(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】自動走行制御システム
(51)【国際特許分類】
A01B 69/00 20060101AFI20240712BHJP
G05D 1/43 20240101ALI20240712BHJP
G05D 105/00 20240101ALN20240712BHJP
【FI】
A01B69/00 303Z
G05D1/43
G05D105:00
(21)【出願番号】P 2021031149
(22)【出願日】2021-02-26
【審査請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】中林 隆志
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】佐野 友彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 脩
(72)【発明者】
【氏名】川畑 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】堀内 真幸
(72)【発明者】
【氏名】奥平 淳人
(72)【発明者】
【氏名】松永 俊
(72)【発明者】
【氏名】藤本 淳
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-26674(JP,A)
【文献】特開2020-109693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00
G05D 1/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場における外周領域よりも内側の未作業領域に走行経路を設定する経路設定部と、
前記走行経路に沿って走行するように機体の走行を制御する走行制御部と、
前記機体の向き及び位置の少なくとも一方を検出する検出部と、
前記機体が前記外周領域から前記未作業領域に進入する際に、前記検出部による検出結果に基づいて、前記機体が前記走行経路に沿うように進入できるか否かを判定する判定部と、が備えられ、
前記判定部が、前記機体が前記走行経路に沿うように進入できないと判断したとき、前記走行制御部は、前記機体に、一旦停止して後進し、再度前記走行経路に向けて前進するリトライ走行を実行させるように構成され、
人為操作される操作具と、
前記操作具の操作に応じて、前記未作業領域に進入する際に前記機体が前記走行経路に沿うように進入できるか否かを判定するための条件を変更する変更部と、が備えられ
、
前記条件に、異なる種類の複数の指標が含まれ、
複数の前記条件を記憶する条件記憶部が備えられ、
前記変更部は、前記操作具が人為操作されると、前記複数の条件のうち前記操作具の操作に応じた前記条件を選択する自動走行制御システム。
【請求項2】
前記検出部に、前記走行経路の延び方向に対する前記機体の方位ズレ量と、前記走行経路に対する前記延び方向に直交する方向における前記機体の位置ズレ量と、を算出する偏差算出部が備えられ、
前記条件に、前記位置ズレ量が一定の位置ズレ閾値よりも大きい第一条件、及び、前記方位ズレ量が一定の方位ズレ閾値よりも大きい第二条件、が含まれ、
前記判定部は、前記第一条件と前記第二条件との少なくとも一つが満たされると、前記未作業領域に進入する際に前記機体が前記走行経路に沿うように進入できないと判定するように構成されている請求項
1に記載の自動走行制御システム。
【請求項3】
圃場における外周領域よりも内側の未作業領域に走行経路を設定する経路設定部と、
前記走行経路に沿って走行するように機体の走行を制御する走行制御部と、
前記機体の向き及び位置の少なくとも一方を検出する検出部と、
前記機体が前記外周領域から前記未作業領域に進入する際に、前記検出部による検出結果に基づいて、前記機体が前記走行経路に沿うように進入できるか否かを判定する判定部と、が備えられ、
前記判定部が、前記機体が前記走行経路に沿うように進入できないと判断したとき、前記走行制御部は、前記機体に、一旦停止して後進し、再度前記走行経路に向けて前進するリトライ走行を実行させるように構成され、
人為操作される操作具と、
前記操作具の操作に応じて、前記未作業領域に進入する際に前記機体が前記走行経路に沿うように進入できるか否かを判定するための条件を変更する変更部と、が備えられ、
前記検出部は、進入しようとしている前記走行経路の始点よりも一定距離だけ手前の位置に前記機体が位置する第一状態と、前記始点に前記機体が位置する第二状態と、を検出するように構成され、
前記判定部は、前記第一状態と前記第二状態との夫々において、前記機体が前記走行経路に沿うように進入できるか否かを判定するように構成され、かつ、前記第一状態における判定時と前記第二状態における判定時とで異なる前記条件を用いるように構成され、
前記第一状態で用いられる前記条件は、前記第二状態で用いられる前記条件よりも、前記リトライ走行の実行がされ難い側の値に設定されている自動走行制御システム。
【請求項4】
前記第一状態で用いられる前記条件は固定値であり、
前記変更部は、前記操作具の操作に応じて、前記第二状態において用いられる前記条件を変更する請求項
3に記載の自動走行制御システム。
【請求項5】
圃場に対する収穫作業を行う収穫装置と、前記収穫装置の駆動を制御する収穫制御部と、が備えられ、
前記収穫制御部は、前記機体が前記第一状態のときは前記収穫装置を停止させ、前記機体が前記第二状態のときは前記収穫装置を駆動させる請求項
3または
4に記載の自動走行制御システム。
【請求項6】
前記収穫制御部は、前記機体が前記第一状態から前記第二状態に移行する間に、前記収穫装置を駆動させ始める請求項
5に記載の自動走行制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場の未作業領域に設定された走行経路に沿って走行するように機体の走行を制御する走行制御部が備えられた自動走行制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に開示された自動走行制御システムに走行制御部が備えられ、走行制御部は、機体(文献では「作業車」)が走行経路(文献では「目標走行経路」)に沿って自動走行するように、機体の走行を制御する。また、判定部(文献では「リトライ判定部」)が、機体が走行経路に沿うように進入できないと判断したとき、走行制御部はリトライ走行を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで圃場の状態によっては、機体が走行経路に沿うように進入できなくても実際の収穫に支障を及ぼさない場合もあり得る。このような場合には、頻繁にリトライ走行が行われると、圃場での作業効率が低下するため、リトライ走行の実行がされ難い構成であることが望ましい。
【0005】
本発明の目的は、圃場の状態や圃場の管理者等の所望に応じて効率よく未作業領域を自動走行可能な自動走行制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による自動走行制御システムでは、圃場における外周領域よりも内側の未作業領域に走行経路を設定する経路設定部と、前記走行経路に沿って走行するように機体の走行を制御する走行制御部と、前記機体の向き及び位置の少なくとも一方を検出する検出部と、前記機体が前記外周領域から前記未作業領域に進入する際に、前記検出部による検出結果に基づいて、前記機体が前記走行経路に沿うように進入できるか否かを判定する判定部と、が備えられ、前記判定部が、前記機体が前記走行経路に沿うように進入できないと判断したとき、前記走行制御部は、前記機体に、一旦停止して後進し、再度前記走行経路に向けて前進するリトライ走行を実行させるように構成され、人為操作される操作具と、前記操作具の操作に応じて、前記未作業領域に進入する際に前記機体が前記走行経路に沿うように進入できるか否かを判定するための条件を変更する変更部と、が備えられ、前記条件に、異なる種類の複数の指標が含まれ、複数の前記条件を記憶する条件記憶部が備えられ、前記変更部は、前記操作具が人為操作されると、前記複数の条件のうち前記操作具の操作に応じた前記条件を選択することを特徴とする。
【0007】
本発明によると、機体が走行経路に沿うように外周領域から未作業領域に進入できるかどうかが、判定部によって判定され、機体が走行経路に沿うように進入できない場合にはリトライ走行が実行される。このため、機体が走行経路に沿わないまま外周領域から未作業領域に進入して前進走行を継続する構成と比較して、圃場での作業に不都合が生じ難くなる。また、本発明であれば、例えば圃場の管理者や機体のオペレータが、リトライ走行を実行させるための条件を、操作具を介して変更可能である。このため、例えば、機体が走行経路に沿うように進入できなくても実際の収穫に支障を及ぼさない場合には、操作具の操作に応じて当該条件が変更されることによって、リトライ走行が実行されにくいような設定変更が可能となる。これにより、圃場の状態や圃場の管理者等の所望に応じて効率よく未作業領域を自動走行可能な自動走行制御システムが実現される。
【0008】
【0009】
条件に複数の指標が含まれると、当該複数の指標がバランス良く設定されることが必要である。しかし、圃場の管理者や機体のオペレータが当該複数の指標を直接変更する構成である場合、圃場の管理者や機体のオペレータにとって変更操作が複雑なものとなる。本構成であれば、圃場の管理者や機体のオペレータが、操作具を操作することによって、条件記憶部に記憶された複数の条件から所望の条件を選択可能となる。これにより、圃場の管理者や機体のオペレータが複数の指標を直接変更しなくても、条件の変更が容易に可能となる。これにより、圃場の管理者やオペレータにとって条件の変更が容易になり、変更部の構成がユーザーフレンドリーなものとなる。
【0010】
本発明において、前記検出部に、前記走行経路の延び方向に対する前記機体の方位ズレ量と、前記走行経路に対する前記延び方向に直交する方向における前記機体の位置ズレ量と、を算出する偏差算出部が備えられ、前記条件に、前記位置ズレ量が一定の位置ズレ閾値よりも大きい第一条件、及び、前記方位ズレ量が一定の方位ズレ閾値よりも大きい第二条件、が含まれ、前記判定部は、前記第一条件と前記第二条件との少なくとも一つが満たされると、前記未作業領域に進入する際に前記機体が前記走行経路に沿うように進入できないと判定するように構成されていると好適である。
【0011】
機体の方位ズレ量と機体の位置ズレ量との少なくとも一方が大きくなると、機体が走行経路に沿うように外周領域から未作業領域に進入できなくなる虞が高くなる。このため、本構成であれば、位置ズレ量が位置ズレ閾値よりも大きい第一条件と、方位ズレ量が方位ズレ閾値よりも大きい第二条件と、の少なくとも一つが満たされると、リトライ走行が実行される。これにより、機体が走行経路に沿わないまま外周領域から未作業領域に進入して前進走行を継続する構成と比較して、圃場での作業に不都合が生じ難くなる。
【0012】
本発明による自動走行制御システムでは、圃場における外周領域よりも内側の未作業領域に走行経路を設定する経路設定部と、前記走行経路に沿って走行するように機体の走行を制御する走行制御部と、前記機体の向き及び位置の少なくとも一方を検出する検出部と、前記機体が前記外周領域から前記未作業領域に進入する際に、前記検出部による検出結果に基づいて、前記機体が前記走行経路に沿うように進入できるか否かを判定する判定部と、が備えられ、前記判定部が、前記機体が前記走行経路に沿うように進入できないと判断したとき、前記走行制御部は、前記機体に、一旦停止して後進し、再度前記走行経路に向けて前進するリトライ走行を実行させるように構成され、人為操作される操作具と、前記操作具の操作に応じて、前記未作業領域に進入する際に前記機体が前記走行経路に沿うように進入できるか否かを判定するための条件を変更する変更部と、が備えられ、前記検出部は、進入しようとしている前記走行経路の始点よりも一定距離だけ手前の位置に前記機体が位置する第一状態と、前記始点に前記機体が位置する第二状態と、を検出するように構成され、前記判定部は、前記第一状態と前記第二状態との夫々において、前記機体が前記走行経路に沿うように進入できるか否かを判定するように構成され、かつ、前記第一状態における判定時と前記第二状態における判定時とで異なる前記条件を用いるように構成され、前記第一状態で用いられる前記条件は、前記第二状態で用いられる前記条件よりも、前記リトライ走行の実行がされ難い側の値に設定されていることを特徴とする。
【0013】
例えば機体の旋回時に機体の向きや位置が予定よりも大きく外れてしまうと、旋回完了後の機体の向きや位置も走行経路に対して大きく外れた状態となる虞が高く、その状態からリトライ走行が実行されると、機体を走行経路に沿わせるのに時間を要する。このため、本構成であれば、走行経路の始点よりも一定距離だけ手前の位置に機体が位置する状態でリトライ走行が実行される。つまり、第二状態の判定時のみに判定部による判定が行われる構成と比較して、早い段階で機体の姿勢を立て直すことが可能となる。また、第一状態で用いられる条件が、第二状態で用いられる条件よりも、リトライ走行の実行がされ難い側の値に設定されている。このため、例えば機体の旋回時に機体の向きや位置が予定の経路に対して大きく外れていない場合における不必要なリトライ走行が回避される。
【0014】
本発明において、前記第一状態で用いられる前記条件は固定値であり、前記変更部は、前記操作具の操作に応じて、前記第二状態において用いられる前記条件を変更すると好適である。
【0015】
本構成であれば、圃場の管理者やオペレータにとって条件の変更が容易になり、変更部の構成が一層ユーザーフレンドリーなものとなる。
【0016】
本発明において、圃場に対する収穫作業を行う収穫装置と、前記収穫装置の駆動を制御する収穫制御部と、が備えられ、前記収穫制御部は、前記機体が前記第一状態のときは前記収穫装置を停止させ、前記機体が前記第二状態のときは前記収穫装置を駆動させると好適である。
【0017】
第二状態で収穫装置が駆動していると、機体が外周領域から未作業領域に進入する際における収穫作業が円滑に行われる。しかし、リトライ走行が開始される際に収穫装置が駆動していると、圃場の収穫物に損傷を与える虞もあるため、収穫装置を停止させる必要がある。本構成であれば、収穫制御部は、機体が第一状態のときは収穫装置を停止させているため、収穫作業の不要な第一領域では収穫装置が停止した状態で素早くリトライ走行を実行することが可能となる。
【0018】
本発明において、前記収穫制御部は、前記機体が前記第一状態から前記第二状態に移行する間に、前記収穫装置を駆動させ始めると好適である。
【0019】
本構成によって、機体が外周領域から未作業領域に進入する際における収穫作業が円滑に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図4】制御部に関する構成を示すブロック図である。
【
図5】機体の第一状態及び第二状態を示す図である。
【
図8】複数の条件と、条件に含まれる位置ズレ閾値及び方位ズレ閾値を示す図である。
【
図9】リトライ走行に関する判定処理を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔コンバインの全体構成〕
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示されるように、普通型のコンバイン1(本発明に係る『機体』に相当)に、クローラ式の走行装置11、運転部12、脱穀装置13、穀粒タンク14、収穫装置H、搬送装置16、穀粒排出装置18、衛星測位モジュール80、エンジンEが備えられている。なお、
図1に示される矢印「F」の方向を「機体前方」、
図1に示される矢印「B」の方向を「機体後方」、
図1に示される矢印「U」の方向を「上方」、
図1に示される矢印「D」の方向を「下方」とする。また、左右を示す場合には、機体前方を向いた状態における右手側を「右」、左手側を「左」とする。以下の前後上下左右に関する説明においても同様である。
【0022】
走行装置11は、コンバイン1における下部に備えられている。また、走行装置11は、エンジンEからの動力によって駆動する。そして、コンバイン1は、走行装置11によって自走可能である。
【0023】
また、運転部12、脱穀装置13、穀粒タンク14は、走行装置11の上方に備えられている。運転部12には、コンバイン1の作業を監視するオペレータが搭乗可能である。なお、オペレータは、コンバイン1の機外からコンバイン1の作業を監視していても良い。
【0024】
穀粒排出装置18は、穀粒タンク14の上方に設けられている。また、衛星測位モジュール80は、運転部12を覆うキャビン10の上面部に取り付けられている。なお、衛星測位モジュール80による衛星航法を補完するために、ジャイロ加速度センサや磁気方位センサを組み込んだ慣性計測装置81(
図4参照)が衛星測位モジュール80に組み込まれている。もちろん、慣性計測装置81は、コンバイン1において衛星測位モジュール80と別の箇所に配置されても良い。
【0025】
収穫装置Hは、コンバイン1の前部に備えられている。そして、搬送装置16は、収穫装置Hに対して後側に設けられている。収穫装置Hは、刈取装置15及びリール17を有する。
【0026】
刈取装置15は、圃場の植立穀稈を刈り取る。また、リール17は、回転駆動しながら収穫対象の植立穀稈を掻き込む。この構成によって、収穫装置Hは、圃場の穀物を収穫する。そして、コンバイン1は、刈取装置15によって圃場の植立穀稈を刈り取りながら走行装置11によって走行する収穫走行が可能である。
【0027】
刈取装置15によって刈り取られた刈取穀稈は、搬送装置16によって脱穀装置13へ搬送される。脱穀装置13において、刈取穀稈は脱穀処理される。脱穀処理によって得られた穀粒は、穀粒タンク14に貯留される。穀粒タンク14に貯留された穀粒は、必要に応じて、穀粒排出装置18によって機外に排出される。
【0028】
また、
図1に示されるように、運転部12に通信端末4が配置されている。通信端末4は、タッチパネル式のモニタを有し、種々の情報を表示可能に構成され、種々の設定操作を可能に構成されている。通信端末4のタッチパネル式のモニタは、本発明の『操作具』に相当する。本実施形態において、通信端末4は、運転部12に固定されている。しかし、本発明はこれに限定されず、通信端末4は、運転部12に対して着脱可能に構成されていても良いし、通信端末4は、コンバイン1の機外に位置していても良い。
【0029】
〔コンバインによる収穫作業〕
コンバイン1による圃場での収穫作業について、
図2及び
図3を参照しながら説明する。
図2及び
図3には、圃場の外形が矩形である例が示される。最初に、
図2に示されるように、圃場における外周側の領域において圃場の境界線に沿って周回するように収穫走行が行われる。この初期周回走行によって既作業地となった領域は外周領域SAとして設定され、外周領域SAの内側の未作業地は作業対象領域CAとして設定される。
【0030】
外周領域SAは、作業対象領域CAの植立穀稈の収穫を自動走行によって行う際に、コンバイン1が方向転換するためのスペースとして用いられる。また、外周領域SAは、運搬車CVに隣接する排出停車位置PPへの移動や、燃料の補給場所への移動を行うためのスペースとしても用いられる。
【0031】
初期周回走行は、外周領域SAの幅をある程度広く確保するために、2周~3周程度行われる。初期周回走行は、手動走行によって行われてもよいし、自動走行によって行われてもよい。
【0032】
初期周回走行に続いて、自動走行によって作業対象領域CAの植立穀稈が収穫される。この自動走行においては、
図2及び
図3に示されるように、作業対象領域CAに設定された収穫走行経路LI(走行経路の一例)上を自動走行しながら植立穀稈を収穫する自動収穫走行と、1つの自動収穫走行と次の自動収穫走行との間に行われるターン走行とが繰り返し行われる。ターン走行は、2つの収穫走行経路LIの間を繋ぐ旋回走行経路TN上の自動走行である。
【0033】
〔自動走行制御システムの構成〕
図4に示されるように、自動走行制御システム2に、制御部20と衛星測位モジュール80と慣性計測装置81が備えられている。なお、制御部20は、コンバイン1に備えられている。また、エンジンEから出力された動力は、走行装置11と収穫装置Hとの夫々に入力される。
【0034】
衛星測位モジュール80は、GNSS(グローバル・ナビゲーション・サテライト・システム、例えばGPS、QZSS、Galileo、GLONASS、BeiDou等)で用いられる人工衛星GSからの信号を受信する。そして、
図4に示されるように、衛星測位モジュール80は、受信した信号に基づいて、コンバイン1の自車位置を示す測位データを自車位置算出部21Aへ送る。
【0035】
慣性計測装置81は、コンバイン1のヨー角度の角速度、及び、互いに直交する3軸方向の加速度を経時的に検知する。慣性計測装置81による検知結果は、自車方位算出部21Bへ送られる。
【0036】
制御部20に、検出部21、領域算出部22、経路算出部23(経路設定部)、走行制御部25が備えられている。検出部21はコンバイン1の向き及び位置を検出する。検出部21に自車位置算出部21Aと自車方位算出部21Bと偏差算出部21Cとが備えられている。
【0037】
自車位置算出部21Aは、衛星測位モジュール80によって出力された測位データに基づいて、コンバイン1の位置座標を経時的に算出する。算出されたコンバイン1の経時的な位置座標は、領域算出部22及び偏差算出部21Cへ送られる。
【0038】
自車方位算出部21Bは、自車位置算出部21Aから、コンバイン1の位置座標を受け取る。そして、自車方位算出部21Bは、慣性計測装置81による検知結果と、コンバイン1の位置座標と、に基づいて、コンバイン1の姿勢方位を算出する。
【0039】
より具体的には、まず、コンバイン1の走行中に、現在のコンバイン1の位置座標、及び、直前に走行していた地点におけるコンバイン1の位置座標に基づいて、自車方位算出部21Bは、初期姿勢方位を算出する。次に、初期姿勢方位が算出されてからコンバイン1が一定時間走行すると、自車方位算出部21Bは、その一定時間の走行の間に慣性計測装置81によって検知された角速度を積分処理することによって、姿勢方位の変化量を算出する。
【0040】
そして、このように算出された姿勢方位の変化量を初期姿勢方位に足し合わせることによって、自車方位算出部21Bは、姿勢方位の算出結果を更新する。その後、一定時間毎に、姿勢方位の変化量が同様に算出されるとともに、順次、姿勢方位の算出結果が更新される。自車方位算出部21Bによって算出されたコンバイン1の姿勢方位は、偏差算出部21Cへ送られる。
【0041】
偏差算出部21Cは、コンバイン1が収穫走行経路LIに沿って走行する際に、経路算出部23から収穫走行経路LIに関する情報を受け取り、自車位置算出部21Aの算出結果と、自車方位算出部21Bの算出結果と、に基づいて、収穫走行経路LIに対するコンバイン1の位置ズレ量Wd及び方位ズレ量θdを算出する。つまり、偏差算出部21Cは、収穫走行経路LIの延び方向に対するコンバイン1の方位ズレ量θdと、当該延び方向に直交する方向における収穫走行経路LIに対するコンバイン1の位置ズレ量Wdと、を算出する。
【0042】
領域算出部22は、自車位置算出部21Aから受け取ったコンバイン1の経時的な位置座標に基づいて、
図2に示される外周領域SA及び作業対象領域CAを算出する。より具体的には、領域算出部22は、自車位置算出部21Aから受け取ったコンバイン1の経時的な位置座標に基づいて、圃場の外周側における周回走行でのコンバイン1の走行軌跡を算出する。そして、領域算出部22は、算出されたコンバイン1の走行軌跡に基づいて、コンバイン1が穀物を収穫しながら周回走行した圃場の外周側の領域を外周領域SAとして算出する。また、領域算出部22は、算出された外周領域SAよりも圃場内側の領域を、作業対象領域CAとして算出する。例えば、
図2において、圃場の外周側における周回走行のためのコンバイン1の走行経路が矢印で示されている。上述したように、コンバイン1は、3周の周回走行を行う。そして、この走行経路に沿った収穫走行が完了すると、圃場は
図3に示される状態となる。
【0043】
領域算出部22は、コンバイン1が穀物を収穫しながら周回走行した圃場の外周側の領域を外周領域SAとして算出する。また、領域算出部22は、算出された外周領域SAよりも圃場内側の領域を、作業対象領域CAとして算出する。作業対象領域CAは本発明の『未作業領域』に相当する。そして、
図4に示されるように、領域算出部22による算出結果は、経路算出部23及び走行制御部25へ送られる。
【0044】
経路算出部23は、領域算出部22から受け取った算出結果に基づいて、
図2及び
図3に示されるように、作業対象領域CAにおける収穫走行経路LIと、外周領域SAにおける旋回走行経路TNと、を設定する。収穫走行経路LIは本発明の『走行経路』に相当する。つまり、経路算出部23は、圃場における外周領域SAよりも内側の作業対象領域CAに走行経路を設定する。なお、図示例では、作業対象領域CAの短辺に平行な複数の収穫走行経路LIと、長辺に平行な複数の収穫走行経路LIとが算出されている。また、収穫走行経路LIは直線でなくても良く、湾曲していても良い。
【0045】
このように、経路算出部23は、作業対象領域CAを通る収穫走行経路LIを算出する。経路算出部23によって設定された収穫走行経路LI及び旋回走行経路TNは、走行制御部25及び収穫制御部30へ送られる。
【0046】
なお、経路算出部23は通信端末4からの信号を受信可能なように構成されている。例えば通信端末4の穀粒排出ボタン(不図示)が操作されると、収穫走行経路LIまたは旋回走行経路TNから排出停車位置PPへの走行経路と、排出停車位置PPからの収穫走行経路LIへの復帰経路と、が経路算出部23によって設定される。
【0047】
上述したように、通信端末4は、人為操作されるタッチパネル式のモニタを有し、種々の情報を表示可能に構成され、種々の設定操作を可能に構成されている。詳細に関しては後述するが、通信端末4に変更部4aが備えられ、変更部4aは、後述するリトライ走行に関する判定モードを通信端末4のタッチパネルに入力された人為操作に応じて変更可能なように構成されている。換言すると、変更部4aは、タッチパネル式のモニタの操作に応じて、作業対象領域CAに進入する際にコンバイン1が収穫走行経路LIに沿うように進入できるか否かを判定するための条件を変更する。
【0048】
走行制御部25は、走行装置11を制御可能に構成されている。そして、走行制御部25は、自車位置算出部21Aから受け取ったコンバイン1の位置座標と、領域算出部22から受け取った算出結果と、経路算出部23から受け取った収穫走行経路LIと、に基づいて、コンバイン1の自動走行を制御する。具体的には、走行制御部25は、
図2及び
図3に示されるように、収穫走行経路LIに沿って走行するようにコンバイン1の走行を制御する。
【0049】
ユーザ(オペレータを含む、以下同じ)が自動走行開始ボタン(図示せず)を押すことによって、収穫走行経路LI及び旋回走行経路TNに沿った自動走行が開始される。詳細に関しては後述するが、自動走行においてコンバイン1が収穫走行経路LIに沿うように外周領域SAから作業対象領域CAに進入できない場合、走行制御部25はリトライ走行を制御する。リトライ走行とは、コンバイン1が一旦停止して後進し、再度収穫走行経路LIに向けて前進する走行である。
【0050】
図2及び
図3で示される例では、先ず、走行制御部25は、矩形の作業対象領域CAの4つの辺に平行な収穫走行経路LIとして、収穫走行経路LI1、LI2、LI3、LI4を走行の経路として設定する。経路算出部23は、αターン走行用の旋回走行経路TN1、TN2、TN3を算出する。αターン走行は、先の収穫走行経路LIの延びる方向に沿った前進と、旋回走行を含む後進走行と、次の収穫走行経路LIの延びる方向に沿った前進と、によって実行される。
【0051】
走行制御部25は、走行装置11を制御して、収穫走行経路LI1、旋回走行経路TN1、収穫走行経路LI2、旋回走行経路TN2、収穫走行経路LI3、旋回走行経路TN3、収穫走行経路LI4、の順にコンバイン1を自動走行させる。これにより、自動走行は、
図2に示されるように、渦巻き状の走行となる。
【0052】
コンバイン1の周回状の自動走行によって圃場外周側の既作業地が拡大し、Uターン旋回による自動走行が可能な状態になると、走行制御部25は、収穫走行経路LI5、LI6、LI7、LI8を走行の経路として設定する。経路算出部23は、Uターン旋回用の旋回走行経路TN4、TN5、TN6を算出する。走行制御部25は、走行装置11を制御して、収穫走行経路LI5、旋回走行経路TN4、収穫走行経路LI6、旋回走行経路TN5、収穫走行経路LI7、旋回走行経路TN6、収穫走行経路LI8の順にコンバイン1を自動走行させる。
【0053】
図3では、矩形の作業対象領域CAの対向する2辺に平行な収穫走行経路LIを交互に外側から順に走行し、二つの収穫走行経路LIに亘ってUターン走行が行われる。Uターン走行は、旋回走行を含む前進走行のみによって実行される。
【0054】
αターン走行による自動走行は、外周領域SAの幅が狭くてUターン走行による自動走行が実行し難い場合に行われる。外周領域SAの幅が十分に大きく、Uターン走行による自動走行が可能な場合には、Uターン走行による自動走行が実行されてαターン走行による自動走行は実行されなくてもよい。
【0055】
収穫制御部30は、経路算出部23から送られる収穫走行経路LI及び旋回走行経路TNの情報に基づいて、収穫装置Hの駆動制御を行う。コンバイン1が収穫走行経路LIに沿って自動走行を行っている状態で、収穫制御部30は、収穫装置Hを降ろして刈取装置15やリール17等を駆動制御する。また、コンバイン1が旋回走行経路TNに沿って自動走行を行っている状態で、収穫制御部30は、収穫装置Hを上昇させて刈取装置15やリール17等を停止する。
【0056】
〔リトライ走行について〕
コンバイン1が、一つの収穫走行経路LIで収穫走行を終えた後、次の収穫走行経路LIへ向けてαターン走行またはUターン走行による自動走行を行う。しかし、αターン走行またはUターン走行の終了時に、コンバイン1が次の収穫走行経路LIに対して左右に位置ズレしたり、次の収穫走行経路LIの延び方向に対して方位ズレしたりする場合が考えられる。次の収穫走行経路LIに対する位置ズレや方位ズレが大きいまま自動走行が行われると、コンバイン1が収穫走行経路LIに対して左右に蛇行することが考えられ、圃場に刈残しが発生する虞がある。このため、本実施形態では、走行制御部25はリトライ走行を制御可能に構成されている。
【0057】
図4に示される制御部20に、判定部27と、条件記憶部29と、が備えられている。判定部27は、コンバイン1が外周領域SAから作業対象領域CAに進入する際に、検出部21による検出結果に基づいて、コンバイン1が収穫走行経路LIに沿うように進入できるか否かを判定する。判定部27が、コンバイン1が収穫走行経路LIに沿うように進入できないと判断したとき、判定部27から走行制御部25へリトライ走行の指示信号が送られる。そして走行制御部25は、当該指示信号にしたがってコンバイン1にリトライ走行を実行させるように構成されている。条件記憶部29は、コンバイン1が作業対象領域CAに進入する際に、コンバイン1が走行経路に沿うように進入できるか否かを判定するための条件を記憶する。条件記憶部29に複数の条件が記憶されている。条件に異なる複数の指標が含まれる。当該複数の条件の夫々は、異なる種類の複数の指標として位置ズレ閾値Wt及び方位ズレ閾値θtを有する。
【0058】
図5に示されるように、判定部27は、次の収穫走行経路LIに沿って自動収穫走行が開始される前に、二箇所で判定処理を行う。具体的には、判定部27は、次の収穫走行経路LIの始点から一定距離D1だけ離間した箇所と、次の収穫走行経路LIの始点と、コンバイン1が収穫走行経路LIに沿うように進入できるか否かを判定する。
図5では、次の収穫走行経路LIの始点が第二リトライ判定位置P2で示され、次の収穫走行経路LIの始点から一定距離D1だけ手前に離間した箇所が第一リトライ判定位置P1で示されている。第二リトライ判定位置P2は、コンバイン1が外周領域SAから作業対象領域CAに進入しようとしている位置である。検出部21は、コンバイン1が第一リトライ判定位置P1に位置する状態(以下、『第一状態』と称する)と、コンバイン1が第二リトライ判定位置P2に位置する状態(以下、『第二状態』と称する)と、を検出するように構成されている。
【0059】
一定距離D1は、例えば1メートルに設定されている。第一リトライ判定位置P1は旋回走行経路TN上に位置する。このときの旋回走行経路TNは、αターン走行用の旋回走行経路TN1、TN2、TN3であっても良いし、Uターン旋回用の旋回走行経路TN4、TN5、TN6であっても良い。
図5に示される旋回走行経路TNがαターン走行用の旋回走行経路TN1、TN2、TN3の場合、
図5に示される旋回走行経路TNは、後進走行後の前進走行で次の収穫走行経路LIに進入する経路として示される。
【0060】
第一リトライ判定位置P1では、コンバイン1が次の収穫走行経路LIへ向けて旋回走行経路TNに沿って旋回走行する。第一リトライ判定位置P1では、収穫装置Hが降ろされるが、第一リトライ判定位置P1で収穫装置Hがまだ降ろされていない構成であっても良い。また、第一リトライ判定位置P1では、刈取装置15及びリール17は駆動していない。つまり、第一リトライ判定位置P1では、収穫装置Hによる作業が行われていない状態で、コンバイン1が旋回走行する。第一状態では、コンバイン1が第二リトライ判定位置P2よりも一定距離D1だけ手前の位置に位置する。
【0061】
第二リトライ判定位置P2では、コンバイン1が次の収穫走行経路LIに沿って自動走行を開始する。第二リトライ判定位置P2では、収穫装置Hが降ろされ、刈取装置15及びリール17が駆動状態となっている。なお、収穫制御部30は、第一リトライ判定位置P1に位置する状態から第二リトライ判定位置P2に位置する状態に移行する間に、収穫装置Hを駆動させ始める。
【0062】
第二リトライ判定位置P2でリトライ走行が行われると、刈取装置15及びリール17の駆動を停止させてから収穫装置Hを上昇させる必要がある。また、刈取装置15が作物の株元を切断していると、リール17で作物を掻き込む必要があるため、リトライ走行に時間を要する。一方、第一リトライ判定位置P1では、収穫装置Hが降ろされていても、刈取装置15及びリール17が駆動していない状態であるため、収穫装置Hを上昇させるだけでリトライ走行が可能となる。
【0063】
第一リトライ判定位置P1においてリトライ走行が必要な場合、そのまま前進してもコンバイン1の姿勢を立て直しきれずに第二リトライ判定位置P2においてもリトライ走行が必要となる場合が多い。このため、本実施形態であれば第一リトライ判定位置P1でリトライ走行が行われることによって、第二リトライ判定位置P2のみでリトライ走行が行われる構成と比較して、素早くリトライ走行が可能となり、リトライ走行の全体的な所要時間が短縮される。
【0064】
このように、判定部27は、第一状態と第二状態との夫々において、コンバイン1が収穫走行経路LIに沿うように進入できるか否かを判定するように構成されている。また、収穫制御部30は、第一状態で収穫装置Hを停止させ、第二状態で収穫装置Hを駆動させるように構成されている。
【0065】
偏差算出部21Cによって、
図6及び
図7に示されるような、走行経路に対するコンバイン1の横方向の位置ズレ量Wdと、走行経路に対するコンバイン1の方位ズレ量θdと、が算出される。
【0066】
コンバイン1が前記走行経路に沿うように進入できるか否かを判定するための条件として、位置ズレ量Wdが一定の位置ズレ閾値Wtよりも大きい第一条件、及び、方位ズレ量θdが一定の方位ズレ閾値θtよりも大きい第二条件、が含まれる。判定部27は、条件記憶部29に記憶されている複数の位置ズレ閾値Wt及び複数の方位ズレ閾値θtのうち、偏差算出部21Cの検出結果に応じて位置ズレ閾値Wtと方位ズレ閾値θtとの夫々を一つずつ選択するように構成されている。そして判定部27は、位置ズレ量Wdが位置ズレ閾値Wtよりも大きいこと(第一条件)、及び、方位ズレ量θdが方位ズレ閾値θtよりも大きいこと(第二条件)、の少なくとも一つが満たされると、作業対象領域CAに進入する際にコンバイン1が収穫走行経路LIに沿うように進入できないと判定するように構成されている。
【0067】
位置ズレ閾値Wt及び方位ズレ閾値θtは、コンバイン1の位置及び方位によって変化する。
図8では、位置ズレ閾値WtとしてW1~W6が示され、方位ズレ閾値θtとしてθ1~θ6が示されている。第一状態における判定時に、判定部27は、位置ズレ閾値WtをW1またはW2に設定し、方位ズレ閾値θtをθ1またはθ2に設定する。第二状態における判定時に、判定部27は、位置ズレ閾値WtをW3~W6の何れか一つに設定し、方位ズレ閾値θtをθ3~θ6の何れか一つに設定する。つまり、判定部27は、第一状態における判定時と、第二状態における判定時と、の夫々で異なる条件を用いるように構成されている。
【0068】
第一状態における判定時に選択される位置ズレ閾値Wt(W1,W2)は、第二状態における判定時に選択される位置ズレ閾値Wt(W3~W6)よりも大きく設定される。
図8において、W1はW3とW5との夫々よりも大きく設定され、W2はW4とW6との夫々よりも大きく設定される。また、第一状態における判定時に選択される方位ズレ閾値θt(θ1,θ2)は、第二状態における判定時に選択される方位ズレ閾値θt(θ3~θ6)よりも大きく設定される。
図8において、θ1はθ3とθ5との夫々よりも大きく設定され、θ2はθ4とθ6との夫々よりも大きく設定される。つまり、第一状態で用いられる条件は、第二状態で用いられる条件よりも、リトライ走行の実行がされ難い側の値に設定されている。
【0069】
判定部27の自車方位に基づく位置ズレ閾値Wt及び方位ズレ閾値θtの選択手法について説明する。
図6に、コンバイン1が前方に直進するほど収穫走行経路LIに近付いて位置ズレ量Wdが小さくなる場合が示され、本実施形態では、この
図6に示される状態を『内向き状態』と称する。内向き状態では、コンバイン1の位置が収穫走行経路LIに対して左右一方側に位置ズレするとともにコンバイン1の向きが収穫走行経路LIの延び方向に対して左右他方側に方位ズレして直進すると収穫走行経路LIと交差する。また、
図7に、コンバイン1が前方に直進するほど収穫走行経路LIから遠ざかって位置ズレ量Wdが大きくなる場合が示され、本実施形態では、この
図7に示される状態を『外向き状態』と称する。外向き状態では、コンバイン1の位置が収穫走行経路LIに対して左右一方側に位置ズレするとともにコンバイン1の向きが収穫走行経路LIの延び方向に対して左右一方側に方位ズレして直進すると収穫走行経路LIから遠ざかる。つまり、検出部21は、コンバイン1が収穫走行経路LIに対して左右方向に位置ズレするとともにコンバイン1が収穫走行経路LIを向く内向き状態と、コンバイン1が収穫走行経路LIに対して左右方向に位置ズレするとともにコンバイン1が収穫走行経路LIを向かない外向き状態と、を検出するように構成されている。
【0070】
コンバイン1が内向き状態である場合と外向き状態である場合とで位置ズレ閾値Wt及び方位ズレ閾値θtの夫々の値が変更される。
図6に示される内向き状態では、位置ズレ閾値WtがW1に設定され、方位ズレ閾値θtがθ1に設定されている。自車位置が第一リトライ判定位置P1に位置し、かつ、自車方位が収穫走行経路LIに対して内向き状態である場合、判定部27は、
図6に示されるように、位置ズレ閾値WtをW1に設定し、方位ズレ閾値θtをθ1に設定する。自車位置が第二リトライ判定位置P2に位置し、かつ、自車方位が収穫走行経路LIに対して内向き状態である場合、判定部27は、位置ズレ閾値WtをW3またはW5に設定し、方位ズレ閾値θtをθ3またはθ5に設定する。
【0071】
図7に示される外向き状態では、位置ズレ閾値WtがW2に設定され、方位ズレ閾値θtがθ2に設定されている。つまり、自車位置が第一リトライ判定位置P1に位置し、かつ、自車方位が収穫走行経路LIに対して外向き状態である場合、判定部27は、
図7に示されるように、位置ズレ閾値WtをW2に設定し、方位ズレ閾値θtをθ2に設定する。自車位置が第二リトライ判定位置P2に位置し、かつ、自車方位が収穫走行経路LIに対して外向き状態である場合、判定部27は、位置ズレ閾値WtをW4またはW6に設定し、方位ズレ閾値θtをθ4またはθ6に設定する。つまり、判定部27は、内向き状態と外向き状態との夫々で異なる位置ズレ閾値Wt及び方位ズレ閾値θtを選択する。
【0072】
このように、判定部27は、コンバイン1が内向き状態であるか外向き状態であるかによって、作業対象領域CAに進入する際にコンバイン1が収穫走行経路LIに沿うように進入できるか否かを判定するための条件を変更するように構成されている。
【0073】
自車方位が収穫走行経路LIに対して外向き状態であると、コンバイン1が前進するほど位置ズレ量Wdが大きくなるため、内向き状態の場合よりもリトライ走行の必要性が高くなりがちである。このため、外向き状態で選択される位置ズレ閾値Wt(W2,W4,W6)は、内向き状態で選択される位置ズレ閾値Wt(W1,W3,W5)よりも小さく設定される。また、外向き状態で選択される方位ズレ閾値θt(θ2,θ4,θ6)は、内向き状態で選択される方位ズレ閾値θt(θ1,θ3,θ5)よりも小さく設定される。
図8において、W2はW1よりも小さく設定され、θ2はθ1よりも小さく設定されている。また、
図8において、W4はW3よりも小さく設定され、W6はW5よりも小さく設定され、θ4はθ3よりも小さく設定され、θ6はθ5よりも小さく設定されている。このように、コンバイン1が内向き状態のときに用いられる条件は、コンバイン1が外向き状態のときに用いられる条件よりも、リトライ走行の実行がされ難い側の値に設定されている。また、コンバイン1が内向き状態であっても外向き状態であっても、第一状態で用いられる条件は、第二状態で用いられる条件よりも、リトライ走行の実行がされ難い側の値に設定されている。
【0074】
本実施形態では、第二リトライ判定位置P2における位置ズレ閾値Wt及び方位ズレ閾値θtを人為的に変更可能なように構成されている。具体的には、
図8に示されるように、リトライ走行に関する判定モードとして「標準モード」と「緩めモード」とが設定可能なように構成されている。本実施形態では、判定モードの変更は、通信端末4の変更部4aを介して人為操作によって変更操作可能なように構成されている。上述したように、通信端末4はタッチパネル式のモニタを有し、通信端末4のモニタは当該判定モードの選択画面を表示可能である。
【0075】
判定モードの選択画面に、「標準モード」と「緩めモード」とが表示され、ユーザは「標準モード」と「緩めモード」との一方を選択できる。つまり、通信端末4の変更部4aは、複数の判定モードを選択設定可能なように構成されている。換言すると、通信端末4の変更部4aは、コンバイン1が収穫走行経路LIに沿うように作業対象領域CAに進入できるか否かを判定するための条件の指標を複数段階で変更可能なように構成されている。そして判定部27は、複数の位置ズレ閾値Wt及び複数の方位ズレ閾値θtのうち、選択設定された判定モードに対応する位置ズレ閾値Wt及び方位ズレ閾値θtを選択する。
【0076】
W5はW3よりも大きく設定され、W6はW4よりも大きく設定されている。また、θ5はθ3よりも大きく設定され、θ6はθ4よりも大きく設定されている。つまり、「緩めモード」では、「標準モード」の場合よりも位置ズレ量Wd及び方位ズレ量θdが大きく許容されるため、リトライ走行の実行がされ難くなる。頻繁にリトライ走行が行われると煩わしさを感じるユーザも存在することが考えられ、このような場合には、判定モードが「緩めモード」に設定されることによって、ユーザにとっての煩わしさが軽減される。
【0077】
加えて、本実施形態では、W1はW3とW5との夫々よりも大きく設定され、W2はW4とW6との夫々よりも大きく設定されている。また、θ1はθ3とθ5との夫々よりも大きく設定され、θ2はθ4とθ6との夫々よりも大きく設定されている。通信端末4の変更部4aは、第一状態で用いられる位置ズレ閾値Wt(W3~W6)を第二状態で用いられる位置ズレ閾値Wt(W1,W2)よりも小さな値となるように変更する。また、通信端末4の変更部4aは、第二状態で用いられる方位ズレ閾値θt(θ3~θ6)を第一状態で用いられる方位ズレ閾値θt(θ1,θ2)よりも小さな値となるように変更する。
【0078】
つまり、第一状態で用いられる位置ズレ閾値Wt及び方位ズレ閾値θtは、第二状態で用いられる位置ズレ閾値Wt及び方位ズレ閾値θtよりも大きく設定される。これにより、第一状態では第二状態の場合よりも緩めの条件でリトライ走行の判定が行われ、第一状態で不意に頻繁なリトライ走行が行われる虞が軽減される。
【0079】
変更部4aは、第一状態で用いられる位置ズレ閾値Wt及び方位ズレ閾値θtを変更不能に構成され、かつ、第二状態で用いられる位置ズレ閾値Wt及び方位ズレ閾値θtを「標準モード」と「緩めモード」とで変更可能に構成されている。つまり、第一状態で用いられる条件は固定値であり、通信端末4の変更部4aは、当該モニタの操作に応じて、第二状態において用いられる条件を変更する。これにより、変更部4aが、第一状態と第二状態との夫々で位置ズレ閾値Wt及び方位ズレ閾値θtを変更可能な構成と比較して、ユーザは、判定モードの複雑な組み合わせを考えなくて良く、変更部4aを操作し易い。
【0080】
判定部27の判定処理を、
図9に基づいて説明する。ステップ#02~ステップ#06の分岐処理に基づいて位置ズレ閾値Wtと方位ズレ閾値θtとの値がステップ#11~ステップ#16の夫々で異なる値に設定される。
【0081】
まず、自車位置算出部21Aと自車方位算出部21Bとによって自車位置及び自車方位が取得される(ステップ#01)。そして、自車位置が、
図9に示される第一リトライ判定位置P1であるか、第二リトライ判定位置P2であるかが判定される(ステップ#02)。
【0082】
自車位置が第一リトライ判定位置P1であれば(ステップ#02:P1)、判定部27は、自車方位が収穫走行経路LIに対して内向き状態であるか、または外向き状態であるかを判定する(ステップ#03)。そして、自車方位が内向き状態であれば(ステップ#03:内向き状態)、位置ズレ閾値WtがW1に設定されるとともに方位ズレ閾値θtがθ1に設定される(ステップ#11)。また、自車方位が外向き状態であれば(ステップ#03:外向き状態)、位置ズレ閾値WtがW2に設定されるとともに方位ズレ閾値θtがθ2に設定される(ステップ#12)。
【0083】
自車位置が第二リトライ判定位置P2であれば(ステップ#02:P2)、判定部27は、自車方位が収穫走行経路LIに対して内向き状態であるか、または外向き状態であるかを判定する(ステップ#04)。
【0084】
自車方位が内向き状態であって(ステップ#04:内向き状態)、かつ、判定モードが「標準モード」であれば(ステップ#05:標準モード)、位置ズレ閾値WtがW3に設定されるとともに方位ズレ閾値θtがθ3に設定される(ステップ#13)。また、自車方位が内向き状態であって(ステップ#04:内向き状態)、かつ、判定モードが「緩めモード」であれば(ステップ#05:緩めモード)、位置ズレ閾値WtがW4に設定されるとともに方位ズレ閾値θtがθ4に設定される(ステップ#14)。
【0085】
自車方位が外向き状態であって(ステップ#04:外向き状態)、かつ、判定モードが「標準モード」であれば(ステップ#06:標準モード)、位置ズレ閾値WtがW5に設定されるとともに方位ズレ閾値θtがθ5に設定される(ステップ#15)。また、自車方位が外向き状態であって(ステップ#04:外向き状態)、かつ、判定モードが「緩めモード」であれば(ステップ#06:緩めモード)、位置ズレ閾値WtがW6に設定されるとともに方位ズレ閾値θtがθ6に設定される(ステップ#16)。
【0086】
そして、位置ズレ量Wdが位置ズレ閾値Wt以下であるかどうかが判定され(ステップ#21)、方位ズレ量θdが方位ズレ閾値θt以下であるかどうかが判定され(ステップ#22)。即ち、位置ズレ量Wdが位置ズレ閾値Wtの範囲内であって(ステップ#21:Yes)、かつ、方位ズレ量θdが方位ズレ閾値θtの範囲内であれば(ステップ#22:Yes)、走行制御部25は走行経路に沿って前進走行するようにコンバイン1を制御する(ステップ#23)。また、位置ズレ量Wdと方位ズレ量θdとの少なくとも一方が当該閾値の範囲外であれば(ステップ#21:No、ステップ#22:No)、走行制御部25はリトライ走行の制御を開始する(ステップ#24)。
【0087】
収穫制御部30は、第二状態においてリトライ走行が実行されると収穫装置Hを停止する。走行制御部25は、リトライ走行を制御する際に、収穫装置Hの停止後にコンバイン1の走行を制御する。なお、コンバイン1が第一状態である場合には収穫装置Hは停止しているため、走行制御部25はそのままリトライ走行を制御できる。つまり、収穫制御部30は、コンバイン1が内向き状態であっても外向き状態であっても、コンバイン1が第一状態のときは収穫装置Hを停止させ、コンバイン1が第二状態のときは収穫装置Hを駆動させる。また、収穫制御部30は、コンバイン1が内向き状態であっても外向き状態であっても、コンバイン1が第一状態から第二状態に移行する間に、収穫装置Hを駆動させ始める。
【0088】
〔別実施形態〕
本発明は、上述の実施形態に例示された構成に限定されるものではなく、以下、本発明の代表的な別実施形態を例示する。
【0089】
(1)通信端末4のタッチパネル式のモニタは、本発明の『操作具』に相当するが、この実施形態に限定されない。例えば、本発明の操作具は、押しボタン式のスイッチであっても良いし、ダイヤル式のスイッチであっても良い。
【0090】
(2)上述の実施形態では、条件に、異なる種類の複数の指標として、位置ズレ閾値Wt及び方位ズレ閾値θtが含まれるが、この実施形態に限定されない。例えば条件に、速度の閾値や加速度の閾値、方位ズレの単位時間変化量の閾値が含まれても良い。
【0091】
(3)上述の実施形態では、判定部27は、位置ズレ量Wdが位置ズレ閾値Wtよりも大きい第一条件、及び、方位ズレ量θdが方位ズレ閾値θtよりも大きい第二条件、の少なくとも一つが満たされると、作業対象領域CAに進入する際にコンバイン1が収穫走行経路LIに沿うように進入できないと判定するように構成されているが、この実施形態に限定されない。例えば、判定部27は、第一条件と第二条件との両方が満たされると、作業対象領域CAに進入する際にコンバイン1が収穫走行経路LIに沿うように進入できないと判定するように構成されても良い。
【0092】
(4)上述の実施形態では、第一状態で用いられる条件(内向き状態で用いられるW1,θ1、外向き状態で用いられるW2,θ2)は固定値であるが、この実施形態に限定されない。変更部4aは、操作具としてのタッチパネル式のモニタの操作に応じて、第一状態において用いられる条件を変更する構成であっても良い。
【0093】
(5)上述の実施形態では、第一状態で用いられる条件は、第二状態で用いられる条件よりも、リトライ走行の実行がされ難い側の値に設定されているが、この実施形態に限定されない。例えば、第一状態で用いられる条件と、第二状態で用いられる条件と、が同じ条件であっても良い。
【0094】
(6)上述の実施形態では、第一状態で用いられる位置ズレ閾値Wt及び方位ズレ閾値θtは、第二状態で用いられる位置ズレ閾値Wt及び方位ズレ閾値θtよりも大きな値に設定されているが、この実施形態に限定されない。例えば、第一状態で用いられる位置ズレ閾値Wtのみが、第二状態で用いられる位置ズレ閾値Wtよりも大きな値に設定され、第一状態で用いられる方位ズレ閾値θtは第二状態の「標準モード」または「緩めモード」で用いられる方位ズレ閾値θtと同じ値に設定されても良い。また、第一状態で用いられる方位ズレ閾値θtのみが、第二状態で用いられる方位ズレ閾値θtよりも大きな値に設定され、第一状態で用いられる位置ズレ閾値Wtは第二状態の「標準モード」または「緩めモード」で用いられる位置ズレ閾値Wtと同じ値に設定されても良い。
【0095】
(7)
図6及び
図7に示される収穫走行経路LIは、旋回走行経路TNであっても良い。また、本発明の走行経路に、旋回走行経路TNが含まれても良い。この場合、偏差算出部21Cは、旋回走行経路TNに対するコンバイン1の方位ズレ量θdと、旋回走行経路TNに対するコンバイン1の位置ズレ量Wdと、を算出しても良い。
【0096】
なお、上述の実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能である。また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、走行経路に沿って自動走行する収穫機に適用できる。このため、本発明は、普通型のコンバイン以外に、自脱型コンバインにも適用できる。また、本発明は、トウモロコシ収穫機やサトウキビ収穫機、大豆収穫機、枝豆収穫機、根菜収穫機(例えばニンジン収穫機や大根収穫機)、などの種々の収穫機に適用できる。
【符号の説明】
【0098】
1 :コンバイン(機体)
2 :自動走行制御システム
4 :通信端末(操作具)
4a :変更部
21 :検出部
21C :偏差算出部
23 :経路設定部
25 :走行制御部
27 :判定部
29 :条件記憶部
30 :収穫制御部
CA :作業対象領域(未作業領域)
D1 :一定距離
H :収穫装置
LI :収穫走行経路(走行経路)
P1 :第一リトライ判定位置(走行経路の始点よりも一定距離だけ手前の位置)
P2 :第二リトライ判定位置(走行経路の始点)
SA :外周領域
Wd :位置ズレ量
Wt :位置ズレ閾値
θd :方位ズレ量
θt :方位ズレ閾値