(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】温度センサ異常判定装置および温度センサ異常判定方法並びに温度センサ異常判定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01K 7/16 20060101AFI20240712BHJP
G01K 7/00 20060101ALI20240712BHJP
G01K 1/14 20210101ALI20240712BHJP
【FI】
G01K7/16 M
G01K7/00 311
G01K1/14 K
(21)【出願番号】P 2021046169
(22)【出願日】2021-03-19
【審査請求日】2024-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000133526
【氏名又は名称】株式会社チノー
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】石橋 政三
【審査官】平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-511150(JP,A)
【文献】特開昭51-054476(JP,A)
【文献】特開2008-275345(JP,A)
【文献】特開2020-038076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の雰囲気中のほぼ同じ場所の温度を測定する複数本の温度センサの異常を判定する温度センサ異常判定装置であって、
前記温度センサそれぞれの所定時間ごとの最新の複数サンプルの測定値を前記温度センサごとに蓄積するデータ蓄積器と、
前記データ蓄積器に蓄積された前記温度センサごとの測定値の分散の大きさの違いを検定する検定器と、
前記検定器の検定結果に基づいて前記複数本の温度センサの中から異常を警告する温度センサの有無を判定するセンサ警告判定器と、を備えたことを特徴とする温度センサ異常判定装置。
【請求項2】
測定対象の雰囲気中のほぼ同じ場所の温度を測定する複数本の温度センサの異常を判定する温度センサ異常判定装置であって、
前記温度センサそれぞれの所定時間ごとの最新の複数サンプルの測定値を前記温度センサごとに蓄積するデータ蓄積器と、
前記データ蓄積器に蓄積された測定値のサンプル分の分散の平均を前記温度センサの自由度と該自由度の総和から算出し、算出した前記サンプル分の分散の平均と検定統計量算出の係数に基づいて検定統計量を算出し、前記温度センサの本数と有意水準に基づく比較基準値と前記検定統計量との比較により前記複数本の温度センサの分散が一様であるか否かを検定するバートレットの検定器と、
前記データ蓄積器に蓄積された前記複数本の温度センサの測定値のサンプル分の分散最大値と分散最小値に基づいて検定統計量を算出し、前記温度センサの本数とサンプル数と有意水準に基づく比較基準値と前記検定統計量との比較により前記複数本の温度センサの分散が一様であるか否かを検定するハートレーの検定器と、
前記バートレットの検定器と前記ハートレーの検定器の検定結果に基づいて前記複数本の温度センサの中から異常を警告する温度センサの有無を判定するセンサ警告判定器と、を備えたことを特徴とする温度センサ異常判定装置。
【請求項3】
測定対象の雰囲気中のほぼ同じ場所の温度を測定する複数本の温度センサの異常を判定する温度センサ異常判定装置を用いた温度センサ異常判定方法であって、
前記温度センサ異常判定装置が備えるデータ蓄積器により、前記温度センサそれぞれの所定時間ごとの最新の複数サンプルの測定値を前記温度センサごとに蓄積するステップと、
前記温度センサ異常判定装置が備える検定器により、前記データ蓄積器に蓄積された前記温度センサごとの測定値の分散の大きさの違いを検定するステップと、
前記温度センサ異常判定装置が備えるセンサ警告判定器により、前記検定器の検定結果に基づいて前記複数本の温度センサの中から異常を警告する温度センサの有無を判定するステップと、を含むことを特徴とする温度センサ異常判定方法。
【請求項4】
測定対象の雰囲気中のほぼ同じ場所の温度を測定する複数本の温度センサの異常を判定する温度センサ異常判定装置を用いた温度センサ異常判定方法であって、
前記温度センサ異常判定装置が備えるデータ蓄積器により、前記温度センサそれぞれの所定時間ごとの最新の複数サンプルの測定値を前記温度センサごとに蓄積するステップと、
前記温度センサ異常判定装置が備えるバートレットの検定器により、前記データ蓄積器に蓄積された測定値のサンプル分の分散の平均を前記温度センサの自由度と該自由度の総和から算出し、算出したサンプル分の分散の平均と検定統計量算出の係数に基づいて検定統計量を算出し、前記温度センサの本数と有意水準に基づく比較基準値と前記検定統計量との比較により前記複数本の温度センサの分散が一様であるか否かを検定するステップと、
前記温度センサ異常判定装置が備えるハートレーの検定器により、前記データ蓄積器に蓄積された前記複数本の温度センサの測定値のサンプル分の分散最大値と分散最小値に基づいて検定統計量を算出し、前記温度センサの本数とサンプル数と有意水準に基づく比較基準値と前記検定統計量との比較により前記複数本の温度センサの分散が一様であるか否かを検定するステップと、
前記温度センサ異常判定装置が備えるセンサ警告判定器により、前記バートレットの検定器と前記ハートレーの検定器の検定結果に基づいて前記複数本の温度センサの中から異常を警告する温度センサの有無を判定するステップと、を含むことを特徴とする温度センサ異常判定方法。
【請求項5】
測定対象の雰囲気中のほぼ同じ場所の温度を測定する複数本の温度センサの異常を判定する温度センサ異常判定プログラムであって、
コンピュータを、
前記温度センサそれぞれの所定時間ごとの最新の複数サンプルの測定値を前記温度センサごとに蓄積するデータ蓄積器と、
前記データ蓄積器に蓄積された前記温度センサごとの測定値の分散の大きさの違いを検定する検定器と、
前記検定器の検定結果に基づいて前記複数本の温度センサの中から異常を警告する温度センサの有無を判定するセンサ警告判定器として機能させるための温度センサ異常判定プログラム。
【請求項6】
測定対象の雰囲気中のほぼ同じ場所の温度を測定する複数本の温度センサの異常を判定する温度センサ異常判定プログラムであって、
コンピュータを、
前記温度センサそれぞれの所定時間ごとの最新の複数サンプルの測定値を前記温度センサごとに蓄積するデータ蓄積器と、
前記データ蓄積器に蓄積された測定値のサンプル分の分散の平均を前記温度センサの自由度と該自由度の総和から算出し、算出した前記サンプル分の分散の平均と検定統計量算出の係数に基づいて検定統計量を算出し、前記温度センサの本数と有意水準に基づく比較基準値と前記検定統計量との比較により前記複数本の温度センサの分散が一様であるか否かを検定するバートレットの検定器と、
前記データ蓄積器に蓄積された前記複数本の温度センサの測定値のサンプル分の分散最大値と分散最小値に基づいて検定統計量を算出し、前記温度センサの本数とサンプル数と有意水準に基づく比較基準値と前記検定統計量との比較により前記複数本の温度センサの分散が一様であるか否かを検定するハートレーの検定器と、
前記バートレットの検定器と前記ハートレーの検定器の検定結果に基づいて前記複数本の温度センサの中から異常を警告する温度センサの有無を判定するセンサ警告判定器として機能させるための温度センサ異常判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象の雰囲気中のほぼ同じ場所の温度を測定する複数本の温度センサの異常を判定する温度センサ異常判定装置および温度センサ異常判定方法並びに温度センサ異常判定プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば測定対象としての加熱炉などでは、ヒータの温度制御に熱電対や測温抵抗体などの温度センサが用いられる。加熱炉などでは、炉内の温度が高温であり、ヒータの温度制御に使用する温度センサが経時的に劣化し、検知結果の精度が低下するため炉内の温度を正確に把握できなくなり、温度センサの交換が必要になる。
【0003】
そこで、温度センサの交換時期を知る方法として、例えば下記特許文献1,2に開示される技術が知られている。特許文献1では、温度センサに電流源から電流を供給したときの電圧降下から抵抗値を計測し、計測した抵抗値の時間に対する変化から劣化時点を予測して温度センサの交換時期を知らせている。特許文献2では、温度センサが経験した過度温度のイベントの回数、過度温度のイベントの期間、過度温度のイベントの間の温度などをプロセス変数伝送器のメモリまたは温度センサのメモリ内に蓄積して温度センサをモニタすることで温度センサの交換時期を知らせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-232170号公報
【文献】特表2015-522160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように、抵抗値を計測して温度センサの寿命を予測するものでは、専用の装置やパラメータ管理が必要となる問題があった。また、特許文献2のように、使用回数をカウントして温度センサの交換時期を示すものでは、温度センサの管理のために専用のパラメータが必要となる問題があった。
【0006】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、温度センサの測定値を用いて温度センサの異常を予測することができる温度センサ異常判定装置および温度センサ異常判定方法並びに温度センサ異常判定プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に記載された温度センサ異常判定装置は、測定対象の雰囲気中のほぼ同じ場所の温度を測定する複数本の温度センサの異常を判定する温度センサ異常判定装置であって、
前記温度センサそれぞれの所定時間ごとの最新の複数サンプルの測定値を前記温度センサごとに蓄積するデータ蓄積器と、
前記データ蓄積器に蓄積された前記温度センサごとの測定値の分散の大きさの違いを検定する検定器と、
前記検定器の検定結果に基づいて前記複数本の温度センサの中から異常を警告する温度センサの有無を判定するセンサ警告判定器と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明の請求項2に記載された温度センサ異常判定装置は、測定対象の雰囲気中のほぼ同じ場所の温度を測定する複数本の温度センサの異常を判定する温度センサ異常判定装置であって、
前記温度センサそれぞれの所定時間ごとの最新の複数サンプルの測定値を前記温度センサごとに蓄積するデータ蓄積器と、
前記データ蓄積器に蓄積された測定値のサンプル分の分散の平均を前記温度センサの自由度と該自由度の総和から算出し、算出した前記サンプル分の分散の平均と検定統計量算出の係数に基づいて検定統計量を算出し、前記温度センサの本数と有意水準に基づく比較基準値と前記検定統計量との比較により前記複数本の温度センサの分散が一様であるか否かを検定するバートレットの検定器と、
前記データ蓄積器に蓄積された前記複数本の温度センサの測定値のサンプル分の分散最大値と分散最小値に基づいて検定統計量を算出し、前記温度センサの本数とサンプル数と有意水準に基づく比較基準値と前記検定統計量との比較により前記複数本の温度センサの分散が一様であるか否かを検定するハートレーの検定器と、
前記バートレットの検定器と前記ハートレーの検定器の検定結果に基づいて前記複数本の温度センサの中から異常を警告する温度センサの有無を判定するセンサ警告判定器と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項3に記載された温度センサ異常判定方法は、測定対象の雰囲気中のほぼ同じ場所の温度を測定する複数本の温度センサの異常を判定する温度センサ異常判定装置を用いた温度センサ異常判定方法であって、
前記温度センサ異常判定装置が備えるデータ蓄積器により、前記温度センサそれぞれの所定時間ごとの最新の複数サンプルの測定値を前記温度センサごとに蓄積するステップと、
前記温度センサ異常判定装置が備える検定器により、前記データ蓄積器に蓄積された前記温度センサごとの測定値の分散の大きさの違いを検定するステップと、
前記温度センサ異常判定装置が備えるセンサ警告判定器により、前記検定器の検定結果に基づいて前記複数本の温度センサの中から異常を警告する温度センサの有無を判定するステップと、を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項4に記載された温度センサ異常判定方法は、測定対象の雰囲気中のほぼ同じ場所の温度を測定する複数本の温度センサの異常を判定する温度センサ異常判定装置を用いた温度センサ異常判定方法であって、
前記温度センサ異常判定装置が備えるデータ蓄積器により、前記温度センサそれぞれの所定時間ごとの最新の複数サンプルの測定値を前記温度センサごとに蓄積するステップと、
前記温度センサ異常判定装置が備えるバートレットの検定器により、前記データ蓄積器に蓄積された測定値のサンプル分の分散の平均を前記温度センサの自由度と該自由度の総和から算出し、算出したサンプル分の分散の平均と検定統計量算出の係数に基づいて検定統計量を算出し、前記温度センサの本数と有意水準に基づく比較基準値と前記検定統計量との比較により前記複数本の温度センサの分散が一様であるか否かを検定するステップと、
前記温度センサ異常判定装置が備えるハートレーの検定器により、前記データ蓄積器に蓄積された前記複数本の温度センサの測定値のサンプル分の分散最大値と分散最小値に基づいて検定統計量を算出し、前記温度センサの本数とサンプル数と有意水準に基づく比較基準値と前記検定統計量との比較により前記複数本の温度センサの分散が一様であるか否かを検定するステップと、
前記温度センサ異常判定装置が備えるセンサ警告判定器により、前記バートレットの検定器と前記ハートレーの検定器の検定結果に基づいて前記複数本の温度センサの中から異常を警告する温度センサの有無を判定するステップと、を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項5に記載された温度センサ異常判定プログラムは、測定対象の雰囲気中のほぼ同じ場所の温度を測定する複数本の温度センサの異常を判定する温度センサ異常判定プログラムであって、
コンピュータを、
前記温度センサそれぞれの所定時間ごとの最新の複数サンプルの測定値を前記温度センサごとに蓄積するデータ蓄積器と、
前記データ蓄積器に蓄積された前記温度センサごとの測定値の分散の大きさの違いを検定する検定器と、
前記検定器の検定結果に基づいて前記複数本の温度センサの中から異常を警告する温度センサの有無を判定するセンサ警告判定器として機能させることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項6に記載された温度センサ異常判定プログラムは、測定対象の雰囲気中のほぼ同じ場所の温度を測定する複数本の温度センサの異常を判定する温度センサ異常判定プログラムであって、
コンピュータを、
前記温度センサそれぞれの所定時間ごとの最新の複数サンプルの測定値を前記温度センサごとに蓄積するデータ蓄積器と、
前記データ蓄積器に蓄積された測定値のサンプル分の分散の平均を前記温度センサの自由度と該自由度の総和から算出し、算出した前記サンプル分の分散の平均と検定統計量算出の係数に基づいて検定統計量を算出し、前記温度センサの本数と有意水準に基づく比較基準値と前記検定統計量との比較により前記複数本の温度センサの分散が一様であるか否かを検定するバートレットの検定器と、
前記データ蓄積器に蓄積された前記複数本の温度センサの測定値のサンプル分の分散最大値と分散最小値に基づいて検定統計量を算出し、前記温度センサの本数とサンプル数と有意水準に基づく比較基準値と前記検定統計量との比較により前記複数本の温度センサの分散が一様であるか否かを検定するハートレーの検定器と、
前記バートレットの検定器と前記ハートレーの検定器の検定結果に基づいて前記複数本の温度センサの中から異常を警告する温度センサの有無を判定するセンサ警告判定器として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来のような専用の装置やパラメータ管理を必要とせず、温度センサの直近の測定値を用いて温度センサの異常を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る温度センサ異常判定装置のブロック構成図である。
【
図2】本発明に係る温度センサ異常判定装置が採用される測定系の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
まず、本発明が採用される測定系の一例について
図2を参照しながら説明する。
図2に示すように、測定系11は、測定対象としての真空熱処理炉(加熱炉)12と4つの制御ループ13からなる。
【0017】
真空熱処理炉12は、内部が真空ポンプ14により真空状態に保持され、炉内上部左右と炉内下部左右にそれぞれヒータ15(15A,15B,15C,15D)が配置される。
【0018】
また、各ヒータ15(15A,15B,15C,15D)の近傍には、真空熱処理炉12の雰囲気中の温度(炉内温度)を検出する複数の温度センサA1,A2,B1,B2が配置される。
図2の例では、炉内上部左側のヒータ15Aの近傍に温度センサA1が配置され、炉内上部右側のヒータ15Bの近傍に温度センサA2が配置され、炉内下部左側のヒータ15Cの近傍に温度センサB1が配置され、炉内下部右側のヒータ15Dの近傍に温度センサB2が配置される。
【0019】
なお、本実施の形態では、温度センサA1,A2,B1,B2として、例えば内部の抵抗値の変動に伴って起電力が大きくなる熱電対を用いているが、これに限定されるものではなく、例えば測温抵抗体などを用いることもできる。
【0020】
4つの制御ループ13は、第1ゾーン上部制御ループ13A、第2ゾーン上部制御ループ13B、第1ゾーン下部制御ループ13C、第2ゾーン下部制御ループ13Dからなる。
【0021】
第1ゾーン上部制御ループ13A、第2ゾーン上部制御ループ13B、第1ゾーン下部制御ループ13C、第2ゾーン下部制御ループ13Dは、例えばバッチ処理の各ロットにおける炉内温度分布がほぼ均一になるように真空熱処理炉12の炉内温度を目標温度に制御するため、それぞれPID制御器13aとSCR(サイリスタ)13bを備えて構成される。
【0022】
第1ゾーン上部制御ループ13Aでは、温度センサA1の測定値(温度データ)と上部炉内温度設定値がPID制御器13aに入力され、その差に応じた操作量(0~100%)をPID制御器13aがSCR13bに出力して駆動制御し、SCR13bがヒータ15Aをオン/オフ制御する。
【0023】
同様に、第2ゾーン上部制御ループ13Bでは、温度センサA2の測定値と上部炉内温度設定値がPID制御器13aに入力され、その差に応じた操作量(0~100%)をPID制御器13aがSCR13bに出力して駆動制御し、SCR13bがヒータ15Bをオン/オフ制御する。
【0024】
また、第1ゾーン下部制御ループ13Cでは、温度センサB1の測定値と上部炉内温度設定値がPID制御器13aに入力され、その差に応じた操作量(0~100%)をPID制御器13aがSCR13bに出力して駆動制御し、SCR13bがヒータ15Cをオン/オフ制御する。
【0025】
さらに、第2ゾーン下部制御ループ13Dでは、温度センサB2の測定値と上部炉内温度設定値がPID制御器13aに入力され、その差に応じた操作量(0~100%)をPID制御器13aがSCR13bに出力して駆動制御し、SCR13bがヒータ15Dをオン/オフ制御する。
【0026】
本実施の形態による温度センサ異常判定装置は、測定系の複数本の温度センサ(
図2の例では、測定系11の4本の温度センサA1,A2,B1,B2)の測定値の分散(測定ばらつき)の大きさの違いを調べることにより、複数本の温度センサのどの温度センサ(測定系11を含めて)が異常かを判定し、オペレータに注意を促す機能を有する。
【0027】
図1に示すように、温度センサ異常判定装置1は、上記機能を実現するため、データ蓄積器2、検定器3、センサ警告判定器4を備えて構成される。
【0028】
データ蓄積器2は、温度センサA1,A2,B1,B2ごとに測定値を蓄積するデータ保存用のメモリで構成され、温度センサA1,A2,B1,B2それぞれからの最新10サンプルの測定値(温度データ)を参照サンプルとして常に蓄積して保存する。
【0029】
データ蓄積器2に保存される測定値は、例えばバッチ処理の1ロット(所定時間)ごとの温度センサA1,A2,B1,B2それぞれの測定値である。なお、データ蓄積器2に保存される参照サンプルの数は、10サンプルの測定値に限定されるものではなく、適宜変えることができる。
【0030】
検定器3は、データ蓄積器2に蓄積された温度センサA1,A2,B1,B2ごとの測定値の分散の大きさの違いを検定するものであり、第1の検定器3Aと第2の検定器3Bからなる。第1の検定器3Aは、例えばバートレットの検定器で構成される。
【0031】
第1の検定器3Aによるバートレットの検定は、検定統計量と比較基準値の大小判定に基づき、温度センサA1,A2,B1,B2すべての分散が等しい場合(帰無仮説)と、温度センサA1,A2,B1,B2すべての分散が異なるとした場合(対立仮説)のどちらが成立するかを検定する方法であり、下記の手順1~4に従って検定が行われる。なお、ここでは、4本の温度センサA1,A2,B1,B2の場合を例にとって説明する。
【0032】
手順1:各分散の算出
温度センサA1,A2,B1,B2の分散を算出する。ここではサンプル数nを10とする。
【0033】
【0034】
上記式(1)より、VA1=SA1/(n-1)=SA1/9となる。
【0035】
同様に、
VA2=SA2/(n-1)=SA2/9
VB1=SB1/(n-1)=SB1/9
VB2=SB2/(n-1)=SB2/9
【0036】
なお、SA1は温度センサA1のサンプル分の平方和(個々の測定値-平均値の2乗和)、SA2は温度センサA2のサンプル分の平方和(個々の測定値-平均値の2乗和)、SB1は温度センサB1のサンプル分の平方和(個々の測定値-平均値の2乗和)、SB2は温度センサB2のサンプル分の平方和(個々の測定値-平均値の2乗和)、VA1は温度センサA1のサンプル分の分散、VA2は温度センサA2のサンプル分の分散、VB1は温度センサB1のサンプル分の分散、VB2は温度センサB2のサンプル分の分散である。
【0037】
手順2:分散の算出
Vの推定値を下記式(2)に基づき算出する。なお、Vはサンプル分の分散の平均、Vi は個々のサンプル分の分散、φi は個々の温度センサの自由度(サンプル数-1)、φT は自由度の総和である。
【0038】
【0039】
ここで、φT は下記式(3)で表される。サンプル数nが10なので、Vを下記式(4)にて算出する。
【0040】
【0041】
【0042】
また、φT を下記式(5)にて算出する。
【0043】
【0044】
手順3:検定統計量bの算出
バートレットの検定統計量bを下記式(6)にて算出する。
【0045】
【0046】
なお、式(6)中の検定統計量の係数cは、下記式(7)で表される。
【0047】
【0048】
ここで、グループ数kは4で、かつサンプル数nは10なので、cを下記のように算出する。
【0049】
c=1+{1/3(4-1)}{4×(1/10-1)-(1/36)}=1+(1/9){(16/36)-(1/36)}=1+(5/3×36)=113/108
【0050】
また、バートレットの検定統計量bを下記式(8)にて算出する。
【0051】
【0052】
手順4:検定
バートレットの検定は仮説検定の一種であり、検定統計量と比較基準値の大小判定に基づき、下記の帰無仮説と対立仮説のどちらが成立するかの判定結果を出力する。
【0053】
帰無仮説(H0 ):b<x2 (k-1,α)ならば有意でない。すなわち、センサすべての分散は等しいということになる。
対立仮説(H1 ):b≧x2 (k-1,α)ならば有意である。すなわち、センサすべての分散は異なるということになる。
本実施の形態においては、b≧x2 (3,0.05)ならば、有意水準で優位であり、各温度センサA1,A2,B1,B2の母分散が一様でないと判断する。
【0054】
なお、x2 (k-1,α)は母分散検定のための比較基準値、kはグループ数(個々では、温度センサA1,A2,B1,B2の4グループ)、αは有意水準(一般的には0.05)である。また、グループ数kに基づく棄却域は下記表1のようになる。
【0055】
【0056】
第1の検定器3Aは、上述した検定により、各温度センサA1,A2,B1,B2の母分散が一様であると判断すると、検定結果信号として「0」を出力し、各温度センサA1,A2,B1,B2の母分散が一様でないと判断すると、検定結果信号として「1」を出力する。
【0057】
第2の検定器3Bは、それぞれの温度センサA1,A2,B1,B2の分散を算出し、最も小さい分散が他の分散と異なっているかどうかを検定するものであり、例えばハートレーの検定器で構成される。
【0058】
第2の検定器3Bによるハートレーの検定は、温度センサA1,A2,B1,B2の分散1つだけ小さいときに検出する方法であり、下記の手順1~3にしたがって検定が行われる。なお、ここでは、4本の温度センサA1,A2,B1,B2の場合を例にとって説明する。
【0059】
手順1:各分散の算出
温度センサA1,A2,B1,B2の分散を算出する。ここではサンプル数nを10とする。バートレットの検定と同様の式を用いて算出すると、VA1=SA1/(n-1)=SA1/9となる。
【0060】
同様に、
VA2=SA2/(n-1)=SA2/9
VB1=SB1/(n-1)=SB1/9
VB2=SB2/(n-1)=SB2/9
【0061】
手順2:検定統計量hの算出
比較検定を行うための検定統計量hを以下の式に基づき算出する。なお、Vmax は温度センサA1,A2,B1,B2によるサンプル分の分散最大値、Vmin は温度センサA1,A2,B1,B2によるサンプル分の分散最小値である。
Vmax =max(VA1,VA2,VB1,VB2)
Vmin =min(VA1,VA2,VB1,VB2)
h=Vmax /Vmin
【0062】
手順3:検定
h≧Fmax (k,φ:α)ならば、有意水準で優位であり、各温度センサの母分散が一様でないと判断する。なお、kはグループ数(ここでは、温度センサA1,A2,B1,B2の4グループ)、φはサンプル数の自由度(サンプル数-1)、Fmax (k,φ:α)は分散比検定表から得られる比較基準値である。
グループ数kは4で、かつサンプル数nは10なので、検定統計量h≧Fmax (k,φ:α)=Fmax (4,9:0.05)=6.31となる。
【0063】
なお、グループ数kに基づく棄却域は下記表2のようになる。
【0064】
【0065】
第2の検定器3Bは、上述した検定により、各温度センサA1,A2,B1,B2の母分散が一様であると判断すると、検定結果信号として「0」を出力し、各温度センサA1,A2,B1,B2の母分散が一様でないと判断すると、検定結果信号として「1」を出力する。
【0066】
センサ警告判定器4は、第1の検定器3Aと第2の検定器3Bの少なくとも一方から検定結果信号「1」が入力されると、複数本の温度センサA1,A2,B1,B2のうち、他の複数本の温度センサと比べて1本の温度センサのバラツキが異常であると判定し、例えば音、表示などによりオペレータに警告を促す。
【0067】
次に、4本の温度センサA1,A2,B1,B2の具体的な測定値による検定例について説明する。
【0068】
今、ロットごとの温度センサA1,A2,B1,B2の測定値が下記表3のように得られたものとする。
【0069】
【0070】
第1の検定器3Aにおいて、バートレットの検定を適用すると、φA1=φA2=φB1=φB2=n-1=9、VA1=SA1/(n-1)=SA1/9、VA2=SA2/(n-1)=SA2/9、VB1=SB1/(n-1)=SB1/9、VB2=SB2/(n-1)=SB2/9、φT =φA1+φA2+φB1+φB2=36より、サンプル分の分散の平均Vを下記式(9)にて算出し、検定統計量算出の係数cを下記式(10)にて算出する。
【0071】
【0072】
【0073】
検定統計量bは、下記式(11)となる。
【0074】
【0075】
そして、x2 (k-1,α)=x2 (3,0.05)=7.815となり、b=7.132<7.815となるから有意でない。
【0076】
したがって、各温度センサA1,A2,B1,B2の母分散は一様ではないとはいえない。すなわち、バートレットの検定では各温度センサA1,A2,B1,B2に異常は見られないということになる。
【0077】
次に、第2の検定器3Bにおいて、ハートレーの検定を行う。
【0078】
Vmax =4.46,Vmin =0.70より、検定統計量h=Vmax /Vmin =4.46/0.70=6.37となる。
【0079】
また、k=4,φ=10-1=9,φ=0.05より、数値表のFmax 表から、Fmax (k,φ:α)=Fmax (4,9:0.05)=6.31であり、h=6.37>6.31となるから有意である。
【0080】
したがって、母分散は一様でないといえる。すなわち、ハートレーの検定では各温度センサA1,A2,B1,B2に異常が見られるものがあるということになる。
【0081】
以上のことから、バートレットの検定結果およびハートレーの検定結果から、母分散が小さいのが温度センサB2で、温度センサA1,A2,B1は分散が大きくなった、すなわち、温度センサに異常があるという結果になる。
【0082】
ところで、上述した実施の形態では、第1の検定器3Aとして、バートレットの検定器を採用した場合について説明したが、第1の検定器3Aとして、バートレットの検定器に代えて、それぞれの温度センサA1,A2,B1,B2の分散を算出し、最も大きい分散が他の分散と異なっているかどうかを検定するコクランの検定器を第1の検定器3Aに用いることもできる。
【0083】
また、上述した実施の形態では、測定系11における真空熱処理炉12の炉内温度を4本の温度センサA1,A2,B1,B2にて検出する場合を例にとって説明したが、測定系や温度センサの数が限定されるものではない。
【0084】
さらに、上述した実施の形態において、温度センサ異常判定装置1が備える構成要素(データ蓄積器2、検定器3(第1の検定器3A、第2の検定器3B)、センサ警告判定器4の各部)は、演算処理装置、記憶装置などを備えたコンピュータで構成し、各構成要素の処理がプログラムによって実行されるものとしてもよい。
【0085】
このように、上述した実施の形態によれば、従来のような専用の装置やパラメータ管理を必要とせず、温度センサ自身が出力する直近の測定値を用いて温度センサの異常を予測することができる。
【0086】
以上、本発明に係る温度センサ異常判定装置および温度センサ異常判定方法並びに温度センサ異常判定プログラムの最良の形態について説明したが、この形態による記述及び図面により本発明が限定されることはない。すなわち、この形態に基づいて当業者等によりなされる他の形態、実施例及び運用技術などはすべて本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0087】
1 温度センサ異常判定装置
2 データ蓄積器
3 検定器
3A 第1の検定器
3B 第2の検定器
4 センサ警告判定器
11 測定系
12 真空熱処理炉
13 制御ループ
13A 第1ゾーン上部制御ループ
13B 第2ゾーン上部制御ループ
13C 第1ゾーン下部制御ループ
13D 第2ゾーン下部制御ループ
13a PID制御器
13b SCR(サイリスタ)
14 真空ポンプ
15(15A,15B,15C,15D) ヒータ
A1,A2,B1,B2 温度センサ