬化型重合体(A)
エネルギー線硬化性を有するポリマーは、側鎖にエネルギー線硬化性を有する官能基(エネルギー線硬化性基)が導入された(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体(A)(以下「エネルギー線硬化型重合体(A)」という場合がある。)であることが好ましい。このエネルギー線硬化型重合体(A)は、官能基含有モノマー単位を有する(メタ)アクリル系共重合体(a1)と、その官能基に結合する置換基を有する不飽和基含有化合物(a2)とを反応させて得られるものであることが好ましい。
【0121】
・アクリル系共重合体(a1)
アクリル系共重合体(a1)は、官能基含有モノマーから導かれる構成単位と、(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体から導かれる構成単位とからなる。
【0122】
アクリル系共重合体(a1)の構成単位としての官能基含有モノマーは、重合性の二重結合と、官能基とを分子内に有するモノマーであることが好ましい。この官能基含有モノマーが有する官能基としては、例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、置換アミノ基及びエポキシ基が挙げられる。
【0123】
上記官能基含有モノマーのさらに具体的な例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、及び4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これら官能基含有モノマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0124】
アクリル系共重合体(a1)を構成する(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、アルキル基の炭素数が1~20であるアルキル(メタ)アクリレート、シクロアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートが用いられる。これらの中でも、アルキル基の炭素数が1~18であるアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート又は2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等が用いられる。
【0125】
アクリル系共重合体(a1)は、上記官能基含有モノマーから導かれる構成単位を、通常、3質量%以上、100質量%以下、好ましくは5質量%以上、40質量%以下の割合で含有し、(メタ)アクリル酸エステルモノマー又はその誘導体から導かれる構成単位を、通常、0質量%以上、97質量%以下、好ましくは60質量%以上、95質量%以下の割合で含有する。
【0126】
アクリル系共重合体(a1)は、上記のような官能基含有モノマーと、(メタ)アクリル酸エステルモノマー又はその誘導体とを常法で共重合することにより得られる。アクリル系共重合体(a1)は、これらモノマーの他にも、例えば、ジメチルアクリルアミド、蟻酸ビニル、酢酸ビニル及びスチレンからなる群から選択される少なくとも一種のモノマーが共重合されてもよい。
【0127】
上記官能基含有モノマー単位を有するアクリル系共重合体(a1)を、その官能基に結合する置換基を有する不飽和基含有化合物(a2)と反応させることにより、エネルギー線硬化型重合体(A)が得られる。
【0128】
・不飽和基含有化合物(a2)
不飽和基含有化合物(a2)が有する置換基は、アクリル系共重合体(a1)が有する官能基含有モノマー単位の官能基の種類に応じて、適宜選択できる。例えば、官能基がヒドロキシ基、アミノ基又は置換アミノ基の場合、置換基としてはイソシアネート基又はエポキシ基が好ましく、官能基がエポキシ基の場合、置換基としてはアミノ基、カルボキシ基又はアジリジニル基が好ましい。
【0129】
また、不飽和基含有化合物(a2)には、エネルギー線重合性の炭素-炭素二重結合が、1分子毎に1個以上、5個以下、好ましくは1個以上、2個以下含まれている。このような不飽和基含有化合物(a2)の具体例としては、例えば、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、メタ-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート、メタクリロイルイソシアネート、アリルイソシアネート、1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート;ジイソシアネート化合物またはポリイソシアネート化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるアクリロイルモノイソシアネート化合物;ジイソシアネート化合物またはポリイソシアネート化合物と、ポリオール化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるアクリロイルモノイソシアネート化合物;グリシジル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸、2-(1-アジリジニル)エチル(メタ)アクリレート、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン等が挙げられる。
【0130】
不飽和基含有化合物(a2)は、上記アクリル系共重合体(a1)の官能基含有モノマーに対して、通常、10mol%以上、100mol%以下、好ましくは20mol%以上、95mol%以下の割合で用いられる。
【0131】
アクリル系共重合体(a1)と不飽和基含有化合物(a2)との反応においては、官能基と置換基との組合せに応じて、反応の温度、圧力、溶媒、時間、触媒の有無及び触媒の種類等の反応条件を適宜選択できる。このような反応条件を適宜選択することにより、アクリル系共重合体(a1)中に存在する官能基と、不飽和基含有化合物(a2)中の置換基とが反応し、不飽和基がアクリル系共重合体(a1)中の側鎖に導入され、エネルギー線硬化型重合体(A)が得られる。
【0132】
このようにして得られるエネルギー線硬化型重合体(A)の重量平均分子量は、1万以上であるのが好ましく、15万以上、150万以下であることが好ましく、20万以上、100万以下であることがさらに好ましい。なお、本明細書における重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定したポリスチレン換算の値である。
【0133】
・エネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマー(B)
エネルギー線硬化性粘着剤が、エネルギー線硬化性を有するポリマーを主成分とする場合であっても、エネルギー線硬化性粘着剤は、エネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマー(B)をさらに含有してもよい。
【0134】
エネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマー(B)としては、例えば、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル等を使用することができる。
【0135】
エネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマー(B)としては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の単官能性アクリル酸エステル類、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート等の多官能性アクリル酸エステル類、ポリエステルオリゴ(メタ)アクリレート、ポリウレタンオリゴ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0136】
エネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマー(B)を配合する場合、エネルギー線硬化性粘着剤中におけるエネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマー(B)の含有量は、5質量%以上、80質量%以下であることが好ましく、20質量%以上、60質量%以下であることがより好ましい。
【0137】
・光重合開始剤(C)
ここで、エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化させるためのエネルギー線として紫外線を用いる場合には、光重合開始剤(C)を添加することが好ましく、この光重合開始剤(C)の使用により、重合硬化時間および光線照射量を少なくすることができる。
【0138】
光重合開始剤(C)としては、具体的には、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾインジメチルケタール、2,4-ジエチルチオキサンソン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンジル、ジベンジル、ジアセチル、β-クロールアンスラキノン、(2,4,6-トリメチルベンジルジフェニル)フォスフィンオキサイド、2-ベンゾチアゾール-N,N-ジエチルジチオカルバメート、オリゴ{2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-プロペニル)フェニル]プロパノン}、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン等が挙げられる。これら光重合開始剤(C)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0139】
光重合開始剤(C)は、エネルギー線硬化型共重合体(A)(エネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマー(B)を配合する場合には、エネルギー線硬化型共重合体(A)およびエネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマー(B)の合計量100質量部)100質量部に対して、0.1質量部以上、10質量部以下の範囲の量で用いられることが好ましく、0.5質量部以上、6質量部以下の範囲の量で用いられることがより好ましい。
【0140】
エネルギー線硬化性粘着剤においては、上記成分以外にも、適宜他の成分を配合してもよい。他の成分としては、例えば、エネルギー線硬化性を有しないポリマー成分またはオリゴマー成分(D)、架橋剤(E)等が挙げられる。
【0141】
エネルギー線硬化性を有しないポリマー成分またはオリゴマー成分(D)としては、例えば、ポリアクリル酸エステル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリオレフィン等が挙げられ、重量平均分子量(Mw)が3000以上、250万以下のポリマーまたはオリゴマーが好ましい。
【0142】
・架橋剤(E)
架橋剤(E)としては、エネルギー線硬化型共重合体(A)等が有する官能基との反応性を有する多官能性化合物を用いることができる。このような多官能性化合物の例としては、イソシアナート化合物、エポキシ化合物、アミン化合物、メラミン化合物、アジリジン化合物、ヒドラジン化合物、アルデヒド化合物、オキサゾリン化合物、金属アルコキシド化合物、金属キレート化合物、金属塩、アンモニウム塩及び反応性フェノール樹脂等を挙げることができる。
【0143】
これら他の成分(D),(E)をエネルギー線硬化性粘着剤に配合することにより、硬化前における粘着性および剥離性、硬化後の強度、他の層との接着性又は保存安定性等を改善し得る。これら他の成分の配合量は、特に限定されず、エネルギー線硬化型共重合体(A)100質量部に対して0質量部以上、40質量部以下の範囲で適宜決定される。
【0144】
次に、エネルギー線硬化性粘着剤が、エネルギー線硬化性を有しないポリマー成分とエネルギー線硬化性の多官能モノマーおよび/またはオリゴマーとの混合物を主成分とする場合について、以下説明する。
【0145】
エネルギー線硬化性を有しないポリマー成分としては、例えば、前述したアクリル系共重合体(a1)と同様の成分が使用できる。エネルギー線硬化性樹脂組成物中におけるエネルギー線硬化性を有しないポリマー成分の含有量は、20質量%以上、99.9質量%以下であることが好ましく、30質量%以上、80質量%以下であることがより好ましい。
【0146】
エネルギー線硬化性の多官能モノマーおよび/またはオリゴマーとしては、前述の成分(B)と同じものが選択される。エネルギー線硬化性を有しないポリマー成分とエネルギー線硬化性の多官能モノマーおよび/またはオリゴマーとの配合比は、ポリマー成分100質量部に対して、多官能モノマーおよび/またはオリゴマー10質量部以上、150質量部以下であるのが好ましく、25質量部以上、100質量部以下であるのがより好ましい。
【0147】
この場合においても、上記と同様に、光重合開始剤(C)や架橋剤(E)を適宜配合することができる。
【0148】
第2粘着剤層22の厚さは、第2粘着シート20が使用される各工程において適切に機能できる限り、特に限定されない。第2粘着剤層22の厚さは、1μm以上、50μm以下であることが好ましく、2μm以上、30μm以下であることが好ましく、3μm以上、20μm以下であることがさらに好ましい。
以上が第2粘着剤層22に関する説明である。
【0149】
・剥離シート
第2粘着シート20が使用されるまでの間、第2粘着剤層22を保護するための剥離シートが、第2粘着剤層22に貼着されていることが好ましい。この剥離シートは、第2粘着剤層22上に直接積層されていてもよいし、第2粘着剤層22上に他の層(ダイボンディングフィルム等)が積層され、当該他の層上に剥離シートが積層されていてもよい。
【0150】
剥離シートの構成は任意であり、剥離剤等により剥離処理したプラスチックフィルムが例示される。プラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、およびポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィンフィルムが挙げられる。剥離剤としては、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系等を用いることができるが、これらの剥離剤の中では、安価で安定した性能が得られるシリコーン系が好ましい。剥離シートの厚さについては特に制限はないが、通常、20μm以上、250μm以下程度である。
【0151】
第2粘着シート20の厚さは、10μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましい。第2粘着シート20の厚さは、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。
【0152】
(第3粘着シート)
第3粘着シート30は、第3基材31と、第3粘着剤層32とを有する。第3粘着剤層32は、第3基材31に積層されている。
・第3基材
第3基材31は、エキスパンド工程等の所望の工程において適切に機能できる限り、その構成材料は特に限定されない。
前記第3基材31は、第一の基材面と、第一の基材面とは反対側の第二の基材面とを有することが好ましい。
第3粘着シート30において、第一の基材面及び第二の基材面の一方の面に第3粘着剤層32が設けられていることが好ましく、他方の面には粘着剤層が設けられていないことが好ましい。
【0153】
第3基材31の材料は、大きく延伸させ易いという観点から、熱可塑性エラストマー、またはゴム系材料であることが好ましく、熱可塑性エラストマーであることがより好ましい。
【0154】
また、第3基材31の材料としては、大きく延伸させ易いという観点から、ガラス転移温度(Tg)が比較的低い樹脂を使用することが好ましい。このような樹脂のガラス転移温度(Tg)は、90℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましく、70℃以下であることがさらに好ましい。
【0155】
熱可塑性エラストマーとしては、ウレタン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、スチレン系エラストマー、アクリル系エラストマー、及びアミド系エラストマー等が挙げられる。熱可塑性エラストマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。熱可塑性エラストマーとしては、大きく延伸させ易いという観点から、ウレタン系エラストマーを使用することが好ましい。
【0156】
ウレタン系エラストマーは、一般に、長鎖ポリオール、鎖延長剤、及びジイソシアネートを反応させて得られる。ウレタン系エラストマーは、長鎖ポリオールから誘導される構成単位を有するソフトセグメントと、鎖延長剤とジイソシアネートとの反応から得られるポリウレタン構造を有するハードセグメントとからなる。
【0157】
ウレタン系エラストマーを、長鎖ポリオールの種類によって分類すると、ポリエステル系ポリウレタンエラストマー、ポリエーテル系ポリウレタンエラストマー、及びポリカーボネート系ポリウレタンエラストマー等に分けられる。ウレタン系エラストマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。本実施形態では、ウレタン系エラストマーは、大きく延伸させ易いという観点から、ポリエーテル系ポリウレタンエラストマーであることが好ましい。
【0158】
長鎖ポリオールの例としては、ラクトン系ポリエステルポリオール、及びアジペート系ポリエステルポリオール等のポリエステルポリオール;ポリプロピレン(エチレン)ポリオール、及びポリテトラメチレンエーテルグリコール等のポリエーテルポリオール;ポリカーボネートポリオール等が挙げられる。本実施形態では、長鎖ポリオールは、大きく延伸させ易いという観点から、アジペート系ポリエステルポリオールであることが好ましい。
【0159】
ジイソシアネートの例としては、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、及びヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。本実施形態では、ジイソシアネートは、大きく延伸させ易いという観点から、ヘキサメチレンジイソシアネートであることが好ましい。
【0160】
鎖延長剤としては、低分子多価アルコール(例えば、1,4-ブタンジオール、及び1,6-ヘキサンジオール等)、及び芳香族ジアミン等が挙げられる。これらのうち、大きく延伸させ易いという観点から、1,6-ヘキサンジオールを使用することが好ましい。
【0161】
オレフィン系エラストマーとしては、エチレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体、ブテン・α-オレフィン共重合体、エチレン・プロピレン・α-オレフィン共重合体、エチレン・ブテン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・ブテン-αオレフィン共重合体、エチレン・プロピレン・ブテン-α・オレフィン共重合体、スチレン・イソプレン共重合体、及びスチレン・エチレン・ブチレン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むエラストマーが挙げられる。オレフィン系エラストマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0162】
オレフィン系エラストマーの密度は、特に限定されない。例えば、オレフィン系エラストマーの密度は、0.860g/cm3以上、0.905g/cm3未満であることが好ましく、0.862g/cm3以上、0.900g/cm3未満であることがより好ましく、0.864g/cm3以上、0.895g/cm3未満であることが特に好ましい。オレフィン系エラストマーの密度が上記範囲を満たすことで、基材は、被着体としての半導体ウエハ等の半導体装置を粘着シートに貼付する時の凹凸追従性等に優れる。
【0163】
オレフィン系エラストマーは、このエラストマーを形成するために用いた全単量体のうち、オレフィン系化合物からなる単量体の質量比率(本明細書において「オレフィン含有率」ともいう。)が50質量%以上、100質量%以下であることが好ましい。
オレフィン含有率が過度に低い場合には、オレフィンに由来する構造単位を含むエラストマーとしての性質が現れにくくなり、基材は、柔軟性及びゴム弾性を示し難くなる。
柔軟性及びゴム弾性を安定的に得る観点から、オレフィン含有率は50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。
【0164】
スチレン系エラストマーとしては、スチレン-共役ジエン共重合体、及びスチレン-オレフィン共重合体等が挙げられる。スチレン-共役ジエン共重合体の具体例としては、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)、スチレン-ブタジエン-ブチレン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体(SIS)、スチレン-エチレン-イソプレン-スチレン共重合体等の未水添スチレン-共役ジエン共重合体、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレン共重合体(SEPS、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体の水添加物)、及びスチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS、スチレン-ブタジエン共重合体の水素添加物)等の水添スチレン-共役ジエン共重合体等を挙げることができる。また、工業的には、スチレン系エラストマーとしては、タフプレン(旭化成株式会社製)、クレイトン(クレイトンポリマージャパン株式会社製)、住友TPE-SB(住友化学株式会社製)、エポフレンド(株式会社ダイセル製)、ラバロン(三菱ケミカル株式会社製)、セプトン(株式会社クラレ製)、及びタフテック(旭化成株式会社製)等の商品名が挙げられる。スチレン系エラストマーは、水素添加物でも未水添物であってもよい。
【0165】
ゴム系材料としては、例えば、天然ゴム、合成イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、及び多硫化ゴム等が挙げられる。これらゴム系材料は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0166】
第3基材31は、上記のような材料(例えば、熱可塑性エラストマー、またはゴム系材料)からなるフィルムが、複数、積層された積層フィルムではなく、単層フィルムであることが好ましい。また、第3基材31は、上記のような材料(例えば、熱可塑性エラストマー、またはゴム系材料)からなるフィルムと、その他のフィルムとが積層された積層フィルムではなく、単層フィルムであることが好ましい。
【0167】
第3基材31は、上記の樹脂系材料を主材料とするフィルム内に、添加剤を含んでいてもよい。添加剤の具体例としては、第1基材11及び第2基材21の説明で挙げた添加剤と同様である。フィルム内に含有させてもよい添加剤の含有量は、特に限定されないが、第3基材31が所望の機能を発揮し得る範囲に留めることが好ましい。
【0168】
第3基材31は、第1基材11及び第2基材21と同様、第3基材31の片面または両面に、第3基材31の表面に積層される第3粘着剤層32との密着性を向上させるための処理が施されていてもよい。
【0169】
第3粘着剤層32がエネルギー線硬化性粘着剤を含有する場合、第3基材31は、エネルギー線に対する透過性を有することが好ましい。エネルギー線として紫外線を用いる場合には、第3基材31は、紫外線に対して透過性を有することが好ましい。エネルギー線として電子線を用いる場合には、第3基材31は、電子線の透過性を有することが好ましい。
【0170】
第3基材31の厚さは、第3粘着シート30が所望の工程において適切に機能できる限り、限定されない。第3基材31の厚さは、20μm以上であることが好ましく、40μm以上であることがより好ましい。また、第3基材31の厚さは、250μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましい。
【0171】
また、第3基材31の第一の基材面または第二の基材面の面内方向において2cm間隔で複数箇所の厚さを測定した際の、第3基材31の厚さの標準偏差は、2μm以下であることが好ましく、1.5μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることがさらに好ましい。当該標準偏差が2μm以下であることで、第3粘着シート30は、精度の高い厚さを有しており、第3粘着シート30を均一に延伸することが可能となる。
【0172】
23℃において第3基材31のMD方向及びCD方向の引張弾性率が、それぞれ10MPa以上、350MPa以下であり、23℃において第3基材31のMD方向及びCD方向の100%応力が、それぞれ3MPa以上、20MPa以下であることが好ましい。
引張弾性率及び100%応力が上記範囲であることで、第3粘着シート30を大きく延伸することが可能となる。
第3基材31の100%応力は、次のようにして得られる値である。150mm(長さ方向)×15mm(幅方向)の大きさの試験片を第3基材31から切り出す。切り出した試験片の長さ方向の両端を、つかみ具間の長さが100mmとなるようにつかみ具でつかむ。つかみ具で試験片をつかんだ後、速度200mm/minで長さ方向に引張り、つかみ具間の長さが200mmとなったときの引張力の測定値を読み取る。第3基材31の100%応力は、読み取った引張力の測定値を、基材の断面積で除算することで得られる値である。第3基材31の断面積は、幅方向長さ15mm×第3基材31(試験片)の厚みで算出される。当該切り出しは、基材の製造時における流れ方向(MD方向)またはMD方向に直交する方向(CD方向)と、試験片の長さ方向とが一致するように行う。なお、この引張試験において、試験片の厚さは特別に制限されず、試験の対象とする基材の厚さと同じであってよい。
【0173】
23℃において第3基材31のMD方向及びCD方向の破断伸度が、それぞれ100%以上であることが好ましい。
第3基材31のMD方向及びCD方向の破断伸度が、それぞれ100%以上であることで、破断が生じることなく、第3粘着シート30を大きく延伸することが可能となる。
【0174】
基材の引張弾性率(MPa)及び基材の破断伸度(%)は、次のようにして測定できる。基材を15mm×140mmに裁断して試験片を得る。当該試験片について、JIS K7161:2014およびJIS K7127:1999に準拠して、23℃における破断伸度および引張弾性率を測定する。具体的には、上記試験片を、引張試験機(株式会社島津製作所製,製品名「オートグラフAG-IS 500N」)にて、チャック間距離100mmに設定した後、200mm/minの速度で引張試験を行い、破断伸度(%)および引張弾性率(MPa)を測定する。なお、測定は、基材の製造時の流れ方向(MD)およびこれに直角の方向(CD)の双方で行う。
【0175】
・第3粘着剤層
第3粘着剤層32は、エキスパンド工程等の所望の工程において適切に機能できる限り、その構成材料は特に限定されない。第3粘着剤層32に含まれる粘着剤としては、例えば、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤及びウレタン系粘着剤が挙げられる。
【0176】
・エネルギー線硬化性樹脂(ax1)
第3粘着剤層32は、エネルギー線硬化性樹脂(ax1)を含有することが好ましい。エネルギー線硬化性樹脂(ax1)は、分子内に、エネルギー線硬化性の二重結合を有する。
エネルギー線硬化性樹脂を含有する粘着剤層は、エネルギー線照射により硬化して粘着力が低下する。被着体と粘着シートとを分離したい場合、エネルギー線を粘着剤層に照射することにより、容易に分離できる。
【0177】
エネルギー線硬化性樹脂(ax1)は、(メタ)アクリル系樹脂であることが好ましい。
【0178】
エネルギー線硬化性樹脂(ax1)は、紫外線硬化性樹脂であることが好ましく、紫外線硬化性の(メタ)アクリル系樹脂であることがより好ましい。
【0179】
エネルギー線硬化性樹脂(ax1)は、エネルギー線の照射を受けると重合硬化する樹脂である。エネルギー線としては、例えば、紫外線、及び電子線等が挙げられる。
エネルギー線硬化性樹脂(ax1)の例としては、エネルギー線重合性基を有する低分子量化合物(単官能のモノマー、多官能のモノマー、単官能のオリゴマー、及び多官能のオリゴマー)が挙げられる。エネルギー線硬化性樹脂(ax1)は、具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、1,4-ブチレングリコールジアクリレート、及び1,6-ヘキサンジオールジアクリレート等のアクリレート、ジシクロペンタジエンジメトキシジアクリレート、及びイソボルニルアクリレート等の環状脂肪族骨格含有アクリレート、並びにポリエチレングリコールジアクリレート、オリゴエステルアクリレート、ウレタンアクリレートオリゴマー、エポキシ変性アクリレート、ポリエーテルアクリレート、及びイタコン酸オリゴマー等のアクリレート系化合物が用いられる。エネルギー線硬化性樹脂(a1)は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0180】
エネルギー線硬化性樹脂(ax1)の分子量は、通常、100以上、30000以下であり、300以上、10000以下程度であることが好ましい。
【0181】
・(メタ)アクリル系共重合体(b1)
本実施形態に係る粘着剤層(第3粘着剤層32)は、(メタ)アクリル系共重合体(b1)をさらに含んでいることが好ましい。(メタ)アクリル系共重合体は、前述したエネルギー線硬化性樹脂(ax1)とは異なる。
【0182】
(メタ)アクリル系共重合体(b1)は、エネルギー線硬化性の炭素-炭素二重結合を有することが好ましい。すなわち、本実施形態において、粘着剤層(第3粘着剤層32)は、エネルギー線硬化性樹脂(ax1)と、エネルギー線硬化性の(メタ)アクリル系共重合体(b1)とを含有することが好ましい。
【0183】
本実施形態に係る粘着剤層(第3粘着剤層32)は、(メタ)アクリル系共重合体(b1)100質量部に対し、エネルギー線硬化性樹脂(ax1)を10質量部以上の割合で含有することが好ましく、20質量部以上の割合で含有することがより好ましく、25質量部以上の割合で含有することがさらに好ましい。
本実施形態に係る粘着剤層(第3粘着剤層32)は、(メタ)アクリル系共重合体(b1)100質量部に対し、エネルギー線硬化性樹脂(ax1)を80質量部以下の割合で含有することが好ましく、70質量部以下の割合で含有することがより好ましく、60質量部以下の割合で含有することがさらに好ましい。
【0184】
(メタ)アクリル系共重合体(b1)の重量平均分子量(Mw)は、1万以上であることが好ましく、15万以上であることがより好ましく、20万以上であることがさらに好ましい。
また、(メタ)アクリル系共重合体(b1)の重量平均分子量(Mw)は、150万以下であることが好ましく、100万以下であることがより好ましい。
なお、本明細書における重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0185】
(メタ)アクリル系共重合体(b1)は、側鎖にエネルギー線硬化性を有する官能基(エネルギー線硬化性基)が導入された(メタ)アクリル酸エステル重合体(b2)(以下「エネルギー線硬化性重合体(b2)」という場合がある。)であることが好ましい。
【0186】
・エネルギー線硬化性重合体(b2)
エネルギー線硬化性重合体(b2)は、官能基含有モノマー単位を有するアクリル系共重合体(b21)と、その官能基に結合する官能基を有する不飽和基含有化合物(b22)とを反応させて得られる共重合体であることが好ましい。
【0187】
本明細書において、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの両方を意味する。他の類似用語も同様である。
【0188】
アクリル系共重合体(b21)は、官能基含有モノマーから導かれる構成単位と、(メタ)アクリル酸エステルモノマー、または(メタ)アクリル酸エステルモノマーの誘導体から導かれる構成単位とを含むことが好ましい。
【0189】
アクリル系共重合体(b21)の構成単位としての官能基含有モノマーは、重合性の二重結合と、官能基と、を分子内に有するモノマーであることが好ましい。官能基は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、置換アミノ基、及びエポキシ基等からなる群から選択される少なくともいずれかの官能基であることが好ましい。
【0190】
ヒドロキシ基含有モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、及び4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。ヒドロキシ基含有モノマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0191】
カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、及びシトラコン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸が挙げられる。カルボキシ基含有モノマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0192】
アミノ基含有モノマーまたは置換アミノ基含有モノマーとしては、例えば、アミノエチル(メタ)アクリレート、及びn-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。アミノ基含有モノマーまたは置換アミノ基含有モノマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0193】
アクリル系共重合体(b21)を構成する(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、アルキル基の炭素数が1以上20以下であるアルキル(メタ)アクリレートの他、例えば、分子内に脂環式構造を有するモノマー(脂環式構造含有モノマー)が好ましく用いられる。
【0194】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、アルキル基の炭素数が1以上18以下であるアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。アルキル(メタ)アクリレートは、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、及び2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等がより好ましい。アルキル(メタ)アクリレートは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0195】
脂環式構造含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、及び(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル等が好ましく用いられる。脂環式構造含有モノマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0196】
アクリル系共重合体(b21)は、上記官能基含有モノマーから導かれる構成単位を、1質量%以上の割合で含有することが好ましく、5質量%以上の割合で含有することがより好ましく、10質量%以上の割合で含有することがさらに好ましい。
また、アクリル系共重合体(b21)は、上記官能基含有モノマーから導かれる構成単位を、35質量%以下の割合で含有することが好ましく、30質量%以下の割合で含有することがより好ましく、25質量%以下の割合で含有することがさらに好ましい。
【0197】
さらに、アクリル系共重合体(b21)は、(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体から導かれる構成単位を、50質量%以上の割合で含有することが好ましく、60質量%以上の割合で含有することがより好ましく、70質量%以上の割合で含有することがさらに好ましい。
また、アクリル系共重合体(b21)は、(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体から導かれる構成単位を、99質量%以下の割合で含有することが好ましく、95質量%以下の割合で含有することがより好ましく、90質量%以下の割合で含有することがさらに好ましい。
【0198】
アクリル系共重合体(b21)は、上記のような官能基含有モノマーと、(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体とを常法で共重合することにより得られる。
アクリル系共重合体(b21)は、上述のモノマーの他にも、ジメチルアクリルアミド、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、及びスチレン等からなる群から選択される少なくともいずれかの構成単位を含有していてもよい。
【0199】
上記官能基含有モノマー単位を有するアクリル系共重合体(b21)を、その官能基に結合する官能基を有する不飽和基含有化合物(b22)と反応させることにより、エネルギー線硬化性重合体(b2)が得られる。
【0200】
不飽和基含有化合物(b22)が有する官能基は、アクリル系共重合体(b21)が有する官能基含有モノマー単位の官能基の種類に応じて、適宜選択することができる。例えば、アクリル系共重合体(b21)が有する官能基がヒドロキシ基、アミノ基又は置換アミノ基の場合、不飽和基含有化合物(b22)が有する官能基としてはイソシアネート基又はエポキシ基が好ましく、アクリル系共重合体(b21)が有する官能基がエポキシ基の場合、不飽和基含有化合物(b22)が有する官能基としてはアミノ基、カルボキシ基またはアジリジニル基が好ましい。
【0201】
不飽和基含有化合物(b22)は、エネルギー線重合性の炭素-炭素二重結合を、1分子中に少なくとも1個含み、1個以上、6個以下含むことが好ましく、1個以上、4個以下含むことがより好ましい。
【0202】
不飽和基含有化合物(b22)としては、例えば、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(2-イソシアナトエチルメタクリレート)、メタ-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート、メタクリロイルイソシアネート、アリルイソシアネート、1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート;ジイソシアネート化合物またはポリイソシアネート化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるアクリロイルモノイソシアネート化合物;ジイソシアネート化合物またはポリイソシアネート化合物と、ポリオール化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるアクリロイルモノイソシアネート化合物;グリシジル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸、2-(1-アジリジニル)エチル(メタ)アクリレート、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン等が挙げられる。
【0203】
不飽和基含有化合物(b22)は、アクリル系共重合体(b21)の官能基含有モノマーのモル数に対して、50モル%以上の割合(付加率)で用いられることが好ましく、60モル%以上の割合で用いられることがより好ましく、70モル%以上の割合で用いられることが更に好ましい。
また、不飽和基含有化合物(b22)は、アクリル系共重合体(b21)の官能基含有モノマーモル数に対して、95モル%以下の割合で用いられることが好ましく、93モル%以下の割合で用いられることがより好ましく、90モル%以下の割合で用いられることがさらに好ましい。
【0204】
アクリル系共重合体(b21)と不飽和基含有化合物(b22)との反応においては、アクリル系共重合体(b21)が有する官能基と不飽和基含有化合物(b22)が有する官能基との組合せに応じて、反応の温度、圧力、溶媒、時間、触媒の有無、及び触媒の種類を適宜選択することができる。これにより、アクリル系共重合体(b21)が有する官能基と、不飽和基含有化合物(b22)が有する官能基とが反応し、不飽和基がアクリル系共重合体(b21)の側鎖に導入され、エネルギー線硬化性重合体(b2)が得られる。
【0205】
エネルギー線硬化性重合体(b2)の重量平均分子量(Mw)は、1万以上であることが好ましく、15万以上であることがより好ましく、20万以上であることがさらに好ましい。
また、エネルギー線硬化性重合体(b2)の重量平均分子量(Mw)は、150万以下であることが好ましく、100万以下であることがより好ましい。
【0206】
・光重合開始剤(CX)
粘着剤層(第3粘着剤層32)が紫外線硬化性の化合物(例えば、紫外線硬化性樹脂)を含有する場合、粘着剤層(第3粘着剤層32)は、光重合開始剤(CX)を含有することが好ましい。
粘着剤層(第3粘着剤層32)が光重合開始剤(CX)を含有することにより、重合硬化時間及び光線照射量を少なくすることができる。
【0207】
光重合開始剤(CX)の具体例は、第2粘着シート20の説明における光重合開始剤(C)の具体例と同様である。第3粘着シート30においても、光重合開始剤(CX)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0208】
光重合開始剤(CX)は、粘着剤層(第3粘着剤層32)にエネルギー線硬化性樹脂(ax1)、及び(メタ)アクリル系共重合体(b1)を配合する場合には、エネルギー線硬化性樹脂(ax1)、及び(メタ)アクリル系共重合体(b1)の合計量100質量部に対して0.1質量部以上の量で用いられることが好ましく、0.5質量部以上の量で用いられることがより好ましい。
また、光重合開始剤(CX)は、粘着剤層(第3粘着剤層32)にエネルギー線硬化性樹脂(ax1)、及び(メタ)アクリル系共重合体(b1)を配合する場合には、エネルギー線硬化性樹脂(ax1)、及び(メタ)アクリル系共重合体(b1)の合計量100質量部に対して10質量部以下の量で用いられることが好ましく、6質量部以下の量で用いられることがより好ましい。
【0209】
粘着剤層(第3粘着剤層32)は、上記成分以外にも、適宜他の成分を配合してもよい。他の成分としては、例えば、架橋剤(EX)等が挙げられる。
【0210】
・架橋剤(EX)
架橋剤(EX)としては、(メタ)アクリル系共重合体(b1)等が有する官能基との反応性を有する多官能性化合物を用いることができる。第3粘着シート30における多官能性化合物の例としては、第2粘着シート20の説明における架橋剤(E)としての多官能性化合物の具体例と同様である。
【0211】
架橋剤(EX)の配合量は、(メタ)アクリル系共重合体(b1)100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.03質量部以上であることがより好ましく、0.04質量部以上であることがさらに好ましい。
また、架橋剤(EX)の配合量は、(メタ)アクリル系共重合体(b1)100質量部に対して、8質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、3.5質量部以下であることがさらに好ましい。
【0212】
粘着剤層(第3粘着剤層32)の厚さは、特に限定されない。粘着剤層(第3粘着剤層32)の厚さは、例えば、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましい。また、粘着剤層(第3粘着剤層32)の厚さは、150μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。
【0213】
第3粘着シート30の復元率が、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、85%以上であることがさらに好ましい。第3粘着シート30の復元率は、100%以下であることが好ましい。復元率が上記範囲であることで、粘着シートを大きく延伸することができる。
復元率は、粘着シートを150mm(長さ方向)×15mm(幅方向)に切り出した試験片において、長さ方向の両端を、つかみ具間の長さが100mmとなるようにつかみ具でつかみ、その後、つかみ具間の長さが200mmとなるまで200mm/minの速度で引張り、つかみ具間の長さが200mmに拡張された状態で1分間保持し、その後、つかみ具間の長さが100mmとなるまで200mm/minの速度で長さ方向に戻し、つかみ具間の長さが100mmに戻された状態で1分間保持し、その後、60mm/minの速度で長さ方向に引張り、引張力の測定値が0.1N/15mmを示した時のつかみ具間の長さを測定し、当該長さから初期のつかみ具間の長さ100mmを引いた長さをL2(mm)とし、前記拡張された状態におけるつかみ具間の長さ200mmから初期のつかみ具間の長さ100mmを引いた長さをL1(mm)としたとき、下記数式(数2)で算出される。
復元率(%)={1-(L2÷L1)}×100 ・・・ (数2)
【0214】
復元率が上記範囲である場合、粘着シートは大きく延伸された後においても復元し易いことを意味する。一般に、降伏点を有するシートを降伏点以上に延伸すると、シートは塑性変形を起こし、塑性変形を起こした部分、即ち極端に延伸された部分が偏在した状態となる。そのような状態のシートをさらに延伸すると、上記の極端に延伸された部分から破断が生じたり、破断が生じなくても、エキスパンドが不均一になる。また、ひずみをx軸、伸びをy軸にそれぞれプロットした応力-ひずみ線図において、傾きdx/dyが、正の値から0または負の値に変化する応力値をとらず、明確な降伏点を示さないシートであっても、引張量が大きくなるにつれてシートは塑性変形を起こし、同様に破断が生じたり、エキスパンドが不均一になる。一方、塑性変形ではなく弾性変形が生じる場合には、応力を取り除くことでシートが元の形状に復元し易い。そこで、十分大きい引張量である100%伸長後にどの程度復元するかを表す指標である復元率が、上記範囲であることにより、粘着シートを大きく延伸する際に、フィルムの塑性変形が最小限に抑えられ、破断が生じ難く、且つ均一なエキスパンドが可能となる。
【0215】
・剥離シート
第3粘着シート30は、その粘着面を被着体(例えば、半導体チップ等)に貼付するまでの間、粘着面を保護する目的で、粘着面に剥離シートが積層されていてもよい。剥離シートの構成は任意であり、プラスチックフィルムを剥離剤等により剥離処理したものが例示される。剥離シートとしては、第1粘着シート10及び第2粘着シート20に用い得る剥離シートでもよい。
【0216】
第3粘着シート30の厚さは、30μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。第3粘着シート30の厚さは、400μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。
【0217】
[本実施形態に係る効果]
本実施形態に係るエキスパンド方法によれば、第3粘着シート30を伸張させる際に、半導体チップCPの回路面W1は、第3粘着シート30の第3粘着剤層32と接していない。半導体チップCPのそれぞれにおいては、回路面W1と第3粘着剤層32との間にダイシング工程で個片化された第1粘着シート10が介在しているため、第3粘着シート30を伸張させても回路面W1に接している第1粘着シート10の第1粘着剤層12は、引き延ばされない。その結果、本実施形態に係るエキスパンド方法によれば、糊残りを抑制できる。
また、本実施形態に係るエキスパンド方法において用いる粘着シートは、いずれも基材と粘着剤層とからなる簡易な構成である。また、エキスパンド工程を実施する前に、ダイシング工程を実施した際に用いた粘着シートから、エキスパンド工程用の粘着シートへと貼り替えるため、ダイシング工程においてダイシングブレードがダイシングシートの基材に到達しないように、切込み深さを慎重に制御する必要がない。
したがって、本実施形態に係るエキスパンド方法によれば、従来に比べて粘着シート構成及びプロセスを簡略化し、かつ、糊残りを抑制できる。
さらには、本実施形態に係るエキスパンド方法を含む半導体装置の製造方法を提供できる。
【0218】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
第1実施形態と第2実施形態とは主に次の点で相違する。第1実施形態においてはバックグラインド工程及びダイシング工程において半導体ウエハの回路面に貼着されている粘着シートは同じ粘着シートであるのに対し、第2実施形態においては、バックグラインド工程において半導体ウエハに貼着されている粘着シートと、ダイシング工程において半導体ウエハの回路面に貼着されている粘着シートとが異なる。
以下の説明では、第1実施形態との相違に係る部分を主に説明し、重複する説明については省略又は簡略化する。第1実施形態と同様の構成には同一の符号を付して説明を省略又は簡略化する。
【0219】
本実施形態に係るエキスパンド方法は、第1実施形態で説明した工程(P1)~(P5)の工程に加えて、さらに工程(PX1)、工程(PX2)及び工程(PX3)を備える。工程(PX1)、(PX2)及び(PX3)は、工程(P1)の前に実施する。
【0220】
(PX1)半導体ウエハを裏面研削する前に、第1ウエハ面に第4粘着シートを貼着する工程。
(PX2)第4粘着シートを貼着した半導体ウエハを裏面研削する工程。
(PX3)半導体ウエハを裏面研削した後に第1ウエハ面から第4粘着シートを剥離し、第1ウエハ面に第1粘着シートを貼着する工程。
【0221】
[バックグラインド工程]
図6Aは、工程(PX1)及び工程(PX2)を説明するための図である。
本実施形態のバックグラインド工程においては、回路面W1とは反対側の裏面W6をグラインダー500によって研削し、半導体ウエハWを所定の厚さになるまで研削する。半導体ウエハWの裏面W6を裏面研削して、裏面W3を形成する。
【0222】
本実施形態のバックグラインド工程においては、半導体ウエハWの回路面W1に、第4粘着シート40が貼着されている。第4粘着シート40は、第4粘着剤層42と第4基材41とを有する。本実施形態においては、第4粘着シート40がバックグラインドシートであることが好ましい。バックグラインドシートとして第4粘着シート40が用いられる場合、半導体ウエハWは、回路面W1を第4粘着シート40の第4粘着剤層42に向けて貼着される。バックグラインドシートとしての第4粘着シート40は、半導体ウエハWを裏面研削する前に、第1ウエハ面としての回路面W1に貼着されていることが好ましい。
第4粘着シート40は、第1実施形態における第1粘着シート10と同様の粘着シートを用いることが好ましい。
【0223】
[第4粘着シートの剥離工程及び第1粘着シートの貼着工程]
図6Bは、工程(PX3)を説明するための図である。
図6Bには、半導体ウエハWを裏面研削した後に回路面W1から第4粘着シート40を剥離した後、回路面W1に第1粘着シート70が貼着された状態が示されている。
本実施形態では、前述のとおり、バックグラインド工程の後、バックグラインドシート(第4粘着シート40)を回路面W1に貼着させたまま次の工程に進むのではなく、別の粘着シート(第1粘着シート70)を回路面W1に貼着する。この別の粘着シートとしての第1粘着シート70は、回路面W1を保護するための表面保護シートであることが好ましい。なお、第1実施形態では第1粘着シートをバックグラインドシートとして用いるが、本実施形態では第1粘着シートを表面保護シートとして用いることから、第1粘着シートの位置付けが異なる。そのため、第1実施形態では第1粘着シートの符号を10とし、本実施形態では第1粘着シートの符号を70として、区別している。
表面保護シートとしての第1粘着シート70の厚さは、バックグラインドシートとしての第4粘着シート40の厚さよりも薄いことが好ましい。第1粘着シート70の厚さを第4粘着シート40の厚さよりも薄くすることで、ダイシング工程において第1粘着シート70及び半導体ウエハWをダイシングし易くなる。
表面保護シートとしての第1粘着シート70の厚さは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることがさらに好ましい。
表面保護シートとしての第1粘着シート70の厚さは、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。
【0224】
[第2粘着シートの貼着工程]
本実施形態においても、第1実施形態と同様、工程(P1)で準備する半導体ウエハWは、バックグラインド工程を経て、さらに、裏面W3に第2粘着シート20を貼着する貼着工程を経て得られたウエハであることが好ましい。
図7Aには、裏面W3に第2粘着シート20を貼着する貼着工程を説明する図が示されている。本実施形態においては、第1実施形態と同様、第2粘着シート20がダイシングシートであることが好ましい。ダイシングシートとして第2粘着シート20が用いられる場合、半導体ウエハWは、裏面W3を第2粘着シート20の第2粘着剤層22に向けて貼着される。
【0225】
[ダイシング工程]
図7Bは、本実施形態における工程(P2)を説明するための図である。工程(P2)をダイシング工程と称する場合がある。
図7Bには、半導体ウエハWをダイシングして得た複数の半導体チップCPが示されている。
本実施形態における工程(P2)は、回路面W1に第1粘着シート70が貼着されている点で第1実施形態と異なり、その他の点は、第1実施形態と同様にして実施できる。本実施形態においても、第1粘着シート70側から切込みを入れて、第1粘着シート70を切断し、さらに半導体ウエハWを切断する。
【0226】
[第3粘着シートの貼着工程]
図8Aは、工程(P3)を説明するための図である。工程(P3)を第3粘着シートの貼着工程と称する場合がある。
図8Aには、ダイシング工程によって得た複数の半導体チップCPに第3粘着シート30が貼付された状態が示されている。第3粘着シート30は、第1実施形態と同様である。
本実施形態における工程(P3)は、第3粘着シート30を表面保護シートとしての第1粘着シート70に貼着する点で、第1実施形態とは異なり、その他の点は、第1実施形態と同様にして実施できる。
【0227】
[第2粘着シートの剥離工程]
図8Bは、本実施形態における工程(P4)を説明するための図である。工程(P4)を第2粘着シートの剥離工程と称する場合がある。
図8Bには、第3粘着シート30を貼着後に第2粘着シート20をウエハWの裏面W3から剥離した状態が示されている。本実施形態における工程(P4)は、第1実施形態と同様に実施できる。
【0228】
[エキスパンド工程]
図9は、本実施形態における工程(P5)を説明するための図である。工程(P5)をエキスパンド工程と称する場合がある。
図9には、第2粘着シート20を剥離後に、第3粘着シート30を伸張させて、複数の半導体チップCPの間隔を拡げた状態が示されている。本実施形態においても、第3粘着シート30がエキスパンドシートであることが好ましい。本実施形態における工程(P5)は、第1実施形態と同様に実施できる。本実施形態においても、複数の半導体チップCPの間隔D1は、第1実施形態と同様であることが好ましい。
【0229】
[封止工程並びにその他の工程]
本実施形態においても、第1実施形態と同様、封止工程、並びにその他の工程(再配線層形成工程及び外部端子電極との接続工程)を実施してもよい。
【0230】
(第4粘着シート)
第4粘着シート40は、第1実施形態で説明した第1粘着シート10と同様の粘着シートを用いることが好ましい。
【0231】
(第1粘着シート)
本実施形態における第1粘着シート70は、第7基材71と、第7粘着剤層72とを有する。第7粘着剤層72は、第7基材71に積層されている。
【0232】
・第7基材
第7基材71は、第7粘着剤層72を支持する部材である。第7基材71は、ダイシング工程等の所望の工程において適切に機能できる限り、その構成材料は特に限定されない。
【0233】
第7基材71の厚さは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、15μm以上であることがさらに好ましい。
第7基材71の厚さは、100μm以下であることが好ましく、75μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。
【0234】
第7基材71としては、例えば、合成樹脂フィルム等のシート材料等を用いることができる。合成樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニル共重合体フィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、及びポリイミドフィルム等が挙げられる。その他、第7基材71としては、これらの架橋フィルム及び積層フィルム等が挙げられる。
【0235】
第7基材71は、ポリエステル系樹脂を含むことが好ましく、ポリエステル系樹脂を主成分とする材料からなることがより好ましい。本明細書において、ポリエステル系樹脂を主成分とする材料とは、基材を構成する材料全体の質量に占めるポリエステル系樹脂の質量の割合が50質量%以上であることを意味する。
ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂、及びこれらの樹脂の共重合樹脂からなる群から選択されるいずれかの樹脂であることが好ましく、ポリエチレンテレフタレート樹脂がより好ましい。
第7基材71としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、及びポリエチレンナフタレートフィルムが好ましく、ポリエチレンテレフタレートフィルムがより好ましい。ポリエステルフィルムに含有するオリゴマーとしては、ポリエステル形成性モノマー、ダイマー、及びトリマー等に由来する。
【0236】
・第7粘着剤層
第7粘着剤層72は、ダイシング工程等の所望の工程において適切に機能できる限り、その構成材料は特に限定されない。
本実施形態では、第7粘着剤層72は、例えば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ゴム系粘着剤及びシリコーン系粘着剤からなる群から選択される少なくとも一種の粘着剤で構成されることが好ましく、アクリル系粘着剤で構成されることがより好ましい。
【0237】
本実施形態における第7粘着剤層72は、粘着剤組成物を含んでいることが好ましい。この粘着剤組成物は、アクリル酸2-エチルヘキシルを主たるモノマーとするアクリル系共重合体を含んでいることが好ましい。本明細書において、アクリル酸2-エチルヘキシルを主たるモノマーとするとは、アクリル系共重合体全体の質量に占めるアクリル酸2-エチルヘキシル由来の共重合体成分の質量の割合が50質量%以上であることを意味する。本実施形態においては、アクリル系共重合体におけるアクリル酸2-エチルヘキシルに由来する共重合体成分の割合は、50質量%以上、95質量%以下であることが好ましく、60質量%以上、95質量%以下であることがより好ましく、80質量%以上、95質量%以下であることがさらに好ましく、85質量%以上、93質量%以下であることがよりさらに好ましい。
【0238】
アクリル系共重合体におけるアクリル酸2-エチルヘキシル以外の共重合体成分の種類及び数は、特に限定されない。例えば、第二の共重合体成分としては、反応性の官能基を有する官能基含有モノマーが好ましい。第二の共重合体成分の反応性官能基としては、後述する架橋剤を使用する場合には、当該架橋剤と反応し得る官能基であることが好ましい。この反応性官能基は、例えば、カルボキシ基、水酸基、アミノ基、置換アミノ基、及びエポキシ基からなる群から選択される少なくともいずれかの置換基であることが好ましく、カルボキシ基及び水酸基の少なくともいずれかの置換基であることがより好ましく、カルボキシ基であることが更に好ましい。
【0239】
カルボキシ基を有するモノマー(カルボキシ基含有モノマー)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、及びシトラコン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸が挙げられる。カルボキシ基含有モノマーの中でも、反応性及び共重合性の点から、アクリル酸が好ましい。カルボキシ基含有モノマーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0240】
水酸基を有するモノマー(水酸基含有モノマー)としては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、及び(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル等が挙げられる。水酸基含有モノマーの中でも、水酸基の反応性及び共重合性の点から、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルが好ましい。水酸基含有モノマーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0241】
エポキシ基を有するアクリル酸エステルとしては、例えば、グリシジルアクリレート、及びグリシジルメタクリレート等が挙げられる。
【0242】
アクリル系共重合体におけるその他の共重合体成分としては、アルキル基の炭素数が2~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n-デシル、(メタ)アクリル酸n-ドデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸パルミチル、及び(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルの中でも、粘着性をより向上させる観点から、アルキル基の炭素数が2~4の(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、(メタ)アクリル酸n-ブチルがより好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0243】
アクリル系共重合体におけるその他の共重合体成分としては、例えば、アルコキシアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル、脂肪族環を有する(メタ)アクリル酸エステル、芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステル、非架橋性のアクリルアミド、非架橋性の3級アミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニル、及びスチレンからなる群から選択される少なくともいずれかのモノマーに由来する共重合体成分が挙げられる。
アルコキシアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシメチル、及び(メタ)アクリル酸エトキシエチルが挙げられる。
脂肪族環を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルが挙げられる。
芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸フェニルが挙げられる。
非架橋性のアクリルアミドとしては、例えば、アクリルアミド、及びメタクリルアミドが挙げられる。
非架橋性の3級アミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸(N,N-ジメチルアミノ)エチル、及び(メタ)アクリル酸(N,N-ジメチルアミノ)プロピルが挙げられる。
これらのモノマーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0244】
本実施形態においては、第二の共重合体成分として、カルボキシ基含有モノマーまたは水酸基含有モノマーが好ましく、アクリル酸がより好ましい。アクリル系共重合体が、アクリル酸2-エチルヘキシル由来の共重合体成分、及びアクリル酸由来の共重合体成分を含む場合、アクリル系共重合体全体の質量に占めるアクリル酸由来の共重合体成分の質量の割合が1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上、0.5質量%以下であることがより好ましい。アクリル酸の割合が1質量%以下であれば、粘着剤組成物に架橋剤が含まれる場合にアクリル系共重合体の架橋が早く進行し過ぎることを防止できる。
【0245】
アクリル系共重合体は、2種類以上の官能基含有モノマー由来の共重合体成分を含んでいてもよい。例えば、アクリル系共重合体は、3元系共重合体であってもよく、アクリル酸2-エチルヘキシル、カルボキシ基含有モノマー及び水酸基含有モノマーを共重合して得られるアクリル系共重合体が好ましく、このカルボキシ基含有モノマーは、アクリル酸であることが好ましく、水酸基含有モノマーは、アクリル酸2-ヒドロキシエチルであることが好ましい。アクリル系共重合体におけるアクリル酸2-エチルヘキシルに由来する共重合体成分の割合が80質量%以上、95質量%以下であり、アクリル酸由来の共重合体成分の質量の割合が1質量%以下であり、残部がアクリル酸2-ヒドロキシエチル由来の共重合体成分であることが好ましい。
【0246】
アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、30万以上、200万以下であることが好ましく、60万以上、150万以下であることがより好ましく、80万以上、120万以下であることがさらに好ましい。アクリル系共重合体の重量平均分子量Mwが30万以上であれば、被着体への粘着剤の残渣なく剥離することができる。アクリル系共重合体の重量平均分子量Mwが200万以下であれば、被着体へ確実に貼り付けることができる。
アクリル系共重合体の重量平均分子量Mwは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography;GPC)法により測定される標準ポリスチレン換算値である。
【0247】
アクリル系共重合体は、前述の各種原料モノマーを用いて、従来公知の方法に従って製造することができる。
【0248】
アクリル系共重合体の共重合の形態は、特に限定されず、ブロック共重合体、ランダム共重合体、またはグラフト共重合体のいずれでもよい。
本実施形態において、粘着剤組成物中のアクリル系共重合体の含有率は、40質量%以上、90質量%以下であることが好ましく、50質量%以上、90質量%以下であることがより好ましい。
【0249】
第7粘着剤層72を構成する粘着剤組成物は、前述のアクリル系共重合体の他に、さらに架橋剤を配合した組成物を架橋させて得られる粘着剤を少なくとも含むことが好ましい。また、粘着剤組成物は、実質的に、前述のように前述のアクリル系共重合体と、架橋剤とを架橋させて得られる粘着剤からなることも好ましい。ここで、実質的にとは、不可避的に粘着剤に混入してしまうような微量な不純物を除いて、当該粘着剤だけからなることを意味する。
【0250】
架橋剤としては、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤、アミン系架橋剤、及びアミノ樹脂系架橋剤が挙げられる。これらの架橋剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
第7粘着剤層72の耐熱性及び粘着力を向上させる観点から、これら架橋剤の中でも、イソシアネート基を有する化合物を主成分として含有する架橋剤(イソシアネート系架橋剤)が好ましい。イソシアネート系架橋剤としては、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、1,3-キシリレンジイソシアネート、1,4-キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート、3-メチルジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-2,4’-ジイソシアネート、及びリジンイソシアネート等の多価イソシアネート化合物が挙げられる。
また、多価イソシアネート化合物は、上記化合物のトリメチロールプロパンアダクト型変性体、水と反応させたビュウレット型変性体、またはイソシアヌレート環を有するイソシアヌレート型変性体であってもよい。
本明細書において、イソシアネート基を有する化合物を主成分として含有する架橋剤とは、架橋剤を構成する成分全体の質量に占めるイソシアネート基を有する化合物の質量の割合が50質量%以上であることを意味する。
【0251】
本実施形態において、粘着剤組成物中の架橋剤の含有量は、アクリル系共重合体100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、20質量部以下、より好ましくは1質量部以上、15質量部以下、さらに好ましくは5質量部以上、10質量部以下である。粘着剤組成物中の架橋剤の含有量がこのような範囲内であれば、第7粘着剤層72と第7基材71との接着性を向上させることができ、粘着シートの製造後に粘着特性を安定化させるための養生期間を短縮できる。
【0252】
本実施形態における第7粘着剤層72を構成する粘着剤組成物が架橋剤を含む場合、粘着剤組成物は、架橋促進剤をさらに含むことが好ましい。架橋促進剤は、架橋剤の種類等に応じて、適宜選択して用いることが好ましい。例えば、粘着剤組成物が、架橋剤としてポリイソシアネート化合物を含む場合には、有機スズ化合物等の有機金属化合物系の架橋促進剤をさらに含むことが好ましい。
【0253】
また、第7粘着剤層72を構成する粘着剤組成物は、反応性粘着助剤を含むことも好ましい。反応性粘着助剤としては、反応性の官能基を有するポリブタジエン系樹脂、及び反応性の官能基を有するポリブタジエン系樹脂の水素添加物等が挙げられる。反応性粘着助剤が有する反応性の官能基としては、水酸基、イソシアネート基、アミノ基、オキシラン基、酸無水物基、アルコキシ基、アクリロイル基及びメタクリロイル基からなる群より選択される一種以上の官能基であることが好ましい。粘着剤組成物が反応性粘着助剤を含んでいると、第1粘着シート70を被着体から剥がした際の糊残りを減少させることができる。
【0254】
本実施形態において、第7粘着剤層72を構成する粘着剤組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分が含まれていてもよい。粘着剤組成物に含まれ得るその他の成分としては、例えば、有機溶媒、難燃剤、粘着付与剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、可塑剤、消泡剤、及び濡れ性調整剤等が挙げられる。
【0255】
第7粘着剤層72の厚さは、第1粘着シート70の用途に応じて適宜決定される。本実施形態において、第7粘着剤層72の厚さは、5μm以上であることが好ましい。第7粘着剤層72の厚さは、60μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
以上が、第7粘着剤層72に関する説明である。
【0256】
・剥離シート
第1粘着シート70は、その粘着面を被着体(例えば、半導体ウエハW又は半導体チップCP)に貼付するまでの間、粘着面を保護する目的で、粘着面に剥離シートが積層されていてもよい。剥離シートの構成は任意であり、プラスチックフィルムを剥離剤等により剥離処理したものが例示される。剥離シートとしては、第1粘着シート10及び第2粘着シート20に用い得る剥離シートでもよい。
【0257】
[本実施形態に係る効果]
本実施形態に係るエキスパンド方法によっても、第1実施形態と同様、従来に比べて粘着シート構成及びプロセスを簡略化しつつ、かつ、糊残りを抑制できる。さらに、本実施形態に係るエキスパンド方法を含む半導体装置の製造方法を提供できる。
【0258】
また、本実施形態に係るエキスパンド方法においては、バックグラインド工程の後、ダイシング工程を実施する前に、バックグラインド工程で用いた第4粘着シート40よりも厚さが薄い第1粘着シート70に貼り替えている。ダイシング工程において切断する粘着シートの厚さを薄くすることができるので、ダイシングブレードに加わる負荷を低減できる。
【0259】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
第1実施形態と第3実施形態とは主に次の点で相違する。第1実施形態においては、バックグラインド工程を実施した後に、ダイシング工程を実施するのに対し、第3実施形態においては、いわゆる先ダイシング法と呼ばれる工程を実施する。先ダイシング法は、半導体ウエハの表面側から所定深さの溝を形成した後、ウエハ裏面側から研削を行い、研削により溝の底部を除去してウエハを個片化し、チップを得る工法である。
以下の説明では、第1実施形態との相違に係る部分を主に説明し、重複する説明については省略又は簡略化する。第1実施形態と同様の構成には同一の符号を付して説明を省略又は簡略化する。
【0260】
本実施形態に係るエキスパンド方法は、次の工程(PY1)~(PY4)並びに第1実施形態と同様の工程(P5)を備える。
(PY1)裏面研削する前のウエハの第1ウエハ面に第8粘着シートを貼着する工程。
(PY2)ウエハの第1ウエハ面側から所定深さの溝を形成する工程。
(PY3)溝を形成したウエハの第2ウエハ面を裏面研削し、溝の底部を除去してチップを得る工程。
(PY4)ウエハを裏面研削した後、第8粘着シートに第3粘着シートを貼着する工程。
(P5)第3粘着シートを伸張させて、複数のチップの間隔を拡げる工程。
【0261】
[第8粘着シートの貼着工程]
図10Aは、工程(PY1)を説明するための図である。
図10Aには、裏面研削する前の半導体ウエハWの第1ウエハ面としての回路面W1に第8粘着シート80が貼着された状態が示されている。第8粘着シート80は、第8粘着剤層82と第8基材81とを有する。本実施形態においては、第8粘着シート80がバックグラインドシートであることが好ましい。第8粘着シート80は、バックグラインドシートとしての第1実施形態における第1粘着シート10又は第2実施形態における第4粘着シート40と同様の粘着シートを用いることが好ましい。バックグラインドシートとして第8粘着シート80が用いられる場合、半導体ウエハWは、回路面W1を第8粘着シート80の第8粘着剤層82に向けて貼着される。バックグラインドシートとしての第8粘着シート80は、半導体ウエハWに所定深さの溝を形成する工程の前に、第1ウエハ面としての回路面W1に貼着されていることが好ましい。
【0262】
[溝形成工程]
図10Bは、工程(PY2)を説明するための図である。
図10Bには、半導体ウエハWの回路面W1側から所定深さの溝を形成する工程(溝形成工程と称する場合がある。)を説明する図が示されている。
溝形成工程においては、ダイシング装置のダイシングブレード等を用いて第8粘着シート80側から半導体ウエハに切込みを入れる。その際、第8粘着シート80を完全に切断し、かつ、半導体ウエハWの回路面W1から、半導体ウエハWの厚さよりも浅い深さの切込みを入れて、溝W5を形成する。溝W5は、半導体ウエハWの回路面W1に形成された複数の回路W2を区画するように形成される。溝W5の深さは、目的とする半導体チップの厚さよりもやや深い程度であれば、特に限定はされない。溝W5の形成時には、半導体ウエハWからの切削屑が発生する。本実施形態では、回路面W1が第8粘着シート80により保護された状態で、溝W5の形成を行っているため、切削屑による回路面W1や回路W2の汚染や破損を防止できる。
【0263】
[研削工程]
図10Cは、工程(PY3)を説明するための図である。
図10Cには、溝W5を形成した後、個片化された第8粘着シート80に第3粘着シート30を貼着する工程(第3粘着シートの貼着工程)と、半導体ウエハWの第二の面としての裏面W6を研削する工程(研削工程と称する場合がある。)を説明する図が示されている。
本実施形態では、グラインダー500を用いて、裏面W6側から半導体ウエハWを研削する。研削により、半導体ウエハWの厚さが薄くなり、最終的に複数の半導体チップCPへ分割される。溝W5の底部が除去されるまで裏面W6側から研削を行い、半導体ウエハWを回路W2ごとに個片化する。その後、必要に応じてさらに裏面研削を行い、所定厚さの半導体チップCPを得ることができる。本実施形態では、第2ウエハ面としての裏面W3が得られるまで研削する。本実施形態の溝形成工程及び研削工程を含む方法が先ダイシング法に相当する。本実施形態の研削工程では、第8粘着シート80の第8基材81側を転写テープにて固定または真空吸着盤に固定させる方法で支持した状態で裏面W6を研削することが好ましい。
【0264】
[第3粘着シートの貼着工程]
図10Dは、工程(PY4)を説明するための図である。
図10Dには、研削工程の後に、裏面研削後の半導体ウエハWの第8粘着シート80側に、第3粘着シート30を貼着する工程(第3粘着シートの貼着工程と称する場合がある。)を説明する図が示されている。
図10Dに示すように、分割された複数の半導体チップCPが第8粘着シート80及び第3粘着シート30に保持された状態が示されている。
【0265】
[エキスパンド工程]
本実施形態においては、工程(PY4)の第3粘着シートの貼着工程の後に、第1実施形態と同様にして、第3粘着シート30を伸張させて、複数の半導体チップCPの間隔を拡げる工程(エキスパンド工程:工程(P5))を実施する。本実施形態においても、第3粘着シート30がエキスパンドシートであることが好ましい。本実施形態における工程(P5)は、第1実施形態と同様に実施できる。本実施形態においても、複数の半導体チップCPの間隔D1は、第1実施形態と同様であることが好ましい。
【0266】
[封止工程並びにその他の工程]
本実施形態においても、第1実施形態と同様、封止工程、並びにその他の工程(再配線層形成工程及び外部端子電極との接続工程)を実施してもよい。
【0267】
[本実施形態に係る効果]
先ダイシング法を採用した本実施形態に係るエキスパンド方法によっても、第1実施形態と同様、従来に比べて粘着シート構成及びプロセスを簡略化しつつ、かつ、糊残りを抑制できる。さらに、本実施形態に係るエキスパンド方法を含む半導体装置の製造方法を提供できる。
【0268】
また、本実施形態における研削工程で用いる第3粘着シート30として、エキスパンドシートを用いることにより、研削工程の後にそのままエキスパンド工程を実施できるため、プロセスをさらに簡略化できる。
【0269】
[実施形態の変形]
本発明は、上述の実施形態に何ら限定されない。本発明は、本発明の目的を達成できる範囲で、上述の実施形態を変形した態様等を含む。
【0270】
例えば、半導体ウエハや半導体チップにおける回路等は、図示した配列や形状等に限定されない。半導体パッケージにおける外部端子電極との接続構造等も、前述の実施形態で説明した態様に限定されない。前述の実施形態では、FO-WLPタイプの半導体パッケージを製造する態様を例に挙げて説明したが、本発明は、ファンイン型のWLP等のその他の半導体パッケージを製造する態様にも適用できる。
【0271】
上述したFO-WLPの製造方法は、一部の工程を変更したり、一部の工程を省略したりしてもよい。
【0272】
ダイシング工程におけるダイシングは、上述の切断手段を用いる代わりに、半導体ウエハに対してレーザ光を照射して行ってもよい。例えば、レーザ光の照射により、半導体ウエハを完全に分断し、複数の半導体チップに個片化してもよい。あるいは、レーザ光の照射により半導体ウエハ内部に改質層を形成した後、後述するエキスパンド工程において、粘着シートを引き延ばすことで、半導体ウエハを改質層の位置で破断して、半導体チップCPに個片化してもよい(ステルスダイシング。ステルスダイシングは登録商標。)。半導体ウエハWに改質層を形成するプロセスを採用する場合、一態様としては、改質層を形成するためのレーザ光により、改質層の形成とともにバックグラインドシート(例えば、第1粘着シート10)又はダイシング時の表面保護シート(例えば、第2実施形態の第1粘着シート70)を個片化する。また、半導体ウエハWに改質層を形成するプロセスを採用する場合、別の一態様としては、バックグラインドシート又はダイシング時の表面保護シートを個片化するためのレーザ光を、別途、照射して個片化する。ステルスダイシングの場合、レーザ光の照射は、例えば、赤外域のレーザ光を、半導体ウエハの内部に設定された焦点に集束されるように照射する。また、これらの方法においては、レーザ光の照射は、半導体ウエハのいずれの側から行ってもよい。
【実施例】
【0273】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれら実施例に何ら限定されない。
【0274】
(粘着シートの作製)
[実施例1]
ブチルアクリレート(BA)62質量部、メタクリル酸メチル(MMA)10質量部、及び2-ヒドロキシエチルアクリレート(2HEA)28質量部を共重合してアクリル系共重合体を得た。このアクリル系共重合体に対して、2-イソシアナートエチルメタクリレート(昭和電工株式会社製、製品名「カレンズMOI」(登録商標))を付加した樹脂(アクリルA)の溶液(粘着剤主剤、固形分35.0質量%)を調製した。付加率は、アクリル系共重合体の2HEA100モル%に対して、2-イソシアナートエチルメタクリレートを90モル%とした。
得られた樹脂(アクリルA)の重量平均分子量(Mw)は、60万、Mw/Mnは4.5であった。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量Mw、及び数平均分子量Mnを測定し、それぞれの測定値から分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
この粘着剤主剤に、UV樹脂A(10官能ウレタンアクリレート、三菱ケミカル株式会社製、製品名「UV-5806」、Mw=1740、光重合開始剤を含む。)、及び架橋剤としてのトリレンジイソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン工業株式会社製、製品名「コロネートL」)を添加した。粘着剤主剤中の固形分100質量部に対して、UV樹脂Aを50質量部添加し、架橋剤を0.2質量部添加した。添加後、30分間攪拌して、粘着剤組成物A1を調製した。
次いで、調製した粘着剤組成物A1の溶液をポリエチレンテレフタレート(PET)系剥離フィルム(リンテック株式会社製、製品名「SP-PET381031」、厚さ38μm)に塗布して乾燥させ、厚さ40μmの粘着剤層を剥離フィルム上に形成した。
当該粘着剤層に、基材としてのポリエステル系ポリウレタンエラストマーシート(シーダム株式会社製,製品名「ハイグレスDUS202」,厚さ100μm)を貼り合わせた後、幅方向における端部の不要部分を裁断除去して粘着シートSA1を作製した。
【0275】
(チップ間隔の測定方法)
実施例1で得られた粘着シートを210mm×210mmに切断し試験用シートを得た。このとき、裁断後のシートの各辺が、粘着シートにおける基材のMD方向と平行または垂直となるように裁断した。
粘着シートに貼着する半導体チップを次に示す手順により準備した。バックグラインドシート(リンテック株式会社製、製品名「E-3125KL」)を6インチシリコンウエハに貼着した。次に、バックグラインドシート側から6インチシリコンウエハをダイシングして、3mm×3mmのサイズのチップがX軸方向に5列、及びY軸方向に5列となるように、計25個のチップを切り出した。チップのそれぞれには、ダイシングされたバックグラインドシートが貼着していた。
試験用シートの剥離フィルムを剥離し、露出した粘着剤層の中心部に、上述の通り切り出した計25個のチップのバックグラインドシート側を貼付した。このとき、チップがX軸方向に5列、及びY軸方向に5列で並んでいた。
【0276】
次に、チップが貼付された試験用シートを、2軸延伸可能なエキスパンド装置(離間装置)に設置した。
図11には、当該エキスパンド装置100を説明する平面図が示される。
図11中、X軸及びY軸は、互いに直交する関係にあり、当該X軸の正の方向を+X軸方向、当該X軸の負の方向を-X軸方向、当該Y軸の正の方向を+Y軸方向、当該Y軸の負の方向を-Y軸方向とする。試験用シート200は、各辺がX軸またはY軸と平行となるように、エキスパンド装置100に設置した。その結果、試験用シート200における基材のMD方向は、X軸またはY軸と平行となる。なお、
図11中、チップは省略されている。
【0277】
図11に示されるように、エキスパンド装置100は、+X軸方向、-X軸方向、+Y軸方向及び-Y軸方向のそれぞれに5つの保持手段101(計20個の保持手段101)を備える。各方向における5つの保持手段101のうち、保持手段101Aは、両端に位置し、保持手段101Cは、中央に位置し、保持手段101Bは、保持手段101Aと保持手段101Cとの間に位置する。試験用シート200の各辺を、これらの保持手段101によって把持させた。
【0278】
ここで、
図11に示されるように、試験用シート200の一辺は210mmである。また、各辺における保持手段101同士の間隔は40mmである。また、試験用シート200の一辺における端部(シートの頂点)と、当該辺に存在し、当該端部に最も近い保持手段101Aとの間隔は25mmである。
【0279】
続いて、保持手段101のそれぞれに対応する、図示されていない複数の張力付与手段を駆動させて、保持手段101をそれぞれ独立に移動させた。試験用シートの四辺をつかみ治具で固定し、X軸方向、及びY軸方向にそれぞれ5mm/sの速度で、200mmの拡張量で試験用シートをエキスパンドした。その後、リングフレームにより試験用シート200の拡張状態を保持した。
拡張状態を保持した状態で、各チップ間の距離をデジタル顕微鏡で測定し、各チップ間の距離の平均値をチップ間隔とした。
チップ間隔が1800μm以上であれば合格「A」と判定し、チップ間隔が1800μm未満であれば不合格「B」と判定した。
【0280】
(チップ整列性の測定方法)
上記チップ間隔を測定したワークのX軸及びY軸方向の隣り合うチップの中心線からのズレ率を測定した。
図12に具体的な測定方法の概略図を示す。
X軸方向に5個のチップが並んだ一つの列を選び、当該列の中で、チップの最上端と、チップの最下端との距離Dyをデジタル顕微鏡で測定した。Y軸方向のズレ率は、下記数式(数3)に基づいて算出した。Syは、Y軸方向のチップサイズであり、本実施例では、3mmとした。
Y軸方向のズレ率[%]=[(Dy-Sy)/2]/Sy×100…(数3)
X軸方向に5個のチップが並んだその他の4列についても、同様にしてY軸方向のズレ率を算出した。
Y軸方向に5個のチップが並んだ一つの列を選び、当該列の中で、チップの最左端と、チップの最右端との距離Dxをデジタル顕微鏡で測定した。X軸方向のズレ率は、下記数式(数4)に基づいて算出した。Sxは、X軸方向のチップサイズであり、本実施例では、3mmとした。
X軸方向のズレ率[%]=[(Dx-Sx)/2]/Sx×100…(数4)
Y軸方向に5個のチップが並んだその他の4列についても、同様にしてX軸方向のズレ率を算出した。
数式(数3)及び(数4)において、2で除するのは、拡張後におけるチップの所定位置からずれた最大距離を絶対値にて表現するためである。
X軸方向及びY軸方向のすべての列(計10列)において、ズレ率が±10%未満の場合を合格「A」と判定し、1つ以上の列において±10%以上であれば不合格「B」と判定した。
【0281】
(糊残りの評価方法)
前述のチップ間隔の測定方法に記載の条件でエキスパンド後、紫外線照射装置(リンテック株式会社製「RAD-2000 m/12」)を用いて、実施例1に係る粘着シートのチップが搭載されている面とは反対側の面から照度220mW/cm2、光量460mJ/cm2の条件で紫外線照射した。紫外線照射の後、チップを吸着テーブルに保持し、粘着シートを剥離した。粘着シートを剥離した後、粘着シートが貼着されていたチップ表面を光学顕微鏡で観察した。チップ表面に糊残りが観察されなかった場合を合格「A」と判定し、糊残りが観察された場合を不合格「B」と判定した。
【0282】
実施例1に係る粘着シートを用いてエキスパンドしたところ、チップ間隔の評価結果が合格「A」判定であり、チップ整列性の評価結果が合格「A」判定であった。
チップと実施例に係る粘着シートとの間にバックグラインドシートを介在させて粘着シートをエキスパンドしたところ、チップ表面の糊残り評価結果が合格「A」判定であった。
【符号の説明】
【0283】
10…第1粘着シート、11…第1基材、12…第1粘着剤層、20…第2粘着シート、21…第2基材、22…第2粘着剤層、30…第3粘着シート、31…第3基材、32…第3粘着剤層、40…第4粘着シート、41…第4基材、42…第4粘着剤層、70…第1粘着シート、71…第7基材、72…第7粘着剤層、CP…半導体チップ、W…半導体ウエハ(ウエハ)、W1…回路面(第1ウエハ面)、W2…回路、W3…裏面(第2ウエハ面)。